特許第6741304号(P6741304)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6741304インピーダンス回路網調整のための位相検出を備えたRF加熱システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6741304
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】インピーダンス回路網調整のための位相検出を備えたRF加熱システム
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/66 20060101AFI20200806BHJP
   H03H 7/40 20060101ALI20200806BHJP
   H03H 7/38 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   H05B6/66 Z
   H03H7/40
   H03H7/38 B
【請求項の数】20
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2018-185578(P2018-185578)
(22)【出願日】2018年9月28日
(65)【公開番号】特開2019-96600(P2019-96600A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2019年5月27日
(31)【優先権主張番号】15/816,802
(32)【優先日】2017年11月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504199127
【氏名又は名称】エヌエックスピー ユーエスエイ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NXP USA,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ライオネル モンジャン
(72)【発明者】
【氏名】ピエール マリー ジーン ピール
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ エリック スコット
【審査官】 河内 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−165000(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0047009(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0000888(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0248396(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/66
H03H 7/38
H03H 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
高周波(RF)信号を供給するように構成されたRF信号源と、
前記RF信号源の出力に電気的に結合されたインピーダンス整合回路網であって、
第1の可変インダクタンス回路網と、
第2の可変インダクタンス回路網と、
を含む前記インピーダンス整合回路網と、
前記インピーダンス整合回路網と電極との間に電気的に結合された伝送路であって、前記RF信号により前記伝送路に沿って伝送信号が生成される、前記伝送路と、
前記伝送路に沿った前記伝送信号と反射信号との位相角度を判定するように構成された電力検出回路と、
コントローラと、を備え、前記コントローラが、
前記伝送信号と前記反射信号との位相角度が閾値位相角度よりも大きいと判定し、
前記伝送信号と前記反射信号との位相角度に基づき、前記第1の可変インダクタンス回路網を変更して前記インピーダンス整合回路網の直列インダクタンスを変化させることにより前記伝送信号と前記反射信号との位相角度を前記閾値位相角度よりも小さい第1の位相角度に減少させ、
前記伝送信号の電力に対する前記反射信号の電力の比が閾値電力比よりも大きいと判定し、
前記インピーダンス整合回路網の直列インダクタンスを変化させた後に、前記第2の可変インダクタンス回路網を変更して前記インピーダンス整合回路網の分路インダクタンスを変化させることにより前記伝送信号の電力に対する前記反射信号の電力の比を前記閾値電力比よりも小さい第1の電力比に低減させる
ように構成されている、システム。
【請求項2】
前記インピーダンス整合回路網はさらに、前記電極に結合され固定インダクタンス値を有する複数の固定値インダクタを含み、
前記第1の可変インダクタンス回路網は、前記固定インダクタンス値を有する前記複数の固定値インダクタのうちの1つと接地基準ノードとの間に結合されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第2の可変インダクタンス回路網は、前記インピーダンス整合回路網の入力と接地基準ノードとの間に結合されている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記第1の可変インダクタンス回路網と前記第2の可変インダクタンス回路網のうちの少なくとも1つを変更する際に前記RF信号源により100ワット未満の電力を有する前記RF信号を生成させるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記コントローラはさらに、前記第1の可変インダクタンス回路網と前記第2の可変インダクタンス回路網のうちの少なくとも1つを変更した後に、前記RF信号源により前記RF信号の電力を増加させて1000ワットよりも大きい電力を有する第2のRF信号を出力させるように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記閾値位相角度は5度未満である、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記閾値電力比は−15デシベル未満である、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記コントローラは、
前記伝送路に沿って前記伝送信号と前記反射信号との位相角度を繰り返し判定し、
前記伝送信号と前記反射信号との位相角度に基づいて前記第1の可変インダクタンス回路網を繰り返し変更することにより前記RF信号源と前記電極との間のインピーダンス整合を改善する
ように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
システムであって、
伝送路を介して電極に高周波(RF)信号を供給するように構成されたRF信号源であって、前記伝送路が、固定インダクタンス値を有する固定値インダクタを含み、前記固定値インダクタが第1端と第2端とを有する、前記RF信号源と、
前記固定値インダクタの第2端と接地基準ノードとの間に結合された第1の可変インダクタンス回路網と、
前記RF信号源の出力端子に結合された前記固定値インダクタの第1端と前記接地基準ノードとの間に結合された第2の可変インダクタンス回路網と、
コントローラと、を備え、前記コントローラが、
前記伝送路に沿って伝送信号と反射信号との位相角度を判定し、
前記伝送信号と前記反射信号との位相角度に基づいて前記第1の可変インダクタンス回路網を変更して前記RF信号源と前記電極との間のインピーダンス整合を改善し、
前記第1の可変インダクタンス回路網を変更した後に、
前記伝送信号の電力に対する前記反射信号の電力の比を判定し、
前記第2の可変インダクタンス回路網を変更して前記伝送信号の電力に対する前記反射信号の電力の比を低減させる
ように構成されている、システム。
【請求項10】
前記コントローラはさらに、
前記伝送路に沿って前記伝送信号と前記反射信号との位相角度を繰り返し判定し、
前記伝送信号と前記反射信号との位相角度に基づいて前記第1の可変インダクタンス回路網を繰り返し変更することにより前記RF信号源と前記電極との間のインピーダンス整合を改善する
ように構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記コントローラは、
前記位相角度と目標位相角度との差を判定し、
前記第1の可変インダクタンス回路網のインダクタンスを変化させて前記位相角度と前記目標位相角度との差を低減させる
ことによって前記第1の可変インダクタンス回路網を変更するように構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記第1の可変インダクタンス回路網はさらに、前記電極に結合され固定インダクタンス値を有する複数の固定値インダクタを含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
前記コントローラは、前記第1の可変インダクタンス回路網と前記第2の可変インダクタンス回路網のうちの少なくとも1つを変更する際に前記RF信号源により100ワット未満の電力を有する前記RF信号を生成させるように構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
前記コントローラは、前記第1の可変インダクタンス回路網と前記第2の可変インダクタンス回路網のうちの少なくとも1つを変更した後に、前記RF信号源により前記RF信号の電力を増加させて1000ワットよりも大きい電力を有する第2のRF信号を出力させるように構成されている、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記電極は、負荷を含むように構成された前記システムの空胴内に配置されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項16】
方法であって、
第1の可変構成要素と第2の可変構成要素とを含むインピーダンス整合回路網に接続された伝送路を介して、空胴に近接した電極に高周波(RF)信号源によりRF信号を供給すること、
前記伝送路に沿った伝送信号と反射信号との位相角度を判定すること、
前記伝送信号と前記反射信号との位相角度に基づいて前記第1の可変構成要素を変更することにより前記RF信号源と前記電極との間のインピーダンス整合を改善すること、
前記第1の可変構成要素を変更した後に、
前記伝送信号の電力に対する前記反射信号の電力の比を判定すること、
前記第2の可変構成要素のインダクタンスを変更して、前記伝送信号の電力に対する前記反射信号の電力の比を低減させること、
を備える方法。
【請求項17】
前記伝送信号と前記反射信号との位相角度に基づいて前記第1の可変構成要素を変更することにより前記RF信号源と前記電極との間のインピーダンス整合を改善することは、
前記位相角度と目標位相角度との差を判定すること、
前記第1の可変構成要素のインダクタンスを変化させて前記位相角度と前記目標位相角度との差を低減させること、
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記伝送路に沿った前記伝送信号と前記反射信号との位相角度を繰り返し判定すること、
前記伝送信号と前記反射信号との位相角度に基づいて前記第1の可変構成要素を繰り返し変更することにより前記RF信号源と前記電極との間のインピーダンス整合を改善すること、
をさらに備える請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の可変構成要素と前記第2の可変構成要素とのうちの少なくとも1つを変更した後に前記RF信号の電力を増加させることをさらに備える請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記RF信号の電力を増加させることは、前記RF信号の電力を増加させることにより1000ワットよりも大きな電力を有する第2のRF信号を出力することを含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の主題の実施形態は、広くは、高周波(RF)エネルギーを負荷に供給するための負荷インピーダンスを調整する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
容量式食品加熱システムは、加熱室内に収容された大型平板電極を備える。電極間に食品負荷を配置した後、その食品負荷を加温するために、電磁エネルギーが電極に供給される。加熱運転中に食品負荷が融解または調理されるにつれて、食品負荷のインピーダンスが変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6784405号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品負荷のインピーダンスが動的に変化することによって、結果的に、食品負荷の加熱が非効率的となることがある。食品負荷全体にわたり効率的にかつ均一に加熱し得る食品負荷(または他の種類の負荷)を加熱するための装置および方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態のシステムは、高周波(RF)信号を供給するように構成されたRF信号源と、前記RF信号源の出力に電気的に結合されたインピーダンス整合回路網とを含む。前記インピーダンス整合回路網は、第1の可変インダクタンス回路網と、第2の可変インダクタンス回路網とを含む。前記システムは、前記インピーダンス整合回路網と電極との間に電気的に結合された伝送路を含む。前記RF信号は前記伝送路に沿って伝送信号を生成する。前記システムは、前記伝送路に沿った前記伝送信号と反射信号との位相角度を判定するように構成された電力検出回路と、コントローラとを含む。前記コントローラは、前記伝送信号と前記反射信号との位相角度が閾値位相角度よりも大きいと判定し、その前記伝送信号と前記反射信号との位相角度に基づいて前記第1の可変インダクタンス回路網を変更して前記インピーダンス整合回路網の直列インダクタンスを変化させることにより前記伝送信号と前記反射信号との位相角度を前記閾値位相角度よりも小さい第1の位相角度に減少させ、前記伝送信号の電力に対する前記反射信号の電力の比が閾値電力比よりも大きいと判定し、前記インピーダンス整合回路網の直列インダクタンスを変化させた後に前記第2の可変インダクタンス回路網を変更して前記インピーダンス整合回路網の分路インダクタンスを変化させることにより前記伝送信号の電力に対する前記反射信号の電力の比を前記閾値電力比よりも小さい第1の電力比に低減させるように構成されている。
【0006】
本主題のより完全な理解は、以下の図面を併用することで、詳細な説明および請求項の参照によって得られる。図面全体を通して、類似の要素は同様の参照符号で示している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】例示的な一実施形態による加熱機器の斜視図。
図2】他の例示的な実施形態の加熱システムを含む冷蔵/冷凍機器の斜視図。
図3】例示的な一実施形態による加熱装置の簡略ブロック図。
図4】例示的な一実施形態による可変インピーダンス整合回路網の概略図。
図5】例示的な一実施形態による可変インダクタンス回路網の概略図。
図6】可変インピーダンス整合回路網の一実施形態における複数のインダクタンスによって、どのように入力空胴インピーダンスをRF信号源に整合させ得るのかの一例を示すスミスチャート。
図7】例示的な一実施形態による解凍システムの断面側面図。
図8】例示的な一実施形態による解凍システムの一部の斜視図。
図9】例示的な一実施形態による、動的負荷整合を用いて解凍システムを運転する方法のフローチャート。
図10】可変インピーダンス整合回路網のインピーダンスを調整して負荷整合を行う方法のフローチャート。
図11】インピーダンス整合を行うための、可変インピーダンス整合回路網のインピーダンス調整を示すスミスチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の詳細な説明は、本質的に、単なる例示的なものにすぎず、本主題の実施形態またはかかる実施形態の応用および使用を限定するものではない。本明細書で使用される「例示的」および「例」という表現は、「例、事例、または実例としての役目を果たす」ことを意味する。本明細書において「例示的」または「例」として記載される実施形態はいずれも、他の実施形態に比して好適もしくは効果的であると必ずしも解釈されるべきではない。また、前述の技術分野、背景、または以下の詳細な説明で提示するいずれかの明示的または黙示的理論に限定されることは意図していない。
【0009】
本明細書で使用される「加熱」、「加熱する」などの用語は、負荷の熱エネルギーを増加させることを意味する。加熱運転は、解凍運転、調理運転、または負荷の熱エネルギーを増加させる任意の他の運転を含み得る。本明細書に記載される主題の実施形態は、スタンドアロン機器またはその他のシステムに組み込まれ得るソリッドステート加熱装置に関する。以下でさらに詳細に説明するように、例示的な加熱システムは、空胴内に配置された第1の電極と、(1つ以上のトランジスタを含み得る)増幅器装置と、増幅器装置の出力と第1の電極との間に結合されたインピーダンス整合回路網と、インピーダンス整合回路網の特性を調整することによって加熱運転を変更可能な計測制御システムとを用いて実現され得る。このように、インピーダンス整合回路網は、増幅器装置と空胴との整合を改善するために加熱運転中に調整可能な可変インピーダンス整合回路網である。このような可変インピーダンス整合回路網によって整合性が改善されることで、信号源と出力との間におけるより効率的な伝送が可能となる。具体的には、整合性を改善することによって、可変インピーダンス整合回路網は、装置の信号源に戻される反射信号の大きさを低減するとともに、可変インピーダンス整合回路網に接続された出力ノードへの電力電送を最大化するように動作可能となる。
【0010】
種々の実装において、インピーダンス整合回路網は、比較的多数の潜在的インピーダンス状態を有し得る。つまり、インピーダンス整合回路網は、そのインピーダンス整合回路網の入力と出力との間において多数の異なるインピーダンスを有し得る。例えば、インピーダンス整合回路網に(例えば、システムコントローラによって供給される)異なる制御信号を供給することによって、異なるインピーダンス状態が選択され得る。制御信号は、インピーダンス整合回路網の1つまたは複数の内部構成要素の状態を構成設定するように選択される。このように、これらの内部構成要素の状態が構成設定されることで、インピーダンス整合回路網のインピーダンスを制御することができる。
【0011】
加熱システムにおいて、インピーダンス整合回路網のインピーダンスは、加熱システムの負荷に最適なRF電力供給を行うように構成設定される。これは概して、加熱システムの加熱空胴内での反射エネルギーの量を最小化または低減するインピーダンス整合回路網のインピーダンス値を選択することを伴い得る。加熱空胴内における反射エネルギーの量
を低減することによって、このアプローチは、加熱空胴内に置かれた負荷に供給されるRFエネルギーの量を最大化または増加させることができる。
【0012】
可変インピーダンス整合回路網は、多数の状態に構成設定され得る。各状態は、異なるインピーダンス値を有するか、またはその回路網の入力と出力との間で異なるインピーダンス変換をもたらす。例えば、回路網は、数千(例えば、2048またはその他の数)の可能なインピーダンス整合状態を有し得る。各インピーダンス整合状態は、異なるインピーダンス値を有する。負荷へのRFエネルギー伝送を最大化または増加させるインピーダンス整合回路網の適切な状態を選択する(すなわち、システムを「調整する」)とき、可変インピーダンス整合回路網の各状態を試験して最適な整合を決定するためにかなりの時間が必要となり得る。そこで、加熱運転が不所望に長くなることを避けるために、可変インピーダンス整合回路網のすべての状態を試験するのに必要な調整動作の回数、つまり、インピーダンス整合を改善するためにインピーダンス整合回路網のインピーダンスを調整する回数を加熱運転中に望まれる回数よりも少ない回数とすることができる。これは、加熱運転の効率を低下させるものとなり得る。本質的に、現在の方法を用いると、加熱効率と加熱時間との間でトレードオフが必要となる。
【0013】
そこで、RF加熱用途において可変インピーダンス整合回路網の効率的な調整を可能にし得るシステムおよび方法が提供される。このアプローチは、加熱システムの加熱空胴に可変インピーダンス整合回路網を介して入射RF試験信号を供給することを伴う。入射または伝送RF試験信号が加熱空胴に伝送されると、反射RF信号が加熱空胴内で生成される。伝送および反射RF信号は電力検出システムによって検出される。伝送RF試験信号と反射RF試験信号との位相角度の差が計算される。その位相角度の差に基づいて可変インピーダンス整合回路網の第1の調整要素が調整されることでインピーダンス整合回路網によって導入される実効直列インダクタンスの量が調整される。これにより、分路インダクタンスについての第2の調整が行われることで可変インピーダンス整合回路網の整合が最適化される。その結果、インピーダンス整合回路網のインピーダンスが加熱システムの負荷(すなわち、空胴内の負荷を加えた加熱空胴)に対して整合される。別の方法では、負荷反射係数の位相が測定され、負荷を、その負荷を整合するために直列インダクタンスが用いられ得る場所の点に変換するために必要な分路インダクタンスの量が計算される。一実施形態の固有の探索アルゴリズムは、試験されるシステム状態の数を大幅に減らし、許容し得るインピーダンス整合システム状態をより迅速に決定する。言い換えれば、複素インピーダンスの知識が与えられれば、加熱中に負荷がインピーダンスを変化させる際に適切な調整パラメータを迅速に特定することができる。
【0014】
図1は、例示的な一実施形態による加熱システム100の斜視図である。加熱システム100は、空胴110と、操作パネル120と、1つ以上の高周波(RF)信号源(例えば、図3のRF信号源340)と、電源(例えば、図3の電源350)と、第1の電極170と、電力検出回路(例えば、図3の電力検出回路380)と、システムコントローラ(例えば、図3のシステムコントローラ330)とを備える。加熱空胴110は、天側、底側、側方、後方の空胴壁111,112,113,114,115の内面、およびドア116の内面によって画定される。ドア116を閉じた状態で、加熱空胴110は、密閉された空気空胴を画成している。本明細書で使用される「空気空胴」という用語は、空気またはその他のガスを収容する密閉領域(例えば、加熱空胴110)を意味し得る。
【0015】
一実施形態によれば、第1の電極170は、空胴壁(例えば、天壁111)に近接して配置されている。第1の電極170は、残りの空胴壁(例えば、壁112〜115およびドア116)から電気的に絶縁されており、それらの残りの空胴壁は接地されている。このような構成では、本システムは、コンデンサとして単純化してモデル化されてよく、その場合、第1の電極170は、1つの導電板(または電極)として機能し、接地された空
胴壁(例えば、壁112〜115)は、第2の導電板(または電極)として機能し、空気空胴(その中に収容された任意の負荷を含む)は、第1および第2の導電板の間の誘電体媒質として機能する。図1には示していないが、システム100は、非導電性バリア(例えば、図3のバリア314)を含んでもよく、非導電性バリアは、負荷を空胴底壁112から電気的かつ物理的に隔離するように機能し得る。図1では、天壁111に近接した第1の電極170を示しているが、代替的に、第1の電極170は、代替の電極172〜175で示すように、他の壁112〜115のいずれかに近接していてもよい。
【0016】
一実施形態によれば、加熱システム100の運転時、ユーザ(図示せず)は、1つ以上の負荷(例えば、食品および/または液体)を加熱空胴110内に配置し得るとともに、任意で負荷(群)の特性を指定する入力を操作パネル120で提示し得る。例えば、指定される特性は、負荷の概略重量を含み得る。さらに、指定される負荷特性は、負荷を形成する材料(群)(例えば、肉、パン、液体)を示し得る。別の実施形態では、負荷パッケージのバーコードをスキャンするか、または負荷上のRFIDタグもしくは負荷内に埋め込まれたRFIDタグから無線周波数識別(RFID)信号を受信するなどして、他の何らかの方法で負荷特性を取得することができる。いずれの場合も、さらに詳細に後述するように、このような負荷特性に関する情報によって、システムコントローラ(例えば、図3のシステムコントローラ330)は、加熱運転の開始時にシステムのインピーダンス整合回路網の初期状態を設定することが可能となり得る。この場合における初期状態は、負荷への最大限のRF電力伝送を可能とする最適状態に比較的近いものとすることができる。あるいは、加熱運転の開始前に負荷特性が入力または受信されないことがあり、システムコントローラは、インピーダンス整合回路網のデフォルト初期状態を設定し得る。
【0017】
加熱運転を開始するために、ユーザは、操作パネル120で入力を提示し得る。これに応えて、システムコントローラは、第1の電極170へのRF信号の供給を、RF信号源(群)(例えば、図3のRF信号源340)に実行させ、これに応じて、加熱空胴110内に電磁エネルギーが放射される。この電磁エネルギーによって、負荷の熱エネルギーは増加する(すなわち、電磁エネルギーによって負荷は加温される)。
【0018】
加熱運転中には、負荷の熱エネルギーが増加するにつれて、負荷のインピーダンス(ひいては、加熱空胴110と負荷を合わせた全入力インピーダンス)が変化する。このインピーダンスの変化によって、負荷へのRFエネルギーの吸収が変化し、ひいては反射電力の大きさが変化して、加熱運転の効率が経時的に低下し得る。一実施形態によれば、RF信号源(例えば、図3のRF信号源340)と第1の電極170との間の伝送路(例えば、図3の伝送路348)に沿った伝送電力および反射電力を電力検出回路(例えば、図3の電力検出回路380)によって連続的または周期的に測定する。これらの測定値に基づいて、システムコントローラ(例えば、図3のシステムコントローラ330)は、可変インピーダンス整合回路網の状態を変化させるアルゴリズムを実行することで、負荷への最適なRF電力供給を行い得る。このように、伝送電力および反射電力の測定値に基づいて、可変インピーダンス整合回路網が調整され得る。
【0019】
図1の加熱システム100は、卓上型機器として具現化されている。さらなる実施形態では、加熱システム100は、電子レンジ調理運転を実行するための構成要素および機能をさらに備えてもよい。あるいは、加熱システムの構成要素を、他のタイプのシステムまたは機器に組み込んでもよい。例えば、図2は、他の例示的な実施形態の加熱システム210,220を含む冷蔵/冷凍機器200の斜視図である。具体的に、加熱システム210は、システム200の冷凍室212内に組み込まれる(この場合、加熱システム210は、食品を解凍するために主に使用され得る)ものとして示され、加熱システム220は、システムの冷蔵室222内に組み込まれる(この場合、加熱システム220は食品を解凍および/または調理するために主に使用され得る)ものとして示されている。実際の冷
蔵/冷凍機器は、加熱システム210,220のうちの一方のみを備える可能性が高いが、図2では、両方の実施形態について簡潔に伝えるために両方とも示している。
【0020】
加熱システム100と同様に、加熱システム210,220のそれぞれは、加熱空胴と、操作パネル214,224と、1つ以上のRF信号源(例えば、図3のRF信号源340)と、電源(例えば、図3の電源350)と、第1の電極(例えば、図3の電極370)と、電力検出回路(例えば、図3の電力検出回路380)と、システムコントローラ(例えば、図3のシステムコントローラ330)とを備えている。例えば、加熱空胴は、引き出しの底壁、側壁、前壁、後壁の内面、および引き出しがその下でスライドする固定棚216,226の内側天面によって画定され得る。引き出しを棚の下に完全にスライドさせた状態で、引き出しおよび棚は、その空胴を密閉された空気空胴として画成している。加熱システム210,220の構成要素および機能は、種々の実施形態では加熱システム100の構成要素および機能と略同じとすることができる。
【0021】
さらに、一実施形態によれば、冷凍庫に搭載された加熱システム210による加熱処理が完了すると、負荷を収容している空胴を冷凍室212と熱的に連通させることができ、負荷が空胴から速やかに取り出されない場合、負荷が再凍結し得る。同様に、冷蔵庫に搭載された加熱システム220による加熱処理が完了すると、解凍済み負荷を収容している空胴を冷蔵室222と熱的に連通させることができ、負荷が空胴から速やかに取り出されない場合、負荷が冷蔵室222内の温度に戻り得る。
【0022】
当業者であれば、本明細書の記載に基づいて、他の構成を有するシステムまたは機器に同様に加熱システムの実施形態を組み込んでもよいことを理解し得る。従って、スタンドアロン機器、電子レンジ機器、冷凍庫、および冷蔵庫での、上記実施形態の加熱システムは、実施形態の使用をこの種のシステムのみに限定するものではない。
【0023】
加熱システム100,210,220は、それらの構成要素が互いに特定の相対的位置付けにある状態で示されているが、それらの各種構成要素を異なる位置付けとしてもよいことが理解され得る。さらに、各種構成要素の物理的構成は異なるものであってもよい。例えば、操作パネル120,214,224は、より多数の、より少数の、もしくは異なるユーザインタフェース要素を有するものであってもよく、さらに/またはそれらのユーザインタフェース要素は異なる配置であってもよい。また、図1には略立方体の加熱空胴110を示しているが、他の実施形態では、加熱空胴は異なる形状(例えば、円筒状など)を有し得ることが理解され得る。さらに、加熱システム100,210,220は、図1および図2に明示していない追加の構成要素(例えば、ファン、固定皿または回転皿、トレイ、電気コードなど)を含んでもよい。
【0024】
図3は、例示的な一実施形態による加熱システム300の簡略ブロック図である。加熱システム300は、一実施形態において、加熱空胴310と、ユーザインタフェース320と、システムコントローラ330と、RF信号源340と、電源バイアス回路350と、可変インピーダンス整合回路網360と、電極370と、電力検出回路380とを備えている。さらに、他の実施形態では、加熱システム300は、温度センサ(群)、赤外線(IR)センサ(群)、および/または重量センサ(群)390を備え得るが、これらのセンサ部品の一部またはすべてを省略してもよい。なお、図3は、説明および簡単な記載を目的とした加熱システム300の簡略図であり、実際の実施形態では、追加の機能および特徴を提供するために、他のデバイスおよび構成要素を含み得ること、さらに/または、加熱システム300は、より大きな電気系統または電気機器の一部であってもよいことが理解され得る。
【0025】
ユーザインタフェース320は、例えば、ユーザが加熱運転のためのパラメータ(例え
ば、加熱対象の負荷の特性など)に関する入力をシステムに提示することを可能とする操作パネル(例えば、図1および図2の操作パネル120,214,224)、スタートボタンおよび取消しボタン、メカニカルコントロール(例えば、ドア/引き出しオープンラッチ)などに相当し得る。さらに、ユーザインタフェースは、加熱運転の状態(例えば、カウントダウンタイマ、加熱処理の進行もしくは完了を示す可視インディシア、および/または加熱処理の完了を示す可聴音)およびその他の情報を示す、ユーザが知覚可能な出力を提示するように構成され得る。
【0026】
システムコントローラ330は、1つ以上の汎用または専用プロセッサ(例えば、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、特定用途向け集積回路(ASIC)など)と、揮発性および/または不揮発性メモリ(例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、フラッシュメモリ、各種レジスタなど)と、1つ以上の通信バスと、その他の構成部品とを有し得る。一実施形態によれば、システムコントローラ330は、ユーザインタフェース320、RF信号源340、可変インピーダンス整合回路網360、電力検出回路380、および(備える場合)センサ390に結合されている。システムコントローラ330は、ユーザインタフェース320を介して受け取るユーザ入力を示す信号を受信するとともに、伝送電力および反射電力の測定値を電力検出回路380から受信するように構成されている。受信した信号および測定値に応じて、システムコントローラ330は、さらに詳細に後述するように、電源バイアス回路350、およびRF信号源340のRF信号発生器342に対して、制御信号を供給する。さらに、システムコントローラ330は、可変インピーダンス整合回路網360に対して、回路網360の状態または構成設定を変更させる制御信号を供給する。
【0027】
加熱空胴310は、加熱対象の負荷316を配置し得る空気空胴によって隔離された第1および第2の平行平板電極を有する容量式加熱装置を含む。例えば、第1の電極370は空気空胴の上方に配置されてもよく、第2の電極は閉じ込め構造312の一部によって提供されてもよい。具体的に、閉じ込め構造312は、底壁、天壁、および側壁を有してもよく、それらの内面によって加熱空胴310(例えば、図1の加熱空胴110)が画定される。一実施形態によれば、加熱空胴310は、加熱運転中に加熱空胴内310に導入される電磁エネルギーを閉じ込めるために、(例えば、図1のドア116によって、または図2の棚216、226の下に引き出しをスライドさせて閉じることによって)封止されてもよい。加熱システム300は、加熱運転中に封止が保たれることを保証する1つ以上のインタロック機構を備え得る。それらのインタロック機構の1つ以上が、封止が破壊されたことを示す場合には、システムコントローラ330は加熱運転を停止し得る。一実施形態によれば、閉じ込め構造312は少なくとも部分的に導電性材料で形成され、閉じ込め構造312の導電部(群)は接地されてもよい。あるいは、少なくとも加熱空胴310の底面に対応する閉じ込め構造312の部分を導電性材料で形成するとともに接地してもよい。いずれの場合も、閉じ込め構造312(または、少なくとも第1の電極370に平行な閉じ込め構造312の部分)は、容量式加熱装置の第2の電極として機能する。負荷316と、加熱空胴310の接地された底面との間の直接接触を避けるために、加熱空胴310の底面上に非導電性バリア314を配置してもよい。
【0028】
一実施形態では、第1の電極370は、可変インピーダンス整合回路網360および伝送路348を介してRF信号源340に電気的に結合されている。可変インピーダンス整合回路網360は、RF信号源340のインピーダンスから、負荷316によって変化する加熱空胴310の入力インピーダンスへの、インピーダンス変換を実行するように構成されている。一実施形態では、可変インピーダンス整合回路網360は、受動部品(例えば、インダクタ、コンデンサ、抵抗器)からなる回路網を含む。具体的な一実施形態によれば、可変インピーダンス整合回路網360は、加熱空胴310内に配置されるとともに第1の電極370に電気的に結合された複数の固定値インダクタを含む。さらに、可変イ
ンピーダンス整合回路網360は、加熱空胴310の内部または外部に配置され得る複数の可変インダクタンス回路網を含む。可変インダクタンス回路網の各々が提供するインダクタンス値は、以下で説明するように、システムコントローラ330からの制御信号を用いて設定される。
【0029】

加熱空胴310と、加熱空胴310内に配置される任意の負荷316(例えば、食品、液体など)は、第1の電極370によって加熱空胴310内に放射される電磁エネルギー(またはRF電力)に対して積算負荷を呈する。具体的に、加熱空胴310と負荷316は、システムに対して、本明細書では「空胴入力インピーダンス」と呼ぶインピーダンスを呈する。空胴入力インピーダンスは、加熱運転中に、負荷316の温度が上昇するにつれて変化する。空胴入力インピーダンスが変化するにつれて、加熱運転の効率、具体的には、食品負荷に供給されるRFエネルギーの量が変化する。このため、システムコントローラ330は、食品負荷にRFエネルギーが効率的に供給されるように、電力検出回路380からの反射電力および伝送電力の測定値に基づいてインピーダンス整合回路網360の状態を調整するように構成されている。従って、加熱運転中における負荷インピーダンスの変動にかかわらず、負荷316によって吸収されるRF電力の量を高いレベルに維持することができる。
【0030】
一実施形態によれば、RF信号源340は、RF信号発生器342と、電力増幅器(例えば、1つ以上の電力増幅器段344,346を含む)とを含む。RF信号発生器342は、システムコントローラ330が供給する制御信号に応じて、ISM(産業科学医療)バンドの周波数を有する発振電気信号を生成するように構成されるが、他の周波数帯での動作をサポートするようにシステムを変更することもできる。RF信号発生器342は、種々の実施形態では、種々の異なる電力レベルおよび/または異なる周波数の発振信号を生成するように制御され得る。例えば、RF信号発生器342は、約1.0メガヘルツ(MHz)〜約500MHzの範囲で発振する信号を生成し得る。いくつかの望ましい周波数は、例えば、13.56MHz(+/−5%)、27.125MHz(+/−5%)、および40.68MHz(+/−5%)であり得る。具体的な一実施形態において、RF信号発生器342は、例えば、約10デシベル(dB)〜約15dBの範囲の電力レベルで約40.66MHz〜約40.70MHzの範囲で発振する信号を生成し得る。あるいは、発振周波数および/または電力レベルは、より低くてもよいし、より高くてもよい。
【0031】
図3の実施形態では、電力増幅器は、ドライバ増幅器段344および最終増幅器段346を含む。電力増幅器は、RF信号発生器342から発振信号を受信するとともに、その信号を増幅することで、それよりもかなり高電力の信号を電力増幅器の出力に生成するように構成されている。例えば、その出力信号は、約100ワット〜約400ワットまたは1000ワットよりも高い範囲の電力レベルを有し得る。電力増幅器によって付与される利得は、電源バイアス回路350が各々の増幅器段344,346に供給するゲートバイアス電圧および/またはドレイン電源電圧を用いて制御されてもよい。具体的には、電源バイアス回路350は、システムコントローラ330から受信する制御信号に従って、バイアス電圧および電源電圧を各々のRF増幅器段344,346に供給する。
【0032】
一実施形態では、各々の増幅器段344,346は、入力端子(例えば、ゲート端子または制御端子)と2つの通電端子(例えば、ソース端子およびドレイン端子)とを有する電界効果トランジスタ(FET)のようなパワートランジスタとして実現される。種々の実施形態において、ドライバ増幅器段344の入力(例えば、ゲート)に対して、および/またはドライバ増幅器段と最終増幅器段346との間に、および/または最終増幅器段346の出力(例えば、ドレイン端子)に対して、インピーダンス整合回路(図示せず)を結合してもよい。一実施形態では、それらの増幅器段344,346の各トランジスタ
は、横型拡散金属酸化膜半導体FET(LDMOSFET)トランジスタを含む。ただし、それらのトランジスタはいずれかの特定の半導体技術に限定されるものではなく、他の実施形態では、各トランジスタは、高電子移動度トランジスタ(HEMT)(例えば、窒化ガリウム(GaN)系トランジスタ)、他のタイプのMOSFETトランジスタ、バイポーラ接合トランジスタ(BJT)、または他の半導体技術を利用したトランジスタとして実現されてもよい。
【0033】
図3では、他の回路部品に特定の形態で結合される2つの増幅器段344,346を含むものとして電力増幅器装置を示している。他の実施形態では、電力増幅器装置は、他の増幅器トポロジを含んでいてもよく、さらに/または増幅器装置は、1つの増幅器段のみを含んでいてもよく、もしくは2つよりも多くの増幅器段を含んでいてもよい。例えば、電力増幅器装置は、種々の実施形態の、シングルエンド増幅器、ダブルエンド増幅器、プッシュプル増幅器、ドハティ増幅器、スイッチモード電力増幅器(SMPA)、または他のタイプの増幅器を含み得る。
【0034】
一実施形態では、電力検出回路380は、RF信号源340の出力と可変インピーダンス整合回路網360の入力との間の伝送路348に沿って結合されている。別の実施形態では、電力検出回路380は、可変インピーダンス整合回路網360の出力と第1の電極370との間の伝送路349に結合され得る。いずれの場合も、電力検出回路380は、伝送路348に沿って伝わる伝送信号(すなわち、RF信号源340から第1の電極370に向かう信号)および反射信号(すなわち、第1の電極370からRF信号源340に向かう信号)の電力を、監視、測定、またはその他の方法で検出するように構成されている。電力検出回路380はさらに、伝送信号および反射信号の位相を検出するように構成されてもよく、これにより、伝送信号と反射信号との位相角度を特定することが可能となる。
【0035】
電力検出回路380は、伝送信号電力および反射信号電力の大きさと位相角度を伝える信号をシステムコントローラ330に供給する。これにより、システムコントローラ330は、反射信号電力対伝送信号電力の比、またはS11パラメータとともに、伝送信号と反射信号との位相角度を計算することができる。以下で詳細に説明するように、伝送信号と反射信号との位相角度が加熱システムの目標位相角度と等しくない(または、目標位相角度の閾値内にある)とき、それは加熱システム300が適切に整合されていないことを示し得る。同様に、反射対伝送電力比が閾値を超えている場合、それは加熱システム300が適切に整合されておらず、負荷316によるエネルギー吸収が最適ではない可能性があることを示している。このような状況において、システムコントローラ330は、可変インピーダンス整合回路網の状態を変更するプロセスを調整することにより、許容し得る整合を再設定して負荷316へのより最適なエネルギー伝送を促進する。
【0036】
上述のように、いくつかの実施形態の加熱システム300は、温度センサ(群)、IRセンサ(群)、および/または重量センサ(群)390を備え得る。温度センサ(群)および/またはIRセンサ(群)は、加熱運転中に負荷316の温度の検知を可能とする位置に配置され得る。その温度情報がシステムコントローラ330に供給されると、システムコントローラ330は、可変インピーダンス整合回路網360の状態を調整するために、(例えば、電源バイアス回路350によって供給されるバイアス電圧および/または電源電圧を制御することにより)RF信号源340によって供給されるRF信号の電力を変更し、および/または加熱運転を終了すべき時点を決定することが可能となる。重量センサ(群)は、負荷316の下に配置されて、負荷316の重量の推定値をシステムコントローラ330に供給するように構成されている。システムコントローラ330は、この情報を、例えば、RF信号源340によって供給されるRF信号の望ましい電力レベルを決定するため、および/または可変インピーダンス整合回路網360の初期設定を決定する
ため、および/または加熱運転の概略継続時間を決定するために用いてもよい。
【0037】
上述のように、可変インピーダンス整合回路網360は、負荷316へのRF電力伝送を可能な限り最大化するための、加熱空胴310と負荷316を合わせた入力インピーダンスの整合のために用いられる。加熱空胴310と負荷316の初期インピーダンスは、加熱運転の開始時に正確に把握されていないことがある。さらに、負荷316のインピーダンスは、加熱運転中に負荷316が加温されるにつれて変化する。一実施形態によれば、システムコントローラ330は、可変インピーダンス整合回路網360に対して、可変インピーダンス整合回路網360の状態を変更させる制御信号を供給し得る。これにより、システムコントローラ330は、加熱運転の開始時に可変インピーダンス整合回路網360の初期状態(例えば、反射対伝送電力比が相対的に低く、ひいては、負荷316によるRF電力の吸収が相対的に高い初期状態)を設定することが可能となる。さらに、これにより、システムコントローラ330は、加熱運転中を通して、負荷316のインピーダンスが変化するにも関わらず適切な整合を維持し得るように、可変インピーダンス整合回路網360の状態を変更することが可能となる。
【0038】
一実施形態によれば、可変インピーダンス整合回路網360は、受動部品からなる回路網を含み得る。具体的に、可変インピーダンス整合回路網360は、いくつかの実施形態では、固定値インダクタ(例えば、固定値インダクタンス部品)と可変インダクタ(または、可変インダクタンス回路網)との回路網を含み得る。本明細書で使用される「インダクタ」という用語は、ディスクリートインダクタを意味するか、または他のタイプの部品(例えば、抵抗器またはコンデンサ)を介在させることなく相互に電気的に結合されたインダクタンス部品のセットを意味する。本明細書で使用される「回路網」とは、1つまたは複数の受動電気部品および能動電気部品を含み得る回路である。いくつかの実施形態において、「可変インピーダンス整合回路網」とは、少なくとも1つの受動部品(例えば、インダクタンス、キャパシタンス、抵抗、および/またはそれらの組み合わせを含む)と、通常は1つまたは複数の能動部品(例えば、トランジスタ)とを含む回路である。同様に、「可変インピーダンス回路網」とは、少なくとも1つのインダクタンスを含む回路であり、1つ以上の他の受動および/または能動部品(例えば、キャパシタンス、抵抗、トランジスタ)を含み得る。
【0039】
図4は、例示的な一実施形態による可変インピーダンス整合回路網400(例えば、図3の可変インピーダンス整合回路網360)の概略図である。以下で詳細に説明するように、可変インピーダンス整合回路網400は、基本的に2つの部分を有し、一方は、RF信号源(または、最終段の電力増幅器)を整合させるための部分であり、他方は、空胴と負荷を合わせたものを整合させるための部分である。図4のインピーダンス整合回路網400は単に、例示的なインピーダンス整合回路網であり、他の回路網構成も利用することができる。例えば、整合回路網400は、正の入力電圧と接地との間に接続される。他の実施形態では、インピーダンス整合回路網は、正の入力電圧と、同じ大きさの負の電圧とに接続されるように実装され得る。さらに他の可変インピーダンス整合回路網では、図4に示されたインダクタのうちの1つ以上によって提供される機能が、適切に構成されたキャパシタまたは他の構成部品によって置換され得る。
【0040】
一実施形態によれば、可変インピーダンス整合回路網400は、入力ノード402と、出力ノード404と、第1および第2の可変インダクタンス回路網410,411と、複数の固定値インダクタ412〜415のセット430とを含む。加熱システム(例えば、図3のシステム300)に組み込まれる場合、入力ノード402は、RF信号源(例えば、図3のRF信号源340)の出力に電気的に結合され、出力ノード404は、加熱空胴(例えば、図3の加熱空胴310)内の電極(例えば、図3の第1の電極370)に電気的に結合される。
【0041】
本明細書で使用される整合回路網の「直列インダクタンス」とは、回路網の入出力ノード間に結合されたインダクタンスである。これに対し、整合回路網の「分路インダクタンス」とは、入出力ノード間の経路に沿ったノードと電圧基準ノード(例えば、接地基準)との間に結合されたインダクタンスである。従って、回路網400において、インダクタ412,414は、ノード402,404間において直列インダクタンスを形成し、インダクタ410は第1の分路インダクタンスを形成し、インダクタ411,413は第2の分路インダクタンスを形成し、インダクタ415は第3の分路インダクタンスを形成する。
【0042】
一実施形態では、可変インピーダンス整合回路網400は、入力ノード402と出力ノード404との間において、直列結合された第1および第2の固定値インダクタ412,414を含む。第1および第2の固定値インダクタ412,414は直列インダクタンスを有し、以下で詳細に説明するように、この直列インダクタンスの実効値は、測定および計算された負荷反射係数の位相に基づいて、加熱運転中に変更される。具体的に、直列インダクタンスの実効値は、1つまたは複数の分路インダクタンスによって変更されるインダクタ412,414の値によって規定される。システムは、負荷を、実効直列インダクタンスが負荷に適切に整合する点に変換するのに必要な分路インダクタンスの値を計算する。そして、システムは、分路インダクタンスを、その計算された値に(例えば、可変インダクタ410,411によるインダクタンス値を変更することによって)変更する。一実施形態では、第1および第2の固定値インダクタ412,414は、相対的に低い周波数(例えば、約4.66MHz〜約4.68MHz)かつ高い電力(例えば、約50ワット(W)〜約1000W)の動作用に設計され得るので、そのサイズおよびインダクタンス値はともに比較的大きい。例えば、インダクタ412,414は、約200ナノヘンリ(nH)〜約600nHの範囲の値を有し得るが、他の実施形態では、それらの値は、それより低くてもよいし、またはそれより高くてもよい。例示的な実施形態では、回路網400によって提供される直列インダクタンスは、インダクタ412,414によって与えられるインダクタンスを含み、回路網400はさらに3つの分路インダクタンスを含み、これら3つの分路インダクタンスのうちの2つは、可変分路インダクタンスである。別の実施形態において、直列インダクタンスは、単一のインダクタまたは3つ以上のインダクタ(および/または可変インダクタンス)を含んでいてもよいし、さらに/あるいは、2つ以下もしくは4つ以上の分路インダクタンスを含んでいてもよく、この場合には、1つもしくは3つ以上を可変分路インダクタンスとすることができる。
【0043】
第1の可変インダクタンス回路網410は、入力ノード402と接地基準端子(例えば、図3の接地された閉じ込め構造312)との間に結合された第1の分路インダクタンス回路網である。一実施形態によれば、第1の可変インダクタンス回路網410は、RF信号源(例えば、図3のRF信号源340)のインピーダンスを整合させるように、あるいは具体的には、最終段の電力増幅器(例えば、図3の増幅器346)を整合させるように、構成設定可能である。従って、第1の可変インダクタンス回路網410は、可変インピーダンス整合回路網400の「電力増幅器整合部」と呼ぶことができる。この開示において、第1の可変インダクタンス回路網410は、可変インピーダンス整合回路網400の可変分路インダクタンスとも呼ぶことができる。一実施形態によれば、図5に関連してさらに詳細に説明するように、第1の可変インダクタンス回路網410は、約20nH〜約400nHの範囲のインダクタンスを提供するために選択的に相互に結合され得るインダクタンス部品からなる回路網を含むが、このインダクタンスの範囲は、それよりも低いインダクタンス値に及んでいてもよいし、またはそれよりも高いインダクタンス値に及んでいてもよい。
【0044】
一方、可変インピーダンス整合回路網400の「空胴整合部」は、第1および第2のイ
ンダクタ412,414の間のノード420と接地基準端子との間に結合された第2の分路インダクタンス回路網416によって提供される。一実施形態によれば、第2の分路インダクタンス回路網416は、第3のインダクタ413と第2の可変インダクタンス回路網411とを含み、これらは、第3のインダクタ413と第2の可変インダクタンス回路網411との間の中間ノード422で直列結合されている。この開示において、第2の可変インダクタンス回路網411は、可変インピーダンス整合回路網400の可変直列インダクタンスとも呼ぶことができる。この第2の可変インダクタンス回路網411の状態を様々なインダクタンス値を提供するように変化させることができるため、第2の分路インダクタンス回路網416は、空胴と負荷を合わせた(例えば、図3の空胴310と負荷316を合わせた)インピーダンスを最適に整合させるように構成設定可能である。例えば、インダクタ413は、約400nH〜約800nHの範囲の値を有し得るが、他の実施形態では、その値はそれより低い範囲に及んでいてもよいし、またはそれより高い範囲に及んでいてもよい。一実施形態によれば、図5に関連してさらに詳細に説明するように、第2の可変インダクタンス回路網411は、約50nH〜約800nHの範囲のインダクタンスを提供するために選択的に相互に結合され得るインダクタンス部品からなる回路網を含むが、その範囲はそれより低いインダクタンス値に及んでいてもよいし、またはそれより高いインダクタンス値に及んでいてもよい。
【0045】
最後に、可変インピーダンス整合回路網400は、出力ノード404と接地基準端子との間に結合された第4のインダクタ415を含む。例えば、インダクタ415は、約400nH〜約800nHの範囲の値を有し得るが、他の実施形態では、その値はそれより低い範囲に及んでいてもよいし、またはそれより高い範囲に及んでいてもよい。
【0046】
図7および図8に関連して以下で詳細に説明するように、インダクタ412〜415のセット430は、空胴(例えば、図3の空胴310)内に物理的に配置されてもよく、または、少なくとも閉じ込め構造(例えば、図3の閉じ込め構造312)の範囲内に物理的に配置されてもよい。これにより、インダクタ412〜415によって発生する放射を、周囲環境に放出するのではなくシステム内に問題なく閉じ込めることが可能となる。一方、可変インダクタンス回路網410,411は、種々の実施形態では、空胴内または閉じ込め構造内に収容されてもよいが、収容されていなくてもよい。
【0047】
一実施形態によれば、図4の可変インピーダンス整合回路網400の実施形態は、加熱空胴310と負荷316を合わせた入力インピーダンスの整合を提供するために、「インダクタのみ」を含む。従って、この可変インピーダンス回路網400は、「インダクタのみ」の整合回路網とみなし得る。本明細書において可変インピーダンス整合回路網の構成部品を説明する際に使用される「インダクタのみ」または「インダクタ限定」という表現は、その回路網が有意な抵抗値を有するディスクリート抵抗器または有意な容量値を有するディスクリートコンデンサを含まないことを意味する。場合によっては、整合回路網の構成部品間の導電伝送線路は、抵抗が最小限のものであってもよく、さらに/または、回路網内で生じる寄生容量は最小限であってもよい。このような最小限の抵抗および/または最小限の寄生容量は、「インダクタのみ」の回路網の実施形態を、抵抗器および/またはコンデンサも含む整合回路網に転換するものと解釈されるべきではない。しかしながら、他の実施形態の可変インピーダンス整合回路網は、異なる構成のインダクタのみの整合回路網、ならびに、ディスクリートインダクタ、ディスクリートコンデンサ、および/またはディスクリート抵抗器の組み合わせを含む整合回路網を含み得ることは、当業者であれば理解し得る。図6に関連してさらに詳細に説明するように、「インダクタのみ」の整合回路網は、インダクタンス部品のみを用いて、または主にインダクタンス部品を用いて、容量性負荷のインピーダンス整合を可能とする整合回路網と、代替的に定義し得る。
【0048】
図5は、可変インピーダンス整合回路網に(例えば、図4の可変インダクタンス回路網
410および/または411として)組み込むことができる例示的な一実施形態による可変インダクタンス回路網500の概略図である。この回路網500は、入力ノード530と、出力ノード532と、入力ノード530と出力ノード532との間に相互に直列結合された複数N個のディスクリートインダクタ501〜504とを有し、ここで、Nは、2〜10の間またはさらに大きい整数とすることができる。さらに、この回路網500は、複数N個のスイッチ511〜514を有し、各々のスイッチ511〜514は、インダクタ501〜504のうちの1つのインダクタの両端子間に並列結合されている。これらのスイッチ511〜514は、例えば、トランジスタ、メカニカルリレー、またはメカニカルスイッチとして実現され得る。各々のスイッチ511〜514の導電状態(すなわち、開または閉)は、システムコントローラ(例えば、図3のシステムコントローラ330)からの制御信号521〜524を用いて制御される。
【0049】
並列なインダクタ/スイッチの組み合わせのそれぞれでは、対応するスイッチが開状態または非導電状態にあるときには、略すべての電流がインダクタを通って流れ、そのスイッチが閉状態または導電状態にあるときには、略すべての電流がスイッチを通って流れる。例えば、図5に示すように、すべてのスイッチ511〜514が開いているときには、入力ノード530と出力ノード532との間に流れる略すべての電流は、直列接続されたインダクタ501〜504を通って流れる。この構成は、回路網500の最大インダクタンス状態(すなわち、入力ノード530と出力ノード532との間に最大インダクタンス値を示す、回路網500の状態)を表している。一方、すべてのスイッチ511〜514が閉じているときには、入力ノード530と出力ノード532との間に流れる略すべての電流は、インダクタ501〜504を迂回して、代わりにスイッチ511〜514、ならびにノード530,532およびスイッチ511〜514間の導電性相互接続を通って流れる。この構成は、回路網500の最小インダクタンス状態(すなわち、入力ノード530と出力ノード532との間に最小インダクタンス値を示す、回路網500の状態)を表している。最小インダクタンス値は、略ゼロインダクタンスとなるのが理想的である。しかしながら、実際には、スイッチ511〜514、ならびにノード530,532およびスイッチ511〜514間の導電性相互接続の積算インダクタンスによって、最小インダクタンス状態では「トレース」インダクタンスが発生する。例えば、最小インダクタンス状態で、可変インダクタンス回路網500のトレースインダクタンスは、約20nH〜約50nHの範囲であり得るが、このトレースインダクタンスは、それより小さい範囲に及んでいてもよいし、またはそれより大きい範囲に及んでいてもよい。また、他の回路網状態のそれぞれにおいても同様に、それより大きい範囲に及ぶか、それより小さい範囲に及ぶか、または略同等のトレースインダクタンスが本質的に発生することがあり、その場合、どの回路網状態でも、トレースインダクタンスは、回路網500に流れる電流が主に流れる導体とスイッチの配列のインダクタンスの総和である。
【0050】
すべてのスイッチ511〜514が開いている最大インダクタンス状態から開始して、システムコントローラは、任意の組み合わせのスイッチ511〜514を閉じることで対応する組み合わせのインダクタ501〜504を迂回させることにより回路網500のインダクタンスを低減する結果となる制御信号521〜524を供給し得る。一実施形態では、各インダクタ501〜504は、本明細書では正規化値Iと呼ぶ、略同じインダクタンス値を有する。例えば、各インダクタ501〜504は、約100nH〜約200nHの範囲の値、または他の何らかの値を有し得る。そのような実施形態では、回路網500の最大(すなわち、すべてのスイッチ511〜514が開状態であるときの)インダクタンス値は、約N×Iに、この最大インダクタンス状態にあるときの回路網500で発生し得るトレースインダクタンスを加えたものとなる。任意のn個のスイッチが閉状態にあるときには、回路網500のインダクタンス値は、約(N−n)×I(さらにトレースインダクタンスを加えたもの)となる。そのような実施形態では、回路網500の状態を、N+1通りのインダクタンス値のいずれかを有するように構成設定し得る。
【0051】
別の実施形態では、インダクタ501〜504は、互いに異なる値を有し得る。例えば、入力ノード530から出力ノード532に向かって、第1のインダクタ501は、正規化インダクタンス値Iを有し得るとともに、直列の後続のインダクタ502〜504の各々は、より大きいインダクタンス値またはより小さいインダクタンス値を有し得る。例えば、後続のインダクタ502〜504の各々は、最も近い上流側のインダクタ501〜503のインダクタンス値の倍数(例えば、約2倍)のインダクタンス値を有し得るが、その差は必ずしも整数倍でなくてもよい。そのような実施形態では、回路網500の状態を、2N通りのインダクタンス値のいずれかを有するように構成設定し得る。例えば、N=4であって、各インダクタ501〜504は異なる値を有する場合に、回路網500を、16通りのインダクタンス値のいずれかを有するように構成設定し得る。限定するものではない例として、インダクタ501は値Iを有し、インダクタ502は値2×Iを有し、インダクタ503は値4×Iを有し、インダクタ504は値8×Iを有すると仮定すると、以下の表1は、回路網500の16通りの可能なすべての状態についての(トレースインダクタンスを考慮しない)総インダクタンス値を示している。
【0052】
【表1】
再び図4を参照すると、一実施形態の可変インダクタンス回路網410は、上記の例の特性を有する(すなわち、N=4であって、後続の各インダクタは、前のインダクタの約2倍のインダクタンスである)可変インダクタンス回路網500の形態で実現され得る。最小インダクタンス状態でのトレースインダクタンスは約20nHであって、回路網410で実現できるインダクタンス値の範囲は約20nH(トレースインダクタンス)〜約400nHであると仮定すると、インダクタ501〜504の値は、例えば、それぞれ、約30nH、約50nH、約100nH、約200nHであり得る。同様に、一実施形態の可変インダクタンス回路網411を同じ形態で実現する場合に、トレースインダクタンスは約50nHであって、回路網411で実現できるインダクタンス値の範囲は約50nH(トレースインダクタンス)〜約800nHであると仮定すると、インダクタ501〜504の値は、例えば、それぞれ、約50nH、約100nH、約200nH、約400nHであり得る。勿論、いずれの可変インダクタンス回路網410,411も、4つよりも多数または少数のインダクタ501〜504を含んでもよく、それぞれの回路網410,411のインダクタの値は異なっていてもよい。
【0053】
上記の例示的な実施形態では、回路網500のスイッチ付きインダクタンスの数が4であること、かつ各インダクタ501〜504が値Iの数倍の値を有することを規定しているが、別の実施形態の可変インダクタンス回路網は、4つよりも多数または少数のインダクタ、異なる相対値のインダクタ、異なる数の可能な回路網状態、および/または異なる構成のインダクタ(例えば、接続形態が異なる、並列結合および/または直列結合されたインダクタのセット)を有し得る。いずれの場合も、加熱システムのインピーダンス整合回路網内に可変インダクタンス回路網を設けることによって、システムを、加熱運転中に絶えず変化する空胴入力インピーダンスにより良く整合させることが可能となり得る。
【0054】
実装では、可変インダクタンス回路網500は、数百またはそれ以上のインダクタを用いて実装され得る。各インダクタは対応するスイッチを有し、これらのインダクタは可変インダクタンス回路網500が多数(例えば、数千)のインダクタンス状態を取り得ることを可能にする。例えば、11個の異なるスイッチ付きインダクタを有し、各々が異なるインダクタンス値を有する可変インダクタンス回路網500の実装は、数千の異なるインピーダンス値を生成するように用いられ得る。
【0055】
図6は、可変インピーダンス整合回路網(例えば、図3、4の回路網360、400)の一実施形態における複数のインダクタンスによって、いかに入力空胴インピーダンスをRF信号源に整合させ得るのかを示すスミスチャート600の一例である。図6のチャートは、システムのインピーダンスを示している。この例のスミスチャート600は、システムは50オーム・システムであり、RF信号源の出力は50オームであることを想定している。当業者であれば、本明細書の記載に基づき、異なる特性インピーダンスを有するシステムおよび/またはRF信号源の場合にスミスチャートをいかに変更できるのかを理解し得る。
【0056】
このスミスチャート600では、点601は、(例えば、加熱運転の開始時に)可変インピーダンス整合回路網(例えば、図3および図4の回路網360,400)によって提供される整合がないときに(例えば、図3の空胴310と負荷316を合わせた)負荷が位置する点に相当する。スミスチャート600の右下の象限にある負荷点601の位置によって示されるように、この負荷は容量性負荷である。一実施形態によれば、可変インピーダンス整合回路網の分路インダクタンスおよび直列インダクタンスによって、略容量性の負荷インピーダンスを、負荷へのRFエネルギー伝送が最小限の損失で実現し得る最適整合点606(例えば、50オーム)に向かって順に遷移させる。具体的には、図4も参照すると、分路インダクタンス415によってインピーダンスを点602に遷移させ、直列インダクタンス414によってインピーダンスを点603に遷移させ、分路インダクタ
ンス416によってインピーダンスを点604に遷移させ、直列インダクタンス412によってインピーダンスを点605に遷移させ、分路インダクタンス410によってインピーダンスを最適整合点606に遷移させる。
【0057】
なお、いくつかの実施形態の可変インピーダンス整合回路網により提供されるインピーダンス変換の組み合わせによって、インピーダンスは、スミスチャート600の右下の象限内またはそれに極めて近い任意の点に維持される。スミスチャート600のこの象限は、相対的に高いインピーダンスかつ相対的に低い電流により特徴付けられるので、このインピーダンス変換は、回路の構成部品に損傷を与える可能性のある相対的に高い電流を受けることなく実現される。従って、本明細書で使用される「インダクタのみ」の整合回路網の代替的な定義は、インダクタンス部品のみを用いて、または主にインダクタンス部品を用いて、容量性負荷のインピーダンス整合を可能とする整合回路網であり得るが、この場合、インピーダンス整合回路網は、概ねスミスチャートの右下の象限内で変換を行う。
【0058】
前述のように、加熱運転中に負荷のインピーダンスは変化する。従って、それに応じて点601は加熱運転中に移動する。この負荷点601の移動を、上述の実施形態によれば、第1および第2の分路インダクタンス410,411のインピーダンスを変化させることによって補償することで、可変インピーダンス整合回路網が提供する最終的な整合は、依然として最適整合点606またはその付近に達し得る。本明細書では特定の可変インピーダンス整合回路網について図示および記載しているが、当業者であれば、本明細書の記載に基づき、スミスチャート600で伝えるのと同じ結果または同様の結果を、異なる構成の可変インピーダンス整合回路網によって実現し得ることを理解し得る。例えば、別の実施形態の可変インピーダンス整合回路網は、それよりも多数または少数の分路インダクタンスおよび/もしくは直列インダクタンスを有していてもよく、さらに/またはそれらのインダクタンスのうち可変インダクタンス回路網として構成されるものは(例えば、直列インダクタンスのうちの1つまたは複数を含む)異なるものであってもよい。従って、本明細書では特定の可変インピーダンス整合回路網について図示および記載しているものの、本発明の主題は、図示および記載した実施形態に限定されない。
【0059】
図7および図8に関連して、加熱システムの特定の物理的構成について以下に説明する。具体的には、図7は、例示的な一実施形態による加熱システム700の断面側面図であり、図8は、加熱システム700の一部の斜視図である。一実施形態では、加熱システム700は、主に、加熱空胴774と、ユーザインタフェース(図示せず)と、システムコントローラ730と、RF信号源740と、電源バイアス回路(図示せず)と、電力検出回路780と、可変インピーダンス整合回路網760と、第1の電極770と、第2の電極772と、を備える。さらに、いくつかの実施形態では、解凍システム700は、重量センサ(群)790、温度センサ(群)、および/またはIRセンサ(群)792を備え得る。
【0060】
一実施形態では、加熱システム700は、閉じ込め構造750内に収容される。一実施形態によれば、閉じ込め構造750は、3つの内部領域、すなわち、加熱空胴774と、固定インダクタ領域776と、回路収容領域778とを画成し得る。閉じ込め構造750は底壁、天壁、および側壁を有する。閉じ込め構造750の壁のうちのいくつかの内面の一部によって、加熱空胴774を画定し得る。加熱空胴774は、負荷716を配置し得る空気空胴によって隔離された第1および第2の平行平板電極770,772を有する容量式加熱装置を含む。例えば、第1の電極770が空気空胴の上方に配置されてもよく、第2の電極772が、閉じ込め構造750の導電部(例えば、閉じ込め構造750の底壁の一部)によって提供されてもよい。あるいは、第2の電極772が閉じ込め構造750とは別の導電板で形成されてもよい。一実施形態によれば、第1の電極770を空気空胴の上方に懸架するため、第1の電極770を閉じ込め構造750から電気的に絶縁するた
め、および空気空胴に対して第1の電極770を固定された物理的な向きに保持するために、非導電性支持構造(群)754を採用し得る。
【0061】
一実施形態によれば、閉じ込め構造750は、少なくとも部分的に導電性材料で形成され、システムの各種電気部品に対して接地基準を提供するために、閉じ込め構造の導電部(群)は接地され得る。あるいは、少なくとも第2の電極772に対応する閉じ込め構造750の部分を導電性材料で形成するとともに接地してもよい。負荷716と第2の電極772との直接接触を避けるために、第2の電極772上に非導電性バリア756を配置してもよい。
【0062】
重量センサ(群)790は、システム700に備えられる場合には、負荷716の下に配置される。重量センサ(群)790は、負荷716の重量の推定値をシステムコントローラ730に供給するように構成されている。温度センサ(群)および/またはIRセンサ(群)792は、加熱運転中と加熱運転の前後のいずれでも負荷716の温度の検知を可能とする位置に配置され得る。一実施形態によれば、温度センサ(群)および/またはIRセンサ(群)792は、負荷温度の推定値をシステムコントローラ730に供給するように構成されている。
【0063】
一実施形態において、システムコントローラ730の各種構成部品の一部またはすべてと、RF信号源740、電源バイアス回路(図示せず)、電力検出回路780、および可変インピーダンス整合回路網760の部分710,711は、閉じ込め構造750の回路収容領域778内で共通基板752に結合され得る。一実施形態によれば、システムコントローラ730は、共通基板752上または共通基板752内で、種々の導電性相互接続を介して、ユーザインタフェース、RF信号源740、可変インピーダンス整合回路網760、および電力検出回路780に結合されている。さらに、一実施形態では、電力検出回路780は、RF信号源740の出力と可変インピーダンス整合回路網760の入力702との間の伝送路748に沿って結合されている。例えば、基板752として、マイクロ波積層基板もしくはRF積層基板、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)基板、プリント回路基板(PCB)材料基板(例えば、FR−4)、アルミナ基板、セラミックタイル、または他のタイプの基板を含んでもよい。種々の代替実施形態では、それらの構成部品のうちの様々な部品を、基板および構成部品の間に電気的相互接続を用いて様々に異なる基板に結合してもよい。さらに他の代替実施形態では、それらの構成部品の一部またはすべてを、別の基板に結合するのではなく、空胴壁に結合してもよい。
【0064】
一実施形態では、第1の電極770は、可変インピーダンス整合回路網760および伝送路748を介してRF信号源740に電気的に結合されている。前述のように、可変インピーダンス整合回路網760は、可変インダクタンス回路網710,711(例えば、図4の回路網410,411)と、複数のインダクタ712〜715(例えば、図4のインダクタ412〜415)とを含む。一実施形態では、可変インダクタンス回路網710,711は、共通基板752に結合されて、回路収容領域778内に配置されている。一方、インダクタ712〜715は、閉じ込め構造750の固定インダクタ領域776内(例えば、共通基板752と第1の電極770との間)に配置される。導電性構造(例えば、導電性ビアまたは他の構造)によって、回路収容領域778内の回路と固定インダクタ領域776内のインダクタ712〜715との間の電気通信を提供してもよい。
【0065】
システム700についての理解を深めるために、以下で、図7および8に示す可変インピーダンス整合回路網760のノードおよび構成部品を、図4に示す可変インピーダンス整合回路網400のノードおよび構成部品と相関付ける。具体的には、一実施形態によれば、可変インピーダンス整合回路網760は、入力ノード702(例えば、図4の入力ノード402)と、出力ノード704(例えば、図4の出力ノード404)と、第1および
第2の可変インダクタンス回路網710,711(例えば、図4の可変インダクタンス回路網410,411)と、複数のインダクタ712〜715(例えば、図4のインダクタ412〜415)とを含む。入力ノード702は、種々の導電性構造(例えば、導電性ビアおよび導電性トレース)を介してRF信号源740の出力に電気的に結合されており、出力ノード704は、第1の電極770に電気的に結合されている。
【0066】
一実施形態では、可変インピーダンス整合回路網760は、入力ノード702と出力ノード704(例えば、図4の入力ノード402と出力ノード404)との間に、固定インダクタ領域776内に配置された4つの固定値インダクタ712〜715(例えば、図4のインダクタ412〜415)を含む。インダクタ712〜715は集中インダクタであり得る。図7と固定インダクタ領域776の上面斜視図を示す図8との両方を同時に参照することで、固定インダクタ領域776内のインダクタ712〜715の物理的構成の一実施形態についての理解を深めることができる。図8において、インダクタ712〜715の下にある不規則な形状の網掛け領域は、第1の電極770の上方の空間においてインダクタ712〜715は浮いて懸吊されていることを表している。すなわち、それらの網掛け領域は、インダクタ712〜715が空気によって第1の電極770から電気的に絶縁されている位置を示している。なお、空気誘電体ではなく、これらの領域に非導電性スペーサを備えてもよい。
【0067】
一実施形態では、第1のインダクタ712は、入力ノード702に(ひいては、RF信号源740の出力に)電気的に結合された第1の端子と、第1の中間ノード720(例えば、図4のノード420)に電気的に結合された第2の端子とを有する。第2のインダクタ713は、第1の中間ノード720に電気的に結合された第1の端子と、第2の中間ノード722(例えば、図4のノード422)に電気的に結合された第2の端子とを有する。第3のインダクタ714は、第1の中間ノード720に電気的に結合された第1の端子と、出力ノード704(ひいては、第1の電極770)に電気的に結合された第2の端子とを有する。第4のインダクタ715は、出力ノード704(ひいては、第1の電極770)に電気的に結合された第1の端子と、接地基準ノードに(例えば、接地された閉じ込め構造750に1つ以上の導電性相互接続を介して)電気的に結合された第2の端子とを有する。
【0068】
第1の可変インダクタンス回路網710(例えば、図4の回路網410)は、入力ノード702と接地基準端子(例えば、接地された閉じ込め構造750)との間に電気的に結合されている。最後に、第2の分路インダクタンス回路網711は、第2の中間ノード722と接地基準端子との間に電気的に結合されている。
【0069】
以上、加熱システムの電気的側面および物理的側面の実施形態について説明したが、このような加熱システムを運転する方法の種々の実施形態について、図9を参照して以下に説明する。具体的には、図9は、例示的な一実施形態による、動的負荷整合を用いて加熱システム(例えば、図1図3図7のシステム100,210,220,300,700)を運転する方法のフローチャートである。
【0070】
ブロック902で、加熱運転を開始すべきであるという指示をシステムコントローラ(例えば、図3のシステムコントローラ330)が受信すると、本方法は開始し得る。このような指示は、例えば、ユーザがシステムの加熱空胴(例えば、図3の空胴310)内に負荷(例えば、図3の負荷316)を配置して、(例えば、ドアまたは引き出しを閉じることにより)空胴を封止し、その後(例えば、図3のユーザインタフェース320の)スタートボタンを押した後に、受信され得る。一実施形態では、空胴の封止によって、1つ以上の安全インタロック機構を係合させてよく、これが係合しているときには、空胴に供給されるRF電力が空胴の外の環境に概ね漏洩しないことを示している。後述するように
、安全インタロック機構の係合が外れると、システムコントローラは、直ちに加熱運転を一時停止または終了させ得る。
【0071】
種々の実施形態により、システムコントローラは、任意で、負荷タイプ(例えば、肉、液体、もしくは他の材料)、初期負荷温度、および/または負荷重量を示す追加の入力を受け取り得る。例えば、負荷タイプに関する情報は、ユーザインタフェースを用いた対話によって(例えば、認められた負荷タイプのリストからユーザが選択することにより)ユーザから受け取ることができる。あるいは、システムは、負荷の外装に表示されているバーコードをスキャンするように、または負荷上のRFIDデバイスもしくは負荷内に埋め込まれたRFIDデバイスあるいは負荷のパッケージ内のRFIDデバイスから電子信号を受信するように構成され得る。初期負荷温度に関する情報は、例えば、システムの1つ以上の温度センサおよび/またはIRセンサ(例えば、図3および図7のセンサ390,792)から受け取ることができる。負荷重量に関する情報は、ユーザインタフェースを用いた対話によってユーザから、またはシステムの重量センサ(例えば、図3および図7のセンサ390,790)から、受け取ることができる。上述のように、負荷タイプ、初期負荷温度、および/または負荷重量を示す入力を受け取ることは、任意であり、システムは、それらの入力の一部またはすべてを受け取らない場合もある。
【0072】
ブロック904において、システムコントローラは、可変インピーダンス整合回路網の初期構成または初期状態を設定するために、可変インピーダンス整合回路網(例えば、図3および図4の回路網360,400)に制御信号を供給する。図4および5に関連して詳述したように、それらの制御信号は、可変インピーダンス整合回路網内の可変インダクタンス回路網(例えば、図4の回路網410,411)のインダクタンスに影響を及ぼす。例えば、制御信号は、システムコントローラからの制御信号(例えば、図5の制御信号521〜524)に応じるバイパススイッチ(例えば、図5のスイッチ511〜514)の状態に影響を及ぼし得る。
【0073】
同様に、前述したように、可変インピーダンス整合回路網の第1の部分は、RF信号源(例えば、図3のRF信号源340)または最終段の電力増幅器(例えば、図3の電力増幅器346)を整合させるように構成され、可変インピーダンス整合回路網の第2の部分は、空胴(例えば、図3の空胴310)と負荷(例えば、図3の負荷316)を合わせたものを整合させるように構成され得る。例えば、図4を参照すると、第1の可変分路インダクタンス回路網410は、RF信号源を整合させるように構成され、第2の可変分路インダクタンス回路網416は、空胴と負荷を合わせたものを整合させるように構成され得る。
【0074】
システムコントローラは、システムコントローラに事前に把握される負荷タイプ/重量/温度情報に基づいて可変インピーダンス整合回路網の初期構成を決定し得る。システムコントローラが利用できる負荷タイプ/重量/温度情報が事前にない場合には、システムコントローラは、RF信号源整合用に相対的に低いデフォルトのインダクタンスと、空胴整合用に相対的に高いデフォルトのインダクタンスを選択し得る。
【0075】
可変インピーダンス整合回路網の初期構成が設定された後、システムコントローラは、可変インピーダンス整合回路網の構成設定を必要に応じて調整するプロセス910を実行することにより、整合の品質を示す実際の測定値に基づいて、許容し得る整合または最良の整合を見つけ得る。システムコントローラが可変インピーダンス整合回路網の構成設定を調整して許容し得る整合または最良の整合を見つけるための例示的なアルゴリズムについては、図10にさらに示され、以下で説明する。
【0076】
可変インピーダンス整合回路網の許容し得る整合または最良の整合が決定された後に、
加熱運転が開始され得る。加熱運転の開始は、ブロック920において、RF信号源(例えば、RF信号源340)が供給するRF信号の電力を相対的に高い電力のRF信号まで高めることを含み得る。システムコントローラは、電源バイアス回路(例えば、図3の回路350)への制御信号によって、RF信号の電力レベルを制御し得る。この場合、それらの制御信号によって、電源バイアス回路は、所望の信号電力レベルに適合する電源電圧およびバイアス電圧を増幅器(例えば、図3の増幅器段344,346)に供給する。例えば、相対的に高い電力のRF信号は、約100W〜約1000Wまたはそれ以上の範囲の電力レベルを有する信号であり得るが、異なる電力レベルを代わりに用いてもよい。
【0077】
ブロック924において、システムコントローラは、可変インピーダンス整合回路網を再較正する基準が満たされているか否かを判定する。この基準は、例えば、ブロック910の整合アルゴリズムが最後に実施または実行されてから所定時間が経過したときに満たされ得る。あるいは、この基準は、計算された1つの反射対伝送信号電力比またはS11パラメータと閾値(所定の閾値かもしくは以前の信号電力比に基づく閾値)とをシステムコントローラによって比較することを伴い得る。また、この比較では、以前に計算された多数の反射対伝送電力比もしくはS11パラメータの平均(または他の計算値)をシステムコントローラによって求めることを伴い得る。この基準が満たされているか否かを判定するために、システムコントローラは、その計算した比および/またはS11パラメータを、例えば閾値と比較し得る。例えば、一実施形態において、システムコントローラは、計算した反射対伝送信号電力比を、閾値である10%(または他の何らかの値)と比較し得る。比が10%未満である場合、その整合が許容し得るものに維持されており、基準が満たされていないことを示し得る。一方、比が10%超である場合には、基準が満たされており、その整合はもはや許容し得ないものであることを示し得る。
【0078】
潜在的に許容し得ない整合であることを示す再較正基準が満たされる場合には、システムコントローラは、プロセス910を再度実行することによって可変インピーダンス整合回路網の再較正を開始し得る。これにより、加熱処理をより効率的に行うことが可能となる。これは、前述のように、加熱運転の過程では、負荷(例えば、図3の負荷316)の加温に伴い負荷のインピーダンスが変化することにより、可変インピーダンス整合回路網によってもたらされる整合が劣化または変化し得るためである。例えば、食品が解凍または調理されると、食品の内部構造変化によって食品のインピーダンスが変化する。これにより、可変インピーダンス整合回路網によって達成される整合性が低下し、食品へのエネルギー伝送の効率が低下する。
【0079】
ブロック924を再び参照すると、可変インピーダンス整合回路網の再較正基準が満たされていないとシステムコントローラが判定すると、システムは、ブロック926において、終了条件が発生しているか否かを評価し得る。実際には、終了条件が発生しているかどうかの判断は、加熱処理中の任意の時点で生じ得る割り込み駆動による処理とすることができる。しかしながら、この判断を図9のフローチャートに組み入れる目的のために、その処理がブロック924の後に生じるものとして示されている。
【0080】
いずれの場合も、いくつかの条件が、加熱運転の停止の根拠となり得る。例えば、システムは、安全インタロックが破られたときに、終了条件が発生していると判断し得る。あるいは、システムは、ユーザが(例えば、図3のユーザインタフェース320を介して)設定したタイマが満了すると、または加熱運転をどのくらい実施すべきかの時間についてのシステムコントローラによる推定値に基づいてシステムコントローラが設定したタイマが満了すると、終了条件が発生していると判断し得る。さらに他の代替実施形態では、システムは、その他の方法で加熱処理の完了を検出し得る。
【0081】
終了条件が発生していない場合には、システムコントローラは、ブロック920,92
4(さらには、必要に応じて整合回路網再構成プロセス910)を反復的に実行することにより、加熱運転を継続し得る。終了条件が発生しているときには、ブロック928で、システムコントローラは、RF信号源によるRF信号の供給を停止させる。例えば、システムコントローラは、RF信号発生器(例えば、図3のRF信号発生器342)をディスエーブルし、および/または電源バイアス回路(例えば、図3の回路350)による電源電流の供給を停止し得る。さらに、システムコントローラは、ユーザが知覚可能な終了条件を示すインディシアを(例えば、表示装置に「ドアオープン」もしくは「終了」を表示することにより、または可聴音を提示することにより)ユーザインタフェースに生成させる信号を、ユーザインタフェース(例えば、図3のユーザインタフェース320)に送信し得る。これにより、本方法は終了し得る。
【0082】
図9に示されたブロックに関連付けられた動作の順序は、例示的な実施形態に対応するものであり、図示された順序のみにその動作シーケンスを制限するものと解釈されるべきではない。これに代えて、いくつかの動作を異なる順序で実行してもよく、さらに/またはいくつかの動作を並行して実行してもよい。
【0083】
ステップ910を再度参照すると、システムは、可変インピーダンス整合回路網を較正するためのいくつかのアプローチを実装し得る。例えば、システムコントローラは、可変インピーダンス整合回路網の異なる構成設定を反復的に試験することで所望のインピーダンス整合および食品負荷への所望の電力電送を達成する許容し得る構成設定を特定しようと試み得る。例えば、上記表1を再度参照すると、現在の構成において、空胴整合回路網が状態12に対応し、RF信号源整合回路網が状態3に対応している場合、システムコントローラは、空胴整合回路網について状態11および/または状態13を試験し得るとともに、RF信号源整合回路網について状態2および/または状態4を試験し得る。これらの試験で肯定的な結果(すなわち、許容し得る整合)が得られない場合、システムコントローラは、空胴整合回路網について状態10および/または状態14を試験し得るとともに、RF信号源整合回路網について状態1および/または状態5を試験し得る。以下、同様にして反復的に試験し得ることが続く。
【0084】
ただし、多数(例えば、2048もしくは他の数)の状態を有するインピーダンス整合回路網では、このような反復アプローチ(すなわち、可変インピーダンス整合回路網のそれぞれ取り得る状態を反復的に試験すること)は、加熱処理の時間を容認できない長さに延長し得る延長時間を必要とし得る。例えば、可変インピーダンス整合回路網の十分の数の状態を試験して満足できる整合を達成するために10秒以上もかかる場合がある。わずか2秒間の加熱処理が可変インピーダンス整合回路網の較正に多くの(例えば、3秒もしくはそれ以上の)時間を必要とする場合があり、加熱時間を顕著に増加させる可能性がある。
【0085】
図10は、システムコントローラが可変インピーダンス整合回路網を較正する方法のフローチャートである。図10によって示された方法は、例えば、図9の較正ステップ910の一部としてシステムコントローラにより実施され得る。図10の方法は、加熱または解凍運転が開始される前において、可変インピーダンス整合回路網の初期設定中に実行され得るか、または加熱システムにおいて食品負荷のインピーダンスが時間とともに変化する際に図9のフローチャートに示される再較正処理の一部として加熱または解凍運転中に複数回実施され得る。このため、図10の方法は、解凍処理中に反復的に実行されてもよい。
【0086】
一実施形態によれば、可変インピーダンス整合回路網が較正/再較正されている時間中に入力信号の電力レベルが低減される。従って、この処理により、ステップ1002で、RF信号源(例えば、RF信号源340)は可変インピーダンス整合回路網を介して第1
の電極(例えば、第1の電極370)に相対的に低い電力のRF信号を供給し得る。システムコントローラは、電源バイアス回路(例えば、図3の回路350)への制御信号によりRF信号電力レベルを制御し得る。この制御信号により、電源バイアス回路は、所望の信号電力レベルに相当する電源バイアス電圧を増幅器(例えば、図3の増幅器段344,346)に供給する。例えば、相対的に低い電力のRF信号は、約10Wから約20Wの範囲の電力レベルを有する信号であり得るが、これに代えて、異なる電力レベルが使用されてもよい。整合調整処理910における相対的に低い電力レベルの信号は、空胴または負荷を損傷するリスク(例えば、初期整合によって高い反射電力が生じる場合など)や、可変インピーダンス整合回路網のスイッチング部品を損傷するリスク(例えば、スイッチ接点間のアーク放電による損傷)を低減するために望ましい場合がある。低電力RF信号は、加熱システムの典型的な動作周波数における連続波信号とすることができる。なお、このステップは一般には、加熱チャンバへの高電力RF信号の供給を指示する図9の方法のステップ920を中断する。
【0087】
ステップ1004において、コントローラ(例えば、図3のシステムコントローラ330)は、ステップ1002で生成された低電力RF信号から生じる伝送RF信号(または「入射」RF信号)と加熱空胴で反射した反射RF信号との位相角度、すなわち反射係数(Γ)を決定する。システムコントローラ330は、図3の電力検出回路380を用いて、例えばRF信号源340と電極370との間に位置する伝送路内の伝送および反射信号を測定し得る。反射係数Γ(ガンマ)は、この伝送路に沿って測定される伝送および反射RF信号の位相差(度またはラジアン)として計算することができる。例えば、反射係数Γは、次式、
Γ=arctan(V+/V−)
で計算され得る。ここで、V+は、入射RF信号の電圧を示し、V−は、反射RF信号の電圧を示す。
【0088】
位相角度(すなわち、ガンマ)がステップ1004で決定された後に、ステップ1006において、その位相角度が所定の閾値と比較される。概して、それぞれの加熱システムは、加熱中の食品負荷への許容し得る電力電送を(それが観測された場合に)示す所定の目標位相角度に関連付けられ得る。この好ましい位相角度は、任意の適切な技術を用いて決定することができ、例えば、典型的な食品負荷が置かれたサンプル加熱システムの動作を試験またはシミュレーションすることにより、その特定の加熱システムの効率的な動作を示す位相角度を直接測定することを伴い得る。一実施形態によれば、目標位相角度は、5度未満の範囲から約45度未満の範囲までであるが、この目標位相角度は、より小さな角度であってもよいし、より大きな角度であってもよい。所定の閾値は、例えば最大目標位相角度とすることができる。
【0089】
入射RF信号と反射RF信号との比から計算されたガンマ(Γ)の値が所定の閾値と比べて好ましくないとき、システムコントローラは、可変インピーダンス整合回路網(例えば、回路網400)によって導入されている実効直列インダクタンスの量を調整する。この較正処理を、スミスチャートを参照して以下に説明する。
【0090】
図11は、図9の方法によって実行され得る例示的な較正処理を示すスミスチャートである。図11のチャートは、システムのアドミッタンスを示している。図11において、例えばライン1102は、較正された加熱システムの好ましい位相角度を表し得る。装置の一つのタイプにおいて、例えば目標位相角度は5度に等しいものとすることができる。
【0091】
加熱システムにおいて計算された位相角度と目標位相角度との差が閾値未満である(測定された位相角度が目標位相角度に近いことを示す)とき、方法は、ステップ1012に進み得る。しかしながら、加熱システムにおいて計算された位相角度と目標位相角度との
差が閾値より大きいとき、方法はステップ1010に進み得る。
【0092】
図11を参照すると、点1104は、伝送RF信号と反射RF信号との位相角度が大きく、ステップ1006で設定される閾値を超える点(例えば、Γ)に相当する。典型的なシステムでは、閾値の位相角度は5度未満から約45度未満までとすることができる。
【0093】
図10に戻り、位相角度が所定の目標位相角度を超えているとコントローラがステップ1006において判定すると、コントローラは、ステップ1010において、可変インピーダンス整合回路網内の可変インダクタンス回路網を調整することにより、ステップ1004で測定された位相角度をシステム目標値に向けて変化させる(例えば、図4に示されるような整合回路網の場合、コントローラは可変インダクタンス410,411の一方または両方を調整し得るが、他の整合回路網では、異なるインダクタンス(またはキャパシタンス)が調整され得る)。これは、Γを点Γに変換することに相当し、ここで、Γ図11のチャートの円に整合するG=1上の点である。ステップ1010は、例えば、コントローラが図4の可変インピーダンス整合回路網400の可変インダクタンス回路網411のインダクタンスを変更することを伴い得る。従って、ステップ1010は、コントローラが可変インピーダンス整合回路網400を調整して十分な直列インダクタンスを提供することにより、位相角度を加熱システムの好ましい値に向けて変化させることを伴い得る。
【0094】
このステップを説明するために、図11を参照すると、測定された位相角度が点1104に対応する(測定された位相角度がライン1102で示された目標位相角度とは実質的に異なることを示す)場合、コントローラは、可変インピーダンス整合回路網の直列インダクタンスの実効インダクタンスを(例えば可変インピーダンス整合回路網400の可変インダクタンス回路網411を変更することによって)調整することで、その位相角度を図11の点1106に向けて変化させ得る。図示されるように、点1106は、加熱システムの目標位相角度を表すライン1102に位置する。具体的に、コントローラは、分路インダクタンス回路網(例えば、回路網411)を調整することにより、Γを点1106に変換する。ここで、点1106は、Γと同じ一定抵抗の円上(または実質的にその円上であるかもしくはその円の近く)にある。
【0095】
一般には、コントローラは、制御信号を送ることにより、加熱システムの目標位相角度を達成する任意の適切な方法で可変インダクタンス回路網411のインダクタンスを調整することができる。例えば、システムコントローラは、可変インダクタンス回路網411のインダクタンスをランダムに変化させる制御信号を送信し得る。そして、システムコントローラは、インダクタンスの変化毎に、伝送RF信号および反射RF信号を再測定するとともに位相角度を再計算して、位相角度が所定の目標位相角度と比べてどの程度であるか(すなわち、測定された位相角度が所定の目標位相角度よりも大きいのかそれとも小さいのか)を判定する。別の実施形態では、コントローラは、制御信号を送り、ステップ1004で決定された位相角度とシステム目標位相角度との比較によって少なくとも部分的に特定される方法で可変インダクタンス回路網411のインダクタンスを調整し得る。例えば、ステップ1004で決定された位相角度が加熱システムの目標位相角度よりも大きい場合(例えば、位相角度が閾値と比べて好ましくない場合)、コントローラは、検出された位相角度が目標位相角度に十分近づいている(すなわち、閾値となっているまたは閾値を下回っている)と判定するまで、可変インダクタンス回路網411のインダクタンスを反復的に減少(または変化)させ得る。逆に、ステップ1004で決定された位相角度が加熱システムの目標位相角度未満である場合(例えば、位相角度が閾値と比べて好ましい場合)、コントローラは、検出された位相角度が目標位相角度に十分近づいている(すなわち、閾値内にある)と判定するまで、可変インダクタンス回路網411のインダクタンスを反復的に増加(または変化)させ得る。
【0096】
このように可変インダクタンス回路網411のインダクタンスを調整する反復処理は、可変インダクタンス回路網411のインダクタンスを反復的に変化させ、低電力RF信号を再供給して、RF源からの伝送路における伝送RF信号と反射RF信号との位相角度を再決定することを伴い得る。
【0097】
ステップ1010の実行中において可変インダクタンス回路網411のインダクタンスが調整される間は、可変インダクタンス回路網411のインダクタンスのみが変化するように、可変インピーダンス整合回路網400内における他の可変インダクタンス回路網が変更されないようにされ得る(すなわち、一貫したインダクタンスに維持され得る)。一つの可変インダクタンス回路網のみが変更されるので、その一つの可変インダクタンス回路網の利用可能なインダクタンス状態のみが変化するものとなり、これによりステップ1010において可変インピーダンス整合回路網400のすべての可変インダクタンス回路網の潜在的状態を試験することが課される場合に比べて、ステップ1010をより効率的にすることができる。
【0098】
ステップ1010が完了すると、加熱システムの位相角度は、ライン1102上にまたはライン1102の近傍に位置するものとなり、その位相角度が加熱システムの目標位相角度の閾値内に入る状態となる。しかし、このような場合でも、可変インピーダンス整合回路網がインピーダンス整合の最良値または好ましい値に達するまで十分に調整されていないことがある。具体的には、位相角度が目標値にある場合でも、伝送RF信号に対する反射RF信号の電力の比(すなわち、S11パラメータ)が大きすぎて、システムが食品負荷にエネルギーを効率的に伝送していないことを示す場合がある。
【0099】
例えば、図11において、点1108は、可変インピーダンス整合回路網400が許容し得る状態に整合しており、エネルギーが空胴および負荷に効率的に伝送されている点を示している。従って、点1106は、位相角度要件を満たしているものの、加熱システムのS11パラメータが相対的に大きく、加熱システムの負荷へのエネルギー伝送が効率的ではないことを示す非効率的な整合であることを示している。
【0100】
従って、図10に戻り、ステップ1012において、コントローラは、伝送信号電力に対する反射信号電力の比が特定の閾値を超えているかを判定する。例えば、コントローラは、計算された反射対伝送信号電力比を閾値10%(またはその他の値)と比較し得る。比が10%を下回っている場合、その比は、整合が許容状態を維持しており、ステップ1012の閾値には達していないことを示し得る。一方、比が10%を超えている場合、その比は、条件が満たされて整合がもはや許容し得ない状態にあることを示し得る。一般には、コントローラは、電力検出回路(例えば、図3の電力検出回路380)を用いて反射対伝送信号電力比を判定することで、RF信号源と第1の電極との間の伝送路(例えば、図3の伝送路348)に沿った伝送電力および反射電力を測定する。コントローラは、その2つの値を受け取ると、比較を行って反射信号電力と伝送信号電力との比を決定し、その比に基づくシステムのS11パラメータを決定し得る。一実施形態では、コントローラは、さらなる評価または比較のために、その計算した比および/またはS11パラメータを記憶し得る。
【0101】
ステップ1012において閾値を超えていない場合、可変インピーダンス整合回路網400の現在の構成設定が食品負荷への最適なエネルギー伝送を行うものであることを示しており、可変インピーダンス整合回路網400の整合が加熱システム内において最適化されているとみなされ得る。このため、方法は、ステップ1008に進んで終了する。
【0102】
しかしながら、ステップ1012において閾値を超えている場合、可変インピーダンス
整合回路網400の現在の構成設定が食品負荷への最適なエネルギー伝送を行うものではないことを示している。このため、方法は、可変インピーダンス整合回路網400内における第2の可変インダクタンス回路網のインダクタンス値を最適化するべく、ステップ1014に進む。
【0103】
図11を参照すると、点1106は、S11パラメータ(伝送RF信号に対する反射RF信号の比)が所定の閾値を超える十分に大きなものである点に相当する。典型的なシステムでは、S11パラメータの閾値は−10dB、−15dB、−20dB、またはそれ以下である。
【0104】
図10を参照すると、ステップ1012においてS11パラメータが閾値を超えているとコントローラが判定すると、コントローラは、ステップ1014において、可変インピーダンス整合回路網内における第2の可変インダクタンス回路網を調整して、閾値を下回る値までS11パラメータを減少させ得る(例えば、図4に示されるような整合回路網の場合、コントローラは可変インダクタンス410,411の一方または両方を調整し得るが、他の整合回路網では、異なるインダクタンス(またはキャパシタンス)が調整され得る)。
【0105】
ステップ1014は、例えば、コントローラが図4の可変インピーダンス整合回路網400の可変インダクタンス回路網411のインダクタンスを変更することを伴い得る。従って、ステップ1014は、コントローラが可変インピーダンス整合回路網400を調整して十分な分路インダクタンスを提供することにより、加熱システムのS11パラメータを所望の値(例えば、図11の点1108)に向けて減少させることを伴い得る。これは、ΓをインピーダンスΓに変換するのに必要な分路インダクタンスの量を達成するように可変インピーダンス整合回路網400を変更することに相当する。インピーダンスΓは、図11のアドミッタンスチャートでG=1がΓ=0の点と交差する点である。したがって、コントローラは、可変インピーダンス整合回路網内において、Γを、アドミッタンス/インピーダンスチャート上でG=1がΓ=0の点と交差する場所である点1108のインピーダンスまで変化させるのに必要な分路インダクタンスの量を達成するように、可変インダクタンス回路網410のインダクタンスを調整する。
【0106】
例えば、図11を参照すると、測定されたS11パラメータが点1106に対応する(伝送RF信号電力に対する反射RF信号電力の比が閾値を超えていることを示す)場合は、コントローラは、可変インピーダンス整合回路網の分路インダクタンス(例えば、可変インピーダンス整合回路網400の可変インダクタンス回路網410)のインダクタンスを調整して、S11パラメータを図11の点1108に向けて減少させる。
【0107】
概して、コントローラは、任意の適切な方法で可変インダクタンス回路網410のインダクタンスを調整することで、加熱システムの所望のS11パラメータを達成し得る。例えば、システムコントローラは、可変インダクタンス回路網410のインダクタンスをランダムに変化させる制御信号を可変インダクタンス回路網410に供給し得る。そして、インダクタンスの変化毎に、システムコントローラは、伝送RF信号電力および反射RF信号電力を再測定するとともにS11パラメータを再計算して、新たなS11パラメータが閾値内に入るかどうかを判定する。別の実施形態では、コントローラは、ステップ1012で決定されたS11パラメータの値によって少なくとも部分的に特定される方法で、可変インダクタンス回路網410のインダクタンスを調整し得る。例えば、ステップ1012で決定されたS11パラメータが加熱システムの目標値よりも大きい場合は、コントローラは、検出されたS11パラメータが目標値に十分近づいている(すなわち、閾値内にある)と判定するまで、可変インダクタンス回路網410のインダクタンスを反復的に減少させ得るが、他の実施形態では、可変インダクタンス回路網410のインダクタンス
をむしろ増加させ得る。
【0108】
このように可変インダクタンス回路網410のインダクタンスを調整する反復処理は、可変インダクタンス回路網410のインダクタンスを反復的に変化させ、低電力RF信号を再供給して、RF源からの伝送路における伝送RF信号と反射RF信号に関するS11パラメータを再決定することを伴い得る。いくつかの実施形態では、位相角度よりも前に信号電力比が測定され抑制されるように、ステップ1006,1010,1012,1014の順番が逆とされ得る。しかしながら、そのような実施はこうした再較正シーケンスの間に相対的に高い電力信号を生じさせ得るため比較的非効率となり得る。
【0109】
ステップ1014において、コントローラは、可変インダクタンス回路網410の値の範囲が与えられると、整合が「最良」な整合かどうかを判定するように構成され得る。例えば、可変インダクタンス回路網410のすべての可能な構成設定について伝送RF電力と反射RF電力を繰り返し測定し、どの構成設定であれば最も低い反射対伝送電力比となるのかを判定することによって、「最良」な整合を決定することができる。
【0110】
ステップ1014の実行中において可変インダクタンス回路網410のインダクタンスが調整される間は、可変インダクタンス回路網410のインダクタンスのみが変化するように、可変インピーダンス整合回路網400内における他の可変インダクタンス回路網が変更されないようにされ得る(すなわち、一貫したインダクタンスに維持され得る)。一つの可変インダクタンス回路網のみが変更されるので、その一つの可変インダクタンス回路網の利用可能なインダクタンス状態のみが変化するものとなり、これによりステップ1014において可変インピーダンス整合回路網400のすべての可変インダクタンス回路網の潜在的状態を試験することが課される場合に比べて、ステップ1014をより効率的にすることができる。
【0111】
ステップ1014が完了すると、可変インピーダンス整合回路網400によってもたらされる整合が許容し得るものとなるように可変インピーダンス整合回路網400のインピーダンスが最適化される。そして、方法は、ステップ1008に進み、終了する。このとき、図10の方法が図9の方法のステップ910の一部として実行されている場合には、図9の方法は、ステップ920に進み、この新たに最適化された可変インピーダンス整合回路網を通じて高電力信号が供給されることで加熱システムの負荷にエネルギーが供給される。
【0112】
概して、図10の方法の実行中、コントローラは、可変インピーダンス整合回路網400にその回路網内の可変インダクタンスを増加および/または減少させる制御信号を送ることによって、ステップ1010,1014において可変インダクタンス回路網410,411の構成設定を(例えば、可変インダクタンス回路網410,411を異なるインダクタンス状態とすることによって)調整する。
【0113】
一実施形態のシステムは、高周波(RF)信号を供給するように構成されたRF信号源と、RF信号源の出力に電気的に結合されたインピーダンス整合回路網とを含む。インピーダンス整合回路網は、第1の可変インダクタンス回路網と、第2の可変インダクタンス回路網とを含む。また、システムは、インピーダンス整合回路網と電極との間に電気的に結合された伝送路を含む。RF信号は伝送路に沿って伝送信号を生成する。また、システムは、伝送路に沿った伝送信号と反射信号との位相角度を判定するように構成された電力検出回路と、コントローラとを含む。コントローラは、伝送信号と反射信号との位相角度が閾値位相角度よりも大きいと判定し、その伝送信号と反射信号との位相角度に基づいて第1の可変インダクタンス回路網を変更してインピーダンス整合回路網の直列インダクタンスを変化させることにより伝送信号と反射信号との位相角度を閾値位相角度よりも小さ
い第1の位相角度に減少させ、伝送信号の電力に対する反射信号の電力の比が閾値電力比よりも大きいと判定し、インピーダンス整合回路網の直列インダクタンスを変化させた後に第2の可変インダクタンス回路網を変更してインピーダンス整合回路網の分路インダクタンスを変化させることにより伝送信号の電力に対する反射信号の電力の比を閾値電力比よりも小さい第1の電力比に低減させるように構成されている。
【0114】
一実施形態のシステムは、伝送路を介して電極に高周波(RF)信号を供給するように構成されたRF信号源を含む。伝送路は、固定インダクタンス値を有する固定値インダクタを含む。固定値インダクタは、第1端と第2端を有する。また、システムは、固定値インダクタの第2端と接地基準ノードとの間に結合された第1の可変インダクタンス回路網と、固定値インダクタの第1端と接地基準ノードとの間に結合された第2の可変インダクタンス回路網とを含む。固定値インダクタの第1端は、RF信号源の出力端子に結合されている。また、システムは、コントローラを含む。コントローラは、伝送路に沿って伝送信号と反射信号との位相角度を判定し、伝送信号と反射信号との位相角度に基づいて第1の可変インダクタンス回路網を変更してRF信号源と電極との間のインピーダンス整合を改善し、第1の可変インダクタンス回路網を変更した後に、伝送信号の電力に対する反射信号の電力の比を判定し、第2の可変インダクタンス回路網を変更して伝送信号の電力に対する反射信号の電力の比を低減させるように構成されている。
【0115】
一実施形態の方法は、空胴に近接した電極に、インピーダンス整合回路網に接続された伝送路を介して高周波(RF)信号源によりRF信号を供給することを含む。インピーダンス整合回路網は、第1の可変構成要素と第2の可変構成要素とを含む。また、方法は、伝送路に沿った伝送信号と反射信号との位相角度を判定すること、伝送信号と反射信号との位相角度に基づいて第1の可変構成要素を変更することによりRF信号源と電極との間のインピーダンス整合を改善すること、第1の可変構成要素を変更した後に、伝送信号の電力に対する反射信号の電力の比を判定すること、第2の可変構成要素のインダクタンスを変更して、伝送信号の電力に対する反射信号の電力の比を低減させることを含む。
【0116】
本明細書に含まれる各種図面に示される接続線は、各種要素間の例示的な機能的関係および/または物理的結合を表す。なお、本主題の実施形態では、多くの代替的もしくは追加的な機能的関係または物理的結合があり得る。さらに、単なる参照を目的として、特定の用語が本明細書で使用されることもあるが、それらは限定するものではなく、構造を指す「第1の」、「第2の」という用語、およびそのような他の数的用語は、文脈で明確に示していない限り、順序または順番を意味するものではない。
【0117】
本明細書で使用される「ノード」とは、任意の内部または外部の基準点、接続点、結合部、信号線、導電素子などを意味し、このノードには、所与の信号、論理レベル、電圧、データパターン、電流、または量が存在する。また、2つ以上のノードを、1つの物理的要素で実現する場合もある(さらに、2つ以上の信号を、共通ノードで受信または出力しても、多重化、変調、またはその他の方法で識別が可能である)。
【0118】
上記の説明では、相互に「接続されている」もしくは「結合されている」要素またはノードまたは特徴に言及したが、本明細書で使用される「接続されている」とは、特に明記されない限り、ある1つの要素が、必ずしも機械的にではなく、他の要素と直接的につながっている(または直接的に連通している)ことを意味する。同様に、「結合されている」とは、特に明記されない限り、ある1つの要素が、必ずしも機械的にではなく、他の要素と直接的もしくは間接的につながっている(または直接的もしくは間接的に連通している)ことを意味する。従って、図面に示す概略図では、1つの例示的な配置で要素を示しているが、図示の主題の実施形態では、追加の介在要素、デバイス、特徴、または構成要素が存在し得る。
【0119】
少なくとも1つの例示的な実施形態について、上記の詳細な説明で提示したが、多数の変形例があることが理解され得る。また、本明細書に記載の1つ以上の例示的な実施形態は、請求項に係る主題の範囲、適用可能性、または構成を決して限定するものではないことが理解され得る。むしろ、上記の詳細な説明は、1つ以上の記載の実施形態を実施するための簡便な指針を当業者に与えるものである。請求項で規定する範囲から逸脱することなく、要素の機能および配置において種々の変更を実施できることが理解され、その範囲は、本特許出願の出願時に周知の均等物および予測可能な均等物を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11