(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記波長変換された光と前記青色系の光との混合光は、色度規格(ANSI C78.377)で規定された色温度2700〜6500Kの色度範囲にある、請求項1から6のいずれか1項に記載の発光装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施の形態]
〔単結晶蛍光体〕
第1の実施の形態に係る単結晶蛍光体は、Ceで付活されるYAG系単結晶蛍光体であり、(Y
1−a−bLu
aCe
b)
3+cAl
5−cO
12(0≦a≦0.9994、0.0002≦b≦0.0067、−0.016≦c≦0.315)で表される組成を有する。ここで、Ceは、Yサイトに置換され、付活剤として機能する(発光中心となる)。一方、Luは、Yサイトに置換されるが、付活剤としては機能しない。
【0018】
なお、上記の蛍光体の組成のうち、一部の原子は結晶構造上の異なる位置を占めることがある。また、上記の組成式における組成比のOの値は12と記述されるが、上記の組成は、不可避的に混入または欠損する酸素の存在により組成比のOの値が僅かに12からずれた組成も含む。また、組成式におけるcの値は、単結晶蛍光体の製造上、不可避的に変化する値であるが、−0.016≦c≦0.315程度の数値範囲内での変化は、単結晶蛍光体の物性にほとんど影響を及ぼさない。
【0019】
第1の実施の形態に係る単結晶蛍光体は、例えば、CZ法(Czochralski Method)、EFG法(Edge Defined Film Fed Growth Method)、ブリッジマン法、FZ法(Floating Zone Method)、ベルヌーイ法等の液相成長法によって得ることができる。これらの液相成長法により得られた単結晶蛍光体のインゴットを切断して平板状に加工したり、粉砕して粉末状に加工したりすることにより、後述する発光装置に用いることができる。
【0020】
Ceの濃度を表す上記組成式におけるbの数値の範囲が0.0002≦b≦0.0067であるのは、bの数値が0.0002よりも小さい場合は、Ce濃度が低すぎるために、励起光の吸収が小さくなり、外部量子効率が小さくなりすぎるという問題が生じ、0.0067よりも大きい場合は、単結晶蛍光体のインゴットを育成する際にクラックやボイド等が生じ、結晶品質が低下する可能性が高くなるためである。
【0021】
〔単結晶蛍光体の製造〕
本実施の形態の単結晶蛍光体の製造方法の一例として、CZ法による製造方法について以下に述べる。
【0022】
まず、出発原料として、高純度(99.99%以上)のY
2O
3、Lu
2O
3、CeO
2、Al
2O
3の粉末を用意し、乾式混合を行い、混合粉末を得る。なお、Y、Lu、Ce、及びAlの原料粉末は、上記のものに限られない。また、Luを含まない単結晶蛍光体を製造する場合は、その原料粉末は用いない。
【0023】
次に、得られた混合粉末をイリジウム製のルツボ内に入れ、ルツボをセラミックス製の筒状容器に収容する。そして、筒状容器の周囲に巻回される高周波コイルにより30kWの高周波エネルギーをルツボに供給して誘導電流を生じさせ、ルツボを加熱する。それにより、混合粉末を溶融させて融液を得る。
【0024】
次に、YAG単結晶である種結晶を用意して、その先端を融液に接触させた後、10rpmの回転数で回転させながら1mm/h以下の引き上げ速度で引き上げ、1960℃以上の引き上げ温度で<111>方向に単結晶蛍光体インゴットを育成する。この単結晶蛍光体インゴットの育成は、筒状容器内に毎分2Lの流量で窒素を流し込み、大気圧下、窒素雰囲気中で行われる。
【0025】
こうして、例えば、直径約2.5cm、長さ約5cmの単結晶蛍光体インゴットが得られる。得られた単結晶蛍光体インゴットを所望の大きさに切り出すことにより、例えば、発光装置に用いる平板状の単結晶蛍光体を得ることができる。また、単結晶蛍光体インゴットを粉砕することにより、粒子状の単結晶蛍光体を得ることができる。
【0026】
〔単結晶蛍光体の評価〕
組成の異なる複数の第1の実施の形態に係る単結晶蛍光体を製造し、組成の分析、CIE色度と内部量子効率の評価を行った。
【0027】
組成分析は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により行った。また、Ce濃度が極めて小さい単結晶蛍光体に対しては、ICP質量分析法(ICP−MS)を併用した。
【0028】
CIE色度座標の評価においては、CIE1931等色関数を用いて、励起光のピーク波長が450nmであるときの単結晶蛍光体の発光スペクトルのCIE色度座標を求めた。
【0029】
内部量子効率の評価は、積分半球ユニットを備えた量子効率測定システムを用いて行った。以下に、単結晶蛍光体の内部量子効率の具体的な測定方法について述べる。
【0030】
まず、積分半球ユニット内に設置した標準試料としての硫酸バリウム粉末に励起光を照射し、励起光スペクトルを測定する。次に、積分半球ユニット内の硫酸バリウム上に設置した単結晶蛍光体に励起光を照射して、励起反射光スペクトル及び蛍光発光スペクトルを測定する。次に、積分半球ユニット内で拡散反射させた励起光を硫酸バリウム上に設置した単結晶蛍光体に照射し、再励起蛍光発光スペクトルを測定する。
【0031】
そして、蛍光発光スペクトルから求められる光量子数と再励起蛍光発光スペクトルから求められる光量子数との差を、励起光スペクトルから求められる光量子数と励起反射光スペクトルから求められる光量子数との差で除すことにより、内部量子効率を求める。
【0032】
次の表1に、蛍光の波長及びCIE色度についての評価の結果を示す。表1の試料番号1〜33の試料は、本実施の形態の単結晶蛍光体の試料であり、試料番号34〜36の試料は、比較例としての、Ceにより付活されたYAG系多結晶蛍光体粉末の試料である。表1は、本実施の形態に係る単結晶蛍光体の組成式におけるa、b、cの値、励起光のピーク波長が440nm、450nm、460nmであるときの蛍光のピーク波長λp(nm)、及び励起光のピーク波長が440nm、450nm、460nmであるときのCIE色度座標(x,y)を示す。
【0034】
表1に示されるように、評価に用いた単結晶蛍光体の組成式(Y
1−a−bLu
aCe
b)
3+cAl
5−cO
12のa、b、cの数値範囲は、それぞれ0≦a≦0.9994、0.0002≦b≦0.0067、−0.016≦c≦0.315である。
【0035】
このうち、Luを含む単結晶蛍光体は、組成式におけるaの数値範囲が0.0222≦a≦0.9994であり、Luを含まない単結晶蛍光体は、組成式におけるaの値がa=0である。
【0036】
Luを含む単結晶蛍光体は、Luを含まない単結晶蛍光体と比較して蛍光色が緑に近いため、赤色蛍光体と組み合わせることにより青色光源を用いて演色性の高い白色光を作り出すことができる。逆に、Luを含まない単結晶蛍光体は、赤色蛍光体と組み合わせることなく青色光源を用いて色温度の高い白色光を作り出すことができる。
【0037】
また、一般に、Luを含む単結晶蛍光体は、Luを含まない単結晶蛍光体と比較して温度特性に優れるという傾向がある。一方、Luは高価なため、単結晶蛍光体にLuを添加することにより、製造コストが増加する。
【0038】
また、表1によれば、評価に用いた単結晶蛍光体の組成式におけるa、bの数値範囲がそれぞれ0≦a≦0.9994、0.0002≦b≦0.0067である場合、励起光のピーク波長が450nmであるときの蛍光のCIE色度座標x、yの数値範囲がそれぞれ0.329≦x≦0.434、0.551≦y≦0.600である。
【0039】
図1は、評価に用いた第1の実施の形態に係る単結晶蛍光体の組成分布を表すグラフである。
図1の横軸は単結晶蛍光体の組成式におけるa(Lu濃度)を表し、縦軸は組成式におけるb(Ce濃度)を表す。
【0040】
図2は、評価に用いた第1の実施の形態に係る単結晶蛍光体のCIE(x,y)色度分布を表すグラフである。
図2の横軸は励起光のピーク波長が450nmであるときのCIE色度の座標xを表し、縦軸は座標yを表す。
【0041】
図2中の直線y=−0.4377x+0.7444は、最小二乗法により求めた、ピーク波長が450nmであるときのCIE色度座標の近似直線である。また、この近似直線の上側の点線は、0.4377で表される直線であり、下側の点線は、y=−0.4377x+0.7384で表される直線である。
【0042】
図2に示されるように、組成式(Y
1−a−bLu
aCe
b)
3+cAl
5−cO
12(0≦a≦0.9994、0.0002≦b≦0.0067、−0.016≦c≦0.315)で表される組成を有する単結晶蛍光体においては、励起光のピーク波長が450nm、温度が25℃であるときの発光スペクトルのCIE色度座標x、yが、−0.4377x+0.7384≦y≦0.4377x+0.7504の関係を満たす。
【0043】
次の表2に、内部量子効率についての評価の結果を示す。表2は、本実施の形態に係る単結晶蛍光体の組成式におけるa、b、cの値、励起光のピーク波長が440、450、460nmであるときの25℃における内部量子効率(η
int)を示す。
【0045】
表2によれば、本実施の形態に係る単結晶蛍光体は、高い内部量子効率を有する。例えば、評価された全ての単結晶蛍光体の試料の、温度が25℃、励起光のピーク波長が450nmであるときの内部量子効率は、0.91以上である。
【0046】
なお、評価された単結晶蛍光体の試料の形状については、試料番号15、19の試料が直径10mm、厚さ0.3mmの円形の板であり、試料番号33の試料が粉末であり、それ以外の試料が一辺の長さが10mm、厚さ0.3mmの正方形の板である。また、粉末状の試料を除く全ての試料は、両面が鏡面研磨されたものである。
【0047】
蛍光のピーク波長λp(nm)、CIE色度座標(x,y)、及び内部量子効率の測定値は、試料の形状の影響をほとんど受けない。
【0048】
〔多結晶蛍光体との比較〕
Ceにより付活されたYAG系単結晶蛍光体とYAG系多結晶蛍光体粉末とでは、Ceの濃度と発光色の関係が大きく異なる。例えば、特許文献(特開2010−24278号公報)には、組成式(Y
1−zCe
z)
3Al
5O
12で表される組成を有する多結晶蛍光体粉末では0.003≦z≦0.2のCe濃度範囲で一定の色度(0.41,0.56)の光を発することが記載されている。一方、本実施の形態の単結晶蛍光体では、Ce濃度に依存して色度が変化し、例えば、上記特許文献の多結晶蛍光体粉末と同じ色度(0.41,0.56)の光を発するための組成は(Y
1−zCe
z)
3Al
5O
12(z=0.0005)である。
【0049】
また、特許文献(特許第3503139号公報)には、組成式(Y
1−a−bLu
aCe
b)
3Al
5O
12で表される組成を有する多結晶蛍光体粉末が、a=0.99、b=0.01のときには発光色度が(0.339,0.579)となり、a=0.495、b=0.01のときには発光色度が(0.377,0.570)となることが記載されている。この多結晶蛍光体粉末に含まれるCeの濃度も、本実施の形態の単結晶蛍光体に含まれるCeの濃度と比較して桁違いに高い。
【0050】
このように、単結晶蛍光体においては、所望の色の光を発するために添加されるCeの濃度が、多結晶蛍光体と比較して極めて少なく、高価なCeの使用量を低減することができる。
【0051】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態は、第1の実施の形態に係る単結晶蛍光体を有する発光装置についての形態である。
【0052】
〔発光装置の構成〕
図3(a)は、第2の実施の形態に係る発光装置10の垂直断面図である。
図3(b)は、発光装置10に含まれる発光素子100及びその周辺部の拡大図である。
【0053】
発光装置10は、表面に配線12a、12bを有する基板11と、基板11上に搭載される発光素子100と、発光素子100上に設けられた単結晶蛍光体13と、発光素子100を囲む環状の側壁14と、発光素子100及び単結晶蛍光体13を封止する封止材15と、を有する。
【0054】
基板11は、例えば、Al
2O
3等のセラミックスからなる。基板11の表面には、配線12a、12bがパターン形成されている。配線12a、12bは、例えば、タングステン等の金属からなる。
【0055】
発光素子100は、フリップチップ型のLEDチップであり、青色系の光を発する。発光素子100の発光ピーク波長は、発光素子100の内部量子効率の観点から、430〜480nmの範囲にあることが好ましく、さらに、単結晶蛍光体13の内部量子効率の観点から、440〜470nmの範囲にあることがより好ましい。
【0056】
この発光素子100においては、サファイア等からなる素子基板101の第1の主面101a上に、n型不純物が添加されたGaN等からなるn型半導体層102、発光層103、及びp型不純物が添加されたGaN等からなるp型半導体層104がこの順に積層されている。n型半導体層102の露出部分にはn側電極105aが、p型半導体層104の表面にはp側電極105bが、それぞれ形成されている。
【0057】
発光層103は、n型半導体層102及びp型半導体層104からキャリアが注入されることにより、青色系の光を発する。発光層103から発せられた光は、n型半導体層102及び素子基板101を透過して、素子基板101の第2の主面101bから出射される。すなわち、素子基板101の第2の主面101bは発光素子100の光出射面である。
【0058】
素子基板101の第2の主面101b上には、第2の主面101bの全体を覆うように、単結晶蛍光体13が配置されている。
【0059】
単結晶蛍光体13は、第1の実施の形態に係る単結晶蛍光体からなる平板状の単結晶蛍光体である。単結晶蛍光体13は1つの単結晶からなるため、粒界を含まない。単結晶蛍光体13は、第2の主面101bと同等もしくはそれ以上の面積を有する。単結晶蛍光体13は、発光素子100の発する光を吸収して黄色系の蛍光を発する。
【0060】
また、単結晶蛍光体13は素子基板101の第2の主面101b上に他の部材を介することなく直接設置されており、単結晶蛍光体13の素子基板101側の面である第1の面13aが素子基板101の第2の主面101bに接触している。単結晶蛍光体13と素子基板101とは、例えば、分子間力によって接合されている。
【0061】
発光素子100のn側電極105aとp側電極105bは、それぞれ導電性のバンプ106を介して配線12a、12bに電気的に接続されている。
【0062】
側壁14は、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂等の樹脂からなり、二酸化チタン等の光反射粒子を含んでもよい。
【0063】
封止材15は、例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂等の透光性を有する樹脂からなる。封止材15は、発光素子100の発する光を吸収して赤色系の蛍光を発する赤色蛍光体の粒子を含んでもよい。赤色蛍光体の発光ピーク波長は、明るさ及び演色性の観点から、600〜660nmの範囲にあることが好ましく、635〜655nmの範囲にあることがより好ましい。波長が小さすぎると、単結晶蛍光体13の発光波長と近くなるため、演色性が低下する。一方、波長が大きすぎると、視感度の低下の影響が大きくなる。
【0064】
〔発光装置の動作〕
発光素子100に通電すると、配線12a、n側電極105a、及びn型半導体層102を介して電子が発光層103に注入され、また、配線12b、p側電極105b、及びp型半導体層104を介して正孔が発光層103に注入されて、発光層103が発光する。
【0065】
発光層103から発せられた青色系の光は、n型半導体層102及び素子基板101を透過して素子基板101の第2の主面101bから出射され、単結晶蛍光体13の第1の面13aに入射する。
【0066】
単結晶蛍光体13は、発光素子100から発せられた青色系の光の一部を吸収し、黄色系の蛍光を発する。
【0067】
発光素子100から発せられて単結晶蛍光体13へ向かう青色系の光のうちの一部は単結晶蛍光体13に吸収されて波長変換され、黄色系の光として単結晶蛍光体13の第2の面13bから出射される。また、発光素子100から発せられて単結晶蛍光体13へ向かう青色系の光のうちの一部は単結晶蛍光体13に吸収されずに第2の面13bから出射される。青色と黄色は補色関係にあるので、発光装置10は、青色光と黄色光とを混合した白色光を放射する。
【0068】
また、封止材15が赤色蛍光体を含む場合は、赤色蛍光体が発光素子100から発せられた青色系の光の一部を吸収し、赤色系の蛍光を発する。この場合、発光装置10は、青色光、黄色光、及び赤色光を混合した白色光を放射する。赤色光を混ぜることにより、白色光の演色性を高めることができる。
【0069】
図4は、単結晶蛍光体13の発する光(蛍光)のCIE色度と、発光素子100の発する光と単結晶蛍光体13の発する光を混合した光のCIE色度を示す色度図である。
図4中の並んだ8つの四角形の枠は、色度規格(ANSI C78.377)で規定された色温度2700〜6500Kの色度範囲である。
【0070】
図4中の曲線L1は、単結晶蛍光体13のCe濃度と発光色度の関係を表す。曲線L1上のマーク“◇”は、左側から順に、単結晶蛍光体13の組成式におけるb(Ce濃度)の数値が0.0002、0.0005、0.0010、0.0014であるときの、単結晶蛍光体13の発光色度の実測値である。
【0071】
図4中の曲線L2は、単結晶蛍光体13のCe濃度と、発光素子100と単結晶蛍光体13の組み合わせにより発せられる混合光の色度の関係を表す。曲線L2上のマーク“●”は、下側から順に、単結晶蛍光体13の組成式におけるbの数値が0.0002、0.0005、0.0010、0.0014であるときの、発光素子100と単結晶蛍光体13の組み合わせにより発せられる混合光の色度の実測値である。
【0072】
これらの実測値は、単結晶蛍光体13の組成(Y
1−a−bLu
aCe
b)
3+cAl
5−cO
12において、aを0に固定し、bを変化させて、単結晶蛍光体13の蛍光スペクトル及び発光素子100の発光と単結晶蛍光体13の蛍光の合成スペクトルを測定することにより得られた。
【0073】
なお、この測定に用いた発光素子100の発光波長は450nmである。また、単結晶蛍光体13は厚さ0.3mmの平板状の単結晶蛍光体である。
【0074】
曲線L1、L2が示すように、Ceは単結晶蛍光体13の付活剤として機能するため、単結晶蛍光体13中のCe濃度が高くなる(bが大きくなる)ほど、発光素子100と単結晶蛍光体13の組み合わせにより発せられる混合光の色度が単結晶蛍光体13の蛍光の色度に近づく。なお、b=0であるときは単結晶蛍光体13が蛍光を発しないため、発光素子100単体の発光色度と等しくなる。
【0075】
ここで、平板状の単結晶蛍光体13の厚さの下限値は、0.15mmである。機械的強度の観点から、単結晶蛍光体13の厚さは0.15mm以上に設定される。
【0076】
なお、Luは付活剤としては機能しないため、単結晶蛍光体13の組成式におけるaの値を変化させても曲線L2方向の色度の変化はほぼ生じない。また、同様に、発光素子100の発光波長を変化させても曲線L2方向の色度の変化はほぼ生じない。
【0077】
図5は、発光素子100、単結晶蛍光体13、及び赤色蛍光体の組み合わせにより発せられる混合光のCIE色度を示す色度図である。
【0078】
図5中の曲線L2は、
図4中の曲線L2と等しい。点Rは、赤色蛍光体の蛍光の色度(0.654,0.345)を表す。また、並んだ8つの四角形の枠は、色度規格(ANSI C78.377)で規定された色温度2700〜6500Kの色度範囲である。
【0079】
直線L3は、点Rと色温度2700Kの枠の下端を通る直線であり、直線L4は、点Rと色温度6500Kの枠の上端を通る直線である。そして、点Y1は、曲線L2と直線L3との交点であり、点Y2は、曲線L2と直線L4との交点である。
【0080】
図5において、まず、発光素子100と単結晶蛍光体13を組み合わせたときの発光の色度座標が直線L2上の点Y1と点Y2の間に位置するように、単結晶蛍光体のCe濃度や厚さを調整する。次に、赤色蛍光体の量(封止材15中に分散させる場合は、封止材15中の濃度)を調整することで、色温度2700〜6500Kの白色光をつくることができる。
【0081】
この時、単結晶蛍光体13と赤色蛍光体とで、それぞれの蛍光の吸収も生じるため、赤色蛍光体の調整量に対して、発光素子100と単結晶蛍光体13との合成色度は、色度Rとの間で直線的な変化とはならないものの、概ね上記の方法で目的の色温度の白色光をつくることができる。
【0082】
なお、Luは付活剤としては機能しないため、単結晶蛍光体13の組成式におけるaの値を変化させても曲線L2方向の色度の変化はほぼ生じない。そのため、単結晶蛍光体13がLuを含む場合は、Lu濃度に応じて、発光素子100及び単結晶蛍光体13と組み合わせて用いる赤色蛍光体の量を調節することにより、色温度2700〜6500Kの白色光をつくることができる。
【0083】
また、同様に、発光素子100の発光波長又は赤色蛍光体の発光波長を変化させても曲線L2方向の色度の変化はほぼ生じず、少なくとも発光素子100の発光ピーク波長が430〜480nmの範囲にあり、赤色蛍光体の発光ピーク波長が600〜660nmの範囲にある場合には、赤色蛍光体の量を調節することにより、同様の方法により、色温度2700〜6500Kの白色光をつくることができる。
【0084】
次に、本実施の形態に係る発光装置10の発する光が演色性に優れることをシミュレーションにより示す。ここで、一例として、発光装置10が色温度3000Kの光を発する場合の演色性について述べる。
【0085】
図6は、シミュレーションに用いた発光素子100、単結晶蛍光体13、赤色蛍光体の発光スペクトルを示す。これらの発光スペクトルを基本スペクトルと呼ぶ。
【0086】
発光素子100、単結晶蛍光体13、赤色蛍光体の基本スペクトルのピーク波長は、およそ450nm(青色)、535nm(黄色)、640nm(赤色)である。また、単結晶蛍光体13の基本スペクトルは、組成が(Y
1−a−bLu
aCe
b)
3+cAl
5−cO
12(a=0、b=0、a=0)である単結晶蛍光体13の発光スペクトルである。
【0087】
まず、発光装置10の発光スペクトルが発光素子100、単結晶蛍光体13、赤色蛍光体の発光スペクトルの合成スペクトルで近似できるとして、最小二乗法により、発光素子100、単結晶蛍光体13、赤色蛍光体の基本スペクトルを色温度3000Kに対応する色度を有するスペクトルにフィッティングし、各基本スペクトルの線形結合係数を決定した。
【0088】
そして、フィッティングにより得られた合成スペクトルから、平均演色指数Raを計算した。これにより、発光スペクトルが基本スペクトルである発光素子100、単結晶蛍光体13、赤色蛍光体を用いて色温度3000Kの光を発する発光装置10を形成した場合の平均演色指数Raが求まる。
【0089】
続いて、以上のシミュレーションを発光素子100及び単結晶蛍光体13の基本スペクトルの波長をシフトさせながら(赤色蛍光体の基本スペクトルは固定)繰り返し、発光素子100及び単結晶蛍光体13の波長を変化させたときの平均演色指数Raを求めた。ここで、発光素子100の波長は、基本スペクトルの波長から−20〜+30nmの範囲で5nm刻みに変化させた。また、単結晶蛍光体13の波長は、基本スペクトルの波長から−45〜+45nmの範囲で5nm刻みに変化させた。その結果を以下の表3に示す。
【0091】
表3は、発光素子100及び単結晶蛍光体13の波長を適宜調整することにより、90以上、さらには95以上の高い平均演色指数Raが得られることを示している。
【0092】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態は、発光素子がフェイスアップ型のLEDチップである点において、第2の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
【0093】
〔発光装置の構成〕
図7(a)は、第3の実施の形態に係る発光装置20の垂直断面図である。
図7(b)は、発光装置20に含まれる発光素子200及びその周辺部の拡大図である。
図7(c)は、発光素子200の上面図である。
【0094】
発光装置20は、表面に配線12a、12bを有する基板11と、基板11上に搭載される発光素子発光素子200と、発光素子200上に設けられた単結晶蛍光体21と、発光素子200を囲む環状の側壁14と、発光素子200及び単結晶蛍光体21を封止する封止材15と、を有する。
【0095】
発光素子100は、フェイスアップ型のLEDチップであり、380〜490nmの波長に光量のピークを有する青色系の光を発光する。この発光素子200においては、サファイア等からなる素子基板201上に、n型不純物が添加されたGaN等からなるn型半導体層202、発光層203、及びp型不純物が添加されたGaN等からなるp型半導体層204、ITO(Indium Tin Oxide)等からなる透明電極207がこの順に積層されている。n型半導体層102の露出部分にはn側電極205aが、透明電極207の上面207b上にはp側電極205bが、それぞれ形成されている。
【0096】
発光層203は、n型半導体層202及びp型半導体層204からキャリアが注入されることにより、青色系の光を発する。発光層203から発せられた光は、p型半導体層204及び透明電極207を透過して、透明電極207の上面207bから出射される。すなわち、透明電極207の上面207bは発光素子200の光出射面である。
【0097】
透明電極207の上面207b上に、n側電極205a及びp側電極205bの設置位置に対応する部分に切り欠きを有する略四角形状の単結晶蛍光体21が配置されている。
【0098】
単結晶蛍光体21は、第1の実施の形態に係る単結晶蛍光体からなる平板状の単結晶蛍光体である。単結晶蛍光体21は1つの単結晶からなるため、粒界を含まない。
【0099】
また、単結晶蛍光体21は透明電極207の上面207b上に他の部材を介することなく直接設置されており、単結晶蛍光体21の透明電極207側の面である第1の面21aが透明電極207の上面207bに接触している。
【0100】
発光素子200のn側電極205aとp側電極205bは、ボンディングワイヤ206を介して配線12aと配線12bにそれぞれ接続されている。
【0101】
〔発光装置の動作〕
発光素子200に通電すると、配線12a、n側電極205a、及びn型半導体層202を介して電子が発光層203に注入され、また配線12b、p側電極205b、透明電極207、及びp型半導体層204を介して正孔が発光層203に注入されて、発光層203が発光する。
【0102】
発光層203から発せられた青色系の光は、p型半導体層204及び透明電極207を透過して透明電極207の上面207bから出射され、蛍光体21の第1の面21aに入射する。
【0103】
単結晶蛍光体21は、発光素子200から発せられた青色系の光の一部を吸収し、黄色系の蛍光を発する。
【0104】
発光素子200から発せられて単結晶蛍光体21へ向かう青色系の光のうちの一部は単結晶蛍光体21に吸収されて波長変換され、黄色系の光として単結晶蛍光体21の第2の面21bから出射される。また、発光素子200から発せられて単結晶蛍光体21へ向かう青色系の光のうちの一部は単結晶蛍光体21に吸収されずに第2の面21bから出射される。青色と黄色は補色関係にあるので、発光装置20は、青色光と黄色光とを混合した白色光を放射する。
【0105】
また、封止材15が赤色蛍光体を含む場合は、赤色蛍光体が発光素子200から発せられた青色系の光の一部を吸収し、赤色系の蛍光を発する。この場合、発光装置20は、青色光、黄色光、及び赤色光を混合した白色光を放射する。赤色光を混ぜることにより、白色光の演色性を高めることができる。
【0106】
[第4の実施の形態]
第4の実施の形態は、単結晶蛍光体の設置位置において、第2の実施の形態と異なる。なお、第2の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
【0107】
図8は、第4の実施の形態に係る発光装置30の垂直断面図である。発光装置30は、表面に配線12a、12bを有する基板11と、基板11上に搭載される発光素子発光素子100と、発光素子100の上方に設けられた単結晶蛍光体31と、発光素子100を囲む環状の側壁14と、発光素子100及び単結晶蛍光体21を封止する封止材15と、を有する。
【0108】
単結晶蛍光体31は、第1の実施の形態に係る単結晶蛍光体からなる平板状の単結晶蛍光体である。単結晶蛍光体31は1つの単結晶からなるため、粒界を含まない。
【0109】
単結晶蛍光体31は、側壁14の上面14b上に、環状の側壁14の開口部を塞ぐように設置されている。発光素子100の素子基板101の第2の主面101bから出射された光は、単結晶蛍光体31の第1の面31aに入射する。
【0110】
単結晶蛍光体31は、発光素子100から発せられた青色系の光の一部を吸収し、黄色系の蛍光を発する。
【0111】
発光素子100から発せられて単結晶蛍光体31へ向かう青色系の光のうちの一部は単結晶蛍光体31に吸収されて波長変換され、黄色系の光として単結晶蛍光体31の第2の面31bから出射される。また、発光素子100から発せられて単結晶蛍光体31へ向かう青色系の光のうちの一部は単結晶蛍光体31に吸収されずに第2の面31bから出射される。青色と黄色は補色関係にあるので、発光装置30は、青色光と黄色光とを混合した白色光を放射する。
【0112】
また、封止材15が赤色蛍光体を含む場合は、赤色蛍光体が発光素子100から発せられた青色系の光の一部を吸収し、赤色系の蛍光を発する。この場合、発光装置30は、青色光、黄色光、及び赤色光を混合した白色光を放射する。赤色光を混ぜることにより、白色光の演色性を高めることができる。なお、発光装置30が赤色蛍光体を含まない場合は、発光装置30は封止材15を有さなくてもよい。
【0113】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について、
図9を参照して説明する。
図9は、第5の実施の形態に係る発光装置40の垂直断面図である。
図9に示すように、本実施の形態では、蛍光体の状態及びその配置が第2の実施の形態とは異なっている。以下、第2の実施の形態と同一の機能及び構成を有する発光装置40の構成要素については共通する符号を付して説明を省略する。
【0114】
図9に示すように、発光装置40は、LED等の発光素子である発光素子100と、発光素子100を支持する基板11と、白色の樹脂からなる側壁14と、発光素子100を封止する封止材15とを有する。
【0115】
封止材15中には、粒状の単結晶蛍光体41が分散している。蛍光体41は、第1の実施の形態に係る単結晶蛍光体からなり、例えば、第1の実施の形態において製造された単結晶蛍光体インゴットを粉砕することにより得られる。
【0116】
封止材15中に分散した単結晶蛍光体41は、発光素子100から発せられた青色系の光の一部を吸収し、例えば、514〜546nmの波長に発光ピークを有する黄色系の蛍光を発する。単結晶蛍光体41に吸収されなかった青色系の光と、単結晶蛍光体41から発せられた黄色系の蛍光が混合し、白色の光が発光装置40から発せられる。
【0117】
なお、本実施の形態の単結晶蛍光体41は、他の実施の形態に適用されてもよい。すなわち、本実施の形態の単結晶蛍光体41を、第3の実施の形態の単結晶蛍光体21の代わりに用いてもよい。
【0118】
[比較例]
次に、比較例について、
図10を参照して説明する。
図10は、比較例に係る発光装置50の垂直断面図である。
図10に示すように、比較例では、粒子状の単結晶蛍光体を含む封止材の形状が第5の実施の形態とは異なっている。以下、第5の実施の形態と同一の機能及び構成を有する発光装置50の構成要素については共通する符号を付して説明を省略する。
【0119】
図10に示すように、発光装置50は、LED等の発光素子である発光素子100と、発光素子100を支持する基板11と、発光素子100の表面及び基板11の上面を覆うように設けられた封止材52とを有する。
【0120】
封止材52中には、粒子状の単結晶蛍光体51が分散している。単結晶蛍光体51は、第1の実施の形態の単結晶蛍光体からなり、例えば、第1の実施の形態において製造された単結晶蛍光体インゴットを粉砕することにより得られる。
【0121】
封止材52は、例えば、シリコーン系樹脂やエポキシ系樹脂等の透明樹脂、またはガラス等の透明無機材料である。なお、本実施の形態の封止材52は、塗布法等を用いる製造工程上、発光素子100の表面上だけでなく基板11上にも形成される場合があるが、基板11上には形成されなくてもよい。
【0122】
封止材52中に分散した単結晶蛍光体51は、発光素子100から発せられた青色系の光の一部を吸収し、例えば、514〜546nmの波長に発光ピークを有する黄色系の蛍光を発する。単結晶蛍光体51に吸収されなかった青色系の光と、単結晶蛍光体51から発せられた黄色系の蛍光が混合し、白色の光が発光装置50から発せられる。
【0123】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0124】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0125】
また、上記実施の形態は、エネルギー効率が高く、省エネルギーを実現することのできるLED発光装置等の発光装置、又はその発光装置に用いられる単結晶蛍光体であるため、省エネルギー効果を有する。