【実施例】
【0049】
実施例1.ヘパリン由来オリゴ糖の調製
24gのヘパリンを採取し、240mLのTris−HClバッファー溶液を加え、それを攪拌して溶かし、480IUのヘパリナーゼIを加え、均質状態まで攪拌し、16時間10℃で酵素反応を施した。反応が終了した後、反応混合物を6分間の不活性化のため95℃まで加熱し、10kDaの限外濾過遠心分離用チューブを用いて限外濾過した。Bio−GelP−10(2.5×100cm)クロマトグラフィー用カラム及び溶離剤として0.2MのNH
4HCO
3を用いて濾過物を分離し、1.75〜2.15倍のカラム体積分画を回収しヘパリン四糖混合物を得て、1.35〜1.75倍のカラム体積分画を回収しヘパリン由来六糖混合物を得て、1.05〜1.35倍のカラム体積分画を回収しヘパリン由来八糖混合物を得て、0.85〜1.05倍のカラム体積分画を回収しヘパリン由来十糖混合物を得て、0.75〜0.85倍のカラム体積分画を回収しヘパリン由来十二糖混合物を得た。ロータリーエバポレーションによりNH
4HCO
3を除去した後、対応するヘパリン由来オリゴ糖を凍結乾燥によって得た。
【0050】
Bio−GelP−10(2.5×100cm)クロマトグラフィー用カラムによるヘパリン由来オリゴ糖の分離を示すグラフである
図1中に示したように、P10カラムによる分離後、ヘパリン由来オリゴ糖は異なる分子量に基づき異なるピークに分離されることを見ることができ、ピークの先端で分画を回収することによって異なる重合度を有するオリゴ糖を得ることができる。
【0051】
図2は、同一重合度を有する得られたヘパリン由来オリゴ糖の分子量分布を示す。オリゴ糖の分子量分布ピークは急激で対称的であることをグラフから見ることができ、オリゴ糖の分子量分布は狭い範囲内にあったことを示し、一方で分子量分布は十二糖から四糖に徐々に減少し、これらのオリゴ糖が品質要件に見合うことを示した。
【0052】
ヘパリン由来オリゴ糖の構造をUPLC−MS等の手段によって特徴付けし検証した。例えば、
図3は本発明中で得たヘパリン由来十糖のUPLC−MSにおける全体イオン質量スペクトルであり、
図4はヘパリン由来十糖の全体イオンスペクトルにおける対応するピークの属性を示すグラフであり、(x、y及びzの具体的な値をグラフ中に与える)ΔUx、y、zにおいて、xはオリゴ糖鎖中の糖単位の数を表し、yはオリゴ糖鎖中のスルホン基の全数を表し、zはオリゴ糖鎖中のアセチル基の全数を表し、LRは連結領域を表す。
図4中の構造属性によれば、ヘパリン由来十糖中、オリゴ糖は大部分がヘパリン由来十糖であり、わずか一部分のみが高硫酸化ヘパリン由来八糖である。前述の特徴結果は、オリゴ糖の調製は成功であり純度要件に見合うことを示す。
【0053】
実施例2.20%〜80%硫酸化ヘパリン由来オリゴ糖の調製
0.54gのヘパリン由来オリゴ糖の出発物質を計量し、反応フラスコに移し、25mLの無水DMFを加え、攪拌して溶かした。攪拌しながら、0.86gの(CH
3)
3N・SO
3を計量し、前述の溶液に徐々に加え、10分間攪拌した。反応フラスコには適切にキャップを付け、油浴中に80℃で置き4時間攪拌した。室温まで冷却放置する前に反応を停止させた。固体は90mLの精製水中に溶かし、pHは2MのNaOHでほぼ中性に調節した。100〜500Daの分子量カットオフがある透析用バッグに溶液を移し、3日間の透析後、BaCl
2を用いて透析物を検出し、多量のサルフェートラジカル(sulfate radicals)がその中に存在するかどうか決定した。存在しない場合、最初にpHを2MのNaOHで中性に調節し、ロータリーエバポレーターで約10mLに濃縮した。混合物はP2カラムに充填し、精製水で溶出し、溶出液はフラクションコレクターを用いて回収した。232nmにおける吸光度を検出してヘパリン由来八糖誘導体の位置を決定し、回収した溶液はBaCl
2を用いて検出して多量のサルフェートラジカルがその中に存在するかどうか決定し、ヘパリン由来八糖硫酸化誘導体の無塩分画を回収した。この物質を約10mLに濃縮し、Dowex陽イオン交換カラムに充填し、精製水で溶出し、溶出液はフラクションコレクターを用いて回収し、232nmにおける吸光度を検出してヘパリン由来八糖誘導体の位置を決定した。ヘパリン由来八糖誘導体を含む分画を回収し、0.1M高純度NaOH溶液を用いてpH7.0に慎重に調節し、濃縮し凍結乾燥して20%硫酸化ヘパリン由来オリゴ糖を得た。
【0054】
0.54gのヘパリン由来オリゴ糖の出発物質に関して、表1中に示したように反応の出発物質における(CH
3)
3N・SO
3の供給量を調節すること、及び反応温度と反応時間を調節することによって、制御可能な形式で、示した硫酸化度を有するヘパリン由来オリゴ糖を得ることができる。
【表1】
【0055】
例えば、以下に示したような反応条件及び供給量の調節によって、対応する硫酸化度を有するヘパリン由来オリゴ糖を得ることができる。
【0056】
(CH
3)
3N・SO
3の量を1.67gに調節し、反応温度は90℃に調節し、反応時間は4時間に調節し、残りの手順は同一で、40%硫酸化ヘパリン由来オリゴ糖を得た。
【0057】
(CH
3)
3N・SO
3の量を3.34gに調節し、反応温度は90℃に調節し、反応時間は6時間に調節し、残りの手順は同一で、60%硫酸化ヘパリン由来オリゴ糖を得た。
【0058】
(CH
3)
3N・SO
3の量を5.01gに調節し、反応温度は100℃に調節し、反応時間は8時間に調節し、残りの手順は同一で、80%硫酸化ヘパリン由来オリゴ糖を得た。
【0059】
図5は、ヘパリン由来八糖(A)及び40%硫酸化ヘパリン由来オリゴ糖(B)のHSQCスペクトル及び対応する一次元水素スペクトルを示す(δHppm6.1〜3.165/δCppm112〜52.6)。硫酸化反応後、ヘパリン由来八糖のシグナルピークが有意に変化し、天然ヘパリンと異なる構造の存在を示す多くの新たなシグナルが存在することをグラフから見ることができ、これは硫酸化誘導体の予想と一致する。
【0060】
実施例3.40%及び60%硫酸化ヘパリン由来八糖のヘパラナーゼ阻害活性
硫酸化ヘパリン由来オリゴ糖のヘパラナーゼ阻害活性を、参照文献[Hammond E,Li CP,FerroV.Development of a colorimetric assay for heparanase activity suitable for kinetic analysis and inhibitor screening.Anal.Biochem.2011;396:112−116]中に記載された方法で決定した。詳細には、実験手順は以下の通りであった。
【0061】
試験群の反応溶液は、40mMの酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)、100mMのフォンダパリヌクス、及び特定濃度の硫酸化ヘパリン由来八糖を含んでおり、対照群の反応溶液中では、硫酸化ヘパリン由来八糖の濃度と同じSST0001対照に硫酸化ヘパリン由来八糖を置き換えた。試験群又は対照群の反応溶液100μLを96ウエルプレート中の各ウエルに加え、ヘパラナーゼを140pMの最終濃度までそれぞれ加えて反応を開始した。96ウエルプレートはテープで密封し、37℃で2〜24時間インキュベートした。反応が終了した後、0.1M NaOH中1.69mM WST−1を含有する溶液100μLを加えて反応を停止させた。96ウエルプレートを再度密封し、60℃で60分間インキュベートした。室温まで冷却した後、584nmにおける吸光度値を測定した。作用物質の阻害率は以下の方法に従い計算した:
阻害率=(1−試料の吸光度値/対照の吸光度値)×100%
【0062】
前述の方法に従い測定した硫酸化ヘパリン由来オリゴ糖のヘパラナーゼ阻害活性を
図6中に示す。ヘパラナーゼに対する40%硫酸化ヘパリン由来八糖(Hep8−40%)の半数最大阻害濃度(IC50)は43ng/mLであり、ヘパラナーゼに対する60%硫酸化ヘパリン由来八糖(Hep8−60%)の半数最大阻害濃度(IC50)は57ng/mLであったことをグラフから見ることができる。
【0063】
実施例4.20%及び60%硫酸化ヘパリン由来八糖の細胞接着アッセイ
この実施例中では、以下の方法を利用して20%及び60%硫酸化ヘパリン由来八糖の細胞接着を決定した。
【0064】
(1)基底膜のコーティング:それぞれ滅菌2回蒸留水で2溶液を調製し、10g/LのBSA(1%)、及び50mg/Lのマトリゲル(Matrigel)、1:8希釈、マトリゲルはそれぞれ50μL/ウエルで96ウエル培養プレートに加え、4℃で一晩インキュベートした;
【0065】
(2)基底膜の水和:残留液を培養プレートから吸引し、10g/LのBSAを含有する50μLの無血清培地を各ウエルに加え、37℃で30分間放置した。
【0066】
(3)細胞の調製:正常培養したHeLa細胞を採取し、PBSで3回洗浄し、細胞は(薬剤を加えず対応する体積のPBSのみ加えた)対照群と(ヘパリンと硫酸化ヘパリン由来八糖をいずれも62.5μg/mLの濃度で加えた)試験群に分け、24時間培養した。
【0067】
(4)細胞の接種:ステップ(3)中で24時間正常培養した又はヘパリン/HSオリゴ糖誘導体を用いて処理した腫瘍細胞を採取し、0.5mLのパンクレアチンで消化する前にPBSで3回洗浄した。消化は注意深くモニタリングし、消化後、5mLの培養培地を加え、細胞は全体ピペッティングにより分散させ単細胞懸濁液を形成した。細胞を計数し、細胞懸濁液の濃度を計数結果に従い調節して1mLあたり10
5個細胞の細胞密度を得た。細胞懸濁液はマトリゲルをコーティングした96ウエル培養プレートにウエルあたり100μL接種し、試料は三連で処理した;
【0068】
(5)細胞の培養:細胞を37℃において1時間二酸化炭素インキュベーター内で培養し、各ウエル中の培養液を廃棄した後PBSで1回洗浄した。次いでウエルあたり200μLの新たな培養培地を加え、プレートを観察し写真撮影した。
【0069】
(6)検出:10μLのCCK−8色素溶液を各ウエルに加え、プレートは37℃において3時間二酸化炭素インキュベーター内でインキュベートし、多機能性マイクロプレートリーダーで読み取った。ヘパリン対照群を参照として、阻害率を以下の式に従い計算した。
阻害率=(1−処理群の吸光度値/対照群の吸光度値)×100%
【0070】
前述の方法に従うと、HeLa細胞接着に対するヘパリンの阻害率は8.3%であり、HeLa細胞接着に対する20%硫酸化ヘパリン由来八糖(Hep8−20%)の阻害率は45.3%であり、HeLa細胞接着に対する60%硫酸化ヘパリン由来八糖(Hep8−60%)の阻害率は37.9%であった。
【0071】
実施例5.40%及び60%硫酸化ヘパリン由来八糖の細胞移動アッセイ
この実施例中では、以下の方法により40%及び60%硫酸化ヘパリン由来八糖で細胞移動を測定した。
(1)試験前に、トランスウエル(Transwell)チャンバーを24ウエルプレート中に置き、600μLのDMEM液体培地を下部チャンバーに加え、100μLのDMEM液体培地を上部チャンバーに加え、チャンバーは更なる使用のためインキュベーター内に一晩放置した;
(2)細胞の調製:対数増殖期中のHeLa細胞を採取し、パンクレアチンで消化し、細胞濃度を計算し、細胞は(ヘパリン又はヘパリン由来オリゴ糖を加えず対応する体積のPBSのみ加えた)対照群と(ヘパリンと硫酸化ヘパリン由来八糖をいずれも62.5μg/mLの濃度で加えた)試験群に分けた。2.5%BSAを含有する無血清DMEM培地及び対応するヘパリン由来オリゴ糖を含有する無血清、2.5%BSA DMEM培地で細胞を希釈し、細胞濃度を1mLあたり2.5×10
5個細胞に調節した。
(3)5%FBSを含有する800μLの培養培地をトランスウエルチャンバーの下部チャンバーに加えた。
(4)ステップ(2)中の400μLの細胞懸濁液をトランスウエルチャンバーの上部チャンバーに加えた。
(5)チャンバーを8時間5%CO
2下で37℃において、インキュベーター内でインキュベートした。
(6)上部チャンバー中の液体を注意深く除去し、チャンバー膜の内部表面をコットンスワブで軽く拭いて非移動細胞を除去した。チャンバー膜の損傷を回避するため、作業は穏やかでなければならないことに留意しなければならない。
(7)400μLの細胞染色液を含有する別の24ウエルプレートにチャンバーを移し、細胞は10分間室温で染色した。
(8)トランスウエルチャンバーを蒸留水で3〜5回軽く洗浄し、自然乾燥させるため室温で放置した。
(9)細胞は顕微鏡下で計数し写真撮影した。
(10)別のクリーンな24ウエルプレートにチャンバーを移し、200μLの細胞溶解液を各ウエルに加え、チャンバーはシェーカー上に置いた。
(11)室温で10分間のインキュベーション後、100μLの細胞溶解液を96ウエルプレートに加え、吸光度値を560nmで読み取った。ヘパリン対照群を参照として、移動率及び阻害率を以下の式に従い計算した:
移動率=処理群の吸光度値/対照群の吸光度値×100%
阻害率=[1−(処理群の接着率/対照群の接着率)]×100%
【0072】
前述の方法に従った細胞接着の結果は
図7中に示し、HeLa細胞移動に対するヘパリンの阻害率は12.6%であり、HeLa細胞移動に対する40%硫酸化ヘパリン由来八糖(Hep8−40%)の阻害率は57.3%であり、HeLa細胞移動に対する60%硫酸化ヘパリン由来八糖(Hep8−60%)の阻害率は43.5%であることを示す。
【0073】
実施例6.40%及び60%硫酸化ヘパリン由来八糖の抗腫瘍転移活性
この実施例中では、以下の方法に従い40%及び60%硫酸化ヘパリン由来八糖の抗腫瘍転移活性を決定した。
【0074】
B16−BL6マウスメラノーマ細胞(2×10
5個)を、尾静脈を介してC57BL/6マウスに注射し、マウスは、群あたり10マウスで、(ヘパリン由来オリゴ糖を加えず対照としてPBSを利用した)対照群と(それぞれのマウスに200μg、40%硫酸化ヘパリン由来八糖を加えた)試験群に分けた。3週間後、マウスを解剖し、マウスの肺をブアン液中に固定し、マウスの肺中の腫瘍の数を計算した。本発明者らは、ルシフェラーゼ標識B16−BL6マウスメラノーマ細胞を利用することによりIVIS−200蛍光イメージングシステムを介して、週に1回転移性腫瘍の形成を検出した。2.5mgフルオレセインの腹腔内注射後10分で写真を撮影した。
【0075】
前述の方法に従った抗腫瘍転移活性の結果は
図8中に示す。マウスにおける腫瘍転移に対するヘパリンの阻害率は17.3%であり、マウスにおける腫瘍転移に対する40%硫酸化ヘパリン由来八糖(Hep8−40%)の阻害率は65.1%であり、マウスにおける腫瘍転移に対する60%硫酸化ヘパリン由来八糖(Hep8−60%)の阻害率は56.2%であることをグラフから見ることができる。
【0076】
ここで本出願人は、本発明における前述の実施例は、本発明の硫酸化ヘパリン由来オリゴ糖、その調製法及び使用を例証するために提供するが、本発明は前述の実施例に限定されない、すなわち、本発明が実現を前述の実施例に依存しなければならないことを意味するわけではないことを言及する。本発明に対する任意の変更、本発明における利用材料の同等の交換及び補助成分の追加、並びに具体的実施形態の選択等は、本発明の保護及び開示範囲内にあり得ることは、当業者によって理解されるはずである。