(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6741338
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】牛枝肉の瑕疵発生を防止する方法
(51)【国際特許分類】
A23K 20/147 20160101AFI20200806BHJP
A23K 50/15 20160101ALI20200806BHJP
【FI】
A23K20/147
A23K50/15
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-242884(P2015-242884)
(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公開番号】特開2017-108636(P2017-108636A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(73)【特許権者】
【識別番号】591220746
【氏名又は名称】株式会社科学飼料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤 明
(72)【発明者】
【氏名】別府 新介
(72)【発明者】
【氏名】瀧野 祥司
(72)【発明者】
【氏名】菅野 亮
【審査官】
小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−521830(JP,A)
【文献】
特開2004−113216(JP,A)
【文献】
特開昭52−154785(JP,A)
【文献】
特開2014−024804(JP,A)
【文献】
特開平06−181694(JP,A)
【文献】
特開平04−027350(JP,A)
【文献】
特開2003−219747(JP,A)
【文献】
特開2006−191822(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0098840(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第1785034(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第104322447(CN,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2005−0023959(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K11/00 −29/00
A01K33/00 −37/00
A01K41/00 −59/06
A01K67/00
A01K67/033−67/04
A23K10/00 −50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉牛に、牛枝肉の瑕疵発生を防止するための成分としてアルブミンを給与することを含む、牛枝肉の瑕疵発生を防止する方法であって、前記瑕疵がズル又はシコリであり、前記肉牛は、肥育期間中のビタミンA給与量が制限された肉牛である、方法。
【請求項2】
肉牛1頭に対し1日当たり600mg〜2000mgのアルブミンを給与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルブミンを有効成分として含有する、牛枝肉の瑕疵発生の防止用の肉牛飼料添加剤であって、前記瑕疵がズル又はシコリであり、前記肉牛は、肥育期間中のビタミンA給与量が制限された肉牛である、肉牛飼料添加剤。
【請求項4】
アルブミンを有効成分として含有する、牛枝肉の瑕疵発生を防止するための肉牛用経口剤であって、前記瑕疵がズル又はシコリであり、前記肉牛は、肥育期間中のビタミンA給与量が制限された肉牛である、経口剤。
【請求項5】
牛枝肉の瑕疵発生を防止するための成分としてアルブミンを含有する、牛枝肉の瑕疵発生の防止用肉牛飼料であって、前記瑕疵がズル又はシコリであり、前記肉牛は、肥育期間中のビタミンA給与量が制限された肉牛である、肉牛飼料。
【請求項6】
アルブミンの、牛枝肉の瑕疵発生を防止するための肉牛飼料成分としての使用であって、前記瑕疵がズル又はシコリであり、前記肉牛は、肥育期間中のビタミンA給与量が制限された肉牛である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛枝肉の瑕疵発生を防止する方法、並びに牛枝肉の瑕疵発生防止用の肉牛飼料添加剤及び肉牛飼料に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
牛枝肉の主要な瑕疵としてズル(筋肉水腫)とシコリ(筋炎)がある。ズルとは、炎症などにより枝肉に生じた膨張部位をいう。シコリとは、筋肉が炎症を起こし、結合組織が増生して硬くなった部位をいう。枝肉に発生する瑕疵全体のうち、ズル及びシコリの発生率はそれぞれ30%強及び10%強とされる。瑕疵は枝肉の商品性を損ない、取引価格を低下させる。ズル及びシコリの発生原因は詳細には解析されていないが、ビタミンAの欠乏がこれらの瑕疵発生を高めるとする指摘が圧倒的に多い。
【0003】
肥育牛においては筋肉中の交雑脂肪(サシ)を高めることが枝肉の評価(=価格)に直結する。このため、脂肪の分解を促進する機能を有するビタミンAの給与を極端に減少させる飼養管理が近時では主流となっている。しかしながら、ビタミンAの極端な不足ないしは欠乏を来してしまうと、発育増体の遅延のほかにビタミンAが関与する多くの生理機能に異常をもたらすことになり、特に肝臓機能の低下は重篤な影響を及ぼす。また上述の通り、ビタミンA給与の極端な制限によりズルやシコリの発生が高まると考えられている。このため、日本飼養標準(2000年版、2008年版)でも、筋肉中のサシの合成蓄積を考慮しながら肉牛のビタミンAについて、その要求量を決定し、周知に徹底している(非特許文献1)。
【0004】
平成24年度に全農ミートフーズが東京食肉市場で肝臓廃棄の発生状況を調査をした結果によると、内臓の廃棄率が71.3%あり、そのうちの49.9%が実に肝臓の廃棄であった。このことは、ビタミンAの給与量を極力低くコントロールすることでサシの合成蓄積を多くしたいとする肉牛生産者の要望が如何に高いかを如実に示しているといえよう。このことは枝肉の瑕疵にも直結し、日本食肉協会の平成26年度の全国調査でもズルとシコリが非常に多発していることが確認されている。
【0005】
シコリとズルの発生は肉牛生産者にとっては被害が甚大であり、一方で交雑脂肪をより多く合成・蓄積させるためにビタミンA給与量を極力低くコントロールすることも必要に迫られて行わなければならない。生産者が安心してビタミンAのコントロール技術を実践することができれば、サシの蓄積のさらなる増加と瑕疵の発生の低減による枝肉取引単価の高位安定が実現でき、収益性の向上に直結することになる。しかしながら、ビタミンAの給与を制限しつつ瑕疵の発生を抑止することができる簡便かつ有効な手段はいまだ知られていない。特許文献1には、牛のビタミンA欠乏状態を簡易に測定する器具が開示されているが、ビタミンAが極端に欠乏した肉牛個体を発見するのみにとどまり、当該個体にはビタミンAを追加で補給するなどの個別具体的な対処が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−219747号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本飼養標準・肉用牛(2008年版)、(独)農業・食品産業技術総合研究機構編
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ビタミンA給与量を制限した飼養管理下においても枝肉の瑕疵発生を抑制できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ビタミンA給与量が制限された肉牛にアルブミンを補給することでシコリ及びズルの発生を防止できることを見出し、本願発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、肉牛に
、牛枝肉の瑕疵発生を防止するための成分としてアルブミンを給与することを含む、牛枝肉の瑕疵発生を防止する方法
であって、前記瑕疵がズル又はシコリであり、前記肉牛は、肥育期間中のビタミンA給与量が制限された肉牛である、方法を提供する。また、本発明は、アルブミンを
有効成分として含有する、牛枝肉の瑕疵発生の防止用の肉牛飼料添加剤
であって、前記瑕疵がズル又はシコリであり、前記肉牛は、肥育期間中のビタミンA給与量が制限された肉牛である、肉牛飼料添加剤を提供する。さらに、本発明は、アルブミンを有効成分として含有する、牛枝肉の瑕疵発生を防止するための肉牛用経口剤
であって、前記瑕疵がズル又はシコリであり、前記肉牛は、肥育期間中のビタミンA給与量が制限された肉牛である、経口剤を提供する。さらに、本発明は、
牛枝肉の瑕疵発生を防止するための成分としてアルブミンを含有する、牛枝肉の瑕疵発生の防止用肉牛飼料
であって、前記瑕疵がズル又はシコリであり、前記肉牛は、肥育期間中のビタミンA給与量が制限された肉牛である、肉牛飼料を提供する。さらに、本発明は、アルブミンの、牛枝肉の瑕疵発生を防止するための
肉牛飼料
成分としての使用
であって、前記瑕疵がズル又はシコリであり、前記肉牛は、肥育期間中のビタミンA給与量が制限された肉牛である、使用を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルブミンの給与という簡便な手法により、サシを高めるべくビタミンA給与量を極端に制限しても枝肉のシコリ及びズルの発生が防止されるので、高評価・高価格の枝肉を生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、肉牛にアルブミンを給与することにより、枝肉の瑕疵発生を防止する。肉牛は、典型的には、肥育期間中のビタミンA給与量が制限された飼養管理下の肉牛である。もっとも、ビタミンA給与量が制限されていない飼養管理下の肉牛に対して本発明に従いアルブミンを給与しても差し支えない。
【0013】
日本飼養標準では、肥育牛の体重1kgあたり43単位のビタミンAが必要とされているが、日本国内で一般的に行なわれている肥育基準では、10か月齢〜11か月齢で要求量の50〜60%とし、ここからさらにビタミンA給与量を減少させ続け、13か月齢〜23か月齢頃までは要求量の10%〜20%、24か月齢以降は要求量の10%未満と大幅にビタミンA供給量を制限している。ビタミンAの不足・欠乏による悪影響が生じた個体を発見した場合には適量のビタミンAを補給することで改善可能であるが、概して手遅れになることが多く、また飼養規模が今後ますます大きくなると、1頭ごとにビタミンA欠乏を観察して対処することが難しくなる。本発明によればアルブミンを給与するのみでビタミンA制限による枝肉の瑕疵発生を防止することが期待できるので、肉牛生産に大いに貢献できる。
【0014】
本発明における枝肉の瑕疵とは、主としてズル又はシコリである。
【0015】
肉牛に給与するアルブミンの種類は特に限定されない。動物性でも植物性でもよい。動物性アルブミンとしては、血清アルブミン、卵アルブミン、乳アルブミン等を挙げることができる。植物性アルブミンとしては、ロイコシン、レグメリン等を挙げることができる。通常は動物性アルブミンが好ましく用いられる。
【0016】
アルブミンの肉牛1頭への給与量は、1日当たり600mg〜2000mg程度、例えば800mg〜1500mg程度でよい。すなわち、肉牛1頭への1日の給与飼料中に上記した量のアルブミンを配合すればよい。
【0017】
アルブミンを給与する期間は特に限定されない。肉牛の肥育期間の全期間にわたってアルブミンを給与し続けてもよいし、肥育期間中の一部期間に給与してもよく、例えば肥育期間中に数日間のアルブミン給与を1回ないしは複数回行なうこととしてもよい。
【0018】
アルブミンを含有する、牛枝肉の瑕疵発生の防止用の肉牛飼料添加剤は、アルブミンのみからなっていてもよいし、米ぬか、ふすま、加熱処理大豆(きな粉)等の飼料原料成分にアルブミンを配合したものであってもよい。使用する際は、アルブミンの給与量が上記した量になるように飼料に配合すればよい。該飼料添加剤は、アルブミンを有効成分として含有する、牛枝肉の瑕疵発生を防止するための肉牛用経口剤とも表現することができる。
【0019】
アルブミンを含有する、牛枝肉の瑕疵発生の防止用肉牛飼料は、アルブミンの肉牛への給与量が上記した量になるようにアルブミンを含んでいるほかは、肉牛飼料、特に肥育期間の肉牛飼料として一般的に用いられる組成であってよい。本発明による肉牛飼料は、通常の肉牛飼料にアルブミンを配合して製造することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0021】
交雑の肥育牛でシコリが多発している静岡県内H農場にて、アルブミン製剤の給与試験試験を実施した。
【0022】
H農場の平成25年度(平成25年4月〜平成26年3月)の瑕疵の発生率は下記表1の通りであり、かなりの高率であった。
【0023】
【表1】
(平均出荷月齢:24ヶ月、ビタミンA補給月齢:16〜17ヶ月齢)
【0024】
<試験方法>
(1) アルブミン製剤は、米ぬかに卵白アルブミンを配合して調製した。製剤の組成は卵白アルブミン2.7%、米ぬか97.3%とした。
(2) 供試肥育牛は全22頭(去勢:23頭、雌1頭)、素牛導入月齢は概ね2ヶ月齢、出荷月齢は概ね22ヶ月齢であった。
(3) ビタミンAの給与は、通常のビタミンA給与量コントロール条件と同様に、16〜17ヶ月齢時に1回50万単位の給与とした。
(4) 第1回目のアルブミン製剤の給与は15〜17ヶ月齢時とし、45g/頭/日の量で5日間給与した(アルブミン摂取量は1日当たり約1200mg)。
(5) 第2回目のアルブミン製剤の給与は、概ね出荷2週間前に60g/頭/日の量で6日間行った(アルブミン摂取量は1日当たり約1600mg)。
(6) 血液の採取は第1回目のアルブミン製剤の投与概ね1週間前および1週間後に行い、ビタミンA濃度、総コレステロール値、およびγ−GTP濃度を測定した。
【0025】
<結果>
供試牛の状態及び血液分析結果を表2に示す。また供試牛の出荷成績を表3に示す。本試験によりアルブミン製剤を摂取した個体では、従来は表1の通りに多発していた瑕疵(ズル及びシコリ)が一切出現していないことが確認された。
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】