特許第6741513号(P6741513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧 ▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧

<>
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000002
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000003
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000004
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000005
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000006
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000007
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000008
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000009
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000010
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000011
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000012
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000013
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000014
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000015
  • 特許6741513-内燃機関の点火装置 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6741513
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】内燃機関の点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 15/10 20060101AFI20200806BHJP
【FI】
   F02P15/10 301B
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-153419(P2016-153419)
(22)【出願日】2016年8月4日
(65)【公開番号】特開2018-21518(P2018-21518A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 明光
(72)【発明者】
【氏名】土井 香
(72)【発明者】
【氏名】村山 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】青木 文明
(72)【発明者】
【氏名】西尾 典晃
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−231927(JP,A)
【文献】 特開2014−145306(JP,A)
【文献】 実開昭55−121970(JP,U)
【文献】 国際公開第2014/087504(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00−3/12、7/00−17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイル(10a)及び二次コイル(10b)を有する点火コイル(10)と、
前記一次コイルに対して一次電流を通電させた後に、その一次電流を遮断することで前記二次コイルに発生する二次電圧によって火花放電を生じさせ、可燃混合気に対して点火を行う点火プラグ(30)と、を備える内燃機関の点火装置において、
前記点火の開始時点から前記可燃混合気に含まれる燃料の燃焼割合が所定値に達する時点までの初期燃焼期間において、前記点火プラグにおける断続的な放電を複数回実施する制御部(20)と、
前記可燃混合気の流速を検出する流速検出部(20)と、を備え、
前記制御部は、
前記一次電流を流すことで、前記点火の開始時点において前記点火コイルに対して所定エネルギーを蓄積するものであって、
前記流速検出部により検出された前記流速が所定の第1閾値を超える場合に、前記点火の開始時点から開始される前記点火プラグにおける一回目の放電において、前記点火コイルにエネルギーが残留している状態で、前記一次電流を通電することで前記一回目の放電を停止し、その後、前記一次電流を遮断することで前記点火プラグにおける二回目の放電を実施し、
前記流速検出部により検出された前記流速が前記第1閾値を下回る場合に、前記一回目の放電において、前記所定エネルギーが消費されるまで前記一次電流の遮断を継続することで前記一回目の放電を継続する、
ことを特徴とする点火装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記一回目の放電を継続し後、前記一次電流を通電し、前記点火コイルに前記所定エネルギーより小さいエネルギーが蓄積された時点で、前記一次電流を遮断することで前記点火プラグにおける二回目の放電を実施することを特徴とする請求項1に記載の点火装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記初期燃焼期間の長さが所定値以上であることを条件として、前記流速検出部により検出された前記流速が前記第1閾値を下回っていたとしても、前記一回目の放電において、前記所定エネルギーが消費されるまで前記一次電流の遮断を継続することで前記一回目の放電を継続し、その後、前記一次電流を通電し、前記点火コイルに前記所定エネルギーが蓄積された時点で、前記一次電流を遮断することで前記点火プラグにおける二回目の放電を実施することを特徴とする請求項に記載の点火装置。
【請求項4】
前記流速検出部は、前記点火の開始時点が含まれる前記内燃機関の圧縮行程、又は、その圧縮行程直前の吸気行程において、前記一次電流の通電及び遮断を行い、前記一次電流の遮断に伴って生じる容量放電若しくは火花放電の開始時に前記点火プラグに発生する電圧、又は、前記一次電流の遮断に伴って生じる容量放電若しくは火花放電によって前記点火プラグに流れる電流に基づいて、前記流速を検出することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の点火装置。
【請求項5】
前記流速検出部は、前記吸気行程において、前記一次電流の通電及び遮断を複数回実施し、前記一次電流の遮断に伴って生じる容量放電若しくは火花放電によって前記点火プラグに流れる電流に基づいて、前記一次電流の遮断に伴う前記点火プラグにおける容量放電又は火花放電の発生頻度を取得し、その容量放電又は火花放電の発生頻度に基づいて、前記流速を検出することを特徴とする請求項に記載の点火装置。
【請求項6】
一次コイル(10a)及び二次コイル(10b)を有する点火コイル(10)と、
前記一次コイルに対して一次電流を通電させた後に、その一次電流を遮断することで前記二次コイルに発生する二次電圧によって火花放電を生じさせ、可燃混合気に対して点火を行う点火プラグ(30)と、を備える内燃機関の点火装置において、
前記点火の開始時点から前記可燃混合気に含まれる燃料の燃焼割合が所定値に達する時点までの初期燃焼期間において、前記点火プラグにおける断続的な放電を複数回実施する制御部(20)と、
前記可燃混合気の流速を検出する流速検出部(20)と、を備え、
前記制御部は、前記流速検出部により検出された前記流速が所定の第1閾値を超える場合に、前記点火の開始時点から開始される前記点火プラグにおける一回目の放電において、前記点火コイルにエネルギーが残留している状態で、前記一次電流を通電することで前記一回目の放電を停止し、その後、前記一次電流を遮断することで前記点火プラグにおける二回目の放電を実施し、
前記流速検出部は、前記点火の開始時点が含まれる前記内燃機関の圧縮行程、の直前の吸気行程において、前記一次電流の通電及び遮断を複数回実施し、前記一次電流の遮断に伴って生じる容量放電若しくは火花放電によって前記点火プラグに流れる電流に基づいて、前記一次電流の遮断に伴う前記点火プラグにおける容量放電又は火花放電の発生頻度を取得し、その容量放電又は火花放電の発生頻度に基づいて、前記流速を検出する
ことを特徴とする点火装置。
【請求項7】
前記流速検出部は、前記圧縮行程であって、前記点火の開始時点より前において、前記一次電流の通電及び遮断を行い、前記一次電流の遮断に伴って生じる容量放電若しくは火花放電の開始時に前記点火プラグに発生する電圧に基づいて、前記流速を検出することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の点火装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記一次電流を流すことで、前記点火の開始時点において前記点火コイルに対して所定エネルギーを蓄積するものであって、
前記流速検出部により検出された前記流速が前記第1閾値を超える場合に、前記一回目の放電の停止後、前記点火コイルに前記所定エネルギーが蓄積された時点で、前記一次電流を遮断することで前記点火プラグにおける二回目の放電を実施することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の点火装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記流速検出部により検出された前記流速が所定値より高い場合に、前記流速がその所定値より低い場合と比較して、前記一回目の放電において前記点火の開始時点から前記一回目の放電を停止するまでの期間を短くすることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の点火装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記流速が前記第1閾値より大きい第2閾値を超えることを条件として、前記初期燃焼期間において、前記一回目の放電のみを実施することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の点火装置。
【請求項11】
前記流速検出部は、前記一回目の放電において、前記点火プラグに流れる電流に基づいて、前記流速を検出することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の点火装置。
【請求項12】
前記流速検出部は、前記一回目の放電において、前記一次コイルに発生する電圧に基づいて、前記流速を検出することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の点火装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記二次コイルに流れる電流が、前記可燃混合気による前記火花放電の吹き消えが生じると予測される判定値に達する時点より前に、前記一次電流を通電することで前記一回目の放電を停止することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の点火装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記流速検出部により検出された前記流速が高いほど、前記判定値を大きく設定することを特徴とする請求項13に記載の点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火コイルと点火プラグとを備える内燃機関の点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気再循環(EGR: Exhaust Gas Recirculation)や、均質リーン燃焼などの希薄燃焼を実施する際に、1燃焼サイクルにおいて複数回の点火を行う構成が知られている(例えば、特許文献1)。複数回の点火を行うことで、一回目の放電で可燃混合気が着火されなかった場合であっても、二回目の放電で可燃混合気が着火されることにより内燃機関の燃焼安定性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−112398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、内燃機関の燃焼室内の可燃混合気の流速によって、可燃混合気に対する着火性が変化する。即ち、流速が速くなると、火花放電の消失(吹き消え)が生じることで、可燃混合気の着火性が悪化する。また、流速が遅くなると、火花放電の伸びが短くなることで、可燃混合気の着火性が悪化する。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みて為されたものであり、1燃焼サイクルにおいて複数回の点火を行う構成において、可燃混合気の流速に応じた制御を実施することで、可燃混合気の着火性を向上させることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本構成は、一次コイル(10a)及び二次コイル(10b)を有する点火コイル(10)と、前記一次コイルに対して一次電流を通電させた後に、その一次電流を遮断することで前記二次コイルに発生する二次電圧によって火花放電を生じさせ、可燃混合気に対して点火を行う点火プラグ(30)と、を備える内燃機関の点火装置において、前記点火の開始時点から前記可燃混合気に含まれる燃料の燃焼割合が所定値に達する時点までの初期燃焼期間において、前記点火プラグにおける断続的な放電を複数回実施する制御部(20)と、前記可燃混合気の流速を検出する流速検出部(20)と、を備え、前記制御部は、前記流速検出部により検出された前記流速が所定の第1閾値を超える場合に、前記点火の開始時点から開始される前記点火プラグにおける一回目の放電において、前記点火コイルにエネルギーが残留している状態で、前記一次電流を通電することで前記一回目の放電を停止し、その後、前記一次電流を遮断することで前記点火プラグにおける二回目の放電を実施することを特徴とする。
【0007】
流速が所定の第1閾値を超える場合、気流によって火花放電(放電経路)が伸長し、ひいては火花放電の消失(吹き消え)が生じ易くなる。火花放電が一度消失すると、点火プラグの電極間において火花放電が再形成される。火花放電は、点火プラグ近傍で再形成されるため、点火プラグへの熱伝導による熱損失が大きく、点火に対する寄与が低い。そこで、流速が所定の第1閾値を超える場合に、点火コイルにエネルギーが残留している状態で一回目の放電を停止する。その後、点火コイルに残留しているエネルギーを利用して、再度放電を実施する構成とした。
【0008】
流速が所定の第1閾値を超える場合に、一回目の放電を停止することで、点火コイルに対して蓄積されていたエネルギーを二回目の放電に利用することができる。これにより、点火コイルに対して蓄積されるエネルギーを効率よく点火に用いることが可能になる。また、点火コイルに対して蓄積されていたエネルギーを二回目の放電に利用することで、二回目放電のための充電期間が短くなる。つまり、一回目の放電と二回目の放電との間隔が短くなり、一回目の放電時に生じた火炎と二回目の放電時に生じた火炎とを重合させることができる。このため、可燃混合気の着火性を向上させることができる。
【0009】
加えて、一回目の放電を開始してから二回目の放電が完了するまでの時間を短くすることができ、エンジン回転速度が高く初期燃焼期間が短い場合であっても、複数回点火をより確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】点火制御システムの概略を示す構成図。
図2】経路消失する際の火花放電の形状変化を示す図。
図3】経路消失する際の二次電流I2の波形変化を示す図。
図4】第1実施形態における放電パターンを示すタイミングチャート。
図5】各放電パターンを表すタイミングチャート。
図6】一回目の放電に用いられたエネルギーと、リーン限界空燃比との対応を表す図。
図7】一回目の放電と二回目の放電との時間間隔と、リーン限界空燃比との対応を表す図。
図8】一回目の放電における初期火炎によって二回目の放電における初期火炎が伝搬される様子を表す概念図。
図9】点火プラグにおける電子なだれ現象を表す概念図。
図10】エンジンの1サイクルにおける点火信号及び二次電圧の変化を表すタイミングチャート。
図11】圧縮期間において、一次電流を断続的に流した場合において、混合気の流速が遅い状況下での二次電圧V2の変化を表す図。
図12】圧縮期間において、一次電流を断続的に流した場合において、混合気の流速が速い状況下での二次電圧V2の変化を表す図。
図13】第2実施形態における放電パターンを示すタイミングチャート。
図14】吸気行程において一次電流を断続的に流した場合の二次電圧及び二次電流の変化を表すタイミングチャート。
図15】一回目の放電における一次電圧、二次電圧、及び、二次電流の変化を表すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。本実施の形態は、内燃機関である車載ガソリンエンジンを対象として点火装置を構築するものとしており、当該点火装置においては電子制御ユニット(以下、ECUという)からの点火指令に基づき点火プラグにて火花放電を発生させることとしている。以下、図1を用いて点火装置の概略構成を説明する。
【0012】
図1において、点火コイル10は、一次コイル10aと、一次コイル10aに磁気結合された二次コイル10bとを備えている。一次コイル10aの両端のうち一端は、バッテリ11の正極側に接続され、他端は電子制御式の開閉手段であるスイッチング素子13の入出力端子を介して接地されている。また、バッテリ11の正極側には、コンデンサ12が接続されている。スイッチング素子13としては、バイポーラトランジスタや、MOSFETや、IGBTなどが用いられている。なお、バッテリ11は、例えば、車載用鉛蓄電池である。また、バッテリ11は、リチウムイオン蓄電池などであってもよい。
【0013】
スイッチング素子13のゲートは点火制御回路14に接続されており、この点火制御回路14によりスイッチング素子13がオン/オフ制御されるようになっている。また、二次コイル10bの両端のうち一端は、点火プラグ30の中心電極31(陰極)に接続され、他端はダイオード17及び抵抗18を介して接地されている。また、点火プラグ30の接地電極32(陽極)は、中心電極31と対向して設けられ、接地電位に接続されている。
【0014】
抵抗18による検出電圧、即ち、二次電流I2の検出値は点火制御回路14に入力されている。また、一次コイル10aに生じる一次電圧V1の検出値は点火制御回路14に入力されている。これら二次電流I2の検出値及び一次電圧V1の検出値は、点火制御回路14からECU20に対して通知される。
【0015】
ECU20は、周知のCPU、RAM、ROM等を有するマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU20は、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することによってエンジンの運転状態に応じて燃料噴射や点火などの各種制御を行う。点火時期制御においてECU20は、エンジン回転速度やアクセル操作量などのエンジンの運転状態を表す運転状態情報を取得し、その運転状態情報に基づいて最適な点火時期を算出する。そして、その点火時期に応じて点火信号IGTを生成し、点火制御回路14に出力する。また、ECU20は、エンジンの燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置21の制御を行う。
【0016】
図示されていない排気通路に排出された排気の一部は、EGR通路を介して吸気通路に還流される。EGR通路には、EGRバルブ22が設けられている。EGRバルブ22の開度に応じて、排気通路に排出された排気の一部が、EGRクーラによって冷却された後に外部EGRガスとして吸気通路に供給される。ECU20は、運転条件(エンジン負荷、回転速度)に基づいて、EGRバルブ22の開度を調整することで、外部EGRガスの供給量を制御する。
【0017】
点火制御回路14は、ECU20より入力する点火信号IGTがオン点火信号とされることでスイッチング素子13をオンさせるための駆動信号IGを出力し、スイッチング素子13をオン状態にする。これにより、バッテリ11による一次コイル10aへの通電が開始され、点火コイル10に磁気エネルギーが蓄積される。
【0018】
駆動信号IGがオフ信号とされると、スイッチング素子13はオフ状態となり、電磁誘導によって二次コイル10bの両端に高い二次電圧V2が発生する。この高い二次電圧V2によって、点火プラグ30のギャップGに絶縁破壊が引き起こされると、ギャップGに火花放電が発生する。火花放電が発生する場合、ギャップGに放電電流(二次電流I2)が流れて火炎核が発生する。そして、この火炎核(初期火炎)が周囲の混合気に伝播することで燃焼が発生する。
【0019】
本実施形態では、空燃比が理論空燃比よりも薄い状況下(リーンバーン)や、EGR率が高い状況下、つまり、希薄燃焼領域において、点火の開始時点から混合気に含まれる燃料の燃焼割合が所定値に達する時点までの初期燃焼期間にわたって、点火プラグ30によって、断続的な放電(点火)を複数回実施する。これにより、1回目の放電(点火)において混合気が着火しなかった場合であっても、2回目の放電(点火)において混合気を着火させることが可能となる。なお、EGR率とは、エンジンの燃焼室内に流入する排気ガス量を、エンジンの燃焼室内に流入する排気ガス量とエンジンの燃焼室内に流入する空気量との和で割った値である。
【0020】
ところで、気筒内に気流が生じていると、火花放電が生じている放電経路が気流の下流側に流され、放電経路の消失が生じる。この場合、放電経路の消失には3通りの形態がある。
【0021】
図2及び図3を用いて、放電経路の消失する3通りの形態を説明する。図2の(a)〜(c)はそれぞれ上記3通りの形態において、放電の開始から放電経路が消失する(経路消失する)までの火花放電の時間変化に対する形状変化を示している。図3の(a)〜(c)はそれぞれ上記3通りの形態において、絶縁破壊が生じてから放電経路が消失するまでの二次電流I2の時間変化に対する波形変化を示している。なお、図2の(a)〜(c)の火花放電の形状変化がそれぞれ、図3の(a)〜(c)の二次電流I2の波形変化に対応している。
【0022】
図2(a)では、まず、絶縁破壊が引き起こされギャップGに火花放電が発生する。気筒内に気流が生じていると、気流の影響でその放電経路が気流下流側に伸びた状態になる。この後、放電経路の中途部分が相互に短絡すると放電経路の一部が消失する、いわゆる「放電短絡」が生じる。このとき、図3(a)に示すように、放電開始に伴い二次電流I2は急増した後、徐々に減少する過程において放電短絡が生じることで一時的に二次電流I2が急増する。なお、放電短絡が生じた後、点火コイル10に残っているエネルギーが高い状態では、放電短絡から放電経路の伸長と放電短絡とが再び生じる。
【0023】
図2(b)では、火花放電が発生した後、気筒内に生じている強い気流の影響でその放電経路が気流下流側に伸びた状態になる。この後、二次電流I2が所定の値を下回り、放電経路が途切れると放電経路の全てが一時的に消失し、いわゆる「吹き消え」が生じる。このとき、図3(b)に示すように、吹き消えが生じることで二次電流I2の急減とその直後の急増とが生じる。なお、吹き消えが生じた後、点火コイル10に残っているエネルギー高い状態では、火花放電が発生した後にその放電経路の伸長と吹き消えが再び生じる。
【0024】
図2(c)では、二次電流I2が小さいことに起因して放電経路の消失が生じるものとなっている。つまり、弱い気流により放電経路がさほど伸ばされていなくても、二次電流I2が小さい状態であれば、いわゆる「吹き消え」が生じる。この場合、吹き消えが生じるとその直後にギャップGで電極間の絶縁破壊が生じ再び火花放電が発生する。そして、点火コイル10に残されたエネルギーが少ないため、再び吹き消えが生じる。吹き消えと放電火花の発生が繰り返し生じることで、図3(c)に示すように、二次電流I2の急減とその直後の急増とが繰り返し頻発する。
【0025】
放電短絡は二次電流I2に対する依存度が小さく気筒内の流速に応じて生じる。これに対して、吹き消えは二次電流I2に依存して生じ、具体的には二次電流I2が気流の強さに応じた所定の値(吹き消え電流値)を下回る状況下で生じると考えられる。すなわち、二次電流I2が吹き消えの生じない大電流である場合、放電の開始から放電短絡が発生するまでの経過時間は二次電流I2の大きさに依存せず、気筒内の流速に応じて変化すると考えられる。
【0026】
そこで、本実施形態の「制御部」としてのECU20は、図4(a),(b),(c),(d)に示す点火制御を実施する。図4(a)に示す例では、エンジン回転速度が3000rpm、エンジン回転速度が高いほど、混合気の流速が高くなる。
【0027】
流速が所定の第1閾値を上回る状況下において、火花放電が吹き消えると、点火プラグ30のギャップGにおいて火花放電が再形成される。火花放電は、点火プラグ30近傍で再形成されるため、点火プラグ30への熱伝導による熱損失が大きく、点火に対する寄与が低い。
【0028】
そこで、図4(a)に示すように、ECU20は、火花放電の吹き消えが生じる前(点火コイル10にエネルギーが残留している状態)に一回目の放電を停止する。さらに、一回目の放電の開始時に点火コイル10に対して蓄積されていたエネルギー(所定エネルギー)と同じエネルギーを点火コイル10に対して蓄積した後、再度放電を実施する構成とする。
【0029】
具体的には、ECU20は、二次電流I2が火花放電の吹き消えが生じると予測される判定値に達する時点より前に、スイッチング素子13をオン状態とする(一次電流I1を通電する)ことで放電を停止する構成とする。これにより、放電火花の吹き消えが生じる前に放電を停止させることができる。さらに、ECU20は、混合気の流速が高いほど、火花放電の吹き消えが生じると予測される判定値を大きく設定する。混合気の流速の検出方法については、後述する。
【0030】
さらに、ECU20は、流速が所定値(>第1閾値)より高い場合に、流速がその所定値より低い場合と比較して、一回目の放電において点火の開始時点から一回目の放電を停止するまでの期間を短く設定する。具体的には、火花放電の吹き消えの判定に用いる二次電流I2の閾値を、流速が高いほど大きい値に設定する。これにより、より確実に火花放電の吹き消えが生じる前に一回目の放電を停止することができる。また、流速が高いほど、一回目の放電時間が短くなり、点火コイル10に残ったエネルギーをより多く二回目の放電に利用することができる。このため、二回目の放電に必要な充電時間、つまり、一回目の放電後における放電の停止時間をより短くすることができ、一回目の放電時に生じた初期火炎と二回目の放電時に生じた初期火炎とをより確実に重合させることができる。加えて、一回目の放電を開始してから二回目の放電が完了するまでの時間を短くすることができ、エンジン回転速度が高く初期燃焼期間が短い場合であっても、複数回点火をより確実に行うことができる。
【0031】
また、流速が所定の第1閾値を下回る状況下において、気流による火花放電の吹き消えが殆ど生じなくなる。そこで、図4(b)に示すように、ECU20は、所定エネルギーが消費されるまで一次電流の遮断を継続することで、点火コイル10に対して蓄積された全てのエネルギーが消費されるまで一回目の放電を継続する。その後、一次電流を通電し、点火コイル10に所定エネルギーより小さいエネルギーが蓄積された時点で、一次電流を遮断する。このように、二回目の放電のために蓄積させるエネルギーを一回目の蓄積エネルギー(所定エネルギー)より小さくすることで、二回目の放電のための充電期間を短くする。これにより、一回目の放電と二回目の放電との間隔が短くなり、一回目の放電時に生じた初期火炎と二回目の放電時に生じた初期火炎とを重合させることができる。このため、可燃混合気に対する着火性を向上させることができる。加えて、一回目の放電を開始してから二回目の放電が完了するまでの時間を短くすることができ、エンジン回転速度が高く初期燃焼期間が短い場合であっても、複数回点火をより確実に行うことができる。
【0032】
また、図4(c)に示すように、初期燃焼期間の長さが所定値以上であることを条件として、ECU20は、所定エネルギーが消費されるまで一次電流の遮断を継続することで、点火コイル10に対して蓄積された全てのエネルギーが消費されるまで一回目の放電を継続する。その後、一次電流を通電し、点火コイル10に所定エネルギーが蓄積された時点で一次電流を遮断する。つまり、初期燃焼期間の長さが所定値以上であることを条件として、流速が第1閾値を下回っていたとしても、二回目の放電時においても所定エネルギーまで充電し、そのエネルギーを全て消費して放電を実施する。ここで、初期燃焼期間の長さの判定に用いる所定値は、エンジン回転速度が低く、所定エネルギーを2回以上放電することが可能な程度に初期燃焼期間が長いか否かを判定可能なように設定されている。このような構成にすることで、流速が低く放電経路が伸び難い状況化において、点火プラグ30における放電エネルギー及び放電時間のそれぞれの合計値を最大化させ、可燃混合気に対する着火性を向上させることができる。
【0033】
また、流速が速いほど、混合気に対する着火性が低下する一方で、初期火炎の伝搬性が向上する結果、混合気の燃焼性が高まる。そこで、図4(d)に示すように、ECU20は、流速が第2閾値(>第1閾値)を超えることを条件として、一回目の放電のみを実施する構成とする。これにより、混合気の燃焼性を確保しつつ、点火プラグ30の消耗を抑制することができる。
【0034】
次に、図5〜7を用いて、火花放電の吹き消えが生じる前に一回目の放電を停止し、さらに、点火コイル10に対してエネルギーを蓄積した後、再度放電を実施する構成の効果を説明する。図5に8種類の放電パターン(a)〜(h)を示し、図6,7にそれぞれの放電パターンにおける空燃比のリーン限界値を示している。ここで、空燃比のリーン限界値とは、平均有効圧の変動値が所定値(例えば、3%)未満となる空燃比の上限値である。また、平均有効圧とは、エンジンにおける燃焼の1サイクルにおいて、混合気の燃焼がピストンになす仕事を行程容積で割った値である。また、放電パターン(a),(c)〜(h)では、約80mJが点火コイル10に蓄積する所定エネルギーに相当する。ここで、点火コイル10は、バッテリ11の出力電圧が12〜14Vとなる状況において、約80mJの最大エネルギーを蓄積するための充電時間が1.2msec以下となるような仕様としている。
【0035】
図5に示すように、放電パターン(a)では、放電を一回のみ実施し、その放電において約80mJ(81mJ)のエネルギーを放電している。放電パターン(b)では、放電を一回のみ実施し、その放電において約175mJのエネルギーを放電している。
【0036】
放電パターン(c)では、放電を二回実施し、一回目の放電において、約80mJ(80mJ)のエネルギーを放電し、二回目の放電において、約80mJ(77mJ)のエネルギーを放電している。一回目の放電の後、点火コイル10への充電に約1.2msecの時間を要し、その結果、一回目の放電と二回目の放電との間に約1.2msecの間隔が生じている。
【0037】
放電パターン(d)では、放電を二回実施し、一回目の放電において、約74mJのエネルギーを放電し、二回目の放電において、約80mJ(78mJ)のエネルギーを放電している。一回目の放電の後、点火コイル10への充電に約0.9msecの時間を要し、その結果、一回目の放電と二回目の放電との間に約0.9msecの間隔が生じている。また、放電パターン(d)では火花放電の短絡が生じる前に一回目放電が停止されている。
【0038】
放電パターン(e)では、放電を二回実施し、一回目の放電において、約55mJのエネルギーを放電し、二回目の放電において、約80mJ(78mJ)のエネルギーを放電している。一回目の放電の後、点火コイル10への充電に約0.7msecの時間を要し、その結果、一回目の放電と二回目の放電との間に約0.7msecの間隔が生じている。また、放電パターン(e)では火花放電の吹き消えが生じる前に一回目放電が停止されている。
【0039】
放電パターン(f)では、放電を二回実施し、一回目の放電において、約45mJのエネルギーを放電し、二回目の放電において、約80mJ(79mJ)のエネルギーを放電している。一回目の放電の後、点火コイル10への充電に約0.55msecの時間を要し、その結果、一回目の放電と二回目の放電との間に約0.55msecの間隔が生じている。また、放電パターン(f)では火花放電の吹き消えが生じる前に一回目放電が停止されている。
【0040】
放電パターン(g)では、放電を二回実施し、一回目の放電において、約30mJのエネルギーを放電し、二回目の放電において、約80mJ(78mJ)のエネルギーを放電している。一回目の放電の後、点火コイル10への充電に約0.45msecの時間を要し、その結果、一回目の放電と二回目の放電との間に約0.45msecの間隔が生じている。また、放電パターン(g)では火花放電の吹き消えが生じる前に一回目放電が停止されている。
【0041】
放電パターン(h)では、放電を二回実施し、一回目の放電において、約20mJのエネルギーを放電し、二回目の放電において、約80mJ(78mJ)のエネルギーを放電している。一回目の放電の後、点火コイル10への充電に約0.3msecの時間を要し、その結果、一回目の放電と二回目の放電との間に約0.3msecの間隔が生じている。また、放電パターン(h)では火花放電の吹き消えが生じる前に一回目放電が停止されている。
【0042】
図6に一回目の放電において放電されたエネルギーと、空燃比のリーン限界値との対応を示す。一回目の放電において放電されたエネルギーが所定エネルギー(80mJ)の略半分より大きい放電パターン(d)(e)(f)において、放電パターン(a)と比較して、空燃比のリーン限界値が略24.9から略0.3増加し、略25.2となっている。一方で、一回目の放電において放電されたエネルギーが所定エネルギー(80mJ)の略半分より小さい放電パターン(g)(h)において、放電パターン(a)と比較して、空燃比のリーン限界値が略24.9からほぼ増加していない。一回目の放電において、放電されるエネルギーが所定値より小さい場合、一回目の放電において初期火炎が成長せず、その結果、着火性が向上しないものと考えられる。
【0043】
図7に一回目の放電と二回目の放電との時間間隔と、空燃比のリーン限界値との対応を示す。時間間隔が0.9secより短い放電パターン(d)(e)(f)において、放電パターン(a)と比較して、空燃比のリーン限界値が略24.9から略0.3増加し、略25.2となっている。一方で、時間間隔が1.2msecである放電パターン(c)において、放電パターン(a)と比較して、空燃比のリーン限界値が略24.9からほぼ増加していない。これは、時間間隔が長い場合、一回目の放電によって形成された初期火炎と、二回目の放電によって形成された初期火炎とが重合せず、その結果、着火性が向上しないものと考えられる。
【0044】
図8に示すように、一回目の放電による初期火炎の大きさが充分に大きく、一回目の放電と二回目の放電との時間間隔が所定値以下である場合、一回目の放電による初期火炎と、二回目の放電による初期火炎とが重合すると考えられる。一回目の放電による初期火炎と二回目の放電による初期火炎とが重合すると、二回目の初期火炎が一回目の初期火炎によって伝搬が促進される、又は、一回目の初期火炎が二回目の初期火炎によって伝播を促進されることによって、着火性が向上するものと考えられる。
【0045】
次に、図9〜12を用いて混合気の流速を検出する構成について説明する。図9に、ギャップGにおける混合気の状態を示す。図9に示すように、ギャップGには自由電子(初期電子)が存在する。ギャップGに高電圧を印加すると、初期電子が電界で加速されて、中性の気体分子と衝突する。初期電子と気体分子との衝突によって、気体分子から電子が電離されてプラスイオンが生成される(α作用)。また、こうして生成されたプラスイオンは、負の電圧が印加されている中心電極31に引きつけられ、この中心電極31に衝突することで、中心電極31から二次電子が放出される(γ作用)。
【0046】
α作用が中心電極31付近の空間において生じることで、中心電極31付近においてプラスイオンの密度が高くなる。中心電極31付近においてプラスイオンの密度が高くなると、負に帯電した中心電極31と中心電極31付近に存在するプラスイオンとの間で電界が強化される。これにより、電子なだれ現象が促進され、ギャップGに火花放電が生じることとなる。
【0047】
ここで、放電を繰り返す場合、ギャップGに高電圧を印加してから火花放電が生じるまでの期間において、ギャップGに前の放電による初期電子が多量に残留していると、前の放電による初期電子が残留していない場合と比較して、気体分子の電離が加速され、電子なだれ現象が生じやすくなる。その結果、ギャップGにおける絶縁破壊が生じやすくなり、放電も生じやすくなる。このため、混合気の流速が低いほど、ギャップGにおける絶縁破壊は生じやすくなり、放電は生じやすくなる。つまり、ギャップGに対して同一の電圧を印加した場合、混合気の流速が低いほど電子なだれ現象が生じやすくなる。また、ギャップGにおける容量放電の開始時、又は、火花放電の開始時に点火プラグ30に発生する電圧(放電開始電圧)の絶対値は、混合気の流速が低いほど低くなる。
【0048】
そこで、本実施形態の「流速検出部」としてのECU20は、一次電流I1の通電及び遮断を行い、一次電流I1の遮断に伴う点火プラグ30への放電開始電圧の大きさに基づいて、混合気の流速を検出する。
【0049】
図10に、エンジンの1動作周期(1サイクル)における燃焼室の圧力P、二次電圧V2、及び、点火信号IGTの変化を表すタイミングチャートを示す。エンジンの1動作周期は、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、及び、排気行程から構成される。
【0050】
排気行程から吸気行程へと移行することで、圧力Pが低下する。その後、圧縮行程において、ピストンが上がることで、混合気が圧縮されることで圧力Pが増加する。圧縮行程中の時刻TAにおいて、点火信号IGTがオン状態とされることで、一次コイル10aが通電され、二次電圧V2(ON電圧)が発生する。その後、圧縮行程中の時刻TBにおいて、点火信号IGTがオフ状態とされることで、極性の反転した高い二次電圧V2が発生し、点火プラグ30のギャップGが絶縁破壊されることで、点火プラグ30において点火が開始される。
【0051】
本実施形態では、圧縮行程であって、点火の開始時点より前の期間において、点火信号IGTを繰り返しオンオフすることで、点火プラグ30に容量放電又は火花放電を発生させる。そして、容量放電又は火花放電が生じる際の二次電圧V2の大きさ(放電開始電圧)に基づいて、混合気の流速を検出する。
【0052】
圧縮行程であって、点火の開始時点より前の期間において、点火信号IGTを繰り返しオンオフした場合の二次電圧V2の変化を図11,12に示す。図11に混合気の流速が低い(5m/sec)場合の二次電圧V2の変化を示し、図12に混合気の流速が高い(20m/sec)の場合の二次電圧V2の変化を示している。
【0053】
図11に示す混合気の流速が低い(5m/sec)状況では、一回目の放電開始電圧が約12kV、二回目の放電開始電圧が約8kV、三回目の放電開始電圧が約6kV、四回目の放電開始電圧が約5kVとなっている。図12に示す混合気の流速が高い(20m/sec)状況では、一回目の放電開始電圧が約12kV、二回目の放電開始電圧が約12kV、三回目の放電開始電圧が約10kV、四回目の放電開始電圧が約10kVとなっている。つまり、混合気の流速が高い図12における二回目以降の二次電圧V2の絶対値(放電開始電圧)は、混合気の流速が低い図11における二回目以降の二次電圧V2の絶対値(放電開始電圧)と比べて、大きくなっている。この二回目以降の二次電圧V2の絶対値(放電開始電圧)に基づいて、混合気の流速を検出することが可能となる。
【0054】
以下、本実施形態の効果を述べる。
【0055】
流速が所定の第1閾値を超える場合、気流によって火花放電の吹き消えが生じ易くなる。火花放電が一度消失すると、点火プラグ30の電極間において火花放電が再形成される。火花放電は、点火プラグ30近傍で再形成されるため、火花放電及び容量火花により再形成される初期火炎の点火プラグ30への熱伝導による熱損失が大きく、点火に対する寄与が低い。そこで、点火コイル10にエネルギーが残留している状態(即ち、点火コイル10に蓄積されたエネルギーを全て放電する前)に一回目の放電を停止し、さらに、点火コイル10に対してエネルギーを蓄積した後、再度放電を実施する構成とした。
【0056】
一回目の放電を停止することで、点火コイル10に対して蓄積されていたエネルギーを二回目の放電に利用することができる。これにより、点火コイル10に対して蓄積されるエネルギーを効率よく点火に用いることが可能になる。また、点火コイル10に対して蓄積されていたエネルギーを二回目の放電に利用することで、二回目放電のための充電期間が短くなる。つまり、一回目の放電と二回目の放電との間隔が短くなり、一回目の放電時に生じた火炎と二回目の放電時に生じた火炎とを重合させることができる。このため、混合気の着火性を向上させることができる。加えて、一回目の放電を開始してから二回目の放電が完了するまでの時間を短くすることができ、エンジン回転速度が高く初期燃焼期間が短い場合であっても、複数回点火をより確実に行うことができる。
【0057】
さらに、二回目の放電の開始時において、一回目の放電の開始時に点火コイル10に対して蓄積されていたエネルギー(所定エネルギー)と同じエネルギーを点火コイル10に対して蓄積する。これにより、二回目の放電時において生じる火炎を大きくすることができ、混合気の着火性を向上させることができる。ここで、所定エネルギーは、具体的には、点火コイル10に対して蓄積可能な最大のエネルギー(定格値)に設定されている。
【0058】
混合気は、一度着火してしまえば、流速が速いほど燃焼性が高まる。そこで、流速が第2閾値(>第1閾値)を超える場合に、一回目の放電のみを実施する構成とする。これにより、混合気の燃焼性を確保しつつ、点火プラグ30の消耗を抑制することができる。
【0059】
流速が所定の閾値を下回る場合、気流による火花放電の消失が殆ど生じなくなる。そこで、点火コイル10に対して蓄積された所定エネルギーを全て用いて一回目の放電を行う。また、二回目の放電のために蓄積させるエネルギーを所定エネルギーより小さくすることで、二回目の放電のための充電期間を短くする。これにより、一回目の放電と二回目の放電との間隔が短くなり、一回目の放電時に生じた初期火炎と二回目の放電時に生じた初期火炎とを重合させることができる。このため、混合気の着火性を向上させることができる。加えて、一回目の放電を開始してから二回目の放電が完了するまでの時間を短くすることができ、エンジン回転速度が高く初期燃焼期間が短い場合であっても、複数回点火をより確実に行うことができる。
【0060】
所定エネルギーを2回以上放電することが可能な程度に初期燃焼期間の長さが長い場合は、一回目の放電時において、点火コイル10に対して蓄積された所定エネルギーを全て使用して放電を実施する。さらに、点火コイル10に対して所定エネルギーを蓄積して二回目の放電を実施する。このような構成にすることで、流速が低く放電経路が伸び難い状況化において、点火プラグ30における放電エネルギー及び放電時間の合計値をそれぞれ最大化させ、混合気の着火性を向上させることができる。
【0061】
混合気の気流が遅いほど、点火プラグ30における火花放電の電荷が流れ難く、放電終了後に該電荷が残留しやすくなるため、放電が繰り返し実施される場合、二回目以降の二次電圧V2が低くなる。そこで、点火の開始時点を含む圧縮行程において、スイッチング素子13をオンオフすることで一次電流I1の通電及び遮断を行い、一次電流I1の遮断に伴う二次電圧V2の大きさに基づいて、流速を検出する構成とした。点火の開始時点を含む圧縮行程において流速を検出することで、流速の検出値と、点火が実際に行われるときの流速とが近づくため、流速に基づく点火制御をより好適に行うことが可能になる。また、圧縮工程において、比較的圧力が低い時期、例えば上死点の60°前から、繰り返し放電を継続することで、圧力が高い時期、例えば上死点付近になっても、二次電圧V2を低く保つことができ、確実に火花放電を形成することが可能になる。
【0062】
二次電流I2が、火花放電の吹き消えが生じると予測される判定値に達する時点より前に、一次電流I1を通電することで一回目の放電を停止する構成とした。この構成によって、吹き消えと放電火花の発生が繰り返し生じることを抑制する。これにより、点火プラグ30近傍での放電火花の再形成による点火プラグ30への熱伝導による熱損失を抑制することができる。
【0063】
さらに、火花放電の吹き消えの判定に用いる二次電流I2の閾値を、流速が高いほど大きい値に設定する。これにより、より確実に火花放電の吹き消えが生じる前に一回目の放電を停止することができる。加えて、一回目の放電を開始してから二回目の放電が完了するまでの時間を短くすることができ、エンジン回転速度が高く初期燃焼期間が短い場合であっても、複数回点火をより確実に行うことができる。
【0064】
(第2実施形態)
火花放電の吹き消えが生じる前に(即ち、点火コイル10にエネルギーが残留している状態で)一回目の放電を停止し、さらに、点火コイル10に対して所定エネルギーを蓄積した後、再度放電を実施する図4(a)に示した点火パターンを変更してもよい。具体的には、火花放電の吹き消えが生じる前に一回目の放電を停止し、さらに、点火コイル10に対して所定エネルギーより小さいエネルギーを蓄積した後、再度放電を実施する点火パターンとしてもよい。
【0065】
図13(a)に示す放電パターンでは、図5(c)と同様に、放電を二回実施し、一回目の放電において、約80mJのエネルギーを放電し、二回目の放電において、約80mJのエネルギーを放電している。一回目の放電の後、点火コイル10への充電に約1msecの時間を要し、その結果、一回目の放電と二回目の放電との間に約1msecの間隔が生じている。
【0066】
図13(b)に示す放電パターンでは、図5(d)と同様に、放電を二回実施し、一回目の放電において、約75mJのエネルギーを放電し、二回目の放電において、約80mJのエネルギーを放電している。一回目の放電の後、点火コイル10への充電に約0.8msecの時間を要し、その結果、一回目の放電と二回目の放電との間に約0.8msecの間隔が生じている。また、図12(b)に示す放電パターンでは、火花放電の吹き消えが生じる前の時点である二次電流I2の絶対値が所定電流(50mA)に達した時点で、一回目放電を停止している。
【0067】
図13(c)に示す放電パターンでは、放電を二回実施し、一回目の放電において、約75mJのエネルギーを放電し、二回目の放電において、約40mJのエネルギーを放電している。一回目の放電の後、点火コイル10への充電に約0.4msecの時間を要し、その結果、一回目の放電と二回目の放電との間に約0.4msecの間隔が生じている。また、図13(c)に示す放電パターンでは、火花放電の吹き消えが生じる前の時点である二次電流I2の絶対値が所定電流(50mA)に達した時点で、一回目放電を停止している。その後、所定エネルギー(放電エネルギー80mJに相当)より小さなエネルギー(放電エネルギー40mJに相当)を点火コイル10に充電し、放電を実施している。
【0068】
図13(d)に示す放電パターンでは、図5(b)と同様に、放電を一回のみ実施し、その放電において約160mJのエネルギーを放電している。
【0069】
本願の発明者らは、各放電パターンにおけるEGR限界値を比較した。ここで、EGR限界値とは、平均有効圧の変動率が所定値(例えば、3%)以下となるEGR率の上限値のことである。EGR限界値が高いほど混合気の燃焼性、ひいては、混合気の着火性が高いといえる。80mJの放電を一回のみ実施する構成では、EGR限界値が略27.8%となった。図13(a)に示す放電パターンでは、EGR限界値が略28.2%となった。図13(b)に示す放電パターンでは、EGR限界値が略28.4%となった。図13(c)に示す放電パターンでは、EGR限界値が略28.6%となった。図13(d)に示す放電パターンでは、略28.8%となった。
【0070】
このように、火花放電の吹き消えが生じる前に(即ち、点火コイル10にエネルギーが残留している状態で)一回目の放電を停止し、さらに、点火コイル10に対して一回目の放電開始時点で蓄積させるエネルギーより小さいエネルギーを蓄積した後、再度放電を実施する点火パターン(図13(c))においてもEGR限界値が有意に向上している。つまり、点火プラグ30による着火性、ひいては、エンジン出力の安定性を高めることが可能となる。
【0071】
(第3実施形態)
第3実施形態の「流速検出部」としてのECU20は、点火の開始時点が含まれる圧縮行程直前の吸気行程において、点火信号IGTを繰り返しオンオフすることで、点火コイル10に交流電圧を発生させ、点火プラグ30に容量放電又は火花放電を発生させる。そして、それらの放電の発生頻度に基づいて、混合気の流速を検出する。
【0072】
交流電圧を印加した場合の二次電圧V2の変化を図14(a)に示し、二次電流I2の変化を図14(b)に示す。ECU20は、二次電流I2の絶対値が所定値を超える場合に放電が生じたと判定することができる。つまり、ECU20は、容量放電若しくは火花放電によって点火プラグ30に流れる二次電流I2に基づいて、点火プラグ30における容量放電又は火花放電の発生頻度を取得する。そして、その取得した容量放電又は火花放電の発生頻度に基づいて、混合気の流速を検出することができる。
【0073】
(第4実施形態)
以下の第4〜第6実施形態の「流速検出部」としてのECU20は、一回目の放電における二次電流I2、二次電圧V2、又は、一次電圧V1に基づいて、混合気の流速を検出する。図15に、一回目の放電において、流速が低い場合(破線)、及び、流速が高い場合(実線)の二次電流I2、二次電圧V2、及び、一次電圧V1の波形を示す。
【0074】
初期燃焼機関における放電において、放電経路における抵抗(放電抵抗)の大きさは変化する。即ち、放電経路が長いほど放電抵抗は大きくなる。混合気の流速が高いほど放電経路が延びるため、放電抵抗の大きさは大きくなる。そこで、本実施形態では、初期燃焼機関における1回目の放電における放電抵抗の大きさに基づいて、混合気の流速を検出する。
【0075】
図15に示すように、流速が早く放電抵抗が大きいほど、放電が維持される期間が短くなる。そこで、ECU20は、二次電流I2の絶対値が所定電流に達するまでの時間の長さを検出し、その検出値に基づいて、混合気の流速を検出する。
【0076】
(第5実施形態)
初期燃焼機関における放電において、混合気の流速に応じて、火花放電の短絡の生じやすさは変化する。具体的には、流速が高くなるほど、火花放電の短絡が生じ易くなる。図15に示すように、火花放電の短絡が生じると、点火プラグ30に流れる二次電流I2が変化する。本実施形態のECU20は、二次電流I2に基づいて、火花放電が短絡するまでの時間を検出し、その検出値に基づいて、混合気の流速を検出する構成とする。
【0077】
また、火花放電の短絡が生じると、二次電圧V2が変化する。つまり、二次電圧V2に基づいて、火花放電が短絡するまでの時間を検出し、その検出値に基づいて、混合気の流速を検出することができる。しかしながら、二次電圧V2は非常に高いため、点火プラグ30において放電を実施している際に、二次電圧V2を検出することは困難である。そこで、二次電圧V2が反射した一次電圧V1に基づいて、火花放電が短絡するまでの時間を検出し、その検出値に基づいて、混合気の流速を検出することも可能である。
【0078】
(第6実施形態)
第4実施形態の説明で述べたように、気流によって放電経路が伸びることに起因して、混合気の流速が速いほど放電抵抗の大きさは大きくなる。このため、図15に示すように、点火コイル10の二次電圧V2の大きさは、混合気の流速が大きいほど増加する。つまり、二次電圧V2の大きさに基づいて、混合気の流速を検出することができる。
【0079】
しかしながら、二次電圧V2は非常に高いため、点火プラグ30において放電を実施している際に、二次電圧V2を検出することは困難である。そこで、ECU20は、二次電圧V2が反射した一次電圧V1に基づいて、混合気の流速を検出する。さらに本実施形態のECU20は、一次電圧V1の値を所定期間で積分し、その積分値に基づいて混合気の流速を検出する構成とする。積分値を用いることで、二次電圧V2の反射波である一次電圧V1を用いた場合であっても、精度よく混合気の流速を検出することが可能になる。
【0080】
(他の実施形態)
・上記実施形態では、点火プラグ30において、初期燃焼期間に1回又は2回の継続した放電を実施する構成とした。これを変更し、3回以上の継続した放電を実施する構成としてもよい。
【0081】
・第1実施形態において、図4(b)に示した二回目の放電のために点火コイル10に蓄積させるエネルギーを、一回目の放電開始時点で蓄積させるエネルギーより小さくすることで、二回目の放電のための充電期間を短くする構成を省略してもよい。同様に、図4(d)に示した流速が第2閾値(>第1閾値)を超えることを条件として、一回目の放電のみを実施する構成を省略してもよい。
【0082】
・火花放電の吹き消えの判定に用いる二次電流I2の判定値を、流速が高いほど大きい値に設定する構成を省略してもよい。即ち、火花放電の吹き消えの判定に用いる二次電流I2の閾値を固定してもよい。
【0083】
・混合気の流速が第1閾値より高い場合に、二次電流I2の検出値と判定値とを比較して、二次電流I2の検出値が判定値に達する時点より前に、一回目の放電を停止する構成を変更してもよい。即ち、混合気の流速が第1閾値より高い場合に、一回目の放電時間を基準値から所定時間又は所定割合減じることで、点火コイル10にエネルギーが残留している状態で、放電を停止する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0084】
10…点火コイル、10a…一次コイル、10b…二次コイル、20…ECU、30…点火プラグ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15