特許第6741152号(P6741152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6741152電子写真感光体、画像形成装置及びプロセスカートリッジ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6741152
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】電子写真感光体、画像形成装置及びプロセスカートリッジ
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/05 20060101AFI20200806BHJP
   G03G 5/06 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   G03G5/05 101
   G03G5/06 319
   G03G5/06 317
   G03G5/06 314B
【請求項の数】4
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2019-515114(P2019-515114)
(86)(22)【出願日】2018年2月20日
(86)【国際出願番号】JP2018005877
(87)【国際公開番号】WO2018198496
(87)【国際公開日】20181101
【審査請求日】2019年10月7日
(31)【優先権主張番号】特願2017-89614(P2017-89614)
(32)【優先日】2017年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】尾形 明彦
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 誠紀
(72)【発明者】
【氏名】大坪 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】東 潤
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/072972(WO,A1)
【文献】 特開2014−146001(JP,A)
【文献】 特開2014−146005(JP,A)
【文献】 特開2007−298952(JP,A)
【文献】 特開2011−164597(JP,A)
【文献】 特開2015−087504(JP,A)
【文献】 特開2017−015870(JP,A)
【文献】 特開2018−025655(JP,A)
【文献】 特開2018−028050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/05−5/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と感光層とを備える電子写真感光体であって、
前記感光層は、電荷発生層と電荷輸送層とを有し、
前記電荷発生層は、電荷発生剤を含み、
前記電荷輸送層は、正孔輸送剤と、バインダー樹脂と、電子アクセプター化合物とを含み、
前記バインダー樹脂は、下記化学式(R−1)、化学式(R−2)、化学式(R−3)、化学式(R−4)、化学式(R−5)、化学式(R−6)、化学式(R−7)、又は化学式(R−8)で表されるポリアリレート樹脂を含み、
前記電子アクセプター化合物は、下記化学式(E1−1)、化学式(E2−1)、化学式(E3−1)、又は化学式(E4−1)で表される化合物を含む、電子写真感光体。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項2】
前記電子アクセプター化合物の含有量は、前記バインダー樹脂100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電させる帯電部と、
帯電された前記像担持体の前記表面を露光して、前記像担持体の前記表面に静電潜像を形成する露光部と、
前記静電潜像をトナー像として現像する現像部と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写する転写部と
を備える画像形成装置であって、
前記像担持体は、請求項1に記載の電子写真感光体である、画像形成装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電子写真感光体を備える、プロセスカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、画像形成装置及びプロセスカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、像担持体として電子写真方式の画像形成装置(例えば、プリンター及び複合機)において用いられる。電子写真感光体は、感光層を備える。電子写真感光体としては、例えば、単層型電子写真感光体、及び積層型電子写真感光体が挙げられる。単層型電子写真感光体は、電荷発生の機能と、電荷輸送の機能とを有する感光層を備える。積層型電子写真感光体は、電荷発生の機能を有する電荷発生層と、電荷輸送の機能を有する電荷輸送層とを含む感光層を備える。
【0003】
特許文献1には、下記化学式(R−A)で表されるポリアリレート樹脂を含有する電子写真感光体が記載されている。
【0004】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−288845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の電子写真感光体は、耐フィルミング性が十分ではなかった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐フィルミング性に優れる電子写真感光体を提供することである。また、本発明の別の目的は、画像不良の発生を抑制できる画像形成装置及びプロセスカートリッジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子写真感光体は、導電性基体と感光層とを備える。前記感光層は、電荷発生層と電荷輸送層とを有する。前記電荷発生層は、電荷発生剤を含む。前記電荷輸送層は、正孔輸送剤と、バインダー樹脂と、電子アクセプター化合物とを含む。前記バインダー樹脂は、下記一般式(1)で表される繰返し単位を有するポリアリレート樹脂を含む。前記電子アクセプター化合物は、下記一般式(E1)、一般式(E2)、一般式(E3)、又は一般式(E4)で表される化合物を含む。
【0009】
【化2】
【0010】
前記一般式(1)中、sは、1以上100以下の数を表す。uは、0以上99以下の数を表す。s+u=100である。X及びYは、各々独立に、下記化学式(1A)、化学式(1B)、化学式(1C)、化学式(1D)、化学式(1E)、又は化学式(1F)で表される二価の基である。
【0011】
【化3】
【0012】
【化4】
【0013】
前記一般式(E1)中、R1及びR2は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、又は水素原子を表す。R3は、ハロゲン原子又は水素原子を表す。
【0014】
【化5】
【0015】
前記一般式(E2)中、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、ハロゲン原子を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、炭素原子数3以上14以下の複素環基、炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、炭素原子数1以上7以下のアシル基、炭素原子数2以上6以下のアルケニル基、炭素原子数2以上6以下のアルキニル基、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、又はカルボキシル基を表す。G1は、酸素原子、硫黄原子、又は=C(CN)2を表す。G2は、酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0016】
【化6】
【0017】
前記一般式(E3)中、R10は、ハロゲン原子を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、又は炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基を表す。
【0018】
【化7】
【0019】
前記一般式(E4)中、R11、R12、R13及びR14は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基若しくは炭素原子数2以上7以下のアルコキシメチル基を有してもよいフェニル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、水素原子、又はハロゲン原子を表す。
【0020】
本発明の画像形成装置は、像担持体と、帯電部と、露光部と、現像部と、転写部とを備える。前記像担持体は、上述の電子写真感光体である。前記帯電部は、前記像担持体の表面を帯電させる。前記露光部は、帯電された前記像担持体の前記表面を露光して、前記像担持体の前記表面に静電潜像を形成する。前記現像部は、前記静電潜像をトナー像として現像する。前記転写部は、前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写する。
【0021】
本発明のプロセスカートリッジは、上述の電子写真感光体を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電子写真感光体は、耐フィルミング性を向上させることができる。また、本発明の画像形成装置及びプロセスカートリッジは、画像不良の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一実施形態に係る電子写真感光体の構造の一例を示す部分断面図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る電子写真感光体の構造の一例を示す部分断面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る電子写真感光体の構造の一例を示す部分断面図である。
図4】本発明の第二実施形態に係る画像形成装置の一例を示す図である。
図5】引っ掻き装置の構成の一例を示す図である。
図6図5のIV−IV線における断面図である。
図7図5に示す固定台と、引っ掻き針と、電子写真感光体との側面図である。
図8】感光層の表面に形成された引っ掻き傷を示す図である。
図9】化学式(R−3)で表されるポリアリレート樹脂の1H−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。なお、本明細書において、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
【0025】
以下、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数6以上14以下のアリール基、炭素原子数3以上14以下の複素環基、炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、炭素原子数1以上7以下のアシル基、炭素原子数2以上6以下のアルケニル基、炭素原子数2以上6以下のアルキニル基、炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基、炭素原子数2以上7以下のアルコキシメチル基、及びハロゲン原子は、各々、次の意味である。
【0026】
炭素原子数1以上6以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、及びヘキシル基が挙げられる。
【0027】
炭素原子数6以上14以下のアリール基は、非置換である。炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、例えば、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族単環炭化水素基、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合二環炭化水素基、及び炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合三環炭化水素基が挙げられる。より具体的な炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、及びフェナントリル基が挙げられる。
【0028】
炭素原子数3以上14以下の複素環基は、非置換であり、芳香族化合物であっても、脂肪族化合物であってもよい。炭素原子数3以上14以下の複素環基としては、例えば、1つ以上(好ましくは1つ以上3つ以下)のヘテロ原子を含む5員又は6員の単環の複素環基;このような単環同士が縮合した複素環基;このような単環と、5員又は6員の炭化水素環とが縮合した複素環基が挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、硫黄原子及び酸素原子が挙げられる。炭素原子数3以上14以下の複素環基の具体例としては、チオフェニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、イソチアゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサゾリル基、オキソラニル基、チアゾリル基、フラザニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、インドリル基、1H−インダゾリル基、イソインドリル基、クロメニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、プリニル基、プテリジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、4H−キノリジニル基、ナフチリジニル基、ベンゾフラニル基、1,3−ベンゾジオキソリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基及びベンズイミダゾリル基が挙げられる。
【0029】
炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、s−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、及びヘキシルオキシカルボニル基が挙げられる。
【0030】
炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、及びヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0031】
炭素原子数7以上20以下のアラルキル基は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基の水素原子の一つが炭素原子数6以上14以下のアリール基で置換された基である。炭素原子数7以上20以下のアラルキル基としては、例えば、フェニルメチル基(ベンジル基)、2−フェニルエチル基(フェネチル基)、1−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、4−フェニルブチル基、ナフチルメチル基、アントリルメチル基及びフェナントリルメチル基が挙げられる。
【0032】
炭素原子数1以上7以下のアシル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上7以下のアシル基としては、例えば、ホルミル基、メチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、s−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、イソペンチルカルボニル基、ネオペンチルカルボニル基、及びヘキシルカルボニル基が挙げられる。
【0033】
炭素原子数2以上6以下のアルケニル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数2以上6以下のアルケニル基は、例えば、1個以上3個以下の炭素−炭素二重結合を有する。炭素原子数2以上6以下のアルケニル基の例としては、ビニル基(エテニル基)、1−プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ペンタジエニル基、ヘキセニル基、及びヘキサジエニル基が挙げられる。
【0034】
炭素原子数2以上6以下のアルキニル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数2以上6以下のアルキニル基は、例えば、1個以上3個以下の炭素−炭素三重結合を有する。炭素原子数2以上6以下のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、及びヘキシニル基が挙げられる。
【0035】
炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基は、非置換である。炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、及びシクロデシル基が挙げられる。
【0036】
炭素原子数2以上7以下のアルコキシメチル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数2以上7以下のアルコキシメチル基としては、例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基、n−プロポキシメチル基、イソプロポキシメチル基、n−ブトキシメチル基、s−ブトキシメチル基、t−ブトキシメチル基、ペンチルオキシメチル基、及びヘキシルオキシメチル基が挙げられる。
【0037】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
【0038】
また、以下の説明において、「ハロゲン原子を有してもよい」とは、官能基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていてもよいことを意味する。「炭素原子数1以上6以下のアルキル基を有してもよい」及び「炭素原子数2以上7以下のアルコキシメチル基を有してもよい」についても同様である。
【0039】
<第一実施形態:電子写真感光体>
本発明の第一実施形態に係る電子写真感光体(以下、感光体と記載することがある。)の構造を説明する。図1図2及び図3は、第一実施形態の一例である感光体1の構造を示す部分断面図である。図1に示すように、感光体1は、導電性基体2と感光層3とを備える。感光層3は、電荷発生層3aと電荷輸送層3bとを含む。
【0040】
図2に示すように、感光体1は、導電性基体2上に電荷輸送層3bが設けられ、電荷輸送層3b上に電荷発生層3aが設けられてもよい。ただし、一般に電荷輸送層3bの膜厚は、電荷発生層3aの膜厚に比べ厚いため、電荷輸送層3bは、電荷発生層3aに比べ破損し難い。よって、感光体1の耐摩耗性を向上させるためには、図1に示すように、導電性基体2上に電荷発生層3aが設けられ、電荷発生層3a上に電荷輸送層3bが設けられることが好ましい。
【0041】
図3に示すように、感光体1は、導電性基体2と感光層3と中間層4(例えば下引き層)とを備えていてもよい。中間層4は、導電性基体2と感光層3との間に設けられる。また、感光層3上には、保護層(不図示)が設けられていてもよい。
【0042】
電荷発生層3a及び電荷輸送層3bの厚さは、それぞれの層としての機能を十分に発現できる限り、特に限定されない。電荷発生層3aの厚さは、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上3μm以下であることがより好ましい。電荷輸送層3bの厚さは、2μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上50μm以下であることがより好ましい。以上、図1〜3を参照して、感光体1の構造について説明した。
【0043】
以下、本実施形態に係る感光体の要素(導電性基体、感光層、及び中間層)を説明する。更に感光体の製造方法も説明する。
【0044】
[1.導電性基体]
導電性基体は、感光体の導電性基体として用いることができる限り、特に限定されない。導電性基体としては、少なくとも表面部が導電性を有する材料で構成される導電性基体を用いることができる。導電性基体の一例としては、導電性を有する材料(導電性材料)で構成される導電性基体が挙げられる。導電性基体の別の例としては、導電性材料で被覆される導電性基体が挙げられる。導電性材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、及びインジウムが挙げられる。これらの導電性材料のうち、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。二種以上の組合せとしては、例えば、合金(より具体的には、アルミニウム合金、ステンレス鋼、真鍮等)が挙げられる。これらの導電性材料の中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。
【0045】
導電性基体の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて適宜選択することができる。導電性基体の形状としては、例えば、シート状及びドラム状が挙げられる。また、導電性基体の厚みは、導電性基体の形状に応じて、適宜選択することができる。
【0046】
[2.感光層]
〔電荷発生層〕
電荷発生層は、電荷発生剤を含有する。また、電荷発生層は、電荷発生層用バインダー樹脂(以下、ベース樹脂と記載することがある。)、及び各種添加剤を含有してもよい。
【0047】
(電荷発生剤)
電荷発生剤は、感光体用の電荷発生剤である限り、特に限定されない。電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(より具体的には、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコン等)の粉末、ピリリウム顔料、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料及びキナクリドン系顔料が挙げられる。電荷発生剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
フタロシアニン系顔料としては、例えば、下記化学式(C−1)で表される無金属フタロシアニン、及び金属フタロシアニンが挙げられる。金属フタロシアニンとしては、例えば、下記化学式(C−2)で表されるチタニルフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン及びクロロガリウムフタロシアニンが挙げられる。フタロシアニン系顔料は、結晶であってもよく、非結晶であってもよい。フタロシアニン系顔料の結晶形状(例えば、α型、β型、X型、Y型、V型及びII型)については特に限定されず、種々の結晶形状を有するフタロシアニン系顔料が使用される。
【0049】
【化8】
【0050】
【化9】
【0051】
無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、無金属フタロシアニンのX型結晶(以下、X型無金属フタロシアニンと記載することがある。)が挙げられる。チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、チタニルフタロシアニンのα型、β型及びY型結晶(以下、それぞれα型、β型及びY型チタニルフタロシアニンと記載することがある。)が挙げられる。ヒドロキシガリウムフタロシアニンの結晶としては、ヒドロキシガリウムフタロシアニンのV型結晶が挙げられる。
【0052】
例えば、デジタル光学式の画像形成装置(例えば、半導体レーザーのような光源を使用した、レーザービームプリンター及びファクシミリ)には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体を用いることが好ましい。この場合の電荷発生剤としては、700nm以上の波長領域で高い量子収率を有することから、フタロシアニン系顔料が好ましく、無金属フタロシアニン及びチタニルフタロシアニンがより好ましく、X型無金属フタロシアニン及びY型チタニルフタロシアニンが更に好ましい。
【0053】
Y型チタニルフタロシアニンは、CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、例えば、ブラッグ角(2θ±0.2°)の27.2°に主ピークを有する。CuKα特性X線回折スペクトルにおける主ピークとは、ブラッグ角(2θ±0.2°)が3°以上40°以下である範囲において、1番目又は2番目に大きな強度を有するピークである。
【0054】
CuKα特性X線回折スペクトルの測定方法の一例について説明する。試料(チタニルフタロシアニン)をX線回折装置(例えば、株式会社リガク製「RINT(登録商標)1100」)のサンプルホルダーに充填して、X線管球Cu、管電圧40kV、管電流30mA、かつCuKα特性X線の波長1.542Åの条件で、X線回折スペクトルを測定する。測定範囲(2θ)は、例えば3°以上40°以下(スタート角3°、ストップ角40°)であり、走査速度は、例えば10°/分である。
【0055】
電荷発生剤の含有量は、例えば電荷発生層に含有されるベース樹脂100質量部に対して、5質量部以上1000質量部以下であることが好ましく、30質量部以上500質量部以下であることがより好ましい。
【0056】
(ベース樹脂)
ベース樹脂は、電荷発生層用の樹脂である限り、特に限定されない。ベース樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂及びポリエステル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、及びその他の架橋性の熱硬化性樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ−アクリル酸系樹脂(エポキシ化合物のアクリル酸付加物)、及びウレタン−アクリル酸系共重合体(ウレタン化合物のアクリル酸付加物)が挙げられる。ベース樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂が好適に使用される。ベース樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
また、ベース樹脂としては、後述するバインダー樹脂とは異なる樹脂が好ましい。感光体を製造する際、例えば、電荷発生層上に電荷輸送層用塗布液が塗布されることから、電荷発生層が電荷輸送層用塗布液の溶剤に溶解しないことが好ましいためである。
【0058】
〔電荷輸送層〕
電荷輸送層は、正孔輸送剤と、バインダー樹脂と、電子アクセプター化合物とを含む。電荷輸送層は、必要に応じて各種添加剤を含有してもよい。
【0059】
(正孔輸送剤)
正孔輸送剤としては、例えば、含窒素環式化合物、及び縮合多環式化合物が挙げられる。含窒素環式化合物及び縮合多環式化合物としては、例えば、トリフェニルアミン誘導体;ジアミン誘導体(より具体的には、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェニレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルナフチレンジアミン誘導体、ジ(アミノフェニルエテニル)ベンゼン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェナントリレンジアミン誘導体等);オキサジアゾール系化合物(より具体的には、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等);スチリル系化合物(より具体的には、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等);カルバゾール系化合物(より具体的には、ポリビニルカルバゾール等);有機ポリシラン化合物;ピラゾリン系化合物(より具体的には、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等);ヒドラゾン系化合物;インドール系化合物;オキサゾール系化合物;イソオキサゾール系化合物;チアゾール系化合物;チアジアゾール系化合物;イミダゾール系化合物;ピラゾール系化合物;トリアゾール系化合物が挙げられる。これらの正孔輸送剤は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
正孔輸送剤の含有量は、正孔を効率よく輸送する観点から、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
【0061】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、下記一般式(1)で表される繰返し単位を有するポリアリレート樹脂(以下、ポリアリレート樹脂(1)と記載することがある。)を含む。電荷輸送層は、ポリアリレート樹脂(1)の一種又は二種以上を含むことができる。
【0062】
【化10】
【0063】
一般式(1)中、sは、1以上100以下の数を表す。uは、0以上99以下の数を表す。s+u=100である。X及びYは、各々独立に、下記化学式(1A)、化学式(1B)、化学式(1C)、化学式(1D)、化学式(1E)、又は化学式(1F)で表される二価の基である。
【0064】
【化11】
【0065】
一般式(1)中、X及びYの少なくとも一方は、耐フィルミング性をより向上させる観点から、化学式(1A)又は化学式(1E)で表される二価の基であることが好ましく、化学式(1A)で表される二価の基であることがより好ましい。
【0066】
一般式(1)中、s及びuは、耐フィルミング性をより向上させる観点から、各々独立に、30以上70以下の数を表すことが好ましい。X及びYは、同様の観点から、互いに異なることが好ましい。耐フィルミング性を更に向上させる観点から、s及びuが各々独立に30以上70以下の数を表し、X及びYが互いに異なり、かつX及びYの少なくとも一方が化学式(1A)で表される二価の基であることが好ましい。
【0067】
ポリアリレート樹脂(1)は、例えば下記一般式(1−1)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(1−1)と記載することがある。)、及び下記一般式(1−2)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(1−2)と記載することがある。)を有する。
【0068】
【化12】
【0069】
一般式(1−1)中のX及び一般式(1−2)中のYは、それぞれ一般式(1)中のX及びYと同義である。
【0070】
ポリアリレート樹脂(1)は、繰返し単位(1−1)及び(1−2)以外の繰返し単位を有してもよい。ポリアリレート樹脂(1)中の繰返し単位の物質量の合計に対する繰返し単位(1−1)及び(1−2)の物質量の合計の比率(モル分率)は、0.80以上が好ましく、0.90以上がより好ましく、1.00が更に好ましい。
【0071】
一般式(1)中のuが0でない場合、ポリアリレート樹脂(1)における繰返し単位(1−1)及び(1−2)の配列は、特に限定されない。つまり、ポリアリレート樹脂(1)は、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体等、何れの共重合体であってもよい。ランダム共重合体としては、例えば、繰返し単位(1−1)と繰返し単位(1−2)とがランダムに配列した共重合体を挙げることができる。交互共重合体としては、例えば、繰返し単位(1−1)と繰返し単位(1−2)とが交互に配列した共重合体を挙げることができる。周期的共重合体としては、例えば、1つ又は複数の繰返し単位(1−1)と、1つ又は複数の繰返し単位(1−2)とが周期的に配列した共重合体が挙げられる。ブロック共重合体としては、例えば、複数の繰返し単位(1−1)からなるブロックと、複数の繰返し単位(1−2)からなるブロックとが配列した共重合体が挙げられる。
【0072】
なお、一般式(1)中のsは、ポリアリレート樹脂(1)に含まれる繰返し単位(1−1)の数と繰返し単位(1−2)の数との和に対する、繰返し単位(1−1)の数の百分率を表す。一般式(1)中のuは、ポリアリレート樹脂(1)に含まれる繰返し単位(1−1)の数と繰返し単位(1−2)の数との和に対する、繰返し単位(1−2)の数の百分率を表す。一般式(1)中のs及びuの各々は、1本の分子鎖から得られる値ではなく、感光層に含有されるポリアリレート樹脂(1)の全体(複数の分子鎖)から得られる値の平均値である。
【0073】
バインダー樹脂は、ポリアリレート樹脂(1)のみを単独で用いてもよいし、ポリアリレート樹脂(1)と、ポリアリレート樹脂(1)以外の樹脂(その他の樹脂)とを併用してもよい。その他の樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂(ポリアリレート樹脂(1)以外のポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等)、熱硬化性樹脂(シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、これら以外の架橋性熱硬化性樹脂等)、及び光硬化性樹脂(エポキシ−アクリル酸系樹脂、ウレタン−アクリル酸系共重合体等)が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。ポリアリレート樹脂(1)の含有量は、バインダー樹脂の総量に対し、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。
【0074】
バインダー樹脂の粘度平均分子量は、耐フィルミング性をより向上させる観点から10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることが更に好ましく、40,000以上であることが特に好ましい。一方、バインダー樹脂の粘度平均分子量は、80,000以下であることが好ましく、60,000以下であることがより好ましい。バインダー樹脂の粘度平均分子量が80,000以下である場合、電荷輸送層の形成時に、バインダー樹脂が溶剤に溶解し易くなり、電荷輸送層の形成が容易になる傾向がある。
【0075】
バインダー樹脂の製造方法は、ポリアリレート樹脂(1)を製造できれば、特に限定されない。バインダー樹脂の製造方法としては、例えば、ポリアリレート樹脂(1)の繰返し単位を構成するための芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸とを縮重合させる方法が挙げられる。芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸とを縮重合させる方法は特に限定されず、公知の合成方法(より具体的には、溶液重合、溶融重合、界面重合等)を採用することができる。
【0076】
ポリアリレート樹脂(1)を製造するための芳香族ジカルボン酸は、2つのカルボキシル基を有し、下記一般式(1−9)又は一般式(1−10)で表される。一般式(1−9)中のX、及び一般式(1−10)中のYは、それぞれ一般式(1)中のX及びYと同義である。
【0077】
【化13】
【0078】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、芳香環に結合する2つのカルボキシル基を有する芳香族ジカルボン酸(より具体的には、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジカルボキシビフェニル等)が挙げられる。なお、芳香族ジカルボン酸は、ジ酸クロライド、ジメチルエステル、ジエチルエステル等のような誘導体として用いることもできる。また、縮重合に用いる芳香族ジカルボン酸は、一般式(1−9)及び一般式(1−10)で表される芳香族ジカルボン酸以外に、他の芳香族ジカルボン酸を含んでもよい。
【0079】
芳香族ジオールは、2つのフェノール性水酸基を有し、下記化学式(1−11)で表される。
【0080】
【化14】
【0081】
ポリアリレート樹脂(1)を合成する際、芳香族ジオールは、ジアセテート等のような誘導体として用いることもできる。また、縮重合に用いる芳香族ジオールは、化学式(1−11)で表される芳香族ジオール以外に、他の芳香族ジオールを含んでもよい。
【0082】
ポリアリレート樹脂(1)としては、例えば、下記化学式(R−1)〜(R−8)で表されるポリアリレート樹脂(以下、それぞれポリアリレート樹脂(R−1)〜(R−8)と記載することがある。)が挙げられる。
【0083】
【化15】
【0084】
【化16】
【0085】
【化17】
【0086】
ポリアリレート樹脂(R−1)〜(R−8)の中では、耐フィルミング性をより向上させる観点から、ポリアリレート樹脂(R−2)、(R−4)、(R−5)、(R−6)及び(R−7)が好ましく、ポリアリレート樹脂(R−4)、(R−5)及び(R−6)がより好ましい。
【0087】
(電子アクセプター化合物)
電荷輸送層は、下記一般式(E1)、一般式(E2)、一般式(E3)、又は一般式(E4)で表される電子アクセプター化合物を含む。以下、一般式(E1)〜(E4)で表される電子アクセプター化合物を、それぞれ電子アクセプター化合物(E1)〜(E4)と記載することがある。また、電子アクセプター化合物(E1)〜(E4)を、まとめて電子アクセプター化合物Eと記載することがある。電荷輸送層は、電子アクセプター化合物(E1)〜(E4)のうちの一種又は二種以上を含む。
【0088】
【化18】
【0089】
一般式(E1)中、R1及びR2は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、又は水素原子を表す。R3は、ハロゲン原子又は水素原子を表す。
【0090】
【化19】
【0091】
一般式(E2)中、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、ハロゲン原子を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、炭素原子数3以上14以下の複素環基、炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、炭素原子数1以上7以下のアシル基、炭素原子数2以上6以下のアルケニル基、炭素原子数2以上6以下のアルキニル基、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、又はカルボキシル基を表す。G1は、酸素原子、硫黄原子、又は=C(CN)2を表す。G2は、酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0092】
【化20】
【0093】
一般式(E3)中、R10は、ハロゲン原子を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、又は炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基を表す。
【0094】
【化21】
【0095】
一般式(E4)中、R11、R12、R13及びR14は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基若しくは炭素原子数2以上7以下のアルコキシメチル基を有してもよいフェニル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、水素原子、又はハロゲン原子を表す。
【0096】
本実施形態の感光体は、電荷輸送層に、電子アクセプター化合物Eと上述したポリアリレート樹脂(1)とを含むことにより、耐フィルミング性に優れる。その理由は以下のように推測される。
【0097】
電荷輸送層に含まれる電子アクセプター化合物Eは、正孔輸送剤の正孔輸送能を向上させることができると考えられる。そのため、本実施形態に係る感光体は、電荷輸送層中において正孔が速やかに輸送される傾向がある。これにより、本実施形態に係る感光体は、電荷輸送層中の残留電荷の発生が抑制される傾向がある。
【0098】
また、電荷輸送層を形成する際、電荷輸送層用塗布液中においてポリアリレート樹脂(1)と電子アクセプター化合物Eとが相互作用することにより、形成される電荷輸送層の層密度が高くなる傾向がある。これにより、本実施形態に係る感光体の感光層表面は、硬度が高くなる傾向がある。
【0099】
このように、本実施形態に係る感光体は、電荷輸送層中の残留電荷の発生が抑制され、かつ感光層表面の硬度が高くなる傾向があるため、感光層表面へのフィルミングの原因となる成分(より具体的には、トナー成分、紙粉等)の付着が抑制される傾向がある。そのため、本実施形態に係る感光体は、耐フィルミング性に優れると考えられる。
【0100】
一般式(E1)中、R1及びR2は、耐フィルミング性をより向上させる観点から、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことが好ましく、炭素原子数1以上6以下の分枝鎖状のアルキル基を表すことがより好ましい。
【0101】
一般式(E1)中、R3は、耐フィルミング性をより向上させる観点から、ハロゲン原子を表すことが好ましく、塩素原子を表すことがより好ましい。
【0102】
一般式(E1)で表される電子アクセプター化合物(E1)としては、例えば下記化学式(E1−1)で表される化合物(以下、電子アクセプター化合物(E1−1)と記載することがある。)が挙げられる。
【0103】
【化22】
【0104】
一般式(E2)中、R4、R6及びR8は、耐フィルミング性をより向上させる観点から、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことが好ましく、炭素原子数1以上6以下の分枝鎖状のアルキル基を表すことがより好ましい。
【0105】
一般式(E2)中、R5及びR7は、耐フィルミング性をより向上させる観点から、水素原子を表すことが好ましい。
【0106】
一般式(E2)中、R9は、耐フィルミング性をより向上させる観点から、ハロゲン原子を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基を表すことが好ましく、ハロゲン原子を有してもよいフェニル基を表すことがより好ましく、塩素原子を有するフェニル基を表すことが更に好ましく、複数の塩素原子を有するフェニル基を表すことが特に好ましい。
【0107】
一般式(E2)中、G1及びG2は、耐フィルミング性をより向上させる観点から、酸素原子を表すことが好ましい。
【0108】
一般式(E2)で表される電子アクセプター化合物(E2)としては、例えば下記化学式(E2−1)で表される化合物(以下、電子アクセプター化合物(E2−1)と記載することがある。)が挙げられる。
【0109】
【化23】
【0110】
一般式(E3)中、R10は、耐フィルミング性をより向上させる観点から、ハロゲン原子を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことが好ましく、塩素原子を有する炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことがより好ましい。
【0111】
一般式(E3)で表される電子アクセプター化合物(E3)としては、例えば下記化学式(E3−1)で表される化合物(以下、電子アクセプター化合物(E3−1)と記載することがある。)が挙げられる。
【0112】
【化24】
【0113】
一般式(E4)中、R11、R12、R13及びR14は、耐フィルミング性をより向上させる観点から、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことが好ましく、炭素原子数1以上6以下の分枝鎖状のアルキル基を表すことがより好ましい。
【0114】
一般式(E4)で表される電子アクセプター化合物(E4)としては、例えば下記化学式(E4−1)で表される化合物(以下、電子アクセプター化合物(E4−1)と記載することがある。)が挙げられる。
【0115】
【化25】
【0116】
電子アクセプター化合物Eとしては、耐フィルミング性をより向上させる観点から、電子アクセプター化合物(E4)が好ましく、電子アクセプター化合物(E4−1)がより好ましい。
【0117】
電荷輸送層には、電子アクセプター化合物E以外の電子アクセプター化合物(他の電子アクセプター化合物)が含有されていてもよい。他の電子アクセプター化合物としては、例えば、キノン系化合物、ジイミド系化合物、ヒドラゾン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸及びジブロモ無水マレイン酸のうち、電子アクセプター化合物Eとは異なる構造の化合物が挙げられる。電子アクセプター化合物Eの含有量は、電荷輸送層に含まれる電子アクセプター化合物の総量に対し、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。
【0118】
電子アクセプター化合物の含有量は、耐フィルミング性をより向上させる観点から、バインダー樹脂100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1質量部以上5質量部以下であることがより好ましく、2質量部以上4質量部以下であることが更に好ましい。
【0119】
(添加剤)
電荷輸送層は、必要に応じて、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、劣化防止剤(より具体的には、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、消光剤、紫外線吸収剤等)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、ドナー、界面活性剤、及びレベリング剤が挙げられる。
【0120】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、チオエーテル化合物、及びホスファイト化合物が挙げられる。これらの酸化防止剤の中でも、ヒンダードフェノール化合物及びヒンダードアミン化合物が好ましい。
【0121】
(材料の組合せ)
耐フィルミング性をより向上させる観点から、バインダー樹脂と電子アクセプター化合物とが、以下の表1に示す組合せ例1〜11の何れかであることが好ましい。同様の観点から、バインダー樹脂と電子アクセプター化合物とが、以下の表1に示す組合せ例1〜11の何れかであり、正孔輸送剤が正孔輸送剤(HTM−1)であることがより好ましい。同様の観点から、バインダー樹脂と電子アクセプター化合物とが、以下の表1に示す組合せ例1〜11の何れかであり、電荷発生剤がY型チタニルフタロシアニンであることがより好ましい。同様の観点から、バインダー樹脂と電子アクセプター化合物とが、以下の表1に示す組合せ例1〜11の何れかであり、正孔輸送剤が正孔輸送剤(HTM−1)であり、電荷発生剤がY型チタニルフタロシアニンであることが更に好ましい。なお、正孔輸送剤(HTM−1)については、実施例で後述する。
【0122】
【表1】
【0123】
[3.中間層]
第一実施形態に係る感光体は、中間層(例えば、下引き層)を有してもよい。中間層は、例えば、無機粒子、及び中間層に用いられる樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層を介在させると、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、感光体を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、電気抵抗の上昇を抑えることができる。
【0124】
無機粒子としては、例えば、金属(より具体的には、アルミニウム、鉄、銅等)の粒子、金属酸化物(より具体的には、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化錫、酸化亜鉛等)の粒子、及び非金属酸化物(より具体的には、シリカ等)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。なお、無機粒子は、表面処理を施してもよい。
【0125】
中間層用樹脂としては、中間層を形成する樹脂として用いることができれば、特に限定されない。
【0126】
[4.感光体の製造方法]
本実施形態の感光体の製造方法は、感光層形成工程を備える方法であれば特に限定されない。感光層形成工程は、例えば、電荷発生層形成工程と電荷輸送層形成工程とを備える。
【0127】
電荷発生層形成工程では、まず、電荷発生層用塗布液を調製する。次いで、電荷発生層用塗布液を導電性基体上に塗布する。次いで、適宜な方法で乾燥することによって、塗布した電荷発生層用塗布液に含まれる溶剤の少なくとも一部を除去して電荷発生層を形成する。電荷発生層用塗布液は、例えば、電荷発生剤と、ベース樹脂と、溶剤とを含む。このような電荷発生層用塗布液は、電荷発生剤と、ベース樹脂とを溶剤に溶解又は分散させることにより調製することができる。電荷発生層用塗布液には、必要に応じて各種添加剤を加えてもよい。
【0128】
電荷輸送層形成工程では、まず、電荷輸送層用塗布液を調製する。次いで、電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に塗布する。次いで、適宜な方法で乾燥することによって、塗布した電荷輸送層用塗布液に含まれる溶剤の少なくとも一部を除去して電荷輸送層を形成する。電荷輸送層用塗布液は、例えば、正孔輸送剤と、バインダー樹脂としてのポリアリレート樹脂(1)と、電子アクセプター化合物Eと、溶剤とを含む。このような電荷輸送層用塗布液は、正孔輸送剤と、ポリアリレート樹脂(1)と、電子アクセプター化合物Eとを溶剤に溶解又は分散させることにより調製することができる。電荷輸送層用塗布液には、必要に応じて各種添加剤を加えてもよい。
【0129】
以下、感光層形成工程の詳細を説明する。電荷発生層用塗布液及び電荷輸送層用塗布液(以下、これらをまとめて塗布液と記載することがある。)に含有される溶剤は、塗布液に含まれる各成分を溶解又は分散できれば、特に限定されない。溶剤としては、例えば、アルコール(より具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)、脂肪族炭化水素(より具体的には、n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等)、芳香族炭化水素(より具体的には、ベンゼン、トルエン、о−キシレン、m−キシレン、p−キシレン等)、ハロゲン化炭化水素(より具体的には、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン等)、エーテル(より具体的には、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等)、ケトン(より具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル(より具体的には、酢酸エチル、酢酸メチル等)、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの溶剤のうち、非ハロゲン溶剤を用いることが好ましい。
【0130】
また、電荷輸送層用塗布液に含有される溶剤としては、耐フィルミング性をより向上させる観点から、トルエン、1,4−ジオキサン及びо−キシレンから選択される一種以上を含有する溶剤が好ましく、о−キシレンを含有する溶剤がより好ましい。以下、トルエン、1,4−ジオキサン及びо−キシレンをまとめて溶剤Qと記載することがある。溶剤Qを含有する溶剤を用いる場合、溶剤の合計質量に対する溶剤Qの含有量は、耐フィルミング性を更に向上させる観点から、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。なお、溶剤Qを含有する溶剤を用いる場合、溶剤Q以外の溶剤としては、テトラヒドロフラン(以下、THFと記載することがある。)が好ましい。
【0131】
塗布液は、それぞれ各成分を混合し、溶剤に分散することにより調製される。混合又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー、又は超音波分散器を用いることができる。
【0132】
塗布液は、各成分の分散性を向上させるために、例えば、界面活性剤を含有してもよい。
【0133】
塗布液を塗布する方法としては、塗布液を均一に塗布できる方法であれば、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、及びバーコート法が挙げられる。
【0134】
塗布液に含まれる溶剤の少なくとも一部を除去する方法としては、塗布液中の溶剤の少なくとも一部を蒸発させ得る方法であれば、特に限定されない。除去する方法としては、例えば、加熱、減圧、及び加熱と減圧との併用が挙げられる。より具体的には、高温乾燥機、又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
【0135】
なお、感光体の製造方法は、必要に応じて中間層を形成する工程等を更に有してもよい。中間層を形成する工程は、公知の方法を適宜選択することができる。
【0136】
以上説明した本実施形態の感光体は、耐フィルミング性に優れるため、種々の画像形成装置で好適に使用できる。
【0137】
<第二実施形態:画像形成装置>
以下、第二実施形態に係る画像形成装置の一態様について、タンデム方式のカラー画像形成装置を例に挙げて説明する。図4は、第二実施形態に係る画像形成装置の一例を示す図である。第二実施形態に係る画像形成装置100は、像担持体30と、帯電部42と、露光部44と、現像部46と、転写部48とを備える。像担持体30は、第一実施形態に係る感光体である。帯電部42は、像担持体30の表面を帯電する。露光部44は、帯電された像担持体30の表面を露光して、像担持体30の表面に静電潜像を形成する。現像部46は、静電潜像をトナー像として現像する。転写部48は、トナー像を像担持体30から被転写体である記録媒体Pへ転写する。以上、第二実施形態に係る画像形成装置100の概要を説明した。
【0138】
第二実施形態に係る画像形成装置100は、画像不良の発生を抑制することができる。その理由は、以下のように推測される。第二実施形態に係る画像形成装置100は、像担持体30として第一実施形態に係る感光体を備える。第一実施形態に係る感光体は、耐フィルミング性に優れる。よって、第二実施形態に係る画像形成装置100は、フィルミングに起因する画像欠陥等の画像不良の発生を抑制することができる。
【0139】
以下、図4を参照して画像形成装置100の各部について詳細に説明する。
【0140】
画像形成装置100は、画像形成ユニット40a、40b、40c及び40dと、転写ベルト50と、定着部52とを備える。以下、区別する必要がない場合には、画像形成ユニット40a、40b、40c及び40dの各々を、画像形成ユニット40と記載する。
【0141】
画像形成ユニット40は、像担持体30と、帯電部42と、露光部44と、現像部46と、転写部48とを備える。画像形成ユニット40の中央位置に、像担持体30が設けられる。像担持体30は、矢符方向(反時計回り)に回転可能に設けられる。像担持体30の周囲には、帯電部42を基準として像担持体30の回転方向の上流側から順に、帯電部42と、露光部44と、現像部46と、転写部48とが設けられる。なお、画像形成ユニット40には、クリーニング部(不図示)及び除電部(不図示)の一方又は両方が更に備えられてもよい。
【0142】
画像形成ユニット40a〜40dの各々によって、転写ベルト50上の記録媒体Pに、複数色(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの4色)のトナー像が順に重ねられる。
【0143】
帯電部42は、帯電ローラーである。帯電ローラーは、像担持体30の表面と接触しながら像担持体30の表面を帯電する。このように第二実施形態の一例である画像形成装置100は、接触帯電方式を採用している。他の接触帯電方式の帯電部としては、例えば、帯電ブラシが挙げられる。なお、帯電部は非接触方式であってもよい。非接触方式の帯電部としては、例えば、コロトロン帯電部、及びスコロトロン帯電部が挙げられる。
【0144】
帯電部42が印加する電圧は、特に限定されない。帯電部42が印加する電圧としては、例えば、直流電圧、交流電圧、及び重畳電圧(直流電圧に交流電圧が重畳した電圧)が挙げられ、このうち直流電圧が好ましい。直流電圧は交流電圧及び重畳電圧に比べ、以下に示す優位性がある。帯電部42が直流電圧のみを印加すると、像担持体30に印加される電圧値が一定であるため、像担持体30の表面を一様に一定電位まで帯電させ易い。また、帯電部42が直流電圧のみを印加すると、感光層の磨耗量が減少する傾向がある。その結果、好適な画像を形成することができる。
【0145】
露光部44は、帯電された像担持体30の表面を露光する。これにより、像担持体30の表面に静電潜像が形成される。なお、静電潜像は、画像形成装置100に入力された画像データに基づいて形成される。
【0146】
現像部46は、像担持体30の表面にトナーを供給し、静電潜像をトナー像として現像する。現像部46は、像担持体30の表面を清掃するクリーニング部として機能してもよい。
【0147】
転写ベルト50は、像担持体30と転写部48との間に記録媒体Pを搬送する。転写ベルト50は、無端状のベルトである。転写ベルト50は、矢符方向(時計回り)に回転可能に設けられる。
【0148】
転写部48は、現像部46によって現像されたトナー像を、像担持体30の表面から記録媒体Pへ転写する。転写部48としては、例えば、転写ローラーが挙げられる。
【0149】
定着部52は、転写部48によって記録媒体Pに転写された未定着のトナー像を、加熱及び/又は加圧する。定着部52は、例えば、加熱ローラー及び/又は加圧ローラーである。トナー像を加熱及び/又は加圧することにより、記録媒体Pにトナー像が定着する。その結果、記録媒体Pに画像が形成される。
【0150】
以上、第二実施形態に係る画像形成装置の一例について説明したが、第二実施形態に係る画像形成装置は、上述した画像形成装置100に限定されない。例えば、上述した画像形成装置100はタンデム方式の画像形成装置であったが、第二実施形態に係る画像形成装置はこれに限定されず、ロータリー方式等を採用してもよい。また、第二実施形態に係る画像形成装置は、モノクロ画像形成装置であってもよい。この場合、画像形成装置は、例えば画像形成ユニットを1つだけ備えていればよい。また、第二実施形態に係る画像形成装置は、中間転写方式を採用してもよい。第二実施形態に係る画像形成装置が中間転写方式を採用する場合、被転写体は中間転写ベルトに相当する。
【0151】
<第三実施形態:プロセスカートリッジ>
第三実施形態に係るプロセスカートリッジは、像担持体として第一実施形態に係る感光体を備える。引き続き、図4を参照して、第三実施形態に係るプロセスカートリッジの一例について説明する。
【0152】
第三実施形態に係るプロセスカートリッジは、例えば、画像形成ユニット40a〜40d(図4)の各々に相当する。これらのプロセスカートリッジは、ユニット化された部分を含む。ユニット化された部分は、像担持体30を含む。また、ユニット化された部分は、像担持体30に加えて、帯電部42、露光部44、現像部46、及び転写部48からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。プロセスカートリッジには、クリーニング部(不図示)及び除電部(不図示)の一方又は両方が更に備えられてもよい。プロセスカートリッジは、例えば画像形成装置100に対して着脱自在に設計される。この場合のプロセスカートリッジは、取り扱いが容易であり、像担持体30の感度特性等が劣化した場合に、像担持体30を含めて容易かつ迅速に交換することができる。
【0153】
以上説明した第三実施形態に係るプロセスカートリッジは、像担持体として第一実施形態に係る感光体を備えることで、画像不良の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0154】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。
【0155】
<感光体の材料>
感光体を製造するための材料として、以下の正孔輸送剤、バインダー樹脂、及び電子アクセプター化合物を準備した。
【0156】
[正孔輸送剤]
下記化学式(HTM−1)で表される正孔輸送剤(HTM−1)を準備した。
【0157】
【化26】
【0158】
[バインダー樹脂]
第一実施形態で説明したポリアリレート樹脂(R−1)〜(R−8)に加えて、ポリアリレート樹脂(R−9)を準備した。ポリアリレート樹脂(R−9)は、下記化学式(R−9)で表される。
【0159】
【化27】
【0160】
〔ポリアリレート樹脂(R−1)〜(R−8)の合成方法〕
以下に、ポリアリレート樹脂(R−1)〜(R−8)の合成方法を説明する。
【0161】
(ポリアリレート樹脂(R−3)の合成方法)
温度計、三方コック、及び滴下ロートを備えた容量1Lの三口フラスコを反応容器として用いた。反応容器に1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン12.2g(41.3ミリモル)と、t−ブチルフェノール0.06g(0.41ミリモル)と、水酸化ナトリウム3.9g(98ミリモル)と、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド0.12g(0.38ミリモル)とを投入した。次いで、反応容器内をアルゴン置換した。その後、水600mLを更に反応容器に投入した。反応容器の内温を20℃に維持し、反応容器の内容物を1時間攪拌した。次いで、反応容器の内容物を冷却し、反応容器の内温を10℃まで降温させた。このようにしてアルカリ性水溶液を調製した。
【0162】
一方、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロリド4.5g(16.2ミリモル)と2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロリド4.1g(16.2ミリモル)とをクロロホルム300gに溶解させて、クロロホルム溶液を調製した。
【0163】
次いで、上記アルカリ性水溶液の温度を10℃に維持し、反応容器の内容物を攪拌させながら、上記クロロホルム溶液を上記アルカリ性水溶液へ投入し、重合反応を開始させた。重合反応は、反応容器の内容物を攪拌させて反応容器の内温を13±3℃に維持しつつ、3時間進行させた。その後、デカントを用いて上層(水層)を除去し、有機層を得た。
【0164】
次いで、容量2Lの三口フラスコにイオン交換水500mLを投入した後に、得られた有機層を投入した。更にクロロホルム300gと、酢酸6mLとを投入した。三口フラスコの内容物を室温(25℃)で30分攪拌した。その後、デカントを用いて三口フラスコの内容物における上層(水層)を除去し、有機層を得た。分液ロートを用いて、得られた有機層をイオン交換水500mLで洗浄した。イオン交換水による洗浄を8回繰り返し、水洗した有機層を得た。
【0165】
次に、水洗した有機層をろ過し、ろ液を得た。容量3Lの三角フラスコにメタノール1.5Lを投入した。得られたろ液を上記三角フラスコにゆっくり滴下し、沈殿物を得た。沈殿物をろ過によりろ別した。得られた沈殿物を温度70℃で12時間真空乾燥した。その結果、粘度平均分子量55,500のポリアリレート樹脂(R−3)を得た。
【0166】
(ポリアリレート樹脂(R−1)、(R−2)及び(R−4)〜(R−8)の合成方法)
4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロリド及び2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロリドをポリアリレート樹脂(R−1)、(R−2)及び(R−4)〜(R−8)の出発物質であるハロゲン化アリーロイルに変更した以外は、ポリアリレート樹脂(R−3)と同様にして、それぞれポリアリレート樹脂(R−1)、(R−2)及び(R−4)〜(R−8)を合成した。ポリアリレート樹脂(R−1)、(R−2)及び(R−4)〜(R−8)のそれぞれの合成におけるハロゲン化アリーロイルの合計物質量は、ポリアリレート樹脂(R−3)の合成におけるハロゲン化アリーロイルの合計物質量と同様であった。なお、ポリアリレート樹脂(R−1)、(R−2)及び(R−4)〜(R−8)の粘度平均分子量は、それぞれ50,500、51,000、50,500、51,500、50,500、50,500及び51,000であった。
【0167】
次に、プロトン核磁気共鳴分光計(日本分光株式会社製、共鳴周波数:300MHz)を用いて、合成したポリアリレート樹脂(R−1)〜(R−8)の1H−NMRスペクトルを測定した。溶媒として重クロロホルムを用いた。内部標準試料としてテトラメチルシラン(TMS)を用いた。ポリアリレート樹脂(R−1)〜(R−8)のうちの代表例として、図9にポリアリレート樹脂(R−3)の1H−NMRスペクトルを示す。図9中、横軸は化学シフト(単位:ppm)を示し、縦軸は信号強度(単位:任意単位)を示す。図9に示す1H−NMRスペクトルにより、ポリアリレート樹脂(R−3)が得られていることを確認した。他のポリアリレート樹脂(R−1)、(R−2)及び(R−4)〜(R−8)も同様にして、1H−NMRスペクトルにより、それぞれポリアリレート樹脂(R−1)、(R−2)及び(R−4)〜(R−8)が得られていることを確認した。
【0168】
[電子アクセプター化合物]
第一実施形態で説明した電子アクセプター化合物(E1−1)〜(E4−1)に加えて、電子アクセプター化合物(E5−1)を準備した。電子アクセプター化合物(E5−1)は、下記化学式(E5−1)で表される電子アクセプター化合物である。
【0169】
【化28】
【0170】
<感光体の製造>
[感光体(A−1)]
以下、実施例1に係る感光体(A−1)の製造方法について説明する。
【0171】
(中間層の形成)
まず、表面処理された酸化チタン(テイカ株式会社製「試作品SMT−A」、平均一次粒径10nm)を準備した。詳しくは、アルミナとシリカとを用いて酸化チタンを表面処理し、更に、表面処理された酸化チタンを湿式分散しながらメチルハイドロジェンポリシロキサンを用いて表面処理したものを準備した。この表面処理された酸化チタン(2質量部)と、ポリアミド樹脂であるアミラン(登録商標)(東レ株式会社製「CM8000」)(1質量部)とを、溶剤に添加した。アミランは、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド66、及びポリアミド610の四元共重合ポリアミド樹脂である。また、溶剤としては、メタノール(10質量部)と、ブタノール(1質量部)と、トルエン(1質量部)とを含む溶剤を用いた。ビーズミルを用いて、これらを5時間混合し、溶剤中に材料を分散させた。この分散液を、目開き5μmのフィルターを用いてろ過した。これにより、中間層用塗布液を調製した。
【0172】
得られた中間層用塗布液を、導電性基体としてのアルミニウム製のドラム状支持体(直径30mm、全長246mm)の表面に、ディップコート法を用いて塗布した。続いて、塗布した中間層用塗布液を130℃で30分間乾燥させて、導電性基体(ドラム状支持体)上に中間層(膜厚2.0μm)を形成した。
【0173】
(電荷発生層の形成)
Y型チタニルフタロシアニン(1.5質量部)と、ベース樹脂としてのポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業株式会社製「エスレックBX−5」)(1質量部)とを、溶剤に添加した。溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(40質量部)と、THF(40質量部)とを含む溶剤を用いた。ビーズミルを用いて、これらを2時間混合し、溶剤中に材料を分散させた。この分散液を、目開き3μmのフィルターを用いてろ過した。これにより、電荷発生層用塗布液を調製した。得られた電荷発生層用塗布液を、上述のようにして形成された中間層上にディップコート法を用いて塗布し、50℃で5分間乾燥させた。これにより、中間層上に電荷発生層(膜厚0.3μm)を形成した。
【0174】
(電荷輸送層の形成)
正孔輸送剤(HTM−1)75質量部と、添加剤としてのヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF株式会社製「イルガノックス(登録商標)1010」)0.5質量部と、電子アクセプター化合物(E1−1)3質量部と、バインダー樹脂としてのポリアリレート樹脂(R−1)100質量部とを、溶剤に添加した。溶剤としては、THF560質量部と、トルエン140質量部とを混合した溶剤を用いた。超音波分散器を用いて、これらの材料を溶剤中に2分間分散させて、電荷輸送層用塗布液を調製した。
【0175】
次いで、上述した電荷発生層用塗布液と同様の操作により、電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に塗布した。その後、120℃で40分間乾燥させて、電荷発生層上に電荷輸送層(膜厚20μm)を形成し、感光体(A−1)を得た。
【0176】
[感光体(A−2)〜(A−13)及び感光体(B−1)〜(B−3)]
以下の点を変更した以外は感光体(A−1)と同様の方法で、感光体(A−2)〜(A−13)及び感光体(B−1)〜(B−3)をそれぞれ製造した。
【0177】
(変更点)
感光体(A−1)の製造に用いたバインダー樹脂としてのポリアリレート樹脂(R−1)を、表2に示すポリアリレート樹脂に変更した。感光体(A−1)の製造に用いた電子アクセプター化合物(E1−1)を、表2に示す電子アクセプター化合物に変更した。感光体(A−1)の電荷輸送層を形成するための電荷輸送層用塗布液に用いたTHFとトルエンとの混合溶剤(質量比8:2)を、表2に示す混合溶剤に変更した。
【0178】
【表2】
【0179】
<評価方法>
[マルテンス硬度の測定]
得られた感光体(A−1)〜(A−13)及び感光体(B−1)〜(B−3)の各々に対して、感光層表面のマルテンス硬度を測定した。マルテンス硬度の測定は、ISO14577の規格に基づくナノインデンテーション法により、硬度計(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製「FISCHERSCOPE(登録商標) HM2000XYp」)を用いて行った。測定条件は、温度23℃かつ湿度50%RHの環境下、感光層の表面にダイヤモンド製の四角錐型圧子(対面角135度)を当接させた後、圧子に10mN/5秒の条件で徐々に荷重を加え、10mNに達した後、1秒保持し、保持後5秒で荷重を除荷する条件とした。結果を表3に示す。なお、感光層表面のマルテンス硬度が高い値を示すほど、フィルミングの発生が抑制される傾向がある。
【0180】
[引っ掻き深さの測定]
得られた感光体(A−1)〜(A−13)及び感光体(B−1)〜(B−3)の各々に対して、感光層の引っ掻き深さを測定した。引っ掻き深さは、JIS K5600−5−5(日本工業規格K5600:塗料一般試験方法、第5部:塗膜の機械的性質、第5節:引っ掻き硬度(荷重針法))で規定される引っ掻き装置200(図5参照)を用い、後述する方法で測定した。
【0181】
以下、図5を参照して、JIS K5600−5−5で規定される引っ掻き装置200を説明する。図5は、引っ掻き装置200の構成の一例を示す図である。引っ掻き装置200は、固定台201と、固定具202と、引っ掻き針203と、支持腕部204と、2つの軸支持部205と、基台206と、2つのレール部207と、分銅皿208と、定速モーター(不図示)とを備える。分銅皿208には、分銅209が載せられる。
【0182】
図5において、X軸方向及びY軸方向が水平方向であり、Z軸方向が鉛直方向である。X軸方向は固定台201の長手方向を示す。Y軸方向は、固定台201の上面201a(載置面)に平行な面内でX軸方向に直交する方向を示す。なお、後述する図6〜8におけるX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向も図5と同様である。
【0183】
固定台201は、JIS K5600−5−5における試験板固定台に相当する。固定台201は、上面201aと、一端201bと、他端201cとを備える。固定台201の上面201aは水平面である。一端201bは、2つの軸支持部205に対向している。
【0184】
固定具202は、固定台201の上面201aにおける他端201cの側に設けられる。固定具202は、固定台201の上面201aに測定対象(感光体1)を固定する。
【0185】
引っ掻き針203は、先端203b(図6参照)を有する。先端203bの構造は、直径1mmの半球状である。先端203bの材質は、サファイアである。
【0186】
支持腕部204は、引っ掻き針203を支持する。支持腕部204は、支軸204aを中心として、引っ掻き針203が感光体1に接近する方向及び離間する方向に回動する。
【0187】
2つの軸支持部205は、支持腕部204を回動可能に支持する。
【0188】
基台206は、上面206aを備える。上面206aの一端側には、2つの軸支持部205が設けられる。
【0189】
2つのレール部207は、上面206aの他端側に設けられる。2つのレール部207は、互いに平行に対向するように設けられる。2つのレール部207は、各々、固定台201の長手方向(X軸方向)と平行に設けられる。2つのレール部207の間には、固定台201が取り付けられる。レール部207に沿って、固定台201は、固定台201の長手方向(X軸方向)に水平に移動可能である。
【0190】
分銅皿208は、支持腕部204を介して引っ掻き針203の上に設けられる。分銅皿208には、分銅209が載せられる。
【0191】
定速モーターは、レール部207に沿って固定台201をX軸方向に移動させる。
【0192】
以下、引っ掻き深さの測定方法を説明する。引っ掻き深さの測定方法は、以下に示す第一ステップと、第二ステップと、第三ステップと、第四ステップとを含む。引っ掻き装置200として、表面性測定機(新東科学株式会社製「HEIDON TYPE14」)を使用した。引っ掻き深さの測定は、温度23℃かつ湿度50%RHの環境下で行った。感光体1の形状はドラム状(円筒状)であった。
【0193】
(第一ステップ)
第一ステップでは、感光体1の長手方向が固定台201の長手方向と平行になるように、感光体1を固定台201の上面201aに固定した。このとき、感光体1の中心軸L2(回転軸)方向が、固定台201の長手方向と平行になるように感光体1が取り付けられた。
【0194】
(第二ステップ)
第二ステップでは、引っ掻き針203を感光層3の表面3cに対して垂直に当接させた。図5に加えて、図6及び図7を参照して、ドラム状の感光体1の感光層3の表面3cに、引っ掻き針203を垂直に当接させる方法を説明する。
【0195】
図6は、図5のIV−IV線における断面図であって、感光体1に引っ掻き針203を当接させたときの断面図である。図7は、図5に示す固定台201と、引っ掻き針203と、感光体1との側面図である。
【0196】
引っ掻き針203の中心軸A1の延長線が固定台201の上面201aに対して垂直になるように、引っ掻き針203を感光体1に接近させた。次いで、感光体1の感光層3の表面3cにおいて、固定台201の上面201aから垂直方向(Z軸方向)に最も離れた点(当接点P2)に、引っ掻き針203の先端203bを当接させた。これにより、引っ掻き針203の中心軸A1が接線A2に対して垂直になるように、引っ掻き針203の先端203bが感光体1に当接した。このとき、上面201aの接点P1と先端203bの当接点P2とを結ぶ線分が、感光体1の中心軸L2と直交していた。なお、接線A2は、中心軸L2に対して垂直な感光体1の断面が構成する外周円の当接点P2における接線である。
【0197】
(第三ステップ)
次に、第三ステップについて図5及び図6を参照しながら説明する。第三ステップでは、引っ掻き針203を感光層3の表面3cに対して垂直に当接させた状態で、引っ掻き針203から感光層3に10gの荷重Wを付与した。具体的には、分銅皿208に10gの分銅209を載せた。この状態で、固定台201を移動させた。具体的には、定速モーターを駆動させ、レール部207に沿って、固定台201をX軸方向に水平に移動させた。すなわち、固定台201の一端201bを、第一位置N1から第二位置N2まで移動させた。なお、第二位置N2は、第一位置N1に対して下流側に位置していた。下流側とは、固定台201の長手方向において、固定台201が2つの軸支持部205から離間する方向に位置する側である。固定台201の長手方向への移動に伴い、感光体1も、固定台201の長手方向へ水平に移動した。固定台201及び感光体1の移動速度は、30mm/分であった。また、固定台201及び感光体1の移動距離は、30mmであった。なお、固定台201及び感光体1の移動距離は、第一位置N1と第二位置N2との間の距離D1-2に相当していた。固定台201及び感光体1が移動した結果、引っ掻き針203によって感光体1の感光層3の表面3cに引っ掻き傷Sが形成された。
【0198】
次に、図5図7に加えて図8を参照して、引っ掻き傷Sを説明する。図8は、感光層3の表面3cに形成された引っ掻き傷Sを示す。引っ掻き傷Sは、固定台201の上面201a及び接線A2に対して、それぞれ垂直に形成された。また、引っ掻き傷Sは、図7に示す線L3を通るように形成された。線L3は複数の当接点P2から構成される線である。線L3は、固定台201の上面201a及び感光体1の中心軸L2に対して、それぞれ平行であった。線L3は、引っ掻き針203の中心軸A1に対して垂直であった。
【0199】
(第四ステップ)
第四ステップでは、引っ掻き傷Sの深さDsの最大値である引っ掻き深さを測定した。具体的には、感光体1を固定台201から取り外した。三次元干渉顕微鏡(Bruker社の「WYKO NT−1100」)を用いて、感光体1の感光層3に形成された引っ掻き傷Sを倍率5倍で観察し、引っ掻き傷Sの深さDsを測定した。引っ掻き傷Sの深さDsは、接線A2から、引っ掻き傷Sの谷部までの距離とした。引っ掻き傷Sの深さDsのうち最大値を、引っ掻き深さとした。結果を表3に示す。なお、感光層3の引っ掻き深さが小さい値を示すほど、フィルミングの発生が抑制される傾向がある。
【0200】
[耐フィルミング性の評価]
得られた感光体(A−1)〜(A−13)及び感光体(B−1)〜(B−3)の各々に対して、耐フィルミング性の評価を行った。耐フィルミング性の評価として、以下に示すフィルミング率の測定及び画像評価を行った。
【0201】
〔フィルミング率の測定〕
感光体をカラープリンター(株式会社沖データ製「C711dn」)に搭載し、帯電電位を−600Vに設定し、温度32℃かつ湿度85%RHの環境下で、2,000枚の用紙に画像I(印字率1%のシアン色のパターン画像)を印刷した。次いで、温度10℃かつ湿度15%RHの環境下で、2,000枚の用紙に画像Iを印刷した。印刷終了後、カラープリンターから感光体を取り出した。光学顕微鏡(株式会社ニコン社製「セナーK・K」)を用いて、取り出した感光体の表面(感光層の表面)を観察し、観察画像を得た。観察条件は、光学顕微鏡の視野が1.7mm×2.1mm角であり、観察倍率が50倍であった。次に、画像解析ソフトウェア(Image J)を用いて、輝度値180を閾値とする条件で、得られた観察画像に二値化処理を施した。二値化処理を施した画像を解析し、画像全体に対する付着物の面積の割合を算出した。具体的には、閾値未満の輝度値を有する画素を、フィルミングが発生している領域とした。閾値以上の輝度値を有する画素を、フィルミングが発生していない領域とした。そして、フィルミングが発生している領域の面積(Af)と、フィルミングが発生していない領域の面積(An)とを、解析画像から求めた。得られたAf及びAnから、計算式「面積比率A=100×Af/(Af+An)」に従って、フィルミングが発生している領域の面積比率A(単位:%)を求めた。この面積比率Aの測定を感光体表面の任意の3箇所で行い、3箇所の面積比率Aの和を3で除することにより、面積比率Aの数平均値を求めた。得られた面積比率Aの数平均値をフィルミング率とした。結果を表3に示す。なお、フィルミング率が低いほど、感光体の表面にフィルミングが発生し難いことを示す。
【0202】
〔画像評価〕
感光体をカラープリンター(株式会社沖データ製「C711dn」)に搭載し、帯電電位を−600Vに設定し、温度32℃かつ湿度85%RHの環境下で、2,000枚の用紙に画像I(印字率1%のシアン色のパターン画像)を印刷した。次いで、温度10℃かつ湿度15%RHの環境下で、2,000枚の用紙に画像Iを印刷した。印刷終了後、温度10℃かつ湿度15%RHの環境下で、ハーフトーン画像(画像濃度25%のシアン色の画像)を1枚の用紙に印刷し、これを評価画像とした。得られた評価画像について、白抜けの有無を目視で確認し、下記基準で評価した。結果を表3に示す。なお、感光体表面にフィルミングが発生すると、形成される画像に白抜けが発生する傾向がある。
【0203】
(評価基準)
A(特に良好):評価画像に白抜けが全く確認されなかった。
B(良好):評価画像に白抜けがわずかに確認されたが、実使用上問題のない白抜けであった。
C(不良):評価画像に白抜けが明確に確認された。
【0204】
【表3】
【0205】
表2に示すように、感光体(A−1)〜(A−13)は、一般式(1)に包含される繰返し単位を有するポリアリレート樹脂(R−1)〜(R−8)の何れかを電荷輸送層に含有していた。感光体(A−1)〜(A−13)は、一般式(E1)、一般式(E2)、一般式(E3)、又は一般式(E4)に包含される電子アクセプター化合物(E1−1)〜(E4−1)の何れかを電荷輸送層に含有していた。表3に示すように、感光体(A−1)〜(A−13)は、フィルミング率が0.9%以上2.3%以下であった。感光体(A−1)〜(A−13)は、画像評価がA(特に良好)であった。
【0206】
表2に示すように、感光体(B−1)は、一般式(1)に包含されないポリアリレート樹脂(R−9)を電荷輸送層に含有していた。感光体(B−2)は、電子アクセプター化合物を電荷輸送層に含有していなかった。感光体(B−3)は、一般式(E1)、一般式(E2)、一般式(E3)、及び一般式(E4)に包含されない電子アクセプター化合物(E5−1)を電荷輸送層に含有していた。表3に示すように、感光体(B−1)〜(B−3)は、フィルミング率が4.1%以上7.4%以下であった。感光体(B−1)〜(B−3)は、画像評価がC(不良)であった。
【0207】
以上の結果から明らかなように、感光体(A−1)〜(A−13)は、感光体(B−1)〜(B−3)に比べ、耐フィルミング性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明に係る電子写真感光体は、複合機のような画像形成装置に利用できる。
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