特許第6741503号(P6741503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6741503
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】狭指向性アンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/26 20060101AFI20200806BHJP
   G06K 7/10 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   H01Q3/26
   G06K7/10 236
   G06K7/10 268
   G06K7/10 132
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-136954(P2016-136954)
(22)【出願日】2016年7月11日
(65)【公開番号】特開2018-11127(P2018-11127A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113665
【氏名又は名称】マスプロ電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真基
【審査官】 佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−318248(JP,A)
【文献】 特開2011−180912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 7/10
G06K 17/00
H01Q 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された配列方向に沿って配列された3つ以上のアンテナ素子を有する放射部と、
一つの送信入力を分配することで、前記放射部を構成する各アンテナ素子に供給する複数の分配入力を生成する分配器と、
前記放射部を構成する全ての前記アンテナ素子の出力が、いずれも同位相となり、且つ、少なくとも前記配列方向の最も外側に位置する前記アンテナ素子である端部素子の出力が、該端部素子以外の前記アンテナ素子の出力よりも小さくなるように、前記分配器にて生成された前記複数の分配入力の位相及び電力を調整する入力調整部と、
前記3つ以上のアンテナ素子のそれぞれに給電する3つ以上の給電回路であって、前記配列方向の中央に設けられた前記アンテナ素子に対応する中央給電回路と、前記端部素子に対応する端部給電回路と、を含む3つ以上の給電回路と、
前記中央給電回路及び前記分配器が搭載された基板と、を備え、
前記入力調整部は、前記分配器と前記放射部を構成する各アンテナ素子とを個別に接続し、前記アンテナ素子のそれぞれに前記分配入力を供給する伝送線路を備え、
前記伝送線路は、
前記基板に形成され、前記分配器から前記中央給電回路へ前記複数の分配入力のうちの1つを供給する線路と、
前記分配器から前記端部給電回路へ前記複数の分配入力のうちの別の1つを供給する同軸ケーブルと、を含み、
前記入力調整部は、前記端部給電回路に供給される前記分配入力の位相及び電力を、前記同軸ケーブルの長さによって調整する、ことを特徴とする狭指向性アンテナ。
【請求項2】
前記入力調整部は、前記伝送線路の少なくとも一部に、前記端部給電回路に供給される前記分配入力の電力を調整する減衰器を更に備える、ことを特徴とする請求項に記載の狭指向性アンテナ。
【請求項3】
矩形形状の金属板を更に備え、
前記放射部は、前記3つ以上のアンテナ素子が前記金属板に設けられており、
前記入力調整部は、前記端部端子の出力に0dBよりも大きく且つ7dB以下の負の重み付けをする、
請求項1又は2に記載の狭指向性アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭指向性アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
タグに埋め込んだICチップの情報を非接触で読み取るRFIDシステムなど、狭い領域で通信を実施したいシステムでは、アンテナの指向性を鋭くすることが望まれる。そこで、特許文献1に記載のICタグ読取装置は、矩形平板状のRFIDアンテナの対向する縁の近傍から、電波の放射方向へ突出するように電波吸収壁を設けることで、RFIDアンテナから放射させる電波を制御して狭指向性を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−140216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記装置は、RFIDアンテナの対向する縁の近傍から、電波の放射方向へ突出するように電波吸収壁を設けているため、RFIDアンテナ及び電波吸収壁を含むアンテナ部分が大型化するという問題がある。また、電波吸収壁は、ポリカーボネート、粘着剤、Ag膜、PET等の複数の部材を順次積層して形成される高価な部材であるため、電波吸収壁を使用するとコストが増加するという問題がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、大型化及びコストの増加を抑制しつつ狭指向性を実現可能な狭指向性アンテナを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、狭指向性アンテナであって、
予め設定された配列方向に沿って配列された3つ以上のアンテナ素子を有する放射部と、
一つの送信入力を分配することで、前記放射部を構成する各アンテナ素子に供給する複数の分配入力を生成する分配器と、
前記放射部を構成する全ての前記アンテナ素子の出力が、いずれも同位相となり、且つ、少なくとも前記配列方向の最も外側に位置する前記アンテナ素子である端部素子の出力が、該端部素子以外の前記アンテナ素子の出力よりも小さくなるように、前記分配器にて生成された前記複数の分配入力の位相及び電力を調整する入力調整部と、
を備える、ことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の狭指向性アンテナであって、
前記入力調整部は、前記分配器と前記放射部を構成する各アンテナ素子とを個別に接続し、前記アンテナ素子のそれぞれに前記分配入力を供給する伝送線路を備え、該伝送線路の少なくとも一部を同軸ケーブルで構成し、該同軸ケーブルの長さによって前記分配入力の位相及び電力を調整する、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の狭指向性アンテナであって、
前記入力調整部は、前記伝送線路の少なくとも一部に前記分配入力の電力を調整する減衰器を更に備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、各アンテナ素子に供給される分配入力の位相が調整されて、各アンテナ素子の出力が同位相となり、同位相の出力が混合されて出力される。よって、アンテナの半値角は、アンテナ素子が1つの場合と比べて狭くなる。しかしながら、3つ以上のアンテナ素子の出力を混合することで、サイドローブが出現して指向性が広がる。そこで、各アンテナ素子の出力のうちの少なくとも端部素子の出力が、他のアンテナ素子の出力よりも小さくなるように、各アンテナ素子に供給される分配入力の電力が調整される。これにより、サイドローブレベルが低減される。すなわち、電波吸収壁を用いることなく、半値角を狭くしつつサイドローブレベルを低減することができる。したがって、大型化及びコストの増加を抑制して、アンテナの狭指向性を実現することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、同軸ケーブルの長さを調整することで分配入力の位相及び電力を調整することができる。よって、同軸ケーブルを付け替えるだけで、容易にアンテナの指向性を変更することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、同軸ケーブルの長さで分配入力の位相を同位相となるように調整するとともに、分配入力の電力をある程度調整し、さらに、減衰器で分配入力の電力を細かく調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係るRFID通信用ゲートの外観を表す斜視図である。
図2図1のRFID通信用ゲートから、ゲートの内壁を構成する化粧板及び天用枠部を外した状態を表す斜視図である。
図3】本実施形態に係る平面アンテナの外観を表す上面図である。
図4】本実施形態に係る平面アンテナの外観を表す背面図である。
図5】両サイドのアンテナ素子に供給する分配入力に対する重みと、アンテナの半値角と、サイドローブレベルとの関係を示す図である。
図6】各アンテナ素子に供給する分配入力に重み付けしない場合の指向性パターンを示す図である。
図7】各アンテナ素子に供給する分配入力に重み付けした場合の指向性パターンを示す図である。
図8】他の実施形態に係る平面アンテナの外観を表す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。
本実施形態に係る狭指向性のアンテナ装置60は、RFID通信用ゲートに設置されることを想定している。また、本実施形態に係るRFID通信用ゲート2は、監視対象となる施設の出入り口に設けられて、その出入口を通過する通行人が所持する物品に添付されたRFIDタグから識別情報を読み取ることを想定している。
【0014】
<通信用ゲートの構成>
まず、RFID通信用ゲート2の構成について、図1及び図2を参照して簡単に説明する。なお、RFID通信用ゲート2の構成の詳細については、特願2015−187903に記載されている。
【0015】
RFID通信用ゲート2は、出入口の通路を左右側方及び上方から囲むことで、人が通過可能な領域を制限する枠体10と、枠体10を介して出入口の通路を挟むように対向配置される一対の側壁部32,34と、を備える。
【0016】
枠体10は、出入り口の通路を挟んで対向配置される一対の壁用枠部12,14と、壁用枠部12,14の上端同士を連結する天用枠部16と、により構成されている。側壁部32,34は、それぞれ壁用枠部12,14に固定されている。
【0017】
天用枠部16は、複数の棒状のパイプ18と、そのパイプ18を連結するパイプ連結具20とにより、矩形の枠形状に組立てられて、通路を跨ぐように配置されている。
壁用枠部12,14は、組立て時の作業効率を上げるため、それぞれ、ゲートの高さ方向に2つに分割された分割枠部12aと12bとが連結され、分割枠部14aと14bが連結されて、構成されている。分割枠部12a,12b,14a,14bは、それぞれ、複数のパイプ18とパイプ連結具20とにより、側面が矩形の箱形状に組立てられている。
【0018】
側壁部32,34は、電波吸収体で構成されており、通路側を表面とし通路と反対側を裏面とした場合に、裏面には、電波を反射するアルミシートが張り付けられている。側壁部32,34は、分割枠部12a,12b,14a,14bに対してそれぞれ固定できるように、2つの部分側壁部32a,32b,34a,34bに分けられている。
【0019】
そして、部分側壁部32a,32bにおいて、上下に配置した際に互いに対向する端縁に沿って、裏面のアルミシートの端縁側を覆うように、金属板50が配置されている。部分側壁部34a,34bにおいても、同様に金属板50が配置されている。金属板50は、上下のアルミシートを電気的に接続する。これにより、側壁部32,34全体で、通信用ゲート2の外から侵入してくる電波を反射する。また、上方に配置される分割枠部12a,14aにおいて、上方の開口部分は金属板54で閉塞され、部分側壁部32a,32bよりも上方の開口部分も、金属板52で閉塞されている。
【0020】
また、壁用枠部12,14には、RFIDタグとの間で無線通信を行うための4つのアンテナ装置62,64,66,68が固定されている。アンテナ装置62,64,68は、それぞれ、分割枠部12b,14a,14bの通路側のパイプ18に固定されている。また、アンテナ装置66は、分割枠部14aと分割枠部14bとが接続される部分に、分割枠部14a,14bを跨ぐように通路側のパイプ18に固定されている。アンテナ装置62,64,66,68は、矩形形状となっており、長手方向が通路の通過方向となるように、壁用枠部12,14に固定されている。このように固定したアンテナ装置62,64,66,68にRFIDリーダライタを接続することで、RFIDリーダライタはRFIDタグから情報を高精度に読み取ることができるようになる。なお、アンテナ装置62,64,66,68の詳細な構成は後述する。
【0021】
さらに、分割枠部12a,12b,14a,14bの通路側のパイプ18には、通路側からアンテナ装置62,64,66,68を覆うように、固定具70を介して、化粧板36a,36b,38a,38bが固定されている。化粧板36a,36b,38a,38bは、電波を透過可能な合成樹脂の板である。
【0022】
<アンテナ装置の構成>
以下では、アンテナ装置62,64,66,68を総称してアンテナ装置60とし、アンテナ装置60について説明する。
【0023】
アンテナ装置60は、平面アンテナ600を、電波を透過可能な樹脂製のアンテナケースに収納することにより構成されている。
平面アンテナ600は、図3及び図4に示すように、反射器610と、3つの放射器621〜623と、3つの給電回路631〜633と、分配器640と、減衰器661,662と、同軸ケーブル651,652と、を備える。
【0024】
反射器610は、矩形形状に形成された金属の板から構成されている。反射器610は、無給電素子であり、放射器621〜623から放射された電波を反射する。図3に示すように、反射器610の表面610Aには、3つの放射器621〜623が設置されている。また、図4に示すように、反射器610の裏面610Bには、3つの給電回路631〜633と、分配器640とが設置されている。
【0025】
放射器621〜623は、反射器610よりも小さい矩形形状に形成されたパッチアンテナである。放射器621〜623は、給電素子であり、反射器610へ向かう方向と反対の方向に向けて電波を放射する。放射器621〜623は、反射器610の長手方向に沿って表面610A上に等間隔で配列されている。つまり、放射器621〜623は、アレイアンテナを構成している。具体的には、放射器622を中心として、放射器621,623が両端に配置されている。以下では、放射器621の配置側を左側、放射器623の配置側を右側とする。アンテナ装置60は、反射器610の表面610Aが通路側を向くように、すなわち、電波が通路に向かって放射されるように、壁用枠部12,14に固定されている。なお、本実施形態では、放射器621〜623から放射部が構成されており、反射器610の長手方向、すなわち、通路の通行方向がアンテナ素子の配列方向に設定されている。
【0026】
分配器640は、平面アンテナ600に入力された高周波信号である送信入力を3つに等分配して、放射器621〜623に供給する3つの分配入力を生成する回路である。以下では、放射器621に供給する分配入力をS1、放射器622に供給する分配入力をS2、放射器623に供給する分配入力をS3とする。
【0027】
給電回路631〜633は、それぞれ別体の基板671〜673に形成されており、反射器610の裏面610Bから表面610Aの放射器621〜623に接続し、放射器621〜623を励振する回路である。配列の中央に配置された給電回路632と分配器640は、同じ基板672に形成されている。基板671〜673は、反射器610の裏面610B上で、放射器621〜623の裏側の位置辺りに配置されている。
【0028】
分配器640と給電回路631〜633のそれぞれとは、個別に接続されている。分配器640により生成された分配入力S2は、基板672に形成された高周波信号を伝送する線路653を介して給電回路632に供給される。また、分配入力S1は、減衰器661及び同軸ケーブル651を介して、左側の給電回路631に供給され、分配入力S3は、減衰器662及び同軸ケーブル652を介して、右側の給電回路633に供給される。左側の同軸ケーブル651と右側の同軸ケーブル652は、同じ長さのケーブルである。つまり、平面アンテナ600は、給電回路632を中心として左右対称な構成になっている。給電回路631〜633は、分配入力S1〜S3の供給を受けて放射器621〜623を励振する。励振された放射器621〜623は電波を放射する。
【0029】
平面アンテナ600の出力は、放射器621〜623の各出力が混合された混合出力となる。つまり、平面アンテナ600は、放射器621〜623がそれぞれ放射した電波が合成された合成電波を放射する。アレイアンテナの特性から、放射器621〜623の各出力がいずれも同位相となる場合、平面アンテナ600の半値角は、放射器が1つの場合の半値角よりも狭くなる。そこで、狭指向性を得るため、放射器621〜623の各出力が同位相となるように、3つの分配入力S1〜S3の位相を調整する。
【0030】
具体的には、同軸ケーブル651,652の長さによって分配入力S1,S3の位相を調整する。放射器621〜623の各出力を同位相とするためには、給電回路631〜633に供給された時点の分配入力S1〜S3の位相を同位相とする必要がある。送信入力が分配されて分配入力S1〜S3が生成された時点では、3つの分配入力S1〜S3は同位相となっているが、線路653及び同軸ケーブル651,652の伝送中に、分配入力S1〜S3の位相は変化する。
【0031】
中央の給電回路632を基準回路として、分配器640から給電回路632への伝送中に変化した分配入力S2の位相変化量をθa[°]とすると、分配器640から給電回路631,633への伝送中に変化した分配入力S1,S3の位相変化量θbをθa+2Nπ、Nは0以上の整数、とする必要がある。この場合、同軸ケーブル651,652の波長短縮率をb[%]、光速を3.0×10、分配入力S1〜S3の中心周波数をF[MHz]とすると、位相変化量θb=θa+2Nπとする同軸ケーブル651,652の長さLは、L=(300/F)×[(θa+2Nπ)/(2π)]×(b/100)[m]と表される。すなわち、同軸ケーブル651,652の長さを、上記Lの式を満たす値とすることで、放射器621〜623の各出力を同位相とすることができる。
【0032】
ここで、放射器621〜623の各出力を混合することで、混合しない場合よりも、半値角を狭くすることができる一方で、サイドローブが出現し指向性が広がることがわかった。そこで、サイドローブレベルを低減するため、配列の最も外側に位置する放射器621,623の出力が、中央の放射器622の出力よりも小さくなるように、3つの分配入力S1〜S3の電力を調整する。
【0033】
放射器621,623の出力を放射器622の出力よりも小さくするには、3つの分配入力S1〜S3に重み付けして、給電回路631,633に供給する分配入力S1,S3の電力を、給電回路632に供給する分配入力S2の電力よりも小さくすればよい。
【0034】
ただし、図5に示すように、放射器621,623の出力を低減するほど、サイドローブレベルが低減される一方で、アレイアンテナとしての機能が低下して半値角が増大する。図5は、中心周波数Fを915MHzとした場合において、分配入力S2に対する分配入力S1,S3の重みと、半値角及びサイドローブレベルの対応を示す。この重みは負の重みであり、重みの分だけ分配入力S1,S3の電力を低減する。アンテナ装置60を設置するシステムによって、要求される半値角及びサイドローブレベルは異なるため、加重する重みは、要求される仕様に合わせて良好な狭指向性が得られるように選択すればよい。
【0035】
具体的には、同軸ケーブル651,652の長さと減衰器661,662とによって、分配入力S1,S3の電力を調整する。まず、上記Lの式において、Lが基板672と基板671,673との間隔よりも少し長くなるようなNを決める。このようにして決めたNをN1とし、上記Lの式において、N=N1としたときのLをL1とする。同軸ケーブルの中心周波数Fでの通過損失をC[dB/m]とすると、同軸ケーブル651,652の損失Dは、D=C×L1となる。つまり、同軸ケーブル651,652によって、分配入力S1,S3にDの重みが加重される。分配入力S1,S3に加重する重みをW0と設定した場合、減衰器661,662により、分配入力S1,S3に残りの重みW0−Dを加重する。同軸ケーブル651,652と減衰器661,662とを組み合わせることで、分配入力S1,S3の電力を細かく調整できる。
【0036】
なお、中央の放射器622を基準素子として、分配入力の電力を基準素子に対して左右対称に調整するとよい。本実施形態では、分配入力S1,S3の電力を等しくするように、同軸ケーブル651と同軸ケーブル652の長さは等しくし、減衰器661の減衰量と減衰器662の減衰量は等しくする。これにより、サイドローブレベルを確実に低減できる。分配入力S1,S3の電力が異なる値となると、混合出力の主ビームがずれて、サイドローブレベルが大きくなるおそれがある。
【0037】
なお、本実施形態では、平面アンテナ600が狭指向性アンテナに相当し、放射器621〜623がそれぞれアンテナ素子に相当する。また、両端の放射器621,623が端部素子に相当する。更に、同軸ケーブル651,652、線路653、及び減衰器661,662が伝送線路に相当し、同軸ケーブル651,652及び減衰器661,662が入力調整部に相当する。
【0038】
<実験>
図6に、放射器621〜623の出力を同位相に調整し、分配入力S1〜S3に重み付けしていない場合における、平面アンテナ600の指向性の実験結果を示す。また、図7に、放射器621〜623の出力を同位相に調整し、分配入力S1,S3に5dBの重み付けをした場合における、平面アンテナ600の指向性の実験結果を示す。図6に示すように、重み付けをしていない場合は、半値角が20°程度に狭くなっているが、−15dB以上のレベルのサイドローブが出現している。これに対して、図7に示すように、重み付けをした場合は、重み付けしていない場合よりも半値角がやや大きくなっているが、サイドローブレベルが非常に小さくなっており、鋭い指向性を実現している。
【0039】
<効果>
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)放射器621〜623の出力が同位相となり、且つ、放射器621,623の出力が放射器622の出力よりも小さくなるように、分配入力S1〜S3の位相及び電力が調整される。これにより、半値角を狭くしつつサイドローブレベルを低減して、平面アンテナ600の狭指向性を実現することができる。
【0040】
(2)同軸ケーブル651,652の長さを調整することで、分配入力S1,S3の位相及び電力を調整することができる。そのため、同軸ケーブル651,652を長さの異なる同軸ケーブルに付け替えるだけで、平面アンテナ600の指向性を変更することができる。
【0041】
(3)給電回路631,633と分配器640とを同軸ケーブル651,652で接続したことにより、給電回路631〜633をそれぞれ異なる基板671〜673に形成することができる。そのため、給電回路631〜633を1枚の大きな基板に形成する場合よりも、コストを低減することができる。
【0042】
(4)同軸ケーブル651,652と減衰器661,662とで分配出力S1,S3の電力を調整するため、電力を細かく調整することができる。
(他の実施形態)
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0043】
(a)上記実施形態では、アンテナ素子である放射器を3つ配列しているが、4つ以上のアンテナ素子を配列してもよい。4つ以上のアンテナ素子を配列する場合、全てのアンテナ素子の出力がいずれも同位相となり、且つ、少なくとも配列方向の最も外側に位置するアンテナ素子の出力が、他のアンテナ素子の出力よりも小さくなるように、複数の分配入力の電力を調整すればよい。その際、入力調整部は、センターのアンテナ素子を基準素子として、各アンテナ素子への分配入力を、基準素子に対して左右対称となるようにするとよい。すなわち、基準素子の両隣のアンテナ素子である隣接素子への分配電力に対する重みを同じ値とし、さらに各隣接素子の基準素子と反対側のアンテナ素子への分配電力に対する重みを同じ値とする。他のアンテナ素子も同様にする。
【0044】
また、センターのアンテナ素子と最も外側のアンテナ素子を除く他のアンテナ素子への分配入力は、電力を調整してもよいししなくてもよい。他のアンテナ素子への分配入力の電力を調整する場合は、最も外側のアンテナ素子への分配入力に対する重みと同じ重みにしてもよいし、大きさを小さくした重みにしてもよい。図8に示すように、5個のアンテナ素子721〜725が等間隔に配列された平面アンテナ700の場合、アンテナ素子721,725への分配入力には、アンテナ素子721,725の出力がアンテナ素子723の出力よりも小さくなるように重み付けする。アンテナ素子722,724への分配入力には、重み付けしなくてもよいし、アンテナ素子721,725への分配入力と同じ重みを付けてもよい。また、アンテナ素子722,724への分配入力には、アンテナ素子722,724の出力が、アンテナ素子723の出力よりも小さく、且つ、アンテナ素子721,725の出力よりも大きくなるように重み付けしてもよい。
【0045】
平面アンテナ700の場合、アンテナ素子723を中心として、例えば、減衰器の減衰量及び同軸ケーブルの長さを左右対称とすることで、重みを左右対称とすることができる。詳しくは、分配器640からアンテナ素子721への伝送線路を構成する減衰器の減衰量及び同軸ケーブルの長さを、分配器640からアンテナ素子725への伝送線路を構成する減衰器の減衰量及び同軸ケーブルの長さと同じ値にする。同様に、分配器640からアンテナ素子722,724のそれぞれへの伝送線路を構成する減衰器の減衰量及び同軸ケーブルの長さも同じ値にする。アンテナ素子は、パッチアンテナ以外でもよい。
【0046】
(b)減衰器661,662を設置せず、同軸ケーブル651,652だけで、分配入力S1,S3に重みW0を加重してもよい。この場合、W0=C×Lを満たすNを決める。このようにして決めたNをN2とし、上記Lの式において、N=N2としたときのLをL2として、同軸ケーブル651,652の長さをL2とすればよい。
【0047】
(c)平面アンテナ600の反射器610は、放射器621〜623及び給電回路631〜633の配置間隔を可変にする固定構造が備えられていてもよい。給電回路631,633と分配器640とを同軸ケーブル651,652で接続することで、容易に配置間隔を変えることができる。
【0048】
(d)3枚の基板にそれぞれ形成する場合よりもコストは増加するが、給電回路631〜633を1つの基板上に形成してもよい。この場合、同軸ケーブル651,652の代わりに、基板に形成したストリップラインを分配入力の伝送線路とし、ストリップラインで分配入力の位相及び電力を調整してもよい。
【0049】
(e)分配入力の位相の調整は、フィルタによって行ってもよい。また、分配入力の電力の調整も、フィルタによって行ってもよい。分配入力の位相及び電力の調整は、同軸ケーブル、減衰器、フィルタ等を適宜組み合わせて行えばよい。
【0050】
(f)上記実施形態では、入力調整部を同軸ケーブル651,652と減衰器661,662とで構成していたが、同軸ケーブル651,652と混合器とから構成してもよい。混合器には分配損失があり、900MHz帯では、分配損失は約5dB程度になる。よって、放射器621と放射器623との出力を混合器で混合し、分配損失を重みとして利用すればよい。そして、混合器の出力と放射器622の出力とを、別の混合器で混合すれば、上記実施形態と同様に、半値角が狭くしつつ、サイドローブレベルを低減することができる。このとき、2つの混合器は、分配器を混合器として利用すればよい。また、最初の混合器の出力と放射器622の出力とを混合する2番目の混合器は、分岐器を用いてもよい。分岐器を用いる場合、メインアンテナ素子である放射器622の出力と、サブアンテナ素子である放射器621,623の出力の比率を任意に変更することができる。なお、アンテナ素子が4つ以上の場合も、混合器を用いてもよい。
【0051】
(g)平面アンテナ600は、RFID通信用ゲート2の天用枠部16や通路の床下に設置してもよい。また、RFID通信用ゲート2の通過方向を幅として、平面アンテナ600は、RFID通信用ゲート2の幅の中央に設置してもよいし、幅の端に寄せて設置しても、すなわち、RFID通信用ゲート2の入口又は出口に寄せて設置してもよい。RFID通信用ゲート2の入口又は出口付近に、RFID通信用ゲート2の読取対象外のタグ製品が置かれている場合には、読取対象外のタグまで読み取ってしまわないように、平面アンテナ600を、読取対象外のタグ製品が置かれている側と反対側の端に寄せて設置するとよい。また、平面アンテナ600を設置する場所や個数は、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0052】
(h)平面アンテナ600は、RFID通信用ゲートに限らず、狭指向性アンテナを利用する種々のシステムや装置に適用してもよい。
(i)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【0053】
(j)上述した狭指向性アンテナの他、狭指向性アンテナを構成要素とするRFIDシステムや通信用ゲートなど、種々の形態で本発明を実現することもできる。
【符号の説明】
【0054】
2…RFID通信用ゲート、60,62,64,66,68…アンテナ装置、600,700…平面アンテナ、610,710…反射器、621,622,623,721,722,723,724,725…放射器、631,632,633…給電回路、640…分配器、651,652…同軸ケーブル、661,662…減衰器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8