特許第6739888号(P6739888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739888
(24)【登録日】2020年7月28日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】潤滑剤混合防止部を備えた波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20200730BHJP
   F16H 57/029 20120101ALI20200730BHJP
【FI】
   F16H1/32 B
   F16H57/029
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-537446(P2019-537446)
(86)(22)【出願日】2017年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2017029830
(87)【国際公開番号】WO2019038817
(87)【国際公開日】20190228
【審査請求日】2020年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】城越 教夫
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−250609(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/037105(WO,A1)
【文献】 特開2008−164149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/029
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
剛性の内歯歯車と、
カップ形状あるいはシルクハット形状をした可撓性の外歯歯車と、
波動発生器と、
前記外歯歯車の内側の内側潤滑部分と、
前記外歯歯車の外側の外側潤滑部分と、
前記内側潤滑部分を潤滑する潤滑剤と前記外側潤滑部分を潤滑する潤滑剤とが相互に混ざり合うことを防止するための潤滑剤混合防止部と、
を有しており、
前記外歯歯車は、円筒状胴部と、この円筒状胴部における一方の端から半径方向の内方あるいは外方に延びるダイヤフラムと、前記円筒状胴部の他方の端である開口端とを備え、
前記円筒状胴部は、外歯が形成されている外歯形成部分と、この外歯形成部分の端から前記開口端までの間の円筒状延長部分とを備え、
前記内歯歯車は、前記外歯形成部分を取り囲む状態に配置され、
前記波動発生器は、前記外歯形成部分の内側に配置され、当該外歯形成部分を非円形に撓めて、前記外歯歯車と前記内歯歯車を部分的にかみ合わせており、
前記内側潤滑部分は、前記波動発生器の摺動部分、および、前記波動発生器と前記外歯歯車の内周面の間の接触部分であり、
前記外側潤滑部分は、前記外歯歯車と前記内歯歯車の間の歯かみ合い部分であり、
前記円筒状延長部分は潤滑剤混合防止部であり、
前記円筒状延長部分の前記開口端に対峙する対峙部材を有し、
前記対峙部材は、前記円筒状延長部分の前記開口端が挿入された環状溝を備え、
前記開口端と前記環状溝の間にラビリンスシールが形成されている波動歯車装置。
【請求項6】
剛性の第1、第2内歯歯車、円筒形状をした可撓性の外歯歯車、および波動発生器を備え、前記外歯歯車の外側に前記第1、第2内歯歯車が並列配置され、前記外歯歯車の内側に前記波動発生器が配置されている波動歯車装置であって、
前記外歯歯車の内側の内側潤滑部分と、
前記外歯歯車の外側の外側潤滑部分と、
前記内側潤滑部分を潤滑する潤滑剤と前記外側潤滑部分を潤滑する潤滑剤とが相互に混ざり合うことを防止するための潤滑剤混合防止部と、
を有しており、
前記内側潤滑部分は、前記波動発生器の摺動部分、および、前記波動発生器と前記外歯歯車の内周面の間の接触部分であり、
前記外側潤滑部分は、前記外歯歯車と前記第1、第2内歯歯車のそれぞれとの間の歯かみ合い部分であり、
前記外歯歯車は、外歯が形成されている円筒状の外歯形成部分と、この外歯形成部分における歯筋方向の両側の端から、外歯の無い状態で所定長さだけ延びている第1円筒状延長部分および第2円筒状延長部分を備え、
前記第1、第2円筒状延長部分は、前記潤滑剤混合防止部であり、
前記第1円筒状延長部分の先端の第1開口端に対峙する第1対峙部材と、
前記第2円筒状延長部分の先端の第2開口端に対峙する第2対峙部材と、
を有しており、
前記第1対峙部材は、前記第1円筒状延長部分の前記第1開口端が挿入された第1環状溝を備え、
前記第2対峙部材は、前記第2円筒状延長部分の前記第2開口端が挿入された第2環状溝を備え、
前記第1開口端と前記第1環状溝の間に第1ラビリンスシールが形成され、
前記第2開口端と前記第2環状溝の間に第2ラビリンスシールが形成されている波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波動歯車装置に関し、特に、外歯歯車の外側の歯かみ合い部分に供給される潤滑剤と、外歯歯車の内側の波動発生器の部分に供給される異なる種類の潤滑剤とが相互に混ざり合うことを防止するための潤滑剤混合防止部を備えた波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置には、外歯歯車の内側に位置する内側潤滑部分、および外歯歯車の外側に位置する外側潤滑部分がある。内側潤滑部分は、波動発生器の摺動部分および波動発生器と外歯歯車の内周面との間の摺動部分であり、外側潤滑部分は、外歯歯車と内歯歯車の間の歯かみ合い部分である。内側潤滑部分と外側潤滑部分では、最適潤滑剤が異なるので、異なる潤滑特性の潤滑剤をそれぞれ供給することが望ましい。しかし、内側潤滑部分と外側潤滑部分とは、外歯歯車の内外において接近した位置にあるので、双方の潤滑剤が混ざる。このため、双方の潤滑部分に同一種類の潤滑剤を用いている場合が多いが、効率の低下、高荷重時の歯かみ合い部分の摩耗等の課題がある。
【0003】
特許文献1に記載のフラット型の波動歯車装置においては、円筒状の外歯歯車の両側に、リング状のシール部材を配置して、内側潤滑部分と外側潤滑部分の間を遮断して、異なる種類の潤滑剤の混合を防止している。特許文献2に記載の波動歯車装置においては、外歯歯車の開口端にシール部材を配置して、潤滑剤の混合を防止している。特許文献3に記載の波動歯車装置では、外歯歯車と固定部材の間に弾性シールを挟み、潤滑剤の混合を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−96343号公報
【特許文献2】特開平9−291985号公報
【特許文献3】特開平9−250609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、内側潤滑部分に供給される潤滑剤と外側潤滑部分に供給される潤滑剤との混合を、実用上支障のない程度まで抑制可能な潤滑剤混合防止部を備えた波動歯車装置を提供することにある。
【0006】
また、本発明の目的は、内側潤滑部分に供給される潤滑剤と外側潤滑部分に供給される潤滑剤との混合を、効果的に防止可能な潤滑剤混合防止部を備えた波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の波動歯車装置は、剛性の内歯歯車と、カップ形状あるいはシルクハット形状をした可撓性の外歯歯車と、波動発生器と、前記外歯歯車の内側の内側潤滑部分と、前記外歯歯車の外側の外側潤滑部分と、前記内側潤滑部分を潤滑する潤滑剤と前記外側潤滑部分を潤滑する潤滑剤とが相互に混ざり合うことを防止するための潤滑剤混合防止部とを有している。前記外歯歯車は、円筒状胴部と、この円筒状胴部における一方の端から半径方向の内方あるいは外方に延びるダイヤフラムと、前記円筒状胴部の他方の端である開口端とを備え、前記円筒状胴部は、外歯が形成されている外歯形成部分と、この外歯形成部分の端から前記開口端までの間の円筒状延長部分とを備えている。前記内歯歯車は、前記外歯形成部分を取り囲む状態に配置され、前記波動発生器は、前記外歯形成部分の内側に配置され、当該外歯形成部分を非円形に撓めて、前記外歯歯車と前記内歯歯車を部分的にかみ合わせている。前記内側潤滑部分は、前記波動発生器の摺動部分、および、前記波動発生器と前記外歯歯車の内周面の間の接触部分であり、前記外側潤滑部分は、前記外歯歯車と前記内歯歯車の間の歯かみ合い部分であり、前記円筒状延長部分は潤滑剤混合防止部として機能する。
【0008】
本発明では、カップ形状あるいはシルクハット形状の外歯歯車において、その外歯形成部分の端を延ばして、円筒状延長部分を形成してある。外歯歯車の外側の外側潤滑部分(歯かみ合い部分)から、外歯歯車の内側の内側潤滑部分までの間の距離が、円筒状延長部分を設けた分だけ、長くなる。供給される潤滑剤の粘性などに応じて、円筒状延長部分の長さを適切に設定しておくことで、双方の潤滑剤が混ざり合うことを、実用上支障のない程度まで抑制できる。シール部材などの別部品を取り付けることなく、潤滑剤の混合を抑制できる。
【0009】
潤滑剤が混ざり合うことを効果的に防止するには、内側潤滑部分と外側潤滑部分の間をオイルシールによって封鎖すればよい。オイルシールは、内歯歯車に直接に固定してもよいし、内歯歯車に固定された部材に固定してもよい。また、外歯歯車において、オイルシールのシールリップを当接させる部位として、円筒状延長部分の外周面あるいは内周面を利用できる。
【0010】
オイルシールの代わりに、円筒状延長部分と、これに対峙する対峙部材との間にラビリンスシールを形成して、内側潤滑部分と外側潤滑部分の間で潤滑剤が流通することを防止してもよい。
【0011】
次に、本発明はフラット型の波動歯車装置にも同様に適用可能である。この場合には、円筒形状の外歯歯車の両端に円筒状延長部分を形成し、これらの円筒状延長部分によって、内側潤滑部分と外側潤滑部分の間で潤滑剤が流通し難くすればよい。
【0012】
また、オイルシールあるいはラビリンスシールを用いて、内側潤滑部分と外側潤滑部分の間で潤滑剤が流通することを防止してもよい。
【0013】
さらに、フラット型の波動歯車装置において、その外歯歯車における波動発生器の両側に、オイルシールのシールリップを当接可能な内周面部分を確保できる場合がある。この場合には、円筒状延長部分を省略してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態1のカップ型の波動歯車装置を示す概略断面図である。
図2A図1の波動歯車装置の潤滑剤混合防止部の変更例を示す概略断面図である。
図2B図1の波動歯車装置の潤滑剤混合防止部の変更例を示す概略半断面図である。
図2C図1の波動歯車装置の潤滑剤混合防止部の変更例を示す概略半断面図である。
図3A】本発明の実施の形態2のフラット型の波動歯車装置を示す概略断面図である。
図3B図3Aの波動歯車装置の一部を示す拡大部分断面図である。
図4A図3Aの波動歯車装置の潤滑剤混合防止部の変更例を示す概略半断面図である。
図4B図3Aの波動歯車装置の潤滑剤混合防止部の変更例を示す概略半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に述べる実施の形態は、本発明をカップ型およびフラット型の波動歯車装置の潤滑構造に適用したものである。本発明は、カップ型の波動歯車装置の場合と同様に、シルクハット型の波動歯車装置に適用可能である。
【0016】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係るカップ型の波動歯車装置を示す概略断面図である。波動歯車装置1は、円環形状をした剛性の内歯歯車2と、この内側に配置したカップ形状の可撓性の外歯歯車3と、この内側に配置した波動発生器4とを備えている。内歯歯車2は、円筒状の装置ハウジング5の内周部分に同軸に固定されている。
【0017】
外歯歯車3は、円筒状胴部31と、円筒状胴部31の一端から半径方向の内方に延びるダイヤフラム32と、ダイヤフラムの内周縁に連続して形成した剛性の円環状のボス33とを備えている。また、外歯歯車3は、円筒状胴部31において、その他端である開口端34の側には、外歯35が形成されている外歯形成部分36が形成されている。円筒状胴部31において、外歯形成部分36の端36aから開口端34までは、外歯が形成されていない円筒状延長部分37となっている。外歯形成部分36を取り囲む状態に、内歯歯車2が配置されている。外歯形成部分36の内側に、波動発生器4が配置されている。外歯歯車3のボス33には、円盤状の出力軸6が連結固定されている。
【0018】
波動発生器4は、円筒状のハブ41と、この外周面にオルダム継手機構42を介して同軸に取り付けた剛性カム板43と、ウエーブベアリング44とを備えている。ウエーブベアリング44は、外歯歯車3の外歯形成部分36の内周面と、剛性カム板43の楕円状外周面43aとの間に装着されている。波動発生器4によって、外歯形成部分36は楕円状に撓められている。これにより、楕円形状の長軸両端において、外歯歯車3は内歯歯車2にかみ合っている。ハブ41には、モータ回転軸などの回転入力軸7が同軸に連結固定されている。
【0019】
回転入力軸7によって波動発生器4が回転すると、両歯車2、3のかみ合い位置が円周方向に移動し、両歯車の歯数差に応じた相対回転が両歯車2、3の間に生じる。本例では、内歯歯車2が固定されているので、外歯歯車3から出力軸6を介して、減速回転が出力される。
【0020】
装置ハウジング5の端面5aには、モータなどの回転入力側の部品との間を仕切る仕切り板8が固定されている。仕切り板8は、外歯歯車3の開口端34に対峙する対峙面8aを備えており、その内周面と回転入力軸7との間はシール部材によってシールされている。
【0021】
波動歯車装置1において、外歯歯車3の外側に位置する内歯歯車2と外歯歯車3の歯かみ合い部分は、潤滑剤によって潤滑される外側潤滑部分11である。外歯歯車3の内側の位置する波動発生器4の摺動部分および波動発生器4と外歯歯車3の間の接触部分は、歯かみ合い部分に供給される潤滑剤とは異なる種類の潤滑剤によって潤滑される内側潤滑部分12である。波動歯車装置1には、外側潤滑部分11に供給される潤滑剤と、内側潤滑部分12に供給される潤滑剤とが、相互に混ざり合うことを防止するための潤滑剤混合防止部を設けてある。本例の潤滑剤混合防止部は、外歯歯車3に形成した円筒状延長部分37と、円環状のオイルシール13とから構成される。
【0022】
円筒状延長部分37は、外歯歯車3において、その外歯形成部分36における外歯の歯筋方向の端36aから開口端34までの間の部分である。オイルシール13は、内歯歯車2の内周縁側の部分に固定されている。オイルシール13のシールリップ13aは、円筒状延長部分37の外周面に当接している。オイルシール13によって、外側潤滑部分11と内側潤滑部分12との間がシールされている。オイルシール13は、外歯歯車3の円筒状延長部分37の変形に追従可能な変形性を備え、円周方向の各部分が常に円筒状延長部分37に当接状態に維持される。
【0023】
外側潤滑部分11に供給される潤滑剤は、オイルシール13によって開口端34の側に流出することが阻止される。内側潤滑部分12に供給される潤滑剤は、円筒状延長部分37と仕切り板8との間の隙間部分を通って、外歯歯車3の外周側に流れ出る。円筒状延長部分37によって、外歯歯車3の外周側への流出が抑制される。また、外周側に流出した潤滑剤は、オイルシール13によって、外側潤滑部分11に流入することが阻止される。双方の潤滑剤が混じり合うことを確実に防止でき、外側潤滑部分11および内側潤滑部分12の双方を、適切な潤滑状態に維持できる。
【0024】
(変更例1−1)
ここで、オイルシールを内側潤滑部分12の側に配置することもできる。図2Aは、この構成の潤滑剤混合防止部の一例を示す概略半断面図である。円環状のオイルシール14は、仕切り板8の内周縁部分に形成した円筒部8bの外周面に固定されている。オイルシール14のシールリップ14aは、外歯歯車3の円筒状延長部分37の内周面に当接している。この場合においても、オイルシール14は、外歯歯車3の円筒状延長部分37の変形に追従可能な変形性を備え、円周方向の各部分が常に円筒状延長部分37の内周面に当接状態に維持される。
【0025】
(変更例1−2)
また、オイルシール13、14を省略可能な場合もある。例えば、潤滑剤が相互に混ざり難い特性を備えている場合には、オイルシールを省略できる。図2Bは、オイルシールを使用しない潤滑剤混合防止部の一例を示す概略半断面図である。この場合には、円筒状延長部分37の長さを適切に設定して、その開口端34と仕切り板8との間の隙間寸法を適切に設定しておく。これにより、実用上、障害とならない程度に、潤滑剤が混ざり合うことを抑制できる。きわめて簡単な潤滑剤混合防止部によって、双方の潤滑剤が混ざり合うことを実質的に防止できる。
【0026】
(変更例1−3)
図2Cは、潤滑剤混合防止部としてラビリンスシールを利用した場合の一例を示す概略半断面図である。外歯歯車3の円筒状延長部分37の開口端34に対峙する仕切り板8の対峙面8aに、円環状の矩形断面の溝8cを形成する。溝8cに、円筒状延長部分37の開口端34の部分が挿入された状態を形成する。溝8cの幅は、開口端34の部分が変形しても、当該部分に干渉しない寸法に設定されている。溝8cの内周面と円筒状延長部分37の開口端34の部分の外周面部分との間に、ラビリンスシールが形成される。円筒状延長部分37と、ラビリンスシールとから構成される潤滑剤混合防止部によって、潤滑剤が相互に混ざり合うことを確実に防止できる。
【0027】
[実施の形態2]
図3Aは、本発明を適用した実施の形態2に係る波動歯車装置を示す概略断面図であり、図3Bはその一部を示す部分拡大断面図である。波動歯車装置100はフラット型の波動歯車装置であり、並列配置された剛性の第1、第2内歯歯車101、102と、この内側に配置された円筒形状の可撓性の外歯歯車103と、この内側に配置した中空型の波動発生器104とを備えている。波動発生器104の中空部には同軸にモータ105が組み込まれている。
【0028】
第1、第2内歯歯車101、102は、クロスローラベアリング106によって相対回転自在に支持されており、第1内歯歯車101は装置ハウジング107に固定されている。第2内歯歯車102には円環状の出力軸部108が一体形成されている。波動発生器104は、モータロータ109に一体形成された剛性カム板部分110と、剛性カム板部分110の楕円状外周面に装着したウエーブベアリング111とを備えている。ウエーブベアリング111の両側には、ボールベアリング112、113が配置されている。モータロータ109は、ボールベアリング112、113を介して、装置ハウジング107および出力軸部108に支持されている。
【0029】
外歯歯車103は、波動発生器104によって楕円状に撓められて、第1、第2内歯歯車101、102にかみ合っている。モータ105を駆動してモータロータ109が回転すると、そこに一体形成されている剛性カム板部分110も回転し、外歯歯車103の第1、第2内歯歯車101、102に対するかみ合い位置も円周方向に移動する。第2内歯歯車102と外歯歯車103は同一歯数である。これらの歯数よりも、固定側の第1内歯歯車101の歯数は2枚多い。波動発生器104が回転すると、第1内歯歯車101と外歯歯車103の間には、それらの歯数差に応じた相対回転が発生する。この回転が第2内歯歯車102から出力軸部108を介して出力される。
【0030】
波動歯車装置100において、外歯歯車103の外側の位置する第1、第2内歯歯車101、102と外歯歯車103との間の歯かみ合い部分は、潤滑剤によって潤滑される外側潤滑部分121である。外歯歯車103の内側に位置する波動発生器104の摺動部分および波動発生器104と外歯歯車103の間の接触部分は、歯かみ合い部分に用いる潤滑剤とは異なる種類の潤滑剤によって潤滑される内側潤滑部分122である。波動歯車装置100には、外側潤滑部分121に供給される潤滑剤と、内側潤滑部分122に供給される潤滑剤とが、相互に混ざり合うことを防止するための潤滑剤混合防止部を設けてある。本例では、潤滑剤混合防止部として、外側潤滑部分121と内側潤滑部分122の間を封鎖している円環状の第1、第2オイルシール123、124が配置されている。
【0031】
第1内歯歯車101が形成されている装置ハウジング107には、外歯歯車103の一方の開口端である第1開口端103aに対峙する端面107aが形成されている。端面107aの内周縁は円形内周面107bに繋がっており、この円形内周面107bにボールベアリング112の外輪114が固定されている。外輪114における波動発生器104の側の端面115に、第1オイルシール123が固定されている。第1オイルシール123のシールリップ123aは、外歯歯車103の第1開口端103aの側の内周面部分に当接している。
【0032】
第2内歯歯車102が形成されている出力軸部108においても、外歯歯車103の他方の開口端である第2開口端103bに対峙する端面108aが形成されている。この端面108aの内周縁は円形内周面108bに繋がっており、この円形内周面108bにボールベアリング113の外輪116が固定されている。外輪116における波動発生器104の側の端面117に、第2オイルシール124が固定されている。第2オイルシール124のシールリップ124aは、外歯歯車の第2開口端103bの側の内周面部分に当接している。
【0033】
このように、波動歯車装置100は、剛性の第1、第2内歯歯車、円筒形状をした可撓性の外歯歯車、および波動発生器を備え、外歯歯車の外側に第1、第2内歯歯車が並列配置され、外歯歯車の内側に波動発生器が配置されている。また、波動歯車装置100は、外歯歯車の内側の内側潤滑部分と、外歯歯車の外側の外側潤滑部分と、内側潤滑部分を潤滑する潤滑剤と外側潤滑部分を潤滑する潤滑剤とが相互に混ざり合うことを防止するための潤滑剤混合防止部とを有している。内側潤滑部分は、波動発生器の摺動部分、および、前記波動発生器と前記外歯歯車の内周面の間の接触部分であり、外側潤滑部分は、外歯歯車と第1、第2内歯歯車のそれぞれとの間の歯かみ合い部分である。潤滑剤混合防止部として、内側潤滑部分と外側潤滑部分の間を封鎖している第1、第2オイルシールを備えており、第1オイルシールは、第1内歯歯車に固定され、あるいは第1内歯歯車に固定された部材に固定され、当該第1オイルシールのシールリップは、外歯歯車の内周面に当接しており、第2オイルシールは、第2内歯歯車に固定され、あるいは第2内歯歯車に固定された部材に固定され、当該第2オイルシールのシールリップは、外歯歯車の内周面に当接している。
【0034】
第1、第2オイルシール123、124は、外歯歯車3の変形に追従可能な変形性を備え、円周方向の各部分は、常に外歯歯車3の内周面に当接した状態に維持される。第1、第2オイルシール123、124によって、潤滑剤が混じり合うことを確実に防止でき、外側潤滑部分121および内側潤滑部分122の双方を、適切な潤滑状態に維持できる。
【0035】
(変更例2−1)
ここで、2種類の潤滑剤が相互に混ざり難い場合などにおいては、オイルシール123、124を省略できる。また、外歯歯車103において、ウエーブベアリング111の両側の外歯歯車103の内周面部分が狭く、オイルシール123、124を配置できない場合がある。このような場合には、図4Aに示すように、外歯歯車103Aにおいて、外歯が形成されている円筒状の外歯形成部分の両側の端から、それぞれ、外歯の無い状態で所定長さだけ延びている第1円筒状延長部分131および第2円筒状延長部分132を形成する。第1、第2円筒状延長部分131、132の内周面に、それぞれ、第1、第2オイルシール123、124のシールリップ123a、124aを当接させる。
【0036】
第1、第2オイルシール123、124と、第1、第2円筒状延長部分131、132を備えた潤滑剤混合防止部によって、潤滑剤が混じり合うことを確実に防止でき、外側潤滑部分121および内側潤滑部分122の双方を、適切な潤滑状態に維持できる。
【0037】
(変更例2−2)
また、潤滑剤混合防止構造として、オイルシールの代わりに、ラビリンスシールを利用できる。図4Bに示すように、波動歯車装置100において、外歯歯車103Aの第1円筒状延長部分131の開口端である第1開口端131aには、装置ハウジング107の端面107aが対峙している。端面107aには、円環状の矩形断面の溝107cが形成されている。溝107cには、第1円筒状延長部分131の第1開口端131aの部分が挿入された状態となっている。溝107cの開口幅は、第1円筒状延長部分131の変形に干渉しない寸法に設定されている。溝107cと、第1円筒状延長部分131の第1開口端131aの部分との間に第1ラビリンスシールが形成されている。
【0038】
同様に、外歯歯車103Aの第2円筒状延長部分132の開口端である第2開口端132aには、出力軸部108の端面108aが対峙している。端面108aには、円環状の矩形断面の溝108cが形成されている。溝108cには、第2円筒状延長部分132の第2開口端132aの部分が挿入された状態となっている。溝108cの開口幅は、第2円筒状延長部分132の変形に干渉しない寸法に設定されている。溝108cと第2円筒状延長部分132の部分との間に第2ラビリンスシールが形成されている。
【0039】
第1、第2ラビリンスシールを備えた潤滑剤混合防止構造によって、潤滑剤が混じり合うことを確実に防止でき、外側潤滑部分121および内側潤滑部分122の双方を、適切な潤滑状態に維持できる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B