(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、以下の説明において参照する図面において、各構成部材の大きさや厚みは説明の便宜上のものであり、必ずしも実際の寸法や比率を示すものではない。
【0015】
図1および
図2は、ある実施形態に係る極低温冷凍装置10の全体構成を概略的に示す図である。極低温冷凍装置10は、パルス管冷凍機12とパルス管冷凍機回転機構14とを備える。
図1には、パルス管冷凍機12の冷却姿勢を示し、
図2には、パルス管冷凍機12の昇温姿勢を示す。パルス管冷凍機12は、冷却時には
図1に示される冷却姿勢にパルス管冷凍機回転機構14によって保持される一方、昇温時には
図2に示される昇温姿勢にパルス管冷凍機回転機構14によって保持される。
【0016】
パルス管冷凍機12は、パルス管16、蓄冷器18、冷却ステージ20、フランジ部22、および室温部24を備える。パルス管冷凍機12は、単段式であってもよいし、あるいは多段式(例えば二段式)であってもよい。
【0017】
例示的な構成においては、パルス管16は内部を空洞とする円筒状の管であり、蓄冷器18は内部に蓄冷材を充填した円筒状の管であり、両者は互いに隣り合って各々の中心軸を平行として配置されている。パルス管16の低温端と蓄冷器18の低温端とは冷却ステージ20によって構造的に接続され熱的に結合されている。また、冷却ステージ20は、パルス管16の低温端と蓄冷器18の低温端とを流体的に接続するよう構成されている。すなわち、パルス管16の低温端と蓄冷器18の低温端との間で冷却ステージ20を通じて、パルス管冷凍機12の作動ガス(例えばヘリウムガス)が流れることができる。
【0018】
固形物である被冷却物26が、伝熱ロッドなどの剛性または可撓性の伝熱部材28によって冷却ステージ20に構造的に接続され熱的に結合されている。パルス管冷凍機12は、伝導冷却によって被冷却物26を冷却するよう構成されている。被冷却物26は、例えば、超伝導電磁石またはその他の超伝導装置であってもよい。被冷却物26は、例えば赤外線撮像素子やセンサなど小型の物品である場合には、伝熱部材28を用いることなく、冷却ステージ20の外表面に直接取り付けられてもよい。
【0019】
一方、パルス管16の高温端と蓄冷器18の高温端とはフランジ部22によって接続されている。フランジ部22は、パルス管冷凍機12が設置される支持台または支持壁などの支持部30に取り付けられる。支持部30は、冷却ステージ20および被冷却物26を(パルス管16および蓄冷器18とともに)収容する断熱容器または真空容器の壁材またはその他の部位であってもよい。
【0020】
フランジ部22の一方の主表面からパルス管16および蓄冷器18が延び、フランジ部22の他方の主表面には室温部24が設けられている。したがって、支持部30が断熱容器または真空容器の一部を構成する場合には、フランジ部22が支持部30に取り付けられるとき、パルス管16、蓄冷器18、および冷却ステージ20は、当該容器内に収容され、室温部24は、容器外に配置される。
【0021】
室温部24には、パルス管冷凍機12の振動流発生源32および位相制御機構34が設けられている。よく知られているように、パルス管冷凍機12がGM方式である場合には、振動流発生源32として、作動ガスの定常流を生み出す圧縮機と、圧縮機の高圧側と低圧側とを周期的に切り替えてパルス管16および蓄冷器18に接続する流路切替弁との組み合わせが用いられる。この流路切替弁は、必要に応じて設けられたバッファタンクとともに、位相制御機構34としても働く。また、パルス管冷凍機12がスターリング方式である場合には、振動流発生源32として、調和振動するピストンによって振動流を発生する圧縮機が用いられ、位相制御機構34として、バッファタンクとこれをパルス管16の高温端につなぐ連通路が用いられる。
【0022】
なお、振動流発生源32は、フランジ部22に直接取り付けられている必要はない。振動流発生源32は、パルス管冷凍機12のコールドヘッドから分離して配置され、剛性または可撓性の配管によりコールドヘッドに接続されてもよい。同様に、位相制御機構34についても、フランジ部22に直接取り付けられることは必須ではなく、パルス管冷凍機12のコールドヘッドから分離して配置され、剛性または可撓性の配管によりコールドヘッドに接続されてもよい。
【0023】
このような構成により、パルス管冷凍機12は、作動ガスの圧力振動に対しパルス管16内のガス要素(ガスピストンとも呼ばれる)の変位振動の位相を適切に遅らせることによって、パルス管16の低温端にPV仕事を発生し、冷却ステージ20を冷却することができる。このようにして、パルス管冷凍機12が運転されることにより、極低温冷凍装置10は、被冷却物26を冷却することができる。
【0024】
ここで、鉛直線36とパルス管16の中心軸38とがなす傾斜角度40を考える(
図2参照)。鉛直線36は重力の方向を表し、鉛直線36に沿って下向きに重力が作用する。パルス管16の低温端を鉛直下方に向けたときの傾斜角度40を0度とし、パルス管16の低温端を鉛直上方に向けたときの傾斜角度40を180度と定義する。
【0025】
説明の便宜上、パルス管冷凍機12が冷却姿勢にあるときの傾斜角度40を第1角度と呼び、パルス管冷凍機12が昇温姿勢にあるときの傾斜角度40を第2角度と呼ぶことがある。本実施形態では、第2角度が第1角度より大きい。例えば、
図1に示されるパルス管冷凍機12の冷却姿勢では、傾斜角度40すなわち第1角度は0度である。
図2に示されるパルス管冷凍機12の昇温姿勢では、傾斜角度40すなわち第2角度は135度である。
【0026】
パルス管冷凍機回転機構14は、パルス管16の傾斜角度40を調整可能とするように設けられている。パルス管冷凍機回転機構14は、傾斜角度40を調整することによって、パルス管冷凍機12を冷却姿勢から昇温姿勢へと変更し、あるいは、パルス管冷凍機12を昇温姿勢から冷却姿勢へと変更することができる。
【0027】
パルス管冷凍機回転機構14は、パルス管16の中心軸38に垂直な回転軸42まわりに回転可能にパルス管冷凍機12を支持する。パルス管冷凍機回転機構14は、静止部44に設置され、静止部44に対してパルス管冷凍機12を回転させることができる。なお、支持部30は、静止部44に取り付けられ、または静止部44の一部を構成してもよい。
【0028】
一例として、パルス管冷凍機回転機構14は、パルス管冷凍機12のフランジ部22を回転させることによって傾斜角度40を調整するようパルス管冷凍機12に連結されている。ただし、パルス管冷凍機回転機構14は、パルス管冷凍機12の室温部24など他の部位を回転させるようパルス管冷凍機12に連結されていてもよい。パルス管冷凍機回転機構14は、手動により回転可能であってもよいし、モータなどの回転駆動源を備えてもよい。
【0029】
パルス管冷凍機回転機構14は、パルス管16の中心軸38と異なる方向を向く少なくとも1つの回転軸まわりにパルス管冷凍機12を回転させることができればよく、よって回転軸42はパルス管16の中心軸38に非垂直であってもよい。また、パルス管冷凍機回転機構14は、パルス管16の中心軸38と異なる2つの回転軸それぞれのまわりにパルス管冷凍機12を回転させるよう構成されていてもよい。2つの回転軸は、回転軸42と、パルス管16の中心軸38および回転軸42に垂直なもう一つの回転軸であってもよい。必要に応じて、パルス管冷凍機回転機構14は、パルス管冷凍機12の平行移動を可能とするよう構成されていてもよい。
【0030】
また、極低温冷凍装置10は、昇温制御部46と温度センサ48とを備える。昇温制御部46は、本実施形態に係るパルス管冷凍機12の昇温方法を自動制御により実行するよう構成されている。昇温制御部46は、温度センサ48から出力される測定温度信号に基づいて、パルス管冷凍機12およびパルス管冷凍機回転機構14を制御するよう構成されている。
【0031】
温度センサ48は、冷却ステージ20に取り付けられている。温度センサ48は、被冷却物26または伝熱部材28に取り付けられていてもよい。温度センサ48は、冷却ステージ20の温度を測定して測定温度信号を生成するよう構成されている。温度センサ48は、測定温度信号を昇温制御部46に出力するよう昇温制御部46と接続されている。
【0032】
図3は、ある実施形態に係る昇温制御部46の機能および構成を示すブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウエア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウエア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウエア、ソフトウエアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、本明細書に触れた当業者には理解されるところである。
【0033】
昇温制御部46は、温度判定部50と、冷凍機制御部52と、目標温度設定部54と、通知部56とを備える。昇温制御部46は、例えば、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)のような制御回路であってもよい。
【0034】
温度判定部50は、温度センサ48から出力された測定温度信号を受信して、測定温度を目標温度(例えば、昇温目標温度または中間目標温度)と比較するよう構成されている。温度判定部50は、測定温度が目標温度以上であるか否かを判定する。
【0035】
冷凍機制御部52は、極低温冷凍装置10を制御するよう構成されている。冷凍機制御部52は、例えばユーザからの入力に応じて生成された昇温開始指令を受信して、パルス管冷凍機12の運転を停止するよう構成されている。また、冷凍機制御部52は、パルス管16の傾斜角度40を調整するようパルス管冷凍機回転機構14を制御するよう構成されている。
【0036】
目標温度設定部54は、昇温目標温度および中間目標温度を、例えばユーザからの入力に応じて設定するよう構成されている。昇温目標温度および中間目標温度は、予め本冷凍装置の仕様として設定されてもよい。
【0037】
本実施形態では、電気ヒータなどの能動的加熱装置を用いずにパルス管冷凍機12を昇温するので、昇温目標温度は、周囲温度(例えば室温)以下に設定される。昇温目標温度は、極低温である初期温度より高い。中間目標温度は、初期温度と昇温目標温度との間に設定される。中間目標温度は、後述のように、パルス管冷凍機12を昇温姿勢で運転するときに得られる冷却ステージ20の到達冷却温度以下に設定される。初期温度は、パルス管冷凍機12の運転を停止したとき(すなわち昇温を開始するとき)の冷却ステージ20の温度であり、パルス管冷凍機12を冷却姿勢で運転するときに得られる冷却ステージ20の到達冷却温度に相当する。
【0038】
通知部56は、パルス管冷凍機12の昇温完了を、例えば画像表示または音声出力により、ユーザに通知するよう構成されている。通知部56は、温度センサ48の測定温度が昇温目標温度に達していると温度判定部50により判定される場合に、パルス管冷凍機12の昇温完了を通知する。また、通知部56は、温度センサ48の測定温度が中間目標温度に達していると温度判定部50により判定される場合に、その事実を通知してもよい。
【0039】
図4は、ある実施形態に係る極低温冷凍装置10の昇温処理を示すフローチャートである。本昇温処理の開始前、パルス管冷凍機12は、パルス管冷凍機回転機構14によって冷却姿勢に保持された状態で運転されている。よって、冷却ステージ20および被冷却物26は所望の極低温に冷却されている。
【0040】
冷凍機制御部52は、昇温開始指令を受信して、パルス管冷凍機12の運転を停止する(S10)。冷凍機制御部52は、パルス管冷凍機回転機構14を駆動して、パルス管冷凍機12を冷却姿勢から昇温姿勢へと変更するようパルス管冷凍機12を回転させる(S12)。この時点で、冷却ステージ20は初期温度にある。以降、昇温姿勢でパルス管冷凍機12は昇温される(S13)。パルス管冷凍機12の昇温完了まで、パルス管冷凍機12は、運転を停止した状態で昇温姿勢に保持される。
【0041】
パルス管冷凍機12の昇温工程(S13)においては、温度判定部50は、温度センサ48の測定温度が昇温目標温度に達しているか否かを判定する(S14)。温度センサ48の測定温度が昇温目標温度に達していない場合、すなわち測定温度が昇温目標温度より低い場合には(S14のNo)、温度判定部50は、暫時待機し、再び温度センサ48の測定温度が昇温目標温度に達しているか否かを判定する(S14)。
【0042】
温度センサ48の測定温度が昇温目標温度に達している場合、すなわち測定温度が昇温目標温度以上である場合には(S14のYes)、通知部56は、パルス管冷凍機12の昇温完了を通知する(S16)。こうして、本昇温処理は終了する。
【0043】
図5は、他の実施形態に係る極低温冷凍装置10の昇温処理を示すフローチャートである。本昇温処理の開始前、パルス管冷凍機12は、パルス管冷凍機回転機構14によって冷却姿勢に保持された状態で運転されている。よって、冷却ステージ20および被冷却物26は所望の極低温に冷却されている。
【0044】
図5に示される昇温処理は、第1昇温工程(S20)と第2昇温工程(S30)とを備える。昇温制御部46は、最初に第1昇温工程を実行し、次に第2昇温工程を実行する。
【0045】
第1昇温工程(S20)においては、昇温制御部46は、パルス管冷凍機12が初期温度と昇温目標温度との間に予め設定された中間目標温度に昇温するまで、昇温姿勢でパルス管冷凍機12を運転する。
【0046】
冷凍機制御部52は、昇温開始指令を受信すると、パルス管冷凍機回転機構14を駆動して、パルス管冷凍機12を冷却姿勢から昇温姿勢へと変更するようパルス管冷凍機12を回転させる(S22)。このとき、パルス管冷凍機12の運転は継続されている。以降、昇温姿勢でパルス管冷凍機12は昇温される。
【0047】
温度判定部50は、温度センサ48の測定温度が中間目標温度に達しているか否かを判定する(S24)。温度センサ48の測定温度が中間目標温度に達していない場合、すなわち測定温度が中間目標温度より低い場合には(S24のNo)、温度判定部50は、暫時待機し、再び温度センサ48の測定温度が中間目標温度に達しているか否かを判定する(S24)。
【0048】
温度センサ48の測定温度が中間目標温度に達している場合、すなわち測定温度が中間目標温度以上である場合には(S24のYes)、冷凍機制御部52は、パルス管冷凍機12の運転を停止し(S26)、第2昇温工程(S30)に移行する。
【0049】
第2昇温工程(S30)においては、温度判定部50は、温度センサ48の測定温度が昇温目標温度に達しているか否かを判定する(S32)。温度センサ48の測定温度が昇温目標温度に達していない場合、すなわち測定温度が昇温目標温度より低い場合には(S32のNo)、温度判定部50は、暫時待機し、再び温度センサ48の測定温度が昇温目標温度に達しているか否かを判定する(S32)。
【0050】
温度センサ48の測定温度が昇温目標温度に達している場合、すなわち測定温度が昇温目標温度以上である場合には(S32のYes)、通知部56は、パルス管冷凍機12の昇温完了を通知する(S34)。こうして、本昇温処理は終了する。
【0051】
なお、ある実施形態においては、極低温冷凍装置10の昇温方法は手動で行われてもよい。昇温方法が自動制御により実行されることは必須ではない。この場合、極低温冷凍装置10は、昇温制御部46を備えなくてもよい。
【0052】
昇温処理の終了後に、パルス管冷凍機12には、構成要素の動作点検や消耗部品の交換などメンテナンスが施されてもよい。メンテナンスが終了すると、パルス管冷凍機回転機構14は、パルス管冷凍機12を冷却姿勢に戻す。パルス管冷凍機12の運転が再開され、パルス管冷凍機12は再び冷却される。
【0053】
図6は、ある実施形態に係るパルス管冷凍機12の運転中における到達冷却温度の方向依存性を例示するグラフである。
図6の縦軸は冷却ステージ20(一段冷却ステージの温度)の温度を表し、横軸は傾斜角度40を表す。なお、図示されるグラフは、二段式の冷凍機についての一段冷却ステージの温度測定結果である。
【0054】
パルス管冷凍機12の到達冷却温度は、パルス管16の傾斜角度40に依存する。傾斜角度40が小さいほど到達温度が低く、傾斜角度40が大きいほど到達温度が高くなる傾向がある。
【0055】
こうした傾向の主たる要因は、パルス管16の内部で生じる作動ガスの自然対流の影響である。傾斜角度40が小さい場合、例えば傾斜角度40が0度である場合には、パルス管16の低温端が鉛直下方に向けられ、パルス管16の高温端が鉛直上方に向けられている。この姿勢は、
図1に示される冷却姿勢にあたる。パルス管16の低温端で冷却された低温の作動ガスは、重力の作用により下方(つまり低温端)に比較的安定的に滞留する。パルス管16の内部で自然対流が生じにくい。そのため、冷却ステージ20の温度を低く維持することができる。
図6に示されるように、傾斜角度40が50度以内である場合には、冷却ステージ20の温度を最も低く維持することができる。
【0056】
一方、傾斜角度40が大きい場合には、パルス管16が水平に、または水平に近い向きに配置され、傾斜角度40がさらに大きい場合には、パルス管16の低温端が高温端より上方に位置することになる。この姿勢は、
図2に示される昇温姿勢にあたる。この場合、重力の作用によりパルス管16の内部で自然対流が生じやすい。パルス管16の低温端で冷却された低温の作動ガスがパルス管16の高温端に存在する高温の作動ガスと混ざり合う。その結果、冷却ステージ20の温度低下が抑制され、到達温度が高くなる。このことは、パルス管16の傾斜角度40が大きい状態でパルス管冷凍機12を運転すると冷却ステージ20を比較的高温に維持できるということを意味する。
【0057】
図6に例示される到達冷却温度は、パルス管冷凍機12の姿勢に依存してパルス管16の内部に誘起される自然対流の程度を表すと推察できる。到達温度が低ければパルス管16内の自然対流は無視しうるか、または小規模であると考えられる。一方、到達温度が高ければ、それはパルス管16内に自然対流が顕著に誘起された結果であると考えられる。
【0058】
したがって、パルス管冷凍機12を冷却する場合には、傾斜角度40が小さいことが有利である一方、パルス管冷凍機12を昇温する場合には、傾斜角度40が大きいことが有利である。
【0059】
パルス管冷凍機12の冷却姿勢を定める第1角度は、パルス管16の内部に作動ガスの自然対流を起こさないように、または、パルス管16の内部での自然対流が十分に抑制されるように、定められる。第1角度は、例えば、0度から50度の範囲から選択され、好ましくは、0度から30度の範囲から選択される。さらに好ましくは、第1角度は、0度である。このようにすれば、パルス管冷凍機12の運転中における到達冷却温度を十分に低く維持することができる。
【0060】
パルス管冷凍機12の昇温姿勢を定める第2角度は、パルス管16の内部に作動ガスの自然対流を誘起するように、定められる。第2角度は、例えば、70度から180度の範囲から選択され、好ましくは、90度から150度の範囲から選択される。さらに好ましくは、第2角度は、100度から135度の範囲から選択される。このようにすれば、自然対流を利用して、パルス管冷凍機12を速やかに昇温することができる。例えば、パルス管冷凍機12にメンテナンスをするためにパルス管冷凍機12の運転を停止したときに、パルス管冷凍機12を速やかに昇温することができる。
【0061】
図7は、ある実施形態に係るパルス管冷凍機12の昇温時間を例示するグラフである。
図7の縦軸は冷却ステージ20の温度(1段冷却ステージの温度)を表し、横軸は昇温開始からの経過時間を表す。図示されるグラフには、実施例1、実施例2、および比較例の温度測定結果が示されている。いずれもパルス管冷凍機12を無負荷状態として(すなわち冷却ステージ20に被冷却物26を取り付けていない状態で)温度推移が測定されている。
【0062】
比較例は、パルス管冷凍機12を冷却姿勢に保持して自然昇温をした場合である。比較例では、パルス管冷凍機12の運転を停止し、その状態でパルス管冷凍機12を放置している。冷却姿勢の傾斜角度40は0度である。極低温である初期温度(
図7では約20K)から昇温目標温度(
図7では約270K)まで昇温する所要時間は、約18.5時間であった。
【0063】
実施例1は、パルス管冷凍機12を昇温姿勢に保持した状態で、パルス管冷凍機12内で発生する対流を利用してパルス管冷凍機12を昇温した場合である。実施例1では、パルス管冷凍機12の運転を停止し、パルス管冷凍機12を冷却姿勢から昇温姿勢へとパルス管冷凍機回転機構14によって変更し、その状態でパルス管冷凍機12を放置している。昇温姿勢の傾斜角度40は120度である。初期温度から昇温目標温度まで昇温する所要時間は、約4.9時間であった。
【0064】
実施例1によれば、パルス管冷凍機12の運転を停止してパルス管冷凍機12を傾けた状態に保持することにより、比較例と比べて顕著に短い時間でパルス管冷凍機12が昇温された。これは、上述のように、パルス管16の内部に誘起された自然対流の効果によるものと理解される。
【0065】
実施例1は、手動により昇温方法を実行した結果であるが、
図4に示される昇温処理が実行された場合にも実施例1と同様の結果を得られるであろう。
【0066】
実施例2は、パルス管冷凍機12を昇温姿勢に保持した状態で、パルス管冷凍機12内で発生する対流を利用してパルス管冷凍機12を昇温した場合である。ただし、昇温の当初はパルス管冷凍機12を運転し、昇温の途中でパルス管冷凍機12の運転を停止している点で、実施例2は実施例1と異なる。
【0067】
実施例2では、パルス管冷凍機12を運転しながらパルス管冷凍機12を冷却姿勢から昇温姿勢へとパルス管冷凍機回転機構14によって変更している。パルス管冷凍機12が中間目標温度(
図7では約200K)に昇温するまで、昇温姿勢でパルス管冷凍機12を運転している。中間目標温度でパルス管冷凍機12の運転を停止し、以後はパルス管冷凍機12を昇温姿勢に保持したままパルス管冷凍機12を放置している。昇温姿勢の傾斜角度40は120度である。初期温度から昇温目標温度まで昇温する所要時間は、約3.85時間であった。
【0068】
実施例2によれば、パルス管冷凍機12を傾けた状態で一定期間運転してから停止し、パルス管冷凍機12をその傾斜状態に保持することにより、実施例1に比べてさらに短い時間でパルス管冷凍機12が昇温された。これは、自然対流に加えて、パルス管冷凍機12の運転によりパルス管16内に強制対流も誘起されるためであると考えられる。
【0069】
実施例2は、手動により昇温方法を実行した結果であるが、
図5に示される昇温処理が実行された場合にも実施例2と同様の結果を得られるであろう。
【0070】
このようにして、本実施形態に係る極低温冷凍装置10は、パルス管冷凍機12を短時間で昇温することができる。パルス管冷凍機12の姿勢を変えるという簡易な手法により、パルス管冷凍機12内で発生する作動ガスの対流(例えば、自然対流、または強制対流)を利用して、パルス管冷凍機12の昇温時間を顕著に短縮することができる。
【0071】
また、本実施形態に係る極低温冷凍装置10は、パルス管冷凍機12を昇温するための能動的な加熱装置(例えば、冷却ステージ20を加熱する電気ヒータ、または、被冷却物26を加熱する加熱媒体循環装置)を用いることなく、パルス管冷凍機12を速やかに昇温することができる。よって、極低温冷凍装置10は、こうした加熱装置を備える必要がない。極低温冷凍装置10の構成をより簡素にできる利点がある。また、加熱装置が無いことで、パルス管冷凍機12の熱負荷が低減されるので、極低温冷凍装置10は、より小型のパルス管冷凍機12を採用することができる。加熱装置を用いる場合に起こりうる過剰な温度上昇のリスクをなくすこともできる。
【0072】
図8は、他の実施形態に係る極低温冷凍装置10の全体構成を概略的に示す図である。
図8に示される極低温冷凍装置10は、昇温のための加熱手段を除いて、
図1および
図2に示される極低温冷凍装置10と共通する。以下では、両者の異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
【0073】
極低温冷凍装置10は、能動的加熱装置58を備えてもよい。能動的加熱装置58は、電気ヒータ60および加熱媒体循環装置62の少なくとも一方を備えてもよい。昇温制御部46は、パルス管冷凍機12を昇温するために能動的加熱装置58を制御するよう構成されていてもよい。
【0074】
電気ヒータ60は、被冷却物26に取り付けられ、被冷却物26を加熱する。電気ヒータ60は、ヒータ電源61から給電される。電気ヒータ60は、冷却ステージ20または伝熱部材28に取り付けられてもよい。
【0075】
加熱媒体循環装置62は、加熱媒体を冷却ステージ20または被冷却物26に供給し回収するよう構成されている。加熱媒体循環装置62は、回収した媒体を送出するポンプ64と、冷却ステージ20または被冷却物26と熱的に結合された熱交換部66を含む配管部を備える。加熱媒体は、ポンプ64から配管部に流入し、熱交換部66を経由して、ポンプ64に回収される。熱交換部66を流れる加熱媒体が冷却ステージ20または被冷却物26と熱交換をすることで、冷却ステージ20または被冷却物26を昇温することができる。熱交換部66は、冷却ステージ20または被冷却物26に巻き回されたコイル状配管を備えてもよい。
【0076】
このようにすれば、能動的加熱装置58によるパルス管冷凍機12の加熱と、パルス管冷凍機12内で発生する作動ガスの対流とを併用して、さらに高速にパルス管冷凍機12を昇温することができる。
【0077】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0078】
上述の実施形態においては、パルス管冷凍機12の昇温姿勢は、一定の傾斜角度に固定されているが、必ずしもこれは必須ではない。昇温姿勢は、昇温方法の実行中に適宜変更されてもよい。すなわち、パルス管冷凍機回転機構14は、パルス管16の傾斜角度を昇温中に変更してもよい。このようにしても、上述の実施形態と同様に、作動ガスの対流を利用してパルス管冷凍機12を短時間で昇温することができる。