特許第6741403号(P6741403)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6741403医療器具の製造装置及び医療器具の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6741403
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】医療器具の製造装置及び医療器具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/82 20130101AFI20200806BHJP
   A61F 2/91 20130101ALI20200806BHJP
【FI】
   A61F2/82
   A61F2/91
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-140439(P2015-140439)
(22)【出願日】2015年7月14日
(65)【公開番号】特開2017-18468(P2017-18468A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】515141702
【氏名又は名称】株式会社エムダップ
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】稲石 勝典
(72)【発明者】
【氏名】高橋 圭二
(72)【発明者】
【氏名】佐野 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】大山 靖
(72)【発明者】
【氏名】比恵島 徳寛
【審査官】 鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−195883(JP,A)
【文献】 特表2004−510844(JP,A)
【文献】 特開2010−261069(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0131522(US,A1)
【文献】 米国特許第6087023(US,A)
【文献】 特開平4−41659(JP,A)
【文献】 特開平10−229282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82
A61F 2/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射ノズルから噴射された粒子による自立した溶射膜からなる医療器具を製造するための製造装置であり、
前記粒子を噴射する前記溶射ノズルと、
犠牲材を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記犠牲材と前記溶射ノズルとの間に配置された開孔パターンを有するマスクと、
前記マスク及び前記保持部に保持された前記犠牲材または前記溶射ノズルを移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御する制御部と、
を具備し、
前記制御部は、前記溶射ノズルから噴射された前記粒子を前記マスクに吹き付けながら前記マスク及び前記犠牲材または前記溶射ノズルを移動させることで、前記開孔パターンを通過した前記粒子が前記犠牲材に付着するように制御することを特徴とする医療器具の製造装置。
【請求項2】
粒子を噴射する溶射ノズルと、
犠牲管を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記犠牲管と前記溶射ノズルとの間に配置された開孔パターンを有するマスクと、
前記マスクを掃引する掃引機構と、
前記マスクと前記溶射ノズルとの間に配置されたスリットマスクと、
前記犠牲管を回転させる回転機構と、
前記掃引機構及び前記回転機構を制御する制御部と、
を具備し、
前記制御部は、前記溶射ノズルから噴射された前記粒子を前記スリットマスクに吹き付けながら前記犠牲管を回転させつつ前記マスクを掃引することで、前記スリットマスクのスリット及び前記開孔パターンを通過した前記粒子が前記犠牲管に付着するように制御することを特徴とする医療器具の製造装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記溶射ノズル、前記保持部、前記マスク及び前記スリットマスクを収容するチャンバーと、
前記チャンバー内を減圧する排気機構、または前記チャンバー内に不活性ガスを導入するガス導入機構と、を具備する製造装置、
もしくは、前記溶射ノズルから噴射された前記粒子の経路を不活性ガス雰囲気にするガスシュラウド装置を具備する製造装置であることを特徴とする医療器具の製造装置。
【請求項4】
開孔パターンを有するマスクを犠牲材に対向する位置に配置し、前記マスクに粒子を吹き付け、前記開孔パターンを通過した前記粒子を前記犠牲材に付着させることで、前記犠牲材上に前記粒子による溶射膜を形成する工程(a)と、
前記犠牲材を除去することで、前記犠牲材から前記溶射膜を離す工程(b)と、
を具備し、
前記工程(b)によって得られた自立した前記溶射膜からなる医療器具を製造することを特徴とする医療器具の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記工程(a)は、前記マスクを溶射ノズルと前記犠牲材との間に配置し、前記溶射ノズルから噴射された粒子を前記マスクに吹き付けながら前記溶射ノズルまたは前記犠牲材及び前記マスクを移動させることで、前記開孔パターンを通過した前記粒子が前記犠牲材に付着し、前記犠牲材上に前記粒子による溶射膜を形成する工程であることを特徴とする医療器具の製造方法。
【請求項6】
溶射ノズルと犠牲管との間に開孔パターンを有するマスクを配置し、かつ前記マスクと前記溶射ノズルとの間にスリットマスクを配置し、前記溶射ノズルから噴射された粒子を前記スリットマスクに吹き付けながら前記犠牲管を回転させつつ前記マスクを掃引することで、前記スリットマスクのスリット及び前記開孔パターンを通過した前記粒子が前記犠牲管に付着し、前記犠牲管の外面に前記粒子による溶射膜を形成する工程(a)と、
前記犠牲管を除去し、前記犠牲管から前記溶射膜を離すことで、前記溶射膜からなる管状物を形成する工程(b)と、
を具備することを特徴とする医療器具の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記開孔パターンは、第1のパターン及び第2のパターンを有し、
記工程(a)において、前記犠牲材が1回転することで前記第1のパターンの膜が形成され、前記犠牲材がさらに1回転することで前記第1のパターンの膜に前記第2のパターンの膜が合成されることを特徴とする医療器具の製造方法。
【請求項8】
請求項4から7のいずれか一項において、
前記工程(a)は、減圧雰囲気または不活性ガス雰囲気で行われ
前記工程(b)の前に、前記溶射膜の表面に貴金属をコーティングする工程を有することを特徴とする医療器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具の製造装置及び医療器具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療器具の一例としてはステントがある。ステントとは、人体の管状の部分(血管、気管、食道、十二指腸、大腸、胆道など)を管腔内部から広げる医療機器である。ステントの一例としては金属でできた網目の筒状のものがあり、治療する部位に応じたステントが用いられる。狭心症、急性心筋梗塞、急性冠症候群、癌による血管、気管や食道、十二指腸、大腸、胆道などの狭窄、脳梗塞などの治療としてステントグラフト内挿術が行われる。
【0003】
従来のステントの製造方法は次のとおりである。
医療用のステンレス(SUS316L,SUS316LVN)、コバルトクロム、NiTi等の素材となる単一金属または合金のパイプを外周からレーザー光によって加工し、その後、熱処理、酸洗浄、電解研磨の工程を経てステントが製作される。酸洗浄、電解研磨の工程は、レーザー加工時に、切り口にバリが生ずるため、そのバリを除去してステントの表面を滑らかにして仕上げを行う工程である。
【0004】
上記従来のステントの製造方法では、レーザー加工時に、素材のパイプ自体が過熱されてパイプの表面上に不純物等の偏析が生じ、酸洗浄の工程でステントの網目の一部が断線する事がある。
【0005】
また、長手方向が例えば100mm以上の長物のステントを製作しようとすると、レーザー加工後にステントが冷却される時、ステントの自重による垂れのために必要な加工精度が保てないという問題がある。そのため、必要な加工精度が保てるステントの長さは30〜40mm程度が限界であり、それより長いステントでは加工精度が上がらないので、上記従来のステントの製造方法では、長物のステントに対応することができないという問題がある。
【0006】
つまり、レーザー加工を用いたステントの製造方法では、レーザー加工時にステントに加えられる熱によって加工精度が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−36817
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一態様は、レーザー加工のような熱による加工精度の低下を抑制できる医療器具の製造装置または医療器具の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下に、本発明の種々の態様について説明する。
[1]粒子を噴射する溶射ノズルと、
犠牲材を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記犠牲材と前記溶射ノズルとの間に配置された開孔パターンを有するマスクと、
前記マスク及び前記保持部に保持された前記犠牲材または前記溶射ノズルを移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御する制御部と、
を具備し、
前記制御部は、前記溶射ノズルから噴射された前記粒子を前記マスクに吹き付けながら前記マスク及び前記犠牲材または前記溶射ノズルを移動させることで、前記開孔パターンを通過した前記粒子が前記犠牲材に付着するように制御することを特徴とする医療器具の製造装置。
【0010】
[2]粒子を噴射する溶射ノズルと、
犠牲管を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記犠牲管と前記溶射ノズルとの間に配置された開孔パターンを有するマスクと、
前記マスクを掃引する掃引機構と、
前記マスクと前記溶射ノズルとの間に配置されたスリットマスクと、
前記犠牲管を回転させる回転機構と、
前記掃引機構及び前記回転機構を制御する制御部と、
を具備し、
前記制御部は、前記溶射ノズルから噴射された前記粒子を前記スリットマスクに吹き付けながら前記犠牲管を回転させつつ前記マスクを掃引することで、前記スリットマスクのスリット及び前記開孔パターンを通過した前記粒子が前記犠牲管に付着するように制御することを特徴とする医療器具の製造装置。
【0011】
[3]上記[2]において、
前記溶射ノズル、前記保持部、前記マスク及び前記スリットマスクを収容するチャンバーと、
前記チャンバー内を減圧する排気機構、または前記チャンバー内に不活性ガスを導入するガス導入機構と、を具備する製造装置、
もしくは、前記溶射ノズルから噴射された前記粒子の経路を不活性ガス雰囲気にするガスシュラウド装置を具備する製造装置であることを特徴とする医療器具の製造装置。
[3−1]上記[2]において、
前記溶射ノズル、前記保持部、前記マスク及び前記スリットマスクを収容するチャンバーと、
前記チャンバー内を減圧する排気機構、または前記チャンバー内に不活性ガスを導入するガス導入機構と、
を具備することを特徴とする医療器具の製造装置。
[3−2]上記[1]または[2]において、
前記溶射ノズルから噴射された前記粒子の経路を不活性ガス雰囲気にするガスシュラウド装置を具備することを特徴とする医療器具の製造装置。
【0012】
[4]開孔パターンを有するマスクを犠牲材に対向する位置に配置し、前記マスクに粒子を吹き付け、前記開孔パターンを通過した前記粒子を前記犠牲材に付着させることで、前記犠牲材上に前記粒子による膜を形成する工程と、
前記犠牲材を除去することで、前記犠牲材から前記膜を離す工程と、
を具備することを特徴とする医療器具の製造方法。
【0013】
[5]上記[4]において、
前記膜を形成する工程は、前記マスクを溶射ノズルと前記犠牲材との間に配置し、前記溶射ノズルから噴射された粒子を前記マスクに吹き付けながら前記溶射ノズルまたは前記犠牲材及び前記マスクを移動させることで、前記開孔パターンを通過した前記粒子が前記犠牲材に付着し、前記犠牲材上に前記粒子による膜を形成する工程であることを特徴とする医療器具の製造方法。
【0014】
[6]溶射ノズルと犠牲管との間に開孔パターンを有するマスクを配置し、かつ前記マスクと前記溶射ノズルとの間にスリットマスクを配置し、前記溶射ノズルから噴射された粒子を前記スリットマスクに吹き付けながら前記犠牲管を回転させつつ前記マスクを掃引することで、前記スリットマスクのスリット及び前記開孔パターンを通過した前記粒子が前記犠牲管に付着し、前記犠牲管の外面に前記粒子による膜を形成する工程と、
前記犠牲管を除去し、前記犠牲管から前記膜を離すことで、前記膜からなる管状物を形成する工程と、
を具備することを特徴とする医療器具の製造方法。
【0015】
[7]上記[6]において、
前記開孔パターンは、第1のパターン及び第2のパターンを有し、
前記膜を形成する工程において、前記犠牲管が1回転することで前記第1のパターンの膜が形成され、前記犠牲管がさらに1回転することで前記第1のパターンの膜に前記第2のパターンの膜が合成されることを特徴とする医療器具の製造方法。
【0016】
[8]上記[4]乃至[7]のいずれか一項において、
前記膜を形成する工程は、減圧雰囲気または不活性ガス雰囲気で行われることを特徴とする医療器具の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、レーザー加工のような熱による加工精度の低下を抑制できる医療器具の製造装置または医療器具の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一態様に係る医療器具の製造装置を模式的に示す断面図である。
図2】(A)は図1に示すスリットマスク15の平面図、(B)は図1に示すマスク14の平面図である。
図3図2(B)に示すマスクの要素1パターンと要素2パターンを合成したパターンを示す平面図である。
図4】本発明の一態様に係る医療器具の製造方法を説明するための工程フローを示す図である。
図5】本発明の一態様に係る医療器具の製造装置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0020】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一態様に係る医療器具の製造装置を模式的に示す断面図である。図2(A)は図1に示すスリットマスク15の平面図であり、図2(B)は図1に示すマスク14の平面図である。図2(B)に示すマスク14は、要素1のパターン及び要素2のパターンを黒色で示す部分が開孔したマスクである。つまり、図2(B)の要素1のパターン及び要素2のパターンを黒色で示す部分が、図1に示すマスク14の開孔パターン14aに相当する。
図3は、図2(B)に示すマスクの要素1パターンと要素2パターンを合成したパターンを示す平面図である。図4は、本発明の一態様に係る医療器具の製造方法を説明するための工程フローを示す図である。本実施形態の医療器具はステントである。
【0021】
図1の医療器具の製造装置はチャンバー11を有し、チャンバー11内には溶射ノズル12を有する溶射ガン、犠牲管13を保持する保持部30、マスク14及びスリットマスク15が配置されている。溶射ノズル12はプラズマによって形成された溶射粒子を噴射するノズルである。保持部30に保持された犠牲管13と溶射ノズル12との間にはマスク14が配置されている。このマスク14は平面状マスクであって開孔パターン14aである要素1パターン(第1のパターンともいう)及び要素2パターン(第2のパターンともいう)を有している。要素1パターンと要素2パターンを分けずに要素1パターンと要素2パターンを合成したパターン(図3参照)をマスク14に形成すると、要素1パターンと要素2パターンが接続する部分でマスクが抜け落ちてしまい自立できなくなるからである。要素1パターン及び要素2パターンそれぞれはマスク14の長手方向にLの長さを有している(図2(B)参照)。長さLは犠牲管13の外面を1周した長さに等しい。即ち、長さLは、犠牲管13の外径をRとした場合、R×円周率に等しい。
【0022】
マスク14と溶射ノズル12との間には溶射粒子の方向を制御するためのスリット15aを有するスリットマスク15が配置されている。スリット15aは貫通している。溶射ノズル12から噴射された溶射粒子は異なる進行方向の粒子が混在するため、スリットマスク15によってスリット15aを通過した溶射粒子だけをマスク14に到達させる。即ち、スリットマスク15によって溶射ノズル12の直下の犠牲管13へ直進する粒子だけを取り出すことができる。そして、スリット15aとマスク14の開口パターン14aを通過した溶射粒子が犠牲管13に付着するように構成されている。
【0023】
また、本製造装置は、マスク14を矢印18の方向に掃引する掃引機構31と、犠牲管13を矢印19の方向に回転させる回転機構32と、掃引機構31及び回転機構32を制御する制御部33を有している。回転機構32に保持部30が接続されており、回転機構32は図1の断面には表れない場所に位置している。この制御部33は、溶射ノズル12から噴射された溶射粒子をスリットマスク15に吹き付けながら犠牲管13を回転機構32によって回転させつつマスク14を掃引機構31によって掃引することで、スリット15a及び開孔パターン14aを通過した溶射粒子が犠牲管13に付着するように制御するものである。
【0024】
また、本製造装置は、チャンバー11内を減圧する排気機構としての真空ポンプ16と、チャンバー11内に不活性ガスを導入するガス導入機構17を有している。なお、本実施形態では、真空ポンプ16及びガス導入機構17の両方を有しているが、真空ポンプ16及びガス導入機構17のいずれか一方を有する医療器具を製造装置であってもよい。
また、本実施形態では、チャンバー11、ガス導入機構17及び真空ポンプ16を有する医療器具の製造装置を用いているが、チャンバー11、ガス導入機構17及び真空ポンプ16を有さず、これらの代わりにガスシュラウド装置(図示せず)を付加した医療器具の製造装置を用いてもよい。ガスシュラウド装置を使用すれば、減圧雰囲気または不活性雰囲気にするためのチャンバーが不要になる。このガスシュラウド装置は、溶射ノズル12から延びて溶射ワーク(例えば犠牲管13、マスク14、スリットマスク15)を覆う部材(図示せず)を有し、その部材の中に予め不活性ガスを導入しておくことで、溶射ノズル12から噴射された溶射粒子の経路を不活性ガス雰囲気にする装置である。これにより、不活性ガスと混合した溶射粒子をスリットマスク15に吹き付けることが可能となる。また、上記のガスシュラウド装置の他に、溶射ノズル12自体を覆う部材を有し、その部材の中に不活性ガスを導して不活性ガスを籠らせることで、溶射ノズル12から噴射する溶射粒子と不活性ガスを混合し、その混合した溶射粒子及び不活性ガスをスリットマスク15に吹き付ける装置を用いてもよい。このような装置を用いることにより、溶射粒子の飛行中の酸化を抑制することが可能となる。
【0025】
次に、図1の製造装置を用いてステントを製造する方法について説明する。
本実施形態は、犠牲管13の外側に図2(B)の平面マスクパターンを用いて、犠牲管13の外面にステントパターンを溶射し、溶射後、犠牲管13をエッチングにより除去することで、ステント形状を得る方法である。
【0026】
以下に詳細に説明する。ステントの製造方法の工程フローは図4に示すとおりである。
まず、犠牲管13を保持部30に保持して回転機構32に設置し、マスク14を掃引機構31に設置し、スリットマスク15を所定位置に設置する。
【0027】
次いで、チャンバー11内を真空ポンプ16によって減圧する。チャンバー11内に不活性ガスをガス導入機構17によって導入する。これにより、チャンバー11内を不活性ガス(例えば窒素ガスまたはArガス)により置換し、チャンバー11内を減圧雰囲気とする。なお、本実施形態では、チャンバー11内を不活性ガスにより置換して減圧雰囲気とするが、不活性ガスにより置換せずに減圧雰囲気としてもよいし、減圧せずに不活性ガス雰囲気としてもよい。
【0028】
この後、溶射ノズル12から溶射粒子を噴射させ、その溶射粒子をスリットマスク15に吹き付けながら犠牲管13を矢印19のように回転させつつマスク14を矢印18の方向に掃引する。これにより、スリットマスク15のスリット15a及び開孔パターン14aを通過した溶射粒子が犠牲管13の外面に付着し、犠牲管13の外面に溶射粒子による溶射膜を形成する。なお、前述したガスシュラウド装置等を付加した医療器具の製造装置を用いた場合は、溶射ノズル12から不活性ガスと混合した溶射粒子を噴出させてスリットマスク15に吹き付けることができる。これにより、大気雰囲気中でも溶射粒子の飛行中の酸化を抑制することが可能となる。
【0029】
ここで、上記の犠牲管13の外面に溶射粒子による溶射膜を形成する工程について詳細に説明する。
まず図2(B)に示す平面状のマスク14の要素1パターンであるステントセグメントパターンの溶射膜を犠牲管13の外面へ成膜する。つまり、溶射ノズル12から溶射粒子を噴射しながら、マスク14を矢印18の方向に少しずつ移動させつつ犠牲管13を矢印19の方向に少しずつ回転させることで、犠牲管13の外面への成膜を徐々に進行させる。犠牲管13が1回転する時間とマスク14をLの長さだけ掃引する時間が同一となるように犠牲管13の回転速度とマスク14の掃引速度を調整することで、犠牲管13が1回転したときにステントセグメントパターン(要素1)の犠牲管13の外面への溶射粒子による成膜が終了する。
この後、図2(B)に示す要素2パターンであるセグメント間のリンクパターンの溶射膜を犠牲管13の外面へ成膜する。つまり、溶射ノズル12から溶射粒子を噴射しながら、マスク14を矢印18の方向に少しずつ移動させつつ犠牲管13を矢印19の方向に少しずつ回転させることで、犠牲管13の外面への成膜を徐々に進行させる。犠牲管13が1回転する時間とマスク14をLの長さだけ掃引する時間が同一となるように犠牲管13の回転速度とマスク14の掃引速度を調整することで、犠牲管13が1回転したときにリンクパターン(要素2)の犠牲管13の外面への溶射粒子による成膜が終了する。
【0030】
上記のように溶射膜を成膜することで、ステントセグメントパターン(要素1)とリンクパターン(要素2)を合成した図3に示すステントパターンの溶射膜を得ることができる。別言すれば、図3に示すように、ステントのパターンに対して、犠牲管13の周方向に成長しているステントセグメントパターンを要素1パターンとし、要素1と要素1を繋ぐリンクパターンを要素2パターンとしている。このようにパターンを合成して最終的なステントの構造を作製するため、図3のステントパターンに限らず、様々なパターン形状のステントを作製することができる。
【0031】
なお、必要に応じて溶射ノズル12をスリット15aに沿って移動させながら溶射粒子を噴射させてもよい。即ち、マスク14を矢印18の方向に移動させ、かつ犠牲管13を矢印19の方向に回転させ、かつ溶射ノズル12をスリット15aに沿って移動させながら溶射粒子を噴射させてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、犠牲管13を2回転させて犠牲管13の外面全体に溶射粒子による成膜を行っているが、犠牲管13を1回転または3回転以上させて犠牲管13の外面全体に溶射粒子による成膜を行ってもよい。その場合、マスク14の開孔パターン14aは犠牲管13の回転数に合わせて作製される。
【0033】
次に、チャンバー11内を大気圧に戻し、保持部30から犠牲管13を取り外す。次いで、犠牲管13をエッチングにより除去し、犠牲管13から溶射粒子による溶射膜を離すことで、自立したる管状の溶射膜(管状物)を形成することができる。この管状の溶射膜がステントとなる。
【0034】
その後、必要に応じてステントに熱処理を行うことで再結晶化及び残留応力の除去を行ってもよい。また、必要に応じて、溶射後のステントに化学研磨や機械研磨を行い、最終形状とすることも可能である。また、必要に応じてステントの表面研磨や端面R処理等の表面処理を施してもよい。また、必要に応じて犠牲管13をエッチングする前に、X線可視性向上の為の貴金属をステントの表面に溶射法によりコーティングしてもよい。これにより、ステント全体でX線可視性を得ることが可能となる。
次に、ステントの最終検査を行う。
【0035】
本実施形態によれば、医療器具の一例としてのステントを溶射法にて形成するため、エッチング加工しにくい材料であっても溶射粒子として用いることができ、種々の材料を用いることが可能となる。
【0036】
溶射粒子としては、例えば種々の金属(Li, Na, K, Rb, Cs, Fr, Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Ra, ランタノイド, アクチノイド, Sc, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Y, Zr, Nb, Mo, Tc, Ru, Rh, Pd, Ag, Cd, Hf, Ta, W, Re, Os, Ir, Pt, Au, Hg, Al, Ga, In, Sn, Tl, Pb, Bi, B, Si, Ge, As, Sb, Te, Po )、その金属の合金、生体適用材料としてステンレス鋼, CoCr合金, チタン合金、超弾性を有する生体用形状記憶合金等を用いることが可能である。
【0037】
また、超弾性を有する生体用形状記憶合金からなる溶射膜によってステントを作製すると、関節で曲げられるような部分に用いるステントにも適用可能である。以下に詳細に説明する。
【0038】
超弾性特性を有しないステントでは、ステントの形状を工夫したとしても、曲がりくねった血管内をバルーンカテーテルとともに挿入する際に、屈曲追随性および挿入特性が不十分である。屈曲追随性を向上させるためには、バルーン拡張型ではなく、自己拡張型ステント、すなわち超弾性特性を有するステントが適している。
【0039】
超弾性特性を有することにより、ステントの挿入時の屈曲追随性のみならず、屈曲変形性の高い部位にもステントを使用することが可能となる。超弾性を有する材料としては、ニッケルチタンをはじめとするチタン合金があり、具体的な超弾性材料としてはTi-Ni、Ti-6Al-4V, Ti-Nb, Ti-Pd, Ti-Zr-Nb, Ti-Mo-Sn,Ti-Mo-Ga, Ti-Ni-O, Ti-Ni-Alなどのチタンを含む二元系、三元系もしくはそれ以上の合金が挙げられる。チタン合金は加工しにくいため、従来技術のレーザー加工では、チタン合金のステントの加工性が低い。これに対し、本実施形態では、難加工材であるチタン合金を溶射法にて直接ステント形状に成形するため、簡素な工程となり、製造コストも下げることが可能である。同時に、超弾性を有した長鎖ステントや小口径管ステントの製造が可能となる。
【0040】
また、本実施形態では、従来技術のレーザー加工のような熱による加工精度の低下を抑制することができる。従って、従来技術では作製が困難であった長手方向が100mm以上の長物のステントを製作することが可能となる。
【0041】
また、ステントパターンの精度は、マスク14の開孔パターン14aの寸法精度に依存し、最小では数十μm以下のステントパターンが作製可能である。例えば、マスク14の開孔パターン14aの幅を変化させて、線材強度を制御したステントが作製可能である。
【0042】
また、成膜条件を制御することで、溶射膜の状態を制御することが可能である。例えば、多孔質条件で超弾性のステントを作製することも可能である。
【0043】
また、複数の溶射ガンを用いることで、局所的にステントの一部を別の金属材料とすることも可能である。また、複数の金属を溶射することが可能であるため、様々な金属の積層構造をもつステントの製造が可能となる。
【0044】
また、溶射法では金属以外の成膜も可能であり、ステントの最表面をヒドロキシアパタイト(HAp)などのセラミックスにコーティングすることも可能である。
【0045】
また、本実施形態では、溶射法にてステントを製造しているが、コールドスプレー法を用いてステントを製造することも可能である。その場合、図1に示す溶射ノズル12をコールドスプレーノズルに変更することになる。
【0046】
[第2の実施形態]
図5は、本発明の一態様に係る医療器具の製造装置を模式的に示す断面図であり、図1と同一部分には同一符号を付す。
【0047】
図5の医療器具の製造装置はチャンバー11を有し、チャンバー11内には溶射ノズル12を有する溶射ガン、板状の犠牲材23を保持する保持部22及びマスク24が配置されている。保持部22に保持された犠牲材23と溶射ノズル12との間にはマスク24が配置されている。このマスク24は平面状マスクであって開孔パターン24aを有している。図5では、マスク24、犠牲材23及び保持部22それぞれの一部を示している。
【0048】
なお、本実施形態では、第1の実施形態のスリットマスクをチャンバー11内に配置していないが、これに限定されるものではなく、マスク24と溶射ノズル12との間に溶射粒子の方向を制御するためのスリットを有するスリットマスクを配置してもよい。
【0049】
また、本製造装置は、マスク24及び犠牲材23を矢印29の方向に移動させる移動機構41と、この移動機構41を制御する制御部42を有している。移動機構41はマスク24、犠牲材23及び保持部22に接続されている。図5では、移動機構41の一部を示している。制御部42は、溶射ノズル12から噴射された溶射粒子をマスク24に吹き付けながらマスク24及び犠牲材23を移動機構41によって移動させることで、開孔パターン24aを通過した溶射粒子が犠牲材23に付着するように制御するものである。なお、本実施形態では、溶射ノズル12を固定し、マスク24及び犠牲材23を移動させているが、マスク24及び犠牲材23を固定し、溶射ノズル12を移動させてもよい。
【0050】
また、本製造装置は、チャンバー11内を減圧する排気機構としての真空ポンプ16と、チャンバー11内に不活性ガスを導入するガス導入機構17を有している。なお、本実施形態では、真空ポンプ16及びガス導入機構17の両方を有しているが、真空ポンプ16及びガス導入機構17のいずれか一方を有する医療器具を製造装置であってもよい。
【0051】
次に、図5の製造装置を用いて医療器具を製造する方法について説明する。
本実施形態は、犠牲材23上に平面マスクパターンを用いて、犠牲材23上に医療器具のパターンを溶射し、溶射後、犠牲材23をエッチングにより除去することで、医療器具の形状を得る方法である。
【0052】
以下に詳細に説明する。
まず、犠牲材23を保持部22に保持し、マスク24を移動機構に設置する。
【0053】
次いで、チャンバー11内を真空ポンプ16によって減圧する。チャンバー11内に不活性ガスをガス導入機構17によって導入する。これにより、チャンバー11内を不活性ガス(例えば窒素ガスまたはArガス)により置換し、チャンバー11内を減圧雰囲気とする。
【0054】
この後、溶射ノズル12から溶射粒子を噴射させ、その溶射粒子をマスク24に吹き付けながら犠牲材23及びマスク24を矢印29の方向に移動させる。これにより、開孔パターン24aを通過した溶射粒子が犠牲材23に付着し、犠牲材23上に溶射粒子による溶射膜を形成する。なお、前述したように本製造装置を、マスク24及び犠牲材23を固定し、溶射ノズル12を移動させる構成とした場合は、溶射ノズル12から溶射粒子を噴射させ、その溶射粒子をマスク24に吹き付けながら溶射ノズル12を移動させることになる。
【0055】
次に、チャンバー11内を大気圧に戻し、保持部22から犠牲材23を取り外す。次いで、犠牲材23をエッチングにより除去し、犠牲材23から溶射粒子による溶射膜を離すことで、自立したる溶射膜を形成することができる。この溶射膜が医療器具となる。
【0056】
その後、必要に応じて医療器具に熱処理を行うことで再結晶化及び残留応力の除去を行ってもよい。また、必要に応じて医療器具の表面研磨や端面R処理等の表面処理を施してもよいし、医療器具の表面に貴金属をコーティングしてもよい。また、必要に応じて、溶射後の医療器具に化学研磨や機械研磨を行い、最終形状とすることも可能である。
次に、医療器具の最終検査を行う。
【0057】
本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
溶射粒子としては、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。
【0058】
また、複数の溶射ガンを用いることで、局所的に医療器具の一部を別の金属材料とすることも可能である。また、複数の金属を溶射することが可能であるため、様々な金属の積層構造をもつ医療器具の製造が可能となる。
【0059】
また、溶射法では金属以外の成膜も可能であり、医療器具の最表面をヒドロキシアパタイト(HAp)などのセラミックスにコーティングすることも可能である。
【0060】
また、本実施形態では、溶射法にて医療器具を製造しているが、コールドスプレー法を用いて医療器具を製造することも可能である。その場合、図5に示す溶射ノズル12をコールドスプレーノズルに変更することになる。
【0061】
また、上記の第1及び第2の実施形態を互いに組み合わせて実施することも可能である。
【0062】
また、第1の実施形態では、医療器具としてステントに適用した例を挙げているが、これに限定されるものではなく、第1の実施形態または第2の実施形態で作製可能な種々の医療器具に本発明の一態様を適用することが可能である。例えば、フローダイバータ、ステントレトリバーシステム、脳血管用コイル、ガイドワイヤ、造影用マーカ、下大動脈フィルタ、末梢保護フィルタ、医療用クリップ、医療用針、バネ類を用いた金属または樹脂等に適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
11 チャンバー
12 溶射ノズル
13 犠牲管
14 マスク
14a 開孔パターン
15 スリットマスク
15a スリット
16 真空ポンプ
17 ガス導入機構
18,19 矢印
22 保持部
23 犠牲材
24 マスク
24a 開孔パターン
29 矢印
30 保持部
31 掃引機構
32 回転機構
33 制御部
41 移動機構
42 制御部
図1
図2
図3
図4
図5