【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 A.刊行物 (1)発行者名 日本大学短期大学部 (2)刊行物名 平成27年度 卒業研究・特別研究論文抄録集 (3)頒布年月日 平成28年2月10日 B.発表(口頭発表) (1)集会名 平成27年度 食物栄養学科卒業研究発表会 (2)開催日 平成28年2月12日 C.発表(ポスター発表) (1)集会名 平成27年度 食物栄養学科卒業研究発表会 (2)開催日 平成28年2月12日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多価アルコールが、グリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール及びソルビトールからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項2又は3に記載のタンパク質シート。
熱凝固性タンパク質、カゼイン若しくはカゼインの塩、及び溶媒を含有する試料液をシート状に広げる工程と、前記溶媒を取り除くことによりシート化させる工程と、を有し、
前記熱凝固性タンパク質が、卵白タンパク質及び乳清タンパク質からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のタンパク質シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪タンパク質シート≫
本発明のタンパク質シートは、熱凝固性タンパク質、及びカゼイン若しくはカゼインの塩を含有し、水分含有量が30質量%以下である。
【0010】
本発明において、熱凝固性タンパク質とは、加熱により変性し、凝固する性質を有するタンパク質である。熱凝固性タンパク質は、加熱によって変性すると、それに伴いタンパク質間の相互作用が生じ、容易にゲル化(凝固)し得る。熱凝固性タンパク質としては、例えば、卵白タンパク質、アルブミン、グロブリン、大豆タンパク質、トウモロコシタンパク質、小麦タンパク質、乳清タンパク質、筋肉ミオシン等が挙げられる。
【0011】
本発明のタンパク質シートに含まれる熱凝固性タンパク質は、卵白タンパク質、大豆タンパク質、及び乳清タンパク質からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0012】
上記熱凝固性タンパク質のなかでも、本発明のタンパク質シートに好適に用いられる熱凝固性タンパク質としては、卵白タンパク質が好ましく、アルブミンがより好ましい。卵白タンパク質とは、卵白を構成するタンパク質であり、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボムコイド、オボムチン、グロブリン、オボインヒビター、オボグリコプロテイン、オボフラボプロテイン、オボマクログロブリン、アビシン、シスタチン等が挙げられる。オボアルブミンは、卵白に含まれるタンパク質のうち、約50質量%を占める主要なタンパク質である。上記のとおりであるから、本発明のタンパク質シートにオボアルブミンを含有させる場合、オボアルブミンは、ニワトリ、ウズラ、ダチョウなどの鳥類の卵から得られたオボアルブミンを使用することができる。例えば、鶏卵から卵白を得て、卵白をタンパク質シートに含有させることで、タンパク質シートにオボアルブミンを含有させることができる。卵白は、卵白を乾燥させて粉末状にした乾燥卵白を使用することができる。乾燥卵白は市販のものを使用することができる。
【0013】
アルブミンは、卵白中に含まれるオボアルブミンのほか、血漿等にも多量に含まれる血清アルブミン等が知られており、アルブミンとしてはオボアルブミンに限定されない。また、本発明で使用され得るアルブミンとしては、加熱により変性して凝固する性質を有するものであれば、アルブミン分解物、アルブミン断片、アルブミン部分ぺプチドであってもよく、アルブミン誘導体、組み換えアルブミン等の人為的に改変されたアルブミンであってもよい。
【0014】
上記熱凝固性タンパク質のなかでも、本発明のタンパク質シートに好適に用いられる熱凝固性タンパク質としては、大豆タンパク質が好ましく、大豆グロブリンがより好ましい。大豆タンパク質とは、ダイズ(Glycine max)の豆を構成するタンパク質であり、2Sグロブリン、7Sグロブリン、11Sグロブリン、15Sグロブリン等が挙げられる。これら大豆グロブリンは、大豆に含まれるタンパク質のうち、約80質量%を占める主要なタンパク質である。上記のとおりであるから、本発明のタンパク質シートにグロブリンを含有させる場合、グロブリンは、大豆の豆から得られた大豆グロブリンを使用することができる。例えば、大豆からタンパク抽出物を得て、これをタンパク質シートに含有させることで、タンパク質シートにグロブリンを含有させることができる。大豆タンパク質は市販のものを使用することができる。
【0015】
上記熱凝固性タンパク質のなかでも、本発明のタンパク質シートに好適に用いられる熱凝固性タンパク質としては、乳清タンパク質が好ましく、ラクトグロブリンがより好ましい。ここで乳清タンパク質とは、乳清に含有されるタンパク質であり、β-ラクトグロブリン、α‐ラクトアルブミン等が挙げられる。なお、乳清とは、一般的に乳からカゼイン等を除いたものを呼ぶ。ラクトグロブリンは、乳清に含まれるタンパク質のうち、約50質量%を占める主要なタンパク質である。上記のとおりであるから、本発明のタンパク質シートにグロブリンを含有させる場合、グロブリンは、乳清から得られたラクトグロブリンを使用することができる。例えば、乳清からタンパク抽出物を得て、これをタンパク質シートに含有させることで、タンパク質シートにグロブリンを含有させることができる。乳清タンパク質は市販のものを使用することができる。
【0016】
グロブリンは、大豆又は乳清中に含まれるグロブリンのほか、血漿等にも多量に含まれる血清グロブリン等が知られており、グロブリンとしては大豆グロブリン及びラクトグロブリンに限定されない。また、本発明で使用され得るグロブリンとしては、加熱により変性して凝固する性質を有するものであれば、グロブリン分解物、グロブリン断片、グロブリン部分ぺプチドであってもよく、グロブリン誘導体、組み換えグロブリン等の人為的に改変されたグロブリンであってもよい。
【0017】
本発明のタンパク質シートにおける熱凝固性タンパク質の含有率は10質量%以上であることが好ましく、10〜90質量%であることが好ましく、15〜70質量%であることがより好ましく、20〜60質量%であることがさらに好ましく、25〜50質量%であることが特に好ましく、25〜35質量%であることが特に好ましい。熱凝固性タンパク質の含有量を上記含有率とすることにより、タンパク質間の相互作用の程度が良好となり、シートの保形性を向上させることができる。
【0018】
本発明のタンパク質シートがアルブミン又はグロブリンを含有する場合、前記熱凝固性タンパク質100質量%のうちアルブミン又はグロブリンの含有率が30質量%以上であることが好ましく、30質量%以上95質量%以下であることが好ましく、50質量%以上80質量%未満であることがさらに好ましい。したがって、本発明のタンパク質シートにおけるアルブミン又はグロブリンの含有率は5質量%以上であることが好ましく、5〜90質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることがさらに好ましく、10〜30質量%であることが特に好ましく、10〜18質量%であることが特に好ましい。アルブミン又はグロブリンの含有量を上記含有率とすることにより、アルブミン又はグロブリンの相互作用の程度が良好となり、シートの保形性を向上させることができる。
【0019】
本発明のタンパク質シートはカゼイン若しくはカゼインの塩を含有する。カゼインは乳に含まれるタンパク質のうちの大部分を占める主要なタンパク質であり、熱安定性が高く、100℃程度の加熱では顕著な凝固性を示さない。本発明においては、カゼインは上記熱凝固性タンパク質には含めないものとする。
従来、カゼイン若しくはカゼインの塩は、乳化剤や糊剤として食品に添加されてきた。しかし、後述する実施例に示すように、発明者らは、タンパク質シートの原料として、熱凝固性タンパク質とともにカゼインナトリウムを配合することで、曲げ強さ及び伸展性(体感的には柔軟性)並びに透明度に優れるタンパク質シートが得られることを見出した。これは、従来のカゼイン若しくはカゼインの塩の使用法を考慮しても意外な結果であり、また、カゼインナトリウムの配合により、タンパク質シートの特性を格段に向上させることができる。
タンパク質シートの原料として、熱凝固性タンパク質とともにカゼイン若しくはカゼインの塩を配合することで、製造されるタンパク質シートの柔軟性が向上するメカニズムは定かではないが、後述する実施例において示すように、熱凝固性タンパク質とともにカゼインナトリウムを配合したタンパク質シートでは、カゼインナトリウムを配合していないタンパク質シートに比べて、シート中のタンパク質二次構造のαへリックス割合が向上していた。したがって、カゼイン若しくはカゼインの塩は、タンパク質シートを構成する熱凝固性タンパク質の二次構造に影響を与え、タンパク質シートの特性の変化をもたらすものと考えられる。
【0020】
カゼインはα−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインに分類され、α−カゼインは、α
S1−カゼイン,α
S2−カゼインにさらに分類される。本発明のタンパク質シートが含有する前記カゼイン若しくはカゼインの塩としては、α−カゼイン若しくはα−カゼインの塩であることが好ましい。本発明のタンパク質シートは、少なくともα−カゼイン若しくはα−カゼインの塩を含有することがより好ましく、少なくともα−カゼインの塩を含有することがさらに好ましい。α−カゼインは、通常水に不溶性であるが、α−カゼインの塩は水溶性であるため、タンパク質シートへの配合が容易であるという点で、α−カゼインの塩を用いることが好ましい。α−カゼインの塩としては、ナトリウム塩、カルシウム塩等が挙げられ、α−カゼインのナトリウム塩がより好ましい。
カゼイン若しくはカゼインの塩は、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの動物の乳から得られたものを使用することができる。例えば、脱脂乳からカゼインカード分離し、中和、乾燥させて得られたものを使用することができる。カゼイン若しくはカゼインの塩は、市販のものを使用することができる。
【0021】
本発明で使用され得るカゼインとしては、カゼインと同様の性質を有するものであれば、カゼイン分解物、カゼイン断片、カゼイン部分ペプチドであってもよく、カゼイン誘導体、組み換えカゼイン等の人為的に改変されたカゼインであってもよい。
【0022】
本発明のタンパク質シートに含有される、前記熱凝固性タンパク質と、前記カゼイン若しくはカゼインの塩との質量比(熱凝固性タンパク質/カゼイン若しくはカゼインの塩)は、0.1〜10の範囲であることが好ましく、0.2〜4の範囲であることがより好ましく、0.3〜3の範囲であることがさらに好ましく、0.3〜1の範囲であることが特に好ましい。同様に、前記カゼイン若しくはカゼインの塩が、α−カゼインのナトリウム塩である場合、前記熱凝固性タンパク質と、α−カゼインのナトリウム塩との質量比(熱凝固性タンパク質/α−カゼインのナトリウム塩)は、0.1〜10の範囲であることが好ましく、0.2〜4の範囲であることがより好ましく、0.3〜3の範囲であることがさらに好ましく、0.3〜1の範囲であることが特に好ましい。
【0023】
本発明のタンパク質シートは多価アルコールを含有してもよい。また、一般的に糖アルコールと呼ばれるものであっても、多価アルコールと同様の作用を有するものがある。多価アルコールはタンパク質シートの製造において、可塑剤として用いられており、タンパク質シートの良好な成形を可能とする。多価アルコールは、分子内に水酸基を2つ以上有するアルコールであり、多価アルコールとしては、グリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ソルビトール等が挙げられる。その他可塑剤としては、モノジグリセライドのジアセチルタルタリックエステル、ショ糖、乳酸、ソルビタン、ジブチルタルトレイト、オクタン酸、パルミチン酸、水等が挙げられる。
【0024】
発明者らは、多価アルコールはタンパク質シートに伸展性を付与可能である一方で、多価アルコールは複数の水酸基を有するため、多価アルコールを多く含むタンパク質シートは、水蒸気バリヤー性に劣ることを確認した。
本発明では、タンパク質シートにおいて、多価アルコールに加えて更にカゼイン若しくはカゼインの塩を含有させることで、多価アルコールの含有割合を減らし、タンパク質シートの水蒸気バリヤー性を向上させることが可能となる。
すなわち、本発明のタンパク質シートにおいて、前記多価アルコールの含有率が1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上23質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
また、発明者らは、多価アルコールを配合せずとも、優れたタンパク質シートが得られることを確認した。
すなわち、本発明のタンパク質シートにおいて、前記多価アルコールの含有率が0質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上5質量%未満であることが好ましい。また本発明のタンパク質シートは多価アルコールが実質的に含有されていないものが好ましい。実質的に含有されていないとは、多価アルコールの存在に起因する作用が検出できない程度であればよい。
【0026】
本発明のタンパク質シートの伸展性は、実施例に記載の方法により測定した伸展性が、1sec以上20sec以下であってもよく、3sec以上15sec以下であってもよく、5sec以上10sec以下であってもよい。
【0027】
本発明のタンパク質シートは、熱凝固性タンパク質、カゼイン若しくはカゼインの塩、及び多価アルコールの他に、任意の他の成分を含有させてもよい。例えば、防腐剤、抗菌剤、香料、着色剤、色素、乳化剤、pH調整剤、酸化防止剤、酸味料、甘味料を含有させてもよい。また、本発明のタンパク質シートには、抗ヒスタミン剤、消炎鎮痛剤等の薬剤を含有させることもできる。
【0028】
本発明のタンパク質シートは、水分含有量が30質量%以下であり、一般に食品として提供されるゼリーや寒天のような水分含量の比較的多い状態とは区別される。タンパク質シートは、水分含量が低いほど保存性に優れており、30質量%以下であれば、長期にわたり良好に保存可能である。タンパク質シートの水分含有量は、0質量%以上30質量%以下であり、5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
タンパク質シートの水分含量は、常圧加熱乾燥法により求めることができ、タンパク質シートを加熱して水分を蒸散させ、乾燥前後の重量差をタンパク質シートの水分含量として求めることができる。
【0030】
一般的に、シートとは、厚みが200μmを超えるものを指すこともあるが、本発明のタンパク質シートの厚みはそれに限定されるものではない。
本発明のタンパク質シートの厚みは、1〜3000μmの範囲であることが好ましく、10〜1000μmの範囲であることがより好ましく、50〜350μmの範囲であることがさらに好ましく、50〜250μmの範囲であることがさらに好ましい。
タンパク質シートの厚みは、無作為に選出した3か所以上の厚みを測定して得られた平均値として算出することができ、無作為に選出した10か所以上の厚みを測定して得られた平均値として算出することが好ましい。
【0031】
本発明のタンパク質シートの形状は、薄膜状のものであり、シート状のほかフィルム状、板状などの用語で表現されてもよい。また、シートが筒状に加工されたもの、シートが袋状に加工されたもの、シートが容器型に加工されたものなども、本発明のタンパク質シートに包含される。
【0032】
本発明のタンパク質シートは、食品包装資材、食品包装容器、製剤カプセル、フィルム製剤、可食印刷用シート、菓子等として有用である。
【0033】
≪タンパク質シートの製造方法≫
本発明のタンパク質シートの製造方法は、熱凝固性タンパク質、カゼイン若しくはカゼインの塩、及び溶媒を含有する試料液をシート状に広げる工程と、前記溶媒を取り除くことによりシート化させる工程と、を有する。
以下、本発明のタンパク質シートを製造可能な、本実施形態のタンパク質シートの製造方法について説明する。
【0034】
試料液をシート状に広げる工程は、タンパク質シートの前段階として、試料液をシート状に広げる工程である。
前記試料液をシート状に広げる工程は、前記試料液をシート状にゲル化させる工程を含んでもよい。試料液をシート状にゲル化させる工程は、タンパク質シートの前段階として、試料液(ゾル)をシート状にゲル化させる工程である。
溶媒としては、水、アルコール水溶液等が挙げられる。
【0035】
(第1実施形態)
以下、溶媒として水を用い、前記試料液をシート状に広げる工程が、前記試料液をシート状にゲル化させる工程を含む場合について説明する。
実施形態のタンパク質シートの製造方法は、熱凝固性タンパク質、カゼイン若しくはカゼインの塩、及び水を含有する試料液をシート状に広げる工程と、前記水分を取り除くことによりシート化させる工程と、を有する。本実施形態において、試料液は更に多価アルコールを含有する。
【0036】
まず、容器に、熱凝固性タンパク質、カゼイン若しくはカゼインの塩、多価アルコール、水、及び任意のその他成分を投入し、それらを混合して試料液を得る。試料液中の熱凝固性タンパク質及びカゼイン若しくはカゼインの塩の濃度を終濃度5〜12質量/体積%程度となるようにすると、タンパク質シートの形成、及び試料液の混合が容易となり好ましい。
【0037】
原料を混合して得られた試料液に対して、試料液中に含まれる気泡を試料液中から除去する脱気工程が行われてもよい。脱気工程は、試料液が固まる前に行うことが好ましい。一例として、試料液(ゾル)をビーカーに入れ、アスピレータ(水流ポンプ)に接続したデシケーター内に静置して10〜60分程度吸引し、試料液から気泡を除去することが挙げられる。
【0038】
前記ゲル化させる工程が、前記試料液を加熱処理する工程を含むものであってもよい。
前記ゲル化させる工程の一例として、試料液(ゾル)を、任意の鋳型に流し込み、その後、鋳型ごと試料液を加熱処理し、シート状に成形することができる。試料液を加熱処理することで、熱凝固性タンパク質が変性され凝固する。加熱処理の温度は、加熱対象の熱凝固性タンパク質の種類や変性温度に応じて適宜定めればよいが、60〜100℃の温度で加熱処理することが挙げられる。加熱時間は、加熱対象の熱凝固性タンパク質の種類に応じて適宜定めればよいが、一例として、0.5時間程度である。
又は、加熱処理後の試料液を、任意の鋳型に流し込み、シート状に成形して、シート状のゲル化物を得ることができる。或いは、前記加熱処理後の試料液が適度な粘性を有する場合、適当な板の上などに液を流すことで、自然とシート状となるので、このようにしてシート状のゲル化物としてもよい。
このように、試料液を型などに流してからゲル化させシート状にしてもよいし、一部ゲル化が進んだ試料液をシート状にしてもよい。
【0039】
ゲル化させる工程では、試料液を冷却することを行ってもよい。試料液を冷却することで、冷却で分子間水素結合が強められ、試料液のゲル化が促進される場合がある。例えば、試料液(ゾル)を、任意の鋳型に流し込み、鋳型ごと試料液を加熱処理した後、さらに鋳型ごと試料液を冷却することを行ってもよい。試料液の冷却温度は、一例として、0〜10℃の温度とすることが挙げられ、冷却時間は、一例として、0.5〜1時間程度である。
【0040】
シート化させる工程は、得られたシート状のゲル化物から溶媒を取り除く工程である。シート化させる工程において、ゲル組成物から完全に水分が除かれる必要は無く、シート状のゲル化物の水分含量が30質量%以下となるまでゲル組成物から水分を除去し、本実施形態のタンパク質シートを得ることができる。
ゲル化物から水分を除去する方法は、特に制限されないが、熱プレス、溶液キャスト、自然乾燥、温風による加熱乾燥などにより行うことができる。
【0041】
シート化させる工程は、ウェットキャビネット中で行われることが好ましい。シート化をウェットキャビネット中で行うことにより、より高品質なタンパク質シートを製造可能である。
【0042】
(第2実施形態)
以下、溶媒としてアルコール水溶液を用いる場合について説明する。第2実施形態のタンパク質シートの製造方法は、上記第1実施形態のタンパク質シートの製造方法において、溶媒として水に代えてアルコール水溶液を用い、また前記シート状に広げる工程が、前記試料液を加熱処理する工程を含まないものである。上記第1実施形態と共通の内容について、説明を省略する。
実施形態のタンパク質シートの製造方法は、熱凝固性タンパク質、カゼイン若しくはカゼインの塩、及びアルコール水溶液を含有する試料液をシート状に広げる工程と、前記アルコール水溶液を取り除くことによりシート化させる工程と、を有する。
【0043】
アルコール水溶液は、エタノール等のアルコールと水とを混合して得られ、一例として、アルコールの含有割合が30体積%〜60体積%、40〜55体積%のアルコール水溶液が挙げられる。
【0044】
まず、容器に、熱凝固性タンパク質、カゼイン若しくはカゼインの塩、アルコール水溶液(アルコール及び蒸留水)、及び任意のその他成分を投入し、それらを混合して試料液を得る。次いで、得られた試料液を、任意の鋳型に流し込み、シート状に広げる。
【0045】
シート化させる工程は、シート状に広げられた試料液から溶媒を取り除く工程である。シート化させる工程において、シート状に広げられた試料液から完全にアルコール水溶液が除かれる必要は無く、シート状のゲル化物の水分含量が30質量%以下となるまでシート状に広げられた試料液から水分を除去し、本実施形態のタンパク質シートを得ることができる。
シート状に広げられた試料液からアルコール水溶液を除去する方法は、特に制限されないが、熱プレス、溶液キャスト、自然乾燥、温風による加熱乾燥などにより行うことができる。
【0046】
カゼインの塩は、カゼインよりも水への溶解性が優れるが、溶媒としてアルコール水溶液を用いることにより、カゼインの塩がさらに易溶化され、前記試料液を加熱処理せずとも、容易にタンパク質シートを製造可能である。また、シート化させる工程にかかる時間を大幅に短縮できる。
【実施例】
【0047】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
[試料液の調整]
(実施例1〜19、比較例1〜2)
以下の原料を、表1に示す終濃度となるよう調合して原材料を混合し、試料液を得た。
・乾燥卵白(キューピー社製、Kタイプ)
・大豆タンパク質(不二製油社製、フジプロE)
・乳清タンパク質(NZMP社製、ALACEN 895)
・カゼインナトリウム(NZMP社製、ALANATE 180)
・プロピレングリコール(PG)(和光純薬社製、食品添加物 166-07256)
・ソルビトール(和光純薬社製、和光一級 194-03752)
・グリセリン(和光純薬社製、試薬特級075-00616)
・アジ化ナトリウム(和光純薬社製、試薬特級197-11091)
・エタノール(和光純薬社製、試薬特級 057-00451)
・蒸留水
【0049】
[タンパク質シートの製造]
1−1.溶媒として蒸留水を使用した場合(実施例1〜6、実施例8〜12、比較例1、2)
次いで、得られた各試料液を、水流ポンプに接続したデシケーターを用いて30分間脱気し、試料液中の気泡を除去した。
脱気後の試料液6mlを、カップケーキ用容器型(紙製、直径6cmの円形)内に流し込み、型の上部をアルミホイルで軽くカバーした。その後、型に入った試料液を95℃で30分加熱した後、氷水により30分間冷却し試料液をゲル化させ、さらに室温で1時間放置し、シート状のゲル化物を得た。紙製カップの底(ゲルを含む)のみを残し鋏でカットしまわりを捨て、底の部分のゲル面をクリアーファイルに接触させ、反対側をキッチンペーパーに接触させた。脱水後のゲル化物が平らになるよう適度に重しをして(圧をかけて)、室温(約25℃)、相対湿度約50%の条件下で、時々水分を吸ったキッチンペーパーを交換しながら、2週間静置し、ゲルから水分を蒸発させ、各タンパク質シートを得た。
得られたタンパク質シートについて、常圧加熱乾燥法によりタンパク質シートの水分含量を定量し、各タンパク質シートの組成を求めた。得られた各タンパク質シートにおける原材料の配合割合を表2に示す。
【0050】
2−1.溶媒として50体積%のエタノール水溶液を使用した場合(実施例7、実施例13〜19)
次いで、得られた試料液を、水流ポンプに接続したデシケーターを用いて5分間脱気し、試料液中の気泡を除去した。
脱気後の試料液3.5mlを、カップケーキ用容器型(ステンレス製、直径6cmの円形)内に流し込み、型の上部をヒートシールでシールし、注射針の先端を用いて小孔(100個程度)を開けた。その後、ウェットキャビネット中にて23℃、相対湿度40〜44%の条件下で3日間保存した。得られたタンパク質シートについて、常圧加熱乾燥法によりタンパク質シートの水分含量を定量した。得られた各タンパク質シートにおける原材料の配合割合を表2に示す。
【0051】
発明者らは、上記1−1及び2−1の方法に代えて、下記1−2及び2−2方法によっても、強度と伸展性のバランスに優れた良質なタンパク質シートが得られることを確認した。また、タンパク質シートの製造に要する時間を短縮することができるとともに、湿度条件のコントロールも容易に行うことができる。
【0052】
1−2.溶媒として蒸留水を使用した場合
次いで、得られた試料液を、水流ポンプに接続したデシケーターを用いて30分間脱気し、試料液中の気泡を除去した。
脱気後の試料液6mlを、カップケーキ用容器型(紙製、直径6cmの円形)内に流し込み、型の上部をアルミホイルで軽くカバーした。その後、型に入った試料液を95℃で30分加熱した後、氷水により30分間冷却し試料液をゲル化させ、さらに室温で1時間放置し、シート状のゲル化物を得た。紙製カップの底(ゲルを含む)のみを残し鋏でカットしまわりを捨て、底の部分のゲル面をクリアーファイルに接触させ、反対側をキッチンペーパーに接触させた。脱水後のゲル化物が平らになるよう適度に重しをして(圧をかけて)、25℃、相対湿度50%の条件下で、時々水分を吸ったキッチンペーパーを交換しながら、2週間静置し、ゲルから水分を蒸発させ、実施例1のタンパク質シートを得た。
また、試料溶液を底をポリ塩化ビニリデン(サランラップ(登録商標))フィルムでシールしたステンレス製カップケーキ用容器(直径6cm)を用いて加熱処理後、得られたシート状のゲル化物を容器内に入れたまま上部をヒートシールでシールし、注射針の先端を用いて小孔(100個程度)を開け、ウェットキャビネット中にて23℃、相対湿度40〜44%の条件下でおよそ24時間保存することによりフィルム状シートを得ることができた(この場合はアジ化ナトリウム不要)。
【0053】
2−2.溶媒として50%(v/v)エタノールを使用した場合
次いで、得られた試料液を、水流ポンプに接続したデシケーターを用いて5分間脱気し、試料液中の気泡を除去した。
脱気後の試料液3.5mlを、カップケーキ用容器型(ステンレス製、直径6cmの円形)内に流し込み、型の上部をヒートシールでシールし、注射針の先端を用いて小孔(100個程度)を開けた。その後、ウェットキャビネット中にて23℃、相対湿度40〜44%の条件下で3日間保存した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
<シート特性の測定>
1.シート外観
図1は、実施例4のタンパク質シートの外観を写した写真である。
図2は、(a)実施例3及び(b)比較例3のタンパク質シートの外観を写した写真である。実施例3のタンパク質シートが高い透明度を有することが分かる。
また、
図9〜
図14に各実施例のタンパク質シートの外観を映した写真を示す。いずれのタンパク質シートも良好に成形された。
【0057】
2.走査型電子顕微鏡(SEM)画像
得られたタンパク質シートをSEMにより観察した。実施例2のタンパク質シートを撮影して得られた画像を
図3に示す。
図3の画像から、乾燥卵白にカゼインナトリウムを共存させることにより、実施例2のタンパク質シートが、シートを構成するネットワークの骨格が太くなり、厚みのある凹凸の多いシートとなっていることが示唆される。比較例2のタンパク質シートを撮影して得られた画像を
図4に示す。
図4の画像では、乾燥卵白単独タンパク質によるきれいな方向性のある比較的細い繊維状構造が観察された。実施例2及び実施例3のタンパク質シートを撮影して得られた画像を
図5に示す。
図5の画像では、実施例2及び実施例3のタンパク質シートについて、互いに同様の微細構造が観察された。
【0058】
3−1.曲げ強さ・伸展性
実施例1〜5及び比較例1〜2のタンパク質シートについて、曲げ強さ及び伸展性を下記の方法により測定した。上下一組のV字型冶具(上部1つ、下部2つ、
図6を参照)を粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製、動的粘弾性測定装置RFS−III)の上下のプレートに固定した。
図7に治具の形状を示す(先端部のみ図示)。
【0059】
次に、タンパク質シートから、厚み約0.07〜0.30 mm、幅0.8〜1.2 mm、長さ20〜25 mmとなるように試料片を切り出した。厚みは、任意の3か所をノギスで測定し、その平均値として算出した。幅は、任意の3か所をマイクロスコープで測定し、その平均値として算出した。長さは、ノギスにより測定した。その後、切り出された長方形の試料片を、下側の冶具間距離(支点間距離)7.9mmの冶具先端にシートが左右均等になるようにボンドで固定した(冶具の形状は
図6及び
図7参照)。測定条件は、25℃雰囲気下、3点曲げである。測定開始後、上部の冶具(圧子)を定速(0.5 mm/sec)で下降させ、試料片の破断に必要なノーマルストレスを算出した。
得られた結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
比較例2のタンパク質シートは、試料作成のために切断すると粉々になり、値を測定できなかった。
比較例2と実施例1〜5との対比によれば、乾燥卵白及びカゼインナトリウムを含有するタンパク質シートがシート成形性に優れることが理解される。
比較例1と実施例1〜5との対比によれば、乾燥卵白及びカゼインナトリウムを含有するタンパク質シートが、曲げ強さに優れることが分かる。
また、実施例4と実施例5との対比によれば、カゼインナトリウムの添加量の多いほうが、タンパク質シートの曲げ強さ及び伸展性が向上することが分かる。
【0062】
3−2.強度・伸展性
実施例1〜19、比較例1〜2のタンパク質シートについて、官能評価により、強度及び伸展性評価した。評価結果を表2に示す。
実施例のタンパクシートは、比較例のタンパク質シートに比べ、強度及び進展性を兼ね備えていた。
また、溶媒に蒸留水を使用した実施例1〜6及び実施例8〜12の方が、溶媒に50体積%EtOHを使用した実施例13〜19よりも、官能評価が良好となる傾向が得られた。これは、実施例1〜6及び実施例8〜12では、試料液を加熱し、試料液をゲル化させているため、得られたタンパク質シートの強度が、より高められたものと考えられる。
また、グリセリンの添加が、タンパク質シートの伸展性を向上させることが分かる。
一方、タンパク質として乳ホエーを使用した場合、グリセリンが無添加であっても良好な強度及び進展性が得られることが分かった。
プロピレングリコールとグリセロールとでは、プロピレングリコールを含むタンパク質シートのほうが、感覚強度が大きくなる傾向があった。
【0063】
4−1.フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)
アミドI領域のスペクトル解析から、実施例2、比較例1、及び比較例2のタンパク質シート中のタンパク質の二次構造の解析を行った。Universal Attenuated Total Reflection (UATR)により、PerkinElmer(Spectrum Two)FT-IR装置を用い、FT−IRの測定を行った。スペクトルの測定は4000〜450cm
−1、解像度は4cm
−1とした。
【0064】
結果を、
図8に示す。グラフの横軸は波数、縦軸は吸光度をポイント数5で二次微分したものである。また、上記と同様にして、実施例2、比較例1、及び比較例2のタンパク質シート中のタンパク質の二次構造の解析を行った結果を
図15に示す。グラフの横軸は波数、縦軸は吸光度をポイント数13で二次微分したものである。
得られた解析結果により、カゼインナトリウム添加の混合系(実施例2)では乾燥卵白単独系(比較例2)に比べαヘリックス(1652カイザー)含量が高いことがわかった。βシート(1618〜1619カイザー)は混合系と乾燥卵白単独系同程度であった。一方、カゼインナトリウム単独系(比較例1)は規則構造をほとんど持っていなかった。
【0065】
4−2.フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)
上記4−1と同様にして、実施例11、及び実施例15のタンパク質シート中のタンパク質の二次構造の解析を行った。
【0066】
結果を
図16に示す。グラフの横軸は波数、縦軸は吸光度をポイント数13で二次微分したものである。得られた解析結果により、前記シート状に広げる工程が前記試料液を加熱処理する工程を含まない場合(実施例15)に比べ、前記シート状に広げる工程が前記試料液を加熱処理する工程を含む場合(実施例11)の方が、得られたタンパク質シートの分子間βシート量が多く(1621.3cm
−1の谷が深く)、しっかりしたフィルムであることが分かった。
【0067】
5.透気度試験
透気度測定装置(テスター産業(株)PA-301 ガーレー式デンソメーターB型)を使用し、ガスケットと締付板の間に直径4.5cmの円形、厚さ約100〜200μの試料片を挟み、一定(100 mL)の容量の空気が透過するのに要した時間を、ストップウオッチを用いて測定した。結果を表4に示す。実施例1、実施例2のタンパク質シートが優れた透気バリヤー性を有することが分かる。特に、実施例2のタンパク質シートに対する測定では、測定開始後15分間経過しても、透気度測定装置の内筒が動かず測定を中止するほど、透気に対するバリヤー性が優れていた。
【0068】
【表4】
【0069】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせなどは一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。