(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の配向方向に沿って配向された液晶分子が含まれる液晶層を有し、当該液晶層に印加される電圧分布に応じて、当該液晶層を透過する直線偏光を第1の光束と第2の光束に分割するとともに、前記第1の光束に対して前記第2の光束を設定された偏向方向に沿って第1の偏向角で偏向させる第1の液晶素子と、
前記配向方向に沿って配向された液晶分子が含まれる液晶層を有し、当該液晶層に印加される電圧分布に応じて、当該液晶層を透過する前記第1の光束に対して、当該液晶層を透過する前記第2の光束を第2の偏向角で偏向させる第2の液晶素子と、
前記偏向方向、前記第1の偏向角及び前記第2の偏向角に応じて前記第1の液晶素子の前記液晶層に印加する電圧分布及び前記第2の液晶素子の前記液晶層に印加する電圧分布を制御する制御部と、
を有し、
前記第1の液晶素子は、前記液晶層を挟んで対向する第1の透明電極と第2の透明電極とを有し、
前記第1の透明電極は、第1の方向に沿って配列される複数の部分電極を有し、当該複数の部分電極のうちの互いに隣接する部分電極は抵抗子を介して接続され、
前記第2の透明電極は、前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って配列される複数の部分電極を有し、当該複数の部分電極のうちの互いに隣接する部分電極は抵抗子を介して接続され、
前記制御部は、前記第1の透明電極が有する複数の部分電極のうちの一端の部分電極と他端の部分電極間、及び、前記第2の透明電極が有する複数の部分電極のうちの一端の部分電極と他端の部分電極間に前記偏向方向及び前記第1の偏向角に応じた電圧を印加する
光束分割素子。
前記制御部は、前記第1の光束と前記第2の光束とが前記第2の液晶素子から所定の距離の位置にて交差するように、前記第1の液晶素子の前記液晶層に印加する電圧分布と前記第2の液晶素子の前記液晶層に印加する電圧分布とを制御する、請求項1に記載の光束分割素子。
前記制御部は、前記第1の偏向角に対して前記第2の偏向角が逆向きとなり、かつ、前記第1の偏向角よりも前記第2の偏向角が大きくなるように、前記第1の液晶素子の前記液晶層に印加する電圧分布と前記第2の液晶素子の前記液晶層に印加する電圧分布とを制御する、請求項2に記載の光束分割素子。
前記制御部は、前記配向方向と平行な前記直線偏光の成分に対する屈折率が前記偏向方向に沿って変化するように、前記第1の液晶素子の前記液晶層に印加する電圧分布と前記第2の液晶素子の前記液晶層に印加する電圧分布とを制御する、請求項3に記載の光束分割素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微分干渉法及び微分干渉顕微鏡では、二つの光束がサンプルを透過する際の光束間の距離(シア量と呼ばれる)に応じて、サンプルの像のコントラスト及び解像度が変化する。一般に、シア量が大きくなるほどコントラストは向上し、解像度は低下する。逆に、シア量が小さくなるほどコントラストは低下し、解像度は向上する。したがって、サンプルの種類及びサンプルの観察目的に応じて、適切なシア量は変化する。一方、使用するノマルスキープリズムに応じて、発生するシア量は決定される。そのため、例えば、観察対象となるサンプルが取り替えられる度に、微分干渉顕微鏡に取り付けられるノマルスキープリズムも、そのサンプルに応じた適切なシア量を生じさせることができるものに交換することが要求される。
【0006】
また、サンプルに応じて、シア量を生じさせる方向、すなわち、サンプルを透過する際に二つの光束が並ぶ方向も異なる。すなわち、二つの光束の干渉により、サンプルの構造を視覚化するためには、それら二つの光束間にサンプルの構造に応じた位相差が生じる必要がある。そのため、例えば、サンプルの厚さまたは屈折率が変化する方向に沿って二つの光束が並ぶことが好ましい。そこで、従来では、二つの光束が並ぶ方向を適切に設定するために、サンプルを回転させる必要があった。しかし、サンプルを回転させると、その回転軸以外のところは、サンプルの回転により視野から外れてしまうことがある。このように、従来では、シア量及びシア量を生じさせる方向をサンプルに応じて適切に設定するためには、煩雑な機械的な作業が必要となる。
【0007】
そこで、本発明は、機械的な作業を必要とせずに、光束を分割する方向及び分割された光束の間隔を調節可能な光束分割素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの側面によれば、光束分割素子が提供される。この光束分割素子は、所定の配向方向に沿って配向された液晶分子が含まれる液晶層を有し、その液晶層に印加される電圧分布に応じて、その液晶層を透過する直線偏光を第1の光束と第2の光束に分割するとともに、第1の光束に対して第2の光束を設定された偏向方向に沿って第1の偏向角で偏向させる第1の液晶素子と、その配向方向に沿って配向された液晶分子が含まれる液晶層を有し、その液晶層に印加される電圧分布に応じて、その液晶層を透過する第1の光束に対して、その液晶層を透過する第2の光束を第2の偏向角で偏向させる第2の液晶素子と、偏向方向、第1の偏向角及び第2の偏向角に応じて第1の液晶素子の液晶層に印加する電圧分布及び第2の液晶素子の液晶層に印加する電圧分布を制御する制御部とを有する。
【0009】
またこの光束分割素子において、制御部は、第1の光束と第2の光束とが第2の液晶素子から所定の距離の位置にて交差するように、第1の液晶素子の液晶層に印加する電圧分布と第2の液晶素子の液晶層に印加する電圧分布とを制御することが好ましい。
【0010】
さらに、この光束分割素子において、第1の液晶素子は、液晶層を挟んで対向する第1の透明電極と第2の透明電極とを有し、第1の透明電極は、第1の方向に沿って配列される複数の部分電極を有し、その複数の部分電極のうちの互いに隣接する部分電極は抵抗子を介して接続され、第2の透明電極は、第1の方向と直交する第2の方向に沿って配列される複数の部分電極を有し、その複数の部分電極のうちの互いに隣接する部分電極は抵抗子を介して接続され、制御部は、第1の透明電極が有する複数の部分電極のうちの一端の部分電極と他端の部分電極間、及び、第2の透明電極が有する複数の部分電極のうちの一端の部分電極と他端の部分電極間に偏向方向及び第1の偏向角に応じた電圧を印加することが好ましい。
【0011】
また、制御部は、第1の偏向角に対して第2の偏向角が逆向きとなり、かつ、第1の偏向角よりも第2の偏向角が大きくなるように、第1の液晶素子の液晶層に印加する電圧分布と第2の液晶素子の液晶層に印加する電圧分布とを制御することが好ましい。
【0012】
さらに、制御部は、配向方向と平行な直線偏光の成分に対する屈折率が偏向方向に沿って変化するように、第1の液晶素子の液晶層に印加する電圧分布と第2の液晶素子の液晶層に印加する電圧分布とを制御することが好ましい。
【0013】
本発明の他の側面によれば、顕微鏡装置が提供される。この顕微鏡装置は、直線偏光を発する光源と、直線偏光を設定された偏向方向に沿って並ぶ第1の光束と第2の光束とに分割し、かつ、設定されるシア量に応じて第1の光束に対して第2の光束を傾ける光束分割素子と、第1の光束と第2の光束とをそのシア量に応じた間隔でサンプルに向けるレンズと、サンプルを経た第1の光束及び第2の光束を合わせた一つの光束により、サンプルを撮像する撮像部とを有する。そして光束分割素子は、所定の配向方向に沿って配向された液晶分子が含まれる液晶層を有し、その液晶層に印加される電圧分布に応じて、液晶層を透過する直線偏光を第1の光束と第2の光束に分割するとともに、第1の光束に対して第2の光束を所定の偏向方向に沿ってシア量に応じた第1の偏向角で偏向させる第1の液晶素子と、所定の配向方向に沿って配向された液晶分子が含まれる液晶層を有し、その液晶層に印加される電圧分布に応じて、その液晶層を透過する第1の光束に対して、その液晶層を透過する第2の光束をシア量に応じた第2の偏向角で偏向させることで、第1の光束及び第2の光束をレンズの前側焦点位置で交差させる第2の液晶素子と、偏向方向、第1の偏向角及び第2の偏向角に応じて第1の液晶素子の液晶層に印加する電圧分布及び第2の液晶素子の液晶層に印加する電圧分布を制御する制御部とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る光束分割素子は、機械的な作業を必要とせずに、光束を分割する方向及び分割された光束の間隔を調節できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照しつつ、一つの実施形態による光束分割素子について説明する。この光束分割素子は、光軸に沿って並べられた二つの液晶素子を有する。そして、各液晶素子は、それぞれ、液晶層を挟んで対向する二つの透明電極の一方が第1の方向に沿って配列される複数の部分電極を有し、透明電極の他方が第1の方向と直交する第2の方向に沿って配列される複数の部分電極を有する。そしてこの光束分割素子は、各透明電極の両端の部分電極間に印加する電圧を調整することで与えられる、液晶層に印加される電圧分布に応じて、各液晶素子を透過する直線偏光を二つの光束に分割するとともに、その二つの光束が並ぶ偏向方向、及び、二つの光束間の角度を制御する。
【0017】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る光束分割素子を有する顕微鏡装置の概略構成図である。
図1に示されるように、顕微鏡装置100は、微分干渉顕微鏡であり、顕微鏡装置100が有する光学系の光軸に沿って順に、光源1と、本実施形態による光束分割素子2−1と、コンデンサレンズ3と、対物レンズ4と、本実施形態による光束分割素子2−2と、撮像部5とを有する。そしてコンデンサレンズ3と対物レンズ4の間にサンプル10が配置される。なお、顕微鏡装置100は、光路上に、球面収差用補償光学系など、各種の補償光学系を有していてもよい。さらに、顕微鏡装置100は、光源1と光束分割素子2−1の間に、光源1から発した光を平行光にするためのコリメート光学系などを有していてもよい。また、サンプル10により反射された光によりサンプル10を観察する場合には、光束分割素子2−2は省略されてもよい。また、コンデンサレンズ3の代わりに、対物レンズが配置される。そしてこの場合には、例えば、光束分割素子2−1光源1との間にビームスプリッタ(図示せず)が配置される。そしてサンプル10により反射された光は、対物レンズ及び光束分割素子2−1を透過した後、ビームスプリッタにより対物レンズの光軸方向と直交する方向に反射されて撮像部5に入射するように、撮像部5は配置される。
【0018】
光源1は、所定の偏光面を持つ直線偏光である照明光を出力する。そのために、光源1は、例えば、半導体レーザを有する。あるいは、光源1は、アルゴンイオンレーザといったガスレーザ、またはYAGレーザといった固体レーザを有していてもよい。あるいはまた、光源1は、例えば、水銀灯、キセノンアークランプまたは白熱電球といった、直線偏光でない光を発光する発光素子と、そのような発光素子から発した光のうちの所定の偏光面を持つ成分だけを透過させて直線偏光にする偏光板とを有してもよい。
【0019】
さらに、光源1は、互いに異なる波長の光を出力する複数の発光素子を有していてもよい。この場合、光源1は、コントローラ(図示せず)からの制御信号に従って、何れか一つの発光素子に照明光を出力させる。
【0020】
光束分割素子2−1は、光源1とコンデンサレンズ3との間に配置される。そして光束分割素子2−1は、光源1から出力された照明光を所定の偏向方向に沿って並ぶ二つの光束に分割し、その二つの光束をコンデンサレンズ3の前側焦点位置で交差させる。
なお、光束分割素子2−1の詳細については後述する。
【0021】
コンデンサレンズ3は、光束分割素子2−1から出射した二つの光束のそれぞれをサンプル10上に集光する。上記のように、光束分割素子2−1から出射した二つの光束は、コンデンサレンズ3の前側焦点位置で交差するので、コンデンサレンズ3により、その二つの光束は互いに平行となってサンプル10に達する。また、コンデンサレンズ3の前側焦点位置でのその二つの光束間の角度が大きくなるほど、サンプル10を透過する際のその二つの光束間の距離(すなわち、シア量)は大きくなる。
【0022】
対物レンズ4は、コンデンサレンズ3から出射し、サンプル10を透過した二つの光束を集光する。その際、その二つの光束は、対物レンズ4を透過することにより、対物レンズ4の後側焦点位置にて、対物レンズ4のパワーに応じた角度で互いに交差する。
【0023】
光束分割素子2−2は、対物レンズ4の後側焦点位置よりも対物レンズ4から離れた位置に配置され、対物レンズ4を出射した二つの光束を一つの光束にする。これにより、その二つの光束間に、サンプル10の構造に起因する干渉が生じる。
【0024】
撮像部5は、例えば、複数のCCDまたはC-MOSなどの個体撮像素子がアレイ状に配列されたイメージセンサを有する。さらに、撮像部5は、イメージセンサ上にサンプル10の像を結像する結像光学系を有していてもよい。そして撮像部5は、対物レンズ4及び光束分割素子2−2を介して得られた光束において生じる干渉により得られるサンプル10の画像を生成し、その画像をコントローラへ出力する。
【0025】
以下、本実施形態による、光束分割素子2−1、2−2の詳細について説明する。なお、光束分割素子2−1と光束分割素子2−2とは、同一の構成とすることができるので、以下では、光束分割素子2−1について説明する。
【0026】
図2は、光束分割素子2−1の概略構成図である。光束分割素子2−1は、第1の液晶素子21と、第2の液晶素子22と、制御回路23とを有する。第1の液晶素子21及び第2の液晶素子22は、顕微鏡装置100が有する光学系の光軸OAに沿って光源1側から順に配置される。
【0027】
光束分割素子2−1に入射した照明光は、制御回路23が第1の液晶素子21が有する液晶層に印加される電圧分布を制御することにより、液晶層内の液晶分子の配向方向と直交する偏光面を持つ光束(すなわち、常光線)と、その配向方向と平行な偏光面を持つ光束(すなわち、異常光線)とに分割される。常光線(第1の光束)は、光軸OAに平行な光束として第1の液晶素子21から出射する。一方、異常光線(第2の光束)は、制御回路23による第1の液晶素子21の液晶層に印加される電圧分布の制御に応じて、光軸OAに対して任意の偏向方向に、かつ、所定の偏向角度で第1の液晶素子21から出射する。
【0028】
第1の液晶素子21から出射した常光線及び異常光線は第2の液晶素子22に入射する。そして制御回路23が第2の液晶素子22が有する液晶層に印加する電圧分布を制御することにより、異常光線の偏向角が調整される。その結果として、異常光線は、コンデンサレンズ3の前側焦点位置へ向かうように出射する。一方、常光線は、第2の液晶素子22を透過した後も、光軸OAに沿って直進する。そのため、常光線と異常光線とは、コンデンサレンズ3の前側焦点位置にて交差する。
【0029】
以下、光束分割素子2−1が有する各液晶素子の詳細について説明する。なお、第1の液晶素子21と第2の液晶素子22とは、同一の構成とすることができるので、以下では、第1の液晶素子21について説明する。
【0030】
図3(a)は、第1の液晶素子21の概略正面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の矢印A、A’で示される線における、第1の液晶素子21の概略側面断面図である。また
図4は、第1の液晶素子21が有する各透明電極の配置を示す図である。
【0031】
第1の液晶素子21は、液晶層30と、光軸OAに沿って液晶層30を挟んで対向するように略平行に配置された二つの透明基板31、32を有する。また第1の液晶素子21は、透明基板31と液晶層30の間に配置された透明電極33と、液晶層30と透明基板32の間に配置された透明電極34とを有する。そして液晶層30に含まれる液晶分子37は、透明基板31及び32と、シール部材38との間に封入されている。また液晶層30は、第1の液晶素子21が透過する照明光のうちの異常光線に所定の偏向角を与えるのに十分な厚さ、例えば、10μm〜20μmを有する。
【0032】
透明基板31、32は、例えば、ガラスまたは樹脂など、光源1が発する照明光に対して透明な材料により形成される。また透明電極33、34は、例えば、ITOと呼ばれる、酸化インジウムに酸化スズを添加した材料により形成される。さらに、透明電極33と液晶層30の間に配向膜35が配置される。また透明電極34と液晶層30の間に配向膜36が配置される。これら配向膜35、36は、液晶分子37を所定の方向に配向させる。
【0033】
液晶層30に封入された液晶分子37は、例えば、ホモジニアス配向される。そして液晶分子37の配向方向は、矢印311に示されるように、入射する照明光の偏光面312に対して0度(すなわち、平行)より大きく、かつ、90度(すなわち、直交)未満の所定の角度に設定される。これにより、液晶素子21は、照明光を常光線と異常光線とに分割することが可能となる。なお、常光線の強度と異常光線の強度が等しくなるように、液晶分子37の配向方向と入射する照明光の偏光面312とのなす角は、略45度に設定されることが好ましい。
【0034】
図4に示されるように、本実施形態では、透明電極33は、光軸OAに直交する面において第1の方向401に沿って等間隔で分割された複数の線状の部分電極33−1〜33−m(mは2以上の整数)を有する。そして複数の部分電極33−1〜33−mにより、液晶分子37が駆動されるアクティブ領域全体が覆われる。一方、透明電極34は、光軸OAに直交する面において第1の方向401と直交する第2の方向402に沿って等間隔で分割された複数の線状の部分電極34−1〜34−m(nは2以上の整数)を有する。なお、
図4において、部分電極間のギャップは線で示されている。なお、第1の方向401及び第2の方向402は、液晶分子37の配向方向に対して独立に設定されてよい。また、第1の方向401及び第2の方向402は、第1の液晶素子21と第2の液晶素子22とで同じであってもよく、あるいは、異なっていてもよい。さらに、第1の方向401及び第2の方向402は、入射光の偏光面に対して独立に設定されてよい。
【0035】
透明電極33において、隣接する二つの部分電極同士は、同一の電気抵抗を持つ電極(抵抗子)によって接続される。そして制御回路23により、部分電極33−1〜33−mのうちの一端の部分電極33−1と他端の部分電極33−mとの間に電圧が印加される。具体的に、各部分電極は、長さに応じた抵抗値を持つ高抵抗配線に対して等間隔で接続され、その高抵抗配線の両端間に、制御回路23から電圧が印加される。したがって、第1の方向に沿って、ステップ状に印加される電圧が変化する。同様に、透明電極34において、隣接する二つの部分電極同士は、同一の電気抵抗を持つ電極によって接続される。そして制御回路23により、部分電極34−1〜34−nのうちの一端の部分電極34−1と他端の部分電極34−nとの間に電圧が印加される。したがって、第2の方向に沿って、ステップ状に印加される電圧が変化する。
【0036】
ここで、透明電極33と透明電極34との間、すなわち、液晶層30に電圧Vが印加されると、その電圧Vに応じて、電圧が印加された方向(すなわち、光軸OAに沿った方向)に対して液晶分子37の長軸方向が平行に近づくように傾く。このとき、液晶分子37が配向された方向と平行な偏光成分(すなわち、異常光線)に対する液晶分子の屈折率をn
ψ(V)とすると、n
o≦n
ψ(V)≦n
eとなる。ただし、n
oは液晶分子の配向方向に直交する偏光成分(すなわち、常光線)に対する屈折率であり、n
eは液晶分子の長軸方向に平行な偏光成分に対する屈折率である。
【0037】
したがって、上記のように透明電極33に電圧が印加されることで、液晶層30に印加される電圧が第1の方向に沿って変化するために、部分電極33−1と部分電極33−m間の電圧に応じて、異常光線に対する屈折率が第1の方向に沿って変化する。同様に、上記のように透明電極34に電圧が印加されることで、液晶層30に印加される電圧が第2の方向に沿って変化するため、部分電極34−1と部分電極34−n間の電圧に応じて、異常光線に対する屈折率が第2の方向に沿って変化する。したがって、制御回路23が、部分電極33−1と部分電極33−m間の電圧と、部分電極34−1と部分電極34−n間の電圧を調整することで、光軸OAに直交する面内の任意の方向に沿って、異常光線に対する液晶層30の屈折率を変化させることができる。その結果、異常光線は、液晶層30の屈折率の変化方向に沿って光軸OAから傾いて液晶層30内を伝搬する。すなわち、液晶層30の屈折率の変化方向が偏向方向となる。また、常光線に対して異常光線がなす角である偏向角は、液晶層30の屈折率の勾配の大きさに応じた角度となる。すなわち、第1の方向を基準とする異常光線の偏向方向A及び常光線に対する異常光線の偏向角Rと、電極33−1と部分電極33−m間の電圧ΔVU及び部分電極34−1と部分電極34−n間の電圧ΔVLとの間に、次式が成立する。
【数1】
ここで、φは第1の方向と液晶分子37の配向方向とがなす角を表す。したがって、ΔVU及びΔVLが適切に調節されることで、光軸OAに直交する面における、異常光線の偏向方向が所望の方向に設定され、かつ、常光線と異常光線間の偏向角が調整可能な範囲内で所望の角度に設定される。
【0038】
さらに、透明電極33及び透明電極34の一方に印加される電圧の最小値が、透明電極33及び透明電極34の他方に印加される電圧の最大値よりも高くなるように、各透明電極に印加される電圧が設定される。これにより、二つの透明電極間においてもある程度以上の電圧が印加されることとなり、液晶層30に含まれる液晶分子37を駆動することが可能となる。
【0039】
図5は、各透明電極の両端の部分電極間に印加される電圧と、一方の透明電極に印加される電圧と他方の透明電極に印加される電圧の関係を示す図である。
図5に示されるように、この例では、透明電極33の部分電極33−1に印加される電圧VUminよりも、部分電極33−mに印加される電圧VUmaxの方が高いものとする。同様に、透明電極34の部分電極34−1に印加される電圧VLminよりも、部分電極34−nに印加される電圧VLmaxの方が高いものとする。さらに、電圧VLmaxよりも、電圧VUminの方が高く、その差(VUmin-VLmax)は、透明電極33と透明電極34間の電圧のオフセットLminよりも大きくなるように、各電圧は設定される。
【0040】
また、
図5に示されるグラフにおいて、横軸は電圧を表し、縦軸は異常光線に対する屈折率を表す。そして曲線500は、液晶層30に印加される電圧と異常光線に対する屈折率との関係を表す。
【0041】
図5に示されるように、電圧の変化に対する、屈折率の変化が線形となる電圧の範囲Vrange内に電圧ΔVU及び電圧ΔVLが含まれるように、電圧ΔVU及び電圧ΔVLは調節される。すなわち、次式に示される条件が満たされる範囲で、電圧ΔVU及び電圧ΔVLは調節される。
【数2】
【0042】
さらに、Vrangeの中点をVcとすると、VUmin及びVLmaxは、以下の条件を満たすように設定されることが好ましい。
【数3】
ただし、αは正の定数であり、VUmin-VLmax+2α=Lminとなる。
【0043】
制御回路23は、例えば、一つまたは複数のプロセッサと、不揮発性の半導体メモリ及び揮発性の半導体メモリと、第1の液晶素子21及び第2の液晶素子22を駆動するための駆動回路とを有する。そして制御回路23は、第1の液晶素子21及び第2の液晶素子22のそれぞれの液晶層に印加される電圧分布を制御することで、異常光線の偏光方向及び偏向角を可変に制御する。
【0044】
本実施形態では、制御回路23は、サンプル10を常光線と異常光線とが透過する際に、光軸OAと直交する面において常光線と異常光線とが並ぶ方向と偏向方向とが一致し、かつ、常光線と異常光線間のシア量に応じた角度で異常光線が光束分割素子2−1を出射するように、第1の液晶素子21及び第2の液晶素子22のそれぞれの液晶層に印加する電圧分布を制御する。なお、シア量と、コンデンサレンズ3の前側焦点位置における、光軸OAと異常光線とがなす角(すなわち、常光線と異常光線とがなす角)とは、1対1に対応する。すなわち、シア量が大きくなるほど、コンデンサレンズ3の前側焦点位置における、常光線と異常光線とがなす角も大きくなる。
【0045】
図6(a)は、光束分割素子2−1の各液晶素子及びコンデンサレンズ3の位置関係と、光軸OAに対する異常光線の傾き及びシア量との関係を説明する図である。また
図6(b)は、コンデンサレンズ3の焦点距離と、各液晶素子による異常光線の偏向角及びシア量との関係を表すテーブルの一例を示す図である。
【0046】
図6(a)に示されるように、異常光線601は、第1の偏向角である偏向角θ1を液晶素子21により与えられることにより、光軸OAに対して角度θ1をなして出射する。そして異常光線601は、液晶素子22により、液晶素子21から出射するときに対して逆側へ向けられる。その際、液晶素子22は、液晶素子21による偏向角θ1とは逆向きに、異常光線601に対して(θ1+θ2)の偏向角を与える。その結果、異常光線601は、第2の偏向角であるθ2にて光軸OA(すなわち、常光線)に対して傾くように液晶素子22を出射する。その後、異常光線601は、光軸OAに沿って距離y1だけ進んだ位置にある、コンデンサレンズ3の前側焦点位置で光軸OAと交差する。その後、異常光線601は、焦点距離fを持つコンデンサレンズ3により、光軸OAに対して平行化され、サンプル10に達する。
【0047】
図6(b)に示されるように、テーブル600では、行ごとに、シア量に対する、各液晶素子により異常光線に与えられる偏向角などが示される。なお、テーブル600において、偏向角は、光軸OAに対する異常光線の波面の進行方向の傾きとして表される。テーブル600では、左から順に、第1の液晶素子21による異常光線の偏向角(すなわち、θ1)、第2の液晶素子22による異常光線の偏向角(すなわち、θ1+θ2)、第2の液晶素子22から出射する際の光軸OAに対する異常光線の傾き角θ2、コンデンサレンズ3の焦点距離f、シア量、第2の液晶素子22からコンデンサレンズ3の前側焦点位置までの距離y1が示される。テーブル600に示されるように、距離y1が一定であれば、シア量が大きいほど、各液晶素子が異常光線に与える偏向角が大きくなる。また、シア量が一定であれば、距離y1が大きくなるほど、各液晶素子が異常光線に与える偏向角が大きくなる。さらに、コンデンサレンズ3の前側焦点位置にて異常光線を光軸OAと交差させるために、第2の液晶素子22が異常光線に与える偏向角(θ1+θ2)は、第1の液晶素子21が異常光線に与える偏向角θ1よりも大きく、かつ、逆向きとなる。
【0048】
制御回路23は、(1)式及び上記のテーブルに示された関係に従って、偏向方向とシア量に応じて各液晶素子の二つの透明電極の両端間に印加される電圧ΔVU、ΔVLを設定する。例えば、コンデンサレンズ3の焦点距離ごとに、偏向方向及びシア量と、各液晶素子の二つの透明電極の両端間に印加される電圧ΔVU、ΔVLとの関係を示す参照テーブルが、制御回路23が有する半導体メモリに予め保存される。そして制御回路23は、例えば、外部の機器(図示せず)から入力され、通信インターフェース(図示せず)を介して受け取ったコンデンサレンズ3の焦点距離に基づいてその焦点距離に対応する参照テーブルを選択し、選択した参照テーブルを参照することにより、外部の機器から入力され、通信インターフェース(図示せず)を介して受け取った偏向方向及びシア量に対応する各液晶素子の二つの透明電極の両端間に印加される電圧ΔVU、ΔVLを決定する。制御回路23は、決定した電圧ΔVU、ΔVLとなるように駆動回路を制御する。
【0049】
さらに、制御回路23は、液晶層30に印加される電圧の大きさを調節することで、観察されるサンプル10の像の背景を明るくしたり、あるいは暗くすることができる。例えば、サンプル10に依存しない、常光線と異常光線との間の位相差が2kπ(ただし、kは整数)となる場合、背景部分では常光線と異常光線とが干渉により強調されるので、背景は明るくなる。逆に、サンプル10に依存しない、常光線と異常光線との間の位相差が(2k+1)πとなる場合、背景部分では常光線と異常光線とが干渉により弱められるので、背景は暗くなる。そして、液晶層30に印加される電圧、例えば、{(VUmin+VUmax)/2-(VLmax+VLmin)/2}を適宜調節することで、常光線と異常光線間の位相変調量は変化するので、制御回路23は、この電圧を調節することで、サンプル10の像の背景の明るさを調節できる。
【0050】
なお、駆動回路から各液晶素子が有する二つの透明電極に対して印加される駆動電圧は、例えば、パルス高さ変調(PHM)またはパルス幅変調(PWM)された交流電圧であってもよい。さらに、駆動回路は、各液晶素子が有する二つの透明電極に印加する電圧をオーバードライブによって駆動することで各液晶素子の応答を速めてもよい。
【0051】
なお、光束分割素子2−2については、サンプル10側に第2の液晶素子22が位置し、かつ、撮像部5側に第1の液晶素子21が位置するように、各液晶素子が配置されることで、制御回路23は、光束分割素子2−1の各液晶素子の液晶層に対する電圧分布の制御と同様の制御を行うことで、サンプル10を透過し、対物レンズ4により集光された常光線及び異常光線を一つの光束に合わせることができる。
【0052】
以上説明してきたように、本発明の一つの実施形態に係る光束分割素子は、光軸に沿って並べられた二つの液晶素子を有し、各液晶素子は、互いに直交する方向に沿って配列された複数の部分電極を有する二つの透明電極間に挟まれた液晶層を有する。そのため、この光束分割素子は、各液晶素子において、二つの透明電極のそれぞれの両端の部分電極間に印加する電圧を適切に調節することで、常光線に対する異常光線の偏向方向、及び、常光線に対する異常光線の偏向角を制御することができる。そのため、微分干渉顕微鏡装置において、この光束分割素子をノマルスキープリズムの代わりに用いることで、機械的な操作を行わずに、シア量またはサンプルを透過する際の二つの光束の並び方向を調節することが可能となる。
【0053】
なお、変形例によれば、一つの制御回路23により、複数の光束分割素子が有する各液晶素子が駆動されてもよい。また、制御回路23は、顕微鏡装置100のコントローラと兼用されてもよい。
【0054】
さらに他の変形例によれば、光束分割素子は、光軸に沿って並べて配置される、3個以上の液晶素子を有していてもよい。この場合も、各液晶素子は、上記の実施形態による液晶素子と同様の構成を有するものとすることができる。この場合には、光束分割素子は、偏向角の調整範囲をより広くすることができる。また、制御回路は、光束分割素子から出射する常光線と異常光線とが互いに平行となるように、光束分割素子の各液晶素子に印加する電圧を調整してもよい。
【0055】
さらに他の変形例によれば、光束分割素子が有する各液晶素子の二つの透明電極のうち、一方はマトリクス状に形成された複数の部分電極を有し、他方は一つの透明電極でアクティブ領域全体を覆うように形成されてもよい。この場合、制御回路が、各部分電極に対して独立に印加する電圧を制御できるよう、部分電極同士は互いに絶縁され、かつ、各部分電極と制御回路とが接続されてもよい。この場合も、制御回路は、上記の実施形態と同様に、第1の方向及び第2の方向のそれぞれについての電圧と、二つの透明電極間の電圧を決定すればよい。
【0056】
また、上記の実施形態または変形例による光束分割素子は、顕微鏡以外の装置に利用されてもよい。
【0057】
以上のように、当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。