(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の第1の実施の形態における商品取り出し抑止具(以下、単に「抑止具」とも言う。)について、
図1〜
図14を参照して説明する。本明細書において、「前後」は
図7の使用状態における顧客側から見た方向(
図2を正面図とする方向)を言う。抑止具10は、多数の陳列商品An(nは2以上の整数)を吊り下げるフック52に装着される樹脂製のチップであって、フック52が通される貫通孔12を有するフック挿通部1と、フック挿通部1の両側に接続し、前後方向に所定の長さで延びる一対の翼部2、3と、を有する。フック52は、直状の円形断面の丸棒本体部521と、丸棒本体部521の前方端から前方に上り傾斜の先端部522とからなる。丸棒本体部521の後部は、固定部材51に接合されている。
【0013】
フック挿通部1は、中空の円筒状である。中空の内径は、フック52の外径と同じ又はそれよりやや大である。これにより、抑止具10は、フック52に固定されるか、又はフック52に回動自在に遊嵌する。抑止具10がフック52に固定されていると、吊り下げ商品を抜き出す際、吊り下げ商品を回転させながら、取り出すことになる。また、抑止具10がフック52に回動自在に装着していると、吊り下げ商品を抜き出す際、吊り下げ商品の吊り下げ姿勢を維持したまま、取り出すことができる。
【0014】
フック挿通部1の前後方向の長さは、7〜15mm程度、あるいは吊り下げ商品の幅寸法よりやや小さめが好ましい。フック挿通部1の前後方向の長さが小さすぎると、取り付け強度が小さくなり、破壊され易く、また、強く引き抜けば、傾斜している先端のフックから前方へ外れ易くなる。また、フック挿通部1の前後方向の長さが大きすぎると、フック52に吊り下げる商品の設置箇所が減少する。
【0015】
一対の翼部2、3の中、一方の翼部2は、前後方向に延びる板状の中央部21と、中央部21の後端から後方上り傾斜で且つフック挿通部1側に回る螺旋面221を有する後方部22と、中央部21の前端から前方下り傾斜で且つ反フック挿通部1側に回る螺旋面231を有する前方部23とからなる。中央部21と後方部22の境界及び中央部21と前方部23の境界は、明確なエッジを形成しておらず、なだらかに形状が変化する。すなわち、中央部21と後方部22と前方部23は、一体化しており、その形状は連続するものである。後方部22及び前方部23の最大傾斜角度(α)は、30〜40度程度が好ましい。この最大傾斜角度が大きすぎると、最前列の1個の商品でも抜き取り難くなる。この最大傾斜角度が小さすぎると、最前列から2個目以降の商品を取り出し易くなり、盗難抑止効果が低減する。なお、螺旋面を定義する「フック挿通部1側に回る」とは、正面視において上面となる螺旋面が内側(フック挿通部1側)を向いていることを意味し、「反フック挿通部1側に回る」とは、正面視において上面となる螺旋面が外側(正面視においてフック挿通部1側とは反対側)を向いていることを意味する。
【0016】
他方の翼部3は、前後方向に延びる板状の中央部31と、中央部31の後端から後方下り傾斜で且つ反フック挿通部側に回る螺旋面321を有する後方部32と、中央部31の前端から前方上り傾斜で且つフック挿通部側に回る螺旋面331を有する前方部33とからなる。中央部31と後方部32の境界及び中央部31と前方部33の境界は、明確なエッジを形成しておらず、なだらかに形状が変化する。すなわち、中央部31と後方部32と前方部33は、一体化しており、その形状は連続するものである。後方部32及び前方部33の最大傾斜角度(α)は、30〜40度程度が好ましい。この最大傾斜角度が大きすぎると、最前列の1個の商品でも抜き取り難くなる。この最大傾斜角度が小さすぎると、最前列から2個目以降の商品を取り出し易くなり、盗難抑止効果が低減する。なお、螺旋面を定義する「フック挿通部1側に回る」及び「反フック挿通部1側に回る」とは、前述の通りである。
【0017】
すなわち、一方の翼部2と他方の翼部3は、正面視形状が、フック挿通部1の軸芯を中心として点対称である。本例では、一方の翼部2と他方の翼部3は、フック挿通部1の軸中心oで且つ前後方向の中央を中心として点対称である。すなわち、本例の抑止具10は、正面視形状と背面視形状が同一に表れ、平面視形状と底面視形状が同一に表れ、右側面視形状と左側面視形状が同一に表れる。
図2、3、5及び6中、符号22a、23a、32aは翼部の表面を示し、23b、32b、33bは裏面を示す。
【0018】
一方の翼部2と他方の翼部3の厚み(t)は、陳列商品Aの吊り下げ孔60に対応するため、吊り下げ孔60の上下方向の寸法より小さく、例えば2〜3mm程度でよい。また、中央部21、31の前後方向の長さ(l
1)は、フック挿通部1の同じ程度の長さでよく、例えば10〜20mm程度である。また、後方部22、32の前後方向の長さ(l
2)及び前方部23、33の前後方向の長さ(l
3)は、中央部21、31の前後方向の長さ(l
1)と同じ程度でよく、例えば10〜20mm程度である。後方部22、32の前後方向の長さ(l
2)は、陳列商品Aの幅寸法より小とすれば、最前端の吊り下げ商品A
1と最前端から2番目の吊り下げ商品A
2とは、同じ吊り下げ姿勢では、商品取り出し抑止具に通すことはできない。このため、複数個の吊り下げ商品を瞬時には引き出せない。これにより、複数個の商品の取り出しには時間を要する。
【0019】
抑止具10によれば、陳列商品Aの吊り下げ孔60と抑止具10の断面形状が対応している。そして、抑止具10の断面形状は、後方から前方にかけて、フックの軸芯を中心に連続的に反時計方向(正面視において)に回転させたように変化する。従って、最前端の吊り下げ商品A
1を取り出すには、抑止具10を回転させながら取り出すか、吊り下げ商品A
1を回転させながら取り出すか、あるいは両者を相互に対応させ回転させながら取り出すことになる(
図8〜
図14)。
【0020】
次に、抑止具10の使用方法について説明する。
図7に示すように、抑止具10は、多数の陳列商品An(nは整数)を吊り下げるフック52の最前列の吊り下げ商品A
1の手前に装着される。待機姿勢において、抑止具10の一対の翼部2、3の形状と陳列商品Aの吊り下げ孔60の形状は対応しておらず、そのままでは、吊り下げ商品A
1は、取り出せない。最前端の吊り下げ商品A
1を取り出すには、抑止具10を回転させるか、吊り下げ商品A
1を回転させるか、あるいは両者を相互に回転させ、一対の翼部2、3の形状と陳列商品Aの吊り下げ孔60の形状を対応させる。本例では、抑止具10を固定させ、吊り下げ商品A
1を回転させる方法について説明する。
【0021】
先ず、鉛直姿勢にある吊り下げ商品A
1を、吊り下げ孔60の形状と一対の翼部2、3の形状が対応する位置(符号A)まで、時計回りに回転させる(
図8、
図11及び
図12)。次いで、吊り下げ商品A
1を手前に引く出すことで、一対の翼部2、3の後方部22、32が吊り下げ孔60に通される。後方部22、32の螺旋面221、321は、後方から前方に向けて反時計回りに傾斜しているため、吊り下げ商品A
1はそのまま手前に引くことで、一対の翼部2、3の形状にガイドされ、反時計回りに回転しつつ手前に引き出される。次いで、吊り下げ商品A
1が中央部21、31に入る際、フック挿通部1が存在するが、吊り下げ商品A
1の吊り下げ孔60の左右方向の中央部は、フック挿通部1を通す大きさの形状に対応しているため、手前への引き出しの障害となることはない。吊り下げ商品A
1が中央部21、31を通る際、一対の翼部2、3の中央部21、31の形状にガイドされ、吊り下げ商品A
1は、鉛直姿勢となる(符号B;
図9、
図11及び
図13)。
【0022】
次いで、吊り下げ商品A
1を更に手前に引く。前方部23、33の螺旋面231、331は、後方から前方に向けて反時計回りに傾斜しているため、吊り下げ商品A
1はそのまま手前に引くことで、一対の翼部2、3の前方部23、33の形状にガイドされ、反時計回りに回転しつつ手前に引き出され(符号C;
図10、
図11及び
図14)、抑止具10を抜ける。これにより、フック陳列具から吊り下げ商品A
1は取り出される。このように、吊り下げ商品A
1は、抑止具10に掛ける際、孔合わせが必要となるが、それ以降は、そのまま手前にひけば、抑止具10の形状に沿って(本例では反時計回り)、容易に取り出すことができる。吊り下げ商品A
2を取り出す際は、吊り下げ商品A
1の取り出しが完了してから行うことになる。なお、抑止具10は、フック挿通部1が直線状のフック本体部521に装着されており、且つ前後方向の長さを有するため、フックの傾斜状の先端部522を抜けて外れることはない。
【0023】
次に、吊り下げ商品Aの複数個を一度に取り出す際、抑止具10の取り出し抑止の効果について説明する。先ず、鉛直姿勢にある2個の吊り下げ商品A
1、A
2を一度に引き出す際、1個の吊り下げ商品A
1の引き出しと同様に、吊り下げ孔60、60の形状と一対の翼部2、3の形状が対応する位置まで、時計回りに回転させることになる。次いで、先ず、吊り下げ商品A
1が手前に引き出される。一対の翼部2、3の後方部22、32の前後方向の長さは、吊り下げ商品の幅寸法より小であるため、吊り下げ商品A
2が、抑止具10に入るためには、吊り下げ商品A
1が、少なくとも、後方部22、32を通り過ぎる必要がある。この場合、吊り下げ商品A
1は、中央部21、31に位置しており、鉛直姿勢となる。この場合、吊り下げ商品A
2は回転しており、傾斜姿勢である。このように、2個の吊り下げ商品A
1、A
2を、片方の手に持ち、同じ姿勢で重ねた状態で、抑止具1に入れることができない。これは、3個以上の吊り下げ商品についても同様である。このため、フック陳列具から複数個の吊り下げ商品を瞬時には引き出せない。これにより、複数個の商品の取り出しには時間を要するため、複数個の同時盗難を抑止する効果がある。
【0024】
次に、本発明の第2の実施の形態における抑止具について、
図15及び
図16を参照して説明する。
図15及び
図16の抑止具10aにおいて、
図1〜
図14の抑止具10と同一構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し、異なる点について主に説明する。すなわち、
図15及び
図16の抑止具10aにおいて、
図1〜
図14の抑止具10と異なる点は、抑止具10aを一対の半割部材91a、91bの組み付け体とした点である。
【0025】
抑止具10aは、
図1の抑止具10において、フック挿通部1の軸芯が延びる方向で且つ中央部21、31の板状の面と平行に切断した半割部材の一対物の嵌合体である。これにより、フック52への装着が容易となる。なお、一対の半割部材91a、91bは、同一形状であり、一方の半割部材91aについて説明し、他方の半割部材91bの説明を省略する。半割部材91aは、フック挿通部1と一対の翼部2、3間に、板状の接続部911aを介在させている。すなわち、フック挿通部1の両側には、板状の接続部911aが形成され、一方の接続部911aの裏面には、嵌合用の爪(突起)913aが形成され、他方の接続部911aには、嵌合用の貫通孔912aが形成されている。嵌合用の爪(突起)913aは、先端が鈎状となっており、他方の半割部材91bの貫通孔912bに係止する。また、嵌合用の貫通孔912aには、他方の半割部材91bの爪913bが係止する。一対の半割部材91a、91bを組み付けることで、
図16(B)に示すような抑止具10aが完成する。抑止具10aは、抑止具10用の吊り下げ孔と僅かに異なるものの、中央にフック52に掛る丸孔を有する横長の吊り下げ孔に対応できる。抑止具10aにおいても、抑止具10と同様の作用効果を奏する。
【0026】
次に、本発明の第3の実施の形態における抑止具について、
図17を参照して説明する。
図17の抑止具10bにおいて、
図1〜
図14の抑止具10と同一構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し、異なる点について主に説明する。すなわち、
図17の抑止具10bにおいて、
図1〜
図14の抑止具10と異なる点は、抑止具10bの一対の翼部の形状である。
【0027】
すなわち、一対の翼部2c、3cの中、一方の翼部2cは、前後方向に延びる板状の中央部21cと、中央部21cの後端から後方下り傾斜で且つ反フック挿通部1側に回る螺旋面221cを有する第2後方部22cと、中央部21cの前端から前方上り傾斜で且つフック挿通部1側に回る螺旋面231cを有する第2前方部23cとからなる。また、他方の翼部3cは、前後方向に延びる板状の中央部31cと、中央部31cの後端から後方上り傾斜で且つフック挿通部1側に回る螺旋面321cを有する第2後方部32cと、中央部31cの前端から前方下り傾斜で且つ反フック挿通部1側に回る螺旋面331cを有する第2前方部33cとからなる。
【0028】
すなわち、本例の抑止具10bの断面形状は、後方から前方にかけて、フックの軸芯を中心に連続的に時計方向(正面視において)に回転させたように変化するものである。
【0029】
次に、抑止具10bの使用方法の一例について説明する。待機姿勢において、抑止具10bの一対の翼部2c、3cの形状と陳列商品Aの吊り下げ孔60の形状は対応しておらず、そのままでは、吊り下げ商品A
1は、取り出せない。最前端の吊り下げ商品A
1を取り出すには、抑止具10と同様、3つの方法があるが、本例では、抑止具10bを固定させ、吊り下げ商品A
1を回転させる方法について説明する。
【0030】
先ず、鉛直姿勢にある吊り下げ商品A
1を、吊り下げ孔60の形状と一対の翼部2c、3cの形状が対応する位置まで、反時計回りに回転させる。次いで、吊り下げ商品A
1を手前に引く出すことで、一対の翼部2c、3cの後方部22c、32cが吊り下げ孔60に通される。後方部22c、32cの螺旋面221c、321cは、後方から前方に向けて時計回りに傾斜しているため、吊り下げ商品A
1はそのまま手前に引くことで、一対の翼部2c、3cの形状にガイドされ、時計回りに回転しつつ手前に引き出される。次いで、吊り下げ商品A
1が中央部21c、31cに入る際、フック挿通部1が存在するが、吊り下げ商品A
1の吊り下げ孔60の左右方向の中央部は、フック挿通部1を通す大きさの形状に対応しているため、手前への引き出しの障害となることはない。吊り下げ商品A
1が中央部21c、31cを通る際、一対の翼部2c、3cの中央部21c、31cの形状にガイドされ、吊り下げ商品A
1は、鉛直姿勢となる。
【0031】
次いで、吊り下げ商品A
1を更に手前に引く。前方部23c、33cの螺旋面231c、331cは、後方から前方に向けて時計回りに傾斜しているため、吊り下げ商品A
1はそのまま手前に引くことで、一対の翼部2c、3cの前方部23c、33cの形状にガイドされ、時計回りに回転しつつ手前に引き出され、抑止具10bを抜ける。これにより、フック陳列具から吊り下げ商品A
1は取り出される。抑止具10bにおいて、フック陳列具から複数個の吊り下げ商品を瞬時には引き出せないのは、抑止具10と同様である。
【0032】
本発明は、上記実施の形態例に限定されず、種々の変形を採ることができる。なお、最前端の吊り下げ商品を取り出す方法としては、陳列商品を回転させながら取り出す方法以外に、商品取り出し抑止具を回転させながら取り出す方法又は両者を相互に対応させ回転させながら取り出す方法が挙げられる。例えば、
図7において、吊り下げ商品の鉛直姿勢を保持しつつ、取り出すには、先ず、抑止具10を反時計回りに回転させて、一対の翼部2、3の形状と吊り下げ商品A
1の吊り下げ孔60を対応させる。次いで、そのまま、吊り下げ商品A
1を手前に引き出せば、抑止具10は、吊り下げ孔60にガイドされて、その場において、時計回りに回転しつつ、吊り下げ孔60を抜けることになる。なお、この場合においても、複数個の吊り下げ商品を同時に瞬時に引き出せない。