特許第6741286号(P6741286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6741286包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6741286
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/10 20060101AFI20200806BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20200806BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20200806BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20200806BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20200806BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20200806BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   A61J1/10 333Z
   A61J1/10 331Z
   A61J1/05 353
   A61K9/08
   A61K31/167
   A61K47/02
   A61K47/10
   A61K47/20
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-63758(P2014-63758)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-207983(P2014-207983A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2017年1月12日
【審判番号】不服2018-13430(P2018-13430/J1)
【審判請求日】2018年10月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-68472(P2013-68472)
(32)【優先日】2013年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089060
【弁理士】
【氏名又は名称】向山 正一
(72)【発明者】
【氏名】下田 雅美
(72)【発明者】
【氏名】矢後 誠司
(72)【発明者】
【氏名】坂口 千春
(72)【発明者】
【氏名】岩切 智佐都
【合議体】
【審判長】 高木 彰
【審判官】 和田 将彦
【審判官】 栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0207824(US,A1)
【文献】 特公平1−16502(JP,B2)
【文献】 特表2011−503198(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0039939(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J1/10
A61J1/05
A61K9/08
A61K31/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてアセトアミノフェンを2〜10mg/mLの濃度で含有しpHが4〜8であり且つ有機溶媒を含有しないアセトアミノフェン水溶液を酸素管理することなく空気中にて調製し、かつ、調製されたアセトアミノフェン水溶液を酸素管理することなく空気中にて、有機重合体製の酸素透過性のフィルムまたはシートから形成された酸素透過性容器に充填し、さらに、加圧媒体として空気を用いて高圧蒸気滅菌し、アセトアミノフェン水溶液入り容器を準備し、準備した高圧蒸気滅菌したアセトアミノフェン水溶液入り容器を脱酸素剤と共に、有機重合体を用いた酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成された酸素難透過性の包装容器内に収容して密封し、密封した後に、前記酸素透過性容器のヘッドスペースおよび前記アセトアミノフェン水溶液中の酸素を前記脱酸素剤により徐々に除去することを特徴とする包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
【請求項2】
酸素透過性容器の酸素透過度が、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、200cm/m・day以上である請求項1に記載の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
【請求項3】
酸素難透過性の包装容器の酸素透過度が、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、1.0cm/m・day以下である請求項1または2に記載の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
【請求項4】
前記アセトアミノフェン水溶液が、pH調整剤、等張化剤、抗酸化剤および緩衝剤の少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
【請求項5】
前記pH調整剤が、水酸化ナトリウムおよび/または塩酸である請求項に記載の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法
【請求項6】
前記等張化剤が、マンニトールである請求項4または5に記載の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法
【請求項7】
前記抗酸化剤が、システイン塩酸塩水和物である請求項4〜6のいずれか1項に記載の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法
【請求項8】
前記緩衝剤が、リン酸水素ナトリウム水和物である請求項4〜7のいずれか1項に記載の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法
【請求項9】
前記酸素透過性容器の酸素透過度は、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、500cm3/m2・day以上であり、前記酸素難透過性の包装容器の酸素透過度は、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、1.0cm3/m2・day以下であり、かつ、前記脱酸素剤の脱酸素性能は、前記酸素透過性容器内に充填されたアセトアミノフェン水溶液100mLに対して、25℃および大気圧下で、20時間で酸素を100cm3以上吸収できるものである請求項1〜8のいずれか1項に記載の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、長期間室温で保存してもアセトアミノフェンが液中に安定に存在する保存安定性に優れる包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アセトアミノフェン(別名:パラセタモール)は、胃を刺激せず、血液凝固や腎臓への影響がなく、興奮や眠気などの副作用がなく、しかも依存性や禁断症状などの問題のない、穏やかな解熱・鎮痛剤である。かかる点から、アセトアミノフェンの経口剤と坐剤は、世界で最も使用されている鎮痛・解熱薬剤の1つとなっている。
また、アセトアミノフェンの水溶液を容器に充填したアセトアミノフェン注射液製剤は、海外で2002年に発売開始されて以来、現在では米国および欧州諸国を含む、日本以外の約80カ国で製造販売が承認されて、術後疼痛の標準的療法で用いられている。
【0003】
アセトアミノフェン注射液製剤としては、長期間安定に保存できるようにするために、アセトアミノフェンの水溶液に不活性ガスを吹き込んで脱酸素し、それを窒素ガス雰囲気中でガラス瓶に充填して密封し、高圧蒸気滅菌したものが知られており(特許文献1を参照)、またアセトアミノフェン水溶液中の酸素含量を0.4〜4mg/Lのオーダーにするために、アセトアミノフェン水溶液を、超音波作用と、吸引およびマイクロバブリングの少なくとも1つの作用とにかける方法が提案されている(特許文献2を参照)。
【0004】
しかし、本発明者らが、前記した特許文献1および2に記載されている技術を参考にして、アセトアミノフェン水溶液に不活性ガスを吹き込んで脱酸素し、それを不活性ガス雰囲気中で容器、特に有機重合体製シートから形成したバッグに充填して密封した後、窒素ガスなどの不活性ガスを加圧媒体として用いて高圧蒸気滅菌して、バッグ入りのアセトアミノフェン注射液製剤を製造し、当該アセトアミノフェン注射液製剤の保存安定性試験を行ったところ、各工程で脱酸素処理を行ったにも拘わらず、長期保存安定性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平11−514013号公報
【特許文献2】特表2009−518367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、室温下で3年間以上保存したときにもアセトアミノフェンの残存率が極めて高くて、長期間にわたって安全に保存することのできる、長期保存安定性に優れるアセトアミノフェン注射液製剤を提供することである。
本発明の目的は、室温下で長期間安定に保存することのできると共に、破損が生じず、軽量で取り扱い性に優れる、有機重合体製のフィルムまたはシートから形成した容器、特にバッグ状容器に収容したアセトアミノフェン注射液製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の目的を達成すべく研究を重ねてきた。その研究過程において、アセトアミノフェン注射液製剤の製造時の酸素管理は長期保存安定性に貢献していないのではないかという疑問が生じた。そこで、容器充填前のアセトアミノフェン水溶液の調製工程、アセトアミノフェン水溶液の容器への充填工程およびアセトアミノフェン水溶液を充填した容器の高圧蒸気滅菌工程を不活性ガスの導入下または不活性雰囲気中で行なってアセトアミノフェン注射液製剤を製造する前記した方法と共に、いずれか1つまたは2つの工程或いは全ての工程を不活性ガスを用いずに空気中で行なってアセトアミノフェン注射液製剤を製造する方法を併せて実施し、それにより得られたアセトアミノフェン注射液製剤の保存安定性について調査した。
その結果、容器充填前のアセトアミノフェン水溶液の調製、アセトアミノフェン水溶液の容器への充填およびアセトアミノフェン水溶液を充填した容器の高圧蒸気滅菌というアセトアミノフェン注射液製剤の製造段階での酸素被爆は、上記した特許文献1および2に記載されている従来の知見とは異なり、アセトアミノフェン注射液製剤の長期保存安定性に与える影響が少ないことが判明した。
【0008】
上記のような状況下において、本発明者らは、アセトアミノフェン注射液製剤の変質・劣化は、短期間で実行されるアセトアミノフェン注射液製剤の製造段階での酸素管理にはあまり依存せず、製造後の保存中に起こると考え、かかる点から、アセトアミノフェンは酸素と急激に反応するのではなく、酸素との反応が遅いタイプの化合物であると推測した。そこで、本発明者らは、アセトアミノフェン水溶液の調剤時の酸素管理(窒素ガスなどの不活性ガスバブリング)、アセトアミノフェン水溶液の容器への充填時の酸素管理(不活性ガス雰囲気中での充填)および高圧蒸気滅菌時の酸素管理(不活性ガスを加圧媒体とする高圧蒸気滅菌)は必ずしも重要ではなく、寧ろアセトアミノフェン注射液製剤を販売可能な包装形態とした後において当該包装形態の内部やアセトアミノフェン水溶液中に残存している酸素を徐々にでも確実に除去することが重要であり、それによってアセトアミノフェン水溶液中のアセトアミノフェンが保存中に変質・劣化することを抑制して、長期保存安定性を優れるアセトアミノフェン注射液製剤が得られるのではないかと考え、そのための方策について種々検討を重ねた。
そして、アセトアミノフェン水溶液を収容する容器を、酸素透過性の内側容器と酸素難透過性の包装容器からなる二重容器とし、両容器の間に脱酸素剤を収容すれば、アセトアミノフェン水溶液中に含まれている酸素およびアセトアミノフェン水溶液を充填した内側容器のヘッドスペースおよび水溶液中に存在する酸素が保存中に徐々に除去されて内側容器内に存在する酸素量が大幅に低減し、それによって長期保存安定性に優れるアセトアミノフェン注射液製剤が得られることを見出した本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 有効成分としてアセトアミノフェンを2〜10mg/mLの濃度で含有しpHが4〜8であり且つ有機溶媒を含有しないアセトアミノフェン水溶液を酸素管理することなく空気中にて調製し、かつ、調製されたアセトアミノフェン水溶液を酸素管理することなく空気中にて、有機重合体製の酸素透過性のフィルムまたはシートから形成された酸素透過性容器に充填し、さらに、加圧媒体として空気を用いて高圧蒸気滅菌し、アセトアミノフェン水溶液入り容器を準備し、準備した高圧蒸気滅菌したアセトアミノフェン水溶液入り容器を脱酸素剤と共に、有機重合体を用いた酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成された酸素難透過性の包装容器内に収容して密封し、密封した後に、前記酸素透過性容器のヘッドスペースおよび前記アセトアミノフェン水溶液中の酸素を前記脱酸素剤により徐々に除去することを特徴とする包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
【0011】
さらに、本発明は、
) 酸素透過性容器の酸素透過度が、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、200cm3/m2・day以上で前記(1)の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
) 酸素難透過性の包装容器の酸素透過度が、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、1.0cmcm3/m2・day以下である、前記(1)または(2)包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
【0012】
そして、本発明は、
) アセトアミノフェン水溶液が、pH調整剤、等張化剤、抗酸化剤および緩衝剤の少なくとも1種を含有する前記(1)〜()のいずれかの包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
) pH調整剤が、水酸化ナトリウムおよび/または塩酸である前記()の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
) 等張化剤が、マンニトールである前記()または()の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
) 抗酸化剤が、システイン塩酸塩水和物である前記(4)〜(6)のいずれかの包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
) 緩衝剤が、リン酸水素ナトリウム水和物である前記(4)〜(7)のいずれかの包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
(9) 前記酸素透過性容器の酸素透過度は、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、500cm3/m2・day以上であり、前記酸素難透過性の包装容器の酸素透過度は、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、1.0cm3/m2・day以下であり、かつ、前記脱酸素剤の脱酸素性能は、前記酸素透過性容器内に充填されたアセトアミノフェン水溶液100mLに対して、25℃および大気圧下で、20時間で酸素を100cm3以上吸収できるものである前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の包装されたアセトアミノフェン注射液製剤の製造方法では、アセトアミノフェン水溶液を酸素透過性容器に充填して高圧蒸気滅菌したアセトアミノフェン水溶液入り容器を、脱酸素剤と共に、酸素難透過性の包装容器内に収容して密封したという構成を有していることによって、従来のガラス瓶入りアセトアミノフェン注射液製剤において必要であるとされていたアセトアミノフェン水溶液の調製時、アセトアミノフェン水溶液の容器への充填時およびその後の高圧蒸気滅菌時における不活性ガス置換などの厳密な酸素管理が必ずしも必要でなく、容器充填前のアセトアミノフェン水溶液の調製、アセトアミノフェン水溶液の容器への充填および高圧蒸気滅菌のうちの1つ以上または全てを大気中で行なうこともでき、また不活性ガスを用いて行う場合であっても従来のような厳密な管理が不要であり、それにも拘らず、長期保存安定性に優れていて、室温で3年間以上保存しても、アセトアミノフェン注射液製剤中にアセトアミノフェンが極めて高い残存率で安定に維持される。
本発明のアセトアミノフェン注射液製剤のうちで、酸素透過性容器が有機重合体製の酸素透過性のフィルムまたはシートから形成され、酸素難透過性の包装容器が有機重合体を用いた酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成されているアセトアミノフェン注射液製剤は、落下や転倒しても破損せず、輸送も容易であり、取り扱い性に優れている。
しかも、アセトアミノフェン水溶液の調製時、アセトアミノフェン水溶液の容器への充填時およびその後の高圧蒸気滅菌時に不活性ガス置換などによって厳密な酸素管理を行い且つアセトアミノフェン水溶液を酸素難透過性有機重合体製の容器に充填して得られるものは、アセトアミノフェン水溶液の調製、容器への充填および高圧蒸気滅菌のすべての工程を厳密に酸素管理しても、前記各工程での酸素混入の可能性は否定し切れないが、それに対して本発明による場合は、より安全に長期間保存することのできる優れた長期間保存安定性をアセトアミノフェン注射液製剤に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明は、アセトアミノフェンを含有するアセトアミノフェン水溶液を酸素透過性容器に充填して高圧蒸気滅菌したアセトアミノフェン水溶液入り容器を、脱酸素剤と共に、酸素難透過性の包装容器内に収容して密封したアセトアミノフェン注射液製剤である。
アセトアミノフェンとしては、アセトアミノフェン注射液製剤やアセトアミノフェン経口製剤、アセトアミノフェン坐剤などにおいて用いられているアセトアミノフェンであればいずれも使用することができ、アセトアミノフェンあるいはアセトアミノフェンの生理学的に許容される塩のいずれもが使用できる。
【0015】
本発明のアセトアミノフェン注射液製剤では、酸素透過性容器に充填されているアセトアミノフェン水溶液のpHは4〜8であり、pHが5〜6であることが好ましい。アセトアミノフェン水溶液のpHが4よりも低いと、アセトアミノフェンの保存安定性が低下し、一方pHが8より高いと、注射液として血管に投与した場合に血管に刺激を与えて血管痛や炎症を起こし易くなる。
アセトアミノフェン水溶液のpH調整は、注射液において従来から用いられているpH調整剤を用いて行なうことができ、pH調整剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基、塩酸などの無機酸、生体内に投与される塩を考慮する際、最小限に抑えられるクエン酸、乳酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機酸を挙げることができる。そのうちでも、本発明のアセトアミノフェン注射液製剤は、水酸化ナトリウムおよび/または塩酸を用いてpH調整されていることが、生体内に投与される塩を考慮する際、最小限に抑えられる点から好ましい。
【0016】
酸素透過性容器に充填されているアセトアミノフェン水溶液は、医薬上で、薬理学的および生理学的に許容されうる「水」を用いて調製されていずれでもよく、当該「水」としては、例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水などを挙げることができる。これらの水の定義は第十六改正日本薬局方に基づく。
【0017】
アセトアミノフェン水溶液におけるアセトアミノフェンの濃度は、静注剤としての有効性や投与すべき濃度(量)、水溶液としての溶解性の点から、2〜50mg/mLであることが好ましく、5〜10mg/mLであることがより好ましい。
アセトアミノフェン水溶液におけるアセトアミノフェンの濃度が低すぎると、患者に投与する液量が増えることとなり、一方濃度が高すぎるとアセトアミノフェンの溶解性が低いことから、低温において結晶が析出し易くなる。
【0018】
アセトアミノフェン水溶液は、上記したpH調整剤の他に、等張化剤、抗酸化剤および緩衝剤の1種または2種以上を含有することが好ましい。
等張化剤としては、注射液製剤において従来から用いられている等張化剤を用いることができ、例えば、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、グルコース、プロピレングリコール、グリセロールなどの非イオン性等張化剤、塩化ナトリウムなどのイオン性等張化剤などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、マンニトールが安全性や滅菌処理に対する安定性の点から好ましく用いられる。
等張化剤の含有量は、アセトアミノフェン注射液製剤の浸透圧が、血清の浸透圧と等しいかまたはほぼ等しい、浸透圧比が0.9〜1.1となる量とするのがよい。
【0019】
抗酸化剤としては、注射液製剤において従来から用いられている抗酸化剤を用いることができ、例えば、システインなどのチオール官能基を有する有機化合物またはその塩、あるいはそれらの水和物(システイン塩酸塩水和物など)、亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸塩、アスコルビン酸またはその塩、ジブチルヒドロキシトルエンなどを挙げることができる。そのうちでも、システイン塩酸塩水和物が生体に対してより生理的である点から好ましく用いられる。具体的にはシステイン塩酸塩・一水和物を挙げることができる。
【0020】
緩衝剤としては、注射液製剤において従来から用いられている緩衝剤を用いることができ、例えば、リン酸またはその塩、あるいはその水和物(リン酸水素ナトリウム水和物など)、クエン酸またはその塩、あるいはその水和物、酢酸またはその塩、或いはその水和物などを挙げることができる。そのうちでも、無水リン酸水素ナトリウムまたはリン酸水素ナトリウム水和物が原薬の安定性や溶解性の点から好ましく用いられる。リン酸水素ナトリウムとしてはリン酸水素二ナトリウムがこのましく、リン酸水素ナトリウムの水和物としては二水和物、七水和物あるいは十二水和物であることが好ましい。
【0021】
アセトアミノフェン水溶液は、上記した成分の他に、必要に応じて、鎮痛剤、抗炎症剤、抗嘔吐剤、抗てんかん剤、抗うつ剤、抗ウィルス剤などの医薬有効成分、またはポリオール、錯化剤、アルカノール、ビタミンなどの添加剤の1種または2種以上を含有することができる。
【0022】
アセトアミノフェン水溶液の調製方法は特に制限されず、アセトアミノフェンおよび上記した成分が、変質したり分解したりすることなく均一に溶解したアセトアミノフェン水溶液が得られる方法であればいずれの方法で調製してもよい。
アセトアミノフェン水溶液の調製は大気(空気)中で行なってもよいし、不活性ガスの雰囲気中で行なってもよいし、空気と不活性ガスの混合ガスの雰囲気中で行ってもよい。
アセトアミノフェン水溶液の調製を空気と不活性ガスの混合ガスの雰囲気中で行う場合は、空気:不活性ガス=1:99〜99:1(容積比)の混合ガスを用いることができ、10:90〜90:10(容積比)の混合ガスを用いることが好ましい。
更に、アセトアミノフェン水溶液の調製時および/または調製後にアセトアミノフェン水溶液中に不活性ガスをバブリングして(吹き込んで)、アセトアミノフェン水溶液中の酸素を低減させてもよいし、またはアセトアミノフェン水溶液の調製時および調製後に不活性ガスのバブリングを行わずに、そのまま酸素透過性容器に充填してもよい。
アセトアミノフェン水溶液中にバブリングする不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどを挙げることができ、そのうちでも窒素ガスが、安価に入手し易い点から好ましく用いられる。
【0023】
アセトアミノフェン水溶液を酸素透過性容器に充填する。
酸素透過性容器は、酸素透過性で且つ液体(水)非透過性であって、毒性がなく、アセトアミノフェンを吸着せず、しかも高圧蒸気滅菌時の温度に耐え得る材料からなる容器であればいずれでもよい。
酸素透過性容器の酸素透過度は、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、200cm3/m2・day以上であることが好ましく、500cm3/m2・day以上であることがより好ましく、700cm3/m2・day以上であることが更に好ましく、700〜10000cm3/m2・dayであることが特に好ましい。
23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときの酸素透過性容器の酸素透過度が200cm3/m2・day以上であれば、酸素透過性容器への充填時に持ち込まれて酸素透過性容器内のアセトアミノフェン水溶液やヘッドスペースに含まれている酸素を、脱酸素剤によって酸素透過性容器を通して十分に吸収して除去することができる。
酸素透過性容器の酸素透過度が高ければ高いほど、酸素透過性容器内に充填されたアセトアミノフェン水溶液中の酸素や酸素透過性容器のヘッドスペースに含まれている酸素が脱酸素剤により吸収されて除かれ易くなることから好ましい。
【0024】
酸素透過性容器は、軟質の容器であってもまたは硬質の容器であってもいずれもよいが、酸素透過性で且つ液体(水)を通さない有機重合体から形成されていることが好ましく、酸素透過性で且つ液体(水)を通さない有機重合体製のフィルムまたはシート、特に有機重合体製の軟質(可撓性)のフィルムまたはシートから形成されていることがより好ましい。
酸素透過性容器を形成する、酸素透過性で且つ液体(水)非透過性の有機重合体の好ましい例としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の混合物、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル系樹脂、各種熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。硬質の有機重合体をベースとして用いて柔軟性のある酸素透過性容器を製造する場合は、硬質の有機重合体にそれと相溶性の軟質の有機重合体(例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーなど)や可塑剤などを配合した有機重合体組成物を用いることによって、柔軟性のある酸素透過性容器を製造することができる。
酸素透過性容器は、前記した有機重合体の単層からなっていてもよいし、または2層以上からなる多層構造を有していてもよい。
【0025】
酸素透過性容器が、酸素透過性の有機重合体製のフィルムまたはシートから形成されている場合は、酸素透過性容器の厚さ(壁部の厚さ)は、酸素透過性という性能と容器としての性能を両立させるために、50〜500μmであることが好ましく、100〜300μmであることがより好ましい。酸素透過性容器の厚さが50μm以上であれば、容器として適した強度を得やすく、高圧蒸気滅菌にも耐えやすい、また、酸素透過性容器の厚さが500μm以下であれば、酸素透過性を発現しやすく、またアセトアミノフェン注射液製剤をソフトバッグ形態にものにしたときに適度な柔軟性を付与しやすい。
【0026】
酸素透過性容器には、容器に充填したアセトアミノフェン水溶液(アセトアミノフェン注射液)を患者に投与する際に排出するための口部を設けることが望ましい。当該口部には、排出時に穿刺針を使用する場合には弾性栓が設ける。弾性栓はエラストマーやゴムなどで形成され、穿刺針が刺通可能なものとなっており、弾性栓は穿刺針を抜いたときに穿刺痕が閉じるように再シール性を有していることが好ましい。このような弾性栓の材質としては、例えば、ブチルゴム、イソプレンゴム、塩素化ブチルゴム(クロロプレン)などが挙げられる。さらに、弾性栓に含まれる成分がアセトアミノフェン水溶液中に溶け出さないようにするために、弾性栓の少なくともアセトアミノフェン水溶液と接触する接液面を、フッ素系樹脂、ポリパラキシリレン、DLC(ダイアモンドドライカーボノン)、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの被覆層や蒸着層などによって被覆しておいてもよい。
【0027】
酸素透過性容器の形状は特に制限されず、例えば、袋状(バッグ形状)、ボトル状、シリンジ状、ブリスター状などを挙げることができる。
酸素透過性容器の製法は特に制限されず、酸素透過性容器を形成する材料の種類、酸素透過性容器の形状などに応じて適当な製法を採用することができ、例えば、上記した有機重合体を用いて、押出ブロー成形法、射出ブロー成形法、インフレーション成形法、射出成形法、注型法、平坦なフィルムまたはシートを作製し当該シートまたは折り重ねて周囲を熱などで融着する方法、筒状のフィルムまたはシートを作製し当該筒状フィルムまたはシートの底部となる部分および上部を熱などで融着する方法、筒状体を作製し蓋と底付けを行う方法などを採用して製造することができる。
酸素透過性容器のサイズは特に制限されず、アセトアミノフェン注射液製剤の使用形態、製剤の濃度などに応じて異なり得るが、一般的には、内容積が20〜500cm3、特に50〜100cm3となるようなサイズにしておくことが、取り扱い性、患者の水分管理などの点から好ましい。
【0028】
酸素透過性容器へのアセトアミノフェン水溶液の充填は、空気中(大気中)で行なってもよいし、不活性ガス雰囲気中で行ってもよいし、空気と不活性ガスの混合ガスの雰囲気中で行なってもよい。不活性ガスを用いる場合は、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどの不活性ガスを用いることができ、そのうちでも窒素ガスが、安価に入手できる点から好ましく用いられる。また、充填後に脱気処理を行ってもよい。
酸素透過性容器へのアセトアミノフェン水溶液の充填を空気と不活性ガスの混合ガスの雰囲気中で行う場合は、空気:不活性ガス=1:99〜99:1(容積比)の混合ガスを用いることができ、10:90〜90:10(容積比)の混合ガスを用いることが好ましい。
【0029】
アセトアミノフェン水溶液を充填した酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌は、滅菌媒体として水蒸気を用い加圧媒体として空気を用いて行なってもよいし、滅菌媒体として水蒸気を用い加圧媒体として不活性ガスを用いて行なってもよいし、または滅菌媒体として水蒸気を用い加圧媒体として空気と不活性ガスの混合ガスを用いて行ってもよい。その際の不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどの不活性ガスを挙げることができ、そのうちでも窒素ガスが安価に入手できる点から好ましく用いられる。
加圧媒体として空気と不活性ガスの混合ガスを用いる場合は、空気:不活性ガス=1:99〜99:1(容積比)である混合ガスを用いることができ、10:90〜90:10(容積比)の混合ガスを用いることが好ましい。
高圧蒸気滅菌を行う際の温度・圧力・時間等の滅菌条件は、注射液剤を滅菌する際に通常実施されている条件で良い。例えば、温度は100〜129℃、特に115〜124℃であることが好ましい。
【0030】
本発明では、容器充填前のアセトアミノフェン水溶液の調製、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填および高圧蒸気滅菌のうちの少なくとも1つ、2つまたは全てが不活性ガスの導入下または不活性ガス雰囲気中で行なわれていてもよいし、或いは容器充填前のアセトアミノフェン水溶液の調製、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填および高圧蒸気滅菌の全てが空気中で行なわれていてもよい。
具体的には、本発明では、
(1)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングの両方が行われ、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が不活性ガスの雰囲気中で行なわれ且つアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が不活性ガスを加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;
(2)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングのいずれか一方または両方が行なわれ且つアセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が不活性ガス雰囲気中で行なわれ、その一方でアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が空気を加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;
(3)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングのいずれか一方または両方が行なわれず、その一方でアセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が不活性ガス雰囲気中で行なわれ且つアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が不活性ガスを加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;
(4)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングのいずれか一方または両方が行なわれず且つアセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が不活性ガス雰囲気中で行なわれていて、その一方でアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が空気を加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;
(5)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングのいずれか一方または両方が行なわれ、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が空気中で行なわれ、アセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が不活性ガスを加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;
(6)不活性ガスの雰囲気中(不活性ガスブースなどの使用)でのアセトアミノフェン水溶液の調製およびアセトアミノフェン水溶液の不活性ガスによるバブリングの両方が行なわれず、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が空気中で行なわれ、且つアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が空気を加圧媒体として用いて行なわれていてもよいし;或いは、
(7)上記(1)〜(6)のいずれかにおいて、アセトアミノフェン水溶液の酸素透過性容器への充填が空気と不活性ガスの混合ガスを用いて行なわれているか、および/またはアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器の高圧蒸気滅菌が空気と不活性ガスの混合ガスを加圧媒体として用いて行なわれていてもよい。
【0031】
高圧蒸気滅菌したアセトアミノフェン水溶液入りの酸素透過性容器を、脱酸素剤と共に、酸素難透過性の包装容器内に収容して密封する。
酸素難透過性の包装容器は、アセトアミノフェン水溶液入りの酸素透過性容器と脱酸素剤を収容できる、酸素難透過性で毒性のない容器であればいずれもよい。
酸素難透過性の包装容器の酸素透過度は、23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときに、1.0cm3/m2・day以下であることが好ましく、0.3cm3/m2・day以下であることがより好ましく、0.1cm3/m2・day以下であることが更に好ましい。
23℃、90%RHおよび1気圧(1013hPa)で測定したときの酸素難透過性の包装容器の酸素透過度が1.0cm3/m2・day以下であれば、酸素透過性容器への充填時に持ち込まれて酸素透過性容器内のアセトアミノフェン水溶液やヘッドスペースに含まれている酸素を、包装容器の外部からの包装容器内への空気(酸素)の通過を遮断しながら、脱酸素剤によって酸素透過性容器を通して十分に吸収して酸素透過性容器内の酸素を低減することができる。
酸素難透過性の包装容器の酸素透過度が低ければ低いほど、酸素透過性容器内に充填されたアセトアミノフェン水溶液中の酸素や酸素透過性容器のヘッドスペースに含まれている酸素が脱酸素剤によって吸収されて除かれ易くなるために好ましい。
【0032】
酸素難透過性の包装容器は、軟質の容器であってもまたは硬質の容器であってもいずれもよいが、有機重合体を用いた酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成されていることが好ましく、特に有機重合体を用いた酸素難透過性の軟質(可撓性)のフィルムまたはシートから形成されていることがより好ましい。
酸素難透過性の包装容器を形成するための材料としては、例えば、アルミ箔などの酸素難透過性金属箔、酸化珪素系、酸化アルミニウム系、酸化チタン系などのセラミックや金属を有機重合体製の基材フィルムやシートに蒸着した蒸着フィルムや蒸着シート(例えば、アルミ蒸着有機重合体フィルムやシート、シリカ蒸着有機重合体フィルムやシート、酸化チタン蒸着有機重合体フィルムやシート)、DLC(ダイアモンドライクコーティング)層を有する有機重合体フィルムやシート、ポリビニルアルコールやエチレンビニルアルコールなどのような酸素難透過性を有する樹脂から形成された酸素難透過性フィルムやシート、ポリビニルアルコールやエチレンビニルアルコールなどのような酸素難透過性を有する樹脂層同士を積層した積層フィルムや積層シート、前記した酸素難透過性のフィルムやシートの1つまたは2つ以上を他の有機重合体よりなる層と積層した多層フィルムや多層シートなどを挙げることができる。
酸素難透過性の包装容器が有機重合体を用いた酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成されている場合は、当該酸素難透過性のフィルムまたはシートを折りたたんで周囲をヒートシールして包装容器を形成することが多いことから、折りたたんでときに最内面となる部分が少なくともヒートシール性の有機重合体から形成されていることが好ましい。
【0033】
限定されるものではないが、酸素難透過性の包装容器用の材料として、本発明で用い得る材料の具体例としては、
・ポリプロピレン(PP)/シリカ蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)/ポリプロピレン(PP)をこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・2軸延伸ポリアミド(OPA)/ポリエチレン(PE)/アルミニウム蒸着PET/ポリエチレン(PE)をこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・OPA/PE/アルミニウム蒸着PET/PEをこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・OPA/PE/アルミニウム箔/PE/PEをこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・OPA/PE/アルミニウム箔/PE/PET/PEをこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・PET/PE/アルミニウム蒸着PET/PE/エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)/PEをこの順で積層した多層フィルムまたは多層シート;
・ポリ塩化ビニリデン/PE/アルミニウム蒸着PET/PEをこの順で積層した多層フィルムまたは多層シート;
・PET/アルミニウム蒸着エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)/PEをこの順で積層した多層フィルムまたは多層シート;
などを挙げることができる。
【0034】
酸素難透過性の包装容器が、有機重合体を用いた酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成されている場合は、酸素難透過性と包装容器としての性能を両立させるために、厚さが50〜150μm、特に65〜100μmの酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成されていることが好ましい。酸素難透過性の包装容器を形成するフィルムまたはシートの厚さが50μm以上であれば、包装容器として適した強度が得られ易く、また150μm以下であれば、アセトアミノフェン注射液製剤がソフトバッグタイプの製剤である場合に適度な柔軟性および軽量性を付与し易くなる。
【0035】
アセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器と共に酸素難透過性の包装容器内に収容される脱酸素剤としては、使用上で毒性などの問題がなく、酸素を効率的に吸収して雰囲気中の酸素量を低減させるものであれば、いずれのものでも使用することができる。
脱酸素剤としては、鉄粉などの金属粉末を主体とするもの、亜硫酸塩、ハロゲン化金属などの無機物を主体とするもの、アスコルビン酸やポリフェノールなどの有機物を主体とするものなど、色々な種類のものが知られており、毒性がなくかつ酸素吸収性能に優れるものであれば、いずれも使用できる。
また、酸素吸収と共に炭酸ガスを同時に吸収するもの、酸素吸収と共に炭酸ガスを排出するものもあるが、本発明ではいずれも使用可能である。
脱酸素剤の形態としては、酸素透過性の袋に上記した脱酸素性能を有する物質を封入したもの、酸素吸収剤を練りこんだフィルム、酸素吸収剤を使用した成形容器、両方の表面層が酸素難透過性の層でそれらの層の内側に脱酸素性の層が配置された積層構造を有し当該積層体の側面から酸素を吸収するようにしたものなど、種々のものが知られているが、毒性がなく且つ酸素吸収性能に優れるものであれば、いずれも使用できる。
市販のものとしては、三菱ガス化学社製の“エージレス(登録商標)”などが知られており、エージレスは本発明において好適に使用できる。
脱酸素剤の脱酸素性能からは、酸素透過性容器内に充填されたアセトアミノフェン水溶液100mLに対して、常温(25℃)および大気圧下で、20時間で酸素を100cm3以上、好ましくは200cm3以上、特に400cm3以上の量で吸収することのできる脱酸素剤が好ましく用いられる。
具体的には、三菱ガス化学株式会社製「エージレス(登録商標)ZH−200」、酸素吸収量=200cm3/20時間以上(大気圧下)を挙げることができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例などによって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例によって何ら限定されない。
以下の例において、注射用水およびアセトアミノフェン水溶液中の酸素濃度は、以下の方法により測定した。
【0037】
[注射用水およびアセトアミノフェン水溶液中の酸素濃度の測定]
溶存酸素測定用センサー(Mettler Toledo社製 Inlab605)を用いて、溶液中の酸素濃度を測定した。
【0038】
《実施例1》
(1) 窒素ガス雰囲気中(窒素ブース中)で、35℃に加温した注射用水に窒素ガスバブリングして酸素濃度を1mg/L以下に保ち、D−マンニトール1925g、リン酸水素二ナトリウム・十二水和物13g、アセトアミノフェン500gを加えて攪拌溶解し、室温まで冷却した後にL−システイン塩酸塩・一水和物12.5gを加えて溶解した。次いで、水酸化ナトリウムおよび塩酸でpHを5.5に調整し、注射用水を加えて全量を50Lとして、アセトアミノフェン水溶液を調製した。
(2) 上記(1)で得られたアセトアミノフェン水溶液を、窒素ガスと空気の混合ガス(窒素ガス:空気=80:20の容積比)の雰囲気中で、100mL容の酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ[23℃、90%RHおよび1気圧で測定した酸素透過度=809cm3/m2・day、層構造=ポリプロピレン/ポリプロピレン/ポリプロピレンの三層フィルム、厚さ=264μm)に、100mLずつ充填し、イソプレン製ゴム栓によりシールした。
(3) 上記(2)で得られたアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、窒素ガスを加圧媒体として高圧蒸気滅菌(121℃で15分間)を行った。
(4) 上記(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器を、酸素難透過性の三方シール袋[PP/シリカ蒸着PET/PPからなる三層構造フィルム(23℃、90%RHおよび1気圧で測定した酸素透過度=0.15cm3/m2・day、厚さ=66μm)をから作製した三方をシールし一方を開口した袋]に、脱酸素剤[三菱ガス化学株式会社製「エージレス(登録商標)ZH−200」、酸素吸収量=200cm3/20時間以上、大気圧下)1個と共に収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0039】
《実施例2》
(1) 実施例1の(1)において、窒素ブースを用いずに空気中で、窒素ガスバブリングを行わずに、それ以外は実施例1の(1)と同様にしてアセトアミノフェン水溶液を調製した。
(2) 上記(1)で得られたアセトアミノフェン水溶液を、空気中で、実施例1の(2)で用いたのと同じ100mL容の酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグに、100mLずつ充填し、イソプレン製ゴム栓によりシールした。
(3) 上記(2)で得られたアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、実施例1の(3)と同様にして高圧蒸気滅菌した。
(4) 上記(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器を、実施例1の(4)で用いたのと同じ酸素難透過性の三方シール袋に、実施例1の(4)で用いたのと同じ脱酸素剤1個と共に収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0040】
《実施例3》
(1) 実施例1の(1)において、窒素ブースを用いずに空気中で、窒素ガスバブリングを行わずに、それ以外は実施例1の(1)と同様にしてアセトアミノフェン水溶液を調製した。
(2) 上記(1)で得られたアセトアミノフェン水溶液を、空気中で、実施例1の(2)で用いたのと同じ100mL容の酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグに、100mLずつ充填し、イソプレン製ゴム栓によりシールした。
(3) 上記(2)で得られたアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、加圧媒体として空気を用いた以外は実施例1の(3)と同様にして高圧蒸気滅菌した。
(4) 上記(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器を、実施例1の(4)で用いたのと同じ酸素難透過性の三方シール袋に、実施例1の(4)で用いたのと同じ脱酸素剤1個と共に収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0041】
《実施例4》
(1) 実施例1の(1)において、窒素ブースを用いずに空気中で、それ以外は実施例1の(1)と同様にして窒素ガスバブリングを行ってアセトアミノフェン水溶液を調製した。
(2) 上記(1)で得られたアセトアミノフェン水溶液を、空気中で、実施例1の(2)で用いたのと同じ100mL容の酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグに、100mLずつ充填し、イソプレン製ゴム栓によりシールした。
(3) 上記(2)で得られたアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、実施例1の(3)と同様にして高圧蒸気滅菌した。
(4) 上記(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器を、実施例1の(4)で用いたのと同じ酸素難透過性の三方シール袋に、実施例1の(4)で用いたのと同じ脱酸素剤1個と共に収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0042】
《比較例1》
(1) 実施例1の(1)〜(3)と同じに行って、高圧蒸気滅菌したアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を製造した。
(2) 上記(2)で得られた高圧蒸気滅菌したアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、実施例1の(4)で用いたのと同じ酸素難透過性の三方シール袋に、脱酸素剤を用いずに、単独で収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0043】
《比較例2》
(1) 実施例1の(1)において、窒素ブースを用いずに空気中で、窒素ガスバブリングを行わずに、それ以外は実施例1の(1)と同様にしてアセトアミノフェン水溶液を調製した。
(2) 上記(1)で得られたアセトアミノフェン水溶液を、空気中で、実施例1の(2)で用いたのと同じ100mL容の酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグに、100mLずつ充填し、イソプレン製ゴム栓によりシールした。
(3) 上記(2)で得られたアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器(酸素透過性の多層ポリプロピレン製ソフトバッグ)を、加圧媒体として空気を用いた以外は実施例1の(3)と同様にして高圧蒸気滅菌した。
(4) 上記(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液入り酸素透過性容器を、実施例1の(4)で用いたのと同じ酸素難透過性の三方シール袋に、脱酸素剤を用いずに、単独で収容し、ヒートシール機によって袋の開口部を密封して、アセトアミノフェン注射液製剤を製造した。
【0044】
上記の実施例1〜4および比較例1〜2で得られたアセトアミノフェン注射液製剤における成分組成およびpHは、以下の表1に示すとおりである。
【0045】
【表1】
【0046】
《試験1》[高圧蒸気滅菌後で包装容器収容前のアセトアミノフェン水溶液中の酸素濃度の測定試験]
上記の実施例1の(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液(高圧蒸気滅菌後で包装容器に収容する前のアセトアミノフェン水溶液、以下同じ)、実施例2の(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液、実施例3の(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液、実施例4の(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液、比較例1の(1)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液および比較例2の(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のアセトアミノフェン水溶液のそれぞれについて、アセトアミノフェン水溶液中の酸素濃度を測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0047】
《試験2》[アセトアミノフェン注射液製剤中の酸素濃度の測定試験]
上記の実施例1の(4)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤(最終的に得られたアセトアミノフェン注射液製剤、以下同じ)、実施例2の(4)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤、実施例3の(4)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤、実施例4の(4)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤、比較例1の(2)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤および比較例2の(4)で得られたアセトアミノフェン注射液製剤のそれぞれについて、大気中で室温下に24時間および4日間保存したときのアセトアミノフェン水溶液中の酸素濃度を測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0048】
《試験3》[安定性試験]
上記の実施例1〜4および比較例1〜2で得られたそれぞれのアセトアミノフェン注射液製剤を60℃で7日間および21日間保存し、試験開始時、7日間経過後および21日間経過後の各時点で、注射液の外観、pH、注射液中のL−システイン塩酸塩水和物の含有量、分解物の総量およびアセトアミノフェンの残存率を下記の方法で評価または測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0049】
《試験4》[安定性試験]
上記の実施例1で得られたアセトアミノフェン注射液製剤を40℃で3箇月間および6箇月間保存し、注射液の外観、pH、注射液中のL−システイン塩酸塩水和物の含有量、分解物の総量およびアセトアミノフェンの残存率を下記の方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0050】
(1)注射液の外観の評価:
製剤溶液の澄明性及び色を観察した。
【0051】
(2)アセトアミノフェン注射液製剤のpH:
pHメータを用いて測定した。
【0052】
(3)アセトアミノフェン注射液製剤中のL−システイン塩酸塩水和物の含有量:
アセトアミノフェン注射液製剤に水を加えて一定濃度の希釈液を調製し、液体クロマトグラフィー法によりL−システイン塩酸塩水和物の含量(mg/100mL)を測定した。
【0053】
(4)アセトアミノフェン注射液製剤中の分解物の総量:
アセトアミノフェン注射液製剤を液体クロマトグラフィー法により測定し、得られたクロマトグラムの各分解物ピークのピーク面積の面積百分率(%)を求め、それらの分解物の総量(%)を算出した。
【0054】
(5)アセトアミノフェン注射液製剤中のアセトアミノフェンの残存率:
アセトアミノフェン注射液製剤に水を加えて一定濃度の希釈液を調製し、液体クロマトグラフィー法によりアセトアミノフェンの含量を測定し、試験の開始前における含有量を100%としたときの残存率(%)を求めた。
【0055】
【表2】
【0056】
上記の表2にみるように、実施例1〜4のアセトアミノフェン注射液製剤は、長期保存安定性に極めて優れている。
それに対して、比較例1および2のアセトアミノフェン注射液製剤は、実施例1〜3のアセトアミノフェン注射液製剤に比べて、長期保存安定性の点で劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のアセトアミノフェン注射液製剤は、液剤であるにも拘らず、室温で長期間保存した後でもアセトアミノフェンの変質や分解などが極めて少なくて、アセトアミノフェンが高い残存率で液中に維持されていて、長期保存安定性に優れているので、術後疼痛の治療などのために医療現場で有効に用いることができる。