(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6742017
(24)【登録日】2020年7月30日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】スパッタ付着防止具
(51)【国際特許分類】
B23K 9/32 20060101AFI20200806BHJP
【FI】
B23K9/32 E
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-121691(P2016-121691)
(22)【出願日】2016年6月20日
(65)【公開番号】特開2017-64780(P2017-64780A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2019年5月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-191561(P2015-191561)
(32)【優先日】2015年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花田 優介
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 貴広
【審査官】
竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−507364(JP,A)
【文献】
特開平9−300081(JP,A)
【文献】
特開2014−217859(JP,A)
【文献】
特開平10−216948(JP,A)
【文献】
特表2001−514579(JP,A)
【文献】
特開2010−247208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 − 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接時に飛散するスパッタが部材の所定箇所に付着するのを防止するスパッタ付着防止具において、
上記部材の所定箇所を覆う第1覆い部と、
上記第1覆い部を覆う筒状の第2覆い部とを備え、
上記第1覆い部は、上記第2覆い部の内方に配置されて該第2覆い部の軸線方向に変位し、
上記スパッタ付着防止具が有するベース部材には、上記第2覆い部の内方において該第2覆い部の軸線方向に延びる軸部が取り付けられ、
上記第1覆い部は、板状に形成されるとともに、上記軸部が挿入される挿入孔を有し、
上記第1覆い部の上記挿入孔の内径は上記軸部の外径よりも大きく設定され、上記第1覆い部は上記第2覆い部の軸線に対して傾斜することを特徴とするスパッタ付着防止具。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタ付着防止具において、
上記第2覆い部は、周壁部と、該周壁部の軸線方向一端部に配置される端壁部とを有し、
上記第1覆い部と上記第2覆い部の上記端壁部との間には、上記軸線方向に弾性変形する弾性部材が介在していることを特徴とするスパッタ付着防止具。
【請求項3】
請求項2に記載のスパッタ付着防止具において、
上記第2覆い部の上記端壁部には、挿通孔が形成され、
上記軸部は、上記第2覆い部の挿通孔に挿通されて上記周壁部の軸線方向に突出することを特徴とするスパッタ付着防止具。
【請求項4】
請求項3に記載のスパッタ付着防止具において、
上記弾性部材は、上記第1覆い部の変位方向に縮むように配置されるコイルスプリングであり、
上記軸部は上記コイルスプリングの内方に挿入され、
上記コイルスプリングの一端部が上記第1覆い部に当接し、他端部は上記第2覆い部の上記端壁部に当接していることを特徴とするスパッタ付着防止具。
【請求項5】
請求項3に記載のスパッタ付着防止具において、
上記軸部には、該軸部が上記挿通孔から抜けるのを阻止するストッパ部材が設けられていることを特徴とするスパッタ付着防止具。
【請求項6】
溶接時に飛散するスパッタが部材の所定箇所に付着するのを防止するスパッタ付着防止具において、
上記部材の所定箇所を覆う第1覆い部と、
上記第1覆い部を覆う筒状の第2覆い部とを備え、
上記第1覆い部は、上記第2覆い部の内方に配置されて該第2覆い部の軸線方向に変位し、
上記スパッタ付着防止具が有するベース部材には、上記第2覆い部の内方において該第2覆い部の軸線方向に延びる軸部が取り付けられ、
上記第2覆い部は、上記軸部が挿入される挿入孔を有し、
上記第2覆い部の上記挿入孔の内径は上記軸部の外径よりも大きく設定され、上記軸部は上記第2覆い部の軸線に対して傾斜することを特徴とするスパッタ付着防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接作業中に周囲に飛散するスパッタが溶接箇所以外の部分に付着するのを防止するスパッタ付着防止具の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼材等からなる部材を溶接する際には、スパッタが溶接箇所の周囲に飛散して溶接箇所以外の部分に付着する。例えば、ネジ孔を有する部材を溶接する際には、スパッタがネジ孔の内面に付着することがある。こうなるとネジの螺合不良が起こってしまうので、溶接工程の後、ネジ孔の内面に付着したスパッタを除去するためにネジさらいを行う必要がある。
【0003】
また、例えば特許文献1に開示されているように、スパッタが被溶接部材に付着するのを防止するためのスパッタ付着防止シートが知られている。このスパッタ付着防止シートは、弾性を有する樹脂からなるものであり、被溶接部材の表面に貼り付けて使用する。
【0004】
また、溶接現場においては、例えば金属板からなるカバーや耐スパッタ用布等を、被溶接部材の表面を覆うように配置してスパッタの付着を防止することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−24114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、スパッタをネジ孔に付着させてしまうと上述したネジさらいを行わなければならず、特に1つの製品に複数のネジ孔が設けられる場合には、多大な作業工数が必要になるという問題がある。
【0007】
また、各種部材が締結される締結面にスパッタが付着した場合には、部材を狙い通りに締結するのが困難になるので、締結面からスパッタを除去しなければならず、多大な作業工数が必要になるという問題がある。
【0008】
そこで、例えば特許文献1の樹脂製のスパッタ付着防止シートや金属板製のカバー等を用意し、溶接前に、該シートやカバー等によって被溶接部材をその表面側から予め覆っておき、これにより、スパッタがネジ孔の内面や締結面に付着するのを防止することが考えられる。
【0009】
しかしながら、スパッタは広範囲に飛散するものなので、スパッタ付着防止シートや金属板製のカバー等によって被溶接部材の表面側を覆っておいたとしても、スパッタ付着防止シートや金属板製のカバー等と被溶接部材との間からスパッタがネジ孔に侵入して該ネジ孔の内面に付着してしまい、ひいてはネジさらいが必要になることがあり、また、スパッタが締結面に付着してスパッタの除去作業が必要になることがある。
【0010】
また、ネジ孔を有する部材には様々なサイズがあり、シートやカバー等で当該部材を有効に覆うためには、その部材のサイズに合わせた専用のシートやカバー等が必要になり、コスト高になるという問題もある。同様に、締結面の形状や大きさも様々であり、当該締結面を有効に覆うためには、その締結面に合わせた専用のシートやカバー等が必要になり、コスト高になるという問題もある。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、溶接時のスパッタが例えばネジ孔の内面や締結面等の所定箇所に付着するのを防止してスパッタの除去作業を不要にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明では、部材の所定箇所を第1覆い部によって覆うとともに、当該第1覆い部を第2覆い部によって覆うことにより、当該所定箇所にスパッタが付着しないようにした。
【0013】
第1の発明は、
溶接時に飛散するスパッタが部材の所定箇所に付着するのを防止するスパッタ付着防止具において、
上記部材の所定箇所を覆う第1覆い部と、
上記第1覆い部を覆う筒状の第2覆い部とを備え、
上記第1覆い部は、上記第2覆い部の内方に配置されて該第2覆い部の軸線方向に変位
し、
上記スパッタ付着防止具が有するベース部材には、上記第2覆い部の内方において該第2覆い部の軸線方向に延びる軸部が取り付けられ、
上記第1覆い部は、板状に形成されるとともに、上記軸部が挿入される挿入孔を有し、
上記第1覆い部の上記挿入孔の内径は上記軸部の外径よりも大きく設定され、上記第1覆い部は上記第2覆い部の軸線に対して傾斜することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、スパッタ付着防止具の第1覆い部により、例えばネジ孔の内面や締結面等の部材の所定箇所が覆われ、また、第2覆い部により第1覆い部が覆われる。このとき、第1覆い部が第2覆い部の軸線方向に変位することで、ネジ孔を有する部材のサイズが異なる場合であっても、第1覆い部によってネジ孔を有する部材を有効に覆うことが可能になる。これにより、広範囲に飛散するスパッタがネジ孔に侵入し難くなる。
【0015】
また、各種部材を締結する締結面をスパッタ付着防止具で覆うことも可能であり、この場合には、締結面にスパッタが付着するのを防止できる。
【0016】
また、第1覆い部の挿入孔に、ベース部材に取り付けられている軸部が挿入した状態で、挿入孔の内周面と軸部の外周面との間に隙間が形成されるので、第1覆い部が第2覆い部の軸線に対して傾斜可能になる。従って、第1覆い部によって覆われる部分が傾斜している場合には、その傾斜度合いに一致するように第1覆い部が傾斜するので、第1覆い部によりネジ孔や締結面等を確実に覆うことが可能になる。
【0017】
第
2の発明は、第1の発明において、
上記第2覆い部は、周壁部と、該周壁部の軸線方向一端部に配置される端壁部とを有し、
上記第1覆い部と上記第2覆い部の上記端壁部との間には、上記軸線方向に弾性変形する弾性部材が介在していることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、第1覆い部を押し付けることによってネジ孔や締結面等を覆う場合に、弾性部材の弾性変形によって第1覆い部が第2覆い部の軸線方向に変位することになる。第1覆い部が変位した後においては、弾性部材の弾性力によって第1覆い部を押し付けておくことが可能になる。これにより、ネジ孔や締結面等が第1覆い部によって確実に覆われるので、スパッタがネジ孔の内面や締結面等に付着し難くなる。
【0019】
第
3の発明は、第
2の発明において、
上記第2覆い部の上記端壁部には、挿通孔が形成され、
上記軸部は、上記第2覆い部の挿通孔に挿通されて上記周壁部の軸線方向に突出することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、軸部が第2覆い部の端壁部の挿通孔に挿通されているので、第1覆い部が第2覆い部の周壁部の軸線方向に変位する際に軸部によって案内される。これにより、第1覆い部が第2覆い部の内方でスムーズに変位可能になる。
【0021】
第
4の発明は、第
3の発明において、
上記弾性部材は、上記第1覆い部の変位方向に縮むように配置されるコイルスプリングであり、
上記軸部は上記コイルスプリングの内方に挿入され、
上記コイルスプリングの一端部が上記第1覆い部に当接し、他端部は上記第2覆い部の上記端壁部に当接していることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、軸部がコイルスプリングの内方に挿入されることでコイルスプリングの縮み方向と軸部の延びる方向とが略一致し、第1覆い部の変位をコイルスプリングが阻害することはない。これにより、第1覆い部が第2覆い部の内方でスムーズに変位可能になるとともに、コイルスプリングの弾性力が第1覆い部に確実に作用する。
【0023】
第
5の発明は、第
3の発明において、
上記軸部には、該軸部が上記挿通孔から抜けるのを阻止するストッパ部材が設けられていることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、軸部を挿通孔に沿って移動させることによって第1覆い部の変位を可能にしながら、軸部の挿通孔からの抜けが確実に阻止される。
【0025】
第
6の発明は、
溶接時に飛散するスパッタが部材の所定箇所に付着するのを防止するスパッタ付着防止具において、
上記部材の所定箇所を覆う第1覆い部と、
上記第1覆い部を覆う筒状の第2覆い部とを備え、
上記第1覆い部は、上記第2覆い部の内方に配置されて該第2覆い部の軸線方向に変位し、
上記スパッタ付着防止具が有するベース部材には、上記第2覆い部の内方において該第2覆い部の軸線方向に延びる軸部が取り付けられ、
上記第2覆い部は、上記軸部が挿入される挿入孔を有し、
上記第2覆い部の上記挿入孔の内径は上記軸部の外径よりも大きく設定され、上記軸部は上記第2覆い部の軸線に対して傾斜することを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、第2覆い部の挿入孔の内周面と軸部の外周面との間に隙間が形成されるので、軸部が第2覆い部の軸線に対して傾斜可能になる。従って、第2覆い部によって覆われる部分が傾斜している場合には、その傾斜度合いに一致するように第2覆い部が傾斜する。
【発明の効果】
【0027】
第1の発明によれば、ネジ孔や締結面等を覆う第1覆い部と、第1覆い部を覆う筒状の第2覆い部とを備え、第1覆い部を第2覆い部の内方に配置して軸線方向に変位可能にしたので、ネジ孔を有する部材のサイズが異なる場合であっても当該部材のネジ孔を有効に覆うことができ、また、締結面等の形状や大きさが異なる場合であっても当該締結面を有効に覆うことができる。これにより、溶接時に広範囲に飛散するスパッタがネジ孔に侵入し難くなるのでスパッタがネジ孔の内面に付着するのを防止でき、また、各種部材を締結するための締結面にスパッタが付着するのも防止できる。
【0028】
また、第1覆い部によって覆われる部分が傾斜している場合であっても第1覆い部によりネジ孔や締結面等を覆うことができる。
【0029】
第
2の発明によれば、第1覆い部と第2覆い部の端壁部との間に弾性部材を介在させたので、ネジ孔を有する部材のサイズが異なる場合に弾性部材を弾性変形させることによってそのサイズに対応させることができ、ネジ孔の開放側を確実に覆うことができる。また、形状の異なる締結面も覆うことができる。これにより、スパッタがネジ孔や締結面等に一層付着し難くなる。
【0030】
第
3の発明によれば、第2覆い部の端壁部に形成された挿通孔に軸部を挿通するようにしたので、第1覆い部を第2覆い部の内方でスムーズに変位させることができる。
【0031】
第
4の発明によれば、コイルスプリングの内方に軸部を挿入し、コイルスプリングの一端部を第1覆い部に当接させ、他端部を第2覆い部の端壁部に当接させるようにしたので、第1覆い部の変位をコイルスプリングが阻害することはなく、コイルスプリングの弾性力を第1覆い部に確実に作用させることができる。
【0032】
第
5の発明によれば、軸部を挿通孔に沿って移動させることによって第1覆い部を変位可能にしながら、軸部が挿通孔から抜けるのを阻止することができる。
【0033】
第
6の発明によれば、第2覆い部によって覆われる部分が傾斜している場合であっても第2覆い部によって当該部分を確実に覆うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施形態に係るスパッタ付着防止具の斜視図である。
【
図3】
図1におけるIII−III線断面図である。
【
図6】実施形態の変形例1に係る
図4相当図である。
【
図7】実施形態の変形例2に係る
図4相当図である。
【
図8】スパッタ付着防止具の別の使用例を説明する図であり、ナットのネジ孔を覆う前の状態を示す。
【
図9】スパッタ付着防止具の別の使用例を説明する
図5相当図である。
【
図10】変形例に係るスパッタ付着防止具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0036】
図1は、本発明の実施形態に係るスパッタ付着防止具1を示すものである。スパッタ付着防止具1は、
図5に示すネジ孔101を有する部材としてのナット100における当該ネジ孔101の内面(部材の所定箇所)に、溶接時に飛散するスパッタが付着するのを防止するために使用することができるとともに、図示しないが部材の締結面(部材の所定箇所)にスパッタが付着するのを防止するために使用することができるものである。締結面とは、各種部材を締結する際に、当該部材が接触する面である。尚、スパッタ付着防止具1は、ネジ孔101の内面にスパッタが付着しないように使用する使用方法と、締結面にスパッタが付着しないように使用する使用方法とのうち、一方の使用方法でのみ使用してもよいし、両方の使用方法で使用してもよい。
【0037】
図3にも示すように、スパッタ付着防止具1は、ベース部材2と、円筒状の筒部材3と、円形状の板部材4と、コイルスプリング5とを備えている。ベース部材2は、上下方向に長い縦板部20と、該縦板部20の下縁部から水平方向に延びる横板部21とを備えており、側面視で略L字状をなしている。尚、この実施形態では、説明の便宜を図るために、
図1等に示した状態で上になる側を「上」といい、下になる側を「下」というものとするが、スパッタ付着防止具1は
図1に示す状態以外にも、
図1の下側が横になるように配置して使用することや、
図1の下側が上になるように配置して使用することもでき、使用時の姿勢は様々である。
【0038】
図1に示すように、縦板部20の上部には、該縦板部20を厚み方向に貫通する2つの取付穴20a、20aが該縦板部20の幅方向に間隔をあけて形成されている。この取付穴20a、20aには、スパッタ付着防止具1を取り付けるためのブラケット(図示せず)に縦板部20を締結固定する締結部材(例えばボルト等)が挿通するようになっている。また、
図3に示すように、横板部21の中央部近傍には、貫通孔21aが形成されている。
【0039】
筒部材3は、ナット100の外周面を覆うための部材であり、例えば銅等の金属材料からなる。筒部材3は、ナット100の外周面を覆う周壁部30と、該周壁部30の上端部(軸線方向一端部)に配置される端壁部31とを有しており、これら周壁部30及び端壁部31は一体化されている。端壁部31の中心部には、略円形の挿通孔31aが形成されている。挿通孔31aの内径は、横板部21の貫通孔21aの径と略同じに設定されており、軸部41の外径よりも大きい。これにより、軸部41の外周面と挿通孔31aの内周面との間に隙間ができるので、軸部41が筒部材3の軸線に対して傾斜可能になる。また、端壁部31の挿通孔31aの中心と、横板部21の貫通孔21aの中心とは一致するようになっている。
【0040】
図5に示すように、周壁部30の内径は、スパッタ付着防止具1によって覆うナット100の外径よりも大きく設定されている。スパッタ付着防止具1によって覆うナット100は、1種類ではなく、様々なサイズを対象としている。スパッタ付着防止具1によって覆うことを想定しているナット100のうち、最も大きなサイズのものの外周面を覆うことができるように周壁部30の内径が設定されている。
【0041】
また、周壁部30の内方には、板部材4が配置されるようになっている。板部材4も筒部材3と同様な金属材料で構成されている。板部材4は、筒部材3の端壁部31と同方向に延びる姿勢となるように配置される。筒部材3の周壁部30の軸線方向の寸法は、板部材4の厚み寸法(上下方向の寸法)よりも大きく設定されており、具体的には、板部材4の厚み寸法に、ナット100の軸線方向の寸法を加えた値にするのが好ましいが、この値よりも短くてもよい。
【0042】
板部材4は、ナット100のネジ孔101を覆うための部材である。この板部材4の外径は、筒部材3の周壁部30の内径よりも小さく設定されており、板部材4の外周縁部と筒部材3の周壁部30の内周面との間に全周に亘って隙間が形成されるようになっている。これにより、板部材4は筒部材3の周壁部30に干渉することなく、上下方向(筒部材3の軸線方向)に相対的に変位可能になる。
【0043】
板部材4には、筒部材3の端壁部31の挿通孔31a及びベース部材2の貫通孔21aに挿通される軸部41が設けられている。挿通孔31a及び貫通孔21aの内径は、軸部41の外径よりも大きく設定されており、挿通孔31a及び貫通孔21aの内周面と軸部41の外周面との間には隙間が形成されている。軸部41は、筒部材3の周壁部30の軸線方向上側に突出しており、例えばボルト等で構成することができ、ベース部材2に取り付けられている。
【0044】
板部材4の中心部には、軸部41が挿入される挿入孔4aが形成されている。挿入孔4aの内径は、軸部41の外径よりも大きく設定されており、挿入孔4aの内周面と軸部41の外周面との間には隙間が形成されている。これにより、板部材4が筒部材3の周壁部30の軸線に対して傾斜可能になるとともに、上下方向にスムーズに変位可能になる。挿入孔4aの内周面と軸部41の外周面との間の隙間を大きくすることで、板部材4の軸線に対する傾斜角度を大きくすることができるが、当該隙間が大きすぎると板部材4の位置が定まり難くなる恐れがあるので、例えば、0.5mm〜2.0mm程度に設定するのが好ましい。
【0045】
また、板部材4の下面における挿入孔4aの周りには段部4bが形成されている。軸部41の下部の周縁部には、外方へ張り出すように鍔部41aが形成されている。また、軸部41の下面には、工具が挿入されて係合する工具挿入孔41bが形成されている。軸部41が板部材4の挿入孔4aに挿入された状態で、軸部41の鍔部41aが板部材4の段部4bに嵌まるようになっている。これにより、軸部41の抜けが阻止される。
【0046】
軸部41の上部は、横板部21の貫通孔21aと端壁部31の挿通孔31aに挿通されて横板部21の上面から上方へ突出している。軸部41の外周面にはネジ溝が形成されている。軸部41における横板部21の上面よりも上方の部分には、2つのナット42、42が螺合している。ナット42とナット42とを互いに締め付けることによって各々の緩みを抑制している。ナット42、42は、軸部41が横板部21の貫通孔21a及び端壁部31の挿通孔31aから抜けるのを阻止するストッパ部材である。尚、ナット42の代わりに止め輪等を使用してもよい。
【0047】
コイルスプリング5は、筒部材3の端壁部31と板部材4との間に介在しており、筒部材3の軸線方向に弾性変形する弾性部材である。すなわち、コイルスプリング5は、板部材4の変位方向(上下方向)に縮むように配置されており、このコイルスプリング5の内方に軸部41が挿入されている。そして、コイルスプリング5の下端部(一端部)は板部材4の上面に当接し、上端部(他端部)は筒部材3の端壁部31の下面に当接している。
【0048】
ナット42、42の軸部41への螺合位置はナット42、42を回転させることによって略無段階に変更することができる。この実施形態では、
図3に示すように、板部材4の上面と、筒部材3の端壁部31の下面との間に所定の隙間ができるように、かつ、コイルスプリング5が板部材4を下方へ常時付勢するように、ナット42、42の軸部41への螺合位置が設定されている。これにより、板部材4に対して下方から上方へ向けて押圧力が作用したとき、その押圧力がコイルスプリング5の弾性力よりも大きければ、板部材4が筒部材3に対して相対的に上方へ変位することになる。
【0049】
次に、上記のように構成されたスパッタ付着防止具1を使用する場合について説明する。使用時には、スパッタ付着防止具1を図示しないブラケット等に取り付けておき、そのブラケットを例えば産業用ロボット等のアーム(図示せず)に固定して任意の位置まで移動させることができるようにしておく。スパッタ付着防止具1をブラケットに取り付ける際には、ベース部材2の取付穴20a、20aに締結部材を挿通させてベース部材2を締結固定する。
【0050】
その後、
図5に示すように、例えば板材200にナット100が固定されている場合には、スパッタ付着防止具1をナット100の上方から下方へ移動させて板部材4の下面にナット100の上面を当接させる。これにより、ナット100の上面が板部材4の下面によって覆われる。
【0051】
そして、スパッタ付着防止具1をさらに下方へ移動させると、板部材4がナット100に当接しているので、板部材4は、下方から上向きの押圧力を受けることになる。これにより、コイルスプリング5が縮んで板部材4が筒部材3に対して相対的に上方へ変位することになる。このときの板部材4の相対変位量は、筒部材3の周壁部30の下端がナット100の外周面の上端よりも下に位置するように設定されており、これにより、ナット100の外周面が筒部材3の周壁部30によって覆われる。この状態で、筒部材3の周壁部30の下端と、板材200とが接近しており、両者間の隙間が小さくなっている。尚、このとき、筒部材3の周壁部30の下端と、板材200とを接触させてもよい。
【0052】
つまり、スパッタ付着防止具1の板部材4がナット100をネジ孔101の開放側から覆い、筒部材3がナット100の外周面の少なくとも一部を覆うことになる。この状態で例えば板材200をアーク溶接すると、溶接時にはスパッタが広範囲に飛散するので、ナット100に向かってスパッタが飛散してくる。このとき、ナット100の外周面が筒部材3によって覆われているので、ナット100に付着するスパッタの量を減少させることができる。さらに、ナット100の上面が板部材4によって覆われているので、筒部材3の内部にスパッタが侵入したとしても、ネジ孔101の内面にまで達することは殆ど無い。これにより、溶接時に広範囲に飛散するスパッタがネジ孔101に侵入し難くなるので、スパッタがネジ孔101の内面に付着するのを防止でき、ネジさらいを不要にすることができる。
【0053】
また、例えば板材100に何らかの部材を締結する場合には、その部材が当接する締結面を覆うようにスパッタ付着防止具1を配置することで、締結面にスパッタが付着するのも防止できるので、締結面の清掃作業を不要にすることができる。
【0054】
また、筒部材3及び板部材4が耐熱性の高い金属材料で構成されているので溶接時の熱による筒部材3及び板部材4の変形や損傷を抑制することができ、長期間に亘ってスパッタ付着防止具1を使用することができる。
【0055】
また、筒部材3を設けていることによって大きめのスパッタが筒部材3の内部に侵入し難くなるので、筒部材3の内部にスパッタが堆積するのを抑制でき、板部材4のスムーズな動きを実現できる。さらに、筒部材3の内方に板部材4を配置しているので、熱が板部材4に直接的に伝わるのを防止することができ、このことによっても板部材4にスパッタが堆積するのを抑制できる。
【0056】
また、筒部材3及び板部材4にスパッタが付着した場合にはメンテナンス作業として、清掃を行ってから再利用することができる。
【0057】
また、ナット100のサイズが
図5に示すものよりも小さい場合には、板部材4の筒部材3に対する相対的な変位量が少なくなるが、板部材4をナット100の上面に当接させることはできる。これにより、上述した場合と同様にナット100をネジ孔101の開放側から覆うことができるとともに、ナット100の外周面の少なくとも一部を覆うことができる。よって、ナット100のサイズが変わってもスパッタがネジ孔101の内面に付着するのを防止できるので、スパッタ付着防止具1の汎用性を高めることができ、ひいてはコストを低減することができる。
【0058】
尚、上記実施形態では、コイルスプリング5によって板部材4を下方へ付勢するようにしているが、これに限らず、例えば各種バネ、ゴム、エラストマー等のような弾性部材を使用することもできる。
【0059】
また、
図6に示す変形例1のように、板部材4を四角形状にし、筒部材3を角筒状にしてもよい。また、
図7に示す変形例2のように、板部材4を先細の楕円に近い形状にし、筒部材3を、板部材4の形状と相似な断面を持つように形成してもよい。つまり、板部材4及び筒部材3の形状は任意の形状にすることができる。変形例2の場合は、軸部41が2本設けられているが、軸部41の数は特に限定されるものではない。また、変形例2のように板部材4を長い形状にすることで、複数のナット100を1つのスパッタ付着防止具1によって覆うことができる。
【0060】
また、
図8及び
図9に示すように、板材200におけるナット100が固定されている側とは反対側にスパッタ付着防止具1を使用することもできる。板材200には、ナット100のネジ孔101と一致するように貫通孔201が形成されている。また、板材200は、スパッタ付着防止具1の軸部41に対して傾斜している。まず、
図8に示すようにスパッタ付着防止具1を板材200の貫通孔201の上方に配置した後、下方へ移動させ、
図9に示すように板部材4の下面を板材200に当接させる。これにより、ナット100のネジ孔101が板部材4により覆われる。このとき、板材200がスパッタ付着防止具1の軸部41に対して傾斜しているが、板部材4の挿入孔4aの内周面と軸部41の外周面との間には隙間が形成されていることによって板部材4が軸部41に対して傾斜可能となっているため、板部材4は板材200の傾斜度合いと同じように傾斜する。これにより、板部材4が板材200に密着するので、ナット100のネジ孔101が板部材4により確実に覆われる。これにより、ネジさらいを不要にすることができる。また、板部材4は筒部材3によって覆われるので、板部材4やコイルスプリング5等にスパッタが付着し難くなる。また、軸部41が筒部材3に対して傾斜するようになっているので、このことによっても板部材4を板材200に密着させることができる。
【0061】
尚、筒部材3の周壁部30の下端部を板材200に当接させるようにしてもよい。これにより、スパッタが筒部材3の内方に侵入し難くなるので、板部材4の動きをスムーズな状態で維持できる。
【0062】
また、
図10に示す変形例のように、軸部41及びナット42を覆うカバー60を設けてもよい。このカバー60によって軸部41及びナット42を覆うことで、スパッタが軸部41及びナット42に付着し難くなる。これにより、板部材4の動作をスムーズにすることができる。
【0063】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明に係るスパッタ付着防止具は、例えばナットの内面にスパッタが付着することや締結面にスパッタが付着するのを防止する場合に使用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 スパッタ付着防止具
3 筒部材(第2覆い部)
4 板部材(第1覆い部)
5 コイルスプリング(弾性部材)
30 周壁部
31 端壁部
31a 挿通孔
41 軸部
42 ナット(ストッパ部材)
100 ナット
101 ネジ孔