(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属酸化物層は、第1の電圧が印加されることによって低抵抗状態から高抵抗状態に遷移し、かつ、前記第1の電圧とは異なる第2の電圧が印加されることによって前記高抵抗状態から前記低抵抗状態に遷移する、可逆的な抵抗変化特性を有し、
前記所定の電圧は、前記第1の電圧である、
請求項1に記載の気体検出装置。
前記電源回路は、前記金属酸化物層が前記低抵抗状態に遷移した後で、前記第1の電極及び前記第2の電極の間に前記第1の電圧を印加して前記金属酸化物層を前記高抵抗状態に再設定する、
請求項3に記載の気体検出装置。
前記金属酸化物層は、第1の電極に接し、前記バルク領域よりも大きい酸素不足度を有する第1の金属酸化物層と、第2の電極に接し、かつ、前記バルク領域を含む第2の金属酸化物層とを備え、
前記局所領域は、前記第2の電極に接し、かつ、前記第2の金属酸化物層を貫通する、
請求項1から11のいずれか一項に記載の気体検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
本発明者らが鋭意検討を行なった結果、従来の気体センサにおいて、以下のような問題があることを見出した。
【0011】
従来の気体センサでは、水素含有ガスを検知する感度を向上するために、気体を検出する素子を100℃以上に加熱している。そのため、従来の気体センサの消費電力は、最小のものでも100mW前後となる。従って、気体センサを常時ON状態で使用する場合、消費電力が大きくなるという課題がある。
【0012】
本開示の一態様に係る気体検出装置は、水素含有ガスを感度良く検出でき、かつ、省電力性に優れる。
【0013】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
なお、図面において、実質的に同一の構成、動作、および効果を表す要素については、同一の符号を付し、説明を省略する。また、以下において記述される数値、材料、組成、形状、成膜方法、構成要素間の接続関係などは、すべて本開示の実施の形態を具体的に説明するための単なる例示であり、本開示はこれらに限定されない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0015】
(第1の実施の形態)
[気体センサの構成]
第1の実施形態に係る気体センサは、抵抗膜(金属酸化物層)と金属膜とが積層されてなる金属−絶縁膜−金属(MIM)構造の気体センサである。当該気体センサは、抵抗膜内に形成される局所領域での自己発熱と気体感応性とを利用することにより、ヒータで加熱することなく、水素含有ガスを検出することができる。ここで、水素含有ガスとは、水素原子を有する分子からなる気体の総称であり、一例として、水素、メタン、アルコールなどを含み得る。
【0016】
図1Aは、第1の実施形態に係る気体センサ100の一構成例を示す断面図である。
【0017】
図1Bは、第1の実施形態に係る気体センサ100の一構成例を示す上面図である。
図1Aの断面は、
図1Bの1A−1Aの切断線において矢印方向に見た断面に対応する。
【0018】
気体センサ100は、基板101、基板101上に形成された絶縁膜102、絶縁膜102の上方に形成された第1の電極103、第2の電極106、第1の電極103と第2の電極106とで挟まれた抵抗膜104、絶縁膜107、ビア108、及び配線109を備えている。第1の電極103の主面と第2の電極106の主面とは対向して配置され、第1の電極103の主面と第2の電極106の主面とに接して抵抗膜104が配置されている。
【0019】
絶縁膜107には、第2の電極106を検査対象である気体に接触させるための開口107aが設けられている。言い換えると、絶縁膜107は、第1の電極103、第2の電極106及び抵抗膜104を覆いつつ、第2の電極106の上面(上記した主面に対向する他面)の少なくとも一部は絶縁膜107に覆われることなく露出している。
【0020】
抵抗膜104は、第1の電極103と第2の電極106との間に介在する。抵抗膜104の抵抗値は、第1の電極103と第2の電極106との間に与えられる電気的信号に基づいて可逆的に抵抗値が変化する。例えば、抵抗膜104の抵抗状態は、第1の電極103と第2の電極106との間に与えられる電圧(電位差)に応じて高抵抗状態と低抵抗状態とを可逆的に遷移する。また、抵抗膜104の抵抗状態は、第2の電極106に接触した水素含有ガスに応じて、例えば、高抵抗状態から低抵抗状態に遷移する。
【0021】
ここで、抵抗膜104の内部には、第2の電極106と接して配置され、第1の電極103に接していない局所領域105を備えている。局所領域105の酸素不足度は、その周囲(すなわち抵抗膜104のバルク領域)の酸素不足度よりも大きい。局所領域105の酸素不足度は、第1の電極103と第2の電極106との間への電気的信号の印加及び第2の電極106が接触する気体中の水素含有ガスの有無に応じて可逆的に変化する。局所領域105は、酸素欠陥サイトから構成されるフィラメント(導電パス)を含む微小な領域である。
【0022】
絶縁膜107は、第2の電極106の上面を覆っている部分において、ビア108が絶縁膜107を貫通して第2の電極106に接続されている。ビア108の上に配線109が配置されている。
【0023】
なお、本開示において、金属酸化物の「酸素不足度」とは、当該金属酸化物と同じ元素から構成される化学量論的組成の酸化物における酸素の量に対する、当該金属酸化物における酸素の不足量の割合をいう(ここで、酸素の不足量とは、化学量論的組成の金属酸化物における酸素の量から当該金属酸化物における酸素の量を引いた値である)。もし、当該金属酸化物と同じ元素から構成される化学量論的組成の金属酸化物が複数存在しうる場合、当該金属酸化物の酸素不足度は、それらの化学量論的組成の金属酸化物のうち最も高い抵抗値を有する1つに基づいて定義される。化学量論的組成の金属酸化物は、他の組成の金属酸化物と比べて、より安定でありかつより高い抵抗値を有している。
【0024】
例えば、金属がタンタル(Ta)の場合、上述の定義による化学量論的組成の酸化物はTa
2O
5であるので、TaO
2.5と表現できる。TaO
2.5の酸素不足度は0%であり、TaO
1.5の酸素不足度は、酸素不足度=(2.5−1.5)/2.5=40%となる。また、酸素過剰の金属酸化物は、酸素不足度が負の値となる。なお、本開示では、特に断りのない限り、酸素不足度は正の値、0、又は負の値をとり得る。
【0025】
酸素不足度の小さい酸化物は化学量論的組成の酸化物により近いため抵抗値が高く、酸素不足度の大きい酸化物は酸化物を構成する金属により近いため抵抗値が低い。
【0026】
「酸素含有率」とは、総原子数に占める酸素原子の比率である。例えば、Ta
2O
5の酸素含有率は、総原子数に占める酸素原子の比率(O/(Ta+O))であり、71.4atm%となる。従って、酸素不足型のタンタル酸化物は、酸素含有率は0より大きく、71.4atm%より小さいことになる。
【0027】
局所領域105は、第1の電極103と第2の電極106との間に初期ブレイク電圧を印加することによって、抵抗膜104内に形成される。言い換えると、初期ブレイク電圧とは、局所領域105を形成するために、第1の電極103と第2の電極106との間に印加される電圧である。初期ブレイク電圧は、書き込み電圧より絶対値が大きい電圧であってもよい。書き込み電圧とは、抵抗膜104を高抵抗状態と低抵抗状態とに可逆的に遷移させるために、第1の電極103と第2の電極106との間に印加される電圧である。あるいは、初期ブレイク電圧は、書き込み電圧より絶対値が小さい電圧であってもよい。この場合は、初期ブレイク電圧を繰り返し印加するか、または所定時間連続して印加してもよい。初期ブレイク電圧の印加により、
図1Aに示すように、第2の電極106と接し、第1の電極103と接していない局所領域105が形成される。
【0028】
局所領域105は、酸素欠陥サイトから構成されるフィラメント(導電パス)を含むと考えられる。局所領域105の大きさは、電流を流すために必要なフィラメントに見合う微小な大きさである。局所領域105におけるフィラメントの形成は、パーコレーションモデルを用いて説明される。
【0029】
パーコレーションモデルとは、局所領域105中での酸素欠陥サイトのランダムな分布を仮定し、酸素欠陥サイトの密度がある閾値を越えると酸素欠陥サイトのつながりが形成される確率が増加するという理論に基づくモデルである。
【0030】
パーコレーションモデルによれば、フィラメントは、局所領域105中の複数の酸素欠陥サイトがつながることにより構成され、抵抗膜104における抵抗変化は、局所領域105における酸素欠陥サイトの発生及び消失を通じて発現する。
【0031】
ここで、「酸素欠陥」とは、金属酸化物中で酸素が化学量論的組成から欠損していることを意味し、「酸素欠陥サイトの密度」は、酸素不足度とも対応している。つまり、酸素不足度が大きくなると、酸素欠陥サイトの密度も大きくなる。
【0032】
局所領域105は、気体センサ100の1つの抵抗膜104に1ケ所のみ形成されてもよい。抵抗膜104に形成されている局所領域105の数は、例えば、EBAC(Electron Beam Absorbed Current)解析によって確認することができる。
【0033】
抵抗膜104内に局所領域105が存在する場合、第1の電極103と第2の電極106との間に電圧を印加した際、抵抗膜104内の電流は局所領域105に集中的に流れる。
【0034】
局所領域105のサイズは小さい。そのため、局所領域105は、例えば、抵抗値を読み出すときに流れる数十μA程度の電流によって発熱し、この発熱がかなりの温度上昇を引き起こす。数十μA程度の電流が流れるとき、その消費電力は0.1mW未満である。
【0035】
そこで、第2の電極106を触媒作用のある金属(例えばPt)で構成され、局所領域105は第2の電極106に接する。これらの構成によれば、局所領域105における発熱によって第2の電極106が加熱され、水素含有ガスから水素原子が効率よく解離する。
【0036】
検査対象である気体中に水素含有ガスがあるとき、第2の電極106において、水素含有ガスから水素原子が解離され、解離された水素原子は局所領域105内の酸素原子と結合し、その結果、局所領域105の抵抗値が低下する。
【0037】
このようにして、気体センサ100は、第2の電極106が水素含有ガスに接すると第1の電極103と第2の電極106との間の抵抗値が低下する特性を有する。当該特性により、検査対象である気体が第2の電極106に接したとき、第1の電極103と第2の電極106との間の抵抗値の低下を検出することによって、気体に含まれる水素含有ガスを検出することができる。
【0038】
なお、局所領域105が高抵抗状態及び低抵抗状態の何れの状態であっても、水素含有ガスが第2の電極106に接することで抵抗値の低下が生じる。そのため、水素含有ガスの検出は、局所領域105が高抵抗状態及び低抵抗状態の何れの状態にある気体センサ100によっても可能である。ただし、抵抗値の低下をより明確に検出できるように、局所領域105をあらかじめ電気的に高抵抗状態に設定した気体センサ100を用いてもよい。
【0039】
以下では、安定的な抵抗変化特性を得るための気体センサ100の細部について説明する。
【0040】
抵抗膜104は、酸素不足型の金属酸化物から構成される。当該金属の酸化物の母体金属は、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の遷移金属と、アルミニウム(Al)とから少なくとも1つ選択されてもよい。遷移金属は複数の酸化状態をとることができるため、異なる抵抗状態を酸化還元反応により実現することが可能である。
【0041】
ここで、酸素不足型の金属酸化物とは、同一の金属元素を含有する化学量論的組成の金属酸化物に比べて、酸素不足度が大きい金属酸化物である。化学量論的組成の金属酸化物が典型的に絶縁体であるのに対し、酸素不足型の金属酸化物は典型的に半導体的な特性を有する。酸素不足型の金属酸化物を抵抗膜104に用いることで、気体センサ100は、再現性がよくかつ安定した抵抗変化動作を実現できる。
【0042】
例えば、抵抗膜104を構成する金属酸化物としてハフニウム酸化物を用いる場合、その組成をHfO
xと表記した場合にxが1.6以上であるとき、抵抗膜104の抵抗値を安定して変化させることができる。この場合、ハフニウム酸化物の膜厚は、3〜4nmとしてもよい。
【0043】
また、抵抗膜104を構成する金属酸化物としてジルコニウム酸化物を用いる場合、その組成をZrO
xと表記した場合にxが1.4以上であるとき、抵抗膜104の抵抗値を安定して変化させることができる。この場合、ジルコニウム酸化物の膜厚は、1〜5nmとしてもよい。
【0044】
また、抵抗膜104を構成する金属酸化物としてタンタル酸化物を用いる場合、その組成をTaO
xと表記した場合にxが2.1以上であるとき、抵抗膜104の抵抗値を安定して変化させることができる。
【0045】
以上の各金属酸化物層の組成についてはラザフォード後方散乱法を用いて測定できる。
【0046】
第1の電極103および第2の電極106の材料としては、例えば、Pt(白金)、Ir(イリジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、W(タングステン)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、TiN(窒化チタン)、TaN(窒化タンタル)およびTiAlN(窒化チタンアルミニウム)などから選択される。
【0047】
具体的に、第2の電極106は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、又はパラジウム(Pd)、若しくは、これらのうちの少なくとも1つを含む合金など、水素原子を有する気体分子から水素原子を解離する触媒作用を有する材料で構成する。また、第1の電極103は、例えば、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)など、金属酸化物を構成する金属と比べて標準電極電位が、より低い材料で構成してもよい。標準電極電位は、その値が高いほど酸化しにくい特性を表す。
【0048】
また、基板101としては、例えば、シリコン単結晶基板または半導体基板を用いることができるが、これらに限定されるわけではない。抵抗膜104は比較的低い基板温度で形成することが可能であるため、例えば、樹脂材料などの上に抵抗膜104を形成することもできる。
【0049】
また、気体センサ100は、抵抗膜104に電気的に接続された負荷素子として、例えば固定抵抗、トランジスタ、またはダイオードをさらに備えてもよい。
【0050】
ここで、気体センサ100の電圧印加による抵抗変化特性について、サンプル素子による実測結果に基づいて説明する。なお、気体センサ100の水素含有ガスによる抵抗変化特性については、後述する。
【0051】
図2は、サンプル素子で実測された抵抗変化特性を示すグラフである。
【0052】
図2の測定結果が得られたサンプル素子である気体センサ100は、第1の電極103および第2の電極106並びに抵抗膜104の大きさを0.5μm×0.5μm(面積0.25μm
2)としたものである。また、抵抗膜104としてのタンタル酸化物の組成をTaO
yと表記したとき、y=2.47としている。さらに、抵抗膜104の厚みを5nmとしている。このような気体センサ100に対して、第1の電極103と第2の電極106との間に読み出し用電圧(例えば0.4V)を印加した場合、初期抵抗値RIは約10
7〜10
8Ωである。
【0053】
図2に示されるように、気体センサ100の抵抗値が初期抵抗値RI(高抵抗状態における抵抗値HRより高い値)である場合、初期ブレイク電圧を第1の電極103と第2の電極106との間に印加することにより、抵抗状態が変化する。その後、気体センサ100の第1の電極103と第2の電極106との間に、書き込み用電圧として、例えばパルス幅が100nsでかつ極性が異なる2種類の電圧パルス(正電圧パルスと負電圧パルス)を交互に印加すると、
図2に示すように第1の電極103と第2の電極106との間の抵抗値が変化する。
【0054】
すなわち、書き込み用電圧として正電圧パルス(パルス幅100ns)を電極間に印加した場合、第1の電極103と第2の電極106との間の抵抗値が低抵抗値LRから高抵抗値HRへ増加する。他方、書き込み用電圧として負電圧パルス(パルス幅100ns)を電極間に印加した場合、第1の電極103と第2の電極106との間の抵抗値が高抵抗値HRから低抵抗値LRへ減少する。なお、電圧パルスの極性は、第1の電極103の電位を基準として第2の電極106の電位が高い場合が“正”であり、第1の電極103の電位を基準として第2の電極106の電位が低い場合が“負”である。
【0055】
図3は、気体センサ100の電流−電圧特性の一例を示す図である。
図3では、気体センサ100の第1の電極103と第2の電極106との間に変動する電圧を印加しながら、気体センサに流れる電流を測定して得られた電流−電圧特性を示している。具体的に、気体センサ100をあらかじめ高抵抗状態に設定しておき、印加電圧を(1)まず、0から負の書き込み用電圧まで変化させ、(2)次に、負の書き込み用電圧から正の書き込み用電圧まで変化させ、(3)最後に、正の書き込み用電圧から0まで変化させた。ここで、電圧の正と負の定義は上述の通りである。
【0056】
印加電圧が所定の大きさの負電圧に達したとき、第1の電極103と第2の電極106との間の抵抗値が高抵抗値HRから低抵抗値LRへ減少(電流の絶対値が増加)する。一方、印加電圧が所定の大きさの正電圧に達したとき、第1の電極103と第2の電極106との間の抵抗値が低抵抗値LRから高抵抗値HRへ増加(電流の絶対値が減少)する。
【0057】
[気体センサの製造方法と動作]
次に、
図4A〜
図4Gを参照しながら、気体センサ100の製造方法の一例について説明する。
【0058】
まず、
図4Aに示すように、例えば単結晶シリコンである基板101上に、厚さ200nmの絶縁膜102を熱酸化法により形成する。そして、第1の電極103として例えば厚さ100nmのPt薄膜を、スパッタリング法により絶縁膜102上に形成する。なお、第1の電極103と絶縁膜102との間にTi、TiNなどの密着層をスパッタリング法により形成することもできる。その後、第1の電極103上に、抵抗膜104となる酸素不足型の金属酸化物層を、例えばTaターゲットを用いた反応性スパッタリング法で形成する。以上により抵抗膜104が形成される。
【0059】
ここで、抵抗膜104の厚みについては、厚すぎると初期抵抗値が高くなりすぎる等の不都合があり、薄すぎると安定した抵抗変化が得られないという不都合がある。以上の理由から、1nm以上8nm以下程度であってもよい。
【0060】
次に、抵抗膜104上に、第2の電極106として例えば厚さ150nmのPt薄膜をスパッタリング法により形成する。
【0061】
次に、
図4Bに示すように、フォトリソグラフィー工程によって、フォトレジストによるマスク300を形成する。その後、
図4Cに示すように、マスク300を用いたドライエッチングによって、第1の電極103、抵抗膜104、及び第2の電極106を素子の形状に形成する。
【0062】
その後、
図4Dに示すように、絶縁膜102、第1の電極103、抵抗膜104、及び第2の電極106を覆うように絶縁膜107を形成する。そして、エッチングによって、絶縁膜107に第2の電極106の上面の一部に到達するビアホール107bを設ける。
【0063】
次に、
図4Eに示すように、絶縁膜107の上面及びビアホール107bの内部を充填するように導体膜108’を形成する。その後、
図4Fに示すように、CMP(Chemical Mechanical Polishing)によって絶縁膜107上の導体膜108’を除去してビアホール107b内にビア108を形成する。さらに新たな導体膜を絶縁膜107上に配置してパターニングすることによって、ビア108と接続する配線109を形成する。
【0064】
次に、
図4Gに示すように、エッチングによって、絶縁膜107に第2の電極106の上面の一部が露出する開口107aを設ける。
【0065】
その後、第1の電極103と第2の電極106との間に初期ブレイク電圧を印加することにより、抵抗膜104内に
図1Aに示す局所領域105を形成し、気体センサ100が完成する。
【0066】
[気体センサの変形例]
図5は、第1の実施形態の変形例に係る気体センサの一構成例を示す断面図である。以下、第1の実施形態の気体センサ100と異なる点についてのみ説明する。
【0067】
本変形例の気体センサ200は、抵抗膜204が、第1の電極103に接する第1の金属酸化物層204aと第2の電極106に接する第2の金属酸化物層204bとの2層を積層して構成される点で、第1の実施形態の気体センサ100と異なる。なお、抵抗膜204は、2層に限らず3層以上の金属酸化物層を積層してもよい。
【0068】
第1の金属酸化物層204a及び第2の金属酸化物層204b内には、電気的パルスの印加及び水素含有ガスに応じて酸素不足度が可逆的に変化する局所領域105を備えている。局所領域105は、少なくとも第2の金属酸化物層204bを貫通して第2の電極106と接して形成される。
【0069】
言い換えると、抵抗膜204は、少なくとも第1の金属酸化物を含む第1の金属酸化物層204aと、第2の金属酸化物を含む第2の金属酸化物層204bとの積層構造を含む。そして、第1の金属酸化物層204aは、第1の電極103と第2の金属酸化物層204bとの間に配置され、第2の金属酸化物層204bは、第1の金属酸化物層204aと第2の電極106との間に配置されている。
【0070】
第2の金属酸化物層204bの厚みは、第1の金属酸化物層204aの厚みより薄くてもよい。この場合、局所領域105が第1の電極103と接しない構造を容易に形成できる。第2の金属酸化物層204bの酸素不足度は、第1の金属酸化物層204aの酸素不足度より小さくてもよい。この場合、第2の金属酸化物層204bの抵抗値は、第1の金属酸化物層204aの抵抗値より高いため、抵抗膜204に印加された電圧の多くは第2の金属酸化物層204bに印加される。この構成は、例えば、初期ブレイク電圧を第2の金属酸化物層204bに集中させ、局所領域105の形成に必要な初期ブレイク電圧を低減するために役立つ。
【0071】
また、本開示において、第1の金属酸化物層204aと第2の金属酸化物層204bを構成する金属が同一である場合に、「酸素不足度」に代えて「酸素含有率」という用語を用いることがある。「酸素含有率が高い」とは、「酸素不足度が小さい」ことに対応し、「酸素含有率が低い」とは「酸素不足度が大きい」ことに対応する。
【0072】
ただし、後述するように、本実施の形態に係る抵抗膜204は、第1の金属酸化物層204aと第2の金属酸化物層204bとを構成する金属は同一である場合に限定されるものではなく、異なる金属であってもよい。すなわち、第1の金属酸化物層204aと第2の金属酸化物層204bとは異なる金属の酸化物であってもよい。
【0073】
第1の金属酸化物層204aを構成する第1の金属と、第2の金属酸化物層204bを構成する第2の金属とが同一である場合、酸素含有率は酸素不足度と対応関係にある。すなわち、第2の金属酸化物の酸素含有率が第1の金属酸化物の酸素含有率より大きいとき、第2の金属酸化物の酸素不足度は第1の金属酸化物の酸素不足度より小さい。
【0074】
抵抗膜204は、第1の金属酸化物層204aと第2の金属酸化物層204bとの界面近傍に、局所領域105を備える。局所領域105の酸素不足度は、第2の金属酸化物層204bの酸素不足度より大きく、第1の金属酸化物層204aの酸素不足度と異なる。
【0075】
第1の電極103と第2の電極106との間に初期ブレイク電圧を印加することによって、局所領域105が抵抗膜204内に形成される。初期ブレイク電圧により、第2の電極106と接し、第2の金属酸化物層204bを貫通して第1の金属酸化物層204aに一部が侵入し、第1の電極103と接していない局所領域105が形成される。
【0076】
このように構成された気体センサ200の水素含有ガスによる抵抗変化特性の一評価例について説明する。
【0077】
図6は、気体センサ200の評価に用いた評価システムの一例を示すブロック図である。
図6に示す評価システム900は、気体センサ200を格納する密閉容器910、検知電圧を生成する検知電源920、及び電流測定器930を備える。密閉容器910は、導入弁913、914を介して、それぞれ水素ボンベ911、窒素ボンベ912に接続されるとともに、排気弁915を介して内部のガスを排出可能に構成されている。
【0078】
図7は、気体センサ200の一評価例を示すグラフである。横軸は時間(a.u.)を表し、縦軸は気体センサ200に流れる電流値(a.u.)を表している。実験では、まず、密閉容器910内に導入した窒素ガス中に気体センサ200を置き、検知電圧を印加して電流測定を開始した。その後、密閉容器910内に水素ガスを導入し、さらに一定時間後に、導入ガスを水素ガスから窒素ガスに切り替えた。
【0079】
図7は、このときの結果を示しており、横軸に、窒素中、水素導入、及び窒素導入の3期間を示している。水素ガスの導入を開始してから、電流値が増加し始め、電流値が所定の閾値電流に到達することで水素ガスが検出される。水素ガスの導入開始から電流値が増加して所定の閾値電流に到達するまでの時間を、水素検出時間tと表す。水素検出後、電流値はさらに増加して飽和する。
【0080】
また、水素ガスを検出した後、導入ガスを水素ガスから窒素ガスに切り替えても、電流値は飽和したままで、再び低下することはなかった。すなわち、気体センサ200は、第2の電極106が水素原子を有する水素分子を含む気体(ここでは水素ガス)に接すると第1の電極103と第2の電極106との間の抵抗値が低下し、この低下の後に第2の電極106が水素原子を有しない気体(ここでは窒素ガス)に接しても抵抗値が低下したままの状態を維持する特性を有することが理解できる。
【0081】
本評価例においては、第1の電極103と第2の電極106との間にあらかじめ所定の電圧(リセット電圧)を印加することで局所領域105を高抵抗状態に設定した気体センサ200を用いた。
【0082】
水素含有ガスの監視動作では、第1の電極103と第2の電極106との間に0.6Vの検知電圧を印加し、水素ガスが検出され、電流値が飽和した状態で、第1の電極103と第2の電極106との間には約20μAの電流が流れた。
【0083】
従って、気体センサ200によれば、高々0.012mWの非常に小さい消費電力で、水素含有ガスを監視できることが分かる。この0.6Vの電圧は、第1の電極103と第2の電極106との間に常時印加するとしてもよい。
【0084】
なお、第1の電極103と第2の電極106との間に0.4Vの検知電圧を印加した場合、水素ガスによる抵抗変化が起こらず、水素ガスを検出できなかった。これは、0.4Vの検知電圧の印加では、局所領域105での発熱が第2の電極106の触媒作用を促進するためには不十分であり、水素ガスを検出可能とするには、0.6Vの検知電圧の印加が必要であったものと考えられる。この場合の0.6Vの検知電圧は、第2の電極106が水素原子を有する気体分子を含む気体に接すると第1の電極103と第2の電極106との間の抵抗値が低下する特性を活性化させる検知電圧の一例である。
【0085】
ここでの検知電圧は
図3に示した読み出し用電圧である。水素原子を起因とすること以外では気体センサ200の抵抗値が変化するのを防ぐ必要がある。
図3に示すように、気体センサ200に所定の大きさの正電圧を印加すると、気体センサ200の抵抗値は低抵抗から高抵抗に変化し、所定の大きさの負電圧を印加すると、気体センサ200の抵抗値は高抵抗から低抵抗に変化する。このため、検知電圧(読み出し用電圧)の絶対値は、抵抗値の変化を生じないようにするために、所定の大きさよりも小さい値にしなければならない。
【0086】
気体センサ200が、水素ガスを検出して電流値が増加して飽和した後は、水素ガスの濃度が減少しても再び電流値が低下することはない。そのため、気体センサ200を水素ガス検出前の高抵抗状態に戻すには、第1の電極103と第2の電極106との間に再度所定の大きさの正電圧(リセット電圧)を印加する必要がある。
【0087】
以上の結果から、発明者は、気体センサ200による水素含有ガスの検出メカニズムを以下のように推測する。
【0088】
第2の電極106に水素含有ガスが接すると、第2の電極106の触媒作用により、水素含有ガスから水素原子が解離する。解離された水素原子は、平衡状態を保とうとして、第2の電極106中を拡散して、局所領域105にまで到達する。
【0089】
局所領域105に到達した水素原子によって、微小な局所領域105中で還元反応が発生し、局所領域105内の酸素と、上記水素原子とが反応する。局所領域105中に新たに酸素欠陥が生じ、局所領域105中の酸素不足度が増加する。局所領域105中に数多くの酸素欠陥が生じることで、酸素欠陥から形成されるフィラメントが繋がりやすくなり、局所領域105の抵抗値が減少する。その結果、第1の電極103と第2の電極106との間を流れる電流が増加すると考えられる。
【0090】
なお、上述の動作は、気体センサ200に限られず、要部の構造が気体センサ200と実質的に等しい気体センサ100や他の気体センサでも生じると考えられる。また、上述の動作は、検出可能な気体は水素ガスに限られず、例えば、メタンやアルコールなどの各種の水素含有ガスについても生じると考えられる。
【0091】
以上の説明のように、本実施の形態に係る気体センサによれば、抵抗状態を検知するための電流だけで発熱し、別途のヒータで加熱することなく水素含有ガスを検出できる、優れた省電力性に優れた気体センサが得られる。
【0092】
また、第2の電極が水素原子を有する気体分子を含む気体に接すると第1の電極と第2の電極との間の抵抗値が低下し、この低下の後に第2の電極が水素原子を有しない気体に接しても抵抗値が低下したままの状態を維持することができる。
【0093】
[気体検出回路]
図8Aは、第1の実施形態の変形例に係る気体センサ200を含む気体検出回路1010の一例を示す回路図である。
【0094】
気体検出回路1010は、気体センサ200と電流測定器930とを直列に接続してなる測定回路1011と、検知電源920からなる電源回路1012とを備える。
【0095】
より詳細には、気体センサ200の第2の電極106は
図5に示すビア108と配線109を介して、検知電源920のプラス電位端子に接続されている。また、気体センサ200の第1の電極103は例えば配線(図示せず)等を介して電流測定器930の一端に接続されている。電流測定器930の他端は、検知電源920のマイナス電位端子に接続されている。以上の構成により、気体センサ200の第1の電極103と第2の電極106との間には、検知電源920によって所定の電圧が印加されている。
【0096】
気体検出回路1010では、気体センサ200に接続された電流測定器930において、水素ガスの導入開始から
図7に示した所定の閾値電流を超えた時点を水素検出の判定ポイントとする。すなわち、気体検出回路1010は、気体センサ200において、所定の閾値電流を超えた時点をもって水素を検出したと判定する。
【0097】
以上のように、本実施形態の気体センサによれば、水素検出を省電力で行うことが可能になる。なお、本実施形態においては水素ガスの場合の実験結果を説明したが、水素を含有するガス(例えば、アンモニアガスなど)においても同様な効果を確認することができた。
【0098】
また、上記では、水素を検出する例を示したが、本実施形態の気体センサは、水素を検出するだけでなく、水素を検出した状態を保持する(水素濃度が減少しても高抵抗状態が維持される)という特性を有する。したがって、本実施形態に係る気体センサを、水素プラント等に複数個設置しておくことで、過去に水素漏洩があったかどうかを調べるための水素漏洩記憶素子としても有効である。
【0099】
[リセット機能を有する気体検出回路]
図8Bは、気体センサ200を低抵抗状態から高抵抗状態へリセットすることができる気体検出回路の一例を示す回路図である。
図8Bの気体検出回路1020は、
図8Aに示した気体検出回路1010の電源回路1012を、切り替えスイッチ950とリセット電源940とを追加した電源回路1022に変更して構成される。
【0100】
気体検出回路1020では、気体センサ200および電流測定器930を用いて水素含有ガスを検出した後、切り替えスイッチ950をリセット電源940に接続する。リセット電源940にて気体センサ200にリセット電圧(例えば、1.5V)を印加することで、水素含有ガスにより低抵抗状態となっていた気体センサ200を電気的に高抵抗状態にリセットする。
【0101】
これにより、水素含有ガスの検出後に低抵抗状態となった気体センサ200を高抵抗状態にリセットすることで、水素含有ガスを繰り返し検出することが可能となる。
【0102】
なお、上述した気体検出回路1010、1020の効果は、気体センサ200を用いて構成された気体検出回路1010、1020に限られるものではない。気体センサ200に代えて、要部の構造が気体センサ200と実質的に等しい気体センサ100や他の気体センサを用いた場合でも同様の効果は得られる。
【0103】
また、気体センサを、第1の電極と第2の電極との間にリセット電圧を印加して高抵抗状態にリセットするタイミングは、水素含有ガスを検出した後だけには限られない。例えば、水素含有ガスを検出する前(特には、初回の検出前)にもリセットしてもよい。これにより、高抵抗状態の気体センサを用いて水素含有ガスを検出することで、抵抗値の低下をより明確に検出できるので、水素含有ガスの検出特性が向上する。
【0104】
[補足]
図8Aに示されるように、気体検出回路1010は、気体センサ200及び電流測定器930を含む測定回路1011と、電源回路1012とを含む。なお、気体検出回路1010は、本開示における「気体検出装置」の一例である。
【0105】
図5に示されるように、気体センサ200は、第1の電極103と、第1の電極103上に配置された抵抗膜204と、抵抗膜204の上に配置された第2の電極106とを備える。抵抗膜204は、本開示の「金属酸化物層」の一例である。抵抗膜204は、第1の金属酸化物層204aと、第2の金属酸化物層204bとを含む。抵抗膜204は、局所領域105と、局所領域105を囲むバルク領域とを含む。ここで、「局所領域105を囲む」とは、局所領域105の外周面を全て囲むことに限定されない。
図5において、バルク領域とは、第2の金属酸化物層204bのうち、局所領域105以外の領域である。局所領域105の酸素不足度は、バルク領域の酸素不足度よりも大きい。第1の金属酸化物層204aの酸素不足度は、バルク領域の酸素不足度よりも大きい。
図5において、局所領域105は、第2の電極106に接し、第2の金属酸化物層204bを貫通し、かつ、第1の電極103に接していない。
【0106】
図5において、絶縁膜107は開口107aを有している。開口107aにおいて、第2の電極106の上面の一部は絶縁膜107から露出している。第2の電極106の露出面は、気体に接触できる。
【0107】
水素原子を含有する気体が第2の電極106に接すると、局所領域105の抵抗値が低下し、抵抗膜204の抵抗値が低下し、気体センサ200の抵抗値が低下する。
【0108】
電源回路1012は、例えば、抵抗膜204の抵抗値が低下する前に、第1の電極103及び第2の電極106の間に所定の電圧を印加し、これにより、抵抗膜204の抵抗値を増大させる。例えば、抵抗膜204は、電圧によって高抵抗状態に設定され、その後、水素含有ガスによって低抵抗状態に遷移する。あるいは、電源回路1012は、例えば、抵抗膜204の抵抗値が低下した後に、第1の電極103及び第2の電極106の間に所定の電圧を印加し、これにより、抵抗膜204の抵抗値を増大させる。例えば、抵抗膜204は、水素含有ガスによって低抵抗状態に遷移し、その後、電圧によって高抵抗状態に設定される。あるいは、抵抗膜204は、電圧によって高抵抗状態に設定され、その後、水素含有ガスによって低抵抗状態に遷移した後に、さらに、電圧によって高抵抗状態に再設定されてもよい。
【0109】
図8Bにおいて、リセット電源940は、本開示における「第1の電源回路」の一例であり、検知電源920は、本開示における「第2の電源回路」の一例である。本開示における「電源回路」は、例えば、電源そのものであってもよく、外部電源の電圧を所望の電圧に変換する変換回路であってもよい。
【0110】
(実施形態の概要)
1つの態様に係る気体センサは、主面同士が対向して配置された第1の電極及び第2の電極と、前記第1の電極の前記主面と前記第2の電極の前記主面とに接して配置された金属酸化物層と、前記金属酸化物層の内部に前記第2の電極と接して配置されかつ前記金属酸化物層に比べて酸素不足度が大きい局所領域と、前記第1の電極、前記第2の電極及び前記金属酸化物層を覆う絶縁膜と、を備え、前記第2の電極の前記主面に対向する他面の少なくとも一部は前記絶縁膜に覆われることなく露出しており、前記第2の電極が水素原子を有する気体分子を含む気体に接すると前記第1の電極と前記第2の電極との間の抵抗値が低下し、当該低下の後に前記第2の電極が水素原子を有しない気体に接しても前記抵抗値が低下したままの状態を維持する特性を有するものである。
【0111】
このような構成によれば、第1の電極と第2の電極との間を流れる電流は酸素不足度が大きい局所領域に集中することになる。その結果、少ない電流で、前記局所領域の温度を上昇させることができる。
【0112】
前記局所領域が、前記第1の電極と前記第2の電極との間に流れる電流によって発熱することで、前記第2の電極の前記局所領域と接した部分において前記水素分子から水素原子が解離され、解離された水素原子が、前記金属酸化物層の前記局所領域内の酸素原子と結合することで、前記第1の電極と前記第2の電極との間の抵抗値が低下する。
【0113】
より詳細には、局所領域の温度が上昇すると第2の電極の表面の温度も上昇する。温度上昇に従って、第2の電極の触媒作用によって第2の電極で水素分子から水素原子が解離する効率が向上する。
【0114】
前記絶縁膜を通過した水素分子が第2の電極に接触すると、前記水素分子から水素原子が解離し、解離した水素原子は前記第2の電極中を拡散して前記局所領域にまで到達する。そして、前記局所領域に存在する金属酸化物の酸素と結合して水(H
2O)となることで、前記局所領域の酸素不足度がさらに増大する。これによって、局所領域は電流が流れやすくなり、第1の電極と第2の電極との間の抵抗値が低下する。
【0115】
これにより、金属酸化物層の内部に形成される局所領域での自己発熱と気体感応性とを利用して、ヒータで加熱することなく水素含有ガスを検出でき、省電力性に優れた気体センサが得られる。
【0116】
また、水素含有ガスを検出することで低下した前記抵抗値が維持される特性により、検出結果を記憶する気体センサが得られる。
【0117】
また、前記金属酸化物層は、第1の金属酸化物で構成される第1の金属酸化物層と、前記第1の金属酸化物に比べて酸素不足度が小さい第2の金属酸化物で構成される第2の金属酸化物層とを積層してなり、前記第1の金属酸化物層は前記第1の電極に接し、前記第2の金属酸化物層は前記第2の電極に接しており、前記局所領域は、少なくとも前記第2の金属酸化物層を貫通して前記第2の電極と接して形成され、かつ前記第2の金属酸化物層に比べて酸素不足度が大きくてもよい。
【0118】
このような構成によれば、前記金属酸化物層に、抵抗変化特性に優れた積層構造を採用することで、水素含有ガスの検出特性に優れた気体センサが得られる。
【0119】
また、前記第2の電極は、前記水素原子を前記気体分子から解離させる触媒作用を有する材料で構成されていてもよい。
【0120】
このような構成によれば、前記第2の電極の前記局所領域と接した部分において前記水素分子から水素原子が解離され、解離された水素原子が、前記金属酸化物層の前記局所領域内の酸素原子と結合することで、前記第1の電極と前記第2の電極との間の抵抗値が低下する。
【0121】
また、前記第2の電極は、白金、パラジウム、又はイリジウム、若しくは、白金、パラジウム、及びイリジウムのうちの少なくとも1つを含む合金で構成されていてもよい。
【0122】
このような構成によれば、前記第2の電極は、白金又はパラジウムの触媒作用により、前記水素分子から水素原子を解離させることができる。
【0123】
また、前記気体センサは、前記第1の電極と前記第2の電極との間に検知電圧が印加されたときに、前記第1の電極と前記第2の電極との間に流れる電流を測定する測定回路を備えてもよい。
【0124】
このような構成によれば、前記電流測定器で測定される電流が増加することをもって、前記水素含有ガスを検出することができる。
【0125】
また、前記金属酸化物層は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加される電圧に基づいて高抵抗状態と前記高抵抗状態に比べて抵抗値が低い低抵抗状態とに可逆的に遷移してもよい。
【0126】
このような構成によれば、前記金属酸化物層の抵抗状態を、水素含有ガスによる遷移とは別に、電気的に遷移させることができる。例えば、前記金属酸化物層を、電気的に高抵抗状態に設定してから、前記金属酸化物層に検査対象の気体を接触させてもよく、これにより、抵抗値の低下が明確に検出できるようになり、水素含有ガスの検出特性が向上する。
【0127】
また、前記金属酸化物層は、前記第2の電極に水素原子を有する気体分子を含む気体が接する前に、前記第1の電極と前記第2の電極との間にリセット電圧を印加され高抵抗状態に設定されていてもよい。
【0128】
このような構成によれば、電気的に高抵抗状態に設定された前記金属酸化物層における抵抗値の低下を検出するので、抵抗値の低下が明確に検出できるようになり、水素含有ガスの検出特性が向上する。
【0129】
また、前記金属酸化物層は、前記第2の電極が水素原子を有する気体分子を含む気体に接することで前記第1の電極と前記第2の電極との間の抵抗値が低下した後、再度前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記リセット電圧を印加され高抵抗状態に設定されてもよい。
【0130】
このような構成によれば、前記金属酸化物層が、水素含有ガスを検出した後で低抵抗状態に維持される場合でも、電気的に高抵抗状態にリセットすることによって、再び水素含有ガスを検出することが可能になる。
【0131】
また、前記気体センサは、前記第1の電極と前記第2の電極との間に流れる電流を測定するための検知電圧を生成する検知電源と、前記金属酸化物層を高抵抗状態に設定するためのリセット電圧を生成するリセット電源と、前記検知電源と前記リセット電源とを切り替えて、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、前記検知電圧及び前記リセット電圧の何れか一方を選択的に印加する切り替えスイッチと、を有する電源回路を備えてもよい。
【0132】
このような構成によれば、電流測定及び高抵抗化(リセット)のための各電源を備えるモジュール部品として、利便性が高い気体センサが得られる。
【0133】
また、前記検知電圧の絶対値は、前記リセット電圧の絶対値よりも小さくてもよい。
【0134】
このような構成によれば、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、電流測定及び高抵抗化(リセット)のために適した最小限の電圧を印加することにより、省電力性に優れた気体センサが得られる。
【0135】
また、前記第2の電極が水素原子を有する気体分子を含む気体に接すると前記第1の電極と前記第2の電極との間の抵抗値が低下する前記特性を活性化させる電圧を、前記第1の電極と前記第2の電極との間に常時印加する電源回路を備えてもよい。
【0136】
このような構成によれば、前記気体センサの省電力性を活かして、水素含有ガスの漏洩をわずかな電力で監視し続けることができる。
【0137】
また、前記金属酸化物層は、遷移金属酸化物またはアルミニウム酸化物で構成されていてもよい。
【0138】
このような構成によれば、前記金属酸化物層を、抵抗変化特性に優れた遷移金属酸化物またはアルミニウム酸化物で構成することで、水素含有ガスの検出特性に優れた気体センサが得られる。
【0139】
また、前記遷移金属酸化物は、タンタル酸化物、ハフニウム酸化物、またはジルコニウム酸化物の何れかであってもよい。
【0140】
このような構成によれば、前記遷移金属酸化物として抵抗変化特性に優れたタンタル酸化物、ハフニウム酸化物、及びジルコニウム酸化物を用いることで、水素含有ガスの検出特性に優れた気体センサが得られる。
【0141】
また、前記局所領域が、前記第1の電極と前記第2の電極との間に流れる電流によって発熱することで、前記第2の電極の前記局所領域と接した部分において前記気体分子から水素原子が解離され、解離された水素原子が、前記金属酸化物層の前記局所領域内の酸素原子と結合することで、前記第1の電極と前記第2の電極との間の抵抗値が低下してもよい。
【0142】
このような構成によれば、第1の電極と第2の電極との間を流れる電流は酸素不足度が大きい局所領域に集中することになる。その結果、少ない電流で、前記局所領域の温度を上昇させることができる。
【0143】
前記局所領域が、前記第1の電極と前記第2の電極との間に流れる電流によって発熱することで、前記第2の電極の前記局所領域と接した部分において前記水素分子から水素原子が解離され、解離された水素原子が、前記金属酸化物層の前記局所領域内の酸素原子と結合することで、前記第1の電極と前記第2の電極との間の抵抗値が低下する。
【0144】
より詳細には、局所領域の温度が上昇すると第2の電極の表面の温度も上昇する。温度上昇に従って、第2の電極の触媒作用によって第2の電極で水素原子を有する気体分子から水素原子が解離する効率が向上する。
【0145】
前記気体分子が第2の電極に接触すると、前記水素分子から水素原子が解離し、解離した水素原子は前記第2の電極中を拡散して前記局所領域にまで到達する。そして、前記局所領域に存在する金属酸化物の酸素と結合して水となることで、前記局所領域の酸素不足度がさらに増大する。これによって、局所領域は電流が流れやすくなり、第1の電極と第2の電極との間の抵抗値が低下する。
【0146】
これにより、金属酸化物層の内部に形成される局所領域での自己発熱と気体感応性とを利用して、ヒータで加熱することなく水素含有ガスを検出でき、省電力性に優れた気体センサが得られる。
【0147】
一態様に係る水素検出方法は、主面同士が対向して配置された第1の電極及び第2の電極と、前記第1の電極の前記主面と前記第2の電極の前記主面とに接して配置された金属酸化物層と、を備え、前記第2の電極が水素原子を有する気体分子を含む気体に接すると前記第1の電極と前記第2の電極との間の抵抗値が低下し、当該低下の後に前記第2の電極が水素原子を有しない気体に接しても前記抵抗値が低下したままの状態を維持する特性を有する気体センサを用いた水素検出方法であって、前記第2の電極に水素原子を有する気体分子を含む気体を接するようにし、前記第1の電極と前記第2の電極との間の抵抗値が低下することをもって前記水素原子を有する気体分子を検出し、前記水素原子を有する気体分子により前記第1の電極と前記第2の電極との間の抵抗値が低下した後、前記第1の電極と前記第2の電極との間にリセット電圧を印加して、前記第1の電極と前記第2の電極との間の抵抗値を低下前の高抵抗状態にリセットするものである。
【0148】
このような方法によれば、抵抗状態を検知するための電流だけで発熱し、別途のヒータで加熱することなく水素含有ガスを検出する前記気体センサにより、省電力性に優れた水素検出が可能になる。
【0149】
また、前記金属酸化物層が、水素含有ガスを検出した後で低抵抗状態に維持される場合でも、電気的に高抵抗状態にリセットすることによって、再び水素含有ガスを検出することが可能になる。