特許第6739279号(P6739279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739279
(24)【登録日】2020年7月27日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】アクスルケース
(51)【国際特許分類】
   B60G 9/04 20060101AFI20200730BHJP
   B60B 35/16 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   B60G9/04
   B60B35/16 F
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-156387(P2016-156387)
(22)【出願日】2016年8月9日
(65)【公開番号】特開2018-24298(P2018-24298A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘幸
【審査官】 高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−100248(JP,A)
【文献】 実開昭56−033706(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 53/90
B23K 9/00
B60B 35/16
B60G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクスルケース本体の中央膨らみ部に、車両の前後方向に力が加わるサスペンション部品を取り付けるためのブラケットが溶接されたアクスルケースであって、
前記ブラケットは、車両の前後方向に間隔が隔てられた一対の横板部材と、該横板部材の車軸方向両端部に配設された一対の縦板部材とを有し、
該一対の縦板部材は、夫々、下部に車軸方向外方に曲げられた折曲部を有し、該折曲部が前記中央膨らみ部に溶接され、
前記一対の横板部材は、夫々、前記サスペンション部品を取り付けるための切欠部を有し、
前記一対の横板部材のうち車両後方側の横板部材は、前記切欠部から前記中央膨らみ部へ向けて直線的に傾斜された傾斜部を有し、
該傾斜部の下端の端面と前記中央膨らみ部の上面とで形成される溶接部の開先の角度が鋭角であり、該傾斜部の下端の端面が前記中央膨らみ部に溶接された、ことを特徴とするアクスルケース。
【請求項2】
前記車両後方側の横板部材は、前記傾斜部から前記縦板部材までの部分に、滑らかに窪んで形成された凹形状部を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のアクスルケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクスルケース本体の中央膨らみ部に、車両の前後方向に力が加わるサスペンション部品を取り付けるためのブラケットが溶接されたアクスルケースに関する。
【背景技術】
【0002】
図1図2に示すように、トラックやバス等の大型車両に用いられるアクスルケース1として、アクスルケース本体2の中央膨らみ部3に、ブラケット4が溶接されたものが知られている(特許文献1参照)。ブラケット4には、車両の前後方向に力が加わるサスペンション部品(トルクロッド5)が取り付けられる。なお、中央膨らみ部3の後方の開口には、ボール状の蓋6が装着されている。
【0003】
図3図4に示すように、ブラケット4は、車両の前後方向に間隔が隔てられた一対の横板部材7F、7Rと、横板部材7F、7Rの車軸方向両端部に配設された一対の縦板部材8R、8Lとを有する。一対の横板部7F、7R同士の間には、スペーサ9が介設されており、各横板部材7F、7Rには、トルクロッド5を取り付けるための切欠部10が形成されている。切欠部10には、トルクロッド5の一端が、ボルトナット等の締結具11によって接続される。トルクロッド5の他端は、図示しない車体フレームに接続される。
【0004】
図5(a)に示すように、縦板部材8R、8Lは、夫々、下部に車軸方向外方に曲げられた折曲部8aを有し、折曲部8aが中央膨らみ部3の上面に溶接(隅肉溶接)されている。図中ドットで示す部分が溶接ビードである。一方、横板部材7F、7Rは、夫々、下部がアクスルケース本体2の中央膨らみ部3の形状に合わせて湾曲されており、下端が中央膨らみ部3の上面に溶接(隅肉溶接)されている。詳しくは、図5(b)、図5(c)に示すように、車両後方側の横板部材7Rは、下部が車両後方に曲げられており、その折曲部7aが中央膨らみ部3に溶接されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2015−58770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ブラケット4が溶接されるアクスルケース本体2の中央膨らみ部3の上面には、図5(a)に示すように、車幅方向左右の縦板部材8R、8Lの下部を車軸方向外方に曲げるためのスペースは存在するが、図5(b)、図5(c)に示すように、車両後方側の横板部材7Rの下部を車両後方に曲げるためのスペースが十分存在するとは言えない。よって、車両後方側の横板部材7Rの折曲部7aの長さは、縦板部材8R、8Lの折曲部8aの長さよりも短くなる。
【0007】
このため、車両の加速減速に伴って、トルクロッド5を介してブラケット4に車両前後方向の荷重が入力され、ブラケット4と中央膨らみ部3との溶接部に引張応力が発生する際、横板部材7Rと中央膨らみ部3との結合剛性が、縦板部材8R、8Lと中央膨らみ部3との結合剛性よりも低くなる。すなわち、車両前方側の横板部部材7Fの下部が中央膨らみ部3に突き当てられて溶接され、車両後方側の横板部部材7Rの下部が短い折曲部7aを介して中央膨らみ部3に溶接されているので、そのような横板部材7R、7Fは、長い折曲部8aを介して中央膨らみ部3に溶接された縦板部材8R、8Lと比べると、上記引張応力に対する剛性が低くなる。
【0008】
よって、上記引張応力が発生した際、剛性の低い横板部材7R、7Fの溶接部の応力分担が、剛性の高い縦板部材8R、8Lの溶接部の応力分担よりも小さくなってしまい、縦板部材8R、8Lの溶接部の応力分担が高まって、縦板部材8R、8Lの折曲部8aにおける溶接部(図5(a)の丸印x)に高い応力が発生し、耐久性に問題が生じる。
【0009】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、トルクロッド等のサスペンション部品を介してブラケットに加わる車両前後方向の力に対する横板部材の剛性を高めることで、横板部材と中央膨らみ部との溶接部の応力分担を高めて、縦板部材と中央膨らみ部との溶接部の応力分担を軽減し、応力分担の均衡化を図って耐久性を向上させたアクスルケースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成すべく創案された本発明によれば、アクスルケース本体の中央膨らみ部に、車両の前後方向に力が加わるサスペンション部品を取り付けるためのブラケットが溶接されたアクスルケースであって、ブラケットは、車両の前後方向に間隔が隔てられた一対の横板部材と、横板部材の車軸方向両端部に配設された一対の縦板部材とを有し、一対の縦板部材は、夫々、下部に車軸方向外方に曲げられた折曲部を有し、折曲部が中央膨らみ部に溶接され、一対の横板部材は、夫々、サスペンション部品を取り付けるための切欠部を有し、一対の横板部材のうち車両後方側の横板部材は、切欠部から中央膨らみ部へ向けて直線的に傾斜された傾斜部を有し、傾斜部の下端の端面と中央膨らみ部の上面とで形成される溶接部の開先の角度が鋭角であり、傾斜部の下端の端面が中央膨らみ部に溶接された、ことを特徴とするアクスルケースが提供される。
【0011】
本発明に係るアクスルケースにおいては、車両後方側の横板部材は、傾斜部から縦板部材までの部分に、滑らかに窪んで形成された凹形状部を有していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るアクスルケースにおいては、トルクロッド等のサスペンション部品を介して車両前後方向の力が加わるブラケットの横板部材には、サスペンション部品を取り付けるための切欠部が形成され、切欠部からアクスルケース本体の中央膨らみ部へ向けて直線的に傾斜された傾斜部が形成されている。この傾斜部によって、サスペンション部品を介してブラケットに加わる車両前後方向の力に対する横板部材の剛性を高めることができるので、横板部材と中央膨らみ部との溶接部の応力分担が高まって、相対的に縦板部材と中央膨らみ部との溶接部の応力分担が軽減される。従って、応力分担の均衡化が図られ、耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】アクスルケース、ブラケット、サスペンション部品(トルクロッド)等を示す斜視図である。
図2図1のアクスルケースを反対側から見た斜視図である。
図3図2のアクスルケースのブラケットの部分の拡大図である。
図4図3のブラケットにサスペンション部品(トルクロッド)を取り付けた平面図である。
図5】従来例を示すアクスルケースの説明図であり、(a)は部分正面図、(b)は(a)のb−b線断面図、(c)は(a)のc−c線断面図である。
図6】本発明の一実施形態を示すアクスルケースの説明図であり、(a)は部分正面図、(b)は(a)のb−b線断面図、(c)は(a)のc−c線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
(アクスルケース)
図1図2に示すように、本実施形態に係るアクスルケース1は、トラックやバス等の大型車両に用いられるものであり、アクスルケース本体2の中央膨らみ部3に、車両の前後方向に力が加わるサスペンション部品(トルクロッド5)を取り付けるためのブラケット4が溶接されている。図3図4に示すように、ブラケット4は、車両の前後方向に間隔が隔てられた一対の横板部材7F、7Rと、横板部材7F、7Rの車軸方向両端部に配設された一対の縦板部材8R、8Lとを有する。横板部材7F、7Rは、車軸方向に沿って形成された板材であり、縦板部材8R、8Lは、車軸と直交する方向に沿って形成された板材である。なお、中央膨らみ部3の後方の開口には、ボール状の蓋6が装着されている。
【0016】
図6(a)、図6(b)、図6(c)に、本実施形態に係るアクスルケース1のブラケット4の部分を示す。図6(b)は図6(a)のb−b線断面図、図6(c)は図6(a)のc−c線断面図である。図6(a)に示すように、一対の縦板部材8R、8Lは、夫々、下部に車軸方向外方に曲げられた折曲部8aを有し、折曲部8aが中央膨らみ部3の上面に溶接(隅肉溶接)されている。図中ドットで示す部分が溶接ビードである。一方、一対の横板部材7F、7Rには、夫々、トルクロッド5を取り付けるための切欠部10が形成されており、切欠部10には、トルクロッド5の一端が、ボルトナット等の締結具11によって接続される。トルクロッド5の他端は、図示しない車体フレームに接続される。なお、横板部7F、7R同士の間には、スペーサ9が介設されている(図3図4参照)。
【0017】
一対の横板部材7R、7Fのうち車両後方側の横板部材7Rは、図6(c)に示すように、切欠部10から中央膨らみ部3の頂部へ向けて直線的に傾斜された傾斜部7xを有し、傾斜部7xの下端を含めた横板部材7Rの下端が中央膨らみ部3の上面に溶接されている。このように、車両後方側の横板部材7Rは、斜め下方に向けて直線的に形成された傾斜部7xを有していることから、図6(b)、図6(c)に示すように、下端の端面7yが斜め下方を向いている。この結果、横板部材7Rの端面7yと中央膨らみ部3の上面3aとで形成される溶接部の開先の角度が鋭角(90度以下)となり、溶接ビートの溶け込みが、図5(b)、図5(c)に示す、横板部材7Rの下端に折曲部7aが形成されており端面7yでの開先の角度が直角となる従来例よりも深くなる。
【0018】
図6(b)に示すように、車両前方側の横板部材7Fは、下端が中央膨らみ部3の上面に直角に当接されており、その下端が車軸方向に沿って溶接(隅肉溶接)されている。また、車両後方側の横板部材7Rには、傾斜部7xから縦板部材8R、8Lまでの部分に、滑らかに窪んで形成された凹形状部7zが形成されている。
【0019】
(作用・効果)
図6(a)〜図6(c)に示す本実施形態に係るアクスルケース1においては、トルクロッド5等のサスペンション部品を介して車両前後方向の力が加わるブラケット4の横板部材7Rには、サスペンション部品5を取り付けるための切欠部10が形成され、切欠部10からアクスルケース本体2の中央膨らみ部3の頂部へ向けて直線的に傾斜された傾斜部7xが形成されている(図6(c)参照)。
【0020】
この傾斜部7xによって、サスペンション部品5を介してブラケット4に加わる車両前後方向の力に対する横板部材7Rの剛性を高めることができる。このように、車両前後方向の力に対する横板部材7Rの剛性を高められるので、横板部材7Rと中央膨らみ部3との溶接部の応力分担が高まって、相対的に縦板部材8R、8Lと中央膨らみ部3との溶接部の応力分担が軽減され、応力分担の均衡化が図られ、耐久性を向上させることができる。
【0021】
また、傾斜部7xを有する横板部材7Rは、図6(b)、図6(c)に示すように、下端の端面7yが斜め下方を向いている。この結果、横板部材7Rの端面7yと中央膨らみ部3の上面3aとで形成される溶接部の開先の角度が鋭角(90度以下)となり、溶接ビートの溶け込みが、図5(b)、図5(c)に示す従来例(開先の角度が直角)よりも深くなる。よって、溶接欠陥を抑制でき、溶接のど厚を厚くすることで、溶接強度が向上し、耐久性が向上する。
【0022】
上述したように、横板部材7Rの溶接部と縦板部材8R、8Lの溶接部との応力分担が均衡化され、横板部材7Rの溶接部の強度が向上するため、従来問題となっていた、縦板部材8R、8Lの折曲部8aにおける溶接部(図6(a)の丸印x)の応力を低減できる。FEM解析では、図6(a)〜図6(c)に示す本実施形態は、図5(a)〜図5(c)に示す従来例と比べて、丸印xの部分において応力が約24%低減しており、耐久寿命が約3倍程度延びることが判明した。
【0023】
また、車両後方側の横板部材7Rは、図6(c)に示す直線状の傾斜部7xの両脇に図6(b)に示す凹形状部7zを有しているため、プレス加工等によって成形し易い形状となり、生産性が向上する。
【0024】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例または修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0025】
例えば、本実施形態においては、図6(a)に示すように、ブラケット4が中央膨らみ部3の中心からオフセットされたタイプを示したが、オフセットされないタイプにも適用できる。また、ブラケット4に取り付けられるサスペンション部品は、トルクロッド5に限られず、Vロッドでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、アクスルケース本体の中央膨らみ部に、車両の前後方向に力が加わるサスペンション部品を取り付けるためのブラケットが溶接されたアクスルケースに利用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 アクスルケース
2 アクスルケース本体
3 中央膨らみ部
4 ブラケット
7R 後方の横板部材
7x 傾斜部
7y 端面
7z 凹形状部
7F 前方の横板部材
8R 右方の縦板部材
8L 左方の縦板部材
8a 折曲部
10 切欠部
図1
図2
図3
図4
図5
図6