特許第6739275号(P6739275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6739275ゲフィチニブを有効成分とする医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739275
(24)【登録日】2020年7月27日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】ゲフィチニブを有効成分とする医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5377 20060101AFI20200730BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20200730BHJP
   A61K 9/20 20060101ALN20200730BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20200730BHJP
【FI】
   A61K31/5377
   A61K47/32
   !A61K9/20
   !A61P35/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-152166(P2016-152166)
(22)【出願日】2016年8月2日
(65)【公開番号】特開2018-20968(P2018-20968A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金子 将明
【審査官】 深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103845335(CN,A)
【文献】 特表2008−534530(JP,A)
【文献】 特表2008−542211(JP,A)
【文献】 特表2015−503612(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105640890(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第104771373(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩である薬剤(A)、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーを含有する重合体(B)、を含有する医薬組成物。
【請求項2】
重合体(B)に対する薬剤(A)の重量比が0.01〜0.1:1(w/w)である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
さらに添加剤として結合剤を含む、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
結合剤がポリビニルピロリドンである請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
結合剤が、該医薬組成物全体における含有率が5質量%以上30質量%以下である請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲフィチニブを有効成分として含有する医薬組成物であって、特にpH1.5からpH6.5へ変更させた場合における薬剤不溶化速度を緩和することができる医薬製剤を調整するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲフィチニブは、化学名をN−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−[3−(モルフォリン−4−イル)プロポキシ]キナゾリン−4−アミンとする、一般式(1)で示される構造を有する化合物である。
【化1】
ゲフィチニブはEGFRチロシンキナーゼを選択的に阻害して腫瘍細胞の増殖を抑制する作用を有する。そこで、悪性腫瘍に対する治療剤として開発が進められ、イレッサ(Iressa(登録商標))の商品名にて抗腫瘍剤として用いられている。特に、野生型のEGFRよりも変異型EGFRに対してよりチロシンキナーゼ阻害活性を有することが判っており、本邦ではEGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌に対する治療剤として提供されている。
【0003】
ゲフィチニブは水にほとんど溶解しない物性(1gを溶解するために>100,000mLを要する。(20℃±5℃))であるが、ゲフィチニブは弱塩基性化合物であり、水に対する溶解度はpHに大きく依存する。すなわち、pH1では可溶性(1gを溶解するために10〜30mLの水性溶媒を要する。)であるが、pH4〜6で溶解度は大きく低下し、pH6では溶解度が1mg/mL程度に低下し、pH7では実質的に不溶性である。
ゲフィチニブのpH依存的な水溶解性は、経口投与した際の有効成分の溶出性や吸収性に大きく影響すると想定される。すなわち、ゲフィチニブを有効成分とする医薬成分を経口投与すると、酸性環境である(pH1〜4)の胃内では良好な水溶度を有し医薬製剤から十分な溶出がなされ、有効成分も十分に吸収され得る溶液状態を維持できるものと考えられる。しかしながら、最も高い薬剤吸収部位として考えられる小腸はpH4〜8であり、有効成分の溶出性が低下したり、溶出された有効成分が溶液状態から析出して吸収されなくなったりする懸念がある。その結果、有効成分のバイオアベイラビリティが低下し、薬物動態が大きく変化してしまう問題がある。このため、ゲフィチニブを有効成分とする医薬製剤は、経口投与の消化器経路におけるpH変動に亘り、薬剤溶解性の変化がほとんどないことが重要である。
【0004】
ゲフィチニブのpH依存的水溶解性を緩和した医薬組成物として、特許文献1にヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテル等を含む医薬製剤が開示されている。これはゲフィチニブを有効成分とする内核錠に対してヒドロキシプロピルメチルセルロースをポリエチレングリコール等と共に含むコーティング剤として用いたコーティング錠剤の態様を記載し、pH1.5からpH6.5へ変更させた場合における薬剤不溶化速度を緩和させることができることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−523293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的はゲフィチニブを有効成分とする医薬組成物であって、酸性域から中性域に亘って有効成分の溶出性に変化がない医薬製剤を調製するための医薬組成物を提供することを課題とする。特にpH1.5からpH6.5へ変更させた場合における薬剤不溶化速度を緩和させることができる医薬製剤を調製するための医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ゲフィチニブと共にアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体を医薬製剤用の添加剤として用いることで、それを用いた医薬製剤のpH1.5からpH6.5へ変更させた場合における薬剤不溶化速度が大きく緩和されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の[1]〜[6]を要旨とする。
【0008】
[1] ゲフィチニブ又はその薬理学的に許容される塩である薬剤(A)、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)、を含有する医薬組成物。
[2] アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)に対する薬剤(A)の重量比が0.01〜0.1:1(w/w)である、[1]に記載の医薬組成物。
[3] アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)がアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーである[1]〜[2]の何れかに記載の医薬組成物。
[4] さらに添加剤として結合剤を含む、[1]〜[3]の何れかに記載の医薬組成物。
[5] 結合剤がポリビニルピロリドンである[4]に記載の医薬組成物。
[6] 結合剤が、該医薬錠剤全体における含有率が5質量%以上30質量%以下である[5]に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゲフィチニブを有効成分とする医薬組成物は、酸性域から中性域pHを変更させた場合に有効成分の不溶化速度を緩和した医薬製剤を調製することができる。特に、小腸域の中性pHでも酸性域と同等の溶解性を奏する医薬製剤を調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明はゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩である薬剤である薬剤(A)を有効成分とする医薬組成物であって、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を医薬製剤用添加剤として用いることを特徴とする。以下にその詳細について説明する。
【0011】
本発明は、有効成分としてゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩である薬剤である薬剤(A)を用いる。ゲフィチニブは化学名をN−[(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−(3−モルフォリン−4−イル)プロポキシ]キナゾリン−4−アミンである。当該化合物は、特表平11−504033号公報にて開示されており、それに記載の方法により合成することができる。
ゲフィチニブは、弱塩基性化合物であることから、適当な酸との付加塩の様態であっても良い。例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、フマル酸、メタンスルホン酸または4−トルエンスルホン酸とのモノ−又はジ−酸付加塩を用いても良い。
ゲフィチニブは医薬品の有効成分として用いることのできる品質レベルの化合物を用いることが望ましい。本発明において、薬剤(A)は酸付加塩ではなく遊離塩基体のゲフィチニブを用いることが好ましい。
【0012】
本発明は、医薬製剤用の添加剤としてアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を用いる。
本発明においてアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を用いることで水溶性セルロース類を添加剤とした場合と比較し中性域でのゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩である薬剤である薬剤(A)の不溶化速度の緩和能が向上することを特徴とする。
【0013】
本発明におけるアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群とはカルボン酸体及びエステル体からなる。カルボン酸体としてはアクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。エステル体としてはアクリル酸又はメタクリル酸と炭素数(C1〜C6)のアルキルアルコールとのエステル体が挙げられ、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等が挙げられる。好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールとのエステル体であり、メタノール、エタノールとのエステル体であることが殊更好ましい。
【0014】
本発明におけるアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)はアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステル以外の構成を含んでいてもよい。
【0015】
本発明におけるアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)としては、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、乾燥メタクリル酸コポリマーLD、メチルアクレリート・メタアクリル酸・メチルメタアクリレートコポリマー、2−メチル−5−ビニルピリジンメチルアクリレート・メタクリル酸コポリマー等が挙げられる。
本発明におけるアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)としては、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーを用いることが殊更好ましい。
【0016】
前記アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーはアクリル酸エチル及びメタクリル酸メチルの重合体である。この重合体は、アクリル酸エチルセグメントとメタクリル酸メチルセグメントからなるジブロック共重合体であっても、アクリル酸エチルとメタクリル酸メチルがランダムに結合した共重合体であってもよい。アクリル酸エチルとメタクリル酸メチルがランダムに結合した共重合体を用いることがより好ましい。
【0017】
本発明に使用するアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー(B)は数平均分子量が750キロダルトン以下のものを使用することが好ましい。
【0018】
本発明はゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩である薬剤である薬剤(A)とアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を含有する医薬組成物である。薬剤(A)と重合体(B)の重量比は、本発明の効果が奏される範囲内であれば特に限定されないが、重合体(B)に対する薬剤(A)の重量比が、0.001〜0.5:1であることが好ましい。0.01〜0.1:1であることがより好ましい。
【0019】
本発明の医薬組成物には、結合剤も添加剤として含まれる。結合剤としては、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル−ビニルピロリドン共重合体、アクリル酸エチル−メタクリル酸メチル共重合体、アミノアルキルメタクリレート共重合体、アンモニオアルキルメタクリレート共重合体、ポリビニルアルコール−アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合物、ポリアクリル酸部分中和物、ポリビニルアルコール、メタクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体等を挙げることができる。
本発明における結合剤としては、ポリビニルピロリドンを用いることが好ましい。
【0020】
本発明における結合剤として使用されるポリビニルピロリドンは数平均分子量が28000〜54000のものを使用することが好ましい。
【0021】
本発明の医薬組成物は、前述したゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩である薬剤である薬剤(A)、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)及び結合剤の他に、本発明の効果を妨げない範囲で医薬品製剤を調製するために通常の用いられる他の添加剤を含んでいても良い。例えば、崩壊剤、可溶化剤、滑沢剤、賦形剤、隠蔽剤や着色剤等の、医薬製剤を調製するための通常の医薬製剤用添加剤を用いても良い。
これらの添加剤は、医薬品製剤用途で許容される純度であれば特に制限されることなく用いることができる。これらの添加剤は1種のみを用いても良く、これらの混合物として用いても良い。当該医薬組成物又は医薬製剤を調製する際に、任意に使用される。
【0022】
本発明において崩壊剤としては、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度カルボキシメチルスターチナトリウム等が挙げられる。
【0023】
本発明において可溶化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、精製大豆レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ダイズ油、ラウロマクロゴール等が挙げられる。
【0024】
本発明において滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、カルナウバロウ等が挙げられる。
【0025】
本発明において賦形剤としては、乳糖、マルトース、マンニトール、スクロース、ソルビトール、キシリトール、イノシトール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン等、上記の結合剤、崩壊剤、可溶化剤、滑沢剤に該当しない添加剤が含まれる。
【0026】
本発明において隠蔽剤や着色剤としては、酸化チタン、黄酸化鉄、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、褐色酸化鉄、タルク、食用黄色素類、食用青色素類、食用赤色素類等が挙げられる。
【0027】
本発明は前記医薬組成物を成型して調製される、ゲフィチニブを有効成分とする医薬製剤を包含する。ゲフィチニブは経口的に投与されて悪性腫瘍の治療に提供されることから、経口用製剤であることが好ましい。経口用の製剤形としては、錠剤、分散錠、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠、トローチ剤、ドロップ剤等が挙げられる。本発明の医薬組成物を用いた医薬製剤としては、錠剤として用いることが好ましい。
【0028】
本発明の医薬組成物を錠剤に適用する場合、ゲフィチニブ又はその塩である薬剤(A)、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)と結合剤、並びに任意の医薬製剤添加剤を混合して、任意に顆粒体を調製した後、圧縮成型して成型される錠剤であっても良い。若しくは、ゲフィチニブ又はその塩である薬剤(A)を含有する錠剤を内核錠として、これにアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を含有する被覆膜でコーティングした錠剤とする態様であっても良い。
【0029】
前記「ゲフィチニブ又はその塩である薬剤(A)、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)と結合剤、並びに任意の医薬製剤添加剤を混合して、任意に顆粒体を調製した後、圧縮成型して成型される錠剤」は、有効成分であるゲフィチニブ又はその塩、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)及び結合剤、崩壊剤、可溶化剤、滑沢剤、賦形剤等の任意の医薬製剤用添加剤を配合して、任意に顆粒体を調製した後、これを圧縮成型して調製される錠剤を示す。医薬用添加剤として用いる結合剤、結合剤、崩壊剤、可溶化剤、滑沢剤、賦形剤は、前述と同義である。
前記錠剤は、ゲフィチニブとして30〜90質量部、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体を0.05〜20質量部、結合剤を0.1〜25質量部、崩壊剤を1〜20質量部、可溶化剤を0〜5質量部、滑沢剤を0.1〜5質量部、賦形剤を5〜50質量部で含有する処方による医薬組成物を混合し、任意に水、エタノール、メタノール等の有機溶媒及びこれらの混合溶媒を添加して造粒して顆粒体を調製し、これを圧縮成型することで錠剤を調製することができる。好ましくは、ゲフィチニブとして50〜85質量部、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体を1〜10質量部、結合剤を1〜15質量部、崩壊剤を1〜10質量部、可溶化剤を0〜5質量部、滑沢剤を0.1〜5質量部、賦形剤を5〜40質量部を含有する処方による医薬組成物である。
【0030】
本発明は、(1)ゲフィチニブ又はその医薬的に許容可能な塩である薬剤(A)を含有する内核と、(2)アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を含有する前記内核を被覆するコーティング層、を包含する医薬錠剤を好ましい態様として包含する。
前記「ゲフィチニブ又はその医薬的に許容可能な塩である薬剤(A)を含有する内核」は、有効成分であるゲフィチニブ又はその塩、及び結合剤、崩壊剤、可溶化剤、滑沢剤、賦形剤等の任意の医薬製剤用添加剤を配合して、任意に顆粒体を調製した後、これを圧縮成型して調製される素錠を示す。内核成分に用いる結合剤、結合剤、崩壊剤、可溶化剤、滑沢剤、賦形剤は、前述と同義である。
内核となる前記素錠は、ゲフィチニブとして30〜90質量部、結合剤を0.1〜25質量部、崩壊剤を1〜20質量部、可溶化剤を0〜5質量部、滑沢剤を0.1〜5質量部、賦形剤を5〜50質量部で含有する処方による医薬組成物を混合し、任意に水、エタノール、メタノール等の有機溶媒及びこれらの混合溶媒を添加して造粒して顆粒体を調製し、これを圧縮成型することで内核となる素錠を調製することができる。好ましくは、ゲフィチニブとして50〜85質量部、結合剤を1〜15質量部、崩壊剤を1〜10質量部、可溶化剤を0〜5質量部、滑沢剤を0.1〜5質量部、賦形剤を5〜40質量部を含有する処方による医薬組成物である。
【0031】
なお医薬組成物を圧縮成型する前に、造粒化操作を行い、顆粒体を調製することが好ましい。造粒化操作としては、当該医薬組成物に適当な機械的圧力を付加して造粒する乾式造粒であっても良く、水又は有機溶剤を適当量添加して混合等の機械的圧力を付加して造粒する湿式造粒であっても良い。本発明品を調製するにあたっては、この湿式造粒を選択することがより好ましい。
この造粒物を、打錠成型等により錠剤形に成型することにより、内核である素錠を調製することができる。
【0032】
前記内核となる素錠は、錠剤成形性と溶出速度を制御するために、結合剤を含有することが好ましい。本発明において、有効成分であるゲフィチニブの含有量を高めて、好ましくはゲフィチニブとして50質量部より多く、より好ましくは60質量部以上、更に好ましくは70質量部以上の含有量の素錠を調製するために、結合剤は当該素錠総質量における含有量として、5質量%以上で30質量%以下であることが好ましい。
【0033】
内核となる素錠に被覆する「アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を含有するコーティング層」とは、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を含有する水性溶液を調製して、これを前記素錠の表面に噴霧等の操作により均一に付着させて、これを乾燥することで当該コーティング層を設けることができる。
アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を含有する水性溶液とは、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)の水又はエタノールやアセトン等の水と任意に混和する有機溶剤を含有する水性溶剤による溶液である。この水性溶液には、隠蔽剤や着色剤、分散剤、可塑剤等の医薬製剤のコーティング剤に用いられる任意の添加剤が含まれていても良い。なお、隠蔽剤や着色剤等は当該水性溶液に溶解して用いても、懸濁状態で用いても良い。
【0034】
アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を含有するコーティング層は、前記アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を60〜100質量部、隠蔽剤及び/又は着色剤を0〜10質量部、分散剤を0〜10質量部、可塑剤を0〜20質量部で含有する処方の組成物であることが好ましい。なお、分散剤とは例えばマクロゴールが挙げられる。また、可塑剤とは例えば、グリセリン、プロピレングリコール、分子量300〜6000のポリエチレングリコール、ヒマシ油等のトリグリセリド、ジエチルフタレート等を挙がることができる。好ましくは、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)が70〜99質量部、酸化チタン、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、無水二酸化ケイ酸、酸化マグネシウムからなる群から選択される1種又はその組み合せである、隠蔽剤及び/又は着色剤を0〜10質量部を含有する処方のコーティング層組成物である。
前記コーティング層組成物は、水又は水と任意の割合で混合し得る有機溶剤を含む水性溶剤をアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)が充分に溶解し得る濃度にて水性溶液を調製することで、コーティング層を設けるためのコーティング剤として用いることができる。
【0035】
内核となる素錠にアクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を含有するコーティング層で被覆する方法としては、前記アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を含有する水性溶液を、内核となる素錠が入ったコーティングパンの中へ注入またはスプレーし、錠剤表面に熱風を送り錠剤表面から溶媒を除去乾燥させる方法により、素錠表面に当該アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1つ以上を含有する重合体(B)を均一に付着させ、その後、乾燥することでコーティング層を設けることができる。乾燥工程は、室温〜80℃程度で行うことが好ましい。減圧下で行うことで水性溶剤を揮発させて乾燥しても良い。
【0036】
本発明の医薬組成物を用いた医薬品の用途は、ゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩である薬剤(A)により治療効果を奏する疾病であれば特に限定されるものではない。例えば、悪性腫瘍の治療に適用することができる。より具体的には、肺癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌、胃癌、脳腫瘍、頭部癌、頸部癌、膀胱癌、咽頭癌、腎癌、皮膚癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、子宮癌、甲状腺癌、白血病、リンパ性悪性腫瘍等を挙げることができる。これらの疾患に限定されるものではないが、適用する好ましい疾患として挙げることができる。
【0037】
本発明の医薬組成物を用いた医薬品の投与量は、患者の性別、年齢、生理的状態、病態等により当然変更されうるが、例えば成人1日当たり、ゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩である薬剤(A)として0.5〜15mg/kg体重の範囲の薬剤を投与する。より好ましくは、例えば、1〜10mg/kg体重の範囲の薬剤を投与する。この投与量に限定されるものではないが、適用する好ましい投与量として挙げることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
粉体であるゲフィチニブ(250mg)、ポリビニルピロリドン(ポビドン:35mg)、ラウリル硫酸ナトリウム(2mg)を乳鉢で混合した。後述する試験例1実施の際、混合した粉体を溶解させ、液体であるアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー(15mg)をその溶液の中に添加し撹拌することで均一な溶液とした。
比較例1〜5は表1に記載の組成で実施例1と同様に粉体成分は乳鉢で混合し、液体成分は試験例1を実施する際、混合せず添加することで調製した。

[表1]

【0039】
[試験例1]pH変動試験
実施例1及び比較例1〜5のゲフィチニブのpH変動時における溶解度の変化を調べるため、下記条件で試験を実施した。
試験液1 :0.07mol/mL塩酸溶液5000mLに10gの塩化ナトリウムを溶解させて得られるpH1.5付近の溶液
試験液2 :2.5mol/mLリン酸二水素カリウム水溶液に33.44gの水酸化ナトリウムを溶解させて得られるpH12付近の溶液
溶出試験器 :NTR−6200A、富山産業株式会社製
試験液温 :37±0.5℃
パドル回転数:100rpm
分析機器 :紫外可視分光度計(UV−1700、島津製作所製)
測定波長 :247nm

試験液1(500mL)をベッセルに入れて溶出試験器へ設置し、そこに上記実施例1及び比較例1〜5の粉体組成物を投入し、その後液体成分を投入し100rpmのパドルで澄明になるまで撹拌し溶解させた。溶解した状態で波長247nmにおける吸光度を測定し、その値を基準値とした。次いで、100rpmのパドルで回転させながら試験液2(13.4mL)を投入した。事前に、試験液1(500mL)と試験液2(13.4mL)を混合した場合の液のpHを測定したところ、約6.5となることを確認した。試験液2を投入してから、2分後、5分後、7分後、10分後に、波長247nmにおける吸光度を測定し、基準値と比較することで溶液中のゲフィチニブ残存率(%)を算出した。結果を表2に示す。

【表2】
【0040】
ゲフィチニブはpHによってその溶解度が大きく変動する。すなわち、低pHであるほど溶解度は高くなるため、250mgのゲフィチニブはpH1.5付近の液500mLには容易に溶解することが知られている。一方、pH5を超える溶液中では溶解度が極端に低下し、特にpH6を超える場合にはほとんど溶解しないことが知られている。試験例1ではpHを約1.5から約6.5へと急激に上昇させたが、この場合、溶液中へ溶解していたゲフィチニブが析出することが考えられる。このゲフィチニブの析出を水溶性セルロース類を添加することにより抑制できることが知られている(特表2005−523293号公報)が、試験例1では、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーを用いることにより、その抑制効果が水溶性セルロース類を用いた場合より大きく上回ることが確認された。pHを6.5へと調製する前と比較し、ゲフィチニブ単体、水溶性セルロースであるヒプロメロースを用いた場合、その他高分子化合物を用いた場合ではpH6.5に変動後10分時点では残存率が約5〜30%まで低下するのに対し、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーを用いた場合では90%以上の残存率を示した。