(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アッパー側補強プレートは、幅方向断面が略コ字状に形成され、前記アッパーレールの上壁部から各側壁部の上下方向中途部に至るまでの範囲の内面に背中合わせで積層され、
前記上壁部及び前記各側壁部と、前記アッパー側補強プレートとの間に、前記アッパーレールの長手方向に沿った少なくとも一部において閉断面構造となっている中空部が形成されている前記底壁部と前記ロア側補強プレートとの間に、長手方向に沿った少なくとも一部が閉断面構造となっている中空部が形成されている請求項1記載のシートスライドアジャスタ。
前記アッパーレールに沿って所定の長さを有し、中途部が前記アッパーレールに回動可能に支持され、前記中途部を挟んだ前端部が上下いずれかに動作することにより、前記中途部を挟んだ後端部が前記前端部と逆方向に動作するロック解除操作部材と、
前記ロック解除操作部材の前記後端部付近に連結され、幅方向一端側に設けた軸部が前記アッパーレールに軸支され、幅方向他端側に、前記ロアレールに設けた被係合部に係合可能な係合部を備えたロック部材と
を有するロック機構を備えると共に、
前記軸部を有する幅方向一端側における、前記アッパーレールの長手方向に沿った各端縁に隣接した位置に、この長手方向に沿った前記ロック部材の動きを規制する規制部材が設けられている請求項1〜3のいずれか1に記載のシートスライドアジャスタ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乗物用シート本体に関する軽量化については特許文献3を初めとして種々の技術が知られているが、シートスライドアジャスタの軽量化に関しての検討はそれほどなされていない。シートスライドアジャスタには、シートフレームに種々の力が加わるため、所定の剛性を有することが必要である。そのため、従来、所定の厚さ(通常、2mm前後)の鋼材でロアレール、アッパーレール等を形成しており、それなりの重量を有している。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、従来よりも薄い材料で形成しても、付加される力を受けつつ、必要な機能を発揮できる軽量化に適したシートスライドアジャスタを提供することを課題とする。また、本発明は、これに加えて、ロック状態におけるアッパーレール及びロアレール間におけるガタつきの抑制を図ることができるシートスライドアジャスタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のシートスライドアジャスタは、乗物用シートを構成するシートフレームを支持し、前記乗物用シートの前後方向の位置調節を行うためのシートスライドアジャスタであって、
乗物のフロアに取り付けられるロアレールと、前記ロアレールにスライド可能に設けられ、前記シートフレームが連結されるアッパーレールと、前記アッパーレールを前記ロアレールに対して適宜のスライド位置でロックするロック機構とを有して構成され、前記ロアレールの底壁部にロア側補強プレートが固定されていると共に、前記アッパーレールの上壁部にアッパー側補強プレートが固定されていることを特徴とする。
【0008】
前記ロア側補強プレートは、幅方向断面が断面略コ字状に形成され、前記ロアレールの底壁部の内面に開口側を対面させて固定され、前記底壁部と前記ロア側補強プレートとの間に、長手方向に沿った少なくとも一部が閉断面構造となっている中空部が形成されていることが好ましい。
前記アッパー側補強プレートは、幅方向断面が略コ字状に形成され、前記アッパーレールの上壁部から各側壁部の上下方向中途部に至るまでの範囲の内面に背中合わせで積層され、前記上壁部及び前記各側壁部と、前記アッパー側補強プレートとの間に、長手方向に沿った少なくとも一部が閉断面構造となっている中空部が形成されていることが好ましい。
【0009】
前記ロア側補強プレートは、各側面部が上面部から裾広がりに傾斜する傾斜面状に形成され、その下端部が前記ロアレールの底壁部内面に固定されており、前記ロア側補強プレートの前記各側面部と、前記アッパーレールの各側壁部との間に、それぞれ転動部材が配設されていることが好ましい。
【0010】
前記アッパーレールが、幅方向断面が略コ字状に形成され、各側壁部の下端部から上方に折り返される折り返し片を有し、各折り返し片が、前記ロアレールの各側壁部に対向するように配設されていると共に、前記各折り返し片と前記ロアレールの各側壁部との間にも、それぞれ転動部材が配設され、幅方向断面で見て、合わせて4つの転動部材が略円弧状に配置されていることが好ましい。
【0011】
前記アッパーレールに沿って所定の長さを有し、中途部が前記アッパーレールに回動可能に支持され、前記中途部を挟んだ前端部が上下いずれかに動作することにより、前記中途部を挟んだ後端部が前記前端部と逆方向に動作するロック解除操作部材と、前記ロック解除操作部材の前記後端部付近に連結され、幅方向一端側に設けた軸部が前記アッパーレールに軸支され、幅方向他端側に、前記ロアレールに設けた被係合部に係合可能な係合部を備えたロック部材とを有するロック機構を備えると共に、前記軸部を有する幅方向一端側における、前記アッパーレールの長手方向に沿った各端縁に隣接した位置に、この長手方向に沿った前記ロック部材の動きを規制する規制部材が設けられていることが好ましい。
前記規制部材は、前記アッパー側補強プレートに設けられ、下方に突出する一対の突起から構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシートスライドアジャスタは、ロアレールの底壁部にロア側補強プレートが固定され、アッパーレールの上壁部にアッパー側補強プレートが固定された構造である。すなわち、ロアレールとアッパーレールの両方に補強プレートを固定しているため、ロアレール及びアッパーレールを構成する材料の厚さが従来より薄くても、所定の強度を備え、必要な機能を発揮することができ、シートスライドアジャスタの軽量化に貢献することができる。ロア側補強プレート及びアッパー側補強プレートは、それぞれロアレールの底壁部の内面及びアッパーレールの上壁部の内面に固定することが好ましく、それにより、強度の向上と共に、外形に変化がないため、シートや車体フロアへの取り付け部位において従来と同様の構造のものを採用することができる。ロア側補強プレートは、断面略コ字状に形成し、ロアレールの底壁部内面に開口側を対向させて固着することで、両者間に、長手方向に沿った少なくとも一部が閉断面構造となる中空部を形成することができ、それにより、断面係数が高くなり、より薄い材料でもねじれ変形が生じにくくなり、所定の強度を発揮することができる。アッパー側補強プレートは、断面略コ字状で、アッパーレールの内面に積層した際に、アッパーレールの上壁部及び側壁部間との間に、長手方向に沿った少なくとも一部が閉断面構造となっている中空部が形成される形状とすることが好ましい。これにより、アッパーレールの断面係数も高くなり、より薄い材料でも所定の強度を発揮することができ、ねじれ変形が生じにくくなる。
【0013】
ロア側補強プレートを断面略コ字状に形成し、ロアレールの内面に開口側を対向させて固着するに当たって、ロア側補強プレートの各側面部を、上面部から裾広がりに傾斜する傾斜面状に形成し、ロア側補強プレートの各側面部と、アッパーレールの各側壁部との間にそれぞれ転動部材を配設した構造とすると、アッパーレールに加わる上下方向の力を左右にあまり分散させることなく受けることができ、アッパーレール及びロアレールの変形が生じにくい。
【0014】
また、ロック部材の幅方向一端側おいて、該ロック部材におけるアッパーレールの長手方向に沿った各端縁に隣接した位置に規制部材を設けた構成とすると、ロック解除操作部材に支持されるロック部材の係合部がロアレールの被係合部に係合しているロック時において、該ロック部材がガタつくことを抑制できると共に、ガタつきによる異音も低減される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態に係るシートスライドアジャスタを示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1のシートスライドアジャスタを前端側から見た正面図であり、
図2(b)は、側面図である。
【
図3】
図3(a)は、ボール部材を保持した第1リテーナーを示す斜視図であり、
図3(b)は、ボール部材を保持した第2リテーナーを示す斜視図である。
【
図4】
図4(a),(b)は、第1リテーナー及び第2リテーナーに保持される各ボール部材の配設位置関係を説明するための図であり、
図4(a)はシートスライドアジャスタの側面図を示し、
図4(b)は
図4(a)のA−A線断面図である。
【
図5】
図5(a)は、ロア側補強プレート及びロアレールを示した斜視図であり、
図5(b)は、ロア側補強プレートをロアレールに取り付けた状態の平面図であり、
図5(c)は、
図5(b)の側面図であり、
図5(d)は、
図5(b)の前端側から見た正面図であり、
図5(e)は、ロア側補強プレートを示した斜視図である。
【
図6】
図6(a)は、アッパー側補強プレートを取り付けた状態のアッパーレールを示した側面図であり、
図6(b)は、
図6(a)の平面図であり、
図6(c)は、
図6(a)のB−B線断面図である。
【
図7】
図7(a)は、アッパー側補強プレートを示した側面図であり、
図7(b)は、
図7(a)の平面図であり、
図7(c)は、
図7(a)の前端側から見た正面図であり、
図7(d)は、
図7(c)のC部拡大図である。
【
図8】
図8は、アッパーレール、アッパー側補強プレート及びロック部材を示した斜視図である。
【
図9】
図9(a)は、アッパーレールの平面図であり、
図9(b)は、
図9(a)の側面図であり、
図9(c)は、
図9(b)のD−D線断面図である。
【
図10】
図10は、ロック機構を構成するロック部材の周辺部を示した図である。
【
図11】
図11(a)は、実施例1に係るシートスライドアジャスタの長手方向における断面係数の測定位置を示す側面図であり、
図11(b)は、
図11(a)のE−E線断面図であり、
図11(c)は、比較例1に係るシートスライドアジャスタの長手方向における断面係数の測定位置を示す側面図であり、
図11(d)は、
図11(c)のF−F線断面図である。
【
図12】
図12(a),(b)は、アッパーレールに大荷重が付加された際のアッパーレール及びロアレールの変形挙動を説明するための模式図である。
【
図13】
図13(a),(b)は、アッパーレールに前後に負荷をかけて測定した荷重−変位特性を示し、
図13(a)は、実施例1の測定結果を示した図であり、
図13(b)は、比較例2の測定結果を示した図である。
【
図14】
図14(a)は、他の態様に係るアッパー側補強プレートを採用したシートスライドアジャスタの側面図であり、
図14(b)は、
図14(a)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
図1〜
図4に示したように、シートスライドアジャスタ10は、ロアレール11、アッパーレール12及びロック機構15等を有して構成される。シートスライドアジャスタ10は、車体の幅方向に所定間隔をおいて一対配設される。各ロアレール11は車体フロアに固定され、各アッパーレール12にシートの各サイドフレームが連結される。
【0017】
ロアレール11は、底壁部11aと、底壁部11aの両側から立ち上がって互いに対向する一対の側壁部11b,11bと、各側壁部11b,11bの上縁から互いに内方に曲げられていると共に、対向縁同士が所定間隔離間している一対の上壁部11c,11cと、上壁部11c,11cの内端縁から下方に曲成された内壁部11d,11dを有し、長手方向に直交する幅方向断面で上面開口の略コ字状に形成されている(
図5(a)〜(d)参照)。
【0018】
アッパーレール12は、上壁部12aと、上壁部12aの両側から下方に曲げられて互いに対向する一対の側壁部12b,12bとを有する、幅方向断面が下面開口の略コ字状に形成されている。また、各側壁部12b,12bの下端部から外側上方に折り返される折り返し片12c,12cを有している(
図2、
図8及び
図9参照)。そして、アッパーレール12は、各折り返し片12c,12cが、ロアレール11の各側壁部11b,11bに対向するように、該各側壁部11b,11bと各内壁部11d,11dとの間に位置させて配設される(
図2(a)参照)。
【0019】
ロアレール11とアッパーレール12との間には、
図1〜
図4に示したように、転動部材としてのボール14a〜14dが介在され、車体フロアに固定されるロアレール11に対してアッパーレール12が長手方向にスライド可能に設けられるが、ボール14a〜14dの詳細については後述する。
【0020】
ロアレール11には、ロア側補強プレート110が固定され、アッパーレール12には、アッパー側補強プレート120が固定される(
図4(b)参照)。ロア側補強プレート110は、幅方向断面で略コ字状に形成され、開口側をロアレール11の底壁部11a側に対向させて配設されている。より具体的には、
図4(b)及び
図5(e)に示したように、上面部111と、上面部111の幅方向各側縁から裾広がりに傾斜する傾斜面状の一対の側面部112,112とを有する形状に形成され、下端部113,113が外方に向かって略平坦に延びるように加工され、該下端部113,113がロアレール11の底壁部11aの内面に積層されている。下端部113,113は、ロアレール11の底壁部11aにレーザー溶接などの手段を用いて固定される。ロア側補強プレート110は、
図2(b)及び
図5(a),(b)に示したように、ロアレール11の長手方向に沿って、アッパーレール12のスライド距離以上の長さに亘って設けられており、上記のように下端部113,113がロアレール11の底壁部11aに溶接により一体化されるため、ロア側補強プレート110と該底壁部11aとによって、長手方向に沿った少なくとも一部において、閉断面構造の中空部(ロア側中空部)110aが形成されることになる(
図2(a)、
図4(b)及び
図11(b)参照)。
【0021】
アッパー側補強プレート120は、上面部121と、その幅方向各側縁から下方に折り曲げられた一対の側面部122,122を有する幅方向断面で略コ字状に形成され、開口側をロアレール11側に向けて、すなわち、アッパーレール12の上壁部12aから各側壁部12b,12bの上下方向中途部に至るまでの範囲の内面に背中合わせで積層される(
図4(b)、
図6(c)、
図8及び
図11(b)参照)。アッパー側補強プレート120は、
図6〜
図8に示したように、長手方向略中央部の所定範囲において、上面部121と各側面部122,122との角部を押し潰したような傾斜面部123,123が形成されている。そして、上面部121と各側面部122,122がレーザー溶接等によってアッパーレール12の上壁部12a及び各側壁部12b,12bの内面に固定される。これにより、各傾斜面部123,123と、アッパーレール12の上壁部12a及び各側壁部12b,12bとの間に、閉断面構造の中空部(アッパー側中空部)120a,120aが形成されることになる(
図6(c)、
図11(b)参照)。
【0022】
以上より、アッパーレール12とアッパー側補強プレート120とにより、その長手方向に沿った少なくとも一部に2つのアッパー側中空部120a,120aが形成されると共に、ロアレール11とロア側補強プレート110とにより、上記のようなロア側中空部110aが形成され、各中空部120a,120a,110aが形成された範囲を含む断面係数が、それらを形成しない場合と比較して高くなり、ねじり変形が生じにくい構造となる。なお、アッパー側補強プレート120は、ねじり変形に対してより高い強度を持たせるため、所定の部位を、好ましくは、
図7(d)に示したように、上面部121の幅方向各角部付近から各側面部122,122の中途部までの範囲(
図7(d)でハッチングで示した範囲)を熱処理しておくことが好ましい。
【0023】
図11に示したように、アッパー側中空部120a,120a及びロア側中空部110aを有する本実施形態のシートスライドアジャスタ10(実施例1)と、このような中空部を備えていないシートスライドアジャスタ(比較例1)との間で断面係数を比較した。具体的には、本実施形態のシートスライドアジャスタ10(実施例1)において、ロアレール11の長手方向端部からアッパーレール12を所定量後方にスライドさせた位置において、アッパー側中空部120a,120aが形成されているロアレール11の長手方向端部から距離L隔てた位置の幅方向断面で、アッパーレール12の各折り返し片12c,12cと、各折り返し片12c,12cを間に挟むロアレール11の各側壁部11b,11b及び各内壁部11d,11dとを除いた範囲の2つの領域について断面係数を測定した(
図11(a),(b)参照)。すなわち、本実施形態のシートスライドアジャスタ10(実施例1)におけるアッパーレール12の上壁部12aから、アッパー側補強プレート120の側面部122,122の下端縁よりもやや下方に至るまでのC領域と、ロアレール11の底壁部11aとロア側補強プレート110とを含むD領域について断面係数を測定した。比較例1についても、実施例1と同様、ロアレール11の長手方向端部から距離L隔てた位置における同じ位置のC領域及びD領域について断面係数を測定した(
図11(c),(d)参照)。
【0024】
その結果、実施例1のC領域の断面係数K
C2=922mm
3、D領域の断面係数K
D2=632mm
3、比較例1のK
C1=581mm
3、D領域の断面係数K
D1=383mm
3であり、実施例1は、比較例1に対して、C領域で1.6倍、D領域で1.7倍の断面係数で、強度が50%以上高くなっていた。
【0025】
C領域及びD領域の強度が低い場合、
図12(a),(b)に示したように、アッパーレール12に連結されるシートフレームのベルトアンカー部に追突等によって大荷重(負荷(1))が加わると、アッパーレール12の上壁部12aを含むC領域と、ロアレール11の底壁部11aを含むD領域が先行して変形する。それにより、アッパーレール12に矢印(2)方向の力が作用すると共に、ロアレール11に矢印(3)方向の力が作用し、アッパーレール12がロアレール11から離脱しやすくなる。しかしながら、本実施形態の場合、C領域及びD領域の強度が高い構成であるため、変形が抑制され、アッパーレール12のロアレール11からの離脱も抑制される。
【0026】
ここで、転動部材としてのボール14a〜14dについて説明する。まず、
図1、
図2及び
図4に示したように、ロアレール11の左右の各側壁部11b,11bにおける上下方向中途部のそれぞれに、ボール14a,14b(以下、
図4(b)の左側の側壁部11bに配置されるボールを「左側ボール14a」とし、右側の側壁部11bに配置されるボールを「右側ボール14b」とする)が設けられる。左側ボール14a及び右側ボール14bは、いずれも、ロアレール11の長手方向の前端側と後端側に所定間隔をおいてそれぞれ2つずつ設けられている(
図1及び
図4(a)参照)。具体的には、
図3(a)に示したように、リテーナー(第1リテーナー)141の長手方向に沿って左側ボール14a又は右側ボール14bがそれぞれ2つずつ回転自由に保持されており、各第1リテーナー141を、ロアレール11の左右の各側壁部11b,11bにおける長手方向の前端側と後端側とにそれぞれ配設される。ロアレール11の各側壁部11b,11bには、上記のようにアッパーレール12の各側壁部12b,12bが対向しており、アッパーレール12の各側壁部12b,12bは、左側ボール14a及び右側ボール14bに接して、これらの転動によりロアレール11に対して前後にスライドする。
なお、
図8及び
図9に示したように、アッパーレール12の折り返し片12c,12cには、長手方向に沿って内方に湾曲させた湾曲凹部12gが形成されており、アッパーレール12が前後スライドすると、第1リテーナー141に保持された各ボール14a,14bが湾曲凹部12gに接しながら転動して、両者の相対位置が変位する。また、湾曲凹部12gのうち、アッパーレール12の長手方向各端部付近、及び、長手方向の中途に形成した後述するロック部材17が挿入される挿入穴12eの各端部付近には、湾曲せずに上下に直線的に形成され、湾曲凹部12gに対して相対的に外方に位置するストッパ12hが設けられている。アッパーレール12が前後にスライドすることによって、各ストッパ12hが、各第1リテーナー141に当接する。なお、ロアレール11の各側壁部11b,11bの前端付近及び後端付近においては、それぞれ内方に突出させるように折り曲げられた凸部11fが設けられており(
図1及び
図2(b)参照)、アッパーレール12のスライド方向前端位置及び後端位置においては、これらの各凸部11fと上記各ストッパ12hと間に各第1リテーナー141が挟まれることになって、それによりアッパーレール12の前後スライド量が規制される。
【0027】
本実施形態では、ロアレール11の底壁部11a寄りに、さらに転動部材としてのボール14c,14dが配設される。具体的には、
図4(b)に示したように、ロア側補強プレート110において裾広がりの傾斜面状に形成された各側面部112,112と、この各側面部112,112に対向するアッパーレール12の各側壁部12b,12b(より正確には、各側壁部12b,12bのうち、上下方向中途部より下部に位置する若干外方に拡開する形状で折り返し片12c,12cに至るまでの範囲に相当する傾斜対向面12b1,12b1)との間に、ボール14c,14d(以下、
図4(b)において、ロア側補強プレート110の左側の側面部112上に配置されるボールを「下部左側ボール14c」とし、右側の側面部112上に配置されるボールを「下部右側ボール14d」とする)が配設される。下部左側ボール14c及び下部右側ボール14dを配設するため、本実施形態では、
図3(b)に示したような、平面視で略長方形のリテーナー(第2リテーナー)142を用いている。この第2リテーナー142は、左右の長手方向に沿って2つずつ、合計4つのボール14c,14dを保持できる構造を有しており、上記の第1リテーナー141が配設されている位置に対応して、ロア側補強プレート110の長手方向の前端側と後端側とに所定間隔をおいて、ロア側補強プレート110に積層させて配設される(
図1、
図2(a),(b)及び4(a)参照)。第2リテーナー142をロア側補強プレート110に積層させて配設すると、左右に保持された各ボール14c,14dは、上記のように、ロア側補強プレート110の各側面部112,112と、この各側面部112,112に対向するアッパーレール12の各側壁部12b,12b(傾斜対向面12b1,12b1)との間に配置されることになる。それにより、アッパーレール12は、各側壁部12b,12b(傾斜対向面12b1,12b1)が各ボール14c,14dに接し、これらを転動させながら前後にスライドする。
【0028】
下部左側ボール14c及び下部右側ボール14dは、このように、ロアレール11の側壁部11b,11bの内側において、ロア側補強プレート110の傾斜面状の側面部112,112上に配置され、かつ、アッパーレール12の側壁部12b,12bの下部に位置する傾斜対向面12b1,12b1との間に配置されている。従って、上記のロアレール11の側壁部11b,11b及びアッパーレール12の側壁部12b,12b間に配置される左側ボール14a及び右側ボール14bと合わせると、幅方向断面から見て、
図4(b)に示したように、4つのボール14a〜14dが略円弧状に配置されることになる。このため、下部左側ボール14c及び下部右側ボール14dは、アッパーレール12に上下方向に加わる力を、下部左側ボール14c及び下部右側ボール14dを介して、ロア側補強プレート110及びロアレール11の底壁部11aに対してほぼ上下方向に伝達し、左右の幅方向に分散される力が抑制される。これにより、大荷重がかかった際の
図12に示したようなロアレール11及びアッパーレール12の変形が抑制され、ロアレール11及びアッパーレール12を構成する材料として薄板を用いた場合でも、変形の抑制、強度の向上に貢献できる。なお、下部左側ボール14c及び下部右側ボール14dは、もちろん、上記のロアレール11の側壁部11b,11b及びアッパーレール12の側壁部12b,12b間に配置される左側ボール14a及び右側ボール14bと共に、アッパーレール12をロアレール11に対してスライドさせた時の抵抗を低減する機能を果たす。
【0029】
次に、本実施形態のシートスライドアジャスタ10に用いられるロック機構15について説明する。このロック機構15は、ロック解除操作部材16とロック部材17とを備えてなり、上記特許文献2(特開2011−79414号公報)に示されたものと同様の構造である。まず、ロック解除操作部材16は、所定の長さを有し、ロアレール11及びアッパーレール12の内側に配設される(
図1〜
図3参照)。ロック解除操作部材16は、その前端部16aがアッパーレール12の前端から突出し、この前端部16aに把持部が連結されて、操作者が上下に操作できるようになっている。ロック解除操作部材16は、長手方向中途部を中心として、前端部16aが上下に変位すると、後端部が逆方向に変位する。そのため、後端部にロアレール11に形成した被係合部11e(本実施形態では、内壁部11d,11dに櫛歯状に設けた複数の突片から構成される(
図1及び
図2(b)参照))に係合する係合部17b(本実施形態では、突片が挿入される孔から構成される)を備えたロック部材17を取り付ければ(
図8及び
図10参照)、ロック解除操作部材16の前端部16aが上方向に変位すると、ロック部材17の係合部17bが被係合部11eから離脱してロック解除状態となり、逆方向に変位すると、係合部17が被係合部11eに係合してロック状態となる。
【0030】
ロック解除操作部材16はこのように動作するため、長手方向中途部をアッパーレール12に軸部材によって軸支したものが知られているが、本実施形態のように外方に折り返し片12c,12cを有するアッパーレール12の場合、折り返し片12c,12cが邪魔になって軸部材を配設しにくく、ロック解除操作部材16の組付け性を損なう。特許文献2は、この点を解決するものであり、軸部材を廃止し、ロック解除操作部材16の長手方向中途部に、アッパーレール12の側壁部12b,12bの内面で軸支可能な凸部(図示せず)を設け、さらに、この凸部を設けた長手方向中途部に位置する回転軸部(図示せず)の上下を挟持して回転可能に支持している。回転軸部の上部には、アッパーレール12の上壁部12aに形成した取付孔12fに嵌合する部位を有する板ばね18を配置して回転軸部を弾性的に軸支している(
図1参照)。また、この板ばね18によってロック解除操作部材16の後端部を常に上方に付勢しており、すなわち、ロック部材17の係合部17bがロアレール11の被係合部11eに係合する方向に付勢している。従って、操作者が前端部16aを上方に変位させると、板ばね18の弾性力に抗して、係合部17bが被係合部11eから離脱する一方、操作者が手を離すと、板ばね18の弾性力により、係合部17bが被係合部11eに係合する。
【0031】
ロック部材17は、
図8及び
図10に示したように、幅方向(ロアレール11及びアッパーレール12の幅方向と同じ方向)の一端に軸部17cを有する略方形のプレート部17aを備えてなる。アッパーレール12の一方の折り返し片12cとそれに隣接する一方の側壁部12bには、プレート部17aを挿入可能な挿入穴12eが形成されていると共に、折り返し片12cの挿入穴12eの外面側に凹部12iが形成されている。ロック部材17は、軸部17cが形成されていない幅方向他端側から挿入穴12eに挿入し、軸部17cを折り返し片12cの凹部12iに軸受けさせて配設される。プレート部17aの他端側には、ロアレール11の長手方向に沿って複数の孔が形成されており、この孔が上記の係合部17bを構成する。従って、ロック部材17は、軸部17cを中心として、プレート部17aが上下に回動し、孔からなる係合部17bがロアレール11の被係合部11eに係脱する。
【0032】
ロック解除操作部材16の後端部は、プレート部17aの他端側に位置する係合部17b寄りの連結孔17dを介して連結され、それにより、ロック部材17が支持されるが、上記のようにロック解除操作部材16の回転軸部の拘束に当たって、板ばね18の弾性力を利用していることもあり、各部材の寸法精度によっては、走行時の振動などによって、ロック部材17の位置が若干前後にガタつく場合があり、また、ロック解除時には大きな解除音を発生する場合もある。
【0033】
そこで、本実施形態では、
図8及び
図10に示したように、ロック部材17のプレート部17aの長手方向(ロアレール11及びアッパーレール12の長手方向と同じ方向)に沿って動くことを規制する規制部材を設けている。この規制部材は、軸部17cを有する幅方向一端側において、長手方向に沿った各端縁17e,17eに隣接した位置に設けられる。本実施形態では、アッパー側補強プレート120の一方の側面部122から下方に所定間隔をおいて突出し、ロック部材17の各端縁17e,17eに隣接した位置に延びる一対の突起122a,122aから構成される。幅方向一端側の各端縁17e,17eが、長手方向に変位しようとしても、各突起122a,122aに当接して変位できないため、ガタつきが抑制される。また、ロック部材17の長手方向に沿ったガタつきはこの一対の突起122a,122aによって規制されるが、ロック解除操作部材16の後端部は、プレート部17aの幅方向他端側の連結孔17dに連結されるため、プレート部17aの軸部17cを中心として回動させる際の操作力や操作感に影響を及ぼすことはない。
【0034】
図13は、突起122a,122aを有する本実施形態のシートスライドアジャスタ10(実施例1)と、突起を備えていないことを除いて同様の構造としたシートスライドアジャスタ(比較例2)に関して、ロアレールを治具に固定し、アッパーレールをロアレールの長手方向中央位置でロック部材によりロックし、この状態で、アッパーレールの最前端に前後に負荷をかけて測定した荷重−変位特性を示す。
図13(a),(b)から明らかなように、比較例2の変位量が最大で約0.38mmであるのに対し、実施例1の変位量が最大で約0.15mmであり、実施例1が比較例2よりも大幅にガタつきが減少している。
【0035】
本実施形態によれば、ロア側補強プレート110及びアッパー側補強プレート120の双方を有し、好ましくは、それらによって複数の中空部110a,120a,120aを形成して断面係数を高めた構成であり、それにより、強度を高め、ねじり変形を抑制することができる。また、転動部材としてのボール14a〜14dを所定の位置に設けることにより、特に、アッパーレール12の側壁部12b,12b間の範囲において、ロア側補強プレート110の傾斜面状の側面部112,112上に下部左側ボール14c及び下部右側ボール14dを設けることにより、アッパーレール12に加わる上下方向負荷を、左右方向にあまり分散させずに上下方向に伝達できる。これらの作用により、ロアレール11及びアッパーレール12としてより薄い材料を用いても所定の強度を発揮でき、シートスライドアジャスタ10の軽量化に資する。
また、ロアレール11及びアッパーレール12は、上記のように、幅方向において断面係数が高くなっているだけでなく、ロア側補強プレート110及びアッパー側補強プレート120が長手方向に所定の長さを有し、しかも、各中空部110a,120a,120aも所定の長さに亘って形成されているため、長手方向の剛性もそれらを有しない場合と比較して高くなっている。ロアレール11及びアッパーレール12として、軽量化のため薄い材料を用いただけの場合、異音発生時には薄い材料の振動によって音が伝播されやすいが、本実施形態の構成によれば、ロアレール11及びアッパーレール12として薄い材料を用いた場合でも、上記のように幅方向及び長手方向共に剛性が高くなっているため、固体伝播音の減衰性が高く、共鳴箱効果が生じにくい。その結果、人が感知可能な異音の発生が抑制される。
【0036】
また、ロック機構15のロック部材17の長手方向に沿った動きを規制する一対の突起122a,122aからなる規制部材を設けることにより、ロック時のガタつきを抑制し、それに伴う異音の発生も抑制できる。また、ロック部材17の動作が安定し、ロック解除時の解除音も抑制できる。
【0037】
なお、上記実施形態において、アッパー側補強プレート120の各側面部122,122は、アッパーレール12の上壁部12aと各側壁部12b,12bとの境界位置から、各側壁部12b,12bの上下方向中途部までの長さとなっており、各側面部122,122の下縁と、その下方に位置するボール14c,14dとの間には、例えば、
図4(b)に示したように、ボール14c,14dの直径に相当する程度かそれ以上の間隙が形成されている。しかしながら、各側面部122,122を、
図14(a),(b)に示したように、より下方に延長した形状とし、各側面部122,122の下縁122bをボール14c,14dに近接させた構造とすることが好ましい。例えば、各側面部122,122の下縁122bとボール14a〜14dとの間隙Yが、2mm以下、好ましくは0.3〜0.8mm程度となるように設定することが好ましい。これにより、走行時の大きな揺れ等によってロアレール11やアッパーレール12が撓もうとすると、ボール14c,14dと各側面部122,122の下縁122bが速やかに当接するため変形が規制され、ロアレール11やアッパーレール12の撓みの抑制に役立つ。