【実施例1】
【0018】
図5は、実施例1に係るリングミキサの回路図である。
図5に示すように、リングミキサ100では、ノードN6とN8との間、ノードN7とN9との間、ノードN6とN9との間、およびノードN7とN8との間にそれぞれ線路22、24、26および28が直列に接続されている。このように、線路22から28はリング状に接続されている。線路22から28にはそれぞれ分布定数線路L1からL4が一対ずつ設けられている。一対の分布定数線路L1からL4のそれぞれの間のノードがノードN1からN4である。ノードN6からN9はそれぞれ出力端子RF1、RF2、発振端子LO1およびLO2に接続されている。FET12から18のソースはそれぞれグランドに、ドレインはノードN1からN4に接続されている。FET12および14のゲートは入力端子IF1に、FET16および18のゲートは入力端子IF2に接続されている。
【0019】
発振信号LO+およびLO−は平衡発振信号であり、互いにほぼ逆相である。入力信号IF+およびIF−は平衡入力信号であり、互いにほぼ逆相である。出力信号RF+およびRF−は平衡出力信号であり、互いにほぼ逆相である。FET12から18は、ゲートに入力信号IF+およびIF−の最大振幅の中央値(例えば
図2では0V)より高い電圧(例えば
図2では正電圧)が入力するとオンし、低い電圧(例えば
図2では負電圧)が入力するとオフする。例えばFET12から18のピンチオフ電圧をゲートに入力信号IF+およびIF−の最大振幅の中央値とする。
【0020】
図5において、実線はFET12および14がオフかつFET16および18がオンのときの信号の流れを示す。破線はFET12および14がオンかつFET16および18がオフのときの信号の流れを示す。太線は発振信号LO+の流れを示し、細線は発振信号LO−の流れを示す。
図2および
図5に示すように、入力信号IF+が負のとき、FET12および14がオフしFET16および18がオンする。このため、出力信号RF+としてほぼ発振信号LO+が出力される、出力信号RF−としてほぼ発振信号LO−が出力される。入力信号IF+が正のとき、FET12および14がオンしFET16および18がオフする。このため、出力信号RF+としてほぼ発振信号LO−が出力される、出力信号RF−としてほぼ発振信号LO+が出力される。以上により、発振信号LO+およびLO−と入力信号IF+およびIF−がミキシングされた信号が出力信号RF+およびRF−として出力される。
【0021】
図6(a)から
図6(d)は、線路22を示す等価回路図である。
図6(a)に示すように、線路22内のノードN1とグランドとの間にFET12が接続されている。FET12がオフのとき、ノードN6とN8との間を線路22を介し高周波信号が伝送される。
図6(b)に示すように、FET12がオンすると、線路22は接地される。
図6(c)に示すように、ノードN1とN6との間、およびノードN1とN8間に分布定数線路L1を接続する。分布定数線路L1は例えばλ/4の長さである。FET12がオフのとき、分布定数線路L1は伝送線路として機能する。よって、線路22を高周波信号が伝送する。
図4(d)に示すように、FET12がオンのときノードN1が接地される。分布定数線路L1は長さがλ/4のショートスタブとなる。よって、ノードN6およびN8からN1を見るとオープンに見える。このように、ノードN6とN8との間を理想的なオープンにできる。FET12の寄生容量等を考慮すると、分布定数線路L1の長さはλ/4よりやや短くなる。
【0022】
実施例1に係るリングミキサの変換利得をシミュレーションした。シミュレーションの条件は以下である。
FET:InGaAsチャネル層/AlGaAs電子供給層 HEMT、ゲート幅80μm
分布定数線路:長さ 220μm、幅10μm
発振信号:LO信号 周波数70GHzから82GHz
入力信号:IF信号 周波数1GHz
出力信号:RF信号
【0023】
図7は、実施例1における周波数に対する変換利得を示す図である。周波数は発振信号の周波数であり、変換利得は入力信号に対する出力信号の利得である。実線は入力信号IF+に対する出力信号RF+の変換利得であり、破線は入力信号IF−に対する出力信号RF−の変換利得である。入力信号のパワーは、−20dBmである。周波数が70GHzから82GHzにおいて変換利得は−1.5dBから−2.2dBと比較例1の
図3に比べ、変換利得が10dB程度改善している。
【0024】
図8は、実施例1における入力信号のパワーに対する変換利得を示す図である。発振信号の周波数は76GHzである。
図8に示すように、IFパワーが増加すると変換利得が大きくなる。IFパワーが−20dBm以下では変換利得は一定であり、良好な線形性を有する。
【0025】
図9は、実施例1における入力信号のパワーに対する変換位相を示す図である。発振信号の周波数は76GHzである。
図9に示すように、IFパワーが−10dBm以下では変換位相は一定であり、良好な線形性を有する。
【0026】
実施例1によれば、4つの線路22から28は、それぞれ一対の分布定数線路L1からL4が直列に接続され、リング状に接続されている。ノードN6からN9は、4つの線路22から28のうち隣接する線路の間に設けられている。対向するノードN8およびN9に発振信号LO+およびLO−が入力し、残りの対向するノードN6およびN7から出力信号RF+およびRF−が出力される。FET12から18のドレインはそれぞれ一対の分布定数線路L1からL4間のノードN1からN4に接続され、ソースに基準電位(例えばグランド電位)が供給され、ゲートに入力信号IF+およびIF−が入力する。
【0027】
これにより、FET12から18がオンしたときに、分布定数線路L1からL4はショートスタブとなり、ノードN6からN9から分布定数線路L1からL4をみたときをオープンにできる。このため、線路22から28を遮断できる。よって、入力信号IF+およびIF−から出力信号RF+およびRF−への変換利得を向上できる。
【0028】
また、対向するFET12および14のゲートに入力信号IF+(平衡入力信号の一方)が入力し、残りの対向するFET16および18のゲートに入力信号IF−(平衡入力端子の他方)が入力する。対向するノードN8およびN9の一方のノードN8に発振信号LO+(平衡発振信号の一方)が入力し、他方のノードN9に発振信号LO−(平衡発振信号の他方)が入力する。残りの対向するノードN6およびN7の一方のノードN6から出力信号RF+(平衡出力信号の一方)が出力し、他方のノードN7から出力信号RF−(平衡出力信号の他方)が出力する。
【0029】
これにより、
図5のように、平衡発振信号LO+およびLO−と平衡入力信号IF+およびIF−をミキシングし、平衡出力信号RF+およびRF−を出力できる。発振信号LO+とLO−と、入力信号IF+とIF−と、および出力信号RF+とRF−と、は逆相である。これらの位相差は、リングミキサとして機能する範囲で逆相であればよい。
【0030】
さらに、線路22から28における一対の分布定数線路L1からL4は、発振信号LO+およびLO−の波長の1/8以上かつ3/8以下の電気長を有する。これにより、FET12から18がオンしたときに、ショートスタブとして機能する分布定数線路L1からL4をノードN6からN9からみたときに理想的にオープンにできる。このため、線路22から28を理想により近い状態で遮断できる。よって、入力信号IF+およびIF−から出力信号RF+およびRF−への変換利得をさらに向上できる。
【0031】
分布定数線路L1からL4は、発振信号LO+およびLO−の波長の3/16以上かつ5/16以下の電気長であることがより好ましい。さらに、分布定数線路L1からL4は、発振信号LO+およびLO−の波長の1/4の電気長であることがさらに好ましい。これにより、FET12から18がオンしたときに、線路22から28をより理想的に遮断できる。
【0032】
入力信号IF+およびIF−は出力信号RF+およびRF−より周波数が低い例(すなわちアップコンバートする例)を説明したが、入力信号IF+およびIF−は出力信号RF+およびRF−より周波数が高くても(すなわちダウンコーバートでも)よい。
【0033】
線路22から28は同じように動作することが好ましい。よって、分布定数線路L1からL4の電気長は略同じであることが好ましい。また、FET12から18のサイズ(例えばゲート幅)は略同じであることが好ましい。FET12から18の特性(例えばピンチオフ電圧)は略同じであることが好ましい。略同じとは、リングミキサとして機能する範囲で同じであればよい。例えば、製造誤差を含む範囲で同じであればよい。
【0034】
分布定数線路を短くするため、発振信号LO+およびLO−の周波数は10GHz以上が好ましく、30GHz以上がより好ましい。また、発振信号LO+およびLO−の周波数は100GHz以下が好ましい。
【0035】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。