【文献】
Koji Kadota et al., A Normalization Strategy Applied to HiCEP (An AFLP-based Expression Profiling) Analysis: Toward the Strict Alignment of Valid Fragments Across Electrophoretic Patterns,BMC Bioinformatics,2005年,pp.1-15,[オンライン:検索日2020.06.08],URL,https://bmcbioinformatics.biomedcentral.com/track/pdf/10.1186/1471-2105-6-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基準物質、前記基準物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が速い成分を含む下限マーカー物質、及び、前記基準物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が遅い成分を含む上限マーカー物質が混合された基準試料を電気泳動させることにより検出データを取得する第1電気泳動工程と、
前記第1電気泳動工程により取得した検出データを、当該検出データに含まれる前記下限マーカー物質及び前記上限マーカー物質の各ピークを基準にして、一定の時間幅に規格化することにより、基準データを取得する基準データ取得工程と、
測定対象物質、前記測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が速い成分を含む前記下限マーカー物質、及び、前記測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が遅い成分を含む前記上限マーカー物質が混合された測定対象試料を電気泳動させることにより検出データを取得する第2電気泳動工程と、
前記第2電気泳動工程により取得した検出データを、当該検出データに含まれる前記下限マーカー物質及び前記上限マーカー物質の各ピークを基準にして、前記一定の時間幅に規格化することにより、測定対象データを取得する測定対象データ取得工程と、
前記基準データ及び前記測定対象データを時間軸方向に相対的に伸縮又はシフトさせるデータ補正工程とを含むことを特徴とする電気泳動測定方法。
前記第1相関係数算出工程では、前記2つの伸縮データを時間軸方向に段階的にシフトさせ、それぞれのシフト量における前記2つの伸縮データと前記基準データとの相互相関を算出することにより、その算出された相互相関が最大となるときのシフト量でシフトさせた前記2つの伸縮データと前記基準データとの相関係数を算出するとともに、伸縮前の前記測定対象データを時間軸方向に段階的にシフトさせ、それぞれのシフト量における前記測定対象データと前記基準データとの相互相関を算出することにより、その算出された相互相関が最大となるときのシフト量でシフトさせた前記測定対象データと前記基準データとの相関係数を算出することを特徴とする請求項4に記載の電気泳動測定方法。
前記第2相関係数算出工程では、前記複数の伸縮データを時間軸方向に段階的にシフトさせ、それぞれのシフト量における前記複数の伸縮データと前記基準データとの相互相関を算出することにより、その算出された相互相関が最大となるときのシフト量でシフトさせた前記複数の伸縮データと前記基準データとの相関係数を算出するとともに、伸縮前の前記測定対象データを時間軸方向に段階的にシフトさせ、それぞれのシフト量における前記測定対象データと前記基準データとの相互相関を算出することにより、その算出された相互相関が最大となるときのシフト量でシフトさせた前記測定対象データと前記基準データとの相関係数を算出することを特徴とする請求項7に記載の電気泳動測定方法。
前記基準データ取得工程及び前記測定対象データ取得工程の少なくとも一方において、設定周期でサンプリングし直された検出データの各周期における検出強度に係数を乗算することにより、基準データ又は測定対象データを取得することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の電気泳動測定方法。
前記類似度判定工程では、各基準データと前記測定対象データとの相関係数、及び、前記測定対象データのピーク面積に基づいて、類似度を判定することを特徴とする請求項12に記載の電気泳動測定方法。
前記類似度判定工程では、各基準データと前記測定対象データとの相関係数、及び、各基準データのピーク面積に対する前記測定対象データのピーク面積の面積比に基づいて、類似度を判定することを特徴とする請求項12に記載の電気泳動測定方法。
前記類似度判定工程では、各基準データと前記測定対象データとの相関係数、前記測定対象データのピーク面積、及び、各基準データのピーク面積に対する前記測定対象データのピーク面積の面積比に基づいて、類似度を判定することを特徴とする請求項12に記載の電気泳動測定方法。
各基準データと前記測定対象データとの相関係数として、前記一定の時間幅に含まれる複数の領域でそれぞれ算出される相関係数の平均値が用いられることを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項に記載の電気泳動測定方法。
基準物質、前記基準物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が速い成分を含む下限マーカー物質、及び、前記基準物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が遅い成分を含む上限マーカー物質が混合された基準試料を電気泳動させることにより得られた検出データを、当該検出データに含まれる前記下限マーカー物質及び前記上限マーカー物質の各ピークを基準にして、一定の時間幅に規格化することにより取得した基準データと、
測定対象物質、前記測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が速い成分を含む前記下限マーカー物質、及び、前記測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が遅い成分を含む前記上限マーカー物質が混合された測定対象試料を電気泳動させることにより得られた検出データを、当該検出データに含まれる前記下限マーカー物質及び前記上限マーカー物質の各ピークを基準にして、前記一定の時間幅に規格化することにより取得した測定対象データとを用いてデータ処理を行うデータ処理装置であって、
前記基準データ及び前記測定対象データを時間軸方向に相対的に伸縮又はシフトさせるデータ補正部を備えることを特徴とするデータ処理装置。
基準物質、前記基準物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が速い成分を含む下限マーカー物質、及び、前記基準物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が遅い成分を含む上限マーカー物質が混合された基準試料を電気泳動させることにより得られた検出データを、当該検出データに含まれる前記下限マーカー物質及び前記上限マーカー物質の各ピークを基準にして、一定の時間幅に規格化することにより取得した基準データと、
測定対象物質、前記測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が速い成分を含む前記下限マーカー物質、及び、前記測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が遅い成分を含む前記上限マーカー物質が混合された測定対象試料を電気泳動させることにより得られた検出データを、当該検出データに含まれる前記下限マーカー物質及び前記上限マーカー物質の各ピークを基準にして、前記一定の時間幅に規格化することにより取得した測定対象データとを用いてデータ処理を行うデータ処理プログラムであって、
前記基準データ及び前記測定対象データを時間軸方向に相対的に伸縮又はシフトさせるデータ補正部としてコンピュータを機能させることを特徴とするデータ処理プログラム。
【背景技術】
【0002】
電気泳動により測定対象物質の測定を行う場合、測定対象物質にマーカー物質が混合された測定対象試料を電気泳動させる場合がある。上記マーカー物質としては、例えば測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が速い成分を含む下限マーカー物質、及び、測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が遅い成分を含む上限マーカー物質を例示することができる。一方、マーカー物質を使用しない方法としては、例えば下記特許文献1に例示されるような動的時間伸縮法(DTW:Dynamic Time Warping)を用いた方法や、動的計画法を用いた方法などが知られている。
【0003】
図8は、マーカー物質を使用する方法により得られた検出データの一例を示した図である。
図8では、基準物質(既知物質)を含む基準試料を電気泳動させることにより得られた検出データに基づく基準データD101と、測定対象物質(未知物質)を含む測定対象試料を電気泳動させることにより得られた検出データに基づく測定対象データD102とが示されている。基準物質は基準となる既知の物質であり、この基準物質から得られる基準データD101と測定対象物質から得られる測定対象データD102との比較により、測定対象物質に含まれる成分を同定することができる。
【0004】
基準試料には、基準物質以外に、下限マーカー物質及び上限マーカー物質が混合される。基準データD101には、下限マーカー物質の成分が検出されることによるピークP111と、上限マーカー物質の成分が検出されることによるピークP112とが現れる。また、これらのピークP111及びピークP112の間に、基準物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群P113が現れる。
【0005】
同様に、測定対象試料にも、測定対象物質以外に、下限マーカー物質及び上限マーカー物質が混合される。測定対象データD102には、下限マーカー物質の成分が検出されることによるピークP121と、上限マーカー物質の成分が検出されることによるピークP122とが現れる。また、これらのピークP121及びピークP122の間に、測定対象物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群P123が現れる。
【0006】
この例では、基準データD101におけるピークP111とピークP112との間の時間幅と、測定対象データD102におけるピークP121とピークP122との間の時間幅とが一定になるように、電気泳動により得られた検出データに対する規格化が行われている。すなわち、各データD101,D102における下限マーカー物質に対応するピークP111,P121を基準として、上限マーカー物質に対応するピークP121,P122が一定の時間幅となるように規格化される。これにより、
図8に示すように、各データD101,D102における下限マーカー物質に対応するピークP111,P121、及び、上限マーカー物質に対応するピークP121,P122が、それぞれ重ね合わせられた状態となる。
【0007】
このようにして規格化された基準データD101と測定対象データD102とを比較することにより、各データD101,D102におけるピーク群P113,P123の類似度に基づいて、測定対象物質に含まれる成分を同定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、下限マーカー物質及び上限マーカー物質を用いて規格化した各データD101,D102を比較する場合、測定対象物質として基準物質と同じ物質を測定したデータであっても、
図8の例のように、同一の成分に対応するピーク群P113,P123のピーク位置がずれる場合がある。その原因としては、電気泳動に用いるデバイス(マイクロチップなど)の状態による影響などが考えられる。
【0010】
このように、ピーク群P113,P123のピーク位置がずれた場合には、各データD101,D102の比較(類似度の判定)が困難となる。その結果、測定対象物質に含まれる成分の同定が困難となったり、場合によっては、正確な同定結果が得られなかったりするおそれもある。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、基準データと測定対象データとの類似度を容易かつ正確に判定することができる電気泳動測定方法、データ処理装置及びデータ処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係る電気泳動測定方法は、第1電気泳動工程と、基準データ取得工程と、第2電気泳動工程と、測定対象データ取得工程と、データ補正工程とを含む。前記第1電気泳動工程では、基準物質、前記基準物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が速い成分を含む下限マーカー物質、及び、前記基準物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が遅い成分を含む上限マーカー物質が混合された基準試料を電気泳動させることにより検出データを取得する。前記基準データ取得工程では、前記第1電気泳動工程により取得した検出データを、当該検出データに含まれる前記下限マーカー物質及び前記上限マーカー物質の各ピークを基準にして、一定の時間幅に規格化することにより、基準データを取得する。前記第2電気泳動工程では、測定対象物質、前記測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が速い成分を含む前記下限マーカー物質、及び、前記測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が遅い成分を含む前記上限マーカー物質が混合された測定対象試料を電気泳動させることにより検出データを取得する。前記測定対象データ取得工程では、前記第2電気泳動工程により取得した検出データを、当該検出データに含まれる前記下限マーカー物質及び前記上限マーカー物質の各ピークを基準にして、前記一定の時間幅に規格化することにより、測定対象データを取得する。前記データ補正工程では、前記基準データ及び前記測定対象データを時間軸方向に相対的に伸縮又はシフトさせる。
【0013】
このような構成によれば、基準データ及び測定対象データを時間軸方向に相対的に伸縮又はシフトさせることにより、基準データと比較しやすいデータに補正することができる。すなわち、基準物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群と、測定対象物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群とが、時間軸方向において比較しやすい位置となるように、データを補正することができる。したがって、基準データと測定対象データとの類似度を容易かつ正確に判定することができる。特に、電気泳動のデバイスや、泳動条件に由来する時間軸方向のずれの影響を受けず、測定対象物質に含まれる成分の相違による影響を判断できる。
【0014】
(2)前記データ補正工程には、相互相関算出工程と、シフト補正工程とが含まれていてもよい。前記相互相関算出工程では、前記測定対象データを時間軸方向に段階的にシフトさせ、それぞれのシフト量における前記測定対象データと前記基準データとの相互相関を算出する。前記シフト補正工程では、前記相互相関算出工程により算出された相互相関が最大となるときのシフト量で前記測定対象データをシフトさせる。
【0015】
このような構成によれば、測定対象データを時間軸方向に段階的にシフトさせたときの各シフト量における測定対象データと基準データとの相互相関に基づいて、基準データと比較しやすくなるシフト量で測定対象データをシフトさせることができる。
【0016】
(3)前記第1電気泳動工程及び前記第2電気泳動工程では、予め定められた基準周期でサンプリングすることにより検出データを取得してもよい。この場合、前記相互相関算出工程において段階的にシフトされる前又は後の前記測定対象データ、あるいは、前記基準データの少なくとも一方は、前記基準周期とは異なる設定周期でサンプリングし直されてもよい。
【0017】
(4)前記データ補正工程には、第1伸縮データ取得工程と、第1相関係数算出工程と、伸縮方向決定工程とが含まれていてもよい。前記第1伸縮データ取得工程では、前記測定対象データを時間軸方向に伸長及び短縮させ、伸長させたときの前記測定対象データ及び短縮させたときの前記測定対象データに基づいて、2つの伸縮データを取得する。前記第1相関係数算出工程では、前記2つの伸縮データと前記基準データとの相関係数、及び、伸縮前の前記測定対象データと前記基準データとの相関係数を算出する。前記伸縮方向決定工程では、前記第1相関係数算出工程により算出された各相関係数に基づいて、時間軸における前記測定対象データの伸縮方向を決定する。
【0018】
このような構成によれば、測定対象データを時間軸方向に伸長及び短縮させたときの2つの伸縮データと基準データとの相関係数、及び、伸縮前の測定対象データと基準データとの相関係数に基づいて、基準データと比較しやすくなる測定対象データの伸縮方向を正確に決定することができる。
【0019】
(5)前記第1相関係数算出工程では、前記2つの伸縮データを時間軸方向に段階的にシフトさせ、それぞれのシフト量における前記2つの伸縮データと前記基準データとの相互相関を算出することにより、その算出された相互相関が最大となるときのシフト量でシフトさせた前記2つの伸縮データと前記基準データとの相関係数を算出するとともに、伸縮前の前記測定対象データを時間軸方向に段階的にシフトさせ、それぞれのシフト量における前記測定対象データと前記基準データとの相互相関を算出することにより、その算出された相互相関が最大となるときのシフト量でシフトさせた前記測定対象データと前記基準データとの相関係数を算出してもよい。
【0020】
(6)前記第1電気泳動工程及び前記第2電気泳動工程では、予め定められた基準周期でサンプリングすることにより検出データを取得してもよい。この場合、前記第1伸縮データ取得工程により取得する前記2つの伸縮データ及び伸縮前の前記測定対象データ、又は、前記基準データの少なくとも一方は、前記基準周期とは異なる設定周期でサンプリングし直されてもよい。
【0021】
(7)前記データ補正工程には、第2伸縮データ取得工程と、第2相関係数算出工程と、伸縮補正工程とが含まれていてもよい。前記第2伸縮データ取得工程では、前記測定対象データを時間軸方向に段階的に伸長又は短縮させ、それぞれの伸縮量における前記測定対象データに基づいて、複数の伸縮データを取得する。前記第2相関係数算出工程では、前記複数の伸縮データと前記基準データとの相関係数、及び、伸縮前の前記測定対象データと前記基準データとの相関係数を算出する。前記伸縮補正工程では、前記第2相関係数算出工程により算出された相関係数が最大となる前記伸縮データ又は伸縮前の前記測定対象データを補正後の前記測定対象データとする。
【0022】
このような構成によれば、測定対象データを時間軸方向に段階的に伸長又は短縮させたときの各伸縮量における測定対象データと基準データとの相関係数、及び、伸縮前の測定対象データと基準データとの相関係数に基づいて、基準データと比較しやすくなるデータを補正後の測定対象データとすることができる。
【0023】
(8)前記第2相関係数算出工程では、前記複数の伸縮データを時間軸方向に段階的にシフトさせ、それぞれのシフト量における前記複数の伸縮データと前記基準データとの相互相関を算出することにより、その算出された相互相関が最大となるときのシフト量でシフトさせた前記複数の伸縮データと前記基準データとの相関係数を算出するとともに、伸縮前の前記測定対象データを時間軸方向に段階的にシフトさせ、それぞれのシフト量における前記測定対象データと前記基準データとの相互相関を算出することにより、その算出された相互相関が最大となるときのシフト量でシフトさせた前記測定対象データと前記基準データとの相関係数を算出してもよい。
【0024】
(9)前記第1電気泳動工程及び前記第2電気泳動工程では、予め定められた基準周期でサンプリングすることにより検出データを取得してもよい。この場合、前記第2伸縮データ取得工程により取得する前記複数の伸縮データ及び伸縮前の前記測定対象データ、又は、前記基準データの少なくとも一方は、前記基準周期とは異なる設定周期でサンプリングし直されてもよい。
【0025】
(10)前記データ補正工程には、伸縮補正工程と、シフト補正工程とが含まれていてもよい。前記伸縮補正工程では、前記測定対象データを時間軸方向に伸長又は短縮させる。前記シフト補正工程では、前記伸縮補正工程前又は前記伸縮補正工程後に、前記測定対象データを時間軸方向にシフトさせる。
【0026】
(11)前記基準データ取得工程及び前記測定対象データ取得工程の少なくとも一方において、設定周期でサンプリングし直された検出データの各周期における検出強度に係数を乗算することにより、基準データ又は測定対象データを取得してもよい。
【0027】
このような構成によれば、基準物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群、及び、測定対象物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群の少なくとも一方において、検出強度に係数を乗算することにより、成分ごとの比較をより正確に行うことができるような基準データ又は測定対象データを取得することができる。
【0028】
(12)前記第1電気泳動工程では、それぞれ異なる基準物質を含む複数の基準試料を電気泳動させることにより、各基準試料に対応する複数の検出データを取得してもよい。前記基準データ取得工程では、前記第1電気泳動工程により取得した複数の検出データから複数の基準データを取得してもよい。前記データ補正工程では、前記複数の基準データについて、前記測定対象データを時間軸方向に相対的に伸縮又はシフトさせるものであってもよい。この場合、前記電気泳動測定方法は、相対的に伸縮又はシフトされた前記測定対象データと各基準データとの類似度を判定する類似度判定工程と、前記類似度判定工程における判定結果に基づいて前記複数の基準データの中から適合データを選択する適合データ選択工程とをさらに含んでいてもよい。
【0029】
このような構成によれば、複数の基準データと測定対象データとの類似度を判定し、その判定結果に基づいて、測定対象データに適合する適合データを複数の基準データの中から選択することができる。
【0030】
(13)前記類似度判定工程では、各基準データと前記測定対象データとの相関係数、及び、前記測定対象データのピーク面積に基づいて、類似度を判定してもよい。
【0031】
このような構成によれば、各基準データと前記測定対象データとの相関係数以外に、測定対象データのピーク面積も用いて類似度が判定される。したがって、ピーク位置だけでなくピーク面積も考慮して、より正確に類似度を判定することができる。
【0032】
(14)前記類似度判定工程では、各基準データと前記測定対象データとの相関係数、及び、各基準データのピーク面積に対する前記測定対象データのピーク面積の面積比に基づいて、類似度を判定してもよい。
【0033】
このような構成によれば、各基準データと前記測定対象データとの相関係数以外に、各基準データのピーク面積に対する測定対象データのピーク面積の面積比も用いて類似度が判定される。したがって、ピーク位置だけでなくピーク面積の面積比も考慮して、より正確に類似度を判定することができる。
【0034】
(15)前記類似度判定工程では、各基準データと前記測定対象データとの相関係数、前記測定対象データのピーク面積、及び、各基準データのピーク面積に対する前記測定対象データのピーク面積の面積比に基づいて、類似度を判定してもよい。
【0035】
このような構成によれば、各基準データと前記測定対象データとの相関係数以外に、測定対象データのピーク面積、及び、各基準データのピーク面積に対する測定対象データのピーク面積の面積比も用いて類似度が判定される。したがって、ピーク位置だけでなくピーク面積及び面積比も考慮して、より正確に類似度を判定することができる。
【0036】
(16)各基準データと前記測定対象データとの相関係数として、前記一定の時間幅に含まれる複数の領域でそれぞれ算出される相関係数の平均値が用いられてもよい。
【0037】
このような構成によれば、複数の領域でそれぞれ算出される相関係数の平均値を用いることにより、さらに正確に類似度を判定することができる。
【0038】
(17)本発明に係るデータ処理装置は、基準データと測定対象データとを用いてデータ処理を行うデータ処理装置であって、前記基準データ及び前記測定対象データを時間軸方向に相対的に伸縮又はシフトさせるデータ補正部を備える。
【0039】
(18)本発明に係るデータ処理プログラムは、基準データと測定対象データとを用いてデータ処理を行うデータ処理プログラムであって、前記基準データ及び前記測定対象データを時間軸方向に相対的に伸縮又はシフトさせるデータ補正部としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、基準データ及び測定対象データを時間軸方向に相対的に伸縮又はシフトさせることにより、基準データと比較しやすいデータに補正することができるため、基準データと測定対象データとの類似度を容易かつ正確に判定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
1.電気泳動システムの構成
図1は、本発明の一実施形態に係る電気泳動測定方法を用いて測定を行う電気泳動システムの一例を示したブロック図である。この電気泳動システムには、電気泳動装置1とデータ処理装置2とが備えられている。
【0043】
電気泳動装置1では、例えば板状部材の内部に流路が形成されたマイクロチップ(図示せず)を用いて、当該流路内を試料が電気泳動される。電気泳動装置1には、例えば発光部及び受光部を有する検出部11が備えられている。測定時には、流路内を電気泳動される試料に対して検出部11の発光部から励起光を照射し、その試料からの蛍光を受光部で検出することができる。ただし、検出部11は、試料からの蛍光を検出するような構成に限らず、例えば試料からの透過光を受光することにより吸光度を検出するような構成などであってもよい。
【0044】
データ処理装置2は、電気泳動装置1の検出部11から入力されるデータ(吸光度の検出強度)に対する処理を行う。データ処理装置2は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含む構成であり、CPUがプログラムを実行することにより、データ取得部21、データ補正部22、類似度判定部23及び適合データ選択部24などとして機能する。
【0045】
データ取得部21は、電気泳動装置1の検出部11から入力されるデータを取得する。データ補正部22は、データ取得部21で取得したデータを補正する処理を行う。データ補正部22には、例えば相互相関算出部221、シフト補正部222、伸縮データ取得部223、相関係数算出部224、伸縮方向決定部225及び伸縮補正部226などが含まれる。類似度判定部23は、データ(波形データ)同士を比較することにより、類似度を判定する処理を行う。適合データ選択部24は、類似度判定部23による判定結果に基づいて、いずれかのデータを適合データとして選択する処理を行う。
【0046】
2.電気泳動測定方法の具体例
図2は、電気泳動測定方法の一例を示したフローチャートである。本実施形態では、基準試料及び測定対象試料を電気泳動装置1で測定することにより得られたデータが、それぞれデータ処理装置2で処理される。
【0047】
基準試料は、基準物質、下限マーカー物質及び上限マーカー物質が混合された試料である。基準物質は、基準となる既知の物質である。下限マーカー物質は、基準物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が速い成分であり、上限マーカー物質は、基準物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が遅い成分である。このような基準試料を電気泳動装置1で電気泳動させ、検出部11から入力されるデータをデータ取得部21でサンプリングすることにより、基準試料に基づく検出データが取得される(ステップS101:第1電気泳動工程)。このとき、データ取得部21によるサンプリングは、予め定められた周期(基準周期)で行われる。
【0048】
基準試料に基づいて得られた検出データには、基準物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群の他、そのピーク群を時間軸方向に挟むように、下限マーカー物質の成分が検出されることによるピークと、上限マーカー物質の成分が検出されることによるピークとが含まれる。このような検出データは、データ取得部21により、下限マーカー物質及び上限マーカー物質の各ピークを基準にして一定の時間幅に規格化される(ステップS102)。
【0049】
具体的には、
図8の基準データD101のように、下限マーカー物質のピークP111の位置が0%、上限マーカー物質のピークP112の位置が100%となるような泳動指数を用いて、検出データが一定の時間幅(0〜100%の指数幅)に規格化される。本実施形態における時間軸には、時間を基準に算出される泳動指数のような他のパラメータの軸も含まれるものとする。
【0050】
このとき、データ取得部21が、規格化された検出データを上記基準周期とは異なる値に設定された周期(設定周期)でサンプリングし直すことにより、
図8に示すような基準データD101が取得される(ステップS103:基準データ取得工程)。上記設定周期は、例えば上記基準周期よりも長い間隔に設定されている。なお、規格化された検出データを上記設定周期でサンプリングし直す際には、上記基準周期における各検出強度に対して、スプライン補間や多項式補間などを用いて算出した補間値が加算又は減算されることにより、上記設定周期における各検出強度が補間される。
【0051】
取得される基準データD101は、1つだけであってもよいが、本実施形態では、複数の基準試料を用いて複数の基準データD101が取得される。すなわち、ステップS101の第1電気泳動工程では、それぞれ異なる基準物質を含む複数の基準試料を電気泳動させることにより、各基準試料に対応する複数の検出データを取得する。また、ステップS103の基準データ取得工程では、第1電気泳動工程により取得した複数の検出データから複数の基準データを取得する。なお、基準試料に含まれる下限マーカー物質及び上限マーカー物質は、各基準試料において同一である。
【0052】
測定対象試料は、測定対象物質、下限マーカー物質及び上限マーカー物質が混合された試料である。測定対象物質は、測定の対象となる物質であり、例えばDNAやRNAなどを含む。下限マーカー物質は、測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が速い成分で、上限マーカー物質は、測定対象物質に含まれる成分よりも電気泳動速度が遅い成分であり、測定対象物質に混合される下限マーカー物質及び上限マーカー物質と基準物質に混合される下限マーカー物質及び上限マーカー物質とは同一の物質である。このような測定対象試料を電気泳動装置1で電気泳動させ、検出部11から入力されるデータをデータ取得部21でサンプリングすることにより、測定対象試料に基づく検出データが取得される(ステップS104:第2電気泳動工程)。このとき、データ取得部21によるサンプリングは、基準試料に基づく検出データを取得する場合(ステップS101)と同様の周期(基準周期)で行われる。
【0053】
測定対象試料に基づいて得られた検出データには、測定対象物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群の他、そのピーク群を時間軸方向に挟むように、下限マーカー物質の成分が検出されることによるピークと、上限マーカー物質の成分が検出されることによるピークとが含まれる。このような検出データは、データ取得部21により、下限マーカー物質及び上限マーカー物質の各ピークを基準にして一定の時間幅に規格化される(ステップS105)。
【0054】
具体的には、
図8の測定対象データD102のように、下限マーカー物質のピークP121の位置が0%、上限マーカー物質のピークP122の位置が100%となるような泳動指数を用いて、検出データが一定の時間幅(0〜100%の指数幅)に規格化される。このとき、データ取得部21が、規格化された検出データを上記設定周期でサンプリングし直すことにより、
図8に示すような測定対象データD102が取得される(ステップS106:測定対象データ取得工程)。なお、規格化された検出データを上記設定周期でサンプリングし直す際には、上記基準周期における各検出強度に対して、スプライン補間や多項式補間などを用いて算出した補間値が加算又は減算されることにより、上記設定周期における各検出強度が補間される。
【0055】
このように、基準データD101を取得するとき(ステップS103)と、測定対象データD102を取得するとき(ステップS106)とで、同一の周期(設定周期)でサンプリングし直すことにより、同一のタイミングでサンプリングされたデータ同士を比較することが可能となる。その後、データ補正部22が、基準データD101に対して、測定対象データD102を、時間軸方向(泳動指数軸方向)に伸縮又はシフトさせることにより、測定対象データが補正される(ステップS107〜S109:データ補正工程)。
【0056】
具体的には、まず、時間軸(泳動指数軸)における測定対象データを伸長又は短縮させる方向(伸縮方向)が決定される(ステップS107)。そして、決定された伸縮方向に測定対象データが伸長又は短縮された後(ステップS108)、伸縮後の測定対象データが時間軸方向にシフトされる(ステップS109)。ただし、後述するように、測定対象データを伸長も短縮もさせない場合もある。
【0057】
本実施形態では、ステップS107〜S109のデータ補正工程が、各基準データD101を用いて行われる。すなわち、データ補正工程では、複数の基準データD101について、測定対象データD102を時間軸方向に相対的に伸縮又はシフトさせる。これにより、各基準データと比較しやすい測定対象データに補正することができる。
【0058】
その後、類似度判定部23が、各基準データD101と、各基準データD101を用いて補正された測定対象データとを比較することにより、それぞれの類似度を判定する(ステップS110:類似度判定工程)。そして、その判定結果に基づいて、適合データ選択部24が、複数の基準データD101の中から適合データを選択する(ステップS111:適合データ選択工程)。すなわち、補正された測定対象データとの類似度が最も高い基準データD101が、適合データとして選択される。
【0059】
3.補正された測定対象データの一例
図3は、補正された測定対象データD103の一例を示した図である。この例では、
図8に示した測定対象データD102が、基準データD101を基準にして時間軸方向に伸縮及びシフトされることにより、補正された測定対象データD103が得られた結果を示している。
【0060】
補正された測定対象データD103では、下限マーカー物質のピークP121と上限マーカー物質のピークP122との時間軸方向の間隔が狭められるように、測定対象データD102が短縮されている。そして、短縮された測定対象データD102が時間軸方向にシフトされることにより、
図3に示すように、測定対象物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群P123の時間軸方向における位置が、基準物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群P113の時間軸方向における位置に近づくように補正された測定対象データD103が得られる。
【0061】
このように、本実施形態では、基準データD101を基準にして、測定対象データD102を時間軸方向に伸縮及びシフトさせることにより、基準データD101と比較しやすい測定対象データD103に補正することができる。すなわち、基準物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群P113と、測定対象物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群P123とが、時間軸方向において比較しやすい位置となるように、測定対象データD102を補正することができる。したがって、基準データD101と測定対象データD103との類似度を容易かつ正確に判定することができる。
【0062】
4.伸縮方向決定時の処理
図4は、測定対象データD102の伸縮方向を決定する際の具体的な処理の一例を示したフローチャートである。この処理は、複数の基準データD101をそれぞれ用いて行われ、各基準データD101に対応する測定対象データD102の伸縮方向が決定される。
【0063】
測定対象データD102の伸縮方向を決定する際には、まず、伸縮データ取得部223が、測定対象データD102を時間軸方向に伸長及び短縮させ、伸長させたときの測定対象データ及び短縮させたときの測定対象データを取得する(ステップS201,S202:第1伸縮データ取得工程)。これにより、伸長された測定対象データ、短縮された測定対象データ及び伸縮前の測定対象データD102からなる3つのデータが取得される。このとき、伸長された測定対象データ、短縮された測定対象データ及び伸縮前の測定対象データD102はそれぞれ、所定の設定周期でサンプリングし直される。
【0064】
具体的には、下限マーカー物質のピークP121、又は、上限マーカー物質のピークP122が、時間軸方向に沿って任意の量だけ移動される。このとき、下限マーカー物質のピークP121をプラス方向(泳動指数が増える方向)に移動させるか、又は、上限マーカー物質のピークP122をマイナス方向(泳動指数が減る方向)に移動させれば、伸長された測定対象データが得られる。一方、下限マーカー物質のピークP121をマイナス方向に移動させるか、又は、上限マーカー物質のピークP122をプラス方向に移動させれば、短縮された測定対象データが得られる。
【0065】
その後、相関係数算出部224が、伸長された測定対象データ、短縮された測定対象データ、及び、伸縮前の測定対象データD102を、それぞれ時間軸方向に段階的にシフトさせ、それぞれのシフト量における各測定対象データと基準データD101との相互相関を算出する(ステップS203,S204)。そして、伸長された測定対象データ、短縮された測定対象データ、及び、伸縮前の測定対象データD102のそれぞれに対し、算出された相互相関が最大となるシフト量を決定し、各測定対象データを決定されたシフト量だけシフトさせる(ステップS205)。測定対象データをシフトさせる際の具体的な処理、及び、相互相関を算出する際の具体的な処理は、
図6を用いて後述する処理と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0066】
相関係数算出部224は、シフト後の伸長された測定対象データと基準データD101との相関係数(R+)、シフト後の短縮された測定対象データと基準データD101との相関係数(R−)、及び、シフトされた伸縮前の測定対象データと基準データD101との相関係数(R0)をそれぞれ算出する(ステップS206:第1相関係数算出工程)。伸縮方向決定部225は、このようにして算出された3種の相関係数R+,R−,R0に基づいて、時間軸における測定対象データD102の伸縮方向を決定する(ステップS207:伸縮方向決定工程)。
【0067】
相関係数については、周知であるため詳細な説明を省略するが、どれだけ同じ位置にピークが現れているかを示す値であり、比較されるデータ同士のピークの位置が近いほど「1」に近い値となり、ピークの位置が遠いほど「−1」に近い値となる。したがって、下記の基準(A)〜(D)を用いて測定対象データD102の伸縮方向を決定することができる。
(A):相関係数R0>相関係数R+、かつ、相関係数R0>相関係数R−の場合は、測定対象データD102を「伸縮させない」と決定する
(B):(A)以外であり、かつ、相関係数R+>相関係数R−の場合は、測定対象データD102を「伸長させる」と決定する
(C):(A)以外であり、かつ、相関係数R−>相関係数R+の場合は、測定対象データD102を「短縮させる」と決定する
(D):(A)〜(C)以外の場合は、下限マーカー物質のピークP121、又は、上限マーカー物質のピークP122の時間軸方向への移動量を増加させながら、(A)〜(C)のいずれかに該当するまでステップS201〜S206を繰り返す。
【0068】
この
図4に示すような処理によれば、測定対象データD102を時間軸方向に伸長及び短縮させたときの2つの伸縮データと基準データD101との相関係数R+,R−、及び、測定対象データD102と基準データD101との相関係数R0に基づいて、基準データD101と比較しやすくなる測定対象データD102の伸縮方向を正確に決定することができる。
【0069】
5.伸縮時の処理
図5は、測定対象データD102を伸縮させる際の具体的な処理の一例を示したフローチャートである。この処理は、複数の基準データD101をそれぞれ用いて行われることにより、各基準データD101に対応して伸縮させた測定対象データD102が得られる。
【0070】
測定対象データD102の伸縮方向が決定されると、その伸縮方向に応じて、伸縮データ取得部223が測定対象データD102を時間軸方向に段階的に伸長又は短縮させる。すなわち、
図4のS207の工程において測定対象データD102を伸長させると決定された場合には、測定対象データD102を時間軸方向に段階的に伸長させ、短縮させると決定された場合には、測定対象データD102を時間軸方向に段階的に短縮させる。そして、段階的に伸長又は短縮させたときのそれぞれの測定対象データを所定の設定周期でサンプリングし直すことにより、複数の伸縮データが取得される(ステップS301:第2伸縮データ取得工程)。
図4のS207の工程において伸縮させないと決定された場合には、測定対象データD102を伸長も短縮もせず、S301のステップは行わない。
【0071】
具体的には、測定対象データD102を伸長させると決定された場合、下限マーカー物質のピークP121のプラス方向への移動量、又は、上限マーカー物質のピークP122のマイナス方向への移動量が、許容伸縮量の範囲内で段階的に増加され、それぞれの伸長量における測定対象データを作成する。このとき伸縮前の測定対象データは伸長量がゼロとして、複数段階の伸長データに含める。一方、測定対象データD102を短縮させると決定された場合、下限マーカー物質のピークP121のマイナス方向への移動量、又は、上限マーカー物質のピークP122のプラス方向への移動量が、許容伸縮量の範囲内で段階的に増加され、それぞれの短縮量における測定対象データを作成する。このとき伸縮前の測定対象データは短縮量がゼロとして、複数段階の短縮データに含める。各段階的な伸長データあるいは短縮データは所定周期でサンプリングし直される。
【0072】
このようにして複数段階の伸縮量に対応する複数の伸縮データが取得されると、相関係数算出部224が、複数段階の伸縮データのそれぞれを時間軸方向に段階的にシフトさせ、各伸縮段階のそれぞれのシフト量における各測定対象データと基準データD101との相互相関を算出する(ステップS302,S303)。そして、各伸縮段階の測定対象データについて、各シフト量の中から算出された相互相関が最大となるシフト量を決定し、各伸縮段階の測定対象データに対し決定されたシフト量でシフトさせる(ステップS304)。測定対象データをシフトさせる際の具体的な処理、及び、相互相関を算出する際の具体的な処理は、
図6を用いて後述する処理と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0073】
相関係数算出部224は、各伸縮段階の測定対象データに対し、S304で決定されたシフト量だけシフトした後のデータと基準データD101との相関係数を算出する(ステップS305:第2相関係数算出工程)。すなわち、各伸縮量(伸縮されていない場合を含む。)においてサンプリングし直された測定対象データD102と基準データD101との相関係数が算出される。
【0074】
そして、伸縮補正部226が、複数の伸縮段階の測定対象データのうち算出された相関係数が最大となるデータを決定し、補正後の測定対象データとする(ステップS306:伸縮補正工程)。これにより、基準データD101との類似度が最も高いデータが、補正後の測定対象データD102に決定される。
【0075】
この
図5に示すような処理によれば、測定対象データD102を時間軸方向に段階的に伸長又は短縮させたときの各伸縮量における測定対象データと基準データD101との相関係数に基づいて、補正後の測定対象データD103として採用することで、基準データD101と比較した場合に、測定物質との同定精度の高い補正後の測定対象データD103とすることができる。
【0076】
6.シフト時の処理
図6は、測定対象データD102をシフトさせる際の具体的な処理の一例を示したフローチャートである。この処理は、複数の基準データD101をそれぞれ用いて行われることにより、各基準データD101に対応してシフトさせた測定対象データD102が得られる。
【0077】
測定対象データD102をシフトさせる際には、相互相関算出部221が、測定対象データD102(伸縮された測定対象データ又は伸縮されていない測定対象データ)を時間軸方向に段階的にシフトさせ、それぞれのシフト量における測定対象データD102と基準データD101との相互相関を算出する(ステップS401,S402:相互相関算出工程)。
【0078】
具体的には、測定対象データD102が、許容シフト量の範囲内でプラス方向及びマイナス方向にそれぞれ段階的にシフトされる。このとき、測定対象データD102のピーク群P123が現れる時間軸方向の範囲として予め設定された適合範囲内において、測定対象データD102が段階的にシフトされる。上記適合範囲は、測定対象物質の種類に応じて異なる値に設定されており、
図3の例では、55〜96%の範囲で、複数段階に設定されている。なお、上述した相関係数についても、上記適合範囲の範囲内のデータに基づいて算出される。
【0079】
相互相関については、周知であるため詳細な説明を省略するが、上記設定周期で得られる測定対象データD102の信号強度と基準データD101の信号強度とが、同一のタイミングでサンプリングされたデータ同士で乗算され、それらの乗算値を積算した値が相互相関となる。したがって、比較されるデータ同士の類似度が高いほど、相互相関は大きい値となる。
【0080】
シフト補正部222は、上記のようにして算出された相互相関が最大となるときのシフト量で、測定対象データD102をシフトさせる(ステップS403:シフト補正工程)。これにより、基準データD101との類似度が最も高いシフト量で、測定対象データD102が時間軸方向にシフトされる。測定対象データD102は、ステップS401において段階的にシフトされる前又は後に、上記設定周期でサンプリングし直される。
【0081】
この
図6に示すような処理によれば、測定対象データD102を時間軸方向に段階的にシフトさせたときの各シフト量における測定対象データD102と基準データD101との相互相関に基づいて、基準データD101と比較しやすくなるシフト量で測定対象データD102をシフトさせることができる。このような
図4〜
図6の処理により、
図3に示すような補正後の測定対象データD103が得られる。
【0082】
7.伸縮補正及びシフト補正の変形例
以上のような実施形態に限らず、測定対象データD102を時間軸方向に伸長又は短縮させる伸縮補正工程と、伸縮補正工程前又は伸縮補正工程後に、測定対象データD102を時間軸方向にシフトさせるシフト補正工程とを含むような構成であれば、以下のような構成も可能である。
【0083】
例えば、最初に伸縮方向を決定することなく、所定の伸縮範囲及び伸縮刻みで測定対象データD102を時間軸方向に段階的に伸長及び短縮させる(伸縮補正工程)。伸縮範囲は、例えば95%〜105%であり、伸縮刻みは、例えば1%である。これにより、伸縮していないデータを含めて11個の測定対象データD102が得られる。このようにして得られた複数の測定対象データD102に対してシフト補正工程が行われる。
【0084】
具体的には、複数の測定対象データD102が時間軸方向に段階的にシフトされ、それぞれのシフト量における測定対象データD102と基準データD101との相互相関が算出される。そして、複数の測定対象データD102のそれぞれについて、算出された相互相関が最大となるときのシフト量でシフトさせた測定対象データD102(最適シフトデータ)が求められる。このようにして求められた複数の最適シフトデータと基準データD101との相関係数が算出され、算出された相関係数が最大となる最適シフトデータ(測定対象データD102)が補正後の測定対象データD103とされる。
【0085】
ただし、上記のように伸縮補正工程後にシフト補正工程が行われるような構成に限らず、伸縮補正工程前にシフト補正工程が行われてもよい。また、伸縮方向を決定する場合には、最初に2つの伸縮データ(例えば99%及び101%)を求めて、これらの2つの伸縮データと基準データD101との相関係数、及び、伸縮前の測定対象データ(100%)と基準データD101との相関係数を算出することにより、相関係数が最大になるものから伸縮方向を決定することができる。
【0086】
8.類似度判定の第1実施例
以下では、類似度判定部23が類似度を判定する際の具体的態様について説明する。類似度判定部23は、各基準データD101と補正後の測定対象データD103との相関係数A、補正後の測定対象データD103のピーク面積B、各基準データD101のピーク面積に対する補正後の測定対象データD103のピーク面積の面積比Cを用いて、類似度を判定する。
【0087】
図7は、基準データD101及び補正後の測定対象データD103の一例を示した図である。この
図7に示すように、基準データD101のピーク位置と補正後の測定対象データD103のピーク位置とが近い場合には、相関係数Aは「1」に近い値となる。したがって、相関係数Aのみに基づいて、複数の基準データの中から最も相関係数Aが大きい基準データを選択し、その基準データを測定対象データに適合する適合データとすることも可能である。しかし、この場合には、基準データD101の信号強度、及び、補正後の測定対象データD103の信号強度が考慮されていないため、両者の信号強度が大きく異なる場合でも判定結果が同じになり、適合データとして適切か否かを正確に判断できない場合がある。
【0088】
そこで、本実施形態では、各基準データD101と測定対象データD103との相関係数A以外に、測定対象データD103のピーク面積B、及び、各基準データD101のピーク面積に対する測定対象データD103のピーク面積の面積比Cも用いて、類似度を判定するような構成となっている。これにより、ピーク位置だけでなくピーク面積B及び面積比Cも考慮して、より正確に類似度を判定することができる。
【0089】
具体的には、時間軸(泳動指数軸を含む。)における所定の領域(関心領域)が設定され、その関心領域内でのピーク面積B及び面積比Cが算出される。
図7の例では、例えば泳動指数60〜95%の領域が関心領域に設定される。類似度判定部23は、予め設定された関心領域内で、時間軸と基準データD101とで囲まれた面積を基準データD101のピーク面積として算出し、時間軸と測定対象データD103とで囲まれた面積を測定対象データD103のピーク面積として算出する。そして、算出された測定対象データD103のピーク面積を基準データD101のピーク面積で除算することにより、面積比Cが算出される。
【0090】
類似度判定部23は、算出した相関係数A、ピーク面積B及び面積比Cを用いて、下記式により評価値E1を求める。下記式におけるα、β及びγは、それぞれ係数であり、予め測定された既知のデータ(教師データ)を用いて決定される。
E1=A×α+B×β+C×γ
【0091】
適合データ選択部24は、算出された評価値E1を用いて、複数の基準データD101の中から適合データを選択する。このとき、評価値E1が最も大きい基準データD101、すなわち測定対象データD103との類似度が最も高い基準データD101が、適合データとして選択される。ただし、最も大きい評価値E1の値が、予め定められた閾値以上でない場合には、適合データなしと判定し、適合データを選択しないような構成であってもよい。
【0092】
上記の例では、類似度判定部23が、相関係数A、ピーク面積B及び面積比Cを用いて、類似度を判定するような構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、相関係数A及びピーク面積Bのみを用いて類似度を判定するような構成であってもよいし、相関係数A及び面積比Cのみを用いて類似度を判定するような構成であってもよい。
【0093】
9.類似度判定の第2実施例
各基準データD101と補正後の測定対象データD103との相関係数Aを算出する場合に、時間軸方向において関心領域を複数の領域に分割し、各領域で算出した相関係数の平均値を求めてもよい。例えば
図7において、泳動指数60〜95%の関心領域が、60〜75%の第1領域、75〜87.5%の第2領域、87.5〜95%の第3領域に分割される。そして、第1〜第3領域の各領域において相関係数が算出され、それらの相関係数の相加平均、加重平均又は相乗平均といった平均値を求めることにより、その平均値が相関係数Aとして算出される。
【0094】
このように、各基準データD101と測定対象データD103との相関係数Aとして、一定の時間幅に含まれる複数の領域でそれぞれ算出される相関係数の平均値を用いることにより、さらに正確に類似度を判定することができる。ただし、相関係数Aだけでなく、ピーク面積B又は面積比Cについても、複数の領域で算出されるピーク面積又は面積比の平均値が用いられてもよい。
【0095】
10.その他の変形例
以上の実施形態では、
図2のステップS103(基準データ取得工程)やステップS106(測定対象データ取得工程)において、規格化された検出データを上記設定周期でサンプリングし直す際に、上記基準周期における各検出強度を補間し、それらの補間された各検出強度をそのまま用いる場合について説明した。しかし、このような構成に限らず、上記基準周期における各検出強度に係数を乗算することにより、基準データD101又は測定対象データD102を取得するような構成であってもよい。
【0096】
具体的には、各検出強度に下記式(1)で表される係数が乗算される。なお、基準となるサンプリングのタイミングは、例えば適合範囲の始点に設定される。
【数1】
【0097】
上記式(2)としては、下記式(2−1)又は式(2−2)が用いられる。
【数2】
【0098】
式(2−1)において、Dは有効泳動長(μm)、T(i)はi番目にサンプリングされたタイミングに対応する泳動時間(s)である。このような式(2−1)を用いて式(1)により係数を算出した場合、Dは消去されてT(i)とT(i+1)のみの関数となる。その結果、算出される係数は、観測後の移動距離の差の比と言える。
【0099】
一方、式(2−2)において、Sは任意のサンプリングのタイミング(s)であり、例えば適合範囲の始点から1秒後に設定される。D及びT(i)については、式(2−1)の場合と同様である。このような式(2−2)を用いて式(1)により係数を算出した場合、D及びSは消去されてT(i)とT(i+1)のみの関数となる。その結果、算出される係数は、1秒後の移動距離の差の比と言える。
【0100】
上記のような係数を用いた演算は、基準データ取得工程及び測定対象データ取得工程の両方ではなく、いずれか一方においてのみ行われてもよい。これにより、基準物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群P113、及び、測定対象物質に含まれる成分が検出されることによるピーク群P123の少なくとも一方において、検出強度に係数を乗算することにより、成分ごとの比較をより正確に行うことができるような基準データD101又は測定対象データD102を取得することができる。
【0101】
図4のステップS201,S202において、下限マーカー物質のピークP121、又は、上限マーカー物質のピークP122を時間軸方向に沿って移動させた際には、移動後の適合範囲の中心が移動前と同じ位置になるように、測定対象データD102をシフトさせてもよい。同様に、
図5のステップS301において、下限マーカー物質のピークP121、又は、上限マーカー物質のピークP122を時間軸方向に沿って移動させた際には、移動後の適合範囲の中心が移動前と同じ位置になるように、測定対象データD102をシフトさせてもよい。
【0102】
以上の実施形態では、測定対象データD102を伸縮させてからシフトさせるような構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、測定対象データD102をシフトさせてから伸縮させるような構成であってもよいし、測定対象データD102に対して伸縮又はシフトの一方のみを行うような構成であってもよい。また、基準データD101を基準にして測定対象データD102を時間軸方向に伸縮又はシフトさせるのではなく、測定対象データD102を基準にして基準データD101を時間軸方向に伸縮又はシフトさせてもよい。すなわち、基準データD101及び測定対象データD102を時間軸方向に相対的に伸縮又はシフトさせるような構成であればよい。この場合、基準データD101が、上記設定周期でサンプリングし直されてもよい。
【0103】
以上の実施形態では、データ処理装置2の具体的構成について説明したが、データ処理装置2としてコンピュータを機能させるためのプログラム(データ処理プログラム)を提供することも可能である。この場合、上記プログラムは、記憶媒体に記憶された状態で提供されるような構成であってもよいし、プログラム自体が提供されるような構成であってもよい。