特許第6740345号(P6740345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6740345ポリマー強化用繊維の接着剤処理及び強化された製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6740345
(24)【登録日】2020年7月28日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】ポリマー強化用繊維の接着剤処理及び強化された製品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/06 20060101AFI20200730BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20200730BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20200730BHJP
   F16G 1/08 20060101ALI20200730BHJP
   F16G 1/28 20060101ALI20200730BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20200730BHJP
【FI】
   C08J5/06CEQ
   D06M15/263
   D06M15/55
   F16G1/08 A
   F16G1/28 E
   D06M101:40
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-524245(P2018-524245)
(86)(22)【出願日】2016年11月10日
(65)【公表番号】特表2019-504130(P2019-504130A)
(43)【公表日】2019年2月14日
(86)【国際出願番号】US2016061384
(87)【国際公開番号】WO2017083557
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2018年6月4日
(31)【優先権主張番号】62/254,172
(32)【優先日】2015年11月11日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504005091
【氏名又は名称】ゲイツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】アニャオグ,ケレチ シー.
(72)【発明者】
【氏名】ノックス,ジョン グリーム
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−074229(JP,A)
【文献】 特開昭60−209071(JP,A)
【文献】 特開2001−098245(JP,A)
【文献】 特表2005−519182(JP,A)
【文献】 特開2004−183121(JP,A)
【文献】 特開平07−119041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04− 5/10
D06M 15/00−15/715
F16G 1/00− 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーマトリックスと、前記ポリマーマトリックスを強化する繊維とを含み、前記繊維が水性接着剤組成物で処理されそして乾燥されており、前記水性接着剤組成物は、溶媒又は分散媒としての水と、前記ポリマーマトリックスと共硬化性の高分子電解質と、前記繊維と適合性がありかつ前記高分子電解質と共硬化性のプライマー材料と、前記高分子電解質及び前記ポリマーマトリックスと適合性のある硬化剤とを含み、前記繊維が炭素繊維であり、前記プライマー材料がエポキシ樹脂又はエポキシ水性分散液である、動力伝達ベルト用の複合材料組成物。
【請求項2】
前記高分子電解質が、有機酸基の塩を含むペンダント電解質基を有するポリマー主鎖を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記塩がナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、鉄塩、銅塩、又は亜鉛塩であり、そして前記有機酸基がカルボン酸基又はスルホン酸基である、請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
記硬化剤が有機過酸化物又は硫黄系硬化剤である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
前記高分子電解質がポリマー主鎖中に又は側基中に不飽和を含む、請求項2に記載の複合材料。
【請求項6】
前記ポリマー主鎖がジエンモノマーを含む、請求項2に記載の複合材料。
【請求項7】
前記ポリマー主鎖がポリブタジエンを含む、請求項2に記載の複合材料。
【請求項8】
前記高分子電解質が、少なくとも部分的に中和されたマレイン酸グラフト化ポリブタジエンを含む、請求項2に記載の複合材料。
【請求項9】
エラストマーマトリックスを含むエラストマー組成物であって、炭素繊維が前記エラストマーマトリックスを強化し、前記炭素繊維は、溶媒又は分散媒としての水と、前記エラストマーマトリックスと共硬化性の高分子電解質と、前記繊維と適合性がありかつ前記高分子電解質と共硬化性のプライマー材料と、前記高分子電解質及び前記エラストマーマトリックスと適合性がある硬化剤とを含み、前記プライマー材料がエポキシ樹脂又はエポキシ水性分散液である水性接着剤組成物で処理され、続いて乾燥されている、動力伝達ベルト用のエラストマー組成物。
【請求項10】
エラストマー本体と、前記本体内に埋め込まれた強化繊維と、前記繊維を被覆する接着剤組成物とを含む動力伝達ベルトであって、前記接着剤組成物がポリマーマトリックスと共硬化性の高分子電解質と、前記繊維と適合性がありかつ前記高分子電解質と共硬化性のプライマー材料と、及び前記高分子電解質又は前記エラストマーマトリックスと適合性がある硬化剤との反応生成物を含み、前記強化繊維が炭素繊維であり、前記プライマー材料がエポキシ樹脂又はエポキシ水性分散液である、動力伝達ベルト。
【請求項11】
、エポキシ樹脂、マレイン化ポリブタジエン高分子電解質、及び前記高分子電解質及びポリマーマトリックスと適合性のある硬化剤を含む、ポリマーマトリックスを強化する炭素繊維を処理するための動力伝達ベルト用の水性接着剤組成物。
【請求項12】
前記エポキシ樹脂がビスフェノールAエポキシ樹脂である、請求項11に記載の水性接着剤組成物。
【請求項13】
前記硬化剤が過酸化物硬化剤である、請求項12に記載の水性接着剤組成物。
【請求項14】
前記高分子電解質が1モル%〜15モル%の中和されたマレエート基を含む、請求項13に記載の水性接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は概して、動力伝達ベルト及びホースなどのポリマー製品又はエラストマー製品の強化のための繊維又は抗張心線の接着剤処理に、さらに詳細には、エポキシなどのプライマー材料、マレイン化ポリブタジエン誘導体などの高分子電解質材料、及び有機過酸化物又は硫黄系硬化剤などの硬化剤を含む、炭素繊維などの繊維に対する水性接着剤処理に関する。
【0002】
強化ゴム製品技術における最も一般的な繊維結合系はレゾルシノール−ホルムアルデヒド−ラテックス(「RFL」)接着剤で処理された下塗り(primed)繊維に基づく。参照によりその内容が本明細書に組み込まれる米国特許第6,857,159 B2号明細書はゴムベルトの炭素繊維抗張心線へのRFLの使用を開示する例である。RFL接着剤についての多くの変型が提案されている。
【0003】
種々の追加の接着促進剤がRFLの有用性を高めるために提案されてきた。一つの例は、開環されたマレイン化ポリブタジエン及びフェノール誘導体からなるプライマーを開示する欧州特許第1,451,244 B1号明細書である。また、プライマーがRFLに対する添加剤として用いられて浸漬段階の数を減らすことができることも提案されている。RFLに対して他の接着促進剤が添加されてきた。
【0004】
RFLの変型の別の例は、接着を促進し又は他の特性を与えるためのRF樹脂成分の除去及び代替材料の置換である。米国特許第7,256,235 B2号明細書は、水素化スチレン−ブタジエンゴム、カルボキシル化水素化スチレン−ブタジエンゴム、水素化ニトリル−ブタジエンゴム、カルボキシル化水素化ニトリル−ブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン又はそれらのブレンドのラテックスと、加えて、マレイン化液体ポリブタジエンの半エステルの水溶液と、場合により、水溶液中約15重量%までのカーボンブラックとを含む接着剤組成物を開示する。イソシアネート予備処理ポリエステル心線についての例が開示されている。
【0005】
米国特許第7,067,189 B2号明細書は、フェノール性ヒドロキシル基以外のエポキシ反応基を有するポリマーストランド、及び架橋反応においてポリマーストランドをゴムと架橋する架橋基を含む接着促進剤を開示する。スチレン−ブタジエン−ビニルピリジンラテックスと組み合わせられた接着促進剤はポリマー繊維へのゴムの接着性を高める。接着促進剤はゴムに添加されることもできる。開示された例はSBR及びBRゴム配合物中のエポキシ仕上げされたポリエステル心線に基づく。
【0006】
動力伝達ベルト技術において、ベルト寿命を高めるためには優れた心線対ゴム接着を達成することが必要とされる一方で、心線については、とりわけ、有効寿命を通して苛酷なベルト曲げが生じるベルト用途において、良好な屈曲疲れを示して性能を維持することが等しく重要である。優れた心線接着とベルト屈曲疲れとの適切なバランスを実現することが多くのベルト設計において基本的な課題となってきたが、それは一つには通常の接着剤系(例えば、RFL)の大部分が加硫後に心線束内で及び心線−ゴム本体の界面で比較的剛性になるからである。結果として、かかるベルトが繰り返しの屈曲又は後方曲げに付されると、接着剤層はより脆くなりそして離層しベルト故障に至る。故障モードとして、心線引張破損、接着剤離層、エッジコードプル(edge-cord pull)等を挙げることができる。従って、優れた心線接着及び屈曲疲れの両方を与えることができる接着剤系が、とりわけ炭素繊維心線などの高モジュラスで高剛性の抗張部材と共に用いるのに望ましい。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ポリマー複合材料において繊維強化のために接着性及び可撓性を与え、又は動力伝達ベルトにおいて炭素繊維抗張心線に接着性及び可撓性を与える、複合材料組成物及び系及び方法に関する。
【0008】
熱硬化性ポリマーマトリックスへの結合のために強化繊維を処理するための水性接着剤組成物及びそれから製造された動力伝達ベルト及びベルトなどの製品。前記接着剤組成物は、溶媒又は分散媒としての水と、前記ポリマーマトリックスと共硬化性の高分子電解質と、前記繊維と適合性があり(compatible)かつ前記高分子電解質と共硬化性のプライマー材料と、場合により、前記高分子電解質及び前記ポリマーマトリックスと適合性があるゴム硬化剤とを含む。このように、繊維強化された複合ポリマー系は、熱硬化性ポリマーマトリックス、その中に埋め込まれた強化繊維、及び当該繊維を被覆する接着剤組成物を含んでいることができ、前記接着剤組成物はポリマーマトリックスと共硬化性の高分子電解質及び前記繊維と適合性がありかつ前記高分子電解質と共硬化性のプライマー材料を含む。前記接着剤組成物は前記高分子電解質と適合性がある硬化剤を含んでいることができる。一つの好ましい実施形態において、本発明は、水、エポキシ樹脂(好ましくは、エポキシ水性分散液又は水溶液)、マレイン化ポリブタジエン誘導体、及び硬化剤を含む水性接着剤組成物である。
【0009】
本発明は、本発明の接着剤組成物を用いて処理された炭素繊維、又は他の繊維材料(1種又は2種以上)、抗張心線又は他の繊維形態にも関する。本発明は、本発明に係る処理された抗張心線又は強化の繊維形態を含むベルト、ホースなどの炭素強化された製品にも関する。
【0010】
前述したことは、以下の発明の詳細な説明がよりよく理解されることができるように、本発明の特徴及び技術的な利点をむしろ広く概説したものである。本発明のさらなる特徴及び利点は以下に説明されて本発明の特許請求の範囲の主題を形成する。当業者であれば、開示された概念及び特定の実施形態は、本発明の同じ目的を実施するために他の構造をモディファイし又は設計するための基礎として容易に用いられることができることを理解されたい。当業者であれば、かかる同等の構造は別紙の特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱していないことも理解されよう。さらなる目的及び利点と共に、その機構及び操作方法の両方について、本発明の特徴であると考えられる新規な特徴は、添付の図面と関連して考慮されれば、以下の説明からより良く理解されるであろう。しかしながら、各図面は例示及び説明のためだけに設けられているのであり、本発明の範囲の定義として意図されるものではないことは明確に理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
同様の数字は同様の部分を示す、本明細書に組み込まれて本明細書の一部を成す添付の図面は、本発明の実施形態を説明するものであり、本明細書の記載と一緒になって本発明の原理を説明するように作用する。
【0012】
図1は本発明の実施形態の化学及び使用の略図である。
【0013】
図2は歯付きベルトの心線接着試験片の斜視図である。
【0014】
図3は平ベルト屈曲試験の配置図である。
【0015】
図4図3の試験に用いられた平ベルトの断面図である。
【0016】
図5は自動車用タイプの同期ベルトの動的屈曲試験のための配置図である。
【詳細な説明】
【0017】
本発明は、熱硬化性ポリマーマトリックスへの結合のために強化繊維を処理するための水性接着剤組成物に関する。接着剤組成物は、溶媒又は分散媒としての水と、前記ポリマーマトリックスと共硬化性の高分子電解質と、前記繊維と適合性がありかつ前記高分子電解質と共硬化性のプライマー材料と、場合により、前記高分子電解質及び前記ポリマーマトリックスと適合性があるゴム硬化剤とを含む。このように、繊維強化された複合ポリマー系は、熱硬化性ポリマーマトリックス、その中に埋め込まれた強化繊維、及び当該繊維を被覆する接着剤組成物を含んでいることができ、前記接着剤組成物はポリマーマトリックスと共硬化性の高分子電解質及び前記繊維と適合性がありかつ前記高分子電解質と共硬化性のプライマー材料を含む。前記接着剤組成物は前記高分子電解質と適合性がある硬化剤を含んでいることができる。一つの好ましい実施形態において、本発明は、水、エポキシ樹脂(好ましくは、エポキシ水性分散液又は水溶液)、マレイン化ポリブタジエン誘導体、及び硬化剤を含む水性接着剤組成物である。
【0018】
水性とは、接着剤組成物が水性系を介して供給されることを意味する。組成物は水溶液、水性分散液、又は水性エマルジョン又はそれらの混合物であることができる。組成物は、浸漬、噴霧、ロール又はナイフ塗布、はけ塗などを含む任意の適当な処理方法によって繊維材料に送達されることができる。処理の後で、周囲条件又は加熱条件下で乾燥して水を除去することができる。加熱が制御されて接着剤の早期硬化を防止し又はある程度の硬化を与えることができる。処理後のある程度の硬化は処理された強化繊維の粘着力又は粘着性を制御するのに望ましいことができる。
【0019】
高分子電解質は、ポリマー主鎖中に又は側基に硬化部位を提供する不飽和、及び他の官能基又は下塗層(substrates)との結合を促進することができるカルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホネート基、マレイミド基、アミノ基などの官能基を含んでいることができる。高分子電解質材料は、それらに結合した又はそれらを取り囲む「正に」又は「負に」帯電した官能性(functionality)を有していることができる。かかる高分子電解質として、イオン性モノマー/オリゴマー/ポリマー、ポリマー電解質、ポリ(イオン性)液体、イオン性エラストマー、イオン性界面活性剤、イオン性コエージェント(co-agents)を挙げることができるが、それらに限定されるものではない。接着剤組成物は、高分子電解質分子上のペンダント電解質基又は側基として複数(すなわち、2以上)の官能基又は型を有する高分子電解質材料を含んでいることができ、そして複数種の高分子電解質の組み合わせであることができる。高分子電解質の組み合わせは、湿潤又は乾燥形態で適当な高分子電解質を混合するか若しくは一方から他方への順次添加によって又は浸漬、噴霧、若しくはハンドレイアップ法によって実現されることができる。
【0020】
適当な高分子電解質の例として、マレイン化ポリブタジエン又はスチレン−ブタジエンコポリマー、スルホン化ポリスチレン又はポリブタジエン又はスチレンブタジエンコポリマー、マレイン化エチレン−α−オレフィン−エラストマー等を挙げることができる。本明細書中で「マレイン化」とは、ポリマーがマレイン酸でグラフト化(すなわち、「マレイン酸グラフト化」)され(又は無水マレイン酸でグラフト化され、次いで二酸に加水分解され)、次いでNaOH、NHOH、KOHなどの塩基で中和されることを意味する。本明細書中で「カルボキシル化」とは、ポリマーがカルボン酸でグラフト化され、次いで中和されることを意味する。同様に、本明細書中で「スルホン化」とは、ポリマーがスルホン酸でグラフト化され、次いで少なくとも部分的に中和されることを意味する。このように、アニオン性の有機酸基は、例えば、亜鉛、ナトリウム、アルミニウム、カルシウム、銅、鉄、マグネシウム、カリウム、リチウムなどを含む、アルカリ、アルカリ土類又は遷移金属カチオンで中和されることができる。使用されることができる他のイオン性基として、チオグリコレート又はホスホネート、及び、例えば、第四アンモニウム基を含む、カチオノマーを挙げることができる。「グラフト化」は、ポリマーに官能基を結合させるグラフト化反応によって、又は、官能性モノマーとの共重合によって達成されることができる。好ましい高分子電解質は水溶性であるか、又は約30重量%までのレベルで少なくとも易水分散性である。「マレエート」(MA)含有量は重量基準で1〜30%の範囲であることができ、1鎖当たりのMA基の数は1鎖当たり1〜20基であることができる。1鎖当たり約15モル%未満のイオン性基を有する高分子電解質は「アイオノマー」と分類されることが多い。本明細書中で、高分子電解質はアイオノマーを含むと理解される。好ましい高分子電解質は1鎖当たり1〜15モル%のイオン性基、又は5モル%〜15モル%のイオン性基を有することができる。マレイン化ポリマーの分子量は、好ましくは、3000〜6000Mnであることができ、それは10〜35重量%、好ましくは、約28重量%の含有量でビニル基を含んでいることができる。水性接着剤配合物中のマレイン化ポリマー材料の固形分は20〜40重量%であることができ、そして接着剤配合物はpH4.0〜12.0、好ましくは、約8.0〜約9.0、及び室温での粘度約1000cps未満を有していることができる。マレイン化ポリマーは界面活性剤を用いて又は用いないでブレンドされた状態になって分散液の安定性を高めることができ、分散液は一般的に大きさが500nm未満である固体粒子を有していることができる。かかる場合に、水性高分子電解質配合物はイオン性ラテックス(又はアイオノマー性ラテックス)であると考えられる。
【0021】
接着剤組成物の典型的な高分子電解質は、クレイ・バレー社(Cray Valley)による商標の下に販売される、Ricobond(登録商標)7002及びRicobond(登録商標)7004である。これらは、おそらくベースポリマー中に比較的高いレベルの1,2−ポリブタジエン結合を有する、マレイン化された(maleinized)(すなわち、本明細書中で記載のように「マレイン化」)低分子量ポリブタジエン樹脂の中和塩であると考えられる。マレイン化のレベルは、それぞれ1鎖当たり5及び11官能基であると報告されている。それらは固形分28〜31重量%、pH8.0〜9.0で水性分散液となり、それぞれ25℃での粘度<200cps及び<500cpsを有する。
【0022】
マレイン化ポリブタジエンは、マレイン酸でグラフト化された後に各ペンダントマレイン酸基上の一方の酸基がエステル化されそして他方の酸基が中和されたポリブタジエンを含んでいることもできる。代わりに、ポリブタジエンは無水マレイン酸でグラフト化された後に酸無水物基がカルボン酸に加水分解されて半エステル化及び中和されることができる。
【0023】
本発明の下に考えられる他の典型的な高分子電解質として、ミケルマン社(Michelman, Inc.)から入手することができるMichem(登録商標)Emulsion91735などのマレイン化ポリプロピレン、及びMichem(登録商標)Emulsion48625M1などのマレイン化ポリブタジエン(BdMA)、いずれもエボニック社(Evonik)によって販売される、Polyvest(登録商標)MA75(又はPolyvest(登録商標)EP MA120)などのポリマー鎖に沿って無水コハク酸を有する低分子量1,4−シス−ポリブタジエンの無水マレイン酸アダクト、又はPolyvest(登録商標)HT(又はPolyvest(登録商標)EP HT)などのヒドロキシル末端化されたポリブタジエン変型を挙げることができる。他の例として、ランクセス社(LANXESS)からのX_Butyl(登録商標)I4565Pなどのブチルアイオノマー材料、ポリ(p−スチレンスルホン酸ナトリウム)、ダウ社(DOW)によるRomax(登録商標)7000材料などのイオン性アクリルポリマーエマルジョンなどの種々のアイオノマーを挙げることができる。Romax(登録商標)高分子電解質は酸官能化され、塩基で中和されることができ、アニオン電荷又はカチオン電荷のいずれかを有していることができる。また考えられる高分子電解質は、ジアクリル酸亜鉛、例えば、クレイ・バレー社によるDymalink(登録商標)633/634製品を含むジアクリル酸金属塩、酸性官能基を含んでいることができ、亜鉛、ナトリウムなどの金属塩で中和されることができるイオン性エチレン−メタクリル酸コポリマーのファミリーであるDupont(商標)Surlyn(登録商標)樹脂である。
【0024】
本発明に対し考えられる他の高分子電解質として重合性のイオン液体又はモノマーを挙げることができる。「重合性」とは、材料が少なくとも1つの「不飽和」結合を有しているか又は過酸化物若しくは硫黄硬化系を用いてそれ自体若しくは他のポリマーに架橋することができることを意味する。例えば、ジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛などのカルボン酸の金属塩は代表的な重合性のイオンモノマーである。
【0025】
一般に、ポリ(イオン)化学製品はアニオン及びカチオン高分子電解質を包含し、カルボニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アクリル酸基などの官能基を含むアニオン及びカチオン高分子電解質を含むものを含む。そしてかかる高分子電解質材料の数平均分子量は、好ましくは、100〜10000の範囲であることができる。
【0026】
プライマー材料は、繊維表面に対して知られた親和性と高分子電解質との反応性を有する化学製品又は化学製品の混合物である。例えば、水溶性であるエポキシプライマー材料は、繊維表面のサイズ剤又は仕上げ剤として、炭素繊維、ガラス繊維などと共に用いるのに通常好ましい。かかるエポキシプライマー材料は、主に、エポキシ樹脂、例えば、グリシジルアミン型、ノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールA、F、及びS、臭素化ビスフェノールA、ウレタン官能化ビスフェノールA型樹脂などから製造され又はそれらに基づいて調製されることができる。他のプライマー材料の例として、水溶性又は水分散性のポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリアミド(例えば、ナイロン分散体)、ポリエチレン、シラン、ポリプロピレン、アクリル酸ビニルコポリマーなどを挙げることができる。プライマー材料は、繊維表面との親和性を促進し又は水中分散を補助する基でさらに官能化されていることができる。
【0027】
本発明の実施形態において、プライマー材料はアニオン及びカチオン界面活性剤、120℃未満のガラス転移を有するポリマー又はモノマーを含んでいることができ、固形分<60%、粘度<5000cps、及びpH2〜12を有していることができる。アニオン系プライマー材料はその分子構造中にスルフェート、スルホネート、ホスフェート、カルボキシレートなどの基を有していることができる。カチオン系プライマー材料は第一、第二、又は第三アミン、及び第四アンモニウム基に基づくものを含んでいることができる。
【0028】
好ましいプライマー材料の例は繊維及びゴムの型に依存する。例として、炭素繊維と共に用いるためのプライマーは、硬化剤の有無にかかわらず、エポキシ又はポリウレタンであることができる。エポキシ又はイソシアネート官能プライマーはポリエステル又はアラミド繊維と共に用いられることができる。シランプライマーはガラスと共に用いられることができる。同様に、硬化剤の選択はゴム型に依存することができる。硫黄又は硫黄促進性(sulfur- accelerated)硬化剤はジエンエラストマー又は他の不飽和ポリマーに対して好ましいことができ、一方で過酸化物硬化剤はEPM又はHNBRなどの飽和ポリマーに対して好ましいことができる。
【0029】
本発明の実施における使用が考えられる典型的なプライマー/サイズ剤化学製品として、ミケルマン社によって販売されるHydrosize(登録商標)EP834及びHydrosize(登録商標)EP876などのエポキシ(水性分散液)、乳化剤としてアンモニウム化分散体を用いたMichem(登録商標)Prime2960として販売されるエチレンアクリル酸共重合体、チョップトファイバーを含むガラス、ポリエステル、及び炭素繊維をサイジングするための、Hydrosize(登録商標)U1−01、Hydrosize(登録商標)U2−01、Michem(登録商標)Dispersion Urethane16などの非イオン性ポリウレタンサイズ剤、ガラス、炭素、及び種々の繊維へのサイジングに対しても商品名Michem(登録商標)Emulsion 48625M1を用いたマレイン化ブタジエン(BdMA)、すべてミケルマン社によってHydrosize(登録商標)PA845として販売されるポリアミド(ナイロン)サイズ剤、BASF社によって販売されるAstacin(登録商標)化学製品、TFL社によるRoda(登録商標)pur化学製品、ルドルフ社(Rudolf GmbH)によるRuco(登録商標)−PUR化学製品などを挙げることができる。
【0030】
本発明の側面は、接着剤組成物が繊維表面の仕上げ剤又はサイズ剤として用いられるのと同じ又は同様なサイズ剤型の化学製品と、加えて高分子電解質材料及び硬化剤を含むように接着剤組成物を配合することを含む。
【0031】
硬化剤は熱硬化性ポリマーマトリックス中のポリマー分子間に架橋を形成するか又は形成を促進する反応性材料を意味する。接着剤組成物の架橋は、接着剤組成物の重合と、例えば、ゴム又は他のエラストマー若しくはポリマーであることができる熱硬化性マトリックスへの架橋とを生じさせることができるラジカル、ラジカルカチオン/アニオンを含むことができる反応性中間体の生成を開始させることができる過酸化物硬化、硫黄硬化、熱又は光照射プロセス及び系によって実現されることができる。硬化剤は硫黄、硫黄促進剤、過酸化物、酸化亜鉛、ビスマレイミド、ジアミン、イソシアネートなどであることができる。
【0032】
本発明における使用が考えられる典型的な硬化剤として、過酸化物硬化剤、例えば、アルケマ・グループ(Arkema Group)により商品名Luperox(登録商標)101XL45及びR.T.ヴァンダービルト(R.T.Vanderbilt)により商品名Varox(登録商標)DBPHエマルジョンの下に一般に販売される2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、及びアルケマ・グループにより商品名Vul−Cup(登録商標)の下に販売されるα,α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、及びアルケマ・グループにより商品名DiCup(登録商標)の下に販売されるジクミルペルオキシドを挙げることができる。
【0033】
本発明に有用な硫黄硬化の硬化剤又は促進剤として、ベンゾチアゾール(例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール、2,2’−ジチオベンゾチアゾール、2−モルホリノチオベンゾチアゾール)、ベンゾチアゾール−スルフェンアミド(例えば、n−シクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド、n−tert−ブチルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド)、チウラム(例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド)、ジチオカルバメート(例えば、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)などを挙げることができる。これらの促進剤は互いに他と又は酸化亜鉛などの活性剤と共に用いられることができる。
【0034】
必要に応じて特別な制限なしに他の成分が含まれることができる。かかる他の成分として、界面活性剤、安定剤、pH調節剤、増粘剤、劣化防止剤、染料及び顔料、充填剤、軟化剤、加工助剤、付香剤などを挙げることができる。R.F.Mausser編、「ザ・ヴァンダービルト・ラテックス・ハンドブック(The Vanderbilt Latex Handbook)」、R.T.ヴァンダービルト社(R.T. Vanderbilt Company, Inc.)(第3版、1987)に記載された通常のラテックス配合に有用な成分も用いられることができる。
【0035】
組成物は、充填剤(例えば、カーボンブラック、グラフィアト、グラフェン、酸化グラフェン、シリカ、クレー、カーボンナノチューブ、有機及び無機ナノファイバー及びナノパーティクル、例えば、セルロースナノファイバー、アラミドナノファイバー、金属系ナノパーティクル、半導体及び量子ドットナノマテリアルなどのもの)、コエージェント(例えば、I型及びII型コエージェント)などを含んでいることもできる。
【0036】
接着剤組成物の一部としてプライマー材料(例えば、サイズ剤又はサイズ剤に適合性がある材料)の添加は接着剤組成物の繊維表面への良好な相互作用/湿潤/結合を可能にし、それによって表面への良好な接着を可能にすると考えられる。炭素繊維の生(未処理)の繊維対本発明の接着剤処理された繊維対通常のラテックス接着剤処理された繊維の走査電子顕微鏡写真(SEM)画像は、本発明の接着剤組成物を用いた繊維表面に大きく改善された湿潤及び接着剤被覆面積を示した。サイズ剤/プライマー材料の高分子電解質との反応及び/又は接着剤の繊維表面への結合は、共有結合の形成、水素結合、静電、ファンデルワールス、又はπ−π結合相互作用を含んでいることができる。プライマー材料は最初に高分子電解質と反応し又は同時に繊維表面と(繊維上のサイズ剤の有無にかかわらず)反応することができる。接着剤組成物のプライマー含有量は、繊維上の最終的サイズ剤含有量0.2〜2重量%を達成するように選択されることができる。とりわけ、繊維は製造業者によって表面にサイズ剤が付与されていてもいなくてもよい。
【0037】
接着剤組成物が繊維表面に付与されれば、硬化剤はポリマー/エラストマー/ゴムマトリックスへの高分子電解質の架橋を促進し、それによって接着剤組成物のマトリックス及び繊維表面の両方への十分な結合を確実にする。このことは、好ましくは、処理された繊維の乾燥の間には生じないが、エラストマーマトリックスとの接触のとき加硫又は架橋段階の間に生じる。
【0038】
とりわけ、本発明の接着剤組成物は、従来の非イオン性ラテックス(例えば、HNBR、VPSBR、CR又はネオプレン、NBR、XNBRなど)とブレンドされる必要がなく、又はそれを全く含まず、レゾルシノール、フェノール、ホルムアルデヒド又はRF若しくはPF樹脂を含む必要もない。広範な接着試験からの結果に基づき、本発明の接着剤組成物の実施形態は、過酸化物又は硫黄系硬化剤によって加硫されることができる、ニトリル(NBR)及び水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレン−α−オレフィンエラストマー(例えば、EPDM、EPM、EOMなど)、ポリクロロプレンゴム(CR)などを含む種々のゴム材料に対して炭素繊維の優れた適合性及び接着性を与える。本発明の接着剤組成物は当技術分野で公知の他の型の接着剤組成物よりさらに広範に適用することができると考えられるが、それは多くの従来の接着剤系が特定のゴム型に対する適合性を与えるためということもあって特定のラテックス材料の含有に依存しているからである。
【0039】
通常のRFL接着剤は心線又は繊維の型、使用されるゴム型、及び/又は用途に関してより選択的であることにも注目すべきである。例えば、一部のRFL接着剤はある繊維型に対して適当であることができるが、別の繊維型に対しては繊維表面サイジング又は繊維の分子の性質の違いのために適していないことがある。RFL接着剤の化学的性質は当技術分野で周知であるが、良好な接着剤の結合を達成することは、一般に、RFL接着剤に対する幾つかのモディフィケーション(例えば、ラテックス型の変更)、又は処理プロセス条件、プライマー処理の注意深い選択を、又はゴム配合物へのモディフィケーションさえをも要することがある。これらの課題は、RFLを広範な種類の心線に用いるのに対し最適ではなくしてしまい、より要求の多い商業的に実現可能な商品、例えば、優れた接着が屈曲疲れ及び寿命の伸びに決定的な役割を果たすベルト、に用いるのをより複雑にすることがある。
【0040】
本発明の接着剤組成物はゴム及びポリマー複合材料に用いられる広範な強化繊維に適合することができる。これらの繊維として炭素繊維、ガラス繊維、硼素繊維、セラミック繊維、金属繊維、セルロース系繊維などの天然繊維、及びアラミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、アクリル、モダクリル、ビニロン、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルケトンなどの合成有機繊維などを挙げることができる。炭素繊維は任意の種類の炭化セルロース系繊維又は合成繊維であることができる。
【0041】
本発明において又は本発明で有用な繊維はモノフィラメント又は連続マルチフィラメント又はステープルファイバーストランド、ヤーン、又は心線であることができる。繊維はチョップトファイバー又はフィブリル化繊維を含む分散性の短繊維であることができる。繊維は、織物、メリヤス生地、又は不織布を含む、布帛の形態であることができる。繊維は上記型の繊維又は形態の任意の組み合わせ又はハイブリッドであることができる。特定の実施形態において、繊維は接着剤組成物中の浸漬(ディッピング)によって被覆される、加撚された抗張心線の形態である。かかる処理がされた心線は、動力伝達ベルト又はコンベヤーベルトのゴム又はポリウレタン本体内に埋め込まれるための抗張心線として用いられることができる。かかる動力伝達ベルトの例として、歯付き又は同期ベルト、Vベルト及び平ベルトを挙げることができる。
【0042】
本発明の種々の実施形態に従って、本発明の接着剤組成物を有する繊維又は心線は、ウレタン、ポリウレタンに結合し、又はイソシアネート、イソシアネートプレポリマー、ポリアミドなどとの反応によって生成物を形成することができる反応性の極性官能基(例えば、カルボニル基、及びヒドロキシル基)を有していることができる。本発明の接着剤組成物は、優れた接着性のために種々の抗張心線に付与されることができるだけではなく、布帛又はフラットトウに付与されて、浸漬法又は噴霧法によって達成されることができるウエットフィラメントワインディング法に対してそれを好適にすることができると考えられる。要約すると、本発明の接着剤組成物で処理された繊維は、種々の熱可塑性及び熱硬化性のエラストマー製品又は物品、例えば、動力伝達ベルト、コンベヤーベルト、ホース、フィラメント巻圧力容器、タイヤなどに対する十分な結合を与えることができる。
【0043】
本発明の接着剤組成物の化学的性質及び熱硬化性マトリックス(例えば、ゴム)と繊維表面への接着に対して提案される機構は以下の式に表される。
【0044】
式(I)は炭素繊維及び他の合成繊維に対するサイジング仕上げに用いられるビスフェノールA型エポキシ化学製品の一般的な構造を示している。これらのエポキシ樹脂はエピクロロヒドリンをビスフェノールAと反応させてビスフェノールAのジグリシジルエーテルを形成することによって形成される。この種類の最も簡単な樹脂は、2モルのエピクロロヒドリンを1モルのビスフェノールAと反応させてビスフェノールAジグリシジルエーテル(式(I)中n=0)を形成することから形成される。用いられるエピクロロヒドリンがより少ないと、nはより大きくなり、分子量はより高くなり、そして分子中のエポキシ官能基は(重量で)より少なくなるが、それはエポキシ基がちょうど末端にあるからである。エポキシ樹脂はさらに70重量%までの水中分散によって水性形態で調製されることができ、そして前記分散体は皮膜形成剤、及び例えば、粒子凝集、に対する分散の安定性に役立つ関連する界面活性剤を含んでいることができる。
【0045】
【化1】
【0046】
式(II)はエポキシ型プライマー化学製品のマレイン化ポリブタジエンとの考えられる反応を示す。エポキシ樹脂の末端のエポキシ基は示していない。また、図示されたMA−PBD(マレイン化ポリブタジエン高分子電解質又はアイオノマー)の重合形は、或る1,2−ビニル量を有する1,4−ポリブタジエンに基づく。この式(II)は本発明の接着剤組成物に関係する化学の要点を捉えている。最終的に、本発明の接着剤組成物は、ポリマーマトリックスと共硬化性の高分子電解質と、繊維と適合性がありかつ前記高分子電解質と共硬化性のプライマー材料と、及び場合により前記高分子電解質又は前記エラストマーマトリックスと適合性がある硬化剤との反応生成物である。得られる複合材料は最終的に、高分子電解質と、プライマー材料と、繊維表面と、及びポリマーマトリックス材料と、及び任意の硬化剤との反応生成物である。
【0047】
【化2】
【0048】
図1は、エポキシ系結合24によって繊維表面22に結合され及び過酸化物又は硫黄系硬化剤25を介してゴムマトリックス26に架橋された本発明の接着剤組成物23の実施形態を含むポリマー複合材料系20を示す。
【0049】
このように、式(I)〜(II)及び図1は本発明の実施形態を説明する。本発明の接着剤組成物のプライマー材料の例として、ビスフェノールA型エポキシの一般的化学構造が式(I)に示されている。とりわけ、エポキシ樹脂は、当業界で用いられる多くの天然及び合成繊維におけるサイジング又は仕上げのための化学製品として当技術分野で周知である。従って、接着剤配合物中のサイズ剤化学製品(例えば、エポキシ)は多くの天然及び合成繊維と高い適合性があり、そのエポキシ基が反応して繊維表面に接着剤を固定すると考えられる。さらに、プライマー材料は、例えば、式(II)中にMA−PBDとして示される、高分子電解質化学製品と反応することができる。例えば、エポキシ化学製品の反応性ヒドロキシル基は求核性付加によってMA−PBD誘導体のカルボキシル基と反応することができる。このように、前記の通り、エポキシプライマーは繊維表面の湿潤及び該表面への結合及びポリマー又はゴムマトリックスに結合することができる高分子電解質との反応の両方を補助し得ることも可能である。最終的に、図1は、如何にして本発明の接着剤組成物が繊維の表面に接着しそして高分子電解質中の不飽和又は反応性水素を介してゴムマトリックスへ架橋するかの概説を示している。
【0050】
とりわけ結合するのが難しいことのあるポリマーマトリックス又は他の材料への適合性を高めるために、任意の通常のオーバーコート接着剤が本発明の接着剤組成物を用いて処理された繊維に付与されることができることに留意されたい。
【0051】
実施例
【0052】
湿量基準で86.7%の高分子電解質としてのRicobond(登録商標)7002(固形30%)、4.8%のビスフェノールAエポキシ樹脂としてのミケルマン社由来のHydrosize(登録商標)EP834(固形60%)、0.7%の過酸化物硬化剤としてのハーウィック社(Harwick)由来のLuperox(登録商標)101XL45(固形45%)、及び7.8%の追加の蒸留水からなる典型的な水性接着剤組成物がよく混ぜ合わされた。これは以下の結果において本発明の接着剤と称する。
【0053】
比較用の接着剤も混合された。比較用のHNBR RFL接着剤は通常のRFL技術を用いて調製された。比較用のHNBR−ラテックス接着剤は商業的に入手することができるラテックス、硬化剤及び接着促進剤を用いて調製された。同様に、比較用のCR−ラテックス接着剤が調製された。
【0054】
評価されたそれぞれの接着剤配合物は同一条件下に調製されそして各々固形約30%を含んでいた。それぞれの水性配合物のアリコートは乾燥されそして固体膜形態で試験するために170℃で30分間硬化された。本発明の接着剤及び比較用の接着剤は、HNBR及びEPDM動力伝達ベルトにおいて意図された最終使用を有する炭素繊維抗張心線を処理するのに用いられた。心線は通常のゴム配合物及び試験方法を用いてHNBR及びEPDMゴムへの接着性及び引張強さについて試験された。
【0055】
心線接着剤はベルト温度が120℃を超えることがある用途において及びベルト製造の間に経験される高温条件に耐えるように良好な耐熱性を有していなければならない。熱重量分析(TGA)及び示差走査測熱(DSC)による特性決定方法が本発明の接着剤組成物の熱安定性を当技術分野で公知の他の接着剤と比較するために用いられた。
【0056】
表1は、本発明の接着剤対RFL及びラテックス系の接着剤システムの硬化膜のガラス転移及び熱安定性の比較のデータを示す。
【表1】
【0057】
本発明の接着剤組成物は、硬化材料の重量損失の開始によって示されるように、通常のRFL及びラテックス系接着剤システムと比較してより良好な又は同等の熱安定性を示すことが理解されよう。興味深いことに、本発明の接着剤は最も低いガラス転移温度も示した。このことは、本発明の接着剤組成物が、広範囲の温度、例えば、−120℃〜250℃より高い温度にわたりその接着剤性能及び/又は安定性を維持することができ、動力伝達ベルト又は氷点下の温度での使用に向けて設計される他の強化製品から製品が一般的に極めて高温を経験する場合のものに及ぶ広範囲の用途において、本発明の接着剤組成物を繊維強化用に選ばれる優れた接着剤組成物にすることができることを意味する。さらに、熱安定性、又は耐環境性などにおける改善は、本明細書中に記載の通りに本発明の範囲から逸脱することなしに接着剤組成物、その成分又は材料加工条件の調節によって実現されることができる。例えば、配合物中の成分である化学製品の比率は混合の間に変化されることができ、充填剤及び新たな化学製品は性能を高めるために添加されることができ、そして温度条件は材料のハンドリング及び/又は加工に合うように調整されることができる。高温条件(並びに極めて低温)を一般的に経験するベルト用途の例は無段変速機(CVT)ベルト用途にある。
【0058】
CVTベルトは、レクリエーション用ATV/UTV、スクーター、スノーモービルなどを含む多くの車両に用いられる。CVTシステムは、例えば、米国特許第8,672,788 B2号明細書に詳細に論じられている。一般に、2つのプーリハーフが軸方向に離れるか又は寄るように動いてベルトの半径方向位置の変化を強制すると、ベルトがシーブ内で半径方向位置を変えるためにベルトは極度の摩擦力に付され得る。2つのシーブハーフが軸方向に寄るように動いてベルトのピッチラインを増加させると、ベルトは極度の摩擦力及び高い軸方向又は横方向の圧縮力に付される。高く可変のトルク負荷は高い張力と高い楔入力(wedging forces)とを生じさせ、それはまたベルトに高い横方向圧縮力を生じさせる。ベルトをクラッチとして使用してベルトの接触面に更なる摩擦力を生じさせる駆動適用もある。これらの力は、適用の動態(例えば、頻繁な、高い加速負荷を伴う急速なシフト)のためCVTにおいて最も苛酷なものとなることがある。CVTベルトがドライバプーリ及びドリブンプーリを横切るとき、それは連続的な曲げ又は屈曲にも付される。ゴム製CVTベルトは一般に、いわゆる「ドライCVT」適用において潤滑なしに用いられる。従って、CVTベルトは優れた長手方向の可撓性、高い長手方向のモジュラス、高い耐摩耗性、高い横方向剛性を有するように設計されなければならず、ベルトは長い時間の期間、広い温度範囲にわたって動作しなければならない。もちろん、スノーモービルCVTベルトは一般に極めて低温で始まるので、低温可撓性も必要とされる。
【0059】
接着剤組成物の接着剤特性の初期評価は標準のASTM D4776(すなわち、強化心線のゴムへの接着に対するH試験)と類似の試験方法を用いて実施された。心線への接着剤の付与は当技術分野で公知の通常の心線処理法によって行われた。
【0060】
用語「心線」は、この開示において、当技術分野で知られているように加撚されることができる1又は2以上の糸の組み合わせ、及び2又は3以上の糸が用いられる場合には、さらに一緒に編まれ(laid)又は束ねられ又は加撚されそしてベルトなどの強化ゴム製品に使用されるためにバインダー又は接着剤で処理されることができるそれらの組み合わせを指すように用いられる。本発明の実施形態において及び実証実験(proof-of-concept)の目的で、本発明の接着剤組成物は、接着剤を含む浸漬タンクにトウを浸漬し、次いで浸漬したトウを炉内で乾燥させて過剰の水を除去することによって炭素繊維トウに付与された。次いで、処理されたトウはそれ自体で撚られ又は同じ若しくは異種の繊維型の別のトウと合撚され(plied)/束ねられ/ケーブルされることができる。さらに詳しい心線処理方法の記載は、その一部の内容が参照により本明細書中に組み込まれる米国特許第8,672,788 B2明細書にある。一般に、接着剤中にトウを浸漬し炉内で乾燥させるには約0.5〜5分、好ましくは、1〜3分を要する。乾燥温度は一般に100〜130℃の範囲である。本発明の実施形態において、接着剤の浸漬付着量(dip pick up)(%DPU)は処理された心線の最終乾量の5%〜20%の範囲であることができる。加撚工程は当技術分野で知られている方法、機械、又は構成を用いて行われる。加撚された心線は、主としてゴムマトリックスへの接着性の向上又は心線の環境保護のために心線の外側を被覆することが意図される「オーバーコート」又は「オーバーコート接着剤」として一般に知られる追加の接着剤層でさらに被覆されてもよいし又はされていなくてもよい。オーバーコート%DPUは一般に、そのように処理された心線の最終重量に基づき、約1重量%〜約10重量%の範囲であることができる。有用なオーバーコート接着剤の例は当技術分野において見出され、その例としてロード社(Lord Corporation)により商標CHEMLOKの下に販売される種々の組成物、及びケミカル・イノベーションズ・リミテッド(Chemical Innovations Limited)(CIL)によって商標CILBONDの下に販売される種々の組成物、又はザ・ダウ・ケミカル・カンパニー(The Dow Chemical Company)によって販売されるMEGUM(登録商標)、THIXON(登録商標)及びROBOND(登録商標)を挙げることができる。特定のオーバーコートは、ゴムマトリックス又はベルト本体との適合性がありそして耐熱性、耐湿性又は耐オゾン性などの他の所望の特性を有するように選択されることができる。接着剤組成物及び対応する心線処理方法は、ガラス繊維、ポリエステル、アラミド、バサルト(basalt)、PBOなど、又はそれらのハイブリッドを含む他の繊維/心線に等しく適用されることができることを理解されたい。
【0061】
炭素繊維はその優れた引張特性、高い剛性、及び高いモジュラス特性について知られており、そして結果として、多くの高性能の/先端的な繊維強化複合物品及び商品において選択される繊維強化材として関心を得続けている。炭素抗張心線を有するベルト設計における最近の進歩は、強化材としてガラス又はアラミド又はポリエステル抗張心線を有するものより負荷支持能力、より良好なベルト寿命、ベルトのより大きい軸方向剛性及び寸法安定性における有意な改善を示す。ベルト又はタイヤにおけるようなゴム強化のための炭素繊維の使用は何年も前から示されてきたが、今でもなお、広い商業的な用途に対して適切な炭素心線を製造することにおいて遭遇する課題がある。このことの一つの側面は、炭素繊維の表面に対し十分な結合を与えることができる適切な接着剤を開発する上での困難である。これは、炭素繊維が他の上記した繊維と異なり、接着剤材料への結合を促進させることができる活性な官能基をその分子構造に欠いているためであることができる。そして製造業者によって繊維に付与されるサイズ剤化学製品は接着剤への結合を高めることができるが、サイズ剤は主としてハンドリングを補助して輸送、保管、又はスプール若しくはプーリの周りに巻き取る(winding)間の繊維損傷を防ぐものである。溶媒形態であろうが水性形態であろうが、予め加撚された炭素糸中への通常の接着剤の十分な浸透及び結合を達成するのはさらにいっそう困難である。さらに、炭素繊維は心線処理工程の間に毛羽やほつれをより形成しやすい。
【0062】
本発明の実施形態に従い、炭素繊維トウのサイズは100〜100,000フィラメントの範囲であることができるが、最も商業的に入手することができる繊維は1000〜48000フィラメントの範囲内である。炭素繊維糸は一般に1K、6K、12Kなどと省略されて糸の中のフィラメントの数を表し、「K」は1000フィラメントを意味しそして数、例えば、12は乗数を示す(すなわち、12K=12,000フィラメント)。6K及び12K糸はおそらく商業的に入手することができる最も経済的なグレードである。用語「トウ」は一般に無撚り生繊維材料糸を示すように用いられる。合わせたトウは12K6のように第二の数を有して示されるが、12K6はそれぞれが合わされた12Kの6糸を意味する。
【0063】
抗張心線に用いるための接着剤の別の重要な特徴は、良好な耐環境性、例えば、湿気、水分、オゾン、UV照射などに対する耐性を維持することである。オゾンは材料の架橋能力の低下又はクラッキングをもたらす不飽和への作用(attack)によってエラストマー材料を分解することができることは当技術分野で公知である。このように、エラストマー接着剤がその架橋能力を失うと、マトリックス(例えば、ゴム)への接着が劇的に低減されることが推論されよう。
【0064】
従って、本発明者らは、本発明及び比較用の接着剤組成物を12K炭素繊維トウに付与後、次いで当該トウを加撚し、そしてその後にゴムマトリックス中の心線接着の評価を行って、それらの耐環境性を評価した。動力伝達ベルトなどにおける抗張心線の接着は製品の性能及び耐久性において不可欠の役割を果たす。ベルト本体に対する心線の十分な接着がベルトの実用寿命を通して維持されなければならず、そうでなければ、ベルトは早期の破損を経験することがある。これはゴム本体に対する優れた心線接着がベルトから抗張心線への効率的な荷重伝達を可能にして効率的な動力の伝達に寄与するからである。
【0065】
比較分析のために、通常の非イオン性ラテックス系処理(例えば、ラテックス+硬化剤)による対照心線試料も調製された。処理された炭素心線試料は24時間及び48時間の期間制御室内でオゾン及び湿気条件に曝露されて、抗張心線が輸送、保管、又はラボ若しくはベルトプラントでの使用の間に遭遇することがある最も厳しい条件の一部をシミュレートした。試験条件は、50mPa分圧(0.6PPM)のオゾン濃度、及び温度104°F(40℃)、及び95°F(35℃)で80%相対湿度を含んでいた。心線試料のこれらの条件への曝露後、心線は、好ましくは、一定の張力下に、ゴム層の間に配置され、そして加熱された油圧プレス又は炉室内で加硫に付された。硬化後、ゴム内心線(cord-in-rubber)のスラブは幾つかの試料に区分けされ、各試料は「ヘッド」としてのゴムブロック及び「テイル」としての心線を備えた「T字型」を有していた。次いで、心線接着性はゴムブロックから心線を引き抜くのに必要な力を測定することによって評価される。このラボ試験は、万能引張試験機で実施されることができる標準のASTM D4776(強化心線のゴムへの接着に対するH試験)と同種である。測定された力は所定の処理及び/又は所定のゴムに対する心線の接着度を特徴づけるのに定量的に用いられる。心線がゴムから引き抜かれるときの心線の破壊モードも接着性の定性的評価を与えることができる。測定される力に影響を及ぼすことがある他の要因、例えば、ゴム配合物のモジュラス、心線の直径/ゲージ、試験温度などがあるので、これらの要因はできるだけ一定に保たれた。
【0066】
接着の初期評価のために、EPDMゴムが用いられそして心線への接着剤処理である唯一の相違を有して同じ条件下ですべての接着試料が調製された。処理された心線の直径は処理によって変化せず、概して0.8〜1.2mmの範囲内にあることができるが、好ましくは、約1.0mmであることができる。表2は湿気及びオゾン条件に曝露後の炭素心線試料の接着力の値を示す。心線の初期引張強さにおいては認め得るほどの差異はなかったが、本発明の接着剤はエージング後の性能がより良好であることが理解されよう。高い湿気及びオゾンレベルは本発明の接着剤組成物を用いた炭素心線の接着力に何ら有意な影響を及ぼさなかったし、本発明に係る接着力の値は対照心線由来のものより高かった。
【0067】
表2は、処理された炭素心線のオゾン及び湿気条件に曝露後の本発明の接着剤とラテックス+硬化剤接着剤との間の心線接着の比較を示す。
【表2】
【0068】
前記のように、炭素繊維トウサイズは48Kフィラメントの高さを得ることができるが、より大きい直径の心線は所定のトウサイズの複数のトウ/心線を組み合わせることによって構成されることができる。例えば、12K4構成は4つのトウ/心線を一緒に合撚し/ケーブルし/加撚することによって実現されることができる4つの12Kトウ/糸の組み合わせであることができる。より大きいゲージの単一心線を形成するためのトウ/心線のこの「組み合わせ」は段階的に行われることができ、例えば、各トウが最初に所定の方向に撚られ、そして次いで別の所定の方向に一緒に合撚される。本明細書中、「方向」とはトウ/心線がS又はZ方向において螺旋状に撚り合わされることができることを意味する。
【0069】
これらのより大きいゲージの炭素心線は、一般に、ベルトの性能に対してゴムマトリックスへの優れた心線接着が極めて重要である、高負荷、高耐久性のタイミングベルト駆動用途において必要とされる。このように、12K4処理炭素心線が製造されそしてそれぞれ表3及び表4に示されるようにEPDM及びHNBRゴム配合物に対して室温及び高温での接着性が評価された。
【0070】
表3は、室温(23℃)でEPDM及びHNBRゴムに対して12K4炭素心線を用いた場合及びガラス心線を用いた場合の接着性試験の結果を示す。両方の心線型は同様の直径を有していた。接着性の値はニュートンによる。表4は、高温(85℃)でEPDM及びHNBRゴムに対して12K4炭素心線を用いた場合及びガラス心線を用いた場合の接着性試験の結果を示す。
【表3】
【表4】
【0071】
本発明の接着剤は室温で及び高温でさえ他の接着剤より有意に高い接着力を与えることが理解されよう。これらの接着性の結果は、実際のベルト、例えば、CVTベルトにおける処理心線のさらなる評価を可能にする。一般に、ベルト製造プロセスは、円筒モールド上での又はモールドへの移送用のマンドレル上での、種々の層のテキスタイル、エラストマー、及び抗張部材の、直立又は反転の、組み立てを含んでいることができる。抗張心線は、所定の心線間隔又は単位幅当たりのエンドの数でマンドレルの周りに螺旋巻きされることができる。モールドはその中に形成されたコグプロファイルを有していることができ及び/又はいわゆる「マトリックス」はコグプロファイルを形成するように用いられることができる。硬化又は加硫してスラブを形成した後、個々のベルトは適切な接触面V角度又は角度でそこから切断され及び/又は研磨されそして必要により反転されることができる。表5はEPDM CVTベルト試料からの心線接着性を示す。この試験のために、ベルトから2本の心線を引き抜くのに必要な力が万能引張試験機で測定される。試験用の試料調製は図2に示され、以下のように記載されることができる。ベルト部分40が約4インチ長さ(11〜12歯41)に切断され、片刃かみそりが用いられて一端から4番目の歯を(46において)切り開くことができる。切断された歯は一対のプライヤーで掴まれそしてそれに最も近いベルト末端もプライヤーで掴まれることができる。布帛は歯から及びランド領域を通って引き離され、2本の中央の心線45がマーカーペンでマークを付けられ、次いで3つの歯が数えられ図2に示されるようにランド領域43の中央にマークが作られる。第一の切断は、布帛が除去された領域で(46において)2本の中央の心線を除いてすべての心線44を通して行われ、第二の切断43は、第一の切断から3歯離れたランド領域において2本の中央の心線を通して行われる。試験片は試験グリップに配置されて図2に矢印で示されるように引っ張られる。試験はピーク荷重/力が達成された後に停止される。試験はコグド又はノッチ付きVベルトを含む任意の歯付きベルトについて同様な方法で実施されることができる。
【0072】
CVTベルト試料に対する2本心線引き抜き(pullout)試験の結果は表5に示される。本発明の接着剤は室温及び高温のいずれでも2つの比較用の接着剤と同等に機能する。
【表5】
【0073】
本発明の接着剤組成物は布帛及びアラミドなどの他の心線型にも付与され、種々のゴム配合物に対する接着性について処理された布帛及び心線の試料を試験することによって適合性が評価された。アラミドの心線処理が前記のように、次いで当技術分野で公知の標準的な心線処理法/プロセスでなされた。本発明に係る処理は再び通常の接着剤と同等に機能した。アラミドは具体的にはデュポン社(DuPont)由来のKevlar(登録商標)119であった。
【0074】
布帛処理は、1インチ×4インチの布帛試料を接着剤配合物中に所定の時間、好ましくは、2〜5分間浸漬し、その試料を炉内において121℃で乾燥させて水を除去し、そして接着剤の%DPU(浸漬液ピックアップ、重量基準で)を測定することにより行われた。布帛の他の処理法、例えば、噴霧、ハンドレイアップ、及び/又は風乾条件なども適用することができる。処理された布帛をオーバーコート配合物中に浸漬し、乾燥させてオーバーコート溶媒を除去し、そして%DPUを測定することによって、処理された布帛にオーバーコート/セメント材料が付与されることができる。布帛への接着性を試験するためのパッド試料の調製は、3つのニトリルゴム層の間に2つの布帛を交互に挟み、中央のゴムの上部にマイラー(商品名)フィルムを配置する(すなわち、ゴム−布帛−ゴム−マイラーフィルム−布帛−ゴム)ことによって達成された。接着パッドアッセンブリーは176℃で30分間の硬化に付され、そして試験は50mm/分速度の万能引張試験機及び約50kNロードセルで行われた。アラミド心線及び炭素布帛試料の接着性の結果はそれぞれ表6及び表7に示される。
【0075】
表6はアラミド心線に本発明の接着剤対RFLを用いた心線接着力の比較を示す。本発明の接着剤は、オーバーコートセメントなしでも、RFL+オーバーコート系より有意に良好な接着力を与える。
【0076】
表7は炭素繊維布帛に本発明の接着剤対通常のラテックス接着剤を用いた布帛接着力の比較を示す。本発明の接着剤は再びこの試験シリーズにおいて最高の接着力の数値を与える。
【0077】
多くの商業的な動力伝達ベルト構造に現在用いられている標準的なアラミド心線と比べて本発明の接着剤を用いて処理されたアラミド心線から観察される「ストック引裂き」故障モード及び高い接着力の値は、本発明の接着剤組成物が、それらに限定されるものではないが、ポリエステルなどの極性分子構造を有する心線、ガラス、及び他のハイブリッド心線を含む、抗張心線の処理に対してRFL接着剤に代わるのに相応しいものであることができることを示している。
【0078】
布帛接着性試験に基づくと、本発明の接着剤組成物は優れた接着力のために種々の抗張心線にだけではなく、布帛及び/又はフラットな炭素繊維トウにも適用されることができ、このことは浸漬法又は噴霧法によるウエットフィラメントワインディング法に対する接着剤処理として本発明の接着剤組成物を潜在的に好適にしている。
【表6】
【表7】
【0079】
優れた心線対ゴム接着を達成することがベルト寿命を高めるのに必要とされる一方で、とりわけ、有効寿命の期間を通して苛酷なベルト曲げが起こるベルト用途において心線が良好な屈曲疲れを示して性能を維持することが等しく重要である。優れた心線接着とベルト屈曲疲れとの適切なバランスを実現することが多くのベルト設計における基本的な課題となってきたが、それは一つには従来の接着剤系の大部分が加硫後に心線束内で及び心線−ゴム本体界面で比較的剛性になるためである。結果として、かかるベルトが繰り返しの屈曲又は後方曲げに付されると、接着剤層はより脆くなりそして離層しベルト故障に至る。故障モードとして、心線引張破壊、接着剤離層、エッジコードプル等を挙げることができる。従って、優れた心線接着及び屈曲疲れの両方を与えることができる接着剤系が、炭素心線などの高モジュラスで高剛性の引張部材と共に用いるのにとりわけ必要とされる。
【0080】
処理された炭素心線57の屈曲疲れ評価は図3及び図4に表される通りに平ベルト52構造に対して行われ、歯付きベルトのベルトゴム配合物、歯及び角度プロファイル由来の影響を最小にした。平ベルト52はEPDMゴム配合物53を用いてつくられそしてモディファイされた「デッドウェイト」試験法を用いて試験された。試験リグ50のレイアウトが図3に示される。平ベルト52は長さが約1340mm、厚さが約5.8mm及び幅が約19mmである。ドライバプーリ54及びドリブンプーリ55の直径は同じに約100mmに保たれ、背面アイドラ56の直径は約75mmであり、そしてベルトは約1800Nのハブ荷重58の張力下に保持された。
【0081】
平ベルトの性能評価はベルトの引張強さの減衰を測定すること及びベルトを所定の時間期間運転させた後でベルトの運転温度を測定することによって行われた。具体的には、心線の保持された引張(retained tensile)はベルトの幅内の心線の数及びベルト引張に基づいて計算された。結果は表8に示される通り心線当たりの張力(N/心線)として又は保持された心線引張%として報告されることができる。興味深いことに、本発明の接着剤組成物を用いて処理された炭素心線は、ベルト試験の100時間後に最も高い保持された心線引張%を示し、ラテックス系接着剤で処理された炭素試料より10%高い。すべてのベルト試料は同様なベルト運転温度を示した。
【0082】
より剛性の処理/心線/ベルト複合材料は一般にベルトを曲げるのに必要とされる余分な力のためにより高いベルト運転温度を与える傾向にあるので、その追加の力は通常は発熱(温度の上昇)、摩擦、又はノイズに変換することに留意されたい。高いベルト運転温度はベルトの寿命に有害であることも一般に理解される。
【0083】
表8は、炭素心線に対して本発明の接着剤処理対非イオン性ラテックス系処理をした炭素心線平ベルトのベルト運転温度及び曲げ疲労の比較を示す。本発明の心線処理をしたベルトは、ラテックス系心線処理をした比較用ベルトに比べてわずかにより低温でかつより少ない引張低下で運転する。
【表8】
【0084】
追加の耐久性ベルト試験が、本発明の接着剤組成物を用いて処理された炭素心線を有する歯付きCVTベルトについて行われた。通常のラテックス系接着剤を用いて処理された炭素心線、及びアラミド心線を有するベルトも対照ベルトとして用いられた。アラミド心線入りベルトを有する幾つかの商業的CVTベルトが比較のために試験された。
【0085】
実施された耐久性試験の一つはファイアード・エンジン・テスト(Fired Engine Test)であり、これは商業的なATV/UTV機のエンジン/クラッチ・ドライブ・システムの動作条件及び他のCVTドライブ・プラットフォームをシミュレートするモディファイされたベルト耐久性試験である。試験ベルトは、商業的に入手可能なATV/UTV車両ドライブ・システムに合う大きさに作られた。表9の故障までのサイクルの数(#)は各試料セットについて少なくとも5のベルトの平均を表す。50ベルトサイクルは試験での2.5時間に等しい。試験エンジン出力設定は速度約7400RPMにおいて約70HP、及びアブソーバ・トルク約37lbfであった。ドライバRPM及びドリブンRPMは、30秒間ロードされ30秒間アイドルのサイクルで、それぞれ約9200及び9800であった。ベルトの性能は故障までのサイクルの数及び故障モードに基づいて評価された。ファイアード・エンジン・テストは種々のベルト材料及びデザインをスクリーニングすること及びフィールドの結果の予測を含むベルト性能分析に有用であると考えられる。表9は炭素心線強化材を有する3つのEPDMベルトの耐久性能を示す。本発明の接着剤で処理された炭素心線はラテックス系接着剤で処理されたものと比較される。本発明の接着剤組成物を用いると比較用のEPDM/炭素CVTベルトより有意な耐久性の改善−78時間対11時間、が得られた。炭素心線を有する商業的に入手可能なCR CVTベルトに対しても有利な比較が結果として生じる。比較用のベルト試料と違って、本発明の接着剤−炭素心線ベルト試料は故障時点で破砕(shatter)せず、ベルト配合物の歯における亀裂だけを経験した。最高のサイクルの数を伴うこの故障モードは本発明の接着剤組成物が通常のラテックス系接着剤より優れた接着性能を有することを示す良い指標である。
【表9】
【0086】
別のベルト試験はアンダー・ドライブ(Under-Drive)耐久性試験であったが、これはCVT車両において速度比2.5の連続的なアンダー・ドライブ条件をシミュレーションするようにモディファイされた試験条件を有し、ファイアード・エンジン・テストより苛酷である。この試験は、フィールドでの、とりわけ、最も荒い乗車条件、すなわち、停止又は低速からの急激な加速下での、商業的CVT車両における処理された心線及びベルトの潜在的な性能を予測するのに用いられることができる。アンダー・ドライブベルト試験からの結果は表10に示される。再度、故障までの時間の数(#)は各場合について少なくとも5のベルトの平均である。すべてのベルトは、厚さ、幅、プロファイル角度などを含めて同様の大きさであった。すべてのベルトの故障モードは同様(「破砕(shattered)」)であったが、本発明の接着剤で処理された炭素心線ベルトは、2つの商業的に用いられるCVTベルを含むいずれの比較用ベルトよりも故障までの時間が高い数を示した。
【0087】
通常のラテックス処理と同等の性能を示した幾つかの他のCVTベルト試験が行われたことに言及しておく。これらは軸方向剛性(axial stiffness)、スリップ試験などを含んでいたが詳細には記載しない。それは、これらの型の試験は心線接着剤処理によって大きく影響されるとは考えられなかったからである。
【表10】
【0088】
本発明の接着剤で処理された炭素心線に対する優れたベルト耐久試験結果に基づき、性能評価がフィールド・テスト(Field Test)条件まで広げられた。フィールド試験は、本発明のベルトがレーシング、娯楽目的などに用いられるPolaris及びCan Am Maverick車などの実際のATV/UTV車両について試験されることを包含した。「フィールド」は本明細書中で、ATV/UTV車両が使用されることができる、すべてのオフロード・コース、砂漠地域、レーストラック、コースなどを含んでいることができる。表10のEPDM/炭素ベルトの幾つかはフィールドでPolaris車において運転され、そして運転の2日後、ベルトは最小のベルト摩耗、亀裂なし、及び心線の無傷を示してまったくそのままであった。一方で、通常のラテックス系処理がされた比較用のベルトは十分に機能せずそして弱い心線接着力に原因があると考えることができる心線ラインにおける早期の故障を経験した。
【0089】
本発明の接着剤で処理された炭素心線を有するEPDMベルトはCan−Am Maverick車でフィールド試験された。ドライバーはこれらのベルトについて馬力の10%増加及び速度の5MPHゲインを報告した。さらに、これらのベルトはストックベルト(「ストック」ベルトはOEMベルトと称することができる)より約10℃低温でかつより少ないクラッチ摩耗で運転した。これらの性能属性は大変に有益であることができ、例えば、レーサーがレース中に被るベルト故障をより少なくすることを可能にし、及びベルト交換コストを最小にし、並びにクラッチのメンテナンス・コストを低減する。
【0090】
他の製品試験において、炭素繊維抗張心線に本発明の接着剤を有する他の通常の自動車用同期ベルト構造がガラス繊維又は炭素心線に通常の接着剤を有するベルトと比較された。同期ベルトはベルト本体としてHNBRゴム配合物から作られた。静的ベルト試験は、図2に示された前述の試験に従い心線接着性を含んで実施された。ベルトは、−25℃の低温クランク動的屈曲試験(cold crank dynamic flex test)にも付され、試験ではベルトの保持された引張強さが測定されて性能の評価に用いられた。これらのベルトについてベルト発熱性試験も行われた。低温屈曲及び発熱性試験のレイアウト60が図5に示される。同期ベルト62は、3つの背面アイドラ(3つのスパンのそれぞれに一つ)を備えた3つの歯付きプーリの周りに掛け回される。低温クランク保持されたベルト引張試験では、ベルトは大変に低温(例えば、−25℃)において約720RPMで10サイクル運転される(1分間オンで59分間オフが1サイクルに等しい)。発熱性試験では、ベルトは周囲温度において及び取付張力約200Nで約4時間、ドライバプーリに対して約6200RPMで無荷重で運転される。
【0091】
同期ベルトの静的及び動的屈曲試験の結果は表11に示される。試験結果は、本発明の接着剤で処理された炭素心線が通常のガラス心線及びラテックス系接着剤を用いた比較用の炭素心線に匹敵する心線接着力を有することを示す。しかしながら、本発明の心線処理は低温クランク保持された引張強さにおいて有意に他より優れており、これは本発明の接着剤組成物の低いガラス転移によるものと考えられる。
【表11】
【0092】
要約すると、エラストマー複合材料に対するテキスタイル心線用の本発明の接着剤組成物は、炭素繊維又は心線(並びにアラミドなどの他の繊維)及びさまざまな種類の動力伝達ベルトを含む強化された動的ゴム製品中のエラストマーマトリックスとの間に良好な適合性を与える。同じ利益が、ホース、フィラメント巻圧力容器/管などの他の強化された複合材料品においても実現されることができる。本発明の接着剤は、通常のRFL及び他のラテックス系システムに比べて、EPDM及びHNBRなどの種々のゴム配合物に対して有意に改善された接着性を与える。本発明に係るベルトは同じ大きさの通常の又は市販のベルトと比べて有意に増加したベルト寿命を示し、及び通常の自動車用同期ベルトより10%を超える改善された保持された低温クランク引張強さを示す。
【0093】
さらに、本発明の接着剤組成物の安定性に対する実験室試験は、長い保存寿命(>6ヵ月)、すなわち、配合物pH、粘度、又は固形パーセント(すなわち、ゲル及び粗粒不含(gel- and grit-free))における最小の変化を伴い、RFL接着剤よりずっと長い保存寿命を示した。本発明の配合物はまた、RFLより短い混合時間、例えば、大部分のRFLの24時間に対し約30分を有するより少ない原材料を必要とする。本発明の接着剤組成物を用いた心線処理は1段階で、すなわち、プライマー化学製品を用いた心線材料を予備処理する必要なしに又はオーバーコート材料の付与なしに行われることができる。これらの特徴は従来のRFL接着剤の使用よりも心線処理法において有意なコスト削減を潜在的に提供することができる。
【0094】
本発明及びその利点が詳細に述べられてきたが、添付の特許請求の範囲によって定められる発明の範囲から逸脱することなく本発明において種々の変化、置換、及び変更がなされ得ることを理解されたい。さらに、本発明の適用の範囲は、明細書に記載されたプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法、及び段階の特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。当業者であれば本発明の開示から容易に理解できるように、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たす又は実質的に同じ結果を達成する既存の又は後発のプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法又は段階が本発明に従って使用されることができる。従って、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、かかるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法又は段階を含むことを意図するものである。本明細書に開示された発明は、本明細書に具体的には開示されていない任意の要素の非存在下で適切に実施されることができる。
図1
図2
図3
図4
図5