(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6741887
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】患者に供給される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 16/16 20060101AFI20200806BHJP
A61M 11/00 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
A61M16/16 Z
A61M11/00 F
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-571616(P2019-571616)
(86)(22)【出願日】2018年6月20日
(86)【国際出願番号】EP2018066332
(87)【国際公開番号】WO2019002033
(87)【国際公開日】20190103
【審査請求日】2019年12月25日
(31)【優先権主張番号】17178370.7
(32)【優先日】2017年6月28日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ヒルビヒ,ライナー
(72)【発明者】
【氏名】デ フラーフ,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ムルダー,マルセル
(72)【発明者】
【氏名】ケルバー,アヒム ゲルハルト ロルフ
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−526167(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0065053(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/16
A61M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステムであって、当該システムは、
呼吸可能なガスの加圧流を生成するための人工呼吸器と、
該人工呼吸器と流体連通し、且つ患者の呼吸器系に接続可能な患者回路であって、前記呼吸可能なガスの輸送のための内部空間を規定する患者回路と、
液体のエアロゾルを供給するためのエアロゾル発生器であって、流出開口部を有するエアロゾル発生器と、を含み、
前記流出開口部は、前記液体のエアロゾルの同伴のために前記内部空間内に設けられ、
当該システムは、前記患者回路に接続可能であり、且つ前記エアロゾル発生器を収容するインサートをさらに含み、
前記呼吸可能なガスの流れの方向において前記インサートは、最初に膨張し、こうして膨張部を規定し、次に収縮して前記エアロゾル発生器を取り囲み、
前記インサートは、前記呼吸可能なガスの流れの方向において最初に2つの別個の部分に分岐し、次に単一の部分に再結合するエアチューブを含み、前記膨張部には、前記エアロゾル発生器を収容するためのオープンスペースが含まれる、
システム。
【請求項2】
前記エアロゾル発生器は液体リザーバに接続される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記エアロゾル発生器は、ネブライザー、好ましくは振動式メッシュネブライザーである、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
当該システムは、少なくとも前記人工呼吸器及び前記エアロゾル発生器を制御するための制御ユニットをさらに含んでおり、該制御ユニットは、患者のニーズに基づいて、前記呼吸可能なガスの量及び湿度を制御するように構成される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
当該システムは、バッテリ駆動式の携帯システムである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステムで使用するためのインサートであって、当該インサートは、患者回路に接続可能であり且つエアロゾル発生器を収容し、当該インサートは、前記呼吸可能なガスの流れの方向において最初に膨張し、こうして膨張部を規定し、次に収縮して前記エアロゾル発生器を取り囲み、
当該インサートは、前記呼吸可能なガスの流れの方向において最初に2つの別個の部分に分岐し、次に単一の部分に再結合するエアチューブを含み、前記膨張部には、前記エアロゾル発生器を収容するためのオープンスペースが含まれる、
インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステムに関する。本発明は、さらに、そのようなシステムで使用するためのインサートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、患者の気管を通して侵襲的換気の送達を受けている患者は、人工呼吸器を介して乾燥した換気用空気が送達されると、気道が乾燥するという状況を経験する。一定期間に亘る乾燥空気の吸入による上気道の乾燥は、患者にとって不快であり、長時間の曝露後に深刻な健康への影響を与える可能性がある。乾燥空気を長時間吸入すると、上気道の粘液が乾燥し、粘液が非常に粘稠になり、患者の気道からの粘液の除去が妨げられる。上気道の過剰な粘液は、患者の呼吸に悪影響を及ぼすため、患者の生活の質が低下し、除去されないと炎症のリスクが生じる。非侵襲的換気の患者をサポートするために、例えば重度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者又は神経筋障害の患者には、人工呼吸器の隣に、換気用空気を加湿する加湿器が備え付けられている。
【0003】
特許文献1は、人工呼吸器、患者回路、及びコネクタによって患者回路に接続されるエアロゾル発生器を有する、患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステムを開示している。しかしながら、この一般的なタイプの、患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのそのようなシステムは、さらに改善され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0235925号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は特許請求の範囲によって規定される。
【0006】
本発明の一態様による例によれば、患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流を加湿するためのシステム、特に、液体の水が患者の気道に入る(レインアウト:rainout)リスクなしに使用できるシステムが提供される。
【0007】
この目的のために、本発明の第1の態様は、被験者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステムを提供し、このシステムは、
呼吸可能なガスの加圧流を生成するための人工呼吸器と、
人工呼吸器と流体連通し、且つ患者の呼吸器系に接続可能な患者回路であって、呼吸可能なガスの輸送のための内部空間を規定する患者回路と、
液体のエアロゾルを供給するためのエアロゾル発生器であって、流出開口部を有するエアロゾル発生器と、を含み、
エアロゾル発生器の流出開口部は、液体のエアロゾルの同伴(entrainment)のために内部空間内に設けられる。
【0008】
患者回路の内部空間は、呼吸可能なガスを人工呼吸器から患者の呼吸器系との接続部に輸送するために使用される。エアロゾル発生器の流出開口部を内部空間内に設けることにより、呼吸可能なガスの流れにエアロゾルを直接的に同伴させることができ、それによりレインアウトを防ぐ、又は少なくともレインアウトの機会を減らすことができる。エアロゾル発生器を患者の近くに位置付けすることで、結露の可能性を減らし、レインアウトが発生する機会をさらに減らすことができる。このシステムによって、エアロゾル化された液体と呼吸可能なガスとの最適な混合が可能になる。ある構成では、エアロゾル発生器の流出開口部は、患者回路のオープンスペースに通じる(debouch)。
【0009】
一実施形態では、システムは、患者回路に接続可能であり、且つエアロゾル発生器を収容するインサートをさらに含む。これにより、エアロゾル発生器を容易に且つ簡単に取り付けることができる。さらに、インサートは、通常の換気システム及び加湿システムと容易に交換することができる。より具体的には、呼吸可能なガスの流れの方向においてインサートが最初に膨張し、次に収縮してエアロゾル発生器を取り囲む。これにより、サイズが比較的制限されたインサートが提供される。エアロゾル発生器及び特にその接続部を収容するために、膨張部には、好ましくはオープンスペースが含まれる。
【0010】
一構成では、エアロゾル発生器は、ネブライザー、より具体的には振動式メッシュネブライザーである。ネブライザーは知られており、エアロゾル又はエアロゾル化された薬物を供給するために広く使用されている。これらは、比較的静かで、ポータブルで、且つ小さい。メッシュネブライザーは、水溶液を噴霧化又はエアロゾル化するのに特に有利である。
【0011】
別の構成では、システムは、少なくとも人工呼吸器及びエアロゾル発生器を制御する制御ユニットをさらに含んでおり、制御ユニットは、患者のニーズに基づいて呼吸可能なガスの量及び湿度を制御するように構成される。これにより、柔軟性が高められ、患者の快適性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の例について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【
図1】患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のための既知のシステムの概略図である。
【
図2】本発明による患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステムの概略図である。
【
図3】
図2に示されるような、患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステムで使用されるインサートの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述したように、
図1は、患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のための既知のシステム100の概略図を示す。システム100は、人工呼吸器110と、人工呼吸器と流体連通する患者回路120とを含む。患者回路は、呼吸可能なガスの輸送のための内部空間180を有する。患者回路の端部には、患者回路を患者の呼吸器系に接続するために使用されるコネクタ130が設けられる。システム100は、流出開口部150を有するエアロゾル発生器140をさらに含む。エアロゾル発生器は、液体リザーバ170に接続される。接続ユニット160が、エアロゾル発生器の(電気的)接続のために設けられる。エアロゾル発生器の流出開口部150を患者回路120に接続するためのコネクタ190が設けられる。矢印A及びBで示された位置では、小さな水滴の衝突により結露が発生するリスクが高い。さらに、水滴は、人工呼吸器110によって患者回路のコネクタ130に向けて送達される空気によって効果的に洗い流されない一種のデッドボリューム内に生成される。従って、単位時間あたり患者に送達される水滴の量は十分ではない。
【0014】
上述したように、
図2は、本発明による患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステム10の概略図を示す。システム10は、人工呼吸器12と、人工呼吸器と流体連通する患者回路14とを含む。患者回路の端部には、患者回路を患者の呼吸器系に接続するために使用されるコネクタ16が設けられる。患者回路は、呼吸可能なガスの輸送のための内部空間26を有する。システムは、両方とも点線で示される流出開口部20を有するエアロゾル発生器18をさらに含む。流出開口部20は、内部空間26内に設けられており、液体のエアロゾルを呼吸可能な気体と直接的に同伴させることができる。
【0015】
好ましくは、人工呼吸器は、タービンを使用して患者に向かう空気流を生成する。
【0016】
システムは、人工呼吸器12及びエアロゾル発生器18に接続された制御ユニット24をさらに含む。制御ユニットは、好ましくは、患者のニーズに基づいて呼吸可能なガスの量及び湿度を制御するように構成される。制御ユニットは、好ましくは、患者の呼吸サイクルの吸入段階(の一部)の間にのみ機能するようにシステムを準備する(arrange)。呼吸速度を測定する人工呼吸器が使用される場合に、人工呼吸器の設定から、オンにトリガーすべき呼吸サイクルに関する情報を取得することができる。
【0017】
エアロゾル発生器18は、液体リザーバ22に接続される。
【0018】
上述したように、
図3は、
図2に示されるような、患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステムで使用されるインサート30の概略図を示す。両端においてインサートは、患者(空気)回路に容易に接続又は取り付けるためのコネクタ32及び34を含む。呼吸可能なガスの流れ方向は、図面の左側のコネクタ32から右側のコネクタ34に流れる。この方向では、インサートが最初に膨張してから収縮する。このようにして、エアロゾル発生器18を収容するための空間が利用可能になる。より具体的には、エアチューブは最初に2つの別個の部分38及び40に分岐し、次に単一の部分に再結合する。エアロゾル発生器18の流出開口部20は、インサートの内部空間46内に通じる(debouch)。インサートは、膨張部に設けられたオープンスペース36をさらに含み、これにより、エアロゾル発生器18を取り付けるための空間が利用可能になる。エアロゾル発生器18は、オープンスペース36に取り付けられ、流出開口部20は、インサート30の外壁の開口部と一致する。また、オープンスペース36は、電気接続部42、及びエアロゾル発生器の液体水リザーバ44への接続のための空間を提供する。
【0019】
エアロゾル発生器は、理想的には、回路内の水分損失を防ぐために、できるだけ患者の近くに配置される。本発明は、患者回路とエアロゾル発生器との間の有利な接続により、そのような配置を可能にする。
【0020】
滅菌水又は滅菌生理食塩水が、好ましくは、加湿剤として使用される。好ましくは、汚染のリスクを減らすために、システムは大気から密閉される。呼吸可能なガスは、好ましくは、通常の空気である。
【0021】
患者の呼吸器系への接続は、いくつかの方法で取得でき、例えば、挿管された患者の気管内チューブにインサートを接続することができる。他の可能性は、顔のマスクの鼻マスク(nasal)を介した接続である。睡眠時無呼吸を治療するために陽圧(CPAP−)を送達する装置と組み合わせてシステムを使用することも可能である。
【0022】
このシステムは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者、喘息患者、又は神経筋障害患者等、呼吸器系で呼吸困難を伴う患者全員に使用できる利点がある。
【0023】
図2及び
図3に示されるように、
図1に示される設計と比較して、設計の改善を実証するために実験を行った。患者の呼吸器系は、容量0.6リットルの人工肺に置き換えられた。人工呼吸器のピーク流量(吸入段階中)は70L/minに設定され、吸入に1秒、呼気に2秒の呼吸サイクルが使用された。さらに、ネブライザーによって生成される空気1リットルあたり最大33mgの水が使用された。本発明によるシステムは、空気と水滴との適切な混合を示し、レインアウトしないことが分かった。既知のシステムを同じ条件で実行すると、
図1に示されるように、既知のシステムの矢印A及びBで示される領域で空気と水との混合が悪化し、はっきりとレインアウトが確認された。
【0024】
システムの動作中に、2W未満の電力が消費される。加湿が水の加熱に基づく既存のアクティブ加湿装置には、1桁以上の高い電力が必要である。相対的に低い電力消費と(例えば、相対的なサイズに関して)効率的な設計とにより、バッテリで駆動し携帯可能なシステムが可能になる。ポータブルシステムは、当然のことながら、患者の快適性及び柔軟性を大幅に向上させる。
【0025】
本発明は、患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステムを提供する。このシステムは、呼吸可能なガスの加圧流を生成するための人工呼吸器と;人工呼吸器と流体連通し、且つ患者の呼吸器系に接続可能な患者回路と;エアロゾル発生器と;を含む。患者回路は、呼吸可能なガスの流れを輸送するための内部空間を規定し、その内部空間によってエアロゾル発生器の流出開口部が収容される。これにより、いわゆるレインアウトを防ぐことができ、比較的軽量のポータブルシステムが可能になる。本発明は、患者回路に接続可能であり、且つエアロゾル発生器を収容するインサートにも関する。
【0026】
開示された実施形態に対する他の変形は、図面、明細書の開示、及び添付の特許請求の範囲の検討から、特許請求の範囲に記載された発明を実施する際に当業者によって理解及び達成され得る。請求項において、「備える、有する、含む(comprising)」という語は他の要素又はステップを排除せず、不定冠詞「1つの(a, an)」は複数を除外するものではない。特定の手段が互いに異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組合せを有利に使用できないことを示すものではない。請求項中の参照符号は、範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
【要約】
本発明は、患者に送達される呼吸可能なガスの加圧流の加湿のためのシステム(10)を提供する。このシステムは、呼吸可能なガスの加圧流を生成するための人工呼吸器(12)と;人工呼吸器と流体連通し、且つ患者の呼吸器系に接続可能な患者回路(14)と;エアロゾル発生器(18)と;を含む。患者回路は、呼吸可能なガスの流れを輸送するための内部空間(26)を規定し、内部空間はエアロゾル発生器の流出開口部(20)を収容する。これにより、いわゆるレインアウトを防ぐことができ、比較的軽量のポータブルシステムが可能になる。本発明は、患者回路に接続可能であり、且つエアロゾル発生器を収容するインサート(30)にも関する。