【実施例1】
【0016】
図1は、本発明で対象とする車両用シートである乗用車用シート1の基本的な構成を示す。乗用車用シート1は、クッションシート2、シートバック3、ヘッドレスト4、サイドサポート5を備えている。クッションシート2及びシートバック3には、意匠表現として周囲に対して一部凹んだ凹部(エンボス加工部)30が形成されている。
【0017】
図1に示した例では、凹部(エンボス加工部)30がクッションシート2とシートバック3との両方に形成した例を示したが、何れか一方だけに形成する場合もあり、またクッションシート2とシートバック3とで形成する凹部(エンボス加工部)30の数や大きさ、形状が異なる場合もある。
【0018】
図2は、
図1に示したシートバック3のA−A断面の矢視図を示す。シートバック3の断面は、ウレタンパッド31、表面を覆うトリムカバー32で形成されている。ウレタンパッド31には意匠用の凹形状30が形成されており、この凹部30の表面もトリムカバー32で覆われている。
【0019】
従来、この凹部30は、型を用いてウレタンパッド31を加工してウレタンパッド31に凹部30を形成した後に、トリムカバー32を貼り付ける工程においてトリムカバー32の側に型を用いて型とウレタンパッド31に形成された凹部30との位置を合せ、トリムカバー32をウレタンパッド31に貼り合せると同時にトリムカバー32の一部をウレタンパッド31に形成された凹部30に嵌め込んでいた。
【0020】
これに対して、本実施例においては、ウレタンパッド31には
図3に示すように、凹部30が形成されていない状態でトリムカバー32との貼り付けを行い、この貼り付けの工程において、トリムカバー32の側に設けた型を用いてウレタンパッド31に凹部30を形成すると同時にトリムカバー32を貼り付けるようにした。
【0021】
図4に、トリムカバー32の側に設けた型(下型)40の断面構造を示す。下型40は、押し付け部41と加熱部43とを有し、押し付け部41には、ウレタンパッド31に凹形状30を形成するための突起部42が形成されている。また、加熱部43には、外部の図示していない水蒸気供給源からから高温の水蒸気を導入するための導入穴44、導入した高温の水蒸気を通す通路45、通路45内の水蒸気を押し付け部41の裏面に供給する供給穴46が設けられており、外部から導入した高温の水蒸気で押し付け部41を加熱できるように構成されている。
【0022】
下型は、熱伝導率が高い金属(例えばステンレス)で形成されている。
【0023】
押し付け部41の表面(
図4における上面)の形状は、押し付ける相手側である
図3に示したウレタンパッド31の表面形状に合わせてある。
【0024】
本実施例では、
図4に示した下型40にトリムカバー32とシート状接着剤を載せた状態で下型40の加熱部43に高温の水蒸気を供給し押し付け部41を加熱し、
図3に示したウレタンパッド31を下型40に押付けることで、ウレタンパッド31に凹部30を形成すると共にウレタンパッド31の表面にトリムカバー32を貼り付けるようにしたものである。
【0025】
本実施例によるウレタンパッド31の表面へのトリムカバー32の貼り付けの手順を
図5A乃至
図5F及び
図6のフロー図を用いて説明する。
【0026】
まず、
図5Aに示すように、下型40の押し付け部41の上に、トリムカバー32を供給する(S601)。次に、
図5Bに示すように、押し付け部41上に供給したトリムカバー32の上にシート状接着剤(ホットメルト接着剤)51を載せる(S602)。
【0027】
この状態で、外部の図示していない水蒸気供給源から高温の水蒸気を、導入穴44から下型40の加熱部43の通路45内に導入する(S603)。通路45に内部に導入された高温の水蒸気は、多数の供給穴46を通って押し付け部41の裏面に供給されて、押し付け部41を加熱する。これにより、押し付け部41に形成された突起部42も加熱される。押し付け部41の裏面に供給された水蒸気は、押し付け部41の裏面と加熱部43との間に形成された通路(図示せず)を通って外部に排出される。
【0028】
次に、
図5Cに示すように、上型60で保持されたウレタンパッド31を、図示していない搬送手段で下型40の上部に配置し(S604)、図示していない手段で上型60を矢印の方向に移動(下降)させる(S605)。
【0029】
上型60が下降を続けると、
図5Dに示すように、まず下型40の突起部42が、その上部のトリムカバー32とシート接着剤51を介して接触する。この時突起部42は加熱部43から送り出される高温の水蒸気で加熱されており、ウレタンパッド31のうち、トリムカバー32とシート接着剤51を介して突起部42と接した部分は加熱されて収縮する(S606)。
【0030】
上型60はさらに下降を続け、上型60に保持されたウレタンパッド31は下型40の押し付け部41と全面的に接触するまで下降して
図5Eに示す状態になる(S607)。この状態では、高温の水蒸気で加熱された押し付け部41により加熱されてウレタンパッド31及びトリムカバー32は収縮する。同時に、加熱されたシート接着剤51によりウレタンパッド31にトリムカバー32が接着されるとともに、ウレタンパッド31には、下型40の突起部42に対応する形状が転写され、突起部42の形状に相当する凹部30が形成される(エンボス加工)(S608)。この時、トリムカバー32は、下型40の突起部42に引っ張られて凹部30の内部に入りシート接着剤51でウレタンパッド31に接着されるので、ウレタンパッド31に形成された凹部30の表面は、トリムカバー32で覆われることになる。
【0031】
上型60でウレタンパッド31を下型40に所定の時間押付けて、凹部30の内面を含めたウレタンパッド31のトリムカバー32で覆われる面全面を確実に接着した後、図示していない外部の水蒸気供給源から加熱部43への高温の水蒸気の供給を停止し(S609)、
図5Fに示すように、表面にトリムカバー32が接着されたウレタンパッド31を保持した状態で、上型60を矢印の向きに上昇させてウレタンパッド31を下型40から離し(S610)、図示していない搬送手段でウレタンパッド31を所定の場所へ搬送して(S611)、一連の動作が終了する。
【0032】
このようなプロセスを経ることにより、
図2に示したような断面形状を有するバックシート3が形成される。
【0033】
図7に、凹部30が形成された部分のウレタンパッド31とトリムカバー32の断面図を示す。ウレタンパッド31は、トリムカバー接着時に高温の水蒸気が供給された下型40から熱を受けて、下型40に近い部分、すなわちトリムカバー32が接着された面及びその近傍の部分には加熱され加圧されて収縮した層312が形成されている。更に、凹部30の底の部分は周囲と比べてより大きく収縮した層313が形成されている。これに対して下型40からある程度離れた部分は、熱による影響を受けずに元の状態を保った層311が形成されている。
【0034】
なお、上記した実施例においては、下型40に対して上型60が下降する構成で説明したが、逆に上型60に対して下型40を上昇させて凹部の形成と接着とを行うようにしてもよい。
【0035】
また、上記した実施例においては、接着剤としてシート状接着剤(ホットメルト接着剤)51を用いた例について説明したが、本実施例はこれに限られるものではなく、スプレー状の接着剤、または液状の接着剤を用いるようにしてもよい。またこの場合、スプレー状の接着剤、または液状の接着剤をウレタンパッド31の側に塗布するようにしてもよい。
【0036】
本実施例によれば、ウレタンパッドに凹部形状を形成してその表面にトリムカバーを貼り付ける場合に、ウレタンパッド単体での成型工程を不要にしてウレタンパッドの成形とトリムカバーの貼り付けとを1工程で行うことができるようになり、工程数を削減できるようになった。
【0037】
また、ウレタンパッドに予め凹部形状を成形することを不要としたので、ウレタンパッド形成時に凹部形状に応じた専用の型を用意する必要がなくなり、ウレタンパッド形成用の型の種類を減らすことができるようになった。
【実施例2】
【0038】
実施例1においては、下型40の押し付け部41を1部品で形成したが、本実施例においては、押し付け部41−1または41−2を複数の部品で構成する。
【0039】
すなわち、
図7A及び
図7Bに示すように、押し付け部41−1又は41−2を加熱部43に対して着脱可能な構造とし、押し付け部41−1又は41−2を例えば3つの部材411,412,413又は、411,412,414で構成する。このように、押し付け部41−1又は41−2を複数の部材で構成し、
図7Aに示した下型40−1と
図7Bに示した下型40−2の場合のように、部品411と412とを共通化して部品413と414とを取り換えることで、下型40−1または下型40−2を構成し、ウレタンパッド31に形成する凹部(エンボス形状)30の形状に対応することができるようにした。
【0040】
本実施例による下型を用いたウレタンパッド31とトリムカバー32との貼り付け及び凹部30の形成方法は実施例1で説明した方法と同じであるので、説明を省略する。
【0041】
押し付け部41−1又は41−2をこのように構成することにより、ウレタンパッド31に形成する凹部(エンボス形状)の形状に対応する押し付け部の部品を小型化することができ、型部品の省資源化と低コスト化、及び部品保管場所の省スペース化を実現することができる。