(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記位相調整範囲内のうち、前記回転速度が前記低速領域から高速領域(Ah)へ外れるときに前記特定位相外に調整される前記回転位相において、前記凹部は前記自転中心線に対する前記反偏心側を外れて位置する請求項4に記載のバルブタイミング調整装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの鋭意研究の結果として特許文献1の開示装置では、駆動回転体及び従動回転体に共通な回転中心線に対し遊星歯車が傾き難くなっていることで逆に、異音の十分な抑止には至っていないことが、判明した。その原因は、以下に説明する通りである。
【0006】
特許文献1の開示装置では、遊星ベアリングの外輪において各球状転動体が転がり接触する軌道面のうち自転中心線に対し偏心側に位置する点を傾き中心点として、遊星歯車が駆動回転体及び従動回転体の回転中心線に対し傾こうとする。その結果として遊星歯車は、製造公差に起因してスラスト軸受部との間に不可避的に生じるクリアランス分、スラスト軸受部と当接するまで傾くことが可能になる。
【0007】
ここで、遊星歯車が偏心側にてスラスト軸受部と近接するように傾く場合、当該近接箇所及び傾き中心点の間の距離が短くなる。そのため、偏心側にて遊星歯車がスラスト軸受部と当接するまでの傾き角度であっても、噛合部分のクリアランスを低減して異音を抑止するに至り得ることが、判明した。
【0008】
一方、遊星歯車が偏心側とは反対の反偏心側にてスラスト軸受部と近接するように傾く場合、当該近接箇所及び傾き中心点の間の距離が長くなる。そのため、反偏心側にて遊星歯車がスラスト軸受部と当接するまでの傾き角度では、噛合部分のクリアランスを低減して異音を抑止する上では角度不足となることが、判明した。即ち後者の場合には、傾き角度の不足した状態にて遊星歯車がスラスト軸受部と当接してしまうため、異音を招来し易くなる。
【0009】
以上より本発明の目的は、異音を抑止するバルブタイミング調整装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、課題を達成するための発明の技術的手段について、説明する。尚、発明の技術的手段を開示する特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0011】
上述の課題を解決するために開示された第一発明は、
内燃機関に付設され、クランク軸からのトルク伝達によりカム軸(2)が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置(1)であって、
クランク軸と連動して回転中心線(O)まわりに回転する駆動回転体(10)と、
駆動回転体と共通な回転中心線まわりにスラスト軸受部(26)を有し、同軸上に連結されるカム軸と連動して回転中心線まわりに回転する従動回転体(20)と、
外輪(42)及び内輪(44)の間に複数の球状転動体(46)が一列介装されてなる単列式の遊星ベアリング(40)と、
スラスト軸受部によりスラスト軸受され且つ駆動回転体及び従動回転体とは偏心して外輪によりラジアル軸受されており、駆動回転体及び従動回転体に対する偏心側にて駆動回転体及び従動回転体と噛合しつつ遊星運動することにより駆動回転体及び従動回転体の間の回転位相を調整する遊星歯車(30,2030)と、
内輪をラジアル軸受しており、遊星歯車を遊星運動させる遊星キャリア(50)とを、備え、
スラスト軸受部は、
遊星歯車が駆動回転体及び従動回転体のそれぞれと噛合する部分(Gd,Gf)の間となる軸方向位置において、回転中心線に対し傾いた遊星歯車をスラスト軸受可能に、配置されており、
遊星歯車は、スラスト軸受部に向かって開口している凹部(3
8)を、有し、
特定位相に調整された回転位相において凹部は、遊星歯車の自転中心線(C)に対し偏心側とは反対の反偏心側に位置
し、
回転位相が調整される位相調整範囲の全域に、特定位相は設定されており、
従動回転体における回転方向の全域に連続して、円環状にスラスト軸受部は設けられており、
遊星歯車の外縁部(36)における自転方向の全域に連続して、円環状に凹部は設けられており、
スラスト軸受部の内径(Rb)よりも小サイズに、凹部の内径(Rc)は設定されている。
また、上述の課題を解決するために開示された第二発明は、
内燃機関に付設され、クランク軸からのトルク伝達によりカム軸(2)が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置(1)であって、
クランク軸と連動して回転中心線(O)まわりに回転する駆動回転体(10)と、
駆動回転体と共通な回転中心線まわりにスラスト軸受部(26)を有し、同軸上に連結されるカム軸と連動して回転中心線まわりに回転する従動回転体(20)と、
外輪(42)及び内輪(44)の間に複数の球状転動体(46)が一列介装されてなる単列式の遊星ベアリング(40)と、
スラスト軸受部によりスラスト軸受され且つ駆動回転体及び従動回転体とは偏心して外輪によりラジアル軸受されており、駆動回転体及び従動回転体に対する偏心側にて駆動回転体及び従動回転体と噛合しつつ遊星運動することにより駆動回転体及び従動回転体の間の回転位相を調整する遊星歯車(2030)と、
内輪をラジアル軸受しており、遊星歯車を遊星運動させる遊星キャリア(50)とを、備え、
スラスト軸受部は、回転中心線に対し傾いた遊星歯車をスラスト軸受可能に、配置されており、
遊星歯車は、スラスト軸受部に向かって開口している凹部(2038)を、有し、
特定位相に調整された回転位相において凹部は、遊星歯車の自転中心線(C)に対し偏心側とは反対の反偏心側に位置し、
回転位相が調整される位相調整範囲内の一部に、特定位相は設定されている。
【0012】
このような第一
及び第二発明による遊星歯車は、遊星ベアリングの外輪において各球状転動体が転がり接触する軌道面のうち、自転中心線に対し偏心側に位置する点を傾き中心点として、傾こうとする。その結果として遊星歯車は、偏心側にて噛合部分をなす駆動回転体及び従動回転体の共通回転中心線に対し傾くことで、従動回転体のうち当該回転中心線まわりのスラスト軸受部によりスラスト軸受される。
【0013】
ここで、遊星歯車が偏心側にてスラスト軸受部と近接するように傾く場合、当該近接箇所及び傾き中心点の間の距離が短くなる。そのため、偏心側にて遊星歯車がスラスト軸受部と当接するまでの傾き角度であっても、噛合部分のクリアランスを低減して異音を抑止するに至ることができる。即ち、噛合部分のクリアランスを低減して異音を抑止するのに必要な傾き角度(以下、単に「必要傾き角度」という)が、確保され得る。
【0014】
一方、遊星歯車が反偏心側にてスラスト軸受部と近接するように傾く場合、当該近接箇所及び傾き中心点の間の距離が長くなる。そこで第一
及び第二発明の特定位相では、遊星歯車の自転中心線に対し反偏心側に位置する凹部がスラスト軸受部に向かって開口することで、傾いた遊星歯車が反偏心側にてスラスト軸受部と当接し難くなる。故にこの場合には、遊星歯車が可及的に傾くことで、必要傾き角度が確保され得る。
【0015】
以上より第一
及び第二発明では、遊星歯車の傾きがいずれの場合であっても、必要傾き角度を確保して異音を抑止することが、可能となる。
【0016】
また、開示された
第一及び第三発明によると、遊星歯車の外縁部(36,2036)に、凹部(38,2038)は設けられている。このような
第一及び第三発明によると、遊星歯車が反偏心側にてスラスト軸受部と近接するように傾く場合、遊星歯車のうち外縁部が最もスラスト軸受部に近接することとなる。ここで第二発明の特定位相では、遊星歯車の外縁部に設けられた凹部が最近接のスラスト軸受部に向かって開口することになるので、遊星歯車とスラスト軸受部との反偏心側での当接が十分に規制され得る。故に、必要傾き角度を確保して異音を抑止する効果の信頼度を、向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0019】
(第一実施形態)
図1に示すように本発明の第一実施形態によるバルブタイミング調整装置1は、車両の内燃機関においてクランク軸(図示しない)からカム軸2へクランクトルクを伝達する伝達系に、付設されている。ここでカム軸2は、内燃機関の「動弁」のうち吸気弁(図示しない)をクランクトルクの伝達により開閉する。そこで装置1は、吸気弁のバルブタイミングを調整する。
【0020】
(基本構成)
以下、装置1の基本構成を説明する。装置1は、アクチュエータ4、通電制御ユニット7及び位相調整ユニット8等から構成されている。
【0021】
アクチュエータ4は、例えばブラシレスモータ等の電動モータであり、ハウジングボディ5及び制御軸6を有している。ハウジングボディ5は、内燃機関の固定節に固定され、制御軸6を回転自在に支持している。通電制御ユニット7は、例えば駆動ドライバ及びその制御用マイクロコンピュータ等から構成され、ハウジングボディ5の外部及び/又は内部に配置されている。通電制御ユニット7は、電気的に接続されるアクチュエータ4への通電を制御することで、制御軸6を回転駆動する。
【0022】
図1〜3に示すように位相調整ユニット8は、駆動回転体10、従動回転体20、遊星歯車30、遊星ベアリング40、遊星キャリア50及び弾性部材60を備えている。
【0023】
全体として中空状の金属製駆動回転体10は、位相調整ユニット8の他の構成要素20,30,40,50,60を内部に収容している。駆動回転体10は、円環板状の太陽歯車部材11を有底円筒状のスプロケット部材13と段付円筒状のカバー部材14との間に挟持した状態で、それら部材11,13,14を共締めしてなる。
【0024】
図1,2に示すように太陽歯車部材11は、歯底円の径方向内側に歯先円を有した駆動側内歯車部12を、周壁部に形成している。
図1に示すようにスプロケット部材13は、周方向に等間隔ずつあけた箇所から径方向外側へと突出する複数のスプロケット歯19を、周壁部に形成している。スプロケット部材13は、それらスプロケット歯19とクランク軸の複数のスプロケット歯との間にてタイミングチェーン(図示しない)が掛け渡されることで、クランク軸と連繋する。これにより、クランク軸から出力されたクランクトルクは、タイミングチェーンを通じてスプロケット部材13に伝達される。その結果として駆動回転体10は、回転中心線Oまわりの一定方向(
図2,3の時計方向)にクランク軸と連動して回転する。
【0025】
図1,3に示すように有底円筒状の金属製従動回転体20は、スプロケット部材13の径方向内側に配置されている。従動回転体20は、スプロケット部材13に同軸上に嵌入されることで、駆動回転体10を径方向内側からラジアル軸受している。従動回転体20は、軸方向において太陽歯車部材11及びスプロケット部材13の間に挟持されている。従動回転体20は、カム軸2に同軸上に連結される連結部22を、底壁部に形成している。これにより従動回転体20は、駆動回転体10と共通な回転中心線Oまわりの同一方向(
図3の時計方向)にカム軸2と連動して回転しつつ、駆動回転体10に対して相対回転可能となっている。
【0026】
従動回転体20は、歯底円の径方向内側に歯先円を有した従動側内歯車部24を、周壁部に形成している。従動側内歯車部24は、駆動側内歯車部12とは軸方向のカム軸2側へとずれて径方向には重ならない箇所に、配置されている。従動側内歯車部24の内径は、駆動側内歯車部12の内径よりも小さく設定されている。従動側内歯車部24の歯数は、駆動側内歯車部12の歯数よりも少なく設定されている。
【0027】
図1〜3に示すように段付円筒状の金属製遊星歯車30は、従動側内歯車部24の径方向内側から駆動側内歯車部12の径方向内側に跨って、配置されている。遊星歯車30は、回転体10,20とは特定径方向(
図2,3の上方向)に偏心している。これにより、遊星歯車30の自転中心線Cは、回転体10,20の回転中心線Oに対し特定径方向にずれている。
【0028】
遊星歯車30は、歯底円の径方向外側に歯先円を有した外歯車部32,34を、周壁部に一体形成している。回転体10,20に対し遊星歯車30の偏心する偏心側(以下、単に「偏心側」という)では、
図1,2に示すように駆動側外歯車部32が駆動側内歯車部12と噛合している。ここで、駆動側外歯車部32が駆動側内歯車部12と実際に噛合している部分を、駆動側噛合部分Gdという。
【0029】
図1,3に示すように従動側外歯車部34は、駆動側外歯車部32とは軸方向のカム軸2側へとずれて径方向には重ならない箇所に、形成されている。従動側外歯車部34の外径は、駆動側外歯車部32とは相異なる径として、駆動側外歯車部32の外径よりも小さく設定されている。従動側外歯車部34の歯数は、駆動側外歯車部32の歯数よりも少なく設定されている。従動側外歯車部34は、偏心側にて従動側内歯車部24と噛合している。ここで、従動側外歯車部34が従動側内歯車部24と実際に噛合している部分を、従動側噛合部分Gfという。
【0030】
金属製遊星ベアリング40は、駆動側外歯車部32の径方向内側から従動側外歯車部34の径方向内側に跨って、配置されている。遊星ベアリング40は、回転体10,20に対しては遊星歯車30と同じ特定径方向に偏心している。これにより遊星ベアリング40は、遊星歯車30と同軸上に位置している。
【0031】
遊星ベアリング40は、外輪42と内輪44との間に複数の球状転動体46が一列介装されてなる単列式ラジアル軸受であり、特に本実施形態では単列式深溝玉軸受である。外輪42は、遊星歯車30に同軸上に圧入されることで、当該遊星歯車30を径方向内側からラジアル軸受している。
【0032】
部分偏心円筒状の金属製遊星キャリア50は、内輪44の径方向内側からカバー部材14の径方向内側に跨って、配置されている。遊星キャリア50は、回転体10,20及び制御軸6とは同軸上に位置する円筒面状の入力部51を、周壁部に形成している。入力部51には、継手53と嵌合する連結溝52が設けられ、当該継手53を介して制御軸6が遊星キャリア50と同軸上に連結されている。これにより遊星キャリア50は、回転中心線Oまわりに制御軸6と一体回転しつつ、回転体10,20に対しては相対回転可能となっている。
【0033】
遊星キャリア50は、回転体10,20に対しては遊星歯車30と同じ特定径方向に偏心する円筒面状の偏心部54を、周壁部に形成している。偏心部54は、内輪44に同軸上に嵌入されることで、当該内輪44を径方向内側からラジアル軸受している。これにより、遊星ベアリング40を介して遊星キャリア50に支持されている遊星歯車30の各外歯車部32,34は、駆動回転体10に対する遊星キャリア50の相対回転に応じて各噛合部分Gd,Gfを変化させつつ、一体に遊星運動する。このときの遊星歯車30は、偏心側にて回転体10,20と噛合する歯車連繋状態下、自転中心線Cまわりとなる自身の周方向へ自転しつつ、回転中心線Oまわりとなる遊星キャリア50の回転方向(即ち、入力部51の周方向)へ公転する。
【0034】
金属製弾性部材60は、偏心部54の周方向二箇所に開口した収容凹部55に、それぞれ一つずつ個別に収容されている。各弾性部材60は、概ねU字状断面の板ばねである。各弾性部材60は、収容凹部55と径方向外側の内輪44との間に介装されている。これにより各弾性部材60は、遊星歯車30及び遊星ベアリング40の径方向に圧縮された状態で、弾性変形している。ここで
図2,3に示すように、回転体10,20とは遊星歯車30及び遊星ベアリング40の偏心する特定径方向に沿って当該偏心側と反対側とに広がる基準平面Bが、回転中心線O及び自転中心線Cを含んで想定される。この想定下にて各弾性部材60は、基準平面Bに関する線対称位置に配置されている。こうした各弾性部材60が弾性変形によって発生する復原力の合力Fsは、内輪44に対しては、偏心側にて基準平面Bに沿う特定径方向へと作用する。これにより遊星歯車30は、遊星ベアリング40を介して各弾性部材60の復原力合力Fsを受けることで、偏心側に付勢されて回転体10,20との噛合状態を維持している。
【0035】
以上の構成を備えた位相調整ユニット8では、回転体10,20間の回転位相を、制御軸6の回転状態に応じて所定の位相調整範囲内に調整する。これにより、内燃機関の運転状況に適したバルブタイミング調整が実現されることになる。
【0036】
具体的には、制御軸6が駆動回転体10と同速に回転することで、遊星キャリア50が駆動回転体10に対して相対回転しないときには、外歯車部32,34がそれぞれ内歯車部12,24と噛合したまま、遊星歯車30が遊星運動をしなくなる。これにより、回転体10,20が遊星歯車30と連れ回りして、駆動回転体10に対する従動回転体20の回転位相が実質的に不変となることで、バルブタイミングが保持調整される。
【0037】
一方、制御軸6が駆動回転体10に対して低速又は逆方向に回転することで、遊星キャリア50が駆動回転体10に対する遅角方向へ相対回転するときには、外歯車部32,34がそれぞれ内歯車部12,24と噛合しつつ、遊星歯車30が遊星運動する。これにより、従動回転体20が駆動回転体10に対する遅角方向へと相対回転して、駆動回転体10に対する従動回転体20の回転位相が遅角変化することで、バルブタイミングが遅角調整される。
【0038】
また一方、制御軸6が駆動回転体10よりも高速に回転することで、遊星キャリア50が駆動回転体10に対する進角方向へ相対回転するときには、外歯車部32,34がそれぞれ内歯車部12,24と噛合しつつ、遊星歯車30が遊星運動する。これにより、従動回転体20が駆動回転体10に対する進角方向へと相対回転して、駆動回転体10に対する従動回転体20の回転位相が進角変化することで、バルブタイミングが進角調整される。
【0039】
ここで、駆動回転体10に対して従動回転体20の回転位相(以下、単に「回転位相」という)が調整される位相調整範囲は、
図1に示す従動回転体20のストッパ28が駆動回転体10により回転方向の両側でそれぞれ係止されることで、規定されるようになっている。
【0040】
(位相調整ユニットの詳細構成)
以下、位相調整ユニット8の詳細構成を説明する。
【0041】
図4,5に示すように遊星ベアリング40において外輪42は、径方向外側へ断面円弧形に凹んで周方向全域に連続する円環溝状に、外輪軌道面42aを形成している。一方、遊星ベアリング40において内輪44は、径方向内側へ断面円弧形に凹んで周方向全域に連続する円環溝状に、内輪軌道面44aを形成している。これら外輪軌道面42aと内輪軌道面44aとは、それらの間に配置される各球状転動体46の外周面に対して、それぞれ転がり接触する。
【0042】
図5に示すように外輪軌道面42a及び内輪軌道面44aは、軸方向では互いにずれて配置される実質同一長さの外輪42及び内輪44において、それぞれ軸方向中心部に形成されている。ここで外輪軌道面42aは、内輪軌道面44aに対し軸方向のカム軸2とは反対側へ設定量δだけずれている。これにより各球状転動体46は、カム軸2側に接触角θをなして外輪軌道面42aと転がり接触している。
【0043】
図4,8に示すように有底円筒状の従動回転体20において周壁部は、カム軸2とは反対側の軸方向端部に、その端面が円環平面状のスラスト軸受部26を同軸上に形成している。スラスト軸受部26は、従動回転体20において従動側内歯車部24よりも軸方向のカム軸2とは反対側に、突出している。スラスト軸受部26は、従動回転体20において回転中心線Oまわりとなる回転方向(即ち、周方向)の全域に、連続して延伸している。スラスト軸受部26は、遊星歯車30の駆動側外歯車部32におけるカム軸2側の軸方向端面に対し、摺動可能に配置されている。これによりスラスト軸受部26は、軸方向の片側であるカム軸2側から、遊星歯車30をスラスト軸受可能となっている。
【0044】
図4,6〜8に示すように遊星歯車30の外縁部36には、軸方向のカム軸2とは反対側へ向かって凹むように、凹部38が形成されている。凹部38は、遊星歯車30の外縁部36をなす駆動側外歯車32のうちカム軸2側の軸方向端部に、設けられている。これにより凹部38は、軸方向のカム軸2側に位置するスラスト軸受部26に向かって、且つ径方向外側に向かって開口している。
【0045】
凹部38は、遊星歯車30の自転方向(即ち、周方向)の全域に連続して、延伸している。凹部38は、遊星歯車30に同軸上に形成されて内面が断面L字形の円環矩形溝状を、呈している。これにより、第一実施形態では「特定位相」として予め設定される位相調整範囲の全域において、遊星歯車30の自転中心線Cに対する偏心側とは反対となる反偏心側(以下、単に「反偏心側」という)に、凹部38が基準平面B上にて位置することとなる。ここで
図8に示すように、円環状凹部38の内径である最内周半径Rcは、円環状スラスト軸受部26の内径である最内周半径Rbよりも、小サイズに設定されている。
【0046】
以上の構成下、
図9,10に模式的に示す従動回転体20のスラスト軸受部26は、遊星歯車30において凹部38を有した駆動側外歯車部32との間に、製造公差に起因したクリアランス70を不可避的に与えられる。こうしたクリアランス70に依拠して遊星歯車30の自転中心線Cは、回転体10,20の回転中心線Oに対し傾くことが可能となっている。このとき遊星歯車30は、遊星ベアリング40の外輪42において各球状転動体46が転がり接触する外輪軌道面42aのうち、傾き前の自転中心線Cに対し基準平面Bにて偏心側に位置する
図4,5,7の点Pを、
図9,10の如く傾き中心点Pとする。
【0047】
具体的に、従動側噛合部分Gfよりも駆動側噛合部分Gdのクリアランスが
図11に示すように大きい場合、
図9の如く遊星歯車30は、偏心側にてスラスト軸受部26と近接するように傾く。こうした偏心側近接傾きの場合、当該近接箇所としての外縁部36がスラスト軸受部26と当接する傾き角度となることで、当該スラスト軸受部26によりスラスト軸受される。このスラスト軸受状態(即ち、当接状態)での傾き角度は、噛合部分Gd,Gfのクリアランス、中でも特に駆動側噛合部分Gdのクリアランスを低減して異音を抑止可能な必要傾き角度ψeとなる。ここで第一実施形態の偏心側近接傾きでは、外縁部36のうちスラスト軸受部26と近接して当接する具体的箇所は、凹部38の最内周部と駆動側外歯車部32のカム軸2側の軸方向端面とがなすエッジ部36aとなる。
【0048】
一方、駆動側噛合部分Gdよりも従動側噛合部分Gfのクリアランスが
図11に示すように大きい場合、
図10の如く遊星歯車30は、反偏心側にてスラスト軸受部26と近接するように傾く。こうした反偏心側近接傾きの場合、当該近接箇所としての外縁部36と傾き中心点Pとの間の距離は、上記偏心側近接傾きの場合の距離よりも長くなる。そこで第一実施形態では、位相調整範囲の全域となる「特定位相」にてスラスト軸受部26が凹部38内へと進入するまで遊星歯車30が傾くことで、当該凹部38の内面がスラスト軸受部26とは離間した状態でも上記偏心側近接傾きの場合と同程度の必要傾き角度ψrが確保される。但し、この反偏心側近接傾きの場合の必要傾き角度ψrは、噛合部分Gd,Gfのクリアランス、中でも特に従動側噛合部分Gfのクリアランスを低減して異音を抑止可能な傾き角度となる。
【0049】
(作用効果)
以上説明した第一実施形態の作用効果を、以下に説明する。
【0050】
第一実施形態による遊星歯車30は、遊星ベアリング40の外輪42において各球状転動体が転がり接触する外輪軌道面42aのうち、自転中心線Cに対し偏心側に位置する点を傾き中心点Pとして、傾こうとする。その結果として遊星歯車30は、偏心側にて噛合部分Gd,Gfをなす回転体10,20の共通回転中心線Oに対し傾くことで、従動回転体20のうち当該回転中心線Oまわりのスラスト軸受部26によりスラスト軸受される。
【0051】
ここで、遊星歯車30が偏心側にてスラスト軸受部26と近接するように傾く場合、当該近接箇所及び傾き中心点Pの間の距離が短くなる。そのため、偏心側にて遊星歯車30がスラスト軸受部26と当接するまでの傾き角度であっても、噛合部分Gd,Gfのクリアランスを低減して異音を抑止するに至ることができる。即ち、噛合部分Gd,Gfのクリアランスを低減して異音を抑止するのに必要な必要傾き角度ψeが、確保され得る。
【0052】
一方、遊星歯車30が反偏心側にてスラスト軸受部26と近接するように傾く場合、当該近接箇所及び傾き中心点Pの間の距離が長くなる。そこで第一実施形態の「特定位相」では、遊星歯車30の自転中心線Cに対し反偏心側に位置する凹部38がスラスト軸受部26に向かって開口することで、傾いた遊星歯車30が反偏心側にてスラスト軸受部26と当接し難くなる。故にこの場合には、遊星歯車が可及的に傾くことで、必要傾き角度ψrが確保され得る。
【0053】
以上より第一実施形態では、
図11に示すように遊星歯車30の傾きがいずれの場合であっても、必要傾き角度ψe,ψrを確保して異音を抑止することが、可能となる。
【0054】
また第一実施形態によると、遊星歯車30が反偏心側にてスラスト軸受部26と近接するように傾く場合、遊星歯車30のうち外縁部36が最もスラスト軸受部26に近接することとなる。ここで、第一実施形態の「特定位相」である位相調整範囲の全域では、遊星歯車30の外縁部36に設けられた凹部38が最近接のスラスト軸受部26に向かって開口することになるので、遊星歯車30とスラスト軸受部26との反偏心側での当接が十分に規制され得る。故に、必要傾き角度ψe,ψrを確保して異音を抑止する効果の信頼度を、向上させることが可能となる。
【0055】
さらに第一実施形態によると、回転位相が調整される位相調整範囲の全域に「特定位相」が設定されるので、凹部38により反偏心側では、遊星歯車30が当該位相調整範囲内の任意の回転位相にてスラスト軸受部26と当接し難くなる。これによれば、回転位相に拘わらず必要傾き角度ψe,ψrを確保して異音を抑止することが、可能となる。
【0056】
またさらに第一実施形態によると、自転方向全域に連続して凹部38の設けられた遊星歯車30は、位相調整範囲全域の反偏心側にてスラスト軸受部26と当接し難くなる。故に、回転位相に拘わらず必要傾き角度ψe,ψrを確保して異音を抑止する効果の信頼度を、向上させることが可能となる。
【0057】
加えて第一実施形態によると、遊星歯車30の外縁部36において自転方向全域に連続した円環状凹部38の最内周半径Rcは、従動回転体20において回転方向全域に連続した円環状スラスト軸受部26の最内周半径Rbよりも、小サイズに設定されている。これにより遊星歯車30は、偏心側にてスラスト軸受部26と近接するように傾く場合に、反偏心側でのスラスト軸受部26との当接を規制され得る。故に、反偏心側における遊星歯車30とスラスト軸受部26との当接に依拠した異音を抑止する効果自体を、
図12に示すように高めることが可能となる。
【0058】
(第二実施形態)
本発明の第二実施形態は、第一実施形態の変形例である。
【0059】
図13〜16に示すように、第二実施形態による遊星歯車2030において外縁部2036の凹部2038は、同歯車2030の自転方向全域のうち一部に形成されて、内面が断面L字形の部分円環溝状(即ち、円弧溝状)に延伸している。
【0060】
図17に示すように第二実施形態では、内燃機関の回転速度が低速領域Alに収まる間、即ち回転速度が零速度(0rpm)から設定速度S(例えばアイドル回転数の一般的な最高値である1500rpm)以下となる間は、通電制御ユニット7がアクチュエータ4への通電を制御して、回転位相を「特定位相」に調整する。ここで第二実施形態の「特定位相」は、位相調整範囲内のうち凹部2038の延伸長さに対応した一部の回転位相(例えば最遅角位相及びその近傍の回転位相)に、予め設定されている。これにより第二実施形態では、位相調整範囲内のうち「特定位相」としての一部の回転位相にて、
図13の如く凹部2038が遊星歯車2030の自転中心線Cに対する反偏心側に基準平面B(
図16参照)上にて位置するように、通電制御ユニット7が通電制御を実現する。
【0061】
故に、
図18に模式的に示す「特定位相」での反偏心側近接傾きの場合には、第一実施形態に準ずる原理により必要傾き角度ψrが確保される。尚、
図19に模式的に示す「特定位相」での偏心側近接傾きの場合には、遊星歯車2030の外縁部2036において凹部2038の非形成部分2036aがスラスト軸受部26と近接して当接することで、必要傾き角度ψeが第一実施形態に準じた原理によって確保される。
【0062】
一方で第二実施形態では、
図17に示すように内燃機関の回転速度が低速領域Alから高速領域Ahへ外れるとき、即ち回転速度が設定速度S超過となるときには、通電制御ユニット7がアクチュエータ4への通電を制御して、回転位相を「特定位相」外の残位相に調整する。これにより第二実施形態では、位相調整範囲内のうち「特定位相」外の残位相にて、
図14の如く凹部2038が遊星歯車2030の自転中心線Cに対する反偏心側を外れて基準平面B上にて位置するように、通電制御ユニット7が通電制御を実現する。故に、
図20に模式的に示す「特定位相」外での反偏心側近接傾きの場合には、自転中心線Cに対し反偏心側を外れた凹部2038を有する遊星歯車2030が傾くことで、外縁部2036における凹部2038の非形成部分2036aをスラスト軸受部26と当接させ易くなる。
【0063】
この「特定位相」外での反偏心側近接傾きにおいて必要傾き角度ψrは確保され難くなるが、異音が噛合部分Gd,Gfに生じても高速領域Ahでの内燃機関の大きな運転音に紛れるため、必ずしも抑止されなくてもよい。逆に、高速領域Ahでは頻繁に傾き状態が変化する遊星歯車2030のうち外縁部2036における凹部2038の非形成部分2036aを、スラスト軸受部26に積極的に当接させることで、噛合部分Gd,Gfでの摩耗が抑止されることになる。尚、図に模式的に示す「特定位相」外での偏心側近接傾きの場合には、遊星歯車2030の外縁部2036において凹部2038の角部36a又は非形成部分2036aがスラスト軸受部26と近接して当接することで、必要傾き角度ψeが第一実施形態に準じた原理によって確保される。
【0064】
(作用効果)
以上説明した第二実施形態の作用効果を、第一実施形態とは異なる点を中心に、以下に説明する。
【0065】
第二実施形態によると、回転位相が調整される位相調整範囲内の一部に「特定位相」が設定されるので、凹部2038により反偏心側では、遊星歯車2030が当該一部の「特定位相」にてスラスト軸受部26と当接し難くなる。これによれば、位相調整範囲内のうち「特定位相」では、必要傾き角度ψe,ψrを確保して異音を抑止することが、可能となる。一方、位相調整範囲内のうち「特定位相外」では、傾いた遊星歯車30をスラスト軸受部26と反偏心側にて積極的に当接させて当該傾きによる噛合部分Gd,Gfでの摩耗を抑止することが、可能となる。尚、第二実施形態では「特定位相」外でも、必要傾き角度ψeを確保して異音を抑止することは可能となる。
【0066】
また第二実施形態によると、位相調整範囲内の一部に設定される「特定位相」では、自転方向全域のうち、自転中心線Cに対し反偏心側に位置する一部に凹部2038の設けられた遊星歯車2030が、当該反偏心側にてスラスト軸受部26と当接し難くなる。故に、「特定位相」では必要傾き角度ψe,ψrを確保して異音を抑止する効果の信頼度を、また「特定位相」外では傾いた遊星歯車2030をスラスト軸受部26と反偏心側にて当接させて噛合部分Gd,Gfでの摩耗を抑止する効果の信頼度を、向上させることが可能となる。
【0067】
さらに第二実施形態によると、位相調整範囲内のうち「特定位相」に設定される一部では、内燃機関の回転速度が零速度から低速領域Alに収まる間、凹部2038によって遊星歯車2030が反偏心側にてスラスト軸受部26と当接し難くなる。これによれば、異音が特に問題となる低速領域Alでは、必要傾き角度ψe,ψrを確保して当該異音の抑止に貢献することが、可能となる。
【0068】
またさらに第二実施形態によると、位相調整範囲内のうち「特定位相」外に調整される回転位相では、内燃機関の回転速度が低速領域Alから高速領域Ahへと外れる。このとき、自転中心線Cに対する反偏心側を外れて凹部2038の位置する遊星歯車2030は、傾きによってスラスト軸受部26と反偏心側にて当接し易くなる。これによれば、摩耗が特に問題となる高速領域Ahでは、傾いた遊星歯車2030をスラスト軸受部26と積極的に当接させて当該摩耗の抑止に貢献することが、可能となる。
【0069】
加えて第二実施形態によると、遊星歯車2030が反偏心側にてスラスト軸受部26と近接するように傾く場合、第一実施形態と同様に外縁部2036が最もスラスト軸受部26に近接することとなる。ここで、第二実施形態の「特定位相」である位相調整範囲内の一部では、遊星歯車2030の外縁部2036に設けられた凹部2038が最近接のスラスト軸受部26に向かって開口することになるので、遊星歯車2030とスラスト軸受部26との反偏心側での当接が規制され得る。故に「特定位相」では、必要傾き角度ψe,ψrを確保して異音を抑止する効果の信頼度を、向上させることが可能となる。
【0070】
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0071】
具体的に、第一実施形態に関する変形例1では、
図22に示すように、径方向外側へ向かうほど軸方向のカム軸2とは反対側へ内面の凹む円環テーパ溝状の凹部38が、遊星歯車30の外縁部36に形成されていてもよい。それに準じて第二実施形態に関する変形例2では、径方向外側へ向かうほど軸方向のカム軸2とは反対側へ内面の凹む部分円環テーパ溝状の凹部2038が、遊星歯車2030の外縁部2036に形成されていてもよい。
【0072】
第一及び第二実施形態に関する変形例2では、遊星歯車30,2030において外縁部36,2036よりも径方向内側に、凹部38,2038が設けられていてもよい。この変形例2の場合にスラスト軸受部26は、反偏心側近接傾きの遊星歯車30,2030において凹部38,2038へと進入可能となる形状及びサイズに、形成される。
【0073】
第一実施形態に関する変形例3では、円環状凹部38の内径である最内周半径Rcが、円環状スラスト軸受部26の内径である最内周半径Rbよりも、大サイズに設定されていてもよい。第二実施形態に関する変形例4では、零速度から設定速度S未満までの領域に、低速領域Alが定義されてもよい。この変形例3の場合に高速領域Ahは、設定速度S以上の領域に定義される。
【0074】
第二実施形態に関する変形例5では、低速領域Alのうち零速度よりも大きな回転速度からの一部にて、回転位相が「特定位相」に調整されてもよい。第二実施形態に関する変形例6では、高速領域Ahのうち少なくとも一部にて回転位相が「特定位相」に調整されることで、低速領域Alでは回転位相が「特定位相」外に調整されてもよい。第二実施形態に関する変形例7では、低速領域Alと高速領域Ahとの境界を決める設定速度Sが、例えばアイドル回転数の一般的な最高値よりも高い2000rpm等に、設定されていてもよい。