特許第6740128号(P6740128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6740128非スズ系触媒存在下におけるシラン架橋ポリオレフィンの製造プロセス及び得られる架橋ポリオレフィン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6740128
(24)【登録日】2020年7月28日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】非スズ系触媒存在下におけるシラン架橋ポリオレフィンの製造プロセス及び得られる架橋ポリオレフィン
(51)【国際特許分類】
   C08F 255/00 20060101AFI20200730BHJP
   C08F 8/42 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   C08F255/00
   C08F8/42
【請求項の数】13
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2016-538616(P2016-538616)
(86)(22)【出願日】2014年12月12日
(65)【公表番号】特表2016-540089(P2016-540089A)
(43)【公表日】2016年12月22日
(86)【国際出願番号】US2014070074
(87)【国際公開番号】WO2015089430
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2017年8月22日
(31)【優先権主張番号】61/915,638
(32)【優先日】2013年12月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508229301
【氏名又は名称】モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Momentive Performance Materials Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100121061
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 清春
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】アラム,サミム
(72)【発明者】
【氏名】ロジャス,ワール,ロイ,ユー
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−530273(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/090127(WO,A1)
【文献】 特開2013−246879(JP,A)
【文献】 特表2012−502151(JP,A)
【文献】 古賀元, 古賀ノブ子, 安藤亘,有機化学用語事典,1990年,p48-51
【文献】 化学大辞典編集委員会,化学大辞典1 縮刷版,1963年,p376, 377
【文献】 財団法人 国際科学振興財団,科学大辞典,2005年,第2版,p695
【文献】 青木憲治,有機過酸化物を用いた架橋およびグラフト反応,日本ゴム協会誌,2017年,第90巻, 第10号,p490-493
【文献】 中村知之,有機過酸化物架橋剤,日本ゴム協会誌,2006年,第79巻, 第6号,p298-303
【文献】 日本油脂株式会社 化成事業部,有機過酸化物,2004年11月,第10版,URL,www.nof.co.jp/business/chemical/pdf/product01/Catalog_all.pdf
【文献】 高分子辞典,2005年,第3版,p597
【文献】 化学大辞典3,1963年,縮刷版,p810-811
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンを、加水分解及び縮合触媒として使用されスズを含まない少なくとも一つの有機カルボン酸の存在下に水分に曝露し、それによってシラン架橋ポリオレフィンを生成する、シラン架橋ポリオレフィンの製造プロセスであって、ポリオレフィンが少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含み、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンをフリーラジカル開始剤の存在下にポリオレフィンにグラフト化する工程によって作成され、ここでオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンが一般式(I):
【化26】

によって与えられ、式中、Rは1から6の炭素原子の直鎖アルキル基又は3から6の炭素原子の分岐鎖アルキル基又は水素であり;
は1から6の炭素原子の直鎖アルキル基又は3から6の炭素原子の分岐鎖アルキル基、又は5から8の炭素原子のシクロアルキル基であり;
の各々は水素であり;
は、
【化27】

【化28】

であり、式中、Rは1から6の炭素原子の直鎖アルキル基又は3から6の炭素原子の分岐鎖アルキル基又は水素であり、Rは1から6の炭素原子の直鎖アルキル基又は3から6の炭素原子の分岐鎖アルキル基、又は5から8の炭素原子のシクロアルキル基であり、Rの各々は水素であり;
フリーラジカル開始剤は、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーアセテート、ジ−t−ブチルジパーオキシフタレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチル−パーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−パーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−パーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、パラメンタンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド及びt−ブチルヒドロパーオキサイドからなる群より選択され;
そして、有機カルボン酸は、8から18の炭素原子を有する長鎖直鎖又は分岐鎖脂肪族カルボン酸、8から18の炭素原子を有するヒドロキシ置換脂肪族カルボン酸、または一般式(III)を有する有機カルボン酸であり:
【化29】

式中、Gはシクロアルキル、アリール、アラルキル、及びアレーニル、からなる群より選択され28までの炭素原子を含む1価の炭化水素基、または28までの炭素原子を含むアルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、及びアレーニルからなる群より選択される基でありそこから2から4個の水素原子を除くことによって生じる多価の炭化水素基であり;そして下付文字a及びbは独立して整数であり、aは0、bは1から3である、プロセス。
【請求項2】
ポリオレフィンがポリエチレン、又はエチレンと3から20の炭素原子のアルファオレフィンとのコポリマーである、請求項1のプロセス。
【請求項3】
ポリオレフィンが、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、及びデセンのホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、及びテトラポリマーからなる群より選択される少なくとも1つの部材である、請求項1のプロセス。
【請求項4】
加水分解及び縮合触媒として使用されスズを含まない有機カルボン酸が、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−エチル−2,5−ジメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、2−エチル−2,11−ジメチルドデカン酸、ラウリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、及びフタル酸からなる群より選択される、請求項1のプロセス。
【請求項5】
全グラフト反応混合物中における[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造部分の量が、全グラフト反応混合物中におけるケイ素原子のモル数を基準として、約5モルパーセントを超える、請求項1のプロセス。
【請求項6】
a)実質的に水分不含の条件下に:
(i)ポリオレフィン、
(ii)オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン、
(iii)フリーラジカル開始剤、
(iv)得られる少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含む架橋性ポリオレフィンが水分に曝露された場合に、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含む架橋性ポリオレフィンの架橋反応を行うための、加水分解及び縮合触媒として使用される有機カルボン酸、及び
(v)フリーラジカル開始剤を安定化させるための酸化防止剤を組み合わせ、
b)ポリオレフィン(i)の結晶融点を超える温度においてステップ(a)から得られた組み合わせを加熱して、シラン(ii)をポリオレフィン(i)にグラフト化し;及び
c)ステップ(b)から得られた生成物を水分に曝露して少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンの加水分解及び縮合を行い、それによってシラン架橋ポリオレフィンをもたらし、ここでオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)、フリーラジカル開始剤(iii)、有機カルボン酸(iv)、及び酸化防止剤(v)が混合されて、ステップa)でポリオレフィンと組み合わせるに先立って、グラフト性シラン組成物を形成することをさらに含む、請求項1のプロセス。
【請求項7】
グラフト性シラン組成物が、70から99.79重量パーセントのオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)、0.1から10重量パーセントのフリーラジカル開始剤(iii)、0.1から10重量パーセントの有機カルボン酸(iv)、及び0.01から10重量パーセントの酸化防止剤(v)を含み、上記の重量パーセントが、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)、フリーラジカル開始剤(iii)、有機カルボン酸(iv)、及び酸化防止剤(v)の合計重量を基準とする、請求項6のプロセス。
【請求項8】
有機カルボン酸(iv)が、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−エチル−2,5−ジメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、及び2−エチル−2,11−ジメチルドデカン酸からなる群より選択される、請求項7のプロセス。
【請求項9】
一般式(I)を有するオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii):
【化34】

式中、X
【化35】

【化36】

であり、Rは1から6の炭素原子の直鎖アルキル基又は3から6の炭素原子の分岐鎖アルキル基又は水素であり;
は1から6の炭素原子の直鎖アルキル基又は3から6の炭素原子の分岐鎖アルキル基、又は5から8の炭素原子のシクロアルキル基であり;
の各々は水素である、
ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーアセテート、ジ−t−ブチルジパーオキシフタレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチル−パーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−パーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−パーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、パラメンタンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド及びt−ブチルヒドロパーオキサイドからなる群より選択されるフリーラジカル開始剤(iii);
8から18の炭素原子を有する長鎖直鎖又は分岐鎖脂肪族カルボン酸、8から18の炭素原子を有するヒドロキシ置換脂肪族カルボン酸、または一般式(III)を有する有機カルボン酸であり:
【化37】

式中、Gはシクロアルキル、アリール、アラルキル、及びアレーニル、からなる群より選択され28までの炭素原子を含む1価の炭化水素基、または28までの炭素原子を含むアルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、及びアレーニルからなる群より選択される基から2から4個の水素原子を除くことによって生じる多価の炭化水素基であり;そして下付文字a及びbは独立して整数であり、aは0、bは1から3である、有機カルボン酸;並びに
酸化防止剤(v)を含む、グラフト性シラン組成物。
【請求項10】
酸化防止剤が、置換フェノール及び置換ポリフェノール、フェニレンジアミン誘導体、アスコルビン酸、トコフェロール、トコトリエノール、レスベラトロール、フラボノイド、カロテノイド、ヒドロキシアミノ化合物、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項9のグラフト性シラン組成物。
【請求項11】
少なくとも1つのオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)が、2−メチル−3−(5−メチル−2−ビニル−[1,3,2]ジオキサシリナン−2−イルオキシ)−プロパン−1−オルからなる群より選択され;少なくとも1つのフリーラジカル開始剤が、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジクミルパーオキサイド及びジ−t−ブチルパーオキサイドからなる群より選択され;少なくとも1つの有機カルボン酸(iv)が、ラウリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−エチル−2,5−ジメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、及び2−エチル−2,11−ジメチルドデカン酸からなる群より選択され;そして少なくとも1つの酸化防止剤(v)が、置換フェノール及び置換ポリフェノールからなる群より選択される、請求項のグラフト性シラン組成物。
【請求項12】
一般式(I)を有するオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンから誘導された少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィン:
【化38】

式中、Rは1から6の炭素原子の直鎖アルキル基又は3から6の炭素原子の分岐鎖アルキル基又は水素であり;
は1から6の炭素原子の直鎖アルキル基又は3から6の炭素原子の分岐鎖アルキル基、又は5から8の炭素原子のシクロアルキル基であり;
の各々は水素であり;
は、
【化39】

【化40】

であり、式中、Rは1から6の炭素原子の直鎖アルキル基又は3から6の炭素原子の分岐鎖アルキル基又は水素であり、Rは1から6の炭素原子の直鎖アルキル基又は3から6の炭素原子の分岐鎖アルキル基、又は5から8の炭素原子のシクロアルキル基であり、Rの各々は水素である、並びに8から18の炭素原子を有する長鎖直鎖又は分岐鎖脂肪族カルボン酸、8から18の炭素原子を有するヒドロキシ置換脂肪族カルボン酸、または一般式(III)を有する有機カルボン酸であり:
【化41】

式中、Gはシクロアルキル、アリール、アラルキル、及びアレーニル、からなる群より選択され28までの炭素原子を含む1価の炭化水素基、または28までの炭素原子を含むアルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、及びアレーニルからなる群より選択される基から2から4個の水素原子を除くことによって生じる多価の炭化水素基であり;そして下付文字a及びbは独立して整数であり、aは0、bは1から3である、少なくとも一つの有機カルボン酸、を含むシラン架橋性ポリオレフィン組成物。
【請求項13】
少なくとも1つのオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンが、2−メチル−3−(5−メチル−2−ビニル−[1,3,2]ジオキサシリナン−2−イルオキシ)−プロパン−1−オル、及び2,5−ジメチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナンからなる群より選択され;そして少なくとも1つの有機カルボン酸が、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−エチル−2,5−ジメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、及び2−エチル−2,11−ジメチルドデカン酸からなる群より選択される、請求項12のシラン架橋性ポリオレフィン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2013年12月13日に出願された米国特許仮出願第61/915638号の優先権を主張し、その全内容はここでの参照によって全体を本明細書に取り入れるものとする。
架橋ポリオレフィンは工業的用途、特にパイプ、発泡体、ワイヤーやケーブルの絶縁体の製造、家庭用水道管路、海底油田及び天然ガス配管、並びに化学物質、スラリー、汚水などの搬送のために、幅広く使用されている。
【背景技術】
【0002】
シランは、シラン架橋ポリオレフィン製造用の架橋剤として一般的に用いられている。このシランは典型的には過酸化物と共に使用され、過酸化物はポリエチレンに対するシランのグラフト化を行うために用いられる。シランを含むこのポリオレフィンは次いで、水分とスズ系触媒の存在下に架橋される。多くの場合、シラン、過酸化物、酸化防止剤、及び触媒が混合されてシラン組成物が形成され、ポリオレフィンへの添加に先立って貯蔵される。このシラン、過酸化物、酸化防止剤、及び触媒の組成物は後に、ポリオレフィンに対するシランのグラフト化に影響を及ぼす条件下で、ポリオレフィンに対して添加される。シラン、過酸化物、酸化防止剤、及び触媒は使用前に貯蔵されることから、貯蔵安定性のシラングラフト型組成物を得ることが望ましい。
【0003】
ポリオレフィンのシラン架橋は、架橋されたポリオレフィンのさまざまな機械的特性における多くの改良を導きうる。しかし得られた架橋ポリオレフィンは依然としてスズの存在を含んでおり、硬化に際しては、有害な及び/又は揮発性の有機化合物、例えばメタノールを生成する。アルコキシシリル基が高沸点のモノアルコールから誘導されているようなシラン架橋剤を用いたとすると、硬化時間は多くの場合に長すぎて最終用途で適用するには実用的でなく、従って商業的に実行可能でない。スズ化合物の存在に関する近年の環境的な懸念と、硬化時の有害な大気汚染物質及び揮発性の有機化合物を低減させる必要性のゆえに、架橋ポリオレフィンに得られる機械的特性について妥協することなく、さらに在来の設備を利用しながら、ポリオレフィンをスズの不存在下に、しかも硬化時に生成される有害な揮発性有機化合物の量を低減させながら架橋させるための方途を提供することが望ましい。また、シラングラフト型組成物が貯蔵安定性であることも望ましい。
【発明の概要】
【0004】
本発明によれば、ここにおいて予期せず見出されたことには、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むシラン架橋剤と、スズ不含有の加水分解及び縮合触媒、特に有機カルボン酸の使用により、スズ化合物の不存在下でも機械的特性の良好な架橋ポリオレフィンを、有害又は揮発性の有機化合物を生ずることなしに生成可能である。
【0005】
本明細書において提供されるものは、シラン架橋ポリオレフィンの製造プロセスであって、これは少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンを、加水分解及び縮合触媒として使用されスズを含まない有機カルボン酸の存在下に水分に暴露してシラン架橋ポリオレフィンを生成することを含み、ここで少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンは、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンをフリーラジカル開始剤の存在下にポリオレフィンにグラフトさせる処理によって作成され、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは式(I):
【化1】

によって与えられ、式中Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり;
は1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、5から8の炭素原子のシクロアルキル基又は水素であり;
の各々は独立して1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり;
はメチル、−ORであり、ここでRは1から8の炭素原子のアルキル基、
【化2】

【化3】

であり、式中Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、5から8の炭素原子のシクロアルキル基又は水素であり、及びRの各々は独立して1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり、そして有機カルボン酸は一般式(III)を有する少なくとも1つの有機カルボン酸であり:
【化4】

式中Gはアルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、アラルキル、及びアレーニルからなる群より選択され28までの炭素原子を含む1価又は多価の炭化水素であり;そして下付文字a及びbは独立して整数であり、aは0又は1、bは1から3である。
【0006】
本発明はまた、本明細書において記載するように作成される少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンと、そして加水分解及び縮合触媒として使用される少なくとも1つの有機カルボン酸とを含む、シラン架橋型ポリオレフィン組成物を包含する。本発明はまた、上述した架橋プロセスから得られる架橋されたポリオレフィン、およびそれから製造される製品をも含んでいる。
【0007】
加えて、本発明のプロセスにおいて用いられるシランはポリオレフィンの架橋を達成するが、それをスズ化合物なしに行うという利点を有する。
【0008】
本発明の種々の他の特徴、様相および利点は、以下の説明及び添付の請求の範囲を参照することでより明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によれば、シラン架橋ポリオレフィンを製造するためのプロセスが提供され、このプロセスは少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンを有機カルボン酸加水分解及び縮合触媒の存在下に水分に暴露し、それによってシラン架橋ポリオレフィンを生成することを含んでいる。
【0010】
本開示が関わる反応は、以下の反応(I)−(III)を含むものと考えることができよう:
オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンの形成
【化5】

グラフト化反応
【化6】

架橋反応
【化7】
【0011】
本発明において予期せず見出されたことには、ポリオレフィン上へとグラフトされた[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造の環状部分の存在によって、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンにおいて、有機カルボン酸存在下でシランが加水分解及び縮合してポリオレフィンの架橋がもたらされることに対する反応性は、ポリオレフィンの架橋を行うためにモノアルコールから誘導されたアルコキシシリル基、例えばトリメトキシシリルを含むポリオレフィンの場合よりも相対的に高い。1,3−ジオールと、オレフィン系不飽和部分及び3つのアルコキシ基を含むシラン(ヒドロキシ置換されたアルコキシ基のみを含むシランと対照して)との反応生成物中においては、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンがより大きな割合で形成されるが、これは部分的には、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンの調製に用いられるジオールの構造によってもたらされる。特に、ジオールが1,3−ジヒドロキシ置換アルカンであると、6つの原子を含む環構造の形成が促進され、その場合にシリル基は一般式(II)によって与えられる。
【化8】

式中、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり;
は1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、又は5から8の炭素原子のシクロアルキル基であり;そして
の各々は独立して1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素である。
好ましくは、1,3−ジオールは分岐アルカンから誘導され、そこにおいて分岐点は水酸基を有する2つの炭素原子を分けている炭素原子上にあり、また水酸基を有する炭素原子はそれに結合した2つの水素原子を有する。これは一般式(II)によって表されるところでは、Rが水素であり、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、又は5から8の炭素原子のシクロアルキル基である。
【0012】
、或いはRが1から6炭素のアルキル基である場合はRとRの組み合わせの立体バルク(嵩)によって、分岐は[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造の形成を促進する。アルキレン基に分岐を含まない直鎖の類似体と対照的に、これらの嵩高な基の立体的効果により、[1,3,2]−ジオキサシリナン構造の形成が促進される。
【0013】
水酸基を有する炭素原子の間にある炭素原子上に分岐点を有する構造の別の利点は、その点での分岐が、水(水分)との反応に対する[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造の反応性を維持することである。加水分解に対する反応性は、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンの迅速な硬化をもたらす。分岐点が水酸基を有する炭素原子上にあったとすると、水酸基は立体障害を受けている第2炭素と結合し、加水分解速度を遅らせる。従って、硬化を行うためにはより長い硬化時間が必要になる。
【0014】
の代表的で非限定的な例には、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、及びネオブチルが含まれる。好ましいRは水素及びメチルである。Rの代表的で非限定的な例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ネオブチル、及びシクロヘキシルが含まれる。
【0015】
また、本明細書において例証される有利な硬化性能は、ここに記載するようにオレフィン系不飽和アルコキシシランとジオールとの反応から形成され、非環式部分及び/又は架橋部分のみを含んでいるシランより多く形成される、環状部分である[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造の量に起因するものと考えられる。1つの実施形態では、オレフィン系不飽和アルコキシシランと1,3−ジオールの反応生成物が、オレフィン系不飽和アルコキシシランと1,3−ジオールの反応生成物中のシリコーンの合計モル数を基準として、[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を5モルパーセントより多く、より好ましくは10から100モルパーセント、さらにより好ましくは45から100モルパーセント、そしてなおより好ましくは80から100モルパーセント含んでいることが望ましい。本明細書に記載するように、このオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは続いてポリオレフィンにグラフトされて、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むポリオレフィンを形成し、次いでシラン架橋ポリオレフィンを形成するために使用される。
【0016】
また本発明において予期せず見出されたことには、本発明で用いられるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンの環状部分における置換の存在、及び置換の種類(分岐ジオールの使用によって定まる)は、非環式の類似体や、ケイ素、酸素、及び炭素原子を含むより小さな又は大きな環構造と対照して、本明細書で記載する少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンの加水分解及び縮合速度の増大を導きやすい。
【0017】
さらにまた、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むポリオレフィンを調製するためのグラフト化反応において使用される、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンを含んだ、オレフィン系不飽和アルコキシシランと1,3−ジオールとの反応生成物の特定の重量は、改善されたモジュラス及びその他の機械的特性をもたらす。グラフト化反応において用いられる、オレフィン系不飽和アルコキシシランと1,3−ジオールの反応生成物の量が少なすぎると、ポリオレフィン組成物が有するグラフト化[1,3,2]−ジオキサシリナンは、シランの縮合によって形成される連続的なネットワークを形成するには不十分となり、架橋したネットワークを達成しない。グラフト化反応に用いられるオレフィン系不飽和アルコキシシランと1,3−ジオールの反応生成物の量が多すぎると、ポリオレフィン組成物が有する架橋点が多すぎて間隔が近くなりすぎ、脆弱なネットワークを生ずる結果になる。
【0018】
なおまたさらに、加水分解及び縮合触媒として使用される有機カルボン酸は、ポリオレフィンにグラフトした[1,3,2]−ジオキサシリナン基の加水分解及び縮合を促進する。本発明に有用な有機カルボン酸は一般式(III):
【化9】

を有し、式中Gはアルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、アラルキル、及びアレーニルからなる群より選択され28までの炭素原子を含む1価又は多価の炭化水素であり;そして下付文字a及びbは独立して整数であり、aは0又は1、bは1から3である。
【0019】
本明細書で使用するとき、アルキルは直鎖及び分岐鎖アルキル基を含み;アルケニルは1又はより多くの炭素−炭素二重結合を含むいかなる直鎖又は分岐鎖アルケニル基をも含み、置換点は炭素−炭素二重結合又はその基の他の場所のいずれかであることができる。アルキルの具体例には、メチル、エチル、プロピル、イソブチルが含まれる。アルケニル(オレフィン系不飽和部分)の具体例には、ビニル、プロペニル、アリル、及びメタリルが含まれる。
【0020】
本明細書で使用するとき、アリールは何らかの芳香族炭化水素から1つの水素原子が除かれたものを含み;アラルキルは前述したアルキル基のいずれかにおいて1又はより多くの水素原子が同数の同じ及び/又は異なるアリール(本明細書で定義するところの)置換基によって置換されたものを含み;そしてアレーニルは前述したアリール基のいずれかにおいて1又はより多くの水素原子が同数の同じ及び/又は異なるアルキル(本明細書で定義するところの)置換基によって置換されたものを含む。アリールの具体例にはフェニル及びナフタレニルが含まれる。アラルキルの具体例には、ベンジル及びフェネチルが含まれる。アレーニルの具体例には、トリル及びキシリルが含まれる。
【0021】
本明細書で使用するとき、シクロアルキル及びシクロアルケニルは、環状構造を含む炭化水素を参照しており、これには2環式、3環式、及びより高次の環状構造、並びにアルキル及び/又はアルケニル基でさらに置換された前述の環状構造が含まれる。代表的な例にはノルボルニル、ノルボルネニル、エチルノルボルニル、エチルノルボルネニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、エチルシクロヘキシル、シクロヘキセニル、エチルシクロヘキセニル、シクロヘキシルシクロヘキシル、及びシクロドデカトリエニルが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
「低級アルキル」という用語は、1から6炭素原子を有する炭素鎖を含むことを意図している。「低級アルケン」という用語は、2から6炭素原子を有する炭素鎖を含むことを意図している。
【0023】
本明細書の1つの実施形態では、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むポリオレフィンは、任意選択でフリーラジカル開始剤の存在下において、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンを無水条件下でポリオレフィンにグラフトさせるプロセスによって作成される。本明細書において無水条件は、水分の完全な欠如、或いはポリオレフィンの重量に基づいて約200ppmより少ない水、より好ましくは約100ppmより少ない水、さらにより好ましくは約15ppmより少ない水といったレベルの、単なる大気中の水分の存在を含みうることが理解されよう。
【0024】
1つの実施形態では、ポリオレフィンは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ジエン類、環状ジエン類、及び芳香族ジエン類のホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、及びテトラポリマーからなる群より選択される少なくとも1つの部材である。
【0025】
具体的には、グラフト化が行われ、その後架橋されるポリオレフィンはホモポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、その他であることができる。
【0026】
別の実施形態によれば、ポリオレフィンは、(i)1又はより多くの他のエチレン系不飽和モノマー、例えば3から10炭素のアルファオレフィン、エチレン系不飽和カルボン酸、エチレン系不飽和カルボン酸エステル、及びエチレン系不飽和ジカルボン酸無水物と共重合したエチレン、(ii)オレフィン系ラバー、例えばエチレンプロピレン(EP)ラバー、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDM)ラバー、及びスチレンブタジエンラバー(SBR)、及び(iii)アイオノマー樹脂からなる群より選択される少なくとも1つのポリマーである。1又はより多くの他の、3から10炭素のアルファオレフィンと共重合したエチレンには、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(リニアポリエチレン)、及び超直鎖状低密度ポリエチレン(スーパーリニアポリエチレン)などがある。
【0027】
共重合可能な不飽和カルボン酸及びその無水物には、アクリル酸、メタクリル酸、ブテン酸、マレイン酸、及び無水マレイン酸その他がある。
【0028】
共重合可能なエチレン系不飽和カルボン酸エステルには、酢酸ビニル、アクリル酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、及びメタクリル酸メチルなどがある。
【0029】
具体的なコポリマーには、エチレン−プロピレン、エチレン−ブテン、エチレン−ヘキセン、エチレン−オクテン、エチレン−酢酸ビニル、エチレン−アクリル酸メチル、エチレン−アクリル酸エチル、エチレン−アクリル酸ブチル、及びスチレン−ブタジエンコポリマーが含まれる。
【0030】
別の実施形態によれば、ポリオレフィンは2又はより多くのそうしたポリオレフィンのブレンドであることができる。従って例えば、ポリエチレンはそれと相溶性のある、例えばポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、スチレン/ブタジエンコポリマー、酢酸ビニル/エチレンコポリマー、アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー、及び塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマーなどのどのようなポリマーとブレンドすることもできる。
【0031】
別の実施形態によれば、ポリオレフィンは少なくとも1つのポリオレフィンエラストマー成分と、少なくとも1つの結晶成分とを含む、ポリマーブレンドであることができる。このブレンドのポリオレフィンエラストマー成分は、エチレンとアルファオレフィンのコポリマー、又はエチレン、アルファオレフィン、及びジエンのターポリマーであることができる。ブレンドがエチレンとアルファオレフィンのコポリマーである場合には、使用されるコポリマーは好ましくは、モノマーの合計重量を基準として、約35から約95重量パーセントのエチレンと、約5から約65重量パーセントの少なくとも1つのアルファオレフィンコモノマーを含む。別の実施形態によれば、コポリマーはモノマーの合計重量を基準として、約25から約65重量パーセントの少なくとも1つのアルファオレフィンコモノマーを含む。このコモノマー含有量は、ASTM D−2238の方法Bによる赤外分光法を用いて測定される。典型的には、実質的に直鎖状のエチレンポリマーは、エチレンと、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、スチレン等のような3から20の炭素原子の、別の実施形態によれば3から10の炭素原子のアルファオレフィンとのコポリマーであり、さらに別の実施形態によれば、エチレンと1−オクテンのコポリマーである。
【0032】
エチレン/アルファオレフィンコポリマーは、不均一に分岐していても、均一に分岐していてもよい。不均一に分岐したコポリマー、即ちポリエチレンは、フリーラジカル開始剤を用いて高温高圧で調製されたポリエチレンと、配位触媒を用いて高温及び比較的低圧で調製されたポリエチレンという、2つの大きな概念に分かれる。前者は一般に低密度ポリエチレン(LDPE)として知られており、ポリマー骨格からぶら下がる重合化モノマー単位の分岐鎖によって特徴付けられる。本発明の実施形態によれば、エラストマー成分は立方センチメートル当たり約0.885グラム未満の密度を有するLDPEである。
【0033】
チーグラー触媒又はフィリップス触媒のような配位触媒を用いて調製されるエチレンポリマー及びコポリマーは、一般に直鎖状(リニア)ポリマーとして知られているが、これは骨格からぶら下がる重合化モノマー単位の分岐鎖を実質的に欠いているからである。高密度ポリエチレン(HDPE)は一般に、立方センチメートル当たり約0.941から約0.965グラム(g/cc)の密度を有し、典型的にはエチレンのホモポリマーであり、エチレン及びアルファオレフィンの種々の直鎖状コポリマーと比較して、分岐鎖を殆ど含まない。HDPEは周知であり、種々のグレードが商業的に入手可能である。
【0034】
エチレンと、3から12炭素の、好ましくは4から8炭素の、少なくとも1つのアルファオレフィンとの直鎖状コポリマーもまた周知であり、商業的に入手可能であり、本発明において有用である。当技術分野で周知のように、直鎖状エチレン/アルファオレフィンコポリマーの密度は、アルファオレフィンの鎖長と、そのモノマーのコポリマー中でのエチレンの量に対する量の、両者に対して関係があり、アルファオレフィンの鎖長が長くなりアルファオレフィンの存在量が増大すると、コポリマーの密度は低下する。
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は典型的には、エチレンと、3から12の炭素原子の、又は4から8の炭素原子のアルファオレフィン、例えば1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等とのコポリマーであり、このコポリマーの密度をLDPEの密度より小さくするのに十分なアルファオレフィン含有量を有する。コポリマーがさらに多くのアルファオレフィンを含む場合には、密度は立方センチメートル当たり約0.91グラムを下回り、そうしたコポリマーはウルトラ低密度ポリエチレン(ULDPE)又は超低密度ポリエチレン(VLDPE)として知られている。これらの直鎖状ポリマーの密度は一般に、立方センチメートル当たり約0.87から約0.91グラムの範囲にある。
【0035】
ブレンド中で使用可能なポリオレフィン成分にはターポリマー、例えばエチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)、テトラポリマーその他が含まれる。これらのエラストマーのジエンモノマー成分には、共役及び非共役ジエンの両者が含まれる。非共役ジエンの例には、脂肪族ジエン、例えば1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、1,13−テトラデカジエン、1,19−エイコサジエンその他;環状ジエン、例えば1,4−シクロヘキサジエン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2,5−ジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、ビシクロ[2.2.2]オクタ−2,5−ジエン、4−ビニルシクロヘキサ−1−エン、ビシクロ[2.2.2]オクタ−2,6−ジエン、1,7,7−トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2,5−ジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5−アリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、1,5−シクロオクタジエンその他;芳香族ジエン、例えば1,4−ジアリルベンゼン、4−アリル−1H−インデン;及びトリエン、例えば2,3−ジイソプロペニリジエン−5−ノルボルネン、2−エチリデン−3−イソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−プロペニル−2,5−ノルボルナジエン、1,3,7−オクタトリエン、1,4,9−デカトリエンその他がある。別の実施形態によれば、非共役ジエンは5−エチリデン−2−ノルボルネンである。
【0036】
共役ジエンの例には、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン−1,3、1,2−ジメチルブタジエン−1,3、1,4−ジメチルブタジエン−1,3、1−エチルブタジエン−1,3、2−フェニルブタジエン−1,3、ヘキサジエン−1,3、4−メチルペンタジエン−1,3、1,3−ペンタジエン(CHCH=CH−CH=CH;一般にピペリレンと呼ばれる)、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3−エチル−1,3−ペンタジエンなどが含まれる。別の実施形態によれば、共役ジエンは1,3−ペンタジエンである。
【0037】
例示的なターポリマーには、エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン、エチレン//1−オクテン/5−エチリデン−2−ノルボルネン、エチレン/プロピレン/1,3−ペンタジエン、及びエチレン/1−オクテン/1,3−ペンタジエンが含まれる。例示的なテトラポリマーには、エチレン/プロピレン/混合ジエン、例えばエチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン/ピペリレンが含まれる。
【0038】
ブレンドの結晶性ポリオレフィンポリマー成分は、少なくとも約40%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約60%の結晶化度パーセントを、好ましくは約100℃を超える、より好ましくは約120℃を超える融点と組み合わせて有する。結晶化度パーセントは、DSCにより求められるポリマーサンプルの融解熱を、そのポリマーサンプルについての全融解熱で割ることによって求められる。好ましい結晶性ポリオレフィンには、高密度ポリエチレン(上述したような)、及びポリプロピレンが含まれる。高密度ホモポリマー(即ち100%結晶)ポリエチレンの全融解熱は、グラム当たり約292ジュール(J/g)であり、100%結晶ポリプロピレンの全融解熱はグラム当たり約209ジュールである。
【0039】
本発明のブレンドの結晶性ポリオレフィン成分がポリプロピレンである場合、それはホモポリマーであるか、或いはプロピレンと約20モルパーセント迄のエチレン又は約12迄の炭素原子を有する少なくとも1つのアルファオレフィンとの1又はより多くのコポリマーであることができる。コポリマーである場合、それはランダムでも、ブロックでも、グラフトでもよく、またイソタクチックでもシンジオタクチックでもよい。
【0040】
ブレンドの組成は多岐にわたることが可能であるが、典型的には、ポリオレフィンエラストマー:結晶性ポリマーの重量比は、少なくとも約70:30である。別の実施形態によれば、ポリオレフィンエラストマー:結晶性ポリマーの重量比は、少なくとも約80:20である。さらに別の実施形態によれば、ポリオレフィンエラストマー:結晶性ポリマーの重量比は、少なくとも約85:15である。ポリオレフィンエラストマー:結晶性ポリマーの重量比は、典型的には約99:1を超えない。
【0041】
本明細書の1つの実施形態では、本発明のポリオレフィン成分は、いずれかのポリオレフィン及び/又は本明細書に記載のいずれかのポリマーの組み合わせであることができる。
【0042】
本明細書に記載の、ポリオレフィンへのグラフト化プロセスに用いられるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは、環状部分を含み、一般式(I):
【化10】

を有し、式中、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり;
は1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、5から8の炭素原子のシクロアルキル基又は水素であり;
の各々は独立して1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり;
はメチル、−ORであり、ここでRは1から8の炭素原子のアルキル基、
【化11】

【化12】

であり、ここでRは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、5から8の炭素原子のシクロアルキル基又は水素であり、そしてRの各々は独立して1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素である。
【0043】
1つの実施形態では、R及びRの各々は独立して、水素、メチル、及びエチルからなる群より選択され、Rは水素である。
【0044】
別の実施形態では、Xはメチル、メトキシ、エトキシ、又は
【化13】

基であり、ここでRは水素、メチル、又はエチルであり、Rはメチル、エチル、プロピル、又はイソプロピルである。
【0045】
さらに別の実施形態において、本明細書に記載の、ポリオレフィンへのグラフト化プロセスに用いられるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは、環状部分を含み、一般式(IV):
【化14】

を有し、式中、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり;
は1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、又は5から8の炭素原子のシクロアルキル基であり;
はメチル、−ORであり、ここでRは1から8の炭素原子のアルキル基、または
【化15】

であり、ここでRは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり、そしてRは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、又は5から8の炭素原子のシクロアルキル基である。
【0046】
ここで理解されるであろうが、上述のことに加えて、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは架橋部分を含んでいてもよく、そこにおいて2つの異なるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは架橋部分
【化16】

を介して一緒に結合され、ここでRは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、5から8の炭素原子のシクロアルキル基又は水素であり、そしてRの各々は独立して1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素、好ましくは水素であり、そして空いている原子価はX基の位置でケイ素原子に結合する。
【0047】
さらに理解されることは、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは、少なくとも2つのアルコキシ基を有するオレフィン系不飽和シランと1,3−ジオールの反応生成物から得られる組成物の一部分であってもよいことであり、この組成物はまたアクリル類似体又は反応副生物を含んでいる。
【0048】
オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンと、その形成反応の反応物質及び副生物を含み、ポリオレフィンと反応されるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物の量は、部分的には、反応条件と、そのポリオレフィンについて望ましい変性の程度に依存している。オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンの量は、ポリオレフィンの量を基準として、約0.1から約30重量パーセントで変化してよい。別の実施形態によれば、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物の量は、ポリオレフィンの量を基準として、約0.5から約10重量パーセントである。さらに別の実施形態によれば、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンの量は、ポリオレフィンの量を基準として、約1.0から約2.5重量パーセントである。
【0049】
1つの実施形態では、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物は、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物中に存在するケイ素原子のモル数を基準として、約5モルパーセントより多いオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンを含み、好ましくは約25モルパーセント、より好ましくは約50モルパーセントを超えるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンを含み、そして最も好ましくは約95モルパーセントを超えるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンを含有する。組成物中のオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンのモルパーセントは、29Si NMR分光法によって求められる。
【0050】
本発明において使用可能なフリーラジカル開始剤は、加熱によって分解し、フリーラジカルを生成する種類のものである。フリーラジカル開始剤は、有機過酸化物、有機過エステル、アゾ化合物、及びこれらの組み合わせであることができる。
【0051】
本明細書の1つの実施形態では、有機過酸化物という用語は、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジプロピオニルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート又はラウロイルパーオキサイドジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−パーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−パーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチル−パーオキシイソプロピル)ベンゼン及びこれらの組み合わせを含むことを意図している。1つの実施形態では、有機過エステルは、t−ブチルパーアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジ(パーオキシベンゾエート)ヘキシル−3、ジ−t−ブチルジパーオキシフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどの化合物、及びこれらの組み合わせを含む。アゾ化合物は、アゾビスイソブチロニトリル、アゾイソブチルバレロニトリル、ジメチルアゾジイソブチレートなどの化合物、及びこれらの組み合わせを含むことができる。また、有機過酸化物はケトンパーオキサイド、例えばメチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,,5−トリメチルシクロヘキサン、及びこれらの組み合わせを含むことができる。さらにまた、有機過酸化物はヒドロパーオキサイド、例えばt−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、パラメンタンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、及びこれらの組み合わせを含むことができる。さらになおまた、有機過酸化物はジアルキルパーオキサイド、例えばジ−t−ブチルパーオキサイドを含むことができる。1つの実施形態では、フリーラジカル開始剤ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、分子状酸素、及びこれらの組み合わせである。
【0052】
上述したフリーラジカル開始剤は単独でも、2又はより多くの混合物のいずれでも使用可能である。別の実施形態によれば、フリーラジカル開始剤は有機過酸化物、例えばベンゾイルパーオキサイド、ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、アルファ−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ジ−イソプロピルベンゼン、又はジ−t−ブチルパーオキサイドである。本発明の1つの実施形態によれば、フリーラジカル開始剤はジクミルパーオキサイドである。適切なフリーラジカル開始剤を選択する規準は当業者に既知であり、ここで繰り返すことはしない。
【0053】
フリーラジカル開始剤の量は広範囲にわたって変動しうる。例えばポリオレフィンの重量を基準として、約0.01重量パーセントから約0.4重量パーセント、及びこれらの間にある全ての範囲である。別の実施形態によれば、フリーラジカル開始剤の量は、ポリオレフィンの重量を基準として、約0.02から約0.2重量パーセントである。さらに別の実施形態によれば、フリーラジカル開始剤のポリオレフィンの重量を基準として、約0.02から約0.1重量パーセントである。
【0054】
ここで任意選択的にフリーラジカル開始剤の存在下で行われる、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンのポリオレフィンへのグラフト化(グラフト化反応)は、当業者が既知の方法を用いて、そして既知の反応温度及び反応時間を用いて行うことができる。
【0055】
1つの実施形態では、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物は、ポリオレフィン及びフリーラジカル開始剤、並びに任意選択的に他の成分とミキサー中で混合され、温度は約140℃から約260℃、より具体的には約60℃から250℃、そして最も具体的には約180℃から約240℃であり;そして上記した時間は具体的には約0.5から約30分、より具体的には1から10分であり、そして最も具体的には約2から約5分である。噛み合い式ミキサー、逆回転する2つのローターを有するミキサー、及び押出機など、多種多様のミキサーをいずれも使用可能である。
【0056】
1つの実施形態では、具体的な方法は反応押出機、例えば一軸押出機、特に長さ/径(L/D)比が具体的には約25:1又はそれ以上、より具体的には30:1又はそれ以上、最も具体的には38:1以上の反応押出機の最初の段において、ポリオレフィンをオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン及びフリーラジカル開始剤とブレンドすることである。グラフト化条件は、コンパウンドの配合に応じて大きく変化しうるが、溶融温度は滞留時間と、フリーラジカル開始剤、例えば過酸化物の半減期に応じて、具体的には約130℃から約260℃、より具体的には約210℃から約230℃、そして最も具体的には約200℃から約220℃である。
【0057】
非スズ系の加水分解及び縮合触媒であって、ここで水分の存在下において少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンの架橋反応(架橋反応)に用いられる有機カルボン酸は、一般式(III):
【化17】

を有する少なくとも1つであり、式中、Gはアルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、アラルキル、及びアレーニルからなる群より選択され28までの炭素原子を含む1価又は多価の炭化水素であり;そして下付文字a及びbは独立して整数であり、aは0又は1、bは1から3である。
【0058】
具体的には、有機カルボン酸は、少なくとも1つの脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ置換脂肪族カルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、及びこれらの組み合わせからなる群より選択され、1又はより多くの脂肪族カルボン酸、1又はより多くのヒドロキシ置換カルボン酸、1又はより多くの芳香族酸、1又はより多くのジカルボン酸、及び1又はより多くの脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ置換脂肪族カルボン酸、1又はより多くの芳香族酸、或いは1又はより多くのジカルボン酸の組み合わせのいずれかがあるようにされる。1つの実施形態では、脂肪族カルボン酸やヒドロキシ置換脂肪族カルボン酸は、28までの炭素原子、より具体的には8から18の炭素原子を含むものである。
【0059】
ここで使用してよい適切な有機カルボン酸及びジカルボン酸の幾つかの非限定的な例は、ネオデカン酸、ラウリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アラキジン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、モンタン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0060】
1つの実施形態では、非スズ系加水分解及び縮合触媒は、8から18の炭素原子を有する長鎖直鎖又は分岐鎖脂肪族カルボン酸であり、これは少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むポリオレフィンとの混合の間に均一な分散をもたらし、かくして良好な触媒活性をもたらす。加えて、スズ不含有の短鎖二塩基酸、例えば非限定的な例としてコハク酸やアジピン酸もここで非スズ系加水分解及び縮合触媒として使用してよく、スズ化合物を使用することなしに、同様のレベルの改善された触媒活性もたらす。
【0061】
有機カルボン酸は多くの場合、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシラン、並びに任意選択的に他の成分、例えば酸化防止剤、フリーラジカル開始剤、及び/又は担体と混合され、例えば約1日から約4年、より具体的には約1月から約2年といった長期間にわたって貯蔵される。従って、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシランと、任意選択的に他の成分との混合物は、貯蔵安定である必要がある。貯蔵寿命の劣化は、ヒドロキシ基含有化合物の存在下に、有機カルボン酸を少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシランと混合することによって生じうるが、これは有機カルボン酸が、混合物中の他の成分と反応しうるからである。例えば有機カルボン酸はヒドロキシ基含有化合物とエステル化し、水を生成しうる。この水は次いで、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシランと反応してシラノールを形成し、これがさらに縮合して、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシランのシロキサンを形成する。少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシランは脱水剤であるから、エステル化反応の間に生成された水を消費し、それによってエステル化反応を促進する。有機カルボン酸はまた、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシランと直接反応して、−Si−O−C(=O)−基と、ヒドロキシ基含有化合物を形成しうる。このヒドロキシ基含有化合物は次いで、−Si−O−C(=O)−基のカルボニルと反応して、シラノール及びエステルを形成可能である。このシラノールは縮合して、シロキサン及び水を生ずる。
【0062】
1つの実施形態では、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシラン、有機カルボン酸、及び任意選択で他の成分を含有する組成物の貯蔵安定性は、赤外(IR)分光法を用いて求められる。この方法は、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシラン、有機カルボン酸、及び任意選択で他の成分を含有する組成物の赤外スペクトルを、調製から1時間後に測定することを包含しており、ここでスペクトルの単位は吸光度である。1785から1710cm−1の範囲における、酸のカルボニル基に割り当てられているカルボニル伸縮振動周波数のデコンボリューションされた面積が求められ、Aとして参照される。時間tとして参照される、ある長さの時間にわたって貯蔵した後に、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシラン、有機カルボン酸、及び任意選択で他の成分を含有する組成物の第2のスペクトルを取る。1785から1710cm−1の範囲における、酸のカルボニル基に割り当てられているカルボニル伸縮振動周波数のデコンボリュートされた面積が求められ、Aとして参照される。反応した有機カルボン酸化合物の百分率を、次の式を用いて求める:
反応した有機カルボン酸の百分率=[(A−A)/A]×100%。
吸光度ピークのデコンボリューションは、吸光度ピークをガウス関数に曲線適合させ、次いで曲線適合させたガウス関数の面積を、スペクトルの基線から吸光度ピークの先端まで求めることによって行いうる。
【0063】
少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシランと、有機カルボン酸と、そして任意選択で他の成分とを含有する混合物は、反応した有機カルボン酸の百分率を100%から差し引くことによって求められる未反応カルボン酸の百分率が、約1月の貯蔵後に約80から約100パーセント、より好ましくは約1年の貯蔵後に約80から約100パーセント、さらにより好ましくは約1年の貯蔵後に約90から約100パーセントであれば貯蔵安定である。
【0064】
1つの実施形態では、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシラン及び任意選択で他の成分の存在下に、改善された貯蔵安定性を有する有機カルボン酸は、カルボン酸基に対するアルファ炭素が、3つのアルキル基を持つ構造を有している。アルファ炭素原子上の3つのアルキル基は立体障害をもたらし、ヒドロキシ基含有化合物及び少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシランのいずれとの反応も阻止する。具体的には、ヒドロキシ基含有化合物及び少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシランとの反応に対する改善された安定性を有する有機カルボン酸は一般式(III):
【化18】

を有し、式中、Gは6から18の炭素原子を有する1価の炭化水素基であって、式(V):
【化19】

を有し、式中、R、R及びRの各々は独立して1から15の炭素原子を有するアルキル基であり、但しR、R及びR基の炭素原子の合計は5から17炭素原子であり、aは0、及びbは1である。少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むシランについて改善された安定性を有する、代表的かつ非限定的な有機カルボン酸には、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−エチル−2,5−ジメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、及び2−エチル−2,11−ジメチルドデカン酸が含まれる。
【0065】
スズ不含加水分解及び縮合触媒として用いられる有機カルボン酸は典型的には、ポリオレフィンの重量を基準として、第1の実施形態では約0.0003から約5.0重量パーセントの量で、第2の実施形態では約0.05から約1.0重量パーセントの量で、第3の実施形態では約0.1から約0.5重量パーセントの量で存在する。
【0066】
ここでの1つの実施形態では、有機カルボン酸は、先のグラフト化反応の反応混合物中に、任意選択的にフリーラジカル開始剤と共に存在してよい。有機カルボン酸はグラフト化反応工程において触媒として関与していても関与していなくともよく、単に、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンが架橋反応中に水分に暴露されて架橋される場合に、非スズ系加水分解及び縮合触媒として後に使用するために存在してよい。
【0067】
代替的に、有機カルボン酸は、水分暴露工程の前、及び/又は間に、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むポリオレフィンに対して添加してよい。当業者に理解されるように、水分暴露工程の終了は、ポリオレフィン架橋の所望の度合い、プロセス的な制約、及び/又は架橋ポリマーから製造することが意図された所望の物品又は製品に応じて、当業者が定めることが可能である。
【0068】
1つの例では、かかる水分は大気中の水分より多い水分を含むことが可能であり、これには例えばグラフト化反応から得られる反応混合物に対する水の添加、或いは少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むポリオレフィンの架橋を行うのに適切な時間又は少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むポリオレフィンの架橋開始を行うだけの時間、例えば約30秒から約100時間、より具体的には約30秒から約6時間、最も具体的には約30秒から約4時間にわたり、室温又は約100℃までの昇温下での水中への浸漬、或いは少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むポリオレフィンを、水分が蒸気の形態であるサウナ中に置くことなどが含まれる。
【0069】
ここでの1つの非限定的な実施形態において、反応(I)のオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは、オレフィン系不飽和部分と少なくとも2つのアルコキシ基を有し、各々のアルコキシ基が独立して約8までの炭素原子を含むシラン(オレフィン系不飽和アルコキシシラン)を、ジオールと反応させるプロセスによって作成される。
【0070】
1つの実施形態では、少なくとも2つのアルコキシ基を含むオレフィン系不飽和シランは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、及びビニルメチルジエトキシシランからなる群より選択される。
【0071】
別の実施形態では、オレフィン系不飽和アルコキシシランは、その少なくとも2つのアルコキシ基が独立して、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、及びイソプロポキシからなる群より選択されるものである。1つのより具体的な実施形態では、オレフィン系不飽和アルコキシシランはオレフィン系不飽和トリアルコキシシランであり、ここでアルコキシ基はメトキシ又はエトキシである。
【0072】
1つの実施形態では、ここで用いられる1,3−ジオールは一般式(II):
【化20】

を有し、式中、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり;
は1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、又は5から8の炭素原子のシクロアルキル基であり;そして
の各々は独立して1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素である。
【0073】
上記で1,3−ジオールについて示した構造を以下で1,3−ジオールと呼ぶが、これは2つのOH基と連携している特定の炭化水素又は基が予め固定されたものである。1,3−ジオールの非限定的な例の幾つかには、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるものが含まれる。より具体的には、ヒドロキシ基を有する2つの炭素原子の間にある炭素原子上に分岐点を有する1,3−ジオールが、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンの生成により適している。こうした分岐1,3−ジオールには、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、及びこれらの組み合わせが含まれる。
【0074】
上述したように、本発明では、反応(I)において、エステル化可能な少なくとも2つのアルコキシ基を有するオレフィン系不飽和シランのアルコキシシリル基当たりの1,3−ジオールのモル比が約0.5から約3である場合に、より具体的には約1から約2である場合に、着目すべき利点を有する環状部分をシラン上に生成して、[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を形成可能であり、これがグラフト化に用いられ、またグラフト化されたオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物を後に架橋するのに用いられることが、予期せず見出されている。
【0075】
1つの実施形態では、ここで用いられるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物の架橋部分の含有量は十分に低く保たねばならず、それによって平均分子量と架橋が過剰になって、組成物のゲル化を招くことが防止される。1つの実施形態では、ここで記述する反応(I)の反応生成物中に生成されるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物の全重量を基準として、シランの約50重量パーセント未満が架橋部分を含み、より具体的には約30重量パーセント未満の架橋部分である。
【0076】
本発明において記述するオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンの代表的な例には、2−メチル−3−(5−メチル−2−ビニル−[1,3,2]ジオキサシリナン−2−イルオキシ)−プロパン−1−オル、2−メチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、2,5−ジメチル−2−ビニル−[1,3,2]ジオキサシリナン、2−メトキシ−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、2−メトキシ−5−メチル−2−ビニル−[1,3,2]ジオキサシリナン、2−メトキシ−5,5−ジメチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、5−イソプロピル−2−メトキシ−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、及び5−ヘキシル−2−メトキシ−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナンが含まれる。
【0077】
ここで、反応(I)において当業者によって用いられる合成方法によって、種々のオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成分布がもたらされてよいことが理解されるものであり、シラン製品における環状部分又は環状及び架橋部分の混合物を生成する目的で、出発物質の混合物が用いられる。また、これらの環状部分又は環状及び架橋部分の部分的な加水分解物及び/又は縮合物は、環状部分含有シラン又は環状及び架橋部分含有シランを製造する殆どの方法における副生物として、ここでのシランに包含されうることが理解される。また、部分的な加水分解及び/又は縮合は、特に湿気条件下において、或いは調製に由来する残留水が調製後に完全に除去されない条件下において、環状部分含有シラン又は環状及び架橋部分含有シランの貯蔵に際して生じうる。さらにまた、環状又は環状及び架橋部分含有シランの部分的から実質的なまでの範囲の加水分解は、シランについてここで記載する調製方法、例えば反応(I)において、適宜化学量論量又は過剰量の水を取り入れることによって、意図的に準備することができる。また、環状部分含有又は環状及び架橋部分含有シランのシロキサン含有量は、シランについてここで記載する調製方法、例えば反応(I)において、適宜化学量論量又は過剰量の水を取り入れることによって、意図的に準備することができる。
【0078】
ここで記述する反応(I)の副生物及び/又は反応物質を含有していてよい、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物は、液体である場合、多孔質ポリマー、カーボンブラック、或いはシリカ、アルミナ、種々のクレー等といった無機充填材のような担体、或いは1又はより多くの担体上に装荷することができる。組成物を担体上に装荷することによって、それは反応(II)のポリオレフィン配合へと届けられる固体形状となる。別の実施形態では、担体は充填材の一部であり、充填材上又はその内部に密に吸着され、或いは化学的に結合される。
【0079】
ここで記述するオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは、オレフィン系不飽和部分と少なくとも2つのアルコキシ基を有するシランを、1,3−ジオールと反応させるプロセスによって作成される。これらのオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは、上述したように、少なくとも2つのアルコキシ基を含むオレフィン系不飽和シランと、1,3−ジオールとのエステル交換によって調製可能であり、これは触媒を用いて又は用いずに、アルコキシ基を1,3−ジオールとエステル化して、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物を生成する。
【0080】
これらのアルコキシシランと1,3−ジオールとのエステル交換は、触媒を用いて又は用いずに行うことができる。触媒を用いる場合には、それは酸、例えば本明細書で記載した脂肪族カルボン酸及びジカルボン酸、塩基、或いは遷移金属触媒でさえあることができる。他の適切な酸触媒には、塩酸、p−トルエンスルホン酸などがある。典型的な塩基触媒は、ナトリウムメトキシド及びナトリウムエトキシドである。適切な遷移金属触媒は、テトライソプロピルチタネート、チタン含有キレート化合物、ジルコニウムアルコキシド、及びジルコニウム含有キレート化合物である。ここで記述する反応(I)に使用可能な触媒の量は、当業者が設定可能であるが、一般的にはここで記載する反応(I)の反応物質の合計重量を基準として、約0.01から約2重量パーセントを占めることが可能である。
【0081】
本発明の1つの実施形態では、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物は、少なくとも2つのアルコキシ基を含むオレフィン系不飽和シランと1,3−ジオールとの触媒添加された混合物を、蒸留と同時に反応させることによって調製可能である。この反応は、アルコキシ官能化シラン反応物質のケイ素原子上にある、選択的に1又はより多くのアルコキシ基の、ジオールとのアルコール交換を導く。この反応は、より揮発性のアルコール副生物を蒸留により除去することによって促進される。適切な触媒には、p−トルエンスルホン酸、硫酸、塩酸、クロロ酢酸、リン酸、これらの混合物その他の酸;ナトリウムエトキシドのような塩基;及び遷移金属含有触媒、例えばチタンアルコキシド、チタン含有キレート化合物、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウム含有キレート化合物、及びこれらの混合物が含まれる。ここで、いかなる触媒であっても、本明細書に記述するグラフト化反応に先立って、系統的に除去されてよいことが理解されるであろう。
【0082】
本発明のさらに別の実施形態において、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物は、少なくとも2つのアルコキシ基を含むオレフィン系不飽和シランと1,3−ジオールの混合物を、第1の実施形態ではエステル交換されるアルコキシシリル基当たりジオールを少なくとも約0.5モルのモル比で、第2の実施形態ではトリアルコキシシランに対して約0.5から約1.5のモル比で;そして第3の実施形態においてはトリアルコキシシランに対して約1.0から約1.5のモル比で触媒反応させることによって調製可能である。上記した実施形態の各々において、反応温度は約10℃から約200℃の範囲にあることができ、別の実施形態では絶対圧力を約0.1から約2000mmHgの範囲に、また別の実施形態では絶対圧で約1から約80mmHgの範囲に維持しながら、約30℃から約90℃の範囲にあることができる。過剰のジオールを用いて、反応速度を増大させることが可能である。反応(I)の時間は約30分から約48時間、より具体的には約1時間から約8時間であることができる。
【0083】
別の実施形態では、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物は、所望の反応温度及び真空下において、触媒の存在下、ジオールをオレフィン系不飽和アルコキシシランに対してゆっくりと添加することによって調製可能である。所望ならば中和工程を用いて、使用された酸や塩基触媒を中和して、それによって生成物の貯蔵性を改善することができる。
【0084】
オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物はさらに精製して、副生物や未反応反応物質を蒸留によって除去することが可能である。このさらなる精製は、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物中におけるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンのモル量を増大させ、それによって水分とより反応性のあるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物が生成される。
【0085】
任意選択的に、ここでの反応(I)には不活性溶媒を使用可能である。ここでの溶媒は、希釈剤、キャリア、安定化剤、還流助剤、又は加熱剤として作用しうる。一般に、どのような不活性溶媒も、即ち反応に入り込んだり、反応に悪影響を与えない不活性溶媒を使用可能である。1つの実施形態では、溶媒は常態で液体であり、約150℃未満の沸点を有するものである。
例に含まれるものは、芳香族、炭化水素、エーテル、非プロトン性溶媒、及び塩素化炭化水素溶媒、例えばトルエン、キシレン、ヘキサン、ブタン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、四塩化炭素、塩化メチレンその他である。
【0086】
本発明の別の実施形態では、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン組成物は、少なくとも2つのアルコキシ基を含むオレフィン系不飽和シラン、ジオール、及び触媒(使用する場合)の流体流を適切な比率で連続的に予備混合し、次いでこの予備混合された反応物質を反応蒸留系、1つの実施形態では所望の反応温度と真空状態において作動する薄膜蒸留装置へと導入することによって調製することができる。真空下の薄膜で反応を行うことは、アルコール副生物の除去を促進し、またエステル交換反応速度を増大させる。副生するアルコールを薄膜から蒸発して除去すると、反応の化学平衡は、所望の生成物を好ましく形成し、望ましくない副反応を最小限とするようにシフトする。
【0087】
ここでのプロセスの以上の実施形態は:
a)薄膜反応器中において少なくとも2つのアルコキシ基を含むオレフィン系不飽和シラン、1,3−ジオール、及び触媒を含有する薄膜反応媒体を反応させて、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン、及び副生物アルコールをもたらし;
b)薄膜から副生物アルコールを蒸発させて反応を促進させ;
c)オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン反応生成物を回収し;
d)任意選択的に、副生物アルコールを凝縮によって回収し;及び
e)任意選択的に、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン反応生成物を中和して、その貯蔵安定性を改善する工程を含んでいる。
【0088】
上記の連続的薄膜プロセスにおいて用いられる、少なくとも2つのアルコキシ基を含むオレフィン系不飽和シラン反応物質に対する1,3−ジオールのモル比は、1,3−ジオールで置換することが望まれるアルコキシ基の数に依存する。薄膜プロセスの1つの実施形態では、化学量論当量モル比で約1が用いられ、この場合は1つのジオールが2つのアルコキシ基を置換する。一般に、この実施形態の実行については、少なくとも2つのアルコキシ基を含むオレフィン系不飽和シランに対する1,3−ジオールのモル比は、エステル交換されるアルコキシシリル基の各々について、化学量論当量の約95から約125パーセントの範囲内で変動可能である。特定の実施形態では、少なくとも2つのアルコキシ基を含むオレフィン系不飽和シランに対する1,3−ジオールのモル比は、化学量論当量の約100から約110パーセントの範囲内にありうる。別の実施形態においては、少なくとも2つのアルコキシ基を含むオレフィン系不飽和シランに対する1,3−ジオールのモル比は、化学量論当量の約100から約105パーセントの範囲内にありうる。当業者は、過剰の1,3−ジオールを用いて反応速度を増大させてもよいが、それは薄膜で反応を行う場合には通常重要な利点ではなく、コストを増大させるだけであることを認識するであろう。上記した量は、ここに記述する反応(I)のいずれにおいても使用可能であることが理解される。
【0089】
薄膜形成の装置及び方法は、技術的に既知のいずれのものでもよい。典型的な既知の装置には、流下液膜式蒸発器及びワイプ膜式蒸発器がある。最小膜厚及び流量は、膜形成表面の最小濡れ速度に依存する。最大膜厚及び流量は、薄膜及び装置の溢れる点に依存する。薄膜からのアルコールの蒸発は、薄膜を加熱し、薄膜にかかる圧力を低減させ、又はこれら両者を組み合わせることによって行われる。オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン反応生成物の形成には、穏やかな加熱と減圧を用いるのが好ましい。薄膜プロセスを実行するのに最適な温度と圧力(真空)は、プロセスで用いられる出発物質である、特定のオレフィン系不飽和シランのアルコキシ基と、1,3−ジオールとに依存している。本発明は、その例示的な実施例を参照することによってより具体的に記述される。しかしながら、本発明は以下の例示的な実施例のみに限定されるものでないことが留意されねばならない。
【0090】
所望ならば、本発明においては任意選択的に連鎖移動剤を用いることが可能であり、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン反応生成物のポリオレフィンに対するグラフト化に用いられ、反応(II)が所望の程度まで完了した後に反応せずに残存しているフリーラジカル開始剤のいずれかの部分を非活性化する。連鎖移動剤の好適な例は、ドデシルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、及びアルファメチルスチレンである。連鎖移動剤は架橋反応を阻止し、シランのグラフト化反応が効率的に進行するのを可能にする。
【0091】
本発明の実施形態によれば、連鎖移動剤はパラフィン、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、及びペンタン;アルファオレフィン、例えばプロピレン、ブテン−1、及びヘキセン−1;アルデヒド、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、及びn−ブチルアルデヒド;ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサノン;芳香族炭化水素、及びクロロ炭化水素でありうる。
【0092】
また、かかる連鎖移動剤が用いられる場合には、それはポリオレフィンの重量を基準として、約0.01から約0.5重量パーセントの量で存在してよい。別の実施形態によれば、連鎖移動剤はポリオレフィンの重量を基準として、約0.03から約0.1重量パーセントの量で使用可能である。
【0093】
上記したように、架橋されるポリオレフィンの構造中への反応(II)におけるシランの導入は通常、ポリオレフィン上にグラフトした[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造の早期の加水分解及び縮合が相当程度起こるのを排除するために、実質的な無水条件下で達成されるべきである。選択したオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン又は組成物が、選択したポリオレフィンに対して化学的にグラフトした後においてのみ、この架橋性組成物は水分の源に対して曝露され、その結果加水分解及び縮合が行われ、それによってポリオレフィンは、グラフトされた[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を通じて架橋されることになる。
【0094】
この架橋により、本明細書で説明するプロセスによって作成される、シラン架橋ポリオレフィンが生成される。
【0095】
本発明においては任意選択的に、発泡剤を含有させて、ポリオレフィンフォームを生成させることができる。この発泡剤は、約140℃を超える温度で分解して、気体を発生する発泡剤である。別の実施形態によれば、発泡剤は約170℃から約220℃で分解して気体を発生する。別の実施形態によれば、発泡剤はアゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジン)、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミドなど、或いは物理的な発泡剤、例えば炭化水素(例えばブタン、ペンタン)及びハロゲン化炭化水素(例えばメチルクロリド)である。以上に列挙した発泡剤は単独でも、又はどのような組み合わせにおいても使用可能である。別の実施形態によれば、発泡剤はアゾジカルボンアミドである。アゾジカルボンアミドは特に有利であるが、これはその熱安定性が良好で、分解温度が適切であることによる。
【0096】
発泡剤の量は、例えば最終的な発泡成形体に必要とされる膨張の度合いに応じて、広範囲にわたって変化させることができる。通常、発泡剤は、ポリオレフィンの重量を基準として、少なくとも約0.1重量パーセントの量で存在する。別の実施形態によれば、発泡剤は、ポリオレフィンの重量を基準として、約1から約30重量パーセントの量で存在してよい。
【0097】
熱分解性発泡剤を用いる場合には、架橋されるポリオレフィンの構造中にオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を導入するのに用いられるフリーラジカル開始剤は、発泡剤の熱分解温度と同じか又は類似した熱分解温度を有するのが有利であり、それによって発泡剤の熱分解と同時に分解する。1つの実施形態では、フリーラジカル開始剤は、約140℃よりも高い分解温度、例えば約170℃から約220℃の範囲にある分解温度を有する有機過酸化物でありうる。
【0098】
任意選択的に、本発明の組成物には、1又はより多くの既知の在来の添加剤を含有させることができる。それには例えば、カーボンブラック、タルク、炭酸カルシウム、発泡剤、潤滑剤、酸化防止剤、相溶化剤、無機充填剤、難燃添加剤、紫外線劣化防止安定剤、重金属劣化防止安定剤、着色剤、充填材、可塑剤、加工助剤、顔料、熱安定剤、相溶化添加剤、アルミナ3水和物、水酸化マグネシウム、ゼオライト、白亜、雲母、シリカ、又はシリケート、及び電圧に対する安定化剤が含まれる。
【0099】
本発明の別の実施形態によれば、着色剤はカドミウムイエロー、キナクリドンレッド、コバルトブルー、カドミウムレッド、
赤色酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、又はカーボンブラックであることができ;結晶核剤はタルク、珪藻土、炭酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、又はステアリン酸アルミニウムであることができ;潤滑剤はパラフィン又はステアリン酸であることができ;安定化剤は2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン又は2,6−ジターシャルブチルヒドロキシトルエンであることができ;難燃化剤は酸化アンチモン又は塩素化パラフィンであることができ;充填材は酸化カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ストロンチウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、クレー又はタルクであることができ;発泡助剤は酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、又はオクタン酸亜鉛であることができ、そして劣化防止剤はt−ブチルp−クレゾール又はジラウリルチオプロピオネートであることができ、技術的に通常用いられる量である。
【0100】
本発明の別の実施形態によれば、無機物は難燃性を改善するために、又は架橋に対する水の内部供給源として、例えばアルミナ3水和物、酸化マグネシウム、ゼオライト、或いは白亜、タルク、雲母、シリカ、シリケート又はカーボンブラックのような無機充填材を使用することができる。
【0101】
本発明のプロセスの別の実施形態によれば、ポリオレフィンの架橋は:
a)実質的に水分不含の条件下に:
(i)ポリオレフィン、
(ii)オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン、
(iii)フリーラジカル開始剤、及び任意選択的に、
(iv)得られる少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含む架橋性ポリオレフィンが水分に曝露された場合に、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含む架橋性ポリオレフィンの架橋反応を行うための、有機カルボン酸加水分解及び縮合触媒を組み合わせ;
b)ポリオレフィン(i)の結晶融点を超える温度においてステップ(a)から得られた組み合わせを加熱して、シラン(ii)をポリオレフィン(i)にグラフト化し;及び
c)ステップ(b)から得られた生成物を水分に曝露して少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンの加水分解及び縮合を行い、それによってシラン架橋ポリオレフィンをもたらすことを含むプロセスによって達成される。
【0102】
別の例示的な実施形態によれば、上述のプロセスにおけるステップ(a)は:(a1)ポリオレフィン(i)、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)、及びフリーラジカル開始剤(iii)を組み合わせてプリブレンドをもたらし、そこにおいてオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)とフリーラジカル開始剤(iii)はポリオレフィン(i)中に物理的に取り込まれ;そして(a2)ステップ(a1)から得られたプリブレンドを触媒(iv)と組み合わせることによって行える。(a1)を行うについては、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)及びフリーラジカル開始剤(iii)は、所望ならば混合物を形成するように組み合わせることが可能であり、得られた混合物はその後、ポリオレフィン(i)と組み合わせられてプリブレンドを形成する。
【0103】
ステップ(a2)を行うについては、ポリオレフィン(i)と有機カルボン酸触媒(iv)は、所望ならば混合物を形成するように組み合わせることが可能であり、得られた混合物はその後、ステップ(a1)から得られたプリブレンドと組み合わせられる。
【0104】
ポリオレフィン(i)は、上述したいずれかのポリオレフィン、又はポリオレフィンの組み合わせであり、シランはこれに対して、架橋前に導入される。ポリオレフィン(i)は典型的には、ペレット状又は粒状で提供される。
【0105】
本発明により、ポリオレフィン(i)に対してグラフト化し架橋するのに適しているオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)には、上述した如き製造方法から得られるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン、又はオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンを含有する組成物が含まれる。
【0106】
使用されるオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)の量は、後続の架橋反応において、所望とする度合いの架橋をもたらす量である。オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)の量は、ポリオレフィン(i)、例えばポリエチレンの重量に基づいているが、窮屈に臨界的なものではなく、ポリオレフィン(i)の重量を基準として、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)は約0.1から約10重量パーセントの範囲にわたることができる。別の実施形態によれば、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは、ポリオレフィン(i)の重量を基準として、約0.5から約3重量パーセントの範囲にわたる。ここでの1つの非限定的な実施形態においては、ポリオレフィンの量は、ポリオレフィン(i)及びオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)の合計重量を基準として、重量パーセントから重量パーセント、より具体的には約89.9重量パーセントから99.9重量パーセントである。さらに別の実施形態によれば、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)は、ポリオレフィン(i)の合計重量を基準として、約0.5から約2.0重量パーセントの範囲、及びその間にある全ての範囲にわたる。これらの上述した量は、本明細書に記載のグラフト化反応(II)のいずれに対しても同様に適用されることが理解されよう。
【0107】
ポリオレフィン(i)に対するシラン(ii)のグラフト化を開始するのに適したフリーラジカル開始剤には、上述したフリーラジカル開始剤のいずれもが含まれる。
【0108】
少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナンを含むポリオレフィンの架橋に適した加水分解及び縮合触媒として使用される有機カルボン酸には、上述した触媒が含まれる。
【0109】
1つの実施形態では、ポリオレフィンの架橋は:
a)実質的に水分不含の条件下に:
(i)ポリオレフィン、
(ii)オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン、
(iii)フリーラジカル開始剤、
(iv)得られる少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含む架橋性ポリオレフィンが水分に曝露された場合に、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含む架橋性ポリオレフィンの架橋反応を行うための、加水分解及び縮合触媒として用いられる有機カルボン酸、及び
(v)フリーラジカル開始剤を安定化させるための酸化防止剤を組み合わせ、
b)ポリオレフィン(i)の結晶融点を超える温度においてステップ(a)から得られた組み合わせを加熱して、シラン(ii)をポリオレフィン(i)にグラフト化し;及び
c)ステップ(b)から得られた生成物を水分に曝露して少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンの加水分解及び縮合を行い、それによってシラン架橋ポリオレフィンをもたらすことを含むプロセスによって達成され、
ここでオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)、フリーラジカル開始剤(iii)、有機カルボン酸(iv)、及び酸化防止剤(vi)は混合されて、ステップa)でポリオレフィンと組み合わせるに先立って、グラフト性シラン組成物を形成する。酸化防止剤(v)は、貯蔵の間、フリーラジカル開始剤(iii)を安定化させるために用いられる。
【0110】
酸化防止剤は、特に酸化が酸素、有機過酸化物、有機過エステル、及びアゾ化合物によって促進される場合に、酸化プロセスを阻止し又は修復し、またフリーラジカルの影響に対して作用する、何らかの物質である。典型的な酸化防止剤には、置換フェノール及び置換ポリフェノール、フェニレンジアミン誘導体、アスコルビン酸、トコフェロール、トコトリエノール、レスベラトロール、フラボノイド、カロテノイド、及びヒドロキシアミノ化合物などがある。典型的な酸化防止剤には、N,N’−ジ−2−ブチル−1,4−フェニレンジアミン、2,6−ジターシャルブチル−4−メチルフェノール、2,4−ジメチル−6−ターシャルブチルフェノール、2,6−ジターシャルブチルフェノール、プロピルガレート、ターシャルブチルヒドロキノン、及びブチル化ヒドロキシアニソールなどがある。
【0111】
別の実施形態では、グラフト性シラン組成物は、約70から約99.79重量パーセント、より具体的には約76から約98.9重量パーセント、さらにより具体的には約85から約98重量パーセントのオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)、約0.1から約10重量パーセント、より具体的には約0.5から約8重量パーセント、さらにより具体的には約1から約5重量パーセントのフリーラジカル開始剤(iii)、約0.1から約10重量パーセント、より具体的には約0.5から約8重量パーセント、さらにより具体的には約1から約5重量パーセントの有機カルボン酸(iv)、及び約0.01から約10重量パーセント、より具体的には約0.1から約8重量パーセント、さらにより具体的には約1から約5重量パーセントの酸化防止剤(vi)を含み、上記の重量パーセントは、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)、フリーラジカル開始剤(iii)、有機カルボン酸(iv)、及び酸化防止剤(vi)の合計重量を基準とする。
【0112】
さらに別の実施形態では、グラフト性シラン組成物は、一般式(I)を有するオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)であって:
【化21】

式中、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり;
は1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、5から8の炭素原子のシクロアルキル基又は水素であり;
の各々は独立して1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり;
はメチル、−ORであり、ここでRは1から8の炭素原子のアルキル基、
【化22】

【化23】

であり、式中、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であり、Rは1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、5から8の炭素原子のシクロアルキル基又は水素であり、Rの各々は独立して1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素であるもの;有機過酸化物及び有機過エステルからなる群より選択されるフリーラジカル開始剤(iii);式(III)を有する有機カルボン酸(iv)であって:
【化24】

式中、Gはアルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、アラルキル、及びアレーニルからなる群より選択され28までの炭素原子を含む1価又は多価の炭化水素であり;そして下付文字a及びbは独立して整数であり、aは0又は1、bは1から3であるもの;及び置換フェノール及び置換ポリフェノール、アスコルビン酸、フェニレンジアミン誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、レスベラトロール、フラボノイド、カロテノイド、及び置換ピペリジン1−オキシル化合物からなる群より選択される酸化防止剤(v)を含有する。
【0113】
より具体的には、グラフト性シラン組成物は、一般式(I)を有するオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)であって、式中Rが水素、Rが1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基又は水素、Rが1から6の炭素原子の直鎖又は分岐鎖アルキル基、5から8の炭素原子のシクロアルキル基であるもの、有機過酸化物及び有機過エステルからなる群より選択されるフリーラジカル開始剤(iii)、式(III)を有する有機カルボン酸(iv)であって、式中Gが6から18の炭素原子を有し式(V)を有する1価の炭化水素基であって:
【化25】

式中、R、R及びRの各々は独立して1から15の炭素原子を有するアルキル基であり、但しR、R及びR基の炭素原子の合計は5から17炭素原子であり、aは0、及びbは1であるもの、及び置換フェノール、置換ポリフェノール、フェニレンジアミン誘導体、及び置換ピペリジン1−オキシル化合物からなる群より選択される酸化防止剤を含有する。
【0114】
なおさらに別の実施形態では、グラフト性シラン組成物は、2−メチル−3−(5−メチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン−2−イルオキシ)−プロパン−1−オル、2−メチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、2,5−ジメチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、2−メトキシ−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、2−メトキシ−5−メチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、2−メトキシ−5,5−ジメチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、5−イソプロピル−2−メトキシ−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン及び5−ヘキシル−2−メトキシ−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナンからなる群より選択される少なくとも1つのオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii);ベンゾイルパーオキサイド、ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジプロピオニルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート又はラウロイルパーオキサイドジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−パーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−パーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチル−パーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジ(パーオキシベンゾエート)ヘキシル−3、ジ−t−ブチルジパーオキシフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートからなる群より選択される少なくとも1つのフリーラジカル開始剤(iii);ラウリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アラキジン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、モンタン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−エチル−2,5−ジメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、及び2−エチル−2,11−ジメチルドデカン酸からなる群より選択される少なくとも1つの有機カルボン酸(iv);及び置換フェノール及び置換ポリフェノールからなる群より選択される少なくとも1つの酸化防止剤(v)を含有する。
【0115】
より具体的には、グラフト性組成物は、2−めチル−3−(5−メチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン−2−イルオキシ)−プロパン−1−オル、2,5−ジメチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、2−メトキシ−5−メチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、2−メトキシ−5,5−ジメチル−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、5−イソプロピル−2−メトキシ−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナン、及び5−ヘキシル−2−メトキシ−2−ビニル−[1,3,2]−ジオキサシリナンからなる群より選択される少なくとも1つのオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii);ベンゾイルパーオキサイド、ジプロピオニルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ラウロイルパーオキサイドジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−パーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−パーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチル−パーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジ(パーオキシベンゾエート)ヘキシル−3、ジ−t−ブチルジパーオキシフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレエート、及びt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートからなる群より選択される少なくとも1つのフリーラジカル開始剤(iii);2,2−ジメチルヘキサン酸、2−エチル−2,5−ジメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、及び2−エチル−2,11−ジメチルドデカン酸からなる群より選択される少なくとも1つの有機カルボン酸(iv);及び置換フェノール及び置換ポリフェノールからなる群より選択される少なくとも1つの酸化防止剤(v)を含有する。
【0116】
本発明の1つの実施形態では、任意選択的に担体ポリマー(vi)を、より具体的には固体として用いることが可能であり、それはポリオレフィン(i)と適合性を有するものでなければならない。「適合性」とは、担体ポリマーがオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)と容易に反応せず、ポリオレフィン(i)の融解温度において、ポリオレフィン(i)に分散性又は溶解性であることを意味する。適切な担体ポリマーの例は非吸湿性物質、即ち水分の吸収性が比較的少なく、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)の早期の加水分解及び縮合の可能性を最小限にするものである。いずれにせよ、この任意選択的な担体ポリマー(vi)は、実質的に水を含んではならない。一般に、本発明の担体ポリマーはパウダー状、粒状、又はペレット状の粒子である。本発明の別の実施形態によれば、粒子はペレット状である。
【0117】
担体ポリマー(vi)は、上述したようにオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)を物理的に取り込む一方で、その粒子状及び固体状の特性を維持することができなければならない。担体ポリマー(vi)に適した3つの類は、多孔性のスポンジ様担体ポリマー、膨潤性担体ポリマー、及びカプセル化物である。
【0118】
多孔性ポリマーは、細孔の中にオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)を取り込むことができる。オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)を取り込むのに適した多孔性のスポンジ様担体ポリマーは、例えば、種々の高密度及び低密度ポリエチレン及びポリプロピレンから調製可能である。ある実施形態によれば、担体ポリマーはエチレン酢酸ビニル(EVA)コポリマー、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、又は直鎖状低密度ポリエチレンであることができる。多孔性ポリマーの細孔容積は、比較的大量のオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンを保持するのに十分なだけ大きい。細孔容積は一般に、多孔性ポリマーの約10から約90パーセントである。本発明の別の実施形態によれば、細孔容積は約30から約90パーセントである。細孔の断面は一般に約0.1から約0.5μmの範囲にあり、細孔室の大きさは一般に約1から約30μmの範囲にある。これらの多孔性ポリマーは、その重量の約0.5から約3倍のシランを取り込むことができる。多孔性ポリマーはパウダー状、粒状、又はペレット状で、担体ポリマー(vi)として用いることができる。適切な多孔性ポリマーは、市販されている。
【0119】
膨潤性ポリマーは、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)によって膨潤することによって、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)を取り込むことができる。担体ポリマー(vi)はまた、シラン(iii)によって、そして任意選択的には過酸化物、加水分解及び縮合触媒、安定化剤、及びその他の添加剤がオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)に混合又は溶解されて液体混合物を形成可能である場合には、それらによって容易に膨潤されるポリマーから選択することもできる。この目的に適した1つのポリマーはEVA、特に約18から約45重量パーセントの範囲の高い酢酸ビニル含量を有するEVAである。このような膨潤性担体ポリマー、粒状、パウダー状、ペレット状、又は他の固体形状で使用可能である。本発明の別の実施形態によれば、担体ポリマー(vi)は、湿潤又は粘着状にならずに吸収可能なオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)の量が、担体ポリマー(vi)の重量を基準として、最低でも約10重量パーセントであるように選択されるべきである。
【0120】
実際的には、約20パーセントのオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンを含有する適切な膨潤ペレットを、26%の酢酸ビニルモノマーから作成されたEVAから調製可能であることが見出されている。ポリエチレンは一般に、膨潤性担体ポリマーとしては適していないが、これは十分に多量のシランを容易には吸収しないからである。
【0121】
1つの実施形態では、用いられる担体ポリマー(vi)は何れも、ここで使用されるポリオレフィン(i)と異なりうるものであることが理解されよう。
【0122】
担体ポリマー(vi)の3番目の類は、カプセル化物である。オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンはカプセル化、即ち熱可塑性ポリマーカプセル中に収容される。本発明においてカプセル化剤として有用なポリマーは、ポリオレフィンである。適切なポリオレフィンは、2から6の炭素原子を有するアルファオレフィンのホモポリマー、又は2つのアルファオレフィンのコポリマーの何れかであることができる。例えば、担体ポリマー(vi)中にオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)をカプセル化すると、適切な固体形状のオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)が生成される。
【0123】
担体ポリマー(vi)の量は通常、所望とする量のオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)、及び任意選択的に1又はより多くの他の添加剤を乾燥した、取り扱い容易な形態で含有するために必要最小限であるように選択される。
【0124】
一般に、本発明のプロセスにおける、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)単独での、或いは他の液状の添加剤を伴っての、担体ポリマー(vi)中への吸収は、担体ポリマー(vi)、シラン(ii)、及び任意選択で他の添加剤を一緒にして、回転混合することによって達成される。回転混合は、例えば円錐混合機で達成可能である。添加剤の全部が液体でない場合には、固体成分は最初にオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)中に溶解しなければならない。この混合は、閉鎖系中で窒素、二酸化炭素、又は乾燥空気のブランケットの下で行われ、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)が実質的に水を含有しない状態を維持し、液状成分の蒸発を最小限にする。任意選択的に、混合の間に熱を加えることができる。混合が行われる容器は、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)及び他の添加剤と非反応性でなければならない。担体ポリマー(vi)中へのオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)及び他の液状添加剤の吸収は、オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)を混合又は配合装置中に供給するのに先立って行われる。オレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナン(ii)と共に担体ポリマー(vi)中に吸収される添加剤は、例えば担体ポリマー(vi)の約0.5から約50重量パーセント、別の実施形態では約0.5から約10重量パーセント、そしてさらに別の実施形態では担体ポリマー(vi)の重量を基準として約1.0から約2.5重量パーセント、並びにこれらの間にある全ての範囲で取り込まれることができる。
【0125】
本発明のプロセスは、どのような適切な装置を用いても実行可能である。本発明のある実施形態によれば、このプロセスは、ポリオレフィン(i)と、本発明のオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンを含む固体担体ポリマー(vi)が機械的な仕事、例えば混練や捏和を受ける条件において実行される。従ってこのプロセスは、例えば押出機中で行うことができる。こうした装置を用いて架橋ポリオレフィンを生成することについては米国特許第5112919号に詳述されており、その内容はここで参照することによって本明細書に全体的に取り入れられる。一般的な押出機は、一軸又は二軸の型式である。使用可能な他の装置には、Buss社の共混練機やバンバリーミキサーが含まれる。グラフト化反応を行い、次いで架橋や物品の製造を行うまでの期間、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンを貯蔵する場合には、こうした混練装置の方が押出機よりも恐らく好ましい。
【0126】
上述したポリオレフィン(i)及び担体ポリマー(vi)は、上述した如きオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンと、溶融状態で反応される。
【0127】
フリーラジカル開始剤(iii)は、グラフト化反応を開始するために、ポリオレフィン(i)中へと取り込まれる。
【0128】
かくして生成された、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンを、任意選択的に昇温において、水分に曝露すると、加水分解反応と縮合反応の組み合わせを通じて、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンの架橋が誘発される。架橋を生じさせるには、通常は大気中の水分で十分であるが、人工的に水分添加した雰囲気を用いることにより、又は液体の水に浸漬することにより、架橋速度を増大させることが可能である。また、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィン組成物を、熱と水分の組み合わせに対して曝露すると、架橋反応が促進される。架橋は、約50℃を超える温度によって影響されるであろう。別の実施形態によれば、架橋は、組成物を約85℃の温度と約50%から約90%の相対湿度に対して、100時間まで、より具体的には約30秒から約6時間、さらにより具体的には約30秒から約4時間にわたって曝露することによって行われる。上記した温度は、ここに記述する架橋反応(III)の何れにおいても使用可能であることが理解されよう。ここでの反応(III)の何れにおいても、水分に曝露するのに適当な、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンのどのような量も使用可能であるが、1つの非限定的な実施形態においては、反応(III)において少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンの量は、反応(III)の反応混合物の約25重量パーセントから約100重量パーセント、より具体的には約50重量パーセントから約95重量パーセントでありうる。水分量は、反応(III)の反応混合物の約0.01重量パーセントから約5重量パーセント、より具体的には約0.1重量パーセントから約2.0重量パーセントである。
【0129】
代替的に、本発明の架橋性ポリマーは、架橋して製品を製造するのに先立ち、幾らかの時間にわたって貯蔵することが望ましい場合があり、その場合には、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンを生成する間に加水分解及び縮合触媒(iv)を添加してはならない。その代わり、有機カルボン酸加水分解及び縮合触媒(iv)は、少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンと、架橋反応工程において混合されねばならない。
【0130】
ここでの1つの実施形態では、ここで記載し及び/又は作成した少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンと、加水分解及び縮合触媒として使用される少なくとも1つの有機カルボン酸を含有する、シラン架橋性ポリオレフィン組成物が提供される。
【0131】
シラン架橋ポリオレフィンを適用可能な幾つかの用途は、パイプ、発泡体、ワイヤーやケーブルの絶縁体、家庭用水道管路、海底油田及び天然ガス配管、並びに化学物質、スラリー、汚水などの搬送に用いられる組成物としてのものである。
【実施例】
【0132】
以下の非限定的な実施例は、本発明をさらに例示する。
実施例1 シランの調製
【0133】
シランAが以下の方法により調製された:633.8グラム(3.33モル)のビニルトリエトキシシラン(Silquest(登録商標)A−151、GEシリコーンから入手可能)、4.7グラムのスルホン化イオン交換樹脂(PuroliteCT−275触媒、ピュロライト社から入手可能)、及び300.0グラム(3.33モル)の2−メチル−1,3−プロパンジオール(シグマ−アルドリッチケミカル社から入手可能)を、5段のオルダーショウ型蒸留塔と、ショートパス蒸留ヘッドと、追加のファネルとを備えた、3Lの丸底フラスコに添加した。フラスコの内容物を約60mmHgの真空下に約40℃に加熱した。真空度をゆっくりと増大させて、エタノールの一定の蒸留を維持した。高真空と、約60℃のポット温度が得られるまで蒸留を継続した。次いでこの物質を約12時間にわたって放冷し、濾過して約536.0gのシランAを得た。
【0134】
シランAは、磁場強度14.1テスラ;1Hの共鳴周波数600MHzで作動するブルカー社のAVANCE600分光計により、核磁気共鳴(NMR)分光法で分析した。サンプルを10mmのNMRチューブに入れ、0.1MのCr(AcAc)/CDClで希釈して0.05Mの最終濃度とした。45度のパルス幅と30%のデューティサイクル(13C:遅れ時間5s、AQ(取り込み時間)1.65s;29Si:遅延時間10s、AQ(取り込み時間)1.42s)で、逆ゲーテッドデカップリングパルスシーケンスを用いた。サンプルの13C NMR分析は、Siに結合している有機官能基の主たるシグナルが、ビニルトリアルコキシシランに関連していることを示した。アルコキシ基は主に2−メチル−1,3−プロパンジオールであり、2つのSi原子を架橋しているか、同じSi原子に結合して環を形成しているか、又は一端で1つのSi原子に結合し他端が自由端であるかの何れかであることが見出された。13C NMRのケミカルシフトの割り当ては、δ136.9−134.1ppm、強度1.00、C=C炭素;δ129.14−129.27ppm、強度1.00、C=C炭素;δ70.02−69.85ppm、強度1.24、同じケイ素原子に結合した環形状の−OCH炭素(2つ);δ64.85−64.85、強度、−CHOHの炭素;δ62.92−61.64、強度2.55、同じケイ素原子に結合した架橋形状の−OCH炭素(2つ)である。この生成物のFTIRスペクトル主たるピークは、OHの伸張による3361cm−1(ブロード);C=Cの伸張による1600cm−1;COH及びCOSiの伸張による1088及び1044cm−1を示した。GPCは、770のMnで単一のブロードなピークを有していた。GC/MSは94のm/e(2−メチル−1,3−プロパンジオール)及び2−ビニル−5−メチル−[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造の一部にあり−OCHCH(CH)CHO−架橋基を介して一緒に結合している2つのケイ素原子を含む化合物について374のm/eにピークを有していた。
実施例2〜5、比較例A
【0135】
表1は、検討のために用いた出発物質を説明している。別様に特定しない限り、全ての物質は入手したままで使用した。
【0136】
【表1】
【0137】
架橋ポリエチレン(XLPE)の調製は、シラングラフト化ポリエチレンを合成し、続いて水の存在下、95℃の温度で4時間にわたり、シラングラフト化ポリエチレンを硬化することからなる。
シラングラフト化ポリエチレンの合成
【0138】
シラングラフト化ポリエチレンの合成は、多くの場合にシランカクテルと呼ばれるグラフト性シラン組成物を調製し、続いてシランカクテルをポリエチレンと反応させることからなる。全ての化学品は、入手したまま使用した。
【0139】
グラフト性シラン組成物は、成分を雰囲気温度で混合することによって調製した。この組成物を表2に示す。
【0140】
【表2】
【0141】
ポリエチレンは使用前に、80℃の温度で4時間にわたり、熱風炉中で乾燥した。乾燥器で乾燥したビーカー中で、窒素下にビニルシラン、過酸化物、酸化防止剤、及び触媒を室温で撹拌して、均一な溶液を作成した(グラフト性シラン組成物)。乾燥したポリエチレン(200グラム)とグラフト性シラン組成物(4グラム)をガラスビンに取り、2本ロールミルを用いて一晩、ビンを連続的に回転させて十分にブレンドした。
【0142】
グラフト性シラン組成物(シランカクテル)でコーティングしたポリエチレン粒状物は次いで、所定の温度プロファイルでDSM社の小型押出機により処理して、シラングラフト化ポリエチレンを生成した。高温での押し出しプロセスにおいて、シラン分子のビニル二重結合は、ポリエチレンと過酸化物からのフリーラジカルが反応した後に生成したポリエチレンフリーラジカルと反応する。
【0143】
小型押出機の供給領域、混合領域、及びダイヘッド領域の温度プロファイルは、それぞれ190℃、210℃、及び210℃であった。この小型押出機は、ダイヘッドに取り付けられた再循環弁を有している。再循環弁が開放されていると、溶融ポリマーは強制的に、供給領域に接続された加熱チャンネルを通過させられる。再循環弁を所定時間開放することにより、溶融ポリマーを小型押出機の供給領域とダイヘッド領域の間で循環させることができる。かくして、再循環弁を所定の時間間隔で開放することにより、ダイヘッド領域からの溶融ポリマーを供給領域へと再循環させて、混合及び反応時間を長くすることが可能である。シランカクテルでコーティングされたポリエチレン粒状物の供給時間とグラフト反応時間は、それぞれ45秒と1分であった。所望量の混合及び反応が達成されたなら、再循環弁を閉じて、溶融ポリマーをダイから単一のストランドとして押し出させることが可能である。小型押出機からのポリマー溶融物を集めて、溶融ポリマーをダンベル(ドッグボーン)形の射出金型に移送するために、小型押出機の移送装置が使用される。移送装置と射出金型はそれぞれ、210℃と60℃の温度に設定された。
架橋ポリエチレンの合成
【0144】
架橋ポリエチレン(XLPE)の合成を以下に説明する:小型押出機から得た、シラングラフト化ポリエチレンのISO527−2−5A形状のダンベル形の試験片を95℃の温度で4時間、温水バス中に置いて硬化し、XLPEを生成した。
機械的特性の測定−引張試験
【0145】
硬化後、ダンベル形(ISO 527−2−5A)の試験片を試験に先立ち、21℃の温度と50%の湿度で一晩放置した。引張試験は、5kNのロードセルを装着したインストロン社の引張試験機を用いて実施した。可動クランプの変位速度は、2インチ(約50ミリメートル)/分に設定した。報告されたデータは、6回繰り返した測定の平均値である。
架橋密度の測定−ゲル含有量
【0146】
XLPE試験片のゲル含有量は、ソックスレー試験機を用いて18時間にわたり95℃の温度で、ASTM D2765に記載の手順に従って行った。試験片の非架橋部分を抽出するのに用いた溶媒は、デカリンであった。報告されたデータは、3回繰り返した測定の平均値である。
【0147】
架橋ポリエチレンの分析結果を表3に示す。
【表3】

XLPE−1は、実施例2のグラフト性シラン組成物を用いて作成した架橋ポリエチレンである。XLPE−2は、実施例3のグラフト性シラン組成物を用いて作成した架橋ポリエチレンである。
【0148】
表3から得たデータは、全てのXLPEが、純粋なポリエチレン試験片と比較して、高いヤング率と、高い引張降伏応力と、高い降伏点エネルギーと、低い破断伸びを有することを示している。最も少ない量の触媒を含有しているシラングラフト化XLPE−1は、他方のXLPE−2と比較して、比較的低い度合いの硬化及び機械的特性を示した。ポリエチレンとグラフト性シラン組成物との重量比率は、100グラムのポリエチレン当たりに2グラムのグラフト性シラン組成物となるように維持した。かくして、100グラムのポリエチレン当たりのビニル基の当初濃度は、実質例3のグラフト性シラン組成物とブレンドしたポリエチレンについて高かった。
【0149】
一般に、本発明のオレフィン系不飽和[1,3,2]−ジオキサシリナンは、架橋されていないポリエチレンと比較して、より改善された性能を示し、揮発性有機化合物の量の減少を通じて相当の利点をもたらし、またスズ化合物を含まない。
実施例6〜25、比較例B〜D
【0150】
シラングラフト化ポリエチレンの合成は、シランカクテルの調製と、続いてのシランカクテルとポリエチレンとの反応からなっている。全ての化学物質は、入手したままで使用した。ポリエチレンは使用前に、80℃の温度で4時間にわたり、熱風炉中で乾燥した。乾燥器で乾燥した40mLのバイアル中で、窒素下にビニルシラン、過酸化物、酸化防止剤、及び触媒を50℃の温度で撹拌して、均一な溶液を作成した(グラフト性シラン組成物、即ちシランカクテル)。グラフト性シラン組成物の組成を表4に示す。
【0151】
【表4】
【0152】
乾燥したポリエチレンとシランカクテルをガラスビンに98:2重量パーセントの比率で取り、2本ロールミルを用いて一晩、ビンを連続的に回転させて十分にブレンドした。シランカクテルでコーティングしたポリエチレン粒状物は次いで、所定の温度プロファイルでDSM社の小型押出機により処理して、シラングラフト化ポリエチレンを生成した。高温での押し出しプロセスにおいて、シラン分子のビニル二重結合は、ポリエチレンと過酸化物からのフリーラジカルが反応した後に生成したポリエチレンフリーラジカルと反応する。
【0153】
小型押出機の供給領域、混合領域、及びダイヘッド領域の温度プロファイルは、使用した過酸化物がジクミルパーオキサイド並びに1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである場合のそれぞれについて、215℃、220℃、及び220℃、並びに170℃、170℃、及び175℃であった。この小型押出機は、ダイヘッドに取り付けられた再循環弁を有している。再循環弁が開放されていると、溶融ポリマーは強制的に、供給領域に接続された加熱チャンネルを通過させられる。再循環弁を所定時間開放することにより、溶融ポリマーを小型押出機の供給領域とダイヘッド領域の間で循環させることができる。
【0154】
かくして、再循環弁を所定の時間間隔で開放することにより、ダイヘッド領域からの溶融ポリマーを供給領域へと再循環させて、混合及び反応時間を長くすることが可能である。シランカクテルでコーティングされたポリエチレン粒状物の供給時間とグラフト反応時間は、それぞれ45秒と1分であった。所望量の混合及び反応が達成されたなら、再循環弁を閉じて、溶融ポリマーをダイから単一のストランドとして押し出させることが可能である。小型押出機からのポリマー溶融物を集めて、溶融ポリマーをダンベル(ドッグボーン)形の射出金型に移送するために、小型押出機の移送装置が使用される。ジクミルパーオキサイド並びに1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンが過酸化物として用いられる場合のそれぞれについて、移送装置は220℃と175℃の温度に設定された。射出金型は60℃の温度に設定された。架橋ポリエチレン(XLPE)の合成を以下に説明する:小型押出機から得た、シラングラフト化ポリエチレンのISO527−2−5A形状のダンベル形の試験片を95℃の温度で4時間、温水バス中に置いて硬化し、XLPEを生成した。
機械的特性の測定−引張試験
【0155】
硬化後、ダンベル形(ISO 527−2−5A)の試験片を試験に先立ち、21℃の温度と50%の湿度で一晩放置した。引張試験は、5kNのロードセルを装着したインストロン社の引張試験機を用いて実施した。可動クランプの変位速度は、0.2インチ(約5ミリメートル)/分に設定した。報告されたデータは、6回繰り返した測定の平均値である。
架橋密度の測定−ゲル含有量
【0156】
XLPE試験片のゲル含有量は、ソックスレー試験機を用いて18時間にわたり142℃の温度で、ASTM D2765に記載の手順に従って行った。試験片の非架橋部分を抽出するのに用いた溶媒は、p−キシレンであった。報告されたデータは、3回繰り返した測定の平均値である。
【0157】
架橋ポリエチレンの分析結果を表5に示す。
【0158】
【表5】
【0159】
表5に示されたデータは、TMCH(トリメチルシクロヘキサン)過酸化物を用いて生成されたXLPEが、DICUP(ジクミルパーオキサイド)を用いて生成されたXLPEよりも高い弾性率及び降伏応力を有し、より低い破断伸びを有することを示している。これはTMCHがジ−パーオキサイドであるのに対し、DICUPがモノ−パーオキサイドであるという事実のためである。かくしてTMCHを用いて生成されるXLPEの場合には、DICUPを用いて生成されるXLPEの場合と比較して、ポリエチレンに対してビニルシランをグラフトするために利用可能なフリーラジカルの合計数が多くなる。
【0160】
二塩基酸(ADA)及び三塩基酸(ACA)を含むグラフト性シラン組成物(シランカクテル)から得られるXLPEの弾性率及びゲル含有量は、一塩基酸であるVA−10(ネオデカン酸)から得られるXLPEのそれらに近い。ADA及びACAの融点は151℃及び190℃であり、温水バスの硬化温度(95℃)よりも十分に高かった。従ってこれらの酸触媒は温水バスでの硬化プロセス中、固体のままであり、物質のバルク容積内へと水分が拡散するのを妨げる。加えて、これらの固体酸のプロトン解離速度は、DEAやDMBAのような液体酸と比較して低いであろう。VA−10は液体酸であり、小さな解離定数を有してよい。
【0161】
表5のデータは、本発明の架橋ポリエチレンが、未処理のポリエチレンに対して、硬化特性において相当の改善を示したことを例証している。またこのシランは硬化に際して有機化合物を揮発させなかった。というのは、架橋による副生物である2−メチル−1,3−プロパンジオールは、架橋したポリエチレンマトリクスに溶解する液体成分だからである。少なくとも1つの[1,3,2]−ジオキサシリナン環構造を含むポリオレフィンは、ジブチルスズジラウレートのようなスズ触媒で硬化した場合、硬化特性が幾らか良好ではあったが、本発明の組成物はスズ化合物を含まない。
【0162】
本発明を幾つもの例示的な実施形態を参照して説明してきたが、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更を行うことが可能であり、その要素を等価物で置き換えることが可能であることを理解するであろう。加えて、本発明の本質的な範囲から逸脱することなしに、特定の状況や材料に適応するため、本発明の教示に対して多くの修正を行いうる。従って本発明は、本明細書に記載した特定の例示的な実施形態のいずれかに限定されることを意図したものではない。