(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
イムノクロマト法とは、検出対象物質と特異的に結合する抗体が固定化された多孔質支持体の一端から、生体試料が毛細管現象によって多孔質支持体内を移動しながら展開し、その過程で標識された検出対象物質と抗体が免疫反応によって結合することによって、時間経過に伴って集積し、局所的に発色することで生体試料中の検出対象物質の有無を判定する免疫測定法である。
【0003】
イムノクロマト法の利点としては、操作が簡便であることや目視判定が可能であること等が挙げられる。これらの利点を利用した妊娠検査薬やインフルエンザ診断薬等の体外診断薬が世界的に普及しており、POCT(Point Of Care Testing)として注目を集めている(特許文献1)。
【0004】
POCTとは医療従事者が被験者の傍らで行う臨床検査のことをいう。POCTは大規模病院の中央検査室等で行う臨床検査とは異なり、その場で瞬時に検査結果が得られることから医療現場でニーズが高まっている。
【0005】
従来のイムノクロマト法は、目視判定(定性評価)が一般的であったが近年、発色強度を測定するクロマトリーダー等の装置を利用することで、生体試料中に含まれる検出対象物質の濃度を定量化する技術が開発されつつある。
【0006】
前記定量化の手法としては、サンドイッチ法が代表的である。サンドイッチ法では検出対象物質におけるエピトープの異なる2種類の抗体を利用する。第一の抗体は、金コロイド、着色ラテックス、蛍光粒子等の検出粒子と感作した検出試薬として使用する。第二の抗体は、多孔質支持体の一端に固定した捕捉抗体としてテストラインの測定に使用する。加えて、検出抗体と特異的に結合する抗体を多孔質支持体の他端に固定化しコントロールラインの測定に使用する。生体試料中に含まれる検出対象物質は、多孔質支持体の一端から展開し、検出抗体と免疫複合体を形成しながら移動し、テストライン上で捕捉抗体と接触して捕捉され発色する。検出対象物質と免疫複合体を形成しなかった遊離の検出試薬は、テストライン上を通過し、コントロールラインの抗体に捕捉され発色する。これらの発色強度をクロマトリーダー等の装置を利用することで検出対象物質の濃度を定量することができる。
【0007】
従来のイムノクロマト法では、テストラインとコントロールラインを検出する際に共通の検出試薬を使用していたので、検出対象物質の濃度に影響を受けてコントロールラインの発色強度が変化する問題があった。生体試料中に高濃度の検出対象物質が存在した場合、多量の検出粒子が検出対象物質と免疫複合体を形成し、上流側のテストラインで捕捉されテストラインの発色強度は高くなる。一方で、遊離の検出試薬は少量になるのでコントロールラインの発色強度は低くなるといった問題があった。生体試料中に検出対象物質が低濃度に存在した場合、検出対象物質と免疫複合体を形成した検出粒子が少量になるため、遊離の検出粒子がコントロールラインで多量に捕捉された結果、コントロールラインの発色強度は高くなるといった問題があった。
【0008】
イムノクロマト法の定量化においては、コントロールラインは検出試薬の多孔質支持体への流入量を測定するために使用する場合が有るため、一定量の検出試薬が多孔質支持体に展開した場合、発色強度は常に一定であることが望まれる。前記のように検出対象物質の濃度に影響を受けてコントロールラインの発色強度が変化すると測定精度に大きな影響を及ぼすことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記の問題点に鑑みて、検出対象物質の濃度に影響を受けない検出試薬としてコントロールライン検出試薬を提供することにより、従来よりも高精度なイムノクロマト分析方法、当該分析方法を用いたイムノクロマト試験片およびキット、キットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、コントロールラインを検出するための検出試薬として、コントロールライン検出試薬を含む検出試薬を使用することで、生体試料中の検出対象物質の濃度の影響を受けず、コントロールラインの発色強度を安定化できることを見出した。本発明者は、さらにこの知見を基に、コントロールライン検出試薬を含むイムノクロマト試験片、当該試験片の製造方法、当該イムノクロマト試験片を使用した生体試料中の検出対象物質の定量法などの発明を完成させた。
【0012】
すなわち代表的な本願発明は以下の通りである。
(1)生体試料中の検出対象物質を定量するためのイムノクロマト試験片であって、
a)前記検出対象物質と特異的に結合する検出試薬及びコントロールライン検出試薬が含浸されたコンジュゲーションパッド、および
b)上流側に検出対象物質を捕捉するための抗体が固定化されており、かつ下流側にコントロールライン検出試薬を特異的に捕捉するための抗体が固定化されている多孔性メンブレンパッド
を有することを特徴とするイムノクロマト試験片。
(2)前記コントロールライン検出試薬は、ビオチン標識タンパク質が結合した検出粒子を含むことを特徴とする(1)に記載のイムノクロマト試験片。
(3)前記タンパク質は、微生物由来または動物由来のタンパク質であること特徴とする(2)に記載のイムノクロマト試験片。
(4)前記微生物由来のタンパク質は、Blocking Peptide Fragmentであることを特徴とする(3)に記載のイムノクロマト試験片。
(5)前記動物由来のタンパク質は、ウシ血清アルブミンまたはカゼインであることを特徴とする(3)に記載のイムノクロマト試験片。
(6)前記コントロールライン検出試薬を特異的に捕捉するための抗体は、抗ビオチン抗体であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のイムノクロマト試験片。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のイムノクロマト試験片を用いる、生体試料中の検出対象物質の定量方法。
(8)(1)〜(6)のいずれかに記載のイムノクロマト試験片、検体希釈液および分析装置を含むイムノクロマト分析キット。
(9)(1)〜(6)のいずれかに記載のイムノクロマト試験片の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のイムノクロマト試験片によれば、生体試料中の検出対象物質の濃度に依存せず、コントロールラインの発色強度を安定化することができるため、測定精度の高いイムノクロマト試験片を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のイムノクロマト試験片の一つの実施形態を説明する。本発明の実施形態としては、検出対象物質と特異的に結合する検出試薬とコントロールライン検出試薬を含むイムノクロマト試験片である。
【0016】
(コントロールライン検出試薬)
本発明で用いるコントロールライン検出試薬は、ビオチン標識タンパク質が結合した検出粒子である。ビオチンの標識方法は特に制限されないが、N−ヒドロキシスクシンイミド法で結合する方法が例示される。検出粒子としては特に制限されないが、金コロイド、ラテックス粒子、蛍光粒子などを例示することができる。ビオチン標識タンパク質と検出粒子の結合方法としては特に制限されないが、疎水結合による物理吸着、または共有結合を介した結合方法が例示される。
【0017】
(タンパク質)
前記ビオチン標識タンパク質に用いるタンパク質の種類としては特に制限されないが、微生物由来タンパク質や動物由来タンパク質などが好ましい。より好ましくは微生物由来タンパク質としては、Blocking Peptide Fragment、動物由来タンパク質としてはウシ血清アルブミンまたはカゼインが好ましい。これらのタンパク質は市販されているものがあればそれを用いても良いし、別途公知の方法で製造しても良い。分子サイズも特に制限されないが、平均分子量で100kDa以下が好ましい。一般的にタンパク質の分子サイズが小さいほど検出粒子1粒子に対するタンパク質の結合量は増加するので、感度などの性能が高くなる。
【0018】
(検出粒子)
前記検出粒子の種類としては特に制限されないが、発色粒子や蛍光粒子を用いることができる。発色粒子としては、金属粒子、ラテックス粒子などを例示することができる。金属粒子としては、金コロイド、銀コロイド、白金コロイドなどを例示することができる。金属粒子の粒径は、特に制限されないが1〜100nmのものが好ましい。より好ましくは20〜80nm、さらに好ましくは40〜60nmである。ラテックス粒子としては、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、アクリル酸重合体などの材質からなるものを例示することができる。ラテックス粒子の粒径は、特に制限されないが25〜500nmが好ましい。より好ましくは50〜250nm、さらに好ましくは80〜200nmである。蛍光粒子としては、特に制限されないが、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルトルエン、シリカなどの材質からなるものを例示することができる。蛍光色素としては、特に制限されないがFITC(フルオレセインイソチオシアネート)、ローダミンB誘導体、ヒドロキシクマリンなどを例示することができる。これらの中でも、汎用性が高く、視認性に優れた金コロイドやラテックス粒子を用いることが好ましい。
【0019】
(N−ヒドロキシスクシンイミド法)
前記ビオチン標識タンパク質のビオチンの標識方法は特に限定されないが、N−ヒドロキシスクシンイミド法を例示できる。N−ヒドロキシスクシンイミド法を用いることでビオチンのカルボキシル基をN−ヒドロキシアミン系化合物と脱水縮合剤存在下で縮合反応し、選択的に活性化し、タンパク質のアミノ基とアミド結合を介して標識することができる。
【0020】
(N−ヒドロキシアミン系化合物)
前記縮合反応に使用するN−ヒドロキシアミン系化合物は、特に制限されないが、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシノルボルネン−2,3−ジカルボン酸イミド、2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸エチルエステル、2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸アミド、N−ヒドロキシピペリジン、N−ヒドロキシフタルイミド、N−ヒドロキシイミダゾール、N−ヒドロキシマレイミド等が挙げられる。これら化合物を2種以上用いてもよい。中でも、N−ヒドロキシスクシンイミド(以下、NHSと表記する場合がある)が、比較的安価で、入手し易いことやペプチド合成分野等で実績があることから、より好適である。
【0021】
(脱水縮合剤)
前記縮合反応に使用する脱水縮合剤としては、特に制限されないが、例えば1−エチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩、1−シクロヘキシル−(2−モルホニル−4−エチル)−カルボジイミド・メソp−トルエンスルホネート等が挙げられる。中でも1−エチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(以下、EDC・HClと表記する場合がある)がペプチド合成分野等で汎用的な水溶性縮合剤として実績があることから、より好適である。
【0022】
(ビオチンの導入量)
前記ビオチン標識タンパク質におけるビオチンの導入量は、タンパク質とビオチンのモル比を調整することで制御することができる。感度などの性能を高めるために、ビオチンの導入量は多い方が望ましい。より具体的には、タンパク質のモル数に対してビオチンのモル数が、1.0モル倍以上であることが好ましく、5.0モル倍以上であることがより好ましく、10.0モル倍以上であることがさらに好ましい。前記モル比は一例であるためタンパク質の種類や現実の感度に応じて適宜増減しても良い。
【0023】
(ビオチン標識タンパク質と検出粒子の結合)
前記ビオチン標識タンパク質と検出粒子の結合方法としては、特に制限されないが、疎水結合による物理吸着、または共有結合を介した結合方法が例示できる。疎水結合においてはビオチン標識タンパク質と検出粒子の表面層で直接的に結合するので、ビオチン標識タンパク質の等電点付近のpHで処理することが好ましい。共有結合においては、検出粒子表面の官能基によって結合方法は異なるが、一例を挙げると検出粒子の表面に存在する官能基がアミノ基の場合は、前述したN−ヒドロキシスクシンイミド法を用いて結合することができる。
【0024】
反応温度は、特に限定されない。好ましい下限は10℃、より好ましくは20℃以上である。好ましい上限は50℃、より好ましくは40℃以下である。反応時間は反応温度によって異なるが、好ましくは1時間以上24時間以下、より好ましくは2時間以上12時間以下である。
【0025】
反応液中に含まれる未反応のN−ヒドロキシアミン系化合物や脱水縮合剤は濾過や遠心分離などにより水溶媒から容易に分離することができる。
【0026】
(検出対象物質と特異的に結合する検出試薬)
前記検出対象物質と特異的に結合する検出試薬は、生体試料中の検出対象物質と結合できる抗体(以下、検出抗体と表記する場合がある)が検出粒子と結合したものである。検出抗体は、検出対象物質の種類によって異なるが、市販されているものがあればそれを用いても良いし、別途公知の方法で製造しても良い。分子サイズも特に制限されない。
【0027】
(検出対象物質を捕捉するための抗体)
検出対象物質を捕捉するための抗体(以下、捕捉抗体と表記する場合がある)は、市販されているものがあればそれを用いても良いし、別途公知の方法で製造しても良い。検出対象物質に対する捕捉抗体の認識部位は検出抗体とは異なる部位を認識する抗体を用いる方が好ましい。分子サイズも特に制限されない。ヒト絨毛性ゴナドトロピンを測定するための捕捉抗体としては、例えば、Anti hCG_1646157(V−24),Human(Rabbit)(Santa Cruz Biotechnology, Inc.社製)、Anti hCG / Chorionic Gonadotropin,Human(Mouse)(LifeSpan Biosciences, Inc.社製)、Anti CGB / hCG β ,Human(Mouse)(LifeSpan Biosciences, Inc.社製)、Anti Chorionic Gonadotropin,Human(Rabbit)(EY Laboratories, Inc.社製)、Anti β−HCG,Human(Mouse)(Boster Immunoleader社製)、Anti CG α (α HCG),Human(Rabbit)(R&D Systems Inc.社製)等が挙げられる。
【0028】
(コントロールライン検出試薬を捕捉する抗体)
前記コントロールライン検出試薬を捕捉する抗体は、具体的にはビオチンを捕捉する抗体である(以下、抗ビオチン抗体と表記する場合がある)。抗ビオチン抗体としては市販されているものがあればそれを用いても良いし、別途公知の方法で製造しても良い。分子サイズも特に制限されない。抗ビオチン抗体としては、例えば、Anti−Biotin antibody(GENETEX,inc.社製)、Anti−Biotin, Goat−Poly(Bethyl Laboratories,Inc.社製)、IgG Fraction Monoclonal Mouse Anti−Biotin(岩井化学薬品株式会社製)等が挙げられる。
【0029】
(多孔性メンブレンパッド)
前記捕捉抗体を多孔性メンブレンパッドの上流側(テストライン)に、抗ビオチン抗体を下流側(コントロールライン)に固定化することで、イムノクロマトグラフ等で使用可能な多孔性メンブレンパッドを作製することができる。これらの抗体は、イムノクロマトグラフ等で一般的に使用される多孔性メンブレンパッドに容易に固定化することができる。多孔性メンブレンパッドの材質としては、特に限定されないが、セルロース、セルロース誘導体、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ナイロンが挙げられる。これらの材質で構成された膜、布帛、繊維状又は不織布状マトリックス等が好適である。好ましくはセルロース誘導体の膜が用いられ、より好ましくはニトロセルロース膜が用いられる。
【0030】
続いて、本発明のイムノクロマト試験片の一例を図面を参照して説明する。
図1において、1は多孔性メンブレンパッド、2はサンプルパッド、3はコンジュゲーションパッド、4は吸収パッド、5は捕捉抗体の固定化部位(テストライン)、6は抗ビオチン抗体の固定化部位(コントロールライン)、7は粘着シートを示す。
【0031】
図1の例では、多孔性メンブレンパッドは、幅4mm、長さ60mmの細長い試験片状のニトロセルロース製メンブレンで作製されている。イムノクロマト試験片のコンジュゲーションパッドには検出対象物質と特異的に結合する検出試薬とコントロールライン検出試薬が含浸されている。ニトロセルロースメンブレンのクロマト展開始点側の末端から約10mmの位置に捕捉抗体が固定化されたテストライン5が形成される。約15mmの位置に抗ビオチン抗体が固定化されたコントロールライン6が形成される。
【0032】
図1に示すようなイムノクロマト試験片は、多孔性メンブレンパッド1を粘着シート7の中程の位置に貼着し、サンプルパッド2とコンジュゲーションパッド3を多孔性メンブレンパッド1の末端の上に一部重ね合わせて連接するとともに、吸収パッド4を多孔性メンブレンパッド1の逆側の末端上に重ね合わせて連接することで作製することができる。
【0033】
サンプルパッド2としては、生体試料を速やかに吸収、展開できる材質のものであれば良く、特に制限されないが、セルロース製の濾紙、不織布や、多孔質合成樹脂製のポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。この中でも濾紙が好適である。
【0034】
コンジュゲーションパッド3としては、検出試薬を乾燥状態で保持することができ、生体試料の展開と共に検出試薬を速やかに放出することができる材質のものであれば良く、特に制限されないが、ガラスファイバー、セルロース製の濾紙、ポリエステル製の不織布などが挙げられる。このなかでもガラスファイバーが好適である。
【0035】
吸収パッド4としては、生体試料を速やかに吸収、保持できる材質のものであればよく、特に限定されないが、セルロース製の濾紙、不織布や、多孔質合成樹脂製のポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。この中でもセルロース製の濾紙が好適である。
【0036】
さらに、イムノクロマト試験片は、サンプルパッド2、テストライン5とコントロールライン6の上方にそれぞれ生体試料を注入するための開口部、捕捉された検出粒子量を定量するための開口部を有する適当なプラスチック製のケースに収容しても良い。
【0037】
(イムノクロマト試験片の製造方法)
本発明のイムノクロマト試験片の製造方法は特に限定されない。例えば、コンジュゲーションパッドにおいては、帯状のガラスファイバーに一定量の検出試薬を均一に塗布した後、恒温槽内で適当な温度で一定時間乾燥することで作製することが出来る。捕捉抗体と抗ビオチン抗体は多孔性メンブレンパッド上にそれぞれ一定量をライン状に塗布すればよい。メンブレンパッド上に塗布する方法として、特に限定されないが、市販のイムノクロマトディスペンサーを使用することができる。捕捉抗体と抗ビオチン抗体の塗布量は特に限定されないが、好ましくはライン長10cm辺り10μl以下、より好ましくは8μl以下、さらに好ましくは6μl以下である。下限は、好ましくは4μl以上である。捕捉抗体と抗ビオチン抗体の濃度としては特に限定されないが、好ましくは2.0〜0.1mg/ml、より好ましくは1.8〜0.2mg/ml、さらに好ましくは1.6〜0.3mg/mlである。
【0038】
メンブレンパッド上に塗布した捕捉抗体と抗ビオチン抗体は、乾燥するのみで極めて容易に固定化することが出来る。乾燥温度は特に限定されないが、好ましくは20℃〜80℃、より好ましくは、30〜70℃、さらに好ましくは40〜60℃である。乾燥時間は乾燥温度によって異なるが、通常は5〜120分、好ましくは10〜60分である。
【0039】
本発明において、イムノクロマト分析キットは、生体試料の前処理や希釈を目的とした検体希釈液、イムノクロマト試験片及び分析装置を含む。
【0040】
(イムノクロマト試験片を使用した検出対象物質の測定方法)
上記のようなイムノクロマト試験片を用いて測定を行う方法は特に限定されない。例えば、以下の方法が例示される。まず、生体試料を必要に応じて適当な展開溶媒と混合して展開可能な混合液を得た後、当該混合液をサンプルパッド2上に注入(滴下)する。当該混合液は、サンプルパッド2を通過してコンジュゲーションパッド3に展開する。生体試料はコンジュゲーションパッド3に含浸された検出試薬とコントロールライン試薬を溶解しながら、検出対象物質と検出試薬が免疫複合体を形成し多孔性メンブレンパッドに展開する。その後、毛細管現象によって吸収パッド4側に流れる。前記混合液が多孔性メンブレンパッド上のテストライン5に到達すると、前記免疫複合体は、捕捉抗体で捕捉され集積し、テストライン5が発色する。コントロールライン検出試薬を含む展開溶媒はテストライン5を通過してコントロールライン6に到達する。ここでコントロールライン検出試薬は抗ビオチン抗体で捕捉され集積し、コントロールライン6が発色する。他の展開溶媒は最終的に吸収パッドで吸収される。テストライン5とコントロールライン6の発色強度をイムノクロマトリーダー等を使用して測定することで検出対象物質の濃度を測定することができる。
【0041】
(コントロールラインの発色強度)
コントロールラインの発色強度は特に制限されないが、目視あるいはイムノクロマトリーダーで検出することが出来る範囲の発色強度であれば良い。好ましくは10mAbs〜500mAbs、より好ましくは50mAbs〜450mAbs、さらに好ましくは100mAbs〜400mAbsである。また、検出対象物質の濃度によらず発色強度が一定であることが好ましく、具体的には発色強度の変動係数(Coefficient of variation)が好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下を示す。
なお、変動係数(Coefficient of variation)は、下記式1および式2により求めることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0045】
[実施例1]
(hCG検出試薬の調製)
125μlの金コロイド液(OD
520=12)(WRGH1、株式会社ワインレッドケミカル社製)に50μlの10mM Tris−HCl pH9.2を加え、ボルテックスで撹拌した。市販の抗hCGモノクローナル抗体(製品名:Anti CGB / hCG β,Human (Mouse)、品番:LS−C196902−100、LifeSpan Biosciences, Inc.社製)を10mM Tris−HClで0.1mg/mlに調製した。100μlの抗hCGモノクローナル抗体溶液を金コロイド液に加え、ボルテックスで撹拌した後、室温で15分間静置した。200μlの0.3wt%Blocking Peptide Fragment(東洋紡株式会社製)(以下、BPFと表記する場合がある)+1.0wt%PEG20000水溶液(Santa Cruz Biotechnology Inc製)(以下、PEGと表記する場合がある)を加え、ボルテックスで撹拌した後、15分間室温で静置した。その後、7000rpmで10分間遠心分離し、上清を除去した。200μlの0.3wt%BPF+1.0wt%PEG水溶液を加え、ボルテックスで撹拌した後、15分間室温で静置した。7000rpmで10分間遠心分離し、上清を除去した。1mlの0.3wt%BPF+5.0wt%D(+)−トレハロース(ナカライテスク株式会社製)水溶液を加えボルテックスで撹拌した後、15分間室温で静置した。
【0046】
(コントロールライン検出試薬の調製)
3.15mgのD−ビオチン(ナカライテスク株式会社製)を72μlの蒸留水で溶解した。また、10mgの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(ナカライテスク株式会社製)と10mgのN−ヒドロキシスクシンイミド(ナカライテスク株式会社製)を100μlの蒸留水に溶解した。これにD−ビオチン溶液を加え、室温で1時間緩やかに攪拌した。前記溶液に80μlの3wt%BPF溶液を加え30分間室温で静置し、ビオチン標識BPF溶液を調製した。次に、50μlの金コロイド液(OD
520=12)に450μlの10mM Tris−HCl pH9.2を加え、ボルテックスで撹拌した。さらに、15μlのビオチン標識BPF溶液を金コロイド液に加え、ボルテックスで撹拌した後、15分間室温で静置した。200μlの0.3wt%BPF+1.0wt%PEG20000水溶液(Santa Cruz Biotechnology Inc製)(以下、PEGと表記する場合がある)を加え、ボルテックスで撹拌した後、15分間室温で静置した。その後、7000rpmで10分間遠心分離し、上清を除去した。200μlの0.3wt%BSA+1.0wt%PEG水溶液を加え、ボルテックスで撹拌した後、15分間室温で静置した。7000rpmで10分間遠心分離し、上清を除去した。1mlの0.3wt%BPF+5wt%D(+)−トレハロース(ナカライテスク株式会社製)水溶液を加えボルテックスで撹拌した後、15分間室温で静置した。
【0047】
(hCG検出用多孔性メンブレンパッドの調製)
25mm×150mmのニトロセルロースメンブレン(商品名:Hi−Flow PlusタイプHF120(メルクミリポア株式会社製))の一端(上流側)から約10mmの位置にライン幅約1mmのテストラインとして、0.5mg/mlの抗hCGモノクローナル抗体(製品名:Anti Chorionic Gonadotropin,Human(Rabbit)、品番:AT−2601−2、EY Laboratories,Inc.社製)溶液(50mM KH
2PO
4,pH7.0+5wt%スクロース)をイムノクロマトディスペンサーを用いて約1.0μl/cmの塗布量で塗布した。次に、ニトロセルロースメンブレンの一端(上流側)から約15mmの位置にライン幅約1mmのコントロールラインとして、1.0mg/mlの抗ビオチンモノクローナル抗体(製品名:Anti−Biotin antibody、品番:GTX44344、GENETEX,inc.社製)溶液(50mM KH
2PO
4,pH7.0+5wt%スクロース)をイムノクロマトディスペンサーを用いて約1.0μl/cmの塗布量で塗布した。その後50℃で30分乾燥した。
【0048】
(hCG測定用コンジュゲーションパッドの作製)
10mm×150mmのコンジュゲーションパッド(商品名:シュアウィック(メルクミリポア株式会社製))に前記hCG検出試薬とコントロールライン検出試薬の混合液(混合比1:1)1.0mlを均一に塗布した。その後、デシケーター内で一晩、室温で減圧乾燥し、hCG検出試薬とコントロールライン検出試薬を含浸したhCG測定用コンジュゲーションパッドを作製した。
【0049】
(hCG測定用試験片の作製)
hCG測定用試験片はイムノクロマトグラフで一般的に使用されるスライド構成で作製した。具体的にはサンプルパッド(商品名:シュアウィック(メルクミリポア株式会社製))、コンジュゲーションパッド(商品名:シュアウィック(メルクミリポア株式会社製))、ニトロセルロースメンブレン(商品名:Hi−Flow PlusタイプHF120(メルクミリポア株式会社製))、吸収パッド(商品名:シュアウィック(メルクミリポア株式会社製))を直列連結し作製した。次に横幅約4mm、縦幅約60mmの試験片状に裁断機を用いてカットした。
【0050】
(hCG試料の調製)
市販のhCG抗原を50mMKH2PO4,pH7.2+1.0wt%BSA+0.1wt%NaN
3で希釈し、1IU/L、10IU/L、100IU/L、1,000IU/Lの各hCG試料を調製した。
【0051】
(hCGの測定)
作製したhCG測定用試験片を水平な台に設置した。次に、調製した4水準のhCG試料を40μlピペットで取り、サンプルパッドに滴下した。検体を滴下してから10分後に撮影した写真を
図2に示す。テストラインはhCG濃度に依存して発色強度が高くなった。コントロールラインはhCG濃度に影響されず、発色強度の変動係数は2.15%であった。
【0052】
(hCGの定量)
hCG測定用試験片の発色強度をイムノクロマトリーダーを用いて測定した。イムノクロマトリーダーはC10060−10(浜松ホトニクス社製)を使用した。結果を
図3に示す。テストラインはhCG濃度に依存して直線的な反射吸光度を確認することができた。コントロールラインはhCG濃度に影響されず反射吸光度は約300mAbsであることを確認できた。
【0053】
[比較例1]
(hCG検出用多孔性メンブレンパッドの調製)
実施例1と同様の方法でコントロールラインとして、1.0mg/mlの抗IgGポリクローナル抗体溶液(50mM KH2PO4,pH7.2)をディスペンサーを用いて約1.0μl/cmの塗布量で塗布した。その後50℃で30分乾燥しhCG検出用多孔性メンブレンパッドを作製した。
【0054】
(hCG測定用コンジュゲーションパッドの作製)
実施例1と同様の方法で検出試薬としてhCG検出試薬のみを均一に塗布し(すなわち、コントロールライン検出試薬の塗布なし)、hCG測定用コンジュゲーションパッドを作製した。
【0055】
(hCG試験片を用いたhCGの測定)
前記調製した多孔性メンブレンパッドおよびコンジュゲーションパッドを用いて作製したhCG測定用試験片を用いて実施例1と同様の方法でhCGを測定した。検体を滴下してから10分後に撮影した写真を
図4に示す。テストラインはhCG濃度に依存して発色強度が高くなった。コントロールラインはhCG濃度の増加に伴って発色強度は低下した。
【0056】
(hCG試験片を用いたhCGの定量)
hCG測定用試験片の発色強度をイムノクロマトリーダーを用いて実施例1と同様の方法で測定した。結果を
図5に示す。テストラインはhCG濃度に依存して発色強度が高くなった。コントロールラインはhCG濃度の増加に伴って反射吸光度は約200mAbsから80mAbsまで低下し、発色強度の変動係数は30.3%であった。