(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電源回路は、さらに、前記測定回路が電流を測定する前に、前記複数の気体センサ素子の前記一部に所定の電圧を印加して、前記複数の気体センサ素子の前記一部の抵抗値を増大させる、
請求項6に記載の気体センサ装置。
前記所定の電圧は、第1の極性を有する第1の電圧パルスと、前記第1の極性とは反対の第2の極性を有する第2の電圧パルスと、前記第1の極性を有する第3の電圧パルスとをこの順で含む、
請求項7に記載の気体センサ装置。
前記複数の気体センサ素子のそれぞれにおいて、前記金属酸化物層は、第1の導電層に接し、前記バルク領域よりも大きい酸素不足度を有する第1の金属酸化物層と、第2の導電層に接し、かつ、前記バルク領域を含む第2の金属酸化物層とを備え、
前記複数の気体センサ素子のそれぞれにおいて、前記局所領域は、前記第2の導電層に接し、かつ、前記第2の金属酸化物層を貫通する、
請求項1から10のいずれか一項に記載の気体センサ装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
本発明者らが鋭意検討を行なった結果、従来の気体センサにおいて、次の課題を見出した。従来の気体センサでは水素原子を有する気体を検知する感度の向上のために、気体検出素子を100℃以上に加熱している。そのため、従来の気体センサの消費電力は、最小のものでも100mW前後である。従って、気体センサを常時ON状態で使用する場合、消費電力が非常に大きくなる課題がある。
【0011】
この課題の解決に向けて、本発明者らは、新規の気体センサ素子を見出した。この気体センサ素子は、第1の導電層及び第2の導電層と、金属酸化物層と、局所領域と、絶縁膜と、を備える。第1の導電層及び第2の導電層は、主面同士が対向して配置される。金属酸化物層は、第1の導電層の主面と第2の導電層の主面とに接して配置される。局所領域は、金属酸化物層の内部に第2の導電層と接して配置され、かつ、金属酸化物層に比べて酸素不足度が大きい。絶縁膜は、第1の導電層、第2の導電層及び金属酸化物層を覆うとともに、第2の導電層の主面に対向する他面の少なくとも一部は絶縁膜に覆われることなく露出している。
【0012】
この気体センサ素子によれば、例えばヒータで加熱することなく、省電力で水素含有ガスを検出できる。
【0013】
本発明者らは、この気体センサ素子の省電力性を活かしながら、検出感度を向上させることができる気体センサを検討した。その結果、以下に説明される気体センサが想到された。
【0014】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
なお、図面において、実質的に同一の構成、動作、および効果を表す要素については、同一の符号を付し、説明を省略する。また、以下において記述される数値、材料、組成、形状、成膜方法、構成要素の配置及び接続関係などは、すべて本開示の実施の形態を具体的に説明するための単なる例示であり、本開示はこれらに限定されない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0016】
(第1の実施形態)
図1Aは、第1の実施形態に係る気体センサの要部をなす気体センサセルアレイの等価回路図である。
【0017】
図1Aに示されるように、気体センサセルアレイ10は、複数の気体センサセル100と、複数の第1配線131と、複数の第2配線132と、複数の第3配線133と、を備える。複数の気体センサセル100、複数の第1配線131、複数の第2配線132、および複数の第3配線133は、単一の基板上に配置されていてもよい。
【0018】
複数の気体センサセル100の各々は、導通状態と非導通状態とを切り替え可能な選択素子110と、水素原子を有する気体分子を含む気体に感応して抵抗値が低下する気体センサ素子120と、を直列に接続してなる。複数の気体センサセル100は、複数の第1配線131と、複数の第2配線132と、複数の第3配線133とを介して、互いに電気的に接続されている。
【0019】
選択素子110は、第1端子1101と、第2端子1102と、制御端子1103とを有し、制御端子1103に印加される電気信号に応じて、第1端子1101と第2端子1102との間の導通状態と非導通状態とが切り替わる。選択素子110は、例えばNMOSトランジスタで構成されてもよく、その場合、第1端子1101と第2端子1102とは、ソース/ドレイン電極に対応し、制御端子1103はゲート電極に対応する。
【0020】
気体センサ素子120は、第1端子1201と、第2端子1202とを有し、水素原子を有する分子を含む気体に感応して、第1端子1201と第2端子1202との間の抵抗値が低下する。気体センサ素子120の詳細については後述する。
【0021】
気体センサセル100は、選択素子110の第2端子1102と気体センサ素子120の第1端子1201とを接続して、つまり、選択素子110と気体センサ素子120とを直列に接続して、構成されている。
【0022】
複数の気体センサセル100は、任意に選択される一部の気体センサセル100において所定の動作が実行できる態様で、互いに電気的に接続されていればよく、具体的な接続の形態は特には限定されない。前記所定の動作には、気体センサ素子120の抵抗状態のセンシング動作が含まれ、さらに、気体センサ素子120の抵抗状態の設定動作が含まれてもよい。
【0023】
例えば、
図1Aに示されるように、気体センサセルアレイ10において、複数の気体センサセル100は行列状に配置され、第1配線131と第2配線132とは行ごとに設けられ、第3配線133は列ごとに設けられていてもよい。選択素子110の第1端子1101および気体センサ素子120の第2端子1202は、気体センサセル100が配置されている行に設けられた第1配線131および第2配線132に、それぞれ接続されている。また、選択素子110の制御端子1103は、気体センサセル100が配置されている列に設けられた第3配線133に接続されている。
【0024】
第1配線131、第2配線132、及び第3配線133は、ソース線SLi(i=0、1、2…)、ビット線BLi(i=0、1、2…)、及びワード線WLj(j=0、1、2、3…)に、それぞれ対応する。
【0025】
上述のように構成された気体センサセルアレイ10によれば、ソース線及びビット線を介して所望の行の気体センサセル100に一括して動作電圧を印加しつつ、ワード線を介して所望の列の選択素子110を導通状態に制御することができる。これにより、複数の気体センサセル100の中から選択される一部の(例えば、特定の行列に位置するただ1個の)気体センサセル100を動作させることができる。
【0026】
なお、複数の気体センサセル100を接続するための構成は、
図1Aの例には限られない。
【0027】
図1Bは、第1の実施形態に係る気体センサの他の等価回路図である。
図1Bに示されるように、気体センサセルアレイ20において、複数の気体センサセル100は行列状に配置され、第1配線131と第3配線133とは行ごとに設けられ、第2配線132は列ごとに設けられていてもよい。選択素子110の第1端子1101は、気体センサセル100が配置されている行に設けられた第1配線131に接続されている。気体センサ素子120の第2端子1202は、気体センサセル100が配置されている列に設けられた第2配線132に接続されている。また、選択素子110の制御端子1103は、気体センサセル100が配置されている行に設けられた第3配線133に接続されている。
【0028】
第1配線131、第2配線132、及び第3配線133は、ソース線SLi(i=0、1、2…)、ビット線BLj(j=0、1、2、3…)、及びワード線WLi(i=0、1、2…)に、それぞれ対応する。
【0029】
上述のように構成された気体センサセルアレイ20によっても、ソース線及びビット線を介して所望の行列位置に配置された気体センサセル100に動作電圧を印加しつつ、ワード線を介して選択素子110を導通状態に制御することができる。これにより、複数の気体センサセル100の中から選択される一部の(例えば、特定の行列に位置するただ1個の)気体センサセル100を動作させることができる。
【0030】
図1Cは、第1の実施形態に係る気体センサの他の等価回路図である。
図1Cに示されるように、気体センサセルアレイ30において、複数の気体センサセル100は行列状に配置され、第1配線131と第2配線132とは行ごとに設けられ、第3配線133は列ごとに設けられていてもよい。選択素子110の第1端子1101および気体センサ素子120の第2端子1202は、気体センサセル100が配置されている行に設けられた第1配線131および第2配線132に、それぞれ接続されている。また、選択素子110の制御端子1103は、気体センサセル100が配置されている列に設けられた第3配線133に接続されている。
【0031】
第1配線131、第2配線132、及び第3配線133は、ビット線BLi(i=0、1、2…)、ソース線SLi(i=0、1、2…)、及びワード線WLj(j=0、1、2、3…)に、それぞれ対応する。
【0032】
上述のように構成された気体センサセルアレイ30によっても、ソース線及びビット線を介して所望の行列位置に配置された気体センサセル100に動作電圧を印加しつつ、ワード線を介して選択素子110を導通状態に制御することができる。これにより、複数の気体センサセル100の中から選択される一部の(例えば、特定の行列に位置するただ1個の)気体センサセル100を動作させることができる。
【0033】
気体センサセルアレイ10、20、30によれば、例えば、外部の制御回路の制御下で、一部の気体センサセル100を順次選択しながら、選択された気体センサセル100において、抵抗状態の設定動作及びセンシング動作を行うことができる。これにより、瞬時的に大きな動作電力を消費することなく、全ての気体センサセル100において抵抗状態の設定動作及びセンシング動作を行うことができるので、低消費電力と高感度とを両立するために適した気体センサセルアレイが得られる。
【0034】
次に、気体センサセルの構造について説明する。
【0035】
図2は、気体センサセルアレイ10の気体センサセル100を含む部分の断面図である。
図2は、
図1Aに示される部分11の断面構造の一例であり、気体センサセル100と共に各種の配線を構成する導体が示されている。気体センサセル100は、具体的に、基板101上に構成された選択素子110としてのトランジスタと、基板101の上方に構成された気体センサ素子120とで構成される。
【0036】
気体センサセルアレイ10の部分11は、基板101、絶縁層102、第1の導電層103、抵抗膜104、局所領域105、第2の導電層106、第3の導電層107、ソース/ドレイン領域111、112、第1配線131、第2配線132、第3配線133、ビア141、142、下部配線143、及びコンタクトプラグ144、145を有している。ここで、抵抗膜104は、金属酸化物層の一例である。
【0037】
基板101には、ソース/ドレイン領域111、112が形成されている。ソース/ドレイン領域111、112は、例えば、N+拡散領域であってもよい。第3配線133は、基板101上のソース/ドレイン領域111、112の間に、図示していない酸化物絶縁膜を介在して配置される。ソース/ドレイン領域111、112、及びゲート電極として機能する第3配線133により、選択素子110としてのN型MOSトランジスタが構成される。基板101には、接地電位が印加される。
【0038】
第3配線133は、例えば、ポリシリコンで構成されてもよい。また、基板101は、例えば、シリコン単結晶基板または半導体基板で構成されてもよいが、これらに限定されるわけではない。抵抗膜104は比較的低い基板温度で形成することが可能であるため、例えば、樹脂材料からなるフレキシブル基板などの上に抵抗膜104を形成することもできる。フレキシブル基板の場合、選択素子110は薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)によって構成される。
【0039】
絶縁層102は、基板101上に配置され、第1の導電層103、抵抗膜104、局所領域105、第2の導電層106、第3の導電層107、第1配線131、第3配線133、ビア141、142、下部配線143、及びコンタクトプラグ144、145は、絶縁層102で覆われている。
【0040】
第1の導電層103と第2の導電層106とは、主面同士を対向して配置されている。抵抗膜104は、第1の導電層103の主面と第2の導電層106の主面とに接して配置されている。
【0041】
絶縁層102および第3の導電層107には、第2の導電層106を検査対象である気体に接触させるための開口109が設けられている。言い換えると、絶縁層102は、第1の導電層103、第2の導電層106、第3の導電層107、及び抵抗膜104を覆いつつ、第2の導電層106の上面(上記した主面に対向する他面)の少なくとも一部は絶縁層102および第3の導電層107に覆われることなく露出している。
【0042】
第1の導電層103、抵抗膜104、局所領域105、第2の導電層106、及び第3の導電層107の積層体により、気体センサ素子120が構成される。
【0043】
第2の導電層106は、例えば、白金またはパラジウムなど触媒作用を有する材料で構成されてもよい。第3の導電層107は、例えば、窒化チタン(TiN)などの導電材料で構成されてもよい。
【0044】
抵抗膜104は、第1の導電層103と第2の導電層106との間に介在する。抵抗膜104の抵抗値は、第1の導電層103と第2の導電層106との間に与えられた電気的信号に基づいて、可逆的に変化する。具体的に、抵抗膜104の抵抗状態は、第1の導電層103と第2の導電層106との間に与えられた電圧(電位差)に応じて、高抵抗状態と低抵抗状態とを可逆的に遷移する。また、抵抗膜104の抵抗状態は、第2の導電層106に接触した水素含有ガスに応じて、高抵抗状態から低抵抗状態へ遷移する。
【0045】
局所領域105は、抵抗膜104と同一の金属酸化物で構成されており、抵抗膜104の内部に第2の導電層106と接して配置され、第1の導電層103に接していない。局所領域105の酸素不足度は、その周囲(すなわち抵抗膜104のバルク領域)の酸素不足度より大きい。局所領域105の酸素不足度は、第1の導電層103と第2の導電層106との間に与えられる電気的信号の印加に応じて可逆的に変化する。また、局所領域105は、第2の導電層106に接触した水素含有ガスに応じて、酸素不足度が小さい状態から酸素不足度が大きい状態へ変化する。
【0046】
局所領域105は、酸素欠陥サイトから構成されるフィラメント(導電パス)がその内部で発生し消失すると考えられる微小な領域である。抵抗膜104における抵抗変化現象は、局所領域105中で、酸化還元反応が起こって前記フィラメントが発生し消失することにより、抵抗値が変化する現象と考えられる。
【0047】
なお、本開示において、金属酸化物の「酸素不足度」とは、当該金属酸化物と同じ元素から構成される化学量論的組成の酸化物における酸素の量に対する、当該金属酸化物における酸素の不足量の割合をいう(ここで、酸素の不足量とは、化学量論的組成の金属酸化物における酸素の量から当該金属酸化物における酸素の量を引いた値である)。もし、当該金属酸化物と同じ元素から構成される化学量論的組成の金属酸化物が複数存在しうる場合、当該金属酸化物の酸素不足度は、それらの化学量論的組成の金属酸化物のうち最も高い抵抗値を有する1つに基づいて定義される。化学量論的組成の金属の酸化物は、他の組成の金属の酸化物と比べて、より安定でありかつより高い抵抗値を有している。
【0048】
例えば、金属がタンタル(Ta)の場合、上述の定義による化学量論的組成の酸化物はTa
2O
5であるので、TaO
2.5と表現できる。TaO
2.5の酸素不足度は0%であり、TaO
1.5の酸素不足度は、酸素不足度=(2.5−1.5)/2.5=40%となる。また、酸素過剰の金属の酸化物は、酸素不足度が負の値となる。なお、本開示では、特に断りのない限り、酸素不足度は正の値、0、又は負の値をとり得る。
【0049】
酸素不足度の小さい酸化物は化学量論的組成の酸化物により近いため抵抗値が高く、酸素不足度の大きい酸化物は酸化物を構成する金属により近いため抵抗値が低い。
【0050】
「酸素含有率」とは、総原子数に占める酸素原子の比率である。例えば、Ta
2O
5の酸素含有率は、総原子数に占める酸素原子の比率(O/(Ta+O))であり、71.4atm%となる。従って、酸素不足型のタンタル酸化物は、酸素含有率は0より大きく、71.4atm%より小さいことになる。
【0051】
局所領域105は、第1の導電層103と第2の導電層106との間に初期ブレイク電圧を印加することによって、抵抗膜104内に形成される。言い換えると、初期ブレイク電圧とは、局所領域105を形成するために、第1の導電層103と第2の導電層106との間に印加される電圧である。初期ブレイク電圧は、書き込み電圧より絶対値が大きい電圧であってもよい。書き込み電圧とは、抵抗膜104を高抵抗状態と低抵抗状態とに可逆的に遷移させるために、第1の導電層103と第2の導電層106との間に印加される電圧である。あるいは、初期ブレイク電圧は、前記設定用電圧より絶対値が小さい電圧であってもよい。この場合は、初期ブレイク電圧を繰り返し印加するか、または所定時間連続して印加してもよい。初期ブレイク電圧の印加により、
図2に示すように、第2の導電層106と接し、第1の導電層103と接していない局所領域105が形成される。
【0052】
局所領域105は、電流を流すために必要なフィラメントに見合う微小な大きさである。局所領域105におけるフィラメントの形成は、パーコレーションモデルを用いて説明することができる。
【0053】
パーコレーションモデルとは、局所領域105中の酸素欠陥サイトのランダムな分布を仮定し、酸素欠陥サイト等の密度がある閾値を越えると酸素欠陥サイトのつながりが形成される確率が増加するという理論に基づくモデルである。
【0054】
パーコレーションモデルによれば、フィラメントは、局所領域105中の複数の酸素欠陥サイトがつながることにより構成され、抵抗膜104における抵抗変化は、局所領域105における酸素欠陥サイトの発生及び消失を通じて発現する。
【0055】
ここで、「酸素欠陥」とは、この金属酸化物中で酸素が化学量論的組成から欠損していることを意味し、「酸素欠陥サイトの密度」は、酸素不足度とも対応している。つまり、酸素不足度が大きくなると、酸素欠陥サイトの密度も大きくなる。
【0056】
局所領域105は、気体センサセル100の抵抗膜104に1ケ所のみ形成されてもよい。抵抗膜104に形成されている局所領域105の数は、例えば、EBAC(Electron Beam Absorbed Current)解析によって確認することができる。
【0057】
抵抗膜104内に局所領域105が存在する場合、第1の導電層103と第2の導電層106との間に電圧を印加した際、抵抗膜104内の電流は局所領域105に集中的に流れる。
【0058】
局所領域105のサイズは小さい。そのため、局所領域105は、例えば、抵抗値を読み出すときに流れる数十μA程度の電流によって発熱し、この発熱がかなりの温度上昇を引き起こす。数十μA程度の電流が流れるとき、その消費電力は0.1mW未満である。
【0059】
そこで、第2の導電層106を触媒作用のある金属(例えばPt)で構成され、局所領域105は第2の導電層106に接する。これらの構成によれば、局所領域105における発熱によって第2の導電層106が加熱され、水素含有ガスから水素原子が効率よく解離する。
【0060】
検査対象である気体中に水素含有ガスがあるとき、第2の導電層106において、水素含有ガスから水素原子が解離され、解離された水素原子は局所領域105内の酸素原子と結合し、その結果、局所領域105の抵抗値が低下する。
【0061】
このようにして、気体センサ素子120は、第2の導電層106が水素含有ガスに接触すると第1の導電層103と第2の導電層106との間の抵抗値が低下する特性、すなわち、気体感応性を有する。当該特性により、検査対象である気体が第2の導電層106に接触したとき、第1の導電層103と第2の導電層106との間の抵抗値の低下を検出することによって、気体に含まれる水素含有ガスを検出することができる。当該特性は、局所領域105での発熱により活性化される。
【0062】
なお、局所領域105が高抵抗状態及び低抵抗状態の何れの状態であっても、水素含有ガスが第2の導電層106に接触することで抵抗値のさらなる低下が生じる。そのため、水素含有ガスの検出は、局所領域105が高抵抗状態及び低抵抗状態の何れの状態にある気体センサ素子120によっても可能である。ただし、抵抗値の低下をより明確に検出できるように、局所領域105をあらかじめ電気的に高抵抗状態に設定した気体センサ素子120を用いてもよい。
【0063】
ここで、電圧印加によって気体センサ素子120の抵抗状態を設定する動作にについて説明する。
【0064】
図3は、気体センサ素子120の電圧印加による抵抗変化特性を示す図である。
図3は、気体センサ素子120に対し、初期ブレイク電圧パルス、正電圧パルス、及び負電圧パルスを印加したときに見られる抵抗変化の一例を示している。
【0065】
図3に示すように、気体センサ素子120の抵抗値が初期抵抗値RI(高抵抗状態における抵抗値HRより高い値)である場合、初期ブレイク電圧を第1の導電層103と第2の導電層106との間に印加する。これにより、局所領域105が形成され、抵抗値が減少する。その後、気体センサ素子120の第1の導電層103と第2の導電層106との間に、正電圧パルスと負電圧パルスを交互に印加すると、抵抗膜104の抵抗値が可逆的に変化する。当該正電圧パルスと負電圧パルスは、例えば、振幅が気体センサ素子120の抵抗状態を変化させ得る所定のしきい値以上であり、パルス幅が100nsで、かつ極性が異なる電圧パルスであってもよい。当該正電圧パルスと負電圧パルスは、設定用電圧の一例である。
【0066】
具体的に、設定用電圧として正電圧パルスを第1の導電層103と第2の導電層106との間に印加した場合、抵抗膜104の抵抗値が低抵抗値LRから高抵抗値HRへ増加する。他方、設定用電圧として負電圧パルスを導電層間に印加した場合、抵抗膜104の抵抗値が高抵抗値HRから低抵抗値LRへ減少する。なお、電圧パルスの極性は、第1の導電層103の電位を基準として第2の導電層106の電位が高い場合が“正”であり、第1の導電層103の電位を基準として第2の導電層106の電位が低い場合が“負”である。
【0067】
このような電圧印加による抵抗変化特性を利用して、水素含有ガスの監視を開始する前に、第1の導電層103と第2の導電層106との間に正の電圧パルスを印加することにより、高抵抗状態(HR)に設定した気体センサセル100を用いて水素含有ガスを検出できる。これにより、低抵抗状態(LR)の気体センサセル100を用いて水素含有ガスを検出する場合と比べて、抵抗値の低下をより明確に検出できるので、水素含有ガスの検出特性が向上する。
【0068】
なお、気体センサ素子120の抵抗値を読み出すときは、抵抗膜104の抵抗状態を変化させない小振幅の電圧パルスを気体センサ素子120に印加し、気体センサ素子120に流れる電流を測定する。当該電圧パルスの振幅は、例えば、前記設定用電圧の振幅よりも小さい。当該小振幅の電圧パルスは、センシング用電圧の一例である。
【0069】
次に、安定的な抵抗変化特性を得るための気体センサ素子120の細部について説明する。
【0070】
抵抗膜104は、酸素不足型の金属の酸化物から構成される。当該金属の酸化物の母体金属は、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の遷移金属と、アルミニウム(Al)とから少なくとも1つ選択されてもよい。遷移金属は複数の酸化状態をとることができるため、異なる抵抗状態を酸化還元反応により実現することが可能である。ここで、酸素不足型の金属の酸化物とは、同一の金属元素を含有する化学量論的組成の金属酸化物に比べて、酸素不足度が大きい金属酸化物である。化学量論的組成の金属酸化物が典型的に絶縁体であるのに対し、酸素不足型の金属酸化物は典型的に半導体的な特性を有する。酸素不足型の金属の酸化物を抵抗膜104に用いることで、気体センサ素子120は、再現性がよくかつ安定した抵抗変化動作を実現できる。
【0071】
例えば、抵抗膜104を構成する金属酸化物としてハフニウム酸化物を用いる場合、その組成をHfO
xとした場合にxが1.6以上である場合に、抵抗膜104の抵抗値を安定して変化させることができる。この場合、ハフニウム酸化物の膜厚は、3〜4nmとしてもよい。
【0072】
また、抵抗膜104を構成する金属酸化物としてジルコニウム酸化物を用いる場合、その組成をZrO
xとした場合にxが1.4以上である場合に、抵抗膜104の抵抗値を安定して変化させることができる。この場合、ジルコニウム酸化物の膜厚は、1〜5nmとしてもよい。
【0073】
また、抵抗膜104を構成する金属酸化物としてタンタル酸化物を用いる場合、その組成をTaO
xとした場合にxが2.1以上である場合に、抵抗膜104の抵抗値を安定して変化させることができる。
【0074】
上記の各金属酸化物層の組成についてはラザフォード後方散乱法を用いて測定できる。
【0075】
第1の導電層103および第2の導電層106の材料としては、例えば、Pt(白金)、Ir(イリジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、W(タングステン)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、TiN(窒化チタン)、TaN(窒化タンタル)およびTiAlN(窒化チタンアルミニウム)などから選択される。
【0076】
具体的に、第2の導電層106は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)など、水素原子を有する気体分子から水素原子を解離する触媒作用を有する材料で構成する。また、第1の導電層103は、例えば、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)など、金属酸化物を構成する金属と比べて標準電極電位が、より低い材料で構成してもよい。標準電極電位は、その値が高いほど酸化しにくい特性を表す。
【0077】
また、抵抗膜は、単層の抵抗膜104には限られず、第1の金属酸化物層と第2の金属酸化物層との積層体で構成してもよい。
【0078】
図4は、第1の実施形態の変形例に係る気体センサセルの断面図である。
図4は、
図1Aに示される部分11の断面構造の一例であり、
図2と比べて、気体センサセル200における気体センサ素子220が変更される。
【0079】
気体センサ素子220は、抵抗膜204が、第1の導電層103に接する第1の金属酸化物層204aと第2の導電層106に接する第2の金属酸化物層204bとの2層を積層して構成される点で、気体センサ素子120と異なる。なお、抵抗膜204は、2層に限らず3層以上の金属酸化物層を積層してもよい。
【0080】
第1の金属酸化物層204aおよび第2の金属酸化物層204b内には、電気的パルスの印加及び水素含有ガスに応じて酸素不足度が可逆的に変化する局所領域105を備えている。局所領域105は、少なくとも第2の金属酸化物層204bを貫通して、第2の導電層106と接して形成される。
【0081】
言い換えると、抵抗膜204は、少なくとも第1の金属酸化物を含む第1の金属酸化物層204aと、第2の金属酸化物を含む第2の金属酸化物層204bとの積層構造を含む。そして、第1の金属酸化物層204aは、第1の導電層103と第2の金属酸化物層204bとの間に配置され、第2の金属酸化物層204bは、第1の金属酸化物層204aと第2の導電層106との間に配置されている。
【0082】
第2の金属酸化物層204bの厚みは、第1の金属酸化物層204aの厚みより薄くてもよい。この場合、局所領域105が第1の導電層103と接しない構造を容易に形成できる。第2の金属酸化物層204bの酸素不足度は、第1の金属酸化物層204aの酸素不足度より小さくてもよい。この場合、第2の金属酸化物層204bの抵抗値は、第1の金属酸化物層204aの抵抗値より高いため、抵抗膜204に印加された電圧の多くは第2の金属酸化物層204bに印加される。この構成は、例えば、初期ブレイク電圧を第2の金属酸化物層204bに集中させ、局所領域105の形成に必要な初期ブレイク電圧を低減するために役立つ。
【0083】
また、本開示において、第1の金属酸化物層204aと第2の金属酸化物層204bを構成する金属が同一である場合に、「酸素不足度」に代えて「酸素含有率」という用語を用いることがある。「酸素含有率が高い」とは、「酸素不足度が小さい」ことに対応し、「酸素含有率が低い」とは「酸素不足度が大きい」ことに対応する。
【0084】
ただし、本実施の形態に係る抵抗膜204は、第1の金属酸化物層204aと第2の金属酸化物層204bとを構成する金属は同一である場合に限定されるものではなく、異なる金属であってもよい。すなわち、第1の金属酸化物層204aと第2の金属酸化物層204bとは異なる金属の酸化物であってもよい。
【0085】
第1の金属酸化物層204aを構成する第1の金属と、第2の金属酸化物層204bを構成する第2の金属とが同一である場合、酸素含有率は酸素不足度と逆の対応関係にある。すなわち、第2の金属酸化物の酸素含有率が第1の金属酸化物の酸素含有率より大きいとき、第2の金属酸化物の酸素不足度は第1の金属酸化物の酸素不足度より小さい。
【0086】
抵抗膜204は、第1の金属酸化物層204aと第2の金属酸化物層204bとの界面近傍に、局所領域105を備える。局所領域105の酸素不足度は、その周囲(すなわち第2の金属酸化物層204bのバルク領域)の酸素不足度よりも大きく、第1の金属酸化物層204aの酸素不足度と異なる。
【0087】
第1の導電層103と第2の導電層106との間に初期ブレイク電圧を印加することによって、局所領域105が抵抗膜204内に形成される。初期ブレイク電圧により、第2の導電層106と接し、第2の金属酸化物層204bを貫通して第1の金属酸化物層204aに一部が侵入し、第1の導電層103と接していない局所領域105が形成される。
【0088】
次に、上述のように構成された気体センサセルの評価例について説明する。
【0089】
図5は、気体センサセルの評価に用いた評価システムの一例を示すブロック図である。
図5に示す評価システム400は、気体センサセル100を格納する密閉容器410、電源420、及び電流測定器430を備える。密閉容器410は、導入弁413、414を介して、それぞれ水素ボンベ411、窒素ボンベ412に接続されるとともに、排気弁415を介して内部のガスを排出可能に構成されている。
【0090】
図6は、気体センサセル100の一評価例を示すグラフである。横軸は時間(a.u.)を表わし、縦軸は第1の導電層103と第2の導電層106との間を流れる電流値(a.u.)を表している。実験では、まず、気体センサセル100が置かれている密閉容器410内に窒素ガスを導入し、その後、水素ガスを導入し、その後さらに窒素ガスを導入した。
【0091】
図6は、このときの結果を示しており、横軸に、先の窒素導入、水素導入、後の窒素導入を行った3期間を示している。導入ガスを窒素ガスから水素ガスに切り替えてから、電流値が増加し始めたことが分かる。また、導入ガスを水素ガスから再び窒素ガスに切り替えても、電流が再び低下することはなかった。
【0092】
すなわち、気体センサセル100は、第2の導電層106が水素原子を有する水素分子を含む気体(ここでは水素ガス)に接すると第1の導電層103と第2の導電層106との間の抵抗値が低下する。そして、この低下の後に第2の導電層106が水素原子を有しない気体(ここでは窒素ガス)に接しても前記抵抗値が低下したままの状態を維持する特性を有することが理解できる。なお、気体センサセル200でも、同様の抵抗変化特性が見られた。
【0093】
この特性に基づき、水素含有ガスに感応して抵抗値が低下した気体センサ素子を用いて再び水素含有ガスの監視を行う場合、抵抗値の低下をより明確に検出できるように、監視の前に、当該気体センサ素子に設定用電圧を印加して高抵抗状態へ設定してもよい。
【0094】
図7は、気体センサセル100に印加される設定用電圧パルスを示すタイミングチャートである。
図7の例は、第2の導電層106が白金(Pt)で構成された気体センサセル100の抵抗状態を設定するために、気体センサセル100に印加される電圧パルスを示している。縦軸は、
図2における第2配線132(ビット線)と第1配線131(ソース線)との間に印加される電圧パルスの電圧VPを表し、横軸は、時間を表している。ここでは、第2配線132に第1配線131より高い電圧を印加する極性の電圧パルスが正電圧パルスであり、第2配線132に第1配線131より低い電圧を印加する極性の電圧パルスが負電圧パルスである。
【0095】
気体センサ素子120を高抵抗(HR)化する場合、一例として、第3配線133(ゲート電極)にゲート電圧VG=2.4Vを印加し、第2配線132(ビット線)に電圧V1=+2.5V、パルス幅T1=500nsの電圧パルスを印加する。このとき、第1配線131(ソース線)には、接地電位を印加する。つまり、気体センサ素子120は、+2.5Vの正電圧パルス(高抵抗化電圧パルス)の印加で高抵抗化される。
【0096】
気体センサ素子120を低抵抗(LR)化する場合、一例として、第3配線133(ゲート電極)にゲート電圧VG=2.4Vを印加し、第1配線131(ソース線)に電圧V2=+1.5V、パルス幅T2=500nsの電圧パルスを印加する。このとき、第2配線132(ビット線)には、接地電位を印加する。つまり、気体センサ素子120は、−1.5Vの負電圧パルス(低抵抗化電圧パルス)の印加で低抵抗化される。
【0097】
図8は、気体センサセル100の正負電圧パルスの交互印加による抵抗変化を示す図である。気体センサセル100が高抵抗状態になったところで設定用電圧の印加を完了することで、気体センサセル100は、抵抗値の低下をより明確に検出できる、水素含有ガスの検出に適した待機状態になる。また、水素含有ガスを検出して抵抗値が下がった後にも、同様の電圧パルスを印加することで、気体センサセル100を高抵抗状態へ再設定できる。
【0098】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、複数の気体センサセルを含む気体センサセルアレイの要部の構造及び制御方法について説明する。
【0099】
図9は、気体センサセルアレイの複数の気体センサセルを含む部分の断面図である。
図9は、
図1Aに示される部分12の断面構造の一例であり、
図2に示される気体センサセル100を4個並べた構造を示している。
【0100】
第1配線131同士及び第2配線132同士は、図外で接続され、ソース線SL0及びビット線BL0をそれぞれ構成している。個々の第3配線133は、紙面と交差する方向に延設され、ワード線WL0、WL1、WL2、WL3を構成している。
【0101】
図9の構造を、紙面と平行な方向及び紙面と交差する方向に拡張して設けることで、多数の気体センサセル100を備える気体センサセルアレイ10が構成される。
【0102】
なお、
図9では、第1の導電層103、抵抗膜104、及び第2の導電層106は気体センサセル100ごとに分離して設けられているが、この例には限られない。例えば、第1の導電層103及び第2の導電層106の何れか一方、及び抵抗膜104は、複数の気体センサセルに亘って一体に設けられてもよい。
【0103】
図10は、
図9に示される部分12の変形である部分12aの断面図である。
図10に示される部分12aでは、気体センサ素子120aの抵抗膜104a、第2の導電層106a、及び開口109aが、複数の気体センサセル100aに亘って一体に設けられる。また、第3の導電層107a、第2配線132a、及びビア141aの配置が変更される。
【0104】
図10の構造によれば、個別の第1の導電層103の各々と共通の第2の導電層106aとの間に初期ブレイク電圧を印加して、気体センサ素子120aごとに局所領域105を形成することができる。
【0105】
図11は、
図9に示される部分12の他の変形である部分13の断面図である。
図11は、
図1Cに示される部分13の断面構造の一例を示している。
図11に示される部分13では、気体センサ素子120bの第1の導電層103b及び抵抗膜104bが、複数の気体センサセル100bに亘って一体に設けられる。また、第1配線131b、第2配線132b、ビア141b、及び下部配線143bの配置が変更される。ビア141bは、図外に設けられ、第3の導電層107と下部配線143bとを接続する。
【0106】
図11の構造によれば、共通の第1の導電層103bと個別の第2の導電層106の各々との間に初期ブレイク電圧を印加して、気体センサ素子120bごとに局所領域105を形成することができる。
【0107】
図9、
図10、
図11の何れの構造によっても、複数の気体センサセル100、100a、又は100bを備える気体センサセルアレイが得られる。
【0108】
複数の気体センサセル100、100a、又は100bの各々において、局所領域105は、第2の導電層106又は106aの露出している部分の直下に形成される。そのため、水素含有ガス中の水素が局所領域に到達する時間を短くできるため、水素含有ガスの検出特性に優れた気体センサが得られる。
【0109】
また、複数の気体センサセルは、第1配線131、131b、第2配線132、132a、132b、及び第3配線133により、任意に選択される一部の気体センサセルにおいて、抵抗状態の設定動作及びセンシング動作が実行できる態様で接続されている。そのため、当該気体センサセルアレイによれば、例えば、外部の制御回路の制御下で、一部の気体センサセルを順次選択しながら、選択された気体センサセルにおいて、抵抗状態の設定動作及びセンシング動作を行うことができる。
【0110】
そのような抵抗状態の設定動作及びセンシング動作は、例えば、次のようにして行われてもよい。
【0111】
図12は、気体センサセルアレイに印加される設定用電圧パルスの一例を示すタイミングチャートである。
図12のタイミングチャートは、
図1Aの部分12に含まれる4個の気体センサセル100の抵抗状態を設定する動作に対応する。以下では説明の便宜上、ワード線WL0、WL1、WL2、WL3に接続している気体センサセル100を、それぞれ気体センサセルSC0、SC1、SC2、SC3と表記する。
【0112】
期間P1では、ワード線WL0にゲート電圧VG=2.4Vが印加され、ワード線WL1、WL2、WL3にゲート電圧VG=0V(接地電位)が印加される。これにより、気体センサセルSC0、SC1、SC2、SC3のうち、気体センサセルSC0の選択素子110が導通状態に設定される。
【0113】
気体センサセルSC0に、ビット線BL0及びソース線SL0を介して、正電圧パルス、負電圧パルス、及び正電圧パルスが順次印加される。これにより、気体センサセルSC0は高抵抗状態、低抵抗状態に設定された後、高抵抗状態に設定される。
【0114】
ここで、正電圧パルス、負電圧パルス、及び正電圧パルスの3つの電圧パルスの印加によって設定された高抵抗状態は、単一の正電圧パルスの印加によって設定された高抵抗状態と比べて、長期間安定的に持続することが分かっている。そのため、前述の3つの電圧パルスを印加することで、気体センサセルSC0を、水素含有ガスを検出するために適した待機状態に、長期間安定的に維持することができる。なお、この正電圧パルス、負電圧パルス、及び正電圧パルスの3つの電圧パルスの印加は、この順に3つの電圧パルスの印加を複数回繰り返して最後が正電圧パルスになるように印加してもよい。
【0115】
後続する期間P2、P3、P4では、気体センサセルSC1、SC2、SC3において、上述と同様の設定動作が行われる。
【0116】
このような設定動作は、複数の気体センサセルの中から順次所定個数(上述の例では1つずつ)の気体センサセルを選択し、選択された気体センサセルごとに、抵抗状態の設定動作を実行する、気体センサの制御方法の一例である。
【0117】
図13は、気体センサセルアレイに印加されるセンシング用電圧パルスの一例を示すタイミングチャートである。
図13のタイミングチャートは、
図1Aの部分12に含まれる4個の気体センサセル100の抵抗状態をセンシングする動作に対応する。
【0118】
期間Q1では、ワード線WL0にゲート電圧VG=2.4Vが印加され、ワード線WL1、WL2、WL3にゲート電圧VG=0V(接地電位)が印加される。これにより、気体センサセルSC0、SC1、SC2、SC3のうち、気体センサセルSC0の選択素子110が導通状態に設定される。
【0119】
気体センサセルSC0に、ビット線BL0及びソース線SL0を介して、正電圧パルスが印加され、ビット線BL0とソース線SL0との間に流れる電流値が測定される。センシング動作で用いられる正電圧パルスの振幅は、設定動作で用いられる正電圧パルスの振幅よりも小さい。一例として、センシング動作における正電圧パルスの電圧は、+0.6Vであり、パルス幅は500nsであってもよい。
【0120】
後続する期間Q2、Q3、Q4では、気体センサセルSC1、SC2、SC3において、上述と同様のセンシング動作が行われる。
【0121】
このようなセンシング動作は、複数の気体センサセルの中から順次所定個数(上述の例では1つずつ)の気体センサセルを選択し、選択された気体センサセルごとに、抵抗状態のセンシング動作を実行する、気体センサの制御方法の一例である。
【0122】
上述した設定動作及びセンシング動作に従って気体センサセルアレイを制御することで、瞬時的に大きな動作電力を消費することなく、全ての気体センサセルで抵抗状態の設定動作とセンシング動作とを行うことができる。その結果、低消費電力と高感度とを両立した気体センサが得られる。
【0123】
(第3の実施形態)
図14は、第3の実施形態に係る気体センサ装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0124】
図14に示すように、気体センサ装置700は、半導体基板上に、気体センサ本体部701を備えている。気体センサ本体部701は、気体センサセルアレイ702と、行選択回路708、ビット線ドライバBLD、ソース線ドライバSLDからなる行ドライバ707と、列選択回路703と、センスアンプ704と、データ入出力回路705と、を備える。センスアンプ704は、選択ビット線に流れる電流量を検出し、高抵抗状態をデータ「0」に、また電圧印加或いは水素検出による低抵抗状態をデータ「1」と判定する。データ入出力回路705は、端子DQを介して入出力データの入出力処理を行う。気体センサセルアレイ702には、例えば、第1及び第2の実施形態で説明した気体センサセルアレイ10又は20が用いられる。
【0125】
さらに、気体センサ装置700は、外部から入力されるアドレス信号を受け取るアドレス入力回路709と、外部から入力されるコントロール信号に基づいて、気体センサ本体部701の動作を制御する制御回路710と、状態設定用電源回路712と、センシング用電源回路713と、を備えている。
【0126】
制御回路710は、設定動作において、データ入出力回路705に入力された入力データDinに応じて、設定用電圧の印加を指示する。また、制御回路710は、センシング動作において、センシング動作を指示する読み出し信号をセンスアンプ704へ出力する。
【0127】
行選択回路708は、アドレス入力回路709から出力された行アドレス信号を受け取り、この行アドレス信号に応じて、行ドライバ707より、複数のビット線・ソース線対BL0、BL1、BL2とSL0、SL1、SL2うちの何れかに対応するビット線ドライバ回路BLDとソース線ドライバ回路SLDより、その選択されたビット線・ソース線に対して、所定の電圧を印加する。
【0128】
列選択回路703は、アドレス入力回路709から出力された列アドレス信号を受け取り、この列アドレス信号に応じて、複数のワード線WL0、WL1、WL2、WL3・・・のうち選択されたワード線に対して、所定の電圧を印加する。
【0129】
以上のように構成される気体センサ装置700によれば、制御回路710の制御下で、順次選択される一部の気体センサセルごとに、抵抗状態の設定動作、及びセンシング動作が行われる。
【0130】
ここで、行選択回路708、及び列選択回路703は、気体センサセルアレイ702の中から、一部(少なくとも1つ)の気体センサセル100を選択する選択回路を構成している。
【0131】
また、センスアンプ704は、選択素子110が導通状態にある気体センサセル100にセンシング用電圧が印加されたときに、気体センサセル100に流れる電流を測定する測定回路を構成している。
【0132】
また、状態設定用電源回路712は、水素原子を有する気体分子を含む気体に感応して抵抗値が低下した気体センサ素子120の抵抗値を上昇させるための設定用電圧を気体センサセル100に印加する復旧回路を構成している。
【0133】
気体センサ装置700は、例えば、半導体IC(集積回路)チップとして構成されてもよく、また、樹脂材料からなるフレキシブル基板を用いたICカードとして構成されてもよい。
【0134】
図15は、第3の実施形態に係る気体センシングシステムを表す図である。
【0135】
図15に示すように、気体センシングシステム800は、基板上に、気体センサ装置801、無線通信機802からなる気体センサモジュール803を備える。気体センサ装置801には、例えば、前述した気体センサ装置700が用いられる。
【0136】
無線通信機802は、例えば、赤外線通信ユニット、ブルートゥース(登録商標)通信ユニット、RF(Radio Frequency)通信ユニット又はワイヤレス・フィディリティー(WiFi)通信ユニットなどの通信ユニットから選択してもよい。
【0137】
気体センサ装置801と無線通信機802とが電気的に接続され、気体センサ装置801は、
図14に示すアドレス信号、コントロール信号、電源を、すべて無線通信機802から得る。
【0138】
気体センサモジュール803は、無線通信機802によって、外部の探索モジュール804から無線でアドレス信号、コントロール信号、電源を得て動作し、気体センサ装置801において水素含有ガスが検知されたか否かを示す情報を探索モジュール804へアップロードする。
【0139】
以上のように、気体センシングシステム800によれば、電源が無接点で構成できるため、装置自身が着火点にならず、煩雑な防爆処置が不要となる。これにより、簡便に設置できる気体センシングシステムが得られる。
【0140】
図16は、
図15の気体センシングシステム800を応用したガスパイプラインのガス漏れ監視システムを表す図である。
【0141】
図16に示すように、ガスパイプラインのガス漏れ監視システム900は、地面905下に埋設され、ガス906を輸送するガス管901の継ぎ手902(
図9の例では4箇所)ごとに配置された気体センサモジュール903、及び探索モジュール904を備える。気体センサモジュール903及び探索モジュール904には、例えば、前述した気体センシングシステム800における気体センサモジュール803及び探索モジュール804が用いられる。なお、気体センサモジュール903は、ガス管901に接して配置してもよいし、ガス管901から離して配置してもよい。さらに、気体センサモジュール903は、継ぎ手902以外の場所に配置してもよく、例えば、継ぎ手902の近接箇所に配置してもよい。
【0142】
探索モジュール904は、ガス漏れ監視担当者が持ち運ぶか、又はドローンなどに装備して、ガスパイプラインに沿ってスキャンしながら、順番に気体センサモジュール903と通信する。これにより、ガス漏れを検知することができ、ガス漏れ箇所を特定できる。
【0143】
なお、気体センシングシステム800は、ガスパイプラインのガス漏れ監視システム900に限らず、例えば、燃料電池自動車、水素ステーション、水素プラント等において水素含有ガスの漏洩を検出するガス漏れ監視システムに応用されてもよい。
【0144】
(補足)
図14に示される気体センサ装置700は、本開示における「気体センサ装置」の一例である。
図14において、行選択回路708及び/又は列選択回路703は、本開示における「選択回路」の一例である。状態設定用電源回路712及び/又はセンシング用電源回路713は、本開示における「電源回路」の一例である。センスアンプ704は、本開示における「測定回路」の一例である。ただし、本開示における気体センサ装置において、選択回路、電源回路、及び測定回路は、任意の構成である。本開示における気体センサ装置は、複数の気体センサ素子と複数のスイッチとを備えればよく、例えば、気体センサセルアレイ10、20、30又は702のみからなっていてもよい。なお、上記の種々の実施形態において、選択素子110は、本開示における「スイッチ」の一例である。スイッチは、例えば、トランジスタである。
【0145】
図1Aに示される気体センサセルアレイ10において、複数の気体センサセル100が並列に接続されている。各気体センサセル100において、1つの気体センサ素子120と1つの選択素子110とが直列接続されている。
【0146】
図2に示されるように、気体センサ素子120は、第1の導電層103と、第1の導電層103上に配置された抵抗膜104と、抵抗膜104の上に配置された第2の導電層106とを備える。抵抗膜104は、本開示の「金属酸化物層」の一例である。抵抗膜104は、局所領域105と、局所領域105を囲むバルク領域とを含む。ここで、「局所領域105を囲む」とは、局所領域105の外周面を全て囲むことに限定されない。
図2において、バルク領域とは、金属酸化物層104のうち、局所領域105以外の領域である。局所領域105の酸素不足度は、バルク領域の酸素不足度よりも大きい。
図2において、局所領域105は、第2の導電層106に接し、かつ、第1の導電層103に接していない。
【0147】
図2において、絶縁層102は開口109を有している。開口109において、第2の導電層106の一部は絶縁層102から露出している。第2の導電層106の露出部は、気体に接触できる。
【0148】
水素原子を含有する気体が第2の導電層106に接すると、局所領域105の抵抗値が低下し、抵抗膜104の抵抗値が低下し、気体センサ素子120の抵抗値が低下する。
【0149】
本開示の気体センサ素子において、
図2に示されるような第3の導電層107は任意の構成である。
【0150】
図9に示されるように、複数の選択素子110は、共通の基板101上に配置されている。複数の気体センサ素子120は、複数の選択素子110の上に一対一対応で配置されている。
【0151】
図14に示される例において、列選択回路703及び行選択回路708は、複数の選択素子110の一部をオンすることによって、複数の気体センサセル100の一部を選択する。例えば、列選択回路703及び行選択回路708は、2以上の気体センサセル100を同時に選択してもよい。列選択回路703及び行選択回路708は、選択される気体センサセル100を順次変更してもよく、例えば、全ての気体センサセル100をシーケンシャルに選択してもよい。選択された気体センサセル100には、センシング用電圧及び/又は設定用電圧が印加される。なお、上記実施の形態で説明された「センシング用電圧」は、本開示における「センス電圧」の一例である。上記実施の形態で説明された「設定用電圧」は、本開示における「所定の電圧」の一例である。なお、本開示における「電源回路」は、例えば、電源そのものであってもよく、外部電源の電圧を所望の電圧に変換する変換回路であってもよい。
【0152】
上記の実施形態において、気体センサモジュール803に含まれる気体センサ装置801が、
図14に示される気体センサ装置700である例について説明した。しかし、気体センサ装置801の構成はこれに限定されない。気体センサ装置801は、例えば、単一の気体センサ素子120であってもよく、その他の気体センサであってもよい。言い換えると、上記で説明された気体センシングシステム800は、特定の構造を有する気体センサに限定されることなく、適宜変更されうる。同様に、上記で説明されたガスパイプラインのガス漏れ監視システム900も、特定の構造を有する気体センサに限定されることなく、適宜変更されうる。
【0153】
(その他の変形例)
以上、本開示のいくつかの態様に係る気体センサ、気体センシングシステム、及び気体センサの制御方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、各々の実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態が、本開示の範囲内に含まれてもよい。
【0154】
(実施形態の概要)
1つの態様に係る気体センサは、単一の基板上に配置された複数の気体センサセルを備え、前記複数の気体センサセルの各々は、導通状態と非導通状態とを切り替え可能な選択素子と、水素原子を有する気体分子を含む気体に感応して抵抗値が低下する気体センサ素子と、を直列に接続してなり、前記複数の気体センサセルは互いに電気的に接続されている。
【0155】
このような構成によれば、前記複数の気体センサセルの中から一部の気体センサセルを順次選択して動作させることができる、低消費電力と高感度とを両立するために適した気体センサが得られる。前記動作には、気体センサセルの抵抗状態のセンシング動作が含まれ、気体センサセルの抵抗状態の設定動作が含まれてもよい。
【0156】
また、前記気体センサは、前記複数の気体センサセルの中から選択される一部の気体センサセルの前記選択素子を導通状態に切り替える選択回路を、さらに備えてもよい。
【0157】
このような構成によれば、前記選択回路の制御下で、前記複数の気体センサセルの中から一部の気体センサセルの前記選択素子を導通状態とすることにより、前記一部の選択素子を動作させることができる。
【0158】
また、前記複数の気体センサセルの各々において、前記気体センサ素子は、主面同士が対向して配置された第1の導電層及び第2の導電層と、前記第1の導電層の前記主面と前記第2の導電層の前記主面とに接して配置された金属酸化物層と、前記金属酸化物層の内部に前記第2の導電層と接して配置されかつ前記金属酸化物層に比べて酸素不足度が大きい局所領域と、前記第1の導電層、前記第2の導電層及び前記金属酸化物層を覆う絶縁膜と、を備え、前記第2の導電層の前記主面に対向する他面の少なくとも一部は前記絶縁膜に覆われることなく露出しており、前記第2の導電層が水素原子を有する気体分子を含む気体に接すると前記第1の導電層と前記第2の導電層との間の抵抗値が低下する特性を有していてもよい。
【0159】
このような構成によれば、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間を流れる電流は酸素不足度が大きい局所領域に集中することになる。その結果、少ない電流で、前記局所領域の温度を上昇させることができる。
【0160】
前記局所領域が、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に流れる電流によって発熱することで、前記第2の導電層の前記局所領域と接した部分において前記水素分子から水素原子が解離され、解離された前記水素原子が、前記金属酸化物層の前記局所領域内の酸素原子と結合することで、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間の抵抗値が低下する。
【0161】
より詳細には、前記局所領域の温度が上昇すると前記第2の導電層の表面の温度も上昇する。温度上昇に従って、前記第2の導電層の触媒作用によって前記第2の導電層で水素分子から水素原子が解離する効率が向上する。すなわち、前記気体センサ素子の気体感応性が活性化される。
【0162】
前記絶縁膜を通過した水素分子が前記第2の導電層に接触すると、前記水素分子から水素原子が解離し、解離した水素原子は前記第2の導電層中を拡散して前記局所領域にまで到達する。そして、前記局所領域に存在する金属酸化物の酸素と結合して水(H
2O)となることで、前記局所領域の酸素不足度がさらに増大する。これによって、前記局所領域は電流が流れやすくなり、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間の抵抗値が低下する。
【0163】
これにより、金属酸化物層の内部に形成される前記局所領域での自己発熱によって活性化される気体感応性を利用して、ヒータで加熱することなく水素含有ガスを検出でき、省電力性に優れた気体センサが得られる。
【0164】
また、前記複数の気体センサセルの各々において、前記金属酸化物層は、第1の金属酸化物で構成される第1の金属酸化物層と、前記第1の金属酸化物に比べて酸素不足度が小さい第2の金属酸化物で構成される第2の金属酸化物層とを積層してなり、前記第1の金属酸化物層は前記第1の導電層に接し、前記第2の金属酸化物層は前記第2の導電層に接しており、前記局所領域は、少なくとも前記第2の金属酸化物層を貫通して前記第2の導電層と接して形成され、かつ前記第2の金属酸化物層に比べて酸素不足度が大きくてもよい。
【0165】
このような構成によれば、前記金属酸化物層に、抵抗変化特性に優れた積層構造を採用することで、水素含有ガスの検出特性に優れた気体センサが得られる。
【0166】
また、前記複数の気体センサセルの各々において、前記局所領域は、前記第2の導電層の露出している部分の直下に存在してもよい。
【0167】
このような構成によれば、水素含有ガス中の水素が局所領域に到達する時間を短くできるため、水素含有ガスの検出特性に優れた気体センサが得られる。
【0168】
また、前記複数の気体センサセルの各々において、前記第2の導電層は、前記水素原子を前記気体分子から解離させる触媒作用を有する材料で構成されていてもよい。
【0169】
このような構成によれば、前記第2の導電層の前記局所領域と接した部分において前記水素分子から水素原子が解離され、解離された水素原子が、前記金属酸化物層の前記局所領域内の酸素原子と結合することで、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間の抵抗値が低下する。
【0170】
また、前記複数の気体センサセルの各々において、前記第2の導電層は、白金、パラジウム、又はイリジウム、若しくは、白金、パラジウム、及びイリジウムのうちの少なくとも1つを含む合金で構成されていてもよい。
【0171】
このような構成によれば、前記第2の導電層は、白金、パラジウムまたはイリジウムの触媒作用により、前記水素分子から水素原子を解離させることができる。
【0172】
また、前記複数の気体センサセルの各々において、前記金属酸化物層は、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に印加される電圧に基づいて高抵抗状態と前記高抵抗状態に比べて抵抗値が低い低抵抗状態とに可逆的に遷移してもよい。
【0173】
このような構成によれば、前記金属酸化物層の抵抗状態を、水素含有ガスによる遷移とは別に、電気的に遷移させることができる。例えば、前記第2の導電層を、電気的に高抵抗状態に設定してから、前記金属酸化物層に検査対象の気体を接触させてもよく、これにより、抵抗値の低下が明確に検出できるようになり、水素含有ガスの検出特性が向上する。
【0174】
また、前記気体センサは、前記選択素子が導通状態にある気体センサセルにセンシング用電圧が印加されたときに前記気体センサセルに流れる電流を測定する測定回路を、さらに備えてもよい。
【0175】
このような構成によれば、前記測定回路で測定される電流が増加することをもって、前記水素含有ガスを検出することができる。
【0176】
また、前記気体センサは、水素原子を有する気体分子を含む気体に感応して抵抗値が低下した気体センサ素子の抵抗値を上昇させるための設定用電圧を前記気体センサセルに印加する復旧回路をさらに備えてもよい。
【0177】
このような構成によれば、前記金属酸化物層の抵抗状態を、電気的に高抵抗状態に設定してから、前記第2の導電層に検査対象の気体を接触させることができる。これにより、抵抗値の低下が明確に検出できるようになり、水素含有ガスの検出特性が向上する。
【0178】
また、前記復旧回路は、前記設定用電圧として、前記気体センサ素子を高抵抗状態に設定する第1の電圧パルスと、前記気体センサ素子を低抵抗状態に設定する第2の電圧パルスと、前記気体センサ素子を再び高抵抗状態に設定する第3の電圧パルスとを、この順に前記気体センサセルに印加してもよい。
【0179】
このような構成によれば、前述の3つの電圧パルスの印加によって設定された高抵抗状態は、単一の電圧パルスで設定された高抵抗状態と比べて、長期間安定的に持続することが分かっている。そのため、前記気体センサ素子を、水素含有ガスを検出するために適した待機状態に、長期間安定的に維持することができる。
【0180】
また、前記複数の気体センサセルの各々において、前記選択素子は、NMOS(N型金属酸化物半導体)トランジスタで構成されていてもよい。
【0181】
このような構成によれば、構成が簡素でかつ電気的特性に優れたNMOSトランジスタで前記選択素子を構成するので、低消費電力と高感度とを両立するために適した気体センサが得られる。
【0182】
また、前記気体センサは、複数の第1配線、複数の第2配線、および複数の第3配線、をさらに備え、前記複数の気体センサセルの各々において、前記選択素子の第1端子が前記複数の第1配線の1つに接続され、前記選択素子の第2端子が前記気体センサ素子の第1端子に接続され、前記気体センサ素子の第2端子が前記複数の第2配線の1つに接続され、前記選択素子の制御端子が前記複数の第3配線の1つに接続されていてもよい。
【0183】
ここで、前記複数の第1配線と前記複数の第2配線とが第1方向に延設され、前記複数の第3配線が、前記第1方向と交差する第2方向に延設されていてもよい。また、前記複数の第1配線と前記複数の第3配線とが第1方向に延設され、前記複数の第2配線が、前記第1方向と交差する第2方向に延設されていてもよい。
【0184】
このような構成によれば、前記複数の第1配線、前記複数の第2配線、および前記複数の第3配線を介して所定の電気信号を供給することによって、前記複数の気体センサセルの中から一部の気体センサセルを選択して動作させることができる。
【0185】
また、前記気体センサにおいて、前記複数の気体センサセルの中から順次選択される所定個数の気体センサセルごとに、前記気体センサセルの抵抗状態の設定動作または前記気体のセンシング動作が実行されてもよい。
【0186】
このような構成によれば、瞬時的に大きな動作電力を消費することなく全ての気体センサセルで、前記気体センサセルの抵抗状態の設定動作または前記気体のセンシング動作が行われる。この結果、低消費電力と高感度とを両立するために適した気体センサが得られる。
【0187】
1つの態様に係る気体センサモジュールは、前記気体センサと、外部機器と無線通信が可能な無線通信機と、を備え、外部の探索モジュールからのコントロール信号によって前記無線通信機が動作することにより、前記気体センサが前記探索モジュールと通信するものである。
【0188】
このような構成によれば、前記気体センサモジュールにおいて、低消費電力と高感度とを両立した前記気体センサの特徴が発揮される。前記気体センサの動作電力は、前記探索モジュールから無線伝送されてもよく、その場合、電源が無接点で構成できるため、気体センサモジュール自身が着火点にならず、煩雑な防爆処置が不要となる。これにより、簡便に設置できる気体センサモジュールが得られる。
【0189】
1つの態様に係る制御方法は、気体センサの制御方法であって、前記気体センサは、単一の基板上に配置された複数の気体センサセルを備え、前記複数の気体センサセルの各々は、導通状態と非導通状態とを切り替え可能な選択素子と、水素原子を有する気体分子を含む気体に感応して抵抗値が低下する気体センサ素子と、を直列に接続してなり、前記複数の気体センサセルは互いに電気的に接続されており、前記複数の気体センサセルの中から順次所定個数の気体センサセルを選択し、選択された前記気体センサセルごとに、前記気体センサセルの抵抗状態の設定動作または前記気体のセンシング動作を実行するものである。
【0190】
このような方法によれば、瞬時的に大きな動作電力を消費することなく全ての気体センサセルで前記気体センサセルの抵抗状態の設定動作または前記気体のセンシング動作が行われるので、気体センサにおいて低消費電力と高感度とを両立させることができる。