特許第6739310号(P6739310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6739310光透過性導電フィルム、その製造方法、調光フィルムおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739310
(24)【登録日】2020年7月27日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】光透過性導電フィルム、その製造方法、調光フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20200730BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20200730BHJP
   G02F 1/155 20060101ALI20200730BHJP
   G02F 1/1334 20060101ALI20200730BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20200730BHJP
   G02F 1/1343 20060101ALI20200730BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20200730BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   H01B5/14 A
   G02F1/13 505
   G02F1/155
   G02F1/1334
   G02F1/1333 500
   G02F1/1343
   B32B7/025
   B32B9/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-207588(P2016-207588)
(22)【出願日】2016年10月24日
(65)【公開番号】特開2017-83833(P2017-83833A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2019年7月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-212183(P2015-212183)
(32)【優先日】2015年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
【審査官】 土谷 慎吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−252304(JP,A)
【文献】 特開平09−277424(JP,A)
【文献】 特開2005−129420(JP,A)
【文献】 特開昭62−263610(JP,A)
【文献】 特開平07−168166(JP,A)
【文献】 特開2009−076432(JP,A)
【文献】 特開平09−171188(JP,A)
【文献】 特開昭50−037451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/00−5/16
B32B 1/00−43/00
G02F 1/13
G02F 1/1333
G02F 1/1334
G02F 1/1343
G02F 1/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材と、光透過性導電層と、無機層とを順に備え、
前記無機層の厚みが、20nm以下であり、
前記無機層の水接触角が、50度以下であり、
前記光透過性基材の厚みが、300μm以下であり、
前記光透過性導電層が、スパッタリング層であり、
前記無機層が、酸化ケイ素からなることを特徴とする、光透過性導電フィルム。
【請求項2】
前記無機層が形成されてから80時間以上経過後の、前記無機層の水接触角が、50度以下であることを特徴とする、請求項1に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項3】
前記光透過性導電層は、インジウム系導電性酸化物層を有し、
前記インジウム系導電性酸化物層の厚みが50nm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項4】
厚みが300μm以下の光透過性基材を用意する工程(1)と、
光透過性導電層を前記光透過性基材の表面にスパッタリングにより形成する工程(2)と、
酸化ケイ素からなる無機層を前記光透過性導電層の表面に形成する工程(3)と、
前記工程(3)の後に、前記光透過性導電層をエッチングする工程(4)と
を備え、
前記無機層の厚みが、20nm以下であり、
前記無機層の、前記無機層が形成されてから80時間以上経過後の水接触角が、50度以下であることを特徴とする、光透過性導電フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記工程(2)では、非晶質の前記光透過性導電層を形成し、
前記工程(3)の後に、非晶質の前記光透過性導電層を結晶化させる工程(5)
をさらに備えることを特徴とする、請求項に記載の光透過性導電フィルムの製造方法。
【請求項6】
第1の光透過性導電フィルムと、調光機能層と、第2の光透過性導電フィルムとを順に備え、
前記第1の光透過性導電フィルムおよび/または前記第2の光透過性導電フィルムは、請求項1〜のいずれか一項に記載の光透過性導電フィルムであり、
前記調光機能層は、前記光透過性導電フィルムに備えられる無機層に接触していることを特徴とする、調光フィルム。
【請求項7】
2つの光透過性導電フィルムを製造する工程(6)と、
調光機能層を2つの前記光透過性導電層で挟む工程(7)と
を備え、
前記工程(6)では、請求項またはに記載の製造方法で少なくとも1つの前記光透過性導電フィルムを製造し、
前記工程(7)では、前記調光機能層を、少なくとも1つの前記光透過性導電フィルムの無機層に接触させることを特徴とする、調光フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性導電フィルム、その製造方法、調光フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶を樹脂マトリクス中に分散保持した液晶樹脂複合体と、それらを挟持する2つの基板とを備える液晶光学素子が知られている。
【0003】
例えば、液晶樹脂複合体が接する基板の少なくとも一方の基板表面が、液晶樹脂複合体を形成するための未硬化混合液に対してほぼ均一な濡れ性を持つような薄膜に覆われている液晶光学素子が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1の基板は、ガラス板にITOを形成した後、SiOをITO上に、厚み60nmで蒸着して薄膜を形成している。
【0005】
そして、特許文献1では、未硬化混合液が基板表面全体にほぼ均一な濡れ性を示すので、基板表面に気泡が残りにくくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−34667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、SiOの薄膜を形成した後、ITOをエッチングによりパターンニングする場合がある。特許文献1では、ITOをパターンニングした後に、SiO薄膜を形成する工程を開示しているが、前記工程は、製品品質および製造コストの観点で実質的に採用できない。一方、ITOを形成した後、均一な濡れ性を有する薄膜(例えば、厚み60nmのSiO膜)を形成し、その後ITOパターンニングを行う場合、ITOのパターンニングに長時間を要する、若しくは、実質的にパターンニングできないという不具合がある。
【0008】
本発明の目的は、光透過性導電層を迅速かつ確実にエッチングすることができる光透過性導電フィルムおよびその製造方法と、均一な厚みの調光機能層を湿式で無機層の表面に形成することのできる、調光フィルムの製造方法およびそれにより得られる調光フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明は、光透過性基材と、光透過性導電層と、無機層とを順に備え、前記無機層の厚みが、20nm以下であり、前記無機層の水接触角が、50度以下であることを特徴とする、光透過性導電フィルムである。
【0010】
この光透過性導電フィルムは、無機層の厚みが特定の上限以下であるので、無機層とともに光透過性導電層を迅速かつ確実にエッチングすることができる。
【0011】
また、無機層の、無機層が形成されてから80時間以上経過後の水接触角が、特定値以下であるので、均一な厚みの調光機能層を湿式で無機層の表面に形成することができる。そのため、信頼性に優れる調光フィルムを得ることができる。
【0012】
[2]本発明は、前記無機層が形成されてから80時間以上経過後の、前記無機層の水接触角が、50度以下である上記[1]に記載の光透過性導電フィルムを含んでいる。
【0013】
[3]本発明は、前記無機層は、無機酸化物からなる上記[1]または[2]に記載の光透過性導電フィルムを含んでいる。
【0014】
この光透過性導電フィルムでは、無機層が無機酸化物からなるので、親水性に優れる。
【0015】
[4]本発明は、前記光透過性導電層は、インジウム系導電性酸化物層を有し、前記インジウム系導電性酸化物層の厚みが50nm以下である上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の光透過性導電フィルムを含んでいる。
【0016】
この光透過性導電フィルムでは、インジウム系導電性酸化物層の厚みが特定の上限以下であるので、無機層とともに光透過性導電層を迅速かつ確実にエッチングすることができる。
【0017】
[5]本発明は、光透過性基材を用意する工程(1)と、光透過性導電層を前記光透過性基材の表面に形成する工程(2)と、無機層を前記光透過性導電層の表面に形成する工程(3)と、前記工程(3)の後に、前記光透過性導電層をエッチングする工程(4)とを備え、前記無機層の厚みが、20nm以下であり、前記無機層の、前記無機層が形成されてから80時間以上経過後の水接触角が、50度以下であることを特徴とする、光透過性導電フィルムの製造方法である。
【0018】
この方法によれば、工程(3)において、厚みが特定の上限以下である無機層を形成するので、工程(3)の後の工程(4)において、無機層とともに光透過性導電層を迅速かつ確実にエッチングすることができる。
【0019】
また、無機層の、無機層が形成されてから80時間以上経過後の水接触角が、特定値以下であるので、均一な厚みの調光機能層を湿式で無機層の表面に形成することができる。
【0020】
[6]本発明は、前記工程(2)では、非晶質の前記光透過性導電層を形成し、前記工程(3)の後に、非晶質の前記光透過性導電層を結晶化させる工程(5)をさらに備える上記[5]に記載の光透過性導電フィルムの製造方法を含んでいる。
【0021】
この方法によれば、工程(3)の後の工程(5)において、非晶質の光透過性導電層を結晶化させるので、光透過性導電層の表面抵抗を低下させることができる。
【0022】
[7]本発明は、第1の光透過性導電フィルムと、調光機能層と、第2の光透過性導電フィルムとを順に備え、前記第1の光透過性導電フィルムおよび/または前記第2の光透過性導電フィルムは、上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の光透過性導電フィルムであり、前記調光機能層は、前記光透過性導電フィルムに備えられる無機層に接触していることを特徴とする、調光フィルムである。
【0023】
この調光フィルムでは、調光機能層が、光透過性導電フィルムに備えられる無機層に接触しているので、均一な厚みを有することができる。そのため、この調光フィルムは、信頼性に優れる。
【0024】
[8]本発明は、2つの光透過性導電フィルムを製造する工程(6)と、調光機能層を2つの前記光透過性導電層で挟む工程(7)とを備え、前記工程(6)では、上記[5]または[6]に記載の製造方法で少なくとも1つの前記光透過性導電フィルムを製造し、前記工程(7)では、前記調光機能層を、少なくとも1つの前記光透過性導電フィルムの無機層に接触させることを特徴とする、調光フィルムの製造方法である。
【0025】
また、この方法によれば、工程(6)では、調光機能層を、少なくとも1つの光透過性導電フィルムの無機層に接触させるので、工程(7)において、均一な厚みを有する調光機能層を得ることができる。そのため、この調光フィルムは、信頼性に優れる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の光透過性導電フィルムでは、無機層とともに光透過性導電層を迅速かつ確実にエッチングすることができ、均一な厚みの調光機能層を湿式で無機層の表面に形成することができる。そのため、光透過性導電フィルムは、信頼性に優れる。
【0027】
本発明の光透過性導電フィルムの製造方法によれば、光透過性導電層を迅速かつ確実にエッチングすることができ、均一な厚みの調光機能層を湿式で無機層の表面に形成することができる。
【0028】
本発明の調光フィルムは、信頼性に優れる光透過性導電フィルムを備えるので、信頼性に優れる。
【0029】
本発明の調光フィルムの製造方法によれば、工程(6)では、調光機能層を、少なくとも1つの光透過性導電フィルムの無機層に接触させるので、工程(7)において、均一な厚みを有する調光機能層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の光透過性導電フィルムの第1実施形態の断面図を示す。
図2図2は、図1に示す光透過性導電フィルムを備える調光フィルムの断面図を示す。
図3図3は、図1に示す光透過性導電フィルムの変形例を示す。
図4図4は、本発明の光透過性導電フィルムの第2実施形態の断面図を示す。
図5図5は、図4に示す光透過性導電フィルムを備える調光フィルムの断面図を示す。
図6図6は、図4に示す光透過性導電フィルムの変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1において、紙面上下方向は、上下方向(厚み方向、第1方向)であって、紙面上側が、上側(厚み方向一方側、第1方向一方側)、紙面下側が、下側(厚み方向他方側、第1方向他方側)である。図1において、紙面左右方向は、左右方向(幅方向、第1方向に直交する第2方向)であり、紙面左側が左側(第2方向一方側)、紙面右側が右側(第2方向他方側)である。図1において、紙厚方向は、前後方向(第1方向および第2方向に直交する第3方向)であり、紙面手前側が前側(第3方向一方側)、紙面奥側が後側(第3方向他方側)である。具体的には、各図の方向矢印に準拠する。
【0032】
<第1実施形態>
1.光透過性導電フィルム
この光透過性導電フィルム1は、図1に示すように、所定の厚みを有するフィルム形状(シート形状を含む)をなし、厚み方向と直交する所定方向(前後方向および左右方向、すなわち、面方向)に延び、平坦な上面および平坦な下面(2つの主面)を有する。光透過性導電フィルム1は、例えば、調光フィルム20(後述、図2参照)などの一部品であり、つまり、調光装置(後述)ではない。すなわち、光透過性導電フィルム1は、調光フィルム20などを作製するための部品であり、調光機能層5(後述、図1における仮想線参照、図2の実線参照)などを含まず、部品単独で流通し、産業上利用可能なデバイスである。
【0033】
具体的には、光透過性導電フィルム1は、光透過性基材2と、光透過性導電層3と、無機層4とを順に備える。つまり、光透過性導電フィルム1は、光透過性基材2と、光透過性基材2の上面に配置される光透過性導電層3と、光透過性導電層3の上面に配置される無機層4とを備える。また、好ましくは、光透過性導電層3と無機層4とは、互いに接している。より好ましくは、光透過性導電フィルム1は、光透過性基材2と、光透過性導電層3と、無機層4とのみからなる。以下、各層について詳述する。
【0034】
2.光透過性基材
光透過性基材2は、光透過性導電フィルム1の最下層であって、光透過性導電フィルム1の機械強度を確保する支持材である。光透過性基材2は、ベース基材6を備える。また、光透過性基材2は、さらに、ベース基材6の一方の主面(上面)に配置される機能層7を備える。つまり、この光透過性基材2は、ベース基材6と機能層7とを順に備える。
【0035】
2−1.ベース基材
ベース基材6は、光透過性基材2の下面を形成する層であり、フィルム形状(シート形状を含む)を有している。
【0036】
ベース基材6は、例えば、有機フィルム、例えば、ガラス板などの無機板からなる。ベース基材6は、光透過性導電フィルム1をロール・トゥ・ロールなどの連続製造方法で効率的に製造する観点から、好ましくは、有機フィルム、より好ましくは、高分子フィルムからなる。
【0037】
高分子フィルムは、光透過性を有する。高分子フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、例えば、ポリメタクリレートなどの(メタ)アクリル樹脂(アクリル樹脂および/またはメタクリル樹脂)、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマーなどのオレフィン樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ノルボルネン樹脂などが挙げられる。これら高分子フィルムは、単独使用または2種以上併用することができる。光透過性、耐熱性、機械特性などの観点から、好ましくは、ポリエステル樹脂が挙げられ、より好ましくは、PETが挙げられる。
【0038】
ベース基材6の厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、20μm以上、より好ましくは、40μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下である。
【0039】
2−2.機能層
機能層7は、ベース基材6の一方の主面(上面)に設けられ、目的に応じた機能性を付与する層である。機能層7としては、例えば、易接着層、アンダーコート層、あるいはハードコート層などが挙げられる。易接着層は、ベース基材6上に形成される層(例えば、光透過性導電層3)との密着性を高める機能を有する。アンダーコート層は、光透過性導電フィルム1の反射率や光学色相を調整する機能を有する。ハードコート層は、光透過性導電フィルム1の耐擦傷性を高める。
【0040】
機能層7は、好ましくは、樹脂組成物を含み、より好ましくは、樹脂組成物のみから成る。
【0041】
樹脂組成物は、例えば、樹脂と、粒子とを含有する。樹脂組成物は、好ましくは、樹脂のみを含有し、より好ましくは、樹脂のみからなる。
【0042】
樹脂としては、硬化性樹脂、熱可塑性樹脂(例えば、ポリオレフィン樹脂)などが挙げられ、好ましくは、硬化性樹脂が挙げられる。
【0043】
硬化性樹脂としては、例えば、活性エネルギー線(具体的には、紫外線、電子線など)の照射により硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂、例えば、加熱により硬化する熱硬化性樹脂などが挙げられ、好ましくは、活性エネルギー線硬化性樹脂が挙げられる。
【0044】
活性エネルギー線硬化性樹脂は、例えば、分子中に重合性炭素−炭素二重結合を有する官能基を有するポリマーが挙げられる。そのような官能基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基(メタクリロイル基および/またはアクリロイル基)などが挙げられる。
【0045】
活性エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、側鎖に官能基を含有する(メタ)アクリル樹脂(アクリル樹脂および/またはメタクリル樹脂)などが挙げられる。
【0046】
硬化性樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0047】
機能層7の厚みは、例えば、0.01μm以上、好ましくは、0.1μm以上、より好ましくは、1μm以上であり、また、例えば、10μm以下、好ましくは、5μm以下である。
【0048】
光透過性基材2の厚み、すなわち、ベース基材6の厚みおよび機能層7の厚みの総厚みは、例えば、5μm以上、好ましくは、20μm以上であり、より好ましくは、45μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下である。
【0049】
3.光透過性導電層
光透過性導電層3は、後の工程でエッチングにより任意にパターンニング可能な導電層である。
【0050】
光透過性導電層3は、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、光透過性基材2の上面全面に、光透過性基材2の上面に接触するように、配置されている。
【0051】
光透過性導電層3は、順に、第1無機酸化物層8と、金属層9と、第2無機酸化物層10とを備える。つまり、光透過性導電層3は、光透過性基材2の上に配置される第1無機酸化物層8と、第1無機酸化物層8の上に配置される金属層9と、金属層9の上に配置される第2無機酸化物層10とを備えている。また、光透過性導電層3は、好ましくは、第1無機酸化物層8と、金属層9と、第2無機酸化物層10とのみからなる。第1無機酸化物層8および第2無機酸化物層10は、好ましくは、非晶質である。
【0052】
3−1. 第1無機酸化物層
第1無機酸化物層8は、金属層9および第2無機酸化物層10とともに、光透過性導電層3に導電性を付与する導電層である。第1無機酸化物層8は、導電性を保持しなくてもよいが、好ましくは、導電性を有する。また、第1無機酸化物層8は、光透過性基材2に含有される有機物に由来する活性ガスが、金属層9に侵出することを防止するバリヤ層でもある。第1無機酸化物層8は、光透過性導電層3における最下層であって、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、光透過性基材2の上面全面に、光透過性基材2の上面に接触するように、配置されている。
【0053】
第1無機酸化物層8は、後述するエッチング液に対して溶解できる無機酸化物を主成分として含有する。
【0054】
無機酸化物としては、例えば、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属から形成される金属酸化物などが挙げられる。金属酸化物には、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子をドープすることができる。
【0055】
無機酸化物としては、好ましくは、比抵抗を低下させる観点、および、優れた光透過性を確保する観点から、酸化インジウム(インジウム系導電性酸化物を含む)が挙げられ、より好ましくは、インジウムスズ複合酸化物(ITO)が挙げられる。つまり、第1無機酸化物層8は、好ましくは、インジウム系導電性酸化物層であり、より好ましくは、ITO層である。
【0056】
インジウムスズ複合酸化物(ITO)における、酸化インジウム(In)と酸化スズ(SnO)との合計質量に対する酸化スズ(SnO)の含有割合(SnO/(SnO+In)は、例えば、6質量%以上であり、好ましくは、8質量%以上であり、より好ましくは、10質量%以上であり、さらに好ましくは、12質量%以上であり、また、例えば、30質量%以下であり、好ましくは、20質量%以下であり、より好ましくは、17質量%以下である。酸化スズ(SnO)の質量割合が上記した下限に満たないと、第1無機酸化物層8の結晶性の経時変化が大きくなり、エッチング性を制御し難いおそれがある。酸化スズ(SnO)の質量割合が上記した上限を超えると、加湿信頼性が低下する場合がある。
【0057】
第1無機酸化物層8は、例えば、結晶質および非晶質のいずれであってもよい。第1無機酸化物層8は、後の工程においてパターンニングを容易に実施する観点から、好ましくは、非晶質である。
【0058】
第1無機酸化物層8の厚みT8は、例えば、5nm以上、好ましくは、20nm以上、より好ましくは、30nm以上であり、また、例えば、100nm以下、好ましくは、60nm以下、より好ましくは、50nm以下である。第1無機酸化物層8の厚みT8が上記した上限以下であれば、後の工程において、光透過性導電層3を迅速かつ確実にエッチングすることができ、第1無機酸化物層8の厚みT8が上記した下限以上であれば、バリア層として機能できる。
【0059】
3−2.金属層
金属層9は、第1無機酸化物層8および第2無機酸化物層10とともに、光透過性導電層3に導電性を付与する導電層である。また、金属層9は、光透過性導電層3の比抵抗を低減する低比抵抗化層でもある。
【0060】
金属層9は、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、第1無機酸化物層8の上面に、第1無機酸化物層8の上面に接触するように、配置されている。
【0061】
金属層9を形成する金属は、例えば、比抵抗が小さい金属で、かつ、第1無機酸化物層8をエッチングするエッチング液と同一のエッチング液に対して溶解できる金属である。金属としては、特に限定されず、例えば、Ti,Si,Nb,In,Zn,Sn,Au,Ag,Cu,Al,Co,Cr,Ni,Pb,Pd,Pt,Cu、Ge、Ru、Nd、Mg、Ca、Na、W,Zr,TaおよびHfからなる群から選択される1種の金属からなるか、または、2種以上の金属を含有する合金が挙げられる。
【0062】
金属として、好ましくは、銀(Ag)、銀合金が挙げられ、より好ましくは、銀合金が挙げられる。
【0063】
銀合金は、銀を主成分として含有し、その他の金属を副成分として含有しており、その組成は限定されない。銀合金の組成としては、例えば、Ag−Pd合金、Ag−Pd−Cu合金、Ag−Pd−Cu−Ge合金、Ag−Cu−Au合金、Ag−Cu合金、Ag−Cu−Sn合金、Ag−Ru−Cu合金、Ag−Ru−Au合金、Ag−Pd合金、Ag−Nd合金、Ag−Mg合金、Ag−Ca合金、Ag−Na合金などが挙げられる。銀合金として、好ましくは、Ag−Pd合金が挙げられる。
【0064】
銀合金(好ましくは、Ag−Pd合金)における銀の含有割合は、例えば、80質量%以上、好ましくは、85質量%以上、より好ましくは、90質量%以上、さらに好ましくは、95.0質量%以上であり、また、例えば、99.9質量%以下である。銀合金におけるその他の金属の含有割合は、上記した銀の含有割合の残部である。金属がAg−Pd合金である場合に、Ag−Pd合金におけるPdの含有割合は、具体的には、例えば、0.1質量%以上であり、また、例えば、10質量%以下、好ましくは、5質量%以下、より好ましくは、1.0質量%以下である。
【0065】
金属層9の厚みは、光透過性導電層3の透過率を上げる観点から、例えば、1nm以上、好ましくは、5nm以上であり、また、例えば、30nm以下、好ましくは、20nm以下、より好ましくは、10nm以下である。
【0066】
3−3.第2無機酸化物層
第2無機酸化物層10は、第1無機酸化物層8および金属層9とともに、光透過性導電層3に導電性を付与する導電層である。第2無機酸化物層10は、導電性を保持しなくてもよいが、好ましくは、導電性を有する。また、第2無機酸化物層10は、大気中に、常時存在する酸素や水蒸気、あるいは、微量に存在する硫黄酸化物(SO)などが金属層9を浸食することを防止するバリヤ層でもある。第2無機酸化物層10は、光透過性導電層3における最上層であって、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、金属層9の上面全面に、金属層9の上面に接触するように、配置されている。
【0067】
第2無機酸化物層10は、第1無機酸化物層8で例示した無機酸化物を含有し、具体的には、第1無機酸化物層8をエッチングするエッチング液と同一のエッチング液に対して溶解できる無機酸化物であり、好ましくは、酸化インジウムを含有し、より好ましくは、ITOからなる。つまり、第2無機酸化物層10は、好ましくは、インジウム系導電性酸化物層であり、より好ましくは、ITO層である。
【0068】
インジウムスズ複合酸化物(ITO)における、酸化インジウム(In)と酸化スズ(SnO)との合計質量に対する酸化スズ(SnO)の含有割合(SnO/(SnO+In)は、例えば、6質量%以上であり、好ましくは、8質量%以上であり、より好ましくは、10質量%以上であり、さらに好ましくは、12質量%以上であり、また、例えば、30質量%以下であり、好ましくは、20質量%以下であり、より好ましくは、17質量%以下である。酸化スズ(SnO)の含有割合が上記した下限に満たないと、第2無機酸化物層10の結晶性の経時変化が大きくなり、エッチング性を制御し難いおそれがある。酸化スズ(SnO)の含有割合が上記した上限を超えると、加湿信頼性に低下する場合がある。
【0069】
第2無機酸化物層10は、例えば、結晶質および非晶質のいずれであってもよい。第2無機酸化物層10は、後の工程においてパターンニングを容易に実施する観点から、好ましくは、非晶質である。
【0070】
第1無機酸化物層8および第2無機酸化物層10は、エッチングの際、良好なパターン断面を得る観点から、好ましくは、いずれも同じ膜質であり、より好ましくは、いずれも非晶質である。
【0071】
第2無機酸化物層10の厚みT10は、例えば、5nm以上、好ましくは、20nm以上、さらに好ましくは、30nm以上であり、また、例えば、100nm以下、好ましくは、60nm以下、より好ましくは、50nm以下である。
【0072】
第2無機酸化物層10の厚みT10が上記した上限以下であれば、後の工程において、光透過性導電層3を迅速かつ確実にエッチングすることができ、第2無機酸化物層10の厚みT10が上記した下限以上であれば、バリア層として機能できる。
【0073】
また、第1無機酸化物層8の厚みT8、および、第2無機酸化物層10の厚みT10のうち、少なくとも1層の厚みが、例えば、80nm以下、好ましくは、50nm以下である。好ましくは、第1無機酸化物層8の厚みT8、および、第2無機酸化物層10の厚みT10の両方が、ともに、例えば、50nm以下である。第1無機酸化物層8の厚みT8および/または第2無機酸化物層10の厚みT10が上記した上限以下であれば、後の工程において、光透過性導電層3を迅速かつ確実にエッチングすることができる。
【0074】
そして、光透過性導電層3の厚み、すなわち、第1無機酸化物層8、金属層9および第2無機酸化物層10の総厚みは、好ましくは、20nm以上、より好ましくは、40nm以上であり、また、例えば、230nm以下、好ましくは、120nm以下、より好ましくは、100nm以下である。
【0075】
4.無機層
無機層4は、光透過性導電フィルム1の最上層であって、フィルム形状(シート形状を含む)を有している。無機層4は、第2無機酸化物層10の上面全面に、第2無機酸化物層10の上面に接触するように、配置されている。
【0076】
無機層4は、光透過性導電層3(具体的には、第2無機酸化物層10)の上面(表面)に親水性を付与する親水層である。
【0077】
また、無機層4は、後述するが、好ましくは、スパッタリング法により形成されることから、スパッタ層である。
【0078】
無機層4は、例えば、親水性材料からなる。親水性材料としての限定はないが、例えば、親水性材料からなる。親水性材料としては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン(具体的には、TiO)、酸化アルミニウム(具体的には、Alなどの無機酸化物、例えば、ゼオライトなどの金属塩などが挙げられる。親水性材料として、好ましくは、無機酸化物、より好ましくは、酸化ケイ素が挙げられる。
【0079】
酸化ケイ素は、具体的には、SiOで示され、xは、例えば、1.0以上、好ましくは、1.5以上であり、また、例えば、2.0以下である。具体的には、酸化ケイ素として、例えば、SiO、SiO(シリカ)などが挙げられ、好ましくは、SiOが挙げられる。
【0080】
無機層4の厚みT4は、20nm以下、好ましくは、10nm以下、より好ましくは、10nm未満、さらに好ましくは、5.0nm以下、とりわけ好ましくは、5.0nm未満、最も好ましくは、4.5nm以下、さらには、3.0nm以下であり、また、例えば、0.01nm以上、好ましくは、0.1nm以上、より好ましくは、0.5nm以上、さらに好ましくは、1.0nm以上である。
【0081】
無機層4の厚みT4が上記した上限を上回れば、光透過性導電層3を迅速かつ確実にエッチングすることができない。さらに、無機層4の厚みT4が上記した上限を上回れば、後述する無機層4の、無機層4が形成された直後の水接触角θ0を低く設定できるものの、後述する水接触角の比(θ1/θ0)が高くなり(具体的には、4.0以上)となり、そのため、無機層4の、無機層4が形成されてから80時間以上経過後の水接触角θ1が高くなる。そのため、無機層4の、無機層4が形成されてから80時間以上経過後の水接触角θ1にばらつきを生じることがある。
【0082】
一方、無機層4の厚みT4が上記した下限以上であれば、優れた濡れ性を得ることができる。
【0083】
また、無機層4の厚みT4の、第2無機酸化物層10の厚みT10に対する比(無機層4の厚みT4/第2無機酸化物層10の厚みT10)は、例えば、0.01以上、好ましくは、0.02以上であり、また、例えば、0.50以下、好ましくは、0.25以下、より好ましくは、0.15以下、さらに好ましくは、0.10以下である。
【0084】
上記した厚みの比が上記した下限以上であれば、優れた濡れ性を得ることができる。
【0085】
上記した厚みの比が上記した上限を超過すれば、光透過性導電層3を迅速かつ確実にエッチングすることができない。上記した厚みの比が上記した下限を超過すれば、無機層4の、無機層4が形成されてから80時間以上経過後の水接触角θ1にばらつきを生じることがある。
【0086】
そして、無機層4の水接触角θ1(後述するが、無機層4が形成されてから80時間以上経過後の水接触角θ1)は、50度以下、好ましくは、40度以下、より好ましくは、30度以下、さらに好ましくは、20度以下、とりわけ好ましくは、20度未満、最も好ましくは、10度以下であり、また、例えば、0度以上、好ましくは、1度以上、より好ましくは、5度以上である。
【0087】
無機層4の水接触角θ1は、無機層4が形成されてから、常温(具体的には、20〜40℃)常湿(具体的には、相対湿度30%以上、70%以下)の雰囲気で80時間以上放置した無機層4をJIS R1753:2013に基づいて、測定される。より具体的な水接触角θ1の測定方法は、後の実施例で、説明される。
【0088】
無機層4の、無機層4が形成されてから80時間以上経過後の水接触角θ1が、上記した上限を上回れば、均一な厚みの調光機能層5(後述)を湿式で無機層4の表面に形成することができない。
【0089】
5.光透過性導電フィルムの製造方法
次に、光透過性導電フィルム1を製造する方法について説明する。
【0090】
この方法は、光透過性基材2を用意する工程(1)と、光透過性導電層3を光透過性基材2の表面に形成する工程(2)と、無機層4を光透過性導電層3の表面に形成する工程(3)とを備える。以下、各工程を詳述する。
【0091】
5−1.工程(1)
工程(1)では、まず、ベース基材6を用意する。
【0092】
次いで、機能層7をベース基材6の上面に配置する。例えば、機能層7を、湿式により、配置する。具体的には、まず、樹脂組成物をベース基材6の上面に塗布する。その後、樹脂組成物が活性エネルギー線硬化性樹脂を含有する場合には、活性エネルギー線を照射する。
【0093】
これによって、フィルム形状の機能層7を、光透過性基材2の上面全面に形成する。つまり、ベース基材6と、機能層7とを備える光透過性基材2を作製する。
【0094】
5−2.工程(2)
工程(2)では、工程(1)の後に、光透過性導電層3を機能層7の上面に、例えば、乾式により、配置(積層)する。
【0095】
具体的には、第1無機酸化物層8、金属層9および第2無機酸化物層10のそれぞれを、順に、乾式により、配置する。
【0096】
乾式としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。好ましくは、スパッタリング法が挙げられる。
【0097】
スパッタリング法で用いられるガスとしては、例えば、Arなどの不活性ガスが挙げられる。また、必要に応じて、酸素などの反応性ガスを併用することができる。反応性ガスを併用する場合において、反応性ガスの流量の、不活性ガスの流量に対する比は(反応性ガスの流量/不活性ガスの流量)、例えば、0.1/100以上、好ましくは、0.5/100以上であり、また、例えば、10/100以下、好ましくは、5/100以下である。
【0098】
具体的には、第1無機酸化物層8および第2無機酸化物層10のそれぞれの形成において、ガスとして、好ましくは、不活性ガスおよび反応性ガスが併用される。
【0099】
一方、金属層9の形成において、ガスとして、好ましくは、不活性ガスが単独使用される。第2無機酸化物層10の形成において、ガスとして、好ましくは、不活性ガスおよび反応性ガスが併用される。
【0100】
好ましくは、光透過性導電層3を、非晶質として形成する。具体的には、非晶質の第1無機酸化物層8および非晶質の第2無機酸化物層10を形成する。
【0101】
これによって、第1無機酸化物層8、金属層9および第2無機酸化物層10が順に形成された光透過性導電層3を、光透過性基材2の上に形成する。
【0102】
光透過性導電層3の表面抵抗(具体的には、非晶質の光透過性導電層3の表面抵抗)は、例えば、1Ω/□以上、好ましくは、3Ω/□以上、より好ましくは、8Ω/□以上であり、また、例えば、100Ω/□以下、好ましくは、50Ω/□以下、さらに好ましくは、30Ω/□以下である。
【0103】
5−3.工程(3)
工程(3)では、工程(2)の後に、無機層4を、第2無機酸化物層10の上面に、例えば、乾式により、配置(積層)する。
【0104】
乾式としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。好ましくは、無機層4を均一、かつ、上記した厚みT4で形成する観点から、スパッタリング法が挙げられる。一方、真空蒸着法であれば、無機層4の厚みT4のばらつきが大きくなる場合があり、また、無機層4の濡れ性が低下し、さらには、無機層4が光透過性導電層3から剥離する場合がある。
【0105】
スパッタリング法で用いられるガスとしては、例えば、Arなどの不活性ガスが挙げられる。また、必要に応じて、酸素などの反応性ガスを併用することができる。反応性ガスを併用する場合において、反応性ガスの流量の、不活性ガスの流量に対する比は(反応性ガスの流量/不活性ガスの流量)、例えば、1/100以上、好ましくは、10/100以上、より好ましくは、20/100以上であり、また、例えば、90/100以下、好ましくは、50/100以下である。
【0106】
無機層4の、無機層4が形成された直後(具体的には、無機層4が形成されてから500分以内)の水接触角θ0は、50度以下、好ましくは、40度以下、より好ましくは、20度以下、さらに好ましくは、10度以下であり、また、例えば、0度以上、好ましくは、5度以上、より好ましくは、6度超過、より好ましくは、7度以上である。
【0107】
一方、無機層4の、無機層4が形成されてから80時間以上経過後の水接触角θ1は、無機層4が形成された直後の水接触角θ0に対し変化する。具体的には、無機層4が形成されてから80時間以上経過後の水接触角θ1の、無機層4が形成された直後の水接触角θ0の比(θ1/θ0)は、例えば、0.3以上、好ましくは、0.5以上、より好ましくは、1.0以上、さらに好ましくは、2.0以上であり、また、例えば、4.5未満、好ましくは、4.0以下、より好ましくは、3.5以下、さらに好ましくは、3.0以下、とりわけ好ましくは、3.0未満である。上記した比が、上記した上限以下であれば、無機層4の、無機層4が形成されてから80時間以上経過後の水接触角θ1にばらつきを生じることを抑制できる。
【0108】
これによって、光透過性基材2と、光透過性導電層3と、無機層4とを順に備える光透過性導電フィルム1を得る。
【0109】
光透過性導電フィルム1の総厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、20μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下であり、より好ましくは、150μm以下である。
【0110】
この光透過性導電フィルム1は、産業上利用可能なデバイスである。
【0111】
5−4.工程(4)
光透過性導電フィルム1の製造方法は、さらに、工程(3)の後に、光透過性導電層3をエッチングする工程(4)を備える。
【0112】
工程(4)では、工程(3)の後に、光透過性導電層3をエッチングする。具体的には、光透過性導電層3を、無機層4とともにエッチングして、光透過性導電層3および無機層4を、所定形状にパターンニングする。
【0113】
エッチング液としては、光透過性導電層3を溶解できる液であれば特に限定されず、例えば、硝酸、リン酸、酢酸、塩酸、硫酸、蓚酸およびこれらの混合液などが挙げられる。
【0114】
エッチング時間は、例えば、5分以下、好ましくは、4分以下、より好ましくは、3分以下であり、また、例えば、0.05分以上、好ましくは、0.1分以上、より好ましくは、0.5分以上である。エッチング時間が上記した上限以下であれば、光透過性導電フィルム1の製造方法をロールトゥロール方式で優れた生産効率で実施することができる。
【0115】
これによって、光透過性基材2と、パターンニングされた光透過性導電層3と、パターンニングされた無機層4とを順に備える光透過性導電フィルム1を得る。
【0116】
なお、上記した製造方法を、ロールトゥロール方式で実施する。また、一部または全部をバッチ方式で実施することもできる。
【0117】
6.調光フィルムの製造方法
次に、上記した光透過性導電フィルム1を用いて調光フィルム20を製造する方法について図2を参照して説明する。
【0118】
この方法は、図2に示すように、上記した光透過性導電フィルム1を2つ製造する工程(6)と、調光機能層5を2つの光透過性導電フィルム1によって挟む工程(7)とを備える。
【0119】
6−1.工程(6)
工程(6)では、上記した光透過性導電フィルム1を2つ製造する。なお、1つの光透過性導電フィルム1を切断加工して、2つの光透過性導電フィルム1を用意することもできる。
【0120】
2つの光透過性導電フィルム1は、第1の光透過性導電フィルム1A、および、第2の光透過性導電フィルム1Bである。
【0121】
6−2.工程(7)
工程(7)は、工程(6)の後に実施される。工程(7)では、調光機能層5を、第1の光透過性導電フィルム1Aにおける無機層4の上面(表面)に、例えば、湿式により、形成する。
【0122】
調光機能層5は、例えば、エレクトロクロミック層や液晶層などであり、好ましくは、液晶層である。
【0123】
この工程(7)において、例えば、液晶組成物を含む溶液を、第1の光透過性導電フィルム1Aにおける無機層4の上面に塗布する。液晶組成物は、溶液に含まれる公知のものが挙げられ、例えば、特開平8−194209号公報に記載の液晶分散樹脂が挙げられる。
【0124】
続いて、第2の光透過性導電フィルム1Bを塗膜の表面に、第2の光透過性導電フィルム1Bの無機層4と塗膜の表面とが接触するように、積層する。これによって、2つの光透過性導電フィルム1、つまり、第1の光透過性導電フィルム1Aおよび第2の光透過性導電フィルム1Bによって、塗膜を挟み込む。
【0125】
その後、塗膜に対して適宜の処理(液晶組成物が紫外線硬化型組成物を含む場合には、紫外線照射)を施して、調光機能層5を形成する。調光機能層5は、第1の光透過性導電フィルム1Aの無機層4と、第2の光透過性導電フィルム1Bの無機層4との間に形成される。
【0126】
これによって、第1の光透過性導電フィルム1Aと、調光機能層5と、第2の光透過性導電フィルム1Bとを順に備える調光フィルム20を得る。
【0127】
そして、調光フィルム20は、電源(図示せず)、制御装置(図示せず)などを備える調光装置(図示せず、例えば、調光窓など)に備えられる。図示しない調光装置では、電源によって、第1の光透過性導電フィルム1Aにおける光透過性導電層3と、第2の光透過性導電フィルム1Bにおける光透過性導電層3とに電圧がかけられ、それによって、それらの間において電界が発生する。
【0128】
そして、制御装置に基づいて、上記した電界が制御されることによって、第1の光透過性導電フィルム1Aと第2の光透過性導電フィルム1Bとの間に位置する調光機能層5が、光を遮断し、または、透過させる。
【0129】
7.第1実施形態の作用効果
この光透過性導電フィルム1は、無機層4を備えるため、親水性能を安定的に保持することができる。そのため、光透過性導電フィルム1は、信頼性に優れる。
【0130】
そして、この光透過性導電フィルム1は、無機層4の厚みT4が上記した上限以下であるので、無機層4とともに光透過性導電層3を迅速かつ確実にエッチングすることができる。そのため、光透過性導電フィルム1は、パターン加工性に優れる。
【0131】
また、無機層4の、無機層4が形成されてから80時間以上経過後の水接触角θ1が、上記した上限以下であるので、均一な厚みの調光機能層5を湿式で無機層4の表面に形成することができる。そのため、信頼性に優れる調光フィルム20を得ることができる。
【0132】
また、この光透過性導電フィルム1では、無機層4が、スパッタリング法により形成されていれば、つまり、無機層4がスパッタ層であれば、無機層4は、均一、かつ、上記した厚みT4を有することができ、また、耐擦傷性に優れ、光透過性基材2(具体的には、機能層7)との密着性が良好となる。
【0133】
また、この光透過性導電フィルム1では、無機層4が無機酸化物からなれば、特に親水性に優れる。
【0134】
また、この光透過性導電フィルム1では、第1無機酸化物層8の厚みT8、および、第2無機酸化物層10の厚みT10のうち、少なくとも1つの厚みが上記した上限以下であれば、無機層4とともに光透過性導電層3を迅速かつ確実にエッチングすることができる。
【0135】
また、この方法によれば、工程(3)において、厚みT4が上記した上限以下である無機層4を形成すれば、工程(3)の後の工程(4)において、無機層4とともに光透過性導電層3を迅速かつ確実にエッチングすることができる。
【0136】
また、無機層4の、無機層4が形成されてから80時間以上経過後の水接触角θ1が、上記した上限以下であるので、均一な厚みの調光機能層5を湿式で無機層4の表面に形成することができる。
【0137】
この調光フィルム20では、調光機能層5が、第1の光透過性導電フィルム1Aに備えられる無機層4、および、第2の光透過性導電フィルム1Bに備えられる無機層4に接触しているので、均一な厚みを有することができる。そして、この調光フィルム20は、上記した信頼性に優れる光透過性導電フィルム1を備えるので、信頼性に優れる。
【0138】
また、調光フィルム20の製造方法によれば、工程(6)では、無機層4を、第1の光透過性導電フィルム1Aの無機層4と、第2の光透過性導電フィルム1Bの無機層4とに接触させるので、均一な厚みT5を有する調光機能層5を得ることができる。そのため、この調光フィルム20は、信頼性に優れる。
【0139】
8.第1実施形態の変形例
さらに、上記した調光フィルム20の製造方法は、調光フィルム20の用途および目的に応じて、工程(2)において、非晶質の光透過性導電層3を形成する場合には、工程(4)の前後に、非晶質の光透過性導電層3を結晶化させる工程(5)を備えることもでき、好ましくは、工程(4)の後に、非晶質の光透過性導電層3を結晶化させる工程(5)を備える。
【0140】
工程(2)では、非晶質の光透過性導電層3を形成する。具体的には、非晶質の第1無機酸化物層8および非晶質の第2無機酸化物層10をそれぞれ形成する。
【0141】
工程(5)は、好ましくは、工程(4)の後に実施される。工程(5)では、非晶質の第1無機酸化物層8および第2無機酸化物層10を結晶化させる。
【0142】
光透過性導電層3を結晶化させるには、例えば、パターンニングされた光透過性導電層3を、大気雰囲気下で、例えば、80℃以上、150℃以下の温度で、例えば、30分以上、90分以下、加熱(アニール処理)する。
【0143】
結晶化された光透過性導電層3の表面抵抗は、例えば、0.5Ω/□以上、好ましくは、1Ω/□以上、より好ましくは、5Ω/□以上、であり、また、例えば、50Ω/□以下、好ましくは、20Ω/□以下、より好ましくは、15Ω/□以下である。
【0144】
また、第1実施形態では、光透過性基材2に機能層7を備えたが、例えば、図3に示すように、機能層7を備えることなく、ベース基材6のみから光透過性基材2を構成することができる。つまり、図3に示すように、この場合には、光透過性基材2は、機能層7を備えず、ベース基材6のみからなる。
【0145】
光透過性導電層3(具体的には、第1無機酸化物層8)は、ベース基材6(光透過性基材2)の上面に接触するように配置されている。
【0146】
光透過性導電層3は、ベース基材6の上面に配置されている。具体的には、第1無機酸化物層8は、ベース基材6の上面全面に配置されている。
【0147】
また、図2に示すように、2つの光透過性導電フィルム1、すなわち、第1の光透過性導電フィルム1Aおよび第2の光透過性導電フィルム1Bに、ともに、それぞれ、特定の無機層4を備えさせたが、例えば、図示しないが、具体的には、第1の光透過性導電フィルム1Aのみに無機層4を備え、第2の光透過性導電フィルム1Bに無機層4を備えさせずに、第2の光透過性導電フィルム1Bを構成することもできる。
【0148】
この変形例では、図示しないが、第2の光透過性導電フィルム1Bは、光透過性基材2と、光透過性導電層3とを順次備える。
【0149】
また、図1に示すように、第1実施形態の光透過性導電フィルム1では、光透過性導電層3が、順に、第1無機酸化物層8と、金属層9と、第2無機酸化物層10とを備える。しかし、例えば、図示しないが、第2無機酸化物層10の上に、さらに、第2金属層と、第3無機酸化物層とを順に配置することができる。その場合には、透過性導電層3は、第1無機酸化物層8と、金属層9と、第2無機酸化物層10と、第2金属層と、第3無機酸化物層とを順に備える。さらには、第3無機酸化物層の上に、第3金属層と、第4無機酸化物層とを順に配置することができる。その場合には、透過性導電層3は、第1無機酸化物層8と、金属層9と、第2無機酸化物層10と、第2金属層と、第3無機酸化物層と、第3金属層と、第4無機酸化物層とを備える。
【0150】
第2の光透過性導電フィルム1Bにおいて、光透過性導電層3の表面、具体的には、第2無機酸化物層10の表面は、露出している。第2の光透過性導電フィルム1Bの第2無機酸化物層10は、調光機能層5に直接接触する。
【0151】
また、第1実施形態では、図1に示すように、機能層7を、ベース基材6の上面に配置しているが、しかし、図示しないが、機能層7を、ベース基材6の上面および下面の両面に配置することもできる。
【0152】
上記した各変形例によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0153】
<第2実施形態>
第2実施形態において、第1実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0154】
1.光透過性導電フィルム
光透過性導電層3は、図1に示すように、第1無機酸化物層8と、金属層9と、第2無機酸化物層10との3層を備えているが、図4に示すように、第2実施形態では、単に、第1無機酸化物層8の1層のみを備える。光透過性導電層3は、図4に示すように、金属層9を含まないため、低比抵抗を得る観点から、好ましくは、結晶質である。
【0155】
1−1.光透過性導電層
光透過性導電層3は、第1無機酸化物層8のみからなる。
【0156】
光透過性導電層3の厚みT3は、第1無機酸化物層8の厚みT8と同一であり、具体的には、例えば、15nm以上、好ましくは、20nm以上であり、また、例えば、300nm以下、好ましくは、150nm以下、より好ましくは、50nm以下、さらに好ましくは、40nm以下、とりわけ好ましくは、35nm以下である。
【0157】
光透過性導電層3の厚みT3が上記した上限以下であれば、後の工程において、無機層4とともに光透過性導電層3を迅速かつ確実にエッチングすることができる。光透過性導電層3の厚みT3が上記した下限以上であれば、結晶質が求められる場合であっても確実に結晶化することができる。
【0158】
光透過性導電層3は、好ましくは、結晶質である。結晶質膜は、非晶質膜と比して、親水性が明確に劣る場合があるが、本願の光透過性導電フィルム1は、光透過性導電層3上に親水性に優れる無機層4が配置されていることから、光透過性導電層3が結晶質膜であっても好適に使用できる。
【0159】
光透過性導電層3は、複数の無機酸化物層の積層体(図4の符号13および14参照)からなる第1無機酸化物層8であってもよい。好ましくは、第1無機酸化物層8は、組成の異なる、複数(例えば、2つ)のインジウムスズ複合酸化物(ITO)の積層体からなる。第1無機酸化物層8は、具体的には、光透過性基材2の上面に配置される第3インジウムスズ複合酸化物層13と、第3インジウムスズ複合酸化物層13の上面に配置される第4インジウムスズ複合酸化物層14とを備える。第1無機酸化物層8のうち、無機層4側に配置される(無機層4に面する)インジウムスズ複合酸化物層(具体的には、第4インジウムスズ複合酸化物層14)における、酸化スズ含有率は、第1無機酸化物層8を構成する各インジウムスズ複合酸化物層における酸化スズ含有率と比して最大ではなく、好ましくは、最小である。つまり、第1無機酸化物層8において、好ましくは、下層から上層に向かうに従って、酸化スズ含有率が低くなる。具体的には、第1無機酸化物層8が、第3インジウムスズ複合酸化物層13と第4インジウムスズ複合酸化物層14との積層体からなる場合には、第4インジウムスズ複合酸化物層14の酸化スズ含有率は、第3インジウムスズ複合酸化物層13の酸化スズ含有率に比べて、小さく、より具体的には、第4インジウムスズ複合酸化物層14は、第1無機酸化物層8において、最も小さい酸化スズ含有率を有する。
【0160】
これにより、光透過性導電層3は、その上に無機層4が配置されていても、短時間で結晶質ITO膜となることができる。
【0161】
第4インジウムスズ複合酸化物層14の酸化スズ含有率は、例えば、0.1質量%以上であり、好ましくは、0.5質量%以上であり、より好ましくは、1質量%以上であり、さらに好ましくは、3質量%以上であり、また、例えば、8質量%以下であり、好ましくは、6質量%以下であり、より好ましくは、5質量%以下である。
【0162】
一方、第4インジウムスズ複合酸化物層14以外の層(具体的には、第3インジウムスズ複合酸化物層13)の酸化スズ含有率は、例えば、5質量%以上であり、好ましくは、6質量%以上であり、より好ましくは、9質量%以上であり、さらに好ましくは、10質量%以上であり、また、例えば、20質量%以下であり、好ましくは、15質量%以下であり、より好ましくは、13質量%以下である。
【0163】
1−2.無機層
無機層4は、第1無機酸化物層8の上面に配置されている。
【0164】
2.光透過性導電フィルムの製造方法
光透過性導電フィルムの製造方法は、上記した工程(1)〜工程(4)に加え、工程(5)を備える。
【0165】
2−1.工程(2)
工程(2)では、非晶質の第1無機酸化物層8のみから、光透過性導電層3を形成する。
【0166】
2−2.工程(5)
工程(5)を、工程(4)の後に実施する。
【0167】
工程(5)では、パターンニングされた非晶質の第1無機酸化物層8からなる光透過性導電層3を結晶化させる。
【0168】
光透過性導電層3を結晶化させるには、例えば、パターンニングされた光透過性導電層3を、大気雰囲気下で、例えば、80℃以上、150℃以下の温度で、例えば、30分以上、90分以下、加熱(アニール処理)する。
【0169】
結晶化された光透過性導電層3の表面抵抗は、例えば、30Ω/□以上、好ましくは、60Ω/□以上であり、また、例えば、200Ω/□以下、好ましくは、150Ω/□以下、より好ましくは、100Ω/□以下、さらに好ましくは、90Ω/□以下である。
【0170】
3.第2実施形態の作用効果
第2実施形態は、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0171】
さらに、工程(3)の後の工程(5)において、より具体的には、工程(4)の後の工程(5)において、非晶質の第1無機酸化物層8からなる光透過性導電層3を結晶化させるので、光透過性導電層3の表面抵抗を低下させることができる。
【0172】
4.第2実施形態の変形例
第2実施形態では、工程(5)を、工程(4)の後に実施しているが、工程(3)の後であって、工程(4)の前に、工程(5)を実施することもできる。
【0173】
つまり、工程(3)において、無機層4を形成し、次いで、工程(5)において、光透過性導電層3を結晶化し、その後、工程(4)において、光透過性導電層3をエッチングする。
【0174】
第2実施形態では、工程(5)を、工程(2)に次いで実施することもできる。
【0175】
例えば、工程(2)において、非晶質の光透過性導電層3を形成し、次いで、工程(5)にて非晶質の光透過性導電層3を結晶化し、その後、工程(3)において、結晶質の光透過性導電層3上に無機層4を形成する。
【0176】
例えば、工程(2)において、非晶質の光透過性導電層3を形成し、次いで、工程(5)にて非晶質の光透過性導電層3を結晶化し、その後、工程(3)において、結晶質の光透過性導電層3上に無機層4を形成し、さらに、工程(4)において、結晶質の光透過性導電層3をエッチングすることもできる。
【0177】
また、実用性には劣るが、例えば、工程(2)において、非晶質の光透過性導電層を形成し、次いで、工程(5)にて非晶質の光透過性導電層を結晶化し、その後、工程(4)において、結晶質の光透過性導電層をエッチングし、さらに工程(3)において、結晶質の光透過性導電層上に無機層を形成する形成することもできる。
【0178】
第2実施形態では、光透過性基材2に機能層7を備えたが、例えば、図6に示すように、機能層7を備えることなく、ベース基材6のみから光透過性基材2を構成することができる。つまり、図6に示すように、この場合には、光透過性基材2は、機能層7を備えず、ベース基材6のみからなる。
【0179】
光透過性導電層3(具体的には、第1無機酸化物層8)は、ベース基材6(光透過性基材2)の上面に接触するように配置されている。
【0180】
これらの変形例によっても、第2実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0181】
また、上記した第1実施形態、第2実施形態およびそれらの変形例を適宜組み合わせることもできる。
【実施例】
【0182】
以下、本発明に関し、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0183】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0184】
実施例1
工程(1):光透過性基材の作製
厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱樹脂製)からなるベース基材6を用意し、続いて、ベース基材6の表面(光透過性導電層3を形成する側の主面)に、アクリル樹脂からなる紫外線硬化性樹脂を塗布し、紫外線照射により硬化させて、厚みが2μmであるハードコート層7’を形成した。これにより、ベース基材6とハードコート層7’とを順に備える光透過性基材2を作製した。
【0185】
工程(2):光透過性導電層の作製
続いて、光透過性基材2のハードコート層7’の上に、第1無機酸化物層8、金属層9、第2無機酸化物層10を、この順に備えた積層体からなる光透過性導電層3を形成した。
【0186】
第1無機酸化物層8および第2無機酸化物層10は、いずれも、インジウムスズ酸化物からなるインジウムスズ酸化物層であった。具体的には、第1無機酸化物層8および第2無機酸化物層10は、いずれも、12質量%の酸化スズと88質量%の酸化インジウムとの焼結体からなるITOターゲット(三井金属鉱山社製)を、成膜ガス(ArおよびO(流量比Ar:O=100:3)からなる混合ガス)を導入した真空雰囲気下でスパッタリングすることにより形成した、厚み40nmのインジウムスズ導電性酸化物であった。
【0187】
また、金属層9は、Ag−Pd合金からなっていた。具体的には、金属層9は、Ag99質量%とPd1質量%を混合した合金からなる銀合金ターゲットを成膜ガス(Ar)を導入した真空雰囲気下でスパッタリングすることにより形成した、厚み8nmの銀合金層であった。
【0188】
工程(3):無機層の作製
次いで、光透過性導電層3の第2無機酸化物層10の上に、酸化ケイ素(SiO)からなる、厚み0.5nmの無機層4を形成した。無機層4は、純度99.99%以上のSi板からなる、Siターゲット(大同特殊鋼社製)を、成膜ガス(ArおよびO(流量比Ar:O=100:41)からなる混合ガス)を導入した真空雰囲気下でスパッタリングすることにより形成した。
【0189】
これにより、光透過性導電層3、無機層4および調光機能層5を順に備える光透過性導電フィルム1を製造した。
【0190】
実施例2〜8
表1に記載のように、無機層4の厚みおよび製造方法を変更した以外は、実施例1と同様に処理して、光透過性導電フィルム1を製造した。
【0191】
比較例1
表1に記載のように、無機層4を形成しなかった以外は、実施例1と同様に処理して、光透過性導電フィルム1を製造した。
【0192】
実施例9
工程(2)において、成膜ガスであるArおよびOの流量比を、Ar:O=100:1とし、第1無機酸化物層8のみから光透過性導電層3を作製した以外は、表1に従って、実施例1と同様に処理して、光透過性導電フィルム1を製造した。
【0193】
なお、第1無機酸化物層8は、酸化スズ含有率10質量%である第3インジウムスズ複合酸化物層13と、酸化スズ含有率3質量%である第4インジウムスズ複合酸化物層14との積層体から形成した。
【0194】
実施例10
工程(3)において、無機層4を、真空蒸着法(電子ビーム加熱方式)により、厚み0.5nmのSiO層から形成した以外は、実施例1と同様に処理して、光透過性導電フィルム1を製造した。
【0195】
評価
以下の項目を評価し、その結果を表1に示す。
【0196】
(1)水接触角
実施例1〜10の無機層4の水接触角(θ0、θ1)は、直径1.5mmの水滴を針先に形成し、それを無機層4の表面に接触させて、無機層4上に水滴を移し、水滴と無機層4の静止接触角を接触角計(協和界面科学社製、CA−X型)にて測定した。5か所にて測定し、最大角度と最小角度の差が5.0度以下であった場合、正確に測定ができていると判断し、水接触角の単純平均値を用いて濡れ性を判断した。水接触角が5.0度を超える場合には、正確な測定ができない上、調光機能層5の部分的なはじきが想定されるため、数値に関わらず、濡れ性が「低い」とした。
【0197】
なお、水接触角θ1に関し、無機層4が形成されてから、25℃、相対湿度40%の雰囲気で80時間放置した無機層4の水接触角を測定した。
【0198】
また、比較例1については、無機層4を有しないことから、光透過性導電層3の水接触角を、上記と同様にして、測定した。
【0199】
なお、実施例10の光透過性導電フィルム1は、水接触角が50度以下であったものの、測定位置により水接触角の数値にばらつきがあり、真値の測定が困難であった。
【0200】
(2)厚み
ベース基材6の厚みを、膜厚計(尾崎製作所(Peacock(登録商標))社製、装置名「デジタルダイアルゲージ DG−205」)を用いて測定した。
【0201】
ハードコート層7、第1無機酸化物層8、金属層9および第2無機酸化物層10の厚みを、透過型電子顕微鏡(日立製作所製、装置名「HF−2000」)を用いた断面観察により測定した。
【0202】
無機層4の厚みを、蛍光X線分析装置(リガク社製、装置名「ZSX Primus II」)を用いて測定した(無機層の厚みは、光透過性基材由来のSiKa強度を差し引いて求めた)。
【0203】
なお、蛍光X線分析するにあたり、以下のように、事前準備した。
【0204】
すなわち、厚み50μmのPET基材上に、狙い厚み100nm、150nm、200nmの酸化ケイ素(SiO)層を形成した検体を作成し、各蛍光X線分析装置で各検体のSiKaの強度(PET基材由来のSiKa強度を差し引いた数値)を測定し、また、透過型電子顕微鏡で各検体の酸化ケイ素層の実膜厚を求めた。このようにして求めたSiKaの強度値と実膜厚から、検量線を作成し、SiKaの強度から無機層4の厚みが求められるようにした。
【0205】
(3)エッチング時間、および、エッチング性
5cm角の大きさに切り出した光透過性導電フィルム1を20枚作成し、40℃に加熱したエッチング液(ADEKA社製、製品名「アデカケルミカSET−500」)に浸漬した。その後、浸漬時間15秒毎に1枚ずつ取り出して、水洗浄および水の拭き取り(乾燥させ)、光透過性導電フィルム1の外観確認と任意の3地点における2端子間抵抗測定した。なお、2端子間抵抗測定はテスターにて実施し、測定する際の端子間距離は1.5cmとした。そして、エッチング時間の評価では、目視において5cm角の光透過性導電フィルム1内に光透過性導電層3または無機層4に由来する残差が確認できず、かつ、任意の3地点における2端子間抵抗が全て60MΩを超えた時点でエッチングが完了したと判断した。
【0206】
エッチング性は、以下の基準で評価した。
◎:エッチング時間が60秒未満であった。
○:エッチング時間が60秒以上、180秒以下であった。
△:エッチング時間が180秒超過、以上300秒以下であった。
×:エッチング時間が300秒超過、であった。
【0207】
(4)光透過性導電層の表面抵抗値
光透過性導電層3の表面抵抗値をJIS K 7194(1994年)に準じて四端子法を用いて測定した。
【0208】
(5)結晶性
実施例9における光透過性導電層3を140℃で加熱処理し、光透過性導電層3の結晶性を評価した。具体的には、各例の光透過性導電性フィルムを、塩酸(濃度:5質量%)に15分間浸漬した後、水洗・乾燥し、15mm程度の間の端子間抵抗を測定し、下記の基準に従って、結晶化速度を評価した。
○:15mm間の端子間抵抗が10kΩ以下であった。
×:15mm間の端子間抵抗が10kΩを超えた。
【0209】
比較例1についても、実施例9と同様にして、結晶化速度を評価した。
(6)はじき性
塩化ナトリウム5mgを水100mLに溶解した水溶液を、各実施例および比較例の光透過性導電層3の上、または、光透過性導電層3がない場合には光透過性基材2の上に、滴下し、目視ではじき性を下記の基準に従って、評価した。
○:はじきが観察されなかった。
△:はじきがわずかに観察されたが、全体的に水溶液が光透過性導電層3または光透過性基材2に対してよくなじんでいた。
×:はじきが観察された。
(7)剥離
実施例1〜10の無機層を観察して、下記の通り、剥離性を評価した。
○:無機層4に剥離箇所が散見されなかった。
△:無機層4に剥離箇所が散見された。
【0210】
【表1】
【符号の説明】
【0211】
1 光透過性導電フィルム
2 光透過性基材
3 光透過性導電層
4 無機層
5 調光機能層
T4 無機層の厚み
T8 第1無機酸化物層の厚み
T10 第2無機酸化物層の厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6