(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明は、アセトアミノフェンを含有するアセトアミノフェン水溶液を酸素透過性容器に充填して高圧蒸気滅菌したアセトアミノフェン水溶液入り容器を、脱酸素剤と共に、酸素難透過性の包装容器内に収容して密封したアセトアミノフェン注射液製剤である。
アセトアミノフェンとしては、アセトアミノフェン注射液製剤やアセトアミノフェン経口製剤、アセトアミノフェン坐剤などにおいて用いられているアセトアミノフェンであればいずれも使用することができ、アセトアミノフェンあるいはアセトアミノフェンの生理学的に許容される塩のいずれもが使用できる。
【0015】
本発明のアセトアミノフェン注射液製剤では、酸素透過性容器に充填されているアセトアミノフェン水溶液のpHは4〜8であり、pHが5〜6であることが好ましい。アセトアミノフェン水溶液のpHが4よりも低いと、アセトアミノフェンの保存安定性が低下し、一方pHが8より高いと、注射液として血管に投与した場合に血管に刺激を与えて血管痛や炎症を起こし易くなる。
アセトアミノフェン水溶液のpH調整は、注射液において従来から用いられているpH調整剤を用いて行なうことができ、pH調整剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基、塩酸などの無機酸、生体内に投与される塩を考慮する際、最小限に抑えられるクエン酸、乳酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機酸を挙げることができる。そのうちでも、本発明のアセトアミノフェン注射液製剤は、水酸化ナトリウムおよび/または塩酸を用いてpH調整されていることが、生体内に投与される塩を考慮する際、最小限に抑えられる点から好ましい。
【0016】
酸素透過性容器に充填されているアセトアミノフェン水溶液は、医薬上で、薬理学的および生理学的に許容されうる「水」を用いて調製されていずれでもよく、当該「水」としては、例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水などを挙げることができる。これらの水の定義は第十六改正日本薬局方に基づく。
【0017】
アセトアミノフェン水溶液におけるアセトアミノフェンの濃度は、静注剤としての有効性や投与すべき濃度(量)、水溶液としての溶解性の点から、2〜50mg/mLであることが好ましく、5〜10mg/mLであることがより好ましい。
アセトアミノフェン水溶液におけるアセトアミノフェンの濃度が低すぎると、患者に投与する液量が増えることとなり、一方濃度が高すぎるとアセトアミノフェンの溶解性が低いことから、低温において結晶が析出し易くなる。
【0018】
アセトアミノフェン水溶液は、上記したpH調整剤の他に、等張化剤、抗酸化剤および緩衝剤の1種または2種以上を含有することが好ましい。
等張化剤としては、注射液製剤において従来から用いられている等張化剤を用いることができ、例えば、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、グルコース、プロピレングリコール、グリセロールなどの非イオン性等張化剤、塩化ナトリウムなどのイオン性等張化剤などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、マンニトールが安全性や滅菌処理に対する安定性の点から好ましく用いられる。
等張化剤の含有量は、アセトアミノフェン注射液製剤の浸透圧が、血清の浸透圧と等しいかまたはほぼ等しい、浸透圧比が0.9〜1.1となる量とするのがよい。
【0019】
抗酸化剤としては、注射液製剤において従来から用いられている抗酸化剤を用いることができ、例えば、システインなどのチオール官能基を有する有機化合物またはその塩、あるいはそれらの水和物(システイン塩酸塩水和物など)、亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸塩、アスコルビン酸またはその塩、ジブチルヒドロキシトルエンなどを挙げることができる。そのうちでも、システイン塩酸塩水和物が生体に対してより生理的である点から好ましく用いられる。具体的にはシステイン塩酸塩・一水和物を挙げることができる。
【0020】
緩衝剤としては、注射液製剤において従来から用いられている緩衝剤を用いることができ、例えば、リン酸またはその塩、あるいはその水和物(リン酸水素ナトリウム水和物など)、クエン酸またはその塩、あるいはその水和物、酢酸またはその塩、或いはその水和物などを挙げることができる。そのうちでも、無水リン酸水素ナトリウムまたはリン酸水素ナトリウム水和物が原薬の安定性や溶解性の点から好ましく用いられる。リン酸水素ナトリウムとしてはリン酸水素二ナトリウムがこのましく、リン酸水素ナトリウムの水和物としては二水和物、七水和物あるいは十二水和物であることが好ましい。
【0021】
アセトアミノフェン水溶液は、上記した成分の他に、必要に応じて、鎮痛剤、抗炎症剤、抗嘔吐剤、抗てんかん剤、抗うつ剤、抗ウィルス剤などの医薬有効成分、またはポリオール、錯化剤、アルカノール、ビタミンなどの添加剤の1種または2種以上を含有することができる。
【0022】
アセトアミノフェン水溶液の調製方法は特に制限されず、アセトアミノフェンおよび上記した成分が、変質したり分解したりすることなく均一に溶解したアセトアミノフェン水溶液が得られる方法であればいずれの方法で調製してもよい。
アセトアミノフェン水溶液の調製は大気(空気)中で行なってもよいし、不活性ガスの雰囲気中で行なってもよいし、空気と不活性ガスの混合ガスの雰囲気中で行ってもよい。
アセトアミノフェン水溶液の調製を空気と不活性ガスの混合ガスの雰囲気中で行う場合は、空気:不活性ガス=1:99〜99:1(容積比)の混合ガスを用いることができ、10:90〜90:10(容積比)の混合ガスを用いることが好ましい。
更に、アセトアミノフェン水溶液の調製時および/または調製後にアセトアミノフェン水溶液中に不活性ガスをバブリングして(吹き込んで)、アセトアミノフェン水溶液中の酸素を低減させてもよいし、またはアセトアミノフェン水溶液の調製時および調製後に不活性ガスのバブリングを行わずに、そのまま酸素透過性容器に充填してもよい。
アセトアミノフェン水溶液中にバブリングする不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどを挙げることができ、そのうちでも窒素ガスが、安価に入手し易い点から好ましく用いられる。
【0023】
アセトアミノフェン水溶液を酸素透過性容器に充填する。
酸素透過性容器は、酸素透過性で且つ液体(水)非透過性であって、毒性がなく、アセトアミノフェンを吸着せず、しかも高圧蒸気滅菌時の温度に耐え得る材料からなる容器であればいずれでもよい。
酸素透過性容器の酸素透過度は、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、200cm
3/m
2・day以上であることが好ましく、500cm
3/m
2・day以上であることがより好ましく、700cm
3/m
2・day以上であることが更に好ましく、700〜10000cm
3/m
2・dayであることが特に好ましい。
23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときの酸素透過性容器の酸素透過度が200cm
3/m
2・day以上であれば、酸素透過性容器への充填時に持ち込まれて酸素透過性容器内のアセトアミノフェン水溶液やヘッドスペースに含まれている酸素を、脱酸素剤によって酸素透過性容器を通して十分に吸収して除去することができる。
酸素透過性容器の酸素透過度が高ければ高いほど、酸素透過性容器内に充填されたアセトアミノフェン水溶液中の酸素や酸素透過性容器のヘッドスペースに含まれている酸素が脱酸素剤により吸収されて除かれ易くなることから好ましい。
【0024】
酸素透過性容器は、軟質の容器であってもまたは硬質の容器であってもいずれもよいが、酸素透過性で且つ液体(水)を通さない有機重合体から形成されていることが好ましく、酸素透過性で且つ液体(水)を通さない有機重合体製のフィルムまたはシート、特に有機重合体製の軟質(可撓性)のフィルムまたはシートから形成されていることがより好ましい。
酸素透過性容器を形成する、酸素透過性で且つ液体(水)非透過性の有機重合体の好ましい例としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の混合物、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル系樹脂、各種熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。硬質の有機重合体をベースとして用いて柔軟性のある酸素透過性容器を製造する場合は、硬質の有機重合体にそれと相溶性の軟質の有機重合体(例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーなど)や可塑剤などを配合した有機重合体組成物を用いることによって、柔軟性のある酸素透過性容器を製造することができる。
酸素透過性容器は、前記した有機重合体の単層からなっていてもよいし、または2層以上からなる多層構造を有していてもよい。
【0025】
酸素透過性容器が、酸素透過性の有機重合体製のフィルムまたはシートから形成されている場合は、酸素透過性容器の厚さ(壁部の厚さ)は、酸素透過性という性能と容器としての性能を両立させるために、50〜500μmであることが好ましく、100〜300μmであることがより好ましい。酸素透過性容器の厚さが50μm以上であれば、容器として適した強度を得やすく、高圧蒸気滅菌にも耐えやすい、また、酸素透過性容器の厚さが500μm以下であれば、酸素透過性を発現しやすく、またアセトアミノフェン注射液製剤をソフトバッグ形態にものにしたときに適度な柔軟性を付与しやすい。
【0026】
酸素透過性容器には、容器に充填したアセトアミノフェン水溶液(アセトアミノフェン注射液)を患者に投与する際に排出するための口部を設けることが望ましい。当該口部には、排出時に穿刺針を使用する場合には弾性栓が設ける。弾性栓はエラストマーやゴムなどで形成され、穿刺針が刺通可能なものとなっており、弾性栓は穿刺針を抜いたときに穿刺痕が閉じるように再シール性を有していることが好ましい。このような弾性栓の材質としては、例えば、ブチルゴム、イソプレンゴム、塩素化ブチルゴム(クロロプレン)などが挙げられる。さらに、弾性栓に含まれる成分がアセトアミノフェン水溶液中に溶け出さないようにするために、弾性栓の少なくともアセトアミノフェン水溶液と接触する接液面を、フッ素系樹脂、ポリパラキシリレン、DLC(ダイアモンドドライカーボノン)、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの被覆層や蒸着層などによって被覆しておいてもよい。
【0027】
酸素透過性容器の形状は特に制限されず、例えば、袋状(バッグ形状)、ボトル状、シリンジ状、ブリスター状などを挙げることができる。
酸素透過性容器の製法は特に制限されず、酸素透過性容器を形成する材料の種類、酸素透過性容器の形状などに応じて適当な製法を採用することができ、例えば、上記した有機重合体を用いて、押出ブロー成形法、射出ブロー成形法、インフレーション成形法、射出成形法、注型法、平坦なフィルムまたはシートを作製し当該シートまたは折り重ねて周囲を熱などで融着する方法、筒状のフィルムまたはシートを作製し当該筒状フィルムまたはシートの底部となる部分および上部を熱などで融着する方法、筒状体を作製し蓋と底付けを行う方法などを採用して製造することができる。
酸素透過性容器のサイズは特に制限されず、アセトアミノフェン注射液製剤の使用形態、製剤の濃度などに応じて異なり得るが、一般的には、内容積が20〜500cm
3、特に50〜100cm
3となるようなサイズにしておくことが、取り扱い性、患者の水分管理などの点から好ましい。
【0028】
酸素透過性容器へのアセトアミノフェン水溶液の充填は、空気中(大気中)で行なってもよいし、不活性ガス雰囲気中で行ってもよいし、空気と不活性ガスの混合ガスの雰囲気中で行なってもよい。不活性ガスを用いる場合は、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどの不活性ガスを用いることができ、そのうちでも窒素ガスが、安価に入手できる点から好ましく用いられる。また、充填後に脱気処理を行ってもよい。
酸素透過性容器へのアセトアミノフェン水溶液の充填を空気と不活性ガスの混合ガスの雰囲気中で行う場合は、空気:不活性ガス=1:99〜99:1(容積比)の混合ガスを用いることができ、10:90〜90:10(容積比)の混合ガスを用いることが好ましい。
【0029】
アセトアミノフェン水溶液を充填した酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌は、滅菌媒体として水蒸気を用い加圧媒体として空気を用いて行なってもよいし、滅菌媒体として水蒸気を用い加圧媒体として不活性ガスを用いて行なってもよいし、または滅菌媒体として水蒸気を用い加圧媒体として空気と不活性ガスの混合ガスを用いて行ってもよい。その際の不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどの不活性ガスを挙げることができ、そのうちでも窒素ガスが安価に入手できる点から好ましく用いられる。
加圧媒体として空気と不活性ガスの混合ガスを用いる場合は、空気:不活性ガス=1:99〜99:1(容積比)である混合ガスを用いることができ、10:90〜90:10(容積比)の混合ガスを用いることが好ましい。
高圧蒸気滅菌を行う際の温度・圧力・時間等の滅菌条件は、注射液剤を滅菌する際に通常実施されている条件で良い。例えば、温度は100〜129℃、特に115〜124℃であることが好ましい。
【0030】
本発明では、容器充填前のアセトアミノフェン水溶液の調製、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填および高圧蒸気滅菌のうちの少なくとも1つ、2つまたは全てが不活性ガスの導入下または不活性ガス雰囲気中で行なわれていてもよいし、或いは容器充填前のアセトアミノフェン水溶液の調製、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填および高圧蒸気滅菌の全てが空気中で行なわれていてもよい。
具体的には、本発明では、
(1)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングの両方が行われ、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が不活性ガスの雰囲気中で行なわれ且つアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が不活性ガスを加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;
(2)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングのいずれか一方または両方が行なわれ且つアセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が不活性ガス雰囲気中で行なわれ、その一方でアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が空気を加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;
(3)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングのいずれか一方または両方が行なわれず、その一方でアセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が不活性ガス雰囲気中で行なわれ且つアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が不活性ガスを加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;
(4)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングのいずれか一方または両方が行なわれず且つアセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が不活性ガス雰囲気中で行なわれていて、その一方でアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が空気を加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;
(5)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングのいずれか一方または両方が行なわれ、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が空気中で行なわれ、アセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が不活性ガスを加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;
(6)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングの両方が行なわれず、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が空気中で行なわれ、且つアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が空気を加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;或いは、
(7)上記(1)〜(6)のいずれかにおいて、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が空気と不活性ガスの混合ガスを用いて行なわれているか、および/またはアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が空気と不活性ガスの混合ガスを加圧媒体として用いて行なわれていてもよい。
【0031】
高圧蒸気滅菌したアセトアミノフェン水溶液入りの酸素透過性容器を、脱酸素剤と共に、酸素難透過性の包装容器内に収容して密封する。
酸素難透過性の包装容器は、アセトアミノフェン水溶液入りの酸素透過性容器と脱酸素剤を収容できる、酸素難透過性で毒性のない容器であればいずれもよい。
酸素難透過性の包装容器の酸素透過度は、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、1.0cm
3/m
2・day以下であることが好ましく、0.3cm
3/m
2・day以下であることがより好ましく、0.1cm
3/m
2・day以下であることが更に好ましい。
23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときの酸素難透過性の包装容器の酸素透過度が1.0cm
3/m
2・day以下であれば、酸素透過性容器への充填時に持ち込まれて酸素透過性容器内のアセトアミノフェン水溶液やヘッドスペースに含まれている酸素を、包装容器の外部からの包装容器内への空気(酸素)の通過を遮断しながら、脱酸素剤によって酸素透過性容器を通して十分に吸収して酸素透過性容器内の酸素を低減することができる。
酸素難透過性の包装容器の酸素透過度が低ければ低いほど、酸素透過性容器内に充填されたアセトアミノフェン水溶液中の酸素や酸素透過性容器のヘッドスペースに含まれている酸素が脱酸素剤によって吸収されて除かれ易くなるために好ましい。
【0032】
酸素難透過性の包装容器は、軟質の容器であってもまたは硬質の容器であってもいずれもよいが、有機重合体を用いた酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成されていることが好ましく、特に有機重合体を用いた酸素難透過性の軟質(可撓性)のフィルムまたはシートから形成されていることがより好ましい。
酸素難透過性の包装容器を形成するための材料としては、例えば、アルミ箔などの酸素難透過性金属箔、酸化珪素系、酸化アルミニウム系、酸化チタン系などのセラミックや金属を有機重合体製の基材フィルムやシートに蒸着した蒸着フィルムや蒸着シート(例えば、アルミ蒸着有機重合体フィルムやシート、シリカ蒸着有機重合体フィルムやシート、酸化チタン蒸着有機重合体フィルムやシート)、DLC(ダイアモンドライクコーティング)層を有する有機重合体フィルムやシート、ポリビニルアルコールやエチレンビニルアルコールなどのような酸素難透過性を有する樹脂から形成された酸素難透過性フィルムやシート、ポリビニルアルコールやエチレンビニルアルコールなどのような酸素難透過性を有する樹脂層同士を積層した積層フィルムや積層シート、前記した酸素難透過性のフィルムやシートの1つまたは2つ以上を他の有機重合体よりなる層と積層した多層フィルムや多層シートなどを挙げることができる。
酸素難透過性の包装容器が有機重合体を用いた酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成されている場合は、当該酸素難透過性のフィルムまたはシートを折りたたんで周囲をヒートシールして包装容器を形成することが多いことから、折りたたんでときに最内面となる部分が少なくともヒートシール性の有機重合体から形成されていることが好ましい。
【0033】
限定されるものではないが、酸素難透過性の包装容器用の材料として、本発明で用い得る材料の具体例としては、
・ポリプロピレン(PP)/シリカ蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)/ポリプロピレン(PP)をこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・2軸延伸ポリアミド(OPA)/ポリエチレン(PE)/アルミニウム蒸着PET/ポリエチレン(PE)をこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・OPA/PE/アルミニウム蒸着PET/PEをこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・OPA/PE/アルミニウム箔/PE/PEをこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・OPA/PE/アルミニウム箔/PE/PET/PEをこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・PET/PE/アルミニウム蒸着PET/PE/エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)/PEをこの順で積層した多層フィルムまたは多層シート;
・ポリ塩化ビニリデン/PE/アルミニウム蒸着PET/PEをこの順で積層した多層フィルムまたは多層シート;
・PET/アルミニウム蒸着エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)/PEをこの順で積層した多層フィルムまたは多層シート;
などを挙げることができる。
【0034】
酸素難透過性の包装容器が、有機重合体を用いた酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成されている場合は、酸素難透過性と包装容器としての性能を両立させるために、厚さが50〜150μm、特に65〜100μmの酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成されていることが好ましい。酸素難透過性の包装容器を形成するフィルムまたはシートの厚さが50μm以上であれば、包装容器として適した強度が得られ易く、また150μm以下であれば、アセトアミノフェン注射液製剤がソフトバッグタイプの製剤である場合に適度な柔軟性および軽量性を付与し易くなる。
【0035】
アセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器と共に酸素難透過性の包装容器内に収容される脱酸素剤としては、使用上で毒性などの問題がなく、酸素を効率的に吸収して雰囲気中の酸素量を低減させるものであれば、いずれのものでも使用することができる。
脱酸素剤としては、鉄粉などの金属粉末を主体とするもの、亜硫酸塩、ハロゲン化金属などの無機物を主体とするもの、アスコルビン酸やポリフェノールなどの有機物を主体とするものなど、色々な種類のものが知られており、毒性がなくかつ酸素吸収性能に優れるものであれば、いずれも使用できる。
また、酸素吸収と共に炭酸ガスを同時に吸収するもの、酸素吸収と共に炭酸ガスを排出するものもあるが、本発明ではいずれも使用可能である。
脱酸素剤の形態としては、酸素透過性の袋に上記した脱酸素性能を有する物質を封入したもの、酸素吸収剤を練りこんだフィルム、酸素吸収剤を使用した成形容器、両方の表面層が酸素難透過性の層でそれらの層の内側に脱酸素性の層が配置された積層構造を有し当該積層体の側面から酸素を吸収するようにしたものなど、種々のものが知られているが、毒性がなく且つ酸素吸収性能に優れるものであれば、いずれも使用できる。
市販のものとしては、三菱ガス化学社製の“エージレス(登録商標)”などが知られており、エージレスは本発明において好適に使用できる。
脱酸素剤の脱酸素性能からは、酸素透過性容器内に充填されたアセトアミノフェン水溶液100mLに対して、常温(25℃)および大気圧下で、20時間で酸素を100cm
3以上、好ましくは200cm
3以上、特に400cm
3以上の量で吸収することのできる脱酸素剤が好ましく用いられる。
具体的には、三菱ガス化学株式会社製「エージレス(登録商標)ZH−200」、酸素吸収量=200cm
3/20時間以上(大気圧下)を挙げることができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例などによって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例によって何ら限定されない。
以下の例において、注射用水およびアセトアミノフェン水溶液中の酸素濃度は、以下の方法により測定した。
【0037】
[注射用水およびアセトアミノフェン水溶液中の酸素濃度の測定]
溶存酸素測定用センサー(Mettler Toledo社製 Inlab605)を用いて、溶液中の酸素濃度を測定した。
【0038】
《実施例1》
(1) 窒素ガス雰囲気中(窒素ブース中)で、35℃に加温した注射用水に窒素ガスバブリングして酸素濃度を1mg/L以下に保ち、D−マンニトール1925g、リン酸水素二ナトリウム・十二水和物13g、アセトアミノフェン500gを加えて攪拌溶解し、室温まで冷却した後にL−システイン塩酸塩・一水和物12.5gを加えて溶解した。次いで、水酸化ナトリウムおよび塩酸でpHを5.5に調整し、注射用水を加えて全量を50Lとして、アセトアミノフェン水溶液を調製した。
(2) 上記(1)で得られたアセトアミノフェン水溶液を、窒素ガスと空気の混合ガス(窒素ガス:空気=80:20の容積比)の雰囲気中で、100mL容の酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ[23℃、90%RHおよび1気圧で測定した酸素透過度=809cm
3/m
2・day、層構造=ポリプロピレン/ポリプロピレン/ポリプロピレンの三層フィルム、厚さ=264μm)に、100mLずつ充填し、イソプレン製ゴム栓によりシールした。
(3) 上記(2)で得られたアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、窒素ガスを加圧媒体として高圧蒸気滅菌(121℃で15分間)を行った。
(4) 上記(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器を、酸素難透過性の三方シール袋[PP/シリカ蒸着PET/PPからなる三層構造フィルム(23℃、90%RHおよび1気圧で測定した酸素透過度=0.15cm
3/m
2・day、厚さ=66μm)をから作製した三方をシールし一方を開口した袋]に、脱酸素剤[三菱ガス化学株式会社製「エージレス(登録商標)ZH−200」、酸素吸収量=200cm
3/20時間以上、大気圧下)1個と共に収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0039】
《実施例2》
(1) 実施例1の(1)において、窒素ブースを用いずに空気中で、窒素ガスバブリングを行わずに、それ以外は実施例1の(1)と同様にしてアセトアミノフェン水溶液を調製した。
(2) 上記(1)で得られたアセトアミノフェン水溶液を、空気中で、実施例1の(2)で用いたのと同じ100mL容の酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグに、100mLずつ充填し、イソプレン製ゴム栓によりシールした。
(3) 上記(2)で得られたアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、実施例1の(3)と同様にして高圧蒸気滅菌した。
(4) 上記(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器を、実施例1の(4)で用いたのと同じ酸素難透過性の三方シール袋に、実施例1の(4)で用いたのと同じ脱酸素剤1個と共に収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0040】
《実施例3》
(1) 実施例1の(1)において、窒素ブースを用いずに空気中で、窒素ガスバブリングを行わずに、それ以外は実施例1の(1)と同様にしてアセトアミノフェン水溶液を調製した。
(2) 上記(1)で得られたアセトアミノフェン水溶液を、空気中で、実施例1の(2)で用いたのと同じ100mL容の酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグに、100mLずつ充填し、イソプレン製ゴム栓によりシールした。
(3) 上記(2)で得られたアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、加圧媒体として空気を用いた以外は実施例1の(3)と同様にして高圧蒸気滅菌した。
(4) 上記(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器を、実施例1の(4)で用いたのと同じ酸素難透過性の三方シール袋に、実施例1の(4)で用いたのと同じ脱酸素剤1個と共に収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0041】
《実施例4》
(1) 実施例1の(1)において、窒素ブースを用いずに空気中で、それ以外は実施例1の(1)と同様にして窒素ガスバブリングを行ってアセトアミノフェン水溶液を調製した。
(2) 上記(1)で得られたアセトアミノフェン水溶液を、空気中で、実施例1の(2)で用いたのと同じ100mL容の酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグに、100mLずつ充填し、イソプレン製ゴム栓によりシールした。
(3) 上記(2)で得られたアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、実施例1の(3)と同様にして高圧蒸気滅菌した。
(4) 上記(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器を、実施例1の(4)で用いたのと同じ酸素難透過性の三方シール袋に、実施例1の(4)で用いたのと同じ脱酸素剤1個と共に収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0042】
《比較例1》
(1) 実施例1の(1)〜(3)と同じに行って、高圧蒸気滅菌したアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を製造した。
(2) 上記(2)で得られた高圧蒸気滅菌したアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、実施例1の(4)で用いたのと同じ酸素難透過性の三方シール袋に、脱酸素剤を用いずに、単独で収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0043】
《比較例2》
(1) 実施例1の(1)において、窒素ブースを用いずに空気中で、窒素ガスバブリングを行わずに、それ以外は実施例1の(1)と同様にしてアセトアミノフェン水溶液を調製した。
(2) 上記(1)で得られたアセトアミノフェン水溶液を、空気中で、実施例1の(2)で用いたのと同じ100mL容の酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグに、100mLずつ充填し、イソプレン製ゴム栓によりシールした。
(3) 上記(2)で得られたアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、加圧媒体として空気を用いた以外は実施例1の(3)と同様にして高圧蒸気滅菌した。
(4) 上記(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器を、実施例1の(4)で用いたのと同じ酸素難透過性の三方シール袋に、脱酸素剤を用いずに、単独で収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0044】
上記の実施例1〜4および比較例1〜2で得られたアセトアミノフェン注射液製剤における成分組成およびpHは、以下の表1に示すとおりである。
【0045】
【表1】
【0046】
《試験1》[高圧蒸気滅菌後で包装容器収容前のアセトアミノフェン水溶液中の酸素濃度の測定試験]
上記の実施例1の(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液(高圧蒸気滅菌後で包装容器に収容する前のアセトアミノフェン水溶液、以下同じ)、実施例2の(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液、実施例3の(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液、実施例4の(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液、比較例1の(1)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液および比較例2の(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液のそれぞれについて、アセトアミノフェン水溶液中の酸素濃度を測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0047】
《試験2》[アセトアミノフェン注射液製剤中の酸素濃度の測定試験]
上記の実施例1の(4)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤(最終的に得られたアセトアミノフェン注射液製剤、以下同じ)、実施例2の(4)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤、実施例3の(4)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤、実施例4の(4)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤、比較例1の(2)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤および比較例2の(4)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤のそれぞれについて、大気中で室温下に24時間および4日間保存したときのアセトアミノフェン水溶液中の酸素濃度を測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0048】
《試験3》[安定性試験]
上記の実施例1〜4および比較例1〜2で得られたそれぞれのアセトアミノフェン注射液製剤を60℃で7日間および21日間保存し、試験開始時、7日間経過後および21日間経過後の各時点で、注射液の外観、pH、注射液中のL−システイン塩酸塩水和物の含有量、分解物の総量およびアセトアミノフェンの残存率を下記の方法で評価または測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0049】
《試験4》[安定性試験]
上記の実施例1で得られたアセトアミノフェン注射液製剤を40℃で3箇月間および6箇月間保存し、注射液の外観、pH、注射液中のL−システイン塩酸塩水和物の含有量、分解物の総量およびアセトアミノフェンの残存率を下記の方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0050】
(1)注射液の外観の評価:
製剤溶液の澄明性及び色を観察した。
【0051】
(2)アセトアミノフェン注射液製剤のpH:
pHメータを用いて測定した。
【0052】
(3)アセトアミノフェン注射液製剤中のL−システイン塩酸塩水和物の含有量:
アセトアミノフェン注射液製剤に水を加えて一定濃度の希釈液を調製し、液体クロマトグラフィー法によりL−システイン塩酸塩水和物の含量(mg/100mL)を測定した。
【0053】
(4)アセトアミノフェン注射液製剤中の分解物の総量:
アセトアミノフェン注射液製剤を液体クロマトグラフィー法により測定し、得られたクロマトグラムの各分解物ピークのピーク面積の面積百分率(%)を求め、それらの分解物の総量(%)を算出した。
【0054】
(5)アセトアミノフェン注射液製剤中のアセトアミノフェンの残存率:
アセトアミノフェン注射液製剤に水を加えて一定濃度の希釈液を調製し、液体クロマトグラフィー法によりアセトアミノフェンの含量を測定し、試験の開始前における含有量を100%としたときの残存率(%)を求めた。
【0055】
【表2】
【0056】
上記の表2にみるように、実施例1〜4のアセトアミノフェン注射液製剤は、長期保存安定性に極めて優れている。
それに対して、比較例1および2のアセトアミノフェン注射液製剤は、実施例1〜3のアセトアミノフェン注射液製剤に比べて、長期保存安定性の点で劣っている。