(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6742104
(24)【登録日】2020年7月30日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】セル間接続部材の製造方法、および固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20200806BHJP
H01M 8/0208 20160101ALI20200806BHJP
H01M 8/0215 20160101ALI20200806BHJP
H01M 8/2404 20160101ALI20200806BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20200806BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0208
H01M8/0215
H01M8/2404
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
C04B41/87 C
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-20791(P2016-20791)
(22)【出願日】2016年2月5日
(65)【公開番号】特開2017-139183(P2017-139183A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井上 修一
(72)【発明者】
【氏名】中尾 孝之
【審査官】
守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−088446(JP,A)
【文献】
特開2015−201422(JP,A)
【文献】
特開2009−152016(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/137377(WO,A1)
【文献】
特開平05−085859(JP,A)
【文献】
特開2012−043638(JP,A)
【文献】
特開2011−108620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法であって、
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、
前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、
塗膜を湿式成膜した前記基材に熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有する、セル間接続部材の製造方法。
【請求項2】
前記安定化ジルコニアが、イットリア安定化ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニアから選ばれる少なくとも一つを含有する請求項1に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項3】
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項4】
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)を主成分とする請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項5】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、950℃以下の温度で行われる請求項1〜4のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項6】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、875℃以上の温度で行われる請求項1〜5のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項7】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと前記基材とを接合しない状態で行われる請求項1〜6のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項8】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと前記基材とが接合され、セルスタックが形成された状態で、950℃以下の温度で行われる請求項1〜6のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項9】
固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法であって、
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、
前記微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、
固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した前記基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、
前記セルスタックに熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有する、固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。
【請求項10】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、950℃以下の温度で行われる請求項9に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セル間接続部材の製造方法、および固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池用セル(以下「SOFC用セル」と記載する場合がある。)は、電解質膜の一方面側に空気極を接合するとともに、同電解質膜の他方面側に燃料極を接合してなる単セルを、電子伝導性の基材(セル間接続部材)により挟み込んだ構造を有する。そしてこのようなSOFC用セルは、700〜900℃程度の作動温度で作動し、空気極側から燃料極側への電解質膜を介した酸化物イオンの移動に伴って、電極間に起電力を発生させる。セル間接続部材は、単セル同士を電気的に接続する部材であり、また燃料と空気の隔壁となる部材でもある。
【0003】
近年の開発の進展に伴い、SOFCの作動温度が下がってきている。従来の作動温度は1000℃程度であり、耐熱性の観点からランタンクロマイトに代表される金属酸化物が使用されていた。最近は作動温度が700℃〜800℃まで下がっており、SOFC用セルの構成部材として合金が使用できるようになってきた。合金の使用により、SOFCのコストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。
【0004】
合金としては、接合される金属酸化物の熱膨張率との整合性から、フェライト系ステンレス鋼が用いられることが多い。一方、耐熱性により優れたオーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金や、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などが用いられることもある。また(La,Ca)CrO
3(カルシウムドープランタンクロマイト)に代表される金属酸化物が用いられることもある。
【0005】
これらの合金は、ほぼ例外なくCrを含んでおり、作動環境である高温大気雰囲気にて表面にCr
2O
3やMnCr
2O
4の酸化物皮膜を形成する。この酸化物皮膜は経時的に膜厚が厚くなり、電気抵抗が増大するとともに、作動環境である高温大気雰囲気で6価クロムの化合物として蒸発し、空気極を劣化させることが知られている(Cr被毒と呼ばれる)。また、(La,Ca)CrO
3を用いた場合でも、合金の場合よりも少ないが、同様にCr被毒が生じる場合がある。そこで合金や(La,Ca)CrO
3の表面に、耐熱性に優れた金属酸化物材料をコーティングして、空気極の劣化を抑制する試みがなされている。
【0006】
特許文献1の固体酸化物形燃料電池用セルでは、セル間接続部材の基材はフェライト系ステンレス合金製であり、その基材の表面に金属酸化物材料(Zn
x(Co
yMn
(1-y))
(3-x)O
4)を含む保護膜が形成されている。保護膜の形成は詳しくは、金属酸化物材料の微粉末を含有するスラリー状の塗膜形成用材料をディッピング法により基材に塗布し、乾燥の後、1000℃で2時間焼成して金属酸化物材料を焼結させることにより、行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−229317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
焼結による保護膜の形成の際に基材を高温に加熱すると、基材にダメージを与える可能性がある。上述の通りSOFCの作動温度が700〜800℃程度に低下し、基材に合金が使われるようになっている。保護膜の焼結の際の短時間の加熱であれば、基材を1000℃まで昇温しても問題はないものと考えられているが、
高い焼結性の保護膜を、より低い温度にて
熱処理を行っても得られるのであれば、固体酸化物形燃料電池用セルの耐久性・信頼性が向上できる可能性がある。
【0009】
また製造工程の改善によるコストダウンを目的として、基材の保護膜の焼成のための熱処理と、その後の熱処理(単セルと基材との接合、ガラスシール部材等を用いた封止など)とを一度に行うことが要望されている。しかし、例えばガラスシール部材は耐熱温度の上限が低く、1000℃まで昇温すると封止する部位に損傷が生じる恐れがあった。そこで、より低い温度
で熱処理を行っても高い焼結性の保護膜を得ることが求められていた。
【0010】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、
焼結性の高い保護膜を
得ることが可能なセル間接続部材の製造方法、および固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための、固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法の特徴構成は、
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、
前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、
塗膜を湿式成膜した前記基材に熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有する点にある。
【0012】
発明者らは鋭意検討の末、保護膜の材料となる導電性セラミックス材料を粉砕する際の粉砕メディアの種類により、保護膜の焼結に必要な温度が大きく異なることを見出した。そして、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いると、
焼結性の高い保護膜を、焼結ステップにおける熱処理温度が従来より低くても得ることができることを実験で確認し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち上記の特徴構成によれば、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、塗膜を湿式成膜した基材に熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有することで、
焼結性の高い保護膜を、従来よりも低温で
得ることが可能となる
。
【0014】
安定化ジルコニアの使用により焼結温度が
低くても焼結性の高い保護膜が得られる理由は明らかではないが、従来より用いられているアルミナ(Al
2O
3)を粉砕メディアに用いた場合に比べ、安定化ジルコニアを粉砕メディアに用いた場合は、微粉末に残留する粉砕メディア由来成分が大幅に少ないことが確認された。アルミナに比べ、安定化ジルコニアの方が削れにくく、微粉末への残留が少なくなったと考えられる。そしてアルミナは難焼結性の材料であり、微粉末に残留したアルミナが保護膜の焼結を阻害していた可能性がある。粉砕メディアとして安定化ジルコニアを用いることで、粉砕メディア由来成分の微粉末への混入が抑制され、焼結性が高まったと考えられる。
【0015】
本発明に係るセル間接続部材の製造方法の別の特徴構成は、前記安定化ジルコニアが、イットリア安定化ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニアから選ばれる少なくとも一つを含有する点にある。
【0016】
イットリア安定化ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニアは、いずれも入手性が高く、セル間接続部材の製造方法に用いる粉砕メディアとして好適である。
【0017】
上述したセル間接続部材の製造方法は、前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物Co
xMn
yO
4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物Zn
zCo
xMn
yO
4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(Zn
xCo
1-x)Co
2O
4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する場合に好適に適用可能である。また、前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物Co
xMn
yO
4(0<x、y<3、x+y=3)を主成分とする場合にさらに好適に適用可能である。
【0018】
本発明に係るセル間接続部材の製造方法の別の特徴構成は、前記焼結ステップにおける前記熱処理が、950℃以下の温度で行われる点にある。
【0019】
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いることで、950℃以下の熱処理温度にて保護膜を焼結させることが可能となる。950℃以下という比較的低温での保護膜の焼結は、粉砕メディアとしてアルミナを用いていた従来の方法では不可能であった。
【0020】
本発明に係るセル間接続部材の製造方法の別の特徴構成は、前記焼結ステップにおける前記熱処理が、875℃以上の温度で行われる点にある。
【0021】
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いることで、焼結ステップにおける熱処理の温度を875℃まで下げられることが実験で確認されている。
【0022】
上述したセル間接続部材の製造方法において、前記焼結ステップにおける前記熱処理は、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと前記基材とを接合しない状態で好適に行うことができる。
【0023】
また上記したセル間接続部材の製造方法において、前記焼結ステップにおける前記熱処理は、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと前記基材とが接合され、セルスタックが形成された状態で好適に行うことができる。そして熱処理を950℃以下の温度で行うことで、セルスタックの状態でのガラスシール部材等を用いた封止などを保護膜の焼結と同時に行うことができるから、熱処理のプロセスを少なくして製造コストの低減が可能となる。
【0024】
上記目的を達成するための、固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法の特徴構成は、
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、
前記微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、
固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した前記基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、
前記セルスタックに熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有する点にある。
【0025】
上記の特徴構成によれば、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、セルスタックに熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有することで、従来よりも低温で保護膜を焼結することが可能となる。これにより、保護膜焼結の際に基材に与える熱的ダメージを低減できる。そして単セルと基材とを接合してセルスタックを形成した状態で熱処理を行い、保護膜を焼結するので、熱処理のプロセスを少なくして固体酸化物形燃料電池用セルの製造コストを低減することができる。
【0026】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法の別の特徴構成は、前記焼結ステップにおける前記熱処理が、950℃以下の温度で行われる点にある。
【0027】
上記の特徴構成によれば、セルスタックの状態での熱処理が950℃以下の温度で行われるので、例えばガラスシール部材等を用いた封止などを保護膜の焼結と同時に行うことができるから、熱処理のプロセスをさらに少なくして固体酸化物形燃料電池用セルの製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】固体酸化物形燃料電池の作動時の反応の説明図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、固体酸化物形燃料電池用セルおよびセル間接続部材を説明し、製造方法および実験例を示す。なお以下に本発明の好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0030】
〔固体酸化物形燃料電池(SOFC)〕
図1および
図2に示すSOFC用セルCは、酸素イオン伝導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方面側に、酸素イオンおよび電子伝導性の多孔体からなる空気極31を接合するとともに、同電解質膜30の他方面側に電子伝導性の多孔体からなる燃料極32を接合してなる単セル3を備える。
さらに、SOFC用セルCは、この単セル3を、空気極31または燃料極32に対して電子の授受を行うとともに空気および水素を供給するための溝2が形成された一対の電子伝導性の合金または酸化物からなるセル間接続部材1により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。空気極31とセル間接続部材1とが密着配置されることで、空気極31側の溝2が空気極31に空気を供給するための空気流路2aとして機能する。燃料極32とセル間接続部材1が密着配置されることで、燃料極32側の上記溝2が燃料極32に水素を供給するための燃料流路2bとして機能する。セル間接続部材1はインターコネクタとセルC間を電気的に接続する部材が接続された構成となることもある。
【0031】
なお、上記SOFC用セルCを構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、例えば、上記空気極31の材料としては、LaMO
3(例えばM=Mn,Fe,Co,Ni)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO
3のペロブスカイト型酸化物を利用することができ、上記燃料極32の材料としては、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができ、さらに、電解質膜30の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を利用することができる。
【0032】
さらに、これまで説明してきたSOFC用セルCでは、セル間接続部材1の材料としては、電子伝導性および耐熱性の優れた材料であるLaCrO
3系等のペロブスカイト型酸化物や、フェライト系ステンレス鋼であるFe−Cr合金、オーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などのように、Crを含有する合金または酸化物が利用されている。
【0033】
そして、複数のSOFC用セルCが積層配置された状態で、複数のボルトおよびナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持され、セルスタックとなる。
このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたセル間接続部材1は、燃料流路2bまたは空気流路2aの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたセル間接続部材1は、一方の面に燃料流路2bが形成され他方の面に空気流路2aが形成されるものを利用することができる。なお、このような積層構造のセルスタックでは、上記セル間接続部材1をセパレータと呼ぶ場合がある。
セルスタックは、燃料ガス(水素)を供給するマニホールドに、ガラスシール材等の接着材により取り付けられる。ガラスシール材としては、例えば結晶化ガラスが用いられる。ガラスシール材は、マニホールドの接着の他、単セル3とセル間接続部材1の間など、封止(シール)が必要な箇所に用いられる。
このようなセルスタックの構造を有するSOFCを一般的に平板型SOFCと呼ぶ。本実施形態では、一例として平板型SOFCについて説明するが、本発明はその他の構造のSOFCについても適用可能である。
【0034】
そして、このようなSOFC用セルCを備えたSOFCの作動時には、
図2に示すように、空気極31に対して隣接するセル間接続部材1に形成された空気流路2aを介して空気を供給するとともに、燃料極32に対して隣接するセル間接続部材1に形成された燃料流路2bを介して水素を供給し、例えば800℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極31において酸素分子O
2が電子e
-と反応して酸素イオンO
2-が生成され、そのO
2-が電解質膜30を通って燃料極32に移動し、燃料極32において供給されたH
2がそのO
2-と反応してH
2Oとe
-とが生成されることで、一対のセル間接続部材1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用することができる。
【0035】
〔セル間接続部材〕
セル間接続部材1は、
図1および
図3に示すように、単セル3との間で空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成されている。基材11の材料としては、先に述べたようにCrを含有する合金または金属酸化物が用いられる。基材11の表面に、次に述べる保護膜12を設けることでCr被毒を抑制することができ、固体酸化物形燃料電池用セルとして好適である。
【0036】
〔保護膜〕
基材11に設けられる保護膜12は、導電性セラミックス材料(金属酸化物)を含有する。保護膜12に含有させる導電性セラミックス材料としては、コバルトマンガン系酸化物Co
xMn
yO
4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物Zn
zCo
xMn
yO
4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(Zn
xCo
1-x)Co
2O
4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物が用いられる。具体的には、平均粒径が0.1μm以上2μm以下のZn(Co,Mn)O
4またはCo
1.5Mn
1.5O
4、ZnCo
2O
4、MnCo
2O
4、Co
3O
4の微粉末が好適に用いられる。
【0037】
保護膜12の材料となる金属酸化物の微粉末は、導電性セラミックス材料を細かく粉砕して作成される。粉砕は例えば、筒状のボールミルに導電性セラミックス材料と粉砕メディアを投入し、ボールミルを回転させ、粉砕メディアの落下衝撃で導電性セラミックス材料を粉砕して行う。粉砕メディアはボール状(ビーズ状)すなわち球形状のものが用いられる。本実施形態では、粉砕メディアの材料は安定化ジルコニアであり、イットリア安定化ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニアから選ばれる少なくとも一つを含有するものが特に好適に用いられる。
【0038】
基材11への保護膜12の形成は、概略次のようにして行う。まず、金属酸化物微粉末を混合した混合液(スラリー)を用いて基材11に塗膜を湿式成膜し、乾燥・加熱等により塗膜を硬化させる。続いて、基材11を高温で処理し、塗膜中の樹脂等の成分を焼き飛ばし、金属酸化物微粉末を焼結させて、保護膜12を形成する。
【0039】
湿式成膜による塗膜の形成方法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電気めっき法、無電解めっき法、電着塗装法が例示できる。
【0040】
例えば電着塗装法によれば、以下のようにして基材11に保護膜12を形成することができる。
(1)ポリアクリル酸等のアニオン型樹脂を含有する電着液に、金属酸化物微粉末を1リットル当たり100gになるように分散させ、混合液を作成する。具体的には、質量比で(金属酸化物微粉末:アニオン型樹脂)=(1:1)〜(2:1)とする。
(2)混合液を満たした通電漕の中に基材11を浸して陽極とし、別に設けた陰極板との間に通電することにより、基材11の表面に未硬化の電着塗膜が形成される。
(3)続いて、基材11に加熱処理を行うことで、基材11の表面に硬化した電着塗膜が形成される。加熱処理としては、電着塗膜を乾燥させる予備乾燥と、それに続いて電着塗膜を硬化させる硬化乾燥とを行う。
(4)最後に、基材11を電気炉を使用して2時間焼成し、保護膜12を備えたセル間接続部材1を得る。
【0041】
なお、電着塗装の条件は特に制限されず、塗装する金属の種類、混合液の種類、通電槽の大きさおよび形状、目標膜厚などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常は、浴温度(混合液温度)10〜40℃、印加電圧10〜450V、電圧印加時間1〜10分とすればよい。
【0042】
〔セル間接続部材の製造方法〕
次にセル間接続部材の製造方法について説明する。セル間接続部材の製造方法は、粉砕ステップと、成膜ステップと、焼結ステップとを有する。
【0043】
〔粉砕ステップ〕
粉砕ステップでは、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する。
【0044】
粉砕ステップは、ボールミルに導電性セラミックス材料と粉砕メディアを投入して乾式で行ってもよい。また、ボールミルに導電性セラミックス材料と溶媒、バインダ樹脂等を投入して湿式で行ってもよい。この場合、導電性セラミックス材料の微粉末の作成と、微粉末を含有するスラリーの生成とが同時に行われる。
【0045】
〔成膜ステップ〕
成膜ステップでは、微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材1の基材11に塗膜を湿式成膜する。微粉末を含有するスラリーは、乾式で粉砕した微粉末と溶媒、バインダ樹脂等を混合して作成してもよいし、湿式で生成された微粉末を含有するスラリーを用いてもよい。濾過等で粉砕メディアを除去してから塗布を行ってもよい。湿式成膜は、スラリーに基材11を浸けて(ディップ)引き上げることで行ってもよいし、電着塗装法により行ってもよいし、先に例示した方法のいずれかを用いてもよい。湿式成膜は、基材11の全体に対して行ってもよいし、平板状の基材11の一方の面のみに行ってもよい。なお後者の場合、湿式成膜が行われ保護膜12が形成された面が、単セル3の空気極31に接合されることになる。湿式成膜が行われず基材11の素材が露出している面が、単セル3の燃料極32に接合されることになる。
【0046】
〔焼結ステップ〕
焼結ステップでは、塗膜を湿式成膜した基材11に熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材11の表面に保護膜12を形成する。熱処理は、875℃以上950℃以下の温度で行われると好適であり、875℃以上900℃以下の温度で行われるとさらに好適である。
【0047】
焼結ステップにおける熱処理は、固体酸化物形燃料電池用セルの単セル3と基材11とを接合しない状態で行われてもよい。熱処理の際の雰囲気としては、種々選択が可能である。微粉末を含有するスラリーの塗布が基材11の一方の面に対して行われ、他方の面では基材11の素材が露出している場合には、熱処理を不活性ガスや還元ガスの雰囲気下で行うと、基材11の素材が露出した面の酸化を抑制することができ好適である。
【0048】
〔固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法〕
続いて固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法について説明する。固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法は、粉砕ステップと、成膜ステップと、接合ステップと、焼結ステップとを有する。粉砕ステップと成膜ステップについては、上述したセル間接続部材の製造方法と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
〔接合ステップ〕
接合ステップでは、固体酸化物形燃料電池用セルの単セル3とスラリーを塗布した基材11とを接合してセルスタックを形成する。セルスタックの形成は、例えば次の様に行う。単セル3と基材11との間に接合材を挟んで(あるいは塗布して)、単セル3と基材11とを交互に積み重ねる。なお、ガラスシール材によるシール(封止)が必要な部位(例えに、マニホールドとの接合部位や、単セル3と基材11との間など)に、結晶化ガラス含有するスラリーを塗布してもよい。そして、積層した単セル3と基材11の全体をボルト等で固定する。
【0050】
〔焼結ステップ〕
焼結ステップでは、セルスタックに熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材11の表面に保護膜12を形成する。熱処理は、セル間接続部材の製造方法と同様、875℃以上950℃以下の温度で行われると好適であり、875℃以上900℃以下の温度で行われるとさらに好適である。
【0051】
熱処理は、空気流路2aに空気を流し、燃料流路2bに水素(燃料ガス)を流した状態で行う。そうすると、基材11の水素(燃料ガス)と接する面は、酸化物皮膜の形成を抑制することができ好適である。セルスタックにガラスシール材を使用した封止を行っている場合には、ガラスシール材の耐熱温度よりも低い温度で熱処理を行うと好ましい。例えば、ガラスシール材の耐熱温度が950℃の場合には、熱処理を900℃で行うと、ガラスシール材に与える熱的ダメージを低減できるため好ましい。また焼結ステップの熱処理において、燃料極32の還元処理を同時に行うよう構成してもよい。
【0052】
〔実験例1:イットリア安定化ジルコニアによる粉砕〕
粉砕メディアとしてイットリア安定化ジルコニアを用いた場合(実験例1)とアルミナを用いた場合(実験例2)について、保護膜12の性能評価(テープ剥離試験)と、粉砕された導電性セラミックス材料の微粉末に残留する粉砕メディア由来成分の濃度測定を行った。
【0053】
導電性セラミックス材料として、MnCo
2O
4を用い、セル間接続部材1の基材11としてSUS445J1(フェライト系ステンレス)の部材を用いた。実験例1では、粉砕メディアとして、イットリア安定化ジルコニア(以下「YSZ」と記す。)のボールを用いた。YSZボールにて粉砕したMnCo
2O
4の微粉末15g(平均粒径約0.5μm)と、溶媒としてのアルコール(1−メトキシ−2−プロパノール)30gと、バインダ樹脂としてのヒドロキシプロピルセルロース2.7gと、混合促進のための分散メディア(YSZボール)とを、ペイントシェーカーにて混合し、スラリーを作成した。スラリーに基材11をディップし、引き上げ後、室温で乾燥させた。その後、箱形電気炉で加熱して熱処理を行い、溶媒およびバインダ樹脂の分解・脱離と、保護膜12の焼結を行った。
【0054】
実験例1では、850℃、875℃、900℃、925℃、950℃、1000℃の6種類の熱処理温度にて、6種類のサンプルを作成した。これらのサンプルに対し、テープ剥離試験を行った。テープ剥離試験は、テープ(ダイヤテックス製、パイオラン養生用粘着テープ Y−09−GR)を保護膜12に貼り付け、テープを剥がして行い、テープに保護膜12の欠片が付着しているか否かを目視で確認することにより行った。テープに保護膜12の欠片が付着していない場合に、保護膜12が適切に形成されていると判断した。
【0055】
〔実験例2:アルミナによる粉砕〕
粉砕メディアとしてアルミナボールを用い、他は実験例1と同様にしてサンプルを作成した。熱処理の温度は、875℃、900℃、950℃、975℃、1000℃、1050℃の6種類である。
【0056】
〔テープ剥離試験の結果〕
テープ剥離試験の結果を表1に示す。実験例1では、875℃以上1000℃以下の温度範囲にて、テープに保護膜12の欠片が付着せず、保護膜12が適切に形成されていた。一方実験例2では、1000℃以上の温度範囲でテープに保護膜12の欠片が付着せず、保護膜12が適切に形成されていた。875℃以上975℃以下の温度範囲では、保護膜12が剥離し、テープに保護膜12の欠片が付着した。すなわち、保護膜12が適切に形成されなかった。
【0057】
【表1】
○:付着なし ×:付着あり −:サンプル作成せず
【0058】
以上の結果から、粉砕メディアとしてアルミナを用いた場合(実験例2)は、熱処理の温度を1000℃以上にしないと保護膜12を適切に形成できないと分かった。一方、粉砕メディアとしてYSZ(イットリア安定化ジルコニア)を用いた場合(実験例1)は、熱処理の温度をより低くしても保護膜12の形成が可能であり、875℃以上の温度で保護膜12の適切な形成が可能であると分かった。特に875℃以上950℃以下の温度範囲では、実験例2では保護膜12が適切に形成できないが、実験例1では保護膜12を適切に形成することができた。
【0059】
〔粉砕メディア由来成分の濃度測定〕
実験例1および2に用いたMnCo
2O
4粉末について、粉末中に残留している粉砕メディア由来成分の濃度を、ICP(プラズマ発光分析)により測定した。すなわち、実験例1のYSZボールで粉砕したMnCo
2O
4粉末については、Zrの濃度を測定し、実験例2のアルミナボールで粉砕したMnCo
2O
4粉末については、Alの濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
以上の結果から、粉砕メディアとしてアルミナを用いた場合(実験例2)に比べ、粉砕メディアとしてYSZ(イットリア安定化ジルコニア)を用いた場合(実験例1)では、粉砕されたMnCo
2O
4粉末に残留する粉砕メディア由来成分の濃度が約1/30に低減されることが分かった。
【0062】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、セル間接続部材の製造方法において、焼結ステップにおける熱処理が単セル3と基材11とを接合しない状態、すなわち基材11単独にて行われた。これを変更し、固体酸化物形燃料電池用セルの単セル3と基材11とが接合され、セルスタックが形成された状態で行われてもよい。この場合、保護膜12の焼結と、単セル3と基材11との間の接合材の焼成が一度に行われるので、製造プロセスのコスト低減が可能となり好適である。また熱処理が900℃以下の温度で行われると、ガラスシール材による封止・接合(セルスタックとマニホールドとの間、単セル3と基材11との間など)までも一度に行うことができ、製造プロセスの大幅なコスト低減ができさらに好適である。また、微粉末を含有するスラリーの塗布が基材11の一方の面に対して行われ、他方の面では基材11の素材が露出している場合には、スラリーが塗布された一方の面に単セル3の空気極31を接合し、素材が露出した他方の面には単セル3の燃料極32を接合する。そして、空気流路2aに空気を流し、燃料流路2bに水素(燃料ガス)を流して熱処理を行う。この場合、基材11の水素(燃料ガス)と接する面は、酸化物皮膜の形成を抑制することができ好適である。
【符号の説明】
【0063】
1 :セル間接続部材
2 :溝
2a :空気流路
2b :燃料流路
3 :単セル
4 :接合材
11 :基材
12 :保護膜
30 :電解質膜
31 :空気極
32 :燃料極
C :固体酸化物形燃料電池用セル