(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
各種のディジタル通信装置は、利用者数の増加やマルチメディア通信の普及に伴い、より大容量の伝送能力が求められている。また、これらのディジタル通信装置におけるディジタル信号の品質評価の指標の一つとしては、受信データのうち符号誤りが発生した数と受信データの総数との比較として定義されるビット誤り率が知られている。
【0003】
そして、上述したディジタル通信装置において、試験対象となる光電変換部品等の被試験デバイスに対して固定データを含むテスト信号を送信し、被試験デバイスを介して入力される被測定信号と基準となる参照信号とをビット単位で比較して、被測定信号の誤り率を測定する誤り検出装置としては、例えば下記特許文献1に開示されるビット誤り測定装置が知られている。
【0004】
ところで、近年、携帯端末やクラウドコンピューティングの普及により、データ通信量は増加の一途をたどり伝送速度も高速化が著しくなっている。また、高速データ伝送に関する国際規格は、電気インターフェース、光インターフェースとともに従来のNRZ信号(2値信号)によるNRZ伝送からPAM4信号(4値信号)によるPAM4伝送へと変化している。
【0005】
そして、この種のPAM4信号の誤り率を誤り検出装置にて検出するためには、PAM4信号用のデコーダが必要になる。従来、この種のPAM4信号を2値信号にデコードするデコーダを備えた受信器としては、例えば下記特許文献2に開示される多値信号受信器が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のPAMデコーダでは、得られる波形のアイパターンのベースラインの太さ、ベースラインの暴れ等により、アイ開口が不十分であり、改善が求められていた。しかも、アイ開口が不十分なPAMデコーダを使用することにより、誤り検出装置の受信感度が低下するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、ベースラインを細くしてアイ開口の改善を図ることができるPAMデコーダおよびPAMデコード方法と誤り検出装置および誤り検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載されたPAMデコーダは、PAM4信号のベースラインに対する振幅レベルの大きさが異なる高レベル信号、中レベル信号、低レベル信号を
個別に0/1判別する3つの0/1判別器2a,2b,2cと、
前記3つの0/1判別器において入力側に位置する0/1判別器の出力と入力側と出力側の中間に位置する0/1判別器の出力との間を第1の伝送線路S4を介して結線するとともに、該第1の伝送線路と前記3つの0/1判別器において出力側に位置する0/1判別器の出力との間を第2の伝送線路S5を介して結線したOR論理からなるワイヤードORで構成され、前記3つの0/1判別器からの判別信号を最上位ビット列信号MSBと最下位ビット列信号LSBにデコードするデコード回路3とを備えたPAMデコーダ1であって、
前記ワイヤードORにおける入力側の負荷抵抗をR1、出力側の負荷抵抗をR4、
前記第1の伝送線路の特性インピーダンスをZ2、
前記第2の伝送線路の特性インピーダンスをZ3としたとき、R1≠R4、|Z2−R1|<|Z3−R4|、Z2>Z3を満たすように前記入力側および出力側の負荷抵抗と前記
第1の伝送線路および
前記第2の伝送線路の特性インピーダンスの定数を設定することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載されたPAMデコード方法は、PAM4信号のベースラインに対する振幅レベルの大きさが異なる高レベル信号、中レベル信号、低レベル信号を
個別に0/1判別する3つの0/1判別器2a,2b,2cと、
前記3つの0/1判別器において入力側に位置する0/1判別器の出力と入力側と出力側の中間に位置する0/1判別器の出力との間を第1の伝送線路S4を介して結線するとともに、該第1の伝送線路と前記3つの0/1判別器において出力側に位置する0/1判別器の出力との間を第2の伝送線路S5を介して結線したOR論理からなるワイヤードORで構成され、前記3つの0/1判別器からの判別信号を最上位ビット列信号MSBと最下位ビット列信号LSBにデコードするデコード回路3とを備えたPAMデコーダ1を用いたPAMデコード方法であって、
前記ワイヤードORにおける入力側の負荷抵抗をR1、出力側の負荷抵抗をR4、
前記第1の伝送線路の特性インピーダンスをZ2、
前記第2の伝送線路の特性インピーダンスをZ3としたとき、R1≠R4、|Z2−R1|<|Z3−R4|、Z2>Z3を満たすように前記入力側および出力側の負荷抵抗と前記
第1の伝送線路および
前記第2の伝送線路の特性インピーダンスの定数を設定するステップを含むことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載された誤り検出装置は、請求項1のPAMデコーダを用いた誤り検出装置21であって、
前記デコード回路3にてデコードされた最上位ビット列信号MSBと最下位ビット列信号LSBを入力として、前記最上位ビット列信号のレベル、前記最下位ビット列信号の0,1レベル、前記最下位ビット列信号の2,3レベルをそれぞれ測定するレベル測定部22と、
前記レベル測定部による測定の結果に基づいて誤り率を算出する誤り率算出部23とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載された誤り検出方法は、請求項2のPAMデコード方法を用いた誤り検出方法であって、
前記デコード回路3にてデコードされた最上位ビット列信号MSBと最下位ビット列信号LSBを入力として、前記最上位ビット列信号のレベル、前記最下位ビット列信号の0,1レベル、前記最下位ビット列信号の2,3レベルをそれぞれ測定するステップと、
前記測定の結果に基づいて誤り率を算出するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、デコード回路の出力側から比較的ベースラインが細いデコード波形を取り出してアイ開口の広いPAMデコーダを実現することが可能となる。また、PAM信号の誤り率を測定する際の受信感度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
[PAM4信号について]
まず、本実施の形態が対象とするPAM4信号について説明する。PAM4方式は、情報信号の振幅をパルス信号の系列で符号化したパルス振幅変調信号として、論理「0」および「1」から構成されるビット列を、4つの電圧レベルまたは光電力のパルス信号として変調して伝送する方式である。
【0017】
そして、PAM4方式によるPAM4信号は、振幅がシンボルごとに4種類に分けられ、
図9に示すように、4つの異なる振幅レベルL0,L1,L2,L3を有し、全体の振幅電圧範囲がベースライン(L0:0レベル)から低電圧範囲H1、中電圧範囲H2、高電圧範囲H3に分けられ、ベースライン(L0:0レベル)に対する振幅レベルの大きさが異なるUpper信号(高レベル信号)、Middle信号(中レベル信号)、Lower信号(低レベル信号)による3つのアイパターン開口部が連続した振幅範囲の信号からなる。
【0018】
[PAMデコーダの構成について]
次に、PAMデコーダの構成について
図1を参照しながら説明する。
図1に示すように、PAMデコーダ1は、上述したPAM4信号のUpper信号(高レベル信号)、Middle信号(中レベル信号)、Lower信号(低レベル信号)を0/1判別する0/1判別回路2と、0/1判別回路2にて0/1判別した判別信号からPAM4信号を最上位ビット列信号(MSB)と最下位ビット列信号(LSB)にデコードするデコード回路3(3A)と、デコード回路3にてデコードされた最上位ビット列信号(MSB)を増幅出力する増幅器4と、デコード回路3にてデコードされた最下位ビット列信号(LSB)を増幅出力する増幅器5とを備えて概略構成される。
【0019】
0/1判別回路2は、
図1に示すように、PAM4信号が伝送される伝送線路S1に対し、3つの0/1判別器(第1の0/1判別器2a、第2の0/1判別器2b、第3の0/1判別器2c)が並列接続される。
【0020】
第1の0/1判別器2aは、伝送線路S1に接続され、PAM4信号のUpper信号の0/1を基準電圧Vth1との比較によって判別する。すなわち、第1の0/1判別器2aは、
図9に示すように、Upper信号と基準電圧Vth1とを比較し、Upper信号が基準電圧Vth1以上であればDU=「1」を判別信号として出力し、Upper信号が基準電圧Vth1以上でなければDU=「0」を判別信号として出力する。
【0021】
第2の0/1判別器2bは、伝送線路S2を介して伝送線路S1に接続され、PAM4信号のLower信号の0/1を基準電圧Vth3との比較によって判別する。すなわち、第2の0/1判別器2bは、
図9に示すように、Lower信号と基準電圧Vth3とを比較し、Lower信号が基準電圧Vth3以上であればDL=「1」を判別信号として出力し、Lower信号が基準電圧Vth3以上でなければDL=「0」を判別信号として出力する。
【0022】
第3の0/1判別器2cは、伝送線路S2と伝送線路S3を介して伝送線路S1に接続され、PAM4信号のMiddle信号の0/1を基準電圧Vth2との比較によって判別する。すなわち、第3の0/1判別器2cは、
図9に示すように、Middle信号と基準電圧Vth2とを比較し、Middle信号が基準電圧Vth2以上であればDM=「1」を判別信号として出力し、Middle信号が基準電圧Vth2以上でなければDM=「0」を判別信号として出力する。
【0023】
なお、
図1において、0/1判別回路2は、Upper信号の0/1を判別する第1の0/1判別器2aとLower信号の0/1を判別する第2の0/1判別器2bとを逆に接続した構成であってもよい。
【0024】
デコード回路3Aは、
図1に示すように、0/1判別回路2の出力側に増幅回路11を備え、0/1判別回路2の3つの判別器2a,2b,2cの出力信号を結線したOR論理からなるワイヤードORで構成される。
【0025】
増幅回路11は、第1の増幅器11a、第2の増幅器11b、反転増幅器11cを備える。第1の増幅器11aは、第1の0/1判別器2aと接続され、第1の0/1判別器2aからの判別信号を増幅して出力する。
【0026】
第2の増幅器11bは、第2の0/1判別器2bと接続され、第2の0/1判別器2bから判別信号を増幅して出力する。
【0027】
反転増幅器11cは、第3の0/1判別器2cと接続され、第3の0/1判別器2cからの判別信号を反転増幅して出力する。
【0028】
第1の増幅器11aの出力と第2の増幅器11bの出力との間は特性インピーダンスZ2の伝送線路S4を介して接続される。また、伝送線路S4の入力側には負荷抵抗R1が接続される。
【0029】
第2の増幅器11bの出力と反転増幅器11cの出力との間は特性インピーダンスZ3の伝送線路S5を介して接続される。また、伝送線路S5の出力側には負荷抵抗R4が接続される。
【0030】
上記のように構成されるPAMデコーダ1は、PAM4信号として、NRZ信号によるUpper信号、Lower信号、Middle信号が入力されると、
図2の真理値表に示すようにデコードされ、最上位ビット列信号(MSB)と最下位ビット列信号(LSB)を出力する。
【0031】
ところで、上述したPAMデコーダ1のデコード回路3(3A)をワイヤードORで構成した場合、下記(1)〜(4)による設計上の制約条件がある。
【0032】
(1)レイアウト上の問題で、Upper信号/Lower信号/Middle信号間は必ず伝送線路S2,S3,S4,S5が必要となる(1ps以上)。
(2)デコード回路3のワイヤードORの負荷抵抗R1,R4を固定値にする必要がある。
(3)寄生容量や線路幅などの物理的な要因から、デコード回路3の伝送線路S4,S5の特性インピーダンスを高くしずらい。
(4)振幅を稼ぐためにR1//R4(=(R1×R4)/(R1+R4))が高めとなりやすい。
【0033】
そこで、本実施の形態では、上述した制約条件においてデコード回路3のワイヤードORの波形を最大限に良くするため、入力側の整合を重視し、R1≠R4、|Z2−R1|<|Z3−R4|、Z2>Z3を満足するように負荷抵抗R1,R4、特性インピーダンスZ2,Z3の定数を設定してデコード回路3を構成した。
【0034】
具体的には、
図3の本実施の形態に示すように、R1//R4=(R1×R4)/(R1+R4)=Cとしたとき、入力側の負荷抵抗R1=1.4C、出力側の負荷抵抗R4=6C、入力側の伝送線路S4の特性インピーダンスZ2=1.4C、出力側の伝送線路S5の特性インピーダンスZ3=1.05Cに設定する。
【0035】
次に、本実施の形態の効果を検証するため、
図3に示す本実施の形態と比較例1〜3による定数の設定に基づくデコード回路3Aの単体シミュレーションを行った。ここでは、50Gbit/sのNRZ信号を入力し、
図4に示すPRBS7のUpper信号/Lower信号/Middle信号のパターンを用意してデコード回路3Aの単体シミュレーションを行った。本実施の形態と比較例1〜3のシミュレーション結果の波形を
図5に示す。
【0036】
比較例1は、
図3に示すように、入力側の負荷抵抗R1=出力側の負荷抵抗R4=2C、入力側の伝送線路S4の特性インピーダンスZ2=出力側の伝送線路S5の特性インピーダンスZ3=Cに設定した場合である。この比較例1では、
図5に示すように、波形のベースラインが膨らんでおり、アイ開口が小さくなっていることが判る。
【0037】
比較例2は、
図3に示すように、入力側の負荷抵抗R1=出力側の負荷抵抗R4=2C、入力側の伝送線路S4の特性インピーダンスZ2=出力側の伝送線路S5の特性インピーダンスZ3=1.4Cに設定した場合であり、比較例1よりも特性インピーダンスを大きく設定している。この比較例2では、
図5に示すように、比較例1に比べて波形のベースラインが小さくなっているが、まだ太いことが判る。
【0038】
比較例3は、デコード回路3の出力側のインピーダンス整合を重視し、
図3に示すように、入力側の負荷抵抗R1=6C、出力側の負荷抵抗R4=1.4C、入力側の伝送線路S4の特性インピーダンスZ2=1.05C、出力側の伝送線路S5の特性インピーダンスZ3=1.4Cに設定した場合である。この比較例3では、
図5に示すように、比較例1や比較例2と比較して、アイがしぼんでいることが判る。
【0039】
本実施の形態では、比較例3とは逆にデコード回路3の入力側のインピーダンス整合を重視し、
図3に示すように、入力側の負荷抵抗R1=1.4C、出力側の負荷抵抗R4=6C、入力側の伝送線路S4の特性インピーダンスZ2=1.4C、出力側の伝送線路S5の特性インピーダンスZ3=1.05Cに設定した場合である。本実施の形態では、
図5に示すように、波形のベースラインが比較例1や比較例2よりもさらに細くなり、アイ開口が一番大きくなっていることが判る。
【0040】
このように、比較例1と比較例2では、負荷抵抗R1,R4を入力側と出力側に対して均等に配置し、均等な特性インピーダンスとしている。ここで、特性インピーダンスZ2,Z3を高くすると、波形のベースラインが細くなってアイ開口が広がる。しかし、前述したように、特性インピーダンスZ2,Z3は、物理的な制約で上げることが難しく、比較例2が限界となる。
【0041】
比較例3は、本実施の形態とは真逆の条件となる定数を設定した場合の波形を示している。この比較例3では、波形のベースラインの暴れが悪くなってしまう。これに対し、本実施の形態では、波形のベースラインがさらに細くなり、アイ開口が比較例2よりも良くなり、制約条件の中での最適な定数となる。
【0042】
次に、
図6はデコード回路3の他の構成例を示している。なお、
図1のデコード回路3Aと同一の構成要素には同一番号を付して説明を省略する。
【0043】
図6のデコード回路3B(3)は、増幅回路11のMiddle信号が入力される第1の増幅器11aとUpper信号が入力される反転増幅器11cとが
図1のデコード回路3Aとは逆になっており、その他の構成は同じである。
【0044】
次に、
図1のデコード回路3Aと同様に、
図6のデコード回路3Bの本実施の形態と比較例(例1〜3)による定数の設定に基づく単体シミュレーションを行った。
図6のデコード回路3Bの本実施の形態と比較例(例1〜3)のシミュレーション結果による波形を
図7に示す。
【0045】
図1のデコード回路3Aと同一条件でデコード回路3Bの単体シミュレーションを行った結果、
図7に示すように、デコード回路3Bの増幅回路11へのMiddle信号の入力がデコード回路3Aと逆になっていても、同じ傾向の結果が得られた。
【0046】
そして、上述したPAMデコーダ1は、例えば
図8の誤り検出装置21に採用することができる。この誤り検出装置21では、PAMデコーダ1から最上位ビット列信号(MSB)と最下位ビット列信号(LSB)が入力されると、レベル測定部22にて最上位ビット列信号(MSB)のレベル測定、最下位ビット列信号(LSB)の0,1レベル、最下位ビット列信号(LSB)の2,3レベルを測定する。そして、誤り率算出部23は、レベル測定部22にて測定された最上位ビット列信号(MSB)および最下位ビット列信号(LSB)のレベルに基づいて誤り率を算出し、その結果を表示部24に表示する。
【0047】
このように、本実施の形態によれば、入力側の整合を重視し、R1≠R4、|Z2−R1|<|Z3−R4|、Z2>Z3を満足するように負荷抵抗R1,R4と伝送線路S4,S5の特性インピーダンスZ2,Z3の定数を設定する。これにより、デコード回路の出力側から比較的ベースラインが細いデコード波形を取り出してアイ開口の広いPAMデコーダを実現することが可能となる。また、このPAMデコーダおよびPAMデコード方法を誤り検出装置や誤り検出方法に採用すれば、PAM信号の誤り率を測定する際の受信感度を高めることが可能となる。
【0048】
ところで、上述した実施の形態において、入力側の負荷抵抗R1、出力側の負荷抵抗R4、入力側の伝送線路S4の特性インピーダンスZ2、出力側の伝送線路S5の特性インピーダンスZ3それぞれの定数はUpper信号、Lower信号、Middle信号の位置関係によらないものである。
【0049】
以上、本発明に係るPAMデコーダおよびPAMデコード方法と誤り検出装置および誤り検出方法の最良の形態について説明したが、この形態による記述および図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例および運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。