特許第6739303号(P6739303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6739303駆動力伝達機構およびそれを用いた電気錠
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739303
(24)【登録日】2020年7月27日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】駆動力伝達機構およびそれを用いた電気錠
(51)【国際特許分類】
   E05B 47/00 20060101AFI20200730BHJP
【FI】
   E05B47/00 J
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-184008(P2016-184008)
(22)【出願日】2016年9月21日
(65)【公開番号】特開2018-48471(P2018-48471A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】糸見 正二
【審査官】 秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−108928(JP,A)
【文献】 特開平9−280267(JP,A)
【文献】 特開2003−232387(JP,A)
【文献】 特開2016−205059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入力部材と、第2入力部材と、出力部材と、前記第1入力部材または第2入力部材に加えられる回転駆動力を出力部材に伝達する入力切替クラッチとを備え、
前記第2入力部材から入力切替クラッチを介して出力部材を回転させるのに必要な回転トルクよりも、前記第2入力部材から入力切替クラッチを介して第1入力部材を回転させるのに必要な回転トルクの方が大きく設定されている駆動力伝達機構。
【請求項2】
前記第1入力部材の入力側に、セルフロック機能のない減速機が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の駆動力伝達機構。
【請求項3】
前記第1入力部材に制動力を与える手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の駆動力伝達機構。
【請求項4】
前記入力切替クラッチは、前記第1入力部材と回転伝達可能に連結されている外輪の径方向内側に、前記第2入力部材と同一軸心のまわりに前記出力部材と一体に回転する内輪が配され、前記内輪の外周面にカム面が周方向に複数設けられ、前記外輪の内周円筒面と内輪の各カム面との間に周方向で次第に狭小となる楔形空間が形成され、これらの各楔形空間にロック係合子とそのロック係合子を楔形空間の狭小部へ押し込むばねが組み込まれ、前記各楔形空間の周方向両側に挿入される柱部を有するロック解除片が前記第2入力部材に回転伝達可能に連結され、前記第2入力部材と内輪との間に、第2入力部材の回転を僅かな角度遅れをもって内輪に伝達するトルク伝達手段が設けられ、前記第1入力部材に回転駆動力が加えられたときは、前記外輪がロック係合子を介して内輪とロックすることにより、前記内輪および出力部材に回転駆動力が伝達され、前記第2入力部材に回転駆動力が加えられたときは、前記第2入力部材の回転により前記外輪と内輪のロック状態が解除された後、前記内輪および出力部材に回転駆動力が伝達されるようにしたものであり、
この入力切替クラッチの外輪に制動力を与える手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の駆動力伝達機構。
【請求項5】
前記制動力を与える手段が、その制動力を受ける部材と固定部材との間に弾性部材が弾性変形した状態で組み込まれているものであることを特徴とする請求項3または4に記載の駆動力伝達機構。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の駆動力伝達機構と、前記第1入力部材を回転駆動するモータと、手動入力を受けて前記第2入力部材を回転駆動する鍵またはサムターンと、前記出力部材の回転によって進退するデッドボルトとを備えている電気錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力切替クラッチにより第1入力部材と第2入力部材のいずれからでも出力部材を回転駆動できるようにした駆動力伝達機構と、その駆動力伝達機構を用いた電気錠に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの製品分野で従来手動で操作していた器具や装置の電動化が進んでいるが、その機能によっては停電時や電池切れの際に手動で操作できることが求められる場合がある。例えば、玄関ドアではキーレスで施錠・開錠が行えるようにした電気錠が普及しつつあるが、電気錠は停電時等の緊急時に備えて従来の鍵を使った施錠・開錠もできる構造となっている必要がある。
【0003】
上記のような電気錠として、モータからの電動入力によって回転駆動される第1入力部材と、鍵またはサムターンからの手動入力によって回転駆動される第2入力部材と、デッドボルトを進退させる出力部材と、第1入力部材または第2入力部材に加えられる駆動力を出力部材に伝達する入力切替クラッチとを備え、電動入力と手動入力のいずれによっても施錠・開錠が行えるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−108928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1で提案されている電気錠では、モータと第1入力部材との間に、モータの回転駆動力を第1入力部材に伝達し、第1入力部材に加えられる逆入力トルクに対してはロックして第1入力部材を停止させる逆入力遮断機構を組み込んでいる。この構成によれば、第2入力部材を回転駆動したときに、入力切替クラッチから逆入力を加えられる第1入力部材は停止したままで共回りしないので、鍵やサムターンによる施錠・開錠の操作を軽く行うことができる。
【0006】
しかしながら、その逆入力遮断機構として、セルフロック機能を有するウォーム機構や高減速率の減速機構、あるいは入力トルクを出力側に伝達し、出力側に加えられる逆入力トルクに対してはロックしてトルク伝達を遮断する逆入力遮断クラッチを採用することになるため、全体の構造が複雑になるという問題がある。
【0007】
上記の問題は、電気錠に限らず、入力切替クラッチの作用により第1入力部材と第2入力部材のいずれからでも出力部材を回転駆動できるようにした駆動力伝達機構を組み込んでいる装置に共通するものである。
【0008】
そこで、本発明は、第1入力部材と第2入力部材のいずれからでも出力部材を回転駆動でき、かつ第2入力部材から駆動するときの第1入力部材の共回りを簡単な構造で防止することができる駆動力伝達機構と、その駆動力伝達機構を用いた電気錠を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の駆動力伝達機構は、第1入力部材と、第2入力部材と、出力部材と、前記第1入力部材または第2入力部材に加えられる回転駆動力を出力部材に伝達する入力切替クラッチとを備え、前記第2入力部材から入力切替クラッチを介して出力部材を回転させるのに必要な回転トルクよりも、前記第2入力部材から入力切替クラッチを介して第1入力部材を回転させるのに必要な回転トルクの方が大きく設定されているものとした。
【0010】
上記の構成によれば、第1入力部材と第2入力部材のいずれからでも出力部材を回転駆動できるし、ウォーム機構、高減速率の減速機構、逆入力遮断クラッチ等、構造の複雑な逆入力遮断機構を組み込まなくても、第2入力部材から駆動するときに第1入力部材が共回りしないようにすることができる。
【0011】
具体的には、例えば、前記第1入力部材の入力側に、セルフロック機能のない減速機が設けられている構成を採用するとよい。その減速機は、トルクロスによって第1入力部材を回転させるのに必要な回転トルクを大きくできればよいので、セルフロック機能を有する高減速率のものに比べて構造の簡素化を図ることができる。
【0012】
あるいは、前記第1入力部材に制動力を与える手段を設けるようにしてもよい。また、前記入力切替クラッチが、前記第1入力部材と回転伝達可能に連結されている外輪の径方向内側に、前記第2入力部材と同一軸心のまわりに前記出力部材と一体に回転する内輪が配され、前記内輪の外周面にカム面が周方向に複数設けられ、前記外輪の内周円筒面と内輪の各カム面との間に周方向で次第に狭小となる楔形空間が形成され、これらの各楔形空間にロック係合子とそのロック係合子を楔形空間の狭小部へ押し込むばねが組み込まれ、前記各楔形空間の周方向両側に挿入される柱部を有するロック解除片が前記第2入力部材に回転伝達可能に連結され、前記第2入力部材と内輪との間に、第2入力部材の回転を僅かな角度遅れをもって内輪に伝達するトルク伝達手段が設けられ、前記第1入力部材に回転駆動力が加えられたときは、前記外輪がロック係合子を介して内輪とロックすることにより、前記内輪および出力部材に回転駆動力が伝達され、前記第2入力部材に回転駆動力が加えられたときは、前記第2入力部材の回転により前記外輪と内輪のロック状態が解除された後、前記内輪および出力部材に回転駆動力が伝達されるようにしたものである場合は、この入力切替クラッチの外輪に制動力を与える手段を設けるようにしてもよい。
【0013】
ここで、前記制動力を与える手段としては、その制動力を受ける部材と固定部材との間に弾性部材が弾性変形した状態で組み込まれているものを採用することができる。
【0014】
そして、本発明の電気錠は、上記のような構成の駆動力伝達機構と、前記第1入力部材を回転駆動するモータと、手動入力を受けて前記第2入力部材を回転駆動する鍵またはサムターンと、前記出力部材の回転によって進退するデッドボルトとを備えているものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の駆動力伝達機構は、上述したように、第1入力部材と第2入力部材のいずれからでも出力部材を回転駆動でき、かつ構造の複雑な逆入力遮断機構を組み込まなくても、第2入力部材から駆動するときの第1入力部材の共回りを防止することができるので、従来に比べて設計の自由度が大きく、全体構造の簡略化が可能である。
【0016】
また、本発明の電気錠は、上記構成の駆動力伝達機構を組み込んだものであるから、従来よりも簡単な構造で、手動入力による施錠・開錠動作を軽く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の駆動力伝達機構の縦断正面図
図2図1のII−II線に沿った断面図
図3】a、bは、それぞれ図1の入力切替クラッチの手動入力時の動作の説明図
図4】第2実施形態の駆動力伝達機構の縦断正面図
図5】第3実施形態の駆動力伝達機構の縦断正面図
図6】第1実施形態の駆動力伝達機構の変形例を組み込んだ電気錠の縦断正面図
図7図6のVII−VII線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1乃至図3は第1の実施形態を示す。この駆動力伝達機構は、図1および図2に示すように、第1入力部材としての電動入力歯車1と、第2入力部材としての手動入力軸2と、出力部材としての出力軸3と、電動入力歯車1への電動入力と手動入力軸2への手動入力のいずれかの回転駆動力を出力軸3に伝達する入力切替クラッチ4と、電動入力歯車1の入力側に設けられる減速機5とを備えている。その電動入力歯車1、手動入力軸2と出力軸3のそれぞれの内端側部分、および入力切替クラッチ4は、矩形箱部6aの一側の開口を蓋部6bで塞いだハウジング(固定部材)6に収納されている。また、減速機5は、セルフロック機能がなく、電動入力歯車1の駆動源となるモータ7とともに減速機付きモータを構成するもので、ハウジング6の外側面に固定され、その出力側の小径部5aがハウジング6内で電動入力歯車1の内周にキー固定されている。
【0019】
前記手動入力軸2は、外端側の大径部がハウジング6から一部突出する状態でハウジング6に回転自在に支持されており、その大径部に連続し、外周に二面幅が形成された係合部2aと、その係合部2aの内端面から突出する小径円筒部2bとを有している。一方、前記出力軸3は、外端側がハウジング6から突出する状態でハウジング6に回転自在に支持されており、その内端に後述するように入力切替クラッチ4の一部を構成する内輪8が一体に形成されている。
【0020】
そして、手動入力軸2の係合部2aの先端側部分が内輪8中央に設けられた係合穴8aに挿入され、小径円筒部2bが内輪8の係合穴8aの底から出力軸3の円形穴3aに嵌め込まれて、手動入力軸2と出力軸3および内輪8とが同一軸心のまわりに回転するようになっている。ここで、内輪8の係合穴8aは、断面が手動入力軸2の係合部2aとほぼ同じ形状で、手動入力軸2の係合部2aを挿入したときに僅かな回転方向の隙間が生じるように形成されており、これにより、手動入力軸2の回転を僅かな角度遅れをもって内輪8に伝達するトルク伝達手段が構成されている。
【0021】
前記入力切替クラッチ4は、電動入力歯車1と噛み合う中間歯車9と、中間歯車9の内周に嵌合固定された外輪10と、外輪10の径方向内側に配される前記の内輪8と、外輪10の内周面と内輪8の外周面との間に組み込まれるローラ(ロック係合子)11およびコイルばね12と、ローラ11を挟んでコイルばね12と対向する位置に挿入される柱部13aを有するロック解除片13とを備えている。また、中間歯車9の両端面には、手動入力軸2または出力軸3を通し、外輪10と内輪8との間の空間の軸方向両端を塞ぐ側板14がねじ止めされている。
【0022】
前記内輪8の外周には複数のカム面8bが設けられ、これらの各カム面8bと外輪10の内周円筒面との間に周方向両側で次第に狭小となる楔形空間15が形成されている。そして、これらの各楔形空間15に、一対のローラ11が各ローラ11を楔形空間15の狭小部に押し込むコイルばね12を挟んだ状態で配され、各楔形空間15の周方向両側にはロック解除片13の柱部13aが挿入されている。そのロック解除片13は、手動入力軸2の係合部2aの外周に嵌合固定されている。
【0023】
この入力切替クラッチ4では、モータ7から減速機5および電動入力歯車1を介して外輪10に回転駆動力が加えられると、コイルばね12の弾性力によって楔形空間15の狭小部に押し込まれている回転方向前側のローラ11を介して外輪10と内輪8とがロックするので、外輪10の回転(回転駆動力)が内輪8および出力軸3に伝達される。このときには、回転方向前側のローラ11がロック解除片13の柱部13aを押すので、ロック解除片13が固定された手動入力軸2も共回りする。
【0024】
一方、手動入力軸2に回転駆動力が加えられたときには、まず、図3(a)に示すように、後述するメカニズムによって外輪10が停止した状態で、手動入力軸2と一体回転するロック解除片13の柱部13aが回転方向後側のローラ11をコイルばね12の弾性力に抗して楔形空間15の広大部へ押しやるので、そのローラ11と外輪10および内輪8との係合が解除されて、外輪10と内輪8のロック状態が解除される。そして、図3(b)に示すように、手動入力軸2がさらに回転して、その係合部2aが内輪8の係合穴8aの内面を押すようになると、手動入力軸2の回転(回転駆動力)が内輪8に伝達されて、内輪8および出力軸3が回転する(このとき、回転方向前側のローラ11は楔形空間15の広大部に相対移動するので、外輪10および内輪8と係合することはない)。
【0025】
ここで、手動入力軸2に回転駆動力が加えられたときに外輪10が回転しないのは、次のようなメカニズムによる。すなわち、手動入力軸2と一体のロック解除片13の柱部13aが回転方向後側のローラ11を押圧したときに、そのローラ11とこれに係合している内外輪8、10とを一体に回転させて電動入力歯車1まで回転させるのに必要な回転トルクをY、回転方向後側のローラ11のみを内外輪8、10との摩擦力およびコイルばね12の弾性力に抗して楔形空間15の広大部へ押しやって出力軸3を回転させるのに必要な回転トルクをZとすると、電動入力歯車1の入力側にトルクロスのある減速機5が連結されていることにより、Y>Zとなっている。このため、手動入力軸2に回転駆動力を加えても、外輪10や電動入力歯車1が回転することはない。また、コイルばね12の弾性力を適度に小さくすれば、より確実にY>Zの関係が得られるようになる。
【0026】
この駆動力伝達機構は、上記の構成であり、電動入力歯車1と手動入力軸2のいずれからでも出力軸3を回転駆動でき、手動入力軸2に回転駆動力を加えて出力軸3を回転させるときは、電動入力歯車1が共回りしないので軽く操作することができる。
【0027】
しかも、手動操作時の電動入力歯車1の共回りを防止する手段が、電動入力歯車1の入力側にセルフロック機能のない減速機5を設けて、手動入力軸2から入力切替クラッチ4を介して出力軸3を回転させるのに必要な回転トルク(Z)よりも、手動入力軸2から入力切替クラッチ4を介して電動入力歯車1を回転させるのに必要な回転トルク(Y)の方を大きく(Y>Zとなるように)したものであるから、電動入力歯車1の入力側に構造の複雑な逆入力遮断機構を設ける場合に比べて設計の自由度が大きく、全体構造の簡略化が可能である。
【0028】
上記の回転トルクの大小関係(Y>Z)を成立させる手段は、第1実施形態のように電動入力歯車1の入力側に減速機5を設けるものに限らない。
【0029】
例えば、図4に示す第2の実施形態は、第1実施形態の減速機5をなくして、モータ7をハウジング6の外側面に固定し、その主軸7aをハウジング6に通してハウジング6で回転自在に支持し、その主軸7aの外周に電動入力歯車1をキー固定している。そして、電動入力歯車1の一端面とこれに対向するハウジング6の内面との間に弾性部材としてのウェーブワッシャ16を弾性変形させた状態で組み込むことにより、電動入力歯車1に制動力を与えてY>Zの関係を成立させている。
【0030】
また、図5に示す第3の実施形態は、上記第2実施形態のウェーブワッシャ16の代わりに、入力切替クラッチ4の中間歯車9の一端面に固定された側板14とこれに対向するハウジング6の内面との間に弾性部材としてのOリング17を弾性変形させた状態で組み込むことにより、側板14を介して中間歯車9およびこれと一体の外輪10に制動力を与えてY>Zの関係を成立させている。
【0031】
なお、上述した第2、第3実施形態において、電動入力歯車1や入力切替クラッチ4の外輪10に制動力を与えるために組み込まれる弾性部材は、ウェーブワッシャやOリングに限らず、コイルばね等も採用することもできる。
【0032】
図6および図7は、第1実施形態の駆動力伝達機構を一部変形して組み込んだ電気錠を示す。なお、その駆動力伝達機構のうち、第1実施形態と同じ機能を有する部材の一部については、第1実施形態と同じ符号をつけて説明を省略する。
【0033】
この電気錠は、第1実施形態のハウジング6に代わる錠ケース18の内部に、減速機5とモータ7が一体化された減速機付きモータと、モータ7からの電動入力によって回転駆動される電動入力歯車(第1入力部材)19と、鍵20またはサムターン21からの手動入力によって回転駆動される手動入力軸(第2入力部材)22と、手動入力軸22と同心に配された出力軸(出力部材)23と、電動入力歯車19への電動入力と手動入力軸22への手動入力のいずれかの駆動力を出力軸23に伝達する入力切替クラッチ24と、出力軸23の回転によって進退するデッドボルト25とを設けて、電動入力と手動入力のいずれによっても施錠・開錠が行えるようにしたものである。その入力切替クラッチ24の基本的な構成および動作は、第1実施形態の入力切替クラッチ4と同じである。
【0034】
前記錠ケース18は、玄関ドアの内外面を形成する一対の板部材B1、B2の間に挿入固定されるもので、矩形箱部18aの一側の開口を蓋部18bで塞いでおり、箱部18aの内面に減速機5を支持するブラケット26、およびデッドボルト25を進退方向に案内するガイド部材27が設けられている。
【0035】
そして、この錠ケース18の箱部18aとドア内面側の板部材B1を、サムターン21と一体形成されたサムターン軸28が貫通している。サムターン軸28は、鍵20の先端部が挿入される鍵軸29と回転伝達可能に連結されており、その鍵軸29は錠ケース18の蓋部18bに回転自在に支持されている。なお、ドア内面側の板部材B1の表面には、サムターン軸28を回転自在に支持するサムターン座30が取り付けられており、ドア外面側の板部材B2の表面には鍵座31が取り付けられて、鍵20の先端部が鍵座31と板部材B2を貫通して鍵軸29に挿入されるようになっている。
【0036】
ここで、鍵軸29は、鍵20の先端部を挿入される鍵穴29aが径方向で互いに対向する2つの断面扇形の凹部を有しており、その鍵穴29aに差し込んだ鍵20を施錠・開錠の状態に応じて所定の方向に回転させると、鍵軸29も鍵20と同一方向に回転するようになっている。また、鍵軸29の長手方向中央部には、扇状部の外周に歯が形成された第1部分歯車32が嵌合固定されている。
【0037】
前記電動入力歯車19は、減速機5の出力側に設けられた傘歯車33と噛み合う傘歯車であり、その中心に通された電動入力軸34に嵌合固定されている。その電動入力軸34は、両端部を錠ケース18に回転自在に支持されており、電動入力歯車19よりも軸方向中心側の外周にピニオン35が嵌合固定されている。そして、そのピニオン35が入力切替クラッチ24の中間歯車9に噛み合っている。
【0038】
前記手動入力軸22と出力軸23は、それぞれの外端部が錠ケース18に支持されて、第1実施形態の手動入力軸2と出力軸3の場合と同じ構造で連結されている。そして、この手動入力軸22の外周に嵌合固定された手動入力歯車36が、鍵軸29の外周の第1部分歯車32と噛み合っている。一方、出力軸23の外周には出力歯車37が嵌合固定されており、この出力歯車37がデッドボルト25との間に回転自在に支持された第2部分歯車38と噛み合っている。その第2部分歯車38は、回転中心を挟んで歯が形成された扇状部と反対の側に矩形板状の係合片39が一体形成され、この係合片39の一部がデッドボルト25の凹部25aに挿入されている。
【0039】
前記デッドボルト25は、進退方向の後端部に前記凹部25aが形成されており、その凹部25aに挿入された係合片39の回転により、錠ケース18の箱部18aの内面とガイド部材27に案内されて進退し、先端部を錠ケース18から出没させるようになっている。
【0040】
この電気錠は、上記の構成であり、モータ7を駆動すると、その回転駆動力が減速機5を介して電動入力歯車19に加えられ、電動入力軸34、ピニオン35および中間歯車9を介して入力切替クラッチ24の外輪10に伝達されて、第1実施形態と同様の入力切替クラッチ24の作用により出力軸23および出力歯車37に伝達される。そして、出力歯車37と噛み合う第2部分歯車38が係合片39と一体に回転することにより、デッドボルト25の先端部が錠ケース18から出没して施錠・開錠が行われる。
【0041】
なお、このときには、入力切替クラッチ24の作用により、第1実施形態と同様に手動入力軸22も共回りするので、その回転が手動入力歯車36を介して第1部分歯車32および鍵軸29に伝達され、鍵軸29が回転すると同時に鍵軸29に連結されたサムターン軸28も回転する。したがって、電動入力によって施錠・開錠した場合でも、玄関ドアの内側からサムターン21を目視することによって施錠・開錠の状態がわかる。
【0042】
また、鍵20を鍵座31および鍵軸29に差し込んで所定方向に回転させると、鍵20の回転駆動力が鍵軸29、第1部分歯車32および手動入力歯車36を介して手動入力軸22に加えられ、第1実施形態と同様の入力切替クラッチ24の作用によって出力軸23に伝達される。出力軸23の回転によってデッドボルト25が進退し、施錠・開錠が行われるのは、モータ7を駆動したときと同じである。また、サムターン21を所定方向に回転させても、鍵20を回転させる場合と同じ動作で施錠・開錠が行われる。
【0043】
そして、上記のように鍵20またはサムターン21を回転させるときには、第1実施形態と同様、手動入力軸22から入力切替クラッチ24を介して出力軸23を回転させるのに必要な回転トルクよりも、手動入力軸22から入力切替クラッチ24を介して電動入力歯車19を回転させるのに必要な回転トルクの方が大きくなるようにしているので、電動入力歯車19等の電動入力側部材が共回りすることがなく、軽く操作することができる。
【0044】
しかも、電動入力歯車19の入力側には、セルフロック機能のない減速機5を設けただけなので、構造の複雑な逆入力遮断機構を設ける場合に比べて、設計の自由度が大きく、全体構造を簡略化することができる。
【0045】
なお、本発明の駆動力伝達機構は、上述した電気錠に限らず、電動入力と手動入力のいずれによっても作動できるようにした器具や装置に広く応用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1、19 電動入力歯車(第1入力部材)
2、22 手動入力軸(第2入力部材)
3、23 出力軸(出力部材)
4、24 入力切替クラッチ
5 減速機
6 ハウジング(固定部材)
7 モータ
8 内輪
8b カム面
9 中間歯車
10 外輪
11 ローラ(ロック係合子)
12 コイルばね
13 ロック解除片
13a 柱部
15 楔形空間
16 ウェーブワッシャ(弾性部材)
17 Oリング(弾性部材)
18 錠ケース
20 鍵
21 サムターン
25 デッドボルト
28 サムターン軸
29 鍵軸
32 第1部分歯車
34 電動入力軸
35 ピニオン
36 手動入力歯車
37 出力歯車
38 第2部分歯車
39 係合片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7