特許第6739644号(P6739644)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ阪神株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6739644-内燃機関用点火装置 図000002
  • 特許6739644-内燃機関用点火装置 図000003
  • 特許6739644-内燃機関用点火装置 図000004
  • 特許6739644-内燃機関用点火装置 図000005
  • 特許6739644-内燃機関用点火装置 図000006
  • 特許6739644-内燃機関用点火装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739644
(24)【登録日】2020年7月27日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】内燃機関用点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/00 20060101AFI20200730BHJP
   F02P 3/05 20060101ALI20200730BHJP
   F02P 15/10 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   F02P3/00 B
   F02P3/05 C
   F02P3/05 E
   F02P15/10 301C
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-524611(P2019-524611)
(86)(22)【出願日】2017年6月14日
(86)【国際出願番号】JP2017021900
(87)【国際公開番号】WO2018229883
(87)【国際公開日】20181220
【審査請求日】2019年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174426
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ阪神株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】内勢 義文
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/157541(WO,A1)
【文献】 特開2015−200296(JP,A)
【文献】 特開2015−113730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00−3/12、7/00−17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主一次電流の通電により順方向の磁束が増加し、主一次電流を遮断することにより逆方向の遮断磁束が生じる主一次コイルと、前記遮断磁束の発生以降の任意のタイミングで副一次電流を通電することにより遮断磁束と同方向の追加磁束を生じさせる副一次コイルと、一端側が点火プラグと接続され、前記主一次コイルと副一次コイルに生じた磁束が作用して放電エネルギが発生する二次コイルと、を有する点火コイルと、
前記点火コイルに電源供給する直流電源と、
前記点火コイルの主一次コイルへの通電・遮断を切り替える主スイッチ手段と、
前記副一次コイルの高圧側通電路の開閉を行うことで、前記直流電源から副一次コイルへの通電・遮断を切り替える副スイッチ手段と、
前記副一次コイルの低圧側通電路を開閉可能なスイッチで、該低圧側通電路を閉じることにより前記副一次コイルへの通電を許可する副一次コイル通電許可スイッチ手段と、
前記主スイッチ手段、副スイッチ手段、副一次コイル通電許可スイッチ手段を制御して、燃焼サイクルの所定のタイミングで点火プラグに放電火花を発生させる点火制御手段と、
前記点火コイルの副一次コイルに流れる副一次電流を検出する副一次電流検出手段と、
前記点火コイルの二次コイルに流れる二次電流を検出する二次電流検出手段と、
を備え、
前記点火制御手段は
主一次コイルへの通電を遮断した遮断タイミング以降に所定の重畳時間だけ副一次コイル通電許可スイッチ手段に副一次コイルへの通電を許可させると共に、副スイッチ手段への通電制御を行うことで、二次コイルに発生する放電エネルギを重畳的に増加させ
予め設定された副一次電流目標値と、前記副一次電流検出手段により検出された副一次電流検出値とを比較し、副一次電流検出値を副一次電流目標値へ近づけるように、副一次コイルへの供給電力を制御する副一次電流フィードバック制御を行い、
予め設定された二次電流目標値と、前記二次電流検出手段により検出された二次電流検出値とを比較し、二次電流検出値を二次電流目標値へ近づけるように、前記副一次電流目標値を設定変更するようにしたことを特徴とする内燃機関用点火装置。
【請求項2】
前記二次電流目標値は、許容し得る二次電流の上限として予め定めた二次電流目標上限値と、許容し得る二次電流の下限として予め定めた二次電流目標下限値とを用い、二次電流目標上限値および二次電流目標下限値を二次電流検出値と比較し、二次電流目標上限値よりも二次電流検出値が高い場合には二次電流を下げるように前記副一次電流目標値を設定変更し、二次電流目標下限値よりも二次電流検出値が低い場合には二次電流を上げるように前記副一次電流目標値を設定変更するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項3】
前記点火コイルの主一次コイルと主スイッチ手段との間にて、前記点火コイルの放電継続中に発生する一次側電圧を検出する一次コイル電圧検出手段を備え、
前記点火制御手段は、一次コイル電圧が、所定の傾斜角度よりも早く所定電圧以上に上昇した時、前記二次電流目標値を増加させるように設定変更するようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項4】
前記点火制御手段は、副スイッチ手段をPWM制御することで、副一次電流フィードバック制御を行うようにしたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項5】
前記点火制御手段は、予め定めた単位期間毎に副一次電流目標値と副一次電流検出値との比較を行い、比較結果に応じて次の単位期間における副一次コイルへの供給電力制御を行うようにしたことを特徴とする請求項〜請求項4の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車両に搭載される内燃機関用の点火装置に関し、点火コイルの二次側に発生させる放電エネルギを重畳的に増大させて、良好な放電特性を得るものである。
【背景技術】
【0002】
車両搭載の内燃機関として、燃費改善のために直噴エンジンや高EGRエンジンが採用されているが、これらのエンジンは着火性があまり良くないため、点火装置には高エネルギ型のものが必要になる。そこで、古典的な電流遮断原理により発生する点火コイル二次側出力に、さらにもう一つの点火コイルの出力を加算的に重畳する位相放電型の点火装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の点火装置によれば、主一次点火コイルの一次電流を遮断することでその二次側に発生する数kVの高電圧により、点火プラグの放電間隙に絶縁破壊を起こして点火コイルの二次側から放電電流を流し始めた後に、主点火コイルと並列に接続された副点火コイルの一次電流を遮断し、その二次側に発生する数kVの直流電圧を加算的に重畳することで、比較的長い時間に亙って点火プラグに大きな放電エネルギを与えることができるため、燃料への着火性が向上し、延いては燃費も向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−140924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された点火装置のような方式では、点火プラグの放電電流が各コイルから出力される三角形の電流の組み合わせで決まるため、高電流期間を長くするためには、2つの点火コイルの点火位相を大きくしたうえで、2つの点火コイルに十分なエネルギを蓄積する時間を長くして高電流期間を拡大する必要がある。このように、2つの点火コイルを用いることに加えて一次コイルへの通電時間を長くすると、コイル本体の大型化及び一次コイルへの通電制御を行うスイッチング素子の発熱が高くなるという問題が生ずる。
【0006】
また、一次コイルへの通電時間を長くすることなく、一次コイルに蓄積するエネルギを高める方法としては、コイルの体格を大きくして蓄積エネルギを増やす方法、複数の点火コイルを用いる方法が考えられる。しかしながら、大型の点火コイルを用いたり、複数の点火コイルを用いたりすれば、搭載スペースの確保が問題となってしまう。加えて、大型の点火コイルを用いたり、複数の点火コイルを用いたりすれば、過剰な放電エネルギが消費されて、燃費を悪化させることにもなりかねない。
【0007】
そこで、本発明は、燃費を悪化させること無く、必要十分な放電エネルギの安定供給により、安定した高電流期間を確保して安定した燃焼を維持できる内燃機関用点火装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、主一次電流の通電により順方向の磁束が増加し、主一次電流を遮断することにより逆方向の遮断磁束が生じる主一次コイルと、前記遮断磁束の発生以降の任意のタイミングで副一次電流を通電することにより遮断磁束と同方向の追加磁束を生じさせる副一次コイルと、一端側が点火プラグと接続され、前記主一次コイルと副一次コイルに生じた磁束が作用して放電エネルギが発生する二次コイルと、を有する点火コイルと、前記点火コイルに電源供給する直流電源と、前記点火コイルの主一次コイルへの通電・遮断を切り替える主スイッチ手段と、前記副一次コイルの高圧側通電路の開閉を行うことで、前記直流電源から副一次コイルへの通電・遮断を切り替える副スイッチ手段と、前記副一次コイルの低圧側通電路を開閉可能なスイッチで、該低圧側通電路を閉じることにより前記副一次コイルへの通電を許可する副一次コイル通電許可スイッチ手段と、前記主スイッチ手段、副スイッチ手段、副一次コイル通電許可スイッチ手段を制御して、燃焼サイクルの所定のタイミングで点火プラグに放電火花を発生させる点火制御手段と、前記点火コイルの副一次コイルに流れる副一次電流を検出する副一次電流検出手段と、前記点火コイルの二次コイルに流れる二次電流を検出する二次電流検出手段と、を備え、前記点火制御手段は主一次コイルへの通電を遮断した遮断タイミング以降に所定の重畳時間だけ副一次コイル通電許可スイッチ手段に副一次コイルへの通電を許可させると共に、副スイッチ手段への通電制御を行うことで、二次コイルに発生する放電エネルギを重畳的に増加させ、予め設定された副一次電流目標値と、前記副一次電流検出手段により検出された副一次電流検出値とを比較し、副一次電流検出値を副一次電流目標値へ近づけるように、副一次コイルへの供給電力を制御する副一次電流フィードバック制御を行い、予め設定された二次電流目標値と、前記二次電流検出手段により検出された二次電流検出値とを比較し、二次電流検出値を二次電流目標値へ近づけるように、前記副一次電流目標値を設定変更するようにしたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、前記請求項1に記載の内燃機関用点火装置において、前記二次電流目標値は、許容し得る二次電流の上限として予め定めた二次電流目標上限値と、許容し得る二次電流の下限として予め定めた二次電流目標下限値とを用い、二次電流目標上限値および二次電流目標下限値を二次電流検出値と比較し、二次電流目標上限値よりも二次電流検出値が高い場合には二次電流を下げるように前記副一次電流目標値を設定変更し、二次電流目標下限値よりも二次電流検出値が低い場合には二次電流を上げるように前記副一次電流目標値を設定変更するようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、前記請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火コイルの主一次コイルと主スイッチ手段との間にて、前記点火コイルの放電継続中に発生する一次側電圧を検出する一次コイル電圧検出手段を備え、前記点火制御手段は、一次コイル電圧が、所定の傾斜角度よりも早く所定電圧以上に上昇した時、前記二次電流目標値を増加させるように設定変更するようにしたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る発明は、前記請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、副スイッチ手段をPWM制御することで、副一次電流フィードバック制御を行うようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る発明は、前記請求項〜請求項4の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、予め定めた単位期間毎に副一次電流目標値と副一次電流検出値との比較を行い、比較結果に応じて次の単位期間における副一次コイルへの供給電力制御を行うようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る内燃機関用点火装置によれば、副一次コイル磁束発生状態切替手段を備えることで、点火タイミング前重畳放電制御や点火タイミング後重畳放電制御を行うことができるので、運転条件に応じた必要十分な放電エネルギを副一次コイルから二次コイルへ重畳して、主一次コイルへの通電時間を長くすることなく安定した高電流期間を確保し、好適な燃焼を実現する。しかも、点火タイミング前重畳放電制御や点火タイミング後重畳放電制御を運転条件に応じて使い分けることで、高い燃費改善効果を期待できる。加えて、複数のコイルや昇圧回路を必要としないので、点火コイルの大型化および大幅なコスト増を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る内燃機関用点火装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
図2】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置により通常放電制御および重畳放電制御を行うときの燃焼サイクルにおける各部波形を模式的に示した波形図である。
図3】(a)は、副一次電流検出値が副一次電流目標値と一致しているときに、制御手段が生成する副一次コイル通電信号を模式的に示した波形図である。(b)は、副一次電流検出値が副一次電流目標値とずれているときに、制御手段が生成する副一次コイル通電信号を模式的に示した波形図である。
図4】(a)は、二次電流検出値が二次電流目標上限値と二次電流目標下限値の範囲にあるときに、制御手段が生成する副一次電流目標値を模式的に示した波形図である。(b)は、二次電流検出値が二次電流目標上限値を越えたときに、制御手段が生成する副一次電流目標値を模式的に示した波形図である。(c)は、二次電流検出値が二次電流目標下限値を下回ったときに、制御手段が生成する副一次電流目標値を模式的に示した波形図である。
図5】本発明に係る内燃機関用点火装置の第2実施形態を示す概略構成図である。
図6】第2実施形態に係る内燃機関用点火装置において一次コイル電圧に応じた二次電流目標値の維持および変更を行うときの燃焼サイクルにおける各部波形を模式的に示した波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係る内燃機関用点火装置の実施形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1に示すのは、本発明の第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1であり、内燃機関の気筒毎に設けられる1つの点火プラグ2に放電火花を発生させる点火コイルユニット10と、この点火コイルユニット10の動作タイミングを指示する点火信号Si等を適宜なタイミングで出力する点火制御手段31を備えた内燃機関駆動制御装置3、車両バッテリ等の直流電源4、第1副スイッチ素子51、第2副スイッチ素子52等で構成される。
【0019】
なお、本実施形態に示す内燃機関用点火装置1においては、点火制御手段31が、自動車の内燃機関を統括的に制御する内燃機関駆動制御装置3に含まれるものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、通常の内燃機関駆動制御装置3が有している点火信号生成機能によって生成された点火信号を受けて、適宜な制御信号を点火コイルユニット10および第1,第2副スイッチ素子51,52へ出力する点火制御手段を別途設けるようにしても構わない。
【0020】
上記点火コイルユニット10は、例えば、点火コイル11、主スイッチ素子12、主スイッチ素子12と並列に設けるバイパス線路13、このバイパス線路13に設ける整流手段14等を所要形状のケース15に収納して一体構造としたユニットである。このケース15の適所には、高圧端子151とコネクタ152を設けてあり、高圧端子151を介して点火プラグ2を接続すると共に、コネクタ152(例えば、第1接続端子152a〜第6接続端子152fを備えるコネクタ)を介して内燃機関駆動制御装置3、車両バッテリ等の直流電源4、第1,第2副スイッチ素子51,52および接地点GNDと接続する。
【0021】
上記点火コイル11は、主一次コイル111a(例えば、90ターン)と副一次コイル111b(例えば、60ターン)と二次コイル112(例えば、9000ターン)を備える。なお、点火コイル11は、主一次コイル111aと副一次コイル111bに生ずる磁束を二次コイル112に作用させるもので、例えば、センターコア1113を取り巻くように主一次コイル111aおよび副一次コイル111bを配置し、更にその外側に二次コイル112を配置する。
【0022】
主一次コイル111aの一方端は、例えば第2接続端子152bを介して直流電源4と接続され、電源電圧VB+(例えば、12V)が印加される。主一次コイル111aの他方端は、主スイッチ素子12および第5接続端子152eを介して接地点GNDに接続される。
【0023】
上記主スイッチ素子12は、主一次コイル111aへの通電・遮断を行うための主スイッチ手段であり、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を用いて構成する。すなわち、点火コイルユニット10は、イグニッションコイルとイグナイタをケース15内に封止したユニット構造である。なお、主スイッチ素子12の制御端子であるゲートGは、例えば第4接続端子152dを介して内燃機関駆動制御装置3に接続され、点火制御手段31が生成する点火信号SiによってON・OFF制御される。
【0024】
上記のように、点火信号Siによって主スイッチ素子12がONになり、主一次コイル111aに通電されると、主一次電流I1aが流れることで順方向の磁束が増加し、主スイッチ素子12がOFFになって主一次電流I1aが遮断されると、順方向の磁束が急激に減ぜられ(見かけ上、順方向の磁束と逆向きの遮断磁束が生じ)、この磁束変化を妨げる向きの磁界を生じさせるように、二次コイル112側に高電圧が発生し、点火プラグ2の放電ギャップ間に放電火花が生じ、二次電流I2が流れる。このように、主一次コイル111aに対する通電・遮断制御によって点火プラグ2を放電させる制御を、以下では、通常放電制御という。
【0025】
上記二次コイル112は、一方端が高圧端子151を介して点火プラグ2に接続され、他方端は第6接続端子152fを介して接地点GNDに接続される。なお、第6接続端子152fと接地点GNDとの間には電流検出抵抗61を設け、第6接続端子152fと電流検出抵抗621の間に設けた二次電流検出信号線を介して、二次電流検出信号Di2が内燃機関駆動制御装置3へ供給されるようにする。すなわち、電流検出抵抗61と二次電流検出信号線は、二次コイル112に流れる二次電流I2を検出する二次電流検出手段として機能する。
【0026】
次に、第1,第2副スイッチ素子51,52によって、通電・遮断タイミングが制御される副一次コイル111bについて説明する。
【0027】
副一次コイル111bは、例えば、副一次コイル111bの一方端である第1端111b1から他方端である第2端111b2へ至る向きの通電により、遮断磁束と同方向の追加磁束が生じる。そして、副一次コイル111bの第1端111b1は、例えば第1接続端子152aを介して第1副スイッチ素子51に接続され、副一次コイル111bの第2端111b2は、例えば第3接続端子152cを介して第2副スイッチ素子52に接続される。
【0028】
したがって、第1,第2副スイッチ素子51,52が、副一次コイル111bの第1端111b1を給電側に、第2端111b2を接地側にすると、副一次コイル11bは第1方向に通電されることとなる。逆に、第1,第2副スイッチ素子51,52が、副一次コイル111bの第2端111b2を給電側に、第1端111b1を接地側にすると、副一次コイル11bは第2方向に通電されることとなる。
【0029】
なお、副一次コイル111bにおける第1方向および第2方向は、主一次コイル111aとの配置状態によって定まる。例えば、副一次コイル111bの巻回方向と主一次コイル111bの巻回方向が同じになるよう配置されているときは、主一次コイル111bへの通電方向と同じ方向を第1方向として通電すれば、副一次コイル111bに順方向の磁束が生じる。逆に、副一次コイル111bの巻回方向と主一次コイル111bの巻回方向が逆向きになるよう配置されているときは、主一次コイル111bへの通電と逆方向を第1方向として通電すれば、順方向の磁束が生じる。
【0030】
上記のように構成した副一次コイル111bに対し、前述した主一次コイル111aによる通常放電制御と同じタイミングで、第1方向へ通電を行うと、主一次コイル11aと同じ順方向の磁束が生じ、その後、通常放電制御と同じタイミングで副一次コイル111bへの通電遮断を行うと、主一次コイル111aと副一次コイル111bの順方向磁束が同時に急減するので、二次側に与える放電エネルギを高めることができる。すなわち、点火タイミングの前(主一次コイル111aへの通電遮断タイミングの前)に副一次コイル111bによって順方向磁束を発生させておき、主一次コイル111aと同時に副一次コイル111bへの通電遮断を行えば、副一次コイル111bによって放電エネルギを重畳して二次コイル112に与えることができる。
【0031】
また、点火タイミング以降(主一次コイル111aへの通電遮断タイミング以降)の適宜なタイミングで、副一次コイル111bに対し、第2方向への通電を行うと、逆方向の磁束(二次側に高電圧を発生させた磁界と同じ向きの磁束)が生じ、二次側の磁界が減衰して二次側起電力が低下してゆくことを抑制できるので、副一次コイル111bへの通電遮断を行うまで二次電流I2を高く維持できる。すなわち、点火タイミングの後に副一次コイル111bによって逆方向の磁束を発生させて二次コイル112に作用させれば、副一次コイル111bによって放電エネルギを重畳して二次コイル112に与えることができる。
【0032】
なお、副一次コイル111bに対する第2方向への通電を遮断するタイミングは、二次電流I2を気筒内での好適な燃焼に必要な高電流に維持するために必要十分な時間が経過したときであり、それ以上の長時間に亘って副一次コイル111bへの第2方向通電を続けると、却って燃費を悪くしてしまう。このような副一次コイル111bに対する望ましい通電・遮断のタイミングは、一定の値に定まるものではなく、内燃機関の構造や点火コイルの特性、運転状況等によって様々に変化するので、内燃機関用点火装置1に適した設定値あるいは設定情報(設定値を求める演算式や対照表など)を内燃機関駆動制御装置3の点火制御手段31に予め記憶させておけば良い。
【0033】
また、副一次コイル111bへの第2方向通電を遮断したとき、その逆起電力が主一次コイル111aに作用するため、通常の一次電流I1とは逆向きの電流を流そうとする逆方向の電圧が主スイッチ素子12のコレクタ−エミッタ間に印加されることとなり、主スイッチ素子12が故障したり、主スイッチ素子12の劣化を早めたりする危険性がある。そこで、主スイッチ素子12と並列にバイパス線路13を設けると共に、このバイパス線路13の接地点GND側から点火コイル11側に向かって順方向となる整流手段14(例えば、主スイッチ素子12のコレクタ側にカソードを、主スイッチ素子12のエミッタ側にアノードをそれぞれ接続したダイオード)を設けてある。
【0034】
次に、副一次コイル111bへ第1方向の通電を行える順方向磁束発生状態と、副一次コイル111bへ第2方向の通電を行える逆方向磁束発生状態と、を相互に切り替え可能な副一次コイル磁束発生状態切替手段である第1,第2副スイッチ素子51,52の一構成例について説明する
【0035】
第1副スイッチ素子51は、直流電源4から副一次コイル111bへの通電・遮断を切り替える副スイッチ手段として機能する。例えば、第1副スイッチ素子51は、高速スイッチング特性を備えるパワーMOS−FETを用いて構成し、第1副スイッチ素子51のドレインDが直流電源4側に、第1副スイッチ素子51のソースSが副一次コイル111bの第2端111b2側に接続され、第1副スイッチ素子51のゲートGには点火制御手段31からの副一次コイル通電信号Sdが入力される。したがって、点火制御手段31から第1副スイッチ素子51に入力される副一次コイル通電信号SdのON/OFFに応じて第1副スイッチ素子51がON/OFFになり、副一次コイル111bの第1端111b1に直流電源4から電源電圧VB+が印加あるいは遮断されることとなる。なお、副一次コイル111bへ印加する電圧を高くするために、VB+の直流電源4を用いずに、より高圧の直流電源を用いるようにしても良い。或いは、昇圧回路7(図1中、二点鎖線で示す)を設けて、副一次コイル111bへの印加電圧を高めるようにしても良い。
【0036】
第2副スイッチ素子52は、副一次コイル111bへの通電を行えるように、副一次コイル111bの第2端111b2側を接地点GNDへ切り替える副一次コイル通電許可手段として機能する。例えば、第2副スイッチ素子52は、高速スイッチング特性を備えるパワーMOS−FETを用いて構成し、第2副スイッチ素子52のドレインDが副一次コイル111bの第2端111b2側に、第2副スイッチ素子52のソースSが接地点GND側に接続され、第2副スイッチ素子52のゲートGには点火制御手段31からの副一次コイル通電許可信号Spが入力される。したがって、点火制御手段31から第2副スイッチ素子52に入力される副一次コイル通電許可信号SpのON/OFFに応じて第2副スイッチ素子52がON/OFFになり、副一次コイル111bの第2端111b2が接地点GNDに接続されることとなる。なお、第2副スイッチ素子52と接地点GNDとの間には、電流検出抵抗62を設け、第2副スイッチ素子52と電流検出抵抗62との間に設けた副一次電流検出信号線を介して、副一次電流検出信号Di1sが内燃機関駆動制御装置3へ入力される。すなわち、電流検出抵抗62と副一次電流検出信号線は、副一次コイル111bに流れる副一次電流を検出する副一次電流検出手段として機能する。
【0037】
ここで、上述した第1実施形態の内燃機関用点火装置1における点火制御手段31による制御例を、図2に基づいて説明する。
【0038】
図2の前段は、通常放電制御を示すもので、1回の燃焼サイクル中に主一次コイル111aのみを使って放電エネルギを二次コイル112に与える基本的な制御である。まず、燃焼サイクル中の所定タイミングで点火信号SiがONになると、主スイッチ素子12がONとなって、主一次電流I1aが流れる。主一次コイル111aへの通電から時間経過に伴って、主一次電流I1aは飽和電流に達するまで増加してゆき、主一次コイル111aにエネルギが蓄積される。そして、点火タイミングで点火信号SiがOFFになると(信号レベルがHからLになると)、主一次コイル111aに蓄積されたエネルギに応じた起電力が二次側に生じて、二次電流I2が流れると共に点火プラグ2の電極間に絶縁破壊を起こして、気筒内に放電火花を生じさせる(容量放電)。その後も、二次コイル112に与えられた磁気エネルギの放出による放電(誘導放電)が0.5〜2.5ms程度続くが、二次コイル112に生じた起電力は次第に弱まり、二次電流I2も減衰してゆく。
【0039】
図2の後段は、重畳放電制御を示すもので、主一次コイル111aへの通電・遮断による点火タイミング以降に、第1,第2副スイッチ素子51,52を制御して副一次コイル111bへ通電開始し、副一次コイル111bから誘導放電を維持するために必要十分なエネルギを二次側に与える制御である。
【0040】
まず、燃焼サイクル中の所定タイミングで点火信号SiがONになると、主スイッチ素子12がONとなって、主一次電流I1aが流れる。主一次コイル111aへの通電から時間経過に伴って、主一次電流I1aは飽和電流に達するまで増加してゆき、主一次コイル111aにエネルギが蓄積される。そして、点火タイミングで点火信号SiがOFFになると(信号レベルがHからLになると)、主一次コイル111aに蓄積されたエネルギに応じた起電力が二次側に生じて、二次電流I2が流れると共に点火プラグ2の電極間に絶縁破壊が起き、気筒内に放電火花が生じる(容量放電)。
【0041】
上記のようにして点火プラグ2に容量放電が生じ、放電電流が流れ始めた後、例えば、容量放電から誘導放電へ移行するタイミング(例えば、点火信号SiのOFFから所定の重畳放電待機時間Tpreが経過したタイミング)で、点火制御手段31が副一次コイル通電許可信号SpをON(例えば、信号レベルをLからH)にすると共に、副一次コイル通電信号SdをONにする。なお、図2に示す例では、副一次コイル通電信号Sdのデューティー比を変えるPWM制御を行うことで、副一次コイル111bへの供給電力を調整するものとした。
【0042】
そして、副一次コイル111bを流れる副一次電流(以下、重畳電流I1bという)は、飽和電流に達するまで徐々に増加してゆき、逆方向の磁束(点火タイミング後に二次コイル112に生じた磁界と同じ向きの重畳磁束)も増加してゆく(図2の重畳電流波形中、網掛けで示す)。したがって、二次コイル112の電磁エネルギ放出による二次電流I2の低下を補うように、副一次コイル111bに生じた重畳磁束が二次コイル112に作用することとなり、二次電流I2が高電流のまま保持され(図2の二次電流波形中、網掛けで示す)、気筒内燃焼に好適な高電流期間を効率良く長期化できる。
【0043】
その後、好適な気筒内燃焼に必要十分な高電流の維持期間(高電流期間)が経過すると、点火制御手段31が副一次コイル通電許可信号Spおよび副一次コイル通電信号SdをOFFにする。これにより、副一次コイル111bによる逆方向の磁束が二次コイル112に作用しなくなるので、以降は二次コイル112の電磁エネルギ放出のみによる低い二次電流I2が流れることとなり、やがて二次電流I2が帰零する。なお、副一次コイル通電許可信号SpをONにする通電許可期間Tb1と、直流電源4から副一次コイル111bへの給電を行う通電期間Tb2は、同一期間にしても良いし、通電許可期間Tb1の方が通電期間Tb2よりも若干長くなるようにしても良い。
【0044】
上述したように、点火制御手段31が重畳放電制御を行えば、点火信号SiのON時間を長くすることなく、二次コイル112に与える放電エネルギを増大させ、点火プラグ2の電極間を流れる放電電流を高電流に維持できる期間を長期化できる。しかも、副一次コイル111bから二次コイル112に作用させる重畳磁束は、気筒内燃焼を好適に維持するために必要十分な高電流を発生・維持できる程度で良いことから、副一次コイル111bへの通電に要するエネルギは低く抑えることができ、燃費効率の向上に有効である。
【0045】
加えて、本実施形態の内燃機関用点火装置1においては、点火制御手段31が副一次コイル通電信号Sdによって第1副スイッチ素子51をPWM制御可能であるから、重畳放電制御において副一次コイル111bに流す重畳電流I1bを適宜に増減させることで、過不足の無い適切な放電エネルギを二次側に与えることができ、更なる燃費効率向上を期待できる。かくするために、点火制御手段31では、予め設定された副一次電流目標値を記憶しており、副一次電流検出手段により検出された副一次電流検出値(副一次電流検出信号Di1sによって得られる重畳電流I1bの値)と副一次電流目標値とを比較し、副一次電流検出値を副一次電流目標値へ近づけるように、副一次コイルへの供給電力を制御する副一次電流フィードバック制御を行うのである。
【0046】
なお、実測値を目標値へ近づけるフィードバック制御としては、公知既存の種々の技術を適用可能であるが、本実施形態の内燃機関用点火装置1においては、点火制御手段31から第1副スイッチ素子51へ出力する副一次コイル通電信号Sdのデューティー比を、予め定めた単位期間Tu毎に変更可能とし、副一次電流検出値と副一次電流目標値との比較結果に応じて、次の単位期間Tuにおける副一次コイル通電信号Sdのデューティー比を高めたり、低めたりするものとした。このフィードバック制御の一例を、図3に基づき説明する。図3(a)は、副一次電流検出値が副一次電流目標値とほぼ一致している場合を示し、図3(b)は、副一次電流検出値と副一次電流目標値とのズレが修正を要するほど大きかったためにフィードバック制御を行った場合を示す。
【0047】
なお、目標値と検出値との誤差比較手法についても、公知既存の様々な手法を適用できるが、本例では、単位期間Tuのほぼ中間付近で、副一次電流検出値が副一次電流目標値に一致していれば、目標通りの放電エネルギが発生しているものと判断する。また、単位期間Tuの前期間で、副一次電流検出値が副一次電流目標値に達しているか、単位期間Tuの始まる前に副一次電流検出値が副一次電流目標値を越えていれば、過剰な放電エネルギが発生しているものと判断する。逆に、単位期間Tuの後期間で、副一次電流検出値が副一次電流目標値にようやく達するか、単位期間Tuが経過しても副一次電流検出値が副一次電流目標値に達していなければ、本来必要な放電エネルギを発生できていないものと判断する。
【0048】
図3(a)にて順に説明すると、第1単位期間Tu1においては、通常のデューティー比となる副一次コイル通電信号Sdを出力し、その間に重畳電流I1bとして得られる副一次電流検出値は第1単位期間Tu1の中間付近で副一次電流目標値と一致しているので、次の第2単位期間Tu2でも通常のデューティー比となる副一次コイル通電信号Sdを出力する。以下、第2〜第4単位期間Tu2〜Tu4においても同様に、各期間の中間付近で副一次電流検出値が副一次電流目標値と一致しているので、次の単位期間でも通常のデューティー比となる副一次コイル通電信号Sdを出力する。
【0049】
副一次電流目標値は、本来、点火プラグ2に放電火花を安定的に発生させる上で良好な重畳電流I1bを得るために設定したものであるから、上述した図3(a)のように副一次電流検出値が副一次電流目標値と一致して、適切な放電エネルギを重畳できることが理想であるが、車両の走行環境やエンジン負荷などで、理想通りの重畳電流I1bを得ることができない場合もある。このような場合に、実際の重畳電流I1bをモニタリングして、理想の重畳電流I1bが得られるようにフィードバック制御を行えば、重畳放電によるエネルギの過不足を無くすことができる。
【0050】
図3(b)にて順に説明すると、第1単位期間Tu1においては、通常のデューティー比となる副一次コイル通電信号Sdを出力し、その間に重畳電流I1bとして得られる副一次電流検出値は第1単位期間Tu1のやや後期間で副一次電流目標値と一致しているので、重畳電流I1bが理想とする電流値よりも低いと判断し、次の第2単位期間Tu2ではデューティー比を高めた副一次コイル通電信号Sdを出力する。
【0051】
なお、デューティー比を高めたり、低めたりする場合、高デューティー比出力と低デューティー比出力をそれぞれ予め定めておき、デューティー比を高める場合には高デューティー比出力を副一次コイル通電信号Sdに適用し、デューティー比を低める場合には低デューティー比出力を副一次コイル通電信号Sdに適用するようにしても良いし、副一次電流目標値と副一次電流検出値との誤差値に応じたデューティー比のパルス信号を生成して、副一次コイル通電信号Sdに適用するようにしても良い。
【0052】
デューティー比を高めた副一次コイル通電信号Sdを出力している第2単位期間Tu2においても、やや後期間で副一次電流検出値が副一次電流目標値と一致しているので、未だ重畳電流I1bが理想とする電流値よりも低いと判断し、次の第3単位期間Tu3でもデューティー比を高めた副一次コイル通電信号Sdを出力する。デューティー比を高めた副一次コイル通電信号Sdを出力している第3単位期間Tu3においては、ほぼ中間付近で副一次電流検出値が副一次電流目標値と一致しているので、適切な重畳電流I1bが供給されるようになったものと判断し、次の第4単位期間Tu4は通常のデューティー比となる副一次コイル通電信号Sdを出力する。通常のデューティー比となる副一次コイル通電信号Sdを出力している第4単位期間Tu4においては、やや前期間で副一次電流検出値が副一次電流目標値と一致しているので、重畳電流I1bが理想とする電流値よりも高いと判断し、次の第5単位期間Tu5ではデューティー比を低めた副一次コイル通電信号Sdを出力する。これにより、第5単位期間Tu5では重畳電流I1bが理想とする電流値となるように抑制できるのである。
【0053】
以上のように、点火制御手段31が、予め定めた単位期間毎に副一次電流目標値と副一次電流検出値との比較を行い、比較結果に応じて次の単位期間における副一次コイル111bへの供給電力制御を行うようにすれば、副一次電流目標値として設定した理想的波形の重畳電流I1bを得ることができる。
【0054】
しかしながら、副一次電流目標値として設定した重畳電流I1bの波形で、必ずしも理想とする二次電流I2を得られるとは限らない。そこで、点火制御手段31は、予め設定された二次電流目標値と、二次電流検出手段により検出された二次電流検出値とを比較し、二次電流検出値を二次電流目標値へ近づけるように、副一次電流目標値を設定変更するものとした。
【0055】
なお、二次電流の実測値を二次電流の目標値へ近づけるフィードバック制御としては、公知既存の種々の技術を適用可能であるが、本実施形態の内燃機関用点火装置1においては、二次電流目標値として許容できる範囲内に二次電流実測値が収まっているか、許容範囲のしきい値を越えているかで、副一次電流目標値の変更制御を行うものとした。例えば、許容し得る二次電流の上限として予め定めた二次電流目標上限値と、許容し得る二次電流の下限として予め定めた二次電流目標下限値とを用い、二次電流目標上限値および二次電流目標下限値を二次電流検出値と比較し、二次電流目標上限値よりも二次電流検出値が高い場合には二次電流を下げるように副一次電流目標値を設定変更し、二次電流目標下限値よりも二次電流検出値が低い場合には二次電流を上げるように前記副一次電流目標値を設定変更するのである。かくすれば、目標とする二次電流I2が得られるように副一次電流目標値が変更され、この変更された副一次電流目標値へ重畳電流I1bを近づけるような副一次コイル通電信号Sdが出力されることとなる。
【0056】
このフィードバック制御の一例を、図4に基づき説明する。図4(a)は、二次電流検出値が二次電流目標値とほぼ一致している場合(二次電流目標上限値と二次電流目標下限値との間の許容範囲に収まっている場合)を示し、図4(b)は、二次電流検出値が二次電流目標上限値を超えることで副一次電流目標値変更条件が成立した状況を含む場合を示し、図4(c)は、二次電流検出値が二次電流目標下限値を下回ることで副一次電流目標値変更条件が成立した状況を含む場合を示す。
【0057】
図4(a)においては、第1単位期間Tu1〜第7単位期間Tu7の何れにおいても、二次電流検出値は、二次電流目標上限値と二次電流目標下限値との間の許容範囲に収まっているので、副一次電流目標値変更条件は成立せず、予め設定されている副一次電流目標値が使用される。なお、デフォルト設定となる副一次電流目標値は、基準期間Tuが経過する毎に、副一次電流目標値が段階的に基準レベルだけ上がって行くものである。例えば、第1基準期間Tu1は出力レベル1、第2基準期間Tu2は出力レベル2、第3基準期間Tu3は出力レベル3、第4基準期間Tu4は出力レベル4、第5基準期間Tu5は出力レベル5、第6基準期間Tu6は出力レベル6、第7基準期間Tu7は出力レベル7といった具合に、出力レベルが段階的に上がって行くのが、予め設定されている副一次電流目標値である。
【0058】
図4(b)では、二次電流検出値が二次電流目標上限値を超えることで副一次電流目標値変更条件が成立し、副一次電流目標値を変更する制御を行う。まず、第1基準期間Tu1においては、予め設定されている副一次電流目標値の通り出力レベル1の設定であるが、この第1基準期間Tu1の間に二次電流I2の実測値が二次電流目標上限値を超えたので、二次電流I2を低減させて許容範囲に収めるため、次の第2基準期間Tu2では出力レベル2へ移行させずに出力レベル1のままとする。出力レベル1のままである第2基準期間Tu2において、未だ二次電流I2の実測値が二次電流目標上限値を超えたままなので、二次電流I2を更に低減させて許容範囲に収めるため、次の第3基準期間Tu3でも出力レベル2へ移行させずに出力レベル1のままとする。
【0059】
出力レベル1のままである第3基準期間Tu3において、二次電流I2の実測値が二次電流目標上限値より下がり、許容範囲に収まったので、次の第4基準期間Tu4では出力レベル2へ移行させる。出力レベル2にアップした第4基準期間Tu4では、二次電流検出値が二次電流目標上限値と二次電流目標下限値との間の許容範囲に収まっているので、副一次電流目標値変更条件は成立せず、次の第5基準期間Tu5では目標値を出力レベル3にアップする。出力レベル3にアップした第5基準期間Tu5では、再び二次電流I2の実測値が二次電流目標上限値を超えたので、二次電流I2を低減させて許容範囲に収めるため、次の第6基準期間Tu6では出力レベル4へ移行させずに出力レベル3のままとする。
【0060】
出力レベル3のままである第6基準期間Tu6において、二次電流I2の実測値が二次電流目標上限値より下がり、許容範囲に収まったので、次の第7基準期間Tu7では出力レベル4へ移行させる。以後の第7基準期間Tu7〜第9基準期間Tu9では、いずれも二次電流検出値が二次電流目標上限値と二次電流目標下限値との間の許容範囲に収まっているので、副一次電流目標値変更条件は成立せず、基準期間Tu毎に出力レベルを1ずつ上げて行くので、デフォルト設定の副一次電流目標値と同様、第7基準期間Tu7〜第9基準期間Tu9では目標値の出力レベルが段階的に上がって行く。
【0061】
図4(c)では、二次電流検出値が二次電流目標下限値を下回ることで副一次電流目標値変更条件が成立し、副一次電流目標値を変更する制御を行う。まず、第1基準期間Tu1においては、予め設定されている副一次電流目標値の通り出力レベル1の設定であるが、この第1基準期間Tu1の間に二次電流I2の実測値が二次電流目標上限値を超えたので、二次電流I2を低減させて許容範囲に収めるため、次の第2基準期間Tu2では出力レベル2へ移行させずに出力レベル1のままとする。出力レベル1のままである第2基準期間Tu2において、二次電流I2の実測値が二次電流目標上限値より下がり、許容範囲に収まったので、副一次電流目標値変更条件は成立せず、次の第3基準期間Tu3では目標値を出力レベル2にアップする。
【0062】
出力レベル2にアップした第3基準期間Tu3では、二次電流I2の実測値が二次電流目標下限値を下回ったので、二次電流I2を増加させて許容範囲に収めるため、次の第4基準期間Tu4では目標値を2段階上げて、出力レベル4へ移行させる。出力レベル4にアップした第4基準期間Tu4において、二次電流I2の実測値が二次電流目標下限値を上回り、許容範囲に収まったので、次の第5基準期間Tu7では目標値を1段階上げて、出力レベル5へ移行させる。以後の第5基準期間Tu5〜第9基準期間Tu9では、いずれも二次電流検出値が二次電流目標上限値と二次電流目標下限値との間の許容範囲に収まっているので、副一次電流目標値変更条件は成立せず、基準期間Tu毎に出力レベルを1ずつ上げて行くので、デフォルト設定の副一次電流目標値と同様、第5基準期間Tu5〜第9基準期間Tu9では出力レベルが段階的に上がって行く。
【0063】
上記のように設定変更された副一次電流目標値は、前述した通り、副一次電流検出値と対比され、副一次電流通電信号Sdの生成が行われる。すなわち、デフォルト設定の副一次電流目標値よりも高い出力レベルに設定変更された場合には、デューティー比を高めた副一次コイル通電信号Sdを出力するので、重畳電流I1bを増大させて二次側に与える放電エネルギを大きくでき、二次電流I2の高電流期間を確保して好適な燃焼を実現できる。また、デフォルト設定の副一次電流目標値よりも低い出力レベルに設定変更された場合には、デューティー比を低めた副一次コイル通電信号Sdを出力するので、重畳電流I1bが低く抑えられて二次電流I2を低く抑えることができ、高い燃費改善効果を期待できる。
【0064】
上述した第1実施形態の内燃機関用点火装置1においては、主一次コイル111aとは別途設けた副一次コイル111bにより発生させた重畳磁束を二次コイル112に作用させて、必要十分な放電エネルギを二次側に与える重畳放電制御を行うもので、この重畳放電制御をより効率良くするために、重畳電流I1bおよび二次電流I2の実測値を用いたフィードバック制御を行う事ができる。
【0065】
しかしながら、点火プラグ2の放電制御においては、点火コイル11に印加される二次電圧が最も点火プラグ2の放電状態を表すものである。二次電圧は、例えば、高圧端子151から接地点GNDの電圧であるが、この電圧は、二次コイル112を介して主一次コイル111a1に模擬される。すなわち、主スイッチ素子12が非動作状態のとき、主一次コイル111a1の電圧を検知できれば、二次電圧の状態を知ることができるので、二次電圧の状態に応じたフィードバック制御が可能になる。例えば、超希薄燃焼の場合、点火プラグ2の電極間における絶縁耐圧が所定電圧よりも高くなるため、所定電圧よりも高い高電圧で初期着火が行われるが、初期火炎を成長させるに十分な放電電流が供給されないと、初期火炎が成長せずに吹き飛び等で失火してしまう。このようなとき、初期火炎を自立成長させるためには、高電流期間の電流値をより高めるような制御が必要となる。
【0066】
そこで、図5に示す第2実施形態の内燃機関用点火装置1′においては、点火コイルユニット10′の主一次コイル111aと主スイッチ素子12との間(ただし、バイパス線路13よりも主一次コイル111a側)に、点火コイル11の一次側電圧を検出する一次コイル電圧検出手段としての一次コイル電圧取得線路16を設け、第7接続端子152gを介して、点火制御手段31へ一次コイル電圧検出信号Dv1を供給する。この一次コイル電圧検出信号Dv1より入力される一次コイル電圧の検出値は、主スイッチ素子12がOFFになってコイル二次側に放電エネルギが供給された後、点火コイル2の放電が継続している間は、二次電圧波形を模擬した電圧波形となる(例えば、図6の一次コイル電圧検出信号Dv1の波形と二次電圧の波形を参照)。
【0067】
そこで、点火制御手段31は、一次コイル電圧の検出値が、所定の傾斜角度よりも早く所定電圧以上に上昇した時、二次電流目標値を増加させるように設定変更する。例えば、二次電流目標値を増加させるための変更条件が成立しなかった場合(所定の傾斜角度以下で所定電圧に上昇した場合)は、デフォルト設定の二次電流目標値で良好な燃焼を維持できるので、デフォルト設定の二次電流目標値を維持し、この二次電流目標値による副一次電流目標値の変更設定および副一次コイル通電信号Sdの生成が行われる(図6の前段を参照)。一方、二次電流目標値を増加させるための変更条件が成立した場合(所定の傾斜角度よりも早く所定電圧に上昇した場合)は、デフォルト設定の二次電流目標値では良好な燃焼を維持できないと考えられるので、デフォルト設定の二次電流目標値をより高い二次電流目標値に変更(例えば、二次電流目標上限値と二次電流目標下限値との許容範囲を変更せずに、二次電流目標上限値と二次電流目標下限値を均等に高くした二次電流目標補正上限値と二次電流目標補正下限値を設定)し、この二次電流目標補正値に基づく副一次電流目標値の変更設定制御および副一次コイル通電信号Sdの生成制御が行われる(図6の後段を参照)。
【0068】
したがって、第2実施形態にかかる内燃機関用点火装置1′によれば、点火コイル2に印加される二次電圧の状態に応じた適切なフィードバック制御が可能になるので、さらに良好な燃焼を実現できると共に、高い燃費改善効果を期待できる。
【0069】
上述した第1,第2実施形態に係る内燃機関用点火装置1,1′は、何れも一つの気筒のみ示したが、複数の気筒で構成される内燃機関の場合、気筒毎に第1,第2副スイッチ素子51,52、副一次電流検出手段、二次電流検出手段等を設けても良いし、各気筒に対応した第1、第2副スイッチ素子51,52等の全てを単一ケースに収納した統括ユニットとし、この統括ユニットと各気筒の点火コイルユニット10,10′とを接続するようにしても良い。
【0070】
以上、本発明に係る内燃機関用点火装置のいくつかの実施形態を添付図面に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない範囲で、公知既存の等価な技術手段を転用することにより実施しても構わない。
【符号の説明】
【0071】
1 内燃機関用点火装置
10 点火コイルユニット
11 点火コイル
111a 主一次コイル
111b 副一次コイル
112 二次コイル
12 主スイッチ素子
2 点火プラグ
3 内燃機関駆動制御装置
31 点火制御手段
4 直流電源
51 第1副スイッチ素子
52 第2副スイッチ素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6