(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態のモータシステム100について説明する。以下の説明では、モータシステム100は電動車両200に搭載されていることとして説明するが、他の機器に搭載されていてもよい。
【0012】
最初にモータシステム100が搭載される電動車両200について説明する。
図1に示すように、電動車両200は、車両駆動用のモータ10と、バッテリ30と、バッテリ30の直流電力を交流電力に変換してモータ10に供給するインバータ34と、モータ10によって車輪44を駆動する駆動機構40と、モータ10を冷却する冷却装置20と、モータ10の出力を調整するコントローラ50とを含んでいる。
【0013】
図1に示すように、モータ10は、ケーシング11と、ケーシング11の内部に取り付けられたステータ12と、ステータ12の内周に配置されたロータ14と、ロータ14に一体に固定された回転軸16とを有している。ステータ12にはコイル13が巻回されている。コイル13にはコイル温度Tcを検出するコイル温度センサ17が取り付けられている。ロータ14は電磁鋼板を積層した円柱状で外周近傍の内部に永久磁石15が組み込まれている。回転軸16の一端には、ロータ14の回転角θ及び回転数Rを検出する回転数センサであるレゾルバ18が取り付けられている。
【0014】
バッテリ30は、充放電可能な二次電池であり、例えば、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等で構成されていてもよい。バッテリ30の正極と負極とはそれぞれ高圧電路31、グランド電路32を通してインバータ34に接続されている。高圧電路31とグランド電路32との間には、バッテリ30の電圧Vbを検出する電圧センサ33が取り付けられている。
【0015】
インバータ34は、内部に複数のFET等のスイッチング素子を含み、コントローラ50から入力されるPWM信号によってスイッチング素子をオン・オフ動作させ、高圧電路31とグランド電路32とから入力されたバッテリ30からの直流電力を交流電力に変換して交流電路35からモータ10に供給する。また、インバータ34は、コントローラ50から入力されるPWM信号によってスイッチング素子をオン・オフ動作させ、交流電路35から入力されるモータ10の交流の回生電力を直流電力に変換して高圧電路31とグランド電路32を通してバッテリ30に充電する。ここで、交流電路35は、U相電路35u、V相電路35v、W相電路35wの3本の電路で構成されている。V相電路35v、W相電路35wには、それぞれV相電流Ivを検出する電流センサ36とW相電流Iwを検出する電流センサ37とが取り付けられている。
【0016】
モータ10を冷却する冷却装置20は、モータ10の下部に設けられて冷却油等の冷却液21を貯留するオイルパン22と、オイルパン22に貯留された冷却液21を加圧するオイルポンプ23と、加圧された冷却液21をモータ10のケーシング11の中に循環させる冷却液循環管24と、オイルパン22に貯留された冷却液21の温度Toを検出する冷却液温度センサ25とを含んでいる。
図1に示すように、冷却液循環管24を通ってモータ10のケーシング11の上部から内部に流入した冷却液21は、ステータ12のコイル13を冷却してケーシング11の下部からオイルパン22に戻る。また、ケーシング11の下部には冷却液21が溜まっており、ステータ12の下部及びロータ14の下部はケーシング11の中に溜まった冷却液21の中に没している。
【0017】
駆動機構40は、モータ10の回転軸16に接続されてモータ10の駆動力が伝達される駆動軸41と、駆動軸41の回転を車軸43の回転に伝達するディファレンシャルギヤ42と、車軸43に取り付けられた車輪44を含んでいる。
【0018】
ここで、モータ10と、コイル温度センサ17と、冷却液温度センサ25と、回転数センサであるレゾルバ18と、コントローラ50とはモータシステム100を構成する。
【0019】
コントローラ50は、
図1に示すように、機器やセンサが接続させる機器・センサインターフェース53と、制御データや動作プログラム等を格納する記憶部52と、演算処理を行うCPU51とを備えるコンピュータである。CPU51と、記憶部52と機器・センサインターフェース53とはデータバス60で接続されている。機器・センサインターフェース53には、レゾルバ18、電圧センサ33、電流センサ36、37、コイル温度センサ17、冷却液温度センサ25が接続されている。レゾルバ18及び各センサ33、36、37、17、25が検出した、ロータ14の回転角θ及び回転数R、バッテリ30の電圧Vb、V相電流Iv、W相電流Iw、コイル温度Tc、冷却液21の温度Toは、機器・センサインターフェース53を通してコントローラ50に入力される。また、機器・センサインターフェース53はインバータ34に接続されている。コントローラ50は、機器・センサインターフェース53を通してCPU51が演算したPWM信号をインバータ34に出力する。また、コントローラ50には、図示しない他の制御装置によって算出されたモータ10のトルク指令値Tr
*が入力される。
【0020】
記憶部52には、モータ10の制御を実行するための制御データ、プログラム及び、
図5に示す選択チャート、
図6に示すマップ、
図7に示す許容トルクマップが格納されている。
【0021】
次に、
図2を参照しながらコントローラ50の機能ブロックについて説明する。
図2に示すように、コントローラ50は、磁石温度推定部54と出力制限部57とを含んでいる。また、
図2に示すように、磁石温度推定部54は、計算式選択部55と推定磁石温度算出部56とで構成されている。また、出力制限部57は、トルク指令値再設定部58とPWM制御部59とで構成されている。
【0022】
計算式選択部55には、モータ10の回転数Rと、図示しない他の制御装置から入力されたモータ10のトルク指令値Tr
*とが入力される。計算式選択部55は、入力された回転数Rとトルク指令値Tr
*とによって定まるモータ10の目標動作点と、
図5に示す選択チャート、
図6に示すマップを用いて推定磁石温度算出部56が永久磁石15の推定磁石温度Tmの算出を行う際に使用する計算式あるいはマップを選択する。
【0023】
推定磁石温度算出部56には、計算式選択部55によって選択された計算式あるいはマップと、コイル温度センサ17が検出したコイル温度Tcと、冷却液温度センサ25が検出した冷却液21の温度Toとが入力される。推定磁石温度算出部56は、入力された計算式またはマップとコイル温度Tcと冷却液21の温度Toとを用いて推定磁石温度Tmの算出を行い、算出した推定磁石温度Tmを出力する。
【0024】
以上のように、計算式選択部55と推定磁石温度算出部56とで構成される磁石温度推定部54は、コイル温度センサ17で検出したコイル温度Tcと、冷却液温度センサ25で検出した冷却液21の温度Toと、レゾルバ18で検出したロータ14の回転数Rとトルク指令値Tr
*とによって定まるモータ10の目標動作点と、に基づいて永久磁石15の推定磁石温度Tmを算出する。
【0025】
トルク指令値再設定部58には、推定磁石温度算出部56が出力した推定磁石温度Tmと、レゾルバ18によって検出されたロータ14の回転数Rと、他の制御装置から入力されたトルク指令値Tr
*とが入力される。トルク指令値再設定部58は、入力された回転数Rと推定磁石温度Tmに基づいて、
図7に示す許容トルクマップを参照してモータ10の許容トルクTraの算出を行い、算出した許容トルクTraとトルク指令値Tr
*とを比較してトルク指令値Tr
*が許容トルクTraを超える場合には許容トルクTraをトルク指令値Tr2
*として再設定して出力する。また、トルク指令値Tr
*が許容トルクTra以下の場合にはトルク指令値Tr
*をトルク指令値Tr2
*として再設定して出力する。このように、トルク指令値再設定部58は、推定磁石温度Tmに基づいてトルク指令値Tr2
*を許容トルクTra以下に制限する。
【0026】
PWM制御部59には、トルク指令値再設定部58が再設定したトルク指令値Tr2
*と、電圧センサ33で検出したバッテリ30の電圧Vbと、電流センサ36、37で検出したV相電流IvとW相電流Iwと、レゾルバ18で検出したロータ14の回転角θとが入力される。PWM制御部59は、入力されたトルク指令値Tr2
*と電圧VbとV相電流IvとW相電流Iwと回転角θとに基づいて、インバータ34のスイッチング素子をオン・オフ駆動するPWM信号を出力する。このように、PWM制御部59は、制限されたトルク指令値Tr2
*に基づいてモータ10の出力を調整する。
【0027】
以上のように、トルク指令値再設定部58とPWM制御部59とで構成される出力制限部57は、磁石温度推定部54が算出した永久磁石15の推定磁石温度Tmに基づいてトルク指令値Tr2
*を許容トルクTra以下に制限することによりモータ10の出力を制限するものである。
【0028】
以上説明した
図2に示すコントローラ50の機能ブロックは、コントローラ50に含まれるCPU51および記憶部52と、記憶部52から読み出されてCPU51で実行されるプログラムとを主体としたソフトウェアで実現される。
【0029】
次に、
図3から
図6を参照しながら記憶部52に格納されている選択チャート(
図5)及びマップ(
図6)について説明する。
図5に示す選択チャートは、推定磁石温度算出部56が永久磁石15の推定磁石温度Tmの算出を行う際に使用する計算式あるいはマップを選択する際に参照するチャートである。
【0030】
最初に
図3を参照しながら、永久磁石15の推定磁石温度Tmの基本的な算出式について説明する。なお、
図3から
図6に示すように、永久磁石15の実温度Tma、推定磁石温度Tm、冷却液21の温度To、コイル温度Tcの単位は(℃)、鉄損Lfの単位は(W/kg)、ロータ14の回転数Rの単位は(rpm)、モータ10の出力トルクTr、トルク指令値Tr
*の単位は(N*m)である。
【0031】
図3(a)は、モータ10の冷却液温度センサ25で検出した冷却液21の温度Toとロータ14に組み込まれた永久磁石15の実温度Tmaとの相関を示すグラフである。先に説明したように、モータ10のケーシング11の下部には冷却液21が溜まっており、ロータ14の下部は冷却液21の中に没している。このため、
図3(a)の実線71に示すように、ロータ14に組み込まれた永久磁石15の実温度Tmaは冷却液21の温度Toに略比例し、冷却液21の温度Toが高くなるに従って上昇する。
【0032】
図3(b)は、コイル温度センサ17で検出したコイル温度Tcとロータ14に組み込まれた永久磁石15の実温度Tmaとの相関を示すグラフである。コイル13の温度Tcと永久磁石15の実温度Tmaとは、共にモータ10の出力が大きくなると高くなる特性を有している。このため、
図3(b)の実線72に示すように、永久磁石15の実温度Tmaはコイル温度Tcの上昇に比例して上昇する。
【0033】
以上のような永久磁石15の実温度Tmaと冷却液21の温度To、コイル温度Tcとの相関関係から、冷却液21の温度Toとコイル温度Tcに基づいて永久磁石15の推定磁石温度Tmを推定する以下のような計算式が導かれる。
推定磁石温度Tm(℃) = A×To+B×Tc+C
ここで、A、B、Cは定数である。
【0034】
次に、
図4を参照しながら、ロータ14の鉄損Lfとロータ14の回転数Rの相関、ロータ14の鉄損Lfとモータ10の出力トルクTrとの相関について説明する。
図4(a)の実線73に示すように、ロータ14の鉄損Lfは、ロータ14の回転数Rに略比例して大きくなる。また、
図4(b)の実線74に示すように、ロータ14の鉄損Lfはモータ10の出力トルクTrが大きくなると増大し、モータの出力トルクTrが大きくなるにつれて鉄損Lfの増加割合は小さくなってくる。
【0035】
ロータ14の鉄損Lfと永久磁石15の実温度Tmaとは略比例関係にある。従って、モータ10の回転数R、出力トルクTrがともに大きいほどロータ14の永久磁石15の実温度Tmaは高くなり、モータ10の回転数R、出力トルクTrがともに小さいほど永久磁石15の実温度Tmaは低くなる。また、
図4(a)、
図4(b)に示すように、回転数Rの方が鉄損Lfへの影響が大きいので、ロータ14の回転数Rが大きい場合の方がモータの出力トルクTrが大きい場合よりも永久磁石15の温度が高くなる傾向がある。
【0036】
そこで、本実施形態のモータシステム100では、
図5に示すように、最大トルク線75と、最大等出力線76と、最大回転数線77とで囲まれるモータ10の運転領域を領域1から領域4の4つの領域に区分し、各領域にそれぞれ推定磁石温度Tmの算出に用いる計算式あるいはマップを関連づけた選択チャートを記憶部52に格納している。
【0037】
図5に示す選択チャート中の領域2は、回転数区分線78とトルク指令値区分線79と最大トルク線75と最大等出力線76とで囲まれ、ロータ14の回転数Rがαよりも大きく、且つ、トルク指令値Tr
*がβよりも大きい領域である。領域2は、他の領域よりも永久磁石15の実温度Tmaが高くなると推定される領域である。
【0038】
図5に示す選択チャート中の領域3は、回転数区分線78とトルク指令値区分線79とで囲まれ、ロータ14の回転数Rがαよりも小さく、且つ、トルク指令値Tr
*がβよりも小さい領域である。領域3は、他の領域よりも永久磁石15の実温度Tmaが低くなると推定される領域である。
【0039】
図5に示す選択チャート中の領域1は、最大トルク線75と回転数区分線78とトルク指令値区分線79とで囲まれ、ロータ14の回転数Rがαよりも小さく、且つ、トルク指令値Tr
*がβよりも大きい領域である。また、
図5に示す選択チャート中の領域4は、最大回転数線77と回転数区分線78とトルク指令値区分線79とで囲まれ、ロータ14の回転数Rがαよりも大きく、且つ、トルク指令値Tr
*がβよりも小さい領域である。領域1と領域4は、永久磁石15の実温度Tmaが領域2と領域3との中間となると推定される領域である。
図4(a)、
図4(b)に示すように、ロータ14の回転数Rの方がトルク指令値Tr
*よりも鉄損Lfへの影響が大きく、永久磁石15の実温度Tmaへの影響が大きい。このため、
図5に示す選択チャート中の領域4の永久磁石15の実温度Tmaと領域1の永久磁石15の実温度Tmaとでは、領域4の永久磁石15の実温度Tmaの方が領域1の永久磁石15の実温度Tmaよりも高くなると推定される。
【0040】
本実施形態のモータシステム100では、
図5に示す選択チャート中の領域1から領域4において冷却液21の温度Toとコイル温度Tcから永久磁石15の推定磁石温度Tmを計算する計算式を以下及び
図5に示す(式1)から(式4)のように規定している。
領域1:推定磁石温度Tm = A1×To+B1×Tc+C1 ・・・ (式1)
領域2:推定磁石温度Tm = A2×To+B2×Tc+C2 ・・・ (式2)
領域3:推定磁石温度Tm = A3×To+B3×Tc+C3 ・・・ (式3)
領域4:推定磁石温度Tm = A4×To+B4×Tc+C4 ・・・ (式4)
(式1)から(式4)において、A1〜A4、B1〜B4、C1〜C4は定数である。
【0041】
そして、(式1)から(式4)で計算した
図5に示す選択チャート中の領域1から領域4の各推定磁石温度Tmが、領域2の推定磁石温度Tm>領域4の推定磁石温度Tm>領域1の推定磁石温度Tm>領域3の推定磁石温度Tmとなるように、定数A1〜A4、B1〜B4、C1〜C4は、例えば、以下のように設定されている。
A2>A4>A1>A3
B2>B4>B1>B3
C2>C4>C1>C3
なお、
図5に示す選択チャート中の領域1から領域4の各推定磁石温度Tmが、領域2の推定磁石温度Tm>領域4の推定磁石温度Tm>領域1の推定磁石温度Tm>領域3の推定磁石温度Tmとなれば、定数A1〜A4、B1〜B4、C1〜C4は、上記に限らず、例えば、以下のように設定してもよい。
A2>A1>A4>A3
B2>B1>B4>B3
C2>C1>C4>C3
【0042】
また、本実施形態のモータシステム100では、
図5に示す選択チャート中の領域1から領域4における永久磁石15の推定磁石温度Tmを計算する場合に使用するマップ1かにマップ4を記憶部52に格納している。
図6を参照しながら、このうちの領域2における永久磁石15の推定磁石温度Tmを計算するマップ2と、領域3における永久磁石15の推定磁石温度Tmを計算するマップ3について説明する。
【0043】
図6(a)に示すように、マップ2は、先に説明した(式2)のコイル温度Tcに複数の所定値を順次代入し、コイル温度Tcが所定値の場合の冷却液21の温度Toに対する推定磁石温度Tmとの関係を複数の実線81から83の組みとしてマップとしたものである。
図6(a)の実線81から83に示すように、冷却液21の温度To、コイル温度Tcが高くなるにつれて推定磁石温度Tmは高くなっていく。
【0044】
図6(b)に示すマップ3も
図6(a)に示すマップ2と同様、先に説明した(式3)のコイル温度Tcに複数の所定値を順次代入し、コイル温度Tcが所定値の場合の冷却液21の温度Toに対する推定磁石温度Tmとの関係を複数の一点鎖線84から86の組みとしてマップとしたものである。
【0045】
先に説明したように、定数A1〜A4、B1〜B4、C1〜C4は、領域2の推定磁石温度Tm>領域4の推定磁石温度Tm>領域1の推定磁石温度Tm>領域3の推定磁石温度Tmとなるように、例えば、A2>A4>A1>A3、B2>B4>B1>B3、C2>C4>C1>C3のように設定されている。このため、冷却液21の温度Toが同一のTo1で、コイル温度Tcが同一のTc1の場合、マップ2では推定磁石温度TmはTm2となるのに対し、マップ3では、推定磁石温度TmはTm2よりも低いTm3となる。領域1に対応するマップ1、領域4に対応するマップ4もマップ2、マップ3と同様の構成である。そして、冷却液21の温度To、コイル温度Tcが同一の場合、マップ1、マップ4を用いて推定した推定磁石温度Tmは、マップ2を用いて推定した推定磁石温度Tmとマップ3を用いて推定した推定磁石温度Tmの中間の値となり、マップ4を用いて推定した推定磁石温度Tmは、マップ1を用いて推定した推定磁石温度Tmよりも高くなる。
【0046】
次に、
図7に示す推定磁石温度Tmに対する許容トルクTraを示す許容トルクマップについて説明する。
図7に示す許容トルクマップは、記憶部52に格納されている。
図7の実線91は、推定磁石温度Tmが低く、ロータ14の回転数Rに対するトルク制限がない場合の回転数Rに対する許容トルクTraの変化を示している。推定磁石温度Tmが高くなって来ると、実線92、93に示すように、最大トルクTr0を出力できる回転数Rが下がってくる。これにより、高回転領域において、トルクが制限され、モータ10の出力が制限される。そして、更に推定磁石温度Tmが高くなってくると、実線94から96に示すように、出力可能な最大トルクがTr0からTr1、Tr2、Tr3と低減される。これにより、ロータ14の回転数Rの全域においてモータ10のトルク、出力が制限される。
【0047】
次に、
図8を参照しながらコントローラ50の動作について説明する。コントローラ50は、
図8に示すステップS101からS113を予め決められた周期Δt(例えば、0.1秒)毎に繰り返して実行する。
図8に示すステップS101からS103は計算式選択部55によって実行され、
図8に示すステップS104、S105は推定磁石温度算出部56で実行される。また、
図8に示すステップS106からS108、S111はトルク指令値再設定部58で実行され、
図8に示すステップS109、S110、S112、S113はPWM制御部59で実行される。また、図示しない他の制御装置は、例えば、電動車両200の車速、シフトレバーの位置、アクセル開度あるいはブレーキ開度等に基づいてモータ10のトルク指令値Tr
*を算出して出力している。
【0048】
図8のステップS101に示すように、計算式選択部55は、図示しない他の制御装置からモータ10のトルク指令値Tr
*を取得する。次に、計算式選択部55は、
図8のステップS102に示すように、レゾルバ18からロータ14の回転数Rを検出する。トルク指令値Tr
*と、ロータ14の回転数Rとを取得したら、計算式選択部55は、取得したトルク指令値Tr
*、回転数Rを記憶部52に格納して
図8のステップS103に進む。計算式選択部55は、
図8のステップS103においてトルク指令値Tr
*とロータ14の回転数Rとから定まるモータ10の目標動作点を確認する。そして、計算式選択部55は、記憶部52に格納されている
図5に示す選択チャートを参照し、モータ10の目標動作点が
図5に示す選択チャートの領域1から領域4のどの領域にあるかを確認する。そして、計算式選択部55は、例えば、モータ10の目標動作点が領域1にある場合には、(式1)あるいは(マップ1)を選択する。このように、計算式選択部55は、モータ10の目標動作点が領域N(Nは1から4の整数)にある場合には、(式N)あるいは(マップN)を選択する。
【0049】
推定磁石温度算出部56は、
図8のステップS104において、コイル温度センサ17、冷却液温度センサ25とからコイル温度Tc、冷却液21の温度Toを取得する。推定磁石温度算出部56は、取得したコイル温度Tc、冷却液21の温度Toを記憶部52に格納して
図8のステップS105に進む。推定磁石温度算出部56は、
図8のステップS105において、計算式選択部55が選択した計算式あるいはマップと、コイル温度Tc、冷却液21の温度Toとを用いて推定磁石温度Tmを算出し、推定磁石温度Tmを出力する。
【0050】
トルク指令値再設定部58は、
図8に示すステップS106において、記憶部52に格納された
図7に示す許容トルクマップと、推定磁石温度算出部56が出力した推定磁石温度Tmと、記憶部52から読み出したロータ14の回転数Rとに基づいて、モータ10の許容トルクTraを算出する。トルク指令値再設定部58は、モータ10の許容トルクTraを算出したら、
図8のステップS107に進み、他の制御装置から入力されたモータ10のトルク指令値Tr
*が算出した許容トルクTraを超えるかどうか判断する。そして、トルク指令値Tr
*が算出した許容トルクTraを超える場合には、
図8のステップS108に進んで、PWM制御部59に出力するトルク指令値Tr2
*に許容トルクTraを再設定する。
【0051】
図8のステップS109においてPWM制御部59は、電圧センサ33、電流センサ36、37、レゾルバ18からそれぞれバッテリ30の電圧Vbと、V相電流Iv、W相電流Iw、ロータ14の回転角θを取得する。PWM制御部59は、取得した電圧Vb、V相電流Iv、W相電流Iw、ロータ14の回転角θを記憶部52に格納して
図8のステップS110に進む。PWM制御部59は、
図8のステップS110において、トルク指令値再設定部58において許容トルクTraに再設定されたトルク指令値Tr2
*と、バッテリ30の電圧Vbと、V相電流Iv、W相電流Iw、ロータ14の回転角θとに基づいて、インバータ34のスイッチング素子をオン・オフ動作させるPWM信号を出力する。このPWM信号は、モータ10の出力トルクを許容トルクTra以下に制限してモータ10を駆動する信号である。このように、モータ10は、永久磁石15の推定磁石温度Tmにより出力が制限される。
【0052】
一方、トルク指令値再設定部58は、トルク指令値Tr
*が算出した許容トルクTra以下で、
図8のステップS107においてNOと判断した場合には、
図8のステップS111に進んで、PWM制御部59に出力するトルク指令値Tr2
*に他の制御装置から取得したトルク指令値Tr
*を再設定する。そして、
図8のステップS112において、PWM制御部59は、ステップS109と同様、電圧センサ33、電流センサ36、37、レゾルバ18からそれぞれバッテリ30の電圧Vbと、V相電流Iv、W相電流Iw、ロータ14の回転角θを取得し、
図8のステップS113に進む。PWM制御部59は、
図8のステップS113において、トルク指令値再設定部58においてトルク指令値Tr
*に再設定されたトルク指令値Tr2
*と、バッテリ30の電圧Vbと、V相電流Iv、W相電流Iw、ロータ14の回転角θとに基づいて、インバータ34のスイッチング素子をオン・オフ動作させるPWM信号を出力する。このPWM信号は、モータ10の出力トルクをトルク指令値Tr
*から制限せずにモータ10を駆動する信号である。したがって、この場合、モータ10は、永久磁石15の推定磁石温度Tmによって出力が制限されない。
【0053】
以上説明したように、本実施形態のモータシステム100は、ロータ14の回転数Rとトルク指令値Tr
*とによって定まるモータ10の目標動作点に基づいて
図5に示す選択チャートから永久磁石15の推定磁石温度Tmを精度よく算出できる計算式あるいはマップを選択し、その選択した計算式あるいはマップを用いて永久磁石15の推定磁石温度Tmを算出するので、永久磁石15の推定磁石温度Tmを精度よく推定することができる。そして、精度よく算出した推定磁石温度Tmを用いてモータ10の出力を制限するので、モータ10の出力を過剰に制限することを抑制できる。本実施形態のモータシステム100を電動車両200に搭載した場合、車両駆動用のモータ10の永久磁石15の推定磁石温度Tmを精度よく推定することによってモータ10の過剰な出力制限を抑制して車両性能が低下することを抑制することができる。
【0054】
次に、
図9から
図11を参照しながら、本実施形態のモータシステム100の他の実施形態について説明する。先に
図1から
図8を参照して説明した実施形態と同様の部分には、同様の符号を付して説明は省略する。
【0055】
図9は、他の実施形態のモータシステム100のコントローラ50の機能ブロック図である。本実施形態のモータシステム100のコントローラ50は、先に
図2を参照して説明した実施形態のコントローラ50にトルク補正係数算出部61を追加したものである。また、本実施形態のコントローラ50は記憶部52に
図10に実線99で示すモータ設計上の基準逆起電圧の時間変化カーブを格納している。
【0056】
トルク補正係数算出部61は、モータ10の逆起電圧を検出し、検出した逆起電圧の最大値のモータ設計上の基準逆起電圧の最大値に対する比率から許容トルク補正係数Kを算出するものである。
【0057】
先に説明した実施形態と同様、
図9に示すコントローラ50の機能ブロックは、コントローラ50に含まれるCPU51および記憶部52と記憶部52から読み出されてCPU51で実行されるプログラムとを主体としたソフトウェアで実現される。
【0058】
以下、
図11、
図12を参照しながら本実施形態のコントローラ50の動作について説明する。コントローラ50は、
図11に示すステップS201、S202を実行した後、
図11に示すステップS101からS105、S203、S107からS113を予め決められた周期Δt(例えば、0.1秒)毎に繰り返して実行する。
【0059】
図11に示すステップS201、S202はトルク補正係数算出部61で実行される。
図12に示すステップS101からS103は計算式選択部55によって実行され、
図12に示すステップS104、S105は推定磁石温度算出部56で実行される。また、
図12に示すステップS106、S203、S204、S205、S111はトルク指令値再設定部58で実行され、
図12に示すステップS109、S110、S112、S113はPWM制御部59で実行される。また、図示しない他の制御装置は、例えば、電動車両200の車速、シフトレバーの位置、アクセル開度あるいはブレーキ開度等に基づいてモータ10のトルク指令値Tr
*を算出して出力している。以下の説明では、
図8を参照して説明したのと同様のステップには同様の符号を付して説明は省略する。
【0060】
図11のステップS201に示すように、トルク補正係数算出部61は、モータ10の逆起電圧波形を検出して記憶部52に格納する。モータ10の逆起電圧波形の検出は、例えば、インバータ34のスイッチング素子を全て開とし、車輪44、車軸43の回転によりモータ10が回転させられている状態で
図2に示す交流電路35に取り付けた図示しない電圧センサによって交流電路35の交流電圧を検出することによって行ってもよい。このような状態は、例えば、インバータ34のスイッチング素子を全て開として電動車両200を惰性で走行させることによって実現することができる。トルク補正係数算出部61は、モータ10の逆起電圧波形を
図10の破線98に示すような時間変化する交流電圧波形として検出する。
図10の破線98に示すように、モータ10の逆起電圧波形の最大値は、V1である。トルク補正係数算出部61は、モータ10の逆起電圧波形を検出したら
図11のステップS202に進む。
【0061】
図11のステップS202において、トルク補正係数算出部61は、記憶部52から
図10に実線99で示すモータ設計上の基準逆起電圧波形を読みだす。
図10の実線99に示すように、この基準逆起電圧波形の最大値はV2である。そして、トルク補正係数算出部61は、下記のように、許容トルク補正係数Kを算出し、記憶部52に格納する。
許容トルク補正係数K = V1/V2
【0062】
モータ10は逆起電圧が基準逆起電圧よりも大きくなるように設計されている。したがって、個々のモータ10の実際の逆起電圧は、この基準逆起電圧よりも大きくなっているので許容トルク補正係数K=V1/V2は、1よりも大きな値となる。逆起電圧が設計上の基準逆起電圧よりも大きいモータ10の場合、設計通りの電圧、電流を流した場合に設計上のトルクよりも大きなトルクを出力することができる。このため、本実施形態のモータシステム100は、許容トルクTraの値に許容トルク補正係数Kをかけたトルクまでモータの許容トルクTraを拡大することによって、より、モータ10の出力制限を抑制するものである。
【0063】
図10示すステップS201、S202の実行が終了したら、先に
図8を参照して説明したと同様、計算式選択部55、推定磁石温度算出部56が
図12のステップS101からS105を実行して推定磁石温度Tmを算出する。
【0064】
トルク指令値再設定部58は、
図12に示すステップS203において、先に説明した
図8のステップS106と同様、記憶部52に格納された
図7に示す許容トルクマップと、推定磁石温度算出部56が出力した推定磁石温度Tmと、記憶部52から読み出したロータ14の回転数Rとに基づいて、モータ10の許容トルクTraを算出する。次に、トルク指令値再設定部58は、算出した許容トルクTraに許容トルク補正係数Kを掛けて、拡大許容トルクK*Traを算出する。トルク指令値再設定部58は、モータ10の拡大許容トルクK*Traを算出したら、
図12のステップS204に進み、他の制御装置から入力されたモータ10のトルク指令値Tr
*が算出した拡大許容トルクK*Traを超えるかどうか判断する。そして、トルク指令値Tr
*が拡大許容トルクK*Traを超える場合には、
図12のステップS205に進んで、PWM制御部59に出力するトルク指令値Tr2
*に拡大許容トルクK*Traを再設定する。
【0065】
図8を参照して説明したと同様、
図12のステップS109においてPWM制御部59は、電圧センサ33、電流センサ36、37、レゾルバ18からそれぞれバッテリ30の電圧Vbと、V相電流Iv、W相電流Iw、ロータ14の回転角θを取得し、トルク指令値再設定部58において拡大許容トルクK*Traに再設定されたトルク指令値Tr2
*と、バッテリ30の電圧Vbと、V相電流Iv、W相電流Iw、ロータ14の回転角θとに基づいて、インバータ34のスイッチング素子をオン・オフ動作させるPWM信号を出力する。このPWM信号は、モータ10の出力トルクを拡大許容トルクK*Tra以下に制限してモータ10を駆動する信号である。このように、モータ10は、永久磁石15の推定磁石温度Tmにより出力が制限される。
【0066】
一方、トルク指令値再設定部58は、トルク指令値Tr
*が拡大許容トルクK*Tra以下で、
図12のステップS204においてNOと判断した場合には、
図12のステップS111に進んで、先に
図8を参照して説明したと同様、PWM制御部59に出力するトルク指令値Tr2
*に他の制御装置から取得したトルク指令値Tr
*を再設定する。PWM制御部59は、モータ10の出力トルクをトルク指令値Tr
*から制限せずにモータ10を駆動するPWM信号を出力する。したがって、この場合、モータ10は、永久磁石15の推定磁石温度Tmによって出力が制限されない。
【0067】
以上説明したように、本実施形態のモータシステム100は、先は
図1から
図8を参照して説明した実施形態と同様の効果に加え、個々のモータ10の特性に基づいて拡大した拡大許容トルクK*Traまでモータ10の出力トルクの制限を行わないので、モータ10の過剰な出力制限をより好適に抑制して車両性能が低下することを抑制することができる。