特許第6742404号(P6742404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6742404-L−メチオニンの製造方法 図000004
  • 特許6742404-L−メチオニンの製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6742404
(24)【登録日】2020年7月30日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】L−メチオニンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/12 20060101AFI20200806BHJP
【FI】
   C12P13/12 A
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-516708(P2018-516708)
(86)(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公表番号】特表2018-529357(P2018-529357A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】FR2016052482
(87)【国際公開番号】WO2017055755
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2018年5月29日
(31)【優先権主張番号】1559278
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フレミ,ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】マスラン,アルノー
(72)【発明者】
【氏名】ブラッセル,ユゴー
【審査官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−501548(JP,A)
【文献】 特表2014−521358(JP,A)
【文献】 特表2009−544309(JP,A)
【文献】 特表平07−503855(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0260250(US,A1)
【文献】 J. Microbiol. Biotechnol., 2010, 20(8):1196-1203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−メチオニンの調製方法であって、少なくとも:
a)
1)ジメチルジスルフィド(DMDS)、
2)チオール基を有する触媒量のアミノ酸、またはチオール基を含む触媒量のペプチド、
3)前記チオール基を有するアミノ酸または前記チオール基を含むペプチドのジスルフィド架橋還元反応を触媒する、触媒量の酵素、
4)水素、
5)水素還元反応を触媒する、触媒量の酵素、
6)触媒系の前記2種の酵素(デヒドロゲナーゼおよびレダクターゼ)に共通の、触媒量の補因子
を含む混合物を調製するステップ、
b)ステップa)で調製した混合物中で、酵素反応を行って、メチルメルカプタン(CH−SH)を形成するステップ、
c)L−メチオニン前駆体を添加して、ステップb)で形成された前記メチルメルカプタンによって前記前駆体を変換するステップであって、前記L−メチオニン前駆体は、O−アセチル−L−ホモセリンまたはO−スクシニル−L−ホモセリンであり、および
d)形成されたL−メチオニンを回収し、任意に精製するステップ
を含む方法。
【請求項2】
少なくとも以下の:
a’)
・ジメチルジスルフィド(DMDS)、
・チオール基を有する触媒量のアミノ酸、またはチオール基を含む触媒量のペプチド、
・前記チオール基を有するアミノ酸または前記チオール基を含むペプチドに対応する、触媒量のレダクターゼ酵素、
・触媒量のNADPH
を含む混合物を調製するステップ、
b’)ステップa’)で調製した混合物中に、水素および触媒量の水素デヒドロゲナーゼ酵素を添加するステップ、
c’)ステップb’)で調製した混合物中で、酵素反応を行って、メチルメルカプタン(CH−SH)を形成するステップ、
d’)ステップc’)で形成された前記メチルメルカプタンによって、L−メチオニン前駆体を変換するステップであって、前記L−メチオニン前駆体は、O−アセチル−L−ホモセリンまたはO−スクシニル−L−ホモセリンであり、および
e’)形成されたL−メチオニンを回収し、任意に精製するステップ
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メチルメルカプタンを、メチオニン前駆体に直接接触させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
チオール基を有するアミノ酸またはチオール基を含むペプチドが、システイン、ホモシステイン、グルタチオンおよびチオレドキシンから選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
水素がバブリングによって反応媒体に添加される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
DMDSの酵素還元によってメチルメルカプタンを調製すること、次いで、形成された前記メチルメルカプタンと前記L−メチオニン前駆体とを反応させて、L−メチオニンを得ることを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも以下のステップ:
ステップ1:L−メチオニン前駆体の調製、
ステップ2:反応装置R1におけるDMDSの酵素還元とメチルメルカプタンの形成、および任意に未変換水素の前記反応装置R1からの離脱、
ステップ3:ステップ1からの前記前駆体およびステップ2からの前記メチルメルカプタンを用いた、反応装置R2におけるL−メチオニンの酵素合成、
任意のステップ4:未変換水素のステップ2への再循環、および前記メチルメルカプタンのステップ2または3への再循環、ならびに
ステップ5:形成された前記L−メチオニンの回収、および任意の精製
を含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
DMDSからのメチルメルカプタンの合成および前記メチルメルカプタンからのL−メチオニンの合成が、同一の反応装置中で行われる、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも以下のステップ:
ステップ1’:L−メチオニン前駆体の調製、
ステップ2’:反応装置R1におけるDMDSの酵素還元とメチルメルカプタンのインサイチュー形成、および同じ反応装置における、ステップ1’で得られた前駆体を用いたL−メチオニンの付随酵素合成、
任意のステップ3’:ステップ2’における、反応装置R1での水素およびメチルメルカプタンの再循環ループ、
ステップ4’:形成した前記L−メチオニンの回収および任意の精製
を含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
バッチ式で、または連続的に実施される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
理想的な水素/DMDSのモル比が、反応の全体にわたって、0.01〜100、好ましくは1〜20に変化する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
DMDS/L−メチオニン前駆体のモル比が、0.1〜10、一般に0.5〜5であり、および、好ましくは、前記モル比が、化学量論(モル比=0.5)である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
反応温度が、10℃〜50℃、好ましくは15℃〜45℃、より好ましくは20℃〜40℃の範囲である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−メチオニン前駆体であるジメチルジスルフィド(DMDS)と水素との酵素反応による、L−メチオニンの製造方法に関する。本発明はまた、L−メチオニン前駆体とメチルメルカプタンとの間の酵素反応によるL−メチオニンの製造のための2ステップ法に関し、メチルメルカプタンはDMDSの水素による酵素的水素化分解によって得られる。
【背景技術】
【0002】
メチオニンは人体の必須アミノ酸の1つであり、動物飼料用添加物として広く使用される。メチオニンは医薬品の出発材料としても使用される。メチオニンは、コリン(レシチン)およびクレアチンなどの化合物の前駆体として作用する。メチオニンは、システインおよびタウリンの合成出発材料でもある。
【0003】
S−アデノシル−L−メチオニン(SAM)は、L−メチオニンの誘導体であり、脳における種々の神経伝達物質の合成に関与する。L−メチオニンおよび/またはSAMは、体内での脂質の蓄積を阻害し、脳、心臓および腎臓における血液循環を改善する。L−メチオニンはまた、有毒物質または鉛などの重金属の消化、解毒および排泄を補助するためにも使用され得る。L−メチオニンは、骨および関節疾患に対する抗炎症効果を有し、毛髪の必須栄養素でもあるため、毛髪の望ましくない早期損失を防止する。
【0004】
メチオニンは、例えばFR2903690、WO2008006977、US2009318715、US5990349、JP19660043158およびWO9408957の文献に記載されているように、石油化学由来の出発材料から化学的経路によって工業的に調製されることが既に既知である。これらの調製方法が持続可能な開発の過程に含まれないという事実とは別に、これらの化学的経路には、2種のL−エナンチオマーおよびD−エナンチオマーの等量混合物が製造されるという欠点がある。
【0005】
例えば文献WO07077041、WO09043372、WO10020290およびWO10020681に記載されているように、メチオニンのL−エナンチオマーのみを製造するという利点を備えた、細菌発酵による完全生物合成が文献において提案されている。これにもかかわらず、これまで大規模に工業的に実施されていないため、これらの方法の性能および/または原価がなお満足できないものであると推定される。
【0006】
最近、混合化学的/生物的方法の工業化をCJ Cheil−Jedang社と出願人が共同で成功させ、ここではL−メチオニン前駆体を細菌発酵によって製造し、次いでメチルメルカプタンと酵素的に反応させて、L−メチオニンのみを製造する(WO2008013432および/またはWO2013029690を参照のこと。)。これらの方法は高レベルの性能を有するが、メチルメルカプタンのオンサイト合成が必要であり、これには次に水蒸気メタン改質による水素の合成、硫黄の水素化による硫化水素の合成およびメタノールと硫化水素からのメチルメルカプタンの合成が必要である。即ち、既に存在するものよりも年間生産量の点でより小規模の工業的外挿とはあまり適合しない、非常に大規模な装置が必要である。
【0007】
従って、メチルメルカプタンの合成に必要な装置が水素、硫化水素およびメタノールから出発する合成の場合よりも小型である混合法により、L−メチオニンを製造する必要性がなお存在する。本発明はこの観点に含まれる。
【0008】
実際に、本発明は、以下にまとめる方法(WO2008013432および/またはWO2013029690)のメチルメルカプタンをジメチルジスルフィド(DMDS)で置き換えることを提案する。
【0009】
【化1】
【0010】
ここでは、メチルメルカプタン(MeSH)を第2ステップで直接使用する。本発明は、メチルメルカプタンを、前ステップでのジメチルジスルフィドの酵素的水素化分解の生成物で置換すること、またはグルコースおよびDMDSがL−メチオニンを製造する「ワンポット」反応で全てを化合させることを提案する。
【0011】
ジメチルジスルフィドからのメチルメルカプタンの合成に関して、以下の要素を先行技術に見出すことができる
【0012】
特許出願EP0649837は、遷移金属硫化物を用いた、ジメチルジスルフィドの水素による触媒的水素化分解によるメチルメルカプタンの合成方法を提案している。この方法は効率的であるが、工業的に有利なレベルの生産性を得るためには、200℃程度の比較的高温が必要である。
【0013】
当業者には、ナトリウムメチルメルカプチド(CHSNa)の水溶液の酸性化によってメチルメルカプタンを調製することが可能であることも既知である。この方法には、塩酸または硫酸の使用に応じて、塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムなどの多量の塩が製造されるという大きな欠点がある。これらの塩類水溶液は、処理が非常に困難であることが多く、残存する微量の悪臭生成物の影響は、工業的規模でのこの方法を容易に想起できないことを意味する。
【0014】
L−メチオニンの合成前のステップの間にジメチルジスルフィド(DMDS)を酵素還元することによってメチルメルカプタンを調製できることが今や見出され、驚くべきことに、このメチオニン合成中のDMDSを酵素還元できることも見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】仏国特許第2903690号明細書
【特許文献2】国際公開第2008/006977号
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/318715号明細書
【特許文献4】米国特許第5990349号明細書
【特許文献5】特開昭41−0043158号公報
【特許文献6】国際公開第94/08957号
【特許文献7】国際公開第2007/077041号
【特許文献8】国際公開第2009/043372号
【特許文献9】国際公開第2010/020290号
【特許文献10】国際公開第2010/020681号
【特許文献11】国際公開第2008/013432号
【特許文献12】国際公開第2013/029690号
【特許文献13】欧州特許第0649837号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の主題は、L−メチオニンの調製方法であって、国際出願WO2008013432および/またはWO2013029690で提案されたものと同様であり、メチオニンの合成における前記メチルメルカプタンの使用直前に、DMDSの酵素触媒作用の反応において前記メチルメルカプタンを生成させることにより、またはL−メチオニン合成用の反応装置内でのインサイチューのDMDS酵素触媒作用の反応において前記メチルメルカプタンを生成させることにより、メチルメルカプタンの処理を不要にするまたは少なくとも低減することができる方法である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
より詳細には、本発明の第1の主題は、L−メチオニンの調製方法であって、少なくとも:
a)
1)ジメチルジスルフィド(DMDS)、
2)チオール基を有する触媒量のアミノ酸、またはチオール基を含む触媒量のペプチド、
3)前記チオール基を有するアミノ酸または前記チオール基を含むペプチドのジスルフィド架橋還元反応を触媒する、触媒量の酵素、
4)水素、
5)水素還元反応を触媒する、触媒量の酵素、
6)触媒系の前記2種の酵素(デヒドロゲナーゼおよびレダクターゼ)に共通の、触媒量の補因子
を含む混合物を調製するステップ、
b)酵素反応を行って、メチルメルカプタン(CH−SH)を形成するステップ、
c)L−メチオニンの前駆体を添加して、ステップb)で形成されたメチルメルカプタンによって前記前駆体を変換するステップ、および
d)形成されたL−メチオニンを回収し、任意に精製するステップ
を含む方法である。
【0018】
上記のステップa)の成分は、異なる順序で添加してよい(ステップaにおける添加の順序は限定的ではない。)。本発明の一実施形態において、チオール基を有するアミノ酸および/またはチオール基を有するペプチドは、それぞれ前記アミノ酸および/または前記ペプチドのジスルフィド形、例えばグルタチオンジスルフィド形のグルタチオンであり得る。
【0019】
一般的に、前記チオール基を有するアミノ酸または前記チオール基を含むペプチドの2個の等価物の間に生じたジスルフィド架橋の還元を触媒する酵素は、レダクターゼ酵素である。「レダクターゼ」という用語は、本発明の説明の記載の残りで使用される。同様に、水素の還元の反応を触媒する酵素は一般に水素デヒドロゲナーゼと呼ばれ、本発明の説明の記載の残りでは「デヒドロゲナーゼ」という用語が選択される。
【0020】
還元および脱水素を触媒する2種の酵素(レダクターゼおよびデヒドロゲナーゼ)に共通の補因子のうち、フラビン補因子およびニコチン補因子を非限定的な例として挙ることができる。ニコチン補因子、より詳細にはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、またはより良好にはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を使用することが好ましい。上記の補因子は、これの還元形(例えばNADPH、H+)および/またはこれの酸化形(例えばNADP+)で有利に使用され、即ちこれらは還元形および/または酸化形で反応媒体中に添加され得る。
【0021】
ステップa)における成分1)から6)の添加の構成および順序は、異なる方法で実施され得る。ステップb)の酵素反応は、ステップa)の混合物の触媒系の成分の1つ:酵素、または化学量論量で添加された化合物の1つ(ジスルフィドもしくは有機還元化合物)、または触媒量で添加された化合物の1つ(チオール基を有するアミノ酸もしくはチオール基を含むペプチドまたは前記チオールに対応するジスルフィドもしくは前記ペプチドまたはさもなければ補因子)の添加によって引き起こされる。
【0022】
従って、本発明の一実施形態により、L−メチオニンの調製方法は、少なくとも以下の:
a’)
・ジメチルジスルフィド(DMDS)、
・チオール基を有する触媒量のアミノ酸、またはチオール基を含む触媒量のペプチド、
・前記チオール基を有するアミノ酸または前記チオール基を含むペプチドに対応する、触媒量のレダクターゼ酵素、
・触媒量のNADPH
を含む混合物を調製するステップ、
b’)触媒量の水素デヒドロゲナーゼ酵素に、水素を添加するステップ、
c’)酵素反応を行って、メチルメルカプタン(CH−SH)を形成するステップ、
d’)ステップc’)で形成されたメチルメルカプタンによって、L−メチオニン前駆体を変換するステップ、および
e’)形成されたL−メチオニンを回収し、任意に精製するステップ
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】水素によって再生されたグルタチオン/グルタチオンレダクターゼ複合体による還元を示す図である。
図2】L−メチオニン前駆体であるジメチルジスルフィドおよび水素からのL−メチオニンの調製を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の方法により、メチルメルカプタンは、一般に気体状態で形成され、次いで、以下に記載するように、メチオニン前駆体と直接接触する。
【0025】
本発明によるL−メチオニンの合成方法は、第一に、以下の反応に従う、ジメチルジスルフィドと水素との酵素還元に基づく:
【0026】
【化2】
【0027】
この反応は、添付図面1に記載されているように、水素により再生された、(アミノ酸またはペプチド)/対応するレダクターゼ酵素複合体の形のチオール基を有するアミノ酸またはチオール基を含むペプチド、例えばグルタチオンを用いる酵素系によって容易に触媒されることが今や見出されている。
【0028】
このため、図1の図解に従って、ペプチド(示した例はグルタチオンである。)は、ジスルフィド架橋(グルタチオンジスルフィドと示す。)を有するペプチドに変換されることにより、ジメチルジスルフィドをメチルメルカプタンに還元する。レダクターゼ酵素(グルタチオンレダクターゼと示す、EC1.8.1.7またはEC1.6.4.2)は、ペプチド(グルタチオン)を再生し、この同じ酵素は、当業者に周知の酸化還元酵素複合体、例えばNADPH/NADP+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(還元形および酸化形))複合体によって再生される。NADP+は、水素を利用してデヒドロゲナーゼ「水素」酵素EC 1.12.1.5によってNADPHに再生される。水素によって放出されたプロトンは、NADPHとの反応後にHS−R−Sを与えたグルタチオンレダクターゼと反応するため蓄積せず、形成されたメルカプヒド(mercaphide)の機能がメルカプタンの機能になる。
【0029】
最も特に好適な実施形態により、グルタチオンレダクターゼ酵素と化合したグルタチオン/グルタチオンジスルフィド系によって、本発明により、DMDSをメチルメルカプタンに還元することが可能になる。
【0030】
グルタチオンは、生物学において広く用いられているトリペプチドである。この種は還元形(グルタチオン)または酸化形(グルタチオンジスルフィド)で、細胞内にて重要な酸化還元対を形成する。従って、グルタチオンは、生物から重金属を排除するために不可欠である。従って、例えば、出願WO05107723では、グルタチオンを使用してキレート化調製物が形成される配合物について記載され、特許US4657856は、グルタチオンによりグルタチオンペルオキシダーゼを介してHなどの過酸化物がHOに分解可能になることも教示している。最後に、グルタチオンは、タンパク質中に存在するジスルフィド架橋の還元も可能にする(Rona Chandrawati,「Triggered Cargo Release by Encapsulated Enzymatic Catalysis in Capsosomes」,Nano Lett.,(2011),vol.11,4958−4963)。
【0031】
本発明の方法により、ジメチルジスルフィドからメチルメルカプタンを製造するために、触媒量のチオール基を有するアミノ酸またはチオール基を含むペプチドが使用される。
【0032】
本発明の方法で使用され得るチオール基を有するアミノ酸としては、システインおよびホモシステインが非限定的な例として挙げられる。これらの場合、使用した酸化還元酵素系は、システイン/シスチンレダクターゼEC 1.8.1.6およびホモシステイン/ホモシステインレダクターゼの系と同様に触媒サイクルを再生することができる。
【0033】
このアミノ酸は、OAHS(L−メチオニン前駆体)、硫化水素(HS)およびメチオニンをもたらす反応を触媒する酵素から調製できるため、ホモシステインを使用することが有利であり得る。従って、反応媒体中のごく少量のHSによって、インサイチューでグルタチオンの等価サイクルが生成される。
【0034】
本発明の方法において使用され得るチオール基を有するペプチドとしては、グルタチオンおよびチオレドキシンが非限定的な例として挙げられる。従って、上記のグルタチオン/グルタチオンレダクターゼ系を、チオレドキシン(CAS番号52500−60−4)/チオレドキシンレダクターゼ(EC 1.8.1.9またはEC 1.6.4.5)系に代えてよい。
【0035】
グルタチオンおよびグルタチオン/グルタチオンレダクターゼ系は、これらの化合物のコストおよびそれらの調達容易性のために、本発明にとって最も特に好ましい。
【0036】
本発明による方法において、水素は、当業者に既知の任意の手段によって、例えば有利には水性有機反応媒体である反応媒体中への、バブリングによって、反応媒体に添加することができる。反応装置内の水素圧は、以下で定義する反応媒体自体の圧力に相当する。
【0037】
使用する酵素は、また当業者に周知である水素デヒドロゲナーゼ酵素である。
【0038】
本発明による方法において、DMDSの酵素還元をL−メチオニンの合成とは別の反応装置で行う場合、DMDSおよび水素のみを化学量論量で使用し、他の全ての成分(グルタチオン、補因子(例えばNADPH)および2種の酵素)を触媒量で使用する。単一の反応装置(「ワンポット」)内でDMDSの酵素還元反応をL−メチオニンの合成と共に行う場合、L−メチオニン前駆体も化学量論量で添加し、この合成のための補助試薬、例えばピリドキサールホスフェート(PLP)およびこの反応に特異的な酵素を触媒量で添加する。
【0039】
ピリドキサールホスフェートおよび前駆体に特異的な酵素の好ましい濃度は、国際出願WO2008013432および/またはWO2013029690に見出すことができる濃度である。
【0040】
2連続ステップまたは「ワンポット」法のいずれの場合でも、酵素触媒作用によるジメチルジスルフィドからのメチルメルカプタンの合成によって利点がもたらされる。これらの利点の中でも、非常に穏やかな温度ならびに圧力条件下および中性に近いpH条件下で、水性または水性有機溶液中で操作できることが挙げられる。これらの条件は全て、「グリーン」または「持続可能な」方法に特有であり、国際出願WO2008013432および/またはWO2013029690で記載されているL−メチオニンの調製と完全に適合している。
【0041】
方法がジメチルジスルフィドを使用する場合の別の利点は、製造されたメチルメルカプタンが、反応条件下で気体状態にあり、場合により任意の未到達水素を伴って、形成されたまま反応媒体から離れることである。従って、未反応水素が反応装置に悪影響を及ぼさない場合には、さらに下流での適用において、メチルメルカプタンが反応装置を離れる際に直接使用することができる。
【0042】
従って、メチルメルカプタンは、例えばWO2008013432および/またはWO2013029690に記載されているように、反応装置を離れる際に、即ち、例えばO−アセチルホモセリンまたはO−スクシニルホモセリンおよび酵素、例えばそれぞれO−アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼまたはO−スクシニルホモセリンスルフヒドリラーゼからのL−メチオニンの合成に直接使用され得る。
【0043】
反対の場合、当業者は、メチルメルカプタンから未変換水素を容易に分離することができる。メチルメルカプタンはまた、例えば単離または分離したい場合には、ただちに低温で液化することもできる。
【0044】
メチルメルカプタンがL−メチオニンに完全に変換されていない場合には、水素およびメチルメルカプタンを含有する出口ガスを、所望および必要に応じて、第2反応装置内への通過(L−メチオニン合成)後に、第1反応装置内へ再循環(DMDSの酵素還元)してよい。従って、本発明による方法は、L−メチオニン前駆体およびDMDSからの2つの連続酵素ステップにおけるL−メチオニンの合成方法について記載する。
【0045】
1個の同じ反応装置内で、L−メチオニンの合成を行うこともできる。この場合、L−メチオニンの合成に必要な全ての試薬をDMDSの酵素還元のための系に添加し(上記のステップa))、DMDSのインサイチュー酵素還元で形成されたメチルメルカプタンの損失を避けるために反応装置を密閉する。次に、メチルメルカプタンをL−メチオニン前駆体と反応させてL−メチオニンを得る。従って、本発明の方法は、添付図面2に図解するような、L−メチオニン前駆体およびDMDSからのL−メチオニンの直接合成、またはOAHS、DMDSおよび水素からの合成のための方法について記載する。
【0046】
ジメチルジスルフィド(DMDS)は、メチルメルカプタンおよび例えば酸素、硫黄または過酸化水素水溶液などの酸化剤、またはさもなければジメチルサルフェートおよびナトリウムジスルフィドとは別の場所で製造してもよい。DMDSはまた、例えば国際公開第2014033399号記載された反応蒸留によって精製されたジスルフィド油(DSO)の供給源に由来するものでもよい。
【0047】
酵素触媒作用によるDMDSの還元は、メチルメルカプタンの製造場所から既存の工業的経路によって、製造場所と異なる場合に使用場所へメチルメルカプタンを輸送することを回避できる方法と考えられ得る。実際、メチルメルカプタンは室温にて有毒で極めて悪臭のガスであるため、輸送が著しく困難となっている、DMDSとは異なり、輸送が既に厳重に規制されている。従って、DMDSは、L−メチオニンの合成においてメチルメルカプタンを使用する場所で直接メチルメルカプタンを製造するために使用され、これによりこの生成物の毒性および臭気に関連する欠点と、これに関連する工業上のリスクがさらに低減される。
【0048】
2連続ステップにおける合成法の場合、DMDSが反応で消費され、メチルメルカプタンが未変換水素の有無にかかわらず反応媒体を形成されたまま離れるため、水素およびDMDSが連続的に供給されることが前提ならば、生成物は蓄積しない。従って、反応装置に出入りする生成物を考慮すれば、触媒系を再循環させる必要はない。
【0049】
一実施形態により、本発明による方法は、DMDSの酵素還元によってメチルメルカプタンを調製すること、次いで、形成された前記メチルメルカプタンとL−メチオニン前駆体とを反応させて、L−メチオニンを得ることを含む。この場合、本発明による方法は、少なくとも以下のステップ:
ステップ1:例えば、グルコースの細菌発酵によるL−メチオニン前駆体の調製(WO2008013432および/またはWO2013029690を参照のこと。)、
ステップ2:反応装置R1におけるDMDSの酵素還元とメチルメルカプタンの形成、および任意に未変換水素の前記反応装置R1からの離脱(上記のステップa’)からc’))
ステップ3:ステップ1からの前駆体およびステップ2からのメチルメルカプタンを用いた、反応装置R2におけるL−メチオニンの酵素合成(上記ステップd’)、
任意のステップ4:未変換水素のステップ2への再循環、およびメチルメルカプタンのステップ2または3への再循環、ならびに
ステップ5:形成されたL−メチオニンの回収、および任意の精製(上記のステップe’)
を含む。
【0050】
ステップ1では、使用可能な条件の範囲は、国際出願WO2008013432および/またはWO2013029690に見出される。
【0051】
ステップ2では、反応温度は10℃〜50℃、好ましくは15℃〜45℃、より好ましくは20℃〜40℃の範囲である。
【0052】
反応のpHは、5〜9、好ましくは6〜8.5、より好ましくはなお6〜8、最も特に好ましくは7.0〜8.0であり得る。全体として好ましくは、7.5〜8.0のpH値に緩衝された媒体のpHが選択される。別の好ましい実施形態によれば、6.5〜7.5のph値に緩衝された媒体のpHが選択される。
【0053】
反応に使用する圧力は、使用する試薬および装置に応じて、大気圧に比べて減圧から数バール(数百kPa)までの範囲であり得る。好ましくは、大気圧から20バール(2MPa)の範囲の圧力が使用され、さらにより好ましくは、方法は大気圧から3バール(300kPa)の範囲の圧力下で行われる。
【0054】
ステップ3では、理想的な条件について国際出願WO2013029690を参照する。
【0055】
別の実施形態(別の変形形態)により、本発明の方法は、同一の反応装置(「ワンポット」)で行われ、この場合、少なくとも以下のステップ:
ステップ1’:例えば、特にしかし非限定的に、グルコースの細菌発酵によるL−メチオニン前駆体の調製(上記のステップ1と同様)、
ステップ2’:反応装置R1におけるDMDSの酵素還元とメチルメルカプタンのインサイチュー形成、および同じ反応装置における、ステップ1’で得られた前駆体を用いたL−メチオニンの付随酵素合成、
任意のステップ3’:ステップ2’における、反応装置R1での水素およびメチルメルカプタンの再循環ループ、
ステップ4’:形成したL−メチオニンの回収および任意の精製(ステップe))
を含む。
【0056】
ステップ1’では、使用可能な条件の範囲は、国際出願WO2008013432および/またはWO2013029690に見出される。
【0057】
ステップ2’の場合の操作条件は以下の通りである。
【0058】
反応温度は、10℃〜50℃、好ましくは15℃〜45℃、より好ましくは20℃〜40℃の範囲である。
【0059】
反応のpHは有利には6〜8、好ましくは6.2〜7.5である。完全に好ましくは、反応は0.2mol/Lリン酸緩衝液の、7.0に等しいpHで行う。
【0060】
好ましくは、「ワンポット」反応に使用される圧力は、使用する試薬および材料に応じて、大気圧に対して減圧される圧力から数バール(数百kPa)の範囲であることができる。好ましくは、大気圧から20バール(2MPa)の範囲の圧力が使用され、さらにより好ましくは、方法は、大気圧から3バール(300kPa)の範囲の圧力で行われる。
【0061】
DMDS/L−メチオニン前駆体のモル比は0.1〜10、一般に0.5〜5であり、好ましくはモル比は化学量論(モル比=0.5)であるが、反応速度に有益であることが判明すれば、より高いモル比でもよい。
【0062】
本発明による方法の一方または他方の変形形態において、方法は、選択された操作条件および使用される試薬に応じて、ガラス反応装置または金属反応装置中で、バッチ式でまたは連続的に行うことができる。一実施形態により、本発明の方法は、水素が反応で消費されるときに添加される半連続法である。
【0063】
本発明による方法の一方または他方の変形形態において、理想的な水素/DMDSのモル比は化学量論(モル比=1)であるが、当業者が利益を見出す場合、例えばDMDSを最初から反応装置に導入しながら水素が連続添加されている場合は、0.01から100まで変化してよい。好ましくは、このモル比は、反応全体にわたって、全体として1から20の間で選択される。
【0064】
未変換水素は、完全に排出されるまで、反応装置の出口から入口へ再循環させることができる。水素がDMDSを完全に変換するまで、水素およびメチルメルカプタンを含むループを考慮してもよい。この構成では、反応装置R2から(または反応が「ワンポット」で行われる場合の反応装置から)の出口ガスは、ほぼ排他的にメチルメルカプタンを含有する。
【0065】
上記のステップa)で調製した混合物中に触媒量で存在する成分(チオール基を有するアミノ酸もしくはチオール基を有むペプチド、またはさもなければ前記アミノ酸にもしくは前記ペプチドに対応するジスルフィド、レダクターゼ酵素、デヒドロゲナーゼ酵素、補因子、例えばNADPH)は、容易に商業的に入手可能であるか、または当業者に周知の技術によって調製することができる。これらの各種成分は、固体または液体形態であってもよく、非常に有利には、本発明の方法において使用される水に溶解されてもよい。使用する酵素は、支持体(支持された酵素の場合)にグラフトされてもよい。
【0066】
アミノ酸またはペプチドを含む酵素複合体の水溶液も、例えばこれらの成分を含む細胞の透過化によって、当業者に公知の方法によって再構成され得る。この水溶液は、以下の実施例1に示す組成物を反応媒体の総重量に対して0.01%〜20%の含有率で使用され得る。好ましくは、0.5%〜10%の含有率が使用される。
【0067】
ピリドキサールホスフェートおよびL−メチオニン前駆体に特異的な酵素の好ましい濃度は、国際出願WO2008013432および/またはWO2013029690に見出すことができる濃度である。
【実施例】
【0068】
本発明は、本発明の範囲を制限しない以下の実施例により、より良好に理解される。以下に示す全ての試験は、嫌気性条件下で行った。
【0069】
[実施例1]
2連続ステップ
グルタチオン酵素複合体(Aldrich)10mlを、pH7.8に緩衝された水溶液150mlを含有する反応装置R1に導入する。酵素複合体の溶液は、グルタチオン185mg(0.6mmol)、グルタチオンレダクターゼ200U、NADPH 50mg(0.06mmol)および水素デヒドロゲナーゼ酵素200Uを含有する。反応媒体を機械撹拌しながら35℃とする。第1のサンプルをt=0にて採取する。続いて、ジメチルジスルフィド(9.4g、0.1mol)をビュレットに入れ、反応装置に滴加する。
【0070】
同時に、4L.h−1の水素流(常温および加圧条件下で測定)をバブリングによって反応装置に導入する。反応は大気圧下で行う。
【0071】
反応装置を離れるガスのガスクロマトグラフィー分析によって、ほぼ本質的に水素およびメチルメルカプタン(多少の水)の存在を示す。DMDSおよび水素(反応全体にわたる水素/DMDSのモル比=10.7)を6時間で導入し、反応媒体の最終的なガスクロマトグラフィー分析により、過剰量の水素によって反応装置から追い出されたメチルメルカプタンが存在しないことを確認する。これらの出口ガスは、反応装置R1から反応装置R2に直接送達される。
【0072】
これと並行して、O−アセチル−L−ホモセリン(OAHS)5g(O−アセチル−L−ホモセリンは、Sadamu Nagai,「Synthesis of O−acetyl−L−homoserine」,Academic Press,(1971),vol.17,pp.423−424に従って、L−ホモセリンと無水酢酸から合成した。)を、pH6.60の0.1mol/Lリン酸緩衝液75mlを含有する第2反応装置R2に導入する。溶液を機械撹拌しながら35℃とする。
【0073】
反応開始前に、反応媒体1mlの試料(t=0)を採取する。ピリドキサールホスフェート(10mmol、0.4g)および酵素O−アセチル−L−ホモセリンスルフヒドリラーゼ(0.6g)の溶液を10mlの水に溶解し、次いで反応装置に添加する。
【0074】
メチルメルカプタンは、反応装置R1の反応によって導入され、有利には過剰量の水素によって推進されるか、またはさもなければ水素がDMDSに対して化学量論条件もしくは化学量論未満の条件にある場合、メチルメルカプタンは有利には不活性ガス流、例えば窒素流によって推進される。その後、反応が開始する。L−メチオニンの形成およびOAHSの消失をHPLCによって監視する。反応装置R2からの出口ガスは、20%水酸化ナトリウム水溶液中に取込まれる。分析により、OAHSが52%の程度でL−メチオニンに変換され、過剰量のDMDSが水酸化ナトリウムトラップ中に見出されるメチルメルカプタンに変換されたことが示されている。
【0075】
[実施例2]
「ワンポット」法
酵素複合体10ml、およびO−アセチル−L−ホモセリン5g(31mmol)(OAHS、O−アセチル−L−ホモセリンは、Sadamu Nagai,「Synthesis of O−acetyl−L−homoserine」,Academic Press,(1971),vol.17,pp.423−424に従って、L−ホモセリンと無水酢酸から合成した。)をpH7の0.2mol/Lリン酸緩衝液150mlを含有する反応装置に導入する。酵素複合体の溶液は、グルタチオン185mg(0.6mmol)、グルタチオンレダクターゼ200U、NADPH 50mg(0.06mmol)、水素デヒドロゲナーゼ酵素200U、ピリドキサールホスフェート0.4g(1.6mmol)およびO−アセチル−L−ホモセリンスルフヒドリラーゼ0.6gを含有する。
【0076】
反応媒体を機械撹拌しながら35℃とする。t=0にて第1のサンプルを採取する。続いて、ジメチルジスルフィド(3g、32mmol)をビュレットに入れ、滴下し、4リットル/時の水素流を導入すると、反応が開始する。反応をHPLCによって監視し、OAHSの消失およびL−メチオニンの形成を確認する。6時間後、OAHSの12%がL−メチオニンに変換され、L−メチオニン前駆体、DMDSおよび水素からの「ワンポット」法によってL−メチオニンを製造できることが実証された。
【0077】
[実施例3]
「ワンポット」法
酵素複合体10ml、O−アセチル−L−ホモセリン5g(31mmol)(OAHS、O−アセチル−L−ホモセリンは、Sadamu Nagai,「Synthesis of O−acetyl−L−homoserine」,Academic Press,(1971),vol.17,pp.423−424に従って、L−ホモセリンと無水酢酸から合成した。)をpH6.8の0.1mol/Lリン酸緩衝液70mlを含有する反応装置に導入する。
【0078】
酵素複合体の溶液は、グルタチオン200mg(0.65モル)、グルタチオンレダクターゼ500U、NADPH 100mg(0.13モル)、水素デヒドロゲナーゼ50U、ピリドキサールホスフェート400mg(1.6mmol)、O−アセチル−L−ホモセリン2gおよびO−アセチル−L−ホモセリンスルフヒドリラーゼ0.6gを含有する。
【0079】
水素デヒドロゲナーゼは、当業者に周知の技術を使用して、(Biller et al.,「Fermentation Hyperthermophiler Mikroorganismen am Beispiel von Pyrococcus Furiosus」,Shaker Verlag,Maastricht/Herzogenrath,2002による)微生物の培養物から得られる。
【0080】
機械撹拌および窒素フラッシュによって反応媒体を35℃とする。第1のサンプルをt=0にて採取する。続いて、ジメチルジスルフィド20g(0.22mol)をシリンジによって添加する。同時に、反応媒体中にバブリングすることにより、4l.h−1の水素(標準的な温度および圧力条件下で測定)を導入する。このようにして開始した反応を大気圧下で18時間行う。反応をHPLCによって監視し、OAHSの消失およびL−メチオニンの形成を確認する。反応終了時に、OAHSの27%がL−メチオニンに変換され、L−メチオニン前駆体、DMDSおよび水素からの「ワンポット」法によってL−メチオニンを製造できることが実証された。
図1
図2