特許第6741007号(P6741007)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6741007
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】ライニング用組成物
(51)【国際特許分類】
   B29C 63/34 20060101AFI20200806BHJP
   C08F 263/00 20060101ALI20200806BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20200806BHJP
   B29C 63/00 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   B29C63/34
   C08F263/00
   C08F290/06
   B29C63/00
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-529496(P2017-529496)
(86)(22)【出願日】2016年6月3日
(86)【国際出願番号】JP2016066613
(87)【国際公開番号】WO2017013950
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2019年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-143737(P2015-143737)
(32)【優先日】2015年7月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋立 優
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 成人
(72)【発明者】
【氏名】馬越 英明
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/103878(WO,A1)
【文献】 米国特許第05925409(US,A)
【文献】 特公昭49−039177(JP,B1)
【文献】 特表2011−521151(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00143216(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/00− 63/48
C08F 283/01
C08F 290/00−290/14
C08F 299/00−299/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエステル樹脂と、
脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを含有することを特徴とするライニング用組成物。
【請求項2】
脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルが、一般式(1)で示される多官能アリルエステルであることを特徴とする請求項1に記載のライニング用組成物。
【化1】
[式中、nは2〜4いずれかの整数を表わし、zはn価の脂肪族炭化水素基、n価の脂環式炭化水素基、又は結合部(但し、nが2の場合のみ)である。]
【請求項3】
脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルが、コハク酸ジアリル、フマル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載のライニング用組成物。
【請求項4】
ビニルエステル樹脂100重量部に対して、脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを20重量部以上、80重量部以下含有することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のライニング用組成物。
【請求項5】
基材に請求項1〜4いずれかに記載のライニング用組成物を含浸させることを特徴とするライニング材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライニング用組成物に関する。ライニングは、例えば、下水道処理施設の管状成形体内面、角型管内面等の更生用に使用されている。
【背景技術】
【0002】
昨今の建築構造物は、コンクリートや鋼材を構造材としているものが殆どである。しかし、これらのコンクリートや鋼材は、経年で劣化するという問題がある。近年、ビル、トンネル、橋脚、排水溝、上下水道管、ガス管等のコンクリートや鋼材を使用した構造物の劣化防止や劣化の進行した構造物を更正するためにライニングが施されている。
【0003】
ライニング方法について具体的に説明すると、ガス管、水道管や下水道管等の管をライニングする場合には、熱硬化性樹脂を含有したライニング材を管内挿入した後に、温水によりライニング材を硬化させる等の方法により、既設管内をライニングすることができる(特許文献1参照)。
【0004】
ライニングに用いる樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられ、その中でも硬化性、経済性の点から不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂が主に用いられている。これらの樹脂は、プレポリマー成分と架橋剤を含有する組成物であり、ラジカル重合反応によって硬化される。
【0005】
公知の不飽和ポリエステル樹脂組成物、ビニルエステル樹脂組成物といった樹脂組成物は、架橋剤として、一般にスチレンが用いられている(特許文献2参照)。しかしながら、海洋汚染等の環境問題、及び揮発性有機化合物(VOC)の問題があるために、スチレン以外の架橋剤の開発が望まれている。
【0006】
スチレン以外の架橋剤としては、ジアリルフタレートモノマーを用いることができるが、十分に硬化させるためには、比較的長い時間が必要であり、更なる検討が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−165158号公報
【特許文献2】特許第2981330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、海洋汚染等の環境問題、VOCといった問題を解決することができ、良好な硬化速度を有する、ライニング用の樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、プレポリマー成分としてビニルエステル樹脂を、架橋剤として脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを含有するライニング用組成物により、上記の課題を解決することができることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は以下のように記載することができる。
項1 ビニルエステル樹脂と、脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを含有することを特徴とするライニング用組成物。
項2 脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルが、一般式(1)で示される多官能アリルエステルであることを特徴とする項1に記載のライニング用組成物。
【化1】
[式中、nは2〜4のいずれかの整数を表わし、zはn価の脂肪族炭化水素基、n価の脂環式炭化水素基、又は結合部(但し、nが2の場合のみ)である。]
項3 脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルが、コハク酸ジアリル、フマル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルのいずれかであることを特徴とする項1又は2に記載のライニング用組成物。
項4 ビニルエステル樹脂100重量部に対して、脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを20重量部以上、80重量部以下含有することを特徴とする項1〜3いずれかに記載のライニング用組成物。
項5 基材に項1〜4いずれかに記載のライニング用組成物を含浸させることを特徴とするライニング材。
【発明の効果】
【0011】
本発明のビニルエステル樹脂と、脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを含有する組成物は、海洋汚染等の環境問題、VOCといった問題が無く、組成物の粘度が低くハンドリングに優れ、良好な硬化速度、保存安定性を有するためにライニング用組成物として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下にライニング用組成物について詳細に説明する。本発明のライニング用組成物にはビニルエステル樹脂と、脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを少なくとも含有する。
【0013】
本発明のライニング用組成物に用いられるビニルエステル樹脂は、エポキシ樹脂と不飽和一塩基酸との反応によって得られる反応生成物である。
【0014】
前記のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂類、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂類、これらの樹脂の臭素化エポキシ樹脂等のフェノール類のグリシジルエーテル類、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテル等の多価アルコール類のグリシジルエーテル類、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、1−エポキシエチル−3,4−エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂類、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジル−p−オキシ安息香酸、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル類、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、トリグリシジル−p一アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリン等のグリシジルアミン類、1,3−ジグリシジル−5,5−ジメチルヒダントイン、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環式エポキシ樹脂等が挙げられる。また、これらのエポキシ樹脂は単独もしくは2種以上を併用してもよい。中でも、ビスフェノール型エポキシ樹脂類が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0015】
不飽和一塩基酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、アクリル酸ダイマー、モノメチルマレート、モノメチルフマレート、モノシクロヘキシルフマレート、あるいはソルビン酸等が挙げられる。これら酸は単独もしくは、2種以上を併せて用いられる。中でも、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0016】
ビニルエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、2,000〜500,000が好ましく、4,000〜100,000がより好ましい。ビニルエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、250〜5,000が好ましく、500〜3,000がより好ましい。なお、本明細書において、「重量平均分子量」及び「数平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所社製、GPCシステム)を用いて常温で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて求めることができる。
【0017】
ビニルエステル樹脂としては、特に限定されず、単独もしくは2種以上を併用してもよいが、本発明の効果がより好適に得られ、ライニング用組成物の粘度を低減でき、基材への含浸性もより良好であるという理由から、前記エポキシ樹脂として、ビスフェノール型エポキシ樹脂類が使用された、ビスフェノール型ビニルエステル樹脂が好ましく、前記エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂が使用された、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂がより好ましい。
【0018】
本発明のライニング用組成物には、脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルが用いられ、一般式(1)で示される多官能アリルエステルであることが好ましい。脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルは、1種、又は2種以上を組み合わせたものでもよい。ここで、本明細書において、多官能アリルエステルとは、2個以上のアリルエステル基(‐COOCH‐CH=CH基)を有する化合物を意味し、脂肪族多官能アリルエステルとは、脂肪族炭化水素基と、2個以上のアリルエステル基を有する化合物を意味し、脂環式多官能アリルエステルとは、脂環式炭化水素基と、2個以上のアリルエステル基を有する化合物を意味する。なお、本明細書において、脂肪族多官能アリルエステルは、2個のアリルエステル基が直接結合したシュウ酸ジアリルを含む概念である。
【化2】
[式中、nは2〜4のいずれかの整数を表わし、zはn価の脂肪族炭化水素基、n価の脂環式炭化水素基、又は結合部(但し、nが2の場合のみ)である。]
【0019】
一般式(1)において、nは2又は3であることが好ましく、2であることが特に好ましい。
【0020】
一般式(1)において、n価の脂肪族炭化水素基の炭素数は1〜18であることが好ましく、2〜12であることがより好ましく、2〜6であることが更に好ましく、2〜4であることが特に好ましく、2〜3であることが最も好ましい。
n価の脂肪族炭化水素基は、飽和のn価の脂肪族炭化水素基であってもよく、一部において不飽和結合を有していてもよい。中でも、未反応のまま残留する架橋剤量(多官能アリルエステル量)が減少し、得られる硬化物の物性をより良好なものとすることができるという理由から、不飽和結合を有することが好ましい。
n価の脂肪族炭化水素基は、分岐構造を有してもよいが、分岐構造を有さない直鎖状の炭化水素基であることが好ましい。
n価の脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜6であるアルコキシ基、ハロゲン原子、アリル基、ビニル基、ヒドロキシ基等の置換基を有してもよいが、n個のアリルエステル基以外の置換基を有さないことが好ましい。
【0021】
2価の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜18のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が挙げられ、アルケニレン基が好ましい。アルケニレン基としては、ビニレン基、1−プロペニレン基、2−プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、1−ペンテニレン基、2−ペンテニレン基、1−ヘキセニレン基、2−ヘキセニレン基、1−オクテニレン基などがあげられる。中でも、ビニレン基が好ましい。
【0022】
一般式(1)において、n価の脂環式炭化水素基の炭素数は3〜18であることが好ましく、4〜12であることがより好ましく、4〜10であることが特に好ましい。中でも、脂環式炭化水素基を構成する全ての炭素原子が環構造を形成していることが好ましい。すなわち、n価の脂環式炭化水素基は、3〜18員環であることが好ましく、4〜12員環であることがより好ましく、4〜10員環であることが特に好ましい。
n価の脂環式炭化水素基は、飽和のn価の脂環式炭化水素基であってもよく、一部において不飽和結合を有していてもよい。中でも、飽和のn価の脂環式炭化水素基が好ましい。尚、本発明において、脂環式とは芳香性を有しない環状構造を有することを意味し、脂環式炭化水素基とは芳香性を有しない環状構造を有する炭化水素基を意味する。
n価の脂環式炭化水素基は、炭素数が1〜6であるアルキル基、炭素数が1〜6であるアルコキシ基、ハロゲン原子、アリル基、ビニル基、ヒドロキシ基等の置換基を有してもよいが、n個のアリルエステル基以外の置換基を有さないことが好ましい。
【0023】
一般式(1)において、zが結合部の場合、一般式(1)で示される多官能アリルエステルは、シュウ酸ジアリルである。
【0024】
一般式(1)において、zはn価の脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0025】
一般式(1)で示される多官能アリルエステルを例示すると、シュウ酸ジアリル、マロン酸ジアリル、コハク酸ジアリル、グルタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、ピメリン酸ジアリル、スベリン酸ジアリル、アゼライン酸ジアリル、セバシン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、クエン酸トリアリル、イタコン酸ジアリル等の脂肪族多官能アリルエステル、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラアリル、シクロブタンジカルボン酸ジアリル、シクロブテンジカルボン酸ジアリル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル(ヘキサヒドロフタル酸ジアリル)、テトラヒドロフタル酸ジアリル等の一般式(2)〜一般式(9)で表される化合物等の脂環式多官能アリルエステルが挙げられ、コハク酸ジアリル、フマル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル(ヘキサヒドロフタル酸ジアリル)、テトラヒドロフタル酸ジアリルであることが好ましい。
【化3】
(式中、nは2〜4のいずれかの整数である。)
【化4】
(式中、nは2〜4のいずれかの整数である。)
【化5】
(式中、nは2〜4のいずれかの整数である。)
【化6】
(式中、nは2〜4のいずれかの整数である。)
【化7】
(式中、nは2〜4のいずれかの整数である。)
【化8】
(式中、nは2〜4のいずれかの整数である。)
【化9】
(式中、nは2〜4のいずれかの整数である。)
【化10】
(式中、nは2〜4のいずれかの整数である。)
なお、一般式(2)〜(9)中のnは、前記一般式(1)におけるnと同じ意味である。
【0026】
式(2)〜(9)において、環構造内で架橋されていてもよく、環構造内で架橋されたものの例として、アダマンダン、ノルボルナン等を例示することができる。
【0027】
式(2)〜(9)の環上におけるCOOCH‐CH=CH基の置換位置は何れの組み合わせであっても良く、それらの混合物でも良い。特に、2つのCOOCH‐CH=CH基が6員環に結合するときに、2つのCOOCH‐CH=CH基は、オルト配向またはメタ配向またはパラ配向のいずれでもよいが、オルト配向またはパラ配向であることが好ましい。
【0028】
脂環式多官能アリルエステルとしては、シクロブタンジカルボン酸ジアリル、シクロヘプタンジカルボン酸ジアリル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル(ヘキサヒドロフタル酸ジアリル)、ノルボルナンジカルボン酸ジアリル、シクロブテンジカルボン酸ジアリル、シクロヘプテンジカルボン酸ジアリル、シクロヘキセンジカルボン酸ジアリル(テトラヒドロフタル酸ジアリル)、ノルボルネンジカルボン酸ジアリル、3−メチル−ヘキサヒドロ−1,2−ジアリルフタレート、4−メチル−ヘキサヒドロ−1,2−ジアリルフタレート、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ−1,2−ジアリルフタレート、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ−1,2−ジアリルフタレート、3,6−エンドメチレン−3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ−1,2−ジアリルフタレート、3,6−エンドメチレン−4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ−1,2−ジアリルフタレート、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジアリル、2−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジアリル、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラアリル等を例示することができる。中でも、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、ノルボルナンジカルボン酸ジアリルが好ましい。
【0029】
本発明の脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルは、下記一般式(10)で表わされるカルボン酸化合物、又はそれらの酸無水物とハロゲン化アリル又はアリルアルコールとを例えば、酸性物質、塩基性物質、触媒、溶媒の存在下、反応させることにより製造することができる。一般式(10)で表わされるカルボン酸化合物は試薬や工業薬品として入手可能である。
【化11】
[式中、n、及びz関しては、前記一般式(1)におけるn、及びzと同じ意味である。]
【0030】
ハロゲン化アリルとしては、例えばアリルクロリド、アリルブロミド、アリルヨージド等が挙げられる。ハロゲン化アリルの使用量に特に制限は無いが、一般式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して、通常、2〜20当量の範囲であるのが好ましく、反応速度および容積効率の観点からは、2.3〜10当量の範囲であるのがより好ましい。これらのハロゲン化アリル化合物は試薬や工業薬品として入手可能である。
【0031】
アリルアルコールは試薬や工業薬品として入手可能である。アリルアルコールの使用量に特に制限は無いが、一般式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して、通常、2〜10当量の範囲であるのが好ましく、2〜5当量の範囲であるのがより好ましい。
【0032】
酸性物質としては、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、硫酸が挙げられ、酸性物質の使用量は、一般式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して0.001〜0.1当量の範囲であるのが好ましく、0.005〜0.05当量の範囲であるのがより好ましい。
【0033】
塩基性物質としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属の水素化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素化物、アルコラート等が一般に用いられるが、第4級アンモニウム化合物や脂肪族アミンや芳香族アミンのような有機塩基を用いることも可能である。塩基性物質の使用量は、一般式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して0.5〜30当量の範囲であるのが好ましく、2〜15当量の範囲であるのがより好ましい。
【0034】
触媒として、例えば銅、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、バナジウム等の遷移金属や遷移金属塩が用いられるが、このうち銅化合物が好適に用いられる。
銅化合物としては特に限定はなく、ほとんどの銅化合物が用いられるが、塩化第一銅、臭化第一銅、酸化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、硫酸第一銅、硫酸第二銅、塩化第二銅、水酸化第二銅、臭化第二銅、リン酸第二銅、硝酸第一銅、硝酸第二銅、炭酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅等が好ましい。その中でも特に、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、硫酸銅、酢酸第二銅は容易に入手可能で安価な点で好適である。
【0035】
反応は、溶媒の存在下または不存在下に実施できる。溶媒としては、反応に悪影響を与えない限り特に制限はないが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の飽和脂肪族炭化水素;ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、スルホラン等が挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、一般式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して、通常、0.01〜20倍重量の範囲であるのが好ましく、0.1〜10倍重量の範囲であるのがより好ましい。本反応の場合、溶媒を特に使用しなくても脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを効率よく製造することができる。
【0036】
特に、塩基性物質を水溶液として反応に用いる場合、反応を促進させるために相間移動触媒を使用するのが好ましい。相間移動触媒に特に制限はないが、例えばトリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムクロリド等のホスホニウム塩;15−クラウン−5、18−クラウン−6等のクラウンエーテル等が挙げられる。相間移動触媒を使用する場合、その使用量は、一般式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して、通常、0.001〜1当量の範囲であるのが好ましく、0.01〜0.4当量の範囲であるのがより好ましい。
【0037】
反応温度は、十分な反応速度を得、かつ副反応を効果的に抑え高収率を得る意味において、通常、−30〜150℃の範囲であるのが好ましく、−10〜120℃の範囲であるのがより好ましい。また、反応時間は10分〜15時間の範囲であるのが好ましく、副反応抑制の観点からは10分〜10時間の範囲であるのが好ましい。
【0038】
反応は、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気下で実施するのが好ましい。また、反応は大気圧下でも加圧下でも実施できるが、製造設備面の観点からは、大気圧下で実施するのが好ましい。反応は、例えば攪拌型反応装置に原料を一度に、または分割して仕込み、上記「0034」記載の所定温度で所定時間反応させることにより行なうことができる。
【0039】
反応終了後、得られた反応混合液を中和した後、必要に応じて水、飽和食塩水等で洗浄してから濃縮し、さらに蒸留、カラムクロマトグラフィー等の、有機化合物の精製において通常用いられる精製操作を行なうことによって、純度の高い脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを取得できる。
【0040】
本発明のライニング用組成物において、ビニルエステル樹脂100重量部に対して、脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを20重量部以上含有することが好ましく、25重量部以上含有することがより好ましく、35重量部以上含有することが特に好ましく、80重量部以下含有することが好ましく、75重量部以下含有することがより好ましく、70重量部以下含有することが特に好ましい。
【0041】
本発明のライニング用組成物においては、脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルに加えて、多官能(メタ)アクリレートを必要に応じて使用することができる。多官能(メタ)アクリレートを配合することにより、硬化速度をより速くすることができる。
ここで、本明細書において、多官能(メタ)アクリレートとは、2個以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物を意味する。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレ−トの一方又は両方を意味する。
多官能(メタ)アクリレートとしては、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレ−ト、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレ−ト、1,6− ヘキサンジオールジアクリレート等を挙げることができる。また、これらの多官能(メタ)アクリレートは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
多官能(メタ)アクリレートが有する(メタ)アクリレート基の数は、2〜6が好ましく、2〜4がより好ましい。
多官能(メタ)アクリレートとしては、未反応のまま残留する架橋剤量(多官能アリルエステル量、多官能(メタ)アクリレート量)が減少し、得られる硬化物の物性をより良好なものとすることができるという理由から、多官能メタクリレートであることが好ましい。
【0042】
本発明のライニング用組成物において、ビニルエステル樹脂100重量部に対して、多官能(メタ)アクリレートを5重量部以上含有することが好ましく、10重量部以上含有することがより好ましく、12重量部以上含有することが特に好ましく、80重量部以下含有することが好ましく、75重量部以下含有することがより好ましく、70重量部以下含有することが特に好ましい。
【0043】
本発明のライニング用組成物において、熱重合開始剤、光重合開始剤を限定なく用いることができる。
【0044】
熱重合開始剤としては、特に限定されないが、パーオキシド化合物、アゾ化合物が好ましく、具体的にはベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、ジクミルパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル) パーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート類、tert−ブチルパーオキシオクトエート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート等のアルキルパーエステル類等のパーオキシド化合物、1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリル、2、2’−アゾビス−(2、4−ジメチルバレロニトリル)、2、2’−アゾビス−(4−メトキシ−2、4−ジメチルバレロニトリル)2、2’−アゾビス−(メチルイソブチレート)、α、α−アゾビス−(イソブチロニトリル)、4、4’−アゾビス−(4−シアノバレイン酸) 等のアゾ化合物を例示することができる。また、これらの熱重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明のライニング用組成物において、ビニルエステル樹脂100重量部に対して、熱重合開始剤を0.001重量部以上含有することが好ましく、0.005重量部以上含有することがより好ましく、0.01重量部以上含有することが更に好ましく、0.5重量部以上含有することが特に好ましく、10重量部以下含有することが好ましく、8重量部以下含有することがより好ましく、5重量部以下含有することが特に好ましい。
【0046】
光重合開始剤としては、特に限定されないが、ベンゾインエーテル化合物、ベンゾフェノン化合物、アセトフェノン化合物、チオキサントン化合物が好ましく、ベンゾインアルキルエーテル等のベンゾインエーテル化合物、ベンゾフェノン、ベンジル、メチルオルソベンゾイルベンゾエート等のベンゾフェノン化合物、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン化合物、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン化合物を例示することができる。
光重合開始剤には、金属石鹸類、金属キレート類、アニリン類、アミン類を促進剤として併用することができる。具体的には、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸バナジウム、ナフテン酸銅、ナフテン酸バリウム等金属石鹸類、バナジウムアセチルアセテート、コバルトアセチルアセテート、鉄アセチルアセトネート等の金属キレート類、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−(N,N−ジメチルアミノ) ベンズアルデヒド、4−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ] ベンズアルデヒド、4−(N−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノ) ベンズアルデヒド、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N−エチル−m−トルイジン、トリエタノールアミン、m−トルイジン、ジエチレントリアミン、ピリジン、4−フェニルモルホリン、ピペリジン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アニリン、ジエタノールアニリン等のアニリン類、N,N−置換−p−トルイジン、4−(N,N−置換アミノ) ベンズアルデヒド等のアミン類が挙げられる。また、これらの光重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本発明のライニング用組成物において、ビニルエステル樹脂100重量部に対して、光重合開始剤を0.001重量部以上含有することが好ましく、0.005重量部以上含有することがより好ましく、0.01重量部以上含有することが特に好ましく、10重量部以下含有することが好ましく、8重量部以下含有することがより好ましく、5重量部以下含有することが特に好ましい。
【0048】
また、本発明のライニング用組成物には、増粘剤、着色剤、可塑剤、充填剤、難燃剤等を、本発明の効果を阻害しない範囲内で含んでいてもよい。
【0049】
本発明のライニング用組成物を用いたライニング方法については特に限定されないが、本発明のライニング用組成物を含浸させた基材からなるライニング材を流体圧力等により既設管内に挿入し、既設管内面に内張り、圧着し、加熱又は光照射し、強化プラスチック管を形成させる方法を挙げることができる。
即ち、ライニング材を既設管内に挿入し、既設管内をライニングする方法において、本発明のライニング用組成物を基材に含浸する工程、含浸することにより得られたライニング材を既設管内に挿入する工程、及び挿入したライニング材を加熱又は光照射し、既設管内を被覆する工程を含むことを特徴とするライニング方法である。
【0050】
ライニング用組成物を含浸させる基材としては、本発明のライニング用組成物を含浸できる基材である限り、特に限定されないが、不織布、フェルト、チョップドストランドマット等が用いられ、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、芳香族系樹脂等の不織布、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン等のフェルト、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等の無機系繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ビニルエステル繊維、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系繊維を用いたチョップドストランドマットが挙げられる。不織布、フェルト、チョップドストランドマットは、組み合わせて層を形成して用いてもよい。
【0051】
ライニング用組成物を基材に含浸させる方法としては、特に限定されない。ライニング用組成物を基材に接触させることにより、ライニング用組成物が基材に含浸することとなる。例えば、ライニング用組成物溶液に基材を浸漬させることにより、ライニング用組成物を基材に含浸させることができる。
【0052】
また、本発明のライニング材は基材に本発明のライニング用組成物を含浸させることによって得られるが、その片面、又は両面にポリウレタン等の透過性プラスチックフィルムで覆われた構成であってもよい。
【0053】
含浸することによって得られたライニング材を既設管内に挿入する工程において、その方法については、特に制限がないが、特開2003−165158号公報等に記載された方法を例示することができる。即ち、ライニング材を平坦状として密閉容器内に折り畳んで積み重ねた状態で配備し、その一端を外側に折り返してこれを前記密閉容器に接続された反転ノズルの開口端外周に取り付け、前記密閉容器内に水圧等の流体圧を作用させて管ライニング材を管路内に反転挿入し、ライニング材を管路内面に押圧した状態にする等が挙げられる。
【0054】
挿入したライニング材を加熱又は光照射し、既設管内を被覆する工程において、加熱・光照射の方法については、特に限定されない。
ライニング材において、ライニング用組成物を熱硬化させる場合には、加圧スチームを供給することにより硬化させる方法、温水を供給することにより硬化させる方法等を例示することができる。
ライニング材において、ライニング用組成物を光硬化させる場合には、紫外線を照射し続ける光源が、管路内を一定の速度で移動することにより管体ライニング材が硬化し、管体内部に構造物を形成させる。光放射源からの照射時間としては、光源の有効波長領域、出力、照射距離、ライニング材の厚さ等により異なるが、0.05〜1時間である。
【0055】
また、被ライニング体(ライニング対象物)にライニング用組成物を直接塗布し、加熱又は光照射させることにより、ライニングすることもできる。尚、加熱又は光照射については、上記「0051」と同様の方法・条件で行うことができる。
【0056】
被ライニング体(ライニング対象物)にライニング用組成物を塗布する際には、球形又はカプセル型のピグを用いる、加圧、又は吸引による気流を用いることにより、より均一に塗布することができる。
【0057】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0058】
後述の実施例および比較例で用いた材料を以下に説明する。
【0059】
ビニルエステル樹脂
ビニルエステル樹脂:昭和電工株式会社製 リポキシVR−90(ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂、数平均分子量=1,000、軟化点=60℃)
【0060】
開始剤
ビス(4−tert−ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート:化薬アクゾ株式会社製 パーカドックス16
tert−ブチルパーオキシベンゾエート:日油株式会社製 パーブチルZ
【0061】
架橋剤
フタル酸ジアリル:株式会社大阪ソーダ製 ダイソーダップモノマー
マレイン酸ジアリル:和光純薬工業株式会社製
フマル酸ジアリル:合成例1
コハク酸ジアリル:合成例2
アジピン酸ジアリル:合成例3
イタコン酸ジアリル:合成例4
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル:合成例5
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル:合成例6
1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート:共栄社株式会社製
【0062】
合成例1:フマル酸ジアリルの合成
500mLのフラスコにアリルアルコール145.2g(2.50mol)、トルエン137.5(1.49mol)、フマル酸116.1g(1.00mol)、ドデシルベンゼンスルホン酸6.53g(0.02mol)を仕込み、磁気撹拌子で撹拌させオイルバスで還流させた。24時間後、加熱を止め、フラスコを冷却した。得られた反応液に対して中和、水洗を行い、低沸分をロータリーエバポレーターで留去し、得られた濃縮液を減圧蒸留することで目的のフマル酸ジアリルを74.0g得た。得られた化合物を実施例2に用いた。
【0063】
合成例2:コハク酸ジアリルの合成
500mLのフラスコにアリルアルコール159.7g(2.75mol)、トルエン151.3(1.64mol)、無水コハク酸110.1g(1.10mol)、ドデシルベンゼンスルホン酸7.18g(0.022mol)を仕込み、磁気撹拌子で撹拌させオイルバスで還流させた。8時間後、加熱を止め、フラスコを冷却した。得られた反応液に対して中和、水洗を行い、低沸分をロータリーエバポレーターで留去し、得られた濃縮液を減圧蒸留することで目的のコハク酸ジアリルを184.4g得た。得られた化合物を実施例3に用いた。
【0064】
合成例3:アジピン酸ジアリルの合成
500mLのフラスコにアリルアルコール159.7g(2.75mol)、トルエン151.3(1.64mol)、アジピン酸146.1g(1.00mol)、ドデシルベンゼンスルホン酸7.18g(0.022mol)を仕込み、磁気撹拌子で撹拌させオイルバスで還流させた。10時間後、加熱を止め、フラスコを冷却した。得られた反応液に対して中和、水洗を行い、低沸分をロータリーエバポレーターで留去し、得られた濃縮液を減圧蒸留することで目的のアジピン酸ジアリルを181.0g得た。得られた化合物を実施例4に用いた。
【0065】
合成例4:イタコン酸ジアリルの合成
500mLのフラスコにアリルアルコール275.9g(4.75mol)、トルエン261.3(2.83mol)、イタコン酸248.9g(1.90mol)、ドデシルベンゼンスルホン酸12.41g(0.038mol)を仕込み、磁気撹拌子で撹拌させオイルバスで還流させた。30時間後、加熱を止め、フラスコを冷却した。得られた反応液に対して中和、水洗を行い、低沸分をロータリーエバポレーターで留去し、得られた濃縮液を減圧蒸留することで目的のイタコン酸ジアリルを145g得た。得られた化合物を実施例5に用いた。
【0066】
合成例5:1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルの合成
500mLのフラスコにアリルアルコール150.5g(2.59mol)、トルエン160.5(1.74mol)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物200.0g(1.30mol)、ドデシルベンゼンスルホン酸7.18g(0.022mol)を仕込み、磁気撹拌子で撹拌させオイルバスで還流させた。10時間後、加熱を止め、フラスコを冷却した。得られた反応液に対して中和、水洗を行い、低沸分をロータリーエバポレーターで留去し、得られた濃縮液を減圧蒸留することで目的の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルを124.1g得た。得られた化合物を実施例6に用いた。
【0067】
合成例6:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルの合成
500mLのフラスコにアリルアルコール170.5g(2.93mol)、トルエン150.1(1.63mol)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸241.1g(1.40mol)、ドデシルベンゼンスルホン酸7.18g(0.022mol)を仕込み、磁気撹拌子で撹拌させオイルバスで還流させた。20時間後、加熱を止め、フラスコを冷却した。得られた反応液に対して中和、水洗を行い、低沸分をロータリーエバポレーターで留去し、得られた濃縮液を減圧蒸留することで目的の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルを110.6g得た。得られた化合物を実施例7に用いた。
【0068】
開始剤希釈剤
フタル酸ジアリル:株式会社大阪ソーダ製 ダイソーダップモノマー
【0069】
実施例および比較例に用いたビニルエステル樹脂組成物の成分の組成を表1に示す。表内組成の数値単位は重量部であり、()内数字はビニルエステル樹脂100重量部に対する重量部である。
【表1】
【0070】
ライニング用組成物の調製
表1に示す組成に従い、ビニルエステル樹脂と架橋剤との重量合計が50gとなるように樹脂と架橋剤をそれぞれ秤量し、遊星ミル(クラボウ社製マゼルスターKK250S)を用いて合計5分間混練した。次に、80〜90℃に加温させつつ、ビニルエステル樹脂が架橋剤に溶解するまで、遊星ミルでの撹拌を行った。ビニルエステル樹脂が架橋剤に溶解し、均一になったところで加温、及び撹拌をやめ、室温になるまで冷却した。室温まで冷却させたのち、開始剤希釈剤にて希釈された開始剤を添加し、遊星ミルで30℃以上の熱を持ち過ぎないように撹拌を行い、ライニング用組成物を調製した。
【0071】
粘度測定
得られたライニング用組成物の粘度はE型粘度計BROOKFIELD RV DV2Tを用いてコーン角3°、半径12mm、温度25℃の条件下で回転数1rpmでの粘度を読み取ることにより測定した。結果を表2に示す。
また、ライニング用組成物調製後からの0時間後、18時間後において、25℃で保管した際の粘度を、表3に示す。
【0072】
高温硬化特性試験
外径18mm×高さ165mmの試験管(型番:P−18SM(日電理化硝子社製))に、底部から7.62cmの位置までライニング用組成物を注ぎ込み、K型熱電対を注ぎ込んだ樹脂の高さの中心部(底部より3.81cm)のところに合わせた。続いて、65.5℃に加温させたオイルバス中に注ぎこんだ樹脂の液面がオイルバスの液面の1cm下になるように、試験管の高さを合わせ、ゲル化時間(60.0℃〜71.1℃までの時間)、硬化時間(60.0℃〜最高到達温度までの時間)、最高到達温度を記録した。測定結果を表2に示す。
【0073】
引張弾性率測定
縦×横×厚みが5mm×22mm×1mmのライニング用組成物の硬化物試験片を作製してこれをJIS K 7161を参考にして引張試験した時に得られた応力−ひずみ曲線の傾きから引張弾性率を算出した。試験片は、上記サイズの注型枠を有するポリジメチルシロキサンでできたブロックを準備して、これに上記ライニング用組成物を注入し、80℃8時間恒温オーブン内にて硬化させることにより作製した。引張試験は東洋精機製作所社製ストログラフE3−Lを用いて引張速度20mm/minで測定した。測定結果は表4に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
表2に示すように、脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを用いた実施例1〜7は比較例1と比較して、ライニング用組成物の粘度が低く、ハンドリングに優れる。即ち、ビニルエステル樹脂に対して一般式(1)で示される多官能アリルエステルは、希釈性に優れていることが示唆されており、粘度を下げるために過剰に架橋剤を加えなくてもよく、ライニングした際の硬化物の物性を損なうことがないため、非常に有用である。
なお、比較例1では、ライニング用組成物の粘度が高いため、基材への含浸に手間がかかるおそれがあるのに対し、実施例1〜7では、ライニング用組成物の粘度が低いため、基材への含浸を容易に行うことができる。
【0077】
また、表2に示すように、脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを用いた実施例1〜7は、比較例1と比較してゲル化時間及び最高到達温度までの時間(硬化時間)が短く、反応性に優れる。
【0078】
更に、表2に示すように、実施例2では最高到達温度が高く、発生した熱量で加速度的に反応が進みやすいことが示唆され、反応に関与する架橋剤が増えるため、未反応架橋剤の残存率を低下し、良好な硬化物の物性が得られることが示唆される。
【0079】
表3に示すように、脂肪族多官能アリルエステル及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを用いた実施例1〜7は、比較例1と比較して粘度変化量が少なく、保存安定性に優れる。
【0080】
【表4】
表4に示すように、脂肪族多官能アリルエステル、及び脂環式多官能アリルエステルから選択される多官能アリルエステルを用いた実施例1〜7は、比較例1と比較して、引張弾性率が高い値を示しており、ライニング構造材料として優れる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
下水道管、上水道管、農業用水管、ガス管等の埋設管等の種々の既設管の内周面を更生する際に、本発明のライニング材用組成物は有用である。