(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外周に内軌道溝が形成されている内輪、内周に外軌道溝が形成されている外輪、前記内軌道溝と前記外軌道溝との間に介在する複数の玉、及び、前記複数の玉を保持する環状の保持器を備え、
前記保持器は、前記玉の軸方向一方側に位置する環状部と、当該環状部から軸方向他方側に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、
前記柱部は、前記内軌道溝のうち前記玉が接触する領域以外の非接触領域において接触することにより当該保持器の位置決めを行うガイド部を有しており、
前記柱部は、前記玉と点接触するポケット面を有する本体部を更に有し、
前記ガイド部は、前記本体部から分岐して径方向内側に突出していて、
前記内輪と前記外輪との間に前記保持器が組み入れられる際に前記ガイド部の弾性変形を容易とするために、当該ガイド部と前記本体部との間に欠損部が形成されており、
前記ガイド部は、最も径方向内側に位置する第1頂部から軸方向他方側の第2頂部へ向かうにしたがって径方向寸法が大きくなる斜面を有し、軸方向他方側の当該第2頂部は前記内輪の軸方向一方側の肩部の外周面よりも径方向外側に位置している、玉軸受。
外周に内軌道溝が形成されている内輪、内周に外軌道溝が形成されている外輪、前記内軌道溝と前記外軌道溝との間に介在する複数の玉、及び、前記複数の玉を保持する環状の保持器を備え、
前記保持器は、前記玉の軸方向一方側に位置する環状部と、当該環状部から軸方向他方側に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、
前記柱部は、前記内軌道溝のうち前記玉が接触する領域以外の非接触領域において径方向に接触することにより当該保持器の径方向についての位置決めを行うガイド部を有していて、
前記ガイド部は、最も径方向内側に位置する第1頂部から軸方向他方側の第2頂部へ向かうにしたがって径方向寸法が大きくなる斜面を有し、当該第2頂部は前記内輪の軸方向一方側の肩部の外周面よりも径方向外側に位置している、玉軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図8に示すような玉軸受が、例えば家電製品が有するモータの回転軸を支持する軸受として用いられる場合、運転音の発生を抑えるために、玉軸受の回転の際の低騒音化が求められる。玉軸受の回転により発生する騒音は、玉、内輪の軌道溝、外輪の軌道溝等の各部の寸法や表面の精度を向上させることによって、ある程度低減することが可能である。しかし、玉軸受を構成する各部の精度を向上させることで低騒音化を図ろうとしても、限界があり、またコストアップに繋がる。
【0005】
そこで、本発明では、玉軸受において、コストアップを可及的に抑えつつ、低騒音化を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の玉軸受は、外周に内軌道溝が形成されている内輪、内周に外軌道溝が形成されている外輪、前記内軌道溝と前記外軌道溝との間に介在する複数の玉、及び、前記複数の玉を保持する環状の保持器を備え、前記保持器は、前記玉の軸方向一方側に位置する環状部と、当該環状部から軸方向他方側に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、前記柱部は、前記内軌道溝のうち前記玉が接触する領域以外の非接触領域において接触することにより当該保持器の位置決めを行うガイド部を有している。
【0007】
回転する玉軸受では、内軌道溝及び外軌道溝と玉との間の転がり接触部や、保持器の滑り接触部で発生した振動(音)が、外輪を振動させて軸受外部に伝わり、また、回転数に関わらず外輪の固有振動数で振動することによる音が外輪から聞こえ、これが騒音になるという知見がある。また、従来の玉軸受のように、保持器が玉によって位置決めされる構成である場合、玉に接触することで生じる保持器の振動の伝播経路は、順に、保持器、玉、玉と外輪との間に形成されるオイルフィルム、及び外輪となり、この外輪の振動によって騒音となる。
【0008】
そこで、本発明では、保持器が有する柱部のガイド部が内輪の内軌道溝に接触することで保持器の位置決めが行われることから、内軌道溝に接触することで生じる保持器の振動の伝播経路として、順に、保持器、内輪、内輪と玉との間に形成されるオイルフィルム、玉、玉と外輪との間に形成されるオイルフィルム、及び外輪という経路が生じ、この経路は従来の経路よりも長くなる。つまり、本発明によれば、外部への騒音の発生源となる外輪までの振動伝達の抵抗を大きくすることができ、低騒音化が可能となる。そして、玉軸受の低騒音化のために、新たな部材を採用しておらず、コストアップを抑えることができる。
【0009】
また、内軌道溝は、玉と接触させるために元々仕上げ加工(研磨)されていることから、保持器(ガイド部)を接触させるために内輪に対して仕上げ加工を追加的に行う必要が無く、コストアップの防止に繋がる。
また、内軌道溝のうち玉が接触する領域以外の非接触領域においてガイド部は接触することから、玉が接触する領域に傷が付くのを防ぎ、軸受寿命が低下するのを防止することが可能である。
【0010】
また、前記ガイド部は、前記内軌道溝の前記非接触領域において一箇所で接触するのが好ましい。
この構成によれば、保持器の位置決めを行うために、柱部のガイド部が内輪の内軌道溝に対して一箇所で接触することから、内輪と保持器との間におけるグリースのせん断抵抗を小さくすることができる。
【0011】
また、前記柱部は、前記玉と点接触するポケット面を有する本体部を更に有し、前記ガイド部は、前記本体部から分岐して径方向内側に突出しているのが好ましい。
前記のとおり、保持器の柱部が有するガイド部を内軌道溝に接触可能とすることから、この保持器を内輪と外輪との間に組み入れる際、ガイド部を径方向外側に弾性変形させる必要がある。そこで、ガイド部は本体部から分岐して径方向内側に突出している構成であることから、ガイド部は、本体部の剛性の影響を受けにくく、弾性変形しやすくなり、保持器を内輪と外輪との間に組み入れる作業が容易となる。
【0012】
また、前記柱部は、前記玉と点接触するポケット面を有する本体部を更に有し、前記ポケット面は、前記玉との接触点から前記内輪側に向かうにしたがって当該玉との間隔が広くなる面を有しているのが好ましい。
この場合、玉と柱部のポケット面との接触は点接触であり、更にこのポケット面は、玉との接触点から内輪側に向かうにしたがって玉との間隔が広くなる面を有していることから、玉と柱部(本体部)との間におけるグリースのせん断抵抗を小さくすることができる。
【0013】
また、柱部のガイド部が内軌道溝に対して線接触することにより保持器の位置決めが行われるように構成してもよいが、前記ガイド部は、前記内軌道溝に対して点接触するのが好ましい。この場合、ガイド部と内軌道溝と間におけるグリースのせん断抵抗をより一層小さくすることができる。
【0014】
また、前記ガイド部は、最も径方向内側に位置する第1頂部から軸方向他方側の第2頂部へ向かうにしたがって径方向寸法が大きくなる斜面を有し、当該第2頂部は前記内輪の軸方向一方側の肩部の外周面よりも径方向外側に位置しているのが好ましい。
この場合、内輪と外輪との間の複数の玉に対して保持器を組み付ける際、保持器を軸方向一方側から内輪に接近させると、内輪の肩部の外周面における軸方向外側端部に、ガイド部の斜面が接触する。その後、この軸方向外側端部に斜面を摺接させながら保持器を軸方向他方側に進行させると、ガイド部を径方向外側に弾性変形させることができ、更に、ガイド部の第1頂部が内輪の肩部を越えると、ガイド部は弾性復元力によって径方向内側に復帰し、ガイド部が内軌道溝に対して接触可能となる状態になる。このように、保持器を組み付けるためには、軸方向一方側から内輪に接近させればよく、保持器を組み付ける作業が容易となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、外部への騒音の発生源となる外輪までの振動伝達の抵抗を大きくすることができ、転がり軸受のコストアップを可及的に抑えつつ、低騒音化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の玉軸受の実施の一形態を示す断面図である。この玉軸受1は、内輪2と、この内輪2の径方向外側に設けられている外輪3と、これら内輪2と外輪3との間に介在している複数の玉4と、これら玉4を保持している環状の保持器5とを備えている。
【0018】
図1に示す玉軸受1は、更に、軸方向両側に密封装置6を備えており、これら密封装置6によって、玉4及び保持器5が設けられている軸受内部のグリースが外部へ漏れるのを防いでいる。また、密封装置6は、外部の異物が軸受内部へ侵入するのを防止する機能も備えている。
【0019】
内輪2は環状の部材であり、その外周に、玉4が転動する内軌道溝21が形成されている。
図1に示す縦断面において、内軌道溝21は、玉4の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有している。また、内輪2は、内軌道溝21の軸方向一方側に第1の肩部22、及び、内軌道溝21の軸方向他方側に第2の肩部23を有している。
【0020】
外輪3は環状の部材であり、その内周に、玉4が転動する外軌道溝31が形成されている。
図1に示す縦断面において、外軌道溝31は、玉4の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有している。また、外輪3は、外軌道溝31の軸方向一方側に第1の肩部32、及び、外軌道溝31の軸方向他方側に第2の肩部33を有している。外輪3の軸方向両側部それぞれの内周面には、凹溝39が形成されており、この凹溝39に密封装置6が取り付けられている。本実施形態の玉軸受1は深溝玉軸受である。
【0021】
玉4は、内軌道溝21と外軌道溝31との間に複数介在しており、玉軸受1(内輪2)が回転すると、玉4は内軌道溝21及び外軌道溝31を転動する。玉4は、内軌道溝21のうちの最も深い点(領域S3)で接触し、外軌道溝31のうちの最も深い点(領域S1)で接触する。玉4は、軸受鋼等を用いて形成された鋼製の部材である。なお、内輪2及び外輪3は、軸受鋼や機械構造用鋼等の鋼製である。
【0022】
図2は、内輪2、玉4、及び保持器5を示す斜視図である。なお、
図2では、内輪2等のうち手前側の半分を示している。保持器5は、玉4の軸方向一方側に位置する環状部11と、この環状部11から軸方向他方側に延びて設けられている複数の柱部12とを有しており、いわゆる冠形の保持器である。環状部11は、円環形状の部分であり、内輪2(
図1参照)の肩部22と外輪3の肩部32との間に位置している。柱部12はすべて同じ形状であり、各柱部12は、後にも説明するが本体部13とガイド部14とを有している。保持器5は、樹脂製(合成樹脂製)であり、射出成形によって製造される。環状部11と柱部12とは一体成形されており、保持器5は単一部材からなる。
【0023】
環状部11の軸方向他方側であって周方向で隣り合う柱部12,12の間が、玉4を収容するポケット15となる。ポケット15は周方向に沿って複数形成されており、保持器5は、複数の玉4を周方向に間隔をあけて保持することができる。
【0024】
図1に示す密封装置6は、環状のシールド板であり、外周部(径方向外側の部分)が、外輪3の凹溝39に嵌合することで密封装置6は外輪3に取り付けられている。密封装置6の内周部(径方向内側の部分)は、内輪2(肩部22,23)と隙間を有して対向しており、この内周部によってラビリンスシールが構成される。なお、密封装置6は、図示しないが、環状の芯金と、この芯金に固定され内輪2に摺接するリップ部を有するゴム部材とを有するシールであってもよい。
【0025】
図3は、内輪2、外輪3、及び保持器5の断面図である。なお、
図3では、密封装置6を外した状態としている。保持器5は、前記のとおり、環状部11と柱部12とを備えている。
図2及び
図3に示すように、柱部12は、玉4と接触させるための本体部13と、内軌道溝21に接触させるためのガイド部14とを有している。
【0026】
本体部13は、環状部11の径方向外側部11bから軸方向他方側に向かって直線的に延びる部分である。ガイド部14は、この本体部13から分岐して径方向内側に突出している部分である。なお、本実施形態のガイド部14は、本体部13から分岐してこの本体部13の延在方向に対して傾く方向に向かって突出しており、また、環状部11の径方向内側部11a及び本体部13の裾部13aから内軌道溝21側に向かって延びる部分となっている。ガイド部14が本体部13から分岐していることによって、これらガイド部14と本体部13との間には欠損部16が形成されている。欠損部16は、柱部12の一部が断面において凹円弧形状に切り欠かれることにより形成された部分である。
【0027】
図4は、内輪2、外輪3、玉4、及び保持器5の一部を軸方向から見た図である。
保持器5の柱部12が有する各本体部13は、玉4と点接触するポケット面17を周方向両側に有している。
図4では、ポケット面17における玉4との接触点を符号44としている。そして、各ポケット面17は、玉4との接触点44から内輪2側に向かうにしたがってこの玉4との間隔が広くなる面を有している。本実施形態の本体部13が有するポケット面17は平面となっている。
【0028】
一つの玉4を挾む一対のポケット面17,17は、その玉4を収容するポケット15の一部を構成している。また、本体部13のポケット面17の延長上に、ガイド部14の側面14aが存在している。この側面14aもポケット15の一部に含まれるが、側面14aは玉4と非接触である。
【0029】
柱部12が有するガイド部14は、保持器5の径方向についての位置決めを行う部分である。つまり、内輪2と保持器5とが同心状にある場合、
図3に示すように、ガイド部14の一部は内軌道溝21と隙間を有して対向した配置にあるが、保持器5が径方向に変位することで、ガイド部14の一部(接触部18)が、内軌道溝21に対して径方向に接触可能となっている。特にこのガイド部14は、内軌道溝21のうち玉4が接触する領域S3以外の非接触領域S2において接触する。更に、本実施形態では、ガイド部14は、内軌道溝21のうち前記非接触領域S2において、一箇所でのみ接触する。なお、非接触領域S2は、玉4が接触する前記領域S3よりも肩部22側に寄った位置である。この構成により、ガイド部14は、保持器5の径方向についての位置決めを行うことができる。なお、ガイド部14において内軌道溝21と接触する部分を接触部18という。
【0030】
また、内軌道溝21は凹円弧形状を有しており、この内軌道溝21内にガイド部14の(接触部18を含む)一部が位置している。このため、保持器5が軸方向一方側に変位すると、ガイド部14の一部(接触部18)が、内軌道溝21に対して軸方向に接触可能である。これにより、ガイド部14は、保持器5が軸方向一方側に移動するのを規制して保持器5の位置決めを行うことができる。
そして、保持器5の環状部11(
図1参照)が有する玉4側の面11cは、保持器5が軸方向他方側に変位すると、玉4に対して軸方向に接触可能となっている。これにより、環状部11は、保持器5が軸方向他方側に移動するのを規制して保持器5の位置決めを行うことができる。この環状部11が有する面11cも、ポケット15の一部に含まれる。
【0031】
以上の構成を備えている玉軸受1の組み立て方法について説明する。
図5に示すように、まず、内輪2と外輪3との間に複数の(全ての)玉4を配置させ、その後、内輪2に対して保持器5を軸方向一方側から接近させ組み立てを行う。その後、グリースを、軸受内部に設け、密封装置6(
図1参照)を外輪3に取り付ける。
【0032】
ここで、
図1に示す玉軸受1では、保持器5の柱部12が有するガイド部14を内軌道溝21に接触可能とすることから、このような保持器5を内輪2と外輪3との間に組み入れる際、ガイド部14を径方向外側に弾性変形させる必要がある。具体的に説明すると、
図5に示すように、ガイド部14の(最も径方向内側に位置する第1頂部41における)直径D1は、内輪2の軸方向一方側の肩部22の(軸方向外側端部22aにおける)外径D2よりも小さい(D1<D2)ため、この保持器5を軸受内部に組み入れるためには、樹脂製である保持器5の径方向内側部(ガイド部14)を弾性変形させて拡径させる必要がある。
【0033】
そこで、本実施形態では、前記のとおり、保持器5の柱部12は本体部13及びガイド部14を有しており、ガイド部14は、本体部13から分岐して径方向内側に突出している。そして、本実施形態では、ガイド部14と本体部13との間には欠損部16が形成されている。これにより、ガイド部14は、本体部13の剛性の影響を受けにくく、弾性変形しやすくなり、保持器5を内輪2と外輪3との間に組み入れる作業を容易としている。
【0034】
更に本実施形態では、保持器5を組み入れる作業をより一層容易とするために、ガイド部14は、
図5に示すように、最も径方向内側に位置する第1頂部41から軸方向他方側の第2頂部42へ向かうにしたがって径方向寸法が大きくなる斜面43を有している。なお、第1頂部41は、ガイド部14のうちの内軌道溝21と接触可能となる接触部18の近傍の部分であり、第2頂部42は、ガイド部14のうちの最も軸方向他方側に位置する部分である。また、本実施形態の前記斜面43は、凸状の円弧形状を有する傾斜面となっているが、(図示しないが)直線形状を有する傾斜面であってもよい。
【0035】
そして、ガイド部14が弾性変形していない状態で、この第2頂部42は、内輪2の軸方向一方側の肩部22の軸方向外側端部22aにおける外周面よりも径方向外側に位置している。つまり、ガイド部14が弾性変形していない状態で、第2頂部42における直径D3は、前記外周面の外径D2よりも大きく設定されている(D3>D2)。
【0036】
この構成によれば、内輪2と外輪3との間の複数の玉4に対して保持器5を組み付ける際、保持器5を軸方向一方側から内輪2に接近させると、内輪2の肩部22の外周面における軸方向外側端部22aに、ガイド部14の斜面43が接触する(
図6参照)。その後、この軸方向外側端部22aに斜面43を摺接させながら保持器5を軸方向他方側に進行させると、軸方向外側端部22aがガイド部14を押し、ガイド部14を径方向外側に弾性変形させることができる。つまり、保持器5の径方向内側部を弾性変形させて拡径させることができる。また、前記のとおり、ガイド部14は本体部13から分岐しており、更に、これらガイド部14と本体部13との間には欠損部16が形成されていることから、ガイド部14は容易に弾性変形することができる。
そして、保持器5を軸方向他方側へ移動させて、ガイド部14の第1頂部41が、内輪2の肩部22を越えると、ガイド部14は弾性復元力によって径方向内側に復帰し、
図3に示すように、ガイド部14の接触部18が内軌道溝21の非接触領域S2に近接した状態となり、ガイド部14が内軌道溝21に対して接触可能となる。
【0037】
このように、本実施形態の保持器5の構成によれば、保持器5を内輪2と外輪3との間に組み付けるためには、軸方向一方側から保持器5を内輪2に接近させればよく(
図5及び
図6参照)、この保持器5をスナップフィットによって内輪2と外輪3との間にスムーズに組み付けることができ、保持器5を組み付ける作業が容易となる。そして、保持器5を内輪2と外輪3との間に組み付けると(
図3参照)、その保持器5は軸方向の移動が規制され、軸受内部から脱落しない。
【0038】
また、ガイド部14を弾性変形させてスナップフィットによって保持器5を内輪2と外輪3との間に取り付け可能とするために、
図4に示すように、ガイド部14が有する周方向に向く側面14aは、平面であるポケット面17の径方向内側への仮想延長面上に位置している。なお、ポケット面17は、前記のとおり、玉4との接触点44から内輪2側に向かうにしたがってこの玉4との間隔が広くなる面を有している。
この構成によれば、側面14aと玉4との間隔は広くなり、ガイド部14が径方向外側に弾性変形する際、側面14aが玉4に衝突せず、この弾性変形が玉4によって阻害されない。このため、ガイド部14を弾性変形させて行うスナップフィットによる取り付けが可能となる。なお、ガイド部14の側面14aは、ポケット面17の仮想延長面上に位置しているのみならず、ポケット面17の延長仮想面よりも玉4から離れて存在していてもよい。つまり、ガイド部14の側面14aと玉4との間には、ガイド部14の弾性変形の際に、側面14aが玉4に衝突しないだけのスペースが設けられていればよい。
以上より、玉軸受1の組み立て方法に関する説明を終える。
【0039】
ここで、本実施形態のような玉軸受1が回転した際に発生する音に関して説明する。玉軸受1が回転すると、内軌道溝21及び外軌道溝31と玉4との間の転がり接触部や、保持器5の滑り接触部で発生した振動(音)が、外輪3を振動させて軸受外部に伝わり、また、回転数に関わらず外輪3の固有振動数で振動することによる音が外輪3から聞こえ、これが騒音になる。
また、
図8に示す従来の玉軸受90のように、保持器94が玉93によって位置決めされる構成である場合、玉93に接触することで生じる保持器94の振動の伝播経路は、順に、保持器94、玉93、玉93と外輪92との間に形成されるオイルフィルム、及び外輪92となり、この外輪92の振動によって騒音となる。
【0040】
そこで、本実施形態の玉軸受1では、保持器5が有する柱部12のガイド部14が、内輪2の内軌道溝21に接触することによって、この保持器5の位置決めが行われている。この構成によれば、内軌道溝21に接触することで生じる保持器5の振動の伝播経路として、順に、保持器5、内輪2、内輪2と玉4との間に形成されるオイルフィルム、玉4、玉4と外輪3との間に形成されるオイルフィルム、及び外輪3という経路が生じ、この経路は従来の経路よりも長くなる。つまり、本実施形態の玉軸受1の場合、外部への騒音の発生源となる外輪3までの振動伝達の抵抗を大きくすることができ、低騒音化が可能となる。
そして、本実施形態では、玉軸受1の低騒音化のために、新たな部材(別部材)を採用しておらず、玉軸受1のコストアップを抑えることができる。また、内軌道溝21は、玉4と接触させるために元々仕上げ加工(研磨)されていることから、保持器5(ガイド部14)を接触させるために内輪2に対して仕上げ加工を追加的に行う必要が無く、コストアップの防止に繋がる。つまり、本実施形態の玉軸受1では、玉1のコストアップを可及的に抑えつつ、低騒音化を可能としている。
【0041】
更に、本実施形態の玉軸受1では、ガイド部14は、内軌道溝21のうち玉4が接触する領域S3以外の非接触領域S2において接触している。このため、内軌道溝21のうち玉4が接触する領域S3に、保持器5の接触に起因する傷が付くのを防ぎ、軸受寿命が低下するのを防止することが可能である。
また、
図3に示すように、保持器5の位置決めを行うために、このガイド部14は内軌道溝21の非接触領域S2において一箇所(接触部18)でのみ接触していることから、内輪2と保持器5との間におけるグリースのせん断抵抗を小さくすることができる。この結果、玉軸受1の低トルク化が可能となる。
【0042】
また、内輪2と保持器5との間におけるグリースのせん断は、回転トルクの増加以外にグリースの劣化にも繋がる。しかし、本実施形態の玉軸受1では、柱部12のガイド部14が内輪2の内軌道溝21に対して一箇所(接触部18)で接触することから、グリースがせん断される領域は狭くなる。この結果、グリースの劣化を抑制することができ、グリースの寿命の低下を防ぐことが可能となる。
【0043】
また、前記のとおり(
図4参照)、保持器5の柱部12が有している本体部13のポケット面17は、玉4と点接触する。そして、このポケット面17は、玉4との接触点44から内輪2側に向かうにしたがってこの玉4との間隔が広くなる面(平面)を有している。このため、玉4と柱部12(本体部13)との間におけるグリースのせん断抵抗も小さくすることが可能であり、玉軸受1の低トルク化に貢献することができる。
【0044】
また、玉4と保持器5との間におけるグリースのせん断は、回転トルクの増加以外にグリースの劣化にも繋がる。しかし、本実施形態の玉軸受1では、保持器5はポケット面17において玉4と点接触する構成であることから、グリースがせん断される領域は従来(
図8参照)よりも狭くなる。この結果、グリースの劣化を抑制することができ、グリースの寿命の低下を防ぐことが可能となる。
【0045】
また、内輪2の内軌道溝21に対する保持器5(接触部18)の接触状態について説明する。
図4に示す本実施形態では、ガイド部14の径方向内側における輪郭形状を、内軌道溝21の周方向に沿った形状としている。この場合、ガイド部14と内軌道溝21の非接触領域S2との間には周方向に沿って一定の隙間を有することができる。そして、保持器5が径方向に変位すると、ガイド部14(接触部18)は非接触領域S2(
図3参照)と線接触する。
【0046】
これに対して、ガイド部14(接触部18)を非接触領域S2に点接触させる構成としてもよい。このように点接触させるために、
図7に示すように、保持器5を軸方向から見て、ガイド部14の径方向内側における輪郭形状を、内軌道溝21の周方向形状に沿わない形状としてもよい。つまり、保持器5を軸方向から見て、ガイド部14の径方向外側における輪郭を、外軌道溝31よりも半径(曲率半径)の小さい凸円弧形状としてもよい。この場合、ガイド部14は全体として球面形状(球面に沿った形状)となり、この球面形状となる面に接触部18が含まれる構成となる。なお、前記の球面形状は、複数の中心を有していたり複数の曲率半径を有していたりする複合球面であってもよい。
このように、ガイド部14が、内軌道溝21に対して点接触する構成とすることにより、ガイド部14と内軌道溝21と間におけるグリースのせん断抵抗をより一層小さくすることができ、玉軸受1の低トルク化に貢献することが可能となる。また、グリースのせん断も低減することができ、グリースの寿命の低下を防止することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態(
図2参照)の保持器5では、環状部11及び全ての柱部12が有する保持器全部分の面は、軸方向一方側から見える面及び軸方向他方側から見える面の集合により構成されている。つまり、保持器5が有する全ての面に含まれる各面は、軸方向一方側から又は軸方向他方側から必ず見える。
この構成により、図示しないが、軸方向一方側に移動する第1金型と、軸方向他方側に移動する第2金型とを含む二分割金型により、樹脂製の保持器5を製造することが可能となる。この結果、保持器5の量産性が高まる。なお、この二分割金型による保持器5の製造は、射出成形により行われる。
【0048】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の玉軸受は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。
前記実施形態では、玉軸受が深溝玉軸受である場合について説明したが、アンギュラ玉軸受であってもよい。