【文献】
岩波 越,リモートセンシング技術による積乱雲の一生の観測,平成27年電気学会全国大会講演論文集,2015年 3月24日,第1分冊,第S2(7)〜S2(8)頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記予測手段は、前記複数の変位ベクトルの方向のばらつきが予め定められた閾値を超えた場合に、前記複数の変位ベクトルから求められる前記移動ベクトルを不採用にするように構成され、
前記閾値は、前記予測手段の処理と同一の処理により過去の気象データから計算される過去複数の積乱雲の各々についての前記複数の変位ベクトルと、前記複数の変位ベクトルの平均ベクトルとの方向差の標準偏差に基づいて定められることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の突風予測装置。
前記警戒領域決定手段は、前記予測手段によって予測された移動ベクトルに、予め定められた方向のばらつき量と距離のばらつき量とを加えて前記警戒領域を決定するように構成され、
前記方向のばらつき量と前記距離のばらつき量とは、前記予測手段の処理と同一の処理により過去の気象データから予測される複数の積乱雲の移動ベクトルと、前記複数の積乱雲の実際の移動ベクトルとの変化値の標準偏差に基づいて定められることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の突風予測装置。
前記予測手段によって予測された前記移動ベクトルに対応する移動速度が上限値を超えるもしくは下限値を下回る積乱雲を警戒対象から除外する対象除外手段を更に備えることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の突風予測装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ドップラーレーダにより突風をピンポイントで探知して交通機関の防災に役立てることが記されている。竜巻などの突風は空間スケールの小さい範囲で生じるため、これを風速計で補足することは困難であると考えられている。特許文献1の技術はドップラーレーダを設置するための免許や費用の観点から、ただちに実用化することは困難と考えられる。
また、気象庁のナウキャストの予測情報は、一般利用者向けの情報であり、交通機関の警戒情報として利用すると、警戒頻度が高く、警戒領域が広くなりすぎるという課題が生じる。交通機関の警戒領域では、例えば交通が停止されるなど利用者に不便が強いられるため、突風が生じないところに警戒領域が大きく広がることは好ましくない場合がある。
【0006】
本発明は、突風が発生する可能性のある領域の予測を適切に行って、突風による交通機関の被害を回避しつつ、突風が生じないのに警戒領域に含まれてしまう範囲を小さくできる突風予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る突風予測装置は、
気象データに基づいて警戒対象の積乱雲を検出する検出手段と、
互いに時間を隔てた複数組の気象データに基づいて前記警戒対象の積乱雲の移動ベクトルを予測する予測手段と、
前記予測手段によって予測された移動ベクトルに基づいて突風の警戒領域を決定する警戒領域決定手段と、
を備え、
前記予測手段は、前記警戒対象の積乱雲が含まれるか或いは近接する複数の領域それぞれにおける所定の気象現象の分布の変位方向および変位距離を表わす複数の変位ベクトルを、前記時間を隔てた複数組の気象データの相互相関に基づいて計算し、前記複数の変位ベクトルを平均して前記警戒対象の積乱雲の移動ベクトルを求めることを特徴としている。
【0008】
なお、気象現象とは、例えば降水強度、雲の高さ(雲頂高度)、風速などである。
上記のような構成によれば、予測手段によって警戒対象の積乱雲の移動ベクトルが予測され、この予測結果に基づいて警戒領域が決定される。さらに、積乱雲の移動ベクトルは、気象データの相互相関に基づき計算された複数の変位ベクトルを平均して求められる。よって、警戒対象の積乱雲の移動を高い精度で予測できる。従って、上記決定された警戒領域によって、突風による交通機関の被害を回避しつつ、突風が生じないのに警戒領域に含まれてしまう範囲を小さくできる。
【0009】
ここで、好ましくは、
前記複数の領域は4つ以上の領域であり、
前記複数の変位ベクトルは4つ以上の変位ベクトルとしてもよい。
このような構成によれば、警戒対象の積乱雲を囲うように変位ベクトルを設定でき、移動ベクトルの予測精度を向上できる。
【0010】
さらに好ましくは、前記予測手段は、前記複数の変位ベクトルの方向のばらつきが予め定められた閾値を超えた場合に、前記複数の変位ベクトルから求められる前記移動ベクトルを不採用にするように構成され、
前記閾値は、前記予測手段の処理と同一の処理により過去の気象データから計算される過去複数の積乱雲の各々についての前記複数の変位ベクトルと、前記複数の変位ベクトルの平均ベクトルとの方向差の標準偏差に基づいて定められてもよい。
この構成によれば、複数の地点で気象現象の分布が近似していて、相互相関により変位ベクトルの誤差が大きくなった場合に、この変位ベクトルが使用されて移動ベクトルの誤差が大きくなることを回避できる。よって、誤った積乱雲の移動予測を排除して、移動予測の総合的な精度をより高めることができる。
【0011】
また好ましくは、前記警戒領域決定手段は、前記予測手段によって予測された移動ベクトルに、予め定められた方向のばらつき量と距離のばらつき量とを加えて前記警戒領域を決定するように構成され、
前記方向のばらつき量と前記距離のばらつき量とは、前記予測手段の処理と同一の処理により過去の気象データから予測される複数の積乱雲の移動ベクトルと、前記複数の積乱雲の実際の移動ベクトルとの変化値(方向差、ベクトル差、ベクトルの大きさの差、ベクトルの大きさの比率など)の標準偏差に基づいて定められてもよい。
この構成によれば、適宜、予測した移動ベクトルにばらつきを加えて警戒領域が決定されるので、突風が生じる可能性が非常に低い箇所を警戒領域から除外して、それ以外の箇所を警戒領域に含めることができる。
【0012】
さらに、前記警戒領域決定手段は、前記移動ベクトルが不採用となった積乱雲に関する警戒領域を無しに決定するように構成するとよい。
変位ベクトルの計算に誤りが生じるときは、今後に突風が生じにくいことが、統計上、分かっている。従って、上記の構成によれば、今後に突風が生じない積乱雲の衰退時に、この積乱雲に関する警戒領域の設定を回避することができる。
【0013】
また、本発明に係る突風予測装置は、前記予測手段によって予測された前記移動ベクトルに対応する移動速度が上限値を超える、または下限値を下回る積乱雲を警戒対象から除外する対象除外手段を更に備えるとよい。
この構成によれば、気象現象の分布が近似する複数の地点の相互相関により積乱雲の移動ベクトルが誤って大きなベクトルに計算された場合に、この積乱雲を警戒対象から除外して、突風が生じないのに警戒領域に含まれてしまう範囲をより小さくできる。また、移動速度が大きいほど突風の最大風速が大きくなり被害が大きくなりやすいことから、下限値を設定することで、突風が生じる可能性が低い積乱雲を除外することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、突風が発生する可能性のある領域の予測を適切に行って、突風による交通機関の被害を回避しつつ、突風が生じないのに警戒領域に含まれてしまう範囲を小さくできる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の突風警報システムの機能構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態の突風警報システム1は、気象サーバ100から提供される気象データに基づいて、突風が生じる可能性のある警戒領域を決定し、これを鉄道運用サーバ200に送信するシステムである。突風警報システム1は、本発明に係る突風予測装置の一例に相当する。
【0017】
気象サーバ100は、気象庁など気象観測機関のサーバ、或いは、これら気象観測機関から気象データを収集配信するサーバである。気象サーバ100は、各地の雷の活動度を解析する雷ナウキャストの情報、各地の竜巻の発生確度を解析する竜巻発生確度ナウキャストの情報をリアルタイムで配信する。また、気象サーバ100は、各地の雨雲の雲頂高度の観測データ、各地の雨雲の降水強度の観測データをリアルタイムで配信する。
鉄道運用サーバ200は、鉄道輸送を行っている列車の管理を行うサーバであり、突風の警戒領域の情報を受信し、警戒領域に路線が含まれる場合に、この路線に警戒情報を発報する。警戒情報は、警戒領域で輸送を行っている列車や担当区所に伝達され、これによって例えば列車停止等の措置が警戒情報の解除まで取られる。
【0018】
突風警報システム1は、
図1に示すように、気象データ受信部11、警戒積乱雲検出部12、積乱雲移動予測部13、対象除外部14、警戒領域決定部15、警戒情報送信部16等の複数の機能ブロックを備えている。
突風警報システム1は、CPU(中央演算処理装置)、制御プログラムと制御データを格納した記憶装置、作業用のRAM(Random Access Memory)、並びに、ネットワークNを介して通信を行う通信装置等を備えたコンピュータである。突風警報システム1は、上記のハードウェアとソフトウェアとの協働により、
図1の各機能ブロックを実現する。
【0019】
図2は、突風警報システムによる突風警戒処理の全体的な手順の流れを示すフローチャートである。
気象データ受信部11は、ネットワークNを介して気象サーバ100から必要な気象データを受信する。気象データは、例えば所定の時間間隔ごとにリアルタイムで受信される。
【0020】
警戒積乱雲検出部12は、所定条件に従って気象データから警戒対象の積乱雲(以下、「警戒積乱雲」と呼ぶ)の検出を行う。具体的には、先ず、警戒積乱雲検出部12は、竜巻発生確度ナウキャストの確度1以上で、且つ、雷ナウキャストの活動度3以上の地点を、前提条件として検出する(ステップS1)。前提条件が検出されたら、次に、警戒積乱雲検出部12は、例えば気象庁レーダ情報を読み込んで、この地点の積乱雲が、雲頂高度9km以上、降水強度100mm/h以上、降水強度80mm/h以上の領域が5km
2以上、降水強度60mm/h以上の領域が10km
2以上であるか判別する(ステップS2)。その結果、これらの条件を全て満たせば、警戒積乱雲検出部12は、この積乱雲を突風の発生の可能性がある警戒積乱雲として検出する。一方、これらの条件を満たさなければ、警戒積乱雲検出部12は、この積乱雲を警戒対象としない。なお、警戒積乱雲とする条件は、季節、時間又は地域に応じて変更されるように構成してもよい。
【0021】
積乱雲移動予測部13は、ステップS2で検出された警戒積乱雲を対象に、互いに時間を隔てた第1時点の気象データと第2時点の気象データとを比較して、警戒積乱雲の移動方向と移動距離との予測を表わす移動ベクトルを求める(ステップS3)。ここで、第1時点とは例えば現時点であり、第2時点とは例えば5分前など所定時間前の時点であり、第1時点の気象データと第2時点の気象データとは互いに時間を隔てた複数組の気象データに相当する。警戒積乱雲の移動予測処理については後に詳述する。
対象除外部14は、積乱雲移動予測部13の予測から得られる警戒積乱雲の移動速度が、例えば3km/5分〜10km/5分などの正常な範囲にあるか判別する(ステップS4)。そして、正常な範囲になければ、対象除外部14は、この警戒積乱雲を警戒対象から除外する。移動速度が下限値である3km/5分未満、或いは、上限値である10km/5分以上の場合、統計上、積乱雲移動予測部13の予測が誤りであると判定できるため、このような除外処理を行っている。
【0022】
警戒領域決定部15は、積乱雲移動予測部13が移動ベクトルを予測し、且つ、対象除外部14が警戒対象から除外しなかった警戒積乱雲について、警戒領域を決定する(ステップS5)。警戒領域の決定処理については後に詳述する。
警戒情報送信部16は、警戒領域が決定されたら、ネットワークNを介してこの情報を鉄道運用サーバ200へ送信する。
【0023】
続いて、積乱雲移動予測部13による警戒積乱雲の移動予測処理について詳細に説明する。
図3は、積乱雲移動予測処理の詳細を示すフローチャートである。
図4は、移動ベクトルを得るために相互相関処理の対象となる領域を示す説明図である。
図5は、警戒積乱雲の移動ベクトルを計算する処理の説明図である。
【0024】
移動予測処理が開始されると、先ず、積乱雲移動予測部13は、検出された警戒積乱雲TC(
図4(a)を参照)の周囲4つの代表地点Pa〜Pdを決定する(ステップS11)。具体的には、警戒積乱雲を中心として東西方向と南北方向の周囲4点に予め定められた距離で格子点を設定し、代表地点Pa〜Pdとして選択する。格子点は、例えば東西方向に50kmごと、南北方向に80kmごとなど、南北方向の間隔が長くなるように設定するとよい。このような設定により、多くの積乱雲の気象現象に適応して、後述する相互相関処理により気象現象の分布の変位ベクトルを正確に計算できる。
【0025】
次に、積乱雲移動予測部13は、各代表地点Pa〜Pdについてのループ処理を行うため、4つの代表地点Pa〜Pdの中から順に1つの代表地点を処理対象に選択する(ステップS12)。
1つの代表地点を選択してステップS13〜S17のループ処理へ処理を移行すると、積乱雲移動予測部13は、先ず、選択した代表地点に対応する領域の現在画像を気象データから抽出し(ステップS13)、同様に、選択した代表地点に対応する領域の所定時間前(例えば5分前)の画像を比較画像として気象データから抽出する(ステップS14)。
【0026】
ここで、代表地点に対応する領域とは、各辺が東西方向又は南北方向に延びる矩形領域であって、代表地点を中心に1辺が格子点間隔の例えば2倍の長さを有する領域を意味する。
図4(a)には、代表地点Pbに対応する領域Rbを示している。このように設定された領域は警戒積乱雲を含んだ領域となる。また、気象データの画像とは、例えば降水強度を色分けした画像など、領域内の各画素に対応する各地点と気象現象のパラメータ値とが紐づけられた画像を意味する。
【0027】
現在と所定時間前の気象データの画像を抽出したら、次に、積乱雲移動予測部13は、現在画像と比較画像との相互相関値が最大となる両者の重ね合わせ位置を計算する(ステップS15)。具体的には、積乱雲移動予測部13は、比較画像(5分前画像)に対して現在画像を東西方向と南北方向とに1段階ずつずらしながら、各ずらし位置ごとに両画像の相互相関係数を計算する。そして、積乱雲移動予測部13は、複数のずらし位置の相互相関係数を比較して、相互相関係数が最大となるずらし位置を求める。なお、相互相関係数の計算では、例えば、気象現象が弱いパラメータ値の相関よりも強いパラメータ値の相関に重みを加えて計算してもよい。
【0028】
相互相関係数が最大となる重ね合わせ位置が求まったら、積乱雲移動予測部13は、この重ね合わせ位置で、比較画像内の代表地点から現在画像の代表地点までの変位を表わすベクトルを、代表地点の変位ベクトルとして計算する(ステップS16)。この変位ベクトルは、気象現象の分布の変位距離と変位方向とを表わす。
続いて、積乱雲移動予測部13は、ループ処理の処理対象として4つの代表地点Pa〜Pdを全て選択完了したか判別し(ステップS17)、否であればステップS12に処理を戻し、完了していれば、次のステップS18に処理を進める。
上記のようなステップS12〜S17のループ処理により、
図5(a)に示すように、4つの代表地点Pa〜Pdにそれぞれ対応する4つの変位ベクトルVa〜Vdが求められる。
【0029】
ステップS12〜S17のループ処理を抜けると、積乱雲移動予測部13は、4つの変位ベクトルVa〜Vdの平均ベクトル(Vtc)を計算する(ステップS18,
図5(a)を参照)。平均の仕方は、単なる相加平均でもよいが、その他、方向と大きさとを個別に平均化するなど様々な平均方法が採用可能である。
【0030】
平均ベクトル(Vtc)を計算したら、次に、積乱雲移動予測部13は、平均ベクトル(Vtc)を中心に”3×σ”の方向範囲に、各変位ベクトルVa〜Vdが収まっているか判別する(ステップS19、
図5(b)を参照)。”3×σ”の方向範囲は平均ベクトルを中心とした方向差の大きさが所定の閾値を超えない範囲と言い換えてもよい。ここで、σとは、過去の複数の警戒積乱雲の気象データをサンプルとして、これら気象データから上記と同じ方法で変位ベクトルを算出した場合に、各警戒積乱雲の4つの変位ベクトルの方向の散らばり度合を示す統計量を表わす。より具体的には、σは、各警戒積乱雲について計算された4つの変位ベクトルとこれらの平均ベクトルとの方向差を、複数の警戒積乱雲のサンプルについて求め、これらの標準偏差を計算した値である。
【0031】
図5(b)、(c)にも示すように、ステップS19の判別の結果、4つの変位ベクトルVa〜Vdの全てが”3×σ”の方向範囲にあれば、積乱雲移動予測部13は、平均ベクトル(Vtc)を警戒積乱雲TCの移動ベクトルVtcとして採用する(ステップS20)。一方、4つの変位ベクトルVa〜Vdのうち1つ以上が”3×σ”の方向範囲から外れていれば、統計上異常なベクトルと判断してよいので、積乱雲移動予測部13は、平均ベクトルを警戒積乱雲TCの移動ベクトルとして不採用とする(ステップS21)。例えば、気象現象の分布が近似する複数の地点があると、これらの相互相関により誤差の大きな変位ベクトルが計算される場合があるため、このようなベクトルに基づく移動ベクトルの予測をここで除外する。
ステップS20またはステップS21の処理を行うと、積乱雲移動予測部13は、警戒積乱雲移動予測処理を終了する。
【0032】
続いて、警戒領域決定部15により実行される警戒領域の決定処理(
図2のステップS5)の詳細について説明する。
図6は、警戒領域の一例を示す説明図である。
警戒領域決定部15は、先に説明したように、予測された移動ベクトルVtcに基づいて警戒領域を決定する。警戒領域は、警戒積乱雲が例えば20分以内に通過する予想領域として定義される。
【0033】
警戒領域決定部15は、先ず、移動ベクトルVtcにより予測される移動の時間(5分)と、警戒領域に設定される時間(20分)との比”4”を移動ベクトルVtcに乗算してベクトルLを計算する。次いで、警戒領域決定部15は、現在の警戒積乱雲TCの全領域がベクトルLで移動した場合に軌跡となる領域を一次警戒領域Rk1として決定する。
図6の幅Dは、ベクトルLに直交する方向の警戒積乱雲TCの幅である。一次警戒領域Rk1は、警戒積乱雲TCが移動ベクトルVtcに従って移動した場合に、警戒領域に設定される時間内(20分以内)に警戒積乱雲TCが通過する領域を表わす。
さらに、警戒領域決定部15は、ベクトルLに距離のばらつきΔLと方向のばらつきΔθとを加えた領域を二次警戒領域Rk2として決定する。距離のばらつきΔLは、距離の標準偏差σ
Lと係数AとをベクトルLに乗算した大きさとして計算する。方向のばらつきΔθは、方向の標準偏差σ
Dと係数Bとを乗算して計算する。
【0034】
ここで、距離の標準偏差σ
Lとは、過去の警戒積乱雲の気象データをサンプルとして、上記と同様の方法で、複数の警戒積乱雲について計算されたベクトルLが表わす移動距離と、実際の警戒積乱雲の移動距離との比の標準偏差を意味する。また、方向の標準偏差σ
Dとは、過去の警戒積乱雲の気象データをサンプルとして、上記と同様の方法で、複数の警戒積乱雲について計算されたベクトルLが表わす移動方向と、実際の警戒積乱雲の移動方向との差の標準偏差を意味する。
また、係数A、Bは、予測に含めるばらつきの度合を表わすパラメータである。係数A、Bを小さな値にすることで警戒領域を小さくできる。また、係数A、Bを大きな値にすることで警戒領域を大きくして余裕を持った警戒領域を設定できる。
【0035】
本実施形態では、係数A=1、係数B=1と設定して、二次警戒領域Rk2を決定する。そして、上述した一次警戒領域Rk1と二次警戒領域Rk2とを合わせた領域が、警戒領域として決定される。なお、係数A、Bは、季節又は地域に応じて適宜変更するように構成してもよい。
なお、変位ベクトルの異常により警戒積乱雲の移動ベクトルが求められていない場合、今後に突風が生じにくいことが、統計上、分かっている。よって、このような場合には、警戒領域決定部15は、警戒積乱雲に関する警戒領域を無しと決定し、突風が生じない積乱雲に関する警戒領域の設定を回避する。
【0036】
図7は、過去の統計に基づく警戒領域(a)と実施形態の警戒領域(b)との比較例を示す説明図である。
例えば、甲信越地方の或る季節では、発達したほとんどの積乱雲が、南西から北東の方向に所定速度内で進むことが過去の統計に示されている。そこで、この統計情報から警戒積乱雲の北方から南東まで一定距離(例えば38km)の範囲を警戒領域とすることが検討できる。
図7(a)は、過去に生じた警戒積乱雲TCに対して、この方法で警戒領域Rkを設定した場合を示している。
一方、
図7(b)は、過去に生じた警戒積乱雲TCに対して、当時の気象データから計算した本実施形態の警戒領域Rkを示している。
【0037】
過去のサンプルにおいては、
図7(a)および
図7(b)の何れの警戒領域Rkが設定された場合にも、警戒積乱雲TCは警戒領域Rkに移動し、突風による被害を回避できることが確認された。一方、
図7(a)の警戒領域Rkが設定された場合には、ここに含まれる路線の総距離が長く、突風の恐れがないのに警戒のために停車する列車数が多くなることが確認された。また、
図7(b)の本実施形態の警戒領域Rkが設定された場合、
図7(a)のものよりも、警戒領域Rkに含まれる路線の総距離を短くすることができ、突風の恐れがないのに警戒のために停車する列車数を少なくできることが確認された。
【0038】
以上のように、この実施形態の突風警報システム1によれば、積乱雲移動予測部13によって警戒積乱雲TCの移動ベクトルVtcが予測され、この予測結果に基づいて警戒領域Rk1、Rk2が決定される。また、積乱雲移動予測部13は、警戒積乱雲TCの周囲の複数領域の気象データの相互相関処理により複数の変位ベクトルVa〜Vdを計算し、これら複数の変位ベクトルVa〜Vdを平均して警戒積乱雲TCの移動ベクトルVtcが求められる。従って、警戒積乱雲TCの移動予測の精度が向上し、上記の警戒領域Rk1、Rk2によって、突風による交通機関の被害を回避しつつ、突風が生じないのに警戒領域に含まれてしまう範囲を小さくすることができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施の形態で示した、相互相関処理の対象となる画像領域の決定方法は一例に過ぎない。また、相互相関処理の対象となる領域としては、4つに限られず、2つ又は3つとしてもよいし、5つ以上など、もっと多くの領域を設定してもよい。また、警戒積乱雲を含む領域を相互相関処理の対象とするほか、警戒積乱雲に近接する領域を相互相関処理の対象としてもよい。例えば相互相関処理を行う現在画像と過去画像の両者の面積は同一でなくてもよい。また、相互相関は画像データを用いて行う必要はなく、地点と気象現象のパラメータ値とが紐づけられた気象データであれば、同様の相互相関処理が可能である。
また、上記実施形態では、鉄道機関用に突風の警戒範囲を設定するシステムを示したが、本発明は高速道路など様々な交通機関の突風の警戒に利用することができる。