(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6739709
(24)【登録日】2020年7月28日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】アクアポニックスシステム
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20200730BHJP
A01K 63/00 20170101ALI20200730BHJP
A01K 63/04 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
A01G31/00 601Z
A01K63/00 C
A01K63/04 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-20231(P2020-20231)
(22)【出願日】2020年2月9日
【審査請求日】2020年2月10日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517042782
【氏名又は名称】株式会社アクポニ
(74)【代理人】
【識別番号】100140693
【弁理士】
【氏名又は名称】木宮 直樹
(72)【発明者】
【氏名】濱田 健吾
【審査官】
吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0297097(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
A01K 63/00
A01K 63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体により野菜を育てるための水耕栽培装置及び魚を育てるための魚介類飼育装置の一方が有し液体を貯留する第1の貯留槽と前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の他方が有し液体を貯留する第2の貯留槽とを連通する第1の連通路と、
前記第1の連通路を介し前記第1の貯留槽と前記第2の貯留槽との間で液体を授受する、又は前記第1の連通路を介し前記第1の貯留槽から前記第2の貯留槽へ液体を供給する第1の供給手段と、
前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記一方により育てられる第1の生産物が収容される第1のベッドと、前記第1の貯留槽とを連通する前記第2の連通路であって、前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記他方により育てられる第2の生産物が収容可能な第2のベッドに連通可能である前記第2の連通路と、
前記第2の連通路を介し前記第1の貯留槽から前記第2のベッドへ液体を供給する第2の供給手段と、を備え、
前記第2の供給手段により前記第2の連通路を介し前記第1の貯留槽から前記第1のベッドへ液体が供給され前記第2のベッドへの液体が供給されず、
前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記他方が有し前記第2のベッドと前記第2の貯留槽とを連通する第3の連通路を介し前記第2の貯留槽の前記液体を前記第2のベッドへ供給する第3の供給手段により前記第3の連通路を介し前記第2の貯留槽から前記第2のベッドへ液体が供給され、
前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置が互いに独立して作動する際には、前記第1の供給手段による前記第1の連通路を介する液体の供給が停止されることを特徴とするアクアポニックスシステム。
【請求項2】
液体により野菜を育てるための水耕栽培装置及び魚を育てるための魚介類飼育装置の一方が有し液体を貯留する第1の貯留槽と前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の他方が有し液体を貯留する第2の貯留槽とを連通する第1の連通路と、
前記第1の連通路を介し前記第1の貯留槽と前記第2の貯留槽との間で液体を授受する、又は前記第1の連通路を介し前記第1の貯留槽から前記第2の貯留槽へ液体を供給する第1の供給手段と、
前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記一方により育てられる第1の生産物が収容される第1のベッドと前記第1の貯留槽とを連通する前記第2の連通路であって、前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記他方により育てられる第2の生産物が収容可能な第2のベッドに連通可能である前記第2の連通路と、
前記第2の連通路を介し前記第1の貯留槽から前記第2のベッドに前記第1の貯留槽の前記液体を供給する第2の供給手段と、を備え、
前記第1の供給手段により前記第1の連通路を介し前記第1の貯留槽と前記第2の貯留槽との間で液体が授受され、
前記第2の供給手段により前記第2の連通路を介し前記第1の貯留槽から前記第2のベッドへ液体が供給され、
前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記他方が有し前記第2のベッドと前記第2の貯留槽とを連通する第3の連通路を介し前記第2の貯留槽の前記液体を前記第2のベッドへ供給する第3の供給手段により前記第3の連通路を介し前記第2の貯留槽から前記第2のベッドへの液体の供給が停止されることを特徴とするアクアポニックスシステム。
【請求項3】
液体により野菜を育てるための水耕栽培装置及び魚を育てるための魚介類飼育装置の一方が有し液体を貯留する第1の貯留槽と前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の他方が有し液体を貯留する第2の貯留槽とを連通する第1の連通路と、
前記第1の連通路を介し前記第1の貯留槽と前記第2の貯留槽との間で液体を授受する、又は前記第1の連通路を介し前記第1の貯留槽から前記第2の貯留槽へ液体を供給する第1の供給手段と、
前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記一方により育てられる第1の生産物が収容される第1のベッドと、前記第1の貯留槽とを連通する前記第2の連通路であって、前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記他方により育てられる第2の生産物が収容可能な第2のベッドに連通可能である前記第2の連通路と、
前記第2の連通路を介し前記第1の貯留槽から前記第2のベッドへ液体を供給する第2の供給手段と、を備え、
前記第1の供給手段により前記第1の連通路を介し前記第1の貯留槽から前記第2の貯留槽へ液体が供給され、
前記第2の供給手段により前記第2の連通路を介し前記第1の貯留槽から前記第1のベッドへ液体が供給され前記第2のベッドへの液体が供給されず、
前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記他方が有し前記第2のベッドと前記第2の貯留槽とを連通する第3の連通路を介し前記第2の貯留槽の前記液体を前記第2のベッドへ供給する第3の供給手段により前記第3の連通路を介し前記第2の貯留槽から前記第2のベッドへ液体が供給されることを特徴とするアクアポニックスシステム。
【請求項4】
前記第2の貯留槽に貯留される前記液体の液量を計測できる第1の液量計測手段を備え、
前記第1の液量計測手段により計測される前記液量が所定の閾値を超えると前記第1の供給手段により前記第1の貯留槽に貯留される前記液体が前記第1の連通路を介し前記第2の貯留槽へ供給されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のアクアポニックかスシステム。
【請求項5】
前記第1の連通路が、第1及び第2の流体通路を有し、前記第1の供給手段が、第1のポンプ手段、第1の逆止弁、第1のゲートバルブを有し、
前記第1の貯留槽には前記第1のポンプ手段が装着可能であり、前記第1の流体通路には前記第1の逆止弁が装着可能であり、前記第2の流体通路には、前記第1のゲートバルブが装着可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のアクアポニックスシステム。
【請求項6】
前記第2の供給手段が、第2のポンプ手段、第2のゲートバルブを有し、
前記第1の貯留槽には前記第2のポンプ手段が装着可能であり、前記第2の連通路には前記第2のゲートバルブが装着可能であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のアクアポニックスシステム。
【請求項7】
前記第3の供給手段が、第3のポンプ手段、第3のゲートバルブを有し、
前記第2の貯留槽には前記第3のポンプ手段が装着可能であり、前記第3の連通路には前記第3のゲートバルブが装着可能であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のアクアポニックスシステム。
【請求項8】
前記第1のベッドから前記第2の貯留槽へ至る経路に装着可能な排液処理槽を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のアクアポニックスシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜等の植物を育てるための水耕栽培装置及び魚等の水生動物を飼育するための魚介類飼育装置を組み合わせて構成されるアクアポニックスシステムに関し、特に、養液栽培を実行する水耕栽培装置及び魚介類飼育装置を互いに独立して作動することや、水耕栽培装置及び魚介類飼育装置を組み合わせて循環型又は非循環型のアクアポニックスを実施することを、切り替え可能なアクアポニックスシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、生産物の成長に必要な養水分(化学肥料又は有機肥料)を液肥として利用する水耕栽培や、水耕栽培装置と魚を飼育するための魚介類飼育装置とを組み合わせて魚の飼育水を両装置間に循環させて生産物を育てる、循環型のアクアポニックスが利用されている。
【0003】
特許文献1は、アクアポニックスを利用するアクアポニックスシステムを開示する。従来のアクアポニックスシステムは、魚を養殖するための飼育槽の上に、植物が栽培される栽培ベッドが複数段配置され、各栽培ベッドには、ベルサイフォンが設けられる構成である。このベルサイフォンにより、液体が供給される倍以上の速さ及び勢いで液体を排出し排出管の詰まりや異物の付着が予防され、複数のベルサイフォンを連結した排出管から一気に液体を排出することで飼育槽に貯留した液体に十分な酸素を供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-139980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の特許文献1に開示されるアクアポニックスシステムを導入する場合、アクアポニックスシステム全体を購入し設置する必要があるため、例えば水耕栽培装置をすでに保有している使用者は、既設の水耕栽培装置とは別に、アクアポニックスシステムを新たに設置する必要があり設置作業の時間や費用が嵩み、アクアポニックスシステムへの移行が難しい。
【0006】
また、特許文献1のアクアポニックスシステムを導入することができた場合、養殖される魚介類が育つまでの期間は、水耕栽培装置の野菜が育ちにくい傾向を呈する。また、水耕栽培装置と魚介類飼育装置とに魚の飼育水を循環させるため、野菜と魚が同一の水質環境で育てられることになり、例えば適する温度や水素イオン指数(pH)が異なる野菜と魚を同一のアクアポニックスシステムで育てることが困難である。さらに、水耕栽培装置の野菜又は魚介類飼育装置の魚に病害虫が発生した場合、特許文献1のアクアポニックスでは、野菜及び魚の両方が被害を受ける恐れがある。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、既設の化学肥料を利用する水耕栽培装置又は魚介類飼育装置を所有している使用者であっても、既設の化学肥料を利用する水耕栽培装置及び魚介類飼育装置を独立して使用でき、また、循環型及び非循環型のアクアポニックスを選択的に実施できるアクアポニックスシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のアクアポニックスシステムの第1の態様は、液体により野菜を育てるための水耕栽培装置及び魚を育てるための魚介類飼育装置の一方が有し液体を貯留する第1の貯留槽105と前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の他方が有し液体を貯留する第2の貯留槽115とを連通する第1の連通路117,139と、
前記第1の連通路117,139を介し前記第1の貯留槽105と前記第2の貯留槽115との間で液体を授受する、又は前記第1の連通路117,139を介し前記第1の貯留槽105から前記第2の貯留槽115へ液体を供給する第1の供給手段119,129,131と、を備え、
前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置が互いに独立して作動する際には、前記第1の供給手段119,129,131による前記第1の連通路117,139を介する液体の供給が停止される。
【0009】
また、本発明のアクアポニックスシステムの第2の態様によれば、第1の態様のアクアポニックスシステムであって、前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記一方により育てられる第1の生産物が収容される第1のベッド101と前記第1の貯留槽105とを連通する前記第2の連通路109であって、前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記他方により育てられる第2の生産物が収容可能な第2のベッド107に連通可能である前記第2の連通路109と、
前記第2の連通路109を介し前記第1の貯留槽105から前記第2のベッド107に前記第1の貯留槽105の前記液体を供給する第2の供給手段111,121と、を備え、
前記第1の供給手段119、129、131により前記第1の連通路117、139を介し前記第1の貯留槽105と前記第2の貯留槽115との間で液体が授受され、
前記第2の供給手段111、121により前記第2の連通路109を介し前記第1の貯留槽105から前記第2のベッド107へ液体が供給され、
前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記
他方が有し前記第2のベッド107と前記第2の貯留槽115とを連通する第3の連通路123を介し前記第2の貯留槽115の前記液体を前記第2のベッド107へ供給する第3の供給手段125、127により前記第3の連通路123を介し前記第2の貯留槽115から前記第2のベッド107への液体の供給が停止される。
【0010】
さらに、本発明のアクアポニックスシステムの第3の態様によれば、第1の態様のアクアポニックスシステムであって、前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記一方により育てられる第1の生産物が収容される第1のベッド101と、前記第1の貯留槽105とを連通する前記第2の連通路109であって、前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記他方により育てられる第2の生産物が収容可能な第2のベッド107に連通可能である前記第2の連通路109と、
前記第2の連通路109を介し前記第1の貯留槽105から前記第2のベッド107へ液体を供給する第2の供給手段111,121と、を備え、
前記第1の供給手段119、129、131により前記第1の連通路117、139を介し前記第1の貯留槽105から前記第2の貯留槽115へ液体が供給され、
前記第2の供給手段111、121により前記第2の連通路109を介し前記第1の貯留槽105から前記第1のベッド101へ液体が供給され前記第2のベッド107への液体が供給されず、
前記水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の前記
他方が有し前記第2のベッド107と前記第2の貯留槽115とを連通する第3の連通路123を介し前記第2の貯留槽115の前記液体を前記第2のベッド107へ供給する第3の供給手段125、127により前記第3の連通路123を介し前記第2の貯留槽115から前記第2のベッド107へ液体が供給される。
【0011】
本発明のアクアポニックスシステムの第4の態様によれば、第1乃至第3の態様のいずれかのアクアポニックスシステムであって、前記第2の貯留槽115に貯留される前記液体の液量を計測できる第1の液量計測手段153を備え、
前記第1の液量計測手段153により計測される前記液量が所定の閾値を超えると前記第1の供給手段119により前記第1の貯留槽105に貯留される前記液体が前記第1の連通路117、139を介し前記第2の貯留槽115へ供給される。
【0012】
本発明の第5の態様によれば、第1乃至第4の態様のいずれかのアクアポニックスシステムであって、前記第1の連通路117、139が、第1及び第2の流体通路117、139を有し、前記第1の供給手段119、129、131が、第1のポンプ手段119、第1の逆止弁129、第1のゲートバルブ131を有し、
前記第1の貯留槽105には前記第1のポンプ手段119が装着可能であり、前記第1の流体通路117には前記第1の逆止弁129が装着可能であり、前記第2の流体通路139には、前記第1のゲートバルブ131が装着可能である。
【0013】
本発明の第6の態様によれば、第2乃至第5の態様のいずれかのアクアポニックスシステムであって、前記第2の供給手段111、121が、第2のポンプ手段111、第2のゲートバルブ121を有し、
前記第1の貯留槽105には前記第2のポンプ手段111が装着可能であり、前記第2の連通路109には前記第2のゲートバルブ121が装着可能である。
【0014】
本発明の第7の態様によれば、第2乃至第6の態様のいずれかのアクアポニックスシステムであって、前記第3の供給手段125、127が、第3のポンプ手段125、第3のゲートバルブ127を有し、
前記第2の貯留槽115には前記第3のポンプ手段125が装着可能であり、前記第3の連通路123には前記第3のゲートバルブ127が装着可能である。
【0015】
本発明の第8の態様によれば、第2乃至第7の態様のいずれかのアクアポニックスシステムであって、前記第1のベッド101から前記第2の貯留槽115へ至る経路に装着可能な排液処理槽を備える。
【0016】
なお、本明細書において、水耕栽培装置は、植物の養育に必要な養水分に化学肥料を用いる養液栽培を行うための装置や、化学肥料を利用せずに、家畜小屋の糞尿・敷きわらや堆肥等、動植物質の肥料を用いる有機栽培を行うための養液栽培装置を意味する。また、生産物とは、化学肥料の使用の有無に拘わらず、野菜、果物、果樹、花等の植物や、魚貝類等の水生動物を意味する。さらに、本明細書において、飼育水は、魚介の養殖に使用される水と水生動物から排出される糞、餌の残り等を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るアクアポニックスシステムによれば、水耕栽培装置及び前記魚介類飼育装置の一方のみを作動する際には、第1の供給手段による第1の連通路を介する液体の供給が停止される構成であるので、既設の水耕栽培装置及び魚介類飼育装置を互いに独立して使用でき、また、循環型及び非循環型のアクアポニックスを選択的に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)は、本発明の実施形態に係るアクアポニックスシステムの構成を示す図であり、(b)は、アクアポニックスシステムの主要構成を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態であるアクアポニックスシステムについて図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、同一の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0020】
図1(a)は、本発明の実施形態に係るアクアポニックスシステム1の構成を示す図であり、
図1(b)は、アクアポニックスシステム1の主要構成を模式的に示す模式図である。
【0021】
本実施形態は、養液栽培により野菜等の植物を育てるための水耕栽培装置3を所有している使用者が、アクアポニックスを実現すべく、アクアポニックスシステム1を導入した例である。
図1(a)に示されるように、アクアポニックスシステム1は、主として、魚を飼育するための魚介類飼育装置5が有し液体である淡水または海水を貯留する第1の貯留槽105と、水耕栽培装置3が有し液体を貯留する第2の貯留槽115とを連通する第1の連通路117,139と、第1の連通路117,139を介し第1の貯留槽105と第2の貯留槽115との間で液体を授受する第1の供給手段119,129,131と、を備える。
【0022】
以下に各構成要素について詳細に説明する。第1の貯留槽105は、第1の連通路117,139を介し第2の貯留槽115に連通する。また、第1の連通路は、第1の流体通路117と第2の流体通路139を有する。
図1(b)に示されるように、第1の流体通路117の一端部が第1の貯留槽105に連通し、他端部が第2の貯留槽115に連通し、第1の貯留槽105に配置されるポンプ手段である第1のポンプ119により第1の流体通路117を介し第2の貯留槽115に水が供給される。なお、第1の流体通路117の他端部側には、第1の逆止弁129が装着されており、第1の流体通路117を介し第2の貯留槽115に貯留されている液体が第1の貯留槽105へ逆流することが防止されている。さらに、第1のポンプ119が停止している場合には、第1の貯留槽105内の液体が第1の流体通路117を介し第2の貯留槽115へ供給されない。
【0023】
さらに、第2の流体通路139は、第1の貯留槽105と第2の貯留槽115との間で液体を授受可能に配置される管状部材である。本実施形態では、第1及び第2の貯留槽105,115の内部の底面と第2の流体通路139の内部の底部の高さとが同一に設定されている。また、第2の流体通路139の中間部には、バルブ手段である第1のゲートバルブ131が装着されている。したがって、第1のゲートバルブ131を開閉することにより、第2の流体通路139内を流れる水量を調整可能である。
【0024】
上記の通り、本実施形態の第1の連通路は、第1の流体通路117及び第2の流体通路139を有する構成とし、前者では第1のポンプ119及び第1の逆止弁129が協働し、後者では第1のゲートバルブ131を有する構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、第1及び第2の貯留槽105,115の間で液体を授受できる構成であれば適宜変更できることは言うまでもない。
【0025】
また、
図1(b)に示されるように、水量を計測する第1の液量計測手段である第1の水位センサ153が、第2の貯留槽115内に配置されている。第1の水位センサ153が、第1のポンプ119と第1の制御部151とに有線又は無線で電気的に連結されている。第1の水位センサ153により第2の貯留槽115内の液量が計測され、当該液量が所定値に維持されるように、第1の制御部151が第1のポンプ119を制御し、第1の貯留槽105の水が第2の貯留槽115へ供給される。
【0026】
同様に、水量を計測できる第2の液量計測手段である第2の水位センサ163が、第1の貯留槽105内に配置されている。なお、水道水等の液体供給源(不図示)に連結される水道管167から水が第1の貯留槽105内に供給される。水道管167は、電磁弁165等の開閉手段により水の供給が制御される。第2の制御部161は、電磁弁165及び第2の水位センサ163とに有線又は無線で電気的に連結され、第2の水位センサ163により第1の貯留槽105内の液量が計測され、当該液量が所定値に維持されるように、第2の制御部161が電磁弁165を制御し、水道管167から水が第1の貯留槽105へ供給される。
【0027】
なお、本実施形態は、第1及び第2の制御部151,161を互いに独立して制御する構成であるが、単一の制御部により、第1及び第2の貯留槽105,115を同期し制御できることは言うまでもない。
【0028】
さらに、アクアポニックスシステム1が備える第2の供給手段は、第2のポンプ手段である第2のポンプ111と開閉手段である第2のゲートバルブ121とを有する。第2のポンプ111は、第1の貯留槽105に配置され、第2のゲートバルブ121は、第2の連通路109に配置される。第2のゲートバルブ121が開かれると、第1及び第2のベッド101,107と第1の貯留槽105とが連通し、第2のゲートバルブ121が閉じられると、第1のベッド101と第1の貯留槽105とが連通されるが、第2のベッド107への液体の流れが止められる。
【0029】
また、アクアポニックスシステム1が備える第3の供給手段は、第3のポンプ手段である第3のポンプ125と、開閉手段である第3のゲートバルブ127と、を有する。第3のポンプ125は、第2の貯留槽115に配置され、第3のゲートバルブ127は、第3の連通路123に配置される。第3のゲートバルブ127が開かれると、第2のベッド107と第2の貯留槽115とが連通し、第3のポンプ125により第2の貯留槽115から第2のベッド107へ液体が供給される。第3のゲートバルブ127が閉じられると、第2の貯留槽115から第2のベッド107への液体の流れが止められる。なお、本実施形態では、開閉手段を設ける構成であるが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、開閉手段である第3のゲートバルブ127を設けずに、第2の貯留槽105が第2のベッド107に対し相対的に高い位置に配置され、第3のポンプ手段のみを設ける構成等、液体を供給できる構成であれば良い。
【0030】
また、水耕栽培装置3の第2のベッド107と第2の貯留槽115とは、第2の戻り連通路133により連通しており、第2のベッド107から第2の貯留槽115へ液体が戻る流路が設けられていることは言うまでもない。
【0031】
さらに、本実施形態のアクアポニックスシステム1の魚介類飼育装置5は、第1のベッド101から第1の貯留槽105へ液体が戻るための第1の戻り連通路113を有する。第1の戻り連通路113は、その途中に濾過手段であるフィルター部137が配置されており、第1のベッド101から流出し第1の戻り連通路113を流れる水に含まれる餌、糞、水草等がフィルター部137により取り除かれる。フィルター部137の材料として、物理濾過をするためのスポンジフィルタ等や、生物濾過をするためのバクテリア等の硝化細菌が利用できる。このように、フィルター部137は、第1のベッド101から流出する液体に含まれるアンモニアを硝酸に酸化する硝化工程を構成し、水耕栽培装置3が窒素を吸う脱窒工程を構成する。
【0032】
以下に上記構成のアクアポニックスシステム1を用いた使用方法について説明する。なお、化学肥料を使用する養液栽培を行うアクアポニックスシステム1は、
図1(a)に示される排液処理槽135及び第3の戻り連通路141を備えない構成であり、後述のアクアポニックスを実行する構成において排液処理槽135及び第3の戻り連通路141を備える。
【0033】
〔化学肥料を用いる養液栽培〕
水耕栽培装置3において化学肥料を用いる養液栽培の場合、水耕栽培装置3と、魚介類飼育装置5とが互いに分離し作動する必要がある。この場合には、第1及び第2のゲートバルブ131,121が閉鎖され、第3のゲートバルブ127が開放される。さらに、第3のポンプ125が作動され、第1のポンプ119が停止される。従って、魚介類飼育装置5を構成する第2の連通路109と第1の戻り連通路113を通り第1の貯留槽105の液体が循環し第1のベッド101に配置される魚介類が飼育される。
【0034】
一方、水耕栽培装置3では、第2の貯留槽115内の液体が第3の連通路123及び第2の戻り連通路133を通り第2の貯留槽115と第2のベッド107とを循環し、第2のベッド107に収容される生産物である植物が飼育される。このように、水耕栽培装置3と魚介類飼育装置5とで使用される液体が互いに分離しているので、使用者が化学肥料により植物を育てつつ、魚の養殖が可能である。
【0035】
本構成は、魚介類飼育装置5の魚介類の個体が、特に生育初期で小さく十分に育っていない場合や、水耕栽培装置3又は魚介類飼育装置5の生産物に病害虫が発生した場合に利用すると有効である。なお、水耕栽培装置3は、化学肥料を使用する構成であるが、有機肥料を使用する構成としても良いことは言うまでもない。
【0036】
〔循環型のアクアポニックス〕
循環型のアクアポニックスは、水耕栽培装置3において化学肥料を使用しない有機栽培により植物を栽培し、魚介類飼育装置5において魚介を養殖する方法であって、有機栽培及び魚介の飼育水を養分とし植物の栽培及び魚介類の養殖を行う方法である。
【0037】
循環型のアクアポニックスを実施するためのアクアポニックスシステム1では、第1及び第2のゲートバルブ131,121が開放され、第3のゲートバルブ127が閉鎖される。さらに、第2のポンプ111が作動され、第1及び第3のポンプ119,125が停止される。従って、第1及び第2の貯留槽105,115が連通する構成である。第1及び第2の貯留槽105,115に貯留される液体は、第2の連通路109を通り、第1及び第2のベッド101,107に到達し、第1のベッド101に配置される魚等が養殖され、第2のベッド107に載置される植物が飼育される。
【0038】
さらに、第1のベッド101から流出した液体は、第1の戻り連通路113を通りフィルター部137に流入し濾過される。さらに、フィルター部137内の液体の一部が、排液処理槽135に流入し濾過され、第3の戻り連通路141を介し第2の貯留槽115に到達する。
【0039】
フィルター部137は、液体を貯留できる容器を有し、当該容器の鉛直方向で上方に第1の戻り連通路113が連通し、当該容器の鉛直方向で下方の底部に第3の戻り連通路141が連通する。フィルター部137に流入する液体に含まれる魚のフン、汚泥などの固形物(比重が大きい物質)が容器内の底部に沈み、容器内の綺麗な上澄みの液体だけがフィルター部137から第1の戻り連通路113を介し第1の貯留槽105へ流れる。
【0040】
さらに、フィルター部137の底部に沈んだ固形物が液体と一緒に第3の戻り連通路141を介し排液処理槽135へ排出される。なお、フィルター部137に固形物の沈殿量を検出する検出手段を設け、排液処理槽135の上流側に位置する第3の戻り連通路141に開閉バルブ等の開閉手段を設けることにより、固形物の沈殿量が所定量を超えた場合に開閉手段を開き固形物を排出する構成や、手動で排出する構成を利用可能である。
【0041】
この排液処理槽135は、アクアポニックスを実施するときに使用される。排液処理槽135に収容されているズーグレア、シュードモナス、バチルス等の好気性微生物又は嫌気性微生物により、固形物である魚の糞が好気性又は嫌気性バクテリアにより分解又は液状化され、植物に有益な窒素、リン酸などの養分として利用される。排液処理槽135により濾過された養分を含む液体は、第3の戻り連通路141を介し第2の貯留槽115へ供給される。
【0042】
また、第2のベッド107から流出した液体は、第2の戻り連通路133を通り第2の貯留槽115に流入する。さらに、フィルター部137内の液体の一部が、排液処理槽135に流入し濾過され、第3の戻り連通路141を介し第2の貯留槽115に到達する。このように、水耕栽培装置3と魚介類飼育装置5とが液体を共有し作動するので、アクアポニックスシステム1が循環型のアクアポニックスとして作動する。
【0043】
〔非循環型のアクアポニックス〕
非循環型のアクアポニックスは、魚介類飼育装置5の魚介の飼育水が、植物を栽培する養分として利用されるが、植物の水耕栽培装置3へ流入した飼育水が魚介類飼育装置5へ戻らない点で、循環型アクアポニックスと異なる。
【0044】
非循環型のアクアポニックスを実施するためのアクアポニックスシステム1では、第3のゲートバルブ127が開放され、第1及び第2のゲートバルブ131,121が閉鎖される。さらに、第1及び第3のポンプ119,125が作動可能であり、第2のポンプ111が停止される。従って、液体が第1の貯留槽105から第2の貯留槽115への一方向へ流入できる構成である。
【0045】
第1の貯留槽105に貯留される液体は、第2の連通路109を通り、第1のベッド101に流入する。さらに、第1のベッド101から流出する液体は、第1の戻り連通路113を通りフィルター部137に流入し濾過される。さらに、フィルター部137内の液体の一部が、第3の戻り連通路141を介し、排液処理槽135に流入し濾過される。
このように、排液処理槽135を流出する液体が、第3の戻り連通路141を介し第2の貯留槽115に到達する。
【0046】
一方、第2の貯留槽115に貯留される液体は、第3のポンプ125により第3の連通路123を通り、第2のベッド107に流入する。この流入した液体が、第2のベッド107に載置される植物の栽培に寄与する。養分の大部分は第1の貯留槽105から第2の貯留槽115を介して第2のベッド107へ流入する。本実施形態では、フィルター部137により取得される養分に加え、前記活性汚泥槽135により養分が取得されるので、フィルター部137のみを備える構成に比べ寄り養分を有効に活用することができる。
【0047】
さらに、第2のベッド107から流出した液体は、第2の戻り連通路133を通り第2の貯留槽115に到達する。上述の通り、アクアポニックスシステム1は、非循環型のアクアポニックスとして作動する。
【0048】
また、本実施形態では、第1のポンプ119、第1及び第2の水位センサ153,163、電磁弁165を制御するための制御手段である第1及び第2の制御部151,161を備える。第1及び第2の制御部151,161は、既知のCPU(Central Processing Unit)、所定のプログラムを格納するROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種設定値を格納するEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等を備えるともに、CPUがROM等に記憶されている制御プログラムを実行することで第1のポンプ119、第1及び第2の水位センサ153,163、電磁弁165を作動又は駆動するための種々の処理が実行され、第1及び第2の貯留槽105,115に収容される液体の液量が制御される。なお、非循環型のアクアポニックスシステムでは、液体の液量を調整するのみでは植物が所望の程度に育たないことも考えられる。そこで、第2の貯留槽115に適正な養分を追肥し養分を調整することや、液体の温度、pHを調整することが、手動で行われたり、センサーを用いて自動制御されることは言うまでもない。同様に、循環型のアクアポニックスシステムでも、養分組成、温度、pHを調整する構成を適用することが可能である。
【0049】
また、本実施形態では、第1及び第2の貯留槽105,115が、第1及び第2の流体通路117,139により連通する構成である。しかし、本発明はこの構成に限定されず、第1及び第2の貯留槽105,115内に所望の液体量を供給できる構成であれば、単一の流体通路により構成することも可能である。
【0050】
本実施形態では、野菜等の植物を育てるための既知の水耕栽培装置を所有している使用者が、アクアポニックスシステム1を導入する例を説明したが、本発明のアクアポニックスシステムは、当該例の構成に限定されない。例えば、使用者が魚介類を養殖するための既知の魚介類飼育装置を所有している場合には、実施形態の水耕栽培装置3の基本構成要素である第2のベッド107、第2の貯留槽115、第3の連通路123、第2の戻り連通路133に、第1の連通路117,139と、第1の供給手段119,129,131を付加することにより、水耕栽培、循環型及び非循環型のアクアポニックスを切り替えて実行できるアクアポニックスシステムを実現できる。
【0051】
本実施形態の第2の連通路109は、単一の管状部材により第1及び第2のベッド105,107と第1の貯留槽105とが連通する構成であるが、複数の菅状部材を用い、第1の貯留槽105から第1及び第2のベッド101,107別々に連通する構成も可能である。
【0052】
同様に、既知の水耕栽培装置及び魚介類飼育装置を所有している使用者が、本発明のアクアポニックスシステムを導入する場合には、前述した既知の水耕栽培装置及び魚介類飼育装置に本発明を適用することで水耕栽培、循環型及び非循環型のアクアポニックスを切り替えて実行できるアクアポニックスシステムを実現できる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 アクアポニックスシステム
3 水耕栽培装置
5 魚介類飼育装置
101 第1のベッド
105 第1の貯留槽
107 第2のベッド
109 第2の連通路
111 第2のポンプ,第2のポンプ手段,第2の供給手段
113 第1の戻り連通路
115 第2の貯留槽
117 第1の流体通路,第1の連通路
119 第1のポンプ,第1のポンプ手段,第1の供給手段
121 第2のゲートバルブ,第2の供給手段
123 第3の連通路
125 第3のポンプ,第3のポンプ手段,第3の供給手段
127 第3のゲートバルブ,第3の供給手段
129 第1の逆止弁,第1の供給手段
131 第1ゲートバルブ,第1の供給手段
133 第2の戻り連通路
135 排液処理槽
137 フィルター部
139 第2の流体通路,第1の連通路
141 第3の戻り連通路
151 第1の制御部
153 第1の水位センサ,第1の液量計測手段
161 第2の制御部
163 第2の水位センサ,第2の液量計測手段
165 電磁弁
167 水道管
【要約】
【課題】化学肥料を利用する既設の水耕栽培装及び魚介類飼育装置を独立して使用でき、また、循環型及び非循環型のアクアポニックスを選択的に実施できるアクアポニックスシステムを提供する。
【解決手段】アクアポニックスシステム1は、液体により野菜を育てるための水耕栽培装置3及び魚を育てるための魚介類飼育装置5の一方が有し液体を貯留する第1の貯留槽105と、水耕栽培装置3及び魚介類飼育装置5の他方が有し液体を貯留する第2の貯留槽115とを連通する第1の連通路117,139と、第1の連通路117,139を介し第1の貯留槽105と第2の貯留槽115との間で液体を授受する、又は第1の連通路117,139を介し第1の貯留槽105から第2の貯留槽115へ液体を供給する第1の供給手段119,129,131と、を備え、水耕栽培装置3及び魚介類飼育装置5が互いに独立して作動する際には、第1の供給手段119,129,131による第1の連通路117,139を介する液体の供給が停止される。
【選択図】
図1