(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
水面や路面、雪面等からの反射光による眩しさの低減のために、アイウェア(サングラスやゴーグル、バイザー等)が用いられている。例えばサングラスは、レンズ部に色素等で着色することにより、該色素の吸収により目に入射する光量を低減させることで、眩しさを低減しているが、水面や雪面の反射光に対しては偏光サングラスが特に有効である。
偏光サングラスは、反射光が偏光になることから、その偏光方向の光を効果的に吸収させるように設計することにより、目への入射光量を大きく低減することなく、眩しさを低減し、視認性を向上させることができる。
【0003】
偏光サングラスは、通常、ポリカーボネート等の支持体で偏光素子を挟持した構成となっており、これを所望の形状に加工し、フレームにはめ込むことで得ることができる。偏光素子は、二色性染料や多ヨウ素―ポリビニルアルコール(PVA)錯体といったいわゆる二色性色素がPVA等の高分子と共に一軸配向されたフィルムであり、用いる色素の色によって、様々な色の偏光素子を得ることができるが、通常のサングラスの場合は、可視光域全体に偏光性を付与するために、グレー系の色にすることが多い。
【0004】
偏光サングラスにおけるデザイン性の付与、あるいは視認性の更なる向上のために、表面に多層膜を蒸着させる場合がある。多層膜を付与することにより、他者からはサングラス表面の反射光が青や緑、赤といったメタリック調の色彩を見ることができ、装着者からは、特定の光を反射することで、眩しさの低減と共に景色の視認性がさらに向上する。このように多層膜を付与することは、装着者にとって有益である一方、皮脂などが多層膜に付着すると取れにくいといった取り扱い上の問題点や、海など水分や潮風に曝される所では、多層膜が剥がれたりしてしまうという課題があった。
【0005】
このような課題に対し、多層膜を支持体の内側、すなわち偏光素子と支持体との間に設ける方法が考えられるが、多層膜は、各層間での屈折率差により反射性能を発現しているために、外側の空気界面と同等の反射性能を得ることは困難である。また、多層膜は無機物質からなるために、有機物である偏光素子との接着に問題がある。
【0006】
一方、多層膜を用いることなく、有機物でメタリックな色調を付与する方法として特許文献1(特開2001−180200公報)に記載されているような、コレステリック液晶層を用いる方法がある。コレステリック液晶は、液晶分子が螺旋配向をした状態であり、螺旋ピッチの長さによって、特定の波長域の螺旋の向きと同じ向きの円偏光成分を選択的に反射する機能を有する。この螺旋配向を所望の反射波長域となる状態で固定化したコレステリック液晶層を用いた光学積層体は、鮮やかな色調を有し、装飾性を付与することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、コレステリック液晶層を有する偏光サングラス等のアイウェアにおいて、円偏光に伴う偏光素子の光吸収能低下を抑制し、さらには皮脂や水分あるいは潮風といった外的な劣化因子の影響を受けることのない、メタリックな色調と防眩性を有するアイウェアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、右巻き螺旋配向を有するコレステリック液晶層からなる光反射層Rと左巻き螺旋配向を有するコレステリック液晶層からなる光反射層Lの積層体を用い、これと偏光素子とを積層してなる光学フィルムを支持体により挟持し、偏光サングラスとすることで、偏光サングラスとしての本来の機能を低下させることなく、かつ、外的な劣化因子の影響を受けない、性能と品位に優れた偏光サングラスが得られることを新規に見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
(1)右巻き螺旋配向を有するコレステリック液晶層からなる光反射層R、左巻き螺旋配向を有するコレステリック液晶層からなる光反射層Lおよび偏光素子層を備えることを特徴とする光学フィルム、
(2)光反射層Rと光反射層Lとの中心反射波長のずれが20nm以内であることを特徴とする、(1)に記載の光学フィルム、
(3)光反射層Rと光反射層Lとが、コレステリック液晶層を固定化してなることを特徴とする(1)または(2)に記載の光学フィルム、
(4)光反射層Rと光反射層Lの中心反射波長が、400nm〜800nmであることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の光学フィルム、
(5)偏光素子が、二色性色素を含有する延伸された高分子フィルムからなることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の光学フィルム、
(6)第1の支持体と第2の支持体の間に、右巻き螺旋配向を有するコレステリック液晶層からなる光反射層R、左巻き螺旋配向を有するコレステリック液晶層からなる光反射層Lおよび偏光素子層を備えることを特徴とする光学積層体、
(7)光反射層Rと光反射層Lとの中心反射波長のずれが20nm以内であることを特徴とする、(6)に記載の光学積層体、
(8)光反射層Rと光反射層Lとが、コレステリック液晶層を固定化してなることを特徴とする(6)または(7)に記載の光学積層体、
(9)光反射層Rと光反射層Lの中心反射波長が、400nm〜800nmであることを特徴とする(6)ないし(8)のいずれか1項に記載の光学積層体、
(10)偏光素子が、二色性色素を含有する延伸された高分子フィルムからなることを特徴とする(6)ないし(9)のいずれか1項に記載の光学積層体、
(11)支持体がポリカーボネートである、(6)ないし(10)のいずれか1項に記載の光学積層体、
(12)(1)ないし(11)のいずれか1項に記載の光学フィルムもしくは光学積層体を用いた、アイウェア、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学フィルムを用いることにより、円偏光による偏光素子の偏光度低下を抑制することができる。また、本発明の光学フィルムを用いて得られた偏光サングラスは、皮脂や水分あるいは潮風といった外的な劣化因子の影響を直接受けることがなくなるために、メタリックな色調を長期間安定して維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で用いられるコレステリック液晶とは、キラリティを持つネマチック液晶やネマチック液晶にカイラル剤を添加した配合物からなる。カイラル剤の種類や量により、螺旋の向きや反射波長を任意に設計できることから、ネマチック液晶にカイラル剤を添加してコレステリック液晶を得る方法が好ましい。本発明で使用されるネマチック液晶は、いわゆる電界で操作する液晶とは異なり、螺旋配向状態を固定化して使用されるため、重合性基を有するネマチック液晶モノマーを用いることが好ましい。
重合性基を有するネマチック液晶モノマーとは、分子内に重合性基を有し、ある温度範囲あるいは濃度範囲で液晶性を示す化合物である。重合性基としては、例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、カルコニル基、シンナモイル基、またはエポキシ基などが挙げられる。また、液晶性を示すためには分子内にメソゲン基があることが好ましく、メソゲン基とは、例えばビフェニル基、ターフェニル基、(ポリ)安息香酸フェニルエステル基、(ポリ)エーテル基、ベンジリデンアニリン基、またはアセナフトキノキサリン基等のロッド状、板状、あるいはトリフェニレン基、フタロシアニン基、またはアザクラウン基等の円盤状の置換基、即ち液晶相挙動を誘導する能力を有する基を意味する。ロッド状または板状基を有する液晶化合物はカラミティック液晶として当該技術分野で既知である。
このような重合性基を有するネマチック液晶モノマーは具体的には特許文献2、特許文献3に記載の重合性液晶や、PALIOCOLORシリーズ(BASF社製)、RMMシリーズ(Merck社製)等が挙げられる。これら重合性基を有するネマチック液晶モノマーは単独でも、あるいは複数混合して用いることができる。
【0015】
カイラル剤としては、上記重合性基を有するネマチック液晶モノマーを右巻きあるいは左巻き螺旋配向させることができ、重合性基を有するネマチック液晶モノマーと同様に重合性基を有する化合物が好ましい。そのようなカイラル剤としては。例えば、Paliocolor LC756(BASF社製)、特開2002−179668号公報や特開2007−271808号公報に記載の光学活性なビナフチル構造を有する化合物や、特開2003−306491号公報や特開2003−313292号公報に記載の光学活性なイソソルビド構造を有する化合物などが挙げられる。カイラル剤の添加量は、カイラル剤の種類と反射させる波長によっても異なるが、重合性基を有するネマチック液晶モノマーに対し、0.5wt%〜30wt%程度が好ましく、より好ましくは1wt%〜20wt%程度が良い。
【0016】
さらに、重合性基を有するネマチック液晶モノマーと反応可能な液晶性を有しない重合性化合物を添加することも可能である。そのような化合物としては例えば紫外線硬化型樹脂等が挙げられる。紫外線硬化型樹脂としては、例えばジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと1,6−ヘキサメチレン−ジ−イソシアネートとの反応生成物、イソシアヌル環を有するトリイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとの反応生成物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとイソホロン−ジ−イソシアネートとの反応生成物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタアクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールトリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、トリグリセロール−ジ−(メタ)アクリレート、プロピレングリコール−ジ−グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ポリプロピレングリコール−ジ−(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール−ジ−(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ジ−(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール−ジ−(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール−ジ−(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール−ジ−(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール−ジ−グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、1,6−ヘキサンジオール−ジ−(メタ)アクリレート、グリセロール−ジ−(メタ)アクリレート、エチレングリコール−ジ−グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ジエチレングリコール−ジ−グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(メタアクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビスフェノールA−ジ−グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、ブチルグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、またはブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でもあるいは複数混合して用いることができる。これら液晶性を持たない紫外線硬化型樹脂は液晶性を失わない程度に添加しなければならず、好ましくは、重合性基を有するネマチック液晶モノマーに対して0.1〜20重量%、より好ましくは1.0〜10重量%程度が良い。
【0017】
本発明で用いられる重合性基を有するネマチック液晶モノマーや他の重合性化合物が紫外線硬化型である場合、該組成物を紫外線により硬化させるために、光重合開始剤が添加される。光重合開始剤としては例えば、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1(BASF社製イルガキュアー907)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製イルガキュアー184)、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン(BASF社製イルガキュアー2959)、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン(Merck社製ダロキュアー953)、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン(Merck社製ダロキュアー1116)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(BASF社製イルガキュアー1173)、ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン系化合物、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(BASF社製イルガキュアー651)等のベンゾイン系化合物、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン(日本化薬製カヤキュアーMBP)等のベンゾフェノン系化合物、チオキサントン、2−クロルチオキサントン(日本化薬製カヤキュアーCTX)、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン(カヤキュアーRTX)、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロオチオキサントン(日本化薬製カヤキュアーCTX)、2,4−ジエチルチオキサントン(日本化薬製カヤキュアーDETX)、または2,4−ジイソプロピルチオキサントン(日本化薬製カヤキュアーDITX)等のチオキサントン系化合物等が挙げられる。好ましくは、例えば、Irgacure TPO、Irgacure TPO−L、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、Irgacure 1300、Irgacure 184、Irgacure 369、Irgacure 379、Irgacure 819、Irgacure 127、Irgacure 907またはIrgacure 1173(いずれもBASF社製)、特に好ましくはIrgacure TPO、Irgacure TPO−L、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、Irgacure 1300またはIrgacure 907が挙げられる。これらの光重合開始剤は1種類でも複数でも任意の割合で混合して使用することができる。
【0018】
ベンゾフェノン系化合物やチオキサントン系化合物を用いる場合には、光重合反応を促進させるために、助剤を併用することも可能である。そのような助剤としては例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n−ブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ミヒラーケトン、4,4’―ジエチルアミノフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、または4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン系化合物が挙げられる。
【0019】
前記光重合開始剤および助剤の添加量は、本発明で用いられる組成物の液晶性に影響を与えない範囲で使用することが好ましく、その量は、本発明で用いる組成物中の紫外線で硬化する化合物100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以上10重量部以下、より好ましくは2重量部以上8重量部以下程度がよい。また、助剤は光重合開始剤に対して、0.5倍から2倍量程度がよい。
【0020】
上記コレステリック液晶を用いて、本発明で用いる光反射層を作製する方法としては、例えば、重合性基を有するネマチック液晶モノマーに、所望とする波長を反射するように右巻きもしくは左巻きとなるカイラル剤を必要量添加する。次にこれらを溶剤に溶解し、光重合開始剤を添加する。次にこの溶液をPETフィルム等のプラスチック基板上に厚みができるだけ均一になるように塗布し、加熱にて溶剤を除去させながら、基板上でコレステリック液晶となって所望の螺旋ピッチで配向するような温度条件で一定時間放置させる。このとき、プラスチックフィルム表面を塗布前にラビングあるいは延伸等の配向処理をしておくことで、コレステリック液晶の配向をより均一にすることができ、フィルムとしてのヘーズ値を低減することが可能となる。次いでこの配向状態を保持したまま、高圧水銀灯等で紫外線を照射し、配向を固定化させることにより、本発明で用いる光反射層を有するフィルムが得られる。ここで、右巻き螺旋配向となるカイラル剤を選択した場合、得られるのは光反射層Rであり、左巻き螺旋配向となるカイラル剤を選択した場合、得られるのは光反射層Lである。
光反射層の反射波長は、反射波長域があるために、該反射波長域の中心値である中心反射波長を用いて表現される。中心反射波長とは、光反射層の反射帯域の中心波長を意味し、その値は、分光測定において、反射帯域で透過率が75%となる短波長側と長波長側の波長間の中間の値である。例えば、ある光反射層を分光測定した場合に、反射帯域における透過率が75%となる短波長側の波長が500nm、長波長側の波長が600nmであるような場合、この光反射層の中心反射波長は、550nmである。サングラスに応用した場合、メタリックな色調を呈するように可視光域にすることが好ましく、中心反射波長が400nm〜800nm、より好ましくは410〜780nm、さらに好ましくは430〜700nmの範囲で求める色調に応じて適宜選択される。例えば、中心反射波長が450の場合、反射色はメタリックな青色を呈し、550の場合はメタリックな緑色、650の場合はメタリックな赤色となる。
【0021】
得られた光反射層Rと光反射層Lの反射波長は一致していることが好ましく、特に、反射波長域の中心である中心反射波長のずれが、光反射層Rと光反射層Lとの間で20nm以内にすることが好ましく、より好ましくは10nm以内、さらに好ましくは5nm以内とすることがよい。20nmを超えると、例えば光反射層Rを通過した左回り円偏光が、光反射層Lで十分に反射されず、偏光度を大きく低下させてしまい、偏光サングラスとしての機能を低下させてしまう。
【0022】
本発明で用いられるフィルムは、異なる中心反射波長を有する複数の光反射層Rと光反射層Lの組があってもよい。例えば、中心反射波長がXnmである光反射層Rと光反射層LをそれぞれRx、Lxとするとき、R450とL450の組とR650とL650の組とを積層することにより、450nm付近と650nm付近とを同時に反射することができる。この組み合わせには特に制限はなく、この組み合わせにより複雑で多様な反射色を得ることができる。
【0023】
本発明で用いる光反射層を積層する手段は、特に制限はないが、粘着剤や接着剤を用いて積層することが好ましい。粘着剤としては、アクリル系やゴム系の粘着剤が挙げられるが、接着性や保持力等を調整しやすいアクリル系粘着剤が好ましい。また、接着剤としては、紫外線硬化型樹脂組成物や熱硬化型樹脂組成物が挙げられる。紫外線硬化型樹脂の場合は、アクリロイル基、あるいはエポキシ基を有するモノマーを複数混合した組成物を光重合開始剤の存在下で、紫外線を照射することにより硬化させて接着させることができる。熱硬化型樹脂組成物の場合は、エポキシ基を有するモノマーを複数混合した組成物を酸触媒の存在下で加熱することにより硬化させて接着することができる。あるいは、アミノ基、カルボキシル基、水酸基を有する複数のモノマーやポリマーからなる組成物をイソシアネート基やメラミンを有する化合物の存在下で加熱することにより硬化させて接着することができる。
【0024】
本発明で用いられる偏光素子としては、典型的にはPVA偏光フィルムが挙げられ、作製方法は特に限定されないが、ポリビニルアルコールあるいはその誘導体からなる高分子フィルムにヨウ素や二色性染料などの色素を吸着し、該フィルムを一軸に延伸配向させて製造される。色素としては、耐熱性の点から、二色性染料が好ましく、特にスルホン酸基をもつアゾ色素からなる直接染料が好ましい。
【0025】
こうして得られた光反射層を有する積層体と偏光素子とを積層することにより、本発明の光学フィルムを得ることができる。光反射層を有する積層体と、偏光素子とを積層する方法としては、特に限定されないが、高い接着力が得られることから接着層を介して貼り合わせることが望ましい。接着層としては、ホットメルト型接着剤と硬化型接着剤のいずれも使用可能である。通常、硬化型接着剤としては、アクリル樹脂系材料、ウレタン樹脂系材料、ポリエステル樹脂系材料、メラミン樹脂系材料、エポキシ樹脂系材料、シリコーン系材料等が使用でき、特に、曲げ加工時の接着力や加工性に優れることから、ウレタン樹脂系材料であるポリウレタンプレポリマーと硬化剤からなる2液型の熱硬化性ウレタン樹脂が好ましい。
光反射層を有する積層体と偏光素子を接着する接着剤には、調光染料を溶解させた接着剤を用いても良い。
【0026】
こうして得られた光学フィルムを支持体で挟持することによって、本発明の光学積層体を得ることができる。
図1には本発明の構成図の一例が図示してある。光反射層1と光反射層2が粘着剤または接着剤4により積層された積層体3と偏光素子5を同様に積層することにより、本発明の光学フィルム6を得ることができる。さらに、支持体7によって光学フィルム6を挟持することによって本発明の光学積層体8を得ることができる。なお、光学積層体の積層方法は、必ずしも光学フィルムに支持体を積層する方法に限定されず、光反射層1と光反射層2が粘着剤または接着剤4により積層された積層体3と一方の支持体7を積層し、続いて偏光素子5、他方の支持体7を順次積層していく方法や、光反射層1と光反射層2が粘着剤または接着剤4により積層された積層体3と支持体7を積層し、別途偏光素子5と支持体7を積層したものと積層するなどの積層方法を用いてもよい。
支持体としては、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、トリアセチルセルロース(TAC)などの樹脂が使用できる。耐衝撃性、耐熱性が要求されるサングラスあるいはゴーグルにおいては、支持体には、ポリカーボネートを使用することが好ましく、中でもビスフェノールAからなる芳香族ポリカーボネートを使用することがより好ましい。
支持体の全光線透過率は好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上であると視認性が確保しやすい。
また、前記の各偏光性フィルム層の最適加工温度が低い場合には、例えば、芳香族ポリカーボネート/PCC組成物(全脂環式ポリエステル組成物)、ガラス転移温度130℃以下のポリアミドなどを選択することが好ましい。
挟持する方法としては、特に限定されないが、高い接着力を得るため接着層を介して挟持することが望ましい。接着層としては、ホットメルト型接着剤と硬化型接着剤のいずれも使用可能である。通常、硬化型接着剤としては、アクリル樹脂系材料、ウレタン樹脂系材料、ポリエステル樹脂系材料、メラミン樹脂系材料、エポキシ樹脂系材料、シリコーン系材料等が使用でき、特に、曲げ加工時の接着力や加工性に優れることから、ウレタン樹脂系材料であるポリウレタンプレポリマーと硬化剤からなる2液型の熱硬化性ウレタン樹脂が好ましい。
【0027】
こうして得られた本発明の光学積層体を用い、光反射層の積層体が外側になるように、所望の形状に成形し、フレームに固定することで、本発明のサングラスやゴーグル、ヘルメット用バイザーを得ることができる。
例えばサングラスの場合は、光学積層体を所望の形状に打ち抜き、次いで、曲げ加工を施す。曲げ加工の方法に関して特に制限はなく、目的に応じて球面あるいは非球面に形状を付与できるような工程を経て加工すればよい。曲げ加工品には、さらに樹脂を射出してもよい。この場合、光学積層体の厚みムラが見えなくなるという利点もあり、焦点屈折力を持たないレンズにおいても耐衝撃性、外観や眼精疲労に対して特に優れた製品に使用されている。射出する樹脂としては、屈折率差による外観悪化を防止するため、射出樹脂が接する層と同一の材料にすることが好ましい。
表面には、適宜、ハードコート、反射防止膜などが形成され、次いで玉摺り、穴あけ、ネジ締め等によりフレームに固定することでサングラスになる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により、本発明を詳細に例示する。実施例において部は重量部を意味する。
【0029】
塗布液(液晶組成物)の調製
下記表に示す組成の塗布液(R1)及び(L1)をそれぞれ調製した。
【表1】
【表2】
【0030】
次に、塗布液(R1)のカイラル剤の処方量を下表に示す量に変更する以外は同様の処方にて塗布液(R2)、(R3)、(R4)、(R5)を調製した。
【0031】
【表3】
【0032】
また、塗布液(L1)のカイラル剤の処方量を下表に示す量に変更する以外は、同様の処方にて塗布液(L2)、(L3)、(L4)を調製した。
【0033】
【表4】
【0034】
カイラル剤:化合物1(特開2002−179668号公報に記載の化合物)
【化1】
【0035】
[実施例1]
<光反射層の作製>
調製した塗布液(R1)、(L1)を用い、下記の手順にてそれぞれ光反射層を作製し、次いでそれらを積層して本発明に用いる光反射層の積層体を作製した。プラスチック基板としては、東洋紡績製PETフィルム(下塗り層無し)を使用した。
(1)各塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の膜の厚みが4μmになるように、PETフィルム上に室温にて塗布した。
(2)150℃にて5分間加熱して溶剤の除去とともにコレステリック液晶相とした。次いで、高圧水銀ランプ(ハンソン東芝ライティング社製)を120W出力、5〜10秒間UV照射し、コレステリック液晶相を固定して、光反射層を得た。
(3)(1)〜(2)にて作製した、光反射層(R1)と光反射層(L1)の光反射層側同士をアクリル系粘着剤を用いて積層した。
(4)両面にあるPETフィルムを剥離した。
こうして、光反射層(R1)、光反射層(L1)が積層された2層からなる本発明で用いる光反射層の積層体を得た。光反射層(R1)、光反射層(L1)の中心反射波長はそれぞれ450nm、455nmであった。
【0036】
<偏光素子の作製>
ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:クラレビニロン#750)をクロランチンファストレッド(C.I.28160)0.25g/L、クリソフェニン(C.I.24895)0.18g/L、ソロフェニルブルー4GL(C.I.34200)1.0g/L及び硫酸ナトリウム10g/Lを含む水溶液中で35℃で3分間染色した後、溶液中で4倍に延伸した。ついでこの染色シートを酢酸ニッケル2.5g/Lおよびほう酸6.6g/Lを含む水溶液中35℃で3分浸漬した。ついでそのシートを緊張状態が保持された状態で室温で3分乾燥を行った後、70℃で3分間加熱処理し、偏光素子を得た。偏光素子を分光光度計を用い、絶対偏光法により偏光度を測定した結果、偏光度は99.5%であった。
【0037】
<光学フィルムの作製>
次に上記光反射層の積層体と偏光素子とをウレタン樹脂系接着剤にて貼り合わせて、本発明の光学フィルムを得た。この光学フィルムを分光光度計を用い、絶対偏光法により偏光度を測定した結果、偏光度は98.0%であった。
【0038】
<光学積層体の作製>
光学フィルムの両面に厚さ0.3mmのビスフェノールA型芳香族ポリカーボネートシート(三菱瓦斯化学社製)をウレタン樹脂系接着剤にて貼り合わせて、光学積層体を作製した。
<偏光サングラスの作製>
光学積層体を基本形状としては直径79.5mmの真円であり、垂直方向の幅が55mmにカットされる型でストリップ形状として打ち抜き、ベースカーブ7.95(曲率半径66.67mm)の金型を用いて曲げ加工を行った。曲げ加工された光学積層体を射出成形用の金型内にインサートし、凹面側に溶融したポリカーボネートを射出成形して、偏光レンズを得た。続いて、フレームに合わせて玉摺りを行い、偏光レンズをフレームにはめることで偏光サングラスを作製した。
【0039】
[実施例2]
調製した塗布液(R2)、(L2)を用いる以外は実施例1と同様の操作により、本発明で用いる光反射層の積層体を得た。光反射層(R2)、光反射層(L2)の中心反射波長はいずれも540nmであった。次に実施例1と同様に偏光素子を積層し、本発明の光学フィルムを得た。この光学フィルムを実施例1と同様の操作により偏光度を測定した結果、偏光度は98.1%であった。
【0040】
[実施例3]
調製した塗布液(R3)、(L3)を用いる以外は実施例1と同様の操作により、本発明で用いる光反射層の積層体を得た。光反射層(R3)、光反射層(L3)の中心反射波長はそれぞれ650nm、630nmであった。次に実施例1と同様に偏光素子を積層し、本発明の光学フィルムを得た。この光学フィルムを実施例1と同様の操作により偏光度を測定した結果、偏光度は98.3%であった。
【0041】
[実施例4]
調製した塗布液(R4)、(L2)を用いる以外は実施例1と同様の操作により、本発明で用いる光反射層の積層体を得た。光反射層(R4)、光反射層(L2)の中心反射波長はそれぞれ520nm、540nmであった。次に実施例1と同様に偏光素子を積層し、本発明の光学フィルムを得た。この光学フィルムを実施例1と同様の操作により偏光度を測定した結果、偏光度は92.9%であった。
【0042】
[実施例5]
調製した塗布液(R1)、(L1)、(R3)、(L3)を実施例1と同様の操作により、光反射層を作製し、実施例1と同様の操作により光反射層(R1)と光反射層(L1)および光反射層(R3)と光反射層(L3)それぞれの積層体を得た。さらに、これら二つの積層体をアクリル系粘着剤にて積層して本発明で用いる光反射層の積層体を得た。光反射層(R1)、光反射層(L1)の中心反射波長はそれぞれ450nm、455nmであり、光反射層(R3)、光反射層(L3)の中心反射波長はそれぞれ650nm、630nmであった。次に実施例1と同様に偏光素子を積層し、本発明の光学フィルムを得た。この光学フィルムを実施例1と同様の操作により偏光度を測定した結果、偏光度は97.5%であった。
【0043】
[実施例6]
調製した塗布液(R5)、(L2)を用いる以外は実施例1と同様の操作により、本発明で用いる光反射層の積層体を得た。光反射層(R5)、光反射層(L2)の中心反射波長はそれぞれ500nm、540nmであった。次に実施例1と同様に偏光素子を積層し、比較となる光学フィルムを得た。この光学フィルムを実施例1と同様の操作により偏光度を測定した結果、偏光度は84.2%であった。
【0044】
[比較例1]
調製した塗布液(R2)のみを用い、実施例1と同様の手順にてそれぞれ光反射層を作製した。光反射層(R2)の中心反射波長は540nmであった。次に実施例1と同様に偏光素子を積層し、比較となる光学フィルムを得た。この光学フィルムを実施例1と同様の操作により偏光度を測定した結果、偏光度は67.7%であった。
【0045】
[比較例2]
調製した塗布液(L4)のみを用い、実施例1と同様の手順にてそれぞれ光反射層を作製した。光反射層(L4)の中心反射波長は555nmであった。次に実施例1と同様に偏光素子を積層し、比較となる光学フィルムを得た。この光学フィルムを実施例1と同様の操作により偏光度を測定した結果、偏光度は69.7%であった。
【0046】
以上のように、実施例と比較例を比較すると、実施例1〜6では、右巻き螺旋配向のコレステリック液晶層と左巻き螺旋配向のコレステリック液晶層とを積層することによって、比較例1に示すような右巻き螺旋配向のコレステリック液晶層のみ、あるいは比較例2に示す陽の左巻き螺旋配向のコレステリック液晶層のみの場合と比べて、偏光度が大幅に向上していることが分かる。また、実施例1〜5は実施例6に比べて右巻き螺旋配向のコレステリック液晶の中心反射波長と左巻き螺旋配向のコレステリック液晶の中心反射波長のずれが20nm以下と小さいために、高い偏光度を維持していることが分かる。