【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明する。これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれら実施例に限定されないということは、当業界で通常の知識を有する者において自明である。
【0036】
実施例1:ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞の分離及び培養
脂肪吸引術(Liposuction)により腹部脂肪から得られたヒト脂肪組織を分離し、PBSで洗浄した。組織を細切した後、I型コラゲナーゼ(1mg/ml)を添加したDMEM培地を用いて37℃で2時間組織を分解させた。コラゲナーゼ処理された組織をPBSで洗浄した後、1000rpmで5分間遠心分離して上清を除去し、ペレットをPBSで洗浄してから、1000rpmで5分間遠心分離した。100μmのメッシュで濾過して浮遊物を除去した後、PBSで洗浄し、10%のFBS、2mMのNAC(N‐acetyl‐Lcysteine)、0.2mMのアスコルビン酸が添加されたDMEM培地で培養した。一晩経過後に付着されていない細胞をPBSで洗浄し、5%のFBS、2mMのNAC、0.2mMのアスコルビン酸、0.09mMのカルシウム、5ng/mlのrEGF、5μg/mlのインスリン、10ng/mlのbFGF、及び74ng/mlのヒドロコルチゾンを含有するケラチノサイト‐SFM培地を2日毎に交換しながら継代培養して、脂肪組織由来間葉系幹細胞を分離した。
【0037】
実施例2:実験群の構成及び賦形剤毎のpHの測定
2‐1:実験群の構成
実施例1の方法により分離されたそれぞれ異なる4種の脂肪幹細胞を4℃で冷蔵保存し、冷蔵剤形の細胞治療剤注射製品に使用される幹細胞の生存率を分析した。
【0038】
【表1】
【0039】
分離された4種の脂肪幹細胞を用いて、表1のように実験群を構成した。0.3%のアルブミンが含まれた幹細胞対照群、0.3%のアルブミン+10%の自家血清が含まれた実験群、0.3%のアルブミン+10%の他家血清が含まれた実験群、0.3%のアルブミン+20%の自家血清が含まれた実験群、0.3%のアルブミン+20%の他家血清が含まれた実験群、0.3%のアルブミン+30%の自家血清が含まれた実験群、及び0.3%のアルブミン+30%の他家血清が含まれた実験群を構成し、生存率を分析した。
【0040】
2‐2:賦形剤毎のpH値
本実施例では、幹細胞保存安定性増進用組成物の賦形剤のpHを分析した。
【0041】
pHは、水素イオン濃度を数値化したものであって、一般の生理食塩水(Saline)は約5.5〜8.0の広いpH範囲を示すため、生理食塩水にアルブミン及びヒト血清が添加された際のpHの変化をPBSと比較した。正常の健康な状態のpHは、細胞、血液、体液などが弱アルカリ性を維持する場合である。
【0042】
pH分析の際には、Thermo Scientific社製のOrion Star A111を用いて、幹細胞保存安定性増進用組成物に含まれるアルブミンとヒト血清によるpH変化を分析した。また、pHは、測定温度の影響を受けるため、20〜24℃範囲の常温で測定した。
【0043】
【表2】
【0044】
その結果、表2に示すように、アルブミンのみが添加された場合に僅かに上昇したpHは、ヒト血清が添加されて弱アルカリ性のpHを維持することが確認できた。
【0045】
そこで、後述の実施例3では、0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊された幹細胞対照群、それぞれ10、20、30%の自家ヒト血清と0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊された幹細胞実験群、それぞれ10、20、30%の他家ヒト血清と0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊された幹細胞実験群として、生存力の分析を行った。
【0046】
実施例3:時間による幹細胞のサイズ及び性状の分析
実施例1の方法により分離された脂肪幹細胞をPBSで洗浄した後、0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊させ、それぞれ10、20、30%の自家及び他家ヒト血清を添加して、実施例2の対照群及び実験群を構成した。
【0047】
各実験群の幹細胞を1.0×10
7cell/mlの濃度で3ccの注射器に充填した後、4℃で冷蔵保存して0、24、48、72、96、120、及び144時間後に、冷蔵剤形の細胞治療剤注射製品に使用される幹細胞のサイズ及び性状を分析した。
【0048】
3‐1:自家血清実験群
細胞1としては、0.5×10
7の幹細胞を、0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊させた対照群、及びそれぞれ10、20、30%の自家血清/0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊させた3つの幹細胞実験群を準備した。
【0049】
細胞2としては、1.0×10
7の幹細胞を、0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊させた対照群、及びそれぞれ10、20、30%の自家血清/0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊させた3つの幹細胞実験群を準備した。
【0050】
細胞1の対照群、3つの実験群、及び細胞2の対照群、3つの実験群の幹細胞を3ccの注射器に充填した後、4℃で冷蔵保存して0、24、48、72、96、120、及び144時間後に、細胞のサイズ、性状、及び総細胞数を分析した。幹細胞の細胞数及びサイズは、Invitrogen社製のCountess
TM自動セルカウンター(Automated Cell Counter)を用いて分析し、性状分析は目視確認した。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
その結果を、表3(細胞1の細胞数)、表4(細胞1のサイズ)、表5(細胞2の細胞数)、及び表6(細胞2のサイズ)に示す。
【0056】
表3〜6に示すように、対照群の細胞サイズの変化は、約15〜25%程度減少したのに対し、自家ヒト血清が含有された実験群の細胞サイズの変化は、約3〜10%程度であって大きい変化がなかった。一方、細胞の性状は、対照群と実験群の全てにおいて変化が観察されず、対照群と実験群の総細胞数にも差がなかった。
【0057】
3‐2:他家血清実験群
細胞3としては、0.5×10
7の幹細胞を、0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊させた対照群、及びそれぞれ10、20、30%の他家血清/0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊させた3つの幹細胞実験群を準備した。
【0058】
細胞4としては、1.0×10
7の幹細胞を、0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊させた対照群、及びそれぞれ10、20、30%の他家血清/0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊させた3つの幹細胞実験群を準備した。
【0059】
細胞3の対照群、3つの実験群、及び細胞4の対照群、3つの実験群の幹細胞を3ccの注射器に充填した後、4℃で冷蔵保存して0、24、48、72、96、120、及び144時間後に、細胞のサイズ、性状、及び総細胞数を分析した。幹細胞の細胞数及びサイズは、Invitrogen社製のCountess
TM自動セルカウンター(Automated Cell Counter)を用いて分析し、性状分析は目視確認した。
【0060】
【表7】
【0061】
【表8】
【0062】
【表9】
【0063】
【表10】
【0064】
その結果を、表7(細胞3の細胞数)、表8(細胞3のサイズ)、表9(細胞4の細胞数)、及び表10(細胞4のサイズ)に示す。
【0065】
表7〜10に示すように、対照群の細胞サイズの変化は、約20%程度減少したのに対し、他家ヒト血清が含有された実験群の細胞サイズの変化は、約3〜10%程度であって大きい変化がなかった。一方、細胞の性状は、対照群と実験群の全てにおいて変化が観察されず、対照群と実験群の総細胞数にも差がなかった。
【0066】
実施例4:時間による幹細胞の生存率の分析
実施例3と同様の条件で、時間による幹細胞の生存率を分析した。
【0067】
分離された脂肪幹細胞をPBSで洗浄した後、0.3%のアルブミンが含まれた生理食塩水に浮遊させ、それぞれ10、20、30%の自家及び他家ヒト血清を添加して、それぞれの対照群及び実験群を構成した。各実験群の幹細胞を1.0×10
7cell/mlの濃度で3ccの注射器に充填した後、4℃で冷蔵保存して0、24、48、72、96、120、及び144時間後に、冷蔵剤形の細胞治療剤注射製品に使用される幹細胞の生存率を分析した。幹細胞の生存率の測定は、細胞とトリパンブルー溶液を1:1で混合し、Invitrogen社製のCountess
TM自動セルカウンター(Automated Cell Counter)を用いて分析した。
【0068】
その結果、ヒト血清を含有する組成物は、0.3%のアルブミンのみを含有する対照群に比べて、細胞数が大きく変化することなく高い生存率を示し、血清濃度が高いほど、生存率がより高く、且つ細胞の安定性維持期間も長くなることを確認した(
図1、2、3及び4)。
【0069】
特に、30%の血清を含有する幹細胞である実験群3は、144時間まで98%以上の非常に高い細胞生存率を維持し、10〜20%の血清を含有する実験群でも、72時間後まで90%以上の生存率を示すことを確認した。また、自家血清実験群(
図1及び2)と他家血清実験群(
図3及び4)との間に、細胞の保存時間による生存率の効果の差はないことを確認した。
【0070】
したがって、ヒト血清による幹細胞の保存安定性増進において、144時間以上の長時間にわたって生存率が維持可能であり、自家血清と他家血清の効果には差がないことを確認した。
【0071】
実施例5:新しい実験群の構成
前記実施例において、自家血清と他家血清の間に効果の差がないことを確認した後、血清濃度及び血漿による細胞安定性の効果を調べるための実験群を構成した。
【0072】
対照群(SA:生理食塩水+0.3%のアルブミン)と種々の血清濃度(10〜50%)または血漿(PRP)で構成された6種の実験群を表11に示し、9日までの細胞冷蔵保存安定性を測定した。
【0073】
【表11】
【0074】
5‐1:幹細胞
実施例1の方法により分離されたそれぞれ異なる2種の脂肪幹細胞を4℃で冷蔵保存し、冷蔵剤形の細胞治療剤注射製品に使用される幹細胞の生存率を分析した。
【0075】
各細胞を4.9×10
8cells(1.0×10
7cells/mlを49個準備)で準備した。第2継代細胞を解凍して(6.0×10
6cellsを5個のT175フラスコに解凍)培養(第3継代に4.9×10
7cellsを49個のT175フラスコに培養)した後、第4継代目に回収(4.9×10
8cells)して、充填して実験した。
【0076】
第4継代目に回収された細胞は、7個のチューブに7.0×10
7cellsずつ分けて、表11の7種の保存剤7mlと混合した後、それぞれの実験群(保存剤)を時間毎(0、1、2、3、5、7、9日)に7個の3cc注射器に1mlずつ充填した。0日目のサンプルついては直ちに細胞数、生存率、細胞サイズを測定し、それ以外のサンプルは、1、2、3、5、7、9日間冷蔵状態で保存した後、細胞数、生存率、細胞サイズをCedexを用いて測定した。
【0077】
5‐2:血清及び血漿
血清を分離するために、抗凝固剤が入っていない採血チューブを用いて血液10mlを採取した後、冷蔵で10分間立てて置いた。1000RCFで15分間遠心分離(ブレーキ0)してフィブリンを除去し、分離された上清である血清を回収した。回収された血清は1700rpmで5分間遠心分離(ブレーキ0)した後、上清を回収して0.2μm注射器フィルターを用いて滅菌して準備した。
【0078】
血漿は、20cc注射器に抗凝固剤2ccを入れて採血した後、Dr.PRP kitで血漿と赤血球を1次分離し、3200rpmで6分間遠心分離して血小板を凝縮して2次分離した。2次分離後、PRP(血小板が含まれた血漿)とPPP(血小板が含まれていない血漿)が分離された状態で、10cc注射器で上層のPPP4mlをゆっくりと除去し、残りのPRP4mlをよく混合して使用した。
【0079】
5‐3:賦形剤のpH
実施例2‐2のように、それぞれの実験群毎に、幹細胞保存安定性増進用組成物の賦形剤のpHを分析した。
【0080】
pHの分析は、Thermo Scientific社製のOrion Star A111を用いて、幹細胞保存安定性増進用組成物に含まれるアルブミンとヒト血清によるpH変化を分析した。
【0081】
【表12】
【0082】
その結果、血清を添加した幹細胞保存安定剤の平均pH値が8.2と測定され、生理食塩水(pH=7.3)に8.4%の炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)をpH緩衝材(pH buffer)として使用してpHを8.2と設定した。血漿の場合、その量が非常に少ないため、pH測定が不可能であった。
【0083】
実施例6:時間による幹細胞の細胞数、生存率、及びサイズの変化
実施例1の方法により分離された脂肪幹細胞をPBSで洗浄した後、実施例5‐1の方法により細胞を準備した。2種の幹細胞に対して、表11のように対照群及び6つの実験群を構成し、9日まで細胞数、生存率、及び細胞サイズを調べた。
【0084】
その結果、血清または血漿が含まれていない対照群(SA:生理食塩水+0.3%のアルブミン)は、最大3日まで80%程度の生存率を維持したが、10%の血漿または10%の血清が含まれた実験群は、対照群に比べて生存率が最大50%以上増加する効果を確認した(
図5及び
図6)。
【0085】
血清の濃度が50%である場合に最も高い細胞生存率を示したが、30%の血清が含まれた実験群も、9日まで90%以上の細胞生存率を示すことが確認できた(
図5及び
図6)。
【0086】
したがって、血清または血漿が含まれた保存剤を用いて幹細胞を冷蔵保存する場合、幹細胞の保存安定性を増進させ、細胞数、生存率、及び細胞サイズが変化することなく幹細胞を長期間保存することができることを確認した。
【0087】
実施例7:幹細胞保存安定剤の比較
実施例6において、幹細胞#1(
図5)及び幹細胞#2(
図6)の生存率を分析した結果、細胞1と細胞2の間には差がほとんどないことが確認されたため、この実施例では、細胞1に及ぶ安定剤毎の効果を比較した。
【0088】
幹細胞保存安定剤の影響要素のうちpHの影響を調べるために、炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)をpH緩衝材(pH buffer)として使用し、安定剤のpH値は8.2と設定した。その結果、対照群(SA:生理食塩水+0.3%のアルブミン)における細胞生存期間は最大1日程度であった(
図7)。したがって、pH値を8.2と設定した安定剤は、細胞の安定性増進に効果がないことが確認された。
【0089】
次に、血清と血漿の効果を比較した。10%の血清または10%の血漿が含まれた安定剤の場合、対照群に比べて生存率が最大50%以上増加されたことが分かる。血清と血漿の差は大きくなく、類似する傾向の安定性を示すと確認された(
図8)。
【0090】
安定剤に含まれたアルブミンの効果を確認するために、30%の血清/生理食塩水と30%の血清/SA(生理食塩水+0.3%のアルブミン)を使用した場合の幹細胞保存安定性を調べた。その結果、0.3%のアルブミンが含まれた場合、より少し高い細胞安定性を示すことを確認した(
図9)。しかし、9日まで2つの実験群の差が微小であるため、血清とアルブミンの混合が安定剤の効果に大きい影響は与えないことが分かった。
【0091】
したがって、保存安定剤の効果を増進させるための方法として、血清の濃度を増加させて幹細胞の保存安定性を比較した。血清/SA(生理食塩水+0.3%のアルブミン)の実験群において、血清の濃度を10、30、50%に増加させてから生存率を測定した結果、50%の血清が含まれた安定剤が最も高い生存率を示した。また、10%の血清が含まれた安定剤でも7日間80%以上の生存率を維持し、30%の血清が含まれた安定剤でも9日間90%以上の非常に高い生存率を示すことを確認した(
図10)。これは、血清が、冷蔵状態の細胞の生存率を維持するのにおいて大きい役割をすることを意味する。