特許第6740101号(P6740101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6740101難燃性組成物及びそれを含む難燃性基材並びに難燃性基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6740101
(24)【登録日】2020年7月28日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】難燃性組成物及びそれを含む難燃性基材並びに難燃性基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 43/02 20060101AFI20200730BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20200730BHJP
   C09K 21/02 20060101ALI20200730BHJP
   C09K 21/14 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   C08L43/02
   C08K3/38
   C09K21/02
   C09K21/14
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-227890(P2016-227890)
(22)【出願日】2016年11月24日
(65)【公開番号】特開2018-83900(P2018-83900A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000157603
【氏名又は名称】丸善石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米澤 航太郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 忠
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−112700(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/055773(WO,A1)
【文献】 特開昭59−059738(JP,A)
【文献】 特表2010−523734(JP,A)
【文献】 D. LANZINGER et al.,Poly(vinylphosphonate)s as Macromolecular Flame Retardants for Polycarbonate,Ind. Eng. Chem. Res.,2015年,Vol.54,pp.1703-1712
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L43/02
C08K3/38
C09K21/02〜21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ酸15〜25質量%、ホウ砂20〜30質量%及び次の化学式(1)で表されるビニルホスホン酸ジアルキルポリマー5〜20質量%を含有することを特徴とする難燃性組成物。
【化1】
【請求項2】
ビニルホスホン酸ジアルキルポリマーが、ビニルホスホン酸ジメチルポリマーである請求項1に記載の難燃性組成物。
【請求項3】
ホウ酸15〜25質量%、ホウ砂20〜30質量%及び次の化学式(1)で表されるビニルホスホン酸ジアルキルポリマー5〜20質量%を含有する難燃性組成物と基材とを含むことを特徴とする難燃性基材。
【化2】
【請求項4】
ホウ酸15〜25質量%、ホウ砂20〜30質量%及び次の化学式(1)で表されるビニルホスホン酸ジアルキルポリマー5〜20質量%を含有する難燃性組成物を、基材に処理することを特徴とする難燃性基材の製造方法。
【化3】
【請求項5】
基材が木材、紙、織物、不織布および樹脂から選択される何れかである請求項4記載の難燃性基材の製造方法。
【請求項6】
基材が木材である請求項4記載の難燃性基材の製造方法。
【請求項7】
ホウ酸15〜25質量%、ホウ砂20〜30質量%及び次の化学式(1)で表されるビニルホスホン酸ジアルキルポリマー5〜20質量%を含有する難燃性組成物で基材を処理することを特徴とする基材の難燃化方法。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性組成物及びそれを含む難燃性基材に関し、更に詳細には、ホウ酸、ホウ砂及び特定のビニルホスホン酸ジアルキルポリマーを含有する難燃性組成物及びこの難燃性組成物を含む難燃性基材に関する。
【背景技術】
【0002】
木材、紙材、樹脂、布などの基材は、一般に、燃焼しやすく、それに伴って有害ガスが発生する。そのため、公共の建築物や規模の大きい建築物の内装に使用される基材は、建築基準法から、防火上の制限を受ける場合がある。また、一般住宅で使用される基材においても、安全面の問題から難燃性を求める声は増えており、今後も、基材に対する難燃化のニーズは増加することが予想される。
【0003】
一般に、基材に対して難燃性を付与する技術としては、リン化合物やハロゲン化合物、ホウ酸・ホウ砂混合物等を含んだ薬剤を基材に含浸させる方法等が知られている。特にこれらの中でも、ホウ酸・ホウ砂混合物を含んだ薬剤は、安定性が高いことから広く利用されている。例えば、ホウ酸とホウ砂を含有する水溶液に、一定の加熱及び冷却処理を施して得られたホウ素化合物の水溶液を、木材や和紙等に含浸させることで、これらが高い難燃性を示すことが開示されている(特許文献1)。また、ホウ素化合物と糖類とを特定の割合で添加した難燃組成物を、ポリエステル不織布やポリプロピレン不織布等に含浸させると、これらの不織布が高い難燃性を示すことが開示されている(特許文献2)。しかしながら、上記技術では、基材の難燃性を高めることができるものの、多湿の環境下で使用し続けると、基材に含まれたホウ素化合物が潮解して溶出し、その結果、基材の表面にホウ素化合物が白く析出するという、いわゆる白華現象が発生し、外観が悪くなるという問題があった。
【0004】
上記問題を解決する手段として、基材に難燃性を与え、かつ、白華現象を抑制するために、例えば、難燃剤、リン酸イオン、マグネシウムイオン及びアンモニウムイオンを含有する酸性水溶液を木質材料に注入し、次に、この木質材料をアルカリ性水溶液に接触させて、木質材料の表面や内部に難溶性物質であるリン酸マグネシウムアンモニウムを生成させることにより、難燃剤の溶脱を抑制する技術が開示されている(特許文献3)。また、ホウ素化合物を木材に含浸させて乾燥させた後、塩化カルシウム等でホウ素化合物を不溶化させ、さらに、木材の表面を防湿性の樹脂で覆う技術が開示されている(特許文献4)。しかしながら、これらの技術は、ホウ素化合物を固定させるために、多くの薬剤を必要とし、また、製造工程が多く煩雑であり非常に手間がかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4439234号公報
【特許文献2】特開2011−162743号公報
【特許文献3】特開2012−121274号公報
【特許文献4】特開2007−136992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、簡単な手段によって、基材の難燃性が高く、さらに、白華を抑制することのできる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行っていたところ、ホウ酸、ホウ砂及び特定のビニルホスホン酸ジアルキルポリマーを含む水溶液を、基材に処理することにより、基材の難燃性が高まり、さらに白華も抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、ホウ酸、ホウ砂及び次の化学式(1)で表されるビニルホスホン酸ジアルキルポリマーを含有することを特徴とする難燃性組成物である。
【0009】
【化1】
【0010】
また、本発明は、ホウ酸、ホウ砂及び上記化学式(1)で表されるビニルホスホン酸ジアルキルポリマーを含有する難燃性組成物と基材とを含むことを特徴とする難燃性基材である。
【0011】
さらに、本発明は、ホウ酸、ホウ砂及び上記化学式(1)で表されるビニルホスホン酸ジアルキルポリマーを含有する難燃性組成物を、基材に処理することを特徴とする難燃性基材の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の難燃性組成物によれば、難燃性が高く、かつ、白華を抑制することができる組成物を提供することができる。また、この難燃性組成物と基材を含んだ本発明の難燃性基材によれば、難燃性が高く、また、使用時において白華が抑制されるため、外観に優れた難燃性基材が得られる。さらに、本発明の難燃性基材の製造方法は、ホウ酸、ホウ砂及び特定のビニルホスホン酸ジアルキルポリマーを含有する難燃性組成物を、基材に処理することによって、高い難燃性と白華抑制能を有する難燃性基材を提供することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、難燃とは、燃えにくいことを意味し、直径40mm、高さ55mmの円柱状の木材片を750℃のマッフル炉の中で20分間加熱したときの重量減少率が44%以下であることをいう。また、難燃には、不燃、防炎、防火、耐火のすべて含む。さらに、本明細書において、難燃化とは、上記重量減少率を44%以下にすることをいう。
【0014】
<難燃性組成物>
本発明の難燃性組成物は、ホウ酸、ホウ砂及び次の化学式(1)で表されるビニルホスホン酸ジアルキルポリマーを含有するもの(以下、「本発明組成物」という)である。
【0015】
【化2】
【0016】
本発明組成物で使用するホウ酸としては、工業的に入手可能であれば、特に限定されないが、例えば、HBO(オルトホウ酸)やHBO(ホウ酸)などが挙げられる。これらのホウ酸は、1種単独で使用してもよく、また、2種以上の混合物として使用しても良い。本発明組成物中におけるホウ酸の配合量としては、10〜25質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましい。
【0017】
また、本発明組成物で使用するホウ砂としては、工業的に入手可能であれば、特に限定されないが、例えば、Na・10HO(4ホウ酸ナトリウム10水和物)やNa(4ホウ酸ナトリウム無水物)などが挙げられる。これらのホウ砂は、1種単独で使用してもよく、また、2種以上の混合物として使用しても良い。本発明組成物中におけるホウ砂の配合量としては、15〜30質量%が好ましく、20〜30質量%がより好ましい。
【0018】
本発明組成物において、ホウ酸をX及びホウ砂をYとした場合の、ホウ酸とホウ砂の重量比X/Yは、特に制限されないが、例えば、0.6〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましい。このような重量比とすることで、本発明組成物の液性を中性付近に保つことができ、後記基材の変質を防ぎやすくなる。
【0019】
また、本発明組成物中におけるホウ酸とホウ砂の混合物の濃度としては、特に制限されないが、例えば、ホウ素換算で2.5mol/kg〜5.0mol/kgが好ましい。ホウ素換算濃度を2.5mol/kg以上とすることで十分な難燃性を得ることことができ、5.0mol/kg以下とすることで、下記ビニルホスホン酸ジアルキルポリマーの白華抑制効果を十分発揮することができる。
【0020】
他方、本発明組成物で使用する上記化学式(1)で表されるビニルホスホン酸ジアルキルポリマー(以下、単に「ビニルホスホン酸ジアルキルポリマー」という)としては、例えば、ビニルホスホン酸ジメチルポリマー及びビニルホスホン酸ジエチルポリマーが挙げられる。これらの中でも、水への溶解性の点でビニルホスホン酸ジメチルポリマーが好ましい。
【0021】
また、ビニルホスホン酸ジアルキルポリマーの重量平均分子量としては、特に制限されないが、例えば、1000〜100000が好ましく、1000〜50000がより好ましい。このような重量平均分子量範囲とすることで、ビニルホスホン酸ジアルキルポリマーの水への溶解性を高めることができ、更に本発明組成物の粘度が抑えられるため、基材への処理が容易になる。
【0022】
さらに、ビニルホスホン酸ジアルキルポリマーの重合方法としては、ビニルホスホン酸ジアルキルモノマーを用いて、一般的に用いられる各種重合法により合成可能であるが、この中でも、特に、アニオン重合法やラジカル重合法が好ましい。アニオン重合法やラジカル重合法を用いることで分子量を目的の範囲とすることが可能となる。
【0023】
上記ビニルホスホン酸ジアルキルポリマーのアニオン重合法としては、開始剤存在下、有機溶媒中でビニルホスホン酸ジアルキルポリマーを低温重合する方法が挙げられる。開始剤としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム等の有機リチウム化合物、MeMgBr、t−BuMgBr、t−BuMgCl、PhMgBr等の有機マグネシウム化合物等の塩基性有機化合物を使用することができる。また、有機溶媒としては、芳香族炭化水素及びエーテル類を使用することができ、このうち、芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられ、エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルーt−ブチルエーテル(MTBE)等の脂肪族エーテル類、アニソール、フェニルエチルエーテル等の脂肪族−芳香族エーテル類、THF、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類等が挙げられる。なお、重合する温度は、特に限定されないが、好ましくは−80℃〜100℃、より好ましくは−20℃〜60℃である。
【0024】
また、上記ビニルホスホン酸ジアルキルポリマーのラジカル重合法としては、特に限定されないが、開始剤存在下、有機溶媒中でビニルホスホン酸ジアルキルポリマーを加熱重合する方法が挙げられる。開始剤としては、例えば、ケトンパーオキシド、ジアシルパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、パーオキシケタール、アルキルパーオキシエステル、パーオキシカーボネート等の有機過酸化物、アゾニトリル、アゾエステル、アゾアミド等の有機アゾ化合物を使用することができる。有機溶媒としては、開始剤が可溶な溶媒であれば特に限定されない。なお、加熱する温度は、重合開始剤の種類に応じて適宜選択すればよいが、50〜180℃の範囲が好ましく、60〜170℃がより好ましい。加熱温度を50℃以上とすることで、反応の低下を防止することができ、180℃以下とすることで、ラジカル重合開始剤の分解を防止することができる。
【0025】
本発明組成物中におけるビニルホスホン酸ジアルキルポリマーの配合量としては、5〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0026】
また、本発明組成物中におけるホウ酸、ホウ砂及びビニルホスホン酸ジアルキルポリマーの重量比としては、特に制限されないが、例えば、ホウ酸をX、ホウ砂をY及びビニルホスホン酸ジアルキルポリマーをZとしたとき、Z/(X+Y)が0.1〜1.0が好ましく、0.1〜0.5がより好ましい。このような配合比とすることで、難燃性を損なうことなく、白華抑制効果を十分に得ることができる。
【0027】
さらに、本発明組成物において、上記ホウ酸、ホウ砂及びビニルホスホン酸ジアルキルポリマーを溶解させる溶媒としては、例えば、水等が挙げられる。また、本発明組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、メタノール、エタノール、IPA、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの浸透剤や水性ポリウレタンエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンなどの塗膜形成剤が挙げられる。添加剤の配合量としては、本発明の効果を阻害しない範囲であればよいが、本発明組成物に対して1〜50質量%が好ましく、1〜30質量%がより好ましい。
【0028】
本発明組成物は、ホウ酸、ホウ砂、ビニルホスホン酸ジアルキルポリマー及び必要に応じて各種添加剤を溶媒に加えて、50〜90℃に加熱しながら、撹拌することにより製造される。
【0029】
斯くして得られる本発明組成物は、難燃性が高く、白華を抑制することができるため、白華抑制能に優れた難燃剤として用いることができる。
【0030】
<難燃性基材>
本発明の難燃性基材は、本発明組成物と基材とを含むもの(以下、「本発明難燃性基材」という)である。
【0031】
本発明難燃性基材で使用する基材としては、難燃性組成物を処理することができるものであれば特に制限されず、例えば、木材、紙、織物、不織布、樹脂等が挙げられる。
【0032】
このうち、木材としては、特に制限されないが、例えば、杉材、エゾマツ、ヒノキ、キリ、ベニヤ、ケヤキ、SPF集成材(スプルス(エゾマツ)、パイン(マツ)、ファー(モミ))、竹などが挙げられる。
【0033】
また、紙としては、特に制限されないが、例えば、和紙、ふすま紙、洋紙などが挙げられる。
【0034】
さらに、織物としては、特に制限されないが、例えば、綿布、ポリエステル織布、ポリプロピレン織布、ナイロン織布、アクリル織布、ビニロン織布、アラミド織布、ポリエチレンテレフタレート織布などが挙げられる。
【0035】
また、さらに、不織布としては、特に制限されないが、例えば、ポリエステル不織布、ポリプロピレン不織布、ナイロン不織布、アクリル不織布、ナイロン不織布、アラミド不織布などが挙げられる。
【0036】
上記樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン(硬質、軟質)、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリカーボネート、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、酢酸ビニル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタラート樹脂、ブタジエンゴム、ネオプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、イソブテンイソプレンゴムおよびこれらの複合材料の成型体およびフィルム等が挙げられる。
【0037】
本発明難燃性基材の製造としては、本発明組成物を基材に処理することにより行われる。本発明組成物を基材に処理する方法としては、例えば、本発明組成物を基材に含浸及び/又は被覆することができれば特に制限されないが、例えば、基材を本発明組成物中に浸漬する方法や本発明組成物を基材に塗布する方法等が挙げられる。
【0038】
基材を本発明組成物中に浸漬する方法としては、例えば、基材を本発明組成物中に投入し、必要に応じて、加熱および/または加圧するのが好ましい。温度や圧力の条件としては基材の種類や形状などにより適宜設定すればよいが、例えば、加熱温度は40℃〜140℃が好ましく、圧力は2〜10気圧が好ましい。加熱および/または加圧のために、例えば、オートクレーブ等の装置を使用することができる。
【0039】
また、本発明組成物を基材に塗布する方法としては、公知の塗布方法を挙げることができ、基材の種類や形状、本発明組成物の粘性などにより適宜設定すればよく、例えば、刷毛塗り法、ブレード法、噴霧法などが挙げられる。また、本発明組成物が高粘度の液状である場合には、バターナイフ様のブレードを用いるのが好ましい。
【0040】
さらに、本発明組成物を基材に処理する量としては、例えば、本発明組成物の濃度や組成比にもよるが、基材の重量増加率で5〜400%程度、好ましくは10〜200%程度であり、重量増加率がこのような範囲内であれば、基材に対して十分な難燃性と白華抑制効果を与えることができる。
【0041】
本発明難燃性基材の製造において、本発明組成物を基材に処理した後は、本発明組成物中に含まれている水分を除去するために、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理の方法およびその条件としては、特に制限されず、溶媒などの水分が除去され、本発明組成物中に含有する各成分および基材が変質、変形しない限り適宜設定すればよいが、例えば、105〜155℃で、24〜48時間乾燥するのが好ましい。また、乾燥には、定温乾燥器EOP−450B(アズワン社製)等の装置を用いてもよい。なお、乾燥後の本発明組成物の量は、基材の材質や形状などにもよるが、基材の重量増加率で10〜300%程度が好ましく、60〜80%がより好ましい。乾燥後の重量増加率がこのような範囲内であれば、基材に対して十分な難燃性と白華抑制効果を与えることができる。
【0042】
斯くして得られる本発明難燃性基材は、難燃性が高く、また、白華が抑制されたものである。また、基材を本発明組成物で処理することにより、基材を難燃化することができる。
【実施例】
【0043】
次に、参考例及び実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら参考例及び実施例に何ら制約されるものではない。
【0044】
<分子量の測定>
下記参考例1および参考例2において得られたポリマーの重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリエチレンオキサイド試料を用いた換算値から算出した。
GPC測定装置:SHIMADZU社製LC−Solution
カラム:Shodex SB−805HQ、Shodex SB−804HQ
プレカラム:Shodex SB−G
カラム温度:40℃
移動相:0.2M NaCl水溶液
流量:0.5mL/min
検出器:RI検出器
【0045】
<ビニルホスホン酸ジアルキルポリマーの合成>
(参考例1)ビニルホスホン酸ジメチルポリマー:
10L反応装置を窒素置換し、ヘキサンを2479g投入した。撹拌しながら、反応溶液を70℃まで昇温後、ビニルホスホン酸ジメチルモノマーを2760g(丸善石油化学社製)、重合開始剤(V−601(和光純薬工業社製))を280g投入した。その後、8hr反応することで、ビニルホスホン酸ジメチルポリマーを合成した。反応溶液を室温まで冷却後、イオン交換水を2760g投入した。十分撹拌した後、ビニルホスホン酸ジメチルポリマー水溶液を抜出し、濃縮することで、50wt%のポリマー水溶液を得た。
得られたポリマーの分子量は、GPCによる分析結果から、重量平均分子量Mw5600、分子量分布Mw/Mn2.71となった。
【0046】
<比較ポリマーの合成>
(参考例2)ビニルホスホン酸ポリマー:
10L反応装置を窒素置換し、イオン交換水を3162g、ビニルホスホン酸モノマーを5080g投入した。撹拌しながら、反応溶液を80℃まで昇温後、イオン交換水を1743g、重合開始剤(V−50(和光純薬工業社製))を383g投入した。その後、7hr反応することで、ビニルホスホン酸ポリマーを合成した。合成したポリマー水溶液の濃度は、50wt%であった。
得られたポリマーの分子量は、GPCによる分析結果から、重量平均分子量Mw9100、分子量分布Mw/Mn1.95となった。
【0047】
<難燃性組成物>
(実施例1)
1500mLのビーカーにイオン交換水を413g投入し、ホウ酸を240g、ホウ砂を299g、50wt%濃度の参考例1で合成したビニルホスホン酸ジメチルポリマー水溶液を300g(ビニルホスホン酸ジメチルポリマーとして150g)投入し、60℃で、混合溶液を十分に撹拌した。その後、濁りのない清澄な溶液を得た。
【0048】
(比較例1)
1500mLのビーカーにイオン交換水を602g投入し、ホウ酸を240g、ホウ砂を299g添加し、60℃に昇温し、混合溶液を十分に撹拌した。その後、濁りのない清澄な溶液を得た。
【0049】
(比較例2)
1000mLのビーカーにイオン交換水を602g投入し、ホウ酸を120g、ホウ砂を150g添加し、60℃に昇温し、混合溶液を十分に撹拌した。その後、濁りのない清澄な溶液を得た。
【0050】
(比較例3)
1500mLのビーカーにイオン交換水を506g投入し、ホウ酸を201g、ホウ砂を250g、50wt%濃度の参考例2で合成したビニルホスホン酸ポリマー水溶液を507g(ビニルホスホン酸ポリマーとして253.5g)添加し、90℃に昇温し、混合溶液を十分に撹拌した。その後、濁りのない清澄な溶液を得た。
【0051】
<難燃性基材の製造>
実施例1の難燃性組成物及び比較例1〜3の比較組成物に、40mm×40mm×40mmに裁断した杉材(絶乾比重0.26〜0.31)をそれぞれ投入し、オートクレーブにより、1MPa、60℃以上、24時間、加圧加熱処理を行った。その後、115℃で40時間以上乾燥処理を行った。上記組成物の含浸前の杉材の重量と、含浸乾燥後の杉材の重量から、含浸率を求めた。また、得られた杉材について、以下の燃焼試験および白華試験を行った。これら結果を組成とともに表1に示す。
【0052】
<燃焼試験>
上記、難燃性組成物の含浸乾燥処理を施した杉材を750℃に保持したマッフル炉で20分間加熱し、その際の重量減少率から難燃性を評価した。
ここで、建築基準法に基づく不燃認定を受けるためには、不燃試験および燃焼試験のいずれかに合格する必要がある。不燃試験は、直径40mm、高さ55mmの円柱状の木材片を750℃のマッフル炉の中に20分間保持して、重量減少率を調べるもので、重量減少率が30%以下となることが合格の必要条件となる。また、燃焼試験は、コーンカロリーメータで火災初期に相当する熱を試料に与えたときの20分間における総発熱量が8MJ/m以下であることが合格の必要条件となる。一般に、前者の条件は後者の条件よりも厳しく、後者の条件を満たす総発熱量8MJ/mの試料は前者の試験において、重量減少率が約44%を示す。すなわち、750℃で20分間加熱したときの重量減少率が44%以下であれば、不燃の条件を満たす可能性が高い。
【0053】
<白華試験>
白華現象の評価は、目視により基材の表面に現れた白華の有無を確認して行った。
【0054】
【表1】
【0055】
ホウ酸及びホウ砂に、ビニルホスホン酸ジメチルポリマーを配合した実施例1は、同ポリマーを配合しない比較例1より、難燃性が高く、かつ、白華が発生しないことが確認された。また、ビニルホスホン酸ジメチルポリマーに替えてビニルホスホン酸ポリマーを配合した比較例3では、難燃性も低く、白華も発生した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の難燃性組成物によれば、難燃性が高く、かつ、白華を抑制することができる組成物を提供することができる。また、この難燃性組成物と基材を含む本発明の難燃性基材によれば、難燃性が高く、また、使用時において白華が抑制されるため、外観に優れた難燃性基材が得られる。したがって、本発明の難燃性組成物及びそれを含む難燃性基材は、難燃材分野において、極めて有用である。