特許第6739270号(P6739270)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6739270流体封入式筒形防振装置の製造方法と、それに用いられる流体封入式筒形防振装置の製造用冶具および流体封入式筒形防振装置の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739270
(24)【登録日】2020年7月27日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】流体封入式筒形防振装置の製造方法と、それに用いられる流体封入式筒形防振装置の製造用冶具および流体封入式筒形防振装置の製造装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/14 20060101AFI20200730BHJP
【FI】
   F16F13/14 B
   F16F13/14 A
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-147654(P2016-147654)
(22)【出願日】2016年7月27日
(65)【公開番号】特開2018-17305(P2018-17305A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】川地 裕矢
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 実公平07−012749(JP,Y2)
【文献】 特開平09−229128(JP,A)
【文献】 特開2005−163839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 11/00− 13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材の外周に中間筒部材が配されて本体ゴム弾性体で連結された加硫成形品に対してアウタ筒部材が外嵌固定されており、該中間筒部材に設けられた窓部を通じて外周面に開口する該本体ゴム弾性体のポケット部の該開口が該アウタ筒部材で覆蓋されて非圧縮性流体の封入領域が形成された流体封入式筒形防振装置の製造方法であって、
前記加硫成形品に外挿された前記アウタ筒部材を前記非圧縮性流体中で縮径加工せしめて、前記中間筒部材の軸方向両側に設けられた環状嵌着部へ該アウタ筒部材の軸方向両側部分を流体密に嵌着固定することで該非圧縮性流体が封入された前記封入領域を密封形成するに際して、
前記本体ゴム弾性体における前記ポケット部の軸方向壁部を周上で部分的に外方から押圧することにより、該ポケット部の容積を調節設定すると共に、周上で外方から押圧されていない部分において該軸方向壁部の外方への膨出変形を許容せしめて、前記アウタ筒部材が前記環状嵌着部へ流体密に当接して前記封入領域が密封された後にも更に該アウタ筒部材を縮径加工することを特徴とする流体封入式筒形防振装置の製造方法。
【請求項2】
前記本体ゴム弾性体には軸直角方向の両側に一対の前記ポケット部が形成されており、かかる一対のポケット部が前記中間筒部材の軸直角方向両側に設けられた一対の前記窓部を通じてそれぞれ外周面に開口している一方、該本体ゴム弾性体における該一対のポケット部の周方向間には、前記インナ軸部材と前記中間筒部材とを軸直角方向に連結する連結腕部が設けられている構造とされた前記流体封入式筒形防振装置を、請求項1に記載の製造方法に従って前記封入領域を密封形成して製造するに際して、
前記本体ゴム弾性体における前記連結腕部が軸方向に直接に押圧されないように、該連結腕部を周方向に外れた位置を外方から押圧せしめる請求項1に記載の流体封入式筒形防振装置の製造方法。
【請求項3】
前記封入領域を密封形成するに際して、前記本体ゴム弾性体の軸方向一方の側における前記ポケット部の軸方向壁部を外方から当接支持せしめた状態で、軸方向他方の側における該ポケット部の軸方向壁部を周上で部分的に外方から押圧する請求項1又は2に記載の流体封入式筒形防振装置の製造方法。
【請求項4】
インナ軸部材の外周に中間筒部材が配されて本体ゴム弾性体で連結された加硫成形品に対してアウタ筒部材が外嵌固定されており、該中間筒部材に設けられた窓部を通じて外周面に開口する該本体ゴム弾性体のポケット部の該開口が該アウタ筒部材で覆蓋されて非圧縮性流体の封入領域が形成された流体封入式筒形防振装置の製造工程において、前記加硫成形品に外挿された前記アウタ筒部材を前記非圧縮性流体中で縮径加工せしめて、前記中間筒部材の軸方向両側に設けられた環状嵌着部へ該アウタ筒部材の軸方向両側部分を流体密に嵌着固定することで該非圧縮性流体が封入された前記封入領域を密封形成するに際して用いられる流体封入式筒形防振装置の製造用冶具であって、
前記インナ軸部材に対して軸方向端部から外挿される環状ベース部を有していると共に、該環状ベース部の前記本体ゴム弾性体に向かう軸方向内面には、軸方向に向かって突出して前記本体ゴム弾性体における前記ポケット部の軸方向壁部に対して外方から当接せしめられる押圧突部と、該押圧突部の該ポケット部の軸方向壁部に対する当接状態でも該軸方向壁部に対して非当接とされる非当接部とが、周方向で異なる位置に設けられていることを特徴とする流体封入式筒形防振装置の製造用冶具。
【請求項5】
前記押圧突部が、突出先端面における前記環状ベース部の周方向両端縁部において、該環状ベース部から突出方向に立ち上がる周方向両側面に対して滑らかな湾曲面形状をもってつながったエッジのない表面形状とされている請求項4に記載の流体封入式筒形防振装置の製造用冶具。
【請求項6】
インナ軸部材の外周に中間筒部材が配されて本体ゴム弾性体で連結された加硫成形品に対してアウタ筒部材が外嵌固定されており、該中間筒部材に設けられた窓部を通じて外周面に開口する該本体ゴム弾性体のポケット部の該開口が該アウタ筒部材で覆蓋されて非圧縮性流体の封入領域が形成された流体封入式筒形防振装置を製造するに際して、前記加硫成形品に外挿された前記アウタ筒部材を前記非圧縮性流体中で縮径加工せしめて、前記中間筒部材の軸方向両側に設けられた環状嵌着部へ該アウタ筒部材の軸方向両側部分を流体密に嵌着固定することで該非圧縮性流体が封入された前記封入領域を密封形成する流体封入式筒形防振装置の製造装置であって、
前記本体ゴム弾性体における前記ポケット部の軸方向壁部に対して外方から当接せしめられて該軸方向壁部を軸方向内方に押圧変形させる押圧突部と、該ポケット部の軸方向壁部に対して非当接とされて該軸方向壁部における前記封入領域の内圧による外方への膨出変形を許容する非当接部とが、周方向で異なる位置に設けられていることを特徴とする流体封入式筒形防振装置の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンマウントやサスペンションブッシュなどに用いられる流体封入式筒形防振装置の製造方法と、流体封入式筒形防振装置の製造用治具および流体封入式筒形防振装置の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンマウントやサスペンションブッシュなどに用いられる流体封入式筒形防振装置が知られている。流体封入式筒形防振装置は、インナ軸部材の外周に中間筒部材が配されて本体ゴム弾性体で弾性連結された加硫成形品に対して、アウタ筒部材が外嵌固定された構造を有している。そして、中間筒部材に設けられた窓部を通じて外周面に開口する本体ゴム弾性体のポケット部の開口が、アウタ筒部材で覆われることにより、非圧縮性流体の封入領域が形成されており、封入された非圧縮性流体の流動抵抗や共振作用などに基づく防振効果が発揮されるようになっている。
【0003】
ところで、このような流体封入式筒形防振装置を製造するに際して、加硫成形品に対するアウタ筒部材の組付けを非圧縮性流体で満たされた水槽中で行うことにより、封入領域への非圧縮性流体の封入を加硫成形品に対するアウタ筒部材の組付けと同時に行う製造方法が知られている。また、目的とする防振性能や耐久性を安定して得るために、封入流体量を調節設定することが有効である。
【0004】
そこで、本出願人は、実公平7−12749号公報(特許文献1)において、水槽中での加硫成形品に対するアウタ筒部材の組み付けに際して、本体ゴム弾性体を軸方向に押圧して、本体ゴム弾性体における封入領域の壁部を構成する部分を弾性変形させることを提案した。これにより、封入領域に封入される非圧縮性流体の量や封入領域内の圧力などが調節されて、製造される流体封入式筒形防振装置の防振性能の向上や安定化などを図ることができる。
【0005】
ところが、本発明者が更なる検討を加えたところ、未だ改良の余地があることが明らかになった。すなわち、流体封入式筒形防振装置では、耐久性を改善するなどの目的で本体ゴム弾性体に径方向の予圧縮を加える場合もあるが、封入領域に非圧縮性流体が封入された状態からアウタ筒部材を更に縮径させることで本体ゴム弾性体の予圧縮を実施しようとすると、封入領域の内圧が上昇して、アウタ筒部材の縮径加工が難しくなる。特に、アウタ筒部材の縮径による中間筒部材への嵌着が軸方向両端部分で完了した後では、アウタ筒部材の軸方向中間部分を縮径させて本体ゴム弾性体を予圧縮することが、封入領域の内圧によってより一層困難となることから、そのような場合には、より大きな力でアウタ筒部材を縮径加工する必要が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平7−12749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、アウタ筒部材の縮径加工時に封入領域の内圧上昇を低減して縮径加工を小さな力で容易に行うことができる、新規な流体封入式筒形防振装置の製造方法を提供することにある。また、本発明は、流体封入式筒形防振装置の製造に用いられる新規な構造の製造用治具と製造装置を提供することも、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、インナ軸部材の外周に中間筒部材が配されて本体ゴム弾性体で連結された加硫成形品に対してアウタ筒部材が外嵌固定されており、該中間筒部材に設けられた窓部を通じて外周面に開口する該本体ゴム弾性体のポケット部の該開口が該アウタ筒部材で覆蓋されて非圧縮性流体の封入領域が形成された流体封入式筒形防振装置の製造方法であって、前記加硫成形品に外挿された前記アウタ筒部材を前記非圧縮性流体中で縮径加工せしめて、前記中間筒部材の軸方向両側に設けられた環状嵌着部へ該アウタ筒部材の軸方向両側部分を流体密に嵌着固定することで該非圧縮性流体が封入された前記封入領域を密封形成するに際して、前記本体ゴム弾性体における前記ポケット部の軸方向壁部を周上で部分的に外方から押圧することにより、該ポケット部の容積を調節設定すると共に、周上で外方から押圧されていない部分において該軸方向壁部の外方への膨出変形を許容せしめて、前記アウタ筒部材が前記環状嵌着部へ流体密に当接して前記封入領域が密封された後にも更に該アウタ筒部材を縮径加工することを、特徴とする。
【0010】
第一の態様に従う流体封入式筒形防振装置の製造方法によれば、本体ゴム弾性体におけるポケット部の軸方向壁部を周方向で部分的に押圧すると共に、押圧されていない軸方向壁部の周方向の他の部分では軸方向壁部の外方への膨出変形を許容することにより、封入領域が密封された後でアウタ筒部材を縮径加工しても、ポケット部の容積を調節設定しながら、封入領域の内圧上昇を低減することができる。それゆえ、封入領域が密封された後でもアウタ筒部材を比較的に小さな力で容易に縮径加工することができて、例えばアウタ筒部材の縮径加工による本体ゴム弾性体の予圧縮などを有効に実現することができる。
【0011】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された流体封入式筒形防振装置の製造方法において、前記本体ゴム弾性体には軸直角方向の両側に一対の前記ポケット部が形成されており、かかる一対のポケット部が前記中間筒部材の軸直角方向両側に設けられた一対の窓部を通じてそれぞれ外周面に開口している一方、該本体ゴム弾性体における該一対のポケット部の周方向間には、前記インナ軸部材と前記中間筒部材とを軸直角方向に連結する連結腕部が設けられている構造とされた前記流体封入式筒形防振装置を、第一の態様に記載の製造方法に従って前記封入領域を密封形成して製造するに際して、前記本体ゴム弾性体における該連結腕部が軸方向に直接に押圧されないように、該連結腕部を周方向に外れた位置を外方から押圧せしめるものである。
【0012】
第二の態様によれば、各ポケット部の軸方向壁部において周方向で部分的に軸方向外方への膨出変形を許容することにより、アウタ筒部材の縮径加工時に各ポケット部によって構成された封入領域の内圧上昇をそれぞれ低減することができて、アウタ筒部材の縮径加工が容易になる。
【0013】
さらに、各ポケット部の軸方向壁部を押圧するに際して、本体ゴム弾性体の連結腕部を周方向に外れた位置で軸方向壁部を外方から押圧することにより、連結腕部に対する軸方向の直接的な圧縮を防止して、アウタ筒部材の縮径加工によって連結腕部を径方向で効率的に予圧縮することができる。
【0014】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された流体封入式筒形防振装置の製造方法において、前記封入領域を密封形成するに際して、前記本体ゴム弾性体の軸方向一方の側における前記ポケット部の軸方向壁部を外方から当接支持せしめた状態で、軸方向他方の側における該ポケット部の軸方向壁部を周上で部分的に外方から押圧するものである。
【0015】
第三の態様によれば、本体ゴム弾性体におけるポケット部の一方の軸方向壁部を外方から当接支持せしめつつ、ポケット部の他方の軸方向壁部を周方向で部分的に外方から押圧することにより、封入領域の容積をより精度よく調節設定することができる。
【0016】
本発明の第四の態様は、インナ軸部材の外周に中間筒部材が配されて本体ゴム弾性体で連結された加硫成形品に対してアウタ筒部材が外嵌固定されており、該中間筒部材に設けられた窓部を通じて外周面に開口する該本体ゴム弾性体のポケット部の該開口が該アウタ筒部材で覆蓋されて非圧縮性流体の封入領域が形成された流体封入式筒形防振装置の製造工程において、前記加硫成形品に外挿された前記アウタ筒部材を前記非圧縮性流体中で縮径加工せしめて、前記中間筒部材の軸方向両側に設けられた環状嵌着部へ該アウタ筒部材の軸方向両側部分を流体密に嵌着固定することで該非圧縮性流体が封入された前記封入領域を密封形成するに際して用いられる流体封入式筒形防振装置の製造用冶具であって、前記インナ軸部材に対して軸方向端部から外挿される環状ベース部を有していると共に、該環状ベース部の前記本体ゴム弾性体に向かう軸方向内面には、軸方向に向かって突出して前記本体ゴム弾性体における前記ポケット部の軸方向壁部に対して外方から当接せしめられる押圧突部と、該押圧突部の該ポケット部の軸方向壁部に対する当接状態でも該軸方向壁部に対して非当接とされる非当接部とが、周方向で異なる位置に設けられていることを、特徴とする。
【0017】
第四の態様に従う流体封入式筒形防振装置の製造用治具によれば、本体ゴム弾性体におけるポケット部の軸方向壁部を押圧突部によって周方向で部分的に押圧しつつ、軸方向壁部の外方への膨出変形を非当接部によって許容することができる。それゆえ、本態様に係る治具の押圧突部を軸方向壁部に当接させながらアウタ筒部材を縮径加工することにより、封入領域の容積を調節設定することができると共に、封入領域が密封された後でもアウタ筒部材を比較的に小さな力で容易に縮径加工することができる。
【0018】
本発明の第五の態様は、第四の態様に記載された流体封入式筒形防振装置の製造用冶具において、前記押圧突部が、突出先端面における前記環状ベース部の周方向両端縁部において、該環状ベース部から突出方向に立ち上がる周方向両側面に対して滑らかな湾曲面形状をもってつながったエッジのない表面形状とされているものである。
【0019】
第五の態様によれば、押圧突部の周方向両端縁部がエッジのない滑らかな表面形状とされていることによって、本体ゴム弾性体(軸方向壁部)における押圧突部の当接部分において、亀裂などの発生が応力の分散化によって防止される。
【0020】
本発明の第六の態様は、インナ軸部材の外周に中間筒部材が配されて本体ゴム弾性体で連結された加硫成形品に対してアウタ筒部材が外嵌固定されており、該中間筒部材に設けられた窓部を通じて外周面に開口する該本体ゴム弾性体のポケット部の該開口が該アウタ筒部材で覆蓋されて非圧縮性流体の封入領域が形成された流体封入式筒形防振装置を製造するに際して、前記加硫成形品に外挿された前記アウタ筒部材を前記非圧縮性流体中で縮径加工せしめて、前記中間筒部材の軸方向両側に設けられた環状嵌着部へ該アウタ筒部材の軸方向両側部分を流体密に嵌着固定することで該非圧縮性流体が封入された前記封入領域を密封形成する流体封入式筒形防振装置の製造装置であって、前記本体ゴム弾性体における前記ポケット部の軸方向壁部に対して外方から当接せしめられて該軸方向壁部を軸方向内方に押圧変形させる押圧突部と、該ポケット部の軸方向壁部に対して非当接とされて該軸方向壁部における前記封入領域の内圧による外方への膨出変形を許容する非当接部とが、周方向で異なる位置に設けられていることを、特徴とする。
【0021】
第六の態様に従う流体封入式筒形防振装置の製造装置によれば、本体ゴム弾性体におけるポケット部の軸方向壁部を押圧突部によって周方向で部分的に押圧しつつ、軸方向壁部の外方への膨出変形を非当接部によって許容することができる。それゆえ、本態様に係る製造装置によって押圧突部を軸方向壁部に当接させながらアウタ筒部材を縮径加工することにより、封入領域の容積を調節設定することができると共に、封入領域が密封された後でもアウタ筒部材を比較的に小さな力で容易に縮径加工することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、本体ゴム弾性体におけるポケット部の軸方向壁部を周方向で部分的に押圧すると共に、押圧されていない軸方向壁部の周方向の他の部分では軸方向壁部の外方への膨出変形を許容することにより、封入領域が密封された後でアウタ筒部材を縮径加工しても、ポケット部の容積を調節設定しながら、封入領域の内圧上昇を低減することができる。それゆえ、封入領域が密封された後でもアウタ筒部材を比較的に小さな力で容易に縮径加工することができて、例えばアウタ筒部材の縮径加工による本体ゴム弾性体の予圧縮などを有効に実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一の実施形態としての流体封入式筒形防振装置の製造方法で製造された流体封入式筒形防振装置を示す断面図。
図2図1のII−II断面図。
図3図1に示す流体封入式筒形防振装置の製造方法におけるアウタ筒部材の縮径加工工程を説明する断面図であって、縮径加工の完了状態を示す図。
図4図1に示す流体封入式筒形防振装置の製造に用いられる製造装置を構成する縮径加工部の底面図。
図5図1に示す流体封入式筒形防振装置の製造方法におけるアウタ筒部材の縮径加工工程を説明する断面図であって、縮径加工前の状態を示す図。
図6図3に示すアウタ筒部材の縮径加工工程に用いられる上側治具の斜視図。
図7図6に示す上側治具の断面図であって、図8のVII−VII断面に相当する図。
図8図6に示す上側治具の底面図。
図9】アウタ筒部材の縮径加工工程における要部を拡大して示す図。
図10】アウタ筒部材の縮径加工工程における要部の展開断面を模式的に示す図。
図11】本発明の第二の実施形態としての流体封入式筒形防振装置の製造方法に用いられる上側治具を示す断面図であって、図12のXI−XI断面に相当する図。
図12図11に示す上側治具の底面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1,2には、本発明に係る流体封入式筒形防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、インナ軸部材12と中間筒部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結された加硫成形品18に、アウタ筒部材20が外嵌固定された構造を有している。以下の説明において、上下方向とは、原則として、図1中の上下方向を言う。
【0026】
より詳細には、インナ軸部材12は、直線的に延びる厚肉小径の略円筒形状とされており、鉄やアルミニウム合金などの金属や合成樹脂などで形成された高剛性の部材とされている。さらに、インナ軸部材12には、合成樹脂や金属で形成された一対のストッパ突部22,22が固設されており、インナ軸部材12から径方向両側へ突出している。
【0027】
このインナ軸部材12の外周には、中間筒部材14が配設されている。中間筒部材14は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、軸方向中間部分に小径の嵌合溝部24を備えていると共に、軸方向両端部分には大径の環状嵌着部26がそれぞれ設けられている。さらに、中間筒部材14の軸方向中間部分には、径方向の両側において開口する一対の窓部28,28が形成されている。
【0028】
そして、中間筒部材14は、インナ軸部材12に外挿されて外周に配されており、それらインナ軸部材12と中間筒部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉の略円筒形状を有しており、内周面がインナ軸部材12の外周面に加硫接着されていると共に、外周面が中間筒部材14の内周面に加硫接着されている。これにより、インナ軸部材12と中間筒部材14が本体ゴム弾性体16で連結された加硫成形品18が形成されている。
【0029】
さらに、本体ゴム弾性体16には、一対のポケット部30が形成されている。ポケット部30は、本体ゴム弾性体16の軸方向中間部分に形成されて外周面に開口しており、径方向一方向の両側に向けて開口する一対が形成されている。そして、一対のポケット部30,30の開口部が、中間筒部材14の一対の窓部28,28と位置決めされて、それら一対のポケット部30,30が一対の窓部28,28を通じて外周へ開放されている。なお、インナ軸部材12に設けられたストッパ突部22,22が、一対のポケット部30,30の内周面から径方向に突出していると共に、ストッパ突部22,22の表面が本体ゴム弾性体16と一体形成された緩衝ゴム38で覆われている。
【0030】
このポケット部30,30が形成されることにより、本体ゴム弾性体16は、ポケット部30,30の上壁部である上軸方向壁部32と、ポケット部30,30の下壁部である下軸方向壁部34と、ポケット部30,30の周方向両端の壁部である連結腕部36,36とを備える構造とされている。連結腕部36,36は、インナ軸部材12と中間筒部材14を軸直角方向に連結しており、一対のポケット部30,30の周方向間に形成されて、中間筒部材14における嵌合溝部24,24の形成部分に固着されている。
【0031】
また、中間筒部材14には、アウタ筒部材20が外挿状態で固定されている。アウタ筒部材20は、金属や合成樹脂などで形成された高剛性の部材であって、薄肉大径の略円筒形状を有している。さらに、アウタ筒部材20の内周面は、シールゴム層40によって略全体が覆われている。
【0032】
そして、アウタ筒部材20は、中間筒部材14に外挿されて外周に配されると共に、アウタ筒部材20が八方絞りなどの縮径加工を施されることにより、アウタ筒部材20の軸方向両端部分が中間筒部材14の上下の環状嵌着部26,26に嵌着固定されている。なお、中間筒部材14の環状嵌着部26,26とアウタ筒部材20の軸方向両端部との径方向間には、シールゴム層40が挟み込まれており、それら中間筒部材14とアウタ筒部材20の間が流体密に封止されている。
【0033】
このように、加硫成形品18の中間筒部材14にアウタ筒部材20が取り付けられることにより、一対の窓部28,28がアウタ筒部材20によって閉塞されており、それら一対の窓部28,28を通じて外周へ開放された一対のポケット部30,30の開口が、アウタ筒部材20によって流体密に覆蓋されている。これにより、壁部の少なくとも一部が本体ゴム弾性体16で構成された封入領域としての第一の流体室42と第二の流体室44が、一対のポケット部30,30によって形成されている。
【0034】
さらに、第一,第二の流体室42,44には、非圧縮性流体が封入されている。非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などが採用される。さらに、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を有効に得るために、第一,第二の流体室42,44に封入される非圧縮性流体は、0.1Pa・s以下の低粘性流体であることが望ましい。
【0035】
また、第一の流体室42には、第一のオリフィス部材46が配設されている。第一のオリフィス部材46は、中間筒部材14の周方向に延びる湾曲板状とされており、長さ方向の両端部分が中間筒部材14の嵌合溝部24,24の各一方に嵌め付けられていると共に、長さ方向の中間部分が第一の流体室42を周方向に跨いで延びている。また、第一のオリフィス部材46には、外周面に開口しながら周方向に延びる第一周溝48が形成されており、第一周溝48の一方の端部が第一のオリフィス部材46の周方向端面に開口していると共に、他方の端部が第一のオリフィス部材46を貫通する第一連通孔50を通じて第一のオリフィス部材46の内周面に開口している。
【0036】
また、第二の流体室44には、第二のオリフィス部材52が配設されている。第二のオリフィス部材52は、第一のオリフィス部材46に対して面対称形状とされており、第一のオリフィス部材46における第一周溝48と対応する第二周溝54が形成されていると共に、第一連通孔50と対応する第二連通孔56が第二のオリフィス部材52を貫通して形成されて第二周溝54に接続されている。
【0037】
そして、第一のオリフィス部材46と第二のオリフィス部材52は、両端部が中間筒部材14の嵌合溝部24,24に差し入れられて、中間筒部材14とアウタ筒部材20の径方向間で径方向に挟まれて支持されている。かかる配設状態において、第一のオリフィス部材46の第一周溝48と第二のオリフィス部材52の第二周溝54が周方向に接続されていると共に、第一,第二のオリフィス部材46,52の外周面がシールゴム層40を介してアウタ筒部材20に流体密に重ね合わされて、第一,第二周溝48,54外周開口がアウタ筒部材20によって塞がれている。これらによって、第一の流体室42と第二の流体室44を相互に連通するオリフィス通路58が第一,第二のオリフィス部材46,52に形成されて、周方向に一周に満たない長さで延びている。なお、オリフィス通路58は、第一,第二の流体室42,44の壁ばね剛性を考慮しながら、通路断面積と通路長の比を調節することにより、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が適宜に設定されており、例えばエンジンシェイクに相当する低周波や、アイドリング振動や走行こもり音に相当する中乃至高周波にチューニングされている。
【0038】
かくの如き構造のエンジンマウント10は、図3に示す流体封入式筒形防振装置の製造装置60を用いることにより、第一,第二の流体室42,44への非圧縮性流体の封入量を調節しながら、アウタ筒部材20の縮径による中間筒部材14への取付けや本体ゴム弾性体16の予圧縮などが実施される。この製造装置60は、後述する下側押圧体62と縮径加工部77と上側押圧体108とを備えている。以下に、エンジンマウント10の製造装置60の構造と共にエンジンマウント10の製造方法について説明する。
【0039】
先ず、予め準備された加硫成形品18の外周面に同じく予め準備された第一,第二のオリフィス部材46,52を取り付けると共に、加硫成形品18に対してアウタ筒部材20を外挿し、それらを製造装置60の下側押圧体62にセットする。
【0040】
下側押圧体62は、下側治具64を備えており、下側治具64は、略円板形状とされた基部66の外周端部から上方へ突出する複数の当接突部68と、基部66の径方向中央部分から上方へ突出する位置決めピン70とを、備えている。また、下側治具64の下方には固定部72が連結されており、固定部72が環状の保持体74の内挿状態で固定されていると共に、保持体74が回転テーブル76に連結されており、回転テーブル76を周方向へ回転させることによって固定部72に連結された下側治具64の周方向の向きを調節可能とされている。そして、加硫成形品18を下側治具64に上方から接近せしめて、加硫成形品18のインナ軸部材12に位置決めピン70を挿入することにより、加硫成形品18を下側押圧体62に対して軸直角方向で位置決めしてセットする。さらに、加硫成形品18に外挿されるアウタ筒部材20の下面を、保持体74の上面で当接支持せしめることにより、アウタ筒部材20を加硫成形品18に対して所定の軸方向位置に位置決め保持した状態で下側押圧体62にセットする。
【0041】
また、下側押圧体62にセットされた加硫成形品18およびアウタ筒部材20に対して、縮径加工部77を外挿状態でセットする。縮径加工部77は、図4に示すように、アウタ筒部材20の外周に配される複数の絞り型78を備えている。
【0042】
絞り型78は、上下方向視で略扇形を呈する高剛性のブロック体であって、複数が周方向に並んで配されて、径方向中央部分に上下に延びる貫通孔が形成されていると共に、外周面が上方へ行くに従って内周へ傾斜するテーパ外周面80とされている。また、図3〜5に示すように、絞り型78には摺動突部82が固定されている。摺動突部82は、径方向の中間部分に向けて次第に狭幅となる断面形状で上下に延びるロッド状とされており、最狭幅部よりも内周側が、絞り型78の外周面の周方向中央部分に形成された嵌合溝84に嵌め合わされて、絞り型78にねじ留めされている。
【0043】
さらに、絞り型78は、外周側に配された加圧部86に対して摺動可能に配設されている。この加圧部86は、内周面がテーパ外周面80に対応するテーパ内周面88とされていると共に、各絞り型78の周方向中央部分と対応する位置には、径方向に傾斜しながら上下に延びるガイド溝90が内周面に開口して形成されている。そして、摺動突部82の最狭幅部よりも外周側が、加圧部86のガイド溝90に嵌め合わされており、摺動突部82がガイド溝90によって案内されることで、絞り型78が加圧部86に対して上下に摺動可能とされている。また、加圧部86の内周面が上方へ行くに従って内周へ傾斜するテーパ内周面88とされていることから、絞り型78は、加圧部86に対して上方へ変位すると同時に内周へ変位するようになっている。
【0044】
更にまた、加圧部86の上下には、それぞれ略円環板形状とされた上下の変位規制部92,94が設けられており、加圧部86のテーパ内周面88よりも内周へ突出する変位規制部92,94が加圧部86に固設されることで、絞り型78の加圧部86に対する上下への抜けが防止されている。なお、下変位規制部94は、保持体74を上下に挿通可能な大きさの貫通孔を備えている。
【0045】
そして、図5に矢印で示すように加圧部86を図示しないアクチュエータで下方へ変位せしめて、加圧部86をアウタ筒部材20の外周に配すると共に、絞り型78の下面に保持体74の上面を押し当てて、絞り型78を加圧部86に対して上方へ相対移動させることで、絞り型78を加圧部86とアウタ筒部材20の間に押し入れる。これにより、図3に示すように、加圧部86のテーパ内周面88によって径方向内側へ押圧された絞り型78の内周面を、アウタ筒部材20の外周面に押し当てて、アウタ筒部材20を複数の絞り型78によって縮径加工する。なお、コイルスプリングや圧縮性流体を用いたシリンダ−ピストン構造などのばね手段により、絞り型78を下向きに付勢して、アクチュエータによる加圧部86の変位が解除されることで、絞り型78が下端の初期位置へより確実に移動するようにしても良い。
【0046】
かかるアウタ筒部材20の縮径加工工程を非圧縮性流体中で行うことにより、中間筒部材14の環状嵌着部26,26とアウタ筒部材20がシールゴム層40を介して密着して、第一,第二の流体室42,44が画成されると同時に、それら第一,第二の流体室42,44に対して非圧縮性流体が封入される。さらに、中間筒部材14とアウタ筒部材20がシールゴム層40を介して密着して第一,第二の流体室42,44が密封された後にも、アウタ筒部材20を更に縮径加工することにより、本体ゴム弾性体16が径方向に予圧縮される。
【0047】
このような絞り型78でアウタ筒部材20を縮径加工するアウタ筒部材20の縮径加工工程は、図3に示すように、本体ゴム弾性体16の下軸方向壁部34に下側治具64を当接させるとともに、本体ゴム弾性体16の上軸方向壁部32に上側治具96を押し当てながら行う。なお、本実施形態のエンジンマウント10の製造方法では、先ず、下側押圧体62に加硫成形品18と第一,第二のオリフィス部材46,52とアウタ筒部材20をセットして、下側治具64を本体ゴム弾性体16の下軸方向壁部34に当接させる下側治具セット工程を完了する。次に、下側押圧体62にセットされた加硫成形品18に後述する上側押圧体108を接近させて、中間筒部材14とアウタ筒部材20を上側押圧体108と保持体74の間で挟持すると共に、上側治具96を本体ゴム弾性体16の上軸方向壁部32に当接させる上側治具セット工程を完了する。その後、絞り型78でアウタ筒部材20を縮径加工する縮径加工工程を完了して、エンジンマウント10を得る。
【0048】
流体封入式筒形防振装置の製造用治具である上側治具96は、図6〜8に示すように、環状ベース部98の下面に複数の押圧突部100が突設された構造を有している。環状ベース部98は、略一定の断面形状で延びるリング状であって、径方向一方向の両側には、内面にねじ山を形成されて上下に貫通するねじ孔102が、それぞれ形成されている。
【0049】
押圧突部100は、環状ベース部98と一体形成されており、環状ベース部98における周方向の複数箇所において、環状ベース部98の軸方向内面である下面から下方へ突出している。また、押圧突部100は、突出先端面が径方向に湾曲する湾曲面とされて、径方向中間部分において突出寸法が最大になっていると共に、内周および外周へ行くに従って上傾している。本実施形態の押圧突部100は、突出先端面である下面の内周端と内周面の下端が湾曲形状で滑らかに連続していると共に、下面の外周端と外周面の下端が湾曲形状で滑らかに連続しており、下面の内外周端がエッジのない表面形状とされている。さらに、押圧突部100は、周方向両端面が径方向に略平行に広がる平面とされており、内周側へ行くに従って周方向で狭幅となっている。更にまた、押圧突部100は、周方向両端面と下面の接続部分の表面が湾曲面形状とされて、接続部分において折れ線状のエッジが無くされて滑らかに連続する表面形状とされている。なお、本実施形態では、押圧突部100の外周面が環状ベース部98の外周面よりも内周に位置していると共に、押圧突部100よりも外周側において環状ベース部98が後述する非当接部106よりも下方へ突出している。
【0050】
さらに、本実施形態において押圧突部100は、ねじ孔102に対して周方向両側に3つずつが形成されており、それら片側の3つが周方向に所定の距離で略等間隔に形成されていると共に、ねじ孔102,102の形成部分を挟んだ両側の押圧突部100,100が周方向に大きく離れて配置されている。
【0051】
更にまた、各押圧突部100には、上下に貫通する通孔104が形成されている。この通孔104は、略一定の円形断面で上下に直線的に延びて上側治具96を貫通しており、一方の端部が押圧突部100の下面に開口していると共に、他方の端部が環状ベース部98の上面に開口している。なお、図6では、通孔104の幾つかが塞がれているが、これは通孔104の効果を確認するなどの目的で実験的に塞がれているに過ぎない。
【0052】
さらに、複数の押圧突部100の周方向間には、それぞれ非当接部106が形成されている。非当接部106は、押圧突部100よりも環状ベース部98から下方への突出高さが小さくされており、本実施形態では非当接部106の環状ベース部98からの突出高さが0とされて、非当接部106が環状ベース部98で構成されている。また、ねじ孔102,102が形成された2つの非当接部106a,106aは、他の4つの非当接部106b,106b,106b,106bよりも周方向の幅が大きくされており、好適には本体ゴム弾性体16の連結腕部36,36よりも周方向の幅が大きくされている。
【0053】
このような構造の上側治具96は、上下に変位可能とされた上側押圧体108の下端部を構成している。上側押圧体108は、上側治具96を保持する治具保持部110と、治具保持部110と図示しないアクチュエータを連結する連結部112とを、相対傾動可能にピン連結した構造を有している。また、治具保持部110は、逆向きの有底円筒形状を有しており、周壁部を径方向に貫通する液排出孔114が形成されていると共に、軸方向に延びて液排出孔114と上側治具96の通孔104とを連通する連通孔116が、周上の複数箇所に形成されている。さらに、治具保持部110には、周壁部を軸方向上下に貫通するボルト孔118が形成されており、ボルト孔118に挿通される連結ボルト120が上側治具96のねじ孔102に螺着されることにより、上側治具96が治具保持部110に固定されている。
【0054】
そして、上側押圧体108の下方への移動によって治具保持部110に固定された上側治具96を本体ゴム弾性体16の上軸方向壁部32の上面に押し当てた状態で、アウタ筒部材20を絞り型78によって縮径加工する。上側治具96は、上軸方向壁部32への当接部分が周方向に複数が設けられた押圧突部100とされており、上側治具96が上軸方向壁部32を周方向部分的に複数箇所で押圧するようになっている。また、上側治具96は、ねじ孔102,102を形成された非当接部106a,106aが、本体ゴム弾性体16の連結腕部36,36に対して周方向で位置決めされており、押圧突部100が連結腕部36,36の上方を周方向に外れた位置に配置されている。
【0055】
本実施形態では、上側治具96の通孔104と上側押圧体108の液排出孔114および連通孔116によって、本体ゴム弾性体16と上側治具96の間の非圧縮性流体が外部に排出されることから、上側治具96の押圧突部100を本体ゴム弾性体16の上軸方向壁部32に容易に押し当てることができる。
【0056】
このように、上側治具96の押圧突部100と下側治具64の当接突部68とを本体ゴム弾性体16の上下端面に押し当てながら、アウタ筒部材20を縮径加工することにより、各ポケット部30の軸方向壁部32,34の上下外方への膨出変形量を制限して、第一,第二の流体室42,44の容積を調節することができる。それゆえ、第一,第二の流体室42,44の配された径方向の振動入力に対して、オリフィス通路58を通じて流動する流体の流動作用に基づく防振効果などを効率的に得ることができる。
【0057】
また、本実施形態では、アウタ筒部材20が中間筒部材14の環状嵌着部26,26へシールゴム層40を介して流体密に当接して、第一,第二の流体室42,44が密封形成された後にも、アウタ筒部材20を更に縮径加工する。ここにおいて、上側治具96における押圧突部100の周方向間に設けられた非当接部106は、押圧突部100が上軸方向壁部32の上面に周方向で部分的に当接した状態で、上軸方向壁部32に対して上方に離れて非当接とされている。
【0058】
その結果、第一,第二の流体室42,44が密封形成された後で更にアウタ筒部材20を縮径加工するに際して、図9,10に示すように、本体ゴム弾性体16における上軸方向壁部32の軸方向外方への膨出変形が、押圧突部100の周方向間で許容される。これにより、非圧縮性流体を封入された第一,第二の流体室42,44の容積変化が、上軸方向壁部32の弾性変形によってある程度まで許容されて、アウタ筒部材20の縮径加工時に密封された第一,第二の流体室42,44の内圧が著しく上昇するのを防止できる。それゆえ、アウタ筒部材20の縮径加工を比較的に小さな力で行うことができて、アウタ筒部材20の縮径加工を精度よく行うことも容易になると共に、加圧部86を下向きに移動させて絞り型78に径方向内向きの力を作用させる図示しないアクチュエータとして、発生力の小さい小型のものを採用することも可能となる。なお、図9,10では、上軸方向壁部32の膨出変形を理解し易くなるように、膨出変形前の上軸方向壁部32を二点鎖線で示すと共に、実線で示す膨出変形後の上軸方向壁部32を、変形量を誇張して図示した。また、図10は、上側治具96と上軸方向壁部32の当接部分を展開して模式的に示す図であって、図中の左右方向が周方向とされている。
【0059】
特に、第一,第二の流体室42,44は、内周および外周の壁部が実質的に変形しない構造とされており、内周と外周の少なくとも一方の壁部が可撓性膜で構成されて容積変化が許容される平衡室ではない。このような構造の第一,第二の流体室42,44を備えるエンジンマウント10を製造するに際して、非当接部106が設けられた上側治具96によって本体ゴム弾性体16の上軸方向壁部32を押圧することにより、アウタ筒部材20の縮径加工時に第一,第二の流体室42,44の内圧上昇を抑えることができる。
【0060】
また、本実施形態の上側治具96では、ねじ孔102,102を形成された一対の非当接部106a,106aが他の非当接部106bに比して周方向の幅を大きくされており、それら幅広の非当接部106a,106aが本体ゴム弾性体16における一対の連結腕部36,36と周方向の位置を合わされている。これにより、上側治具96は、一対の連結腕部36,36の形成部分を周方向に外れた位置で本体ゴム弾性体16(上軸方向壁部32)を押圧するようになっており、一対の連結腕部36,36を直接に押圧するのを防止されている。それゆえ、一対の連結腕部36,36が軸方向で不必要に大きく圧縮されるのを防いで、本体ゴム弾性体16における耐久性の向上や目的とするばね特性の実現などが図られる。しかも、一対の連結腕部36,36が軸方向で大きく圧縮されるのを防ぐことにより、本体ゴム弾性体16がアウタ筒部材20の縮径加工によって径方向で十分に予圧縮される。
【0061】
また、本実施形態では、下側治具64の当接突部68が本体ゴム弾性体16の下軸方向壁部34に対して全周に亘って当接すると共に、上側治具96の押圧突部100が本体ゴム弾性体16の上軸方向壁部32を周方向で部分的に押圧するようになっている。それゆえ、第一,第二の流体室42,44の容積を精度よく調節しながら、アウタ筒部材20の縮径加工時における第一,第二の流体室42,44の容積変化を、上軸方向壁部32の膨出変形によって許容して、アウタ筒部材20の縮径加工を容易に実現することができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、周方向で断続的に複数が設けられる押圧突部100は、突出先端面(下面)が周方向両側面に対して湾曲面形状をもって滑らかにつながっており、周方向端縁部の下端がエッジのない滑らかな表面形状とされている。これにより、本体ゴム弾性体16に対して押圧突部100が押し当てられても、当接による応力が分散して作用せしめられて、押圧突部100の当接部分で亀裂が生じるのを防ぐことができる。
【0063】
図11,12には、本発明に係る流体封入式筒形防振装置の製造用治具の第二の実施形態として、上側治具130が示されている。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。また、上側治具130を備える流体封入式筒形防振装置の製造装置や上側治具130を用いて製造される流体封入式筒形防振装置の具体的な構造は、第一の実施形態と同様の物が採用され得る。
【0064】
より詳細には、上側治具130は、環状ベース部98に複数の押圧突部100と非当接部106が形成された構造を有している。
【0065】
押圧突部100は、周方向で相互に離れて複数が設けられており、本実施形態では8つの押圧突部100が周方向で略均等に配置されている。また、環状ベース部98に形成されたねじ孔102,102が径方向で対向する位置に設けられた2つの押圧突部100,100内まで達するように形成されており、ねじ孔102,102が上側治具130を貫通することなく環状ベース部98の上面にのみ開口している。
【0066】
非当接部106は、押圧突部100が周方向で略均等に配置されていることから、周方向の幅が略一定とされており、径方向へ略一定の幅で直線的に延びている。要するに、本実施形態の非当接部106は、全てが第一の実施形態の非当接部106bと同様の構造とされている。
【0067】
このような本実施形態に従う構造の上側治具130によれば、第一の実施形態と同様に、アウタ筒部材20の縮径加工に際して、本体ゴム弾性体16の上軸方向壁部32の上面を複数の押圧突部100によって周方向で部分的に押圧しながら、上軸方向壁部32の上方への膨出変形を非当接部106によって許容することができる。これにより、第一,第二の流体室42,44の容積を調節設定できると共に、第一,第二の流体室42,44が密封された後にもアウタ筒部材20を更に縮径変形することができる。
【0068】
また、本実施形態の上側治具130は、押圧突部100の数が第一の実施形態の上側治具130よりも多くされていることから、第一,第二の流体室42,44の容積をより精度よく調節設定することができる。なお、押圧突部100の周方向幅を大きくすれば、押圧突部100の数を増やすことなく、第一,第二の流体室42,44の容積を高精度に調節設定し易くなる。一方、押圧突部100の数を少なくしたり、押圧突部100の周方向幅を小さくしたりすれば、第一,第二の流体室42,44の密封後にもアウタ筒部材20を更に縮径変形し易くなり得る。
【0069】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、上側治具96に形成される押圧突部100の数や配置などは、あくまでも例示であって、特に限定されるものではない。さらに、絞り型78の数や縮径加工を行う製造装置60の具体的な構造などは、実施形態に記載されたものに限定されるものではなく、適宜に変更され得る。
【0070】
前記第一の実施形態では、本体ゴム弾性体16におけるポケット部30,30の上軸方向壁部32を、押圧突部100と非当接部106を備えた上側治具96で押圧する態様について説明したが、例えば、上側治具96を上下反転させた構造を有する製造用治具としての下側治具によって、下軸方向壁部34を周方向で部分的に押圧すると共に、下軸方向壁部34の下方への膨出変形を周方向で部分的に許容するようにもできる。要するに、アウタ筒部材20を縮径加工するに際して、上軸方向壁部32と下軸方向壁部34の少なくとも一方を周方向で部分的に押圧しつつ、周方向の他の部分で外方への膨出変形を許容するようになっていれば良い。
【0071】
流体封入式筒形防振装置の具体的な構造も、要求特性などに応じて適宜に変更可能である。具体的には、例えば、前記実施形態では封入領域が径方向一方向の両側に形成された2つの流体室42,44で構成されていたが、封入領域として4つの流体室が相互に直交する径方向二方向の各両側に形成されて、径方向二方向の振動に対して流体の流動作用による防振効果が発揮される構造の流体封入式筒形防振装置について、本発明に係る製造方法や製造用治具、製造装置を適用することもできる。
【0072】
また、前記実施形態ではアウタ筒部材20が全長に亘って略一定の直径で形成されているが、例えば、軸方向両端部よりも軸方向中央部分が大径とされた構造のアウタ筒部材を備えた流体封入式筒形防振装置についても、本発明は適用可能である。その場合に、アウタ筒部材は全体を一様に縮径加工しても良いが、例えば、アウタ筒部材の軸方向両端部を縮径加工して、封入領域に非圧縮性流体を封入した後、アウタ筒部材の軸方向中間部を更に縮径加工するようにしても良い。
【0073】
また、上側治具96の押圧突部100の突出高さ(非当接部106の深さ)を調節して、上軸方向壁部32の軸方向外方への膨出変形時に上軸方向壁部32が非当接部106に当接するようにしても良い。これによれば、上軸方向壁部32の外方への膨出変形量を制限することができて、例えばアウタ筒部材20の縮径加工量の制限設定なども可能になり得る。
【符号の説明】
【0074】
10:エンジンマウント(流体封入式筒形防振装置)、12:インナ軸部材、14:中間筒部材、16:本体ゴム弾性体、18:加硫成形品、20:アウタ筒部材、26:環状嵌着部、28:窓部、30:ポケット部、32:上軸方向壁部(軸方向他方の側におけるポケット部の軸方向壁部)、34:下軸方向壁部(軸方向一方の側におけるポケット部の軸方向壁部)、36:連結腕部、42:第一の流体室(封入領域)、44:第二の流体室(封入領域)、60:製造装置(流体封入式筒形防振装置の製造装置)、96,130:上側治具(流体封入式筒形防振装置の製造用治具)、98:環状ベース部、100:押圧突部、106:非当接部
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