特許第6742007号(P6742007)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6742007地質サンプル採取方法および姿勢制御可能な作業装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6742007
(24)【登録日】2020年7月30日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】地質サンプル採取方法および姿勢制御可能な作業装置
(51)【国際特許分類】
   E21B 25/18 20060101AFI20200806BHJP
   E21B 49/02 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   E21B25/18
   E21B49/02
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-501752(P2018-501752)
(86)(22)【出願日】2017年2月23日
(86)【国際出願番号】JP2017006773
(87)【国際公開番号】WO2017146135
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2020年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-35222(P2016-35222)
(32)【優先日】2016年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110251
【氏名又は名称】トピー工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】澤 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】堀切 剛
(72)【発明者】
【氏名】津久井 慎吾
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−196140(JP,A)
【文献】 特開2010−274669(JP,A)
【文献】 特開2012−061963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00−49/10
B62D 55/00−55/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体(10)と、この機体の前部の左右および後部の左右に回動可能に設けられた4つのフリッパ(30;30A)と、この機体に設けられたコアリング機構(20)とを備えた地質サンプル採取装置を用意し、
上記4つのフリッパ(30;30A)を回動させることにより、4つのフリッパのうちの少なくとも3つのフリッパを着地させるとともに上記機体(10)を所望姿勢にし、この状態で、上記コアリング機構(20)により地盤へのコアリングを実行し、地質サンプルを採取することを特徴とする地質サンプル採取方法。
【請求項2】
上記コアリング機構(20)によるコアリング方向が上記4つのフリッパ(30;30A)の回動軸線(L)が配置される平面と直交しており、上記機体(10)の所望姿勢では、上記平面が水平をなすことを特徴とする請求項1に記載の地質サンプル採取方法。
【請求項3】
機体(10)と、
上記機体(10)の前部の左右および後部の左右に回動可能に設けられた4つのフリッパ(30;30A)と、
上記機体(10)に設けられ、前後方向および左右方向の傾斜を検出する傾斜センサ(17)と、
上記フリッパ(30;30A)の各々の着地を検出する着地センサ(49)と、
上記傾斜センサ(17)からの傾斜情報と上記着地センサ(49)からの上記フリッパ(30;30A)の着地情報に基づき、上記4つのフリッパを回動制御し、上記フリッパのうちの少なくとも3つを着地させるとともに上記機体(10)を所望姿勢にするコントローラ(16)と、
を備えたことを特徴とする作業装置。
【請求項4】
さらに、上記機体(10)に設けられた、地盤へのコアリングを実行するためのコアリング機構(20)を備えていることを特徴とする請求項3に記載の作業装置。
【請求項5】
上記コアリング機構(20)によるコアリング方向が上記4つのフリッパ(30;30A)の回動軸線が配置される平面と直交しており、上記機体(10)の所望姿勢では、上記平面が水平をなすことを特徴とする請求項4に記載の作業装置。
【請求項6】
上記着地センサ(49)が、上記フリッパを上記機体に回動可能に支持するための支持構造体(40)に掛かる荷重を検出する荷重センサであることを特徴とする請求項3に記載の作業装置。
【請求項7】
上記荷重センサ(49)が、上記支持構造体に取り付けられた歪ゲージであることを特徴とする請求項6に記載の作業装置。
【請求項8】
上記コントローラ(16)は、上記フリッパ(30;30A)の回動制御により、全てのフリッパを着地させることを特徴とする請求項3に記載の作業装置。
【請求項9】
上記コントローラ(16)は、上記機体(10)の前後方向の傾斜角度と左右方向の傾斜角度を個別に調節し、
a.上記機体(10)の前後方向の傾斜角度を調節する際に、前側の2つのフリッパ(30;30A)と、後側の2つのフリッパ(30;30A)のうち、2つのフリッパを選択して同時に同方向に回動させることにより、この選択された2つのフリッパが設けられた上記機体の前部または後部の高さを調節し、これにより上記機体の前後方向の傾斜角度を第1所望角度にし、
b.上記機体(10)の左右方向の傾斜角度を調節する際に、左側の2つのフリッパ(30;30A)と、右側の2つのフリッパ(30;30A)のうち、2つのフリッパを選択して同時に同方向に回動させることにより、この選択された2つのフリッパが設けられた上記機体の左部または右部の高さを調節し、
これにより上記機体の左右方向の傾斜角度を第2所望角度にする
ことを特徴とする請求項3に記載の作業装置。
【請求項10】
上記コントローラ(16)は、上記機体(10)の前後方向の傾斜角度と左右方向の傾斜角度を個別に調節し、
a.上記機体(10)の前後方向の傾斜角度を減じる際に、前側の2つのフリッパ(30;30A)と、後側の2つのフリッパ(30;30A)のうち、下方に位置する2つのフリッパを選択して同時に下方に回動させることにより、この選択された2つのフリッパが設けられた上記機体の前部または後部を持ち上げ、
b.上記機体(10)の左右方向の傾斜角度を減じる際に、左側の2つのフリッパ(30;30A)と、右側の2つのフリッパ(30;30A)のうち、下方に位置する2つのフリッパを選択して同時に下方に回動させることにより、この選択された2つのフリッパが設けられた上記機体の左部または右部を持ち上げる
ことを特徴とする請求項3に記載の作業装置。
【請求項11】
上記コントローラ(16)は、最初に全てのフリッパ(30;30A)を所定角度上げてフリッパの回動支点側の基端部を着地させ、この初期状態から上記選択されたフリッパを下方へ回動することにより、機体(10)を水平にすることを特徴とする請求項10に記載の作業装置。
【請求項12】
上記機体(10)は、水中移動体(12)を備えていることを特徴とする請求項3に記載の作業装置。
【請求項13】
上記フリッパ(30;30A)は、このフリッパにおける上記回動軸線側の基端部に配置された原動ホイール(33)と、先端部に配置された従動ホイール(34)と、これら原動ホイールと従動ホイールとに架け渡された無端条体(35)を備えていることを特徴とする請求項3に記載の作業装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤をコアリングすることにより地質サンプルを採取する方法およびコアリング等の作業を行なう作業装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本近海には、多くの海底鉱物資源が存在することが知られているが、広大な海域に分布しているため、未だにその詳細な状況を把握するには至っていない。
このような背景のもと、海洋鉱物資源の詳細な分布や資源量を調査することが求められている。
【0003】
特許文献1(特開2005−155109号公報)に開示された地質サンプル採取装置は、機体と、この機体に設けられたコアリング機構とを備えている。洋上の母船からワイヤで機体を吊り下げ、海底に着座した状態でコアリングを行なう。この採取装置には、複数の高度計測手段が装備されており、この高度計測手段からの超音波により、海底地盤の状況を把握し、安定して着地できるようになっている。
【0004】
特許文献2(特開2011−196140号公報)には、地上での地質サンプル採取装置の詳細な構造が開示されている。この装置は、機体の前部にコアリング機構を備えるとともに、左右に一対のクローラを装備しており、クローラにより目的地まで移動し、目的地でコアリングを行う。
【0005】
特許文献3(特開2010−274669号公報)に開示されている海底探査ロボットは、機体にスラスタを装備するとともに、前部の左右および後部の左右に合計4つのクローラ式フリッパを備えており、母船からの遠隔操作によって目的地まで移動でき、ロボットハンド等で海底の鉱物を採取することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の地質サンプル採取装置では、海底地盤内の地質サンプル(コアサンプル)を採取できるが、平坦な海底面に着座させる必要があり、コバルトリッチクラストや熱水鉱床等のように傾斜した地盤や、激しい凹凸がある地盤でのコアリングには困難が伴う。
【0007】
特許文献2の地質サンプル採取装置は、陸上の水平な地盤で垂直にコアリングすることが想定されており、傾斜した地盤や、激しい凹凸がある地盤でのコアリングには困難が伴う。
【0008】
特許文献3の地質サンプル採取装置でも、傾斜した地盤や激しい凹凸がある地盤での作業は困難である。また、海底上に露出した鉱物を採取するだけで、地盤内部の地質サンプルを採取することができない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、地質サンプル採取方法において、
機体と、この機体の前部の左右および後部の左右に回動可能に設けられた4つのフリッパと、この機体に設けられたコアリング機構とを備えた地質サンプル採取装置を用意し、
上記4つのフリッパを回動させることにより、4つのフリッパのうちの少なくとも3つのフリッパを着地させるとともに上記機体を所望姿勢にし、この状態で、上記コアリング機構により地盤へのコアリングを実行し、地質サンプルを採取することを特徴とする。
この方法によれば、傾斜や凹凸がある地盤であっても、フリッパの回動制御により、所望のコアリング方向で安定してコアリングを実行でき、地盤内部の地質サンプルを採取できる。
【0010】
好ましくは、上記コアリング機構によるコアリング方向が上記4つのフリッパの回動軸線が配置される平面と直交しており、上記機体の所望姿勢では、上記平面が水平をなしている。
この方法によれば、地盤が傾斜していても鉛直方向(重力方向)にコアリングを実行できる。
【0011】
本発明の他の態様は、作業装置において、
機体と、
上記機体の前部の左右および後部の左右に回動可能に設けられた4つのフリッパと、
上記機体に設けられ、前後方向および左右方向の傾斜を検出する傾斜センサと、
上記フリッパの各々の着地を検出する着地センサと、
上記傾斜センサからの傾斜情報と上記着地センサからの上記フリッパの着地情報に基づき、上記4つのフリッパを回動制御し、上記フリッパのうちの少なくとも3つを着地させるとともに上記機体を所望姿勢にするコントローラと、
を備えたことを特徴とする。
上記構成によれば、傾斜や凹凸があっても、傾斜センサと着地センサからの情報に基づきフリッパを回動制御することにより、自動的に機体を安定した所望姿勢にすることができ、その結果、安定して作業を行なうことができる。
【0012】
好ましくは、さらに、上記機体に設けられた、地盤へのコアリングを実行するためのコアリング機構を備えている。
上記構成によれば、所望のコアリング方向で安定してコアリングを実行でき、地盤内部の地質サンプルを採取できる。
【0013】
好ましくは、上記コアリング機構によるコアリング方向が上記4つのフリッパの回動軸線が配置される平面と直交しており、上記機体の所望姿勢では、上記平面が水平をなす。
上記構成によれば、地盤が傾斜していても鉛直方向(重力方向)にコアリングを実行できる。
【0014】
好ましくは、上記着地センサが、上記フリッパを上記機体に回動可能に支持する支持構造体に掛かる荷重を検出する荷重センサである。
上記構成によれば、着地センサの構成を簡略化することができる。
【0015】
好ましくは、上記荷重センサが、上記支持構造体に取り付けられた歪ゲージである。
上記構成によれば、着地センサの構成をより一層簡略化することができる。
【0016】
好ましくは、上記コントローラは、上記フリッパの回動制御により、全てのフリッパを着地させる。
上記構成によれば、機体の安定性をより一層高めることができる。
【0017】
好ましくは、上記コントローラは、上記機体の前後方向の傾斜角度と左右方向の傾斜角度を個別に調節し、
a.上記機体の前後方向の傾斜角度を調節する際に、前側の2つのフリッパと、後側の2つのフリッパのうち、2つのフリッパを選択して同時に同方向に回動させることにより、この選択された2つのフリッパが設けられた上記機体の前部または後部の高さを調節し、これにより上記機体の前後方向の傾斜角度を第1所望角度にし、
b.上記機体の左右方向の傾斜角度を調節する際に、左側の2つのフリッパと、右側の2つのフリッパのうち、2つのフリッパを選択して同時に同方向に回動させることにより、この選択された2つのフリッパが設けられた上記機体の左部または右部の高さを調節し、
これにより上記機体の左右方向の傾斜角度を第2所望角度にする。
上記構成によれば、機体の前後方向の傾斜角度と左右方向の傾斜角度を個別に調節するため、フリッパの回動制御を簡略化することができる。しかも、傾斜角度の調節において、選択された2つのフリッパが回動制御されている時に、選択されない2つのフリッパは着地状態または着地状態に近い状態を維持できるため、安定して傾斜角度の調節を行うことができる。
【0018】
好ましくは、上記コントローラは、上記機体の前後方向の傾斜角度と左右方向の傾斜角度を個別に調節し、
a.上記機体の前後方向の傾斜角度を減じる際に、前側の2つのフリッパと、後側の2つのフリッパのうち、下方に位置する2つのフリッパを選択して同時に下方に回動させることにより、この選択された2つのフリッパが設けられた上記機体の前部または後部を持ち上げ、
b.上記機体の左右方向の傾斜角度を減じる際に、左側の2つのフリッパと、右側の2つのフリッパのうち、下方に位置する2つのフリッパを選択して同時に下方に回動させることにより、この選択された2つのフリッパが設けられた上記機体の左部または右部を持ち上げる。
上記構成によれば、機体を水平にするための制御を簡略化できるとともに、安定して傾斜角度を減じることができる。
【0019】
好ましくは、上記コントローラは、最初に全てのフリッパを所定角度上げてフリッパの回動支点側の基端部を着地させ、この初期状態から上記選択されたフリッパを下方へ回動することにより、機体を水平にする。
上記構成によれば、効率良く機体を水平にすることができる。
【0020】
好ましくは、上記機体は水中移動体を備えている。
上記構成によれば、例えば海底での鉱物資源調査において、水中移動手段で採取装置を採取予定地またはその近傍まで移動させることができるので、多くの地点を効率良く調査することができる。
【0021】
好ましくは、上記フリッパは、このフリッパにおける上記回動軸線側の基端部に配置された原動ホイールと、先端部に配置された従動ホイールと、これら原動ホイールと従動ホイールとに架け渡された無端条体を備えている。
上記構成によれば、例えば海底での鉱物資源調査において、水中移動手段で採取装置を採取予定地近傍まで移動させた後で、フリッパの走行駆動により採取予定地まで正確に移動させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、海底等の不規則かつ傾斜した地盤でも、地質サンプル採取装置等の作業装置の姿勢を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態をなす地質サンプル採取装置の概略側面図であり、フリッパを格納した状態で示す。
図2】同採取装置を、フリッパを展開させた状態で示す概略側面図である。
図3】同採取装置を、傾斜した地盤に乗った状態で示す概略側面図である。
図4】同採取装置を、姿勢制御された状態で示す概略側面図である。
図5】同採取装置の概略平面図であり、上部の水中移動体を省略して示す。
図6】同採取装置の概略正面図である。
図7】同採取装置の要部の拡大側面図である。
図8】同採取装置の要部の拡大平面図であり、一部断面にして示す。
図9】同採取装置の要部の拡大正面図であり、一部断面にして示す。
図10】同採取装置においてコアリング開始前に実行される姿勢制御のフローチャートである。
図11】本発明の第2実施形態をなす地質サンプル採取装置の概略側面図であり、フリッパを展開した状態で示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の第1実施形態をなす、海底地盤の地質サンプルを採取する装置(作業装置)について図1図10を参照しながら説明する。理解を容易にするために、図1図5において前後、左右を明示しておく。
図1図5図6に示すように、採取装置は、機体10と、コアリング機構20と、4つのクローラ式フリッパ30(以下、フリッパという)とを主要構成として備えている。
【0025】
上記機体10は、平面矩形をなす基台11と、この基台11の上面に固定された水中移動体12とを有している。
水中移動体12は、ROV(Remotely Operated Vehicle)と称されているものであり
、周知構造であるので詳細な説明は省略するが、フレームの前後部に左右一対のプロペラ等からなる水平スラスタを有し、フレームの左右2カ所に垂直スラスタを有している。なお、これら水平スラスタ、垂直スラスタの台数・配置は、ROVに応じて任意に選択可能である。
水中移動体12のフレームの前部にはビデオカメラ(図示しない)が設けられている。ビデオカメラは1台でもよいし、複数台用いて3次元映像を得てもよい。
【0026】
上記機体10の基台11には、密閉されたボックス15が固定され、このボックス15には、送受信機(図示しない)、マイクロコンピュータやモータドライバ等を含むコントローラ16、ジャイロセンサ17(傾斜センサ)等が収容されている。なお、ジャイロセンサは、ROVに搭載されているものを利用してもよい。
【0027】
コントローラ16は、母船側の操縦装置からケーブル(図示しない)、送受信機を経て送られてくる通信コマンドを受けて動作し、後述するように上記水中移動体12のスラスタを制御し、フリッパ30を走行制御し、フリッパ30をスイング(回動)させて姿勢制御を実行する。なお、ケーブルは、母船から採取装置への電力供給も行う。
ジャイロセンサ17は、機体10の基台11(より具体的には、後述する4つのフリッパ30の回動軸線Lが配置される平面)の前後方向の傾斜および左右方向の傾斜を検出する。
【0028】
上記コアリング機構20は、基台11の前部の中央に固定されている。このコアリング機構20は、周知構造であるので概略的に図示する。簡単に説明すると、コアリング機構20は外側の掘削筒と内側の保持筒の2重筒構造を有している。保持筒は掘削筒に対して軸方向移動不能かつ回転可能に支持されている。掘削筒を下方に移動させるとともに回転駆動させ、この掘削筒の下端に設けた掘削ビットで地盤を掘り下げて、円形の深い環状溝を形成する。この後で、掘削筒と保持筒を引き上げることにより、この環状溝の内側に残された円柱形状のコアサンプル(地質サンプル)を、保持筒内に保持しながら回収することができる。なお、コアリング機構20としては、上記の周知構造の他に、種々改良を加えたものも含む。例えば、コアサンプルが硬い場合には、このコアサンプルを折る機能を付加してもよい。また、掘削筒と保持筒を異なる昇降機構に保持し、掘削筒で掘削した後に保持筒でコアサンプルを引き上げるようにしてもよい。
上記コアリング機構20によるコアリング方向は、上記基台11(4つのフリッパ30の回動軸線Lが配置される平面)と直交している。
【0029】
上記4つのフリッパ30は、基台11の前部の左右および後部の左右に、支持構造体40により、回動軸線Lを中心に回動(スイング)可能に支持されている。
図7図9に示すように、上記フリッパ30の各々は、平行をなして互いに連結された一対の細長い側板31、32と、これら側板31、32の基端部(回動軸線L側の端部)間に配置された原動スプロケットホイール33(以下、原動ホイールという)と、側板31,32の先端部間に配置された従動スプロケットホイール34(以下、従動ホイールという)と、これらホイール33、34に架け渡された無端条体35と、側板31,32に設けられて無端条体35を支持する転輪36とを有している。
【0030】
図8に示すように、上記原動ホイール33は、回動軸線Lと同軸をなすシャフト37に固定されており、後述するようにこのシャフト37を介してトルクを受ける。このシャフト37は、上記側板31,32の基端部に回転可能に支持されている。上記従動ホイール34は、側板31,32の先端部に固定された中空の軸部材38に回転可能に支持されている。
【0031】
図8に示すように、上記無端条体35は、チェーン35aと、チェーン35aの外周に等間隔をなして固定された接地ラグ35bとを有している。他の図では無端条体35を簡略化して示す。
【0032】
次に、上記フリッパ30を回動可能(スイング可能)に支持する支持構造体40について、図8図9を参照しながら詳述する。この支持構造体40は、基台11の側面に固定されて下方に垂直に延びる支持板41と、この支持板41の下部内面と基台11の下面との間に架け渡されて固定された補強用のブラケット42と、この支持板41の下部外面と平行をなして離間対向する補助板43と、この補助板43を支持板41に固定するピン形状の複数のスペーサ44と、上記補助板43の外面に固定された円筒形状の支持筒45とを有している。この支持筒45は上記回動軸線Lと同軸をなしている。
上記ブラケット42には、歪ゲージ49(着地センサ、荷重センサ)が貼り付けられている。
【0033】
上記フリッパ30をスイングさせるための駆動機構50は、モータ51と、このモータ51の出力軸に固定されたプーリ52と、このプーリ52の下方に位置するプーリ53と、これらプーリ52,53に架け渡されたベルト54と、下側のプーリ53を上述したフリッパ30の内側の側板31に固定するリング形状のスペーサ55とを有している。このプーリ53とスペーサ55は、上記回動軸線Lと同軸をなしている。
【0034】
上記支持構造体40の支持筒45は、ブッシュ46を介して上記プーリ53とスペーサ55を回動可能に支持しており、これにより、フリッパ30全体を、回動軸線Lを中心に回動可能に支持している。
さらに上記支持筒45は、ベアリング47を介してシャフト37を回転可能に支持しており、ひいては原動ホイール33を回転可能に支持している。
【0035】
上記フリッパ30の原動ホイール33を回転駆動するための駆動機構60は、モータ61と、このモータ61の出力軸に固定されたプーリ62と、このプーリ62の下方に位置するプーリ63と、これらプーリ62,63に架け渡されたベルト64とを有している。下側のプーリ63は上記シャフト37に固定されている。
【0036】
なお、本実施形態では、フリッパ30に鉤70が付設されている。簡単に説明すると、フリッパ30の中空の軸部材38にはモータ71が収容されており、このモータ71の出力軸が外側の側板32を貫通して突出しており、この出力軸に鉤70の一端が固定されている。この鉤70は、通常では側板31、32の外周縁から突出しない位置にある。
【0037】
上記構成をなす採取装置は深海の海底地盤内部の地質サンプルを採取するために用いられる。母船の操縦者は、採取装置のビデオカメラからの映像を見ながら、操縦装置を遠隔操作することにより、水中移動体12のスラスタを駆動させて、採取装置を海中で遊泳させ、海底の目的地の近傍に着地させる。この移動の際には、図1に示すように、クローラ式フリッパ30は、格納位置にある。すなわち、前側のフリッパ30は後側に倒され、後側のフリッパ30は前側に倒されている。
【0038】
次に、図2に示すようにフリッパ30を展開位置にする。すなわち、前側のフリッパ30を、モータ51の駆動により図1の状態から略180°回して前側に倒し、後側のフリッパ30をモータ51の駆動により図1の状態から略180°回して後側に倒す。
【0039】
上記フリッパ30の展開状態で、図7図8に示す各フリッパ30のモータ61の駆動により原動ホイール33を回転させ、無端条体35を動かして、目的地まで走行する。上記のようにフリッパ30が展開しているので、安定して目的地まで走行することができる。
なお、各フリッパ30は独立して前進、後退が可能であり、その結果、機体10は前進、後退のみならず、旋回も可能である。
【0040】
図3に示すように採取装置が目的地に到達した後、母船の操縦装置からの指令信号に応答して、コントローラ16は、4つのフリッパ30の駆動機構50のモータ51(図8図9参照)を駆動し、フリッパ30を回動軸線Lを中心にして回動させることにより、採取装置の姿勢を制御する。この姿勢制御により、採取装置が、隆起した地盤の傾斜部分に載っていても、機体10の基台11を所望姿勢例えば図4に示すように水平にすることができる。
【0041】
コントローラ16により実行される姿勢制御を、図10を参照しながら説明する。
ステップ101で、全てのフリッパ30を所定角度例えば45°上方に回動させる。これにより、全てのフリッパ30の先端部が地盤から離れた状態となる。地盤が凹凸をなしている場合には全てのフリッパ30の基端部が着地することは保証されないが、少なくとも2つのフリッパ30の基端部は着地する。
【0042】
次に、ジャイロセンサ17の出力から、前後方向の傾斜角度Θyと、左右方向の傾斜角度Θxを読み込み(ステップ102)、歪ゲージ49の出力から、4つのフリッパ30の支持構造体40の歪み、ひいては支持構造体40に掛かる荷重の情報を読み込む(ステップ103)。
【0043】
次に、3つ以上のフリッパ30が着地しているか否かを判断する(ステップ104)。各フリッパ30に掛かる荷重が閾値以上であれば着地していると判断する。なお、この閾値は比較的小さな値でもよい。
【0044】
ステップ104で肯定判断した場合には、4つの全てのフリッパ30が着地しているか否かを判断し(ステップ105)、ここで肯定判断した時には、基台11が水平か否かを判断する(ステップ106)。ここで肯定判断した時には、姿勢制御を終了する。
ただし、採取装置が隆起した地盤に乗り、全てのフリッパ30を上げた状態では、4つのフリッパ30の基端部が全て着地し基台11が水平をなしていることは稀であり、実際には、ステップ104,105、106の少なくともいずれかで否定判断される。
【0045】
上記ステップ104で否定判断した場合、すなわち、2つのフリッパ30しか着地していないと判断した場合には、ステップ107に進み、ここで、着地していない2つのフリッパ30のうち、下に位置するフリッパ30を下方に回動させる。2つのフリッパ30の上下位置関係は、上記傾斜角度Θy、Θxの情報に基づき判断できる。上記のように着地していないフリッパ30を下げると、フリッパ30の先端部が着地するようになる。ステップ107では、微小量ずつフリッパ30を下げてステップ102に戻り、このフリッパ30が着地するまで、ステップ102,103,104,107を繰り返し実行する。
上記のようにして下に位置するフリッパ30が着地すると、ステップ104で肯定判断し、ステップ105に進む。
【0046】
ステップ105で否定判断した場合、すなわち3つのフリッパ30が着地しているものの1つのフリッパ30が着地していないと判断した時には、ステップ108に進み、ここで着地していないフリッパ30を下げ、ステップ102に戻る。これにより、上述と同様にして着地していないフリッパ30の先端部を着地させることができる。
【0047】
全てのフリッパ30が着地した場合にはステップ105で肯定判断し、ステップ106に進む。ステップ106で否定判断した時、すなわち基台11が水平ではないと判断した時には、ステップ109に進み、ここで基台11の前後方向の傾斜角度Θyと左右方向の傾斜角度Θxとを比較する。
【0048】
ステップ109で、Θx=Θyと判断した場合または前後方向の傾斜角度Θyの方が大きいと判断した場合には、ステップ110に進み、ここで前側の2つのフリッパ30と後側の2つのフリッパ30のうち前後方向の傾斜の下側に位置する2つのフリッパ30を同時に下げる。例えば、後側が低くなるような傾斜の場合には、後側の2つのフリッパ30を同時に下げる。その結果、基台11は前後方向において傾斜下側の部分が持ち上げられ、前後方向の傾斜角度Θyが減じられる。この際、左右方向の傾斜角度Θxは殆ど変らないので、回動制御されない2つのフリッパ30、すなわち傾斜上側に位置する前後いずれかの2つのフリッパ30は、ほぼ着地状態を維持することができ、安定した姿勢制御を行うことができる。
【0049】
上記ステップ109で左右方向の傾斜角度Θxの方が大きいと判断した場合には、ステップ111に進み、左側の2つのフリッパ30と右側の2つのフリッパ30のうち左右方向の傾斜の下側に位置する2つのフリッパ30を同時に下げる。その結果、基台11は左右方向において下側の部分が持ち上げられ、左右方向の傾斜角度Θxが減じられる。この際、前後方向の傾斜角度Θyは殆ど変らず、回動制御されない2つのフリッパ30はほぼ着地状態を維持することができる。
【0050】
上記のように、機体10が前後方向及び/又は左右方向に傾斜していても、フリッパ30の回動制御によりその傾斜角度を徐々に減じ、最終的には水平にすることができ、姿勢制御を終了することができる。
本実施形態では、最初は前後方向と左右方向のうち、傾斜角度が大きい方向の傾斜が減じられ、前後方向と左右方向の傾斜角度が同程度になった後は、少量ずつ交互に傾斜が減じられるので、姿勢制御をより一層安定に行うことができる。
【0051】
上記のように基台11を水平姿勢にした後、母船の操縦装置からのコアリング指令に応答して、コントローラ16は、コアリング機構20を動作し、コアサンプル(地質サンプル)を採取する。この際、基台11が水平をなしているので、コアリング方向(図4のZ方向)を鉛直方向(重力方向)にすることができる。
【0052】
なお、本実施形態では、各フリッパ30は鉤70を備えており、この鉤70を回動させて地盤の凹凸に引っ掛けることができるので、そのアンカー効果により、コアリング時の反力による機体10の浮き上がりを抑制でき、コアリングを確実に行うことができる。
【0053】
次に、第2実施形態をなす採取装置を、図11を参照しながら説明する。第2実施形態において第1実施形態に対応する構成部には同番号を付してその詳細な説明を省略する。第2実施形態では、フリッパ30Aは、単一の細長い板部材からなり、第1実施形態のクローラ式フリッパのような走行機能を備えていない。このフリッパ30Aの先端は円形をなしており、その外周には突起39が一体又は別体をなして形成されている。
第2実施形態の採取装置は、フリッパ30Aをスイングさせる駆動機構50を装備するが、第1実施形態の駆動機構60を装備していない。姿勢制御は第1実施形態と同様にして実行される。
【0054】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々採用可能である。
図示の実施形態では、採取装置を上から見た時に、4つのフリッパは、機体から左右にはみ出しているが、機体に隠れて見えないように配置してもよい。
姿勢制御では、4つのフリッパの全てが着地せず、少なくとも3つのフリッパが着地するようにしてもよい。
姿勢制御により補正可能な角度は、機体長さ、幅とフリッパ長さ等により制約されるため、水平姿勢を所望姿勢(目標となる姿勢)としつつ、水平姿勢に対して所定角度範囲内を許容してもよい。
姿勢制御での所望姿勢(目標となる姿勢)は、基台が水平の場合のみならず、所定の傾斜角度の場合も含まれる。この場合、姿勢制御においてフリッパは下方への回動のみならず、上方への回動を含んでいてもよい。
【0055】
水平移動体(ROV)は、姿勢制御ができないほど地盤の傾斜が急な場合に、目的地を変更するために利用できるのは勿論であるが、より積極的に活用してもよい。例えば、地盤の傾斜が急な場合(垂直に切り立った場合も含む)、ROVの垂直スラスタを駆動してフリッパを地盤に押し付け、この状態で姿勢制御を行ってもよい。
【0056】
姿勢制御手段の役割は、母船の操縦装置に持たせてもよい。
コアリング機構は、基台またはROVの後方に配置してもよいし、左右いずれかに配置してもよい。
基台とROVの接合部の間に陸上の建設機械と同様に回転機構を設けてもよい。この場合、基台とフリッパを動かさずに、ROVおよびこのROVに設けたコアリング機構を旋回させることができる。
本発明の採取装置は、陸上の地質サンプルを採取する場合にも用いることができる。
また、地盤は廃棄物の堆積により構成された山であってもよい。
姿勢制御は、コアリング以外に走行移動中に実行してもよい。この場合、常に3点以上の接地を行なうことで、より安定した走行が可能である。
本発明装置は、コアリングを伴わずに鉱物の塊等の地質サンプルを採取する装置や、地質サンプルを採取する以外の作業を行なう作業装置に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、地質サンプルを採取する採取装置等に適用することができる。
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