(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
底壁及び側壁によって画成された収容部を有する攪拌槽と、該収容部の中心部に回転自在に垂設される攪拌軸を有する攪拌翼とを備え、該攪拌槽の底部における該攪拌軸の仮想延長線と交わる部分に、該収容部内の被処理液を排出する底部排出部が設けられた攪拌装置であって、
前記攪拌翼は、前記攪拌軸周りに設けられるアンカー翼部を有し、該アンカー翼部は、該攪拌軸から前記底壁に沿って延びる第1翼部と、該第1翼部の先端部から前記側壁に沿って鉛直上方に延びる第2翼部とを有し、
前記攪拌槽の前記底壁の一部が周辺部よりも鉛直下方に突出して中空の底部突出部を形成し、該底部突出部に前記底部排出部が設けられており、
前記底部突出部には、該底部排出部から排出された被処理液が流通する配管が接続されていると共に、該配管を流通する被処理液の流量を制御するバルブが設けられており、該バルブが開いた状態で、前記攪拌槽の前記収容部に収容されている被処理液が該底部突出部の前記中空部を通って該配管に流入するようになされており、
前記アンカー翼部は、前記底部突出部の中空部に挿入配置される底部突出部配置部を有し、前記攪拌翼の回転に伴う該底部突出部配置部の回転により、該中空部内の被処理液を攪拌可能になされており、
前記底部突出部の中空部を画成する壁部と前記底部突出部配置部との間隔が8mm以下である攪拌装置。
【背景技術】
【0002】
従来、シリカ分散液の如き比較的高粘度で沈降性の高いスラリー等の攪拌処理を行う攪拌装置として、攪拌槽内に攪拌翼としてアンカー翼を備えたものが知られている(特許文献1及び2)。アンカー翼を備えた攪拌装置の典型的な構成は、特許文献1及び2に記載の攪拌装置の如く、竪型円筒状の攪拌槽の中心部に回転自在に垂設される攪拌軸を備え、この攪拌軸にその攪拌槽の底壁及び側壁に沿う正面視略U字状に形成されたアンカー翼が装着されて構成されており、攪拌槽の底部には、攪拌槽の内容物を排出する底部排出部が設けられている。
【0003】
図4には、従来のアンカー翼を備えた攪拌装置の底部排出部及びその近傍が示されている。
図4に示す攪拌装置90においては、攪拌槽91の底部を構成する底壁92の一部、具体的には底壁92における攪拌槽91の中心部に位置する部分が周辺部よりも鉛直下方に突出して中空の底部突出部93を形成し、その底部突出部93の最下部に、攪拌槽91内に収容されている被処理液を排出する底部排出部94が設けられている。また、底部突出部93には、底部排出部94から排出された被処理液が流通する配管95が接続されると共に、配管95を流通する被処理液の流量を制御するバルブ96が設けられており、バルブ96が開いた状態で、攪拌槽91内の被処理液が底部突出部93の中空部930を通って配管95に流入するようになされている。また、攪拌軸97の下端部にアンカー翼部98が装着され、底壁92に沿って回転可能に配されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施態様に基づき図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明の攪拌装置の一実施形態である攪拌装置1の概略構成が示されている。攪拌装置1は、
図1に示すように、底壁21及び側壁22によって画成された収容部20を有する攪拌槽2と、収容部20の中心部に回転自在に垂設される攪拌軸30を有する攪拌翼3とを備える。
【0011】
攪拌槽2は、
図1に示すように、上部及び底部が皿状に形成された竪型円筒状をなしている。攪拌槽2は、底壁21及び側壁22に加えてさらに上壁23を有しており、攪拌槽2の上部は上壁23によって形成され、攪拌槽2の底部は底壁21によって形成されている。上壁23には、図示しない投入口が少なくとも1つ形成されており、該投入口から被処理液を、直接又は図示しない配管を介して、投入可能になされている。側壁22は円筒状をなし、上壁23の端部に連接されて該端部から垂下し、その下端部にて底壁21の端部に連接されている。底壁21は、鉛直方向(攪拌軸方向)Xの外方に向かって凸状に湾曲しており、その底壁21の凸の頂部は、攪拌槽2の中心部即ち攪拌軸30の仮想延長線(図示せず)上に位置している。
【0012】
攪拌翼3を構成する攪拌軸30は、攪拌槽2(収容部20)の中心位置にて、上壁23を厚み方向に貫通して攪拌槽2の内外にわたって鉛直方向Xに延びており、その上端部側が、攪拌槽2の外部に配置された駆動モータ4に連結されている。駆動モータ4を作動させると攪拌翼3が回転する。
【0013】
攪拌翼3は、攪拌軸30周りに設けられるアンカー翼部31を有しており、収容部20内を底壁21及び側壁22に沿って回転可能に配されている。アンカー翼部31は、
図1に示すように、攪拌軸30から底壁21に沿って攪拌槽2の半径方向(攪拌軸方向と直交する方向)Yに延びる第1翼部31Aと、第1翼部31Aの先端部から側壁22に沿って鉛直上方に延びる第2翼部31Bとを有し、全体として正面視略U字状をなし、攪拌軸30を基準として対称に形成されている。第1翼部31Aは攪拌軸30下端部に装着されている。
【0014】
本実施形態においては、攪拌翼3は
図1及び
図3に示すように、収容部20内の被処理液を撹拌する部材として、1枚のアンカー翼部31に加えてさらに、攪拌軸30の鉛直方向Xに対して傾斜した複数(8枚)の傾斜翼部32を有している。複数の傾斜翼部32は、それぞれ、平面視長方形形状をなし、その長手方向一端が攪拌軸30に連結され、その攪拌軸30との連結部からアンカー翼部31の第2翼部31Bに向かって半径方向Yに延びており、攪拌軸30の長手方向即ち鉛直方向Xに間欠配置されている。また
図1に示すように、複数の傾斜翼部32は、アンカー翼部31の一対の第2翼部31B,31Bのうちの一方の第2翼部31Bに向かって半径方向Yに延びる一群と、これとは反対側の他方の第2翼部31Bに向かって半径方向Yに延びる他の群とに分けられ、且つ該一群の第2翼部31Bと該他方の群の第2翼部31Bとが、攪拌軸30の長手方向において交互に配されている。複数の傾斜翼部32は、アンカー翼部31と共に回転し、収容部20に収容されている被処理液の攪拌処理に供される。
【0015】
図1及び
図2に示すように、攪拌槽2の底部における攪拌軸30の仮想延長線(図示せず)と交わる部分、即ち攪拌槽2又は収容部20の中心部には、収容部20内の被処理液を排出する底部排出部24が設けられているところ、底部排出部24は、攪拌槽2の底部の中心部に位置する中空の底部突出部5に設けられている。底部突出部5は、攪拌槽2の底壁21の一部(中心部)が周辺部よりも鉛直下方に突出して形成されており、中空部50を有している。底部突出部5の中空部50は、鉛直方向Xの上方から下方に向けて半径方向Yの長さが漸次減少する先細り形状をなし、収容部20と繋がっている。底部排出部24は、底部突出部5の最下部に設けられている。
【0016】
底部突出部5には、底部排出部24から排出された被処理液が流通する配管6が接続されると共に、配管6を流通する被処理液の流量を制御するバルブ7が設けられており、バルブ7が開いた状態で、攪拌槽2の収容部20に収容されている被処理液が底部突出部5の中空部50を通って配管6に流入するようになされている。底部突出部5を含む、攪拌槽2の底部及びその近傍の構成は、
図4に示す従来の攪拌装置90におけるものと基本的に同じである。
【0017】
本実施形態の攪拌装置1の主たる特徴の1つとして、
図1及び
図2に示すように、アンカー翼部31が、底部突出部5の中空部50に挿入配置される底部突出部配置部31Cを有し、攪拌翼3の回転に伴う底部突出部配置部31Cの回転により、中空部50内の被処理液を攪拌可能になされている点が挙げられる。
【0018】
本実施形態においては、底部突出部配置部31Cは、アンカー翼部31を構成する第1翼部31Aの一部、具体的には攪拌翼3の回転中心に位置する部分が、中空部50に向けて下方に延長した部分であり、アンカー翼部31の他の部分と同様に板状である。また
図2に示すように、底部突出部配置部31Cの平面視形状は、中空部50の
図2に示す如き縦方向に沿う断面視における形状と同形状であり、即ち略等脚台形状をなしている。
【0019】
このように、アンカー翼部31の最下部に、底部突出部5の中空部50に挿入配置される底部突出部配置部31Cが設けられていることにより、中空部50は被処理液の循環流が生じないデッドスペースとはならないため、従来の攪拌装置90で問題となっていた、
製造ラインの停止時(バルブ7を閉じて配管6における被処理液の流通を停止している状態)での中空部50における被処理液中の分散質の堆積が効果的に抑制される。従って本実施形態の攪拌装置1は、沈降性の高いスラリー等の攪拌処理に使用しても、沈降性物質が中空部50に溜まって底部排出部24を詰まらせると言った不都合が生じ難く、配管6を通じた被処理液の排出をスムーズに行うことができる。しかも、底部突出部配置部31Cは、攪拌装置1の基本装備とも言える攪拌翼3(アンカー翼部31)の一部であって構造的にシンプルなものであり、装置の複雑化や大型化を招くようなものではないから、その採用は製造コストや装置メンテナンス性の点でも有利である。
【0020】
底部突出部配置部31Cによる作用効果をより確実に奏させるようにする観点から、 底部突出部5の中空部50を画成する壁部(底壁21)と底部突出部配置部31Cとの間隔D(
図2参照)は、好ましくは8mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下である。また間隔Dは、好ましくは0.1mm以上である。
【0021】
アンカー翼部31における第1翼部31A及び第2翼部31Bの幅W1(
図1参照)は、好ましくは5.0mm以上、さらに好ましくは10.0mm以上、そして、好ましくは300.0mm以下、さらに好ましくは100.0mm以下である。
アンカー翼部31の外径R(
図1参照)は、好ましくは179.8mm以上、さらに好ましくは239.8mm以上、そして、好ましくは4999.8mm以下、さらに好ましくは1499.8mm以下である。
【0022】
傾斜翼部32の幅W2(
図1参照)は、好ましくは5.0mm以上、さらに好ましくは10.0mm以上、そして、好ましくは300.0mm以下、さらに好ましくは100.0mm以下である。
傾斜翼部32の鉛直方向に対する傾斜角度θ(
図3(b)参照)は、好ましくは10°以上、さらに好ましくは30°以上、そして、好ましくは80°以下、さらに好ましくは60°以下である。
攪拌槽2の内径は、好ましくは180.0mm以上、さらに好ましくは240.0mm以上、そして、好ましくは5000.0mm以下、さらに好ましくは1500.0mm以下である。
【0023】
本発明の攪拌装置は、種々の被処理液の攪拌処理に使用することができる。被処理液の典型的なものは、分散質と分散媒とからなるスラリーである。
【0024】
スラリーの分散質としては、例えば、鉄、アルミニウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の被酸化性金属粒子;シリカ、黒曜石、黒鉛、雲母、中空セラミックス、フライアッシュ等の無機粒子;活性炭(椰子殻炭、木炭粉、暦青炭、泥炭、亜炭等)、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛等の炭素成分;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂等の有機粒子;炭素繊維、ロックウール、セラミック繊維、天然鉱物繊維、ガラス繊維、シリ力繊維、金属繊維等の無機繊維;木材パルプ、コットンパルプ、リンターパルプ、竹、藁、古紙パルプ等の有機繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
攪拌処理に供するスラリーの分散質として、分散媒に比して比重が大きく沈降性の高いものを用いると、分散質が攪拌槽の底部に堆積してスラリーの排出に支障をきたすおそれがあるが、本発明の攪拌装置によれば、前述した攪拌翼の工夫により、そのような不都合が起こり難いため、沈降性の高い高比重の分散質を含むスラリーの攪拌処理を円滑に行うことができる。例えば分散媒が水の場合に、その分散媒としての水に比して比重の大きな分散質としては、例えば、前記の被酸化性金属粒子、無機粒子等が挙げられる。
【0026】
スラリーには、前記以外の他の成分として、例えば、セルロース系、デンプン系、ポリ(メタ)アクリル酸(塩、エステル)系、シロップ系、海藻類、植物粘質物、微生物による粘質物、タンパク質系、多糖類系、有機系、無機系、合成系等の高分子成型助剤等の増粘剤;ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂等の凝集剤;界面活性剤、着色剤等;pH調整剤等を含有させることができ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明の攪拌装置によれば、比較的高粘度の被処理液であっても、これを攪拌槽から底部排出部を通じて排出する際に詰まらせることなく効率良く攪拌することができる。被処理液の粘度は、20℃・60%RHにおいて、好ましくは1000mPa・s以上、さらに好ましくは3000mPa・s以上、そして、好ましくは50000mPa・s以下、さらに好ましくは18000mPa・s以下である。液の粘度は次のようにして測定される。内径60mmのビーカー内に100mlの測定対象液(前記混合液、塗布液等)を投入し、B型粘度計(東機産業(株))を用いて測定する。B型粘度計による粘度測定においては、ローターNo.4を6rpmで回転させ、1分後に指示値を読み取り、換算表にて粘度に変換する。測定環境は20℃、60%RHとする。
【0028】
本発明の攪拌装置に好適な被処理液の一例として、下記特性を全て備えたスラリーが挙げられる。
(1)分散質:
・鉄粉;好ましくは10.00質量%以上、さらに好ましくは20.00質量%以上、そして、好ましくは70.00質量%以下、さらに好ましくは60.00質量%以下。
・活性炭;好ましくは1.00質量%以上、さらに好ましくは3.00質量%以上、そして、好ましくは30.00質量%以下、さらに好ましくは25.00質量%以下。
(2)分散媒:水
(3)その他成分:
・キサンタンガム;好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上、そして、好ましくは0.25質量%以下、さらに好ましくは0.20質量%以下。
(4)固形分濃度:好ましくは11.05質量%以上、さらに好ましくは20.00質量%以上、そして、好ましくは80.00質量%以下、さらに好ましくは70.00質量%以下。
【0029】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば底部突出部配置部31Cの平面視形状は、前記実施形態のように、中空部50の縦方向に沿う断面視における形状と同形状でなくても良く、要は、攪拌軸30の回転に伴って回転した際に中空部50内の略全域を攪拌し得る形状であれば良く、例えば、中空部50の縦方向に沿う断面視における形状(
図2では略等脚台形状)を半径方向Yに二分した場合の一方側のみからなる形状でも良い。底部突出部配置部31Cの平面視形状が、このような攪拌軸30を基準として左右非対称であっても、攪拌軸30周りに回転すれば、中空部50内の被処理液を十分に攪拌することが可能である。また、底部突出部配置部31Cは、これを厚み方向に貫通する貫通孔あるいは切り欠き部を有していても良く、例えば、平面視線状の切り欠き部がその長手方向と直交する方向に複数配されたような、櫛歯状をなしていても良い。
【0030】
また、攪拌槽2の周囲に温度調整用ジャケットが配され、該ジャケットに供給される熱媒又は冷媒により、攪拌槽2の収容部20に収容されている被処理液を加温又は冷却可能になされていても良い。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0032】
〔実施例1〕
図1〜
図3に示す攪拌装置1と同様の構成の攪拌装置を用い、被処理液としてのスラリーの貯留を行った。より具体的には、下記組成のスラリー300kgを攪拌槽の収容部に収容し、バルブを閉じて配管における被処理液の流通を停止した状態で収容部内の攪拌翼を操作して、「回転数30rpmで1分間回転後、4分間停止」という動作を繰り返した。スラリーの貯留開始から72時間が経過した時点で、攪拌槽における底部排出部の詰まりの有無を確認したところ、詰まりは確認できなかった。
【0033】
実施例1で使用したスラリーの組成は下記の通り。分散媒としては水を使用した。
・鉄粉:58.12質量%
・活性炭:4.63質量%
・キサンタンガム:0.14質量%
・リン酸三カリウム:1.04質量%
・48%水酸化カリウム:0.27質量%
・水:35.80質量%
【0034】
〔比較例1〕
アンカー翼部が底部突出部配置部を有しておらず、底部排出部が存する攪拌槽の底部突出部の中空部にスラリーの撹拌手段が存在しない点以外は、実施例1と同様にしてスラリーの貯留を行った。その結果、スラリーの貯留開始から約20時間経過時点で、攪拌槽における底部排出部の詰まりが確認された。