(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水溶性高分子と、水溶性高分子量に対して3mass%以上の尿素系化合物を含む紡糸液を紡糸して繊維を形成する工程、及び紡糸した繊維を含有する繊維シートを形成する工程、を有することを特徴とする、繊維シートの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたもので、取扱い性の優れる水溶性の繊維シートを提供することを目的とする。また、水溶性の繊維シートを連続して製造できる方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維シートは、水溶性高分子と、水溶性高分子量に対して3mass%以上の尿素系化合物を含む繊維を含有する。
【0007】
前記水溶性高分子は水酸基、カルボキシル基、及び/又は無水酸基を含むのが好ましい。
【0008】
また、繊維シートを構成する繊維の平均繊維径が2μm以下であるのが好ましい。
【0009】
更に、繊維シートの弾性率が120MPa以上であるのが好ましい。
【0010】
本発明の繊維シートの製造方法は、水溶性高分子と、水溶性高分子量に対して3mass%以上の尿素系化合物を含む紡糸液を紡糸して繊維を形成する工程、及び紡糸した繊維を含有する繊維シートを形成する工程、を有する。
【0011】
前記繊維シートは、静電紡糸法により繊維を形成し、直接捕集体上に集積して繊維シートを形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維シートは、水溶性高分子に加えて、尿素系化合物を水溶性高分子量に対して3mass%以上含有していることによって、弾性率が高く、取扱い性に優れている。
【0013】
水溶性高分子が水酸基、カルボキシル基、及び/又は無水酸基を含んでいると、尿素系化合物のアミノ基又はカルボニル基と疑似架橋を形成しやすく、弾性率が高くなり、取り扱い性に優れるため好適である。
【0014】
繊維シートを構成する繊維の平均繊維径が2μm以下であると、繊維シートの表面積が広く、水への溶解性に優れるため好適である。また、表面平滑性が高いため、皮膚などの対象物との密着性又は接着性に優れるという特長もある。
【0015】
繊維シートの弾性率が120MPa以上であると、特に取り扱い性に優れている。
【0016】
本発明の繊維シートの製造方法によれば、水溶性高分子と、水溶性高分子量に対して3mass%以上の尿素系化合物を含む繊維を含有する、弾性率が高く、取扱い性に優れる繊維シートを製造することができる。
【0017】
繊維シートを静電紡糸法により繊維を形成し、直接捕集体上に集積して形成すると、簡潔に繊維シートを製造することができる。なお、静電紡糸法により水溶性高分子繊維を形成するために、紡糸液を吐出するノズルを使用すると、ノズルの先端で固化しやすく、安定して連続紡糸することが困難な傾向があるが、本発明のように、尿素系化合物を含む紡糸液を使用すると、ノズルから紡糸液を吐出する静電紡糸法であっても、ノズルの先端で固化しにくく、安定して連続紡糸できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の繊維シート(以下、「水溶性繊維シート」と表記することがある)は、水溶性高分子と、水溶性高分子量に対して3mass%以上の尿素系化合物を含む繊維(以下、「水溶性繊維」と表記することがある)を含有している。本発明者らは、この水溶性繊維シートは弾性率が高く、取扱い性に優れていることを見出したのである。
【0019】
本発明の水溶性高分子は温度25℃の水に対する溶解度が0.5mass%以上の高分子を意味する。つまり、温度25℃の水100gに溶ける質量が0.5g以上である高分子を「水溶性高分子」という。特に、水溶性高分子が水酸基、カルボキシル基、及び/又は無水酸基を含んでいると、尿素系化合物のアミノ基又はカルボニル基と疑似架橋を形成しやすく、弾性率が高くなり、取り扱い性に優れる水溶性繊維シートであるため、好適である。
【0020】
より具体的には、水酸基を含む水溶性高分子として、ポリビニルアルコール、水溶性多糖類(例えば、プルラン、アミロース、デンプン、変性デンプン、変性セルロース、キサンタンガムなど)、水溶性多糖誘導体、水溶性高分子たんぱく質(例えば、コラーゲン、ゼラチンなど)を挙げることができる。これらの中でもポリビニルアルコールは曳糸性が高く、繊維を形成しやすいため好適である。
【0021】
この好適であるポリビニルアルコールとしては、ビニルアルコール単位を有するポリビニルアルコール系重合体であることができる。通常、ポリビニルアルコールはビニルアルコールから直接重合することができないため、酢酸ビニル重合体をけん化することで作製したポリビニルアルコールであることができる。本発明においては、100モル%けん化したポリビニルアルコール以外に、酢酸ビニルが残存する部分けん化ポリビニルアルコールであることができる。部分けん化ポリビニルアルコールのけん化度は特に限定するものではないが、50モル%以上であるのが好ましく、65モル%以上であるのがより好ましく、80モル%以上であるのが更に好ましい。また、これらの範囲のけん化度を有する再酢化物であっても良い。なお、4級アンモニウム塩などが共重合していたり、4級アンモニウム基を有するとともにアルデヒド基などの反応性基を有する低分子量化合物をポリビニルアルコールと反応させるなどして形成したカチオン変性ポリビニルアルコールであっても良い。しかしながら、カチオン変性ポリビニルアルコールは分解して臭いを発生する場合があるため、未変性のポリビニルアルコール(100モル%けん化したポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、或いは再酢化物)であるのが好ましい。
【0022】
このポリビニルアルコールの平均重合度は、特に限定するものではないが、繊維を形成しやすいため80以上であるのが好ましく、100以上であるのがより好ましく、120以上であるのが更に好ましい。一方で、平均重合度が高すぎると、溶媒に対する溶解性が低下し、生産性に劣る場合があるため、30,000以下であるのが好ましく、20,000以下であるのがより好ましく、12,000以下であるのが更に好ましい。本発明における「けん化度」、「平均重合度」ともに、JIS K6726に準じて測定した値をいう。なお、けん化度が約70モル%を下回る場合であっても、前記JIS規格に則って測定した値をいう。
【0023】
また、カルボキシル基を含む水溶性高分子として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチルを挙げることができ、これら以外に、(メタ)アクリレートとエチレン性不飽和カルボン酸、必要に応じて他の共重合可能なモノマーが共重合したアクリル系共重合体又はメタクリル系共重合体を用いることができる。ここで(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。また、エチレン性不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等のジカルボン酸、或いはそれらの無水物やハーフエステルを挙げることができる。更に、他の共重合可能なモノマーとして、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、アルキルビニルエーテル等を挙げることができる。
【0024】
更に、無水酸基を含む水溶性高分子を構成する無水酸基を含むモノマーとして、例えば、無水マレイン酸、ジアクリル酸無水物、ジメタクリル酸無水物などを挙げることができ、具体的に無水酸基を含む水溶性高分子として、スチレン/無水マレイン酸共重合体、オレフィン(例えば、イソブチレン、ブタジエン)/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体、メタクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸系共重合体;ジアクリル酸無水物/スチレン共重合体などのジアクリル酸無水物系共重合体;ジメタクリル酸無水物/スチレン共重合体などのジメタクリル酸無水物系共重合体;などを挙げることができる。
【0025】
このような水溶性高分子以外に、ポリビニルピロリドン、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、水溶性ポリアミド、水溶性ポリアミドイミドなどのカルボニル基を含む水溶性高分子;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルメチルエーテルなどのエーテル結合した水溶性高分子;を挙げることができる。
【0026】
なお、これら水溶性高分子は1種類である必要はなく、2種類以上が混在していても良い。
【0027】
本発明の水溶性繊維シートは、水溶性繊維が上述のような水溶性高分子に加えて、尿素系化合物を水溶性高分子量に対して3mass%以上含んでいることによって、弾性率が高く、取り扱い性が優れている。
【0028】
この尿素系化合物は水溶性高分子の水酸基、カルボキシル基、及び/又は無水酸基と擬似架橋できる、尿素骨格(N−C(O)−N)又は(N−C(S)−N)を有するものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、尿素、チオ尿素、ヒドロキシ尿素、ジメチロール尿素、ジアセチル尿素、エチレン尿素、トリフェニル尿素、テトラフェニル尿素、N−ベンゾイル尿素、N,N′−ジベンゾイル尿素、リン酸グアニル尿素、N,N′−ジメチルアセチル尿素、ベンゼンスルホニル尿素、p−トルエンスルホニル尿素、炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキル尿素(例えば、メチル尿素、ジメチル尿素、トリメチル尿素、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、エチル尿素、ジエチル尿素など)、ホルミル尿素などを挙げることができる。なお、これら尿素の塩(例えば、硝酸塩、塩酸塩など)であっても良い。これらの中でも尿素、メチル尿素、ジメチル尿素は水溶性高分子と擬似架橋を形成しやすいため好適である。
【0029】
このような尿素系化合物は、水溶性繊維シートの弾性率が高く、取り扱い性に優れるように、水溶性繊維中、水溶性高分子量に対して3mass%以上含まれている。尿素系化合物量が多ければ多い程、水溶性繊維シートの弾性率が高くなり、取り扱い性が向上するため、5mass%以上含まれているのが好ましく、8mass%以上含まれているのがより好ましく、10mass%以上含まれているのが更に好ましい。一方で、尿素系化合物量が多過ぎると、水溶性繊維自体を形成できない傾向があるため、80mass%以下であるのが好ましく、60mass%以下がより好ましく、40mass%以下であるのが更に好ましい。
【0030】
本発明の水溶性繊維シートを構成する水溶性繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、水溶性繊維の表面を有効に利用できるように、2μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのがより好ましく、800nm以下であるのが更に好ましく、600nm以下であるのが更に好ましく、500nm以下であるのが更に好ましい。一方、平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、強度的に優れ、取り扱い性に優れているように、1nm以上であるのが好ましく、20nm以上であるのがより好ましい。本発明における「繊維径」は、水溶性繊維シートの平面における電子顕微鏡写真から測定して得られる水溶性繊維の直径を意味し、「平均繊維径」は50箇所の繊維径の算術平均値をいう。
【0031】
本発明の水溶性繊維シートはこのような水溶性繊維を含むものであるが、水との馴染みや耐溶剤性に優れているように、水溶性繊維を50mass%以上含んでいるのが好ましく、70mass%以上含んでいるのがより好ましく、90mass%以上含んでいるのが更に好ましく、100mass%水溶性繊維からなるのが最も好ましい。
【0032】
本発明の水溶性繊維シートは水溶性繊維を含むものであるが、水溶性繊維以外の繊維としては、水溶性繊維シートの水との馴染みや耐溶剤性を損なわない繊維であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、フッ素系樹脂繊維、ポリオレフィン系樹脂繊維、ポリエステル系樹脂繊維、ポリスルホン系樹脂繊維(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、スチレン系樹脂繊維、ポリエーテル系樹脂繊維(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリイミド系樹脂繊維、ポリアミドイミド樹脂繊維、ポリアミド系樹脂繊維、ウレタン系樹脂繊維、エポキシ系樹脂繊維、無機繊維(シリカなど)などを挙げることができる。
【0033】
本発明の水溶性繊維シートの形態としては、例えば、織物、編物のように、規則的に集合した状態にあっても良いし、不織布のように、不規則に集合した状態にあっても良い。特に、不織布であると、孔径の揃った水溶性繊維シートであることができるため好適である。
【0034】
本発明の水溶性繊維シートは弾性率が優れ、取り扱い性に優れるものであるが、具体的には、水溶性繊維シートの弾性率が120MPa以上であるのが好ましい。弾性率が高い程、取り扱い性に優れていることを意味するため、弾性率は130MPa以上であるのがより好ましく、140MPa以上であるのが更に好ましい。
【0035】
この弾性率は次の操作により得られる値である。
(1)定速伸長型引張試験機[オリエンテック社製、テンシロン(登録商標)]を用い、次の条件で切断荷重を測定する。
試験片サイズ:15mm幅×140mm長
チャック間間隔:100mm
引張速度:50mm/min.
(2)切断荷重を測定した際の、測定開始点から10点ずつの傾きの平均を順次算出し、最大となる傾きを求める。
(3)最大の傾きを試験片への荷重前の初期断面積[(15mm幅)×(厚さ、単位:μm)]で除した商を「弾性率」とする。なお、試験片の厚さは、5N荷重時の外側マイクロメーターを用いて測定した厚さを意味する。
【0036】
また、本発明の水溶性繊維シートは破断強度が強く、取り扱い性に優れているのが好ましい。具体的には、水溶性繊維シートの破断強度が2.0MPa以上であるのが好ましく、2.3MPa以上であるのがより好ましく、2.5MPa以上であるのが更に好ましい。なお、この破断強度は、弾性率の測定と同様に測定した切断荷重を試験片への荷重前の初期断面積[(15mm幅)×(厚さ、単位:μm)]で除した商を意味する。
【0037】
本発明の水溶性繊維シートの目付(JIS L1085に準じて10cm×10cmとして測定した値)は特に限定するものではないが、0.1〜500g/m
2であるのが好ましく、0.5〜100g/m
2であるのがより好ましく、1〜50g/m
2であるのが更に好ましく、2〜30g/m
2であるのが更に好ましい。また、水溶性繊維シートの厚さは、5N荷重時の外側マイクロメーターを用いて測定した値で、1〜2000μmであるのが好ましく、3〜400μmであるのがより好ましく、5〜150μmであるのが更に好ましい。
【0038】
このような本発明の水溶性繊維シートは取り扱い性に優れるものであり、水溶性を必要とする用途に好適に使用することができる。例えば、人工硬膜、貼付薬基材、止血材などの医療用途、保湿シートなどの化粧用途、肥料シートなどの農業用途、又は接着シートなどの接着剤として、好適に使用することができる。
【0039】
本発明の水溶性繊維シートは、例えば次のようにして製造することができる。
【0040】
まず、水溶性高分子と尿素系化合物を用意する。前述の通り、ポリビニルアルコールとして、未変性のポリビニルアルコール(100モル%けん化したポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、或いは再酢化物)が好ましい。また、尿素系化合物として、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素を用意するのが好ましい。
【0041】
また、水溶性高分子と尿素系化合物を溶解させることのできる溶媒を用意する。この溶媒は通常、水であるが、水である必要はない。例えば、アルコール類、その他の有機溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類など)を用いることもできる。また、これら溶媒の混合溶媒であっても良い。
【0042】
次いで、水溶性高分子と尿素系化合物が溶解した紡糸液を調製する。これら原料の溶解した紡糸液の調製方法は特に限定するものではない。なお、紡糸液を調製する場合、尿素系化合物を水溶性高分子量に対して3mass%以上の量となるように配合して、紡糸液を調製する。好ましくは尿素系化合物を水溶性高分子量に対して5〜80mass%の量となるように配合し、より好ましくは8〜60mass%の量となるように配合し、更に好ましくは10〜40mass%の量となるように配合する。
【0043】
また、紡糸液における水溶性高分子及び尿素系化合物全部の固形分濃度は、これらが溶解できる濃度であれば良く、特に限定するものではないが、安定した紡糸を行えるように、粘度が100〜100,000mPa・sであるような濃度であるのが好ましい。この粘度は粘度測定装置(Thermo Electron製)を用い、紡糸時と同じ温度で測定した、シェアレート100s
−1の時の値をいう。
【0044】
なお、紡糸液は水溶性高分子と尿素系化合物以外に、水溶性繊維シートの水溶性と取り扱い性を損なわない範囲内で、各種機能性物質を含むことができる。例えば、難燃剤、導電剤、吸着剤、湿潤強紙剤、サイズ剤、膨潤剤、着色剤、撥水剤、粘着剤、接着剤、薬効成分などを含むことができる。
【0045】
次いで、前記紡糸液を紡糸して水溶性繊維を形成する。この紡糸方法は従来公知の紡糸方法であることができ、例えば、湿式紡糸法、乾式紡糸法、フラッシュ紡糸法、遠心紡糸法、静電紡糸法、特開2009−287138号公報に開示されているような、ガスの剪断作用により紡糸する方法、或いは特開2011−32593号公報に開示されているような、電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法などを挙げることができる。これらの中でも静電紡糸法により水溶性繊維を紡糸すると、平均繊維径が細く(平均繊維径が2μm以下)、繊維径が揃っており、しかも連続した水溶性繊維を紡糸できるため好適である。また、静電紡糸法により紡糸する際に、ノズルを使用し、紡糸液を吐出したとしても、尿素化合物を含んでいることによって、ノズルの先端で固化しにくく、安定して連続紡糸できるという効果を奏する。
【0046】
次いで、紡糸した水溶性繊維を含有する水溶性繊維シートを形成する。この水溶性繊維シートの形成方法は特に限定するものではないが、前述の方法により紡糸した水溶性繊維を直接、ドラム、コンベアなどの捕集体上に集積して水溶性繊維シートを形成することができる。また、紡糸した水溶性繊維を切断して短繊維とした後、湿式法、又はカード機、エアレイなどの乾式法により水溶性繊維シートを形成することもできる。なお、紡糸した水溶性繊維の平均繊維径が細い(平均繊維径が2μm以下)場合、短繊維とした後に水溶性繊維シートを形成するのが困難になる傾向があり、また、水溶性繊維シートの形成が煩雑になるため、紡糸した水溶性繊維を直接、捕集体上に集積して水溶性繊維シートを形成するのが好ましい。例えば、静電紡糸法により水溶性繊維を紡糸すると、平均繊維径が細く(平均繊維径が2μm以下)、繊維径が揃っており、しかも連続した水溶性繊維を紡糸できるが、短繊維とした後に水溶性繊維シートを形成するのが困難になる傾向があり、また、水溶性繊維シートの形成が煩雑になるため、静電紡糸法により紡糸した水溶性繊維を直接、捕集体上に集積して水溶性繊維シートを形成するのが好ましい。
【0047】
なお、水溶性繊維以外の繊維を含む水溶性繊維シートは、紡糸した水溶性繊維を直接、捕集体上に集積して水溶性繊維シートを形成する場合には、飛翔中の水溶性繊維の流れに対して繊維を供給して、又は、集積後に繊維を供給して作製することができる。また、水溶性繊維を短繊維とした後に湿式法又は乾式法により水溶性繊維シートを形成する場合には、湿式法又は乾式法により水溶性繊維シートを形成する際に、原料繊維として混合して作製することができる。
【0048】
また、必要であれば、水溶性繊維シートが各種用途に適合するように、各種後処理を実施することができる。例えば、カレンダー処理などを実施することができる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
なお、水溶性繊維シートの弾性率及び破断強度は前述の方法により評価した。
【0051】
また、2時間紡糸後に、ノズル先端に固化物が形成されていないかを肉眼で観察し、連続紡糸性を次の基準で評価した。
【0052】
○:固化物が確認できないため、連続紡糸性に優れる
△:僅かに固化物が確認されるため、連続紡糸性に劣る
×:固化物が確認されるため、連続紡糸性が悪い
【0053】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
けん化度88モル%の部分けん化ポリビニルアルコール[平均重合度:300、品番:PVA3−88、クラレ社製]の30mass%水溶液Aを調製した。
【0054】
また、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマー(メチルビニルエーテル1モル:無水マレイン酸1モル、分子量:22万、ALDRICH製)の30mass%水溶液Bを調製した。
【0055】
更に、尿素を用意した。
【0056】
次いで、水溶液Aと水溶液Bとを、固形分質量比で4:1の比率で混合し、更に、ポリビニルアルコールとメチルビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマーの固形分総量に対して、0mass%(比較例1)、1mass%(比較例2)、5mass%(実施例1)、10mass%(実施例2)、又は20mass%(実施例3)添加して、それぞれ紡糸液(粘度:800〜2000mPa・s)を調製した。
【0057】
そして、次の静電紡糸条件で水溶性連続繊維を2時間紡糸し、直接、ドラム(捕集体)上に集積し、水溶性連続繊維100%からなる不織布形態の連続水溶性繊維シートをそれぞれ作製した。これら連続水溶性繊維シートは表1に示す物性を有していた。
【0058】
(静電紡糸条件)
ノズル内径:0.44mm
ノズル−ドラム間距離:8cm
ノズルからの吐出量:1cm
3/時間
印加電圧:15−25kV
紡糸環境温度:25℃
紡糸環境湿度:40%RH
【0059】
(実施例4)
尿素に替えて、ジメチル尿素を添加(10mass%)したこと以外は実施例2と同様にして紡糸液を調製した。
【0060】
その後、実施例2と同じ静電紡糸条件で水溶性連続繊維を2時間紡糸し、直接、ドラム(捕集体)上に集積し、水溶性連続繊維100%からなる不織布形態の連続水溶性繊維シートを作製した。この連続水溶性繊維シートは表1に示す物性を有していた。
【0061】
(実施例5)
尿素に替えて、メチル尿素を添加(10mass%)したこと以外は実施例2と同様にして紡糸液を調製した。
【0062】
その後、実施例2と同じ静電紡糸条件で水溶性連続繊維を2時間紡糸し、直接、ドラム(捕集体)上に集積し、水溶性連続繊維100%からなる不織布形態の連続水溶性繊維シートを作製した。この連続水溶性繊維シートは表1に示す物性を有していた。
【0063】
【表1】
【0064】
表1の結果から、水溶性高分子に加えて、尿素系化合物を水溶性高分子量に対して3mass%以上含有した水溶性繊維を含む水溶性繊維シートは、弾性率が120MPa以上であり、取扱い性に優れていることが分かった。同時に、尿素系化合物を水溶性高分子量に対して3mass%以上含有していることによって、ノズル先端で固化物が形成されないため、連続紡糸性に優れ、安定して水溶性繊維シートを製造できることも分かった。