(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6739887
(24)【登録日】2020年7月28日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】水害時2次排水方法
(51)【国際特許分類】
E03F 1/00 20060101AFI20200730BHJP
【FI】
E03F1/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-230121(P2019-230121)
(22)【出願日】2019年12月20日
【審査請求日】2019年12月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518348919
【氏名又は名称】亀井 正通
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】亀井 正通
【審査官】
彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−016125(JP,A)
【文献】
実開昭59−098974(JP,U)
【文献】
特開2000−213015(JP,A)
【文献】
特開2010−077623(JP,A)
【文献】
特開2016−089378(JP,A)
【文献】
特開平11−061953(JP,A)
【文献】
特開2014−152728(JP,A)
【文献】
特開2016−079635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の流入部に、前記流入部からの水の流入を一時的に阻止するための流入切替弁を備えた雨水貯留槽と、洪水または集中豪雨による広域の冠水が引いた後にも局所的に残る冠水または浸水区域の水を前記雨水貯留槽に誘導する導水手段と、前記雨水貯留槽に溜まった水を排水する排水手段とを備えた水害時2次排水システムを用いた水害時2次排水方法であって、対象地域への洪水または集中豪雨の初期においては、前記流入切替弁を閉じることで、前記雨水貯留槽への水の流入を阻止し、洪水または集中豪雨による広域の冠水が引いた後に、前記流入切替弁を開いて、局所的に残る冠水または浸水区域の水を前記雨水貯留槽に誘導し、前記雨水貯留槽に溜まった水を排水手段により排水することを特徴とする水害時2次排水方法。
【請求項2】
水の流入部に、前記流入部からの水の流入を一時的に阻止するための流入切替弁を備えた雨水貯留槽と、洪水または集中豪雨による広域の冠水が引いた後にも局所的に残る冠水または浸水区域の水を前記雨水貯留槽に誘導する導水手段と、前記雨水貯留槽に溜まった水を排水する排水手段とを備えた水害時2次排水システムを用いた水害時2次排水方法であって、対象地域への洪水または集中豪雨の初期においては、前記流入切替弁の切替えにより、前記雨水貯留槽への水の流入を抑制しつつ一部許容し、洪水または集中豪雨による広域の冠水が引いた後に、前記流入切替弁を開いて、局所的に残る冠水または浸水区域の水を前記雨水貯留槽に誘導し、前記雨水貯留槽に溜まった水を排水手段により排水することを特徴とする水害時2次排水方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の水害時2次排水方法において、前記雨水貯留槽は地中に設けられていることを特徴とする水害時2次排水方法。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の水害時2次排水方法において、前記導水手段または前記雨水貯留槽には土砂成分を除去するためのフィルター手段が設けられていることを特徴とする水害時2次排水方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の水害時2次排水方法において、前記導水手段は前記局所的に残る冠水または浸水区域と前記雨水貯留槽を接続する排水パイプであることを特徴とする水害時2次排水方法。
【請求項6】
請求項1〜4の何れかに記載の水害時2次排水方法において、前記導水手段は、前記局所的に残る冠水または浸水区域の水を地表面側から吸水する吸水手段と、前記吸水手段と前記雨水貯留槽とを接続する接続手段と、を備えていることを特徴とする水害時2次排水方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の水害時2次排水方法において、前記排水手段は河川または下水道と接続する排水路であることを特徴とする水害時2次排水方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載の水害時2次排水方法において、前記排水手段は河川または下水道と接続する排水ポンプであることを特徴とする水害時2次排水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集中豪雨や堤防の決壊などにより冠水した田畑や道路、浸水した家屋、建物などの冠水、浸水状態が長期にわたって継続することを解消させるための水害時2次排水システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の異常気象により想定を超える水害が多発している。これに対し、大規模な水害を防ぐ手段として、地下河川や雨水調整池の整備が図られ、それなりの成果を上げている。
【0003】
日本国内の多くの地域では局地的集中豪雨対策として、1ha当たり約600m
3程度の雨水流出抑制措置を義務付けており、その対策の一つとして雨水調整池が設けられている。
【0004】
しかしながら、地下河川や雨水調整池の整備は、広域的な水害抑制には貢献しているものの、局所的には冠水状態、浸水状態が数日から数週間続く地域が珍しくなく、その区間の通行が遮断されるなど、その地域に生活する人々にとって大きな負担となっている。
【0005】
特許文献1には、簡易かつ安価に構築することが可能な雨水排水管理システムとして、所定の雨量を超える多量降雨時には降雨水を貯水槽に貯留し、それ以外の降雨時には降雨水を貯留することなく排水する雨水排水管理システムであって、降雨水を集水する集水設備と、前記集水設備から前記貯水槽に降雨水を導く送水路と、前記集水設備から排水施設に降雨水を導く排水路と、多量降雨時とそれ以外の降雨時における前記送水路または前記排水路と前記集水設備との接続の切換を行う分水制御装置と、を備える雨水排水管理システムが開示されている。
【0006】
特許文献2には、洪水調整池に蓄えられた水を原水として有効利用し、この蓄えられた水を逐次浄化して貯水することができる地下貯水槽として、洪水調整池よりも下方に形成された貯水空間を有する地下貯水槽であって、前記洪水調整池の底部に設けられ該洪水調整池内に溜まった水を受け入れる給水口と、この給水口に取り付けられ前記受け入れた水を通水して浄化するフィルター部材と、前記貯水空間を構成し前記フィルター部材により浄化された浄水を貯水する貯水槽本体と、この貯水槽本体内に貯水された前記浄水を排水する排水手段と、を備えた地下貯水槽が開示されている。
【0007】
特許文献3には、集中豪雨のように、短時間で大量の降水量を伴う集中豪雨があった場合でも、運動場の表面から雨水を迅速に排除することができ、運動場表面に雨水が長時間にわたって滞留するのを回避することができる運動場の排水構造として、透水性を有する表面層と、少なくとも前記表面層の下に埋設される樹脂材料を構造材とする雨水貯留浸透槽、および、前記雨水貯留浸透槽と前記側溝とを連通する連通部で構成され、前記側溝の側壁と前記雨水貯留浸透槽の上部とは前記連通部によって連通され、雨水は前記表面層を介して前記雨水貯留浸透槽へ流入するとともに、前記側溝から前記連通部を介して前記雨水貯留浸透槽へ流入するようにした運動場の排水構造が開示されている。
【0008】
特許文献4には、下層土に地表水を注入して、滞留する表面水や洪水により引き起こされる湿潤状態を取り除く装置および方法として、地盤に孔のパターンをドリルし、土壌にドリルされた孔に細長く形成された注排水流路部材を差し込み、それぞれの孔が注排水流路部材を受け入れるようにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−287197号公報
【特許文献2】特開2010−077623号公報
【特許文献3】特開2015−158126号公報
【特許文献4】特開2016−089378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、集中豪雨、洪水などによる冠水、浸水が広域的には引いた後でも、局所的な冠水、浸水状態が散在し、それが長期にわたって残ることで、地域住民の生活に大きな支障となっているのが現実である。
【0011】
局所的な冠水、浸水の原因としてはその地域の地形や地盤内の帯水層の位置など地層的な原因もある。
【0012】
例えば、上述した特許文献4に記載される発明は、そのような原因で滞留する表面水や洪水により引き起こされる湿潤状態を取り除くために、地盤を穿孔して地表水を地下に注入するというものであるが、帯水層を貫く穿孔を不用意に行うことは、帯水層の下の地下水の汚染や地下水の枯渇といった環境的な問題を引き起こす恐れもある。
【0013】
本発明は、集中豪雨、洪水などによる冠水、浸水が広域的には引いた後でも、局所的に残る冠水、浸水状態を環境的な問題を生じさせることなく、早期に解消させることができる水害時2次排水システムを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の水害時2次排水システムは、水の流入部に、流入部からの水の流入を一時的に阻止するための流入切替弁を備えた雨水貯留槽と、洪水または集中豪雨による広域の冠水が引いた後にも局所的に残る冠水または浸水区域の水を雨水貯留槽に誘導する導水手段と、雨水貯留槽に溜まった水を排水する排水手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0015】
流入切替弁で水の流入を一時的に阻止するのは、冠水、浸水が広域的に引いた後、残っている局所的な冠水、浸水区域の水を、事後の2次排水のために取り込めるようにするためである。すなわち、洪水時などに発生する大量の水をそのまま流入させると、雨水貯留槽が一気に満杯となり、排水が追い付かないことで2次排水が可能となるまでに長い時間を要することになるためである。
【0016】
雨水貯留槽は地中に埋めた地下貯水槽とすることが望ましいが、条件によっては地上あるいは半地下に設置することも可能である。
【0017】
また、従来の雨水貯留槽と同様に雨水貯留槽の手前にフィルター手段を設け、すなわち導水手段または雨水貯留槽に土砂成分を除去するためのフィルター手段を設け、水に含まれる土砂などを除去するようにすることができる。ただし、水害後にも冠水状態で残っている水は洪水直後の泥水などに比べるとある程度土砂成分が沈殿した状態の表面水となるため、一般の雨水貯留槽に比べ簡易なもので対処できる場合が多い。
【0018】
冠水または浸水区域の水を雨水貯留槽に誘導する導水手段は、具体的には局所的に残る冠水または浸水区域と雨水貯留槽を接続する排水パイプなどであり、さらに吸水ポンプを介在させて強制的に早期に導水するようにしてもよい。
【0019】
また、地下に設置される排水パイプに代わり、あるいは排水パイプと併用して、局所的に残る冠水または浸水区域の水を地表面側から吸水する吸水ポンプを備えた吸水用のホースなどの吸水手段を用いることもできる。
【0020】
雨水貯留槽に溜まった水を排水する排水手段は、例えば河川または下水道と接続する排水路、排水ポンプなどである。
【0021】
また、本発明の水害時2次排水方法は、上述したような水害時2次排水システムを用いた水害時2次排水方法であって、対象地域への洪水または集中豪雨の初期においては、流入切替弁を閉じることで、雨水貯留槽への水の流入を阻止し、洪水または集中豪雨による広域の冠水が引いた後に、流入切替弁を開いて、局所的に残る冠水または浸水区域の水を雨水貯留槽に誘導し、雨水貯留槽に溜まった水を排水手段により排水することを特徴とするものである。
【0022】
洪水または集中豪雨の初期において、流入切替弁を閉じて水の流入を阻止するのは、冠水、浸水が広域的に引いた後、残っている局所的な冠水、浸水区域の水を、事後の2次排水のために取り込めるようにするためである。すなわち、洪水時などに発生する大量の水をそのまま流入させると、雨水貯留槽が一気に満杯となり、排水が追い付かないことで2次排水が可能となるまでに長い時間を要することになるためである。
【0023】
また、本発明の水害時2次排水方法の他の形態としては、対象地域への洪水または集中豪雨の初期においては、流入切替弁の切替えにより、雨水貯留槽への水の流入を抑制しつつ一部許容し、洪水または集中豪雨による広域の冠水が引いた後に、流入切替弁を開いて、局所的に残る冠水または浸水区域の水を前記雨水貯留槽に誘導し、雨水貯留槽に溜まった水を排水手段により排水するようにしてもよい。
【0024】
気象情報によって、事前に降雨による周辺地域の被害がある程度予想される場合、本発明の水害時2次排水システムを事後の2次排水として利用するだけでなく、ある一定以下の水量であれば、雨水貯留槽への水の流入を一部許容して、周辺地域の水位を低下させることで、できるだけ周辺地域の水害抑止にも寄与させることが考えられる。
【0025】
その場合の、流入切替弁の開閉の切替えは、気象情報に連動させて自動的に行わせるようにすることもできる。
【0026】
また、雨水貯留槽の内部を2以上に分割し、降雨時の使用に利用する部分と、原則的に2次排水にのみ使用する部分とに分けておくことも考えられる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の水害時2次排水システムおよび2次排水方法によれば、集中豪雨、洪水などによる冠水、浸水が広域的には引いた後にも、局所的に残っている冠水、浸水状態を環境的な問題を生じさせることなく、早期に解消させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の水害時2次排水システムの一実施形態を概念的に示した鉛直断面図である。
【
図2】本発明の水害時2次排水システムの他の実施形態を概念的に示した鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を添付した図面に基づいて説明する。
【0030】
図1は、本発明の水害時2次排水システムの一実施形態を概念的に示した図であり、集中豪雨あるいは洪水などによる広域の冠水が引いた後にも、冠水または浸水状態が局所的に残ることが、経験的にあるいは地形、地層の状況から分かっている地域に雨水貯留槽1を設け、冠水または浸水位置との間に排水パイプ2を設置しておき、排水パイプ2から雨水貯留槽1への水の流入部には流入切替弁3を設置する。
【0031】
対象地域への集中豪雨または洪水の初期においては、原則として流入切替弁3の切り替えにより、雨水貯留槽3への水の流入を阻止する。ただし、周辺地域で予想される広域の水害の程度によっては水の流入を一部許容し、広域の水害の抑制にも寄与させる。
【0032】
洪水または集中豪雨による広域の冠水が引いた後は、流入切替弁3を開いて、局所的に残る冠水または浸水区域の水を雨水貯留槽1に誘導することで、従来、長期にわたって残り、周辺住民の生活に支障をきたしていた局所的な冠水または浸水を早期に解消させることができる。
【0033】
雨水貯留槽1は排水路4を経由する排水手段により下水あるいは河川などに排水する。その場合、排水ポンプ5などを用いた強制的な排水手段を利用してもよい。
【0034】
図2は、本発明の水害時2次排水システムの他の実施形態を概念的に示した図である。この例では、従来の雨水貯留槽1の場合と同様に、雨水貯留槽1の手前にフィルター手段としてのフィルター槽7を設け、フィルター槽7で一旦、土砂成分を沈殿させ、接続パイプ8を通じて土砂などが除去された水を雨水貯留槽1に導入するようにしている。
【0035】
ただし、水害後にも冠水状態で残っている水は洪水直後の泥水などに比べるとある程度土砂成分が沈殿した状態の表面水となるため、一般の雨水貯留槽1に比べ簡易なもので対処できる。
【0036】
また、この例では冠水が残ることが分かっている部分に排水溝6を設け、その近傍に流入切替弁3を設ける構成としている。雨水貯留槽1に溜まった水は、排水路4、9などを通じて、下水あるいは河川に向けて排水される。
【符号の説明】
【0037】
1…雨水貯留槽、2…排水パイプ、3…流入切替弁、4…排水路、5…排水ポンプ、6…排水溝、7…フィルター槽、8…接続パイプ、9…排水路
【要約】 (修正有)
【課題】集中豪雨、洪水などによる冠水、浸水が広域的には引いた後でも、局所的に残る冠水、浸水状態を環境的な問題を生じさせることなく、早期に解消させることができる水害時2次排水システムを提供する。
【解決手段】広域の冠水が引いた後にも、冠水または浸水状態が局所的に残ることが、経験的にあるいは地形、地層の状況から分かっている地域に雨水貯留槽1を設け、冠水または浸水位置との間に排水パイプ2を設置しておき、排水パイプ2から雨水貯留槽1への水の流入部には流入切替弁3を設置する。集中豪雨または洪水の初期においては、原則として流入切替弁3の切り替えにより、雨水貯留槽3への水の流入を阻止する。広域の冠水が引いた後は、流入切替弁3を開いて、局所的に残る冠水または浸水区域の水を雨水貯留槽1に誘導することで、局所的な冠水または浸水を早期に解消させる。
【選択図】
図1