(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。本発明は、以下の説明により何ら限定されるものではない。
【0018】
前述したように、電子写真感光体は、積層型(機能分離型)感光体としての、いわゆる負帯電積層型感光体および正帯電積層型感光体と、主として正帯電で用いられる単層型感光体とに大別される。
図1〜3は、本発明の電子写真感光体の一例を示す模式的断面図であり、
図1は負帯電の電子写真プロセスに用いられる積層型電子写真感光体、
図2は正帯電の電子写真プロセスに用いられる単層型電子写真感光体、
図3は正帯電の電子写真プロセスに用いられる積層型電子写真感光体をそれぞれ示す。
【0019】
図示するように、負帯電積層型感光体においては、導電性支持体1の上に、下引き層2と、電荷発生機能を備えた電荷発生層4および電荷輸送機能を備えた電荷輸送層5を有する感光層とが、順次積層されている。また、正帯電単層型感光体においては、導電性支持体1の上に、下引き層2と、電荷発生および電荷輸送の両機能を併せ持つ単層型の感光層3とが、順次積層されている。さらに、正帯電積層型感光体においては、導電性支持体1の上に、下引き層2と、電荷輸送機能を備えた電荷輸送層5、並びに、電荷発生および電荷輸送の両機能を備えた電荷発生層4を有する感光層とが、順次積層されている。なお、いずれのタイプの感光体においても、下引き層2は必要に応じ設ければよい。
【0020】
図4に、本発明の導電性支持体の一例の概略斜視図を示す。本発明の導電性支持体1は、筒状の本体11と、本体11の長手方向の第1端12Aと、第1端12Aの反対側の本体11の第2端12Bと、を備え、本体11がアルミニウム合金を含み、本体11の応力値が−30MPa以上5MPa以下の範囲であるものである。
【0021】
導電性支持体1の応力値を−30MPa以上5MPa以下の範囲としたことで、振れの小さな導電性支持体1を得ることができ、ひいては、高画質が得られる電子写真感光体を得ることが可能となった。すなわち、前述したように、押出し工程や切削工程等を経て製造されるアルミニウム合金製の導電性支持体は、製造ロットごとおよび基体ごとに振れにバラツキが生じやすいという問題を有しているが、応力値を上記範囲とすることで、導電性支持体の振れのバラツキを抑制して、結果として高画質が得られる感光体とすることができるものとなる。応力値が上記範囲よりも小さいと、導電性支持体の精度が低下して、画像不具合の原因となる。応力値が上記範囲よりも大きいと、導電性支持体の剛性が低下する。導電性支持体1の応力値は、好ましくは−30MPa以上0MPa以下の範囲、さらに好ましくは−20MPa以上0MPa以下の範囲であるとよい。応力値が−30MPa以上0MPa以下の導電性支持体1は望ましい剛性を有する。応力値が−20MPa以上0MPa以下の導電性支持体1は望ましい振れ精度および剛性の両方を有する。なお、導電性支持体1の応力値を上記所定の範囲に調整する手段としては、例えば、後述する熱処理を用いることができる。
【0022】
本発明において、導電性支持体1の応力値は、導電性支持体1の内部応力を測定できる測定装置として、微小部X線応力測定方式を用いた応力値測定装置を用いて測定することができる。具体的には例えば、測定装置として、(株)リガク製のAuto Mate IIを用いることができる。この装置においては、対象物にX線を照射し、対象物内で回折(反射)したX線を測定する。X線の回折の角度は対象物の内部の原子配列の間隔に依存し、その間隔は残留応力によって伸縮することから、伸縮に伴う回折角の変化量を測定することで、伸縮の要因である対象物の内部の応力値が求められるものである。
【0023】
本発明に用いる導電性支持体1としては、アルミニウム合金を含むものであればよく、前述したとおり、通常は、アルミニウム合金のインゴットから、少なくとも押出し工程および切削工程、または、押出し工程、引抜き工程および切削工程を経て製造される。アルミニウム合金の材質としては、特に制限されないが、例えば、アルミニウム合金名A1050、A3003、A5052、A5056、A6061、A6063などを用いることができる。アルミニウム合金は、純度99.00%以上のアルミニウム合金、アルミニウムにマンガンを添加した合金、アルミニウムにマグネシウムを添加した合金、または、アルミニウムにマグネシウムおよびシリコンを添加した合金であってよい。アルミニウム合金は不可避的な不純物を含んでよい。
【0024】
導電性支持体1は、感光体の電極としての役目と同時に感光体を構成する各層の支持体ともなっており、円筒状、板状、フィルム状などのいずれの形状でもよいが、特には、
図4に示すような円筒状が好ましい。導電性支持体1が長手方向に2つの端を有する円筒管であり、円筒管の内径および外径が2つの端の間で一定である場合に、本発明は有用である。円筒管の2つの端は開口端であってよい。円筒状の導電性支持体1の形状としては、ストレート管の他に、長手方向端部において内径の拡大した部分、いわゆるインロー部を有する管形状がある。インロー部を有する支持体では、インロー部を形成するための加工コストがかかるが、インロー部を基準として切削加工を行えるため精度を出しやすい。これに対し、ストレート管の場合、インロー部を有する管よりも精度を出しにくいが、コスト的には安価となる。よって、ストレート管である導電性支持体1に本発明を適用することで、より安価に、高精度の導電性支持体1、ひいては感光体を得ることができるメリットがある。また、導電性支持体1としては、特に制限はないが、例えば、外径が40mm以下程度と小型であって、肉厚が0.5mm以上0.8mm以下程度と薄肉のものが、安価であって好適である。小型および薄肉の導電性支持体1の応力値を本発明の範囲内とすると、大型または厚肉の場合よりメリットはさらに大きくなる。
【0025】
円筒管である導電性支持体1の振れは、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが特に好ましく、小さいほど良好である。上記範囲とすることで、感光体において高画質を得ることができるものとなり、好ましい。
【0026】
本発明の感光体は、上記導電性支持体1と、その本体上に形成された感光層と、を備えるものである。本発明の感光体においては、導電性支持体1の応力値が上記範囲を満足するものであればよく、これにより本発明の所期の効果を得ることができ、導電性支持体1以外の構成については、適宜選定することができ、特に制限されない。
【0027】
本発明は、特に、電荷の発生や輸送を担う機能成分として有機化合物を含む感光層(有機感光層と称する)を備える有機電子写真感光体に適用される。すなわち、a−Si等の無機材料を用いた無機感光体の場合、導電性支持体が感光層の成膜時に高温に加熱されることから、導電性支持体について成膜時における熱の影響も考慮する必要があるが、有機感光体は、無機感光体のように、感光層の成膜時に導電性支持体を加熱する必要がないので、導電性支持体の精度のみが感光体の形状に影響することになる。よって、本発明は、有機感光体に適用した際により有用である。感光層は、少なくとも樹脂バインダおよび電荷輸送材料を含有することが好ましい。
【0028】
下引き層2は、樹脂を主成分とする層やアルマイトなどの金属酸化皮膜からなるものである。かかる下引き層2は、導電性支持体1から感光層への電荷の注入性の制御や、導電性支持体の表面の欠陥の被覆、感光層と導電性支持体1との接着性の向上などの目的で、必要に応じて設けられる。下引き層2に用いられる樹脂材料としては、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、メラミン、セルロースなどの絶縁性高分子や、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性高分子が挙げられ、これらの樹脂は単独、または、適宜組み合わせて混合して用いることができる。また、これらの樹脂は、二酸化チタン、酸化亜鉛などの金属酸化物を含有してもよい。
【0029】
(負帯電積層型感光体)
本発明の感光体が負帯電積層型電子写真感光体である場合、感光層は、電荷発生層4および電荷輸送層5を導電性支持体1側から順に有する。
【0030】
負帯電積層型感光体において、電荷発生層4は、電荷発生材料の粒子が樹脂バインダ中に分散された塗布液を塗布するなどの方法により形成され、光を受容して電荷を発生する。電荷発生層4は、その電荷発生効率が高いことと同時に発生した電荷の電荷輸送層5への注入性が重要であり、電場依存性が少なく、低電場でも注入の良いことが望ましい。
【0031】
電荷発生材料としては、X型無金属フタロシアニン、τ型無金属フタロシアニン、α型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、γ型チタニルフタロシアニン、アモルファス型チタニルフタロシアニン、ε型銅フタロシアニンなどのフタロシアニン化合物、各種アゾ顔料、アントアントロン顔料、チアピリリウム顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、スクアリリウム顔料、キナクリドン顔料等を単独、または適宜組み合わせて用いることができ、画像形成に使用される露光光源の光波長領域に応じて好適な物質を選ぶことができる。特には、フタロシアニン化合物を好適に用いることができる。電荷発生層4は、電荷発生材料を主体として、これに電荷輸送材料などを添加して使用することも可能である。
【0032】
電荷発生層4の樹脂バインダとしては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メタクリル酸エステル樹脂の重合体および共重合体などを適宜組み合わせて使用することが可能である。
【0033】
なお、電荷発生層4における電荷発生材料の含有量は、電荷発生層4中の固形分に対して、好適には20〜80質量%、より好適には30〜70質量%である。また、電荷発生層4における樹脂バインダの含有量は、電荷発生層4中の固形分に対して、好適には20〜80質量%、より好適には30〜70質量%である。電荷発生層4は、電荷発生機能を有すればよいので、その膜厚は一般的には1μm以下であり、好適には0.5μm以下である。
【0034】
負帯電積層型感光体の場合、電荷輸送層5が、感光体の最表面層となる。負帯電積層型感光体において、電荷輸送層5は、主として電荷輸送材料と樹脂バインダとにより構成される。
【0035】
電荷輸送層5の樹脂バインダとしては、ポリアリレート樹脂、ビスフェノールA型、ビスフェノールZ型、ビスフェノールC型、ビスフェノールA型−ビフェニル共重合体、ビスフェノールZ型−ビフェニル共重合体などの各種ポリカーボネート樹脂を単独で、または複数種を混合して用いることができる。また、分子量の異なる同種の樹脂を混合して用いてもよい。その他、ポリフェニレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、メタクリル酸エステルの重合体およびこれらの共重合体などを用いることができる。
【0036】
なお、上記樹脂の重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析において5,000〜250,000が好適であり、より好適には10,000〜200,000である。
【0037】
また、電荷輸送層5の電荷輸送材料としては、各種ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、ジアミン化合物、ブタジエン化合物、インドール化合物、アリールアミン化合物等を単独、あるいは適宜組み合わせて混合して用いることができる。かかる電荷輸送材料としては、例えば、以下の(II−1)〜(II−30)に示すものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
本発明の実施形態の感光体においては、感光層が無機または有機のフィラーを含有することが好ましい。より具体的には、感光体の感光層のうち、最表面層となる層に無機または有機のフィラーを含有させることで、感光体表面を摩耗しにくくすることができ、高寿命化に寄与できる。負帯電積層型感光体においては、電荷輸送層5に、無機または有機のフィラーを含有させることができる。このような無機フィラーとしては、シリカを主成分とするものの他、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、酸化スズ、酸化カルシウム、酸化亜鉛などの粒子が挙げられる。また、有機フィラーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子などが挙げられる。電荷輸送層5に無機または有機のフィラーを含有させる場合には、その含有量としては、電荷輸送層5の固形分に対して1〜40質量%、より好適には2〜30質量%である。
【0042】
このうち有機フィラーの一次粒子径は、1nm以上2000nm以下が好適であり、より好ましくは1nm以上1000nm以下であり、さらに好ましくは1nm以上700nm以下である。
【0043】
無機フィラーとしては、シリカを主成分とするものが好ましい。シリカとして、数nmから数十nm程度の粒径をもつシリカ粒子を製造する方法としては、湿式法と呼ばれる水ガラスを原料として製造する方法や、乾式法と呼ばれるクロロシラン等を気相中で反応させる方法、シリカ前駆体としてのアルコキシドを原料とする方法などが知られている。
【0044】
ここで、シリカを表面処理する際に異種金属が不純物として多量に存在すると、通常の酸化物部位と異なる金属により欠陥を生じて、表面の電荷分布が変動し、その部位を起点として酸化物粒子の凝集性を向上させ、結果として塗布液や感光層中における凝集物の増加を引き起こすため、シリカの純度は高純度であることが好ましい。よって、無機フィラーを構成する金属元素以外の金属の含有量は、各金属元素につき1000ppm以下に制御することが好ましい。
【0045】
一方で、表面処理剤を十分に反応させてシリカ表面の活性を向上するためには、ごく微量の別種金属を添加しておくことが好適である。表面処理剤はシリカの表面に存在する水酸基と反応するが、シリカが微量の他金属元素を含有すると、金属間の電気陰性度の差による影響から、シリカ表面に存在する他金属元素に隣接するシラノール基(水酸基)の反応性が向上する。この水酸基は表面処理剤との反応性が高いことから、他の水酸基より強固に表面処理剤と反応するとともに、残存すると凝集の原因となる。これらの表面処理剤の反応後に、他の水酸基に表面処理剤が反応することにより、表面処理剤の効果と表面の異種金属による表面の電荷の偏りの減少効果とにより、シリカ同士の凝集性が大きく改善されると考えられる。無機フィラーが微量の他金属を含有する場合、表面処理剤の反応性がより良好となり、結果として表面処理による分散性が向上するため、好ましい。
【0046】
シリカに関しては、アルミニウム元素を1000ppm以下までの範囲で添加しておくと、表面処理に好適である。シリカ中のアルミニウム元素量の調整は、特開2004−143028号公報、特開2013−224225号公報、特開2015−117138号公報等に記載されている方法を用いて行うことができるが、所望の範囲に制御できるものであれば、調製方法については特に制限はない。具体的には、シリカ表面のアルミニウム元素量をより好適に制御する方法としては、例えば、以下のような方法がある。まず、シリカ微粒子を製造する際に、目的のシリカ粒子径よりも小さい形状にシリカ粒子を成長させた後に、アルミニウム源となるアルミニウムアルコキシドを添加するなどしてシリカ表面のアルミニウム量を制御する方法がある。また、塩化アルミニウムを含む溶液中にシリカ微粒子を入れて、シリカ微粒子表面に塩化アルミニウム溶液をコートし、これを乾燥して焼成する方法や、ハロゲン化アルミニウム化合物とハロゲン化ケイ素化合物との混合ガスを反応させる方法などがある。
【0047】
また、シリカの構造は、複数のケイ素原子と酸素原子とが環状に連なり網目状の結合構造を取ることが知られており、アルミニウム元素を含む場合、シリカの環状構造を構成する原子数が、アルミニウムを混合した効果により、通常のシリカよりも大きくなる。この効果により、アルミニウム元素を含有するシリカ表面の水酸基に対し、表面処理剤が反応する際の立体的障害が、通常のシリカ表面よりも緩和され、表面処理剤の反応性が向上して、通常のシリカに同じ表面処理剤を反応させたときよりも分散性が向上した表面処理シリカとなる。
【0048】
なお、アルミニウム元素量を制御する上では、湿式法によるシリカがより好適である。また、シリカに対するアルミニウム元素の含有量は、表面処理剤の反応性を考慮すると、1ppm以上が好適である。
【0049】
無機フィラーの形態としては、特に限定されないが、凝集性を低減させて均一な分散状態を得るためには、無機フィラーの真球度が0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましい。
【0050】
さらに、無機酸化物の一次粒子径は、1〜200nmが好適であり、より好ましくは5〜100nmであり、さらに好ましくは10〜50nmである。なお、分散中の粒子は一次粒子の形状でも、数個のクラスターを形成していてもよい。
【0051】
また、感光層中における、無機フィラーの粒子間平均距離は、特に限定されないが、結果として一次粒子径に近いことが、粒子間の相互作用により膜成分の拘束力を向上させ、膜の摩耗性の改善につながることから好ましい。具体的には、200nm以下であることが好ましく、より好ましくは70nm以下である。
【0052】
また、高解像度が期待される感光体の電荷輸送層に無機フィラーを使用する際には、電荷輸送層に添加される材料に由来するα線などによる影響を考慮することが好ましい。例えば、半導体メモリ素子を例に挙げると、メモリ素子は電荷の蓄積の有無により記憶するデータの種類を保持するが、微細化によって、蓄積される電荷の大きさも小さくなって、外部から照射されるα線によって変化する程度の電荷によってデータの種類が変化してしまい、結果として、予期しないデータの変化が生じてしまう。また、半導体素子に流れる電流の大きさも小さくなるため、α線により生じる電流(ノイズ)が信号の大きさと比べても相対的に大きくなってしまい誤動作が危惧される。このような現象と同様にして、感光体の電荷輸送層の電荷の動きに対する影響を考慮すると、α線発生の少ない材料を膜構成材料に使用することが、より好適である。具体的には、無機フィラー中のウランやトリウムの濃度を低減させることが効果的であり、好ましくはトリウムが30ppb以下、ウランが1ppb以下である。無機フィラー中のウランやトリウム量を低減させる製法としては、例えば、特開2013−224225号公報等に記載があるが、これら元素の濃度を低減させることができれば、この方法には限定されない。
【0053】
無機フィラーの表面には、表面処理を施すことができる。表面処理剤としては、市販の表面処理剤を用いてよい。より好ましくは、シランカップリング剤を用いる。シランカップリング剤としては、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、エポキシトリメトキシシラン、メタクリルトリメトキシシラン、アミノトリメトキシシラン、ウレイドトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、フェニルアミノトリメトキシシラン、アクリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アクロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランおよびN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられ、これらのうちの少なくとも一種を含むものを用いることができる。また、アルコキシドのアルキル基は、メチル基が好ましいが、それ以外にエチル基、プロピル基、ブチル基も好ましい。無機フィラーに対する表面処理剤の処理量は、処理後の無機フィラーの質量に対して表面処理剤の量が0.01〜10.0質量%、好ましくは0.05〜5.0質量%となる量である。
【0054】
本発明の実施形態で用いられるシランカップリング剤としては、さらに詳しくは下記一般式(1)で示される構造を有する化合物が挙げられるが、無機フィラー表面の水酸基等の反応性基と縮合反応する化合物であれば、下記化合物に限定されない。
(R
1)
n−Si−(OR
2)
4−n (1)
(式中、Siはケイ素原子を表し、R
1はこのケイ素原子に炭素が直接結合した形の有機基を表し、R
2は有機基を表し、nは0〜3の整数を表す)
【0055】
上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物において、R
1としてはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル等のアルキル基、フェニル、トリル、ナフチル、ビフェニル等のアリール基、γ−グリシドキシプロピル、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル等の含エポキシ基、γ−アクリロキシプロピル、γ−メタアクリロキシプロピルの含(メタ)アクリロイル基、γ−ヒドロキシプロピル、2,3−ジヒドロキシプロピルオキシプロピル等の含水酸基、ビニル、プロペニル等の含ビニル基、γ−メルカプトプロピル等の含メルカプト基、p−アミノフェニル、γ−アミノプロピル、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピル、N−フェニル−3−アミノプロピル等の含アミノ基、m−アミノフェニル、o−アミノフェニル、γ−クロロプロピル、1,1,1−トリフルオロプロピル、ノナフルオロヘキシル、パーフルオロオクチルエチル等の含ハロゲン基、その他、ニトロ、シアノ置換アルキル基が挙げられる。また、OR
2の加水分解性基としては、メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基、ハロゲン基、アシルオキシ基が挙げられる。
【0056】
上記一般式(1)で表されるシランカップリング剤は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。また、複数種組み合わせる際には、同時に2種のカップリング剤を無機フィラーと反応させることができるが、複数種を順番に反応させることもできる。
【0057】
また、上記一般式(1)で表されるシランカップリング剤において、nが2以上の場合、複数のR
1は同一でも異なっていてもよい。同様に、nが2以下の場合、複数のR
2は同一でも異なっていてもよい。また、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を2種以上で用いるとき、R
1およびR
2はそれぞれのカップリング剤で同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0058】
nが0の化合物としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。すなわち、テトラメトキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラアリロキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラキス(2−メトキシエトキシ)シラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラキス(2−エチルブトキシ)シラン、テトラキス(2−エチルヘキシロキシ)シラン等が挙げられる。
【0059】
nが1の化合物としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。すなわち、メチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、エチルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノエチルアミノメチルトリメトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−アリルチオプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリエトキシシラン、3−アリルアミノプロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビス(エチルメチルケトオキシム)メトキシメチルシラン、ペンチルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0060】
nが2の化合物としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。すなわち、ジメトキシメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシシラン、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン、クロロメチルジエトキシシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシ−3−メルカプトプロピルメチルシラン、ジアセトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジメトキシメチルシラン、3−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、3−(3−シアノプロピルチオプロピル)ジメトキシメチルシラン、3−(2−アセトキシエチルチオプロピル)ジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチル−2−ピペリジノエチルシラン、ジブトキシジメチルシラン、3−ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン、ジエトキシメチルフェニルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、3−(3−アセトキシプロピルチオ)プロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチル−3−ピペリジノプロピルシラン、ジエトキシメチルオクタデシルシラン等が挙げられる。
【0061】
nが3の化合物としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。すなわち、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、メトキシジメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、3−クロロプロピルメトキシジメチルシラン、メトキシ−3−メルカプトプロピルメチルメチルシラン等が挙げられる。
【0062】
また、本発明の実施形態に係る感光層塗布液中には、シランカップリング剤の加水分解物が微量含まれていてもよい。具体的には、下記一般式(2)で示される構造を有する化合物が2質量%以下で含まれていてもよい。
Si(OH)
m(R
1)
n(OR
2)
4−(n+m) (2)
(式中、Siはケイ素原子を表し、R
1はこのケイ素原子に炭素が直接結合した形の有機基を表し、R
2は有機基を表し、mは1〜4の整数、nは0〜3の整数を表し、m+nは4以下である)
【0063】
無機フィラーが複数種の表面処理剤で表面処理されている場合、表面処理工程においては、いかなる順序で表面処理が行われているものであってもよいが、例えば、無機フィラーが複数種のシランカップリング剤で表面処理されている場合、上記一般式(1)で表される構造を有するシランカップリング剤が、最初に表面処理に用いられていることが好ましい。また、表面処理工程においては、シリカをシランカップリング剤およびオルガノシラザンで同時に表面処理してもよく、または、シリカをまずシランカップリング剤で表面処理し、次いでオルガノシラザンで表面処理してもよい。さらには、シリカをまずオルガノシラザンで表面処理し、次いでシランカップリング剤で表面処理し、さらにその後にオルガノシラザンで表面処理してもよい。
【0064】
電荷輸送層5における樹脂バインダの含有量としては、無機または有機のフィラーを除く電荷輸送層5の固形分に対して、好適には20〜90質量%、より好適には30〜80質量%である。電荷輸送層5における電荷輸送材料の含有量としては、無機または有機のフィラーを除く電荷輸送層5の固形分に対して、好適には10〜80質量%、より好適には20〜70質量%である。
【0065】
また、電荷輸送層5の膜厚としては、実用上有効な表面電位を維持するためには3〜50μmの範囲が好ましく、15〜40μmの範囲がより好ましい。
【0066】
(正帯電単層型感光体)
正帯電単層型感光体の場合、単層型感光層3が、感光体の最表面層となる。正帯電単層型感光体において、単層型感光層3は、主として電荷発生材料、電荷輸送材料としての正孔輸送材料および電子輸送材料(アクセプター性化合物)、並びに、樹脂バインダからなる。
【0067】
単層型感光層3の樹脂バインダとしては、ビスフェノールA型、ビスフェノールZ型、ビスフェノールA型−ビフェニル共重合体、ビスフェノールZ型−ビフェニル共重合体などの他の各種ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、メタクリル酸エステルの重合体およびこれらの共重合体などを用いることができる。さらに、分子量の異なる同種の樹脂を混合して用いてもよい。
【0068】
単層型感光層3の電荷発生材料としては、例えば、フタロシアニン系顔料、アゾ顔料、アントアントロン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、多環キノン顔料、スクアリリウム顔料、チアピリリウム顔料、キナクリドン顔料等を使用することができる。これら電荷発生材料は、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することが可能である。特に、本発明の感光体においては、アゾ顔料としては、ジスアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ペリレン顔料としては、N,N’−ビス(3,5−ジメチルフェニル)−3,4:9,10−ペリレン−ビス(カルボキシイミド)、フタロシアニン系顔料としては、無金属フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンを用いることが好ましい。また、X型無金属フタロシアニン、τ型無金属フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、α型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、アモルファス型チタニルフタロシアニン、特開平8−209023号公報、米国特許第5736282号明細書および米国特許第5874570号明細書に記載のCuKα:X線回析スペクトルにてブラッグ角2θが9.6°を最大ピークとするチタニルフタロシアニンを用いると、感度、耐久性および画質の点で著しく改善された効果を示すため、好ましい。
【0069】
単層型感光層3の正孔輸送材料としては、例えば、ヒドラゾン化合物、ピラゾリン化合物、ピラゾロン化合物、オキサジアゾール化合物、オキサゾール化合物、アリールアミン化合物、ベンジジン化合物、スチルベン化合物、スチリル化合物、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等を使用することができる。これら正孔輸送材料は、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することが可能である。本発明において用いられる正孔輸送材料としては、光照射時に発生する正孔の輸送能力が優れている他、電荷発生材料との組み合せにおいて好適なものが好ましい。
【0070】
単層型感光層3の電子輸送材料(アクセプター性化合物)としては、無水琥珀酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水琥珀酸、無水フタル酸、3−ニトロ無水フタル酸、4−ニトロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、フタルイミド、4−ニトロフタルイミド、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、クロラニル、ブロマニル、o−ニトロ安息香酸、マロノニトリル、トリニトロフルオレノン、トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、チオピラン系化合物、キノン系化合物、ベンゾキノン化合物、ジフェノキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、スチルベンキノン系化合物、アゾキノン系化合物等を挙げることができる。これら電子輸送材料は、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0071】
単層型の感光層3には、無機または有機のフィラーを含有させることができる。無機フィラーおよび有機フィラーとしては、先に挙げたのと同じものを用いることができる。単層型感光層3に無機または有機のフィラーを含有させる場合には、その含有量としては、単層型感光層3の固形分に対して1〜40質量%、より好適には2〜30質量%である。
【0072】
単層型感光層3における樹脂バインダの含有量としては、無機または有機のフィラーを除く単層型感光層3の固形分に対して、好適には10〜90質量%、より好適には20〜80質量%である。単層型感光層3における電荷発生材料の含有量は、無機または有機のフィラーを除く単層型感光層3の固形分に対して、好適には、0.1〜20質量%、より好適には、0.5〜10質量%である。単層型感光層3における正孔輸送材料の含有量は、無機または有機のフィラーを除く単層型感光層3の固形分に対して、好適には、3〜80質量%、より好適には、5〜60質量%である。単層型感光層3における電子輸送材料の含有量は、無機または有機のフィラーを除く単層型感光層3の固形分に対して、好適には、1〜50質量%、より好適には、5〜40質量%である。
【0073】
単層型感光層3の膜厚は、実用的に有効な表面電位を維持するためには3〜100μmの範囲が好ましく、5〜40μmの範囲がより好ましい。
【0074】
(正帯電積層型感光体)
正帯電積層型感光体において、感光層は、電荷輸送層5および電荷発生層4を導電性支持体1側から順に有する。正帯電積層型感光体の場合、電荷発生層4が、感光体の最表面層となる。正帯電積層型感光体において、電荷輸送層5は、主として電荷輸送材料と樹脂バインダとにより構成される。かかる電荷輸送材料および樹脂バインダとしては、負帯電積層型感光体の電荷輸送層5について挙げたものと同様の材料を用いることができる。各材料の含有量、および、電荷輸送層5の膜厚についても、負帯電積層型感光体と同様とすることができる。
【0075】
電荷輸送層5上に設けられる電荷発生層4は、主として電荷発生材料、電荷輸送材料としての正孔輸送材料および電子輸送材料(アクセプター性化合物)、並びに、樹脂バインダからなる。電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料および樹脂バインダとしては、単層型感光体の単層型感光層3について挙げたものと同様の材料を用いることができる。各材料の含有量、および、電荷発生層4の膜厚についても、単層型感光体の単層型感光層3と同様とすることができる。
【0076】
正帯電積層型感光体においては、電荷発生層4に、無機または有機のフィラーを含有させることができる。無機フィラーおよび有機フィラーとしては、先に挙げたのと同じものを用いることができる。電荷発生層4に無機または有機のフィラーを含有させる場合には、その含有量としては、電荷発生層4の固形分に対して1〜40質量%、より好適には2〜30質量%である。
【0077】
本発明においては、積層型または単層型のいずれの感光層中にも、形成した膜のレベリング性の向上や潤滑性の付与を目的として、シリコーンオイルやフッ素系オイル等のレベリング剤を含有させることができる。また、必要に応じて、電子写真特性を著しく損なわない範囲で、その他公知の添加剤を含有させることもできる。
【0078】
また、感光層中には、耐環境性や有害な光に対する安定性を向上させる目的で、酸化防止剤や光安定剤などの劣化防止剤を含有させることができる。このような目的に用いられる化合物としては、トコフェロールなどのクロマノール誘導体およびエステル化化合物、ポリアリールアルカン化合物、ハイドロキノン誘導体、エーテル化化合物、ジエーテル化化合物、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チオエーテル化合物、フェニレンジアミン誘導体、ホスホン酸エステル、亜リン酸エステル、フェノール化合物、ヒンダードフェノール化合物、直鎖アミン化合物、環状アミン化合物、ヒンダードアミン化合物等が挙げられる。
【0079】
(導電性支持体の製造方法)
図5に、本発明の導電性支持体の製造方法に係るフローチャートを示す。本発明の導電性支持体の製造方法は、本発明の導電性支持体を製造するにあたり、少なくとも押出し工程を経て得られたアルミニウム合金を含む基体を準備する準備工程と、基体を熱処理して導電性支持体を得る熱処理工程と、を含む。熱処理の温度をT(℃)、時間をH(時間)としたとき、Q=T×Hにより定義される熱処理量Qが800以下、好適には600以下となるように、熱処理を行う。これにより、剛性を低下させることなく、所定の応力値を有する導電性支持体1を得ることができる。熱処理が過剰であると、得られる導電性支持体1の剛性が低下するため、熱処理量Qとしては、上記範囲とする。また、熱処理が不十分でも所望の応力値が得られないので、熱処理量Qは、50以上とすることが好ましい。
【0080】
ここで、熱処理を行う基体は、少なくとも押出し工程を経て得られたものであって、さらに引抜き工程を経た後のものであってもよく、さらに切削工程を経た後のものであってもよい。基体に対し熱処理後を施した後、切削工程、若しくは、引抜き工程および切削工程を行うか、または、基体に対し熱処理を行うのみにより、所定の応力値を有する導電性支持体1を得ることができる。すなわち、本発明において基体に対する熱処理は、押出し工程と引抜き工程との間、引抜き工程と切削工程との間、押出し工程と切削工程との間、または、切削工程後、のいずれにおいて行ってもよい。押出し工程後、または押出し工程および引抜き工程後に基体に対し熱処理を行うと、これらの工程により基体に発生した応力(ひずみ)を、最終仕上げ(切削工程)前に緩和させることができるので好ましい。また、熱処理の回数は通常は1回とすることができるが、複数回で行ってもよい。
【0081】
熱処理の条件としては、熱処理量Qが上記範囲であればよいが、具体的な熱処理の温度としては、例えば、50℃以上400℃以下の範囲で選択することができ、熱処理の時間としては、例えば、1時間以上2時間以下の範囲で選択することができる。熱処理の温度は、好ましくは50℃以上300℃以下の範囲、さらに好ましくは50℃以上200℃以下の範囲から選択されてよい。また、熱処理は、大気圧下で行うことができるが、減圧下や真空中であってもよく、特に制限されない。
【0082】
本発明の実施形態の製造方法においては、導電性支持体1の押出し加工や引抜き加工、切削加工についても、常法に従い実施することができ、特に制限はない。上記のようにして得られた導電性支持体1上に、常法に従い、浸漬塗工法などにより、所望に応じ下引き層を介して感光層を形成することで、感光体を製造することができる。下引き層および感光層を形成するときの温度は、200℃以下であり、好ましくは150℃以下である。
【0083】
(電子写真装置)
本発明の感光体は、各種マシンプロセスに適用することにより所期の効果が得られるものである。具体的には、ローラやブラシなどの帯電部材を用いた接触帯電方式、コロトロンやスコロトロンなどを用いた非接触帯電方式等の帯電プロセス、並びに、非磁性一成分、磁性一成分、二成分などの現像方式を用いた接触現像および非接触現像方式などの現像プロセスにおいても、十分な効果を得ることができる。
【0084】
本発明の電子写真装置は、上記本発明の感光体が搭載されてなるものである。
図6に、本発明の電子写真装置の一構成例の概略構成図を示す。図示する電子写真装置60は、導電性支持体1と、その外周面上に被覆された下引き層2および感光層300とを含む感光体7を搭載する。この電子写真装置60は、感光体7の外周縁部に配置された、帯電部材21と、この帯電部材21に印加電圧を供給する高圧電源22と、像露光部材23と、現像ローラ241を備えた現像器24と、給紙ローラ251および給紙ガイド252を備えた給紙部材25と、転写帯電器(直接帯電型)26と、を備える。電子写真装置60は、さらに、クリーニングブレード271を備えたクリーニング装置27と、除電部材28とを含んでもよい。また、電子写真装置60は、カラープリンターとすることができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の具体的態様を、実施例を用いてさらに詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0086】
アルミニウム合金(A6063)のインゴットから押出し工程、引抜き工程を経て得られたアルミニウム合金製基体に対し、大気圧下で、下記表中に示す条件に従い熱処理を行った後、切削工程を行って、下記表中に示す外径および肉厚を有するストレート管の形状の導電性支持体を得た。導電性支持体の長さは260.5mmである。得られた導電性支持体について、下記に従い応力値、振れ精度、剛性およびコスト性を評価した。
【0087】
(応力値の評価)
応力値測定装置として(株)リガク製のAuto Mate IIを用いて、得られた導電性支持体の応力値の測定を行った。5本の平均値を応力値とした。
【0088】
(振れ精度の評価)
図7に示すような評価装置((株)キーエンス製,レーザーマイクロメーター(解像度:1/1000mm,回転速度:20±5rpm))を用いて、得られた導電性支持体の振れ精度(振れ)の評価を行った。図示するように、導電性支持体1の長手方向両端部をV字状ブロック31で支持した状態で、導電性支持体1の長手方向に沿ってレーザーセンサー32を移動させて、導電性支持体1の振れを測定した。各実施例および比較例において5本の導電性支持体1を用意し、それぞれの支持体1において5つの位置で振れを測定し、測定値の最大値を各例の振れ値とした。測定位置は、導電性支持体1の長さを6等分して得られる、両端を除く、5か所である。図中の符号33はコントローラである。
【0089】
(剛性の評価)
各導電性支持体について、Mitutoyo社製のMZT−522(荷重:200mH,圧子:三角錐65.03°)を用いて、膜硬度(HU)を測定し、下記基準に従い、剛性を評価した。
○:膜硬度(HU)が100以上の場合。
△○:膜硬度(HU)が80以上100未満の場合。
△:膜硬度(HU)が70以上80未満の場合。
△×:膜硬度(HU)が70未満の場合。
【0090】
(コスト性の評価)
各導電性支持体について、下記基準に従い、コスト性を評価した。
◎:熱処理量が300以下の場合。
○: 熱処理量が300を超え600以下の場合。
△○:熱処理量が600を超え1000以下の場合。
×:熱処理量が1000を超える場合。
【0091】
これらの結果を、下記の表中に併せて示す。
【0092】
【表1】
*1)熱処理の温度をT(℃)、時間をH(時間)としたとき、Q=T×Hにより定義される熱処理量Qである。
【0093】
上記表中の結果から、本発明に係る応力値を満足する導電性支持体は、低コストであるとともに、剛性を保持しつつ、高い精度が得られていることが確かめられた。実施例5〜8,10は、振れが20μm以下と、特に良好となっている。