特許第6742015号(P6742015)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ホロンの特許一覧

<>
  • 特許6742015-電子検出装置および電子検出方法 図000002
  • 特許6742015-電子検出装置および電子検出方法 図000003
  • 特許6742015-電子検出装置および電子検出方法 図000004
  • 特許6742015-電子検出装置および電子検出方法 図000005
  • 特許6742015-電子検出装置および電子検出方法 図000006
  • 特許6742015-電子検出装置および電子検出方法 図000007
  • 特許6742015-電子検出装置および電子検出方法 図000008
  • 特許6742015-電子検出装置および電子検出方法 図000009
  • 特許6742015-電子検出装置および電子検出方法 図000010
  • 特許6742015-電子検出装置および電子検出方法 図000011
  • 特許6742015-電子検出装置および電子検出方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6742015
(24)【登録日】2020年7月30日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】電子検出装置および電子検出方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20200806BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   H01J37/244
   H01J37/28 B
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-15393(P2016-15393)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-135048(P2017-135048A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2019年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】591012668
【氏名又は名称】株式会社ホロン
(74)【代理人】
【識別番号】100089141
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 守弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 恵三
【審査官】 橋本 直明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−248304(JP,A)
【文献】 特表2001−516945(JP,A)
【文献】 特開昭64−019665(JP,A)
【文献】 特表2013−538000(JP,A)
【文献】 特表2015−520501(JP,A)
【文献】 特開昭60−262333(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/089955(WO,A1)
【文献】 特開2015−043348(JP,A)
【文献】 特開平08−273569(JP,A)
【文献】 特開2012−023398(JP,A)
【文献】 国際公開第99/046798(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/244
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を試料に照射して当該試料から放出あるいは反射された電子を検出・増幅する電子検出装置において、
所定加速電圧のエネルギーを有する1次電子ビームを細く絞って試料に照射する磁界型の対物レンズと、
前記細く絞られた1次電子ビームを試料上で走査するように当該1次電子ビームを偏向する偏向装置と、
前記1次電子ビームを前記試料の方向に通過させる穴を有し、かつ前記細く絞られた1次電子ビームを前記試料に照射して走査した際に放出された第1の2次電子を加速する正の第1の加速電圧を印加し、かつ前記磁界型の対物レンズの磁界の作用により前記試料から放出された前記第1の2次電子を軸上を螺旋回転しつつ前記第1の加速電圧の印加された方向に向けて加速すると共に該第1の加速電圧で加速された第1の2次電子が衝突したときに増倍された第2の2次電子を発生させる、前記第1の2次電子を加速して吸引して衝突させる2次電子発生板と、
前記1次電子ビームを前記試料の方向に通過させる穴を有すると共に前記第1の2次電子を前記2次電子発生板の方向に通過させる穴を有し、かつ前記2次電子発生板で前記増倍された第2の2次電子を加速する正の第2の加速電圧を印加すると共に該第2の加速電圧で加速された増倍された2次電子を更に増倍する、前記第2の2次電子を加速して吸引して衝突させるMCPと、
該MCPで増倍された2次電子を検出するアノードと
を備えたことを特徴とする電子検出装置。
【請求項2】
前記2次電子発生板の前記1次電子ビームが通過する穴の部分に、試料から放出された前記第1の2次電子が当該1次電子ビームの走行経路の逆方向への走行を抑止する負の電圧を印加した、中心に前記1次電子ビームが通過する穴を有するリペラー電極を設けたことを特徴とする請求項1記載の電子検出装置。
【請求項3】
前記2次電子発生板に前記第1の2次電子が衝突して前記2の2次電子を発生させる面を、前記1次電子ビームの走行方向に対して凸状にし、該第2の2次電子の増倍効率を高めたことを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の電子検出装置。
【請求項4】
前記2次電子発生板の表面に短冊状、針円周状、あるいは粒子状の2次電子放出材料を形成したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電子検出装置。
【請求項5】
前記MCPを円周方向および半径方向のいずれか1方向以上に複数に分割し、分割検出・増幅可能にしたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電子検出装置。
【請求項6】
前記MCPを前記2次電子発生板の方向に傾けたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載に電子検出装置。
【請求項7】
前記MCPをAPDに置き換えたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の電子検出装置。
【請求項8】
前記2次電子発生板と前記MCPとの組を、前記1次電子ビームの軌道に同軸に2組設け、内側の1組で試料から放出された反射電子を検出・増倍し、外側の1組で試料から放出された前記第1の2次電子を検出・増倍することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の電子検出装置。
【請求項9】
電子を試料に照射して当該試料から放出あるいは反射された電子を検出・増幅する電子検出方法において、
所定加速電圧のエネルギーを有する1次電子ビームを細く絞って試料に照射する磁界型の対物レンズと、
前記細く絞られた1次電子ビームを試料上で走査するように当該1次電子ビームを偏向する偏向装置とを設け、
2次電子発生板は、第1の2次電子を加速して吸引して衝突させるものであって、前記1次電子ビームを前記試料の方向に通過させる穴を有し、前記細く絞られた1次電子ビームを前記試料に照射して走査した際に放出された第1の2次電子を加速する正の第1の加速電圧を印加し、かつ前記磁界型の対物レンズの磁界の作用により前記試料から放出された前記第1の2次電子を軸上を螺旋回転しつつ前記第1の加速電圧の印加された方向に向けて加速すると共に該第1の加速電圧で加速された第1の2次電子が衝突したときに増倍された第2の2次電子を発生させ、
MCPは、前記第2の2次電子を加速して吸引して衝突させるものであって、前記1次電子ビームを前記試料の方向に通過させる穴を有すると共に前記第1の2次電子を前記2次電子発生板の方向に通過させる穴を有し、前記2次電子発生板で前記増倍された第2の2次電子を加速する正の第2の加速電圧を印加すると共に該第2の加速電圧で加速されて増倍された2次電子を更に増倍し、
アノードは、前記MCPで増倍された2次電子を検出する
ことを特徴とする電子検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子を試料に照射して当該試料から放出あるいは反射された電子を検出・増幅する電子検出装置および電子検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡は試料(サンプル)に細く絞った電子ビームを照射して発生する2次電子あるいは反射電子などの信号電子を検出・増幅して当該試料の画像を形成し、ミクロンあるいはナノの世界を観察あるいは計測する技術である。
【0003】
高画質の画像を得るためには、信号電子を高いSNRで検出・増幅することが非常に大事である。電子はいわゆる素粒子の1つであり、電子の電荷量は1.6x10のマイナス16乗クーロンと非常に小さいため、個々の電子を検出するためには、ノイズなしに非常に大きな増幅を行う必要がある。
【0004】
電子を検出・増幅するために、超低ノイズで非常に高い増幅率を有する電気素子として、MCP(マルチチャンネルプレート)が広く使われている。MCPはレンコンの薄切りのような形状を有する高抵抗鉛ガラスから出来た厚み1mm程度の薄い板であり、チャンネルと呼ばれる数ミクロンの穴が無数に並んでいる。真空中にてMCPの両端に数KVの電圧を印加すると、MCPの一方の面から入射した電子はチャンネル内部で起こる雪崩現象によって増倍され、もう一方の面から放出される。放出された電子をアノードで回収して電流に変換することにより増幅が実現する。MCP、1枚当たり1000倍以上の増幅が可能であり、複数枚のMCPを使う多段に構成し、10の7乗以上の増倍を実現することが出来る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、MCPのチャンネルを形成するガラス壁には厚みがあるため、 MCP端面の総面積は穴の面積と壁の面積の総和からなる。つまり、MCPに向かった電子の有る部分は壁に衝突し、検出されない。MCP総面積に占める穴の割合が開口率である。MCPは大凡60%の開口率を有する。
【0006】
MCPのチャンネルに入射した電子の約50%が実質的に増幅に寄与するとされるため、最終的な信号電子の最大検出効率は30%以下となってしまうのが現状である。
【0007】
MCPで増幅された信号は電流アンプで増幅される。電流アンプは大きな電流ノイズを持つため、SNRをアンプによって劣化させないためにはそのノイズに比べて十分に大きな信号を入力する必要がある。一方、画像の本来的なSNRは1画素を構成する電子の個数の平方根で決まるため、検出する電子の数が減少するとそれに伴ってSNRが劣化する。
【0008】
入射する電子が1000個以上と十分に多いときはMCPの検出率が30%と低くても電流アンプ増幅後の画像SNRを10以上に保つことが可能で実用上十分高画質が得られる。
【0009】
しかしながら、走査型電子顕微鏡のように、nmオーダーに細く絞った電子ビームを走査(例えばデジタル走査)しながら発生する電子を検出・増幅する用途では、1ピクセルあたりに発生する電子数は100個以下と非常に少ないため、検出効率が低いと、画像を形成する元信号のSNRが10よりも極端に低くなり、そのままでは実用に耐えないという問題がある。
【0010】
1ピクセル当たりの照射電子量を増加すれば、画質向上が可能であるが、そのためにはさらに高い電子密度の電子ビームを照射する必要がある。電子ビームを細く絞る対物レンズには収差がある上、電子ビームは負電荷をもち、互いに反発しあう性質があるため、安定した観察に必要な低い加速電圧で無暗に電流密度を上げることは技術的に困難である。さらに、電子ビームの大量照射は、測定対象と反応を起こして変質、帯電によって発生する大きな電位差がダメージを与えるため、照射量の増大には限界がある。
【0011】
試料に照射する電子ビームの電流を増加させずにSNRを上げる方法としては、何度も同じ場所を走査して画像蓄積を行う方法もあるが、蓄積回数に比例してスループットが低下するため、高速が要求される場合(例えばマスクのパターンの測長、欠陥検査等の場合)には使えない。
【0012】
以上の理由で、出来るだけ少ない電子ビーム量で高速に所望の画像が形成できるように、信号電子(2次電子、反射電子等)の検出効率向上が望まれている。
【0013】
また、リターディング法によって照射電子ビームエネルギーを変えると、発生する2次電子のエネルギーが変化して検出効率が変化するため、照射電子ビームエネルギーが変化しても、2次電子の検出効率が変化しないことが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述したMCPの電子検出・増幅素子の開口率等による検出損失による影響を低減し、更に、検出・増幅率を向上させることに特徴がある。
【0015】
そのため、本発明は、電子照射によって発生した2次電子等をMCP等に入射前に2次電子発生板で増倍することによってMCP等に入射する信号電子数を増大し、MCP等の開口率制限による信号電子検出損失を十分補償して実質的に信号電子欠落が起こらないようにすると共に、増幅率を向上させることを目的とする。
【0016】
また、同時に、電子増倍板の応用として試料で生じた2次電子、反射電子等のエネルギーの違いによって軌道が変化することを利用して、2次電子と反射電子等とを分離して同時検出を実現することを目的とする。
【0017】
そのために、本発明は、電子を試料に照射して当該試料から放出あるいは反射された電子を検出・増幅する電子検出装置において、所定加速電圧のエネルギーを有する1次電子ビームを細く絞って試料に照射する磁界型の対物レンズと、細く絞られた1次電子ビームを試料上で走査するように1次電子ビームを偏向する偏向装置と、1次電子ビームを試料の方向に通過させる穴を有し、かつ細く絞られた1次電子ビームを試料に照射して走査した際に放出された第1の2次電子を加速する正の第1の加速電圧を印加すると共に第1の加速電圧で加速された第1の2次電子が衝突したときに増倍された第2の2次電子を発生させる2次電子発生板と、1次電子ビームを試料の方向に通過させる穴を有すると共に第1の2次電子を2次発生板の方向に通過させる穴を有し、かつ2次電子発生板で増倍された第2の2次電子を加速する正の第2の加速電圧を印加すると共に第2の加速電圧で加速された増倍された2次電子を更に増倍するMCPと、MCPで増倍された2次電子を検出するアノードとを備える。
【0018】
この際、2次電子発生板の1次電子ビームが通過する穴の部分に、試料から放出された第1の2次電子が1次電子ビームの走行経路の逆方向への走行を抑止する負の電圧を印加した、中心に1次電子ビームが通過する穴を有するリペラー電極を設けるようにする。
【0019】
また、2次電子発生板に第1の2次電子が衝突して第2の2次電子を発生させる面を、1次電子ビームの走行方向に対して凸状にし、第2の2次電子の増倍効率を高めるようにする。
【0020】
また、2次電子発生板の表面に短冊状、針円周状、あるいは粒子状の2次電子放出材料を形成するようにする。
【0021】
また、MCPを円周方向および半径方向のいずれか1方向以上に複数に分割し、分割検出・増幅可能にする。
【0022】
また、MCPを2次電子発生板の方向に傾けるようにする。
【0023】
また、MCPをAPDに置き換えるようにする。
【0024】
また、2次電子発生板とMCPとの組を、1次電子ビームの軌道に同軸に2組設け、内側の1組で試料から放出された反射電子を検出・増倍し、外側の1組で試料から放出された第1の2次電子を検出・増倍するようにする。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、電子照射によって発生した2次電子を2次電子発生板に衝突させてMCP等に入射前に増倍することによってMCP等に入射する信号電子数を増大し、MCP等の開口率制限による2次電子検出損失を十分補償して実質的に信号電子欠落が起こらないようにすると共に、増幅率を向上させることが可能となる。
【0026】
1次電子のランディグエネルギーと独立に2次電子発生板に入射するエネルギーを決められるので、リターディング方式を行ってもランディグエネルギーとは独立に2次電子検出効率を一定に保つことが可能となる。
【0027】
また、同時に、試料から放出、反射された2次電子、反射電子のエネルギーの違いによって軌道が変化することを利用して、2次電子と反射電子とを分離して同時検出を実現することが可能となる。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明の1実施例構成図を示す。
【0029】
図1において、1次電子ビーム1は、図示外のTFEエミッター等の電子銃、集束レンズ、偏向装置、および図示の対物レンズ2などから構成される鏡筒によって発生され、試料(サンプル)3の表面を照射しつつ平面走査(X方向、Y方向の走査)し、2次電子、反射電子を発生させるものである。発生された2次電子、反射電子は、2次電子発生板6で増倍され、更に2次電子発生板6に対向配置されたMCP7で検出・増幅され、図示外のディスプレイ上に画像(2次電子画像、反射電子画像など)を表示する。
【0030】
対物レンズ2は、図示外の集束レンズで数百ミクロン程度に集束された1次電子ビーム1を、試料3の表面においてnmオーダーに細く絞るためのものであって、ここでは、磁界型の対物レンズである。磁界型の対物レンズ2を用いたため、試料3の表面に細く絞った1次電子ビームで平面走査したときに放出された2次電子等は当該対物レンズ2の強磁界によって後述する図9に示すように軸上をらせん運動しながら、上方(1次電子ビーム1の照射方向と逆方向)に走行し、リペラー電極5に印加された負電圧によりその上方への走行が阻止されて外側にそれて、正の電圧の印加された2次電子発生板6に向けて走行し、衝突して第2の2次電子を発生する。
【0031】
試料3は、観察、測長の対象となる試料(サンプル)である。
【0032】
第1の2次電子4は、1次電子ビーム1を平面走査した試料3(電位V2)から放出された2次電子である。
【0033】
第2の2次電子41は、2次電子発生板6から放出された2次電子である。
【0034】
リペラー電極5は、負の電圧を印加し、第1の2次電子4などが軸上を上方向に走行するのを阻止するものである。
【0035】
2次電子発生板6は、第1の2次電子4などが衝突して第2の2次電子41を発生させ、電子増倍させるためのものである。
【0036】
MCP7は、第2の2次電子41を検出・増幅するものである。
【0037】
V1,V2,V3,V4は、1次電子ビーム1、試料3、2次電子発生板6、MCP7の電圧あるいは印加した電圧である(図1図4等参照)。ここで、V3−V2は第1の加速電圧に相当し、V4−V3は第2の加速電圧に相当する。
【0038】
次に、図1の構成の動作を詳細に説明する。
【0039】
(1)1次電子ビーム1はTFEエミッター等の電子銃から放出された電子ビームを加速した後、試料3の表面を2次元走査するために偏向装置にて偏向され、2次電子発生板6、MCP7の空間を通過後、最終的に対物レンズ2によって必要なビームスポットサイズに絞られて試料3の表面に照射される。
【0040】
(2)試料3に照射した1次電子ビーム1によって生じる2次電子、反射電子は試料3と電子増倍板6との間に与えられた数百ボルトのバイアス電圧(第1の加速電圧=V3−V2)により加速されコラム上方に移動する。この電圧バイアスは、1次電子ビーム1のランディング電圧とは独立に制御できるため、2次電子発生板6に入射する電子のエネルギーは常に2次電子放出効率が高い最適値に保たれる。
【0041】
(3)MCP7には1次電子ビーム1が通過するための穴が中心に開いているため、試料3に垂直に上昇してきた2次電子等の成分は検出できない。そこで、試料3に垂直方向に発生した2次電子等の成分を検出するために、リペラー電極5を設け、その先端部に数百ボルトの電圧を加えることにより、電位障壁を作り、数百ボルト以下のエネルギーを持つ電子がMCP7の穴(軸上にある穴)を突き抜けて上方に行かないようにする。リペラー電極5に加えた電圧よりも小さなエネルギーを持つ2次電子等は穴を通過するのを阻止されMCP7の方に向かうため検出できるようになる。リペラー電極5の電圧を高くすることにより、より高いエネルギーを有した2次電子等を検出可能になるが、1次電子ビーム1のエネルギーに匹敵するほど大きくすると、1次電子ビーム1の軌道が変化し、正しい1次電子ビーム1の照射が出来なくなる恐れがあるため、リペラー電極5に加えることのできる電圧は1次電子ビーム1のエネルギーと比較して十分に小さな電圧が利用される。リペラー電極5の穴および形状は1次電子ビーム1に影響しないように正確に軸対称に作る必要があり、かつ、1次電子ビーム1が穴の中心を通過するように設計することが必要である。また、1次電子ビーム1が大きく偏向された後にリペラー電極5の内部を通過するため、1次電子ビーム1を最大に偏向した際に1次電子ビーム1がリペラー電極5の内側に衝突しない大きさが必要である。
【0042】
(4)鏡筒(コラム)を上方に移動した2次電子等は電子増倍板6に衝突する。電子増倍板6に衝突した2次電子等(第1の2次電子41)は元の数よりも多い第2の2次電子を発生させる。発生した第2の2次電子41を電子増倍板6とMCP7との間に加えられたバイアス電圧(第2の加速電圧=V4−V3)によってMCP7に入射させ所望の増幅を行い電流信号として図示外のアノードより取り出す。取り出した信号は電流アンプに供せられ、A/D変換装置を介してコンピュータにデジタル信号として取り込まれる。種々の画像処理を行った後、所望のサイズ、デプスを有する画像としてディスプレイ上に表示、あるいは画像情報として記憶デバイスに記憶される。
【0043】
(5)電子増倍板6は導電性の板の表面に高い2次電子発生効率(2から20程度)を有する材料を被覆したものである。導電性の板は低抵抗の金属が望ましいが、nA以下の非常に小さな電流を増倍するために使用するので、本発明の目的を達成するためには、完全な絶縁体でない限りメガΩのように抵抗値が高くても利用できる。高い2次電子発生効率を持つ材料としては、MgOをはじめ、BaO、MgF5Cu−BeO,Cu−BeO6,2Ag−MgO−CS9,2Cs−Sb,10GaP−Cs20〜40等が利用できる。例えばMgO薄膜などを用いた場合7倍程度の増倍率が得られる。
【0044】
大きな2次電子放出効率を持つ2次電子放出材料は一般的に絶縁体が多い。従って、厚い膜を電子増倍板表面に設けると電気抵抗値が非常に大きくなり、大きな信号を取り出すことが出来ない。そこで、電子増倍板6の表面に設ける膜は2次電子放出比が大きく、トンネル効果によって電子が絶縁膜表面にアノードから供給されるように、数十nm以下の厚みであることが望ましい。2次電子放出材料に導電性があれば尚良い。導電性材料を混ぜたコンポジット材料を用いることが出来る。
【0045】
(6)尚、電子増倍板6は図示したように2次電子等の方向に対して垂直に成らないように傾けて設置することが望ましく、垂直に配置した場合と比較してさらに電子放出量を増すことが出来る。
【0046】
電子増倍板から放出した2次電子のエネルギーは数eVと低いので、そのままでは、再度電子増倍板6に戻って吸収されてしまい、増倍作用が起こらない。そこで、発生した2次電子を効率よくMCP7に入射できるように、電子増倍板6とMCP7の入力端との間に数百ボルトの電位差(第2の加速電圧=V4−V3)を与える。MCP7の検出効率が最大となる入射エネルギーがあるので、その値になるように調整することが望ましい。
【0047】
MCP7に入力された電子はMCP7両端に加えられたバイアス電圧によって電子増倍が起こり、MCP7のアノードから信号電流が出力される。
【0048】
(7)本発明を利用すると以下の利点が発生する。
【0049】
例えば、超高速検査の際に実際に起こる極端な例としてサンプルへの電子ビーム走査によって1ピクセル当たり1個あるいは0個の電子が発生したとする。通常のMCPでは、MCPに入射した電子の3割以下しか信号検出できないので、約1個あるいは0個の電子は検出されず、画像信号は0になる。従って、画像にはアンプ等のノイズだけが現れる。
【0050】
一方、本発明の電子増倍板6を用いると、約7倍の電子数増加が起こるため、MCP7に供せられる電子数は1ピクセル当たり7個あるいは0個となり、その内3割の2個あるいは0個が検出されるため、画像形成をすることが出来る。
【0051】
このように本発明を利用すると、従来では画像形成さえ出来ない電子ビーム照射条件下でさえ画像を形成することが可能となり、超高速電子ビーム走査をしたような場合でさえ、品質の高い画像を得ることができる
【0052】
図2は、本発明の1実施例構成図(その2)を示す。図2は、図1のMCP7を円周方向および半径方向に分割し、かつ斜めに傾斜して2次電子検出効率を向上させた実施例を示す。他の構成は、図1と同一であるので、説明を省略する。
【0053】
図2において、MCP7は、図示のように、2次電子発生板6から放出された第2の2次電子41の方向に、当該MCP7のチャネルの穴(表面に垂直に穴がある)の開口数が最大となる方向に傾斜したものである。更に、MCP7は、半径方向、および円周方向に複数に分割、例えば2×4の合計8個に分割され、それぞれ独立に第2の2次電子を検出・増幅することが可能な構造となっている。これにより立体的な信号を検出できるようになる。
【0054】
尚、MCP7は通常は1枚で構成するが、機械的に分割した各個別のMCP7の素子を保持具に固定して構成してもよい。
【0055】
以上のように、MCP7を傾斜したことにより、2次電子発生板6でプリ増倍した第2の2次電子41を最大開口率で検出・増幅することが可能となる。
【0056】
図3は、本発明の説明図を示す。
【0057】
図3の(a)は、効率∝材料の2次電子放出効率×入射角度(Cosθ)・・(式1)を示す。
【0058】
この(式1)の「効率」は、1次電子ビーム1が試料3を照射したとき、あるいは第1の2次電子4が2次電子発生板6、第2の2次電子41がMCP7に衝突したときに、放出される2次電子発生効率を表すものであって、「材料の2次電子放出効率」と「入射角度(Cosθ)」との積で求められるものである。
【0059】
・「材料の2次電子放出効率」は、電子ビーム1が2次電子発生板6の表面に垂直入射した際の2次電子発生効率であって、例えば図3の(b)に示すような特性を有するものである。すなわち、入射エネルギーeVが0Vから約300Vまでは2次電子発生効率が徐々に大きくなり、約300Vで最大値を有し、それよりも高くなると徐々に小さくなる傾向を有するものである。約300Vよりも高くなると、表面から深く浸透して発生した2次電子が表面から放出されなくなるからである。
【0060】
・「入射角度(Cosθ)」は、電子ビームが2次電子発生板6に衝突(入射)する角度である。入射角度が小さいほど大きな値(発生効率が大)となるものである。
【0061】
したがって、2次電子発生効率を高めるには、例えば試料3から放出された第1の2次電子4が2次電子発生板6に衝突する角度が小さいほどよいが、あまり小さくすると衝突できないおそれがあるので、両者を考慮して図1図2ではθ=約45度としている(実際には実験で最大効率の角度θを求めて設定する)。
【0062】
図4は、本発明の説明図(その2)を示す。これは、図1図2のV1(1次電子ビーム1の電位)、V2(試料3の電位)、V3(2次電子発生板6の電位)、V4(MCP7の電位)の電位関係を模式的に示したものである。ここでは、V2=0Vとしている。
【0063】
図4において、
・V1=1.5KV:1次電子ビーム1の電位V1が1.5KVを表す。
【0064】
・V2=0付近:試料3の電子V2が0Vを表す。
【0065】
・V3=0.3KV:2次電子発生板6の電位V3が0.3KVを表す。
【0066】
・V4=0.4KV:MCP7の電位V4が0.4KVを表す。
【0067】
以上の関係から、試料3と2次電子発生板6との間にはV3−V2=0.3KVの第1の加速電圧、2次電子発生板6とMCP7との間にはV4−V3=0.4KV−0.3KV=0.1KVの第2の加速電圧が印加されていることとなる。例えばリターディング法のように試料電位V2が変われば自動的にV3を変化させることにより、2次電子発生板6に入射される2次電子Mのエネルギーは一定に保持される。
【0068】
以上の関係から、試料3から放出された第1の2次電子4は第1の加速電圧で2次電子発生板6に向けて加速され、2次電子発生板6で発生した第2の2次電子41は第2の加速電圧でMCP7に向けて加速されることとなる。
【0069】
図5は、本発明の1実施例構成図(その3)を示す。図5は、図1中のMCP7の代わりにAPD(アバランシェフォトダイオード)8を用いた構成例を示す。他は、図1と同一であるので説明を省略する。
【0070】
図5において、APD8は、第2の2次電子41を検出・増倍するものである。APD8は、図1のMCP7とその構造が異なり、チャンネルが無いので、原理上、開口率が100%に出来るが、APD8には外部回路とやり取りするための端子やAPD8としては動作しない周辺部があるため、信号となる電子をAPD8の有効部に全て照射出来ない場合がある。そこで、2次電子発生板6に第1の2次電子4(あるいは反射電子)を衝突させて電子数を増倍した後に、APD8に入射することで、開口損失を補償して検出効率を上げることが可能となる。
【0071】
APD8を用いた場合は、APD8に入射した電子が増倍しやすいように2次電子発生板6とAPD8との間に加える電位差を2kV程度ないしそれ以上にすることが望ましい。
【0072】
以上のように、図1から図5のMCP7の代わりにAPD8を用いることにより、MCP7のチャネル開口率が低いことによる信号損失を低減し、2次電子を効率的に検出・増倍することが可能となる。
【0073】
図6は、本発明の1実施例構成図(その4)を示す。図6は、試料3に1次電子ビーム1の照射を行った際に発生する信号電子のうちエネルギーの低い第1の2次電子4と、1電子ビーム1とほぼ同じエネルギーを有する反射電子42とを区別して増倍検出する例を示す。
【0074】
エネルギーの低い第1の2次電子4の検出・増倍は図示のように、2次電子発生板61とMCP71で行い、エネルギーの高い反射電子42の検出・増倍は図示のように、2次電子発生板62とMCP72で行う。
【0075】
(1)エネルギーの低い2次電子(第1の2次電子)4は、0から100eV程度の低いエネルギーを持つ2次電子であって、試料3の表面であらゆる方向に向いて発生する。発生した2次電子(第1の2次電子)4は、鏡筒(コラム)の上方に向かう電位差(V3−V2=第1の加速電圧)により加速されて上昇する。横方向の速度成分を有するため、上昇に伴い円錐状に広がっていく。2次電子4の中で横方向エネルギーの大きなものは円錐の外周部に集まり、横方向エネルギーの低いものは中心部にあつまる。
【0076】
(2)一方、軸方向にエネルギーの高い電子(反射電子42)は、光が鏡で反射するように1次電子ビーム1が試料3の表面で反射したもので、エネルギーは1次電子ビーム1と同じ程度に高い。実際には1次電子ビーム1が少し試料3に潜った所で反射電子が発生するため、散乱方向やエネルギーが少し変わり、僅かに広がりながら、ほぼ垂直に鏡筒(コラム)を登って行く。もちろん、傾斜をもつ試料から生じる反射電子は傾斜面に依存した方向に散乱されるが、ここでは、真っ直ぐ戻ってくる反射電子を取り扱う。
【0077】
以上の性質を利用すると、2次電子(第1の2次電子)4の横方向エネルギーの区別あるいは2次電子と反射電子42とを区別して検出・増倍することが可能となる。
【0078】
(3)次に、2次電子検出を行うために、2次電子検出・増倍用の2次電子発生板62,61は図示のように1次電子ビーム1の軸から少し離れた場所に円環状に配置する。試料3の表面で発生した第1の2次電子4は試料3と2次電子増倍板61との間に与えられた300V程度の電位差(第1の加速電圧)により加速され、円環状に配置された2次電子増倍板61に衝突し大量の2次電子(第2の2次電子)41を発生する。発生した第2の2次電子41は2次電子増倍板61とMCP71との間に与えられた電位差(V4−V3=第2の加速電圧)によって加速され、MCP71に入射し増倍され電気信号となる。
【0079】
(4)一方、試料3で反射した反射電子42は1次電子ビーム1の軸に近い場所を通過するため、2次電子増倍板62は出来る限り1次電子ビーム1の軸に近づけて図示のように配置する。発生した反射電子42はほぼ1次電子ビーム1のエネルギーを持って上昇するが、2次電子発生板62の電位を制御することによって2次電子を発生するために最適なエネルギーで2次電子発生板62に衝突し大量の第2の2次電子43を発生する。発生した第2の2次電子43は2次電子発生板62とMCP72との間に与えられた電位差(V6−V5)によって吸引されてMCP72に入射し、MCP72にて増倍され電気信号に変換される。
【0080】
以上のようにして、試料3に1次電子ビーム1を照射して平面走査した際に発生した低いエネルギーの第1の2次電子4および高いエネルギーの反射電子42をそれぞれ独立に増倍・検出することが可能となる。尚、反射電子の検出をより確実にするために、1次電子ビーム1の入射角を少し傾斜させて、反射電子がしっかりと反射板にあたるようにすることもできる。あるいは、反射電子用の2次電子発生板62をリペラー電極5の内側にまで張り出してもよい。
【0081】
図7は、本発明の説明図(その3)を示す。図7は、図6の第1の2次電子4および反射電子42を増倍するときの加速電圧の例を模式的に示す。これは、図6のV1(1次電子ビーム1の電位)、V2(試料3の電位)、V3(2次電子発生板61の電位)、V4(MCP71の電位)、V5(2次電子発生板62の電位)、V6(MCP72の電位)の電位関係を模式的に示したものである。ここでは、V2=0Vとしている。
【0082】
図7において、
・V1=1.5KV:1次電子ビーム1の電位V1が1.5KVを表す。
【0083】
・V2=0付近:試料3の電子V2が0Vを表す。
【0084】
・V3=0.3KV:2次電子発生板61の電位V3が0.3KVを表す。
【0085】
・V4=0.4KV:MCP71の電位V4が0.4KVを表す。
【0086】
・V5=1.5KV:2次電子発生板62の電位V5が1.5KVを表す。ここでは、反射電子42(1次電子ビーム1の電子とほぼ同じ)が衝突するので、1次電子ビーム1の電位とほぼ同じ(若干低い)としたものである。尚、V5は、反射電子42(1次電子ビーム1の電位1.5KV)が衝突して2次電子を発生させればよいので、0ないし1.5KVの範囲内のいずれの電位でも良いが、望ましくは2次電子発生効率が最良となる約300V(図3参照)が良い。
【0087】
・V6=2.0KV:MCP71の電位V4が2.0KVを表す。
【0088】
以上の関係から、試料3と2次電子発生板61との間にはV3−V2=0.3KVの第1の加速電圧、2次電子発生板61とMCP71との間にはV4−V3=0.4KV−0.3KV=0.1KVの第2の加速電圧が印加され、それぞれ加速されることとなる。
【0089】
同様に、試料3と2次電子発生板62との間にはV5−V2=1.5KV(望ましくは2次電子発生効率が最大となる約300V(図3参照))の第1の加速電圧、2次電子発生板62とMCP72との間にはV6−V5=0.5KVの加速電圧が印加され、加速されることとなる。
【0090】
図8は、本発明の1実施例構成図(その5)を示す。図8は、MCP7の中心部に設けたリペラー電極5と呼ばれる、電極が長く伸びて、先端が小さく蕾んでいる実施例を示す。
【0091】
図8に示すように、電子ビーム走査を行う偏向系(電子ビーム偏向装置)9が備わっており、1次電子ビーム1を偏向し試料3の表面を2次元走査(X方向およびY方向に走査)する。1次電子ビーム1の太さは精々100ミクロン程度のオーダーであるが、電子ビームを走査した際に対物レンズ2で発生する収差を小さくするために、対物レンズ2の中心を1次電子ビーム1が通過するように2段偏向する。2段偏向を行った場合、図に示したように、MCP7を通過する1次電子ビーム1は最大数mmと大きく振られた状態にあるため、MCP7の内壁に衝突しないように比較的大きな穴が開いている。
【0092】
振られた1次電子ビーム1は最終的には数nmの大きさに絞られるため、試料3に向かって、円錐状に1次電子ビーム1の軌跡範囲は小さくなる。つまり、MCP7に近い場所では1次電子ビーム1の走査に影響しないように大きな開口が必要であるが、対物レンズ2に近づくにつれて、1次電子ビーム1の走査に必要な軌跡範囲は狭くなるため、小さな開口にしても1次電子ビーム1の走査を妨げないように出来る。
【0093】
本実施例では、MCP7から細長くリペラー電極5が対物レンズ2の方向(軸上の方向)に延び、先端が小さくなっている。このリペラー電極5には数百ボルトの負電圧が掛かっており、試料3の表面で発生した2次電子(第1の2次電子)4が穴の中心部(軸上の穴)を抜けて行ってしまうのを阻止している。発生した第1の2次電子4は鏡筒(コラム)の上方に行くにつれ加速するためエネルギーが高く成る。2次電子4が発生した直後であれば、加速が十分でないので小さなエネルギーで穴を通り抜けてしまうのを防止できる。
【0094】
本実施例では、2次電子発生地点に近い位置にリペラー電極5を配置し、穴の大きさを、数百ミクロンまで小さく出来るので、試料3で発生した2次電子4が穴を抜けて行くのを確実に防止できる。
【0095】
図9は、本発明の説明図(その4)を示す。図9は、図8のリペラー電極5の先端部分における2次電子(第1の2次電子)4の振る舞いを模式的に示したものである。
【0096】
図9において、試料3の表面に1次電子ビーム(例えば1.5KV)1を照射しつつ平面走査した際に、2次電子(第1の2次電子)4が放出され、対物レンズ2の強磁界により図示のように軸上を螺旋状に回転しながら上方向の図示外の第1の加速電圧の印加された2次電子発生板6に向けて吸引される。この際、試料3から放出された2次電子(第1の2次電子)4の可及的に近い、いまだ加速されていない部分に図示の先が少し細くなった円筒状のリペラー電極5を配置して負の電圧(例えばー100V)を印加することで、効率的に当該第1の2次電子4は軸上からそれた当該リペラー電極5の外側に押しやり、図示のような軌道を上方向に配置した図示外の2次電子発生板6に向けて加速し、衝突して2次電子(第2の2次電子41)を発生させることが可能となる。
【0097】
図10は、本発明の説明図(その5)を示す。図10は、2次電子発生板6の表面の構造例を模式的に示す。
【0098】
図10において、2次電子発生板6上では、電子(第1の2次電子4、反射電子41等)は物質に照射されると深く潜り込み散乱を起こす。散乱した電子のうち物質の表面から10nm程度の距離にある電子が、物質外部に2次電子として取り出される。そのため、試料3に垂直に電子ビームを照射した場合よりも、斜め方向から照射した場合の方が沢山の2次電子が放出される。図10はこの性質を利用して沢山の2次電子を2次電子発生板6から放出させる方法の例を示す。
【0099】
図10の(a)は、2次電子発生板6の表面に短冊状材料を設けてこの上に電子増倍膜を形成した例を示す。この例では、短冊状(柱状)構造を持つ例えばカーボンナノチューブの材料の上に電子増倍材料を形成した例(形成、塗布等)を示す。カーボンナノチューブはその名が示す通り、数nmから数十nmの穴径を持つ柱状物質である。現在では、容易に特定の方向に配向したカーボンナノチューブのシートを作ることが可能である。カーボンナノチューブ自身あるいはその表面に電子放出材料を被覆することで、沢山の2次電子を放出させることが可能となる。
【0100】
図10の(b)は、2次電子発生板6の表面に針円周状材料を設けてこの上に電子増倍膜を形成した例を示す。図示の針状の材料を表面に設けてこの上に電子増倍膜を形成したので、物質に入射した電子から表面までの距離が短くなるため、内部散乱した2次電子が沢山外部に放出させることが可能となる。
【0101】
図10の(c)は、2次電子発生板6の表面にナノオーダーの粒子状材料を設けてこの上に電子増倍膜を形成した例を示す。図示の粒子状の材料を表面に設けてこの上に電子増倍膜を形成したので、物質に入射した電子から表面までの距離が短くなるため、内部散乱した2次電子を沢山外部に放出させることが可能となる。尚、ナノ粒子そのものを電子増倍材料から形成してもよい。
【0102】
以上のような2次電子発生板6の構造を採用すると、当該2次電子発生板6を入射する第1の2次電子4、反射電子42に対して傾斜しなくても電子増倍効率を高めることが可能となる。
【0103】
図11は、本発明の説明図(その6)を示す。図11は、図10の2次電子発生板6の表面の1部を拡大し、2次電子の発生・放出の様子を模式的に表したものである。加速された第1の2次電子4(あるいは反射電子42)が2次電子発生板6の表面の図9のいずれかの形状の材料に照射(衝突)すると、2次電子が放出される。2次電子の発生は、材料の表面近傍で発生したもののみが外部に放出されるので、材料に垂直に入射するよりも斜めに入射した方が効率的に放出される(Cosθに比例)。図11に図示のように突起(短冊状、針状、粒子状など)に加速された第1の2次電子4が入射すると、その反射方向を中心にガウス分布で2次電子が放出されるので、可及的に材料の斜め方向が入射させ、2次電子発生効率を高めることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0104】
図1】本発明の1実施例構成図である。
図2】本発明の1実施例構成図(その2)である。
図3】本発明の説明図である。
図4】本発明の説明図(その2)である。
図5】本発明の1実施例構成図(その3)である。
図6】本発明の1実施例構成図(その4)である。
図7】本発明の説明図(その3)である。
図8】本発明の1実施例構成図(その5)である。
図9】本発明の説明図(その4)である。
図10】本発明の説明図(その5)である。
図11】本発明の説明図(その6)である。
【符号の説明】
【0105】
1:1次電子ビーム
2:対物レンズ
3:試料
4:第1の2次電子
41、43:第2の2次電子
42:反射電子、
5:リペラー電極
6,61,62:2次電子発生板
7,71.72:MCP
8:APD
9:偏向系
10:2次電子放出材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11