特許第6740119号(P6740119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6740119袋状構造体及びその製造方法、カフ、並びに血圧計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6740119
(24)【登録日】2020年7月28日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】袋状構造体及びその製造方法、カフ、並びに血圧計
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20200730BHJP
【FI】
   A61B5/022 300C
   A61B5/022 300F
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-253788(P2016-253788)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-102708(P2018-102708A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】西川 和義
【審査官】 遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−061313(JP,A)
【文献】 実開昭57−060605(JP,U)
【文献】 特開2013−248008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02−5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーを含み且つ組成が均一な1以上のシートを含み、前記1以上のシートは、100%モジュラスが異なる複数の領域を含み、前記複数の領域は、第1領域と、前記第1領域と比較してより薄く且つ100%モジュラスがより大きい第2領域とを含んだ袋状構造体。
【請求項2】
前記1以上のシートには1以上の開口が設けられ、前記1以上のシートは、前記1以上の開口から離間した第3領域と、前記1以上の開口と前記第3領域との間に介在した第4領域とを含み、前記第4領域は前記第3領域と比較して100%モジュラスがより大きい請求項に記載の袋状構造体。
【請求項3】
前記1以上のシートには互いに接合された複数の接合領域が設けられ、前記1以上のシートは、前記複数の接合領域を含んだ第5領域と、第6領域とを含み、前記第5領域の少なくとも一部は、前記第6領域と比較して100%モジュラスがより大きい請求項1又は2に記載の袋状構造体。
【請求項4】
前記1以上のシートは、第7領域と、前記第7領域を生体に着用させた場合に前記第7領域と向き合う第8領域と、前記第7領域の端と前記第8領域の端とを連接する第9領域とを含み、前記第9領域の少なくとも一部は、前記第7領域と比較して100%モジュラスがより大きい請求項1乃至3の何れか1項に記載の袋状構造体。
【請求項5】
前記第9領域は、前記1以上のシートが互いに接合された接合領域を含み、前記第9領域における前記接合領域と前記第7領域との間に、前記第7領域と比較して100%モジュラスがより大きい領域を備えた請求項に記載の袋状構造体。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の袋状構造体を含んだ血圧計用カフ。
【請求項7】
請求項に記載のカフを備えた血圧計。
【請求項8】
熱可塑性エラストマーを含み且つ組成が均一な1以上のシートの一部の領域を、前記熱可塑性エラストマーの結晶化温度以上であり且つ前記熱可塑性エラストマーの融点未満の温度に加熱して、前記一部の領域の100%モジュラスを、他の領域の100%モジュラスと比較して高めることを含んだ袋状構造体の製造方法。
【請求項9】
前記1以上のシートは核剤を更に含んだ請求項に記載の袋状構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袋状構造体及びその製造方法、カフ、並びに血圧計に関する。
【背景技術】
【0002】
血圧の測定には、血管を圧迫する目的で、袋状構造体を含んだカフを使用する。この袋状構造体は、空気を供給して膨張させた際に良好な血管圧迫特性を達成するように、エラストマーからなるシートで構成されている。
【0003】
特許文献1には、有機化層状粘土鉱物を、この層状粘土鉱物との間で水素結合を形成し得る水素結合用官能基を含有するオリゴマーで膨潤させ、その後、これをゴム等のマトリクスと混練してなる粘土複合ゴム材料には、ガスバリア性及び引張強度について改善の余地があることが記載されている。特許文献1は、この課題を解決するものとして、ポリウレタン複合材料の製造方法を提案している。
【0004】
この方法では、層状粘土鉱物との間で水素結合を形成し得る水素結合用官能基と、イソシアネート化合物との間でウレタン結合を形成し得るウレタン結合用官能基とを備えたオリゴマーを準備する。次いで、このオリゴマーを、層状粘土鉱物の有機オニウムイオン処理により得られる有機化粘土と混合して、有機化粘土膨潤体とする。その後、これをイソシアネート化合物と混練して、上記オリゴマーと上記イソシアネート化合物とのウレタン化反応を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−168305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、エラストマーからなるシートで構成された袋状構造体には、その性能に関して改善の余地があることを見出した。
【0007】
そこで、本発明は、エラストマーからなるシートで構成された袋状構造体の性能向上を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面によると、熱可塑性エラストマーを含み且つ組成が均一な1以上のシートを含み、前記1以上のシートは、100%モジュラスが異なる複数の領域を含み、前記複数の領域は、第1領域と、前記第1領域と比較してより薄く且つ100%モジュラスがより大きい第2領域とを含んだ袋状構造体が提供される。ここで、「100%モジュラス」は、JIS K6251:2010(「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張応力の求め方」)の「所定伸び及び引張応力」において規定される値、即ち、100%伸ばしたときの引張応力である。この測定において使用する試験片は、JIS6251:2010において規定されている「ダンベル状3号形」とする。
【0010】
本発明の第側面によると、前記1以上のシートには1以上の開口が設けられ、前記1以上のシートは、前記1以上の開口から離間した第3領域と、前記1以上の開口と前記第3領域との間に介在した第4領域とを含み、前記第4領域は前記第3領域と比較して100%モジュラスがより大きい第1側面に係る袋状構造体が提供される。
【0011】
本発明の第側面によると、前記1以上のシートには互いに接合された複数の接合領域が設けられ、前記1以上のシートは、前記複数の接合領域を含んだ第5領域と、第6領域とを含み、前記第5領域の少なくとも一部は、前記第6領域と比較して100%モジュラスがより大きい第1又は第2側面に係る袋状構造体が提供される。
【0012】
本発明の第側面によると、前記1以上のシートは、第7領域と、前記第7領域を生体に着用させた場合に前記第7領域と向き合う第8領域と、前記第7領域の端と前記第8領域の端とを連接する第9領域とを含み、前記第9領域の少なくとも一部は、前記第7領域と比較して100%モジュラスがより大きい第1乃至第側面の何れかに係る袋状構造体が提供される。なお、第7領域を生体に着用させた場合とは、第7領域を生体に直接接触させるような場合のみならず、他の物質を介して間接的に接触させるような場合も含まれる。
【0013】
本発明の第側面によると、前記第9領域は、前記1以上のシートが互いに接合された接合領域を含み、前記第9領域における前記接合領域と前記第7領域との間に、前記第7領域と比較して100%モジュラスがより大きい領域を備えた第側面に係る袋状構造体が提供される。
【0014】
本発明の第側面によると、第1乃至第側面の何れかに係る袋状構造体を含んだ血圧計用カフが提供される。
【0015】
本発明の第側面によると、第側面に係るカフを備えた血圧計が提供される。
【0016】
本発明の第側面によると、熱可塑性エラストマーを含み且つ組成が均一な1以上のシートの一部の領域を、前記熱可塑性エラストマーの結晶化温度以上であり且つ前記熱可塑性エラストマーの融点未満の温度に加熱して、前記一部の領域の100%モジュラスを、他の領域の100%モジュラスと比較して高めることを含んだ袋状構造体の製造方法が提供される。
【0017】
本発明の第側面によると、前記1以上のシートは核剤を更に含んだ第側面に係る袋状構造体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
第1側面によれば、熱可塑性エラストマーを含み且つ組成が均一な1以上のシートに、100%モジュラスが異なる複数の領域を設けるため、袋状構造体の性能を向上させること、例えば、100%モジュラスがより小さい領域で優れた柔軟性を達成するとともに、100%モジュラスがより大きい領域で高い強度を達成することが可能である。
【0019】
第2側面によれば、上記複数の領域は、第1領域と、第1領域と比較してより薄く且つ100%モジュラスがより大きい第2領域とを含んでいるため、例えば、厚さが小さいことに起因した強度不足を防止できる。
【0020】
第3側面によれば、1以上のシートに1以上の開口を設け、この1以上のシートのうち、1以上の開口から離間した第3領域の100%モジュラスと比較して、1以上の開口と第3領域との間に介在した第4領域の100%モジュラスをより大きくするため、例えば、開口近傍の領域における強度不足を防止できる。
【0021】
第4側面によれば、1以上のシートには互いに接合された複数の接合領域が設けられ、1以上のシートは、複数の接合領域を含んだ第5領域と、第6領域とを含み、第5領域の少なくとも一部は、第6領域と比較して100%モジュラスがより大きい構成を採用するため、例えば、接合部又はその近傍における強度不足を防止できる。
【0022】
第5側面によれば、1以上のシートは、第7領域と、第7領域を生体に着用させた場合に第7領域と向き合う第8領域と、第7領域の端と第8領域の端とを連接する第9領域とを含み、第9領域の少なくとも一部は、第7領域と比較して100%モジュラスがより大きいため、例えば、生体を押圧する第7領域の柔軟性を十分なものとするとともに、袋状構造体の異常膨れを抑制できる。
【0023】
第6側面によれば、第9領域は、1以上のシートが互いに接合された接合領域を含み、第9領域における接合領域と第7領域との間に、第7領域と比較して100%モジュラスがより大きい領域を備えているため、例えば、生体を押圧する第7領域の柔軟性を確保するとともに、生体を押圧する際に最も圧力が集中する領域(接合領域と第7領域との間の領域)の強度不足を防止し、袋状構造体の異常膨れを抑制できる。
【0024】
第7側面によれば、第1乃至第6側面の何れかに係る袋状構造体を血圧計用カフにおいて使用するため、優れた動脈閉塞特性を達成することができる。
【0025】
第8側面によれば、第7側面に係るカフを血圧計において使用するため、高い精度で血圧値を測定することが可能である。
【0026】
第9側面によれば、熱可塑性エラストマーを含み且つ組成が均一な1以上のシートの一部の領域を、この熱可塑性エラストマーの結晶化温度以上であり且つ熱可塑性エラストマーの融点未満の温度に加熱して、上記一部の領域の100%モジュラスを、他の領域の100%モジュラスと比較して高めるため、例えば、簡便な方法で袋状構造体の性能を向上させること、例えば、100%モジュラスがより小さい領域で優れた柔軟性を達成するとともに、100%モジュラスがより大きい領域で高い強度を達成することが可能である。
【0027】
第10側面によれば、1以上のシートは核剤を更に含んでいるため、シートに100%モジュラスの相違を生じさせ易い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係る血圧計を概略的に示す斜視図。
図2図1の血圧計のII−II線に沿った断面図。
図3図1及び図2に示す血圧計が含んでいる袋状構造体の破断斜視図。
図4図1及び図2に示す血圧計が含んでいる袋状構造体の断面図。
図5】100%モジュラスが異なる複数の領域の一例を概略的に示す断面図。
図6】100%モジュラスが異なる複数の領域の他の例を概略的に示す斜視図。
図7図1及び図2に示す血圧計が含んでいるカフを生体に着用させた状態を概略的に示す断面図。
図8】カフが含んでいる袋状構造体を膨張させたこと以外は、図7と同様の状態を概略的に示す断面図。
図9】一例に係る袋状構造体を図8と同様に膨張させた状態を概略的に示す断面図。
図10】他の例に係る袋状構造体を図8と同様に膨張させた状態を概略的に示す断面図。
図11】袋状構造体に異常膨れを生じた様子を概略的に示す斜視図。
図12】本発明の他の実施形態に係る血圧計を概略的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0030】
<血圧計>
図1は、本発明の一実施形態に係る血圧計を概略的に示す斜視図である。図2は、図1の血圧計のII−II線に沿った断面図である。
【0031】
図1に示す血圧計1は、手首用電子血圧計である。この血圧計1は、装置本体11と、カフ12とを含んでいる。
【0032】
装置本体11は、筐体111と、表示部112と、操作部113とを含んでいる。装置本体11は、流路と、ポンプと、弁と、圧力センサと、制御部と、電源部とを更に含んでいる(何れも図示せず)。
【0033】
筐体111は、表示部112及び操作部113のための開口を上部に有している。また、筐体111には、装置本体11をカフ12に対して着脱可能に固定するための構造、ここでは、カフ12に設けられた爪が挿入される凹部が下部に設けられている。
【0034】
表示部112は、筐体111内に、その上部に設けた開口の位置で画像を表示するように設置されている。表示部112は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機エレクトロルミネッセンスディスプレイである。表示部112は、最高血圧及び最低血圧などの血圧値や心拍数などの測定結果を含む各種情報を表示する。
【0035】
操作部113は、ユーザが、測定の開始/停止、電源のON/OFF、機能選択、及び各種設定などを行うための釦を有している。操作部113は、これら釦が上記の開口の位置で筐体111の外部空間に露出するように、筐体111内に設置されている。操作部113は、釦を介して入力された指令又は情報に対応した電気信号を出力する。
【0036】
流路は、一例によれば、四方に分岐した構造を有しており、4つの開口を有している。これら開口の1つは、カフ12が含んでいる袋状構造体122の給排気口に接続されている。
【0037】
ポンプは、筐体111内に設置されている。ポンプの排気口は、流路が含んでいる開口の他の1つに接続されている。ポンプは、例えば、ローリングポンプである。ポンプは、その排気口から圧縮空気を排出する。
【0038】
弁は、筐体111内に設置されている。弁は、流路が含んでいる開口の更に他の1つに接続されている。弁は、電力を利用して動作を制御可能な弁、例えば電磁弁である。弁は、これが取り付けられている開口を開閉する。
【0039】
圧力センサは、筐体111内に設置されている。圧力センサは、流路が含んでいる開口の残りの1つに接続されている。圧力センサは、例えば、ピエゾ抵抗型の圧力センサである。圧力センサは、流路内の圧力を検知して、この圧力に対応した電気信号を出力する。
【0040】
制御部は、筐体111内に設置されている。制御部は、表示部112、操作部113、ポンプ、弁、及び圧力センサに電気的に接続されており、それらに電力を供給する。また、制御部は、操作部113及び圧力センサが出力する電気信号に基づいて、表示部112、ポンプ、及び弁の動作を制御する。例えば、制御部は、測定開始に対応した電気信号が操作部113から供給されると、弁が閉じ、続いて、ポンプが駆動を開始するように、それらの動作を制御する。次いで、制御部は、圧力センサが出力する電気信号に基づいて、ポンプの動作を停止させるタイミングを判断し、このタイミングでポンプが動作を停止し、次いで、弁が徐々に開くように、それらの動作を制御する。その後、制御部は、圧力センサが出力する電気信号から、最高血圧及び最低血圧などの血圧値や心拍数などの測定結果を求め、この測定結果に対応した画像信号を表示部112へ出力する。
【0041】
電源部は、筐体111内に設置されている。電源部はバッテリを含んでいる。電源部は、制御部へ電力を供給する。
【0042】
カフ12は、装置本体11に着脱可能に装着されている。カフ12は、生体に、具体的には、生体の手首に巻きつけられ、この状態で膨張することによって動脈を圧迫する。
【0043】
カフ12は、図2に示すように、カバー体121と、袋状構造体122と、カーラ123と、留め具124とを含んでいる。
【0044】
カバー体121は、カフ12を生体に着用させた場合に、袋状構造体122を間に挟んで生体と向き合うように設置されている。カバー体121は、伸縮性に乏しいシートである。カバー体121は、一方向に伸びた袋状の構造を形成している。この方向は、カフ12を生体に着用させた場合の巻き付け方向に相当している。
【0045】
カバー体121は、後述するように、袋状構造体122及びカーラ123を支持するとともに、カフ12を生体に対して巻きつけ可能とする。また、カバー体121は、袋状構造体122を膨張させたときに、生体側への膨張を妨げることなしに、生体と反対側への膨張を抑制する。
【0046】
袋状構造体122は、カバー体121によって支持されている。上記の通り、袋状構造体122は給排気口を有しており、この給排気口は、装置本体11が含んでいる流路の開口の1つに接続されている。なお、袋状構造体122は、給排気口の代わりに、給気口と排気口とを有していてもよい。
【0047】
カフ12を生体に着用させ且つ弁を閉じた状態でポンプを駆動すると、袋状構造体122は膨張し、その結果、カフ12は生体の動脈を閉塞させる。次いで、ポンプの駆動を停止し、弁を開くと、袋状構造体122は収縮し、その結果、カフ12が生体に加える圧力が弱まり、血流が再開する。袋状構造体122の詳細については後述する。
【0048】
カーラ123は、カバー体121と袋状構造体122との間に位置している。カーラ123は、カバー体121及び袋状構造体122に、例えば、両面テープ等の接着手段によって固定されている。カーラ123は、例えば、ポリプロピレン等の樹脂からなる弾性体である。また、カーラ123は、その長さ方向に湾曲した形状を有している。これにより、カーラ123は、カフ12をその長さ方向に湾曲させ、カフ12の生体への装着を容易にする。カーラ123は省略することができる。
【0049】
留め具124は、カフ12を生体に着用させる場合に、カバー体121の一端を他端に対して固定する役割を果たす。留め具124は、例えば、面ファスナである。この場合、面ファスナのフック面は、カバー体121の表面であって、カフ12を生体に着用させた場合に互いに向き合うように位置した一対の領域の一方に設けられ、面ファスナのループ面は、上記領域の他方に設けられる。
【0050】
<袋状構造体>
次に、袋状構造体122について、図3及び図4を参照しながら詳細に説明する。
図3は、図1及び図2の血圧計が含んでいる袋状構造体の破断斜視図である。図4は、図1及び図2の血圧計が含んでいる袋状構造体の断面図である。
【0051】
図3及び図4に示す袋状構造体122は、1以上のシート、ここでは、シート122a及び122bを含んでいる。
【0052】
シート122a及び122bは、それらの周縁部で互いに接合されている。この接合は、レーザ溶着、高周波溶着、熱プレス溶着、又は、接着剤若しくは両面テープによる接着によって行なうことができる。
【0053】
シート122a及び122bは、熱可塑性エラストマーを含んでいる。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリウレタン系樹脂(TPU)、塩化ビニル樹脂(PVC)、エチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリスチレン系樹脂(TPS)、ポリオレフィン樹脂(TPO)、ポリエステル系樹脂(TPEE)及びポリアミド樹脂(TPA)を用いることができる。熱可塑性エラストマーとしては、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0054】
熱可塑性エラストマーには、核剤を添加してもよい。核剤を添加した場合、後述する100%モジュラスの分布を生じさせ易い。核剤としては、例えば、タルク、クレイ、有機酸の金属塩、及び金属酸化物などの化合物を使用することができる。核剤の量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、3.0質量部以下であることが好ましく、0.1質量部乃至1.0質量部の範囲内にあることがより好ましい。
【0055】
袋状構造体122が肌に接触する構成を採用する場合、熱可塑性エラストマーには、シリカ、炭酸カルシウム及びタルクなどの添加剤を添加してもよい。そのような添加剤を使用すると、シートの肌感触を高めることができる。この添加剤の量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、0.5質量部乃至2.0質量部の範囲内にあることがより好ましい。
【0056】
シート122a及び122bの少なくとも一方は、組成が均一である。シート122a及び122bは、組成が同一であってもよく、異なっていてもよい。ここでは、一例として、シート122a及び122bの各々は組成が均一であり、それらは組成が同一であるとする。
【0057】
シート122a及び122bは、組成が同一でありながらも、100%モジュラスが異なる複数の領域を含んでいる。100%モジュラスがより大きい領域は、100%モジュラスがより小さい領域と比較して、より高い強度を有している。100%モジュラスがより小さい領域は、100%モジュラスがより大きい領域と比較して、より優れた柔軟性を有している。
【0058】
ここで、「100%モジュラス」は、JIS K6251:2010(「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張応力の求め方」)の「所定伸び及び引張応力」において規定される値である。この測定において使用する試験片は、JIS6251:2010において規定されている「ダンベル状3号形」とする。
【0059】
100%モジュラスが最も大きい領域は、100%モジュラスが、好ましくは5.0MPa以下であり、より好ましくは3.0MPa以下である。100%モジュラスが最も小さい領域は、100%モジュラスが、好ましくは0.1MPa以上であり、より好ましくは0.5MPa以上である。そして、100%モジュラスが最も大きい領域と100%モジュラスが最も小さい領域との100%モジュラスの差は、好ましくは0.3MPa乃至3.0MPaの範囲内にあり、より好ましくは0.5MPa乃至1.0MPaの範囲内にある。100%モジュラスが大きすぎると、柔軟性が不十分となる可能性がある。100%モジュラスが小さすぎると、強度が不十分となる可能性がある。100%モジュラスの差が小さすぎると、柔軟性や強度の違いが顕著には表れない。100%モジュラスの差が過剰に大きくすると、100%モジュラスが大きすぎるか又は小さすぎる領域が存在する可能性が高まる。
【0060】
この100%モジュラスは、例えば、熱可塑性エラストマーに使用する化合物の種類、それに含まれるハードセグメントの量とソフトセグメントの量との比、添加物の有無、添加物の種類及びその含有量、並びに、後述する熱処理の条件に応じて調整することができる。
【0061】
100%モジュラスが異なる複数の領域は、一例によれば、第1領域と、第1領域と比較してより薄く且つ100%モジュラスがより大きい第2領域とを含んでいる。
【0062】
図5は、100%モジュラスが異なる複数の領域の一例を概略的に示す断面図である。図5に示す袋状構造体122では、シート122aは、領域122a1及び122a2を含んでいる。領域122a2は、領域122a1と比較してより薄く且つ100%モジュラスがより大きい。即ち、図5に示す構造では、領域122a1は第1領域に相当し、領域122a2は第2領域に相当している。
【0063】
他の例によれば、1以上のシートには1以上の開口が設けられ、1以上のシートは、1以上の開口から離間した第3領域と、1以上の開口と第3領域との間に介在した第4領域とを含み、第4領域は第3領域と比較して100%モジュラスがより大きい。
【0064】
図6は、100%モジュラスが異なる複数の領域の他の例を概略的に示す斜視図である。図6に示す構造では、シート122bには開口が設けられており、この開口には、給排気口を構成するニップル122Nが取り付けられている。シート122bは、上記の開口から離間した領域122b1と、この開口と領域122b1との間に介在した領域122b2とを含んでいる。領域122b2は、領域122b1と比較して、100%モジュラスがより大きい。即ち、この構造では、領域122b1は第3領域に相当し、領域122b2は第4領域に相当している。
【0065】
更に他の例によれば、1以上のシートには互いに接合された複数の接合領域が設けられ、1以上のシートは、複数の接合領域を含んだ第5領域と、第6領域とを含み、第5領域の少なくとも一部は、第6領域と比較して100%モジュラスがより大きい。
【0066】
更に他の例によれば、1以上のシートは、第7領域と、第7領域を生体に着用させた場合に第7領域と向き合う第8領域と、第7領域の端と第8領域の端とを連接する第9領域とを含み、第9領域の少なくとも一部は、第7領域と比較して100%モジュラスがより大きい。
【0067】
換言すれば、袋状構造体122を構成している1以上のシートは、カフ12を生体に着用させた場合に袋状構造体122の内部空間と生体との間に位置する第1部分と、カフ12を生体に着用させた場合に先の内部空間を間に挟んで第1部分と向き合う第2部分と、第1部分の端と第2部分の端とを連接する第3部分とを含む。そして、第3部分の少なくとも一部は、第1部分と比較して100%モジュラスがより大きい。
好ましくは、第9領域は、1以上のシートが互いに接合された接合領域を含み、第9領域における接合領域と第7領域との間に、第7領域と比較して100%モジュラスがより大きい領域を備えている。
【0068】
図5に示す構造では、第7領域は、領域122a1のうち領域122a2間に挟まれた部分に相当し、第8領域は、シート122bのうち第7領域と向き合った領域に相当している。第9領域は、シート122a及び122bの両端の領域に相当している。接合領域は、シート122a及び122bのうち、それらの両端で互いに接合されている領域である。この構造では、第9領域のうち、接合領域と第7領域との間に位置した領域122a2は、第7領域と比較して100%モジュラスがより大きい。
なお、上述した構造の2以上は、互いに組み合わせてもよい。
【0069】
100%モジュラスがより大きい領域は、100%モジュラスがより小さい領域と比較して、熱可塑性エラストマーの結晶性がより高い。後述するように、この結晶性の分布は、所定の熱処理を行うことによって生じさせることができる。
【0070】
袋状構造体122を構成しているシートの厚さ、図3及び図4に示す例では、シート122a及び122bの厚さは、好ましくは0.03mm乃至0.60mmの範囲内にあり、より好ましくは0.10mm乃至0.40mmの範囲内にある。この厚さが小さすぎる場合、結晶性を高めることによる強度向上効果が小さい。また、この厚さが大きすぎる場合、熱可塑性エラストマーの低い熱伝導率に起因して、例えば、シートが重なり合った部分とそうでない部分とで結晶化度に大きな相違を生じる可能性がある。
【0071】
<袋状構造体の製造>
上述した袋状構造体122は、例えば、以下の方法により製造する。
先ず、熱可塑性エラストマーを含んだシートを準備する。そして、このシートを切断して、シート122a及び122bを得る。熱可塑性エラストマーには、核剤や他の添加剤を添加しておいてもよい。
【0072】
次に、シート122a及び122bの少なくとも一方の一部の領域、具体的には、100%モジュラスを他の領域の100%モジュラスと比較して高めたい領域に対して、所定の熱処理を施す。即ち、シート122a及び122bの少なくとも一方の一部の領域を、熱可塑性エラストマーの結晶化温度以上であり且つ熱可塑性エラストマーの融点未満の温度に加熱して、この一部の領域の100%モジュラスを、他の領域の100%モジュラスと比較して高める。
【0073】
熱可塑性エラストマーを、その結晶化温度以上であり且つ融点未満の温度に加熱すると、結晶性又は結晶化度が高まる。その結果、100%モジュラスが高まる。なお、この熱処理の温度が熱可塑性エラストマーの結晶化温度未満である場合、熱可塑性エラストマー分子の再配列は生じないため、100%モジュラスは高まらない。また、この熱処理の温度が熱可塑性エラストマーの融点以上である場合、シートの製造時と同様の温度履歴を経ることになるため、同様に100%モジュラスは高まらない。
【0074】
また、この温度が低い場合、熱処理に長時間を要する。そして、この温度が高い場合、熱処理温度の意図しない変動に起因して、熱可塑性エラストマーの温度がその融点以上に達する可能性がある。熱可塑性エラストマーとして熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いる場合、この加熱は、70℃乃至120℃の範囲内で行うことが好ましい。
【0075】
熱可塑性エラストマーとして熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いる場合、この熱処理の持続時間は、10分乃至1時間の範囲内とすることが好ましい。この持続時間が短いと、熱可塑性エラストマーの結晶化度は高まらない。この持続時間が長い場合、高い生産性を達成することが難しい。
【0076】
この熱処理は、例えば、レーザ、赤外線ヒータ、及びヒータを装備した金属冶具の1以上を使用して行う。
【0077】
レーザを用いた熱処理には、例えば、半導体レーザを使用する。一例によれば、焦点径を2mmとし、レーザビームをシート上でライン状に繰り返し走査することにより、レーザビームの照射位置でシートを加熱する。レーザ出力及び走査速度は、照射部の温度が上記範囲内になるように適宜設定する。熱可塑性エラストマーとして熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いる場合、レーザ出力は、例えば、0.2W乃至5.0Wの範囲内とし、走査速度は、例えば、3mm/秒乃至30mm/秒の範囲内とする。
【0078】
赤外線ヒータによる加熱は輻射加熱であるため、加熱すべきでない領域を、例えば冷風を当てることなどにより冷却しながら熱処理を行うことが好ましい。こうすると、加熱される領域が広がりすぎるのを防止できる。
【0079】
金属冶具による加熱は、例えば、カートリッジヒータを金属冶具に取り付け、シートの加熱すべき部分を、金属冶具で挟んで加熱することにより行う。
【0080】
この熱処理は、例えば、シートの一部の領域に対して選択的に行う。この場合、熱処理を施した領域の100%モジュラスを、他の領域の100%モジュラスと比較して高めることができる。
【0081】
この熱処理は、複数の領域に対して、異なる条件で行ってもよい。例えば、シートの一部の領域に対して、上述した範囲内の第1条件のもとで熱処理を行うとともに、シートの他の一部の領域に対して、上述した範囲内にあり且つ第1条件とは異なる第2条件のもとで熱処理を行ってもよい。この場合、それら領域は、何れも100%モジュラスは高まるが、異なる100%モジュラスを有することになる。なお、第1及び第2条件は、熱処理の温度及び持続時間の少なくとも一方が異なっていればよい。
【0082】
以上の熱処理を終えた後、シート122a及び122bを、それらの周縁部で互いに接合する。この接合は、上記の通り、例えば、レーザ溶着、高周波溶着、熱プレス溶着、又は、接着剤若しくは両面テープによる接着によって行なうことができる。
以上のようにして、袋状構造体122を得る。
【0083】
この方法では、100%モジュラスを高めるための熱処理を、シート122a及び122bを貼り合わせる直前に行っているが、この熱処理は、シート122a及び122bを得るための切断前に行ってもよい。或いは、この熱処理は、シート122a及び122bを貼り合わせた後に行ってもよい。
【0084】
<血圧値の測定>
次に、血圧計1を使用した血圧値の測定について、図1図2、及び図7乃至図10を参照しながら説明する。
【0085】
図7は、図1及び図2の血圧計が含んでいるカフを生体に着用させた状態を概略的に示す断面図である。図8は、図7のカフが含む袋状構造体を膨張させたこと以外は図7と同様の状態を示す断面図である。図9は、一例に係る袋状構造体を図8と同様に膨張させた状態を概略的に示す断面図である。図10は、他の例に係る袋状構造体を図8と同様に膨張させた状態を概略的に示す断面図である。なお、以下の説明では、被験者自身が全ての操作を行うこととする。
【0086】
血圧値の測定に際して、被験者は、先ず、図7に示すように、手首2にカフ12を着用する。次に、被験者は、図1に示す操作部113を操作して、血圧値の測定開始に対応した指令の入力を行う。
【0087】
この指令を入力すると、操作部113は、測定開始に対応した電気信号を制御部へ出力する。この信号が供給された制御部は、弁が閉じ、ポンプが駆動を開始するように、それらの動作を制御する。これにより、袋状構造体122は膨張を開始する。
【0088】
圧力センサは、袋状構造体122の内部空間の圧力を検知し、この圧力に対応した電気信号を制御部へ出力する。制御部は、この電気信号に基づいて、袋状構造体122の内部空間の圧力が血圧測定のための所定のレベルに達しているか否かを判断する。そして、制御部は、この圧力が先のレベルに達したときにポンプが駆動を停止するように、その動作を制御する。なお、ポンプが駆動を停止した直後では、図8に示すように、袋状構造体122は十分に膨張しており、カフ12は、手首2の位置で動脈21を閉塞させている。
【0089】
ここでは、一例として、袋状構造体122は、図9又は図10に示す構造を有していることとする。
図9及び図10に示す構造では、シート122aのうち、手首2と接触している領域122a1は、他の領域である領域122a2と比較して、100%モジュラスがより小さい。また、図9及び図10に示す構造では、シート122bのうち、カーラ123と接触している領域も、領域122a2と比較して、100%モジュラスがより小さい。シート122bのうち、カーラ123と接触している領域は、100%モジュラスが、領域122a2と同等であってもよい。
【0090】
図9及び図10に示す構造では、シート122aのうち手首2と接触している領域122a1の端と、シート122bのうちカーラ123と接触している領域の端とを連接する領域の少なくとも一部は、シート122aのうち手首2と接触している領域122a1と比較して100%モジュラスがより大きい。好ましくは、シート122a及び122bのうち互いに接合されている接合領域と、シート122aのうち手首2と接触している領域122a1との間に介在した領域は、シート122aのうち手首2と接触している領域122a1と比較して100%モジュラスがより大きい。後述するように、この構造は、応力が集中する領域の100%モジュラスが大きく、異常膨れを生じ難い。
【0091】
以上のようにして袋状構造体122が十分に膨張した後、制御部は、弁が徐々に開くように、その動作を制御する。弁が開くと、袋状構造体122の内部の空気は排気され、その内部空間の圧力は低下する。この減圧の過程において、動脈21における血液22の流れが再開する。制御部は、この過程で圧力センサが出力する電気信号から、最高血圧及び最低血圧などの血圧値や心拍数などの測定結果を求め、この測定結果に対応した画像信号を、図1に示す表示部112へ出力する。
【0092】
表示部112は、先の画像信号が供給されると、最高血圧及び最低血圧などの血圧値や心拍数などの測定結果を画面に表示する。以上のようにして、測定を終了する。
【0093】
<効果>
優れた血管圧迫特性を達成するうえでは、袋状構造体122を構成しているシートは、柔軟性が高いことが有利である。しかしながら、これらシートの全体が高い柔軟性を有している場合、即ち、100%モジュラスを高めるための熱処理を行っていないシートを用いた場合、以下の問題を生じ得る。
【0094】
図11は、袋状構造体に異常膨れを生じた様子を概略的に示す斜視図である。図11には、図1及び図2に示す血圧計1を手首2に着用させ、袋状構造体122を膨張させた状態を描いている。なお、図11では、装置本体11は省略している。
【0095】
袋状構造体122を構成しているシートの全体が高い柔軟性を有しているカフ12は、手首2に着用させ、袋状構造体122を膨張させた場合に、図11に示すように、袋状構造体122が幅方向へ大きく膨張する可能性がある。即ち、袋状構造体122は、異常膨れを生じる可能性がある。なお、シート122bはカーラ123に接着されているため、袋状構造体122の幅方向への膨張は、シート122aのうち、シート122a及び122bの接合領域と、シート122aのうち手首2と接触している領域との間に介在した領域で生じ易い。
【0096】
このような異常膨れを生じると、手首2に対して圧力が有効に加わらず、脈波の波形に異常を生じ、その結果、正確な血圧値の測定が困難になる。
【0097】
袋状構造体122を構成しているシート全体の柔軟性を低下させると、異常膨れを生じ難くすることができる。しかしながら、この場合、袋状構造体122を膨張させたときのカフ12の生体への密着性が不十分となり、優れた動脈閉塞特性が得られない可能性がある。
【0098】
図1乃至図4を参照しながら説明した袋状構造体122は、これを構成している1以上のシートが、100%モジュラスが異なる複数の領域を含んでいる。それ故、例えば、袋状構造体122を構成している1以上のシートのうち、異常膨れを生じ易い領域の100%モジュラスを、生体に接触する領域の100%モジュラスと比較してより大きくすることができる。従って、例えば、このような構成を採用した場合には、カフ12の幅を狭くしたとしても、袋状構造体122を膨張させたときのカフ12の生体への密着性を犠牲にすることなしに、異常膨れを生じ難くすることができる。即ち、この場合、カフ12の幅を狭くしたとしても、正確な血圧値の測定が可能である。
【0099】
また、図1乃至図4を参照しながら説明した袋状構造体122では、例えば、これを構成しているシートのうち、厚さが小さい領域、給排気口に隣接した領域、又は、接合領域及びその近傍の領域の100%モジュラスを、これと隣接した領域の100%モジュラスと比較してより大きくすることができる。
【0100】
従って、図1乃至図4を参照しながら説明した袋状構造体122は、例えば、単一種類のシートを使用していながらも、機械的強度や剥離耐性など、カフ12の袋状構造体に要求される各種性能を満たし得る。即ち、図1乃至図4を参照しながら説明した袋状構造体122は、単純な構成で高い性能を達成することができ、コストの点でも有利である。
【0101】
以上の通り、上述した技術によると、エラストマーからなるシートで構成された袋状構造体の性能を向上させることが可能となる。
【0102】
<袋状構造体の他の応用例>
以上、袋状構造体122の応用例として、図1及び図2に示す血圧計1を説明したが、袋状構造体122は、他の血圧計においても使用することができる。
【0103】
図12は、本発明の他の実施形態に係る血圧計を概略的に示す斜視図である。
図12に示す血圧計1は、腕時計型の手首用電子血圧計である。この血圧計1は、図1及び図2を参照しながら説明した血圧計1と比較して小型である。また、この血圧計1では、装置本体11とカフ12とは一体に形成されている。これら以外は、図12に示す血圧計1は、図1及び図2を参照しながら説明した血圧計1とほぼ同様の構造を有している。
【0104】
上述した袋状構造体122は、例えば、カフ12を狭幅化した場合、例えば、40mm以下とした場合や、20mm以下とした場合にも、袋状構造体122を膨張させたときのカフ12の生体への密着性を犠牲にすることなしに、異常膨れを生じ難くすることができる。即ち、この場合、カフ12の幅を狭くしたとしても、正確な血圧値の測定が可能である。
【0105】
袋状構造体122をカフに含んだ血圧計は、手首用の血圧計でなくてもよい。例えば、袋状構造体122をカフに含んだ血圧計は、上腕用の血圧計であってもよい。
【0106】
上述した袋状構造体122をカフに含んだ血圧計は、手動式ポンプで袋状構造体122に空気を供給するものであってもよい。また、上述した袋状構造体122をカフに含んだ血圧計は、圧力センサで検出した脈波の変化に基づいて血圧値を決定する代わりに、マイクロフォン又は聴診器で検出したコロトコフ音の変化に基づいて血圧値を決定するものであってもよい。また、上述した袋状構造体122をカフに含んだ血圧計は、圧力センサを使用する代わりに、水銀圧力計を使用するものであってもよい。
【0107】
袋状構造体122は、血圧計のカフ用として使用しなくてもよい。即ち、袋状構造体122は、他の用途で利用してもよい。袋状構造体122を構成しているシートが、柔軟性及び強度の少なくとも一方が異なる複数の領域を含んでいることが望まれる用途であれば、ここで説明した技術は、有利に利用され得る。
【実施例】
【0108】
以下に、本発明の具体例を記載する。
<袋状構造体の製造>
図3及び図4を参照しながら説明した袋状構造体122を、以下の方法により製造した。
【0109】
(例1)
先ず、熱可塑性エラストマーからなるシートを製造した。この熱可塑性エラストマーとしては、微量の層状粘土化合物を含有した熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)を使用した。このシートの厚さは0.3mmとした。
【0110】
次に、このシートに対して、半導体レーザを用いた局所的な熱処理を施した。具体的には、焦点径を2mmとし、レーザビームをシート上でライン状に繰り返し走査することにより、レーザビームの照射位置でシートを加熱した。レーザビームは、このシートのうち、シート122a及び122bの接合領域及びそれに隣接した領域に対応した領域に対して行った。レーザ出力は0.3Wとし、走査速度は20mm/秒とした。なお、この条件は、レーザビーム照射部の温度が、70℃乃至120℃となる条件である。
【0111】
次いで、このシートを切断して、シート122a及び122bを得た。その後、これらシート122a及び122bを重ね合わせ、それらを周縁部の位置で互いに接合した。
以上のようにして、袋状構造体122を複数製造した。
【0112】
(例2)
熱処理に半導体レーザを用いる代わりに赤外線ヒータを用いたこと以外は、例1と同様の方法により、図3及び図4を参照しながら説明した袋状構造体122を複数製造した。赤外線ヒータとしては、遠赤外線チューブヒータを使用した。遠赤外線チューブヒータによる熱処理は、加熱部の温度が70℃乃至120℃となるように行った。
【0113】
(例3)
熱処理に半導体レーザを用いる代わりに金属冶具を用いたこと以外は、例1と同様の方法により、図3及び図4を参照しながら説明した袋状構造体122を複数製造した。具体的には、カートリッジヒータを金属冶具に取り付け、シートの加熱すべき部分を、金属冶具で挟んで加熱した。この金属冶具を用いた熱処理は、加熱部の温度が70℃乃至120℃となるように行った。
【0114】
(比較例1)
熱処理を省略したこと以外は、例1と同様の方法により袋状構造体を複数製造した。
【0115】
(比較例2)
金属冶具を用いた熱処理をシートの全体に対して行ったこと以外は、例3と同様の方法により袋状構造体を複数製造した。
【0116】
<測定及び評価>
上述した方法によって得られた袋状構造体について、100%モジュラスの測定並びに異常膨れ及び生体に対する密着性に関する評価を行なった。
【0117】
(100%モジュラスの測定)
例1乃至例3並びに比較例1及び2の各々について、袋状構造体の1つから、100%モジュラスを測定するための試験片を切り出した。試験片は、JIS6251:2010において規定されている「ダンベル状3号形」とした。そして、JIS K6251:2010(「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張応力の求め方」)において規定された方法に従い、100%モジュラスを測定した。
【0118】
(異常膨れの評価)
例1乃至例3並びに比較例1及び2の各々について、そこで得られた袋状構造体を使用してカフを作製し、これを手首に着用させた。この状態で、袋状構造体へ圧縮空気を供給して、これを膨張させた。圧縮空気の圧力は300mmHg(=300×101325/760Pa)とした。そして、異常膨れの有無を目視で確認した。この試験を3回繰り返し、異常膨れが1回も発生しなかった袋状構造体は「○」と評価し、異常膨れが1回以上発生した袋状構造体は「×」と評価した。
【0119】
(生体に対する密着性の評価)
例1乃至例3並びに比較例1及び2について、それらにおいて得られた袋状構造体を使用してカフを作製した。次いで、これらカフの各々を使用して手首用血圧計を製造し、これを手首に着用させて、血圧値の測定を行った。そして、袋状構造体を膨張させた際の手首への密着性を調べた。この試験も3回繰り返し、手首への密着性が全ての試験で良好であった袋状構造体は「○」と評価し、少なくとも1回の試験で手首への密着性が不十分であった袋状構造体は「×」と評価した。
100%モジュラスの測定結果並びに異常膨れ及び生体への密着性の評価結果を表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
表1に示すように、例1乃至例3に係る袋状構造体は、熱処理を行わなかった領域において100%モジュラスが十分に小さく、熱処理を行った領域において100%モジュラスが十分に大きかった。即ち、これら袋状構造体は、カフにおいて使用した場合に肌に接触する領域が十分に柔軟でありながらも、異常膨れを生じやすい領域で高い強度を有していることが分かった。実際、これら袋状構造体をカフにおいて使用した場合、異常膨れは発生せず、生体への密着性は良好であった。そして、これら袋状構造体をカフにおいて使用して血圧値の測定を行ったところ、高い精度で血圧値を測定することができた。
【0122】
例1乃至例3では、図9に示すように、シート122a及び122bの接合領域及びそれに隣接した領域に対応した領域に対して熱処理を行っている。シート122bの全体をカバー体121やカーラ123に固定した場合、袋状構造体122に圧縮空気を供給すると、圧力が集中する箇所は、シート122aのうち、手首2と接触する領域の端とシート122aの接合領域との間の領域となる。そのため、少なくとも当該領域を熱処理すれば、異常膨れを防ぐことができる。
【0123】
これに対し、比較例1に係る袋状構造体は、シート全体に亘って100%モジュラスが小さく、この袋状構造体をカフにおいて使用した場合、異常膨れが発生した。そして、この袋状構造体をカフにおいて使用して血圧値の測定を行ったところ、生体に対して圧力が有効に加わらず、高い精度で血圧値を測定することはできなかった。
【0124】
また、比較例2に係る袋状構造体は、シート全体に亘って100%モジュラスが大きく、この袋状構造体をカフにおいて使用した場合、異常膨れが発生することはなかった。しかしながら、この袋状構造体は、カフにおいて使用した場合に肌に接触する領域が、血圧値を正確に測定するうえで必要な柔軟性を欠いていた。そして、この袋状構造体をカフにおいて使用して血圧値の測定を行ったところ、生体に対する密着性が不十分となり、高い精度で血圧値を測定することはできなかった。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
熱可塑性エラストマーを含み且つ組成が均一な1以上のシートを含み、前記1以上のシートは、100%モジュラスが異なる複数の領域を含んだ袋状構造体。
[2]
前記複数の領域は、第1領域と、前記第1領域と比較してより薄く且つ100%モジュラスがより大きい第2領域とを含んだ項1に記載の袋状構造体。
[3]
前記1以上のシートには1以上の開口が設けられ、前記1以上のシートは、前記1以上の開口から離間した第3領域と、前記1以上の開口と前記第3領域との間に介在した第4領域とを含み、前記第4領域は前記第3領域と比較して100%モジュラスがより大きい項1又は2に記載の袋状構造体。
[4]
前記1以上のシートには互いに接合された複数の接合領域が設けられ、前記1以上のシートは、前記複数の接合領域を含んだ第5領域と、第6領域とを含み、前記第5領域の少なくとも一部は、前記第6領域と比較して100%モジュラスがより大きい項1乃至3の何れか1項に記載の袋状構造体。
[5]
前記1以上のシートは、第7領域と、前記第7領域を生体に着用させた場合に前記第7領域と向き合う第8領域と、前記第7領域の端と前記第8領域の端とを連接する第9領域とを含み、前記第9領域の少なくとも一部は、前記第7領域と比較して100%モジュラスがより大きい項1乃至4の何れか1項に記載の袋状構造体。
[6]
前記第9領域は、前記1以上のシートが互いに接合された接合領域を含み、前記第9領域における前記接合領域と前記第7領域との間に、前記第7領域と比較して100%モジュラスがより大きい領域を備えた項5に記載の袋状構造体。
[7]
項1乃至6の何れか1項に記載の袋状構造体を含んだ血圧計用カフ。
[8]
項7に記載のカフを備えた血圧計。
[9]
熱可塑性エラストマーを含み且つ組成が均一な1以上のシートの一部の領域を、前記熱可塑性エラストマーの結晶化温度以上であり且つ前記熱可塑性エラストマーの融点未満の温度に加熱して、前記一部の領域の100%モジュラスを、他の領域の100%モジュラスと比較して高めることを含んだ袋状構造体の製造方法。
[10]
前記1以上のシートは核剤を更に含んだ項9に記載の袋状構造体の製造方法。
【符号の説明】
【0125】
1…血圧計、2…手首、11…装置本体、12…カフ、21…動脈、22…血液、111…筐体、112…表示部、113…操作部、121…カバー体、122…袋状構造体、122a…シート、122b…シート、122a1…領域、122a2…領域、122b1…領域、122b2…領域、122N…ニップル、123…カーラ、124…留め具。
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